【文献】
International Review of Neurobiology,2009年,Vol.87,p.295-315
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脱髄疾患が、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはHTLV関連脊髄症である、請求項1記載の薬学的組成物。
脱髄疾患が、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、視神経炎、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、急性播種性脳脊髄炎、またはHTLV関連脊髄症である、請求項4〜6のいずれか一項記載の薬学的組成物。
免疫調節性物質が、フィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブである、請求項3〜8のいずれか一項記載の薬学的組成物。
ムスカリン受容体アンタゴニストが治療的有効用量として製剤化され、かつ免疫調節性物質が治療量未満の用量(subtherapeutic dose)として製剤化されている、請求項3〜9のいずれか一項記載の薬学的組成物。
脱髄疾患が、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはHTLV関連脊髄症から選択される、請求項16記載の薬学的組成物。
脱髄疾患が、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、視神経炎、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、急性播種性脳脊髄炎、およびHTLV関連脊髄症から選択される、請求項18記載の薬学的組成物。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】神経伝達物質受容体調節物質はOPC分化を用量依存的に誘導する。(A)同定された代表的なOPC分化分子の化学構造。EC
50算出値は、適切なGraphpad Prism 5.0カーブフィッティング用ソフトウエアを用いて決定した。(B)化合物により誘導される用量依存的なOPC分化。OPCを、384ウェルプレート中に、基本(basal)PDGF-αα(2ng/mL)を含有するOPC用培地中にて1ウェル当たり細胞1000個でプレーティングして、化合物の段階希釈物で処置した。6日間の化合物処置の後に細胞を固定して、抗ミエリン塩基性タンパク質(MBP)抗体を用いる免疫蛍光分析に供した。MBP染色の画像収集および定量化は、OPERA画像化システムを用いて行った。(C)DMSO対照と比較した、同定された化合物の最大OPC分化誘導活性。
【
図2】神経伝達物質受容体調節物質はミエリン形成オリゴデンドロサイト細胞運命へのOPCの分化を誘導する。(A)EC
90濃度の化合物で6日間処置したOPCのウエスタンブロット分析。全タンパク質を細胞ペレットから単離し、特異的抗体を用いてミエリン塩基性タンパク質(MBP)およびミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に関してプローブ探索した。(B〜C)EC
90濃度の化合物で6日間処置したOPCの定量的RT-PCR(qRT-PCR)分析。全RNAを細胞ペレットから単離して、逆転写を行った。MBPおよびMOGの発現を、特異的プローブ、およびTaqmanを利用したqRT-PCRを用いて定量した。発現は内部対照であるβ-アクチンおよびGAPDHに対して標準化した。DMSOで処置した対照細胞と比べた遺伝子発現の倍率変化値を、MBP(B)およびMOG(C)についてプロットした。結果は、平均+/-標準偏差、n=3として表示されている。
【
図3】化合物で処置したOPCの、成熟オリゴデンドロサイト特異的マーカーを用いた免疫蛍光分析。MBP、MOGおよび2',3'-サイクリックヌクレオチド3'ホスホジエステラーゼ(CNP)に対する特異的抗体を用いた免疫蛍光染色。核はDAPIを用いて同定した。EC
90濃度でのOPCの6日間の化合物処置により、成熟オリゴデンドロサイトマーカーの強い発現が誘導される。
【
図4】化合物で処置したOPCの、成熟オリゴデンドロサイト特異的マーカーを用いた免疫蛍光分析。ガラクトセレブロシド(GalC)、オリゴデンドロサイトマーカーO1(O1)およびオリゴデンドロサイトマーカーO4(O4)に対する特異的抗体を用いた免疫蛍光染色。核はDAPIを用いて同定した。EC
90濃度でのOPCの6日間の化合物処置により、成熟オリゴデンドロサイトマーカーの強い発現が誘導される。
【
図5】代表的な神経伝達物質受容体調節物質であるベンザトロピン(benzatropine)およびトリフルオペラジンは、PLP誘発性再発性EAEのマウスモデルにおける症状を改善する。SJLマウスに対してプロテオリピドペプチド(PLP)および百日咳毒素による免疫処置を行い、毎日モニターして、標準的な臨床的EAEスケール(0〜5)によるスコア化を行った。化合物は、臨床的EAE症状の出現日(第10日)から開始して、生理食塩水中10mg/kgでの腹腔内注射(0.1ml)により、試験期間にわたって毎日投与した。無菌生理食塩水(pH 5)中20mg/kgという至適量未満の用量のミコフェノール酸モフェチルを、PLP注射後の臨床的EAE症状のピーク日(第14日)から開始して、ベンザトロピンおよびトリフルオペラジンのそれぞれと組み合わせて投与した。平均臨床的EAEスコアおよび平均の標準誤差(SEM)を、各試験群について示している。媒体対照群におけるマウス、n=6(
図5A〜E、白四角)は、EAE症状の急性期(平均最大臨床的EAEスコアは第11日に2±0.8)、それに続く寛解(平均最大臨床的EAEスコアは第19日に0.3±0.3)および再発(平均最大臨床的EAEスコアは第25日に1.5±0.4)の出現を示している。ミコフェノール酸モフェチル、n=6(
図5Aの黒四角)は、再発の重症度の部分的低下を示す(平均最大EAEスコアは第25日に0.7±0.3、p値<0.05)。ベンザトロピン、n=5(
図5Bの黒四角)およびトリフルオペラジン、n=6(
図5Dの黒四角)は、再発の重症度の有意な低下を示す(平均最大臨床的EAEスコアはそれぞれ0.2±0.2(第25日)および0.4±0.4(第26日)、p値<0.001)。ベンザトロピンおよびトリフルオペラジンの、ミコフェノール酸モフェチルとの組み合わせ、n=6は、いずれに関しても(それぞれ
図5Cおよび
図5Eの黒四角)、再発の完全な抑制を示している(平均最大臨床的EAEスコアは第25日でいずれについても0±0、p値<0.001)。
【
図6】ムスカリン受容体の拮抗作用は、OPC分化を誘導するが、同定されたすべての分化誘導物質の唯一の薬理学的機序ではない。(A)ムスカリン受容体アゴニストカルバコールは、場合によっては、化合物により誘導されるOPC分化に拮抗する。OPCを384ウェルプレートに、化合物をEC
90濃度で含む培地中にて1ウェル当たり1000個でプレーティングし、カルバコールの1:3段階希釈物で処置した。6日間の処置後に、細胞を固定して、MBPに関して染色した。OPERAハイコンテンツスクリーニングシステムを用いてプレートを画像化し、MBP染色を記載の通りに定量した。カルバコール処置により、ベンザトロピン、カルバペンタン(carbapentane)およびクレマスチンの分化活性の用量依存的な阻害がもたらされるが、サルメテロール、GBR12935およびトリフルオペラジンの分化活性に対する影響は観察されない。(B)カルバコールにより誘導されるカルシウム(Ca
2+)流入は、いくつかの化合物のムスカリン受容体拮抗活性によって遮断される。OPCを、384ウェルプレートに、基本PDGF-ααを含有する培地中にて1ウェル当たり細胞5000個でプレーティングした。細胞をHBSS中のCa
2+感受性Fluo-3AM(登録商標)色素で30分間にわたり平衡化した。複数濃度のOPC分化誘導化合物(EC
90の3倍、EC
90およびEC
50)を添加し、その後にムスカリン受容体アゴニストカルバコールの1:3段階希釈物を添加した。FLIPR TETRA(登録商標)システムを用いてCa
2+流入を直ちに測定した。示されているのは、100uMでのカルバコール処置およびEC
90での化合物処置に関する代表的データである。Ca
2+流入を示す相対光単位(RLU)をy軸にプロットし、カルバコールの添加後の時間(秒単位)をx軸にプロットしている。GBR12935、トリフルオペラジンおよびサルメテロール(上)は、カルバコールにより誘導されるCa
2+流入に対して何ら影響を示さず、一方、クレマスチン、ベンザトロピンおよびカルバペンタン(下)は、カルバコールによって誘導されるCa
2+流入を阻害する。
【
図7】ハイスループットスクリーニングにより、ムスカリン受容体アンタゴニストベンズトロピンがOPC分化の誘導物質として同定された。(A)ベンズトロピン[1.5uM]および陽性対照甲状腺ホルモン[1uM]で処置したラットOPCを、基本的分化条件(2ng/ml PDGF)下で6日間培養し、MBPに関して染色した(緑色)。ベンズトロピンの構造も示している。(B)ベンズトロピン[1.5uM]で処置したOPCを、6日間の培養後に、qRT-PCRを用いて、MBPおよびMOGの発現に関して分析した。(C)OPCを、基本的分化条件下で6日間、ベンズトロピン[2.3uM]およびカルバコール[0uM、0.6uMおよび4.7uM]で共処置し、MBPに関して染色した。
【
図8】ベンズトロピンは、MSのPLP誘発性EAEモデルにおいて疾患の臨床的重症度を低下させる。(A)ベンズトロピンは、予防的(PLP注射日から開始)ならびに治療的(EAE症状の開始時)に投薬した場合に、PLP誘発性EAEモデルにおける疾患の臨床的重症度を低下させ、FTY720(1mg/kg)およびインターフェロンβ(10,000U/マウス)と同等の有効性を示した。(B)ベンズトロピンで処置してGST-π(成熟オリゴデンドロサイトのマーカー)およびNG2(OPCのマーカー)に対する特異的抗体で染色したEAEマウス由来の脊髄切片の共焦点画像の定量により、媒体処置マウスと比較してGST-π陽性細胞の増加が示されたが、NG2陽性細胞の数には変化がなかった。(C)ベンズトロピンで処置してGST-π(成熟オリゴデンドロサイト)およびNG2(OPC)に対する特異的抗体で染色したEAEマウス由来の脊髄切片の代表的な共焦点画像。
【
図9】ベンズトロピン処置は、クプリゾンモデルにおいてインビボで再ミエリン化を誘導する。(A)さまざまな時点での脳の脳梁領域の代表的な画像は、クプリゾン投薬中止および薬物投与の開始から2週後の、媒体処置マウスと比較してベンザトロピン処置マウスで観察された再ミエリン化の増加を示している。(B)脳梁領域におけるミエリン化された面積の定量は、薬物処置の2週後の、媒体対照と比較してベンズトロピン処置マウスにおけるミエリン染色の有意な(ほぼ2倍)増加を示している。データは、記載した通りのグレースケール(0〜50)での閾値値域(threshold bin)に関して表した。エラーバーは、少なくとも6つの脳梁領域の標準偏差を表している。
【
図10】ベンズトロピンとの組み合わせは、有効性を向上させ、FTY720およびインターフェロンβの用量の減少を可能にする。(A)FTY720(1mg/kg)をベンズトロピン(BA;2.5mg/kg)と組み合わせて処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、FTY720(1mg/kg)またはベンズトロピン(2.5mg/kg)単独で処置したマウスと比較して有意に低下した臨床的重症度を示している。(B)インターフェロンβ(IFN;10,000U/マウス)をベンズトロピン(BA、2.5mg/kg)と組み合わせて処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、インターフェロンγ(IFN;10,000U/マウス)またはベンズトロピン(2.5mg/kg)単独で処置したマウスと比較して有意に低下した臨床的重症度を示している。(C)FTY720(0.1mg/kg)またはFTY720(0.1mg/kg)またはベンズトロピン(BA;2.5mg/kg)で処置したマウスに関する臨床的EAEスコア。(D)インターフェロンβ(IFN;3000U/マウス)またはインターフェロンβ(IFN;10,000U/マウス)またはベンズトロピン(BA;2.5mg/kg)で処置したマウスに関する臨床的EAEスコア。(E)FTY720(0.1mg/kg)をベンズトロピン(BA;2.5mg/kg)と組み合わせて処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、FTY720(1mg/kg)と比較して臨床的重症度スコアの同等な減少を示しており、このことはFTY720の用量の減少を促す。(F)インターフェロンβ(IFN;3000U/マウス)をベンズトロピン(BA;2.5mg/kg)と組み合わせて処置したマウスに関する臨床的EAEスコアでは、インターフェロンβ(IFN;10,000U/マウス)と同等な臨床的重症度スコアの減少が認められない。エラーバーは、マウス8匹ずつの各群内での平均の標準偏差を示している。
【
図11】OPC分化の誘導物質を同定するためのスクリーニング。(A)OPCを基本的成長条件下(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸、L-グルタミン、30ng/ml PDGF)で増殖性A2B5陽性細胞として維持した。OPCを基本的分化培地(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2ng/ml PDGF)中にプレーティングして、DMSO(0.1%未満)または甲状腺ホルモン(1uM)で処置し、6日間の培養後に固定して、CNP、O4またはMBPに対する抗体を用いて染色した。A2B5陽性OPCは、PDGFの投薬を中止すると、CNPおよびO4を発現するがMBPは発現しない未熟オリゴデンドロサイトに分化する。甲状腺ホルモンの添加により、OPCの、MBPを発現する成熟オリゴデンドロサイトへの分化が誘導される。(B)OPCの、MBPを発現する成熟オリゴデンドロサイトへの分化を誘導する低分子を同定するための、基本的分化条件下で培養して化合物で6日間処置したA2B5陽性OPCを用いるスクリーニング戦略。
【
図12】一次ヒットの確認。(A)一次スクリーニングヒットを確認するため、および効力(EC
50)を決定するために用いた用量反応アッセイ。(EC
50)は、免疫染色による検出で、MBPを発現する全細胞のパーセンテージでの最大増加の半分の値をもたらす濃度と定義される。OPCを分化培地中で培養し、ベンズトロピンまたは対照(DMSO 0.01%未満)で6日間処置した。細胞を固定して、MBPに対する抗体を用いて免疫染色した。エラーバーは、3回の反復実験による標準偏差を表している。(B)代表的な画像は、ベンズトロピンの用量依存的な活性を示している。
【
図13】ベンズトロピンは、成熟オリゴデンドロサイトへのOPCの分化を誘導する。OPCを分化培地(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2ng/ml PDGF)中にプレーティングして、DMSO(0.01%未満)、ベンズトロピン[1.5uM]または甲状腺ホルモン[1uM]で処置した。6日間の培養後に、ウエスタンブロットによって細胞をMBPおよびMOGの発現に関して分析した。
【
図14】化合物処置により、成熟オリゴデンドロサイトへのOPCの分化が誘導される。OPCを分化培地(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2ng/ml PDGF)中にプレーティングし、DMSO(0.01%未満)、ベンズトロピン[1.5uM]または甲状腺ホルモン[1uM]で6日間処置した。細胞を固定して、MBP、MOG、CNP、GalC、O1またはO4に関して免疫染色した。DMSO、ベンズトロピンおよび甲状腺ホルモンで処置した細胞の代表的な画像は、ベンズトロピンおよび甲状腺ホルモンで処置した細胞では成熟オリゴデンドロサイトマーカーが発現するが、DMSO処置細胞では発現しないことを示している。
【
図15】ベンズトロピン処置によってオリゴデンドロサイトに分化したOPCの遺伝子発現プロファイル。OPCを分化培地中にプレーティングして、DMSO(0.1%未満)、ベンズトロピン[2.3uM]または甲状腺ホルモン[1uM]で6日間処置した。同じ継代からのOPCのペレット化および凍結も行った。全RNAを細胞から単離して、Affymetrix製のラットゲノムアレイを用いて遺伝子発現分析を行った。試料を通じて発現に関して2倍を上回る変化を呈したmRNA発現プローブセットのグローバルクラスタリング分析により、ベンズトロピン処置試料と甲状腺ホルモン処置試料とのクラスタリングが示され、一方、DMSO処置細胞の遺伝子発現プロファイルはOPCとクラスターを形成する。データは、DMSOで処置した対照に対する変化倍率として表わされている。化合物で処置した細胞ではDMSO処置細胞と比較して、成熟オリゴデンドロサイト遺伝子の発現増大が認められた。
【
図16】ベンズトロピン処置細胞の遺伝子発現プロファイルは、OPC遺伝子の下方制御および成熟オリゴデンドロサイト遺伝子の上方制御を示す。(A)DMSO処置細胞と比較した、化合物で処置した細胞における成熟オリゴデンドロサイト遺伝子の発現増大(変化倍率)。(B)DMSO処置細胞と比較した、化合物で処置した細胞におけるOPC遺伝子の発現低下(変化倍率)。
【
図17】化合物処置のタイミングが分化の効率を決定する。(A)第0日にOPCを分化培地中にプレーティングして、さまざまな日に化合物で処置した。プレーティング後の第6日に細胞を固定して、MBPに関して免疫染色した。(B)第0日にOPCを分化培地中にプレーティングして、12時間後に化合物で処置した。化合物処置後のさまざまな日に細胞を固定して、MBPに関して免疫染色した。(C)分化培地へのプレーティングから48時間以内のベンズトロピンでの処置により、成熟オリゴデンドロサイトへのOPCの効率的な分化が誘導された。分化培地へのプレーティングから72時間後またはそれよりも後の化合物処置では、OPCの分化の効率は低下した。(D)成熟オリゴデンドロサイトへのOPCの効率的な分化を誘導するためには、最低限5日間のベンズトロピン処置が必要であった。
【
図18】カルバコールは、ベンズトロピンにより誘導されるOPC分化に拮抗する。OPCを基本的分化培地中にプレーティングして、6日間、ベンズトロピン[2.3uM]およびカルバコール[0uM、0.6uMまたは4.7uM]で共処置し、MBP(緑色)に関して染色した。
【
図19】ベンズトロピンはヒスタミン受容体シグナル伝達に何ら影響を及ぼさない。OPCを基本的分化培地(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2ng/ml PDGF)中にプレーティングして、さまざまな濃度のベンズトロピン、および(A)ヒスタミンまたは(B)ヒスタミン受容体アゴニストのヒスタミントリフルオロメチルトルイジド(HTMT)で共処置した。
【
図20】ベンズトロピンはドーパミンD2およびD3受容体のシグナル伝達に何ら影響を及ぼさない。OPCを基本的分化培地(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸、L-グルタミン、2ng/ml PDGF)中にプレーティングして、さまざまな濃度のベンズトロピン、およびドーパミン受容体の(A)アゴニストのキンピロールまたは(B)アンタゴニストのハロペリドールで共処置した。エラーバーは3回の反復測定の標準偏差を示している。
【
図21】ムスカリンアンタゴニストは、オリゴデンドロサイトへのOPCの分化を誘導する。OPCを分化培地(2ng/ml PDGF)中にプレーティングして、さまざまな濃度の化合物で6日間処置した。細胞を固定して、MBPに関して免疫染色した。選択的ムスカリンアンタゴニストであるオキシブチニン、アトロピン、イプラトロピウム、プロピベリンおよびスコポラミンは、OPCの分化を用量依存的な様式で誘導した。化合物により誘導される分化に関するEC
50値を示している。
【
図22】OPCはムスカリン受容体およびコリンアセチルトランスフェラーゼを発現する。全RNAを、DMSO(0.1%未満)もしくは甲状腺ホルモン[1uM]で6日間処置したOPCから、またはラット全脳から単離した。RNAをcDNAに逆転写して、ムスカリン受容体M
1、M
2またはM
