(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、パン生地製造装置では、小麦粉、水、イースト菌等のパン生地材料を入れた容器内で混練羽根を回転させてパン生地材料を混練することにより、パン生地が形成される。
【0003】
容器は、たとえば、底部に向うに従い内径が小さくなる、砲弾形状やすり鉢形状(漏斗形状)に形成することができる。容器をこのような形状とした場合、粉の量が少ないときには、容積の小さな底部付近を用いて粉を混練でき、粉のまとまりが良くなる。
【0004】
また、混練羽根は、たとえば、ボス部から互いに反対側の外方に延びる第一羽根および第二羽根を有する構成とすることができる。この場合、第一羽根は、略垂直方向に設けられる構成とすることができ、第二羽根は、略水平方向に設けられる構成とすることができる。
【0005】
上記の容器および混錬羽根を備えるパン生地製造装置が、たとえば、特許文献1に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
混錬羽根は、ボス部に形成された貫通孔に回転軸の先端部が挿入されることにより、回転軸に装着される。混錬羽根は上下方向には固定されていないため、ユーザは、容器や混錬羽根を洗浄する際、混錬羽根を指で摘まんで上方へ持ち上げ回転軸から取り外すことができる。
【0008】
図6(a)ないし(c)は、上記構成のパン生地製造装置において、パン生地が混錬されているときの容器内の様子を示す図である。
【0009】
パン生地製造装置では、一度に多くのパンが作られる場合、定格(たとえば、小麦粉700グラム)に近い、多量の小麦粉が容器内で混錬される。一方で、一度に作られるパンが少ない場合、定格を大きく下回る、少量(たとえば、300グラム以下)の小麦粉が容器内で混錬される。
【0010】
図6(a)に示すように、多量の小麦粉が混錬される場合、混錬羽根が回転すると、第二羽根は、パン生地の中に潜り込む。第二羽根には、上に乗りかったパン生地の重みにより、実線矢印のように、下向きの力が作用する。このため、混錬中に混錬羽根が回転軸から抜けにくい。
【0011】
一方、
図6(b)に示すように、少量の小麦粉が混錬される場合、生地の量が少ないので、混錬羽根が回転したときに、薄いパン生地が第二羽根に張り付いたような状態となりやすい。このような状態になると、パン生地は、回転により生じる遠心力によって外側に伸びて容器の内周面に押し付けられる。容器の内周面には勾配がつけられているので、破線矢印のように、押し付けられたパン生地は内周面に沿って上方に移動しようし、実線矢印のように、第二羽根は張り付いたパン生地よって持ち上げられようとする。これにより、混錬中に混錬羽根が回転軸から抜けやすくなる。
【0012】
さらに、
図6(c)に示すように、混錬羽根が上方に移動し、混錬羽根の底面と回転軸を支持する軸受部の上面との間に隙間が生じると、パン生地の一部がこの隙間に挟まりやすくなる。パン生地が隙間に挟まることで、混錬羽根が一層、回転軸から抜けやすくなる。
【0013】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、混錬中に混錬羽根が外れにくい生地製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の主たる態様に係る生地製造装置は、生地材料を収容する容器と、前記容器の底部に配置される混錬羽根と、前記混錬羽根が、回転方向には固定され上方向には離間できるように装着される回転軸と、前記回転軸を回転させるための駆動モータと、を備える。ここで、前記容器は、底部に向かうに従って内径が小さくなる形状を有する。さらに、前記混錬羽根は、前記回転軸が挿入される貫通孔が形成された円錐台状のボス部と、当該ボス部の外周面に、垂直方向に対して所定角度傾くように設けられた一枚の羽根と、を含む。
【0015】
上記の構成によれば、混練羽根が回転すると、生地は、回転する羽根に押し上げられて上昇する。このとき、ボス部は、上方に向うに従って細くなるように、外周面が傾斜しているので、生地は、ボス部の外周面に張り付きにくい。よって、生地は、外周面を滑るようにしてボス部の上まで上昇する。生地は、ボス部の上まで上昇すると、ボス部から外れて、容器の底面に落下し、再び、羽根に押し上げられる。ボスには、生地が上昇する際に、生地の重みが加わる。これにより、混練中、混練羽根は、上方に抜けにくくなる。
【0016】
本態様に係る生地製造装置において、前記回転軸を回転可能に支持するとともに前記混錬羽根が載せられる軸受部を、さらに備える構成が採られ得る。この場合、前記ボス部の底面に、外周に向かうに従って前記軸受部の上面との距離が大きくなる傾斜面が形成される。
【0017】
上記の構成によれば、何らかの要因により混練羽根が浮き上がり、ボス部の底面と軸受部の上面との間の隙間に生地の一部が挟まり込んだとしても、挟まった生地の一部が隙間から外れやすい。よって、一層、混練中に混練羽根が上方に抜けにくくなる。
【0018】
本態様に係る生地製造装置において、前記羽根は、垂直方向に長い第1羽根部と、当該第1羽根部の下端部から外側に延びる水平方向に長い第2羽根部とを含む構成とされ得る。
【0019】
上記の構成によれば、羽根が生地を押し上げる際、第2羽根部が生地の下に潜り込みやすく、生地によって、第2羽根部が下に押さえ込まれやすい。よって、さらに一層、混練中に混練羽根が上方に抜けにくくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、混錬中に混錬羽根が外れにくい生地製造装置を提供することができる。
【0021】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施形態の説明によりさらに明らかとなろう。ただし、以下の実施形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の生地製造装置の一実施形態であるパン生地製造装置について、図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、パン生地製造装置1の構成を示す断面図である。
【0025】
パン生地製造装置1は、筐体100と、収容槽200と、混錬容器ユニット300と、駆動モータ400と、駆動伝達ユニット500と、軸継手600とを備えている。
【0026】
筐体100は、上ケース110と、下ケース120と、取付基板130とを含む。上ケース110は、下面が開放されている。上ケース110の上面には、収容槽200が設置される開口部110aが形成されており、開口部110aの側方に操作部111が設けられている。操作部111には、各種の操作ボタン112が配置されている。
【0027】
下ケース120は、上面が開放され、上ケース110の下面に結合されている。下ケース120の底面には、4つの角部に脚部121が設けられている。取付基板130は、下ケース120内に配置されている。取付基板130は、各角部に設けた4つの支柱131によって支えられ、これによって、取付基板130と下ケース120の底面との間には、駆動伝達ユニット500が配置される配置空間Sが形成される。
【0028】
なお、筐体100の上面には、パン生地製造装置1の非使用時や運転中、図示しないカバーが被せられる。
【0029】
収容槽200は、開口部110aから筐体100内に組み込まれ、取付基板130に取り付けられる。収容槽200の形状は、混錬容器ユニット300の形状に対応しており、槽上部210は砲弾形状を有しており、槽底部220は有底の円筒形状を有している。槽底部220の下面中央部には軸受部230が形成されている。軸受部230は、取付基板130の孔を通じて配置空間Sに突き出ている。軸受部230の内部には、すべり軸受231が設けられている。
【0030】
混錬容器ユニット300は、上方から収容槽200内に収容される。混錬容器ユニット300は、容器310と、軸受ケース320と、入力回転軸330と、混錬羽根340とを含む。
【0031】
容器310は、砲弾形状を有しており、底部に向かうに従って内径が小さくなっている。容器310の内周面には、上下方向に延びる複数のリブ311が、容器310の内側に突出するように形成されている。リブ311は、左回りに回転するパン生地を下方に誘導するため、右回り方向にやや倒れるように傾いている。
【0032】
軸受ケース320は、上面が閉鎖され下面が開放された円筒形状を有しており、容器310の外底面に装着されて容器310を支えている。軸受ケース320は、内部に軸継手600を収容する。軸受ケース320の上面には、軸受部321が形成されている。軸受部321は、容器310の底面に形成された孔を通じて容器310の内部に突き出ている。軸受部321の内部には、すべり軸受322が設けられている。
【0033】
入力回転軸330は、軸受部321に回転可能に支持されている。入力回転軸330は、上端部が軸受部321から容器310の内部に突き出ており、下端部が軸受部321から軸受ケース320の内部に突き出ている。
【0034】
