【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、ベース部材と、ヒータが設けられた吸着支持部材とを備えたウェハ加熱装置に用いられ、前記ベース部材と前記吸着支持部材とを接合するための接着剤であって、少なくとも、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散された無機充填材とを含有し、該無機充填材の少なくとも一部は、内部が中空状の中空粒子であることを特徴とするウェハ加熱装置用の接着剤にある。
【0009】
前記ウェハ加熱装置用の接着剤は、マトリックス樹脂中に分散された無機充填材を含有している。そして、無機充填材は、内部が中空状の中空粒子を少なくとも一部に含んでいる。そのため、無機充填材の低熱伝導率化、さらには無機充填材を含む接着剤全体の低熱伝導率化を図ることができる。これにより、吸着支持部材に設けたヒータの熱が接着剤を介して拡散することを抑制し、吸着支持部材(被吸着物を吸着する吸着面)の均熱性を高めることができる。
【0010】
また、無機充填材が中空粒子を含んでいることにより、無機充填材の低弾性率化、さらには無機充填材を含む接着剤全体の低弾性率化を図ることができる。これにより、ベース部材と吸着支持部材との熱膨張率差に起因する応力を接着剤によって緩和することができる。そして、吸着支持部材の反り等の変形を抑制し、吸着支持部材(被吸着物を吸着する吸着面)の平面度を高めることができる。
【0011】
また、中空粒子は、中実の粒子に比べて低密度であり、接着剤中での沈降速度が遅くなる。そのため、接着剤中での無機充填材の偏りを抑制し、接着剤内(例えば上下)で特性が変化するといったことを防止できる。これにより、接着剤の信頼性を高めることができ、吸着支持部材の均熱性・平面度を高めるという前述の効果を十分に得られる。
【0012】
本発明の第2の態様は、ベース部材と、ヒータが設けられた吸着支持部材とを備え、前記ベース部材と前記吸着支持部材とは、前記ウェハ加熱装置用の接着剤を用いて接合されていることを特徴とするウェハ加熱装置にある。
【0013】
前記ウェハ加熱装置は、ベース部材と吸着支持部材とを備えている。両者は、前述のウェハ加熱装置用の接着剤を用いて接合されている。すなわち、吸着支持部材の均熱性・平面度を高めることができる、信頼性に優れた接着剤を用いて接合されている。そのため、吸着支持部材(被吸着物を吸着する吸着面)の均熱性・平面度を高めることができる。また、接着剤の信頼性を高めることができる。
【0016】
このように、本発明によれば、吸着支持部材の均熱性・平面度を高めることができる、信頼性に優れたウェハ加熱装置用の接着剤及びこれを用いたウェハ加熱装
置を提供することができる。
【0017】
また、前記ウェハ加熱装置用の接着剤は、例えば、マトリックス樹脂硬化前の状態、半硬化の状態、硬化後の状態等をすべて含む。また、前述のとおり、前記無機充填材の少なくとも一部は、内部が中空状の中空粒子である。中空粒子以外の粒子は、例えば、内部が中実状の中実粒子等である。中空粒子は、従来公知の様々な方法を用いて作製することができる。
【0018】
また、前記中空粒子の形状は、球状であることが好ましい。この場合には、中空粒子が例えば板状や繊維状であるときに比べて、ベース部材や吸着支持部材を傷つけるおそれが少ない。また、同じ含有量であれば、板状や繊維状であるときに比べて接着剤の熱伝導率が低くなるため、吸着支持部材の均熱性をさらに高めることができる。また、同じ含有量であれば、板状や繊維状であるときに比べて接着剤の弾性率が低くなるため、ベース部材と吸着支持部材との熱膨張率差に起因する応力をより緩和することができ、吸着支持部材の平面度をさらに高めることができる。
【0019】
なお、中空粒子の形状が「球状」であるとは、真球状のみならず、真球状に近似した形状を含む。すなわち、中空粒子全体の90%以上が形状因子1〜1.4の範囲内にあることをいう。ここで、形状因子とは、走査型電子顕微鏡(SEM)等で拡大観察した任意の数(例えば数百個)の粒子の長径と長径に直交する短径との比の平均値より算出することができる。したがって、完全な球形粒子のみであれば形状因子は1であり、この形状因子が1から外れるほど非球形となる。
【0020】
また、前記中空粒子内の中空部の形状は、不定形状であることが好ましい。この場合には、中空粒子の内部に密度ムラがあることにより、接着剤中において中空粒子が沈降する際に、中空粒子が回転しやすくなる。そのため、中空粒子が周辺の樹脂(マトリックス樹脂)や粒子(無機充填材を構成する粒子)と干渉しやすくなり、中空粒子の沈降速度が遅くなる。これにより、接着剤内の無機充填材の偏り、それに伴う特性の変化をより一層防止でき、接着剤の信頼性をさらに高めることができる。なお、「不定形状」とは、前述の形状因子が1.4を超えるものをいう。
【0021】
また、前記中空粒子において、中空部が中空粒子の中心部分にあることが好ましい。さらには、中空部以外の部分は緻密であることが好ましい。この場合には、マトリックス樹脂が中空部に入り込むことを防止し、中空部を有する中空粒子による効果を十分に得られる。
【0022】
また、前記中空粒子の少なくとも一部は、粒径が5μm以上であることが好ましい。すなわち、粒径が大きい中空粒子のほうが低熱伝導率化・低弾性率化への寄与が大きく、接着剤中での沈降速度も遅くなる。よって、粒径5μm以上の中空粒子を含んでいることにより、無機充填材(接着剤)の低熱伝導率化・低弾性率化を図り、吸着支持部材の均熱性・平面度を高めることができる。また、接着剤内の無機充填材の偏り、それに伴う特性の変化を防止し、接着剤の信頼性を高めることができる。
【0023】
また、前記中空粒子の粒径は、通常、50μm以下、最大でも100μm以下とすることが好ましい。接着剤の厚み(例えば塗布厚み)に対して中空粒子の粒径が大きくなると、その分だけマトリックス樹脂の量が減少するため、接着剤の強度が低下するおそれがある。
【0024】
また、前記無機充填材において、中空粒子の割合は、粒径が5μm未満では個数で5%以下、粒径が5μm以上では個数で10%以上であることが好ましい。すなわち、粒径が5μm未満の粒子は、内部が中空状でなくても接着剤中での沈降速度が遅いため、接着剤内の無機充填材の偏り等への影響が小さい。逆に中空状であると粒子全体の形状が真球状ではなくなり、充填性が低下したり、接着剤の粘度が上昇したりするおそれがある。そのため、中空粒子の割合を前記特定の割合以下とすることが好ましい。
【0025】
一方、粒径が5μm以上の粒子は、内部が中空状であれば低熱伝導率化・低弾性率化への寄与が大きくなる。そのため、中空粒子の割合を前記特定の割合以上とすることが好ましい。なお、中空粒子の割合は、例えば硬化後の接着剤を走査型電子顕微鏡(SEM)等で拡大観察して求めることができる。
【0026】
また、前記無機充填材において、粒径が5μm以上の粒子の割合は、体積又は質量で積算した場合、30%以上80%以下であることが好ましい。この場合には、粒径が大きい(例えば粒径が5μm以上の)中空粒子が含まれていることによる前述の効果を十分に得られる。すなわち、無機充填材(接着剤)の低熱伝導率化・低弾性率化を図り、吸着支持部材の均熱性・平面度を高めることができる。また、接着剤内の無機充填材の偏り、それに伴う特性の変化を防止し、接着剤の信頼性を高めることができる。
【0027】
前記無機充填材において、粒径が5μm以上の粒子の割合が体積又は質量で積算して30%未満の場合には、無機充填材によって接着剤の強度を十分に確保することができないおそれがある。さらに、無機充填材の表面積が増加するため、大気中の水分が吸着しやすくなり、無機充填材の製造や保管環境の影響を受けやすく、接着剤の安定した生産が困難となるおそれがある。一方、粒径が5μm以上の粒子の割合が体積又は質量で積算して80%を超える場合には、マトリックス樹脂と無機充填材との混合が困難となるおそれがある。
【0028】
また、前記無機充填材において、粒径が1μm以下の粒子の割合は、体積又は質量で積算した場合、10%以上40%以下であることが好ましい。この場合には、粒径が小さい粒子を一定量含むことにより、接着剤の流動性を低下させ、粒径が大きい粒子の沈降を抑制できる。これにより、接着剤内の無機充填材の偏り、それに伴う特性の変化を防止し、接着剤の信頼性を高めることができる。
【0029】
前記無機充填材において、粒径が1μm以下の粒子の割合が体積又は質量で積算して10%未満の場合には、接着剤の流動性を低下させ、粒径が大きい粒子の沈降を抑制する効果が十分に得られないおそれがある。一方、粒径が1μm以下の粒子の割合が体積又は質量で積算して40%を超える場合には、接着剤の流動性が低下しすぎて、マトリックス樹脂と無機充填材との混練や接着剤の塗布が困難となるおそれがある。
【0030】
また、前記無機充填材は、その粒度分布において、少なくとも2つ以上のピークを持つことが好ましい。この場合には、例えば、粒径が大きい粒子(中空粒子)を含むことによる効果と粒径が小さい粒子を含むことによる効果とを両立させることができる。また、例えば2つのピークを持つように、異なる粒度分布を持つ無機充填材を混合することにより、無機充填材の粒度分布の制御、さらには接着剤の粘度調整が容易となる。
【0031】
また、前記接着剤は、所定の厚みを有するシート状に形成されていてもよい。この場合には、接着剤の取り扱いが容易となり、ベース部材と吸着支持部材との接合の際の作業性を向上させることができる。なお、ここでのシート状の接着剤は、例えば、マトリックス樹脂硬化前の状態、半硬化の状態、硬化後の状態等をすべて含む。
【0032】
また、前記接着剤の熱伝導率は、0.2〜1.2W/(m・K)とすることが好ましい。この場合には、接着剤の低熱伝導率化を実現でき、吸着支持部材に設けたヒータの熱が接着剤を介して拡散することを抑制し、吸着支持部材の均熱性を高めることができる。なお、接着剤の熱伝導率は、例えば、吸着支持部材(被吸着物を吸着する吸着面)の温度分布、昇温速度、降温速度、接着剤の厚み等を考慮して設定することができる。
【0033】
また、前記接着剤における前記無機充填材の含有量は、例えば、3〜50体積%とすることができる。無機充填材の含有量は、例えば、接着剤が所望の熱伝導率となるように設定すればよい。
【0034】
また、前記接着剤において、前記マトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等を用いることができる。
【0035】
また、前記無機充填材としては、例えば、アルミナ、シリカ、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、アルミノシリケート、ジルコニア、チタニア、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、マイカ、カーボンブラック等を用いることができる。この中でも特に安価で耐久性のあるアルミナやシリカが好ましい。また、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
また、前記ウェハ加熱装置において、前記吸着支持部材は、セラミック絶縁体を有し、そのセラミック絶縁体にヒータを設けた構成とすることができる。セラミック絶縁体を構成する材料としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、イットリア等が挙げられる。このうち、アルミナは、強度、耐摩耗性の点で優れている。窒化アルミニウムは、熱伝導率の面で優れている。イットリアは、耐プラズマ性に優れている。
【0037】
また、ベース部材を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、これらの合金等の金属材料が挙げられる。このうち、アルミニウム及びその合金は、加工性、コスト面で優れている。また、チタン及びその合金は、熱膨張係数が小さく、吸着支持部材を構成するセラミックとの熱膨張率差に起因する応力を抑えることができる。
【0038】
なお、接着剤中での無機充填材(中空粒子)の沈降速度については、粒子が流体中を沈降する際の沈降速度を表したストークスの式を用いて考えることができる。ストークスの式は、v=((ρ
s−ρ
w)・g/18η)・d
2で表される。ただし、式中において、v:粒子の沈降速度(m/s)、ρ
s:粒子の密度(kg/m
3)、d:粒子径(m)、ρ
w:流体(マトリックス樹脂)の密度(kg/m
3)、η:流体(マトリックス樹脂)の粘度(Pa・s)、g:重力加速度(m/s
2)である。
【0039】
前記ストークスの式から、中空粒子は、中実粒子に比べて粒子の密度ρ
sが低いため、粒子の沈降速度vが遅くなる。また、粒子径dが大きいほど粒子の沈降速度vが速くなるため、粒子径dが大きい粒子を中空とするほうが、粒子の沈降速度vを遅くする(沈降を抑制する)効果が大きくなる。