3の遺伝子発現を、遺伝子特異的プライマーを用いるPCRによって検出した。
【
図23】ベンズトロピンによるM
1/M
3ムスカリンシグナル伝達経路の拮抗作用により、OPCが分化へのプライミングを受ける。(A)OPCをベンズトロピン[10uM]で表記の時間にわたって処置して、全タンパク質のウエスタンブロット分析のためにペレット化した。ベンズトロピンは、Akt、p42MAPキナーゼのリン酸化を下方制御すること、ならびにp38MAPキナーゼおよびCREBのリン酸化を増加させることによって、M
1/M
3ムスカリン受容体の下流のシグナル伝達タンパク質を阻害する。(B)OPCを基本的分化条件下でプレーティングして、ベンズトロピン[1.5uM]、甲状腺ホルモン[1uM]またはDMSO(0.1%未満)で処置した。同じ継代からのOPCのペレット化および凍結も行った。全RNAを細胞から単離し、逆転写して第1鎖cDNAにした上で、qRT-PCR用のテンプレートとして用いた。遺伝子特異的FAM標識プローブを、内部対照としてのβ-アクチンおよびGAPDHに対するプローブとともに、さまざまな遺伝子の発現レベルを検出するために用いた。遺伝子発現により、細胞周期からの離脱を示す、サイクリンD1、サイクリンD2、c-Fos、c-Junなどの細胞周期遺伝子の下方制御が示された。(C)M
1/M
3ムスカリン受容体の下流のシグナル伝達経路。
【
図24】ベンズトロピンはM
1/M
3ムスカリン受容体に拮抗するが、M
2/M
4ムスカリン受容体には拮抗しない。OPCを分化培地中に12時間にわたりプレーティングした。培地を、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含むハンクス平衡塩類溶液(HBSS)に変更し、細胞をさまざまな濃度のベンズトロピンによって1時間処置した。カルバコールを添加して、FLIPR TETRA(登録商標)システムを用いてカルシウム流を186秒間測定した。(A)カルバコールは、細胞内Ca
2+レベルの用量依存的な上昇を誘導した。(B)ベンズトロピンは、カルバコールにより誘導されるカルシウム流入を、M
1/M
3ムスカリン受容体の拮抗作用を通じて用量依存的に遮断した。(C)ムスカリンアンタゴニストの1つであるアトロピンを陽性対照として利用した。(D)OPCを分化培地中に12時間にわたりプレーティングした。cAMP-HTRFアッセイを、cAMP dynamic 2キットを用いて行った。ベンズトロピンはcAMPのレベルに対して何ら影響を及ぼさなかった。IBMXをcAMP安定化剤として添加し、フォルスコリンを陽性対照とした。
【
図25】EAEモデルにおける予防的ベンズトロピンの用量依存的活性。PLPおよび百日咳毒素を用いて、マウスにおいてEAEを誘発させた。さまざまな用量で生理食塩水中に溶解させたベンズトロピンを、予防様式を用いてI.P.注射によって毎日注射し、その後に臨床症状をスコア化した。予防的投薬は、PLP注射の日に開始する化合物の投与と定義される。エラーバーは、マウス8匹ずつの各群内での平均の標準偏差を示している。
【
図26】ベンズトロピン処置は、MSのPLP誘発性EAEモデルにおいてインビボで再ミエリン化を誘導する。ベンズトロピンはEAEマウスにおけるリンパ球浸潤を遮断しないが、LFB染色の有意な増加をもたらし、このことは媒体処置マウスとは対照的に、リンパ球が浸潤した領域におけるミエリンの存在を示す。PLPおよび百日咳毒素を注射することによってEAEをマウスで誘発させ、EAE症状の初回出現時に、マウスをベンズトロピン(10mg/kg)または媒体対照で処置した。EAEの再発相において、群の平均スコアを代表するマウスから脊髄を単離し、切片化した上で、ルクソールファストブルーおよびH&E(左のパネル)、ならびにルクソールファストブルーのみ(右のパネル)で染色した。矢印はリンパ球浸潤の領域を指している。
【
図27】ベンズトロピンは、インビトロでT細胞活性化および増殖に何ら影響を及ぼさない。マウスから全脾細胞を単離して、CD3で刺激し、T細胞活性化マーカーCD69およびCD25の発現に関してフローサイトメトリーによって、ならびにCFSEを用いてT細胞増殖に関して分析した。(A)非刺激細胞。(B)DMSO処置細胞。(C)ミコフェノラートは、DMSOと比較して、T細胞の活性化および増殖を抑制する。(D)ベンズトロピンはT細胞活性化に何ら影響を及ぼさない。(E)ミコフェノラートはT細胞増殖を抑制する。(F)ベンズトロピンはT細胞増殖に何ら影響を及ぼさない。数字は、所定のマーカーに関して陽性である、ゲーティングされた集団のパーセンテージを表している。
【
図28】ベンズトロピンはマウスにおけるEAEの誘発後に、インビボで何ら免疫抑制作用を示さない。PLPおよび百日咳毒素を注射することにより、マウスにおいてEAEを誘発させた。ベンズトロピン(10mg/kg)および生理食塩水(媒体対照)を、治療的様式で14日間にわたって腹腔内に注射した。全脾細胞をマウスから単離して、PMAおよびイオノマイシンで刺激した上で、48時間後に免疫細胞のさまざまな集団およびサイトカイン分泌に関して分析した。サイトカイン分析に用いる細胞では、モノエイオシン(Monoeiosin)を用いてタンパク質輸送を遮断した。ベンズトロピン処置は、全脾細胞の数(A)、B細胞の数(B)、CD4
+ T細胞の数(C)、CD8
+ T細胞の数(D)、CD4
+/CD44Hi T細胞の数(E)、および CD8
+/CD44Hi T細胞の数(F)に対して何ら影響を及ぼさなかった。ベンズトロピンはまた、IL2産生CD4
+ T細胞の数(G)、IL10産生CD4
+ T細胞の数(H)、TNF-α産生CD4
+ T細胞の数、およびIFN-γ産生CD4
+ T細胞の数として測定したサイトカイン産生に対しても、何ら影響を及ぼさなかった。エラーバーは、マウス5匹ずつの各群内での平均の標準偏差を示している。代表的なフローサイトメトリー散布図(K)は、媒体処置マウスおよびベンズトロピン処置マウスから単離した脾臓におけるCD4
+細胞、CD8
+細胞およびCD44
+細胞の数が同程度であることを示している。
【
図29】ベンズトロピンは正常マウスにおいてインビボで何ら免疫抑制作用を示さない。ベンズトロピン(10mg/kg)および生理食塩水(媒体対照)を、正常マウスに14日間にわたって腹腔内に注射した。全脾細胞をマウスから単離して、PMAおよびイオノマイシンで刺激した上で、48時間後に免疫細胞のさまざまな集団およびサイトカイン分泌に関して分析した。サイトカイン分析に用いる細胞では、モノエイオシン(monoeiosin)を用いてタンパク質輸送を遮断した。ベンズトロピン処置は、全脾細胞の数(A)、B細胞の数(B)、CD4
+ T細胞の数(C)、CD8
+ T細胞の数(D)、CD4
+/CD44Hi T細胞の数(E)、およびCD8
+/CD44Hi T細胞の数(F)に対して何ら影響を及ぼさなかった。ベンズトロピンはまた、IL2産生CD4
+ T細胞の数(G)、IL10産生CD4
+ T細胞の数(H)、TNF-γ産生CD4
+ T細胞の数、およびIFN-γ産生CD4
+ T細胞の数として測定したサイトカイン産生に対しても何ら影響を及ぼさなかった。エラーバーは、マウス5匹ずつの各群内での平均の標準偏差を示している。
【
図30】ベンズトロピンはT細胞依存性および非依存性の免疫応答を抑制しない。マウスに対して、適切なアジュバント中の、2,4,6,トリニトロフェニルハプテンと結合体化したキーホールリンペットヘモシアニンタンパク質(TNP-KLH)、2,4,6,トリニトロフェニルハプテンと結合体化したリポ多糖(TNP-LPS)またはTNP(2,4,6-トリニトロフェニル)-フィコール結合体(TNP-フィコール)を注射し、媒体またはベンズトロピン(10mg/kg)処置を行った。血清をさまざまな時点で単離して、IgGおよびIgMのレベルをELISAによって測定した。(A、B)ベンズトロピンは、血清IgMおよびIgGレベルとして測定した、TNP-LPSにより誘導されるT細胞非依存性B細胞応答に対して何ら影響を示さなかった。(C、D)ベンズトロピンは、血清IgMおよびIgGレベルとして測定した、TNP-フィコールにより誘導されるT細胞非依存性B細胞応答に対して何ら影響を示さなかった。(E、F)ベンズトロピンは、血清IgMおよびIgGレベルとして測定した、TNP-KLHにより誘導されるT細胞依存性B細胞応答に対して何ら影響を示さなかった。エラーバーは、各処置群のマウス5匹からの試料に対して行った3回の反復ELISAによる標準偏差を表している。
【
図31】クプリゾンモデルにおけるミエリン形成染色の定量。(A)クプリゾンに対する7週間の曝露後にベンズトロピン(10mg/kg)または媒体対照のいずれかで処置したマウスから単離した脳の脳梁領域由来の切片に対してルクソールファストブルー染色を行った。(B)画像を256段階グレースケールに変換した。(C)グレーの256段階を50段階毎に5つの値域に分けた。各値域における脳梁領域内の対象物の数をImage-Pro plusを用いて計数した。(D)各値域における対象物の定量化に関するImage-Proレンダリングの代表的な画像。
【
図32】分化したOPCにおける切断型カスパーゼ活性のウエスタンブロット分析。OPCを基本的分化培地中にプレーティングして、ベンズトロピン[1.5uM]、甲状腺ホルモン[1uM]またはDMSO[0.1%未満]で6日間処置した。全タンパク質を単離して、カスパーゼ3および切断型カスパーゼ3の発現に対する特異的抗体を用いるウエスタンブロットによって分析した。切断型カスパーゼ3の発現は、化合物で処置した細胞においても未処置OPCにおいても検出されなかった。
【
図33】ベンズトロピンとの組み合わせは、有効性を向上させ、FTY720およびインターフェロンβの用量の減少を可能にする。PLPおよび百日咳毒素を用いてEAEをマウスで誘発させた。ベンズトロピン(2.5mg/kg)およびFTY720(さまざまな用量)およびインターフェロン(さまざまな用量)を、EAE症状の開始時に治療的様式で、腹腔内注射によって注射した。(A)FTY720を1mg/kg、0.1mg/kgおよび0.01mg/kgの用量で処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、FTY720に関する用量依存的な活性を示している。(B)インターフェロンβをマウス1匹当たり10,000U、3000Uおよび1000Uの用量で処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、インターフェロンβに関する用量依存的な活性を示している。(C)ベンズトロピン(2.5mg/kg)とFTY720(1mg/kg、0.1mg/kgおよび0.01mg/kg)との組み合わせ。(D)ベンズトロピン(2.5mg/kg)とインターフェロンβ(マウス1匹当たり10,000U、3000Uおよび1000U)との組み合わせ。(E)FTY720(0.01mg/kg)をベンズトロピン(BA;2.5mg/kg)と組み合わせて処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、FTY720(0.01mg/kg)またはベンズトロピン(2.5mg/kg)単独で処置したマウスと比較して有意に低下した臨床的重症度は示さない。(F)インターフェロンβ(IFN;1000U/マウス)をベンズトロピン(BA、2.5mg/kg)と組み合わせて処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、インターフェロンβ(IFN;1000U/マウス)またはベンズトロピン(2.5mg/kg)単独で処置したマウスと比較して有意に低下した臨床的重症度は示さない。エラーバーは、マウス8匹ずつの各群内での平均の標準偏差を示している。
【
図34】同定された化合物は、EAEモデルにおいて臨床的重症度を低下させる。完全フロイントアジュバント(CFA)中のPLP、および百日咳毒素を注射することによってEAEをマウスで誘発させて、マウスを疾患の臨床的重症度に関して0〜5のスケールで毎日スコア化した。(A)ベンズトロピン(10mg/kg)を治療的様式(第8〜10日のEAE症状の初回出現時に注射を開始)で処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、媒体処置マウスと比較して、疾患の再発相において有意に低下した臨床的重症度を示した。(B)ベンズトロピン(10mg/kg)を予防様式(第0日に注射を開始)で処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、媒体処置マウスと比較して、疾患の急性相および再発相のいずれにおいても有意に低下した臨床的重症度を示した。(C)ベンズトロピンは、EAEモデルにおける臨床的重症度スコアを低下させる用量依存的な有効性を示し、12.5mg/kgが最も有効な用量であって、0.1mg/kgは全く効果を示さなかった。(D)トリフルオペラジン(10mg/kg)、(E)クレマスチン(10mg/kg)、または(E)サルブタモール(10mg/kg)を治療的様式で処置したマウスに関する臨床的EAEスコアは、媒体処置マウスと比較して、疾患の再発相において有意に低下した臨床的重症度を示した。エラーバーは、マウス8〜10匹の各群内での平均の標準偏差を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
本明細書で用いる場合、「神経伝達物質受容体調節物質」という用語は、神経伝達物質受容体の活性を阻害するかまたは活性化する作用物質のことを指す。いくつかの態様において、この用語は、ムスカリン受容体の活性を調節する化合物(例えば、ムスカリン受容体アンタゴニスト)、ドーパミン受容体の活性を調節する化合物(例えば、ドーパミン受容体アンタゴニスト)、ヒスタミン受容体の活性を調節する化合物(例えば、ヒスタミン受容体アンタゴニスト)、βアドレナリン受容体の活性を調節する化合物(例えば、βアドレナリン受容体アンタゴニスト)またはオピオイド受容体の活性を調節する化合物(例えば、オピオイド受容体モジュレーター)のことを指す。また、神経伝達物質受容体調節物質として同定されているあらゆる化合物(例えば、本明細書中の表1に記載された化合物)に関して、化合物のあらゆる薬学的に許容される塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/または光学異性体、結晶多形、ならびに同位体変種も用いうることを想定している。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、低分子、例えば800kDa未満の分子量を有する分子である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、血液脳関門を通過することができる低分子である。
【0027】
本明細書で用いる場合、「オリゴデンドロサイト前駆細胞」または「OPC」という用語は、自己複製してミエリン形成オリゴデンドロサイトに分化する能力を有する未分化始原細胞のことを指す。「成熟ミエリン形成細胞運命」とは、ミエリンを形成しうる細胞、例えば、ミエリン形成オリゴデンドロサイトのことを指す。「分化」とは、特化した細胞種がそれほど特化していない細胞種から形成される、例えば、ミエリン形成オリゴデンドロサイトがOPCから形成される過程のことを指す。いくつかの態様において、OPCは、形態によって、および/またはバイオマーカー、例えばPDGFR-αもしくはNG2の存在によって同定される。いくつかの態様において、ミエリン形成オリゴデンドロサイトは、形態によって、および/またはマーカー、例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、2'3'-サイクリック-ヌクレオチド3'ホスホジエステラーゼ(CNP)、ガラクトセレブロシド(GalC)、O1抗原(O1)もしくはO4抗原(O4)の存在によって同定される。
【0028】
本明細書で用いる場合、「ミエリン形成の増加を刺激すること」または「ミエリン形成の増加を刺激する」という用語は、例えば、成熟ミエリン形成細胞運命へのオリゴデンドロサイト前駆細胞の分化を誘導する作用物質を投与することによって、該作用物質が投与されない場合の軸索を取り囲むミエリンの量と比較して、軸索を取り囲むミエリンの量の増加を誘導することを指す。いくつかの態様において、作用物質は、成熟ミエリン形成細胞運命へのOPCの分化を誘導する作用物質の投与後の試料(例えば、脱髄疾患を有する対象由来の脳組織試料)における軸索を取り囲むミエリンの量が、該作用物質の投与の前の試料における軸索を取り囲むミエリンの量と比較して、少なくとも約5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上である場合に、ミエリン形成の「増加」を刺激する。軸索を取り囲むミエリンの量は、当技術分野において公知の任意の方法によって、例えば磁気共鳴映像法(MRI)を用いて測定することができる。いくつかの態様において、作用物質は、成熟ミエリン形成細胞運命へのOPCの分化を誘導する作用物質の投与後に、該作用物質の投与前の疾患の特徴と比較して、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症)の1つまたは複数の特徴が改善する場合に、ミエリン形成の増加を刺激する。非限定的な一例として、作用物質は、炎症発作の頻度および/または重症度が、作用物質の投与前の炎症発作の頻度および/または重症度と比較して、該作用物質の投与後に低下する場合に、多発性硬化症を有する対象におけるミエリン形成の増加を刺激するという。
【0029】
本明細書で用いる場合、「脱髄疾患」という用語は、ニューロンの髄鞘への損傷またはその喪失によって特徴づけられる、神経系の疾患または病状のことを指す。脱髄疾患は中枢神経系を冒す疾患であってもよく、または末梢神経系を冒す疾患であってもよい。脱髄疾患の例には、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、シャルコー・マリー・ツース病、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはHTLV関連脊髄症が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、脱髄疾患は多発性硬化症である。
【0030】
本明細書で用いる場合、「対象」という用語は、霊長動物(例えば、ヒト)、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウスなどを非限定的に含む、哺乳動物などの動物のことを指す。いくつかの態様において、対象はヒトである。
【0031】
本明細書で用いる場合、「化合物」という用語は、OPC分化を誘導する能力に関して試験しようとする、天然型または合成型のあらゆる分子、例えば、ペプチド、タンパク質、オリゴペプチド(例えば、長さが約5〜約50アミノ酸)、有機低分子、多糖、ペプチド、環状ペプチド、ペプチド模倣体、脂質、脂肪酸、siRNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチドなどのことを指す。試験しようとする化合物は、十分な範囲の多様性を与えるコンビナトリアルライブラリーまたはランダム化ライブラリーといった被験化合物のライブラリーの形態にあってよい。被験化合物が任意で、融合パートナー、例えば、ターゲティング化合物、レスキュー化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス指定可能な化合物および他の機能的部分などと連結していてもよい。慣例的には、化合物は、何らかの望ましい特性または活性、例えば誘導活性を有する被験化合物(「スクリーニングヒット」と呼ばれる)を同定することによってスクリーニングされ、スクリーニングヒットの確認およびバリデーションが、インビトロおよびインビボのアッセイを用いて行われる。多くの場合、そのような分析にはハイスループットスクリーニング(HTS)法が使用される。
【0032】
「アゴニスト」とは、本発明の神経伝達物質受容体(例えば、ムスカリン受容体、ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体、βアドレナリン受容体、および/またはオピオイド受容体)の活性化を刺激する、増大させる、活性化する、または増強する作用物質のことを指す。
【0033】
「アンタゴニスト」とは、部分的または完全に、本発明の神経伝達物質受容体(例えば、ムスカリン受容体、ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体、βアドレナリン受容体、および/またはオピオイド受容体)の活性化の刺激を阻止する、その活性化を低下させる、妨害する、不活性化する、または遅らせる作用物質のことを指す。
