(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133851
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】共焦点ラスタ顕微鏡および共焦点ラスタ顕微鏡のための駆動方法、ならびに試料の操作方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/00 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
G02B21/00
【請求項の数】20
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-515210(P2014-515210)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公表番号】特表2014-522995(P2014-522995A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2012061463
(87)【国際公開番号】WO2012175424
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年6月1日
(31)【優先権主張番号】102011104379.2
(32)【優先日】2011年6月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】リートケ、ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】ジムビュルガー、エーファ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェート、ダニエル
【審査官】
瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−154376(JP,A)
【文献】
米国特許第03821546(US,A)
【文献】
特公昭49−012263(JP,B1)
【文献】
特開平06−150877(JP,A)
【文献】
米国特許第06687000(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0180868(US,A1)
【文献】
特開2006−017550(JP,A)
【文献】
特開2005−181581(JP,A)
【文献】
特開2010−085608(JP,A)
【文献】
特開2004−133156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00 − 21/36
G01N 21/62 − 21/74
G01J 1/00 − 1/60
H01J 40/00 − 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源(23、24、25)と、調整可能な光線偏向ユニット(30)と、光電子増倍管(2)と、ダイノード(2.2...2.9)に、それぞれフォトカソード(2.1)に対する電圧を印加するための電気回路(1)と、該偏向ユニット(30)を調整するための制御ユニット(34)とを含む共焦点ラスタ顕微鏡(10)であって、該光電子増倍管は、1つのフォトカソード(2.1)と、複数のダイノード(2.2...2.9)と、1つのアノード(2.10)とを有する、共焦点ラスタ顕微鏡において、
・スイッチ(7)を備え、該スイッチ(7)は作動スイッチ状態と非作動スイッチ状態との間で切り替えることができ、該スイッチは、該作動スイッチ状態では該非作動スイッチ状態と比較して、該フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)との間の電圧を低減し、
・制御ユニット(34)を備え、該制御ユニットは、該光源によって照射可能な(少なくとも)1つのターゲットスポット(T)を、該偏向ユニット(30)によって走査野(S)の上を運動させるように構成されており、該制御ユニット(34)は、該ターゲットスポットが該走査野(S)の操作すべき所定領域(R)に入るときに該スイッチ(7)を作動させ、該領域(R)を去るときに該スイッチ(7)を非作動にし、前記所定領域(R)を操作することは、ブリーチングすること、アクティベーションすること、及びアンケージングすることのうちの少なくとも1つを含み、
前記光源(23、24、25)は、その光出力に関して調整可能であり、
前記制御ユニット(34)は前記光源(23、24、25)を、前記ターゲットスポットが所定領域(R)に入るときに比較的高い光出力に調整し、当該領域を去るときに比較的低い光出力に調整することを特徴とする共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項2】
前記スイッチ(7)は、作動スイッチ状態の切り替えによって、
a)前記フォトカソード(2.1)を前記第1のダイノード(2.2)と電気的に短絡するか、または
b)前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)との間の電圧を、その絶対値の低減との組み合わせで極性反転する、請求項1に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項3】
前記電気回路(1)は、前記スイッチ(7)の切り替え状態に依存しないで、前記光電子増倍管(2)に外部動作電圧を印加するように構成されている、請求項1または2に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項4】
前記スイッチ(7)は、最大で1マイクロ秒の切り替え時間を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項5】
