特許第6133898号(P6133898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133898
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】乗物用シートの駆動機構の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20170515BHJP
【FI】
   G01M99/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-552024(P2014-552024)
(86)(22)【出願日】2013年12月7日
(86)【国際出願番号】JP2013082894
(87)【国際公開番号】WO2014092032
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-274105(P2012-274105)
(32)【優先日】2012年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594176202
【氏名又は名称】株式会社デルタツーリング
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
(72)【発明者】
【氏名】小倉 由美
(72)【発明者】
【氏名】我田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 重行
(72)【発明者】
【氏名】内山 隆夫
【審査官】 伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−153919(JP,A)
【文献】 特開2009−198284(JP,A)
【文献】 特開2009−121909(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物用シートの駆動機構の品質を判定する乗物用シートの駆動機構の検査方法であって、
検査対象の前記駆動機構が、左右一対のスライドアジャスタと、前記左右一対のスライドアジャスタを連結するスライドプレートと、前記スライドプレートに支持されるモータと、前記モータの回転を前記左右一対のスライドアジャスタにミッションを介して伝達するため、前記スライドプレートに支持され、アウターケーブルとインナーケーブルの二重構造となっているケーブルとを有し、前記乗物用シートのスライダ機構を構成するパワーユニットであり
前記スライドプレートに振動センサを取り付け、
前記パワーユニットを駆動させた際の前記振動センサから検出される検出信号を周波数解析し、周波数解析の結果から不規則振動の有無を判定し、前記不規則振動の有無により異音の有無を判定して前記パワーユニットの品質を判定する
ことを特徴とする乗物用シートの駆動機構の検査方法
【請求項2】
前記不規則振動の有無を、基本周波数の高調波成分のパワースペクトルを比較して判定する請求項1記載の乗物用シートの駆動機構の検査方法
【請求項3】
前記不規則振動の有無を、所定の特徴的な周波数成分の有無を加味して判定する請求項2記載の乗物用シートの駆動機構の検査方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の乗物用シートの駆動機構、特に、電動パワーシートを駆動するためのパワーユニットの品質を判定する乗物用シートの駆動機構用検査装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、乗物用シートの駆動機構の一つであるシートスライダの異音を検出する異音の判定方法が開示されている。シートスライダの動作時の動作音をセンサで検出し、動作音の単位時間当たりの変化量を算出し、その変化量を閾値と比較して、異音の有無を判定する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−198284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1は、シートスライダの動作音をセンサによって検出する構成であるため、動作音を検出するに適する所定の防音環境でなければ正確な測定は困難である。従って、乗物用シートを実際に組み立てている現場での検査には不向きであり、乗物用シートの組立現場において正確かつ簡易に異音を測定できる技術の開発が望まれていた。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、乗物用シートの駆動機構の品質を、その動作音を検出することなくより正確に行い、それにより良品・不良品の判別をより正確に行うことができる乗物用シートの駆動機構用検査装置及びコンピュータプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明の乗物用シートの駆動機構用検査装置は、乗物用シートの駆動機構の品質を判定する乗物用シートの駆動機構用検査装置であって、前記駆動機構の所定の測定点に取り付けられる振動センサと、前記駆動機構を駆動させた際に前記振動センサによって検出された検出信号を解析して異音の有無を判定し、この異音の有無により前記駆動機構の品質を判定する解析判定部とを有することを特徴とする。
【0007】
前記解析判定部は、前記振動センサから得られる検出信号を周波数解析し、不規則振動の有無により前記異音の有無を判定する構成であることが好ましい。前記解析判定部は、前記周波数解析結果において、基本周波数の高調波成分のパワースペクトルを比較して前記不規則振動の有無を判定する構成であることが好ましい。前記解析判定部は、前記周波数解析結果において、さらに、所定の特徴的な周波数成分の有無も加味して前記不規則振動の有無を判定する構成であることが好ましい。前記駆動機構が電動パワーシートのパワーユニットである場合に好適に利用できる。
【0008】
また、本発明のコンピュータプログラムは、乗物用シートの駆動機構の品質を判定する乗物用シートの駆動機構用検査装置の解析判定部として用いられるコンピュータに、前記駆動機構の所定の測定点に取り付けられた振動センサによって検出された検出信号を解析して異音の有無を判定し、この異音の有無により前記駆動機構の品質を判定する解析判定手順を実行させることを特徴とする。
【0009】
前記解析判定手順は、前記振動センサから得られる検出信号を周波数解析し、不規則振動の有無により前記異音の有無を判定することが好ましい。前記解析判定手順は、前記周波数解析結果において、基本周波数の高調波成分のパワースペクトルを比較して前記不規則振動の有無を判定することが好ましい。前記解析判定手順は、前記周波数解析結果において、さらに、所定の特徴的な周波数成分の有無も加味して前記不規則振動の有無を判定することが好ましい。前記駆動機構として電動パワーシートのパワーユニットの品質判定に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、乗物用シートの駆動機構、特に電動パワーシートのパワーユニットの所定の測定点に振動センサを取り付け、振動センサの振動波形を解析して異音の有無を判定する構成である。好ましくは、検出信号である振動波形の周波数解析を行って不規則振動の重畳の有無を判定して異音の有無を検出する構成である。そのため、異音の有無を用いて電動パワーシートのパワーユニット等の駆動機構の品質検査を行う技術において、防音環境がなくても従来より正確かつ簡易に判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一の実施形態に係る駆動機構用検査装置の概略構成を示した図である。
図2図2は、実施例で用いた検査対象である電動パワーシートのスライダ機構を示した図である。
図3図3は、実施例における振動計測の測定点を示した図である。
図4図4(a)は、パワーユニットの作動音の官能評価で採点した結果を示した図であり、図4(b)は、はパワーユニットの前・後進時の音圧特性を示した図である。
図5図5は、測定点Gにおける振動計測の原波形を示した図であり、(a)は後進時(F→R)の原波形を、(b)は前進時(R→F)の原波形を示した図である。
図6図6は、測定点Gで測定したNo.1(OK品)とNo.2(NG品)の振動をFFT解析して示した図であり、(a)は後進時(F→R)を、(b)は前進時(R→F)の解析結果をそれぞれ示した図である。
図7図7(a)は、パワーユニットNo.1(OK品)及びNo.2(NG品)の前進時における音圧の時間軸波形を示した図であり、図7(b)は、パワーユニットNo.1(OK品)及びNo.2(NG品)の前進時の音圧変動の1/3オクターブバンド周波数解析特性を示した図である。
図8図8は、2〜5kHzでのパワーユニットNo.1、No.2、No.3、No.6の前・後進時の音圧変動の周波数解析特性を示した図であり、(a)は前進時を、(b)は後進時をそれぞれ示した図である。
図9図9は、パワーユニットNo.1、No.2、No.3、No.6の前・後進時の音圧変動の周波数特性からパワースペクトル−周波数の両対数グラフを作図した時の傾きを示した図であり、(a)は前進時を、(b)は後進時をそれぞれ示した図である。
図10図10は、実験例2におけるOK品及びNG品の周波数解析結果を示した図である。
図11図11は、実験例2においてOK品及びNG品の判定基準となる基準線を設けた例を示した図である。
図12図12は、実験例3で使用したパワーユニットの構造の主要部を示した図である。
図13図13(a),(b)は、実験例3の周波数解析結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1に示したように、本実施形態の乗物用シートの駆動機構用検査装置1は、振動センサ2と、解析判定部3とを備えて構成される。
【0013】
振動センサ2は、検査対象である乗物用シートの駆動機構の任意の測定点にそれらを取り付けて使用される。ここでいう乗物用シートの駆動機構は、スライダ機構、リフタ機構、リクライニング機構等を構成する各種部品を含むものである。これらは電動で動作させる電動パワーシートにおいては、パワーユニットとして位置づけられるものである。
【0014】
解析判定部3は、コンピュータからなり、コンピュータプログラムとしての解析判定手順によって解析判定処理が実行される。具体的には、駆動機構(パワーユニット)を駆動させた際に振動センサ2によって検出された検出信号を解析して異音の有無を判定し、この異音の有無により駆動機構の品質を判定する。
【0015】
解析判定部3は、振動センサ2の検出信号である振動波形を周波数解析するが、それによって不規則振動の有無を検出し、不規則振動が発生している場合に「異音有り」すなわち「不良品」と判定し、不規則振動が発生しない場合に「異音無し」すなわち「良品」と判定する。判定結果は、モニタなどに出力される。
【0016】
(実験例1)
(振動計測による良品・不良品判定)
(実験方法)
図2に示した電動パワーシートのスライダ機構を構成するパワーユニット10を検査対象として実験を行った。このパワーユニット10は、左右1対のスライドアジャスタ11,11と、それらを連結するスライドプレート12とを有する構造であり、外形寸法は、幅:490mm、長さ:500mmで、前後方向のストロークは260mmである。また、スライドプレート12には、モータ13等の駆動系の部品が配置されている。すなわち、長手方向の一端付近にモータ(直流フェライト、定格電圧:12V、無負荷時回転速度3600±500rpm、定格負荷時回転速度(負荷:9.8±0.9N・cm):2850±600rpm)13が配設され、このモータ13の回転をケーブル14、ミッション15を介して、左右のスライドアジャスタ11,11へ伝達する構造となっている。ケーブル14はアウターケーブルと撚り線からなるインナーケーブルとの二重構造となっている。また、ケーブル14はスライドプレート12に係止部材14aを介して固定されている。
【0017】
試験は、スライドプレート12を、スライドアジャスタ11,11の長手方向に前端から後端へ動作させた場合(後進)と、後端から前端へ動作させた場合(前進)の2方向で測定した。振動センサとして、圧電型加速度ピックアップ(リオン製 PV−85)を、図3に示したスライドプレートの点A〜Jの10箇所に取り付けて行った。同時に音圧計測を騒音計(リオン製 NL−14)で行った。また、ユニットを10往復させ、サーモトレーサ(NEC三栄 TH7102MX)で摺動抵抗による発熱を調べた。
【0018】
検査対象のパワーユニット10は、官能評価で正常と認められた6製品(良品(OK製品))と、異音が認められた2製品(不良品(NG製品))の計8ユニット(No.1〜No.8)について行った。官能評価は、40dB(A)程度の暗騒音環境下で行い、パワーユニット作動音の官能評価については、「とても良い」(1点)、「良い」(2点)、「やや良い」(3点)、「やや悪い」(4点)、「悪い」(5点)、「とても悪い」(6点)の6段階で評価し、1〜3を快音、4〜6点を不快音とそれぞれ定義した。
【0019】
図4(a)にパワーユニット作動音の官能評価で採点した結果を示す。8台のパワーユニット(No.1〜8)のうち、「快音」と評価されたパワーユニットは6台(No.1,3,4,5,7,8)で、「不快音」と評価されたパワーユニットは2台(No.2,6)であった。前・後進の平均値の内訳は、1点:3台、2.5点:1台、3点:2台、5点:1台、6点:1台であった。図4(b)はパワーユニットの前・後進時の音圧特性を示す。官能評価で「快音」と評価されたパワーユニットの音圧特性は、51〜55dB(A)となり、「不快音」と評価されたパワーユニットの音圧特性は、61〜72dB(A)となった。音圧特性が55dB(A)以上になると、「不快音」と感じる可能性が高い。
【0020】
(実験結果)
A〜Jの各測定点の振動を測定してFFT解析した結果、NG品は200〜400Hzの振動がインナーケーブル近傍(点A・E・G)で顕著に現れることが確認できた。また、ユニット温度を比較して、NG品にはケーブル内で局所的に発熱があることがわかった。OK品と判定されたNo.1と、NG品と判定されたNo.2について、G点で測定した原波形の比較を図5(a)(前→後(F→R)),図5(b)(後→前(R→F))に示す。いずれも振動の振幅には明確な差が見られず、振幅の大小で良否は判定できなかった。
【0021】
ケーブルが高温になっている点の近傍で200〜400Hzの振動スペクトルが高く現れたことから、点Gでの振動の比較を行った。図6(a),(b)は点Gで測定したNo.1とNo.2の前→後、後→前の振動をFFT解析し比較したものである。NG品は基本周波数に様々な不規則振動が重畳されており、300〜400Hzで振動スペクトルのピークが見られた。100〜300Hzの振動は、インナーケーブルとアウターケーブルの相対運動による接触により発生したものであると考えられる。インナーケーブルの動きのイメージを図6(a),(b)内に示す。400Hz付近の振動はウォームギヤの減速比から勘案して、ギヤ同士の歯打音によるものであると考えられる。インナーケーブルで不規則なふれ回り運動が発生し、それに起因する振動がギヤやモータに伝わり、ミスアライメントの状態となって、異音が発生しているものと思われる。従って、このパワーユニットの異音の主原因はインナーケーブルが発する振動であると考えられる。以上のことから、300〜400Hzでの振動スペクトルの差により異音の評価が可能であることがわかる。
【0022】
なお、官能評価でNG品と認められたその他のパワーユニットNo.6、OK品と認められたその他のパワーユニット5品についても同様の結果が得られ、No.6では不規則振動の重畳が検出され、異音が発生していると特定できた。
【0023】
(音圧計測による検証)
上記した振動計測と同時に、騒音計(リオン製 NL−14)をスライドプレート中央の上方450mmの位置に設置して音圧を計測した。図7(a)はパワーユニットNo.1(OK品)及びNo.2(NG品)の前進時における音圧の時間軸波形を示す。官能評価で「快音」と評価されたパワーユニットNo.1と比較して、「不快音」と評価されたパワーユニットNo.2の波形は、振幅の大きい波形となり、この時間軸波形では、「快音」と評価されたパワーユニットと、「不快音」と評価されたパワーユニットに明確な差が確認できる。
【0024】
図7(b)はパワーユニットNo.1(OK品)及びNo.2(NG品)の前進時の音圧変動の1/3オクターブバンド周波数解析特性を示す。官能評価で「快音」と評価されたパワーユニットNo.1と比較して、官能評価で「不快音」と評価されたパワーユニットNo.2の1/3オクターブバンド周波数解析特性は、特に、2〜5kHzの音圧が高くなっており、この周波数帯域で、駆動系の部品から不快音が発生していると推測できる。
【0025】
図8(a),(b)は2〜5kHzでのパワーユニットの前・後進時の音圧変動の周波数解析特性を示す。但し、図8(a),(b)では全てのパワーユニットの周波数解析特性を示すと煩雑になり見にくくなるため、No.2及びNo.6のNG品のほかは、6台のOK品中、No.1及びNo.3の特性のみを示す。なお、残り4台のOK品(No.4、No.5、No.7及びNo.8)も、No.1及びNo.3と同様の傾向を示している。図8(a),(b)より、官能評価で「不快音」と評価されたパワーユニットNo.2及びNo.6のパワースペクトルは、「快音」と評価されたNo.1及びNo.3のパワースペクトルより増大しており、明確な優位差が確認できる。
【0026】
次に、人の音に対する感度は、音圧(Pa)の対数とほぼ比例していることから、パワースペクトル−周波数の両対数グラフからの異音判定を行った。図9(a),(b)は、パワーユニットの前・後進時の音圧変動の周波数特性からパワースペクトル−周波数の両対数グラフを作図した時の傾きを示す。但し、図9(a),(b)も、図8と同様の理由から、No.2及びNo.6のNG品のほかは、6台のOK品中、No.1及びNo.3の特性のみを示す。
官能評価で「快音」と評価されたパワーユニットの傾きは、前進時で「−0.08〜−1.29」、後進時で「−0.36〜−1.03」であった(なお、この傾きの範囲は、OK品6台の最小値と最大値を示している)。一方、「不快音」と評価されたNo.2及びNo.6の2台のパワーユニットの2〜5kHzの傾きは、前進時で「−1.49〜−1.75」、後進時で「−1.34〜−1.90」であった。前進時及び後進時を共に含めて考慮すると、「快音」と評価されたOK品6台中、傾きの最大値は「−1.29」であり、「不快音」と評価されたNG品2台中、傾きの最小値は「−1.34」であり、それらの間の「−1.30」付近に、OK品とNG品を区別する判定基準を設定可能である。このことから、パワーユニット作動時の周波数解析特性の両対数グラフを作図し、駆動系部品から不快音が発生していると推測できる周波数帯である2〜5kHzの傾きと官能評価との間には相関があり、これによって、異音発生の有無を判定できることがわかる。
【0027】
以上のことから、本発明の振動計測によって、不規則振動が検出されたパワーユニットNo.2、No.6は、音圧計測においていずれも官能評価の「不快音」に相当するものとして判定され、不規則振動が検出されなかったパワーユニットNo.1、No.3〜5、No.7、No.8は、音圧計測においてはいずれも官能評価の「快音」に相当するものとして判定されている。これにより、本発明の振動計測によって異音を評価し、異音評価の有無によって、良品(OK品)・不良品(NG品)の別を判定することが有効であることがわかる。
【0028】
(実験例2)
(実験方法)
電動パワーシートのスライダ機構を構成するパワーユニット10を60台準備し、各パワーユニット10間で差が現れやすい図3の点B(裏面)の箇所に振動センサである圧電型加速度ピックアップ(リオン製 PV−85)を取り付けて、実験例1と同様に、スライドプレート12を、スライドアジャスタ11,11の長手方向に前端から後端へ動作させた場合(後進)と、後端から前端へ動作させた場合(前進)の2方向について振動を測定した。同時に騒音計(リオン製 NL−14)を高さ約40cmに設置し、40dB程度の暗騒音環境下で音圧計測を行った。なお、各パワーユニット10に付設されたモータ13の仕様は実験例1と同じであった。また、スライドプレート12の固有振動数は約750Hzであった。また、60台のパワーユニット10は、実験例1と同様の官能評価により、正常と認められた良品(OK製品)と、異音が認められた不良品(NG品)に区別してデータをまとめた。
【0029】
(実験結果)
前進後進それぞれフルストローク動作させ収録した振動センサのデータを基に周波数解析(FFT解析)を行った(FFT解析条件・・・サンプリング周波数:5000Hz、解析データ長:8192、ウィンドウ関数:ハニング窓、平均化処理:加算平均、オーバーラップ量90%)。
【0030】
図10は、OK品及びNG品の代表事例のFFT解析結果である。OK品及びNG品共に1次のピークが90Hz付近に認められ、丸印で示したように、それぞれ2次、3次成分等の高調波成分が発生している。但し、各周波数成分のパワースペクトルのピーク値は、NG品の値がOK品の値を遙かに上回っている。これに加え、NG品には、黒色の三角印で示したように、OK品では認められない140Hz付近に特有のピークがあり、さらにその2次成分、3次成分に高い強度のスペクトルが発生している。また、320Hz付近に四角印で示したような特有の周波数成分もある。
従って、NG品には、基本周波数に様々な不規則振動が重畳されていることがわかる。これは、スライドプレート12の前後フルストロークの動作中に生じる速度変化、ケーブルの不規則な振動など複数の要因によるものと考えられる。また、NG品のみに見られた140Hz付近の振動は異音の起点となっていると考えられる。これらのことから、不規則振動の有無により、異音の有無を判定することが妥当であると言える。
【0031】
次に、異音の定量化のため、OK品のユニット群とNG品のユニット群との各パワースペクトルを比較し、両者を区別する基準線を図11に示したグラフ上に設定した。この基準線は、OK品におけるパワースペクトルのピークの多く(例えば、図11のような所定の周波数帯域におけるOK品のピークの60%以上)がこれを下回る位置となるように、あるいはOK品におけるパワースペクトルのピークの全てがこれを下回る位置となるように設定される。また、図11では250〜500Hzの周波数帯域において基準線を設定しているが、この周波数帯域は、上記したNG品特有の140Hzの高調波成分及びOK品と共通の90Hzの高調波成分が共に所定の強度で出現し、さらに、320Hz付近の特有の周波数成分が出現するなど、様々な周波数成分が出現しやすく、OK品及びNG品の判別がしやすいことによる。もちろん、250〜500Hzは一例であり、例えばその前後100Hz程度の周波数帯まで含んで判定するようにしてもよい。このような領域で基準線を設定し、基準線を上回る範囲に描かれたパワースペクトルの線で取り囲まれた部分の面積を求めたところ、その面積の大きさと異音の官能評価との間で相関が得られた。従って、基準線を上回る範囲のパワースペクトルの線で取り囲まれた部分の面積の大きさにより、異音の発生の有無を判定できる。なお、面積は、上記の基準線を上回った範囲に限らず、例えば、パワースペクトルの最小値に相当するラインを引き、そのラインを基準として面積を求めることもできる。
【0032】
以上より、解析判定手順を実行する解析判定部3は、振動センサ2の検出信号である振動波形の周波数数解析結果において、基本周波数の高調波成分のパワースペクトル(OK品及びNG品共通の基本周波数成分及びNG品特有の周波数成分の両方の高調波成分のパワースペクトル)を比較して不規則振動の有無を判定すること、すなわち、上記の基準線を上回るパワースペクトルの頻度(例えば上記のように面積で判定)が所定以上の場合に不規則振動有りと判定することが好ましい。また、周波数解析結果において、さらに、所定の特徴的な基本周波数成分の有無も、例えば上記のようにNG品特有の140Hzの周波数成分の存在を確認したならば、当該周波数成分の有無を加味して判定することが好ましい。
【0033】
(実験例3)
実験例1及び実験例2では、左右一対のスライドアジャスタ11,11間に掛け渡したスライドプレート12に、モータ13の回転を伝達するケーブル14を掛け渡している。そのため、上記のようにケーブル14において不規則振動が発生しやすい構造である。
【0034】
一方、図12に示したスライド機構を構成するパワーユニット100は、片側のスライドアジャスタ110のロアレール111にラック210が付設され、このラック210に噛み合うピニオン220がアッパーレール112に軸支され、ピニオン220がモータ130によって回転せしめられる。このラック210が設けられたスライドアジャスタ110と反対側のスライドアジャスタ(図12において図示せず)とは連結軸230により連結され、モータ130の回転によってピニオン220がラック210に噛み合って回転することで、アッパーレール112が片側駆動で前後動する。従って、左右一対のスライドアジャスタ110,110間には不規則振動の発生源となりやすいケーブルが配設されていない。
【0035】
そこで、かかるパワーユニット100において、ピニオン220が支持されたブラケット150に上記実験例と同じ振動センサを取り付け、前後にフルストローク駆動させ、振動を測定し、異音の有無を判定可能か否か検証した。その結果を図13に示す。
【0036】
図13において「閾値」は、実験例2のOK品及びNG品の各パワースペクトルを比較し、OK品とNG品との境界となるパワースペクトルを描いたものである。図13から明らかなように、実験例3のパワーユニットは、前進(図13(a))、後進(図13(b))共に、上記「閾値」を下回っており、上下の不規則な振動が生じておらず、異音の発生が極めて低いことがわかる。従って、本発明の振動センサを用いた異音の発生の判定手法は、実験例1、実験例2のような不規則振動を生じやすいケーブルを備えたパワーユニットに限らず、実験例3のようなケーブルを備えていないパワーユニットを初め、種々の形式の駆動機構の異音判定に適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 駆動機構用検査装置
2 振動センサ
3 解析判定部
図1
図2
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図4
図5
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図11
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図13