【実施例1】
【0038】
[ひげぜんまいの構成の説明:
図1]
図1を用いてひげぜんまいの第1の実施形態を説明する。
図1(a)は、ひげぜんまいの平面図である。
図1(b)は、ぜんまい部を拡大した図面であって、
図1(a)に示す切断線A−A´における断面の様子を模式的に示す断面図である。
【0039】
図1において、ひげぜんまい1は、中心部に図示しない回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔3aを有するひげ玉3と、貫通孔3aを中心にしてひげ玉3に巻回されるように設計されたコイル形状のぜんまい部2と、ぜんまい部2の巻き終わりと接続しているひげ持4とから構成されている。ぜんまい部2の巻き始めとひげ玉3とは接続部3bで接続している。
【0040】
ひげぜんまい1は、第1の材料としては、水晶、セラミックス、シリコン、シリコン酸化膜などを主成分とする材料から構成することができる。第1の材料をシリコンとすれば、軽いひげぜんまいを構成できて便利である。
【0041】
ひげぜんまい1を構成する第1の材料がシリコンであるとすると、ひげぜんまい1の製造や加工に際して、シリコン半導体基板に対して行う深堀りRIE技術を用いることができ、半導体装置を製造する際と同様な公知の製造技術を用いることができる。
【0042】
以後の説明にあっては、第1の材料を、軽く加工しやすいという特徴を有するシリコンとする場合を例にして説明する。
【0043】
上述のように、ひげぜんまい1は基材となるシリコン半導体基板をドライエッチングして形成するため、
図1(a)に示すように、ひげぜんまい1のぜんまい部2と、ひげ玉3と、ひげ持4とは、一体で形成されている。
【0044】
ひげぜんまい1を図示しない回転軸体の軸方向から平面視したときの様子が
図1(a)に示すものである。
図1(b)は、切断線A−A´におけるぜんまい部2の4つの部分を拡大して示す断面図である。
【0045】
ぜんまい部2は上述の通り一体で形成されており、ひげ玉3の周囲を巻回されているような形状を有している。切断線A−A´の部分は、ぜんまい部2の外周部分である。このぜんまい部2は上述のごとく1つの構造体であるが、説明しやすいように断面で見たときのそれぞれの周回に当たる4つの部分に、ぜんまい腕20a、20b、20c、20dの名称を付与することにする。
【0046】
図1(b)に示すように、ぜんまい部2の一平面2aには、溝部7a〜7dが設けてあり、その溝部には第2の材料を主成分とする充填剤6a〜6dが設けてある。
【0047】
図1(b)に示す例では、4つのぜんまい腕20a〜20dに、それぞれ溝部7a〜7dが1つずつ設けてあり、それぞれの溝部には充填剤6a〜6dが設けてある。上述の説明の通り、ぜんまい腕20a〜20dは一体の構造物であるから、溝部7a〜7d及び充填剤6a〜6dも1つの構造体である。
【0048】
上述の通り、ぜんまい腕は1つの連続した構造体であるが、このぜんまい腕の一平面2aに設ける溝部を複数としてもよい。例えば、図示はしないが、1つのぜんまい腕に設ける溝部を複数に分断し、それぞれの溝部に充填剤を設けても良いのである。
【0049】
また、その分断された溝部は、ぜんまい腕の一平面2aから見たときに、四角形や多角形、円形や楕円形などの形状を有するようにしてもよい。
【0050】
第2の材料は、第1の材料よりも粘靱性の高い材料である。第1の材料をシリコンとすれば、第2の材料は樹脂とすることができる。例えば、エポキシ樹脂とすることができる。
【0051】
近年、エポキシ樹脂はさまざまな改良がなされており、柔軟鎖を持つポリマー(ゴム、エラストマー)を添加することで、内部応力を低下させて靭性を向上させるものもあり、シリコンに対して粘靱性を有するようにすることができる。
【0052】
ひげぜんまいの製造方法は後述するが、充填剤6a〜6dは、例えば、溝部7a〜7dに充填する時点では粘度が低くなっており、充填後には適宜硬化処理を施して適度の硬さに硬化させることができる、紫外線硬化型又は熱硬化型の樹脂を用いることができる。
【0053】
特に限定するものではないが、1つのぜんまい腕は、例えば、幅は60μm、高さは100μmである。
このように幅方向に薄いぜんまい腕であっても、溝部に充填剤を充填することによって、ぜんまい部はもろさが緩和され、強靭にすることができる。
【0054】
図1(b)に示す例では、溝部7a〜7dを同じ幅と深さとで表現しているが、それぞれを異ならせるようにしてもよい。また、充填する充填剤6a〜6dも、それぞれの材料や溝部に充填する量を異ならせるようにしても構わない。
