特許第6133835号(P6133835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133835
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20170515BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170515BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20170515BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20170515BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B01J23/63 AZAB
   B01D53/94 222
   B01J35/04 301L
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-251878(P2014-251878)
(22)【出願日】2014年12月12日
(65)【公開番号】特開2016-112489(P2016-112489A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
(72)【発明者】
【氏名】青木 悠生
(72)【発明者】
【氏名】鎮西 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 良典
(72)【発明者】
【氏名】落合 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 満克
(72)【発明者】
【氏名】田辺 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】須田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正尚
(72)【発明者】
【氏名】千葉 明哉
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
(72)【発明者】
【氏名】小里 浩隆
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/105454(WO,A1)
【文献】 特開2010−260046(JP,A)
【文献】 特開2010−005590(JP,A)
【文献】 特開2012−152702(JP,A)
【文献】 特開2012−086199(JP,A)
【文献】 特開2012−024701(JP,A)
【文献】 特表2013−500149(JP,A)
【文献】 特開2013−116446(JP,A)
【文献】 特表2011−525856(JP,A)
【文献】 特開昭62−168544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成された触媒コーティング層を有する排ガス浄化触媒であって、 前記触媒コーティング層は、少なくとも下層と、前記下層の上に形成された、触媒に流入する排ガスに直接接触する上層とを有し、
前記下層は、担体と、前記担体に担持された少なくともPtまたはPdを含む貴金属触媒とを含有し、
前記上層は、担体と、前記担体に担持された少なくともRhを含む貴金属触媒と、パイロクロア型の規則配列構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物とを含有し、
前記セリア−ジルコニア系複合酸化物は、プラセオジム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加元素を、全陽イオン合計量に対して0.5〜5.0モル%含有し、かつ(セリウム+前記追加元素):(ジルコニウム)のモル比が43:57〜48:52の範囲内であ
前記触媒コーティング層が、排ガス浄化触媒の排ガス上流側の端部に前記上層が設けられていない部分を有し、かつ排ガス浄化触媒の排ガス下流側の端部に前記下層が設けられない部分を有する、前記排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記セリア−ジルコニア系複合酸化物が含有する追加元素がプラセオジムである、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記上層が、セリア−ジルコニア系複合酸化物を基材容量に対して1〜20g/Lの量で含有する、請求項1または2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記下層が、排ガス浄化触媒の排ガス上流側の端部から前記基材の全長の75〜85%までの範囲に設けられており、かつ前記上層が、排ガス浄化触媒の排ガス下流側の端部から前記基材の全長の75〜85%までの範囲に設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の排ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス浄化用触媒に関する。より詳しくは、複数の触媒コーティング層を有し、その最上層に所定の追加元素を含むパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、未燃の炭化水素(HC)などの有害ガスが含まれている。そのような有害ガスを分解する排ガス浄化触媒(いわゆる三元触媒)には、酸素貯蔵能(OSC:Oxygen Storage Capacity)を有する助触媒としてセリア−ジルコニア複合酸化物などが用いられる。酸素貯蔵能を有する物質(OSC材)は、酸素を吸放出することによりミクロな空間で空燃比(A/F)を制御し、排ガス組成変動に伴う浄化率の低下を抑制する効果を有する。