【0034】
本明細書で用いる場合、「治療的有効量または治療的有効用量」または「治療的に十分な量または用量」または「有効または十分な量または用量」という用語は、それが単独で投与された場合に、それが投与された目的である治療効果を生じさせる用量のことを指す。正確な用量は処置の目的に応じて異なると考えられ、当業者によって公知の手法を用いて確かめられる(例えば、Lieberman, Pharmaceutical Dosage Forms (vols. 1-3, 1992);Lloyd, The Art, Science and Technology of Pharmaceutical Compounding (1999);Pickar, Dosage Calculations (1999);およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition, 2003, Gennaro, Ed., Lippincott, Williams & Wilkinsを参照)。
【0035】
本明細書で用いる場合、「投与する」または「投与すること」という用語は、対象への経口投与、坐薬としての投与、局所的接触、非経口的、静脈内、腹腔内、筋肉内、病変内、鼻腔内もしくは皮下投与、髄腔内投与、またはミニ浸透圧ポンプなどの徐放性デバイスの植込みを非限定的に含む、あらゆる種類の投与のことを指す。
【0036】
本明細書で用いる場合、「処置する」または「処置すること」または「処置」という用語は、緩解(abatement);寛解;症状を減弱させること、または症状、傷害、病態もしくは病状を患者にとってより忍容しうるものにすること;症状もしくは病状の頻度もしくは持続時間を低減させること;または、場合によっては、症状もしくは病状の発生を予防することといった、あらゆる客観的または主観的パラメーターを含む、処置の奏効、または傷害、病態、病状もしくは症状(例えば、疼痛)の改善のあらゆる兆候(indicia)のことを指す。処置または症状の改善は、例えば身体的診察の結果を含む、あらゆる客観的または主観的パラメーターに基づきうる。
【0037】
本明細書で用いる場合、「治療量未満の用量」という用語は、それが単独で投与された場合に、意図した薬理的効果をそれ自体で誘発するには機能的に不十分な、またはその特定の薬理薬剤の確立された治療用量(例えば、当業者が調べる参考文献に掲載されているもの、例えば、Physicians' Desk Reference, 66th Ed., 2012, PDR Network, LLC;またはBrunton, et al., Goodman & Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 12th edition, 2011, McGraw-Hill Professionalに掲載されている薬理薬剤に関する用量など)よりも量的に少ない、薬理活性物質の投与された用量、または対象における薬理活性物質の実際のレベルのいずれかとしての薬理活性物質の用量のことを指す。「治療量未満の用量」は、相対的な言い方(すなわち、慣例的に投与される薬理活性物質の量のパーセンテージ量(100%より少ない)として)で定義することができる。例えば、治療量未満の用量の量は、慣例的に投与される薬理活性物質の量の約1%〜約75%であってよい。いくつかの態様において、治療量未満の用量は、慣例的に投与される薬理活性物質の量の約75%、50%、30%、25%、20%、10%またはそれ未満であってよい。
【0038】
発明の詳細な説明
I.序論
本発明は、一部には、さまざまなクラスの神経伝達物質受容体を調節する化合物、例えば、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体アンタゴニスト、およびオピオイド受容体モジュレーターなどが、成熟ミエリン形成細胞運命(例えば、ミエリン形成オリゴデンドロサイト)へのオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の分化を促進するという発見に基づく。したがって、1つの局面において、本発明は、ミエリン形成オリゴデンドロサイトへのOPC分化を誘導する方法を提供する。
【0039】
特定の理論に拘束されるわけではないが、多発性硬化症などの脱髄疾患では、OPCが存在していて、脱髄した領域に遊走しうると考えられており、このことは、これらの疾患における再ミエリン化の進行性減少がOPCの増殖または動員の欠陥に起因するのではなく、OPCの分化障害に起因することを示唆する(Chong and Chan, J Cell Biol. 188:305-312 (2010)に総説がある)。したがって、本発明はさらに、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体アンタゴニスト、またはオピオイド受容体モジュレーターといった神経伝達物質受容体調節物質を対象に投与することによって、神経のミエリン形成の増加を、それを必要とする対象において刺激する方法を提供する。本発明はまた、神経伝達物質受容体調節物質を対象に投与することによって、脱髄疾患を有する対象を処置する方法も提供する。
【0040】
II.神経のミエリン形成の増加を刺激する作用物質
A.神経伝達物質受容体調節物質
神経伝達物質受容体調節物質とは、成熟ミエリン形成細胞運命(例えば、ミエリン形成オリゴデンドロサイト)へのオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の分化を誘導する、および/またはミエリン形成の増加を刺激する、作用物質のことである。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される。以下の実施例のセクションに示されているように、これらのクラスの化合物のそれぞれの例示的なメンバーは、ミエリン形成オリゴデンドロサイト細胞運命へのOPCの分化を誘導し、それ故にミエリン形成の増加を刺激することが示されている。例示的なムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体アンタゴニスト、およびオピオイド受容体モジュレーターのこの活性を示しているデータに基づき、これらのクラスのそれぞれの中にあり、かつ、例示された化合物と類似した薬理学的機序を有する他の化合物、例えば表1に列記された化合物も、成熟ミエリン形成細胞運命(例えば、ミエリン形成オリゴデンドロサイト)へのOPCの分化を誘導するのに、および/またはミエリン形成の増加を刺激するのに有用であると予測される。
【0041】
いくつかの態様において、ミエリン形成の増加を刺激する作用物質として同定された化合物は、これらのクラスの神経伝達物質受容体のうち1つに対する「選択的」活性を有する(すなわち、ムスカリン受容体、ドーパミン受容体、ヒスタミン受容体、βアドレナリン受容体、もしくはオピオイド受容体、またはこれらの受容体のいずれかのサブタイプのうちの1つに対する作動作用または拮抗作用を有し、かつ、他の受容体に対してはより弱い作用を有するか、または実質的に作用を有しない)。いくつかの態様において、ミエリン形成の増加を刺激する作用物質として同定された化合物は、これらのクラスの神経伝達物質受容体または神経伝達物質受容体サブタイプのうち2つまたはそれ以上に対する活性を有する。
【0043】
1.ムスカリン受容体アンタゴニスト
ムスカリン受容体は、Gタンパク質共役型アセチルコリン受容体である。ムスカリン受容体には公知のサブタイプが5種類ある:M
1受容体、M
2受容体、M
3受容体、M
4受容体、およびM
5受容体。ムスカリン受容体アンタゴニストとは、ムスカリン受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を阻害することができる作用物質のことである。非限定的な一例として、本アンタゴニストは、(1)ムスカリン受容体;(2)ムスカリン受容体のアゴニストもしくは部分的アゴニスト(または他のリガンド);および/または(3)下流シグナル伝達分子;と競合的または非競合的に結合して、ムスカリン受容体の機能を阻害することができる。実施例に示されているように、ベンズトロピン、カルベタペンタン、クレマスチン、イプラトロピウム、およびアトロピンは、ムスカリン受容体の機能に拮抗することが示されている、かつ/またはムスカリン受容体の公知のアンタゴニストである。したがって、いくつかの態様において、ムスカリン受容体アンタゴニストは、ベンズトロピン、カルベタペンタン、クレマスチン、イプラトロピウム、アトロピン、ならびにそれらの塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/または光学異性体、結晶多形、および同位体変種から選択される化合物である。または、表1に列記されたムスカリン受容体モジュレーターのいずれかを用いて、ムスカリン受容体に拮抗させることもできる。したがって、いくつかの態様において、ムスカリン受容体アンタゴニストは、表1に列記されたムスカリン受容体モジュレーター化合物である。表1に記載された化合物は容易に入手することができる。
【0044】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はクレマスチンまたはその塩(例えば、クレマスチンフマル酸塩)である。
【0045】
2.ドーパミン受容体アンタゴニスト
ドーパミン受容体は、神経伝達物質ドーパミンを主要な内因性リガンドとするGタンパク質共役型受容体である。ドーパミン受容体には公知のサブタイプが5種類ある:D
1様受容体であるD
1およびD
5受容体はアデニリルシクラーゼを活性化し、一方、D
2様受容体であるD
2、D
3およびD
4受容体はアデニリルシクラーゼを阻害し、かつK
+チャンネルを活性化する。ドーパミン受容体アンタゴニストとは、ドーパミン受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を阻害することができる作用物質のことである。非限定的な一例として、本アンタゴニストは、(1)ドーパミン受容体;(2)ドーパミン受容体のアゴニストもしくは部分的アゴニスト(または他のリガンド);および/または(3)下流シグナル伝達分子;と競合的または非競合的に結合して、ドーパミン受容体の機能を阻害することができる。実施例に示されているように、ベンズトロピン、GBR12935、およびトリフルオペラジンは、ドーパミン受容体の機能に拮抗することが示されている、かつ/またはドーパミン受容体の公知のアンタゴニストである。したがって、いくつかの態様において、ドーパミン受容体アンタゴニストは、ベンズトロピン、GBR12935、トリフルオペラジン、ならびにそれらの塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/または光学異性体、結晶多形、および同位体変種から選択される化合物である。または、表1に列記されたドーパミン受容体モジュレーターのいずれかを用いて、ドーパミン受容体に拮抗させることもできる。したがって、いくつかの態様において、ドーパミン受容体アンタゴニストは、表1に列記されたドーパミン受容体モジュレーター化合物である。表1に記載された化合物は容易に入手することができる。
【0046】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はトリフルオペラジンまたはその塩(例えば、塩酸トリフルオペラジン)である。
【0047】
3.ヒスタミン受容体アンタゴニスト
ヒスタミン受容体は、神経伝達物質ヒスタミンを主要な内因性リガンドとするGタンパク質共役型受容体である。ヒスタミン受容体には公知のサブタイプが4種類ある:H
1受容体、H
2受容体、H
3受容体、およびH
4受容体。ヒスタミン受容体アンタゴニストとは、ヒスタミン受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を阻害することができる作用物質のことである。非限定的な一例として、アンタゴニストは、(1)ヒスタミン受容体;(2)ヒスタミン受容体のアゴニストもしくは部分的アゴニスト(または他のリガンド);および/または(3)下流シグナル伝達分子;と競合的または非競合的に結合して、ヒスタミン受容体の機能を阻害することができる。実施例に示されているように、クレマスチンはヒスタミン受容体の機能に拮抗することが示されている。したがって、いくつかの態様において、ヒスタミン受容体アンタゴニストは、クレマスチン、またはその塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/もしくは光学異性体、結晶多形、または同位体変種である。または、表1に列記されたヒスタミン受容体モジュレーターのいずれかを用いて、ヒスタミン受容体に拮抗させることもできる。したがって、いくつかの態様において、ヒスタミン受容体アンタゴニストは、表1に列記されたヒスタミン受容体モジュレーター化合物である。表1に記載された化合物は容易に入手することができる。
【0048】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はクレマスチンまたはその塩(例えば、クレマスチンフマル酸塩)である。
【0049】
4.βアドレナリン受容体モジュレーター
βアドレナリン受容体は、アドレナリン受容体のサブタイプであり、カテコールアミン(例えば、エピネフリンおよびノルエピネフリン)を主要な内因性リガンドとするGタンパク質共役型受容体である。βアドレナリン受容体には公知のサブタイプが3種類ある:β
1受容体、β
2受容体、およびβ
3受容体。βアドレナリン受容体アンタゴニストとは、βアドレナリン受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を阻害することができる作用物質のことである。非限定的な一例として、アンタゴニストは、(1)βアドレナリン受容体;(2)βアドレナリン受容体のアゴニストもしくは部分的アゴニスト(または他のリガンド);および/または(3)下流シグナル伝達分子;と競合的または非競合的に結合して、βアドレナリン受容体の機能を阻害することができる。非限定的な一例として、ピンドロールはβアドレナリン受容体の機能に拮抗することができる。βアドレナリン受容体アゴニストとは、βアドレナリン受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を誘導または刺激することができる作用物質のことである。実施例に示されているように、ピンドロール、サルメテロール、サルブタモール、およびアルブテロールは、βアドレナリン受容体の機能を作動させることが示されている、かつ/またはβアドレナリン受容体の公知のアゴニストである。したがって、いくつかの態様において、βアドレナリン受容体モジュレーターは、ピンドロール、サルメテロール、サルブタモール、アルブテロール、ならびにそれらの塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/または光学異性体、結晶多形、および同位体変種から選択される化合物である。または、表1に列記されたβアドレナリン受容体モジュレーターのいずれかを用いて、βアドレナリン受容体を調節することもできる。したがって、いくつかの態様において、βアドレナリン受容体モジュレーターは、表1に列記されたβアドレナリン受容体モジュレーター化合物である。表1に記載された化合物は容易に入手することができる。
【0050】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はサルメテロールまたはその塩(例えば、サルメテロールキシナホ酸塩)である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はサルブタモールまたはその塩(例えば、サルブタモールヘミスルファート)である。
【0051】
5.オピオイド受容体モジュレーター
オピオイド受容体は、オピオイドを主要な内因性リガンドとするGタンパク質共役型受容体である。オピオイド受容体アンタゴニストとは、オピオイド受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を阻害することができる作用物質のことである。非限定的な一例として、アンタゴニストは、(1)オピオイド受容体;(2)受容体のアゴニストもしくは部分的アゴニスト(または他のリガンド);および/または(3)下流シグナル伝達分子;と競合的または非競合的に結合して、受容体の機能を阻害することができる。オピオイド受容体アゴニストとは、オピオイド受容体または受容体サブタイプの1つまたは複数の特徴的応答を誘導または刺激することができる作用物質のことである。例えば、アゴニストはオピオイド受容体を活性化しうる。実施例に示されているように、カルベタペンタン、Snc-80、およびBD-1047は、オピオイド受容体の機能を調節することが示されている。したがって、いくつかの態様において、オピオイド受容体アンタゴニストは、カルベタペンタン、Snc-80、BD-1047、ならびにそれらの塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/または光学異性体、結晶多形、および同位体変種から選択される化合物である。または、表1に列記されたオピオイド受容体モジュレーターのいずれかを用いて、オピオイド受容体を調節することもできる。したがって、いくつかの態様において、オピオイド受容体モジュレーターは、表1に列記されたオピオイド受容体モジュレーター化合物である。表1に記載された化合物は容易に入手することができる。
【0052】
B.調節物質の同定
多種多様なスクリーニングプロトコールを、神経のミエリン形成の増加を刺激する作用物質を同定するために利用することができる。一般的に言って、スクリーニング方法は、分化したミエリン形成細胞運命(例えば、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイト)を有する試料中の細胞の数を増加させる作用物質を同定するために、多数の作用物質をスクリーニングすることを伴う。いくつかの態様において、作用物質は、該作用物質によって成熟ミエリン形成細胞運命へと分化するOPCのパーセンテージ(例えば、多数のOPCを含む試料における)が、該作用物質の非存在下で成熟ミエリン形成細胞運命へと分化するOPCのパーセンテージと比較して、少なくとも約5%、10%、15%、20%, 25%o、30%、40%、50%またはそれを上回って増加する場合に、OPC分化を促進しているか、または増加させている。
【0053】
1.マーカーアッセイ
いくつかの態様において、神経のミエリン形成の増加を刺激する作用物質は、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトのマーカーの誘導に関するスクリーニングによって同定される。いくつかの態様においては、多数のOPCを含む試料を候補作用物質と接触させ、OPCの分化に適した条件下でインキュベートして、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトの1つまたは複数のマーカーの有無に関して評価する。成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトのマーカーの例には、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、2'3'-サイクリック-ヌクレオチド3'ホスホジエステラーゼ(CNP)、GalC、O1またはO4が非限定的に含まれる。
【0054】
成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトのマーカーは、確立されたいくつかの分析手法の任意のものを用いて検出することができる。例えば、検出は、核酸(例えば、インサイチューハイブリダイゼーションもしくはRT-PCRによって)またはタンパク質(例えば、イムノアッセイもしくはウエスタンブロット分析)のレベルを検出して、その後に、当技術分野において公知の種々の方法のうちいずれか1つを用いて可視化および/または定量を行うことによって実現することができる。いくつかの態様においては、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトのマーカーをインサイチューハイブリダイゼーションによって検出する。インサイチューハイブリダイゼーション手法は、In Situ Hybridization: A Practical Approach (Wilkinson, D.G., ed.), Oxford University Press, 1992に全般的に記載されている。いくつかの態様においては、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトのマーカーをイムノアッセイによって検出する。イムノアッセイの手法およびプロトコールは、Price and Newman, "Principles and Practice of Immunoassay," 2nd Edition, Grove's Dictionaries, 1997;およびGosling, "Immunoassays: A Practical Approach," Oxford University Press, 2000に全般的に記載されている。いくつかの態様において、イムノアッセイは免疫蛍光アッセイである。
