特許第6133796号(P6133796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133796
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】防音体及び自動車用インシュレータ
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20170515BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   G10K11/16 D
   B60R13/08
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-558850(P2013-558850)
(86)(22)【出願日】2013年7月8日
(86)【国際出願番号】JP2013068633
(87)【国際公開番号】WO2014010551
(87)【国際公開日】20140116
【審査請求日】2016年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-156664(P2012-156664)
(32)【優先日】2012年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509069892
【氏名又は名称】豊和繊維工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117503
【弁理士】
【氏名又は名称】間瀬 ▲けい▼一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100121784
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 稔
(72)【発明者】
【氏名】伏木 忍
【審査官】 岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−090845(JP,A)
【文献】 特開2001−065077(JP,A)
【文献】 特開2010−132024(JP,A)
【文献】 特開2004−106733(JP,A)
【文献】 特開2003−019930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 −43/00
B60R 13/01 −13/04
13/08
G10K 11/00 −11/162
11/172
11/178−11/34
11/36 −13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料により形成してなる一側層と、当該一側層に積層される中側層と、当該中側層を介し前記一側層に対向するように前記中側層に積層してなる他側層とを備えて、
前記中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり、
記他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
当該孔開き遮音層における前記複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、前記膜振動型吸音層及び前記孔開き遮音層の各質量のもとに前記膜振動型吸音層と前記孔開き遮音層との積層体の振動を、前記膜振動型吸音層及び前記孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されている防音体。
【請求項2】
前記孔開き遮音層を介し前記膜振動型吸音層に対向するように前記孔開き遮音層に積層されて多孔質材料により形成してなる表皮層を設けてなることを特徴とする請求項1に記載の防音体。
【請求項3】
自動車の車体の一部に装着されるインシュレータにおいて、
多孔質材料により形成されて前記車体の一部に装着してなる一側層と、当該一側層に積層される中側層と、当該中側層を介し前記一側層に対向するように前記中側層に積層される他側層とを備える防音体を具備してなり、
当該防音体において、前記中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり、前記他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
当該孔開き遮音層における前記複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、前記膜振動型吸音層及び前記孔開き遮音層の各質量のもとに前記膜振動型吸音層と前記孔開き遮音層との積層体の振動を、前記膜振動型吸音層及び前記孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されていることを特徴とするインシュレータ。
【請求項4】
前記防音体は、前記孔開き遮音層を介し前記膜振動型吸音層に対向するように前記孔開き遮音層に積層されて多孔質材料により形成してなる表皮層を備えることを特徴とする請求項3に記載の自動車用インシュレータ。
【請求項5】
自動車の車体の一部に装着されるインシュレータにおいて、
多孔質材料により形成されて前記車体のエンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルに前記車室内側から装着してなる一側層と、当該一側層に積層される中側層と、当該中側層を介し前記一側層に対向するように前記中側層に積層してなる他側層とを備える防音体を具備して、
当該防音体において、前記中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり、前記他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
当該孔開き遮音層における前記複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、前記膜振動型吸音層及び前記孔開き遮音層の各質量のもとに前記膜振動型吸音層と前記孔開き遮音層との積層体の振動を、前記膜振動型吸音層及び前記孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されているダッシュインシュレータであることを特徴とする自動車用インシュレータ。
【請求項6】
前記防音体は、前記他側層を介し前記中側層に対向するように前記他側層に積層されて多孔質材料により形成してなる表皮層を備えるダッシュインシュレータであることを特徴とする請求項5に記載の自動車用インシュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音を防音するに適した防音体、及び自動車の車室内に伝播する騒音や車室内で発生する騒音等を防音するに適した自動車用インシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の防音体においては、下記特許文献1に記載された防音材が提案されている。この防音材は、表皮層、第1フェルト層、中間シート層及び第2フェルト層を順次積層して構成されている。
【0003】
ここで、表皮層は、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂製シートでもって形成されている。第1フェルト層は、ポリプロピレン樹脂製フェルトでもって形成されている。中間シート層は、表皮層と同様にポリ塩化ビニル樹脂製シートでもって形成されているが、当該中間シート層は、第2フェルト層から第1フェルト層へ伝搬する振動を減衰させるように、所定範囲内の開孔率で通気孔を形成してなるものである。また、第2フェルト層は、再生綿フェルトでもって形成されている。
【0004】
このように構成した防音材は、自動車のエンジンルームと車室とを隔離するダッシュパネルに沿い、ダッシュインシュレータとして配設されている。ここで、当該ダッシュインシュレータは、車室の内部をエンジンルームで発生する騒音から防音するために、第2フェルト層にて、上記ダッシュパネルに固定されて、当該第2フェルト層から中間シート層、第1フェルト層及び表皮層の順に車室内側に位置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−81007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように構成したダッシュインシュレータにおいては、第1及び第2のフェルト層は、上述のごとく、フェルトで形成されていることから、通気性を有する。また、中間シート層は、上述のごとく、通気孔を有することから、通気性を有する。
【0007】
このように、ダッシュインシュレータにおいて、第1及び第2のフェルト層並びに中間シート層が、共に、通気性を有することから、騒音がダッシュインシュレータを通るとき、例えば、中間シート層と第1フェルト層との積層構造において、中間シート層と第1フェルト層とが、低周波数領域の騒音のもとに、互いに振動を助長し合う共振現象を招く。その結果、第2フェルト層から表示層にかけてダッシュインシュレータを通る騒音が増大して、当該ダッシュインシュレータにおける騒音の透過音損失が低下し、ダッシュインシュレータとしての防音効果の悪化を招くという不具合がある。
【0008】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するため、膜振動型吸音層と孔開き遮音層との積層体を活用して、当該積層体の振動を、騒音のうち少なくともその低周波数領域の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層の振動と孔開き遮音層の振動との間における共振現象を抑制し得る位相差の範囲内に維持するように、上記積層体を構成し、少なくとも騒音うち低周波数領域の騒音成分に対する防音効果を良好に確保するようにした防音体及び自動車用インシュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり、本発明に係る防音体は、
多孔質材料により形成してなる一側層と、当該一側層に積層される中側層と、当該中側層を介し一側層に対向するように中側層に積層してなる他側層とを備えて、
中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり
他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
当該孔開き遮音層における上記複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各質量のもとに膜振動型吸音層と孔開き遮音層との積層体の振動を、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されている。
【0010】
これによれば、騒音が防音体にその一側層から入射したとき、当該騒音は、一側層によりその形成材料である多孔質材料のもとに部分的に吸音されて、残存騒音成分として中側層である膜振動型吸音層に入射する。すると、このように膜振動型吸音層に入射した残存騒音成分は、当該膜振動型吸音層によりその膜振動のもとに吸音されて他側層である孔開き遮音層に入射した後、当該孔開き遮音層により遮音される。
【0011】
ここで、上述のように、中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり、
他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
当該孔開き遮音層における複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各質量のもとに膜振動型吸音層と孔開き遮音層との積層体の振動を、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されている。
このため、上述のように、中側層である膜振動型吸音層を、一側層と他側層である孔開き遮音層との間に積層することで、膜振動型吸音層が、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層であっても、膜振動型吸音層と孔開き遮音層とからなる積層体の振動が、騒音の低周波数領域との関連にて、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各振動間における共振現象を抑制し得る上記所定の位相差の範囲内に維持される。
【0012】
これにより、膜振動型吸音層の膜振動による吸音機能及び後側層の遮音機能の双方を、騒音のうちの低周波数領域内の騒音成分との関連にて良好に確保することができる。その結果、膜振動型吸音層と孔開き遮音層とからなる積層体に入射した騒音は、その低周波数領域の騒音成分において、膜振動型吸音層及び後側層でもって、良好に防音され得る
従って、このような積層体の積層構造のもと、上記入射騒音のうちの低周波数領域内の騒音成分は、膜振動型吸音層の膜振動により良好に吸音された後、上記入射騒音のうち高周波数領域内の騒音成分が、他側層により良好に遮音され得る。
【0018】
また、当該本発明に係る防音体は、さらに、上記構成に加えて、孔開き遮音層を介し膜振動型吸音層に対向するように孔開き遮音層に積層されて多孔質材料により形成してなる表皮層を設けてなることを特徴とする。
【0019】
これによれば、膜振動型吸音層である中側層からの騒音が部分的に孔開き遮音層である他側層を透過することがあっても、当該透過騒音は、表皮層によりその形成材料である多孔質材料のもとに、騒音の高周波数領域にて、良好に吸音され得る。
【0020】
その結果、上述のように表皮層を備えた防音体の騒音に対する防音効果が、上述した低周波数領域の騒音に対する膜振動型吸音層の吸音機能及び孔開き遮音層の遮音機能と高周波数領域の騒音に対する表皮層の吸音機能との双方に基づき、騒音の広い周波数領域に亘りより一層向上され得る。
【0025】
また、本発明に係る自動車用インシュレータは、自動車の車体の一部に装着されるもので、当該インシュレータは、多孔質材料により形成されて前記車体の一部に装着してなる一側層と、当該一側層に積層される中側層と、当該中側層を介し一側層に対向するように中側層に積層される他側層とを備える防音体を具備してなる。
【0026】
そして、当該防音体において、中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり、他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
当該孔開き遮音層における上記複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各質量のもとに膜振動型吸音層と孔開き遮音層との積層体の振動を、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0027】
これによれば、自動車用インシュレータは、その装着部位に伝播する騒音を、上記構成の防音体の防音機能により良好に防音することができる。
【0028】
ここで、当該本発明の自動車用インシュレータにおいて、防音体は、さらに、孔開き遮音層である他側層を介し非通気薄膜層或いは通気薄膜層からなる膜振動型吸音層である中側層に対向するように他側層に積層されて多孔質材料により形成してなる表皮層を備えていてもよい。
【0029】
これによれば、上述のように騒音が一側層及び膜振動型吸音層を通り部分的に孔開き遮音層に入射した後部分的に当該孔開き遮音層を透過することがあっても、当該透過騒音は、表皮層によりその形成材料である多孔質材料のもとに、騒音の高周波数領域にて、良好に吸音され得る。
【0030】
従って、インシュレータによる騒音に対する防音効果が、上述した低周波数領域の騒音に対する膜振動型吸音層の吸音機能及び孔開き遮音層の遮音機能と高周波数領域の騒音に対する表皮層の吸音機能との双方に基づき、騒音の広い周波数領域に亘りより一層向上され得る。
【0031】
また、本発明に係る自動車用インシュレータは、自動車の車体の一部に装着されるもので、当該インシュレータは、多孔質材料により形成してなる車体のエンジンルームと車室とを区画するダッシュパネルに車室内側から装着してなる一側層と、当該一側層に積層される中側層と、当該中側層を介し一側層に対向するように中側層に積層してなる他側層とを備える防音体を具備して、
当該防音体において、中側層は、柔軟性材料からなる非通気薄膜層或いは通気薄膜層でもって形成してなる膜振動型吸音層からなり、他側層は、複数の開孔部を分散状に有するように遮音材料でもって形成してなる孔開き遮音層からなり、
孔開き遮音層における上記複数の開孔部の開孔率及び開孔数は、騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各質量のもとに膜振動型吸音層と孔開き遮音層との積層体の振動を、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各振動の間における共振現象を抑制するような所定の位相差の範囲内に維持するように、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されているダッシュインシュレータからなるインシュレータであることを特徴とする。
【0032】
このように、上述した当該本発明のインシュレータがダッシュインシュレータであっても、上述したインシュレータとしての防音機能と同様に、エンジンルームからダッシュパネルを介し伝播する騒音を、防音体の防音機能により良好に防音することができる。
【0033】
ここで、上述したダッシュインシュレータである自動車用インシュレータにおいて、防音体は、さらに、孔開き遮音層である他側層を介し非通気薄膜層或いは通気薄膜層からなる膜振動型吸音層である中側層に対向するように他側層に積層されて多孔質材料により形成してなる表皮層を備えていてもよい。
【0034】
これによれば、ダッシュインシュレータであるインシュレータにおいては、ダッシュパネルからの騒音が一側層及び膜振動型吸音層を通り部分的に孔開き遮音層に入射した後部分的に当該孔開き遮音層を透過することがあっても、当該透過騒音は、表皮層によりその形成材料である多孔質材料のもとに、騒音の高周波数領域にて、良好に吸音され得る。
【0035】
従って、インシュレータのダッシュインシュレータとしての騒音に対する防音効果が、上述した低周波数領域の騒音に対する膜振動型吸音層の吸音機能及び孔開き遮音層の遮音機能と高周波数領域の騒音に対する表皮層の吸音機能との双方に基づき、騒音の広い周波数領域に亘りより一層向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明に係るダッシュインシュレータの第1実施形態を適用した自動車の模式的部分概略断面図である。
図2図1のダッシュインシュレータの斜視図である。
図3図2の1−1線に沿うダッシュインシュレータの部分拡大縦断面図である。
図4図3のダッシュインシュレータの部分破断正面図である。
図5】上記第1実施形態における実施例及び比較例の音響感度特性をエンジン音の周波数との関係にて示す各グラフである。
図6】上記第1実施形態における他の各実施例及び他の各比較例の透過音損失特性をエンジン音の周波数との関係にて示す各グラフである。
図7】上記第1実施形態における他の各実施例及び他の各比較例の透過音損失特性をエンジン音の周波数との関係にて示す各グラフである。
図8】本発明に係るダッシュインシュレータの第2実施形態の要部を示す部分拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の各実施形態を図面により説明する。
(第1実施形態)
図1は、自動車に適用してなる本発明の第1実施形態を示している。当該自動車は、エンジンルーム10及び車室20を備えており、車室20は、当該自動車において、エンジンルーム10に後続して設けられている。なお、エンジンルーム10内には、エンジンEが配設されている。また、車室20内には、前側座席Sが配設されている。
【0039】
また、当該自動車は、ダッシュボード30(ダッシュパネル30ともいう)を備えており、このダッシュボード30は、図1の縦断面形状にて示すごとく、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に屈曲するように延出させて形成されている。このように構成したダッシュボード30は、エンジンルーム10と車室20との境界に設けられて、これらエンジンルーム10及び車室20を相互に区画している。なお、ダッシュボード30は、その延出上端部にて、車室20のフロントウインドシールドの下縁部に連結されており、このダッシュボード30の延出下端部は、車室20の床壁の前縁部に連結されている。
【0040】
また、当該自動車は、ダッシュインシュレータDSを備えている。このダッシュインシュレータDSは、図1にて示すごとく、ダッシュボード30に沿い車室20側から組み付けられており、当該ダッシュインシュレータDSは、図2にて示すごとく、その上下方向中央部にて、当該自動車の後方側から見て前方側へ凹状となるような湾曲板形状に構成されている。
【0041】
当該ダッシュインシュレータDSは、図3或いは図4にて示すごとく、前側層40、中側層50及び後側層60を備えており、これら前側層40、中側層50及び後側層60は、順次、当該自動車の前側から後側にかけて積層して形成されている。
【0042】
前側層40は、吸音層としての役割を果たすべく、所定の多孔質材料により形成されており、当該前側層40は、図1の縦断面形状から分かるように、その中央部から上下両側部を後方へ上下に傾斜状に折り曲げて、ダッシュボード30に沿うように延出して形成されている。このことは、前側層40は、その前面にて、ダッシュボード30の後面に沿い装着されていることを意味する。本第1実施形態において、上述した所定の多孔質材料としては、目付量1400(g/m2)を有するフェルトが採用されている。
【0043】
ここで、当該前側層40は、エンジンルーム10内からダッシュパネル30を介し車室20内に向かう騒音を吸音する吸音層としての役割を果たす。
【0044】
中側層50は、前側層40に沿うように当該前側層40と同様の湾曲形状に形成されており、当該中側層50は、図3にて示すごときく、前側層40と後側層60との間に挟持されている。ここで、当該中側層50は、膜振動型吸音層(以下、膜振動型吸音層50ともいう)としての役割を果たすべく、柔軟性のある非通気薄膜層でもって形成されている。
【0045】
しかして、当該中側層50は、前側層40からの騒音を受けて振動し当該騒音を吸音する膜振動型吸音層(以下、膜振動型吸音層50ともいう)としての役割を果たす。
【0046】
本第1実施形態では、膜振動型吸音層50である非通気薄膜層は、騒音を受けて膜振動を生ずるが、当該非通気薄膜層の膜振動は、この非通気薄膜層単独では、上記騒音のうち所定の低周波数領域内の低周波数騒音成分との関連にて共振現象を生ずる。また、本第1実施形態において、上述の非通気薄膜層は、例えば、数mm程度の厚さを有する1枚のフィルム層からなるもので、当該フィルム層の形成材料としては、50(g/m2)を有するポリエチレン樹脂が採用されている。
【0047】
後側層60は、中側層50に沿うように当該中側層50と同様の湾曲形状に所定の遮音材料により孔開き遮音層(以下、孔開き遮音層60ともいう)として形成されており、当該後側層60は、図3にて示すごとく、中側層50を介し前側層40に対向するように当該中側層50に沿い積層されている。本第1実施形態において、上記所定の遮音材料としては、厚さ2(mm)及び目付量3400(g/m2)を有するゴム系樹脂材料が採用されている。
【0048】
当該後側層60である孔開き遮音層60は、図3或いは図4にて例示するごとく、複数の円形状開孔部61を備えており、当該複数の開孔部61は、後側層60において、その全面に亘り、分散して形成されている。
【0049】
本第1実施形態では、後側層60の各開孔部61の内径(開孔径)は、20(mm)である。また、後側層60における開孔部61の開孔率は、25(%)である。また、実施例1aの目付量は、3950(g/m2)である。なお、当該開孔率は、全ての開孔部61の開孔面積の総和の後側層60の表面(後面)の全面積に対する比率をいう。
【0050】
本第1実施形態において、開孔部61の開孔率及び開孔数は、それぞれ、ダッシュインシュレータDSによる防音の対象となる騒音の周波数領域(200(Hz)〜6300(Hz))のうち、所定の低周波数領域(200(Hz)〜500(Hz))内の周波数を有する騒音成分との関連にて、中側層50である膜振動型吸音層50と後側層60との積層体の振動を、膜振動型吸音層50の膜振動と後側層60の振動との間における共振現象を抑制し得る所定の位相差の範囲内に維持するように、後側層60において、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定されている。
【0051】
換言すれば、上記積層体は、膜振動型吸音層50と上記開孔構成を有する後側層60との積層構造として、膜振動型吸音層50の膜振動と後側層60の振動との間における共振現象を抑制し得る所定の位相差範囲内に振動を維持するように、開孔部61の開孔率及び開孔数を、膜振動型吸音層50及び後側層60の各質量のもとに、それぞれ、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲内に設定してなるものである。
【0052】
ここで、本第1実施形態において、上述のごとく、所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲を後側層60の開孔部61に対し導入した根拠について詳細に説明する。
【0053】
本発明者は、非通気薄膜層である膜振動型吸音層50に対応する膜振動型吸音層と孔開き遮音層である後側層60に対応する後側層との積層体を、膜振動吸音層及び後側層の各質量並びに開孔部の開孔面積及び開孔数とを種々変更することで、さらに、多数準備した。
【0054】
そして、本発明者は、これら各積層体について実験等を介し種々検討した結果、当該各積層体の振動が、騒音のうち低周波数領域内の騒音成分との関連にて膜振動吸音層及び後側層の各振動間の共振現象を抑制し得るような所定の位相差の範囲内の振動を維持するように、膜振動型吸音層及び後側層の各質量と開孔部の開孔面積及び開孔数との総合的調整でもって、設定され得ることを見出した。そして、本発明者は、このように共振現象を抑制するような位相差にて各積層体を振動させることで、騒音の透過音損失の増大或いは音響感度の低下、ひいては、騒音の低減を確保し得るという現象を見出した。
【0055】
本実施形態において、上述の所定の位相差の範囲は、振動の周波数にて、例えば、100(Hz)以上で1600(Hz)以下のずれの範囲に対応する。なお、100(Hz)以上としたのは、100(Hz)未満では、積層体が、従来のダッシュインシュレータとしての一般的な製品の板厚や質量に対応する厚さや質量を有する場合には、積層体としての吸音効果や遮音効果が得られないためである。また、1600(Hz)よりも高いと、積層体における共振現象が発生しにくいためである。
【0056】
また、以上のような現象は、膜振動型吸音層の質量調整のみの騒音低減効果と、後側層の質量、開孔面積及び開孔数の調整のみの騒音低減効果との総和ということではなく、膜振動型吸音層の質量と後側層の質量、開孔面積及び開孔数との総合的調整で、容易に、上記総和とは異なるより一層良好に騒音を低減し得る全く別の特有な騒音低減効果をもたらすことも分かった。
【0057】
以上のような根拠のもとに、本第1実施形態では、膜振動型吸音層と孔開き遮音層との積層体が、騒音のうちの上記所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層及び孔開き遮音層の各振動の間の共振現象を抑制するような上記所定の位相差の範囲内に振動を維持するように、所定の開孔率範囲及び所定の開孔数範囲が、上述のごとく、定められている。これにより、上記積層体は、その振動を、上記所定の位相差の範囲内に維持することで、当該積層体は、騒音のうちの上記所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層の膜振動による吸音特性及び孔開き遮音層の振動による遮音特性の双方を良好に確保して優れた防音効果を発揮し得る。
【0058】
以上のように構成した本第1実施形態において、エンジンEがその作動に伴いエンジン音を騒音として発生すると、当該騒音は、ダッシュパネル30を介しダッシュインシュレータDSに入射する。ここで、ダッシュパネル30は鉄板で形成されていることから、ダッシュパネル30に入射した騒音は、当該ダッシュパネル30によりその非通気性のもとに部分的に遮音されて、ダッシュインシュレータDSに入射する。換言すれば、騒音のうちダッシュパネル30を透過した騒音成分がダッシュインシュレータDSに入射する。
【0059】
このようにして騒音のうちダッシュパネル30を透過した騒音成分がダッシュインシュレータDSに入射すると、当該騒音成分は、ダッシュパネル30に隣接する前側層40に入射する。ここで、前側層40は、上述のごとく、所定の多孔質材料である上記フェルトからなる吸音層としての役割を果たすことから、前側層40に入射した騒音成分は、当該前側層40によりその通気性のもとに部分的に吸音されて当該前側層40を通り中側層50に入射する。換言すれば、前側層40に入射した騒音成分のうち、前側層40により吸音された後の残りの騒音成分が、残存騒音成分として中側層50に入射する。
【0060】
ここで、当該中側層50は、上述のごとく、非通気薄膜層である一枚のフィルム層からなる膜振動型吸音層である。この膜振動型吸音層50も吸音層であることから、上述のように中側層50、即ち膜振動型吸音層50に入射した残存騒音成分は、当該膜振動型吸音層50によりその膜振動のもとに部分的に吸音されてこの膜振動型吸音層50を通り後側層60に入射する。換言すれば、上述のように膜振動型吸音層50に入射した残存騒音成分は、その上記所定の低周波数領域内にて、当該膜振動型吸音層50により部分的に吸音されて、当該吸音後の残りの騒音成分がさらなる残存騒音成分として後側層60に入射する。なお、このように後側層60に入射する上記さらなる残存騒音成分は、膜振動型吸音層50に入射した残存騒音成分のうちの上記所定の低周波数領域内の低周波数騒音成分及び高周波数騒音成分とからなる。
【0061】
また、当該後側層60は、上述のごとく上記所定の遮音材料の一種である上記ゴム系樹脂材料で形成されていることから、当該後側層60は、騒音のうち所定の高周波数領域(500(Hz)よりも高く6300(Hz)以下の周波数領域)において良好な遮音特性を発揮する。さらに、当該後側層60は、その各開孔部61において、上述したごとく、中側層50との積層構造のもとに、上述した所定の開孔率範囲内の開孔率及び上述した所定の開孔数範囲内の開孔数を満たすように形成されている。また、このような各開孔部61の形成には、上述のごとく、中側層50及び後側層60の各質量が考慮されている。
【0062】
これにより、上記積層体は、その振動を、騒音のうちの上記所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて上記所定の位相差の範囲内に維持して、膜振動型吸音層の膜振動による吸音特性及び後側層の振動による遮音特性の双方を良好に確保して優れた防音効果を発揮し得るように構成されている。
【0063】
従って、上述のごとく、膜振動型吸音層50に入射した上記残存騒音成分が当該膜振動型吸音層50を通り上記さらなる残存騒音成分として後側層60に入射する過程においては、膜振動型吸音層50が、その膜振動にて、その入射騒音、即ち上記残存騒音成分のうち、上記所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、後側層60の振動との間における共振現象を抑制するように、上記積層体が、上記所定の位相差の範囲内にて振動することで、上記残存騒音成分は、膜振動型吸音層50の膜振動により良好に吸音された後、上記さらなる残存騒音成分となって後側層60に入射し、当該さらなる残存騒音成分が、後側層60により、上述のごとく、上記所定の高周波数領域にて、良好に遮音され得る。
【0064】
このように、膜振動型吸音層50に入射した上記残存騒音成分は、当該膜振動型吸音層50により、上記所定の低周波数領域にて良好に吸音され、かつ、上記所定の高周波数領域にて後側層60により良好に遮音される。このことは、膜振動型吸音層50と後側層60との積層体が、エンジン音を、その低周波数領域及び高周波数領域に亘り、良好に防音し得ることを意味する。その結果、騒音が後側層60を通り車室20内に伝搬しても、当該騒音は、当該自動車の乗員にとって、殆ど気にならない程度に軽減され得る。
【0065】
また、当該ダッシュインシュレータDSは、前側層40と上記構成の後側層60との間に、中側層50として、一枚のフィルムからなる膜振動型吸音層を介装するのみ故、当該ダッシュインシュレータDSは、軽量であることは勿論のこと、厚さも、中側層50を有さない従来の2層構成(前側層と後側層の2層構成)の厚さと殆ど変わらない。従って、ダッシュインシュレータDSが中側層50を余分に有していても、当該ダッシュインシュレータDSを、例えば、ダッシュパネル30とインストルメントパネルとの間に介装するのに何ら支障は発生しない。
【0066】
以上説明したように、本第1実施形態では、ダッシュインシュレータDSが、その膜振動型吸音層50と後側層60の積層体において、上述のような構成を有するように形成されているので、エンジンルーム10からの騒音が、膜振動型吸音層50により、上記所定の低周波数領域にて良好に吸音されるとともに、上記所定の高周波数領域にて良好に遮音される。従って、ダッシュインシュレータDSによる騒音に対する防音効果が、騒音の上記所定の低周波数領域及び上記所定の高周波数領域の双方に亘り、良好に達成され得る。
【0067】
ちなみに、上述のように構成したダッシュインシュレータDSを実施例1aとし、この実施例1aの音響感度特性について、騒音の周波数との関係において測定してみた。また、この測定にあたり、比較例1bを準備して、この比較例1bについても音響感度特性を測定してみた。なお、上記音響感度特性における音響感度は、音の伝わり易さを表す指標であって、音の大きさを表す。また、上記騒音は、エンジンEからの音(即ち、エンジン音)その他の音を含む騒音をいう。
【0068】
ここで、上記比較例1bは、ダッシュインシュレータDSのうち中側層50を除いた前側層40と後側層60に対応する非通気後側層との2層の積層体、換言すれば、前側層40と開孔部を有さない遮音材料からなる後側層との2層の積層体でもって構成されている。この比較例1bの目付量は、4800(g/m2)であって、実施例1aよりも重い。
【0069】
上述の実施例1a及び比較例1bに対する音響感度特性の測定の結果、両グラフ1−1及び1−2が、それぞれ、図5にて示すような折れ線グラフとして得られた。グラフ1−1は、実施例1aの音響感度特性を表し、また、グラフ1−2は、比較例1bの音響感度特性を表す。
【0070】
これらグラフ1−1及び1−2によれば、実施例1aの音響感度は、騒音の測定周波数領域(200(Hz)〜6300(Hz))の一部を除き、比較例1bの音響感度よりも低くなっており、少なくとも、所定の低周波数領域(200(Hz)〜500(Hz))において、比較例1bの音響感度よりも明らかに低下していることが分かる。このことは、実施例1aが、上記所定の低周波数領域の騒音を、比較例1bに比べ、より多く遮音することで、騒音を伝えにくい構成となっていることを意味する。
【0071】
これは、実施例1aが、比較例1bとは異なり、前側層40と後側層60との間に膜振動型吸音層50を介装した構成となっていることから、当該膜振動型吸音層50が、後側層60の上述の構成のもと、比較例1bとは異なり、上記所定の低周波数領域の騒音との関連にて、膜振動型吸音層50及び後側層60の各振動間における共振現象抑制するためであると認められる。
【0072】
次に、上述したダッシュインシュレータDSである実施例1aを実施例2aとして、この実施例2aの透過音損失特性を、騒音の周波数との関係において測定してみた。また、この測定にあたり、後述するごとく、後側層の開孔部の開孔率を実施例2aと同一にした各実施例2b、2c及び2dを準備するとともに、各比較例2e及び2fをも準備した。そして、これら各実施例2b、2c及び2d並びに各比較例2e及び2fについて、透過音損失特性を測定してみた。
【0073】
なお、透過音損失特性における透過音損失は、入射音と透過音との差であって、当該差が小さいほど、透過音が大きいために透過音損失が低くて遮音性能が悪く、上記差が大きい程、透過音が小さいために透過音損失が高く遮音性能が良い。従って、透過音損失が高い程、音響感度が低く、また、透過音損失が低い程、音響感度が高い。
【0074】
ここで、実施例2aは、上述したダッシュインシュレータDSであるから、後側層60における開孔部61の開孔率は、25(%)である。また、各実施例2b、2c及び2dは、実施例2aと同様の3層構造であって、それぞれ、前側層40、膜振動型吸音層50及び後側層60に対応する前側層、膜振動型吸音層及び後側層でもって構成されている。
【0075】
また、各実施例2b、2c及び2dの目付量は、共に、実施例1aと同様の3950(g/m2)である。各実施例2b、2c及び2dの膜振動型吸音層における開孔部の開孔率は、共に、後側層60における開孔部61の開孔率と同様の25(%)である。但し、実施例2bの膜振動型吸音層の各開孔部の内径は、20(mm)であり、実施例2cの膜振動型吸音層の各開孔部の内径は、40(mm)であり、また、実施例2dの膜振動型吸音層の各開孔部の内径は、80(mm)である。
【0076】
また、各比較例2e及び2fのうち、比較例2eは、ダッシュパネル30に相当し、厚さ0.8(mm)の鉄板で構成されている。比較例2fは、上述した比較例1bと同じ構成である。
【0077】
しかして、上述のごとく、各実施例2a〜2d及び各比較例2e、2fの透過音損失特性について測定してみたところ、各グラフ2―1〜2−6が、それぞれ、図6にて示すような折れ線グラフとして得られた。グラフ2―1は、実施例2aの透過音損失特性を表すとともに、グラフ2−2、グラフ2−3及びグラフ2−4は、それぞれ、実施例2b、実施例2c及び実施例2dの各透過音損失特性を表す。また、グラフ2−5及びグラフ2−6は、それぞれ、比較例2e及び比較例2fの各透過音損失特性を表す。
【0078】
ここで、これら各グラフ2―1〜2−6を相互に対比してみる。開孔部の開孔率は、上述したごとく、各実施例2a〜2dにおいて、共に、25(%)と同一であるが、開口部の内径は、上述したごとく、各実施例2a〜2dにおいて、相互に異なり、実施例2aから実施例2dにかけて、10(mm)、20(mm)、40(mm)及び80(mm)として、順次、増大している。
【0079】
周波数200(Hz)〜500(Hz)の範囲において、各グラフ2−1〜2−4を対比してみると、透過音損失は、グラフ2−1〜グラフ2−4において、周波数200(Hz)から500(Hz)にかけて順次増大傾向にあることが分かる。
【0080】
一方、両比較例2e、2fにおいて、比較例2eは、上述したごとく、各実施例2a〜2dの3層構造とは異なり、単なる鉄板の1層構造である。また、比較例2fは、各実施例2a〜2dの3層構造とは異なり、上述したごとく、膜振動型吸音層を有さない2層構造、即ち、前側層40と後側層60に対応する非通気後側層(開口部を有さない遮音材料からなる後側層)との2層構造である。
【0081】
そこで、各グラフ2−1〜2−4を各グラフ2−5及び2−6と対比してみると、グラフ2−1における透過音損失は、周波数200(Hz)〜約315(Hz)では、グラフ2−5における透過音損失よりも減少傾向にあるものの、周波数約315(Hz)以上の範囲では、グラフ2−5における透過音損失よりも増大傾向にあることが分かる。
【0082】
このことは、実施例2aの遮音特性は、周波数200(Hz)〜約315(Hz)では、比較例2eの遮音特性よりも低下傾向にあるものの、周波数約315(Hz)以上の範囲では、比較例2eの遮音特性よりも高くなる傾向にあることを意味する。従って、実施例2aの遮音特性は、上記所定の低周波数領域の騒音のうち、少なくとも、周波数約315(Hz)〜500(Hz)の範囲の騒音に対しては、比較例2eに比べて良好である。
【0083】
次に、グラフ2−1における透過音損失は、周波数200(Hz)〜約1250(Hz)の範囲において、グラフ2−6における透過音損失とともに増大傾向にあることが分かる。ここで、実施例2aの遮音特性は、周波数200(Hz)〜約1250(Hz)の範囲において、ほぼ、比較例2fの遮音特性よりも幾分高い。
【0084】
従って、開孔部が内径10(mm)で開孔率25(%)である実施例2aの遮音特性は、少なくとも、上記所定の低周波数領域の騒音に対しては、比較例2fに比べて良好といえる。
【0085】
さらに、各グラフ2−2〜2−4における透過音損失は、周波数200(Hz)〜500(Hz)の範囲において、グラフ2−5における透過音損失よりもほぼ増大傾向にあるものの、グラフ2−6における透過音損失よりも増大傾向にある周波数領域が、グラフ2−2〜グラフ2−4にかけて、順次、狭くなっていることが分かる。このことは、各実施例2b〜2dの遮音特性は、上述のごとく開孔部を開孔率25(%)にて内径を順次増大させる構成では、上記所定の低周波数領域の騒音に対しては、比較例2eよりも良好であるが、上述のごとく、比較例2fよりも良好な周波数領域が狭くなることを意味する。
【0086】
以上によれば、開孔部の開孔率を25(%)とする場合、実施例では、その開孔部の内径が、10(mm)よりも大きい範囲において、小さい程、各比較例2e、2fよりも良好な遮音特性、ひいては防音特性が上記所定の低周波数領域内において得られるが、開孔部の内径が小さくなるほど、良好な防音を確保し得る周波数領域が狭くなる。
【0087】
なお、上記所定の高周波数領域の騒音に対しては、開孔部の内径が10(mm)よりも大きい範囲において、各実施例2b〜2dの透過音特性は、比較例2eの透過音損失特性と比較例2fの透過音損失特性との間にある。
【0088】
さらに、上述したダッシュインシュレータDSである実施例1aに対応する実施例3aを準備して、この実施例3aの透過音損失特性を、騒音の周波数との関係において測定してみた。また、この測定にあたり、後述するごとく、後側層の開孔部の開孔径を実施例3aと同一にした各実施例3b〜3eを準備するとともに、各比較例3f及び3gを準備した。そして、これら各実施例3b〜3e及び各比較例3f及び3gについても、透過音損失特性を測定してみた。
【0089】
ここで、実施例3a〜3eは、それぞれ、実施例1aの前側層40、膜振動型吸音層50及び後側層60に対応する前側層、膜振動型吸音層及び後側層の3層構造により構成したもので、これら各実施例3a、3b、3c、3d及び3eの目付量は、それぞれ、4630(g/m2)、4290(g/m2)、3950(g/m2)、3610(g/m2)及び3270(g/m2)である。
【0090】
また、各実施例3a及び3bの後側層における開孔部(実施例1aの開孔部61に対応)の開孔率は、それぞれ、5(%)及び15(%)とし、かつ、各実施例3c、3d及び3eの後側層における開孔部(実施例1aの開孔部61に対応)の開孔率は、それぞれ、25(%)、35(%)及び45(%)とした。さらに、各実施例3a〜3eの後側層における各開孔部の内径は、共に、20(mm)とした。なお、実施例3cは、上述した実施例2bと同じである。
【0091】
また、各比較例3f及び3gのうち、比較例3fは、上述の比較例2eと同じで、厚さ0.8(mm)の鉄板で構成されている。比較例3gは、上述の比較例2fと同じで、前側層及び後側層の2層構造、換言すれば、前側層と開口部を有さない遮音材料からなる後側層との2層構造でもって構成されている。
【0092】
しかして、上述のごとく、各実施例3a〜3e及び各比較例3f、3fの透過音損失特性について測定してみたところ、各グラフ3―1〜3−7が、それぞれ、図7にて示すような折れ線グラフとして得られた。
【0093】
グラフ3−1及びグラフ3−2は、それぞれ、実施例3a及び実施例3bの各透過音損失特性を表す。グラフ3−3は、実施例3cの透過音損失特性(実施例2bの透過音損失特性を表すグラフ2−2と同じ)を表す。グラフ3−4及びグラフ3−5は、それぞれ、実施例3d及び実施例3eの各透過音損失特性を表す。グラフ3−6は、比較例3fの透過音損失特性(比較例2eの透過音損失特性を表すグラフ2−5と同じ)を表す。また、グラフ3−7は、比較例3gの透過音損失特性(比較例2fの透過音損失特性を表すグラフ2−6と同じ)を表す。
【0094】
ここで、これら各グラフ3−1〜3−7を対比してみる。開孔部の内径は、上述したごとく、各実施例2a〜2eにおいて、共に、20(mm)と同一であるが、開孔部の開孔率は、上述したごとく、各実施例2a〜2eにおいて、相互に異なり、実施例3aから実施例3eにかけて、5(%)、15(%)、25(%)、35(%)及び45(%)として、順次、増大している。
【0095】
しかして、周波数200(Hz)〜500(Hz)の範囲において、各グラフ3−1〜3−5を対比してみると、透過音損失は、共に、周波数200(Hz)から500(Hz)にかけて、ほぼ同様の増加傾向にあることが分かる。
【0096】
一方、両比較例3f、3gにおいて、比較例3fは、上述の比較例2eと同じであって一層の鉄板で構成されている。また、比較例3gは、上述の比較例2fと同じであって、膜振動型吸音層を有しない2層構造である。
【0097】
そこで、周波数200(Hz)〜500(Hz)の範囲において、各グラフ3−1〜3−5を各グラフ3−6及び3−7と対比してみる。
【0098】
ここで、各グラフ3−1〜3−5における透過音損失は、周波数200(Hz)〜500(Hz)の範囲において、グラフ3−6における透過音損失よりもほぼ全体的に増大傾向にあることが分かる。従って、各実施例3a〜3eの遮音特性は、上記所定の低周波数領域の騒音に対して、比較例3fによりも良好である。
【0099】
但し、各グラフ3−1〜3−5のうち、グラフ3−1の透過音損失は、周波数200(Hz)〜500(Hz)の範囲において、グラフ3−7における透過音損失よりも増加傾向にあるものの、各グラフ3−2〜3−5における透過音損失は、グラフ3−7における透過音損失よりも増加傾向にある周波数領域を順次狭くする傾向にあることが分かる。
【0100】
以上によれば、開孔部の内径を20(mm)とする場合、実施例では、その開孔部の開孔率が大きい程、各比較例2e、2fよりも良好な遮音特性、ひいては防音特性の周波数領域が、上記所定の低周波数領域内において順次狭くなる。
【0101】
なお、上記所定の高周波数領域の騒音に対しては、各実施例3a〜3eの透過音特性は、比較例3fの透過音損失特性と比較例3gの透過音損失特性との間にある。このことは、各実施例3a〜3eの遮音特性は、比較例3fの遮音特性と比較例3gの遮音特性との間にあることを意味する。従って、各実施例3a〜3eの防音特性は、上記所定の高周波数領域の騒音に対しては、比較例3gよりも悪く、比較例3fよりも良好である。
【0102】
以上述べた図6及び図7の各測定結果によれば、開孔部の内径が10(mm)よりも大きく80(mm)以下の範囲において、開孔部の開孔率が5(%)以上で45(%)以下であれば、本第1実施形態のダッシュインシュレータの防音特性は、上記各比較例に比べて、良好に確保され得る。ただし、開孔部の開孔率が増大するほど、上記各比較例よりも良好な防音特性の周波数領域は狭くなる。
【0103】
さらに、本発明者は、上記各実施例のほかにも、膜振動吸音層の質量と後側層の質量並びに開孔部の開孔面積及び開孔数とを種々変更することで、膜振動吸音層と後側層との積層体を多数準備した。そして、これら各積層体について上述と同様の測定を行った。その結果、上述した所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲を、上述のごとく、膜振動型吸音層と後側層との積層体のもと、上記騒音のうち所定の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、膜振動型吸音層と後側層との各振動の間における共振現象を抑制するように選定すれば、ダッシュインシュレータとしての防音効果が良好に得られることが分かった。
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態を示している。この第2実施形態では、上記第1実施形態にて述べたダッシュインシュレータDSが、上記第1実施形態にて述べた前側層40、中側層50及び後側層60からなる3層構造に加えて、表皮層70を付加的に採用した構成となっている。
【0104】
当該表皮層70は、図8にて示すごとく、上記第1実施形態にて述べたダッシュインシュレータDSにおいて、後側層60を介し中側層50に対向するように、当該後側層60に沿い装着されている。本第2実施形態において、表皮層70は多孔質材料でもって形成されている。その他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0105】
このように構成した本第2実施形態においては、上述のごとく、表皮層70が吸音層として後側層60に沿い装着されており、当該表皮層70は、騒音のうち高周波数領域内の騒音成分に対し良好な吸音特性を発揮する。
【0106】
このため、エンジン音が上記第1実施形態にて述べたように騒音としてダッシュインシュレータDSに入射したとき、当該騒音のうち高周波数領域内の騒音成分が、ダッシュインシュレータDSの後側層60を透過しても、当該騒音成分は、表皮層70により良好に吸音され得る。このことは、本第2実施形態において、ダッシュインシュレータDSは、表皮層70の採用でもって、騒音に対する防音効果をより一層向上させ得ることを意味する。
【0107】
従って、騒音のうち高周波数領域内の騒音に対する車室20内からの防音がより一層良好に確保され得る。その結果、本第2実施形態のダッシュインシュレータによれば、騒音は、上記第1実施形態にて述べた構成を有する中側層50と後側層60との積層体でもって、中側層50の膜振動による吸音機能、後側層60の遮音機能及び本第2実施形態における表皮層70の吸音機能のもとに、低周波数領域から高周波数領域に亘る広い周波数領域に亘り、良好に防音され得る。その他の作用効果は上記第1実施形態と同様である。
【0108】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限ることなく、次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)本発明の実施にあたり、膜振動型吸音層50であるフィルム層の形成材料は、ポリエチレン樹脂に限ることなく、ナイロン、ポリプロピレン或いはポリウレタン等の軽量な合成樹脂であってもよい。
(2)本発明の実施にあたり、膜振動型吸音層50である非通気薄膜層は、上記各実施形態にて述べた一枚のフィルムに限ることなく、例えば、2枚或いは2層のフィルムの積層或いは3枚或いは3層のフィルムの積層等、各種の薄い膜でもって構成されてもよい。
【0109】
ここで、膜振動型吸音層50は、フィルム等の柔軟性材料からなる非通気薄膜層に限ることなく、フィルム等の柔軟性材料からなる通気薄膜層であってもよく、当該通気薄膜層と後側層60との積層構造でもって、上記実施形態にて述べた作用効果と実質的に同様の作用効果を達成し得る。
(3)前側層40の形成材料は、上記各実施形態にて述べたものに限ることなく、PETやウール等の有機繊維、グラスウール等の無機繊維の構造体材料或いはウレタンフォーム等の多孔質合成樹脂材料であってもよい。また、後側層60の形成材料は、上記各実施形態にて述べたものに限ることなく、PETやウール等の有機繊維、グラスウール等の無機繊維の構造体材料或いはウレタンフォーム等の多孔質合成樹脂材料や、オレフィン系樹脂、EVA樹脂或いはPVC樹脂等の遮音材料であってもよい。
(4)ダッシュインシュレータDSに対する騒音としては、エンジン音に限ることなく、車室内に入る種々の騒音を含めてもよい。
(5)本発明の実施にあたり、ダッシュインシュレータに限ることなく、自動車のフロアインシュレータ、ピラーインシュレータ、ルーフインシュレータ、ルームパーティションインシュレータ、フードインシュレータ、エンジンアンダカバーインシュレータ、フロアカーペット等に本発明を適用してもよい。
(6)本発明の実施にあたり、自動車用ダッシュインシュレータに限ることなく、例えば、建物の防音壁等の防音体に本発明を適用してもよい。
(7)本発明の実施にあたり、上記各実施形態にて述べた所定の開孔率範囲内及び所定の開孔数範囲は、上記各実施形態とは異なり、膜振動型吸音層の質量調整のみの騒音低減効果と、後側層の質量、開孔面積及び開孔数の調整のみの騒音低減効果との総和でもって、実質的に共振現象を抑制し得るように設定してもよい。
(8)本発明の実施にあたり、後側層の開孔形状は、円に限ることなく、菱形、三角形、四角形、長楕円形その他の楕円形等のようにどのような形状であってもよい。
(9)本発明の実施にあたり、中側層が、その後側層との積層体のもとに、騒音のうちその低周波数領域における騒音成分との関連にて中側層及び後側層の各振動の間における共振現象を抑制し得る範囲であれば、ダッシュインシュレータの騒音に対する防音効果は、騒音の低周波数領域内の騒音成分との関連にて、実質的に良好に確保され得る。
(10)本発明の実施にあたり、後側層60の開孔部61の開孔率及び開孔数を上記実施形態にて述べたように設定することなく、複数の開孔部61を形成してなる後側層60を膜振動型吸音層50に積層すれば、騒音の低周波数領域における騒音成分との関連にて、
膜振動型吸音層50及び後側層60の各振動における共振現象を抑制するように積層体の振動を維持することは可能である。これによっても、膜振動型吸音層50の膜振動による吸音機能及び後側層60の遮音機能を確保した防音効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0110】
DS…ダッシュインシュレータ、30…ダッシュパネル、40…前側層、
50…中側層(膜振動型吸音層)、60…後側層、61…開孔部、70…表皮層。
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