【0003】
排ガス浄化触媒の浄化性能の向上のために、OSC材には、A/F変動による急激な雰囲気変動に対応するための酸素吸放出速度と、長時間にわたって酸素吸放出能を維持するための酸素貯蔵容量の両方が求められる。この要求に対し、例えば特許文献1では、貴金属が担持されてなく、パイロクロア相型の規則配列構造を有する第1酸素吸放出材と、前記第1酸素吸放出材と比較して酸素吸放出速度が高くて酸素吸放出容量が低い第2酸素吸放出材とを含有し、第2酸素吸放出材に白金族貴金属が担持されており、耐久後であっても高いNOx浄化性能を発揮することができる排ガス浄化用触媒が提案されている。
【0004】
一方、排ガス雰囲気が酸素過剰のリーン雰囲気でNOxを吸蔵し、吸蔵されたNOxを、排ガス雰囲気をストイキ〜水素等の還元成分過剰なリッチ雰囲気に変化させることにより放出し、これを貴金属の作用によりHCやCO等の還元成分と反応させて還元し浄化するNOx吸蔵還元型の浄化触媒において、金属同士の固溶体化による触媒活性の低下の問題に鑑み、例えばPtとRhを異なる層に含ませた上下2層の触媒層が設けられた触媒が提案されている(特許文献2および3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−024701号公報
【特許文献2】特開2010−201284号公報
【特許文献3】特開2009−285604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガソリンなどの燃料には、従来よりも低減されてはいるものの、依然として少量の硫黄成分が含まれている。燃料中の硫黄成分は、通常、排ガス浄化触媒により二酸化硫黄に変換されて排出される。しかし、排ガス雰囲気がHCやCOなどが多い還元性雰囲気となった場合には、排ガス中の二酸化硫黄が還元されて硫化水素(HS)となって排出されてしまう。また、セリアなどのOSC材には硫黄酸化物が吸着しやすいため、酸素吸放出能の向上とHSの排出抑制は排反事象の関係にある。HSは少量でも悪臭を有するため、その排出を極力抑制することが望ましいが、従来の材料では高い酸素吸放出能とHSの排出抑制とを両立することが困難であった。本発明は、高い浄化性能を有しつつHSの排出が抑制された排ガス浄化触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上述したような問題を検討した結果、新たに開発した、所定の追加元素を含むパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物を、OSC材として触媒コーティング層の最上層に用いることで、HSを抑制しつつ高い浄化性能を発揮できる排ガス浄化触媒を提供できることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0008】
(1)基材と、該基材上に形成された触媒コーティング層を有する排ガス浄化触媒であって、
前記触媒コーティング層は、少なくとも下層と、前記下層の上に形成された、触媒に流入する排ガスに直接接触する上層とを有し、
前記下層は、担体と、前記担体に担持された少なくともPtまたはPdを含む貴金属触媒とを含有し、
前記上層は、担体と、前記担体に担持された少なくともRhを含む貴金属触媒と、パイロクロア型の規則配列構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物とを含有し、
前記セリア−ジルコニア系複合酸化物は、プラセオジム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加元素を、全陽イオン合計量に対して0.5〜5.0モル%含有し、かつ(セリウム+前記追加元素):(ジルコニウム)のモル比が43:57〜48:52の範囲内である、前記排ガス浄化触媒。
(2)前記セリア−ジルコニア系複合酸化物が含有する追加元素がプラセオジムである、(1)に記載の排ガス浄化触媒。
(3)前記上層が、セリア−ジルコニア系複合酸化物を基材容量に対して1〜20g/Lの量で含有する、(1)または(2)に記載の排ガス浄化触媒。
(4)前記触媒コーティング層が、排ガス浄化触媒の排ガス上流側の端部に前記上層が設けられていない部分を有し、かつ排ガス浄化触媒の排ガス下流側の端部に前記下層が設けられない部分を有する、(1)〜(3)のいずれかに記載の排ガス浄化触媒。
