特許第6133757号(P6133757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133757スティック状化粧料用モールドおよびそれに用いる化粧料上面形成用部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133757
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】スティック状化粧料用モールドおよびそれに用いる化粧料上面形成用部材
(51)【国際特許分類】
   A45D 40/16 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   A45D40/16 B
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-234054(P2013-234054)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93043(P2015-93043A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 誠
(72)【発明者】
【氏名】尾上 秀之
(72)【発明者】
【氏名】津原 一寛
【審査官】 根本 徳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−000220(JP,A)
【文献】 特開2007−252787(JP,A)
【文献】 特開2002−291529(JP,A)
【文献】 実開平07−028934(JP,U)
【文献】 実開昭49−097077(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45D 40/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の化粧料筒状部形成用部材と化粧料上面形成用部材とを嵌合させることにより形成されるモールド空間に、溶融した化粧料組成物を充填、固化せしめるためのスティック状化粧料用モールドであって、前記化粧料上面形成用部材の、前記化粧料筒状部形成用部材の内周面に相対する位置に環状突起が突設され、さらに、該環状突起にはその一部に切り欠きが凹設されたことを特徴とするスティック状化粧料用モールド。
【請求項2】
前記環状突起の頂部もしくは辺部の一部が、前記化粧料筒状部形成用部材の上端ないし内周面に当接するものである請求項1記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項3】
前記環状突起の横断面形状が略くさび形である請求項1または2記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項4】
前記環状突起の高さが、0.05〜0.15mmの範囲内である請求項1ないし3の何れか1項に記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項5】
前記環状突起には前記切り欠きが少なくとも3箇所設けられている請求項1ないし4の何れか1項に記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項6】
前記切り欠きが略V字形である請求項1ないし5の何れか1項に記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項7】
前記筒状の化粧料筒状部形成用部材が、スティック状化粧料容器のスリーブであり、前記化粧料上面形成用部材が該スリーブの先端に冠着可能に形成されたキャップである請求項1ないし6のいずれか1項に記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項8】
前記キャップは、天壁と、外天壁から垂下する周壁とを備え、該天壁が複数の平面により構成される多面形状に形成されていることを特徴とする請求項7記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項9】
前記切り欠きが、前記多面形状の外周角部と対応する位置に形成されている請求項8記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項10】