【0055】
検出可能部分を、本明細書に記載のアッセイに用いることができる。多種多様な検出可能部分を、必要な感度、抗体との結合体化の容易さ、安定性の要件、ならびに利用可能な計測装置および使い捨て設備(disposal provision)に応じて標識を選択した上で用いることができる。適した検出可能部分には、放射性核種、蛍光性色素(例えば、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Oregon Green(商標)、ローダミン、テキサスレッド、テトラローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Cy3、Cy5など)、蛍光性マーカー(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、フィコエリトリンなど)、腫瘍関連プロテアーゼによって活性化される自己消光性(autoquenched)蛍光性化合物、酵素(例えば、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)、ナノ粒子、ビオチン、ジゴキシゲニンなどが非限定的に含まれる。
【0056】
2.細胞および試薬
OPC分化を誘導する、および/または神経のミエリン形成の増加を刺激する作用物質を同定するための一次スクリーニングは、培養OPC細胞株、または対象(例えば、哺乳動物)由来のOPCを用いる細胞ベースのアッセイを用いて行うことができる。
【0057】
OPCは、種々の供給源の任意のものに由来しうる。いくつかの態様において、OPCは組織、例えば、脳組織、脊髄組織、または眼神経組織から採取される。組織は、齧歯動物(例えば、ラットまたはマウス)、ニワトリ、イヌ、ネコ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、または霊長動物(例えば、サル、チンパンジー、またはヒト)由来であってよい。いくつかの態様において、OPCは胎児組織に由来する。いくつかの態様において、OPCは成体組織に由来する。または、OPCは、培養している幹細胞(例えば、神経幹細胞もしくは胚性幹細胞)、またはOPCを生じるように誘導することのできる他の細胞(例えば、骨髄ストロマ細胞)に由来してもよい。
【0058】
OPC分化に適した条件の例は、以下の実施例のセクションに記載されている。細胞培養条件は、例えば、Picot, Human Cell Culture Protocols (Methods in Molecular Medicine) 2010 ed.およびDavis, Basic Cell Culture 2002 ed.にさらに詳細に記載されている。OPCを増殖因子、例えばPDGFααとともに培養する。非限定的な一例としては、OPCを、30ng/mLのPDGFααを含有するOPC用培地(Neurobasal培地、ビタミンAを除いたB27サプリメント、非必須アミノ酸)を用いる、ポリ-D-リジンでコーティングした細胞培養皿上での培養下にて増殖させる。分化のためには、OPCを、ポリ-D-リジンでコーティングした細胞培養皿に、2ng/mL PDGFααを含有するOPC用培地を用いて播種し、DMSO中に溶解させた化合物(最終濃度1%未満)で処置する。分化中のOPCを、37℃、5% CO
2にて6日間インキュベートする。6日間の終了時に、細胞を免疫蛍光分析のために4%パラホルムアルデヒドで固定するか、または生化学的分析のために採取する。
【0059】
3.候補作用物質
OPC分化を促進する能力に関してスクリーニングされる作用物質は、ポリペプチド、糖、核酸または脂質などの任意の低分子化合物または生物学的実体であってよい。典型的には、被験化合物は低分子の化合物およびペプチドであると考えられる。本質的にあらゆる化合物を、本発明のアッセイにおけるモジュレーターまたはリガンドの候補として用いることができるが、ほとんどの場合は、水性溶液または有機溶液(特にDMSOをベースとするもの)中に溶解しうる化合物を用いる。アッセイは、アッセイの工程を自動化し、任意の好都合な供給源からの化合物をアッセイに提供することによって、大規模な化学ライブラリーをスクリーニングするように設計され、これは典型的には並行して進められる(例えば、自動システム(robotic)アッセイにおけるマイクロタイタープレート上でのマイクロタイター形式で)。化合物の供給元が、Sigma(St. Louis, MO)、Aldrich(St. Louis, MO)、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)、Fluka Chemika-Biochemica Analytika(Buchs, Switzerland)などを含め、数多くあることは認識されている。
【0060】
いくつかの態様において、作用物質は、1,500ダルトン未満、場合によっては1,000、800、600、500または400ダルトン未満の分子量を有する。比較的サイズの小さい作用物質が望ましいと考えられるが、これは小さい分子の方が分子量の高い作用物質よりも、経口吸収を含む優れた薬物動態学的特徴に適合する生理化学的特性を有する可能性が高いためである。例えば、透過性および溶解性の点から薬物として好成績を上げる可能性が低いと考えられる作用物質は、Lipinskiらによって以下のように記載されている:水素結合のドナーの数(OHおよびNHの合計として表わされる)が5つを上回る;分子量が500を上回る;LogPが5を上回る(もしくはMLogPが4.15を上回る);ならびに/または水素結合のアクセプターの数(NおよびOの合計として表わされる)が10を上回る。例えば、Lipinski et al., Adv Drug Delivery Res 23:3-25 (1997)を参照されたい。生物学的輸送体の基質である化合物クラスは、典型的には、この規則の例外である。
【0061】
いくつかの態様において、作用物質は、数多くの治療的化合物の候補(モジュレーターまたはリガンド化合物の候補)を含むコンビナトリアル化学ライブラリーまたはペプチドライブラリーからのものである。続いて、そのような「コンビナトリアル化学ライブラリー」または「リガンドライブラリー」を、所望の特徴的活性を呈するライブラリーの構成要素(特定の化学種またはサブクラス)を同定するために、本明細書に記載するような1つまたは複数のアッセイにおいてスクリーニングする。このようにして同定された化合物は、従来の「リード化合物」として役立てることができ、またはそれ自体を治療薬の候補もしくは実際の治療薬として用いることができる。
【0062】
コンビナトリアル化学ライブラリーは、多数の化学的「構成単位(building block)」を組み合わせることにより、化学合成または生物学的合成のいずれかによって生成された多様な化合物の集成物である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの直鎖状コンビナトリアル化学ライブラリーは、一群の構成化学単位(アミノ酸)を所定の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物におけるアミノ酸の数)に関して考えられるすべてのやり方で組み合わせることによって形成される。構成化学単位のそのようなコンビナトリアル混合により、何百万もの化合物を合成することができる。
【0063】
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製およびスクリーニングは当業者に周知である。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka, Int. J. Pept. Prot. Res. 37:487-493 (1991)およびHoughton et al., Nature 354:84-88 (1991)を参照)が非限定的に含まれる。化学的多様性ライブラリーを生成させるために、他の化学物質を用いることもできる。そのような化学物質には、ペプトイド(例えば、PCT公報第WO 91/19735号、コード化されたペプチド(例えば、PCT公報第WO 93/20242号)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、PCT公報第WO 92/00091号)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピンおよびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90:6909-6913 (1993))、ビニローグ(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:6568 (1992))、グルコーススカフォールディングを有する非ペプチド性ペプチド模倣物(Hirschmann et al., J. Amer. Chem. Soc. 114:9217-9218 (1992))、低分子化合物ライブラリーの類似の有機合成(Chen et al., J. Amer. Chem. Soc. 116:2661 (1994))、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 261:1303 (1993))、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J. Org. Chem. 59:658 (1994))、核酸ライブラリー(Ausubel, BergerおよびSambrook、いずれも前記、を参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al., Nature Biotechnology, 14(3):309-314 1522 (1996)および米国特許第5,593,853号を参照)、有機低分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum C&EN, Jan 18, page 33 (1993);イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照)が非限定的に含まれる。
【0064】
コンビナトリアルライブラリーの調製のための機器は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech, Louisville KY, Symphony, Rainin, Woburn, MA, 433A Applied Biosystems, Foster City, CA, 9050 Plus, Millipore, Bedford, MAを参照)。加えて、数多くのコンビナトリアルライブラリーがそれ自体で市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J., Tripos, Inc., St. Louis, MO, 3D Pharmaceuticals, Exton, PA, Martek Biosciences, Columbia, MDなどを参照)。
【0065】
いくつかの態様において、候補作用物質は、血液脳関門を通過することができる。いくつかの態様において、候補作用物質は低分子量である(すなわち、分子量が800kDa以下)。いくつかの態様において、候補作用物質は、毒性または脳での薬物動態といった1つまたは複数の他の基準に関してスクリーニングされる。
【0066】
4.バリデーション
前記のいずれかのスクリーニング方法によって最初に同定された作用物質を、見かけの活性のバリデーションを行うためにさらに試験することができる。いくつかの態様において、バリデーションアッセイはインビトロアッセイである。いくつかの態様において、そのような試験は適した動物モデルを用いて実施される。そのような方法の基本形式は、初期スクリーニング時に同定されたリード化合物をヒトの疾患モデルとしての役割を果たす動物に投与し、続いて、疾患(例えば、脱髄疾患)が実際に調節されるかどうか、および/または疾患もしくは病状が改善されるかどうかを判定することを伴う。バリデーション試験に利用される動物モデルは一般に、何らかの種類の哺乳動物である。適した動物の具体的な例には、霊長動物、マウス、ラットおよびゼブラフィッシュが非限定的に含まれる。
【0067】
III.神経伝達物質受容体調節物質を用いる方法
本明細書に記載の神経伝達物質受容体調節物質は、さまざまな治療的および/または予防的な方法に用いることができる。1つの局面において、本発明は、成熟ミエリン形成細胞運命(例えば、ミエリン形成オリゴデンドロサイト)へのオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の分化を誘導する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、OPCを、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と接触させる段階、およびOPCをOPC分化に適した条件下で培養する段階を含む。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される。いくつかの態様においては、OPCを、OPC分化に適した条件下で、神経伝達物質受容体調節物質の存在下において少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間またはそれ以上培養する。成熟ミエリン形成細胞運命への分化は、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトの1つまたは複数の生物学的マーカーの存在を検出することによって判定しうる。ミエリン形成オリゴデンドロサイトの存在またはレベルを検出するためのマーカーアッセイは、本明細書に、例えば上記のセクションII(B)に記載されている。
【0068】
別の局面において、本発明は、神経のミエリン形成の増加を、それを必要とする対象において刺激する方法を提供する。いくつかの態様において、本方法は、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質を対象に投与して;それにより、該対象における神経のミエリン形成の増加を刺激する段階を含む。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される化合物である。
【0069】
いくつかの態様において、神経のミエリン形成の増加を刺激する方法を必要とする対象は、脱髄疾患を有する対象である。したがって、さらに別の局面において、本発明は、脱髄疾患を有する対象の処置および/または改善の方法を提供する。いくつかの態様において、神経のミエリン形成の増加を刺激する方法を必要とする対象は、脱髄疾患を有するリスクのある対象である。したがって、さらに別の局面において、本発明は、脱髄疾患を予防する方法、または脱髄疾患の発生を遅らせる方法を提供する。
【0070】
いくつかの態様において、本方法は、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される神経伝達物質受容体調節物質を対象に投与する段階を含む。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、表1に列記された化合物(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体モジュレーター化合物、ドーパミン受容体モジュレーター化合物、ヒスタミン受容体モジュレーター化合物、βアドレナリン受容体モジュレーター化合物、またはオピオイド受容体モジュレーター化合物)である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ベンズトロピン、セルベタペンタン(cerbetapentane)、クレマスチン、ピンドロール、イプラトロピウム、アトロピン、GBR12935、Snc-80、BD-1047、サルメテロール、アルブテロール、もしくはトリフルオペラジン、またはそれらの塩である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩である。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)である。
【0071】
いくつかの態様において、脱髄疾患は、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、シャルコー・マリー・ツース病、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)関連脊髄症である。
【0072】
いくつかの態様において、脱髄疾患は多発性硬化症(MS)である。MSには、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)、一次性進行型多発性硬化症(PPMS)および進行再発型多発性硬化症(PRMS)を含む、いくつかのサブタイプがある。いくつかの態様において、対象はRRMSを有する。いくつかの態様において、対象はSPMSを有する。いくつかの態様において、対象はPPMSを有する。いくつかの態様において、対象はPRMSを有する。対象が最初にMSの1つのサブタイプ(例えば、RRMS)を有すると診断され、その後に、対象が罹患しているMSのサブタイプが、MSの別のサブタイプに(例えば、RRMSからSPMSに)転じてもよい。本発明の方法は、MSのサブタイプがMSの別のサブタイプに転じる対象の処置にも適用しうることを企図している。
【0073】
いくつかの態様においては、それを必要とする対象(例えば、脱髄疾患を有するか、または脱髄疾患を有するリスクのある対象)に、神経伝達物質受容体調節物質を、少なくとも1つの他の治療と組み合わせて投与する。いくつかの態様において、少なくとも1つの他の治療は免疫調節性物質である。本明細書で用いる場合、「免疫調節性物質」とは、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、シャルコー・マリー・ツース病、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはHTLV関連脊髄症)の経過を変更させる疾患修飾薬のことを指す。
【0074】
いくつかの態様において、免疫調節性物質は、多発性硬化症(例えば、RRMS、SPMS、PPMSまたはPRMS)の経過を変更させる疾患修飾薬である。例えば、疾患修飾薬は、MS再発の頻度もしくは重症度を低下させること、および/または脱髄領域での病変もしくは瘢痕の発生を低下させることができる。いくつかの態様において、免疫調節性物質は免疫抑制剤(すなわち、免疫応答を抑制するかまたは妨害する作用物質)である。いくつかの態様において、免疫調節性物質は、(例えば、サプレッサーT細胞の誘導を刺激することによって)免疫応答を調節する作用物質である。MSの処置用の免疫調節性物質の例には、インターフェロン(例えば、インターフェロンβ、例えばインターフェロンβ-1a、もしくはインターフェロンβ-1bなど)、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、フィンゴリモド(FTY720)、またはモノクローナル抗体(例えば、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、もしくはアレムツズマブ)が非限定的に含まれる。したがって、いくつかの態様において、本発明の方法は、MSを有する対象に対して、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体アンタゴニスト、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される化合物)を、フィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはアレムツズマブと組み合わせて投与する段階を含む。