(5)前記下層が、排ガス浄化触媒の排ガス上流側の端部から前記基材の全長の75〜85%までの範囲に設けられており、かつ前記上層が、排ガス浄化触媒の排ガス下流側の端部から前記基材の全長の75〜85%までの範囲に設けられている、(4)に記載の排ガス浄化触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明の排ガス浄化触媒は、従来背反事象であった酸素吸放出能の向上とHSの排出抑制の両立を、所定の追加元素を含むパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物を触媒コーティングの最上層に採用することにより実現し、HSを抑制しつつ、比較的低温であっても高い浄化性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の排ガス浄化触媒の触媒コーティング層の構造の一態様を示す模式的な断面図である。
図2】Pr添加パイロクロアZCを下層に添加した場合と上層に添加した場合の効果の差を比較したグラフである。
図3】Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量とA/F変動時のNOx浄化率の関係を示すグラフである。
図4】Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量とHS排出量の関係を示すグラフである。
図5】Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量と定常A/Fリッチ時のNOx浄化率の関係を示すグラフである。
図6】Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量と圧損との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の排ガス浄化触媒は、基材と、該基材上に形成された触媒コーティング層を有し、該触媒コーティング層が、少なくとも下層と、前記下層の上に形成された上層を有し、該上層に、プラセオジム(Pr)、ランタン(La)およびイットリウム(Y)からなる群から選択される少なくとも1種の追加元素を有し、かつパイロクロア型の規則配列構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物を含有することを特徴とする。触媒コーティング層は少なくとも上層と下層の二層からなるが、必要に応じて三層以上からなっていてもよい。
【0012】
(触媒コーティング層の上層に含まれるセリア−ジルコニア系複合酸化物)
本発明の排ガス浄化触媒の触媒コーティング層の上層(触媒コーティング層が三層以上存在する場合はその最上層)に含まれるセリア−ジルコニア系複合酸化物は、パイロクロア型の規則配列構造を有し、プラセオジム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加元素を、全陽イオン合計量に対して0.5〜5.0モル%、より好ましくは1.0〜3.0モル%含有し、かつ(セリウム+前記追加元素):(ジルコニウム)のモル比が43:57〜48:52の範囲内であることを特徴とする。
【0013】
該セリア−ジルコニア系複合酸化物は、本発明者らが開発した新規なOSC材であり、熱による劣化が抑制されているとともに、約400℃という低温から十分な酸素吸放出能を発揮できるという特徴を有する。また、酸素吸放出容量が大きい一方で酸素吸放出速度は比較的遅い、比表面積および嵩密度がいずれも低いという特徴も併せ持つ。該セリア−ジルコニア系複合酸化物の比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いて算出したBET比表面積が0.1〜2m/gの範囲、特に0.2〜1m/gの範囲であることが好ましい。
【0014】
ここで、一般に、セリア−ジルコニア系複合酸化物において「パイロクロア型の規則配列構造を有する」とは、セリウムイオンとジルコニウムイオンとによるパイロクロア型の規則配列構造を有する結晶相(パイロクロア相)が構成されていることを意味する。パイロクロア相の配列構造は、CuKαを用いたX線回折パターンの2θ角が14.5°、28°、37°、44.5°及び51°の位置にそれぞれピークを有することにより特定することができる。ここで、「ピーク」とは、ベースラインからピークトップまでの高さが30cps以上のものをいう。また、回折線強度を求める際には、各回折線強度の値から、バックグラウンド値として2θ=10〜12゜の平均回折線強度を差し引いて計算する。
【0015】
パイロクロア型の規則配列構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物において、X線回折パターンのピーク強度比により求められる全結晶相に対するパイロクロア型に規則配列した結晶相の含有比率は50%以上、特に80%以上であることが好ましい。パイロクロア型の規則配列構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物の調製方法は当業者に公知である。
