特許第6133917号(P6133917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6133917張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133917
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/10 20060101AFI20170515BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20170515BHJP
   B23H 7/20 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B23H7/10 D
   B23H7/02 R
   B23H7/20
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-44991(P2015-44991)
(22)【出願日】2015年3月6日
(65)【公開番号】特開2016-163923(P2016-163923A)
(43)【公開日】2016年9月8日
【審査請求日】2016年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】羽田 啓太
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−221343(JP,A)
【文献】 特開昭60−177824(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/067877(WO,A1)
【文献】 特開2009−180523(JP,A)
【文献】 特開2000−292146(JP,A)
【文献】 特開昭59−152022(JP,A)
【文献】 特開2014−028463(JP,A)
【文献】 特開昭63−127830(JP,A)
【文献】 特開昭59−152021(JP,A)
【文献】 特開2005−161644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/10
B23H 7/02
B23H 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極に張力を付与する張力発生手段を備えると共に、ワイヤ電極の張力を検出する張力検出器を備え、該張力検出器で検出した検出張力をフィードバックして設定張力になるようにワイヤ電極の張力のフィードバック制御を行うワイヤ放電加工機において、
設定された張力と、該設定張力を作用させたときに前記張力検出器で検出される張力に基づいて、張力検出器の検出ずれ量を求める較正を行い、較正で求めた検出ずれ量で張力検出器の出力を補正する較正手段を設け、
前記張力検出器の検出張力を前記較正手段で補正した補正検出張力に基づいて、ワイヤ電極の張力のフィードバック制御を行うことを特徴とする張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【請求項2】
前記較正手段の較正は、検出ずれ量を設定張力の関数として求め記憶するものとし、放電加工時には、前記較正手段は設定される張力の値に対する検出ずれ量を前記関数より求めて、前記張力検出器で検出される検出張力に該検出ずれ量を補正して補正検出張力とした請求項1記載の張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【請求項3】
前記較正手段の較正は、複数の設定張力と、各設定張力を作用させたときに前記張力検出器で検出される張力の組み合わせの点列を記憶するものとし、放電加工時には、記憶された設定張力と検出張力の組み合わせの点列より加工時設定の張力に対する検出ずれ量を求めて、前記張力検出器で検出される検出張力に該検出ずれ量を補正して補正検出張力とした請求項1記載の張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【請求項4】
前記張力発生手段はワイヤ電極に駆動力を作用させるモータであることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【請求項5】
前記張力検出器の較正は、ワイヤ電極の送りが停止しているときに行う請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【請求項6】
前記張力検出器の較正は、ワイヤ電極が送り出されているときに行う請求項1乃至4の内いずれか1項に記載の張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【請求項7】