筒状の化粧料筒状部形成用部材と化粧料上面形成用部材とを嵌合させることにより形成されるモールド空間に、溶融した化粧料組成物を充填、固化せしめるためのスティック状化粧料用モールドの化粧料上面形成用部材であって、前記化粧料上面形成用部材の、前記化粧料筒状部形成用部材の内周面に相対する位置に環状突起が突設され、さらに、該環状突起にはその一部に切り欠きが凹設されたことを特徴とするスティック状化粧料上面形成用部材。
【請求項11】
前記筒状の化粧料筒状部形成用部材が、スティック状化粧料容器のスリーブであり、前記化粧料上面形成用部材が該スリーブの先端に冠着可能に形成されたキャップである請求項10記載のスティック状化粧料上面形成用部材。
【請求項12】
前記筒状の化粧料筒状部形成用部材が、スティック状化粧料容器保持用の内筒であり、前記化粧料上面形成用部材が該内筒の先端に嵌合可能に形成された突出型キャップである請求項1ないし6のいずれか1項に記載のスティック状化粧料用モールド。
【請求項13】
前記筒状の化粧料筒状部形成用部材が、スティック状化粧料容器のスリーブであり、前記化粧料上面形成用部材が1または複数のスティック状化粧料形成用孔を有する金型である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のスティック状化粧料用モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スティック状化粧料用モールドに関し、更に詳細には、化粧料の表面状態が良好なスティック状化粧料を得ることのできるスティック状化粧料用モールドおよびそれに用いる化粧料上面形成用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅やリップクリームあるいはスティックタイプコンシーラー等として、化粧料を溶融状態で容器等に充填し、その後冷却、固化させるスティック状化粧料が広く使用されている。従来、このスティック状化粧料は、そのスティック状化粧料保持用内筒あるいは該内筒をその内側に摺動させ得る筒状のスリーブ(以下、総称して「化粧料筒状部形成用部材」といい、更に、「筒状部形成用部材」と略称することがある)の先端に、スティック状化粧料の表面を形成するキャップあるいは封止手段(以下、「化粧料上面形成用部材」という)を嵌合させ、これを倒立させてモールド空間を形成し、スリーブの後部から溶融したスティック状化粧料組成物(以下、「化粧料組成物」という)を充填、冷却固化して製造することが一般的である。また、スリーブは、その形状が円筒状であることが多く、またその先端は斜めに切り落とされている場合があり、更に、キャップとの嵌合面(筒状部形成用部材の先端部)は、唇等を傷つけないよう研磨し、丸みをもたせてあることが一般的である。
【0003】
ところで、上記のように溶解状態の化粧料組成物を、化粧料筒状部形成用部材の先端に化粧料上面形成用部材を嵌合させて形成されるモールド空間に充填する方法では、溶融された化粧料組成物が冷やされ固化するときに化粧料の体積が収縮するという現象があり、このため歩留まりが悪くなるという問題があった。すなわち、スティック状化粧料の、目につきやすい上面部分をきれいに成形するためには、体積収縮時にスティック状化粧料上面部と、化粧料上面形成用部材との間に空気が流入し、両者がきれいに離れることが好ましいが、この間に空気がうまく流入せず密着が高いままであると、離型がうまく行かず、これに起因するスティック状化粧料上面部の外観不良など、成型不良が発生しやすかった。
【0004】
上記問題に対しては、例えば、化粧料上面形成用部材であるキャップに、離型時の空気流入を目的として空気抜き孔を設けることが行われている(例えば、特許文献1および2)。しかしながら、前記したように筒状部形成用部材の先端部を、研磨により丸みをもたせてある場合、その状態で該先端部にキャップを装着し、化粧料の充填、成型を行うと、筒状部形成用部材の先端部とキャップの間のくさび形の隙間に化粧料組成物が入り込み、スティック状化粧料の上面にいわゆるバリが生じ易い。そして、このバリが成型時の空気流入を妨げる要因となって、離型がうまく行かない場合があった。
【0005】
とりわけ、特許文献2のように、スティック状化粧料上面部に立体的模様、特に文字や図柄などを表示する場合には、立体的模様の細部に化粧料組成物が行きわたらず、スティック状化粧料の上面部に小さな穴が開く成型不良が生じ易い。これを解消するためには、充填温度を上げて化粧料組成物の流動性を高くすることが必要であるが、流動性が高くなると前記くさび形の隙間にさらに化粧料組成物が入り込み易くなり、バリが生じ易くなる。したがって、上面部に立体的模様を有するスティック状化粧料については、特に成型時の空気流入が確保しにくく、たとえキャップに特許文献1のようなこの空気抜き孔を設けた場合であっても、成型不良をなくすことは難しかった。
【0006】
そこで本出願人は、バリの発生を防ぐとともにキャップ内への成型時の空気流入を促すために、化粧料上面形成用部材の、化粧料筒状部形成用部材の先端部に対応する位置に、環状の尖状突起を設けたスティック状化粧料用モールドを完成した(特許文献3)。
【0007】
ところで、近年、塗布時のソフトな感触や伸びの良さから、従来になかったような柔らかいタイプのスティック状化粧料が好まれるとともに、化粧料の上面部がダイヤモンドカットなど多面形状に形成され、なおかつ隣接するカット面どうしの相対角度がより小さくエッジをきかせたような、従来よりもデザイン性の高いスティック状化粧料が求められており、増えてきている。そして、特許文献3に記載の化粧料用モールドは、従来のスティック状化粧料には十分な効果を奏するものであったが、上記のような傾向を有する近年のスティック状化粧料に使用すると、バルク収縮時の空気流入が不十分な場合があり、成形内容物のモールドからの離型がうまくいかない可能性があった。その結果、モールドへの付着によるカット面の傷が多発し、成型不良低減の十分な効果が得られない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−291529
【特許文献2】特開2007−252787
【特許文献3】特開2011−220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明は、柔らかいタイプのスティック状化粧料や、化粧料上面部に形成された多面形状のカット面が従来よりもデザイン性が高いスティック状化粧料においても効果的に成型不良をなくし、優れた外観のスティック状化粧料を製造するための技術を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を行っていたところ、化粧料上面形成用部材に設けた環状突起を部分的に切り欠いて不連続とすることにより、かかる切り欠き部からのモールド内面への空気流入を向上させることができ、スティック状化粧料上面部の成型不良の発生が著しく減少させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、筒状の化粧料筒状部形成用部材と化粧料上面形成用部材とを嵌合させることにより形成されるモールド空間に、溶融した化粧料組成物を充填、固化せしめるためのスティック状化粧料用モールドであって、前記化粧料上面形成用部材の、前記化粧料筒状部形成用部材の内周面に相対する位置に環状突起が突設され、さらに、該環状突起にはその一部に切り欠きが凹設されたことを特徴とするスティック状化粧料用モールドおよびそれに用いる化粧料上面形成用部材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスティック状化粧料用モールドを用いることにより、充填、固化したスティック状化粧料と、化粧料上面形成用部材の間が離型し易くなり、スティック化粧料上面部の成型不良が著しく減少する。
【0013】
特に、従来よりも柔らかいタイプの化粧料において、溶融した化粧料組成物の流動性が高い場合や、ダイヤモンドカット等の多面形状において隣接するカット面どうしの相対角度が比較的小さいようなデザイン性の高いカット面を上面部に有するスティック状化粧料等、離型性が問題となるものであっても、優れた離型性によって良好な成型性を得ることができる。
【0014】
また、従来のモールドでは困難であった、成型時のスティック状化粧料上端面のバリの発生や傷の発生を防ぐことができ、外観が重要なスティック化粧料の商品価値をより高めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のスティック状化粧料用キャップの側面図。
図2】本発明のスティック状化粧料用キャップの天面図。
図3】本発明のスティック状化粧料用キャップの底面図。
図4】本発明のスティック状化粧料用キャップの断面図。
図5】本発明のスティック状化粧料用キャップの環状突起を一部拡大した図面。
図6】(A)環状突起を有さない従来のスティック状化粧料用キャップを用いてスリーブ内に化粧料組成物を充填した場合の様子を模式的に表した断面図、(B)本発明のキャップを用いてスリーブ内に化粧料組成物を充填した場合の様子を模式的に表した断面図。
図7】本発明のスティック状化粧料用キャップをスリーブに冠着した状態を模式的に表した図。
図8】スリーブ−キャップ成型での嵌合によるモールド空間の形成を模式的に示した図面。Aは、化粧料筒状部形成用部材(スリーブ)と化粧料上面形成用部材(キャップ)とを嵌合する前の状態、Bは嵌合した後の状態。
図9】中皿−突出型キャップ成型での嵌合によるモールド空間の形成を模式的に示した図面。Aは、化粧料筒状部形成用部材(化粧料保持用内筒)と化粧料上面形成用部材(突出型キャップ)とを嵌合する前の状態、Bは嵌合した後の状態を示す。
図10】スリーブ−金型成型で嵌合によるモールド空間の形成を模式的に示した図面。Aは、化粧料筒状部形成用部材(スリーブ)と化粧料上面形成用部材(金型)とを嵌合する前の状態、Bは嵌合した後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施態様を示す図面を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【0017】
まず、図1図4図7および図8により、化粧料筒状部形成用部材としてスリーブを、化粧料上面形成用部材としてキャップを用いた場合の態様について説明する。図7および図8に示すように、本発明のキャップ1は、円筒状に形成されたスリーブ2の先端に冠着され、嵌合時にスリーブ2の先端開口21を封止するように形成されている。そして、スティック状化粧料を調製する際は、図8のように、スリーブ2の先端にキャップ1を取り付けて化粧料容器本体3を倒立させ、スリーブ2の後端部より溶融された化粧料組成物をスリーブ2内のモールド空間23に充填し、冷却固化させる。その後、キャップ1をスリーブ2より取り外すことにより、良好な成型性でスティック状化粧料を得ることができる。なお、本実施態様ではスリーブ2は円筒状に形成されたものであるが、筒状であれば円筒状に限らず、断面形状が多角形を呈する角筒状でもよい。
【0018】
本発明のキャップ1は、図1ないし4に示すように、スリーブ2の先端開口21を封止する天壁11と、天壁11の周縁部より垂下する筒状の周壁12とからなる。本実施態様では、天壁11は背面側より正面側(図1の右側より左側)の周壁12の高さが低くなるように傾斜して設けられているが、必ずしも天壁11はこのように傾斜していなくともよく、周壁12が同じ高さになるよう水平に設けてもよい。
【0019】
周壁12の上部には、周壁12の一部を切り欠いて空気抜き孔13が形成されている。そして、かかる空気抜き孔13内には、爪部14が立設されている。爪部14はその上端部が周壁12の内周面より内側へ突出するように設けられ、キャップ1をスリーブ2に冠着した際に、スリーブ2の周壁21に当接してキャップ1を固定する役割を果たす。そして、空気抜き孔13から空気がモールド空間内に流入することで、化粧料の冷却および離型が促進される。
【0020】
周壁12の下部には、その両辺に切り込み151を有する保持部15が形成されている。図4に示すように、この保持部15はそのほぼ中央にキャップ1の内側へ突出する突出部152を備え、キャップ1をスリーブ2に冠着した際に、かかる突出部152によりスリーブ2の周壁21に当接してキャップ1を固定する役割を果たす。なお、キャップ1のスリーブ2に対する固定方法はこれらの爪部14や保持部15に限定されず、このほかの保持手段を用いてもよい。
【0021】
さらに、周壁12の内周面には、縦リブ18を設けてもよい。縦リブ18は垂直方向に形成されており、キャップ1内へ突出してスリーブ2に冠着した際にスリーブ2の周壁21に当接するため、スリーブ2およびキャップ1の双方のセンターを容易に決めることができる。
【0022】
本発明のキャップ1の天壁11は、その内側面(下面)において化粧料の上端面の形状を形成するものであり、かかる面は、本実施態様のように複数の平面により構成されるダイヤモンド様の多面形状としてもよく、また、化粧料上端面に文字あるいは記号等を形成するための凹凸部を設けてもよく、さらに、化粧料上端面を無模様としたい場合は、凹凸部を有さない平面もしくは曲面としてもよい。また、天壁11は本実施態様のように中央が上部へ膨出する曲面としてもよいが、上部へ膨出しない平坦面としてもよい。
【0023】