【0055】
そのような構成は、例えば、ひげ玉3からひげ持4に至って、漸次溝部の幅や深さを変えるような形状にしてもよいのである。また、同じく漸次充填剤の量を減っていくようにしたり(無論、漸次増やしたり)してもよいのである。
これは、ひげぜんまい1に対して欲するばね特性(例えば、ヤング率など)を鑑みて自由に選択することができる。
【0056】
[ぜんまい部の形状の説明1:
図2]
次に、ひげぜんまいのぜんまい部の異なる構成例を、
図2を用いて説明する。説明にあっては、周回方向の1つのぜんまい腕を例にして説明する。
【0057】
図2において、
図2(a)、
図2(b)は、ぜんまい腕に2つの溝部を設ける例である。
図2(c)は、ぜんまい腕を貫通する溝部を設ける例である。
【0058】
図2(a)に示すように、ぜんまい部のぜんまい腕21aにはその一平面2aに溝部17aを設けてある。この一平面と対向する他の平面2bには溝部17bを設けてある。これらの溝部には、それぞれ充填剤16a、16bが充填されている。
【0059】
溝部17a、17bは互いにその幅や深さを異ならせてもよく、これらに充填する充填剤16a、16bも、互いに同じ材料で構成してもよいが、異ならせてもよい。もちろん、充填する量を変えてもよい。
【0060】
図2(b)に示す例は、ひげぜんまい1を複合基板で構成した例である。
ひげぜんまいは、第1の材料を主成分としており、この例では前述の通りシリコンである。例えば、ひげぜんまいを断面で見たときに、その高さ方向にシリコンとシリコン酸化膜とを積層した複合基板とし、このシリコンを主成分とする複合基板を基にしてひげぜんまいを構成することもある。
【0061】
図2(b)に示すように、そのようなシリコンを主成分とする複合基板は、シリコン21a1にシリコン酸化膜21a2をCVD等の公知の成膜技術を用いれば簡単に形成できる。
【0062】
このような複合基板を用いてひげぜんまいを構成したとき、シリコン21a1に溝部17aを設け、その中に充填剤16aを設ける。そして、シリコン酸化膜21a2に溝部17bを設け、その中に充填剤16bを設けるのである。
【0063】
そのような複合基板を用いたとき、シリコン21a1とシリコン酸化膜21a2との比重の違いから、ひげぜんまいとしての重量バランスが偏ってしまう場合がある。
【0064】
そのような場合であっても、例えば、シリコン21a1側に設ける溝部17aとシリコン酸化膜21a2側に設ける溝部17bとでその幅や深さを異ならせたり、充填剤16a、16bの種類や量を異ならせたりすることでひげぜんまいとしての重量バランスを取ることができる。
【0065】
なお、
図2(b)にあっては、このようなシリコンとシリコン酸化膜とを積層した複合基板からひげぜんまいを加工して形成するため、他の図との整合を図るため、便宜上、シリコン21a1の一平面に符号2aを、シリコン酸化膜21a2の一平面に符号2bをそれぞれ付与している。
【0066】
また、
図2(c)に示すように、ぜんまい腕を貫通するように溝部を設けてもよい。すなわち、ぜんまい部のぜんまい腕22aには、その一平面2aと対向する他の平面2bとを貫通する溝部27aを設けるのである。この溝部27aには充填剤26aが充填されている。
【0067】
このような構成にすれば、溝部27aに設ける充填剤26aの量も自由に設定でき、ぜんまい部2の硬さなどを自由に選ぶことができて便利である。
【0068】
[ぜんまい部の形状の説明2:
図3]
ぜんまい部の溝部に充填する充填剤については、すでに説明したように適宜その量などを変更できるが、その形状について
図3を用いて詳述する。
【0069】
図3(a)に示す例は、ぜんまい腕23aに設ける溝部37aには充填剤36aが充填されているが、溝部37aを完全に埋めるようにはなっていない構成である。つまりぜんまい腕23aの一平面2aより下がって充填されている。
このような構成であっても、充填剤は粘靱性があるため、ひげぜんまいを保護することができる。
【0070】
図3(b)、
図3(c)に示す例は、ぜんまい腕24aの一平面2aよりも溝部37aに設ける充填剤46a、56aが突出するように充填されている構成である。
【0071】
このような構成にすると、例えば、衝撃を受けてひげぜんまいがぜんまい腕24aの一平面2aの方向に動き、図示しない他の部材と接したときでも、ぜんまい腕24aよりも先に突出した充填剤46a、56aが他の部材と当接するので、ひげぜんまいを保護することができる。つまり、粘靱性の高い充填剤がクッションとなり、ひげぜんまいに衝撃を伝達しにくくすることで、破壊から保護するのである。