複数の光電子増倍管(2)を含み、該光電子増倍管はそれぞれ1つのスイッチ(7)を有し、該スイッチは作動スイッチ状態と非作動スイッチ状態との間で切り替え可能である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)であって、該スイッチは作動スイッチ状態では、該当する該光電子増倍管(2)の前記フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)との間の電圧を低減し、このことは、前記スイッチが、a)前記フォトカソード(2.1)を前記第1のダイノード(2.2)と電気的に短絡するか、またはb)前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)との間の電圧を、極性反転する、ことにより行われる、共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項6】
複数のターゲットスポット(T)をそれぞれ少なくとも1つの光電子増倍管(2)に同時に結像するための光学系を含む、請求項5に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)であって、前記制御ユニット(34)は各該ターゲットスポット(T)に対して、他の該ターゲットスポット(T)に依存せずに、所定領域(R)に入るときに前記光電子増倍管(2)の前記スイッチ(7)を作動させ、去るときに該スイッチを非作動にする、共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項7】
前記ターゲットスポット(T)を空間的・スペクトル的に分解し、複数の光電子増倍管(2)に結像する(少なくとも)1つの光学素子(35)を含む、請求項5に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)であって、前記制御ユニット(34)は、所定領域(R)に入るときに、当該全ての光電子増倍管(2)の前記スイッチ(7)を作動させ、去るときに該スイッチを非作動にする、共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項8】
入口アパーチャにおける種々異なる空間角セグメントを、それぞれ(少なくとも)1つの光電子増倍管に結像するための(少なくとも)1つの光学系を含む、請求項5に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)であって、前記制御ユニット(34)は、所定領域(R)に入るときに、当該全ての光電子増倍管(2)の前記スイッチ(7)を作動させ、去るときに該スイッチを非作動にする、共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項9】
前記光電子増倍管(2)の少なくとも1つのサブセットが1つの光電子増倍管モジュールに組み込まれている、請求項5乃至8のいずれか1項に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項10】
FLIP、FLAP、FRAP、フォトアクティベーションおよび/またはアンケージングにおける、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)の使用。
【請求項11】
光源(23、24、25)と光電子増倍管(2)とを備える共焦点ラスタ顕微鏡(10)のための制御方法であって、該光電子増倍管は、1つのフォトカソード(2.1)、複数のダイノード(2.2...2.9)および1つのアノード(2.10)を有し、
当該制御方法は、
・第1の光出力を放射するために該光源(23、24、25)を制御する工程と、
・第1の電圧を該フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)との間に、電子の加速を目的として印加する工程と、
・該光源(23、24、25)の(少なくとも)1つの光線を(少なくとも)1つのターゲットスポット(T)に向け、該ターゲットスポット(T)が走査野(S)の上を運動する(ラスタ化する)ように該光線を偏向する工程と、を含み、
ここで該ターゲットスポット(T)の運動中に以下のサブ工程:
・ターゲットスポット(T)の位置を求める工程、
・走査野(S)の操作すべき所定領域(R)に達したことを、該ターゲットスポット(T)の位置に基づいて同定する工程、ここで、前記所定領域(R)を操作することは、ブリーチングすること、アクティベーションすること、及びアンケージングすることのうちの少なくとも1つを含み、
・達したことを成功裏に同定できた場合には:第1の光出力よりも大きい、操作のための第2の光出力で放射するために該光源(23、24、25)を制御し、第2の電圧を、該フォトカソード(2.1)と該第1のダイノード(2.2)との間に、該第1の電圧の代わりに印加する工程であって、ここで該第2の電圧は、「フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)とを短絡する」工程および「第1の電圧を、その絶対値の低減と組み合わせて極性反転する」工程の2つうちの1つによって該第1の電圧よりも低い、前記印加する工程
が実施される、制御方法。
【請求項12】
前記第1の電圧を印加するために、外部動作電圧が光電子増倍管(2)に印加され、該外部動作電圧は、前記第2の電圧の印加時にも(実質的に)印加されたままである、請求項11に記載の制御方法。
【請求項13】
前記ターゲットスポット(T)の運動中に付加的に以下のサブ工程:
・走査野(S)の操作すべき所定領域(R)を去ったことを、該ターゲットスポット(T)の位置に基づいて同定する工程、そしてこれに基づき、
・成功裏に同定できた場合には、第1の光出力を放射するために該光源(23、24、25)を制御し、第1の電圧を前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)との間に印加する工程であって、当該印加は、「フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)との短絡を中止する」工程および「第2の電圧を、その絶対値の上昇と組み合わせて極性反転する」工程の2つのうちの1つによって行われる、前記印加する工程
が実施される、請求項11または12に記載の制御方法。
【請求項14】