本発明のキャップ1の天壁11の内側面には、嵌合されたスリーブ2の周壁22先端の内周面に相対する位置に環状突起17が突設されている。環状突起17は天壁11から下方へと突出し、その断面形状は三角形、正方形、矩形、半円形、半楕円形などから適宜選択することができるが、スリーブ2と天壁11との隙間への化粧料の流入を防ぎ、且つ、キャップ1内への空気の適度な流入を妨げないために、横断面形状を略くさび形とすることが好ましく、その頂部もしくは辺部の一部が、スリーブ2の上端(面)ないし内周面に当接することが好ましい。また、環状突起17を略くさび形とした場合、このくさび形は二等辺三角形型であっても、また、スリーブ2の上端(面)ないし内周面に当接する側が斜辺になる直角三角形型であってもよく、更にくさび形の両辺が、曲率をもって凹んでいても良い。環状突起17の高さは、特に制約されるものではないが、0.05〜0.15mm程度が好ましく、特に0.08〜0.11mm程度であることが好ましい。なお、本実施態様では円筒状のスリーブ2に対応して環状突起は円環状を呈するが、角筒状のスリーブの場合にはそれに対応する横断面形状多角形のキャップ1が用いられ、それに応じて環状突起も多角形環状突起となる。
【0024】
さらに、環状突起17の一部には切り欠き17aが凹設され、環状突起17の周方向の連続性を分断している。かかる切り欠き17aの形状としては、逆三角形、正方形、矩形、半円形、半楕円形などの形状から適宜選択できるが、キャップ1内への適切な空気の流入を妨げず、かつ、溶融した化粧料組成物の漏出を防ぐ上で、図5に示すような略V字形が好ましい。切り欠き17aは、天壁11が無模様の平面もしくは曲面である場合には、少なくとも等間隔に3箇所設けることが好ましく、等間隔に6箇所設けることがより好ましい。また、本実施態様のように、天壁11が複数の平面により構成される多面形状の場合、かかる多面形状の外周角部11aと対応する位置のいずれか、もしくはそれらのすべてにおいて切り欠き17aを設けることが好ましい。例えば、本実施態様では、かかる外周角部11aが16箇所あるため、切り欠き17aを外周角部11aに対して1箇所おきに計8箇所設けてもよいが、本実施態様のようにすべての外周角部11aに対応して16箇所設けることが好ましい。このように、切り欠き17aを多面形状の外周角部11aと対応する位置に設けることにより、外周角部11aの位置からモールド空間内へのよりスムーズな空気流入を促し、デザイン性の高い多面形状であってもより良好な成型性を得ることができる。また、たとえかかる切り欠き17a内に化粧料組成物が流入固化して化粧料表面に突起状部を形成した場合であっても、外周角部であればほとんど目立たず、外観に及ぼす影響も少ない。切り欠き17aの幅は特に制約されないが、適切な空気の流入を妨げず、かつ、溶融した化粧料組成物が漏出しない程度の幅として、0.1〜1mm程度が好ましく、0.2〜0.5mm程度がより好ましい。
【0025】
図6(A)は、環状突起を有さない従来のスティック状化粧料用キャップを用いてスリーブ内に化粧料組成物を充填した場合の様子を模式的に表した一部拡大断面図である。なお、スリーブ2の周壁22の先端は天壁周辺部16に連続して当接した状態となっており、かかる当接部分はスリーブ2内へのわずかな空気の流入を可能とする微視的隙間はあるものの、化粧料組成物のスリーブ2外への流出は十分に防ぐものである。図に示すように、スリーブ2の周壁22の先端は研磨等で丸められており、かかる周壁22の先端部がキャップ1の天壁12と当接した場合、周壁22の先端の丸められた部分と天壁12との間に隙間が生じる。そして、かかる隙間に溶融状態の化粧料が流入し、固化すると、外側へ突出するバリが生じる。
【0026】
一方、図6(B)は、本発明のキャップ1を用いてスリーブ内に化粧料組成物を充填した場合の様子を模式的に表した一部拡大断面図である。本発明のキャップ1の場合、環状突起17と周壁12の間の天壁周辺部16にスリーブ2の周壁22上端が挿入されるが、このとき、周壁22の内周側に設けられた環状突起17が天壁11との隙間を塞ぐため、スリーブ2と天壁11との間に化粧料が流入することを阻止し、バリの発生を効果的に防ぐことができる。さらに、環状突起17には、上述のとおり切り欠き17aが設けられているため、化粧料組成物が冷却・固化されて体積収縮する際の空気流入を容易にし、キャップ1のスティック状化粧料上面形成部の離型性が向上して、成型不良が生じにくい。
【0027】
上記キャップ1は、スリーブ2と嵌合する材料で形成されていればよいが、環状突起17が、スリーブ2の内周面と当接して、充填される溶融状態の化粧料組成物が隙間に流入しないようにするものであることおよび、スリーブ2先端の丸め加工で加工誤差が生じることなどから、プラスチック材料等の柔軟性のある材料で形成されていることが望ましい。
【0028】
本発明の上記した機構は、キャップ1とスリーブ2を用いてモールド空間を構成し、ここに化粧料組成物を充填し、冷却、固化させる場合に限らず、他の態様にも応用することができる。
【0029】
例えば、本発明の別の態様として、スティック状化粧料保持用の内筒を筒状部形成用部材とし、スティック状化粧料上面形成用のキャップを直接これに装着して倒立させ、溶融した化粧料組成物を該内筒の後部から充填するタイプのスティック状化粧料を挙げ、これを形成するための、内筒−突出型キャップの嵌合によるモールド空間の形成の例を図9に示す。図9中、Aは内筒6と突出型キャップ5の嵌合前の状態を、Bは嵌合後の状態を示す。
【0030】
このタイプのモールドでも、突出型キャップ5の、内筒6の先端61ないしこれに近い内周面に対応する位置に、横断面略くさび形の環状突起51が形成され、さらに、該環状突起51には、複数の切り欠き51aが凹設されている。この環状突起51や切り欠き51aの形状や位置、材質等は、上記したスリーブ2−キャップ1を嵌合してモールド空間を形成する場合と同一である。また、この環状突起51および切り欠き51aの果たす役割も、上記とほぼ同じである。なお、「突出型キャップ」とは、キャップの少なくとも中央が、内筒6への嵌合時に内筒6の先端61よりも大きく突出しているものを意味する。この突出の形状は、化粧料に通常の繰り出し式口紅等の形状を付与し得るものであれば何れでもよく、例えば尖端が半球状や、円柱状あるいは丸みをもった三角錐型等であっても良い。また、突出型キャップ5は、弾性を有するゴムやエラストマー等の材料で作製してもよく、その柔軟性から成型後に突出型キャップ5をスティック状化粧料の側面方向に取り外すことが可能となるため、化粧料に立体的模様を付与することも可能となる。
【0031】
更に本発明の他の別の態様として、1または複数のスティック状化粧料形成用孔を有する金型に、スリーブを挿入し、各スティック状化粧料形成用孔中でこれと嵌合させてモールド空間を形成する場合の例を図10に示す。図10中、Aはスリーブ8と金型7の嵌合前の状態を、Bは嵌合後の状態を示す。
【0032】
このタイプのモールドも、金型7の、各スティック状化粧料形成用孔72の各々に、スリーブ8の内周面に対応する位置に、横断面略くさび形の環状突起71が形成され、さらに、該環状突起71には、複数の切り込み71aが凹設されている。この環状突起71や切り欠き71aの形状や位置等は、前記したスリーブ2−キャップ1を嵌合してモールド空間を形成する場合と同一であり、また、この環状突起71および切り欠き71aの果たす役割も、前記とほぼ同じである。材質については、金型7の一部として金型7と同材質で形成してもよいし、あるいはプラスチック材料等の柔軟性のある材料などで別途形成し、金型7に固着させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のスティック状化粧料用モールドは、スティック状化粧料上面形成用部材に設けた不連続な環状突起の作用により、スティック状化粧料上面でのバリの発生を防ぐと共に、化粧料組成物の充填後、冷却・固化されて体積収縮する際の空気の流入を容易にし、優れた成型性を得ることができる。
【0034】
特に、本発明のモールドは、従来よりも柔らかいタイプの化粧料で、溶融時の流動性が高い化粧料組成物を用いる場合や、上面に複雑な模様あるいは文字を有するスティック化粧料など、従来成型が難しいとされていたスティック状化粧料についても、極めて高い歩留まりで製造することができるものである。
【0035】
従って、本発明のモールドは、口紅、リップクリーム、スティックタイプコンシーラー、皮膚美白用スティック、日焼け止めスティック等のスティック状化粧料の製造において、極めて有利に利用することができるものである。
【符号の説明】
【0036】
1 … … キャップ
2 … … スリーブ
3 … … スティック状化粧料容器本体
4 … … 内筒
5 … … 突出型キャップ
6 … … 内筒
7 … … 金型
8 … … スリーブ
11 … … 天壁
11a … … 外周角部
12 … … 周壁
13 … … 開口部
14 … … 爪部
15 … … 保持部
16 … … 天壁周辺部
17 … … 環状突起
17a … … 切り欠き
18 … … 縦リブ
21 … … 開口
22 … … 周壁
23 … … モールド空間
51 … … 環状突起
51a … … 切り欠き
52 … … モールド空間
61 … … 先端
71 … … 環状突起
71a … … 切り欠き
72 … … スティック状化粧料形成用孔
81 … … モールド空間
151 … … 切り込み
152 … … 突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10