(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の非水系顔料インク(以下、単にインクともいう)は、顔料と、非水系溶剤と、非水溶性樹脂と、水溶性樹脂とを含むものである。
非水溶性樹脂は、少なくとも炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(A)と、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有するモノマー(B)とを含むモノマー混合物の共重合体からなるアクリル系ポリマーである。
【0016】
官能基としてこの炭素数8〜18のアルキル基を含んだ非水溶性樹脂は後述する非水系溶剤の石油系炭化水素溶剤と相溶性が高く、これによって非水系溶剤に溶解した状態となり、インクの粘度を低くすることができる。もう一方の官能基であるβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基は顔料への吸着性が高く、これによって顔料分散性が向上し、インクの粘度を低くすることができる。これらの官能基を含むことによりインクの粘度を下げることができるため、低温適性をより向上させることができる。さらに、低粘度で低温適性に優れるため、記録媒体に着弾する際のインクの静電的な凝集、定着にも寄与し、結果的に印刷濃度を向上させ、裏抜けの抑制を実現することができる。
【0017】
アルキル(メタ)アクリレート(A)のアルキル基の炭素数が19以上になると低温で非水溶性樹脂が固化しやすくなり低温適性が悪くなる。一方で、炭素数が7以下の場合には、石油系炭化水素溶剤との相溶性が下がって、顔料を安定的に分散することができないので貯蔵安定性が悪くなり、インクの粘度も高くなってしまう。また、低温環境ではインク粘度がさらに高くなってしまうこととなり低温適性が悪くなる。より望ましくは、炭素数12〜18のアルキル基で構成されることが好ましい。
【0018】
官能基を構成する炭素数8〜18のアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは複数種が含まれていてもよい。
【0019】
官能基を構成するβ−ジケトン基としては、たとえば好ましい例としてアセトアセチル基、プロピオンアセチル基等が挙げられ、β−ケト酸エステル基としては、たとえば好ましい例としてアセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等が挙げられる。
【0020】
アクリル系ポリマーの分子量(質量平均分子量)は、特に限定されないが、インクジェット用インクとして用いる場合には、インクの吐出性の観点から5000〜50000程度であることが好ましく、10000〜30000程度であることがより好ましい。
アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、23℃以下であることが好ましく、さらには0℃以下であることがより好ましい。これにより、インクが記録媒体上で定着する際に成膜を促進させることができる。
【0021】
アルキル(メタ)アクリレート(A)は、炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートであり、モノマー(B)とともにアクリル系ポリマーの主鎖を形成し、アルキル基は主鎖の官能基を構成する。アルキル(メタ)アクリレート(A)としては、例えば、パルミチルメタクリレート(アルキル基の炭素数16、以下同じ)、ステアリルメタクリレート(18)、セチルアクリレート(16)、ドデシルメタクリレート(12)、ドデシルアクリレート(12)、2−エチルヘキシルメタクリレート(8)、2−エチルヘキシルアクリレート(8)を好ましく挙げることができる。これらは、単独でも適宜混合しても用いることができる。
【0022】
モノマー(B)はβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有する(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリルアミドであり、アルキル(メタ)アクリレート(A)とともにアクリル系ポリマーの主鎖を形成し、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基が主鎖の官能基を構成する。
【0023】
モノマー(B)としては、たとえば、エステル鎖にβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を含む(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドが好ましい例として挙げられる。より詳細には、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、ヘキサジオン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を併用することができる。
【0024】
上記モノマー混合物(アルキル(メタ)アクリレート(A)とモノマー(B))において、アルキル(メタ)アクリレート(A)は30質量%以上含まれていることが好ましく、40〜95質量%であることがより好ましく、50〜90質量%であることが一層好ましい。モノマー(B)は3〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。