1つのフォトカソード(2.1)と、複数のダイノード(2.2...2.9)と、1つのアノード(2.10)とを有する光電子増倍管(2)と、光源(25)とを含む共焦点ラスタ顕微鏡(10)を用いて、試料(22)上の位置に応じて変化する前記光源(25)の光出力で光線により試料(22)を種々異なる位置で照射することによって該試料(22)を操作する方法であって、該フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)との間に電圧が、試料(22)上の位置が操作すべき領域(R)であるとき、該光電子増倍管(2)の外部動作電圧が(実質的に)一定の状態で、低減され、ここで、領域(R)を操作することは、ブリーチングすること、アクティベーションすること、及びアンケージングすることのうちの少なくとも1つを含み、
前記光源(25)は、その光出力に関して調整可能であり、
前記光源(25)は、試料(22)上の位置が操作すべき領域(R)であるときに比較的高い光出力に調整され、当該領域(R)外であるときに比較的低い光出力に調整される、操作方法。
【請求項15】
複数の領域(R)が設定されており、前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)が該領域(R)に対して同じに制御される、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項16】
前記光源(23、24、25)の光出力が、電気光学的に(電気光学的モジュレータによって)、または音響光学的に(音響光学的モジュレータによって)調整可能である、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項17】
共焦点ラスタ顕微鏡(10)用のプログラミング可能な制御ユニット(34)であって、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の制御方法を実施するように構成された制御ユニット(34)。
【請求項18】
共焦点ラスタ顕微鏡(10)を制御する制御ユニット(34)のためのコンピュータプログラムであって、前記制御ユニットを請求項11乃至13のいずれか1項に記載の制御方法を実施する手段として機能させるコンピュータプログラム。
【請求項19】
前記b)前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)との間の電圧を、極性反転することは、前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)との間の電圧を、その絶対値の低減と組み合わせて極性反転することを含む、請求項5に記載の共焦点ラスタ顕微鏡(10)。
【請求項20】
前記ターゲットスポット(T)の運動中に付加的に以下のサブ工程:
・走査野(S)の操作すべき所定領域(R)を去ったことを、該ターゲットスポット(T)の位置に基づいて同定する工程、そしてこれに基づき、
・成功裏に同定できた場合には、第1の光出力を放射するために該光源(23、24、25)を制御し、第1の電圧を前記フォトカソード(2.1)と前記第1のダイノード(2.2)との間に印加する工程であって、当該印加は、「フォトカソード(2.1)と第1のダイノード(2.2)との短絡を中止する」工程および「第2の電圧を、その絶対値の低減と組み合わせて極性反転する」工程の2つのうちの1つによって行われる、前記印加する工程
が実施される、請求項11または12に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共焦点ラスタ顕微鏡に関するものである。この共焦点ラスタ顕微鏡は、光源と、調整可能な光線偏向ユニットと、光電子増倍管(英語:photo−multiplier−tube、PMT)と、ダイノードにそれぞれフォトカソードに対する(内部)電圧を印加するための電気回路と、前記偏向ユニットを調整するための制御ユニットとを含み、前記光電子増倍管は、1つのフォトカソードと、複数のダイノードと、1つのアノードとを有する。本発明はさらにこのようなラスタ顕微鏡のための制御方法に関する。第1のダイノードはフォトカソードに最も近いダイノードである。第1のダイノードは、フォトカソードに対して最も小さな電位差を有する。本発明では、ダイノード間の電圧および第1のダイノードとフォトカソードとの間の電圧を内部電圧とも称し、PMTの動作高電圧を外部電圧とも称する。
【背景技術】
【0002】
この種の光学的ラスタ顕微鏡では、試料が光線により走査され(英語:scanned)、このときピクセルごとに画像を記録するために、光線のターゲットスポットが所定の走査野をラスタ化する。各ピクセルには、PMTのいわゆるピクセル滞在時間中に光受容により蓄積された電荷に相当する光強度が割り当てられる。レーザ光源が典型的であるため、この種の顕微鏡はレーザ走査顕微鏡(LSM)とも称される。
【0003】
PMTのダイノードにそれぞれ電圧を印加することにより、光電子増倍管への光入射の際に二次電子の雪崩現象が発生し、これを高精度で測定することができる。これにより、光電子増倍管は高感度の光電変換器である。典型的にはダイノードは分圧器チェーンに接続され、この分圧器チェーンを介して高電圧が印加される。したがってダイノードは電位カスケードを表す。期待される光子電流密度に応じて、光電子増倍管に後置接続された電子増幅器を、最適に評価すべき信号を得るために制御することができる。PMTの増幅率を高電圧の変化によって調整することも可能である。しかしこの形式の調整は緩慢である。
【0004】
フォトカソードへの光入射が強いと、真空増倍管内に過度に大きな電子流密度が発生する。これにより、真空中で残留ガス分子を衝突イオン化する確率が上昇する。このことは残留ガスイオン化(英語:ion feedback)と称される。この残留ガスイオン化はフォトカソードを損傷することがある。アノードも光電子流密度が大きいと損傷することがある。
【0005】
光強度が非常に高いと、このことが共焦点顕微鏡に、試料の1つまたは複数の検査領域内で蛍光体を所期のようにブリーチングする、とりわけ分子レベルでの動的試料プロセスの測定方法を実行する際に発生する。このような方法は例えば、「光褪色後蛍光回復法」(Fluorescence Recovery After Photo−bleaching:FRAP)、「光褪色による蛍光喪失法」(Fluorescence Loss In Photo−bleaching:FLIP)および「光褪色後蛍光位置決め法」(Fluorescence Localization After Photo−bleaching:FLAP)である。この種の方法では、共焦点に検知するPMTが損傷する大きな危険性がある。同じことが、高い光強度により試料領域内の別の物質が操作される方法、例えばケージ分子を高強度の光により開放し、ケージ分子がこれに基づき化学反応または蛍光を解放する(英語:uncage)方法に対しても当てはまる。