前記張力検出器の較正は、温度が一定量変化したとき、前記張力検出器の較正を自動的に行うか若しくは張力検出器の較正を促す表示を行うようにした請求項1乃至6の内いずれか1項に記載の張力の検出値を補正する機能を有するワイヤ放電加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ電極の張力を検出しフィードバックしてワイヤ電極のフィードバック制御を行うワイヤ放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機においては、ワイヤ電極に適切な張力をかけて放電加工が実施される。ワイヤ電極に張力をかけることによってワイヤ電極の振動を抑え、高精度の加工が得られる。しかし、ワイヤ電極にかける張力が強すぎるとワイヤ電極が断線し加工が中断してしまう恐れがある。一方、ワイヤ電極にかける張力が弱すぎると、ワイヤ電極の振動を抑えることができず、加工精度の低下を招く。そのため、加工中にワイヤ電極に適切な張力をかける必要がある。
【0003】
ワイヤ電極に張力をかける方法として、電磁ブレーキに連結されたブレーキローラにワイヤ電極を巻き回し、または、ピンチローラでワイヤ電極をブレーキローラに押さえつけ、電磁ブレーキに掛ける電圧を制御することによって、ワイヤ電極にかける張力を制御する方法や、放電加工領域を挟んで、走行するワイヤ電極の上流側と下流側にワイヤ電極の走行をガイドするローラを配置し、該ローラを駆動するモータの速度やトルクを制御することによって、ワイヤ電極の張力を制御する方法がある。
【0004】
ワイヤ電極の線径、種類、さらには加工の種類等によってワイヤ電極に付与される最適な張力は異なり、設定する張力の大きさの範囲は広い。しかし、細かな張力の違いについて正確に設定することは難しい。そのため、張力検出器を用いてワイヤ電極の張力を測定し、測定された張力に基づいてワイヤ電極の張力をフィードバック制御する方法が用いられている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、加工領域を挟んで、走行するワイヤ電極の上流側に配置されたブレーキローラと下流側に配置された下部ローラ間に、ワイヤ電極を掛け渡し、該ブレーキローラと下部ローラ間のワイヤ電極の張力を検出する張力検出器を設け、下部ローラの下方に配置された回収ローラを駆動する回収モータには、速度指令を出力して速度制御して駆動すると共に、ブレーキローラを駆動するブレーキモータに対しては、張力指令信号と張力検出器で検出した張力検出信号、及びブレーキモータへの速度指令とブレーキモータの速度検出器からの速度検出信号に基づいて、電流指令を生成して該ブレーキモータへ出力し、ブレーキモータを制御(トルク制御)して、ワイヤ電極の張力を制御する発明が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、ワイヤ電極を引き取る引き取りモータを所定速度で駆動し、張力設定信号と張力検出器で検出した張力実測値、さらに速度設定信号に基づいて、ブレーキモータへの速度指令を生成し、該生成した速度指令でブレーキモータを速度制御することによって、ワイヤ電極の張力を制御するようにした発明が記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、加工領域を走行するワイヤ電極の張力を検出する張力検出装置を設け、該張力検出装置で検出した張力が、設定張力になるように、ワイヤ電極の走行の上流に配置されたブレーキローラを駆動するブレーキモータ、またはワイヤ電極の走行の下流に配置されたワイヤ電極を送り出すローラを駆動する送り出しモータの速度またはトルクを制御することによって、ワイヤ電極の張力を制御するようにした発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4230157号公報
【特許文献2】特許第3416514号公報
【特許文献3】特開2010−179377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ワイヤ電極の張力を張力検出器で検出し、該検出張力を用いてワイヤ電極の張力をフィードバック制御する方法が、一般的に採用されているが、張力検出器では細かい分解能で張力変動を測定できるが、精度よく検出できる範囲が小さい。また、張力検出器の種類によっては、温度変化によって検出値がずれて正確に張力を測定することができず、結果として正確に張力制御ができないという問題がある。温度計を用いて張力検出器の較正をする方法があるが、張力検出器には個体差があるため、張力検出器ごとに較正を行わねばならず、工数がかかるという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決し、ワイヤ放電加工の高精度化とワイヤ電極の断線予防を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ワイヤ電極に張力を付与する張力発生手段を備えると共に、ワイヤ電極の張力を検出する張力検出器を備え、該張力検出器で検出した検出張力をフィードバックして設定張力になるようにワイヤ電極の張力のフィードバック制御を行うワイヤ放電加工機において、請求項1に係る発明は、設定された張力と、該設定張力を作用させたときに前記張力検出器で検出される張力に基づいて、張力検出器の検出ずれ量を求める較正を行い、較正で求めた検出ずれ量で張力検出器の出力を補正する較正手段を設け、前記張力検出器の検出張力を前記較正手段で補正した補正検出張力に基づいて、ワイヤ電極の張力のフィードバック制御を行うようにしたものである。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、前記較正手段の較正を、検出ずれ量を設定張力の関数として求め記憶するものとし、放電加工時には、前記較正手段は設定される張力の値に対する検出ずれ量を前記関数より求めて、前記張力検出器で検出される検出張力に該検出ずれ量を補正して補正検出張力とするものである。