【0072】
図3(d)、
図3(e)に示す例は、ぜんまい腕25aに設ける溝部37aよりも充填剤66a、76aが突出するように充填されていると共に、ぜんまい腕25aの一平面2aを覆うようにし、充填剤の頭頂部を平坦にした構成である。なお、
図3(e)に示す構成は、例えば、
図3(c)に示す構成から、その充填剤の頭頂部を平坦に削るなどすれば容易に形成できる。
【0073】
このような構成にすると、すでに説明した
図3(b)、
図3(c)の例と同様に、衝撃を受けてひげぜんまいが他の部材と接したときでも、ぜんまい腕25aよりも先に突出した充填剤66a、76aが他の部材と当接して保護することができる。さらに、そのときひげぜんまいが伸縮運動をしていたとしても、ぜんまい腕の一平面2aにおいて頭頂部が平坦な充填剤66a、76aにより、他の部材との当接後にその平坦部分ですべりを生じさせ、衝突した力を受け流すことができる。このため、さらにひげぜんまいを保護することができる。
【0074】
なお、
図3(d)と
図3(e)との構成の違いは、ひげぜんまいを組み込んだ時計の構造などを鑑みて、自由に選択することができる。
【実施例2】
【0075】
次に、第2の実施形態としてひげぜんまいの製造方法について、工程図を用いて説明する。第1の製造方法は、主に
図4、
図5を用いて説明する。第2の製造方法は、主に
図6を用いて説明する。第3の製造方法は、主に
図7を用いて説明する。第4の製造方法は、主に
図8を用いて説明する。
【0076】
なお、製造方法はひげぜんまい全体を形成する技術であるが、本発明の特徴である充填剤を設けた溝部を見やすくするために、ぜんまい腕部分を拡大した
図1(b)の断面図を用いて説明する。したがって、説明にあっては適宜
図1(a)も参照されたい。また、第1の材料はシリコン、第2の材料は靭性を向上させたエポキシ樹脂の例で説明する。
【0077】
[第1の製造方法の説明:
図4、
図5、
図3]
図4(a)に示すように、少なくともひげぜんまい1が取り出せる大きさの面積と厚みとを有するシリコンの基板200を準備する。ひげぜんまいの生産性を考慮に入れれば、ひげぜんまい1が多数個取り出せる大きさの基板200である方が好ましい。
【0078】
次に、
図4(b)に示すように、基板200に、ひげぜんまい1のぜんまい部2の溝部7a〜7dを形成するために、この溝部に相当する部分が開口したマスク8を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。マスク8は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク8は1μmの膜厚で形成する。
【0079】
そして、処理時間を管理しながら混合ガス(SF
6+C
4F
8)を用いて、基板200をRIE技術でドライエッチングすることにより、所定の幅と深さの溝部7a〜7dが形成される。
【0080】
その後に、マスク8のみを除去することで、
図4(c)に示す基板200を得る。このマスク8の除去は、例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して行う。
【0081】
次に、
図5(a)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(溝部は覆われている)を覆うようにマスク9を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。上述の通りこのマスク9は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク9は、例えばシリコン酸化膜である。特に限定しないが、このマスク9は、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。
【0082】
その後に、混合ガス(SF
6+C
4F
8)を用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、基板200からぜんまい腕20a〜20dを離断する。この状態では、図示はしないが、ひげぜんまい1は基板200から独立して切り出されており、ひげ玉3の貫通孔3aも貫通している。
【0083】
その後に、マスク9のみを除去することで、