【0025】
上記の各モノマーは、公知のラジカル共重合により、容易に重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。この場合、重合後のアクリル系ポリマーの分子量を上記の好ましい範囲とするために、重合時に連鎖移動剤を併用することが有効である。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が用いられる。
【0026】
重合開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等のアゾ化合物、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチルO、日油(株)製)等の過酸化物など、公知の熱重合開始剤を使用することができる。その他にも、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤を用いることができる。溶液重合に用いる重合溶媒には、たとえば石油系溶剤(アロマフリー(AF)系)などを使用できる。この重合溶媒は、そのままインクの非水系溶剤として使用できる溶媒(後述)のなかから1種以上を選択することが好ましい。重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
【0027】
本発明のアクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート(A)とモノマー(B)とが構成するアクリル系ポリマーの主鎖に対してウレタン基を側鎖として有する櫛形構造であってもよい。ウレタン基部は顔料への吸着性が高く、これによって顔料分散性がさら向上し、インクの粘度を低くすることができるとともに貯蔵安定性を向上させることができる。また、本発明のアクリル系ポリマーは、アルキル(メタ)アクリレート(A)とモノマー(B)以外のモノマーを、アクリル系ポリマーの主鎖を構成するモノマーとして含んでいてもよい。
【0028】
アクリル系ポリマーのインク全量に対する含有量は、顔料分散性を確保する観点から0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。一方、アクリル系ポリマーの含有量が高すぎると、インクの粘度が高くなるばかりでなく、高温環境下での保存安定性が悪くなる恐れがあるため、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。すなわち、インク全量に対するアクリル系ポリマーの含有量は、1〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%であることがより好ましい。
【0029】
アクリル系ポリマーの顔料に対する含有量は、貯蔵安定性を確保する観点から顔料に対する質量比で0.1から1.0であることが好ましい。アクリル系ポリマーの顔料に対する含有量が、顔料に対する質量比で0.1未満と少なすぎる場合も、1.0超と多すぎる場合も、貯蔵安定性が確保されにくくなる。
【0030】
アクリル系ポリマーの水溶性樹脂に対する含有量は、質量比で0.1〜20であることが好ましく、0.4〜10であることがより好ましい。アクリル系ポリマーの含有量が、水溶性樹脂に対する質量比で0.1未満と少ない場合も、20超と多い場合も、貯蔵安定性が確保されにくくなる。
【0031】
顔料の質量に対する樹脂の質量(アクリル系ポリマーおよび水溶性樹脂の総量)は、顔料の質量を1として、顔料分散性の効果を確保する観点から0.11以上であることが好ましく、インク粘度の向上と経時変化による吐出不良をより回避する観点から1.5以下であることが好ましい。
【0032】
水溶性樹脂は1分子中に1級および/または2級アミノ基を2個以上含むものである。インクはこの水溶性樹脂のアミノ基と炭酸ガスとの中和塩をさらに含むものである。経時によるインクの臭気は水溶性樹脂のアミノ基に起因すると考えられるが、水溶性樹脂がアミノ基を有していないと、後述するようにアクリル系ポリマーと相互作用しないために低温適性や分散安定性が得られるインクとすることができない。従って、後述するように中和塩は、顔料を非水系樹脂と水溶性樹脂とで分散した後に炭酸ガス処理により中和して形成する。アミノ基は臭気を発生しない程度に中和塩となっている必要がある。臭気はインクの使用環境や感じ方にもよるため、中和の程度は一概には言えないが、目安としてはインクに含まれる50%以上のアミノ基が中和されていることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらには70%以上、望ましくは80%以上である。
【0033】
水溶性樹脂の含有量は、顔料に対する質量比で0.01〜0.5であることが好ましく、0.05〜0.3であることがより好ましく、0.1〜0.2であることが最も好ましい。
インク総量に対して、水溶性樹脂は、0.1〜5質量%程度含まれていることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることが一層好ましい。
【0034】
