特許第6133711号(P6133711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133711
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】クロム炭化物層の形成方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 10/40 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 8/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C23C10/40
   C23C8/02
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-139719(P2013-139719)
(22)【出願日】2013年7月3日
(65)【公開番号】特開2015-14017(P2015-14017A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】591104169
【氏名又は名称】日本カロライズ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】石井 幹人
(72)【発明者】
【氏名】徳江 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松山 良満
(72)【発明者】
【氏名】吉田 能成
(72)【発明者】
【氏名】酒井 康隆
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅康
(72)【発明者】
【氏名】古田 和久
(72)【発明者】
【氏名】田村 将太郎
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−339562(JP,A)
【文献】 特開平02−138435(JP,A)
【文献】 特開2005−200674(JP,A)
【文献】 特開2002−262909(JP,A)
【文献】 米国特許第06387194(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00 − 12/02
C21D 7/00 − 8/10
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなる機械部品の表面にクロム炭化物層を形成するためのクロム炭化物層の形成方法において、
前記機械部品は、ステンレス鋼の粉末と、ポリスチレン系樹脂及びアクリル系樹脂の複数種の樹脂とワックスとからなるバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形によって成形して焼成した焼結済みの成形体により構成され、
前記機械部品に対して溶体化処理を施す溶体化工程と、
前記溶体化工程の終了後に、前記機械部品の表面に対してクロマイズ処理を施すことにより、前記機械部品の表面に前記クロム炭化物層を形成するクロマイズ工程と、を具備したクロム炭化物層の形成方法。
【請求項2】
前記溶体化工程における溶体化温度を1050〜1150℃の温度域に設定した請求項1に記載のクロム炭化物層の形成方法。
【請求項3】
ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である請求項1又は請求項2に記載のクロム炭化物層の形成方法。
【請求項4】
前記機械部品は、過給機におけるタービンに用いられるタービン部品である請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載のクロム炭化物層の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼からなる機械部品の表面にクロム炭化物層を形成するためのクロム炭化物層の形成方法関する。
【背景技術】
【0002】
過給機におけるタービンにはステンレス鋼からなるタービン部品(機械部品の一例)が用いられており、また、タービン部品の耐熱性、耐摩耗性等を向上させるために、タービン部品の表面に対してクロマイズ処理を施してタービン部品の表面にクロム炭化物層を形成することがよく行われている(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
一方、近年、高寸法精度及び高強度の成形体の製造を可能にした金属粉末射出成形(MIM工法)が機械加工、ダイキャスト、粉末冶金、精密鋳造に次ぐ第5世代の精密加工技術として注目されている。それに伴い、ステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料とし、タービン部品の成形(製造)に金属粉末射出成形を適用する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−327077号公報
【特許文献2】特開2004−339562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形によって実際に成形体を成形して焼成し、焼結済みの成形体の表面及び断面について電子線マイクロアナライザー(EPMA)による元素分析を行うと、成形体の表面及び断面にクロム(Cr)の濃度の高い箇所が存在することが確認された(後述の実施例参照)。また、クロムの濃度の高い箇所についてエネルギー分散型X線分析(EDX)による点分析すると、クロム炭化物が存在していることが確認された。つまり、成形体を成形して焼成すると、成形体の表面及び内部にクロム炭化物が生成され、成形体の表面及び内部における、クロム炭化物の周辺の炭素(C)が少なくなり、クロマイズ処理によってクロムと結合するための炭素の絶対量が減ることになる。そのため、焼結済みの成形体の表面に対してクロマイズ処理を施しても、焼結済みの成形体の表面に形成されたクロム炭化物層の厚みが薄かったり、クロム炭化物層の厚みのばらつきが生じたりして(後述の実施例参照)、焼結済みの成形体により構成されるタービン部品の耐熱性、耐摩耗性等を十分に向上させることが困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のクロム炭化物層の形成方法提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、前述の課題を解決するために、試行錯誤を繰り返した結果、ステンレス鋼の粉末を用いて金属粉末射出成形によって成形して焼成した焼結済みの成形体に対して溶体化処理(固溶化処理)を施すと、焼成時に成形体の表面及び内部に生成されたクロム炭化物をほぼ消滅させることができるという、新規な知見を得ることができ、本発明を完成するに至った。これは、成形体の表面及び内部に含まれるクロム炭化物が溶体化処理によって炭素とクロムに分離したことによるものと考えられる。
【0008】
本発明の態様は、ステンレス鋼からなる機械部品の表面にクロム炭化物層を形成するためのクロム炭化物層の形成方法において、
前記機械部品は、ステンレス鋼の粉末と、ポリスチレン系樹脂及びアクリル系樹脂の複数種の樹脂とワックスとからなるバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形(MIM工法)によって成形して焼成した焼結済みの成形体により構成され、前記機械部品に対して溶体化処理(固溶化処理)を施す溶体化工程と、前記溶体化工程の終了後に、前記機械部品の表面に対してクロマイズ処理を施すことにより、前記機械部品の表面に前記クロム炭化物層を形成するクロマイズ工程と、を具備したことである。
【0009】
ここで、「機械部品」とは、過給機におけるタービンに用いられるタービン部品の他、種々の機械に用いられる部品を含む意である。
【0010】
本発明の態様によると、前記機械部品はステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形によって成形された焼結済みの前記成形体により構成され、前記機械部品に対して溶体化処理を施しているため、前述の新規な知見を適用すると、焼成時に前記機械部品の表面及び内部に生成されたクロム炭化物を消滅させることができる。これにより、前記機械部品の表面に対してクロマイズ処理を施す前に、前記機械部品の表面及び内部における、クロマイズ処理によってクロムと結合するための炭素の絶対量を増やすことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記機械部品の表面に対してクロマイズ処理を施す前に、前記機械部品の表面及び内部における、クロマイズ処理によってクロムと結合するための炭素の絶対量を増やすことができるため、前記機械部品が金属粉末射出成形によって成形して焼成した焼結済みの前記成形体により構成される場合でも、前記クロム炭化物層の厚みの均一性を高めつつ、前記クロム炭化物層の厚みを厚くして、前記機械部品の耐熱性、耐摩耗性等を十分に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は、本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法の形成対象であるノズルリンクの斜視図、図1(b)は、表面全体にクロム炭化物層が形成されたノズルリンクの斜視図である。
図2A図2A(a)は、試験片1の表面のSEM写真(倍率500倍)、図2A(b)は、図2A(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図2B図2B(a)は、試験片2の表面のSEM写真(倍率500倍)、図2B(b)は、図2B(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図3A図3A(a)は、試験片1の断面端部のSEM写真(倍率500倍)、図3A(b)は、図3A(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図3B図3B(a)は、試験片2の断面端部のSEM写真(倍率500倍)、図3B(b)は、図3B(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図4A図4A(a)は、試験片1の断面中央部のSEM写真(倍率500倍)、図4A(b)は、図4A(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図4B図4B(a)は、試験片2の断面中央部のSEM写真(倍率500倍)、図4B(b)は、図4B(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図5A図5A(a)は、試験片1の断面端部の光学顕微鏡写真(倍率20倍)、図5A(b)は、試験片1の断面中央部の光学顕微鏡写真(倍率20倍)である。
図5B図5B(a)は、試験片2の断面端部の光学顕微鏡写真(倍率20倍)、図5B(b)は、試験片2の断面中央部の光学顕微鏡写真(倍率20倍)である。
図6A図6A(a)は、クロマイズ処理を施した試験片1の断面端部のSEM写真(倍率500倍)、図6A(b)は、図6A(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図6B図6B(a)は、クロマイズ処理を施した試験片2の断面端部のSEM写真(倍率500倍)、図6B(b)は、図6B(a)で示された部分のクロムの濃度分布を示す図である。
図7A図7A(a)(b)は、クロマイズ処理を施した試験片1の断面端部の異なる箇所の光学顕微鏡写真(倍率20倍)である。
図7B図7B(a)(b)は、クロマイズ処理を施した試験片2の断面端部の異なる箇所の光学顕微鏡写真(倍率20倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法の形成対象であるノズルリンク、及び本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法等について順次説明する。
【0016】
図1(a)に示すように、本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法の形成対象であるノズルリンク1は、特開2012−163083号公報、特開2008−75635号公報、及び特開2007−40251号公報等に示すように、可変容量型過給機におけるタービンの可変ノズル機構(図示省略)に用いられるタービン部品の1つであって、可変ノズル機構の駆動リング(図示省略)の回転力を可変ノズル機構のノズル翼(図示省略)に伝達するものである。また、ノズルリンク1の基部には、貫通穴2が形成されており、ノズルリンク1の基部は、ノズル翼の翼軸をノズルリンク1の貫通穴2に挿通させた状態で、ノズル翼の翼軸の先端部をかしめることによってノズル翼の翼軸に一体的に連結されるものである。更に、ノズルリンク1は、先端側に、対向した一対のアーム部3を有しており、ノズルリンク1の一対のアーム部3は、駆動リングに設けられた矩形のジョイント部材4を挟むように係合するものである。なお、ノズルリンク1の一対のアーム部3の対向面3fは、ジョイント部材4の側面との摺動面になっている。
【0017】
ノズルリンク1は、オーステナイト系ステンレス鋼からなり、具体的には、オーステナイト系ステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形(MIM工法)によって成形して焼成した焼結済みの成形体により構成されている。ここで、金属粉末射出成形は、射出成形金型のキャビティ(図示省略)に混合物を射出して、ノズルリンク1の最終形状と相似形の成形体を成形する射出工程と、射出工程の終了後に、成形体に含まれるバインダを脱脂する脱脂工程と、脱脂工程の終了後に、成形体を焼成して焼結させて、最終形状まで熱収縮させる焼成工程とを具備している。また、バインダとは、ポリスチレン,ポリメチルメタアクリレート等の複数種の樹脂とパラフィンワックス等のワックスとからなるものである。なお、ノズルリンク1がオーステナイト系ステンレス鋼からなる代わりに、フェライト系ステンレス鋼又はマルテンサイト系ステンレス鋼からなるものであっても構わない。
【0018】
続いて、本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法について説明する。
【0019】
本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法は、オーステナイトステンレス系ステンレス鋼からなるノズルリンク1の表面にクロム炭化物層Cを形成するための方法であって、溶体化工程と、クロマイズ工程とを具備している。そして、本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法における各工程の具体的な内容は、次のようになる。
【0020】
(i)溶体化工程
溶体化処理炉(図示省略)を用いて、ノズルリンク1に対して溶体化処理を施す。具体的には、ノズルリンク1を溶体化処理炉内の所定位置にセットして、溶体化処理炉内の温度(溶体化温度)を1050〜1150℃の温度域に0.1〜5時間保持する。ここで、溶体化温度を1050〜1150℃の温度域に設定したのは、ノズルリンク1の表面及び内部に含まれるクロム炭化物を炭素とクロムに十分に分離させるためである。また、保持時間(溶体化時間)を0.1時間以上に設定したのは、ノズルリンク1の表面及び内部に含まれるクロム炭化物を炭素とクロムに十分に分離させるためであり、保持時間を5時間以下に設定したのは、溶体化処理炉の稼働時間の短縮を図るためである。
【0021】
(ii)クロマイズ処理
溶体化工程の終了後に、加熱炉(図示省略)を用いて、ノズルリンク1の表面全体に対して粉末パック法によるクロマイズ処理を施す。具体的には、クロム源としてのクロム粉末又はフェロクロム粉末と焼結防止剤としてのアルミナ粉末との混合粉末と共にノズルリンク1を容器(図示省略)に封入する。そして、容器を加熱炉の所定位置にセットして、加熱炉内を真空雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中に保ちつつ、加熱炉内の温度を900〜1400℃、好ましくは900〜1200℃の温度域で3〜10時間保持する。これにより、図1(b)に示すように、ノズルリンク1の表面全体にクロム炭化物層Cを形成することができる。
【0022】
なお、ノズルリンク1の表面全体に対してクロマイズ処理を施す代わりに、ノズルリンク1の表面の一部である一対のアーム部3の対向面(摺動面)3fのみに対してクロマイズ処理を施しても構わない。また、ノズルリンク1の表面に粉末パック法によるクロマイズ処理を施す代わりに、気体法又は塩浴法によるクロマイズ処理を施しても構わない。
【0023】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0024】
ノズルリンク1はオーステナイト系ステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形によって成形して焼成した焼結済みの成形体により構成され、ノズルリンク1に対して溶体化処理を施しているため、前述の新規な知見を適用すると、焼成時にノズルリンク1の表面及び内部に生成されたクロム炭化物を消滅させることができる。これにより、ノズルリンク1の表面に対してクロマイズ処理を施す前に、ノズルリンク1の表面及び内部における、クロマイズ処理によってクロムと結合するための炭素の絶対量を増やすことができる。
【0025】
従って、本発明の実施形態によれば、ノズルリンク1が金属粉末射出成形によって成形して焼成した成形体により構成される場合でも、クロム炭化物層Cの厚みの均一性を高めつつ、クロム炭化物層Cの厚みを厚くして、ノズルリンク1の耐熱性、耐摩耗性等を十分に向上させることができる。