図5(b)に示すようにひげぜんまい1の形状を得る。このマスク9の除去は、例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して行う。
【0084】
次に、溝部7a〜7dに充填剤6a〜6dを充填する方法について説明する。
初めにひげぜんまい1をX方向やY方向に可動できる可動台に置くなどする。その後に、
図5(c)に示すように、充填剤6a〜6dとなる、例えば液状の樹脂6が満たされたディスペンサー10を用いて、可動台を所定の方向に可動させるなどして溝部7a〜7dに適量の樹脂6を順次充填する。
【0085】
ディペンサー10がX方向やY方向に可動できる機構を有する場合は、ひげぜんまい1を稼働しない基台等に乗せて樹脂を充填させることもできる。
【0086】
その後、
図5(d)に示すように、樹脂6を硬化させて、欲する粘靱性の充填剤6a〜6dを形成する。樹脂6の硬化にあっては、用いる樹脂6によりその手法が異なるが、例えば、熱硬化型の樹脂6を用いる場合は、規定の温度と熱印加時間とにより熱硬化させればよく、紫外線硬化型の樹脂6を用いる場合は、規定の波長の紫外線と照射時間とにより硬化させればよい。
【0087】
以上説明した第1の製造方法は、ぜんまい部2のぜんまい腕を基板200から切り出した後、つまり基板200よりひげぜんまい1をエッチングにより独立させた後に樹脂6を充填する手法である。
この第1の製造方法によれば、ぜんまい部の溝部に所望の量だけ充填剤を充填できるというメリットがある。したがって、この製造方法を用いれば、
図3(a)〜
図3(e)に示すような形状に充填剤を設けることも簡単にできる。なお、
図3(d)、
図3(e)に示す形状にあっては、ぜんまい部の表面に充填剤を形成し硬化させた後に、充填剤の頭頂部を平坦に削るなどすればよい。
【0088】
また、この第1の製造方法によれば、樹脂の充填をひげぜんまいと非接触で行えるから、充填作業にかかる製造工程中に、ひげぜんまいの表面が他の物体と接触することにより生じる表面の汚染が発生しないという利点もある。
【0089】
[第2の製造方法の説明:
図5、
図6]
次に、第2の製造方法を説明する。この製造方法は、複数の溝部に同時に充填剤を充填
するものである。複数の溝部に同量の充填剤を充填できるというメリットもある。生産性を向上したい場合に適している製造方法である。なお、基板200に溝部7a〜7dを設けるまでの製造方法は、
図4を用いてすでに説明した例と同様であるから、その説明は省略する。
【0090】
この製造方法は、溝部に毛細管現象を用いて充填剤を充填させる点が特徴的部分である。
図6(a)に示すように、溝部7a〜7dを形成した基板200を、
図4(c)に示す向きと上下を反転させた状態で樹脂6を浸み込ませた布製のシート11の上に載置する。すると、樹脂6は毛細管現象によって溝部7a〜7dに充填される。
【0091】
その後、基板200をシート11より剥がし、樹脂6を前述のような手法で硬化処置を施す。これにより溝部7a〜7dには充填剤6a〜6dが充填されるが、後にぜんまい腕20a〜20dの一平面2aとなる部分にも樹脂が付着している場合がある。その付着した樹脂を除去する必要があるときは、
図6(b)に示すように、基板200の表面を研磨手段13で研磨する。
【0092】
研磨手段13は、所定の表面粗さを有する所定形状の鑢などを用いることができる。また、基板200の表面の研磨にあっては、研磨手段13による研磨に限定はしない。例えば、公知のCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学機械研磨)法を用いてもよい。
【0093】
次に、
図6(c)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(溝部は覆われている)を覆うようにマスク14を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。上述の通りこのマスク14は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。マスク14は、例えば、シリコン酸化膜であり、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。
【0094】
その後に、混合ガス(SF
6+C
4F
8)を用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。これにより、基板200からぜんまい腕20a〜20dを離断する。その後に、マスク14を例えば、基板200をフッ化水素酸を主成分とする公知のエッチング液に浸漬して除去する。