水溶性樹脂としては、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン等の塩基性高分子電解質またはそれらの誘導体を挙げることができ、特に、ポリエチレンイミンが好ましい。ポリエチレンイミンの質量平均分子量は200〜2000であることが好ましい。
【0035】
ポリエチレンイミンの質量平均分子量が200未満であると普通紙に対する高濃度化の効果が低くなることがあり、2000を超えると保存環境下にもよるが貯蔵安定性が悪くなることがある。ポリエチレンイミンの質量平均分子量は、高濃度化の効果が大きく、かつ、流動点が−5℃以下であって低温時の保存安定性が良好であることから、300〜1800であることがより好ましい。
【0036】
ポリエチレンイミンは、市販のものを用いることが可能であり、たとえば、エポミンSP−003、エポミンSP−006、エポミンSP−012、エポミンSP−018、エポミンSP−200(いずれも株式会社日本触媒製);Lupasol FG、Lupasol G20 Waterfree、Lupasol PR8515(いずれもBASF社製)等を好ましく挙げることができる。
【0037】
ウレタン基のような顔料吸着能の高い官能基を有していないアクリル系ポリマーであっても、β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有するアクリル系ポリマーと水溶性樹脂との併用で、強力な顔料吸着能力を得ることができる。非水溶性樹脂のβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基と、水溶性樹脂の極性基と、顔料が相互作用することにより、顔料分散を安定化させることができるものと推測される。β−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基と水溶性樹脂の極性基と顔料との相互作用により、非水溶性樹脂の顔料からの脱離が抑制されるので、使用する非水溶性樹脂の量をさらに減らすことが可能となり、結果として顔料分散安定性を確保しながら粘度を低く抑えることが可能となり、より低温適性に優れたものとすることができる。
【0038】
また、ウレタン基を側鎖として有する櫛形構造のアクリル系ポリマーはウレタン基によって顔料吸着能は高くなるが、ウレタン基の質量比率が高くなると溶剤との相溶性が悪くなり、顔料の吸着率が低下し、遊離の非水溶性樹脂が増えてしまい、インク粘度が増加する。しかし、ウレタン基を側鎖として有する櫛形構造のアクリル系ポリマーが、さらにβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を有している場合、水溶性樹脂を併用することで、顔料との相互作用を高めることができ、遊離の非水溶性樹脂を低減することが可能となり、インク粘度を低くすることが可能となる。
【0039】
さらに、アクリル系ポリマーの炭素数8〜18のアルキル基によって、非水系溶剤の石油系炭化水素溶剤との親和性が向上し溶剤に対する溶解性は確保されるが、非水系溶剤と顔料との親和性が高すぎると、非水系溶剤が記録媒体に浸透する際に顔料も記録媒体内部に引き込まれやすい傾向がある。しかし、アクリル系ポリマーと水溶性樹脂とを組み合わせることによって、アクリル系ポリマー量を抑えても顔料分散安定性が確保されるので、アクリル系ポリマーの量を減らすことが可能となり、顔料の浸透は抑制される。その結果として、裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することができる。
【0040】
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0041】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系の溶剤が挙げられる。例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる。テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、ナフテゾールL、ナフテゾールM、ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、アイソゾール300、アイソゾール400、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、及びAFソルベント7号(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD80、エクソールD100、エクソールD130、及びエクソールD140(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)。芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製)、ソルベッソ200(東燃ゼネラル石油株式会社製)等が挙げられる。
【0042】
インクの低粘度化の観点で言えば、石油系炭化水素溶剤を使用することが好ましい。石油系炭化水素溶剤の含有量は、インク溶剤全質量に対して20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、さらには80質量%以上が好ましい。石油系炭化水素溶剤の含有量が溶剤全量に対して50質量%未満の場合、使用環境下にもよるがインクの低粘度化が充分に得られないことがある。