【0075】
別の局面において、本発明は、免疫調節性物質の治療効果を、それを必要とする対象において高める方法を提供する。驚くべきことに、脱髄疾患のマウスモデルにおいて、神経伝達物質受容体調節物質と免疫調節性物質との組み合わせを投与することにより、神経伝達物質受容体調節物質または免疫調節性物質のいずれか単独によって達成しうる脱髄疾患の臨床的重症度の低下と比較して、脱髄疾患の臨床的重症度の有意に大きな低下がもたらされることが見いだされた。したがって、いくつかの態様において、本方法は、免疫調節性物質および神経伝達物質受容体調節物質を対象に投与して;それにより、該対象における免疫調節性物質の治療効果を高める段階を含む。いくつかの態様において、対象は脱髄疾患を有するか、または脱髄疾患を有するリスクがある。
【0076】
さらに、驚くべきことに、神経伝達物質受容体調節物質を、それ自体では脱髄疾患の処置にとって治療的であるには十分でない用量の免疫調節性物質と組み合わせて投与することにより、各作用物質を単独で投与することによる治療効果よりも大きい治療効果がもたらされることも見いだされた。したがって、別の局面において、本発明は、免疫調節性物質および神経伝達物質受容体調節物質を投与することによってそれを必要とする対象を処置する方法であって、免疫調節性物質が治療量未満の用量で投与される方法を提供する。いくつかの態様において、対象は脱髄疾患を有するか、または脱髄疾患を有するリスクがある。
【0077】
いくつかの態様において、脱髄疾患は、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、シャルコー・マリー・ツース病、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはHTLV関連脊髄症である。いくつかの態様において、脱髄疾患は、多発性硬化症、例えば、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)、一次性進行型多発性硬化症(PPMS)、または進行再発型多発性硬化症(PRMS)である。いくつかの態様において、対象は最初にMSの1つのサブタイプ(例えば、RRMS)を有すると診断され、その後に、対象が罹患しているMSのサブタイプが、MSの別のサブタイプに(例えば、RRMSからSPMSに)転じる。
【0078】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択され、かつ免疫調節性物質は、フィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、およびアレムツズマブから選択される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、表1に列記されたムスカリン受容体モジュレーター化合物、ドーパミン受容体モジュレーター化合物、ヒスタミン受容体モジュレーター化合物、βアドレナリン受容体モジュレーター化合物、またはオピオイド受容体モジュレーター化合物であり、かつ免疫抑制剤は、フィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはアレムツズマブである。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、もしくはトリフルオペラジン、またはそれらの塩であり、かつ免疫調節性物質は、フィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはアレムツズマブである。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンであり、かつ免疫調節性物質はフィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、またはインターフェロンβ-1bである。
【0079】
免疫調節性物質であるフィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、およびナタリズマブに関する治療用量は、当技術分野において公知である。例えば、Kappos et al., N Engl J Med 362:387-401 (2010);Cohen et al., N Engl J Med 362:402-15 (2010);Gottesman et al., Mult Scler 12:271-80 (2006);Hurwitz et al., Clin Ther 30:1102-12 (2008);Gaindh et al., Expert Opin Biol Ther 8:1823-29 (2008);Koch-Henriksen et al., Neurology 66:1056-60 (2006);Benatar, Lancet 360:1428 (2008);Jacobs et al., Ann Neurol 39:285-94 (1996);Lancet 352:1498-1504 (1998);Johnson et al., Neurology 45:1268-76 (1995);Johnson et al., Neurology 50:701-08 (1998);Comi et al., Ann Neurol. 69:75-82 (2011);Calabresi Nat Clin Pract Neurol 3:540-1 (2007);およびPolman et al., N Engl J Med 354:899-910 (2006)を参照;これらのそれぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0080】
いくつかの態様において、免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は治療的有効用量で投与される。いくつかの態様において、免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、治療量未満の用量で、例えば、その免疫調節性物質について慣例的に投与される用量の約75%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満である用量で投与される。
【0081】
フィンゴリモド(FTY720)は、慣例的には1日当たり約0.5mgから1日当たり約1.5mgまで(例えば、1日当たり約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、約1.0、約1.1、約1.2、約1.3、約1.4または約1.5mg)の治療的有効用量で投与される。例えば、Kappos et al., N Engl J Med 362:387-401 (2010)を参照。したがって、いくつかの態様において、フィンゴリモドの治療量未満の用量は、1日当たり約0.005mgから1日当たり約0.375mgまで(例えば、1日当たり約0.005、約0.01、約0.02、約0.03、約0.04、約0.05、約0.06、約0.07、約0.08、約0.09、約0.1、約0.15、約0.2、約0.25、約0.3、約0.35または約0.375mg)である。
【0082】
インターフェロンβ-1aは、慣例的には1週当たり約30μgの治療的有効用量で投与される。例えば、Jacobs et al., Ann Neurol 39:285-94 (1996)を参照。したがって、いくつかの態様において、インターフェロンβ-1aの治療量未満の用量は、1週当たり約0.3μgから1週当たり約23μgまで(例えば、1週当たり約0.3、約0.5、約0.75、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22または約23μg)である。
【0083】
インターフェロンβ-1bは、慣例的には隔日約250μgから隔日約500μgまでの治療的有効用量で投与される。例えば、Gottesman et al., Mult Scler 12:271-80 (2006)を参照。したがって、いくつかの態様において、インターフェロンβ-1bの治療量未満の用量は、隔日約2μgから隔日約190μgまで(例えば、隔日約2、約5、約10、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180または約190μg)である。
【0084】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター)は、治療的有効用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーターまたはオピオイド受容体モジュレーター)は、治療量未満の用量で、例えば、その神経伝達物質受容体調節物質について慣例的に投与される用量の約75%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満である用量で投与される。いくつかの態様において、治療的有効用量または治療量未満の用量で投与される神経伝達物質受容体調節物質は、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩である。いくつかの態様において、治療的有効用量または治療量未満の用量で投与される神経伝達物質受容体調節物質は、ベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)である。非限定的な一例として、ベンズトロピンの治療的有効用量は、1日当たり約1mgから1日当たり約10mgまで(例えば、1日当たり約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9または約10mg)であってよい。したがって、いくつかの態様において、ベンズトロピンの治療量未満の用量は、1日当たり約0.01mgから1日当たり約0.75mgまで(例えば、1日当たり約0.01、約0.05、約0.10、約0.015、約0.20、約0.25、約0.30、約0.35、約0.40、約0.45、約0.50、約0.55、約0.60、約0.65、約0.70または約0.75mg)であってよい。
【0085】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーターまたはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は治療的有効用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は治療的有効用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)であり、かつ免疫調節性物質はフィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、またはインターフェロンβ-1bである。いくつかの態様において、ベンズトロピンは1日当たり約1mgから1日当たり約10mgまでの治療的有効用量で投与され;フィンゴリモドは1日当たり約0.5mgから1日当たり約1.5mgまでの治療的有効用量で投与され;インターフェロンβ-1aは1週当たり約30μgの治療的有効用量で投与され;かつ/またはインターフェロンβ-1bは隔日約250μgから隔日約500μgまでの治療的有効用量で投与される。
【0086】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は治療的有効用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、治療量未満の用量で、例えば、その免疫調節性物質について慣例的に投与される用量の約75%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満である用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)であり、かつ免疫調節性物質はフィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、またはインターフェロンβ-1bである。いくつかの態様において、ベンズトロピンは1日当たり約1mgから1日当たり約10mgまでの治療的有効用量で投与され;フィンゴリモドは1日当たり約0.005mgから1日当たり約0.375mgまでの治療量未満の用量で投与され;インターフェロンβ-1aは1週当たり約0.3μgから1週当たり約23μgまでの治療量未満の用量で投与され;かつ/またはインターフェロンβ-1bは隔日約2μgから隔日約190μgまでの治療量未満の用量で投与される。
【0087】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は、治療量未満の用量で、例えば、その神経伝達物質受容体調節物質について慣例的に投与される用量の約75%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満である用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は治療的有効用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)であり、かつ免疫調節性物質はフィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、またはインターフェロンβ-1bである。いくつかの態様において、ベントロピン(bentropine)は1日当たり約0.01mgから1日当たり約0.75mgまでの治療量未満の用量で投与され;フィンゴリモドは1日当たり約0.5mgから1日当たり約1.5mgまでの治療的有効用量で投与され;インターフェロンβ-1aは1週当たり約30μgの治療的有効用量で投与され;かつ/またはインターフェロンβ-1bは隔日約250μgから隔日約500μgまでの治療的有効用量で投与される。
【0088】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は、治療量未満の用量で、例えば、その神経伝達物質受容体調節物質について慣例的に投与される用量の約75%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満である用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、治療量未満の用量で、例えば、その免疫調節性物質について慣例的に投与される用量の約75%未満、約70%未満、約60%未満、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、または約5%未満である用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質はベンズトロピンまたはその塩(例えば、ベンズトロピンメシル酸塩)であり、かつ免疫調節性物質はフィンゴリモド(FTY720)、インターフェロンβ-1a、またはインターフェロンβ-1bである。いくつかの態様において、ベントロピン(bentropine)は1日当たり約0.01mgから1日当たり約0.75mgまでの治療量未満の用量で投与され;フィンゴリモドは1日当たり約0.005mgから1日当たり約0.375mgまでの治療量未満の用量で投与され;インターフェロンβ-1aは1週当たり約0.3μgから1週当たり約23μgまでの治療量未満の用量で投与され;かつ/またはインターフェロンβ-1bは隔日約2μgから隔日約190μgまでの治療量未満の用量で投与される。
【0089】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は治療的有効用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症)の処置または予防のための治療的有効用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は治療的有効用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症)の処置または予防のための治療量未満の用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は治療量未満の用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症)の処置または予防のための治療的有効用量で投与される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質(例えば、表1に列記されたムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、またはオピオイド受容体モジュレーター、例えば、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、またはそれらの塩など)は治療量未満の用量で投与され、かつ免疫調節性物質(例えば、フィンゴリモド、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、またはナタリズマブ)は、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症)の処置または予防のための治療量未満の用量で投与される。
【0090】
IV.薬学的組成物
別の局面において、本発明は、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、シャルコー・マリー・ツース病、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)関連脊髄症)の処置における使用のための薬学的組成物を提供する。いくつかの態様において、組成物は神経伝達物質受容体調節物質と免疫調節性物質との混合物を含む。いくつかの態様において、薬学的組成物は、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される神経伝達物質受容体調節物質と、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、フィンゴリモド(FTY720)、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、およびアレムツズマブから選択される免疫調節性物質とを含む。いくつかの態様において、薬学的組成物は、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、およびそれらの塩から選択される神経伝達物質受容体調節物質と、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、フィンゴリモド(FTY720)、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、およびアレムツズマブから選択される免疫調節性物質とを含む。いくつかの態様において、薬学的組成物は、ベンズトロピンまたはその塩と、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、およびフィンゴリモド(FTY720)から選択される免疫調節性物質とを含む。
【0091】
いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質の一方または両方は、治療的有効用量または至適用量として製剤化される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質の一方または両方は、治療量未満の用量として製剤化される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は治療的有効用量または至適用量として製剤化され、かつ免疫調節性物質は治療量未満の用量として製剤化される。いくつかの態様において、免疫調節性物質は治療的有効用量または至適用量として製剤化され、かつ神経伝達物質受容体調節物質は治療量未満の用量として製剤化される。神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質の治療的有効用量および治療量未満の用量に関する適した投与量の範囲については上述している。
【0092】