【0006】
したがって光電子増倍管のための制御回路には通常、高電圧に対する保護遮断部が装備されており、この保護遮断部は過度に大きな電流密度に対して応答する。このような保護遮断は、例えば特許文献1によれば、コンパレータによってアノード信号に依存して行われる。ここで高電圧の応答時間は数ミリ秒の範囲にある。なぜなら高電圧は電圧源の遮断後、緩慢にしか消失せず、スイッチオン後にも対応して緩慢に再び形成されるからである。これは典型的には数マイクロ秒であるピクセル滞在時間と比較して非常にゆっくりである。そのため、非常に明るい個所を走査する際には、PMTの遮断が遅すぎることがあり、これにより損傷の危険性がそのまま存続する。最後に、慣性のためPMTの再スイッチオンがさらに大きく遅延され、そのため後続の試料領域をまったく記録できなくなる。
【0007】
図1は、このシーケンスを1つの例で示す。より良く理解するために、空間・時間関係は簡素化して示されている。試料が横軸Xに沿って光線により走査される(運動方向が矢印によって示されている)。その間に共焦点で、目下のターゲットスポットにおける局所的蛍光強度が、高電圧のスイッチオンされたPMT(図示せず)によってピクセルPに記録される(黒い実線部分によって示されている)。部分
図1Aでは、照明が走査中に双方向で行われ、光線と検出が走査野X全体に亘り片道でスイッチオンされる。部分
図1Bでは、照明と検出が一方向で行われ、光線はラインの始部でスイッチオンされ、ライン復帰時にスイッチオフされる。ピクセルはラインごとにだけ、一方向だけで記録される。
【0008】
光線のターゲットスポットがブリーチングすべき領域Rに入ると(時点A)、両方の変形実施例とも、既存の蛍光体を所期のように破壊するために試料に入射される光出力が強く上昇される。しかしこれにより、PMTにより記録される光強度は、PMTが過負荷されるほど(白い実線部分)高くなる。しかしPMTの強いアノード信号に基づくPMTの動作高電圧の保護遮断は少しの時間しか持続せず(簡素化して示すことにより、ここでは約3ピクセルPだけ)、この時間中に過負荷が停止するが、これによりPMTの感度が失われ、その寿命が短縮する。時点Bで初めて高電圧が消失する。次に走査過程は、高電圧を遮断して継続される(ラインの破線部分)。ターゲットスポットがブリーチングすべき領域Rを去ると、光出力は再び元の値に低下される。それに基づき保護回路は、弱いアノード信号に基づいて光強度の低下を検知し、これに基づいて高電圧が再びスイッチオンされる。切り替え慣性のため、時点Cで高電圧が形成され(黒い実線部分)、PMTが再び正しいデータを送出するまで少しの時間が掛かる(簡素化により、ここでは約5ピクセルPだけ)。これにより走査方向で領域Rの後方にあるピクセルは、時点Cまで正しく結像されない。
【0009】
高い強度に続く強度の低いこのような試料領域でも記録できるようにするため、高電圧の保護遮断を中止することも確かに可能である。しかし高負荷の下では、PMTがさらに多くを耐えることになる。走査野Xの終点で、光線およびこれにより生じるターゲットスポットは再び走査野Xの始部に導かれる(一点鎖線)。走査野Xの始部までの復帰の間、光線は遮断され、したがってターゲットスポットは照明されない。
【0010】
高電圧を遮断する代わりとして、機械的な蓋(英語:shutter)をPTMの前方で使用することが公知である。この場合は確かに高電圧を印加したままにすることができる。しかしながら機械的な蓋は、純粋な電気的保護回路よりもさらに長い切り替え時間を有し、そのためPMTの損傷に対する危険性がさらに大きくなる。
【0011】
動的プロセスを観察する場合、ブリーチング過程、リリース過程またはアクティベート過程と画像記録との間に経過する時間は、実験の成功に対してクリティカルである。保護回路の上記慣性のため、保護回路を省略することのできる別の方策が試行された。例えば画像記録のために第2の走査ユニットを使用することが公知であり、これにより露光のためのラスタ過程と、画像記録のための独立したラスタ過程が可能である。第1の走査ユニットによるブリーチング/リリース/光アクティベートラスタ過程が終了したときに初めて、光記録ラスタ過程が第2の走査ユニットによって実行される。しかしそのために必要な特別の顕微鏡構成は面倒である。別の方策は、一方向での画像記録の場合、ブリーチングを光線のライン復帰中に実行することである。しかし強く露光すべき領域が復帰ラインの終点の近傍で終端する場合、検出器の寿命に対する上記欠点がここでも同様に発生し得る。その他、走査野が観察すべき領域Rに縮小される(英語:cropped)ことにより、露光と画像記録との間の時間を常に短縮することができ、それにより比較的少数のピクセルが露光され、記録される。および/またはとりわけ結像縮尺の変化(英語:zooming)と関連して分解能を低減することにより、前記時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−069752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の基礎とする課題は、PMTを過負荷からより良好に保護することのできるよう冒頭に述べた形式のラスタ顕微鏡を改善し、対応の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題は、請求項1に記載された特徴を有する共焦点ラスタ顕微、請求項12に記載された特徴を有する制御方法、および請求項15に記載された特徴を有する操作方法によって解決される。
【0015】
本発明の有利な構成は、従属請求項に記載されている。
本発明によれば共焦点ラスタ顕微鏡はスイッチを有し、このスイッチは作動スイッチ状態と非作動スイッチ状態との間で切り替え可能であり、このスイッチは、作動スイッチ状態では非作動スイッチ状態と比較して、フォトカソードと第1のダイノードとの間の(内部)電圧を低減し、さらに光源により照射可能な(少なくとも1つの)ターゲットスポットを、偏向ユニットによって走査野上を運動させるように構成された制御ユニットを有し、この制御ユニットは、ターゲットスポットが走査野の所定領域に入る際に前記スイッチを作動させ、当該領域を去る際に前記スイッチを非作動にする。例えば作動スイッチ状態は閉じられたスイッチ位置に対応し、非作動スイッチ状態は開かれたスイッチ位置に対応する。またはその反対である。
【0016】
PMTの全体増幅率に対して重要なのは、ダイノードカスケードの第1の加速段の機能である。第1のダイノードとフォトカソードとの間に電圧をスイッチにより低減することにより、第1の加速段が1ミリ秒以下の非常に短い応答時間で減衰され、遮断され、または電子制動のために極性反転される。これにより、二次電子増倍の調整、ひいてはPMTの感度の調整をピクセルの精度で行うことができる。第1の加速段で少数の電子しか加速されないか、または電子が加速されないと、対応して少数の電子しか次の段に到来しないか、または電子が到来せず、これによりアノード信号は、第1の加速段における電圧が通常の場合よりも格段に弱くなる。これによりPMTはとりわけ残留ガスイオン化に対して保護される。スイッチを位置に依存して作動させることにより、従来技術で公知のアノード信号の評価に起因する応答時間が完全に回避される。
【0017】
第1のダイノードとフォトカソードとの間の電圧のためのスイッチは、位置に依存することに加えてアノード信号に依存しても制御することができ、これによりPMTを所定領域の外でも過負荷から保護し、記録コントラストを改善することができる。このことは例えばコンパレータによって達成される。このコンパレータは、アノード信号を少なくとも1つの閾値と比較し、比較結果に依存してスイッチを作動または非作動にする。
【0018】
とりわけ有利な実施形態でスイッチは、作動スイッチ状態への切り替えによってこのスイッチが、a)フォトカソードを第1のダイノードと電気的に短絡するか、またはb)フォトカソードと第1のダイノードとの間の電圧を、とりわけその絶対値の減少と組み合わされて極性反転するように構成されている。この切り替え作用は小さな回路コストにより達成することができ、特に短い切り替え時間を可能にする。例えば+150Vである第1のダイノードとフォトカソードとの間の電圧を、第1のダイノードがフォトカソードに対して−150Vになるよう極性反転することは電子ブレーキとして作用する。これにより電子がアノードにほぼ到達せず、アノード信号が消失する。これは、また第1の加速段の効果的な遮断を提示する。本発明では、第1のダイノードとフォトカソードとの間の電圧の絶対値が、「極性反転」の際に一定に保たれなければならないのではなく、変化し得なければならない。例えば加速極性に対してはこの絶対値は小さくまたは大きくなり得なければならない。しかし極性反転は短絡よりも面倒である。
【0019】
好ましくは、電気回路は、スイッチのスイッチ状態に依存せずに光電子増倍管に外部動作電圧が印加されるように、言い替えると、PMTにおける動作高電圧がスイッチの作動の際にも維持されるように構成されている。これにより、第1の加速段が縮小され、遮断され、または制動されても、入射する光強度に比例するアノード信号が得られる。これに基づき、位置に依存しないで、非常に明るい試料領域の終部を短い応答時間で同定することができる。したがって画像記録を、非常に明るい試料領域の終部の直後に再び完全な感度で継続することができる。
【0020】
ブリーチングのためには、光源の光出力が(選択的に画像記録のために、またはブリーチングのために)調整可能であり、制御ユニットが光源を、ターゲットスポットが所定領域に入るときに(ブリーチングのために)比較的高い光出力に調整し、この領域を去るときに(画像記録のために)比較的低い光出力に調整する実施形態が合目的的である。このようにしてブリーチングの際の過負荷フェーズを完全に回避することができ、ひいては過負荷保護の精度を格段に改善することができる。
【0021】
複数の光電子増倍管を有する実施形態が特に有利である。これらの光電子増倍管は本発明のスイッチをそれぞれ1つ有し、このスイッチは作動スイッチ状態と非作動スイッチ状態との間で切り替えることができる。このスイッチは作動スイッチ状態では、該当する光電子増倍管のフォトカソードと第1のダイノードとの間の(内部)電圧を低減する。これはとりわけスイッチが、a)フォトカソードを第1のダイノードと電気的に短絡するか、またはb)フォトカソードと第1のダイノードとの間の電圧を、とりわけその絶対値の低減と組み合わせて極性反転することにより行われる。本発明により光電子増倍管の寿命が改善されることで、顕微鏡のための保守コストが格段に低減される。
【0022】
複数の光電子増倍管を有する実施形態の第1の構成では、ラスタ顕微鏡が好ましくは、複数のターゲットスポットを、それぞれの光電子増倍管の少なくとも1つに同時に結像するための光学系を含み、制御ユニットは各ターゲットスポットに対して、別のターゲットスポットに依存せずに、所定領域に入るときにこの光電子増倍管のスイッチを作動させ、去るときに非作動にする。これにより走査野を高速にラスタ化することができ、対応して高速のブリーチングおよび/または高速の画像記録が可能である。複数のターゲットスポットによる照明、走査および検出については、ドイツ特許公開公報第10344060号、欧州特許公開公報第2187252号、および米国特許第6028306号を参照されたい。これらの開示内容は、可能である限りここに組み入れる。このような実施形態は、複数のターゲットスポットを同時に照明するための光学系も含むのが合目的的である。
【0023】
複数の光電子増倍管を有する実施形態の第2の構成では、ラスタ顕微鏡が(少なくとも)1つの光学素子を含み、この光学素子はターゲットスポットを空間的・スペクトル的に分解し、複数の光電子増倍管に結像する。ここで制御ユニットは、所定領域に入るときに、これら全ての光電子増倍管のスイッチを作動させ、去るときに非作動にする。光学素子は例えばスペクトル選択性のビームスプリッタまたはプリズムもしくはグリッドのような角度分散素子とすることができる。ビームスプリッタによる空間的・スペクトル的分解については、ドイツ特許公開公報第19702753号を参照されたい。その開示内容は、可能である限りここに組み入れる。角度分散素子による空間的・スペクトル的分解については、ドイツ特許公開公報第10033180号を参照されたい。その開示内容は、可能である限りここに組み入れる。とりわけ異なる分散方向を備えたこのような複数のスペクトル分解素子を、例えばエシェル・スペクトロメータの形態で順次接続することも可能である。
【0024】
複数の光電子増倍管を有する実施形態の第3の構成では、ラスタ顕微鏡が、入口アパーチャにおける種々異なる空間角セグメントを(少なくとも)1つのそれぞれの光電子増倍管に結像するための光学系を含む。ここで制御ユニットは、所定領域に入るときにこれら全ての光電子増倍管のスイッチを作動させ、去るときに非作動にする。このような光学系は、例えば欧州特許公開公報第1664889号から公知であり、その開示内容は、可能である限りここに組み入れる。この実施形態は、複数のターゲットスポットが同時に結像される実施形態と組み合わせることができる。この場合、各部分光線路において、該当する入口アパーチャの空間角セグメントが光電子増倍管のそれぞれの群に、対応して結像されるのが合目的的である。複数の光電子増倍管を有する実施形態では、光電子増倍管の少なくとも1つのサブセットを1つの光電子増倍管モジュールに組み込むことができる。この種のモジュールは、例えばHamamatsu社から市販されている。
【0025】
本発明の制御方法は以下の工程を含む:
・第1の光出力を放射するために光源を制御する工程、
・第1の電圧をフォトカソードと第1のダイノードとの間に、電子の加速を目的として印加する工程、
・光源の(少なくとも)1つの光線を(少なくとも)1つのターゲットスポットに向け、このターゲットスポットが走査野の上を運動するように(ラスタ化するように)前記光線を偏向する工程、
ここで前記ターゲットスポットの運動中に以下のサブ工程が実施される:
・ターゲットスポットの位置を求める工程、
・走査野のブリーチングすべき所定領域に達したことを、ターゲットスポットの位置に基づいて同定する工程、
・達したことを成功裏に同定できた場合には、第1の光出力よりも大きい第2の光出力を(例えばブリーチングのために)放射するために光源を制御し、第2の電圧をフォトカソードと第1のダイノードとの間に、前記第1の電圧の代わりに印加する工程、
ここで前記第2の電圧は、とりわけ「フォトカソードと第1のダイノードとを電気的に短絡する」および「第1の電圧を、とりわけその絶対値の低減と組み合わせて極性反転する」の2つの工程のうちのちょうど1つによって、前記第1の電圧よりも低い。前記工程は、例えばそれぞれ1つのソフトウエアモジュールによって実行することができる。1つのソフトウエアモジュールがこれら工程の複数を実行することももちろん可能である。
【0026】
好ましくは第1の電圧を印加するために外部動作電圧が光電子増倍管に印加され、この外部動作電圧は第2の電圧の印加時にも(実質的に)印加されたままである。動作高電圧の時間の掛かる遮断を有利には省略することができる。
【0027】
特に有利な実施形態では、ターゲットスポットの運動中に付加的に以下のサブ工程が実施される:
・走査野のブリーチングすべき所定領域を去ったことを、ターゲットスポットの位置に基づいて同定する工程、
・成功裏に同定できた場合には:第1の光出力を放射するために光源を制御し、第1の電圧をフォトカソードと第1のダイノードとの間に印加する工程、ここでこの印加は、とりわけ「フォトカソードと第1のダイノードとの短絡を中止する」および「第2の電圧を、とりわけその絶対値の上昇と共に極性反転する」の2つの工程のうちのちょうど1つによって行われる。これらの工程も、例えばそれぞれ1つのソフトウエアモジュールによって実行することができる。1つのソフトウエアモジュールがこれら工程の複数を実行することももちろん可能である。
【0028】
まったく一般的に本発明は、共焦点ラスタ顕微鏡を用いて、位置に依存する光出力で、試料の種々異なる場所を光線により照射することによって試料を操作する方法を含むものであり、前記共焦点ラスタ顕微鏡は、1つのフォトカソードと、複数のダイノードと、1つのアノードとを有する光電子増倍管を含む。ここでは電圧がフォトカソードと第1のダイノードとの間に、とりわけ光電子増倍管の外部動作電圧が(実質的に)一定であるときに位置に依存して印加される。
【0029】
本発明では有利には、複数の領域を設定することができ、フォトカソードと第1のダイノードはこれら領域に対して同じに制御することができる。このようにして同時に経過するプロセスを試料の異なる個所で観察することができる。
【0030】
光源の光出力は好ましくは電気光学的に例えば電気光学的モジュレータにより、または音響光学的に例えば音響光学的モジュレータにより調整することができる。
本発明は、共焦点ラスタ顕微鏡用のプログラミング可能な制御ユニット、またはこのような制御ユニットのための、本発明の方法を実施するよう構成されたコンピュータプログラムを含む。
【0031】
有利にはスイッチは最大で1マイクロ秒の応答時間を有する。これによりLSMでは、ピクセル滞在時間が短くてもPMTをピクセルごとに非作動および再作動させることができる。特に有利には、フォトカソードと第1のダイノードとの間の通常電圧の再形成をスイッチにより、ブリーチングすべき領域を去るときにも行うこともでき、これによりデータ記録を同様に1マイクロ秒以下の非常に短い応答時間で行うことができる。2つのダイノード間にはPMT形式に応じて、動作高電圧の1/9から1/11の電圧しか印加されず、したがって典型的には150V未満である。このことはスイッチにより僅かなコストで分離することができる。スイッチは、光電子増倍管の高電圧に対して絶縁されているのが合目的的である。
【0032】
本発明の共焦点ラスタ顕微鏡は、有利にはFLIP、FLAP、FRAR、フォトアクティベーションおよび/またはアンケージングで使用することができる。
本発明は、PMTのための位置に依存した高速の保護遮断部を創出する。この保護遮断部によりPMTの保護を、とりわけ位置に依存する光出力による照射と関連して改善することができる。
【0033】
以下本発明を、実施例に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1A】従来技術での試料領域をブリーチングする試料走査を示す概略図である。
【
図1B】従来技術での試料領域をブリーチングする試料走査を示す概略図である。
【
図4A】第2のPMT駆動回路の簡略回路図である。
【
図4B】第2のPMT駆動回路の簡略回路図である。
【
図5】LSMに対する制御方法の経過を示す図である。
【