【0043】
石油系炭化水素溶剤の含有量がインク溶剤全量に対して50質量%以上の場合、インク粘度のさらなる低粘度化と、貯蔵安定性のさらなる改善の効果を得ることができる。石油系炭化水素溶剤の含有量がインク溶剤全量に対して50質量%以上となると、水溶性樹脂および非水溶性樹脂はインク溶剤中にはほとんど遊離することなく、顔料近傍に集まり、顔料表面に強固に吸着するようになる。このため、溶剤自体の低粘度化だけでなく、溶剤中の遊離樹脂量を低減できることでの低粘度化の効果を得ることが可能となるとともに、顔料の分散安定性をより向上させることが可能となるものと推測される。
【0044】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等の、1分子中の炭素数が14以上のエステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等の、1分子中の炭素数が8以上の高級アルコール系溶剤;イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の、1分子中の炭素数が9以上の高級脂肪酸系溶剤、等が挙げられる。
【0045】
顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。無機顔料としては、代表的にはカーボンブラック及び酸化チタン等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0046】
インク中の顔料の含有量は、通常0.01〜20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から1〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることが一層好ましい。
【0047】
上記各成分に加えて、本発明のインクには慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0048】
インクの粘度は、インクジェット記録システム用の場合、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用として適している。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0049】
本発明のインクは、顔料と非水溶性樹脂と非水系溶剤と水溶性樹脂とを混合し、ボールミル、ビーズミル等の任意の分散手段を用いて顔料を分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。なお、水溶性樹脂としてポリエチレンイミンを用いる場合、ポリエチレンイミンは汎用の非水系溶剤には、微溶もしくは難溶であることが多い。そのため、ビーズミルのようなシェアをかけることのできる装置を用い、シェアのかかった状態で混合させることが望ましい。使用する非水系溶剤に水溶性樹脂が可溶である場合は、このようなシェアは不要であるが、撹拌下で混合させることが好ましい。
【0050】
調整後のインクに対して水溶性樹脂のアミノ基と反応させるために炭酸ガスを添加する。この処理によってインクはアミノ基と炭酸ガスとの中和塩をさらに含むものとなる。炭酸ガスはインクの他の性状、例えば顔料分散性や印刷濃度等に影響を与えない範囲において他のガス、例えば空気や窒素を含んでいてもよい。炭酸ガスの添加量はインクに含まれる水溶性樹脂の含有量にもよるため一概には言えないが、アミノ基のモル比に対して10倍モル以上、好ましくは20倍モル以上、さらには30倍モル以上の量の炭酸ガスを添加することが好ましい。なお、ここでは調整後のインクに対して炭酸ガスを添加して中和する場合について説明をしたが、顔料を非水溶性樹脂と水溶性樹脂とで分散した後であれば、例えばインク粘度を調整するための希釈前であってもかまわない。
【0051】
以下に本発明の非水系インクジェットインクの実施例を示す。
【実施例】
【0052】
(樹脂溶液a〜cの合成)
四つ口フラスコに、エクソールD110(ナフテン系溶剤;東燃ゼネラル石油(株)製)36.6質量部を仕込み、窒素ガスを通気し攪拌しながら、110℃まで昇温した。次いで、温度を110℃に保ちながら表1に示す各単量体混合物にエクソールD110 8.2質量部、パーブチル O(t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート;日油(株)製)1.0質量部の混合物を3時間かけて滴下した。その後、110℃に保ちながら1時間後および2時間後に、パーブチルOを各々0.1質量部添加した。さらに110℃で1時間熟成を行い、エクソールD110 5.2質量部で希釈して、不揮発分50%の無色透明の樹脂溶液a〜cを得た。得られた各樹脂溶液の質量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレン換算)は、20000〜23000であった。
【0053】
【表1】
【0054】
(インクの調製)