本発明の治療方法のいずれかにおける使用のための作用物質(例えば、本明細書に記載されたようなミエリン形成の増加を刺激する作用物質、または本明細書に記載されたような免疫調節性物質)は、神経伝達物質受容体調節物質の薬学的に許容されるあらゆる塩、プロドラッグ、ラセミ混合物、配座異性体および/または光学異性体、結晶多形、ならびに同位体変種を含む、薬学的に許容される任意の形態にあってよい。
【0093】
神経伝達物質受容体調節物質と免疫調節性物質との組み合わせを、治療的または予防的な投与のための種々の製剤に組み入れることができる。より詳細には、神経伝達物質受容体調節物質と免疫調節性物質との組み合わせを、薬学的に許容される適切な担体または希釈剤との配合によって、薬学的組成物、例えば単一の組成物として製剤化することができ、かつ、錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤、顆粒剤、糖衣剤、ゲル、スラリー、軟膏、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤およびエアロゾルといった、固体、半固体、液体または気体の形態にある調製物として製剤化することができる。このため、本発明の作用物質の投与は、経口的、頬側、非経口的、静脈内、皮内(例えば、皮下、筋肉内)、経皮的などの投与を含む、さまざまな方式で達成することができる。さらに、作用物質を、例えばデポー製剤または持続放出製剤の形で、全身的様式ではなく局所的に投与することもできる。
【0094】
製剤
本発明における使用に適した製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., Gennaro, Ed., Lippencott Williams & Wilkins (2003)に記載があり、これは参照により本明細書に組み入れられる。本明細書に記載の薬学的組成物は、当業者に公知である様式、すなわち、従来の混合、溶解、造粒、糖衣丸製造、研和、乳化、カプセル封入、封入または凍結乾燥の工程によって製造することができる。以下の方法および賦形剤は例示的であるに過ぎず、全く限定的ではない。
【0095】
いくつかの態様において、作用物質は、例えば、治療薬を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスの形にある、持続放出製剤、制御放出製剤、延長放出製剤、持効性放出製剤または遅延放出製剤での送達のために調製される。さまざまな種類の持続放出性材料が確立されており、当業者に周知である。現在の延長放出製剤には、フィルムコート錠剤、多粒子系またはペレット系、親水性または親油性の材料を用いるマトリックス技術、および孔形成性賦形剤を伴うワックス基剤の錠剤が含まれる(例えば、Huang, et al. Drug Dev. Ind. Pharm. 29:79 (2003);Pearnchob, et al. Drug Dev. Ind. Pharm. 29:925 (2003);Maggi, et al. Eur. J. Pharm. Biopharm. 55:99 (2003);Khanvilkar, et al., Drug Dev. Ind. Pharm. 228:601 (2002);およびSchmidt, et al., Int. J. Pharm. 216:9 (2001)を参照)。持続放出送達システムは、その設計に応じて、数時間または数日間にわたって、例えば、4、6、8、10、12、16、20、24時間またはそれよりも長い時間にわたって、化合物を放出することができる。通常、持続放出製剤は、天然ポリマーまたは合成ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)などのポリマー性ビニルピロリドン;カルボキシビニル親水性ポリマー;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの疎水性および/または親水性のヒドロコロイド;ならびにカルボキシポリメチレンを用いて調製することができる。
【0096】
また、持続放出製剤または延長放出製剤を、二酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化亜鉛およびクレイを含む鉱質物などの天然成分を用いて調製することもできる(例えば、米国特許6,638,521号を参照。これは参照により本明細書に組み入れられる)。本発明の化合物の送達に用いうる例示的な延長放出製剤には、米国特許第6,635,680号;第6,624,200号;第6,613,361号;第6,613,358、6,596,308号;第6,589,563号;第6,562,375号;第6,548,084号;第6,541,020号;第6,537,579号;第6,528,080号および第6,524,621号に記載されたものが含まれ、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。特に関心が持たれる制御放出製剤には、米国特許第6,607,751号;第6,599,529号;第6,569,463号;第6,565,883号;第6,482,440号;第6,403,597号;第6,319,919号;第6,150,354号;第6,080,736号;第5,672,356号;第5,472,704号;第5,445,829号;第5,312,817号および第5,296,483号に記載されたものが含まれ、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。当業者には、適用しうる他の持続放出製剤が容易に分かるであろう。
【0097】
本発明の薬学的製剤は塩として提供することができ、塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸などを非限定的に含む多くの酸とともに形成させることができる。塩は、その対応する遊離塩基形態よりも、水性溶媒または他のプロトン性溶媒中に溶けやすい傾向がある。別の場合には、調製物が、4.5〜5.5のpH範囲にある1mM〜50mMヒスチジン、0.1%〜2%スクロース、2%〜7%マンニトール中にあり、使用前に緩衝液と調合される凍結乾燥粉末であってもよい。
【0098】
経口投与のためには、当技術分野において周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって、本発明の作用物質を容易に製剤化することができる。そのような担体によって、化合物を、処置される患者による経口摂取のための錠剤、丸剤、糖衣剤、カプセル剤、乳濁剤、親油性および親水性の懸濁剤、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー、懸濁剤などとして製剤化することが可能になる。経口用の薬学的調製物は、化合物を固体賦形剤と混合し、得られた混合物を任意で粉砕し、所望であれば適した補助剤を添加した後に、錠剤または糖衣剤のコアを得るために顆粒の混合物を加工することによって得ることができる。適した賦形剤には特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖類などの充填剤;例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース調製物がある。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどのような崩壊剤を加えることもできる。
【0099】
経口的に用いうる薬学的調製物には、ゼラチン製の押込嵌めカプセル、ならびにゼラチンとグリセリンもしくはソルビトールなどの可塑剤とでできた密閉軟カプセルが含まれる。押込嵌めカプセルは、有効成分を、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、さらに任意で安定化剤と混合した形で含有することができる。軟カプセルでは、活性化合物を、脂肪油、流動パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールなどの適した液体の中に溶解または懸濁させることができる。加えて、安定化剤を加えることもできる。経口投与用の製剤はすべて、そのような投与に適した投与量であるべきである。
【0100】
糖衣剤のコアには適したコーティングが施される。この目的には濃縮糖溶液を用いることができ、これは任意でアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコールおよび/または二酸化チタン、ラッカー溶液ならびに適した有機溶媒または溶媒混合物を含みうる。活性化合物用量の異なる組み合わせの識別または特徴づけのために、錠剤または糖衣剤のコーティングに染料または色素を添加することができる。
【0101】
作用物質は、ボーラス注射または持続注入などによる注射による非経口投与用に製剤化することができる。注射のためには、化合物を、植物油もしくは他の類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸のエステルまたはプロピレングリコールなどの水性または非水性の溶媒中に、所望であれば可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定化剤および保存料などの従来の添加物とともに溶解、懸濁または乳化させることによって、それらを調製物として製剤化することができる。いくつかの態様においては、本発明の作用物質を、水性溶液中に、好ましくはハンクス溶液、リンゲル液または生理食塩緩衝液などの生理的に適合性のある緩衝液中に製剤化することができる。注射用の製剤は、例えばアンプルまたは多回投与容器の中にある、保存料を添加した単位剤形の形で提供することができる。組成物は、油性もしくは水性の媒体中にある懸濁剤、液剤または乳濁剤などの形態をとることができ、かつ、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤を含有しうる。
【0102】
非経口投与用の医薬は、水溶性形態にある活性化合物の水溶液を含む。さらに、活性化合物の懸濁剤を、適切な油性注射用懸濁剤として調製することもできる。適した親油性溶媒または媒体には、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁剤は、懸濁剤の粘度を高める物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなどを含有しうる。任意で、懸濁剤は、適した安定化剤、または化合物の溶解度を高めて高濃度溶液の調製を可能にする薬剤を含有することもできる。または、有効成分が、適した媒体、例えば、発熱物質を含まない滅菌水によって使用前に構成するための粉末形態にあってもよい。
【0103】
全身投与が、経粘膜的または経皮的な様式によるものであってもよい。経粘膜的または経皮的投与のためには、透過させようとする障壁に適した浸透剤を製剤中に用いる。局所投与のためには、作用物質を軟膏、クリーム、膏薬、粉末およびゲルとして製剤化する。1つの態様において、経皮的送達剤はDMSOであってよい。経皮的送達システムには、例えばパッチが含まれうる。経粘膜的投与のためには、透過させようとする障壁に適した浸透剤を製剤中に用いる。そのような浸透剤は当技術分野において一般に公知である。本発明において用いうる例示的な経皮的送達製剤の例には、米国特許第6,589,549号;第6,544,548号;第6,517,864号;第6,512,010号;第6,465,006号;第6,379,696号;第6,312,717号および第6,310,177号に記載されたものが含まれ、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0104】
頬側投与のためには、作用物質は、従来の様式で製剤化された錠剤またはトローチ剤の形態をとることができる。
【0105】
前述した製剤に加えて、本発明の作用物質を、デポー調製物として製剤化することもできる。そのような長時間作用型製剤は、植込み(例えば、皮下もしくは筋肉内)によって、または筋肉内注射によって投与することができる。すなわち、例えば、作用物質を、適したポリマー性材料もしくは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳濁剤として)またはイオン交換樹脂とともに、または難溶性の誘導体として、例えば難溶性の塩として製剤化することもできる。
【0106】
薬学的組成物が、適した固相またはゲル相の担体または賦形剤を含むこともできる。そのような担体または賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、さまざまな糖類、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーが非限定的に含まれる。
【0107】
本発明における使用に適した薬学的組成物には、有効成分が治療的有効量で含有されている組成物が含まれる。本発明はまた、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節化合物を、組み合わせパートナーとしての他の治療薬、特に脱髄疾患を処置するために用いられるもの、例えば免疫調節性物質などの有効量とともに含む薬学的組成物も企図している。作用物質および/または組み合わせパートナーの有効量は、当然ながら、処置される対象、病気の重症度および投与の様式などに依存すると考えられる。有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示を踏まえれば、十分に当業者の能力の範囲内にある。一般に、薬剤の効果的な量または有効量は、低用量または少量をまず投与し、続いて、処置される対象において、有害な副作用をわずかしか伴わないかまたは全く伴わずに所望の治療効果が観察されるまで、投与する用量または投与量を漸増させることによって決定される。本発明の投与のための適切な用量および投薬計画を決定するために適用しうる方法は、例えば、Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 11th Ed., Brunton, Lazo and Parker, Eds., McGraw-Hill (2006)、およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., Gennaro, Ed., Lippencott Williams & Wilkins (2003)に記載されており、これらはいずれも参照により本明細書に組み入れられる。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質の一方または両方は、治療的有効用量で製剤化される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質の一方または両方は、治療量未満の用量で製剤化される。いくつかの態様において、神経伝達物質受容体調節物質は治療的有効用量で製剤化され、かつ免疫調節性物質は治療量未満の用量で製剤化される。いくつかの態様において、免疫調節性物質は治療的有効用量で製剤化され、かつ神経伝達物質受容体調節物質は治療量未満の用量で製剤化される。
【0108】
薬学的調製物は、好ましくは単位剤形にある。そのような形態において、調製物は、適切な分量の活性成分を含有する単位用量に細分される。単位剤形は、パック入り錠剤、カプセル剤、およびバイアルまたはアンプルの中にある粉末のような個々の分量の調製物をパッケージが含む、パッケージ化された調製物であってよい。また、単位剤形が、カプセル剤、錠剤、カシェ剤もしくは糖衣剤それ自体であってもよく、またはそれが、パッケージ化された形態にある適切な数のこれらのいずれかであってもよい。
【0109】
投与
神経伝達物質受容体調節物質および/または免疫調節性物質の投与は、経口的投与;頬側投与;静脈内、皮内、皮下、筋肉内、経皮的、経粘膜的、鼻腔内などを含む非経口的投与を含む、さまざまな方式で達成することができる。神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質を併用投与する場合には、神経伝達物質受容体調節物質を、免疫調節性物質と同じ投与経路によって投与することも異なる投与経路によって投与することもできる。いくつかの態様において、本発明の化合物(例えば、神経伝達物質受容体調節物質および/または免疫調節性物質)は全身的に投与される。
【0110】
投与の投与量および頻度は、例えば、対象の疾患の重症度を含む、当業者によって一般に認識されているさまざまな要因に依存すると考えられる。一般に、1日の用量は、約0.001〜100mg/kg全体重から、約0.01〜50mg/kgから、または約0.01mg/kgから、10mg/kgまでの範囲にわたりうる。しかし、1日当たり10〜500mg/kgの範囲にある用量が、有効であってかつ十分に忍容されることもある。適切な用量を定める上での主な決定要因は、特定の状況において治療的に有効であるために必要な特定の化合物の量である。より長期的に持続する免疫寛容を実現するために反復投与が必要なこともある。化合物の単回投与または多回投与を、処置に当たる医師によって選択された用量レベルおよびパターンで行うことができる。
【0111】
いくつかの態様において、本発明の化合物(例えば、神経伝達物質受容体調節物質および/または免疫調節性物質)は、それを必要とする対象に対して長期間にわたって投与される。本方法を、少なくとも20日間、いくつかの態様においては少なくとも40、60、80または100日間、さらにいくつかの態様においては少なくとも150、200、250、300、350日間、1年またはより長い期間にわたって行うことができる。いくつかの態様において、本発明の化合物(例えば、神経伝達物質受容体調節物質および/または免疫調節性物質)は、それを必要とする対象に対して、脱髄疾患の1つまたは複数の症状の発症時またはその後に投与される。いくつかの態様において、本発明の化合物(例えば、神経伝達物質受容体調節物質および/または免疫調節性物質)は、それを必要とする対象に対して、脱髄疾患の症状の発症前に(すなわち、予防的に)投与される。
【0112】
併用投与
いくつかの態様において、本発明の方法は、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質を併用投与する段階を含む。併用投与される作用物質は、一緒に投与しても別々に投与してもよく、同じ時に投与しても異なる時に投与してもよい。投与される場合、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質は、必要に応じて、毎日1回、2回、3回、4回またはそれよりも多いかまたは少ない頻度で、独立に投与することができる。いくつかの態様において、これらの作用物質は1日1回投与される。いくつかの態様において、これらの作用物質は同じ1つまたは複数の時点で、例えば混合物として投与される。作用物質の1つまたは複数を持続放出製剤として投与することができる。
【0113】
いくつかの態様において、併用投与は、1つの活性作用物質を、第2の活性作用物質の0.5、1、2、4、6、8、10、12、16、20または24時間以内に投与することを含む。併用投与は、2つの活性作用物質を、同じ時に、ほぼ同じ時に(例えば、互いに約1、5、10、15、20もしくは30分以内に)、または任意の順序で逐次的に投与することを含む。いくつかの態様において、併用投与は、配合製剤(co-formulation)、すなわち両方の活性作用物質を含む単一の薬学的組成物を調製することによって実現しうる(すなわち、神経伝達物質受容体調節物質と免疫調節性物質が単一の製剤として投与される)。他の態様においては、活性作用物質を別々に製剤化することができる(すなわち、神経伝達物質受容体調節物質と免疫調節性物質が別々の製剤として投与される)。別の態様において、活性作用物質および/または補助作用物質を互いに連結させること、または結合体化することもできる。
【0114】
いくつかの態様においては、神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質の一方または両方を、脱髄疾患の症状の望ましくない再発を予防するため(例えば、MSにおける臨床的発作の再発を予防するかもしくは遅らせるため)に予防的に投与すること、または脱髄疾患の症状の所望の軽減を実現し、かつ脱髄疾患の症状のそのような軽減を持続的期間にわたって維持するために治療的に投与することができる。
【0115】
V.キット