【0016】
セリア−ジルコニア系複合酸化物のパイロクロア相(CeZr)は酸素欠陥サイトを有し、そのサイトに酸素原子が入り込むとパイロクロア相はκ相(CeZr)に相変化する。一方、κ相は酸素原子を放出することによりパイロクロア相に相変化することができる。セリア−ジルコニア複合酸化物の酸素貯蔵能は、パイロクロア相とκ相との間で相互に相変化して酸素を吸放出することによるものである。
【0017】
セリア−ジルコニア系複合酸化物の結晶相のCuKαを用いたX線回折(XRD)測定において、2θ=14.5°の回折線は規則相(κ相)の(111)面に帰属する回折線であり、2θ=29°の回折線は規則相の(222)面に帰属する回折線とパイロクロア相を有しないセリア−ジルコニア固溶体の(111)面に帰属する回折線とが重なったものであるため、両者の回折線の強度比であるI(14/29)値を規則相の存在率を示す指標とすることができる。また、2θ=28.5゜の回折線はCeO単体の(111)面に帰属する回折線であるため、2θ=28.5゜の回折線と2θ=29゜の回折線の強度比であるI(28/29)値を、複合酸化物からCeOが分相している程度を示す指標とすることができる。なお、κ相のPDFカード(PDF2:01−070−4048)およびパイロクロア相のPDFカード(PDF2:01−075−2694)に基づき、完全なκ相のI(14/29)値は0.04、完全なパイロクロア相のI(14/29)値は0.05と計算することができる。
【0018】
本発明で用いるパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物が、プラセオジム、ランタンおよびイットリウムからなる群から選択される少なくとも1種の追加元素を含有することにより上述したような特性を有するようになる理由は、以下のように推察される。プラセオジムは、式:Pr11→3Pr+Oで表される還元反応のΔG(ギブズの自由エネルギー)が負であるため、ΔGが正である、式:2CeO→Ce+0.5Oで表されるCeOの還元反応を起こりやすくするものと考えられる。また、ランタンおよびイットリウムは+3価が安定であるため、電荷補償の原理により結晶内の酸素欠陥を安定させるものと考えられる。
【0019】
本発明で用いるパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物の耐久性は、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後、CuΚαを用いたX線回折測定により得られるI(14/29)値が0.02以上であり、かつI(28/29)値が0.08以下であることにより特徴づけることができる。
【0020】
(触媒コーティング層の下層)
本発明の排ガス浄化触媒において、触媒コーティング層の下層は貴金属触媒としてPtまたはPdを含む。貴金属触媒は、Ptのみ、Pdのみ、またはPtとPdの混合物のみからなっていてもよい。PtおよびPdは主としてCOおよびHCの酸化浄化に寄与する。貴金属触媒は担体に担持された状態で含まれている。担体は、特に限定されず、一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物、例えばアルミナ(Al)、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)またはそれらの組み合わせなどを用いることができる。触媒コーティング層の下層のPtまたはPdを含む貴金属触媒の担体としてはアルミナが好ましい。アルミナ担体はランタナ添加アルミナ担体であってもよい。
【0021】
触媒コーティング層の下層には、OSC材として、セリア−ジルコニア複合酸化物、特にセリアに対するジルコニア含有量が多いセリア−ジルコニア複合酸化物(ZC)が含まれていることが好ましい。ここで「セリアに対するジルコニア含有量が多い」とは、複合酸化物に含まれるジルコニアの重量比がセリアの重量比よりも高いことを意味する。ZC材におけるセリア:ジルコニアの存在比は、重量比で1:1.1〜1:5、特に1:1.5〜1:3の範囲であることが好ましい。ZC材は、CZ材と比較して酸素吸放出効率が高く、貴金属活性に与える影響も小さいという特性を有する。
【0022】
(触媒コーティング層の上層)
本発明の排ガス浄化触媒において、触媒コーティング層の上層は貴金属触媒としてRhを含み、さらにPtまたはPdを含んでいてもよい。貴金属触媒は、Rhのみ、RhとPtの混合物のみ、RhとPdの混合物のみ、あるいはRhとPtとPdの混合物のみからなっていてもよい。Rhは主としてNOxの還元浄化に寄与する。下層と同様に、貴金属触媒は担体に担持された状態で含まれている。担体は、例えばアルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)またはそれらの組み合わせなどを用いることができる。触媒コーティング層の上層のRhを含む貴金属触媒の担体としては、比熱が小さく暖まりやすいジルコニアが好ましく、特に硫黄酸化物を吸着しにくくするという観点からセリアを含まないジルコニアがより好ましい。また、担体とは別に耐熱性の高いアルミナを触媒コーティング層に混合することで、触媒コーティング層の耐久性を向上させることができる。