図6】本発明により試料領域をブリーチングする試料走査を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
全ての図面で同じ部材には同じ参照符号が付してある。
図1は、PMTのアノード信号に依存してPMTの動作高電圧を緩慢に保護遮断する従来技術によるシーケンスを示す。
【0036】
図2は、PMT2用の駆動回路1の第1例の回路図を示す。より良く理解するために、本発明の理解に寄与する構成部材だけが図示されている。PMT2は、真空ケーシング(図示せず)の他に1つのフォトカソード2.1、8つのダイノード2.2...2.9、および1つのアノード2.10を含む。駆動回路1は高電圧源3を含み、その電圧は抵抗4の直列回路を介して印加される。これにより各抵抗4と隣接するダイノード2.1...2.10においてそれぞれ分圧電圧が降下する。生じた電位カスケードは、公知のようにカソード2.1で生成される光電子を増倍する。これによりアノード2.10に発生する電流パルスは、例えば電流/電圧変換ユニット(図示せず)によってアノード信号Dとしての電圧に変換することができる。
【0037】
回路1は高電圧絶縁されたスイッチ7を有し、その一方の極はフォトカソード2.1に、他方の極は第1のダイノード2.2に接続されている。スイッチ7は、例えばフォトカプラ、絶縁増幅器またはリレーとして構成することができる。スイッチは閉鎖器として構成されているのが合目的的であり、この実施例では閉鎖(作動)スイッチ状態でフォトカソード2.1と第1のダイノード2.2とを短絡し、これによりPMT2の第1の加速段を非作動にする。スイッチ7は、制御ユニット34から出力されるスイッチ信号Qが例えば少なくとも所定の負のレベルを有する間、閉鎖する。制御ユニット34が、例えば正の信号Qをスイッチ7に出力することによりスイッチ7の動作接点を再び開放すると、カソード2.1と第1のダイノード2.2との間に加速電圧が可及的に短時間で再形成される。これにより第1の加速段は再作動する。PMT2の非作動および再作動の全過程中、電圧源3の高電圧HVは維持される。
【0038】
制御ユニット34はスイッチ7の他に光源25も、出力される光出力に関して制御することができる。好ましくは、制御ユニットはスイッチ7を、この制御ユニットが光源25を比較的低い光出力から比較的高い光出力に切り替えるときに常に作動させる。好ましくは、制御ユニットはスイッチ7を、この制御ユニットが光源25を比較的高い光出力から比較的低い光出力に切り替えるときに常に非作動にする。
【0039】
図3には、
図1による位置に依存する高速の保護回路を有するレーザ走査顕微鏡10が概略的に示されている。LSM10は、レーザ23を有する加速モジュールL、走査モジュールS(英語:scannning module)、検出モジュールD、および顕微鏡対物レンズ31を有する顕微鏡ユニットMからモジュール形式で組み立てられている。
【0040】
レーザ23の光は、光シャッタ24と減衰器25、例えば音響光学的に調整可能なフィルタ(英語:acousto−optic tunable filter、AOTF)を通して、光が光導体ファイバと結合光学系20を介して走査モジュールSに供給かつ統合される前に、制御ユニット34によって調整することができる。主ビームスプリッタ33と、2つのガルバノメータミラー(図示せず)を有するX−Y走査ユニット30(英語:scanner)とを介し、光は顕微鏡対物レンズ21を通って試料22に達し、ここで光はターゲットスポットTを照明する。以下では減衰器25を、レーザ23、光シャッタ24および減衰器25の組み合わせの代わりとして、光源と称する。
【0041】
試料から反射された光または放射された蛍光光は、顕微鏡対物レンズ21を通り、さらに走査ユニット30を介して主ビームスプリッタ33を通り検出モジュールDに達する。主ビームスプリッタ33は、例えばダイクロイック・カラースプリッタとして構成することができる。検出モジュールDは、それぞれ1つのホール絞り31、フィルタ28およびPMT検出器2を備える複数の検出チャネルを有しており、これらの検出チャネルはカラースプリッタ29によって分離されている。ホール絞り31の代わりに、例えばライン型の照明の場合にはスリット絞り(図示せず)を使用することもできる。共焦点ホール絞り31は、ターゲットスポットTを取り囲む焦点体積から発しない試料光を弁別する役割を果たす。したがって検出器2は、焦点体積からの光だけを検出する。検出器2は、動作高電圧を準備するそれぞれ1つの駆動回路1と、フォトカソードと第1のダイノードとの間の電圧を動作高電圧に依存しないで調整するスイッチ(分かりやすくするため図示しない)とを含み、さらにそれぞれ1つの評価電子回路(ここには詳細に図示しない)を含む。別の実施形態(図示せず)では、評価電子回路を検出器2から外すことができ、とりわけ評価電子回路は検出モジュールDの外部に配置することができる。
【0042】
フォトカソードと第1のダイノードとの間の電圧を調整するためのスイッチは、例えば作動スイッチ位置でこのスイッチがフォトカソードと第1のダイノードとを電気的に短絡するようにフォトカソードと第1のダイノードに接続されている。これにより第1のダイノードとフォトカソードとの間には0Vの電圧が印加される。そして非作動スイッチ位置では短絡が中止され、これにより第1のダイノードとフォトカソードとの間には、例えば+150Vの正規電圧が印加される。
【0043】
共焦点に照明され、記録される試料22内のターゲットスポットTは、ピクセルごとに画像を記録するために、走査ユニット30によって試料22の上または試料22を通して運動される。このことは走査ユニット30のガルバノメータミラーを所期のように回転することにより行われる。ガルバノメータミラーの運動も、光シャッタ24または減衰器25による照明の切り替えも、例えば制御ユニット34によって直接制御される。検出器2によるデータ記録も同様に制御ユニット34によって行われ、フォトカソードと第1のダイノードとの間の電圧を調整するためのスイッチの制御も同じように制御ユニットによって行われる。評価ユニット/制御ユニット34は、例えば市販の電子計算機(英語:computer)とすることができる。
【0044】
択一的実施形態(図示せず)では、照明光線路、すなわち例えばレンズアレイ(英語:lens array)にある光学系により、試料22内の複数のターゲットスポットTを同時に照明することができる。この場合、検出光線路に複数のPMT2を、これらのPMTがそれぞれ1つの部分光線路で、それぞれちょうど1つのターゲットスポットTを共焦点に検出するように配置するのが合目的的である。付加的にまたは択一的に、検出光線路において(複数のターゲットスポットがある場合には、例えば各部分光線路において)検出器2の前で(複数のターゲットスポットがある場合には、例えば各検出器の前で)、空間的・スペクトル的分解を、例えばそれぞれの角度分散素子によって行うことができる。
【0045】
択一的実施形態(
図3には図示せず)では、フォトカソードと第1のダイノードとの間の電圧を調整するためのスイッチを、例えばフォトカソードと第1のダイノードに、作動スイッチ位置で例えば+150Vの正の電圧が第1のダイノードとフォトカソードとの間に印加され、非作動スイッチ位置で例えば−150Vの負の電圧が第1のダイノードとフォトカソードとの間に印加されるように接続することができる。
【0046】
このような択一的実施形態の駆動回路1に対する例が
図4に示されている。この駆動回路1は
図2の回路1に大部分が相当するが、ここではスイッチ7が第1のダイノード2.2とフォトカソード2.1との間の電圧を極性反転するように構成されている。この目的のためにスイッチ7は、作動スイッチ状態でフォトカソード2.1を第2のダイノード2.3と電気的に短絡する。非作動スイッチ状態では、ダイノード2.1...2.10の分圧器カスケードへの正規の割り当てが存在する。極性反転に基づき第1の加速段は、スイッチ7の作動スイッチ状態では電子ブレーキとして作用し、これにより大きな光電子流を効率的に阻止する。
【0047】
図5は、例えば
図2のLSM10に対する制御方法の経過を例として示す。制御ユニット34はまずステップS1で、光源25の純粋な検出光出力により、それ自体公知のように試料22の概観像を記録し、ユーザに視覚的に提示する。この概観像に基づきユーザは、走査野Xと、その中にある興味対象領域(英語:ROI)とを求める。この興味対象領域内では試料22を、この領域Rの外よりも高い光出力で照射すべきである。ユーザに走査野Xおよび/または領域Rがすでに既知である場合には、ステップS1を省略することができる。ステップS2で制御ユニット34はユーザから、例えばそれ自体公知のように試料領域Rについての情報を受け取る。走査野Xおよび/または領域Rが他のソースからすでにデータセットとして制御ユニット34内に存在していれば、該当する部分ステップを省略することができる。
【0048】
ユーザの指示により、制御ユニット34はステップS3で、光源25を検出光出力に調整し、かつスイッチ7を非作動にする。ステップS4で制御ユニットはターゲットスポットTを、偏向ユニット30を用いて試料22の上で運動させ、このとき、ピクセル滞在時間ごとに蓄積された光強度を検出器2により対応のピクセルにデジタルで割り当てる。その間、制御ユニットはステップS4aで、ターゲットスポットTの目下の位置を所定領域Rと連続的に比較する。ターゲットスポットTが所定領域Rの縁部を通り過ぎ、それにより少なくとも部分的にこの領域に入り込んだことを制御ユニットが同定すると、制御ユニットはスイッチ7を作動させ、光源25をブリーチング光出力に切り替える。同様に制御ユニットはステップS4の間、ステップS4bでターゲットスポットTの目下の位置を所定領域Rと連続的に比較する。ターゲットスポットTが所定領域Rの縁部を通り過ぎ、これにより領域Rが再び完全に去ったことを制御ユニットが同定すると、制御ユニットはスイッチ7を非作動にし、光源25を検出光出力に切り替える。ステップS4における試料22の上でのターゲットスポットTの運動は、走査野Xの終部に到達したことが同定されるまで継続される。次にターゲットスポットTはステップS5で再び走査野Xの始部に移動され、ステップS6で試料はもっぱら検出光出力により新たに走査され、その際に画像が記録される試料22内における動的プロセスを観察するためには、ステップS5とS6を何回も繰り返すのが合目的的である。
【0049】
図6は、所定の試料領域Rをブリーチングする例における、LSMでの上記駆動回路1の使用の有利なシーケンスを示す。従来技術(
図1)とは異なり、ターゲットスポットがブリーチングすべき領域Rに入る時点Aでのスイッチ7の作動によって、1ピクセル滞在時間未満の誤差で検出器が遮断される。スイッチ7の作動とともに、光源25がブリーチング光出力に切り替えられる。スイッチ7の非作動による検出の再作動と、光源25を通常の検出光出力にリセットすることは、ターゲットスポットが領域Rから出る時点Bで行われる。これにより後続のピクセルを、最大でも1ピクセルの誤差で通常どおり検出することができる。
【0050】
走査野Xは行ごとおよび列ごとにラスタ化され、ピクセルに記録されるから、光出力の切り替えと関連する遮断および再作動は、領域Rが伸張している全てのラインで行われる。走査野X内に複数の所定領域Rが存在する場合、領域Rの相対位置に応じて、ラインごとに遮断と再作動のシーケンスが複数回行われ得る。
【0051】
一般的に本発明は、スイッチ7の作動による画像記録を、所定領域Rに入る際にピクセルの精度で遮断し、去る際にスイッチ7の非作動により再びピクセルの精度でスイッチオンすることができ、これによりブリーチングを行う走査経過でも試料22の画像を、領域Rを除いて記録することができるという利点を有する。これにより領域Rの外にある試料領域の量的評価を、例えばFLIPの枠内で高精度に実行することができる。このことは、ブリーチングすべき領域Rが複数ある場合にも当てはまる。
【符号の説明】
【0052】
1 駆動回路
2 PMT
2.1 フォトカソード
2.2...2.9 ダイノード
2.10 アノード
3 高電圧源
4 抵抗
5 第1のコンパレータ
6 第2のコンパレータ
7 スイッチ
10 レーザ走査顕微鏡
20 視準化光学系
21 顕微鏡対物レンズ
22 試料
23 レーザ
24 光シャッタ
25 減衰器
26 ファイバカプラ
27 鏡筒レンズ
28 フィルタ
29 ダイクロイックビームスプリッタ
30 走査ユニット
31 ホール絞り
32 光電子増倍管
33 主ビームスプリッタ
34 制御ユニット
35 分散素子
A、B、C 時点
D アノード信号
X スイッチ信号
HV/gnd 高電圧/アース
P ピクセル