別の局面において、本発明は、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症、特発性炎症性脱髄疾患、横断性脊髄炎、ドヴィック病、進行性多巣性白質脳症、視神経炎、白質ジストロフィー、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、自己免疫性末梢性神経障害、シャルコー・マリー・ツース病、急性播種性脳脊髄炎、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、レーバー遺伝性視神経障害、またはヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)関連脊髄症)の処置における使用のためのキットを提供する。いくつかの態様において、キットは、ムスカリン受容体アンタゴニスト、ドーパミン受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、βアドレナリン受容体モジュレーター、およびオピオイド受容体モジュレーターから選択される神経伝達物質受容体調節物質を含む。いくつかの態様において、キットは、表1に列記された化合物から選択される神経伝達物質受容体調節物質を含む。いくつかの態様において、キットは、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、およびそれらの塩から選択される神経伝達物質受容体調節物質を含む。いくつかの態様において、キットはベンズトロピンまたはその塩を含む。
【0116】
いくつかの態様において、本発明のキットは、免疫調節性物質をさらに含む。いくつかの態様において、キットは、神経伝達物質受容体調節物質と、MSの処置用の免疫調節性物質(例えば、インターフェロンβ、例えば、インターフェロンβ-1aまたはインターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、フィンゴリモド(FTY720)、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、またはアレムツズマブ)とを含む。いくつかの態様において、キットは、ベンズトロピン、クレマスチン、サルメテロール、サルブタモール、トリフルオペラジン、およびそれらの塩から選択される神経伝達物質受容体調節物質と、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、酢酸グラチラマー、ミトキサントロン、フィンゴリモド(FTY720)、ナタリズマブ、リツキシマブ、ダクリズマブ、およびアレムツズマブから選択される免疫調節性物質とを含む。いくつかの態様において、キットは、ベンズトロピンまたはその塩と、インターフェロンβ-1a、インターフェロンβ-1b、およびフィンゴリモド(FTY720)から選択される免疫調節性物質とを含む。
【0117】
いくつかの態様において、キットは、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と、免疫調節性物質とを、単一の製剤中に含む。いくつかの態様において、キットは、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と、免疫調節性物質とを、別々の製剤中に含む。神経伝達物質受容体調節物質および免疫調節性物質に適する製剤は、本明細書に記載されている。いくつかの態様において、キットは、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と、1つまたは複数の追加的な治療薬(例えば、免疫調節性物質)とを、処置の過程全体を通じて一定の投与量の製剤として独立に提供する。いくつかの態様において、キットは、本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と、1つまたは複数の追加的な治療薬(例えば、免疫調節性物質)とを、個体の必要性に応じて、処置の過程にわたって増加するか減少するかのいずれかの、しかし通常は効果的な投与量レベルへと増加する、段階的に変化する投与量として、独立に提供する。いくつかの態様において、キットは、治療的有効用量にある本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と、治療的有効用量にある免疫調節性物質とを含む。いくつかの態様において、キットは、治療的有効用量にある本明細書に記載されたような神経伝達物質受容体調節物質と、治療量未満の用量にある免疫調節性物質とを含む。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は、特許請求される本発明を限定するためではなく、それを例示するために提供される。
【0119】
実施例1:OPC分化の誘導物質を同定するための低分子スクリーニング
成熟ミエリン形成運命へのオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の分化を促進する低分子を同定するために、大規模な低分子スクリーニングを実施した。ハイコンテンツ画像化を用いて、ラット眼神経由来のOPCのウェル内分化を検出した。ラット眼神経由来のOPCを、30ng/mLのPDGFααを含有するOPC用培地中で一括して増大させた。OPC分化の低分子誘導物質に関するスクリーニングのために、OPC(培養は15継代未満とした)を、ポリ-D-リジンでコーティングした384ウェル培養プレートに、2ng/mLのPDGFααを含有するOPC用培地中にてプレーティングして、最終濃度6μMの化合物(0.6% DMSO)で直ちに処置した。化合物で処置した細胞を、37℃、5% CO
2にて6日間インキュベートした。6日間の終了時に、細胞を4%パラホルムアルデヒド中に固定して、免疫蛍光分析に供した。ブロッキング緩衝液(3% BSA、0.3% Triton X-100、PBS中)中の抗ミエリン塩基性タンパク質モノクローナル抗体(a.a. 129-138、クローン1モノクローナル抗体、Millipore)(1:1000希釈)を、固定および洗浄した細胞に添加し、4℃で一晩インキュベートした。一次抗体溶液を除去し、細胞をPBSで洗浄した後に、ヤギ抗マウスIgG Alexa fluor488(Invitrogen)二次抗体(1:1000希釈)およびDAPI(2ug/mL)を含むブロッキング緩衝液によるインキュベーションを25℃で1時間行った。二次抗体溶液をPBSで洗浄し、OPERAハイコンテンツスクリーニングシステム(Perkin Elmer)を用いてプレートを画像化した。細胞スコア化に基づく画像解析アルゴリズムを、MBP陽性細胞の同定およびスコア化のために用いた。400個超の細胞/視野および5%超のMBP陽性細胞/視野を誘導したヒットを、化合物として同定した。DMSO陰性対照に関する平均値は、常にMBP陽性率0.5%未満であった。市販の低分子スクリーニング用集成物(LOPAC, Tocris, Enzo)で構成される合計6058種の化合物をスクリーニングした。合計104個の一次ヒットが同定された。これらは、OPCを分化させるいくつかの公知の誘導物質(例えば、レテノイド(retenoid)、ステロール、ヌクレオシド類似体、Rhoキナーゼ阻害薬)のほか、これまでに同定されていないいくつかのOPC分化誘導物質(例えば、神経伝達物質調節物質)からなった。
【0120】
同定された一次ヒットを、引き続き、OPC分化を判定するために一次アッセイ形式を用いる複数の反復実験におけるEC
50値を求めることによって評価した。細胞を、DMSO中に段階希釈した化合物(1:3で10回希釈、71μM〜4nMの範囲にわたる)で処置した。染色および画像化は、一次スクリーニングに関して記載した通りに行った。EC
50値は、Graphpad Prism 5.0中の適切なカーブフィッティング式を用いて求めた。
図1Aは、同定された6つのヒット(カルベタペンタン、クレマスチン、ベンズトロピン、トリフルオペラジン、サルメテロールおよびGBR12935)に関するEC
50を示しており、これらはすべて、FDAにより承認された血液脳関門通過性薬物である。
図1はまた、同定されたこれらの6つのヒットの、さまざまな濃度でのOPCの分化を誘導する能力(ミエリン塩基性タンパク質(MBP)陽性細胞のパーセンテージにより測定)も示している(
図1B)。これらの作用物質のそれぞれに関して、OPC試料を最大効力での作用物質とともに培養した場合に、結果的に得られたMBP陽性細胞のパーセンテージは少なくとも10%であった(
図1C)。GBT12935に関しては、結果的に得られたMBP陽性細胞のパーセンテージは15%を上回った。これらの結果は、カルベタペンタン、クレマスチン、ベンズトロピン、トリフルオペラジン、サルメテロールおよびGBR12935が、いずれもOPC分化を促進することを示している。
【0121】
実施例2:低分子スクリーニングによるヒットのバリデーション
一次スクリーニングによって同定されたいくつかのクラスの神経伝達物質受容体調節物質を、FDA承認状況、公知の毒性、および脳での薬物動態学的に基づいて、以降のインビトロおよびインビボでのバリデーションアッセイでの評価のために選択した。完全に成熟したミエリン形成オリゴデンドロサイト細胞運命へのOPCの強力な分化を誘導する化合物の能力を、定量的RT-PCR、ウエスタンブロット法および免疫蛍光分析手法を用いてインビトロで評価した。インビボ(炎症性傷害の存在下)で再ミエリン化を誘導する化合物の能力については、再発性多発性硬化症のプロテオリピドタンパク質(PLP)誘発性実験的自己免疫性脳炎(EAE)マウスモデルを用いて評価した。
【0122】
DMSO(陰性対照)、T3(陽性対照)、ベンズトロピン、カルベタペンタン、クレマスチン、トリフルオペラジン、GBR12935またはサルメテロールとともに培養したOPC試料に対して、ミエリン形成オリゴデンドロサイトのマーカーであるMBPおよびMOGの発現レベルを測定するために、定量的RT-PCR(「qRT-PCR」)およびウエスタンブロット分析を行った。
図2Aに示されているように、ベンズトロピン、カルベタペンタン、クレマスチン、GBR12935またはサルメテロールとともに培養したOPC試料はすべて、MBPおよびMOGの発現に関して陽性であった。qRT-PCRからは、ベンズトロピン、カルベタペンタン、クレマスチン、トリフルオペラジン、GBR12935またはサルメテロールとともに培養したOPC試料について、MBPおよびMOGの2倍またはそれを上回る発現の誘導が示された(
図2B〜C)。
【0123】
ヒットがオリゴデンドロサイト成熟を誘導しうることを確かめるために、免疫蛍光も利用した。
図3および4に示されているように、免疫蛍光分析により、ベンズトロピン、カルベタペンタン、クレマスチン、トリフルオペラジン、GBR12935またはサルメテロールによるインビトロ培養物の処置後に、成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイトの複数のマーカー(MBP、MOG、CNP、GalC、O1およびO4)の存在が確認された。
【0124】
これらの化合物のうちの2つ、トリフルオペラジンおよびベンズトロピンについて、多発性硬化症のモデルであるプロテオリピドタンパク質(PLP)誘発性実験的自己免疫性脳炎(EAE)マウスにおいてインビボで試験した。10週齢SJLマウスに対して、EAEを誘発させるためにPLPエマルジョンおよび百日咳毒素による免疫処置を行った。免疫処置後10日以内にマウスにおいてEAE症状が発症した。EAEを発症したマウスでは、尾運動の障害から四肢すべての麻痺までの範囲にわたる神経学的欠陥が認められ、最も重度の症状が約4日間持続し、その後は寛解期間となった。化合物は、単独で10mg/kgを無菌生理食塩水中に有する100ulとして、またはpH 5の無菌生理食塩水中20mg/kgのミコフェノール酸モフェチルと組み合わせて、腹腔内注射によって毎日投与した。化合物投与は疾患発症時(第10日)に開始し、一方、ミコフェノール酸モフェチル投与は第14日に開始した。マウスを0〜5の標準的なEAEスケールで毎日スコア化した。MS様症状がマウスの65〜100%で誘発された。至適用量未満の用量で用いたミコフェノール酸モフェチルは、再発の重症度の低下を示した(
図5A)。トリフルオペラジンは、急性期後の回復時間の軽度の減少を示した(
図5D〜E)。トリフルオペラジンおよびベンズトロピンはそれぞれ単独で、化合物処置動物に関するEAEスコアが媒体対照と比較して有意に低いこととして測定されたように、再発の強度を有意に低下させた(
図5B、D)。化合物で処置したマウスでは、ミコフェノール酸モフェチルの存在下において再発は全く観察されなかった(
図5C、E)。このように、トリフルオペラジンおよびベンズトロピンは再発を予防し、かつ、対照と比較して運動機能および認知機能を向上させた。
【0125】
別の組の実験では、EAEモデルにおいて、4種の化合物(ベンズトロピン、クレマスチン、トリフルオペラジンおよびサルブタモール)をインビボで試験した。
図34Aに示されているように、ベンズトロピン(10mg/kg)を予防様式で処置したマウスでは、媒体処置マウスと比較して、疾患の急性相および再発相のいずれにおいても有意に低下した臨床的重症度が示された。治療的様式では、ベンズトロピン(
図34C)、トリフルオペラジン(
図34D)、クレマスチン(
図34E)およびサルブタモール(
図34E)のそれぞれは、媒体処置マウスと比較して、疾患の再発相において有意に低下した臨床的重症度を示した。
【0126】
同定されたOPC分化誘導物質の薬理学的機序についても調べた。同定された作用物質によるOPC分化の誘導には複数の薬理学的機序が存在することが明らかになった。例えば、
図6Aに示されているように、カルバコールによるムスカリン受容体活性化作用(agonism)により、ベンズトロピン、カルベタペンタンおよびクレマスチンによって誘導されるOPC分化が阻害され、このことは少なくとも一部のOPC分化誘導物質の機序がムスカリン受容体拮抗作用であることを示唆する。別のムスカリン受容体アンタゴニストであるアトロピンおよびイプラトロピウムもOPC分化を誘導する。しかし、カルバコールは、サルメテロール、GBR12935またはトリフルオペラジンによって誘導されるOPC分化を阻害せず、このことはこれらの作用物質が1つまたは複数の薬理学的機序によってOPC分化を誘導することを示唆する。
【0127】
実施例3:多発性硬化症の処置のための、幹細胞を利用する戦略
慢性的に脱髄が起こったMS病変の部位でのOPCの存在および相対密度を評価することを目的とした諸研究により、疾患進行に寄与するのはOPCの再増殖または遊走の不全ではなく、傷害部位でのOPC分化の阻害であることが示されている(D. M. Chari, W. F. Blakemore, Glia, 37, 307 (2002);D. M. Chari et al., J Neurosci Res, 73, 787 (2003);G. Wolswijk, J Neurosci, 18, 601 (1998);A. Chang et al., N Engl J Med, 346, 165 (2002);T. Kuhlmann et al., Brain, 131, 1749 (2008))。このため、脱髄病変の部位でのOPCの分化を選択的に誘導する薬物様低分子の同定は、MSに対する新たな有効な処置の開発に対して大きな影響を及ぼすと考えられる(D. Kremer et al., Ann Neurol, 69, 602 (2011))。
【0128】
齧歯動物およびヒトの初代OPCは、PDGFを含む無血清培地中で培養すると、インビトロで増殖する(C. Ffrench-Constant, M. C. Raff, Nature, 319, 499 (1986);M. C. Raff et al., J Exp Biol, 132, 35 (1987))。PDGFの投薬中止により、未熟OPCは増殖を停止するが、成熟ミエリン塩基性タンパク質(MBP)陽性運命へと効率的に分化することもできなくなる(
図11)。OPC分化の公知の誘導物質であるトリヨードサイロニン(T3)(M. C. Nunes et al., Nat Med, 9, 439 (2003);N. Billon et al., Dev Biol, 235, 110 (2001);N. Billon et al., EMBO J, 21, 6452 (2002);Y. M. Tokumoto, D. G. Tang, M. C. Raff, EMBO J 20, 5261 (2001);Fernandes, 2004;L. Calza, M. Fernandez, L. Giardino, J Mol Endocrinol, 44, 13 (2010))の、マイトジェン投薬中止時点での添加は、6日間の培養後に、MBP陽性オリゴデンドロサイトへのOPCの分化をもたらす(
図11)。残念ながら、T3は複数の生理学的作用を有するため、これはOPC分化に基づく治療薬として魅力的ではない。
【0129】
OPC分化を誘導する薬物様低分子を同定するために、本発明者らは、基本的分化条件下で6日間培養したラット眼神経由来の初代OPCにおけるMBP発現の誘導に基づくハイコンテンツ画像化アッセイを開発した。アッセイを384ウェル形式に適応させて、公知の生物活性化合物の集成物、ならびにほぼ5万種の構造的に多様な薬物様分子の集成物のスクリーニングに用いた。これにより、レチノイド、コルチコステロイド、ヌクレオシド類似体、Rhoキナーゼ阻害薬およびErbB阻害薬(M. J. Latasa et al., Glia, 58, 1451 (2010);C. E. Buckley et al., Neuropharmacology, 59, 149 (2010);L. Joubert et al., J Neurosci Res, 88, 2546 (2010);A. S. Baer et al., Brain 132, 465 (2009);A. S. Paintlia et al., Mol Pharmacol, 73, 1381 (2008);C. Ibanez et al., Prog Neurobiol, 71, 49 (2003);L. Giardino, C. Bettelli, L. Calza, Neurosci Lett, 295, 17 (2000))を含む、これまでに同定された複数のOPC分化誘導物質の同定に至ったが、オフターゲット活性、毒性、またはインビボ有効性の不足が実証されていることが理由で、これらの治療上の可能性は限定的である。驚くべきことに、最も有効なOPC分化誘導物質は、OPC分化活性がこれまで報告されていないベンズトロピン(EC
50がほぼ350nM)であった(
図7Aおよび12)。本発明者らは、この化合物が血液脳関門を容易に通過し、それ故にMSに対する新たな処置としての概念実証研究に速やかに移行しうる可能性のある、経口的に利用しうる忍容性良好なFDA承認薬であることから、その活性をさらに調べることにした。
【0130】
RT-PCRおよびウエスタンブロット分析によって、それぞれ、オリゴデンドロサイト特異的マーカーMBPおよびミエリンオリゴデンドログリア糖タンパク質(MOG)の転写レベルおよび翻訳レベルを評価することにより、ベンズトロピンにより誘導される齧歯動物OPCのインビトロ分化が確かめられた(
図7Bおよび13)。さらに、6日間の化合物処置後の、成熟オリゴデンドロサイトにおいて特異的に発現される複数のマーカー(MBP、MOG、2',3'-サイクリック-ヌクレオチド3'-ホスホジエステラーゼ(CNP)、ガラクトセレブロシダーゼ(GalC)、オリゴデンドロサイトマーカーO1(O1)およびオリゴデンドロサイトマーカーO4(O4)を含む)を用いる免疫蛍光分析によって、インビトロOPC分化活性も評価した(
図14)。さらに、ベンズトロピンで6日間処置したOPCの全体的な遺伝子発現プロファイルは、T3で処置した陽性対照細胞から得られるものとクラスターを形成することが見いだされた(
図15)。増殖のために必要なOPC特異的遺伝子(例えば、Idr2、Egr1、Sox11;V. A. Swiss et al., PLoS One, 6, e18088 (2011))の下方制御、および成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイト特異的遺伝子(例えば、脂質代謝、ミエリン関連タンパク質(V. A. Swiss et al., PLoS One, 6, e18088 (2011))の上方制御が、ベンズトロピンによるOPCの処置後に観察された(