混錬羽根340は、容器310の底部に配置されている。混錬羽根340は、樹脂により形成され、ボス部341と、ボス部341の外周面に形成された一枚の羽根342とを含み、ボス部341にて入力回転軸330に装着されている。混錬羽根340は軸受部321の上面に載せられており、容器310の底面から混錬羽根340の底面までは所定の高さを有する。混錬羽根340の詳細な構成は、追って説明される。
【0035】
容器310は、最大で約700グラムの小麦粉を混練できる容積を有している。混練羽根340は、このような容器310において、約300グラム以下の少量の小麦粉を混練する場合に用いられる。なお、多量の小麦粉を混練する場合には、
図6により説明された2枚の羽根を有する混練羽根が用いられる。
【0036】
駆動モータ400は、取付基板130に取り付けられて、収容槽200の側方に配置されている。駆動モータ400のモータ軸401は、取付基板130の孔を通じて配置空間Sに突き出ている。
【0037】
駆動伝達ユニット500は、出力回転軸510と、大プーリ520と、小プーリ530と、Vベルト540とを含む。出力回転軸510は、軸受部230に回転可能に支持されている。出力回転軸510は、上端部が軸受部230から槽底部220の内部に突き出ており、下端部が軸受部230から配置空間Sに突き出ている。大プーリ520は、出力回転軸510の下端部に固定されており、小プーリ530は、モータ軸401に固定されている。大プーリ520と小プーリ530との間には、Vベルト540が掛け渡されている。
【0038】
軸継手600は、外周面に凹凸が形成された円盤形状の第1継手610と、内周面に凹凸が形成された逆皿形状の第2継手620とを含む。第1継手610は、出力回転軸510の上端部に固定されており、第2継手620は、入力回転軸330の下端部に固定されている。混錬容器ユニット300が収容槽200内に収容されると、第1継手610と第2継手620とが係合し、出力回転軸510と入力回転軸330とが連結される。
【0039】
図2は、混錬羽根340と入力回転軸330の上端部331の構成を示す斜視図である。
図3(a)ないし(d)は、混錬羽根340の構成を示す図であり、それぞれ、正面図、平面図、左側面図および背面図である。
【0040】
混練羽根340のボス部341は、円錐台状を有しており、その外周面341aは、内側に傾く傾斜面となっている。本実施の形態では、外周面の拡がり角度αが、約25度となるように、ボス部341が形成されている。勿論、この拡がり角度αは、円柱状のボス部を樹脂成形により形成する場合に、金型に形成される抜き勾配よりはるかに大きい。
【0041】
ボス部341には、入力回転軸330の上端部331が挿入される貫通孔341bが形成されている。
図2に示すように、入力回転軸330の上端部331には、Dカットの加工が施されており、これに合わせて、貫通孔341bは、断面D字状に形成されている。これにより、混練羽根340は、入力回転軸330に装着された状態において、回転方向には固定され入力回転軸330に対して回転できないが、上方向には固定されず入力回転軸330から上方へ離間できる。
【0042】
ボス部341の底面341cは、貫通孔341bの周囲が傾斜面となるように形成されている。本実施の形態では、底面341cの傾斜角度βが、約20度となるように、ボス部341が形成されている。
【0043】
混練羽根340の羽根342は、ボス部341から下方に垂れ下がるように、ボス部341と一体形成され、その下端は、容器310の底面に近接対峙している(
図1参照)。
図3(c)に示すように、羽根342は、羽根342の正面がやや上を向くように、垂直方向から所定角度だけ傾いている。
【0044】
羽根342は、第1羽根部342aと第2羽根部342bとを含む。第1羽根部342aは、縦方向に長く下方に向うに従い拡がる形状を有する。第2羽根部342bは、第1羽根部342aの下端部から外側に延び、横方向に細長い形状を有する。
【0045】
次に、パン生地製造装置1の動作について説明する。
【0046】
ユーザは、少量の小麦粉を混練する場合に、混練羽根340を入力回転軸330に装着する。そして、容器310に、小量分の生地材料、即ち、少量の小麦粉と、その量に見合う水、砂糖、塩、イースト菌等を投入して、操作部111の運転開始の操作ボタン112を押す。
【0047】
運転か開始され、駆動モータ400が回転する。駆動モータ400の回転は、駆動伝達ユニット500および軸継手600を介して入力回転軸330、即ち混練羽根340に伝達され、混練羽根340が上から見て左回りに回転する。混練羽根340の回転速度は、450rpmから500rpmに設定される。
【0048】