【0095】
以上の製造工程によって、
図5(d)と同等の、ぜんまい腕に設けた溝部に充填剤が充填された構成を得ることができる。
【0096】
この第2の製造方法によれば、マスク14の除去に際してひげぜんまいの表面が洗浄されるという利点もあり、万が一、それまでの製造工程でひげぜんまいの表面が汚染されていたとしても、何ら問題はない。
【0097】
[第3の製造方法の説明:
図5、
図7]
次に、第3の製造方法を説明する。この製造方法は、第2の製造方法と同様に、複数の溝部に同時に同量の充填剤を充填できるというメリットがある。なお、基板200に溝部7a〜7dを設けるまでの製造方法は、
図4を用いてすでに説明した例と同様であるから、その説明は省略する。
【0098】
この製造方法は、樹脂6を入れた槽に基板200を浸漬させることで充填剤を充填させる点が特徴的部分である。
図7(a)に示すように、溝部7a〜7dを形成した基板200を、樹脂6を入れた図
示しない槽に浸漬させ、取り出す。そうすると、樹脂6が基板200の表面全体に付着する。もちろん、溝部7a〜7dにも充填される。
【0099】
図7(a)に示す例では、基板200の全面に一様に樹脂6が付着しているように記載しているが、重要なことは樹脂6を溝部7a〜7dに充填するということであるから、他の部分に樹脂6が均一に付着していなくても構わない。
【0100】
ところで、樹脂6が入った図示しない槽から基板200を取り出すとき、
図7に示すような図中の上下方向に引き上げれば、基板200の側面は垂直面となるから、その面に付着する樹脂6を少なく(薄く)することもできる。
【0101】
その後、樹脂6を前述のような手法で硬化処置を施す。これにより溝部7a〜7dには充填剤6a〜6dが形成される。なお、ぜんまい腕20a〜20dの表面及び裏面に(基板200の側面にも)付着している樹脂6もまた硬化される。
【0102】
その後、基板200に付着した余剰な樹脂を除去する。例えば、
図7(b)に示すように、基板200の表面を研磨手段13で研磨する。
図7(b)に示す例は、2つの研磨手段13を用いて研磨する手法を図示しているが、1つの研磨手段13を用いてもよいことは無論である。また、CMP法を用いて、表面と裏面とのそれぞれを研磨してもよい。
【0103】
次に、
図7(c)に示すように、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(溝部は覆われている)を覆うようにマスク14を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。その後、混合ガスを用いて、基板200を深堀りRIE技術でドライエッチングする。
このときのマスク14は、シリコン酸化膜で、基板200の表面より2μmの膜厚となるように形成する。深堀りRIE技術に用いるガスも、混合ガス(SF
6+C
4F
8)を用いる。
【0104】
深堀りRIE技術によるドライエッチングにより、基板200よりひげぜんまい1は切り離されるので、
図7(c)に示すように基板200の側面に樹脂6が硬化した状態で存在していても、何ら問題はない。
【0105】
また、この製造方法によれば、ひげ玉3の貫通孔3aの内部にも樹脂6が入り込むが、回転軸体であるてん真の径は溝部よりも大きいため貫通孔3aの径も大きく、その内部がすべて樹脂6で埋められることはないため、多少の樹脂6が貫通孔3aの内壁に残っていても、問題はない。
【0106】
貫通孔3aの内壁に残る樹脂6を少なくすることもできる。例えば、上述のごとく樹脂6が入った槽からの基板200の引き上げる際の向きを工夫し、貫通孔3aの内壁が垂直面となるように引き上げれば、貫通孔3aの内壁に付着する樹脂6を少なくすることができる。そのような薄く残った樹脂6は、てん真を貫通孔3aに挿入する際に剥がれ落ちる。
【0107】
また、貫通孔3aの内壁に意図的に樹脂6を残留させてもよい。例えば、粘度の高い樹脂を用いる。そうすれば、てん真とひげ玉3との間に樹脂6が介在することになる。その樹脂が粘靱性が高ければ、クッション材とすることができる。ひげ玉3にてん真を挿入するときに粘靱性の高い樹脂6が力を緩和し、ひげ玉3の破壊を防止することもできる。
【0108】
もちろん、貫通孔3aの内壁に樹脂6を付着させないようにすることもできる。例えば、樹脂6を紫外線硬化型の樹脂とし、硬化の際に貫通孔3aの部分のみを遮光すれば硬化