【0023】
触媒コーティング層の上層には、上述のとおりプラセオジム(Pr)、ランタン(La)およびイットリウム(Y)からなる群から選択される少なくとも1種の追加元素を有し、かつパイロクロア型の規則配列構造を有するセリア−ジルコニア系複合酸化物が含まれる。該セリア−ジルコニア系複合酸化物は、その特性を十分発揮させるためには、基材容量に対して1g/L以上、特に2g/L以上、とりわけ4g/L以上の量で触媒コーティング層の上層に含まれることが好ましい。触媒に流入する排ガスに直接接触する上層に該セリア−ジルコニア系複合酸化物が含まれていることにより、該セリア−ジルコニア系複合酸化物の特性が表れやすくなる。上述のとおり、本発明で用いる該セリア−ジルコニア系複合酸化物は比表面積が小さいため、硫黄酸化物を吸着しにくく、その結果としてHSの発生量を抑制するのに寄与する。なお、該セリア−ジルコニア系複合酸化物は、その含有量に比例して向上するNOxなどの浄化能と、同じく含有量に比例して増加する触媒での圧損やHS排出量のバランスの観点から、基材容量に対して20g/L以下、特に16g/L以下、とりわけ12g/L以下の量で触媒コーティング層の上層に含まれることが好ましい。典型的には、該セリア−ジルコニア系複合酸化物は基材容量に対して1〜20g/Lの量で触媒コーティング層の上層に含まれることが好ましい。
【0024】
(基材および触媒コーティング)
本発明の排ガス浄化触媒に用いる基材は、特に限定されず、一般的に用いられている多数のセルを有するハニカム形状の材料を使用することができ、その材質としては、コージェライト(2MgO・2Al・5SiO)、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などの耐熱性を有するセラミックス材料や、ステンレス鋼などの金属箔からなるメタル材料が挙げられる。基材への触媒コーティング層の形成は、公知の手法により、例えば、各材料を蒸留水およびバインダーに懸濁して調製したスラリーを基材に流し込み、ブロアーで不要分を吹き払うなどして行うことができる。
【0025】
本発明の排ガス浄化触媒において、触媒コーティング層は、図1に示すように、排ガス浄化触媒の排ガス上流側(Fr側)の端部に前記上層が設けられていない部分を有し、かつ排ガス浄化触媒の排ガス下流側(Rr側)の端部に前記下層が設けられない部分を有することが好ましい。排ガス上流側に上層が設けられていない部分を設けることで、貴金属触媒としてPtおよびPdを含む下層での、排ガス中のHCやCOの酸化浄化を促進させることができる。HCやCOを上流側で酸化浄化することにより、排ガス中の二酸化硫黄が硫化水素(HS)となってしまう還元性雰囲気となるのを防ぎ、HSの発生を抑制することができる。また、排ガス下流側に下層が設けられていない部分を設けることで、硫黄の蓄積が生じやすい触媒下流部のコーティング量を減らし、HSの発生をさらに抑制することができる。下層は、排ガス浄化触媒の排ガス上流側の端部から基材の全長の75〜85%まで、特に78〜82%までの範囲(図1中のa)に設けられていることが好ましく、上層は、排ガス浄化触媒の排ガス下流側の端部から前記基材の全長の75〜85%まで、特に78〜82%までの範囲(図1中のb)に設けられていることが好ましい。
【0026】
(本発明の排ガス浄化触媒の特性)
本発明の排ガス浄化触媒は、近年多く採用されているスタートアップ触媒(S/C、スタートアップコンバータなどとも称される)とアンダーフロア触媒(UF/C、アンダーフロアコンバータ、床下触媒などとも称される)を組み合わせた二触媒システムにおいて、UF/Cとして用いるのに特に適している。そのような二触媒システムにおいては、S/Cは内燃機関の直下に取り付けられるため高温の排ガスに晒されるが、UF/CはS/Cの下流に設けられるため、流入する排ガスの濃度は薄く、その温度も比較的低くなり、従来のOSC材(例えばパイロクロア型ZC材)では十分な酸素吸放出機能を発揮することが難しかった。また、UF/CにはS/Cが劣化や故障などにより十分に機能しなくなった場合には、それ単独で十分な排ガス浄化能を発揮することも求められる。本発明の排ガス浄化触媒は、所定の追加元素を含むパイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物を触媒コーティング層の上層に含むことにより、低温でも十分な酸素貯蔵能を発揮でき、HSの発生を抑制するという該セリア−ジルコニア系複合酸化物の特性を活かし、従来の背反事項であった酸素貯蔵能とHS臭の低減の両立を実現するものであり、耐熱性も併せ持つため、UF/Cとして特に好適である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
1.Pr添加パイロクロアZCの調製