【0026】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、例えば、クロム炭化物層の形成方法の形成対象をノズルリンク1以外のタービン部品又はタービン部品以外の機械部品に変更する等、その他、種々の態様で実施可能である。また、本発明に包含される権利範囲は、表面に本発明の実施形態に係るクロム炭化物層の形成方法によってクロム炭化物層Cが形成されたノズルリンク1等の機械部品にも及ぶものである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0028】
(クロマイズ処理前の試験片の表面観察)
オーステナイト系ステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形によって成形して焼成することにより、焼結済みの成形体により構成される試験片1を製作した。そして、倍率500倍で走査型電子顕微鏡(SEM)により試験片1の表面の観察を行い、図2A(a)に示すような観察結果を得て、図2A(a)に示された部分を電子線マイクロアナライザー(EPMA)によって元素分析を行い、図2A(b)に示すような分析結果を得た。これによると、試験片1の表面にクロムの濃度の高い箇所(薄くなっている箇所)が存在することが確認された。なお、エネルギー分散型X線分析(EDX)による点分析によってクロムの濃度の高い箇所にクロム炭化物が存在していることが確認された。
【0029】
オーステナイト系ステンレス鋼の粉末とバインダの混合物を射出材料として金属粉末射出成形によって成形して焼成し、焼結済みの成形体に固溶化処理を施すことにより、試験片2を製作した。そして、倍率500倍で走査型電子顕微鏡により試験片2の表面の観察を行い、図2B(a)に示すような観察結果を得て、図2B(a)に示された部分を電子線マイクロアナライザーによって元素分析を行い、図2B(b)に示すような分析結果を得た。これによると、試験片2の表面にクロムの濃度の高い箇所がなくなって、試験片2の表面からクロム炭化物が略消滅したことが確認された。
【0030】
(クロマイズ処理前の試験片の断面観察)
試験片1を切断して、試験片1を埋込樹脂に埋め込んだ状態で、試験片1の切断面に対して研磨処理及びエッチング処理を順次行った。そして、倍率500倍で走査型電子顕微鏡により試験片1の断面端部(断面における表面側)及び断面中央部の観察を行い、図3A(a)及び図4A(a)に示すような観察結果を得て、図3A(a)及び図4A(a)に示された部分を電子線マイクロアナライザーによって元素分析を行い、図3A(b)及び図4A(b)に示すような分析結果を得た。これによると、試験片1の断面端部及び断面中央部、換言すれば、試験片1の内部にクロムの濃度の高い箇所が存在することが確認された。また、倍率20倍で光学顕微鏡により試験片1の断面端部及び断面中央部の観察を行い、図5A(a)及び図5A(b)に示すような観察結果を得た。なお、エネルギー分散型X線分析(EDX)による点分析によって、図5A(a)及び図5A(b)に示された部分にクロム炭化物が存在することが確認された。
【0031】
試験片2を切断して、試験片2を埋込樹脂に埋め込んだ状態で、試験片2の切断面に対して研磨処理及びエッチング処理を順次行った。そして、倍率500倍で走査型電子顕微鏡により試験片2の断面端部及び断面中央部の観察を行い、図3B(a)及び図4B(a)に示すような観察結果を得て、図3B(a)及び図4B(a)に示された部分を電子線マイクロアナライザーによって元素分析を行い、図3B(b)及び図4B(b)に示すような分析結果を得た。これによると、試験片2の断面端部及び断面中央部、換言すれば、試験片2の内部にクロムの濃度の高い箇所がなくなって、試験片2の内部からクロム炭化物が略消滅したことが確認された。また、倍率20倍で光学顕微鏡により試験片2の断面端部及び断面中央部の観察を行い、図5B(a)及び図5B(b)に示すような観察結果を得た。
【0032】
(クロマイズ処理後の試験片の断面観察)
試験片1の表面全体にクロマイズ処理を施した後に、試験片1を切断して、試験片1を埋込樹脂に埋め込んだ状態で、試験片1の切断面に対して研磨処理及びエッチング処理を順次行った。そして、倍率500倍で走査型電子顕微鏡により試験片1の断面端部の観察を行い、図6A(a)に示すような観察結果を得て、図6A(a)に示された部分を電子線マイクロアナライザーによって元素分析を行い、図6A(b)に示すような分析結果を得た。また、倍率20倍で光学顕微鏡により試験片1の断面端部の異なる箇所の観察を行い、図7A(a)(b)に示すような観察結果を得た。これによると、試験片1の表面に形成されたクロム炭化物層の厚みが薄く、クロム炭化物層の厚みにばらつきがあることが確認された。
【0033】
試験片2の表面全体にクロマイズ処理を施した後に、試験片2を切断して、試験片2を埋込樹脂に埋め込んだ状態で、試験片2の切断面に対して研磨処理及びエッチング処理を順次行った。そして、倍率500倍で走査型電子顕微鏡により試験片1の断面端部の観察を行い、図6B(a)に示すような観察結果を得て、図6B(a)に示された部分を電子線マイクロアナライザーによって元素分析を行い、図6B(b)に示すような分析結果を得た。また、倍率20倍で光学顕微鏡により試験片2の断面端部の異なる箇所の観察を行い、図7B(a)(b)に示すような観察結果を得た。これによると、試験片2の表面に形成されたクロム炭化物層の厚みが厚くなって、クロム炭化物層の厚みのばらつきが小さくなったことが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1:ノズルリンク(タービン部品、機械部品)、2:貫通穴、3:アーム部、4:ジョイント部材、C:クロム炭化物層
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B