特許第6133762号(P6133762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133762
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】フランジ接合部補強治具
(51)【国際特許分類】
   F16L 23/02 20060101AFI20170515BHJP
   F16L 23/036 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   F16L23/02
   F16L23/036
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-251322(P2013-251322)
(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公開番号】特開2015-108402(P2015-108402A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】597033085
【氏名又は名称】岡山市
(73)【特許権者】
【識別番号】396020361
【氏名又は名称】株式会社水道技術開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】宗友 信夫
(72)【発明者】
【氏名】矢野 光信
(72)【発明者】
【氏名】安井 忍
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 博教
【審査官】 青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−233210(JP,A)
【文献】 西独国特許第1196449(DE,B)
【文献】 米国特許第3771819(US,A)
【文献】 特表2007−522391(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0295155(US,A1)
【文献】 西独国特許第1079400(DE,B)
【文献】 特開2006−329340(JP,A)
【文献】 特開2004−316767(JP,A)
【文献】 実開昭60−190412(JP,U)
【文献】 特開2005−147243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 23/02
F16L 23/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト連結されている両フランジ部の外側面に各別に当接可能な押圧部を備えた一対の挟持部材と、この両挾持部材の押圧部を両フランジ部の外側面に当て付けた状態で当該両挾持部材をフランジ接合方向に引き寄せて締付固定する締結手段とを備えたフランジ接合部補強治具であって、
前記両挾持部材のフランジ接合方向で相対向する部位に、前記両フランジ部の外周面よりも径方向外方側位置においてフランジ接合方向から嵌合する内嵌合部と外嵌合部とが形成され、
少なくとも一方の挟持部材の押圧部を、前記内嵌合部又は前記外嵌合部に対して前記両フランジ部の径方向に進退自在な進退手段を備えたフランジ接合部補強治具。
【請求項2】
前記進退手段が前記両フランジ部の径方向に進退自在な状態で前記内嵌合部又は前記外嵌合部に設けられる進退部材を備え、少なくとも一方の挟持部材の押圧部が前記進退部材に設けられている請求項1に記載のフランジ接合部補強治具。
【請求項3】
前記進退手段が前記内嵌合部又は前記外嵌合部において前記両フランジ部の径方向に開口形成される保持孔を備え、前記進退部材が前記保持孔に挿通されて前記両フランジ部の径方向に進退自在に構成され、
前記内嵌合部と前記外嵌合部とが夫々筒状又は略筒状に構成され、前記締結手段の締結ボルトが、フランジ接合方向で前記進退部材に開口形成される貫通孔に挿通された状態で、前記内嵌合部と前記外嵌合部との筒状内部空間内に挿通されている請求項2に記載のフランジ接合部補強治具。
【請求項4】
前記進退手段が、前記両フランジ部の径方向内方側への前記進退部材の進入を最大進入位置に規制する最大進入位置規制部と、前記両フランジ部の径方向外方側への前記進退部材の引退を最大引退位置に規制する最大引退位置規制部とを備えた請求項2又は3に記載のフランジ接合部補強治具。
【請求項5】
前記進退手段が前記内嵌合部又は前記外嵌合部において前記両フランジ部の径方向に開口形成される保持孔を備え、前記進退部材が前記保持孔に挿通されて前記両フランジ部の径方向に進退自在に構成され、
前記内嵌合部と前記外嵌合部とが夫々筒状又は略筒状に構成され、前記締結手段の締結ボルトが、フランジ接合方向で前記進退部材に開口形成される貫通孔に挿通された状態で、前記内嵌合部と前記外嵌合部との筒状内部空間内に挿通され、
前記貫通孔が、前記両フランジ部の径方向に沿った長孔に形成され、
少なくとも前記最大進入位置規制部及び前記最大引退位置規制部の一方が前記長孔により構成されている請求項4に記載のフランジ接合部補強治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト連結されている両フランジ部の外側面に各別に当接可能な押圧部を備えた一対の挟持部材と、この両挾持部材の押圧部を両フランジ部の外側面に当て付けた状態で当該両挾持部材をフランジ接合方向に引き寄せて締付固定する締結手段とを備えたフランジ接合部補強治具に関する。
【背景技術】
【0002】
かかるフランジ接合部補強治具として、例えば、特許文献1には、両挟持部材のフランジ接合方向で相対向する部位に、両フランジ部の外周面よりも径方向外方側位置に形成された一対のボルト螺合孔(締結手段の一例)が形成され、両挟持部材においてボルト螺合孔よりも径方向内方側位置に形成された押圧部を両フランジ部の外側面に当て付けた状態で、両ネジボルト(締結手段の一例)を一対のボルト螺合孔に亘って螺合させた構成が開示されている。
【0003】
また、かかるフランジ接合部補強治具として、例えば、特許文献2には、両挟持部材の一方が一対の脚部を備えた概略コ字形状部材で構成され、両挟持部材の他方が一対の脚部のうちの一方に螺合装着されるボルト(締結手段の一例)により構成されており、ボルトの先端及びコ字形状部材の当該ボルトが装着されていない他方の脚部の内周面が、両フランジ部の外側面を各別に押圧する押圧部とされた構成が開示されている。そして、一方の脚部にボルトを螺合させ、更に締め込むことにより、ボルトの先端及び他方の脚部の内周面をフランジ部の外側面に各別に当接させて、一対の挟持部材(コ字形状部材及びボルト)によりフランジ部を締付固定する構成とされている。
【0004】
これらフランジ接合部補強治具を用いて、一対の挟持部材を締結手段により締付固定することで、複数のボルト・ナットによる両フランジ部の接合強度に加えて、締結手段による締結強度も付加することができ、両フランジ部に曲げ方向或いは引張方向に力が作用した場合でも、両フランジ部が離間することを防止して気密性を保持できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4157413号公報
【特許文献2】特許第4363565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、両フランジ部を含む流体管路の耐震性をより向上させるために、既存或いは新設の両フランジ部を、耐震管路と同等(離脱防止力が3DkN以上(Dは呼び径))の耐震性能A級の性能を有するものに補強することが望まれる。
また、両フランジ部に曲げ方向或いは引張方向の力が作用した場合でも、両フランジ部の離間を防止し、内部を通流する流体の漏洩を確実に防止できる構成とすることが望まれる。
【0007】
さらに、両フランジ部の一方が、空気弁、補修弁、短管等の流体機器の一端側に形成されたフランジ部である場合には、当該両フランジ部にフランジ接合部補強治具を装着する際、フランジ接合部補強治具が流体機器に干渉する可能性がある。特に、流体機器の外径が両フランジ部に接続される流体管の外径よりも大径で、しかも、流体機器と当該流体機器の一端側に形成されたフランジ部とが流体管の管軸方向において近接する場合には、両フランジ部にフランジ接合部補強治具を装着する際、フランジ接合部補強治具が当該流体機器に干渉して装着が不能となることがあり、また、装着できたとしても、装着に手間が掛かるとともに、所期の装着位置からずれた不良な装着状態のまま装着されてしまう可能性がある。このような不良な装着状態では、両フランジ部に曲げ方向或いは引張方向の力が作用した場合に、フランジ接合部補強治具が、両フランジ部から離脱したり止水性能が低下したりして流体が漏洩する可能性がある。
同様に、両フランジ部の一方が流体機器の一端側に形成されたフランジ部である場合には、当該両フランジ部にフランジ接合部補強治具を装着する際、フランジ接合部補強治具が流体機器の他端側に形成されたフランジ部に干渉し、装着が不良或いは不能となる可能性もある。