請求項3に係る発明は、前記較正手段の較正を、複数の設定張力と各設定張力を作用させたときに前記張力検出器で検出される張力の組み合わせの点列を記憶するものとし、放電加工時には、記憶された設定張力と検出張力の組み合わせの点列より加工時設定の張力に対する検出ずれ量を求めて、前記張力検出器で検出される検出張力に該検出ずれ量を補正して補正検出張力としたものである。
【0013】
請求項4に係る発明は、前記張力発生手段はワイヤ電極に駆動力を作用させるモータで行うようにしたものである。
請求項5に係る発明は、前記張力検出器の較正をワイヤ電極の送りが停止しているときに行うものとした。
また請求項6に係る発明は、前記張力検出器の較正を、ワイヤ電極が送り出されているときに行うものとした。
さらに、請求項7に係る発明は、温度が一定量変化したとき、前記張力検出器の較正を自動的に行うか若しくは張力検出器の較正を促す表示を行うようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、張力検出器の検出張力のずれ量を設定張力値の関数として求め、検出張力値を補正するようにしたから、正確な張力検出ができ、ワイヤ電極の張力フィードバック制御ができることになるから、ワイヤ放電加工の高精度化とワイヤ電極の断線の防止予防を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態の概要図である。
図2】同実施形態における設定張力と検出張力の関係式及び理想値とのずれの検出ずれ量を求める第1の態様の説明図である。
図3】同実施形態における設定張力と検出張力の関係式及び理想値とのずれの検出ずれ量を求める第2の態様の説明図である。
図4】同実施形態における設定張力と検出張力の関係式及び理想値とのずれの検出ずれ量を求める第3の態様の説明図である。
図5】同実施形態における設定張力と検出張力の関係式及び理想値とのずれの検出ずれ量を求める第4の態様の説明図である。
図6】同実施形態における検出張力と設定張力の検出ずれ量を設定張力の関数として求める較正処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
図7】同実施形態における補正張力値を求める処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の一実施形態の概要図である。ワイヤ電極8は図示しないソースボビンから引き出され、供給ローラ4にピンチローラ5で抑えられながら、上ワイヤガイド6、下ワイヤガイド7を通り、巻き取りローラ9、9で挟まれ送りだされる。上ワイヤガイド6と下ワイヤガイド7間で被加工物Wに放電加工がなされる。供給ローラ4は、供給モータ12で駆動され、巻き取りローラ9は巻き取りモータ13で駆動される。供給モータ12、巻き取りモータ13は、NC装置(数値制御装置)1からの指令に基づいてそれぞれモータ制御装置11、14を介して駆動制御され、ワイヤ電極の走行、張力を制御する。なお、供給ローラ4、ピンチローラ5、供給モータ12、モータ制御装置11、及び、巻き取りローラ9、9、巻き取りモータ13、モータ制御装置14でワイヤ電極8に張力を付与する張力発生手段10をも構成している。
【0017】
一方、放電加工領域を含む供給ローラ4と巻き取りローラ9との区間のワイヤ電極8の張力を検出する張力検出器2が設けられている。該張力検出器2は、ワイヤ電極8の張力を検出し較正手段3に出力する。較正手段3は、張力検出器2を較正するための手段であり、張力検出器2で検出した張力を補正し、該補正した検出張力をNC装置1に出力する。NC装置1は、この入力された補正検出張力と指令張力に基づいて、従来と同様に、供給モータ12、巻き取りモータ13の速度又はトルクを制御することによって、ワイヤ電極8の張力を指令張力と一致するようにフィードバック制御を行う。
【0018】
本発明は、張力検出器を用いてワイヤ電極の張力を検出し、該ワイヤ電極8の張力が指令張力と一致するようにフィードバック制御する点においては、従来と同様であるが、張力検出器2の出力を補正する較正手段3を付加し、張力検出器2の出力のずれ量を補正するようにした点に特徴を有するものである。
なお、図1に示した実施形態では、較正手段3をNC装置1の外に設けたが、この較正手段3をNC装置1内に設け、NC装置1のプロセッサで、この較正手段3としての動作処理を行わせてもよいものである。
【0019】
図2図5は、較正手段3で実施される較正動作原理の第1〜第4の態様の説明図であり、検出張力と理想値(実際の張力)との差の検出ずれ量を表す設定張力に対する関数として求める方法の説明図である。
張力発生手段10によって、ワイヤ電極8に設定張力xを付与して張力検出器2で張力を検出(検出値y)する。この動作を1以上の設定張力xに対して行う。得られた点列より張力検出器2で検出された張力yを設定張力xの関数として関係式y=f(x)を求めることができる。一方、ワイヤ電極8に設定張力xを付与したとき、ワイヤ電極の張力はxであり張力検出器2から出力される検出張力yとしては、y=xであることが期待値であり理想値である。よって、張力検出器2から出力される検出張力値の理想値からの検出ずれ量である検出ずれ量dは、
d=f(x)−x
として求められる。
【0020】
放電加工時においては、設定(指令)張力xより求められた検出ずれ量dを張力検出器2から出力される検出張力yに補正して、補正検出張力として出力すれば、張力検出器2の検出ずれは補正され、正確な張力の検出ができる。
【0021】
図2は、設定張力xが1点で、そのとき張力検出器2で検出された張力yより、設定張力と検出値の関係式y=f(x)を求め、さらに、検出ずれ量dを求める方法の第1の態様の説明図である。この第1の態様は、設定張力(ワイヤ電極の張力)x=0のとき張力検出器2の検出張力y=0であり、かつ、張力検出器2の検出張力yは設定張力(実際の張力としての期待値、理想値)xに単純に比例する関係にある張力検出器の場合に適用されるものである。
【0022】
張力発生手段10を駆動し、供給モータ12、巻き取りモータ13の速度、トルクを制御して、ワイヤ電極に設定張力x=aを付与して張力検出器2で張力を検出すると検出張力y=bであったとする。
【0023】
そうすると、設定張力xと検出張力yの関係式f(x)は、
f(x)=(b/a)x ・・・・(1)
検出ずれ量dは
d=(b/a)x−x=((b/a)−1)x・・・・(2)
となる。
【0024】
図3は、検出張力yは設定張力(実際の張力)xに単純に比例する関係にあるが、設定張力xが「0」のとき張力検出器2の検出張力yは「0」ではないような張力検出器に適用されるもので、この場合は、設定張力xをa1、a2とし、それぞれワイヤ電極8に張力をかけ、張力検出器2からそれぞれ出力される検出張力yをb1、b2として求めれば、設定張力xの関数として表わされる検出張力yの式f(x)は、
f(x)={(b2−b1)/(a2−a1)}x+(a2・b1−a1・b2)/(a2−a1)・・(3)
検出ずれ量dは
d={(b2−b1)/(a2−a1)−1}x+(a2・b1−a1・b2)/(a2−a1)・・(4)
となる。
【0025】
図4は、設定張力xの関数として表わされる張力検出器2で検出される張力yの関係式y=f(x)を求める第3の態様の説明図である。この第3の態様では、複数の設定張力xに対してそれぞれ張力検出器2で張力yを検出し、この検出点(x,y)の点列より最小二乗法などの近似手段を用いて近似直線の関係式f(x)を求めるものである。
さらには、図5に示すように、これら点を滑らかな曲線で結んだ関係式f(x)を求めるようにしてもよいものである。そして、検出ずれ量dは、d=f(x)−xとして設定張力xの関数として求められる。
【0026】
また、供給モータ12、巻き取りモータ13の速度又はトルクを制御してワイヤ電極に付与する張力xを連続的に変化させながら、張力検出器の出力yを連続的に検出することで、設定張力に対する検出張力の関係式f(x)を得るようにしてもよい。
【0027】
図6は、較正手段3のプロセッサ、若しくは、NC装置1内に較正手段を構成したときはNC装置1のプロセッサが実施する張力検出器の較正処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【0028】
張力検出器2の較正指令がNC装置1に入力されると、較正処理を実行するプロセッサは図6に示す処理を開始する。
まず、指標nを「1」にセットすると共に、初期張力値x0=xn-1を「0」とし(ステップS1)、1つ前の指令張力値xn-1に所定量aを加算した設定張力値xを求め、該設定張力値xを張力発生手段10に出力する(ステップS2)。張力発生手段10は従来と同様に、モータ制御装置11、14を介して供給モータ12、巻き取りモータ13を駆動制御し、ワイヤ電極8に指令された張力xを発生させる。すなわち、供給モータ12と巻き取りモータ13の速度を制御することによってワイヤ電極に張力を発生させる場合には、巻き取りローラ9でワイヤ電極を巻き取る速度と、供給ローラ4及びピンチローラ5で送り出すワイヤ電極の速度に差を与えて、その速度差でワイヤ電極に指令された張力xを発生させる。また、供給モータ12と巻き取りモータ13のトルクでワイヤ電極に指令張力を発生させる場合には、供給モータ12及び巻き取りモータ13のトルクを制御することによって張力を発生させる。この場合には、ワイヤ電極を走行させた状態でも、又は走行を停止させた状態でもよい。