まず、CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液442gと、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液590gと、Pr11換算で1.2gとなる量の硝酸プラセオジムを含む水溶液100gと、含有されるセリウムの1.1倍モル量の過酸化水素を含む水溶液197gとを、中和当量に対して1.2倍当量のアンモニアを含有する水溶液1217gに添加し、共沈物を生成し、得られた共沈物を遠心分離し、イオン交換水で洗浄した。得られた共沈物を110℃で10時間以上乾燥した後、400℃で5時間大気中にて焼成してセリウムとジルコニウムとプラセオジムとの固溶体(CeO−ZrO−Pr11固溶体)を得た。得られた固溶体を粉砕機(商品名:ワンダーブレンダー、アズワン社製)を用いて篩で粒径が75μm以下となるように粉砕して、セリア−ジルコニア−プラセオジミア固溶体粉末を得た。
【0029】
次に、得られた固溶体粉末20gを、ポリエチレン製のバッグ(容量0.05L)に詰め、内部を脱気した後、前記バッグの口を加熱してシールした。続いて、静水圧プレス装置(商品名:CK4−22−60、日機装社製)を用いて、前記バッグに対して静水圧プレス(CIP)を2000kgf/cmの圧力(成型圧力)で1分間行って成型し、セリア−ジルコニア−プラセオジミア固溶体粉末の成型体を得た。成型体のサイズは、縦4cm、横4cm、平均厚み7mm、重量約20gとした。
【0030】
次いで、得られた成型体(2枚)を、活性炭70gを充填した坩堝(内容積:直径8cm、高さ7cm)内に配置し、蓋をした後、高速昇温電気炉に入れ、昇温時間1時間で1000℃まで加熱した後、昇温時間4時間で1700℃(還元処理温度)まで加熱して5時間保持し、その後冷却時間4時間で1000℃まで冷却した後、自然放冷で室温まで冷却して還元処理品を得た。得られた還元処理品を大気中、500℃の温度条件で5時間加熱して酸化し、複合酸化物におけるセリウムとジルコニウムとプラセオジムとの含有比率が、セリウム:ジルコニウム:プラセオジムのモル比で45:54:1である、プラセオジム添加パイロクロア型セリア−ジルコニア系複合酸化物(Pr添加パイロクロアZC)を得た。得られたPr添加パイロクロアZCは篩で75μm以下に粉砕した。
【0031】
得られたPr添加パイロクロアZCを、大気中1100℃で5時間加熱した後(高温耐久試験)、パイロクロア構造が維持されているかどうかを確認するため、処理後の結晶相をX線回折法により測定した。X線回折装置として理学電機社製の商品名(RINT−2100)を用い、CuKα線、40KV、30mA、2θ=2゜/分の条件でX線回折パターンを測定し、I(14/29)値及びI(28/29)値を求めた。
【0032】
上記と同様にして、セリウム:ジルコニウム:プラセオジムのモル比が異なるA〜EのPr添加パイロクロアZCを調製し、高温耐久試験の後、X線回折パターンを測定してI(14/29)値及びI(28/29)値を求めた。表1に結果をまとめた。
【0033】
【表1】
【0034】
2.触媒の調製
(1)比較例1:Pr添加パイロクロアZCを含有しない二層触媒
(a)下層Pt層(Pt(0.2)/Al(25)+ZC(30))
1質量%のLaを含有するAl担体と硝酸白金とを用い、含浸法によりAlに担持されたPt材料(材料1)を調製した。次に、材料1、セリウム:ジルコニウムのモル比が46:54であるセリア−ジルコニア複合酸化物(ZC)およびAl系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー1を調製した。
【0035】
コージェライト製のハニカム構造基材にスラリー1を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングは、基材の排ガス流れ方向の上流側(Fr側)から行い、上流側の端から基材の全長の80%までの範囲に形成されるようにした(図1参照、a=80%)。また、コーティングには、基材容量に対して材料1が25g/L(うちPtが0.2g/L)およびZCが30g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。
【0036】
(b)上層Rh層(Rh(0.12)/ZrO(40)+Al(20))
ZrO担体と硝酸ロジウムとを用い、含浸法によりZrOに担持されたRh/ZrO材料(材料2)を調製した。次に、材料2、AlおよびAl系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー2を調製した。
【0037】
上記(a)によりコーティングを施したハニカム構造基材にスラリー2を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングは、基材の排ガス流れ方向の下流側(Rr側)から行い、下流側の端から基材の全長の80%までの範囲に形成されるようにした(図1参照、b=80%)。また、コーティングには、基材容量に対して材料2が40g/L(うちRhが0.12g/L)およびAlが20g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。
【0038】
(2)実施例1〜5