表2に示す配合で非水系樹脂、水溶性樹脂、分散時希釈剤を混合し、ジルコニアビーズ(直径0.5mm)を入れて、ビーズミル(ロッキングミルRMO5S型、(株)セイワ技研製)により120分間分散した。分散後ジルコニアビーズを除去し、粘度調整用溶剤で希釈してから、3μmおよび0.8μmのメンブランフィルターで順に濾過してゴミおよび粗大粒子を取り除いて炭酸ガス処理前の実施例のインクを得た。同様にして、表3に示す配合で、比較例のインクを得た。なお比較例5では分散前にオレイン酸を添加した。
【0055】
インクの調整後、実施例のインクについては、1Lのガラス瓶に調整したインク500gを入れ、内径4mmホースをガラス瓶に差し込み、底部から炭酸ガスを発生させた。炭酸ガスは、流量1L/minで120分間発生させた(炭酸ガスとしては合計120L=約236g=約5.4mol)。 例えば実施例1のインクの場合、インク500g中の水溶性樹脂量は7.5gで、1〜3級アミノ基合計は約2.5g=約0.17molであり、添加した炭酸ガスはアミノ基に対してモル比で30倍超、実施例7のインクの場合は、500g中の水溶性樹脂量は22.5gで、1〜3級アミノ基合計は約7.5g=約0.5molであり、モル比で約10倍超であった。
【0056】
得られたインクについて、インクの粘度を測定した。インクの粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける粘度であり、ハーケ社製応力制御式レオメータRS300(コーン角度1°、直径60mm)で測定した。
【0057】
(評価方法)
(印刷濃度)
得られたインクをオルフィスX9050(理想科学工業(株)製)に装填し、普通紙(理想用紙薄口、理想科学工業(株)製)に印刷したベタ画像の表面と裏面のOD値を、光学濃度計(RD920、マクベス社製)を用いて測定し、以下の基準で評価した。表面のOD値が高ければ画像濃度が高く、裏面のOD値が低ければ裏抜けが少ないことを示している。
印刷濃度(表OD)
A:1.15以上
B:1.10以上1.15未満
C:1.10未満
印刷濃度(裏OD)
A:0.20未満
B:0.20以上0.25未満
C:0.25以上
【0058】
(インクの貯蔵安定性(70℃))
各インクを密閉容器に入れて、70℃の環境下で3ヶ月保存し、その後インクの粘度変化を測定し、その測定結果を以下のように評価した。放置後の粘度は上記の方法で測定した。
粘度変化率:
[(3ヶ月後の粘度×100)/(粘度の初期値)]−100(%)
A:粘度変化率が5%未満
B:粘度変化率が5%以上10%未満
C:粘度変化率が10%以上
【0059】
(低温適性)
得られたインクを−5℃で3ヶ月放置した後、−5℃でのインク粘度を測定し、以下の基準で評価した。
A:50mPa・s未満
B:50mPa・s以上100mPa・s未満
C:100mPa・s以上
【0060】
(吐出安定性)
インクを70℃の環境に密閉状態で1ヶ月保存した後、オルフィスX9050を用いてベタ画像をA4サイズの普通紙100枚に連続印刷し、その画像を目視により確認し、以下の基準で評価した。
A:均一なベタ画像
B:初期は均一なベタ画像が得られるが、数十枚印刷すると画像に乱れが生じる
C:初期から画像に乱れが生じる
【0061】
(サテライト)
オルフィスX9050を用いて普通紙に印刷し、以下の基準で評価した。
A:非画像部の汚れはほとんど確認できない
B:非画像部の汚れはわずかに確認できる
C:非画像部の汚れが顕著である
【0062】
(臭気)
インクを23℃の環境に密閉状態で1週間保存した後、臭気を以下の基準で評価した。
A:不快臭がない
B:不快臭がわずかにある
C:不快臭が強い
以上の評価結果を、インクの処方とともに表2および3に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
表2から明らかなように、実施例1〜7のインクはいずれも、インクジェットインクとしての適正範囲の粘度を備えたものであり、低温適性、貯蔵安定性に優れていながら、裏抜けを抑制しながら高い印刷濃度を実現でき、また、炭酸ガス処理によってアミノ基が中和塩となっていることでインクの臭気が抑制されていることがわかる。一方、表3に示すように比較例1〜4のインクは炭酸ガス処理をしていないためにインクの臭気が抑制できなかった。比較例5のインクはオレイン酸を用いてアミノ基の中和を試みたものであるが、この場合には臭気抑制効果が炭酸ガス処理に比べて低く、また印刷濃度や裏抜けが発生した。このことから印刷濃度や裏抜け等に影響を与えることなく、効果的な臭気抑制を図るためには、炭酸ガスとの中和塩であることが有効であることがわかる。
【0066】
実施例6では顔料に対する樹脂量が少ないために顔料分散安定性が他の実施例よりも若干低下し、一方で実施例7は顔料に対する樹脂量が多いために低温適性や吐出安定性等が他の実施例よりも若干低下した。なお、実施例7では、他の実施例のインクに比べるとアミノ基の総量が多いために臭気の抑制効果が若干低くなった。
【0067】
以上のように、本発明の非水系顔料インクは、経時による臭気を抑制することができ、低温適性と顔料分散安定性を確保しながら、同時に裏抜けを抑制することができ、高い印刷濃度を実現することができるので、インクジェットインクとして好適に使用することができる。また、本発明の非水系顔料インクは、低温環境においてもインク粘度が低く抑えられているため、特にウォームアップに時間や電力を要する循環方式のインクジェット記録装置に好適に使用することができる。