図16)。ベンズトロピンに活性があるOPC分化のステージを明らかにするために(Gard, Neuron, 3, 615 (1990);A. L. Gard, S. E. Pfeiffer, Dev Biol, 159, 618 (1993);D. Avossa, S. E. Pfeiffer, J Neurosci Res, 34, 113 (1993);R. Aharoni et al., Proc Natl Acad Sci U.S.A., 102, 19045 (2005))、本発明者らは、OPCを複数の時点から始めて種々の持続時間にわたって処置した(
図17)。MBP発現の最大の誘導は、PDGF投薬中止から48時間以内に化合物を添加して、そのまま5日間インキュベートした場合に観察され(
図17)、このことはこの薬物が未熟A2B5陽性OPCに対しては作用するが中間的な「プレ-オリゴデンドロサイト」分化ステージに対しては作用しない可能性が高いことを示している。
【0131】
ベンズトロピンはパーキンソン病の管理のために臨床的に用いられており、その薬理活性は、ドーパミンとアセチルコリンとの間の不均衡を減少させる抗コリン活性に起因すると考えられている(A. J. Eshleman et al., Mol Pharmacol, 45, 312 (1994);R. Katsenschlager et al., Cochrane Database Syst Rev, CD003735 (2003);J. T. Coyle and S. H. Snyder, Science, 166, 899 (1969))。その抗コリン活性に加えて、ベンズトロピンは中枢作用性の抗ヒスタミン薬およびドーパミン再取り込み阻害薬でもある(G. E. Agoston et al., J Med Chem, 40, 4329 (1997);J. L. Katz et al., J Pharmacol Exp Therap, 309, 605 (2004);D. Simoni et al., J Med Chem, 48, 3337 (2005))。ベンズトロピンの作用機序を明らかにするために、本発明者らは、ムスカリン性アセチルコリン受容体(mAChR)の選択的アゴニスト(例えば、カルバコール)またはヒスタミン受容体の選択的アゴニスト(例えば、ヒスタミンおよびヒスタミントリフロロメチル-トルイジン(trifloromethyl-toluidine)(HTMT))の、ベンズトロピン活性を遮断する能力を評価した。カルバコールの存在下では、ベンズトロピンにより誘導されるOPC分化の強力な阻害が観察されたが(
図7Cおよび18)、ヒスタミンおよびHTMTはいずれも観察しうる影響を及ぼさなかった(
図19)。加えて、ドーパミン受容体アンタゴニストハロペリドールもドーパミン受容体アゴニストキンピロールも、ベンズトロピンによるOPC分化の誘導に影響しなかった(
図20)。キンピロールは単独で用いた場合にも目立った分化を誘導しなかった(データは示さず)。本発明者らはこのため、次に、一団のmAChRアンタゴニスト(アトロピン、オキシブチニン、スコポラミン、イプラトロピウムおよびプロピベリン)を評価したところ、そのすべてがOPC分化を用量依存的な様式で誘導したことが見いだされた(
図21)。OPCはmAChRを、主としてサブタイプM
1、M
3およびM
5を発現する(F. Ragheb et al., J Neurochem, 77, 1396 (2001))。本発明者らは、RT-PCRにより、OPCにおけるこれらの受容体、ならびにアセチルコリン合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼの発現も確認した(
図22)。カルバコールにより誘導される mAChRの活性化は、MAPK/ERK経路のプロテインキナーゼ-C依存的活性化の引き金となり、c-Fos発現の調節を招く(F. Ragheb et al., J Neurochem, 77, 1396 (2001))。ベンズトロピンで処置したOPCのウエスタンブロット分析は、この経路の全般的阻害と合致していた(すなわち、リン酸化p42/44MAPKおよびリン酸化Aktの減少、ならびにp38MAPKおよびCREBのリン酸化の賦活)(
図23A)。さらに、ベンズトロピンで処置したOPCではサイクリンD1、サイクリンD2、c-Fosおよびc-Junの転写物レベルが有意に低下し、このことはMAPK/ERK依存的な細胞周期進行の全般的阻害を伴う機序と合致する(
図23B)。M
1およびM
3 mAChRの活性化はホスホリパーゼCを介して下流シグナル伝達イベントと共役しており、これは細胞内カルシウム濃度の上昇をもたらす(F. Ragheb et al., J Neurochem, 11, 1396 (2001))(
図23C)。M
2およびM
4 mAChRの活性化はアデニル酸シクラーゼを阻害し、細胞内cAMPレベルの低下を招く(C. C. Felder, FASEB J, 9, 619 (1995);M. Lopez-Ilasaca et al., Science, 275, 394 (1997))。OPCにおいて、ベンズトロピンは、カルバコールにより誘導されるカルシウム流入を阻害するが、cAMPレベルには影響を及ぼさない(
図24)。以上を総合すると、これらの結果は、ベンズトロピンが、M
1/M
3ムスカリン受容体の直接的な拮抗作用を伴う機序によってOPC分化を誘導することを示唆する。アセチルコリンはOPC増殖の公知のレギュレーターであり、このため、ムスカリン受容体サブタイプは、OPCの増殖および分化の調節のための、根拠のある治療標的クラスである(F. De Angelis et al., Dev Neurobiol, (2011))。
【0132】
本発明者らは次に、再発寛解型MSのミエリンプロテオリピドタンパク質(PLP)誘発性実験的自己免疫性脳炎(EAE)齧歯動物モデル(D. A. Sipkins, J Neuroimmunol, 104, 1 (2000);T. Owens, S. Sriram, Neurol Clin, 13, 51 (1995))におけるベンズトロピンの活性について検討した。このモデルは、免疫調節性物質の潜在的有効性を評価するために用いられることが最も一般的であるが、OPC分化を強化することによって機能するミエリン形成誘発性作用物質の有効性を判定するために用いることもできる(M. Fernandez et al., Proc Natl Acad Sci U.S.A, 101, 16363 (2004);X. Lee et al., J Neurosci, 21, 220 (2007);R. J. Franklin, C. Ffrench-Constant, Nat Rev Neurosci, 9, 839 (2008)に総説がなされている)。ベンズトロピン(10mg/kg)を、PLPによる8週齢SJLマウスの免疫処置の開始時に開始する毎日の腹腔内(IP)注射レジメンを用いて予防的に投薬した。ベンズトロピンは疾患の急性期の重症度を劇的に低下させ、媒体で処置した対照とは対照的に、再発相の観察所見を事実上消失させた(
図8Aおよび25)。本発明者らは次に、疾患発症の最初の徴候の時点で毎日の注射を開始することによってこの薬物を治療的に投薬した場合の有効性を評価した。この様式でのベンズトロピンによる処置でも、同じく機能的回復がもたらされ、寛解相における臨床的重症度の有意な低下が観察されるとともに、再発の発生はやはり事実上消失した(
図8A)。事実、この様式でのベンズトピン(benztopine)による処置は、免疫調節性MS薬であるFTY720またはインターフェロンβ(最大耐容用量近くで投薬した)で観察されたものを上回って、観察される臨床的重症度の低下をもたらした(
図8A)。
【0133】
並行した実験において、再発相の間に(第23〜25日)、本発明者らは、ベンズトロピンまたは媒体で処置したマウスから脊髄を単離した上で、各脊髄の複数の領域由来の切片をルクソールファストブルー(LFB)(ミエリンを可視化するため)またはH&E(浸潤性免疫細胞を可視化するため)で染色した。媒体およびベンズトロピンで処置したいずれのマウスからの切片においても、H&E反応性免疫細胞による顕著な浸潤が認められた(
図26)。媒体処置マウスでは、浸潤領域は顕著な脱髄を有する領域に対応していた(
図26)。対照的に、ベンズトロピン処置マウスでは、LFBに関して陽性染色される領域に多数の免疫細胞が浸潤しており、このことは幹細胞-対(versus)-免疫調節機構に合致する(
図26)。本発明者らはさらに、共焦点顕微鏡検査を用いて、成熟オリゴデンドロサイトのマーカー(GST-π)および未熟OPCのマーカー(NG2)で染色した脊髄切片におけるT細胞浸潤の領域を検討することによって、薬物により強化される再ミエリン化について評価した(
図8B)。各群当たり複数のランダムな視野の定量的画像解析により、ベンズトロピン処置は、GST-π陽性成熟オリゴデンドロサイトの数の、視野当たりほぼ500個からほぼ1100個への有意な増加を引き起こし(
図8C)、一方、NG2陽性細胞の数は処置による有意な差異はなかったことが示されている(
図8C)。T細胞浸潤部位における観察された成熟オリゴデンドロサイト数の増加は、炎症環境の状況における再ミエリン化の強化を招くOPC分化の刺激を伴う、ベンズトロピンにより誘導される臨床的回復の機序に合致する。注目すべきこととして、全身毒性は薬物で処置したマウスでは観察されず、4週間にわたる10mg/kgでの毎日の注射後のこの組織学的分析でも観察されなかった(すなわち、薬物により誘発される脱髄は観察されなかった)。
【0134】
MSおよびEAEに関与する主要な免疫学的過程はT細胞媒介性であり、一次処置のパラダイムは免疫調節性薬物をベースとする(T. Kopadze et al., Arch Neurol, 63, 1572 (2006);J. M.Greer et al., J Immunol, 180, 6402 (2007), M. P. Pender and J. M. Greer, curr Allergy Asthma Rep, 7, 285 (2007))。EAEモデルにおけるベンズトロピンの有効性が少なくとも一部にはT細胞阻害活性に起因するか否かを明らかにするために、本発明者らは、T細胞の活性化および増殖に対するベンズトロピンの影響を評価した。ベンズトロピンは、CD4
+/CD69
+およびCD4
+/CD25
+集団を評価すること、ならびにCFSEアッセイを用いることによってそれぞれ明らかにされたように、インビトロでのT細胞の活性化および増殖のいずれに対しても何ら影響を及ぼさなかった(
図27)。本発明者らは、PLPによってEAEを誘発させたか、または誘発させていないSJLマウスにおいて、インビボの免疫系に対するベンズトロピンの影響を評価した。罹患動物または健常動物のいずれにおいても、ベンズトロピンは、流血中脾細胞、CD4
+細胞、CD8
+細胞、CD4
+/CD44Hi細胞およびCD8
+/CD44Hi細胞の数に対して何ら影響を及ぼさなかった(
図28および29)。B細胞数の軽微ではあるが有意な減少が、ベンズトロピンによる処置後に観察された(
図28および29)。ベンズトロピンによる処置は、薬物または媒体で処置した正常マウスまたは罹患マウスから単離したCD4
+/IL2
+、CD4
+/IFN-γ
+、CD4
+/IL-10
+およびCD4
+/TNF-α
+ T細胞集団を評価することによって明らかにされたように、サイトカイン産生に対して何ら影響を及ぼさなかった(
図28および29)。本発明者らはまた、TNP-LPSおよびTNP-フィコールによって誘導されるT細胞依存性応答に対する、ならびにTNP-KLHによって生じるT細胞非依存性応答に対するベンズトロピンの影響も検討した。ベンズトロピンは、これらの抗原のいずれかに反応して起こるIgGおよびIgMの産生に対して何ら影響を及ぼさなかった(
図30)。
【0135】
本発明者らはさらに、T細胞非依存的なクプリゾン誘発性の脱髄モデルを用いて、インビボでOPC分化を誘導して再ミエリン化を強化するベンズトロピンの能力も評価した。このモデルでは、マウスに対して、ミトコンドリア機能不全を引き起こしてCNS脱髄を招く酸化/硝酸化ストレスをもたらす銅キレート剤であるビス(シクロヘキシリデンヒドラジド)(クプリゾン)を与える(P. Mana et al., Am J Pathol, 168, 1464 (2006);M. Lindner et al., Glia, 56, 1104 (2008);P. Mana et al., J Neuroimmunol, 210, 13 (2009);L. Liu et al., Nat Neurosci, 13, 319 (2010);A. J. Steelman, J. P. Thompson, J. Li, Neurosci Res, 72, 32 (2012))。このモデルで観察される脱髄病変はIII型パターンのMS病変によく類似しており、造血性免疫細胞による寄与はごくわずかである(L. Liu et al., Nat Neurosci, 13, 319 (2010);C. Lucchinetti et al., Ann Neurol 47, 707 (2000);L. T. Remington et al., Am J Pathol, 170, 1713 (2007))。C57BL/6マウスの食餌に0.2%(w/v)クプリゾンを含めることにより、定まった一連のイベントが特徴的な経時的推移で進行する脱髄プログラムが誘導され、脳梁が6〜7週間の給餌後に脱髄のピークを示す(T. Skripuletz et al., Am J Pathol, 172, 1053 (2008))。自発的な再ミエリン化が、クプリゾン投薬中止から2〜4週後に観察される((T. Skripuletz et al., Am J Pathol, 172, 1053 (2008))。クプリゾン非含有食餌を再投入する時点で薬物を投与することにより、OPC依存的な再ミエリン化の相対的動態を評価することによって、ミエリン形成誘発性作用物質の有効性を検討することができる(T. Skripuletz et al., Am J Pathol, 172, 1053 (2008))。7週間の曝露後にクプリゾンの投薬を中止して、本発明者らは15週齢C57BL/6マウスに対してベンズトロピン(10mg/kg)を腹腔内投与した。薬物または媒体で処置したマウスを、薬物処置後に5匹ずつの群で5週間にわたって毎週屠殺し、採取した脳の脳梁領域をLFBで染色することによって再ミエリン化を定量的に評価した(
図9A、B)。クプリゾンによる7週間の処置後には、対照動物とは対照的に、顕著な脱髄が明らかに観察された。OPC分化の強化および再ミエリン化の促進と合致して、ベンズトロピンによる処置後の第2週の時点で、媒体対照で観察された自発的な再ミエリン化とは対照的に、脳梁におけるミエリン染色の有意な増加が観察された(
図9A、B)。予測通り、さらに後の時点では自発的な再ミエリン化がかなり完了し、薬物処置動物と媒体処置動物との間に有意差が観察されなくなった。これらの後の時点で差異がみられなかったことは、5週間にわたる有効用量での処置後であっても、ベンズトロピンは成熟オリゴデンドロサイトに対して毒性がないことを示している。これらのデータも同じく、ベンズトロピンが、OPC分化を直接的に誘導することによってインビボでの再ミエリン化の過程を強化することを示唆している。ベンズトロピンはまた、中間的な「プレ-オリゴデンドロサイト」細胞種に対して保護効果を発揮することによって、または両方の効果の組み合わせを伴う過程によって再ミエリン化を強化しうる可能性がある。カスパーゼ3活性化は、内因性および外因性のアポトーシス経路の両方に起因し、ストレス誘発性細胞死の全般的指標としての役割を果たす。ベンズトロピン処置は、ウエスタンブロットおよび免疫蛍光分析によって明らかにされたように、分化の第2日、4日および6日にはカスパーゼ3活性化を阻害しないことが見いだされた(
図32)。しかし、切断型カスパーゼ3は、DMSOで処置した対照ではいずれの時点でもOPCでほとんど検出不能であり、このことはOPC分化の不成功がストレス誘発性細胞死に起因するのではない可能性が高いことを示している。
【0136】
OPC分化誘導薬は、MSの処置用に、免疫抑制薬との組み合わせ療法の一部として臨床的に導入される可能性が非常に高い。このため、本発明者らは、PLP誘発性EAEモデルを用いて、MSの処置用に承認されている2つの免疫調節薬であるインターフェロンβおよびFTY720のいずれかと組み合わせた場合のベンズトロピンの臨床的有効性を評価した(L. Kappos et al., N Engl J Med, 355, 1124 (2006);M. Fujino et al., J Pharmacol Exp Ther, 305, 70 (2003);L. Jacobs et al., Arch Neurol, 39, 609 (1982);M. Huber et al., J Neurol, 235, 171 (1988))。前者はT細胞増殖を低下させてサイトカイン発現を改変させ(A. Noronha, A. Toscas, M. A. Jensen, J Neuroimmunol, 46, 145 (1993);A. Noronha, A. Toscas, M. A. Jensen, Ann Neurol, 27, 207 (1990))、一方、後者はT細胞輸送を制御するS1Pアゴニストである(V. Brinkmann et al., J Biol Chem, 277, 21453 (2002);V. Brinkmann et al., Nat Rev Drug Discov, 9, 883 (2010))。本発明者らは、OPC誘導薬とインターフェロンβまたはFTY720のいずれかとの組み合わせにより、免疫抑制物質の有効性が向上するか否か、および/または、最大の有益性を実現するために必要な免疫抑制物質の用量が減らせるか否かについて判定した。まず、3種の薬物すべてを、モデルにおけるそれぞれの至適用量未満の用量および最大有効/耐容用量を決定するために、ある範囲の濃度にわたって個別に投薬した(
図25および33A、B)。続いてベンズトロピンを、MSに対する既存の2種類の免疫調節性処置薬のいずれかとともに投与したが、以下に述べるように、これらの組み合わせは、EAEモデルにおいて有意な有益性をもたらした。1mg/kg FTY720(
図10A)または10,000U/匹のインターフェロンβ(
図10B)に対する2.5mg/kgのベンズトロピンの追加は、FTY720またはインターフェロンβのいずれかを単独で投薬した場合に観察されるものと比較して、観察される臨床的重症度の有意な低下をもたらした。さらに、2.5mg/kgのベンズトロピンと、至適用量未満の用量のFTY720(0.1mg/kg)との組み合わせは、いずれかの薬物を単独で投薬した場合に観察されるものを上回る臨床的重症度の有意な低下をもたらし、これはFTY720を1mg/kgという観察された最大耐容用量近くで単独で投薬した場合に観察される臨床的有効性と同等であった(
図10C)。この観察所見は、FTY720処置に用量依存的な徐脈が伴うことからみて、臨床的に意義があると考えられる。
【0137】
本発明者らは、MSの臨床的に最も意義のあるモデルに単独で投薬した場合に疾患重症度を有意に低下させる、中枢作用性のFDA承認薬を同定した。ベンズトロピンは、未熟OPC上に発現されるM
1/M
3ムスカリン受容体の拮抗作用を伴う機序によってOPCの分化を直接的に刺激することにより、再ミエリン化を強化し、機能的回復をもたらす。この薬物が脱髄を阻害することによってではなく、再ミエリン化を直接的に刺激することによって機能するという証拠は、インビトロおよびインビボでのT細胞の生物現象に対するベンズトロピンの影響が観察されないことによって、ならびに、T細胞非依存的なクプリゾン誘発性の脱髄モデルにおいて観察されるベンゾトロピン(benzotropine)のミエリン形成誘発活性によって与えられる。ベンズトロピンを、承認された既存の免疫調節性薬物を伴う処置レジメンに含めることにより、機能的回復の強化がもたらされ、同等なレベルの有効性を実現するために必要とされる後者の投与量が有意に減少した。本発明者らの知る限り、これらの結果は、免疫モジュレーターと再ミエリン化強化物質との組み合わせを用いてMS様症状を処置することによって有益性を達成しうるという考え方を裏づける、インビボでの初めての証拠を提示している。
【0138】
本明細書で説明した実施例および態様は例示のみを目的としており、当業者にはそれに鑑みてさまざまな修正または変更が想起されるであろうが、これらは本出願の趣旨および範囲ならびに添付の特許請求の範囲に含まれるものとする。本明細書に引用した刊行物、特許および特許出願はすべて、その全体がすべての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる。