(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心軸が一致するように配置された内側の円筒と外側の円筒、及び前記内側の円筒と前記外側の円筒とを連結する複数の連結板を有する枠と、前記内側の円筒の上端縁から前記外側の円筒の上端縁にわたって張られた第1のメッシュと、前記内側の円筒の下端縁から前記外側の円筒の下端縁にわたって張られた第2のメッシュと、前記第1のメッシュと前記第2のメッシュと前記枠とに包囲された粉末状のゲッター材料の収納部と、前記収納部に収納された、粒径が前記第1のメッシュ及び前記第2のメッシュの網目より大きな前記粉末状のゲッター材料とを有する非蒸発型ゲッターと、
前記内側の円筒に挿入されたヒーターと
を有することを特徴とする非蒸発型ゲッターポンプ。
上の輪と、前記上の輪から間隔を空けて配置された下の輪と、前記上の輪と前記下の輪とを連結する複数の支柱とを有する枠と、前記上の輪の外縁から前記下の輪の外縁にわたって張られた第1のメッシュと、前記上の輪の内縁から前記下の輪の内縁にわたって張られた第2のメッシュと、前記第1のメッシュと前記第2のメッシュと前記枠とに包囲された粉末状のゲッター材料の収納部と、前記収納部に収納された、粒径が前記第1のメッシュ及び前記第2のメッシュの網目より大きな前記粉末状のゲッター材料とを有する非蒸発型ゲッターと、
前記収納部の中央の穴に設置されたヒーターと
を有することを特徴とする非蒸発型ゲッターポンプ。
相互に対向する開口を有する円筒状の枠と、前記相互に対向する開口を塞ぐように前記枠に張られたメッシュと、前記メッシュと前記枠とで包囲され、粒径が前記メッシュの網目より大きい粉末状のゲッター材料とを有する非蒸発型ゲッターと、
複数の前記非蒸発型ゲッターが収納された輪状の籠と、
中心軸を前記籠の中心軸に一致させて設けられ、前記ゲッター材料を活性化するヒーターと
を有することを特徴とする非蒸発型ゲッターポンプ。
相互に対向する開口を有する枠と、前記相互に対向する開口を塞ぐように前記枠に張られたメッシュと、前記枠に取り付けられた筒からなる連結部材と、前記メッシュと前記枠とで包囲され、粒径が前記メッシュの網目より大きい粉末状のゲッター材料とを有する複数の非蒸発型ゲッターと、
前記ゲッター材料を活性化するヒーターを含む棒とを有し、
複数の前記非蒸発型ゲッターの相互の前記筒が中心軸を一致させて重ねられ、前記相互の筒に前記ヒーターを含む棒が挿入されて、複数の前記非蒸発型ゲッターが回転可能に連結されたことを特徴とする非蒸発型ゲッターポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、実施形態について説明する前に、実施形態の理解を容易にするための予備的事項について説明する。
【0010】
非蒸発型ゲッターは、ゲッター材料の比表面積(単位質量当たりの表面積)が大きいほど、多くの気体分子を吸着することができる。そのため、ゲッター材料を粉末状や、一旦粉末状にしてから圧縮して固めてピル状に加工することが望ましい。しかし、粉末状のゲッター材料は飛散しやすく、ピル状に成形しても、運搬時や使用中に振動を受けたり擦れたりすると粉末がこぼれ落ちて飛散し、非蒸発型ゲッターポンプを使用する真空装置に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0011】
特許文献2では、粉末状のゲッター材料を、その粒径より小さな網目を有するメッシュで包囲した非蒸発型ゲッターが開示されている。しかし、このような非蒸発型ゲッターのメッシュでは、網目が非常に細かくなり、線径も非常に小さくなるため、形状を維持することが難しく、運搬時などに加わる外圧や非蒸発型ゲッターの自重によって容易に変形してしまうという問題がある。メッシュが変形すると、メッシュと内部の粉末状のゲッター材料が、またゲッター材料同士が、互いに擦り合わされることによって、粒径がより小さい微粉末が発生する可能性がある。よって、この微粉末がメッシュの外に漏出して飛散し、やはり真空装置に悪影響を及ぼす恐れがある。また、微粉末が漏出しないようにメッシュの網目をさらに小さくした場合は、気体分子の流入が妨げられ、非蒸発型ゲッターポンプの排気速度が低下するという問題がある。
【0012】
以下に述べる実施形態は、このような問題を解決するものである。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の非蒸発型ゲッターについて説明する。以下、非蒸発型ゲッター(Non-Evaporable Getter)をNEG、非蒸発型ゲッターポンプをNEGポンプと表記する。
図1(a)は、第1実施形態のNEGを表す斜視図、
図1(b)は、
図1(a)の平面Iに沿う断面を表す斜視図である。
【0014】
第1実施形態のNEG1では、
図1に示すように、短い円筒状のステンレス製の枠2に、枠2の開口を塞ぐように枠2の両側からステンレス製のメッシュ3を張り、これを粉末状のゲッター材料4を入れるための容器5とする。メッシュ3は、平織り、エッチング、パンチングメタルなどのタイプを用いることができる。
【0015】
図2は、第1実施形態のNEGの枠にメッシュを取り付ける方法の一例を表し、
図2(a)は取り付け前を表す断面図、
図2(b)は取り付け後を表す断面図である。
【0016】
枠2にメッシュ3を取り付ける方法は、粉末状のゲッター材料4が容器5から漏れないようにすることができればどのような方法でも良いが、例えばスポット溶接により取り付ければ良い。その他の方法として、
図2に示すように、枠2に断面が台形の溝6を形成し、メッシュ3を溝6にあてがい、輪にした金属製の針金7でメッシュ3を溝6内に押し込むことで、枠2にメッシュ3を取り付ける方法もある。針金7の直径を溝6の開口の幅(台形の上辺)よりわずかに大きくしておけば、枠2にメッシュ3を固定することができる。
【0017】
枠2には枠2を貫通する雌ねじ(貫通孔)8を形成し、この雌ねじ8から粉末状のゲッター材料4を容器5内に入れた後、ステンレス製の雄ねじ9でゲッター材料4が漏れないように栓をする。
【0018】
メッシュ3と枠2とに包囲された粉末状のゲッター材料4は、容器5からの漏出を防ぐため、ふるいで選り分けて粒径がメッシュ3の網目より大きいものに限定しておく。具体的には、メッシュ3の目開き寸法は気体分子の流入を妨げないように30μm以上にすることが好ましく、ゲッター材料4の粒径はメッシュ3の目開き寸法より10μm前後以上大きくすることが好ましい。同時に、ゲッター材料4の比表面積を増大させるために、ゲッター材料4が漏出する恐れのない範囲で、ゲッター材料4の粒径の上限を小さくすることが好ましい。具体的には、ゲッター材料4の粒径の上限を200μm程度にすることが好ましい。上限をこの程度にとどめるのは、合金を粉砕して粉末状にするとゲッター材料の粒径は数μm〜300μmに分散するため、この粉末をできるだけ無駄なく使うためである。しかし比表面積の増大を重視する場合は、ゲッター材料4の粒径の上限をさらに小さくしても良い。
【0019】
例えば目開き寸法が41μmの場合、ゲッター材料4の粒径を50μm以上180μm以下(上記の通り上限をさらに小さくすることも可能である)にすると良い。このようにゲッター材料4を選別するためには、例えば、上の網目の目開き寸法が180μm、下の網目の目開き寸法が49μmの二重のふるいを用いれば良い。さらに、摩擦によって破片などが生じにくいように、ブラスト処理などを行って一つ一つの粒子をできるだけ丸い形にしておくことが好ましい。これにより、破片や微粉末がメッシュ3の外に漏出することを防ぐことができる。
【0020】
粉末状のゲッター材料4は、種々の合金や純金属であって良いが、例えばジルコニウムとバナジウムと鉄の合金を用いることができる。また、枠2とメッシュ3と雄ねじ9の材料は、高温でゲッター材料4と接触した時に劣化しない物が好ましいが、ステンレス鋼以外のモリブデンやタングステンなどの高融点金属やセラミックスであっても良い。
【0021】
以上の第1実施形態のNEG1によれば、枠2がメッシュ3の変形を抑制するので、ゲッター材料4の微粉末の発生が抑えられ、微粉末が漏出して飛散することを防ぐことができる。また、枠2を挟んで移動させればメッシュ3は変形しないため、扱いやすいという利点もある。また、雄ねじ9の軸を枠2の厚さより長くして、ゲッター材料4の隙間を詰め、容器5内でゲッター材料4が動きにくいようにすることで、微粉末の発生を抑える効果を増すこともできる。また、粉末を圧縮してピル状に成形する高コストの工程が不要になるため、コストを大幅に抑えることもできる。
【0022】
次に、第1実施形態のNEG1を備えたNEGポンプの一例について説明する。
【0023】
図3は、複数の第1実施形態のNEGを入れるための籠を表す斜視図である。
【0024】
図4は、複数の第1実施形態のNEGを備えたNEGポンプを表す断面図である。
【0025】
図4に示すように、第1実施形態のNEG1を備えたNEGポンプ10は、円盤状の真空フランジ11を介して不図示の真空チャンバーに接続されるものである。真空フランジ11には、不図示の固定用のボルトを通すための穴12、不図示のガスケットを挟み込むためのエッジ13が形成されている。
【0026】
図3及び
図4に示すように、ステンレス製の円筒状の二つの金網14a、14bを重ね、内側の金網14aと外側の金網14bの間を、下側は金網14cで閉じ、上側は開放した籠14を製作し、この籠14の中に多数のNEG1を縦にして入れる。内側の金網14aと外側の金網14bの間隔はNEG1の厚さと同程度であり、籠14を横から見た時にNEG1が最密充填構造となるように籠14が一杯になるまで入れる。
【0027】
NEG1を入れた籠14を真空フランジ11の上に設置する。真空フランジ11の円柱状の中央部15には、中央部15を貫通し、電源に接続する2本の棒状の端子17、19に螺旋状の発熱部18を接合した輻射式のヒーター16を固定している。
【0028】
このヒーター16で籠14の内側からNEG1を加熱し、ゲッター材料4の表面に吸着した気体分子を内部に吸収させる活性化と言われる処理を行うことによって、NEG1を初回及びそれ以後繰り返し使用することができる。ヒーター16の発熱部18と籠14は中心軸が一致しており、籠14に入っているNEG1のメッシュ3はヒーター16に対向しているため、ヒーター16からの熱を各々のNEG1のゲッター材料4に均等に、効率良く伝えることが可能である。
【0029】
籠14の直径と高さは自由に設計可能であり、籠14に入れるNEG1の数を増やすことで、大きな排気速度のNEGポンプを提供することができる。
【0030】
第1実施形態のNEG1及びこれを備えたNEGポンプ10は、加速器や電子顕微鏡などの電子源部に用いることができる。ここでは電極に極めて高い電圧がかかるため、電極の近くに粉末状のゲッター材料4があると、粉末が帯電し、電極に飛んで衝突し、電極を損傷する恐れがある。しかし第1実施形態のNEG1によれば、メッシュ3が静電シールドとなるため、粉末状のゲッター材料4の帯電を防止することができる。メッシュ3の網目を細かくし、メッシュ3を接地すれば、静電シールドの効果をより高めることができる。
【0031】
(第1実施形態のNEGポンプの性能の調査)
第1実施形態のNEG1及びこれを備えたNEGポンプ10を以下の条件で製作し、性能を調査した。
【0032】
円筒状のステンレス製の枠2の外径は10mm、内径は9mm、軸方向の長さは3mmとした。ステンレス製のメッシュ3は平織りで、目開き寸法は41μmである。粉末状のゲッター材料4は、ジルコニウム70%とバナジウム24.6%と鉄5.4%の合金とし、粒径は50μm以上180μm以下とした。
【0033】
NEGポンプ10の排気速度を大きくするためには、できるだけ多くの粉末状のゲッター材料4をNEG1の容器5に封入することが好ましい。調査で製作したNEG1の容器5には、約0.93gの粉末状のゲッター材料4を入れることが可能であった。比較のために述べると、粒径が数μm〜300μmに分布する粉末を全て混ぜ合わせ、圧縮して上記のNEG1と同じサイズの直径10mm、厚さ3mmのピル状に成形したNEGの重さは、緩く圧縮した場合が1.0g、強く圧縮した場合が1.2gである。よって、ピル状のNEGに比べて若干少ないものの、大差ない量のゲッター材料4を容器5に入れることができる。
【0034】
また、粒径を50μm以上180μm以下にした粉末状のゲッター材料4は、砂時計の砂のようにさらさらとして塊を生じにくく、粒径が数μm〜300μmの粉末状のゲッター材料に比べ、小さな雌ねじ8から容器5内に入れることが容易であることも確認できた。
【0035】
NEGポンプ10の籠14は、10メッシュで目開き寸法は2.5mmとした。この籠14の中に、籠14の周に沿って並ぶ8個のNEG1を5層にして計40個配置した。真空フランジ11は外径70mmのコンフラットフランジの規格品CF70を使用した。
図5は、第1及び第3実施形態のNEGを備えたNEGポンプの性能を調査するための真空装置の構成を表す図である。
【0036】
この真空装置では、ターボ分子ポンプ20とダイアフラムポンプ21が接続された第1チャンバー22と、性能を調査するNEGポンプ10が接続された第2チャンバー23とが、オリフィス板24を介して接続されている。第1チャンバー22には四重極型質量分析計25も接続されている。
【0037】
ターボ分子ポンプ20とダイアフラムポンプ21を作動させて排気を開始し、真空装置の脱ガスのためのベーキングの直後にNEG1の活性化を450℃で30分間行い、その後室温の環境に放置すると、約10
−9Paの真空状態に達した。
【0038】
この状態から、第1チャンバー22に接続されたリークバルブ26を緩めてガスボンベ27から試料の水素ガスを導入した。第1チャンバー22に接続された第1真空計28で第1チャンバー22内の圧力P1を測定し、第2チャンバー23に接続された第2真空計29で第2チャンバー23内の圧力P2を測定した。そしてP2に対するNEGポンプ10の排気速度S(H
2)を、導管のコンダクタンスをC、試料の水素ガスを導入する直前の第1チャンバー22と第2チャンバー23の圧力をそれぞれP1b、P2bとした時の計算式S(H
2)=C[(P1−P1b)/(P2−P2b)−1]から求めてグラフにした。
【0039】
また、第1チャンバー22と第2チャンバー23を開放して内部に乾燥した空気を導入し、一度活性化を行ったNEG1を空気にさらした状態から、初回と同じように排気と活性化を行ってNEGポンプ10の排気速度S(H
2)を調べてグラフにした。結果は
図6にそれぞれ△印と▲印で示すようになった。
【0040】
図6は、
図5の真空装置を用いて第1実施形態のNEGを備えたNEGポンプの性能を調査した結果を表すグラフである。
図6において、△印は水素に対する初回の調査の排気速度S(H
2)であり、▲印は水素に対する2回目の調査の排気速度S(H
2)である。使用したゲッター材料4はNEG1が40個で約37.2gである。
【0041】
NEGポンプの性能を評価する上で最も重要なのが最大排気速度S
max(H
2)であり、初回のこの値は約120L/Sであった。二番目に重要なのが、初回以降、上記の大気暴露とNEGの活性化を繰り返してNEGポンプを使用する際、初回の最大排気速度S
max(H
2)がどの程度維持されるか、即ちNEGの劣化の程度であり、これはNEGの寿命の指標となる。2回目の調査における最大排気速度S
max(H
2)は約110L/Sであり、初回からの劣化の程度は約8.3%であった。
【0042】
比較のために、同じ合金で粒径が数μm〜300μmに分布する粉末を全て混ぜ合わせ、圧縮して直径10mm、厚さ3mm、重さ1.2gのピル状に成形したNEGを40個(48g)、同じように用いてNEGポンプを製作し、同様の方法で排気速度を調査した。結果は初回のS
max(H
2)が約170L/S、2回目のS
max(H
2)が約123L/Sとなった。この結果を第1実施形態と同じ37.2g当たりに換算すると、初回のS
max(H
2)が約132L/S、2回目のS
max(H
2)が約95L/Sであり、初回からの劣化の程度は約27.6%であった。
【0043】
第1実施形態のNEG1の最大排気速度は、NEGの初回の使用においてはピル状のNEGより若干小さいものの、NEGの2回目の使用においてはピル状のNEGを既に上回っている。2回目の使用以降も第1実施形態のNEG1が8.3%、ピル状のNEGが27.6%ずつ劣化し続けるとすれば、2回目以降は第1実施形態のNEG1の方が最大排気速度が大きくなる。そして第1実施形態のNEG1は、最大排気速度が初回の半分の60L/Sになるまで初回から数えて9回使用できるのに対し、ピル状のNEGは、最大排気速度が初回の半分の66L/Sになるまで初回から数えて3回である。第1実施形態のNEG1はピル状のNEGの3倍の長寿命を有し、寿命の観点からは格段に優れていると言うことができる。
【0044】
(第2実施形態)
第2実施形態のNEGについて説明する。第2実施形態のNEGは、形状のみが第1実施形態と相違する。よって、この部分のみを説明し、第1実施形態と同じ部材には同一の符号を付け、重複する説明は省略する。
【0045】
図7は、第2実施形態のNEGを表す斜視図である。
【0046】
第2実施形態のNEG30では、
図7に示すように、細長いステンレス製の板を折り曲げ、四角く短い筒状の枠31にし、枠31の開口を塞ぐように枠31の両側からステンレス製のメッシュ32を張り、粉末状のゲッター材料4を入れるための容器33とする。第1実施形態と同様、枠31にはゲッター材料4を入れるための雌ねじ34が形成され、雄ねじ35で栓をするようになっている。
【0047】
第2実施形態のNEG30によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
ここで、第1実施形態の調査結果を参考にして、第2実施形態のNEG30を備えたNEGポンプの水素に対する排気速度を概算すると、次のようになる。
【0049】
例えば、四角い筒状の枠31は、厚さを0.5mm、軸方向の長さを3mm、内側の長辺の長さを100mm、内側の短辺の長さを12mmとする。メッシュ32は平織り、目開き寸法は41μmとする。粉末状のゲッター材料4は、第1実施形態と同じ合金とし、粒径は50μm以上180μm以下とする。
【0050】
40個の第1実施形態の容器5内の体積は、1個の第2実施形態の容器33内の体積の約2.1倍である。排気速度が容器内の体積に比例すると仮定すれば、第2実施形態のNEG30を備えたNEGポンプの最大排気速度S
max(H
2)は、1個のNEG30につき120L/Sを2.1で割った約57L/Sになる。
【0051】
例えば、コンフラットフランジの規格品CF152が接続される真空チャンバーの内径は100mm程度あるので、この真空チャンバーの内周(周長約314mm)に沿ってNEG30(短辺13mm)を20本程度配置することができる。ここで、真空チャンバーの内壁に対向するNEG30のメッシュ32からも気体を取り込めるように、NEG30は真空チャンバーの内壁から若干離して配置することが望ましい。そして中央に
図4に示すような輻射式のヒーター16を設置すれば、水素に対して1140L/S程度の大きな排気速度のNEGポンプを提供することができる。
【0052】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の変形例のNEGについて説明する。第2実施形態の変形例のNEGは、複数の第2実施形態のNEGを連結可能にしたものである。
【0053】
図8は、複数の第2実施形態の変形例のNEGを連結する方法を表す斜視図である。
【0054】
図9は、複数の第2実施形態の変形例のNEGを連結した状態を表す平面図である。
【0055】
図8に示すように、第2実施形態の変形例のNEG36では、各々のNEG36の枠31の両側に、連結部材として2つずつ、計4つの筒37a、37b、37c、37dが接合されている。筒37aと筒37c、筒37bと筒37dは、高さ方向の位置がずれており、矢印で示す方向にNEG36を移動させ、筒37c、37dと隣のNEG36の筒37a、37bとの中心軸を一致させる。中心軸を一致させたこれらの筒37a、37b、37c、37dに、矢印で示すように上からセラミックス製の棒38を差し込むことで、隣合わせになっているNEG36を蝶番のように回転可能に支持し一体化することができる。
【0056】
棒38には中心軸に沿う2つの平行な長孔が開いており、これらの長孔にU字状のタンタルヒーター39を差し込むことで、棒38にヒーターの機能を持たせ、NEG36のゲッター材料4を活性化することができる。
【0057】
図9にはNEG36を5つ連結した例を示しているが、連結するNEG36の数に特に制限はない。第2実施形態の変形例のNEG36によれば、多数のNEG36を連結することができるため、各々のNEG36を真空チャンバーに個別に固定する必要がない。また、隣合わせになっているNEG36同士の角度θを自由に調節することができるため、連結した多数のNEG36を、例えば加速器や電子顕微鏡などの内壁の形状に合わせて配置することができる。また、中央は空いているため、電子ビームやX線ビームを通過させることも可能である。
【0058】
(第3実施形態)
第3実施形態のNEGについて説明する。第3実施形態のNEGは、形状のみが第1実施形態と相違する。よって、この部分のみを説明し、第1実施形態と同じ部材には同一の符号を付け、重複する説明は省略する。
【0059】
図10は、第3実施形態のNEGを表す斜視図である。
【0060】
第3実施形態のNEG40では、
図10に示すように、ステンレス製の上の輪41aと下の輪41bとこれらをつなぐ四角柱の支柱41cとからなる枠41の内側と外側からメッシュ42を張り、粉末状のゲッター材料4を入れるための容器43とする。支柱41cは2本にし、それぞれ上の輪41aと下の輪41bに溶接する。容器43は対向する支柱41cで仕切られた2つの半円筒状の空間に分かれており、上の輪41aに形成した雌ねじ44a、44bから粉末状のゲッター材料4を入れた後、雄ねじ45a、45bで栓をする。支柱41cの本数を増してメッシュ42の変形を抑制する効果を増すこともできる。
【0061】
第3実施形態のNEG40によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。特に第3実施形態の円筒状のNEG40によれば、中央の穴(輪41a、41bの内側)に
図4に示すような輻射式のヒーター16を設置すれば、この1つのNEG40だけを用いたNEGポンプを提供することができる。
【0062】
(第3実施形態のNEGポンプの性能の調査)
第3実施形態のNEG40及びこれを備えたNEGポンプを以下の条件で製作し、性能を調査した。
【0063】
枠41の上下の輪41a、41bの外径は36mm、内径は30mm、厚さは3mmとした。支柱41cは正四角柱で、底面の一辺の長さは3mm、高さは44mmとした。ステンレス製のメッシュ42は平織りで、目開き寸法は41μmである。第1実施形態と同じ粉末状のゲッター材料4を用いる。このNEG40の容器43には、41gの粉末状のゲッター材料4を入れることが可能であった。
【0064】
このNEG40の中央に第1実施形態と同様のヒーター16を設置してNEGポンプを構成し、水素と一酸化炭素に対する排気速度S(H
2)とS(CO)を、第1実施形態と同じ方法で調査してグラフにすると、
図11に示すような結果が得られた。
【0065】
図11は、
図5の真空装置を用いて第3実施形態のNEGを備えたNEGポンプの性能を調査した結果を表すグラフである。
図11において、△印は水素に対する排気速度S(H
2)であり、○印は一酸化炭素に対する排気速度S(CO)である。
【0066】
水素に対する最大排気速度S
max(H
2)は約200L/S、一酸化炭素に対する最大排気速度S
max(CO)は約180L/Sであった。第3実施形態のNEG40によれば、水素と一酸化炭素の両方に対して、測定した圧力の範囲の全体にわたって従来のピル状のNEGより大幅に大きい排気速度を得ることができた。
【0067】
(第4実施形態)
第4実施形態のNEGについて説明する。第4実施形態のNEGは、形状のみが第1実施形態と相違する。よって、この部分のみを説明し、第1実施形態と同じ部材には同一の符号を付け、重複する説明は省略する。
【0068】
図12は、第4実施形態のNEGを表す斜視図である。
【0069】
第4実施形態のNEG46では、
図12に示すように、ステンレス製の枠47は、中心軸が一致する内側の短い円筒47aと外側の短い円筒47bと、これらをつなぐ3つの板47cとからなり、車輪のような形にしている。このような枠47を製作するには、例えば厚さ3mmの板をレーザー切断で加工すれば良い。
【0070】
2つの円筒47a、47bの間の3つの扇形の開口を塞ぐように円筒47a、47bの両側からステンレス製のメッシュ48を張り、粉末状のゲッター材料4を入れるための容器49とする。容器49は、内側の円筒47aの周りに約120度の角度ごとに設けた板47cで仕切られた3つの空間に分かれている。外側の円筒47bに形成した雌ねじ50a、50bから粉末状のゲッター材料4を入れた後、雄ねじ51a、51bで栓をする。なお、雌ねじと雄ねじはもう一対あるが、
図12では背面にあるので図示していない。
【0071】
第4実施形態のNEG46によっても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
次に、第4実施形態のNEG46を備えたNEGポンプの一例について説明する。
【0073】
図13は、複数の第4実施形態のNEGを備えたNEGポンプを表す断面図である。
【0074】
図13に示すように、第4実施形態のNEG46を備えたNEGポンプ52は、円盤状の真空フランジ53を介して不図示の真空チャンバーに接続されるものである。真空フランジ53には、不図示のガスケットを挟み込むためのエッジ54が形成されている。
【0075】
真空フランジ53の厚さを増した円柱状の中央部55には、電熱線56を金属製の管57で包んだシースヒーター58を貫通させて固定している。
【0076】
シースヒーター58の管57の外径をNEG46の内側の円筒47aの内径に一致させておけば、管57に内側の円筒47aを嵌めるだけで、シースヒーター58に多数のNEG46を直接、簡単に取り付けることができる。
図13ではシースヒーター58に例として6つのNEG46を取り付けた状態を示している。シースヒーター58が内側からNEG46を加熱して、NEG46のゲッター材料4を活性化する仕組みである。シースヒーター58は各々の車輪状のNEG46の中央の穴を通るため、シースヒーター58からの熱を各々のNEG46のゲッター材料4に均等に、効率良く伝えることが可能である。
【0077】
NEG46の直径や厚さ、シースヒーター58の長さは自由に設計可能であり、例えば長さ10mのシースヒーター58に厚さ3mmのNEG46を10mm間隔で嵌めていけば、700個以上のNEG46をシースヒーター58に取り付けることができる。このように構成した大きな排気速度のNEGポンプは、加速器のビームダクト側面に取り付けて用いるNEGポンプとして好適である。
【0078】
NEG46の別の用途として、半導体の分野で使用するガス精製装置を製作することもできる。金属製の円筒の中に、この円筒の内径に直径が一致する例えば10個のNEG46をシースヒーター58に2〜3mm間隔で嵌めた状態で入れ、円筒の両端を閉じて密閉容器とする。シースヒーター58は円筒と中心軸を一致させ、円筒の一端に固定する。円筒の一端にはガスを容器内に導入するための開閉可能な入口を設け、円筒の他端にはガスを容器内から取り出すための開閉可能な出口を設ける。容器内の排気とNEG46の活性化を行って容器内を真空状態にしてから、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの精製するべきガスを入口から導入する。このガスは多数のNEG46を通過する間に酸素、水、一酸化炭素、二酸化炭素、水素などの不純物が1ppbレベルまで除去され、出口から高純度に精製されたガスを取り出すことができる。シースヒーター58の替わりに容器の外に設けたヒーターによってNEG46を活性化するようにしても良い。
【0079】
なお、以上の諸実施形態の他にも、NEGは用途に応じた様々な形態にすることができる。
【0080】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0081】
(付記1)メッシュと、
前記メッシュに取り付けられて該メッシュの変形を抑制する枠と、
前記メッシュと前記枠とで包囲され、粒径が前記メッシュの網目より大きな粉末状のゲッター材料と
を有することを特徴とする非蒸発型ゲッター。
【0082】
(付記2)更に、前記枠に貫通孔が形成され、
前記貫通孔を塞ぐ栓を有することを特徴とする付記1に記載の非蒸発型ゲッター。
【0083】
(付記3)更に、前記枠に取り付けられ、複数の前記非蒸発型ゲッターを連結する連結部材を有することを特徴とする付記1又は2に記載の非蒸発型ゲッター。
【0084】
(付記4)前記連結部材は、前記ゲッター材料を活性化するヒーターを含む棒が挿入される筒であり、
前記筒と前記棒によって回転可能に支持されることを特徴とする付記3に記載の非蒸発型ゲッター。
【0085】
(付記5)前記ゲッター材料を活性化するヒーターを挿入可能な穴が前記枠に形成されていることを特徴とする付記1又は2に記載の非蒸発型ゲッター。
【0086】
(付記6)メッシュと、前記メッシュに取り付けられて該メッシュの変形を抑制する枠と、前記メッシュと前記枠とで包囲され、粒径が前記メッシュの網目より大きな粉末状のゲッター材料とを有する非蒸発型ゲッターと、
前記ゲッター材料を活性化するヒーターと
を有することを特徴とする非蒸発型ゲッターポンプ。