が起こらず、樹脂6を簡単に除去できる。
【0109】
以上の製造工程によって、
図5(d)と同等の、ぜんまい腕に設けた溝部に充填剤が充填された構成を得ることができる。
【0110】
この第3の製造方法も、マスク14の除去に際してひげぜんまいの表面が洗浄されるという利点がある。
【0111】
[第4の製造方法の説明:
図8]
次に、第4の製造方法を説明する。この製造方法は、第2及び第3の製造方法と同様に、複数の溝部に同時に同量の充填剤を充填できるというメリットがある。なお、基板200に溝部7a〜7dを設け、基板200の全面に樹脂6を形成するまでの製造方法は、
図4及び
図7(a)を用いてすでに説明した例と同様であるから、その説明は省略する。
【0112】
この製造方法は、フォトレジストをマスクにして深堀りRIE技術を行う点が特徴的部分である。
図8(a)に示すように、すでに説明した製造方法を用いて、溝部7a〜7dを形成した基板200の全面に樹脂6を形成する。このとき、後の製造工程によりひげぜんまい1の一平面2aとなる面2a´の上部の樹脂6の膜厚が「t」となるようにする。「t」は、例えば1μmである。その後、樹脂6を前述のような手法で硬化処置を施す。
【0113】
次に、基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅に相当する部分(溝部は覆われている)を覆うようにフォトレジストマスク16を知られているフォトリソグラフィ技術で形成する。このとき、その膜厚が「2t」となるようにする。つまり、樹脂6の膜厚「t」の2倍である。例えば、2μmである。フォトレジストマスク16は、半導体装置を製造する際に用いる公知のフォトレジストを用いることができる。
【0114】
次に、
図8(b)に示すように、フォトレジストマスク16をマスクにして、混合ガス(O
2+CF
4)を用いて、基板200の表面(一平面2a´のある面)の樹脂6のみ除去する。
【0115】
この混合ガスによる樹脂6のエッチングにより、フォトレジストマスク16の表面もエッチングされ、膜減りを起こす。
図8(b)においては膜減りしたフォトレジストマスクは16aという番号を付与している。そして、そのとき残った膜厚は「t」であり、樹脂6と同じ膜厚であり、例えば、1μmである。
【0116】
後述する製造工程により、基板200よりひげぜんまい1を深堀りRIE技術により切り離すのであるが、その際に、基板200の裏面に樹脂6が存在するとこの樹脂6がエッチングされず、正常に切り離しができない。そこで
図8(c)に示すように、基板200の裏面を研磨手段13で研磨して樹脂6を除去する。この基板200の裏面の樹脂の除去は、CMP技術を用いてもよい。
【0117】
次に、樹脂6(充填剤6a〜6d)とフォトレジストマスク16aとをマスクとして、深堀りRIE技術で基板200をドライエッチングする。深堀りRIE技術に用いるガスは、すでに説明したものと同じ混合ガス(SF
6+C
4F
8)を用いる。
【0118】
深堀りRIE技術によるドライエッチングにより、フォトレジストマスク16aは無くなり、基板200よりひげぜんまい1は切り離されるので、
図8(d)に示すような形状になる。この形状は、
図3(d)に示す形状と同じである。
【0119】
その後、
図1に示すような溝部のみに充填剤が埋め込まれた形状にするには、公知のドライエッチング技術を用いてひげぜんまい1の表面(一平面2a)をドライエッチングすればよい。その際は、O
2(酸素)プラズマを用いた異方性のドライエッチングを用いれば、ひげぜんまい1の一平面2aにある充填剤を図中上下方向に垂直に除去するため、溝部のみ充填剤を残すことができる。
【0120】
以上説明した第4の製造方法は、基板200に対して深堀りRIE技術によるドライエッチングでのひげぜんまい1の切り離しに際して、そのエッチングガスである混合ガス(SF
6+C
4F
8)に対して、樹脂系のフォトレジストであるフォトレジストマスク16及び樹脂6が耐性を保つような膜厚「t」を有するようにする点が重要である。
【0121】
つまり、シリコンを主成分とする基板200の深堀りRIE技術によるドライエッチングに対して選択性の高い樹脂系の膜をマスクとして用い、そのマスクの膜厚「t」を、シリコンを主成分とする基板200が貫通エッチングされるまで耐える膜厚とすることが重要である。
【0122】
このようなことから、基板200の厚さや使用する混合ガスの種類によって、この膜厚「t」は自由に選択することができる。