スラリー2の調製時に、さらにPr添加パイロクロアZCを添加した以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。コーティングにおけるPr添加パイロクロアZCの含有量は、基材容量に対して、実施例1で4g/L、実施例2で8g/L、実施例3で12g/L、実施例4で16g/Lおよび実施例5で20g/Lとなるようにした。
【0039】
(3)比較例2
スラリー1の調製時に、さらにセリウム:ジルコニウム:プラセオジムのモル比が45:54:1であるPr添加パイロクロアZC(表1のA)を添加した以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。コーティングにおけるPr添加パイロクロアZCの含有量は、基材容量に対して4g/Lとなるようにした。
【0040】
(4)比較例3〜6
スラリー2の調製時に、セリウム:ジルコニウムのモル比が46:54であるセリアージルコニア複合酸化物(ZC)を添加した以外は比較例1と同様にして触媒を調製した。コーティングにおけるZCの含有量は、基材容量に対して、比較例3で8g/L、比較例4で12g/L、比較例5で16g/Lおよび比較例6で20g/Lとなるようにした。
【0041】
表2に、実施例1〜5および比較例1〜6の触媒における下層および上層のそれぞれの構成をまとめた。
【0042】
【表2】
【0043】
3.評価
(1)耐久試験
触媒をV型8気筒4.3Lガソリンエンジンの排気系に装着し、触媒床温950℃で、1分間にフィードバック、フューエルカット、リッチ、リーンを含む条件で50時間の耐久試験を施した。
【0044】
(2)A/F変動時のNOx浄化率評価
劣化したS/C(Pd/Rh系触媒)を装着した実機エンジンに耐久試験後の触媒をUF/Cとして装着し、入りガス温度を400℃に設定し、入りガス雰囲気のA/Fをリッチ−リーン間(14.0−15.0)で周期的に振幅させた際のNOx排出量を測定した。
【0045】
(3)加速時のHS排出量評価
硫黄含有量が多い燃料を供給したエンジンに触媒を装着することにより触媒に硫黄を吸着させ、次いでエンジンを加速させた際に排出された硫化水素量を測定した。Pr添加パイロクロアZCおよびZCのいずれも添加していない比較例1の値に対する比率で評価した。
【0046】
(4)定常A/Fリッチ時のNOx浄化率評価
劣化したS/Cを装着した実機エンジンに耐久試験後の触媒ををUF/Cとして装着し、入りガス温度を400℃に設定し、入りガス雰囲気のA/Fをリッチに維持した際のNOx排出量を測定し、浄化率を算出した。
【0047】
(5)圧損評価
触媒に一定流量(6m/分)の空気を流した際の圧力損失(25℃換算)を測定し、比較例1の値に対する比率で評価した。
【0048】
4.結果
図2は、Pr添加パイロクロアZCを下層に添加した場合と上層に添加した場合の効果の差を比較したグラフである。なお、実施例1aおよび比較例2aの触媒は、コーティングにおけるPr添加パイロクロアZCの含有量を5g/Lとした以外は、それぞれ実施例1および比較例2と同様に調製したものである。Pr添加パイロクロアZCは上層に添加した場合のみNOx浄化率の向上効果がみられることがわかった。これは、UF/CにはS/Cにより浄化されたガスが流入するため、UF/Cに流入するガス濃度が薄く、よりガスとの反応が起こりやすい上層ほど効果が得られたためであると推察された。
【0049】
図3は、Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量とA/F変動時のNOx浄化率の関係を示すグラフである。従来のZC材を添加した場合では、一定量以上添加してもNOx浄化率に変化はみられなかったのに対し、Pr添加パイロクロアZCを添加した場合ではNOx浄化率は添加量に比例して向上した。
【0050】
図4は、Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量とHS排出量の関係を示すグラフである。従来のZC材を添加した場合では、添加量に比例してHS排出量が増加したのに対し、Pr添加パイロクロアZCを添加した場合では、やはりHS排出量は添加量の増加に伴って増加傾向ではあったが、その増加量は従来のZC材の場合と比較してかなり少なかった。
【0051】
図5は、Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量と定常A/Fリッチ時のNOx浄化率の関係を示すグラフである。従来のZC材を添加した場合では添加に伴ってNOx浄化率が低下する傾向がみられたが、Pr添加パイロクロアZCを添加した場合では、少なくとも添加量が12g/L以内の範囲ではそのような傾向はみられなかった。
【0052】
図6は、Pr添加パイロクロアZCまたは従来のZC材の添加量と圧損との関係を示すグラフである。従来のZC材を添加した場合では、添加量に比例して圧損量が増加したのに対し、Pr添加パイロクロアZCを添加した場合では、やはり圧損量は添加量の増加に伴って増加傾向ではあったが、その増加量は従来のZC材の場合と比較してかなり少なかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6