【0008】
これら点について着目すると、上記特許文献1に開示のフランジ接合部補強治具では、両フランジ部の外側面に各別に当接する押圧部を備えた一対の挟持部材が、当該押圧部の径方向外方側に形成された一対のボルト螺合孔に亘って螺合させた両ネジボルトにより締付固定されており、一対の挟持部材は実質的に一対のボルト螺合孔及び両ネジボルトのみで締付固定されているに過ぎず、両フランジ部に曲げ方向或いは引張方向の力が作用した際には、当該力が、フランジ部及び一対の挟持部材を介して一対のボルト螺合孔と両ネジボルトとの螺合箇所に集中し、両ネジボルトが伸長したり、螺合箇所のねじ山が破壊される場合があり、両フランジ部が離間する可能性がある。この場合、両フランジ部間から流体が漏洩する可能性があるとともに、両フランジ部を上述の耐震管路と同等の耐震性能を有する程度にまで補強することは困難となる。
【0009】
また、上記特許文献2に開示のフランジ接合部補強治具では、ボルトがコ字形状部材の一方の脚部に管軸方向の外方側から螺合装着され、当該ボルトの先端がフランジ部の外側面に当接する構成とされている。このため、コ字形状部材の管軸方向の外方側部位には、ボルトを一方の脚部に螺合装着させるための作業用空間が必要となり、両フランジ部の一方が空気弁や補修弁等の流体機器の一端側に形成されたフランジ部である場合には、両フランジ部にフランジ接合部補強治具を装着する際、フランジ接合部補強治具やボルトが流体機器や当該流体機器の他端側に形成されたフランジ部に干渉して装着が不能或いは不良となる可能性がある。
さらに、ボルトの先端がフランジ部の外側面に当接すると当該外側面に傷がつき腐食等の原因になるとともに、当該傷を防止するためにボルトの先端に保護部材を装着すると、当該ボルトがコ字形状部材の管軸方向の外方側部位に突出する突出代が大きくなり、当該外方側部位に大きな作業用空間を形成しなければフランジ接合部補強治具の両フランジ部への装着が、より一層不能或いは不良となる可能性がある。
【0010】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、両フランジ部に容易且つ確実に装着できるとともに、両フランジ部を含む流体管路を所定の耐震性能を備えた耐震管路に補強でき、しかも、両フランジ部の離間やずれを簡便且つ安価に防止して止水性能を向上できるフランジ接合部補強治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るフランジ接合部補強治具は、ボルト連結されている両フランジ部の外側面に各別に当接可能な押圧部を備えた一対の挟持部材と、この両挾持部材の押圧部を両フランジ部の外側面に当て付けた状態で当該両挾持部材をフランジ接合方向に引き寄せて締付固定する締結手段とを備えたフランジ接合部補強治具であって、その特徴構成は、
前記両挾持部材のフランジ接合方向で相対向する部位に、前記両フランジ部の外周面よりも径方向外方側位置においてフランジ接合方向から嵌合する内嵌合部と外嵌合部とが形成され、
少なくとも一方の挟持部材の押圧部を、前記内嵌合部又は前記外嵌合部に対して前記両フランジ部の径方向に進退自在な進退手段を備えた点にある。
【0012】
上記特徴構成によれば、一対の挟持部材におけるフランジ接合方向で相対向する各部位に、両フランジ部の外周面よりも径方向外方側位置においてフランジ接合方向から嵌合する内嵌合部と外嵌合部とが形成されているので、一対の挟持部材の各押圧部を両フランジ部の外側面に各別に当て付けた状態で締結手段を締付けると、両挟持部材がフランジ接合方向に引き寄せられるにつれて、内嵌合部が外嵌合部内に嵌合し、内嵌合部と外嵌合部とがフランジ接合方向(軸方向)で重なった状態となる。
これにより、一対の挟持部材が締結手段により締付固定された状態で、両フランジ部に曲げ方向(径方向)への力が作用した場合でも、締結手段の締結部位に加えて、内嵌合部と外嵌合部との重なり部位でも当該力を受け止めることができ、締結手段の締結部位に掛かる応力の低減を図ることができる。従って、フランジ接合部補強治具による両フランジ部の接合強度を向上させて、両フランジ部の離間やずれ及びこれらに伴う流体の漏洩を防止することができ、管路の耐震性能の向上をも図ることができる。
【0013】
加えて、少なくとも一方の挟持部材の押圧部を内嵌合部又は外嵌合部に対して両フランジ部の径方向に進退自在な進退手段を備えているので、フランジ接合部補強治具を両フランジ部に装着する際などに、当該押圧部を内嵌合部又は外嵌合部に対して両フランジ部の径方向に進退させて、当該押圧部がフランジ部の外側面に当て付けられる位置を適宜調整することができる。
これにより、例えば、両フランジ部のうち一方のフランジ部に接続された空気弁や補修弁等の流体機器の外径が当該フランジ部に接続される流体管の外径よりも大径で、しかも、流体機器と当該フランジ部とが流体管の管軸方向において近接する場合であっても、一方の挟持部材の押圧部を両フランジ部の径方向外方側に適宜引退させることで、当該押圧部が流体機器に干渉しない状態で両挟持部材を両フランジ部に装着することができる。また、例えば、両フランジ部のうち一方のフランジ部に空気弁等の流体機器が接続されていない場合には、当該一方の挟持部材の押圧部を両フランジ部の径方向内方側に適宜進入させることで、当該押圧部を所期の装着位置に装着させることができる。なお、当該押圧部を両フランジ部の径方向に進退させることは、フランジ接合部補強治具を両フランジ部に装着する際のみならず、両フランジ部への装着前、装着中、装着後、或いは、離脱後であってもよく、また、両フランジ部の一方に流体機器が接続されている場合でも接続されていない場合であってもよい。
よって、両フランジ部に容易且つ確実に装着できるとともに、両フランジ部を含む流体管路を所定の耐震性能を備えた耐震管路に補強でき、しかも、両フランジ部の離間やずれを簡便且つ安価に防止して止水性能を向上できる。
【0014】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記進退手段が前記両フランジ部の径方向に進退自在な状態で前記内嵌合部又は前記外嵌合部に設けられる進退部材を備え、少なくとも一方の挟持部材の押圧部が前記進退部材に設けられている点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、進退部材を内嵌合部又は外嵌合部に対して両フランジ部の径方向に進退させることで、少なくとも一方の挟持部材の押圧部がフランジ部の外側面に当て付けられる部位を、両フランジ部の径方向で簡便に調整することができる。
【0016】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記進退手段が前記内嵌合部又は前記外嵌合部において前記両フランジ部の径方向に開口形成される保持孔を備え、前記進退部材が前記保持孔に挿通されて前記両フランジ部の径方向に進退自在に構成され、
前記内嵌合部と前記外嵌合部とが夫々筒状又は略筒状に構成され、前記締結手段の締結ボルトが、フランジ接合方向で前記進退部材に開口形成される貫通孔に挿通された状態で、前記内嵌合部と前記外嵌合部との筒状内部空間内に挿通されている点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、内嵌合部と外嵌合部とが夫々筒状又は略筒状に構成され、外嵌合部内に内嵌合部が嵌合し、内嵌合部内の筒状内部空間に締結手段の締結ボルトが挿通されるので、両フランジ部の外周面の径方向外方側位置にある内嵌合部及び外嵌合部の配設箇所と、締結ボルトの配設箇所とを兼用することができる。これにより、両フランジ部に装着されたフランジ接合部補強治具及び締結ボルトのフランジ接合方向(軸方向)での寸法、及び、当該フランジ接合部補強治具の径方向外方側(径方向)での寸法の何れをも小さくすることができ、省スペース化を図ることができる。
また、進退部材が内嵌合部又は外嵌合部において両フランジ部の径方向に開口形成される保持孔に挿通され、且つ、締結手段の締結ボルトが内嵌合部の筒状内部空間内においてフランジ接合方向で進退部材に開口形成される貫通孔に挿通されるので、両フランジ部の径方向における進退部材の進退を保持孔により保持案内された状態で良好に行うことができ、しかも、進退部材を筒状内部空間内に挿通しても締結ボルトの締結が阻害されることがなくなる。
【0018】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記進退手段が、前記両フランジ部の径方向内方側への前記進退部材の進入を最大進入位置に規制する最大進入位置規制部と、前記両フランジ部の径方向外方側への前記進退部材の引退を最大引退位置に規制する最大引退位置規制部とを備えた点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、両フランジ部の径方向における進退部材の進退を、最大進入位置規制部により径方向内方側への最大進入位置と最大引退位置規制部により径方向外方側への最大引退位置との範囲内で許容しながら、当該進退を当該範囲内に確実に規制することができ、進退部材が内嵌合部又は外嵌合部から離脱することを良好に防止できる。
【0020】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記進退手段が前記内嵌合部又は前記外嵌合部において前記両フランジ部の径方向に開口形成される保持孔を備え、前記進退部材が前記保持孔に挿通されて前記両フランジ部の径方向に進退自在に構成され、
前記内嵌合部と前記外嵌合部とが夫々筒状又は略筒状に構成され、前記締結手段の締結ボルトが、フランジ接合方向で前記進退部材に開口形成される貫通孔に挿通された状態で、前記内嵌合部と前記外嵌合部との筒状内部空間内に挿通され、
前記貫通孔が、前記両フランジ部の径方向に沿った長孔に形成され、
少なくとも前記最大進入位置規制部及び前記最大引退位置規制部の一方が前記長孔により構成されている点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、少なくとも最大進入位置規制部及び最大引退位置規制部の一方が、進退部材の貫通孔(両フランジ部のフランジ接合方向に開口形成され且つ径方向に沿った長孔)により構成されているので、進退部材が径方向に進退した際、当該進退部材の長孔に挿通された締結ボルトの外周面に、当該長孔の径方向内方側部位又は径方向外方側部位が当接し、進退部材の移動が径方向内方側における最大進入位置又は径方向外方側における最大引退位置に規制される。これにより、締結ボルトを挿通するための長孔(貫通孔)を最大進入位置規制部又は最大引退位置規制部として兼用することができ、各規制部を簡単な構成で実現することができる。
【0022】
上記目的を達成するための本発明に係るフランジ接合部補強治具は、ボルト連結されている両フランジ部の外側面に各別に当接可能な押圧部を備えた一対の挟持部材と、この両挾持部材の押圧部を両フランジ部の外側面に当て付けた状態で当該両挾持部材をフランジ接合方向に引き寄せて締付固定する締結手段とを備えたフランジ接合部補強治具であって、その特徴構成は、
前記両挾持部材のフランジ接合方向で相対向する部位に、前記両フランジ部の外周面よりも径方向外方側位置においてフランジ接合方向から嵌合する内嵌合部と外嵌合部とが形成され、
前記両挟持部材の押圧部が前記両フランジ部の径方向において相互に偏倚した位置において前記両フランジ部の外側面に当て付けられた状態で、前記両挾持部材が前記締結手段により締付固定操作可能に構成されている点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、一対の挟持部材におけるフランジ接合方向で相対向する各部位に、両フランジ部の外周面よりも径方向外方側位置においてフランジ接合方向から嵌合する内嵌合部と外嵌合部とが形成されているので、一対の挟持部材の各押圧部を両フランジ部の外側面に各別に当て付けた状態で締結手段を締付けると、両挟持部材がフランジ接合方向に引き寄せられるにつれて、内嵌合部が外嵌合部内に嵌合し、内嵌合部と外嵌合部とがフランジ接合方向(軸方向)で重なった状態となる。
これにより、一対の挟持部材が締結手段により締付固定された状態で、両フランジ部に曲げ方向(径方向)への力が作用した場合でも、締結手段の締結部位に加えて、内嵌合部と外嵌合部との重なり部位でも当該力を受け止めることができ、締結手段の締結部位に掛かる応力の低減を図ることができる。従って、フランジ接合部補強治具による両フランジ部の接合強度を向上させて、両フランジ部の離間やずれ及びこれらに伴う流体の漏洩を防止することができ、管路の耐震性能の向上をも図ることができる。
【0024】
加えて、両挟持部材の押圧部がフランジ部の径方向において相互に偏倚した位置において両フランジ部の外側面に当て付けられた状態で、両挾持部材が締結手段により締付固定操作可能に構成されているので、当該状態では、両押圧部を、両フランジ部の径方向において、径方向外方側の位置で当て付けられる外方側押圧部と、当該外方側押圧部よりも径方向内方側の位置で当て付けられる内方側押圧部とから構成することが可能となる。
これにより、例えば、両フランジ部のうち一方のフランジ部に接続された空気弁や補修弁等の流体機器の外径が当該一方のフランジ部に接続される流体管の外径よりも大径で、しかも、流体機器と当該一方のフランジ部とが流体管の管軸方向において近接する場合であっても、両フランジ部の径方向外方側に適宜引退した構成である一方の挟持部材の押圧部(外方側押圧部)が流体機器に干渉しない状態で、両挟持部材を両フランジ部に装着することができ、しかも、両フランジ部のうち空気弁等の流体機器が接続されていない他方のフランジ部には、両フランジ部の径方向内方側に適宜進入した構成である他方の挟持部材の押圧部(内方側押圧部)が所期の位置でフランジ部の外側面に当て付けられる状態で、両挟持部材を両フランジ部に装着することができる。
よって、両フランジ部に容易且つ確実に装着できるとともに、両フランジ部を含む流体管路を所定の耐震性能を備えた耐震管路に補強でき、しかも、両フランジ部の離間やずれを簡便且つ安価に防止して止水性能を向上できる。
【0025】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記フランジ接合方向における前記両フランジ部間に環状の密封部材が装着され、
少なくとも一方の挟持部材の押圧部が前記フランジ部の外側面における前記密封部材に対応する部位に位置する状態で、前記両挾持部材が前記締結手段により締付固定操作可能に構成されている点にある。
【0026】
上記特徴構成によれば、少なくとも一方の挟持部材の押圧部がフランジ部の外側面において密封部材に対応する部位に位置する状態で、両挾持部材が締結手段により締付固定操作可能に構成されているので、両押圧部のうち少なくとも一方の押圧部を当該密封部材に対応する部位におけるフランジ部の外側面に当て付けた状態で両挟持部材を締付固定して、両フランジにより密封部材を確実に押圧することができ、両フランジ部間の密封性を向上して止水性能を向上することができる。
【0027】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記両挾持部材の前記内嵌合部と前記外嵌合部とが嵌合している状態において、一方の挾持部材の押圧部と前記内嵌合部と他方の挾持部材の押圧部と前記外嵌合部とで形成される凹部が、前記両フランジ部におけるボルト連結箇所の隣接間部位に対して径方向外方から外嵌装着可能に構成されているとともに、前記外嵌合部が、両フランジ部の外周面との当接によって設定外嵌装着位置に規制する装着規制部に構成されている点にある。
【0028】
上記特徴構成によれば、両挟持部材の両押圧部、内嵌合部及び外嵌合部により形成される凹部を、両フランジ部のボルト連結箇所の周方向での隣接部位に対して径方向外方から外嵌装着する際、両フランジ部の外周面よりも径方向外方側に位置する外嵌合部が当該外周面に当接する状態となるので、当該外嵌合部を、フランジ接合部補強治具を設定外嵌装着位置に規制する装着規制部とすることができ、フランジ接合部補強治具の装着作業の容易化及び確実化を図ることができる。また、一対の挟持部材が締結手段により締付固定された状態では、内嵌合部が内嵌された外嵌合部の外面が両フランジ部の外周面に当接しているので、両フランジ部に曲げ方向(径方向)の力が作用した場合には、当該外嵌合部の外面と両フランジ部の外周面との当接箇所でも当該力を受け止めることができ、締結手段、内嵌合部と外嵌合部との重なり部位に掛かる応力の低減を図ることができる。
従って、フランジ接合部補強治具を、両フランジ部に容易に装着できるとともに、フランジ接合部補強治具による両フランジ部の接合強度をより向上させて、両フランジ部の離間やずれ及びこれらに伴う流体の漏洩をより確実に防止することができ、管路の耐震性能の向上をも図ることができる。
【0029】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記内嵌合部と前記外嵌合部とが相対回転不能な嵌合形状に構成されている点にある。
【0030】
上記特徴構成によれば、内嵌合部と外嵌合部とがフランジ接合方向周りで相対回転不能な状態で嵌合されるので、内嵌合部と外嵌合部との相対回転、即ち、一対の挟持部材同士の相対回転を防止することができる。これにより、両フランジ部にフランジ接合部補強治具を装着する際、両挟持部材の内嵌合部と外嵌合部とを嵌合させることで、一対の挟持部材同士の相対位置関係を所期の位置関係に位置決めすることができ、両フランジ部への装着作業をより一層容易に行うことができる。
【0031】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記締結手段が、前記内嵌合部と前記外嵌合部との筒状内部空間に対して前記外嵌合部の外側から挿入される締結ボルトと、前記内嵌合部の内周面における前記外嵌合部側の一端部に形成された当該締結ボルトが螺合する雌ネジ部とから構成されている点にある。
【0032】
上記特徴構成によれば、締結手段が、内嵌合部と外嵌合部との筒状内部空間に対して外嵌合部の外側から挿入される締結ボルトと、内嵌合部の内周面に形成された締結ボルトが螺合する雌ネジ部とから構成されているので、雌ネジ部を筒状内部空間内における内嵌合部と外嵌合部との重なり部位に位置させることができ、締結ボルトの長さを比較的短くすることが可能となる。これにより、フランジ部の呼び径や設計圧力に応じて各フランジ部の肉厚を変更した場合でも、締結ボルトの先端が筒状内部空間の外部に突出することを良好に防止することができ、フランジ接合部補強治具の外観を損なうことなく省スペース化を図ることができる。
また、雌ネジ部が、内嵌合部の内周面における外嵌合部側の一端部に形成されているので、当該雌ネジ部は、内嵌合部と外嵌合部との筒状内部空間に挿通された締結ボルトの頭部に近接した位置に位置することとなる。これにより、雌ネジ部と締結ボルトの雄ネジ部との螺合箇所が、締結ボルトの頭部が外嵌合部と当接する位置に近接することとなり、フランジ接合方向(軸方向)における締結ボルトの頭部と当該螺合箇所との距離を比較的小さくすることができ、両フランジ部に曲げ方向(径方向)或いは引張方向(軸方向)の力が作用した場合でも、締結ボルトの伸びや破壊を良好に防止することができる。即ち、締結ボルトの伸び等を防止できるので、両フランジ部の離間やずれ及びこれらに伴う流体の漏洩を良好に防止することができる。また、当該距離を比較的小さくすることができれば、締結ボルトとして汎用のボルトを使用することが可能となり、フランジ接合部補強治具を安価のものとすることができる。
【0033】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記締結手段が、前記内嵌合部と前記外嵌合部との筒状内部空間に対して一方の外側から貫通状態で挿入される締結ボルトと、当該締結ボルトの突出雄ネジ部に他方の外側から螺合する締結ナットとから構成されている点にある。
【0034】
上記特徴構成によれば、締結手段が、内嵌合部と外嵌合部との筒状内部空間に対して一方の外側から貫通状態で挿入される締結ボルトと、当該締結ボルトの突出雄ネジ部に他方の外側から螺合する締結ナットとから構成されているので、内嵌合部及び外嵌合部を筒状に形成するだけでよくネジ山を形成する必要がないため、フランジ接合部補強治具を簡便且つ安価な構成とすることができる。
【0035】
本発明に係るフランジ接合部補強治具の更なる特徴構成は、前記両フランジ部の夫々が流体管に接続され、前記両フランジ部のうち少なくとも一方のフランジ部に前記流体管の外径よりも大径の流体機器が接続されている点にある。
【0036】
上記特徴構成によれば、夫々が流体管に接続された両フランジ部のうち、少なくとも一方のフランジ部に流体管の外径よりも大径の流体機器が接続されているので、両フランジ部にフランジ接合部補強治具を装着する際に当該流体機器が装着の邪魔になる場合があるが、このような場合であっても、少なくとも一方の挟持部材の押圧部が当該流体機器に干渉しない状態で、両挟持部材を両フランジ部に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】両フランジ部の部分縦断面図
図2】両フランジ部の部分横断面図
図3】第1挟持部材及び第2挟持部材の概略構成を示す図
図4】第1挟持部材の概略構成を示す図
図5】第2挟持部材の概略構成を示す図
図6】第1及び第2挟持部材の移動可能範囲を示す部分縦断面図
図7】第1及び第2挟持部材の両フランジ部への装着操作を示す部分縦断面図
図8】第1及び第2挟持部材の両フランジ部への装着操作を示す部分縦断面図
図9】第1及び第2挟持部材の両フランジ部への装着状態を示す部分横断面図
図10】別実施形態に係る第1及び第2挟持部材の装着状態を示す部分縦断面図
図11】別実施形態に係る第1及び第2挟持部材の装着状態を示す部分縦断面図
図12】別実施形態に係る第1及び第2挟持部材の装着状態を示す部分縦断面図
図13】別実施形態に係る第1及び第2挟持部材の装着状態を示す部分縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図1図9に基づいて、本発明の実施形態に係るフランジ接合部補強治具Pについて説明するが、まず、フランジ接合部補強治具Pが装着されるフランジ接合部について説明する。
図1及び図2は流体配管系(管路)の途中のフランジ接合部を示し、鋳鉄製の両水道管(流体管の一例)1、1の端部にそれぞれ径方向外方に円板状に延出形成された両フランジ部1A、1Bが、リング状でシート状のガスケット(密封部材の一例)2を両フランジ部1A、1B間に介装させた状態で、複数の連結ボルト4A及び連結ナット4B(本実施形態では、8ヶずつ)により連結されている。両フランジ部1A、1Bには、フランジ接合方向(軸方向)に貫通する複数の貫通孔3(本実施形態では、8ヶ所ずつ)が周方向で等間隔に形成され、これら貫通孔3に連結ボルト4Aが挿通されて、当該連結ボルト4Aの雄ネジ部の先端側に連結ナット4Bが螺合固定される。なお、本実施形態の両フランジ部1A、1Bは、いわゆるRF形フランジである。
【0039】
また、両フランジ1A、1Bのうち一方側のフランジ部1Aには、流体管1を介して当該流体管1の外径よりも大径で且つ当該フランジ部1Aの外径よりも小径(図1では、各連結ボルト4Aの中心を結ぶ円と略同径の外径)の空気弁(流体機器の一例)Vが接続されている。また、図1に示すフランジ1Aに水道管1を介して接続される空気弁Vは、水道管1の部位が非常に短く形成されているため、水道管1の軸方向において当該フランジ部1Aに近接した位置に配置されている。
【0040】
ここで、以下では、両フランジ部1A、1Bにおいて、それぞれ水道管1が突出する側の面を外側面1a、1aとし、両フランジ部1A、1Bが連結ボルト4A及び連結ナット4Bにより連結された際にフランジ接合方向(軸方向)で相互に対向する面を接合面1b、1bとし、さらに、両フランジ部1A、1Bの径方向外方側の面を外周面1c、1cとして説明する。
【0041】
図3図9に示すように、フランジ接合部補強治具Pは、上述のようにボルト連結されている両フランジ部1A、1Bにおいて、フランジ部1Bの外側面1aに当接可能な押圧部5gを備えた第1挟持部材5及びフランジ部1Aの外側面1aに当接可能な押圧部6gを備えた第2挟持部材6と、これら第1挾持部材5の押圧部5g及び第2挟持部材6の押圧部6gを両フランジ部1A、1Bの外側面1a、1aにそれぞれ当て付けた状態で、当該第1挾持部材5及び第2挟持部材6をフランジ接合方向(軸方向)に引き寄せて締付固定する締結手段7とを備える。
【0042】
図3図4図6図9に示すように、第1挟持部材5は、金属材料により構成され、側面視(横断面視)で外面5aが概略四角形状且つ内周面5bが円形状の概略有底角筒状(筒状の一例)に形成された内嵌合部5Aと、内嵌合部5Aの一端部において当該内嵌合部5Aの外面5aから全周に亘って外方側に延出する鍔状部5Bとを一体的に備えている。なお、図4(a)は、第1挟持部材5の側面視(横断面視)を示し、図4(b)は、第1挟持部材5の縦断面視を示す。
【0043】
内嵌合部5Aは、側面視で概略正方形状に形成され、内嵌合部5A内には、後述する締結手段7の締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを挿通可能な円筒状の筒状内部空間5cが形成されている。筒状内部空間5cの内径は、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aの外径よりも若干大径に形成されている。
鍔状部5Bは、側面視で概略正方形状に形成され、縦断面視で中央部に上記筒状内部空間5cが貫通形成されている。
筒状内部空間5cにおいて、鍔状部5Bが形成された側は開口形成され、鍔状部5Bが形成された側とは反対側は、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aが螺合可能な雌ネジ部5dが、内嵌合部5Aの底部を貫通する状態で開口形成されている。すなわち、雌ネジ部5dは、内嵌合部5Aにおける筒状内部空間5cの内周面5bにおいて、鍔状部5Bが形成された側とは反対側の端部に形成されている。
【0044】
図3及び図4に示すように、鍔状部5Bには、筒状内部空間5cの延出方向(フランジ接合方向(軸方向))に対して直交する方向(両フランジ部1A、1Bの径方向)において、後述する進退部材5Cを挿通可能な形状の保持孔5eが形成され、保持孔5eは、内嵌合部5Aから外方側に延出する鍔状部5Bの四辺(四平面)のうち対向する辺(平面)同士に亘って貫通形成されている。なお、保持孔5eは、筒状内部空間5cと直交する状態で連通するように構成されている。
【0045】
また、第1挟持部材5は、内嵌合部5A及び鍔状部5Bとは別体の進退部材(進退手段の一例)5Cを備えている。進退部材5Cは、側面視において概略長方形状で、縦断面視において概略板状の進退部5fと、側面視において若干先窄み形状で、縦断面視において先端側に行くにつれて進退部5fよりも雌ネジ部5d側に傾斜するテーパー形状の押圧部5gと、縦断面視で進退部5fよりも雌ネジ部5d側とは反対側に突出する突出部5hとを一体的に備えている。これら押圧部5g、突出部5h、進退部5fは、先端側から基端側に向かって記載順に進退部材5Cに一体形成されている。
【0046】
進退部材5Cは、進退部5fが鍔状部5Bの保持孔5eに挿通された挿通状態で、保持孔5eに沿って保持案内された状態で進退可能に構成されており、両フランジ部1A、1Bの径方向に進退自在に構成されている。そして、進退部材5Cを当該径方向において径方向外方側に引退(進退部5fを保持孔5e内に挿入する方向に移動)させると、突出部5hが鍔状部5Bにおける保持孔5eの開口周縁部に当接可能に構成されており、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aが筒状内部空間5c内に挿通されていない場合であっても、当該進退部材5Cの引退位置を最大引退位置に規制する最大引退位置規制部として機能するように構成されている。これにより、締結ボルト7Aを筒状内部空間5cに挿通する前に、進退部材5Cを保持孔5eに仮組みしたとしても、進退部材5Cが保持孔5eから離脱することを良好に防止することができる。
【0047】
また、進退部5fには、側面視で当該進退部5fの長手方向(両フランジ部1A、1Bの径方向)に沿って長く形成された長孔(貫通孔の一例)5iが、縦断面視で当該進退部5fを貫通する状態で開口形成されている。この長孔5iは、進退部5fが保持孔5eに挿通され、締結ボルト7Aが当該長孔5iに挿通され且つ筒状内部空間5c内に挿通された際に、縦断面視で、保持孔5e内における進退部5fの進退により、当該締結ボルト7Aの径方向外方側部位(図示せず)に当接して進退部5eの位置を最大進入位置に規制する内径側内壁部(図示せず)と、当該締結ボルト7Aの径方向内方側部位(図示せず)に当接して進退部5eの位置を最大引退位置に規制する外径側内壁部(図示せず)とを備えている。つまり、長孔5iの内径側内壁部が進退部材5Cを最大引退位置に規制する最大引退位置規制部として機能し、外径側内壁部が進退部材5Cを最大進入位置に規制する最大進入位置規制部として機能する。
従って、図6に示すように、締結ボルト7Aが長孔5i及び筒状内部空間5cに挿通されると、進退部材5Cの押圧部5gは、両フランジ1A、1Bの径方向において最大引退位置と最大進入位置との間の所定範囲L内における進退が許容される。ここで、例えば、最大進入位置は、後述する押圧部5gの押圧面5jがフランジ部1Bの外側面1aにおいてガスケット2に対応する部位に設定でき、最大引退位置は、押圧部5gがフランジ部1Bの外側面1aから離脱しない部位に設定できる。
【0048】
押圧部5gには、縦断面視で雌ネジ部5d側の面の先端部位に、内嵌合部5Aの外面5aと垂直な押圧面5jが形成され、当該押圧面5jには、フランジ部1Bの外側面1aに当て付けられた際、当該外側面1aとの摩擦保持を促進可能な加工(例えば、押圧面5jに細かな凹凸を形成する加工)が施されている。
【0049】
図3図5図9に示すように、第2挟持部材6は、金属部材により構成され、側面視(横断面視)で外面6a及び内面6bが概略四角形状の概略有底角筒状(筒状の一例)に形成された外嵌合部6Aと、外嵌合部6Aとは別体の進退部材(進退手段の一例)6Bとを備えて構成されている。なお、図5(a)は、第2挟持部材6の側面視(横断面視)を示し、図5(b)は、第2挟持部材6の縦断面視を示す。
【0050】
外嵌合部6Aは、側面視で概略正方形状に形成され、外嵌合部6A内には、第1挟持部材5の内嵌合部5Aを挿入可能な筒状内部空間6cが形成されている。筒状内部空間6cは側面視(横断面視)で概略正方形状に形成され、側面視(横断面視)で概略正方形状の内嵌合部5Aよりも若干大きく形成されている。このため、内嵌合部5Aの外面5aと外嵌合部6Aの内面6bとの嵌合形状は、内嵌合部5Aを外嵌合部6Aの筒状内部空間6cに挿入(嵌合)させると、挿入方向(筒状内部空間6cの長手方向)には摺動可能であるが、挿入方向周り(筒状内部空間6cの長手方向に沿った軸周り)での相対回転が不能となるように形成されている。
また、外嵌合部6Aの底部には、当該底部を筒状内部空間6cの延出方向(フランジ接合方向(軸方向))に沿って貫通する挿通孔6dが筒状内部空間6cに連通する状態で開口形成されており、挿通孔6dが形成された側とは反対側の筒状内部空間6cの端部は開口形成されている。挿通孔6dは、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを挿入可能で且つ頭部7bを挿通不能に形成されている。なお、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aが挿通孔6dに挿通された状態では、雄ネジ部7aの外周面と挿通孔6dの内周面との間には、所定の隙間が形成される(図6図8参照)。
【0051】
外嵌合部6Aの底部には、筒状内部空間6cの延出方向(フランジ接合方向(軸方向))に対して直交する方向(両フランジ部1A、1Bの径方向)において、進退部材6Bを挿通可能な形状の保持孔6eが形成され、保持孔6eは、外嵌合部6Aにおいて挿通孔6d及び筒状内部空間6cが開口形成される面以外の四平面のうち対向する平面同士に亘って貫通形成されている。保持孔6eは、筒状内部空間6cと直交する状態で連通するように構成されている。なお、外嵌合部6Aの底部は、挿通孔6d及び筒状内部空間6cの延出方向(フランジ接合方向(軸方向))において、保持孔6eを形成可能な程度の所定の厚みを備えた形状に構成されている。
【0052】
進退部材6Bは、基本的に第1挟持部材5の進退部材5Cと同様の構成を備えているので、詳細な説明は省略するが、保持孔6eに挿通可能な進退部6fと、縦断面視において先端側に行くにつれて進退部6fよりも筒状内部空間6cの開口側に傾斜するテーパー形状の押圧部6gと、縦断面視で進退部6fよりも筒状内部空間6cの開口側とは反対側に突出する突出部6hとを一体的に備えている。これら押圧部6g、突出部6h、進退部6fは、先端側から基端側に向かって記載順に進退部材6Bに一体形成されている。また、進退部6fには、側面視で当該進退部6fの長手方向(両フランジ部1A、1Bの径方向)に沿って長く形成された長孔(貫通孔の一例)6iが、縦断面視で当該進退部6fを貫通する状態で開口形成されている。この長孔6iは、進退部材5Cの長孔5iと同様に、内径側内壁部が進退部材6Bを最大引退位置に規制する最大引退位置規制部として機能し、外径側内壁部が進退部材6Bを最大進入位置に規制する最大進入位置規制部として機能する。
従って、図6に示すように、締結ボルト7Aが長孔6i及び筒状内部空間6cに挿通されると、進退部材6Bの押圧部6gは、両フランジ1A、1Bの径方向において最大引退位置と最大進入位置との間の所定範囲L内における進退が許容される。ここで、例えば、最大進入位置は、後述する押圧部6gの押圧面6jがフランジ部1Aの外側面1aにおいてガスケット2に対応する部位に設定でき、最大引退位置は、押圧部6gの先端がフランジ部1Aに接続された空気弁Vに接触せず且つフランジ部1Aの外側面1aから離脱しない部位に設定できる。
【0053】
押圧部6gには、縦断面視で筒状内部空間6cの開口側の面の先端部位に、外嵌合部6Aの外面6aと垂直な押圧面6jが形成されている。従って、内嵌合部5Aが外嵌合部6Aに嵌合した状態では、押圧面5j及び押圧面6jは筒状内部空間5c、6cの延出方向(フランジ接合方向(軸方向))で対向するように配置されることとなる。
【0054】
締結手段7は、外嵌合部6Aの外側から挿通孔6dを介して筒状内部空間6c内に挿入される上述の締結ボルト7Aと、内嵌合部5Aの内周面5bに形成された雌ネジ部5dとから構成されている。
従って、フランジ接合部補強治具Pでは、第1挟持部材5の押圧部5g及び第2挟持部材6の押圧部6gの相対位置を、両フランジ部1A、1Bのフランジ接合方向において適宜調整することができる。
具体的には、図6に示すように、第1挟持部材5の内嵌合部5Aの保持孔5eに進退部材5Cの進退部5fを挿通するとともに、第2挟持部材6の外嵌合部6Aの保持孔6eに進退部材6Bの進退部6fを挿通して、内嵌合部5Aを外嵌合部6A内に嵌合し、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを外嵌合部6Aの挿通孔6dを介して内嵌合部5Aの雌ネジ部5dに螺合した状態において、両フランジ部1A、1Bのフランジ接合方向において内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの嵌合位置(嵌合距離)を所定の移動範囲M内で適宜調節可能に構成されている。これにより、フランジ接合方向における両フランジ部1A、1Bの厚みに応じて、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの重なり部位の大きさ(嵌合距離)、及び、両押圧面5j、6jの相対位置(相対間隔)を適宜調整して、両押圧面5j、6jを各別に両フランジ部1A、1Bの外側面1a、1aに当て付けた状態で、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aと内嵌合部5Aの雌ネジ部5dとを螺合固定し、第1挟持部材5及び第2挟持部材6を両フランジ部1A、1Bに装着することができる。
【0055】
次に、複数の連結ボルト4A及び連結ナット4Bにより連結された両フランジ部1A、1Bに、フランジ接合部補強治具Pを装着する作業工程について説明する。
【0056】
図3図6図8に示すように、まず、第1挟持部材5の保持孔5eに進退部材5Cの進退部5fを挿通し且つ第2挟持部材6の保持孔6eに進退部材6Bの進退部6fを挿通するとともに、フランジ接合方向で相対向する部位に形成されている第1挟持部材5の内嵌合部5A及び第2挟持部材6の外嵌合部6Aを、内嵌合部5Aの底部側(雌ネジ部5d側)から当該内嵌合部5Aが外嵌合部6Aの筒状内部空間6cに内嵌するように、両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cよりも径方向外方側の位置でフランジ接合方向から嵌合させる。
この際には、内嵌合部5Aの外面5aと外嵌合部6Aの内面6bとが横断面視で相対回転不能な概略正方形状に形成されているので、第1挟持部材5の押圧部5gと第2挟持部材6の押圧部6gとを同方向に延出させた状態で、容易に嵌合させることができる。
また、進退部材5Cを、進退部材5Cの突出部5hが保持孔5eの開口周縁部に当接する程度に挿入し、進退部材6Bを、進退部材6Bの突出部6hが保持孔6eの開口周縁部に当接する程度に挿入しておくと、両進退部材5C、6Bが各保持孔5e、6eから離脱することを良好に防止できる。
【0057】
図7に示すように、両進退部材5C、6Bが各保持孔5e、6eに挿入され、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとが嵌合している状態において、縦断面視で進退部材5Cの進退部5f及び押圧部5gと内嵌合部5Aの外面5aと進退部材6Bの進退部6f及び押圧部6gと外嵌合部6Aの外面6aとにより概略U字形状の凹部Cが形成され、当該凹部Cを、両フランジ部1A、1Bにおける周方向におけるボルト連結箇所の隣接間部位に対して径方向外方から外嵌装着可能に構成されている。そのため、上述の内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの嵌合は、一旦、フランジ接合方向において、第1挟持部材5の押圧部5gの押圧面5jと第2挟持部材6の押圧部6gの押圧面6jとの間隔が、フランジ部1Aの外側面1aとフランジ部1Bの外側面1aとの間隔よりも大きくなる程度に行われ、この状態で、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを、フランジ接合方向における外嵌合部6Aの外側から挿通孔6dを介して筒状内部空間6c内に挿入し、当該締結ボルト7Aの頭部7bが外嵌合部6Aの外側面(図示せず)に当接するまで、筒状内部空間6cに嵌合されている内嵌合部5Aの雌ネジ部5dに螺合させ、内嵌合部5A及び外嵌合部6Aを仮固定する。
【0058】
そして、凹部Cを両フランジ部1A、1Bのボルト連結箇所の隣接間部位に対して外嵌装着する際には、進退部材6Bが延出する側における外嵌合部6Aの外面6a(凹部Cの一部)を、両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cの少なくとも一方に当接させることで、第1挟持部材5及び第2挟持部材6を所期の設定外嵌装着位置に装着することができる(図8及び図9参照)。すなわち、進退部材6Bが延出する側における外嵌合部6Aの外面6aが、両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cとの当接によって設定外嵌装着位置に規制する装着規制部として機能することとなる。
【0059】
第1挟持部材5及び第2挟持部材6の設定外嵌装着位置への装着に伴って、第1挟持部材5の進退部材5Cをフランジ部1Bの径方向に進退させて、押圧部5gの押圧面5jを当該フランジ部1Bの外側面1aにおいてガスケット2に対応する部位に位置させるとともに、第2挟持部材6の進退部材6Bをフランジ1Aの径方向に進退させて、押圧部6gの先端が空気弁Vの外周面に接触せず且つ押圧面6jが当該フランジ部1Aの外側面1aに当て付けられる部位に位置させる(図8及び図9参照)。
【0060】
続いて、第1挟持部材5及び第2挟持部材6が設定外嵌装着位置に装着され、押圧面5jが上述した位置でフランジ部1Bの外側面1aに当接し且つ押圧面6jが上述した位置でフランジ部1Aの外側面1aに当接するまで、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを内嵌合部5Aの雌ネジ部5dに螺合させて締付固定し、内嵌合部5A及び外嵌合部6Aをフランジ接合方向で引き寄せて内嵌合部5Aを外嵌合部6Aの筒状内部空間6cに嵌合させる(図8参照)。
【0061】
従って、フランジ接合部補強治具Pを両フランジ部1A、1Bに装着する際に、両押圧部5g、6gを内嵌合部5A又は外嵌合部6Aに対して両フランジ部1A、1Bの径方向に進退させて、両押圧部5g、6gが両フランジ部1A、1Bの外側面1a、1aに各別に当て付けられる位置を適宜調整することができる。
これにより、図1図7及び図8に示すように、一方のフランジ部1Aに接続された空気弁Vの外径が当該フランジ部1Aに接続される水道管1の外径よりも大径で、しかも、空気弁Vと当該フランジ部1Aとが水道管1の管軸方向において近接する場合であっても、第2挟持部材6の押圧部6gをフランジ部1Aの径方向外方側に適宜引退させることで、当該押圧部6gが空気弁Vに干渉しない状態で第1挟持部材5及び第2挟持部材6を両フランジ部1A、1Bに装着することができる。また、空気弁Vが接続されていない他方のフランジ部1Bにおいては、第1挟持部材5の押圧部5gをフランジ部1Bの径方向内方側に適宜進入させることで、当該押圧部5gの押圧面5jを所期の装着位置であるガスケット2に対応する部位に位置させた状態で装着させることができる。
よって、フランジ部1Aに空気弁Vが接続されている場合であっても第1挟持部材5及び第2挟持部材6を確実に装着することができ、しかも、第1挟持部材5の押圧部5gの押圧面5jによりフランジ接合方向においてフランジ部1Bの外側面1aを介してガスケット2を確実に押圧することができる。
【0062】
また、両押圧部5g、6gをそれぞれ両フランジ部1A、1Bの外側面1a、1aに当て付けた状態で第1挟持部材5及び第2挟持部材6をフランジ接合方向に引き寄せて、内嵌合部5Aが外嵌合部6A内に嵌合し、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとがフランジ接合方向(軸方向)で重なった状態で、締付固定することができるとともに、この締付固定された状態では、進退部材6Bが延出する側における外嵌合部6Aの外面6aが、両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cの少なくとも一方に当接した状態となる。
さらに、締付固定した状態では、内嵌合部5Aの雌ネジ部5dが、締結ボルト7Aの頭部7bに近接した位置に位置することから、雌ネジ部5dと締結ボルト7Aの雄ネジ部7aとの螺合箇所が、締結ボルト7Aの頭部7bが外嵌合部6Aの外側面と当接する位置に近接することとなり、フランジ接合方向(軸方向)における締結ボルト7Aの頭部7bと当該螺合箇所との距離を比較的小さくすることができる。これにより、両フランジ部1A、1Bに曲げ方向(径方向)或いは引張方向(軸方向)の力が作用した場合でも、締結ボルト7Aの伸びや破壊を良好に防止することができ、両フランジ部1A,1Bの離間やずれ及びこれらに伴う流体の漏洩を良好に防止することができる。さらに、雌ネジ部5dを筒状内部空間5c、6c内における内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの重なり部位に位置させることができ、締結ボルト7Aの長さを比較的短くすることが可能となり、締結ボルト7Aの先端が筒状内部空間5c、6cの外部に突出することを良好に防止することができ、フランジ接合部補強治具Pの外観を損なうことなく省スペース化を図ることができる。
【0063】
次に、上記フランジ接合部補強治具Pを装着後、両フランジ部1A、1Bにおける、その他の全てのボルト連結箇所の隣接間部位に対して、別のフランジ接合部補強治具Pを径方向外方から順次外嵌装着する。なお、当該外嵌装着は、必要に応じて、ボルト連結箇所の隣接間部位の一部に対してのみ行うこととしてもよい。
【0064】
これにより、第1挟持部材5及び第2挟持部材6が締結手段7により締付固定された状態で、両フランジ部1A、1Bに曲げ方向(径方向)への力が作用した場合でも、締結手段7の締結部位に加えて、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの重なり部位でも当該力を受け止めることができ、締結手段7の締結部位に掛かる応力の低減を図ることができる。また、第1挟持部材5及び第2挟持部材6が締結手段7により締付固定された状態では、内嵌合部5Aが内嵌された外嵌合部6Aの外面が両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cの少なくとも一方に当接しているので、両フランジ部1A、1Bに曲げ方向(径方向)の力が作用した場合には、当該外嵌合部6Aの外面6aと両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cとの当接箇所でも当該力を受け止めることができ、締結手段7、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの重なり部位に掛かる応力の低減を図ることができる。さらに、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aが挿通孔6dに挿通された状態では、雄ネジ部7aの外周面と挿通孔6dの内周面との間に所定の隙間が形成されるので、両フランジ部1A、1Bに曲げ方向(径方向)への力が作用して、万が一、締結ボルト7Aが径方向に若干変位した場合でも、当該所定の隙間程度の変位であれば、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aが挿通孔6dに当接することがなく、締結ボルト7Aの伸びや破壊を防止することができる。
【0065】
従って、フランジ接合部補強治具Pを、両フランジ部1A、1Bに容易且つ確実に装着できるとともに、フランジ接合部補強治具Pによる両フランジ部1A、1Bの接合強度をより向上させて、両フランジ部1A、1Bを含む流体管路を所定の耐震性能(離脱防止力が3DkN以上(Dは呼び径))を備えた耐震管路に補強しつつ、しかも、両フランジ部1A、1Bの離間やずれを簡便且つ安価に防止することができる。
【0066】
また、フランジ接合部補強治具Pは、筒状に構成された外嵌合部6A内に内嵌合部5Aが嵌合し、さらに、内嵌合部5A内の筒状内部空間5cに締結手段7の締結ボルト7Aが挿通されるので、両フランジ部1A、1Bの外周面1c、1cの径方向外方側位置にある内嵌合部5A及び外嵌合部6Aの配設箇所と、締結ボルト7Aの配設箇所とを兼用することができる。これにより、両フランジ部1A、1Bに装着されたフランジ接合部補強治具P及び締結ボルト7Aのフランジ接合方向(軸方向)での寸法、及び、当該フランジ接合部補強治具Pの径方向外方側(径方向)での寸法の何れをも小さくすることができ、省スペース化を図ることができる。
【0067】
ここで、上述のとおり、フランジ接合部補強治具Pは、第1挟持部材5の内嵌合部5Aと第2挟持部材6の外嵌合部6Aとのフランジ接合方向(軸方向)における重なり部位の大きさ(嵌合距離)を所定範囲内で任意に調整することで、第1挟持部材5の押圧部5gの押圧面5jと第2挟持部材6の押圧部6gの押圧面6jとの間隔を所定範囲内で任意に調整可能に構成されている。
このため、両フランジ部1A、1Bの呼び径や設計圧力に応じて、両フランジ部1A、1Bの肉厚が変更される場合、例えば、図10に示すように、両フランジ部1A、1Bの肉厚よりも厚い肉厚の両フランジ部10A、10Bにフランジ接合部補強治具Pを装着する場合であっても、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとの重なり部位の大きさ(嵌合距離)を調整(図10では、嵌合距離を小さく調整)することで、第1挟持部材5の押圧部5gの押圧面5jをフランジ部10Aの外側面10aに当接させ且つ第2挟持部材6の押圧部6gの押圧面6jをフランジ部10Bの外側面10aに当接させた状態で、内嵌合部5Aの雌ネジ部5dに締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを螺合させて内嵌合部5A及び外嵌合部6A、ひいては、第1挟持部材5及び第2挟持部材6を両フランジ部10A、10Bに良好に締付固定することができる。なお、第1挟持部材5の進退部材5C及び第2挟持部材6の進退部材6Bは、両フランジ部10A、10Bの径方向に進退自在に構成されているが、両進退部材5C、6Bの両押圧面5j、6jの夫々は、両フランジ部10A、10Bの外側面10a、10aにおいて、ガスケット(密封部材の一例)10Cに対応する部位(最大進入位置)で当て付けられるように構成されている。即ち、両押圧面5j、6jは、両フランジ10A、10Bの径方向においてほぼ同位置となるように位置が調整されている。なお、両フランジ部10A、10Bは、いわゆるGF形フランジである。
【0068】
〔別実施形態〕
(A)上記実施形態では、第1挟持部材5の内嵌合部5Aを有底筒状に構成し内部に筒状内部空間5cを形成して、内嵌合部5Aの底部に雌ネジ部5dを開口形成するとともに、第2挟持部材6の外嵌合部6Aを有底筒状に構成し内部に筒状内部空間6cを形成して、外嵌合部6Aの底部に挿通孔6dを形成することで、締結手段7を、当該挿通孔6dに挿通され且つ雌ネジ部5dに螺合される締結ボルト7Aと当該雌ネジ部5dとにより構成したが、第1挟持部材5、第2挟持部材6及び締結手段7の構成は、適宜変更することができる。
【0069】
例えば、図11に示すように、第1挟持部材50の内嵌合部50Aを第2挟持部材51の外嵌合部51Aに内嵌可能な外径を備えた概略角棒状に構成し、第2挟持部材51の外嵌合部51Aを筒状に構成する。なお、第1挟持部材50は、上記実施形態における鍔状部5B及び進退部材5C(図11では、長孔5iを設けていない)を備え、第2挟持部材51は、上記実施形態における進退部材6Bを備える。そして、内嵌合部50Aの先端側には、雄ネジ部52aを備えたボルト52がフランジ接合方向(内嵌合部50Aの長手方向)に突出形成され、外嵌合部51A内に内嵌合部50Aが相対回転不能に嵌合した状態で、雄ネジ部52aの先端が外嵌合部51Aの外側に突出し、当該突出部分に締結ナット53が外嵌合部51Aの外方から外面側に当接するまで螺合され、第1挟持部材50及び第2挟持部材51が締付固定される構成としてもよい。
【0070】
また、例えば、図12に示すように、第1挟持部材60の内嵌合部60Aを筒状に構成して、当該内嵌合部60Aを相対回転不能な状態で第2挟持部材61の外嵌合部61Aに内嵌可能な外径を備え且つ締結ボルト62の雄ネジ部(図示せず)を挿通可能な筒状内部空間63を形成可能な内径を備えた構成とする。すなわち、内嵌合部60Aには、雌ネジ部を形成しない。なお、第1挟持部材60は、上記実施形態における鍔状部5B及び進退部材5Cを備え、第2挟持部材61は、上記実施形態における進退部材6Bを備える。そして、締結手段7が、内嵌合部60Aと外嵌合部61Aとの筒状内部空間63、6cに対して一方の外側から貫通状態で挿入される締結ボルト62と、締結ボルト62の突出雄ネジ部62aに他方の外側から螺合する締結ナット64とを備える。そして、外嵌合部61A内に内嵌合部60Aが嵌合した状態で、突出雄ネジ部62aが外嵌合部61Aの外側に突出し、当該突出雄ネジ部62aに締結ナット64が外嵌合部61Aの外方から外面側に当接するまで螺合され、第1挟持部材60及び第2挟持部材61が締付固定される構成としてもよい。
これにより、内嵌合部60A及び外嵌合部61Aを筒状に形成するだけで、両者にネジ山を形成する必要がないため、フランジ接合部補強治具Pを簡便且つ安価な構成とすることができる。
【0071】
また、例えば、図13に示すように、第1挟持部材70は、上記実施形態における内嵌合部5A及び鍔状部5Bを備え、第2挟持部材71は、上記実施形態における外嵌合部6Aを備えるが、鍔状部5Bには保持孔5eを形成せず、外嵌合部6Aの底部には保持孔6eを形成しないように構成する。
第1挟持部材70の鍔状部5Bには、当該鍔状部5Bの四辺(四平面)のうちの一辺(一平面)からさらに外方側に延出する押圧部70Aが一体的に形成されている。押圧部70Aは、側面視で若干先窄み形状に形成され、縦断面視で先端側に行くにつれて雌ネジ部5d側に傾斜するテーパー形状に形成され、押圧部70Aのうち雌ネジ部5d側の面の先端部位が、内嵌合部5Aの外面5aと垂直な押圧面70aとして形成されている。
第2挟持部材71の外嵌合部6Aには、外嵌合部6Aの一端部において当該外嵌合部6Aの外面6aの四辺(四平面)のうちの一辺(一平面)からさらに外方側に延出する押圧部71Aが一体的に形成されている。押圧部71Aは、側面視で若干先窄み形状に形成され、縦断面視で先端側に行くにつれて押圧部71Aが形成された側とは反対側に傾斜するテーパー形状に形成され、押圧部71Aのうち挿通孔6dとは反対側の面の先端部位が、外嵌合部6Aの外面6aと垂直な押圧面71aとして形成されている。
そして、両挟持部材70、71の各押圧部70A、71Aが両押圧部70A、71Aの延出方向(両フランジ部1A、1Bの径方向)で相互に偏倚した位置となるように構成され、各押圧部70A、71Aの各押圧面70a、71aが両フランジ部1A、1Bの外側面1a、1aの夫々に当て付けられた状態で、両挾持部材70、71が締結ボルト7Aと雌ネジ部5dとの螺合により締付固定操作可能に構成されている。
これにより、両挟持部材70、71の押圧部70A、71Aを、両フランジ部1A、1Bの径方向において、径方向外方側の位置で当て付けられる外方側押圧部(押圧部71Aの押圧面71a)と、外方側押圧部よりも径方向内方側の位置で当て付けられる内方側押圧部(押圧部70Aの押圧面70a)とから構成することが可能となる。
従って、一方のフランジ部1Aに接続された空気弁Vの外径が当該フランジ部1Aに接続される水道管1の外径よりも大径で、しかも、空気弁Vと当該フランジ部1Aとが水道管1の管軸方向において近接する場合であっても、フランジ部1Aの径方向外方側に適宜引退した構成である第2挟持部材71の押圧部71A(外方側押圧部)が空気弁Vに干渉しない状態で、両挟持部材70、71を両フランジ部1A、1Bに装着することができる。また、空気弁Vが接続されていない他方のフランジ部1Bにおいては、フランジ部1Bの径方向内方側に適宜進入した構成である第1挟持部材70の押圧部70A(内方側押圧部)が所期の位置でフランジ部1Bの外側面1aに当て付けられる状態で、両挟持部材70、71を両フランジ部1A、1Bに装着することができる。なお、第1挟持部材70における押圧部70Aの押圧面70aがフランジ部1Bの外側面に当て付けられる所期の位置は、両フランジ部1A、1B間に介装されるガスケット2に対応する部位に位置させることが好ましい。
【0072】
(B)上記実施形態では、両フランジ部1A、1Bにフランジ接合部補強治具Pを装着する際、第1挟持部材5の内嵌合部5Aと第2挟持部材6の外嵌合部6Aとをある程度嵌合させ、締結ボルト7Aと雌ネジ部5dとの螺合により内嵌合部5A及び外嵌合部6Aを仮固定してから、内嵌合部5Aと進退部材5Cと外嵌合部6Aと進退部材6Bとにより形成される凹部Cを両フランジ部1A、1Bに外嵌装着する構成としたが、フランジ接合部補強治具Pの装着手順は適宜変更することができる。
例えば、第2挟持部材6の外嵌合部6Aの保持孔6eに進退部材6Bの進退部6fを挿通した状態で、進退部材6Bにおける押圧部6gの押圧面6jをフランジ部1Aの外側面1aに当接させ、外嵌合部6Aをフランジ部1Aの外周面1cの径方向外方側に位置させて、さらに、第1挟持部材5の鍔状部5Bの保持孔5eに進退部材5Cの進退部5fを挿通した状態で、第1挟持部材5の内嵌合部5Aをフランジ接合方向から上記外嵌合部6A内に嵌合させつつ、進退部材5Cにおける押圧部5gの押圧面5jをフランジ部1Bの外側面1aに当接させる。その後、締結ボルト7Aの雄ネジ部7aを外嵌合部6Aの挿通孔6dを介して内嵌合部5Aの雌ネジ部5dに螺合させ、進退部材5C及び進退部材6Bを適宜両フランジ部1A、1Bの径方向に適宜進退させつつ、第1挟持部材5及び第2挟持部材6を両フランジ部1A、1Bに外嵌装着することもできる。この際、両フランジ部1A、1Bに接続されている流体機器がある場合には、各押圧部5g、6gを両フランジ部1A、1Bの径方向外方側に適宜引退させて流体機器と各押圧部5g、6gとの接触を防止するとともに、流体機器が接続されていない場合でも、各押圧部5g、6gを両フランジ部1A、1Bの径方向内方側に適宜進入させて両フランジ部1A、1B間に存在するガスケット2等の密封部材に対応する位置を確実に押圧する構成とすることができる。
【0073】
(C)上記実施形態では、両挟持部材5、6の押圧部5g、6gの両方を両フランジ部1A、1Bの径方向に進退自在に構成したが、いずれか一方の押圧部のみを当該径方向に進退自在に構成してもよい。
また、押圧部5g、6gを進退手段により両フランジ部1A、1Bの径方向に進退自在に構成する際には、上記実施形態のように、押圧部5gを進退部材5Cに一体形成し、押圧部6gを進退部材6Bに一体形成する構成に限らず、当該径方向において押圧部5gを第1挟持部材5の内嵌合部5Aに対して進退可能或いは押圧部6gを第2挟持部材6の外嵌合部6Aに対して進退可能な構成であれば、適宜採用することができ、例えば、進退部材5C、6Bを省略し、押圧部5gを第1挟持部材5に対して当該径方向に進退自在に構成することもでき、押圧部6gを第2挟持部材6に対して径方向に進退自在に構成することもできる。
さらに、例えば、進退部材5C、6Bを保持孔5e、6eに挿通して、進退部材5C、6Bを保持孔5e、6eに沿って保持案内された状態で進退(摺動)させて、押圧部5g、6gを両フランジ部1A、1Bの径方向に進退させる構成(進退手段)ではなく、押圧部5g、6gをネジ機構等(進退手段)により当該径方向に進退させる構成としてもよい。
【0074】
(D)上記実施形態では、第1挟持部材5の押圧部5g及び第2挟持部材6の押圧部6gが両フランジ部1A、1Bの径方向に進退可能な範囲を長孔5i、6iにより最大引退位置と最大進入位置との間の所定範囲Lとなるように規制したが、両押圧部5g、6gの各所定範囲Lは各別に適宜設定することができる。また、長孔5i、6iの形状は、当該所定範囲Lを設定することができる形状であれば適宜変更することができる。
【0075】
(E)上記実施形態では、第1挟持部材5に内嵌合部5Aを設け、第2挟持部材6に外嵌合部6Aを設けるように構成したが、第1挟持部材5に外嵌合部を設け、第2挟持部材6に内嵌合部を設ける構成としてもよい。
【0076】
(F)上記実施形態では、第1挟持部材5の内嵌合部5Aと第2挟持部材6の外嵌合部6Aとの嵌合形状、すなわち、横断面視で、内嵌合部5Aの外面5a及び外嵌合部6Aの内面6bの形状を、概略正方形状としたが、内嵌合部5Aと外嵌合部6Aとが嵌合された状態でフランジ接合方向周りでの相対回転が不能に構成されていれば、その他の嵌合形状を採用することもできる。例えば、横断面視で、内嵌合部5Aの外面5a及び外嵌合部6Aの内面6bの形状を、楕円形状、多角形状等に構成することができる。
【0077】
(G)上記実施形態では、第1挟持部材5の内嵌合部5Aを有底筒状に構成し内部に筒状内部空間5cを形成して、当該筒状内部空間5cにおいて、鍔状部5Bが形成された側を開口形成したが、当該開口形成された部位をゴム等により構成される栓部材により閉塞する構成とすることもできる。これにより、筒状内部空間5c内に塵埃等が侵入することを良好に防止できるとともに、外観の向上も図ることができる。
【0078】
(H)上記実施形態では、両フランジ部1A、1Bを8対の連結ボルト4A及び連結ナット4Bにより連結する構成としたが、フランジ部1A、1Bの呼び径や設計圧力等に応じて、連結ボルト4A及び連結ナット4Bの数は適宜調整することができる。
【0079】
(I)上記実施形態では、流体機器として空気弁Vを例にして説明したが、補修弁、消火栓、短管その他の流体機器であってもよい。
【0080】
(J)上記実施形態では、流体配管系(管路)を構成する流体管の一例である鋳鉄製の両水道管1、1に形成した両フランジ部1A、1Bにフランジ接合部補強治具Pを装着する例について説明したが、流体管としては気体や液体が通流する管であってもよい。
【0081】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、両フランジ部を含む管路を所定の耐震性能を備えた耐震管路に補強しつつ、両フランジ部の離間やずれを簡便且つ安価に防止できるフランジ接合部補強治具を提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 水道管(流体管)
1A フランジ部
1B フランジ部
1a 外側面
1c 外周面
2 ガスケット(密封部材)
3 貫通孔
5 第1挟持部材(挟持部材)
5A 内嵌合部
5C 進退部材(進退手段)
5c 筒状内部空間
5d 雌ネジ部(締結手段)
5e 保持孔(進退手段)
5g 押圧部
5h 突出部(最大引退位置規制部)
5i 長孔(最大進入位置規制部、最大引退位置規制部)
6 第2挟持部材(挟持部材)
6A 外嵌合部
6B 進退部材(進退手段)
6a 外面(装着規制部)
6c 筒状内部空間
6e 保持孔
6g 押圧部
6h 突出部(最大引退位置規制部)
6i 長孔(最大進入位置規制部、最大引退位置規制部)
7 締結手段
7A 締結ボルト(締結手段)
10A フランジ部
10B フランジ部
10C ガスケット(密封部材)
62 締結ボルト(締結手段)
62a 突出雄ネジ部
64 締結ナット(締結手段)
P フランジ接合部補強治具
C 凹部
V 空気弁(流体機器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13