混練羽根340が回転すると、水等を含む小麦粉が羽根342により撹拌される。羽根342は、
図6に示す第一羽根に比べて、
図2の点線に示す領域の部分が存在せず、小麦粉に接触する面積が小さいので、小麦粉が少量であっても、粉飛びを少なくなる。小麦粉が水等と混ぜられ、やがて、容器310内でパン生地が形成され始める。
【0049】
図4(a)ないし(c)は、少量のパン生地が混錬されているときの容器310内の様子を示す図である。
【0050】
図4(a)に示すように、パン生地は、回転する羽根342に押し上げられて上昇する。このとき、ボス部341は、上方に向うに従って細くなるように、外周面341aが傾斜しているので、パン生地は、ボス部341の外周面341aに張り付きにくい。よって、実線矢印のように、パン生地は、外周面341aを滑るようにして円滑にボス部341の上まで上昇する。パン生地は、ボス部341の上まで上昇すると、ボス部341から外れて、破線矢印のように、容器310の底面に落下し、再び、羽根342に押し上げられる。
【0051】
パン生地は、容器310内でこのような動作を繰り返す。ボス部341には、太線矢印のように、パン生地が上昇する際に、パン生地の重み、即ち下方への力が加わる。これにより、混練中、混練羽根340は、上方に抜けにくくなる。
【0052】
また、
図4(b)に示すように、羽根342がパン生地を押し上げる際、第2羽根部342bがパン生地の下に潜り込みやすく、太線矢印のように、パン生地によって、第2羽根部342bが下に押さえ込まれやすい。よって、一層、混練中に混練羽根340が上方に抜けにくくなる。
【0053】
さらに、何らかの要因により混練羽根340が浮き上がると、ボス部341の底面341cと軸受部321の上面との間に隙間が生じて、その間にパン生地の一部が挟まり込む虞がある。しかしながら、ボス部341の底面341cは、傾斜しており、外周に向うほど軸受部321の上面との隙間が広がっているので、挟まったパン生地の一部が隙間から外れやすい。よって、さらに一層、混練中に混練羽根340が上方に抜けにくくなる。
【0054】
図5は、ボス部341の拡がり角度αと、混練中に混練羽根340が入力回転軸330から外れる割合(以下「はずれ率」と称する)の関係を示す図である。
図5のグラフは、ボス部341の天面の径を約15mm、ボス部341の高さを約20mm、ボス部341の底面341cの傾斜角度βを約20度としたときのものである。
【0055】
図5のグラフに示す通り、拡がり角度αが大きくなるほど、パン生地がボス部341の外周面341aに張り付きにくくなるので、はずれ率は低下する。はずれ率の低下は、拡がり角度αが約25度に至るまで低下し、約25度を超えると上昇に転じる。これは、拡がり角度αが大きくなることでボス部341の底面341cの径が大きくなりすぎると、入力回転軸330の周面位置からボス部341の外周位置までの長さが長くなりすぎ、底面341cと軸受部321の上面との隙間に挟まったパン生地が抜けにくくなるためである。
【0056】
本実施の形態では、ボス部341の天面の径が約15mm、ボス部341の高さが約20mm、ボス部341の底面341cの傾斜角度βが約20度に設定されており、拡がり角度αは、上記寸法条件において最適となる約25度に設定されている。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態等によって何ら制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も、上記以外に種々の変更が可能である。
【0058】
たとえば、上記実施の形態では、混練羽根340は、樹脂により形成されている。しかしながら、これに限らず、混練羽根340は、アルミニウムなどの金属で形成されても良い。この場合、混練羽根340の表面には、フッ素樹脂等によるコーティングが施される。
【0059】
さらに、上記実施の形態では、駆動伝達ユニット500が設けられている。しかしながら、これに限らず、駆動モータ400を収容槽200の下方に配置して、駆動モータ400のモータ軸401に、直接、軸継手600を接続する構成が採られてもよい。
【0060】
さらに、上記実施の形態のパン生地製造装置は、パン生地に加え、うどんなどの麺生地やピザ生地も形成できる構成とされてもよい。
【0061】
さらに、本発明は、パン生地を形成するパン生地製造装置の他、麺生地、ピザ生地等を形成するための各種の生地製造装置に適用できる。
【0062】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。