【0029】
次に、張力検出器2の出力の検出張力値yを読み取り(ステップS3)、指標nに1加算し(ステップS4)、該指標nの値が、データを求めるために設定された数Nmax以上か判別し(ステップS5)、以上でなければ、ステップS2に戻り、以下、指標の値が設定数Nmaxに達するまでステップS2〜ステップS5の処理を実行し、その後、ステップS6に移行する。指令した設定張力値x1〜xNmaxと張力検出器の出力の検出張力値y1〜yNmaxより張力検出yを設定張力xの関数で表わす関係式f(x)を求め(ステップS6)、張力検出器2を較正するための検出ずれ量dを設定張力xの関数で表わす関数式d=f(x)−xを求めて記憶し(ステップS7)、較正処理を終了する。
【0030】
図2に示す第1の態様で関係式f(x)を求める場合は、データを求める数Nmaxを「1」とし、指令張力値x1図2におけるa)とそのとき検出された張力検出値y1(図2におけるb)より第1式に示される設定張力xと検出張力yの関係式f(x)を求め、第2式で示されるずれ量dを求める設定張力xの関数式を記憶することになる。
d=((b/a)−1)x=((y1/x1)−1)x
【0031】
また、図3に示す第2の態様で関係式f(x)を求める場合は、データを求める数Nmaxを「2」とし、指令する設定張力値x、x図2におけるa、a)と、そのとき検出された張力検出値y、y図2におけるb、b)より第3式に示される設定張力値xと張力検出値yの関係式f(x)を求め、第4式で示されるずれ量dを求める式を記憶することになる。
【0032】
d={(b2−b1)/(a2−a1)−1}x+(a2・b1−a1・b2)/(a2−a1
={(y2−y1)/(x2−x1)−1}x+(x2・y1−x1・y2)/(x2−x1
図4に示す第3の態様で関係式f(x)を求める場合は、指令する設定張力値x、x・・・xNmaxと、検出された張力検出値y、y・・・yNmaxの組み合わせの点列((x1,y1)、(x,y)、・・・ (xNmax,yNmax))より、最小二乗法などの近似方法で設定張力値xと張力検出値yの関係式f(x)を求める。また、図5に示した第4の態様で関係式f(x)を求める場合は、設定張力値と張力検出値の組み合わせの点列((x1,y1)、(x,y)・・・ (xNmax,yNmax))より曲線近似して関係式f(x)を求める。こうして求められた関係式f(x)より張力検出器2を較正するための検出ずれ量dを求める関数式d=f(x)−xを求めて記憶する。
【0033】
図7は、放電加工時における張力検出器を較正し補正された張力検出値を求める処理のアルゴリズムを示すフローチャートである。
放電加工時においては、較正手段3(NC装置1内に設けられた較正手段を含む)のプロセッサは図7に示す処理を所定周期毎実施し、張力検出器2で検出されるワイヤ電極8の張力を較正処理によって得られた検出ずれ量dを補正して補正張力検出値を得る。
【0034】
まず、指令されている設定張力値xを読み取り(ステップT1)、較正処理によって求められている検出ずれ量dを求める設定張力xの関数式d=f(x)-xより、この設定張力値xに対する検出ずれ量(補正量)dを求める(ステップT2)。
次に、張力検出器2の出力である検出張力yを読みだし(ステップT3)、該検出張力yより検出ずれ量(補正量)dを差し引いて補正された検出張力Yを求め(ステップT4)、張力検出処理は終了する。
【0035】
こうして求められた補正検出値Yに基づいて、従来と同様に、NC装置1は張力発生手段10を駆動制御して、ワイヤ電極8の張力が設定張力値と一致するようにフィードバック制御が実施される。
【0036】
なお、張力値が設定された後は、この設定値が変更されない限り、この設定張力値に対する検出ずれ量(補正量)dは変化することがないので、張力値の設定値が変えられる毎にステップT1、T2の処理を実施して、設定張力値に対する検出ずれ量dを求めておき、ワイヤ電極の張力を検出する際にはステップT3、T4の処理のみを行うようにしてもよい。
【0037】
以上のように、本発明は、ワイヤ電極に設定した指令張力とそのとき張力検出器から出力される検出張力に基づいて、張力検出器の検出ずれ量dを設定張力の関数で表わす式として求めるという張力検出器の較正処理をしておき、放電加工時に設定される設定張力に対する検出ずれ量を、検出ずれ量の関数式より求めて、張力検出器の出力を補正するようにしたものであるから、張力検出器の較正が簡単にできる。また、張力検出器を一度較正したとしても温度が変化すると張力検出器の検出張力がずれる(検出ずれ量が変化する)可能性がある。そのため、加工中に設定された差分以上の温度変化が生じた場合には、張力検出器の検出値がずれたと判断し、再度図6に示すような較正処理を実行し、新たなずれ量を求める関数式を得るようにすればよい。この場合、ワイヤ電極の送りを止めて較正を行っても、また送りを止めずに較正を行ってもよい。また、温度変化に伴う較正処理を促すために、温度計を設け、NC装置1又は較正手段3又はNC装置1は、較正処理を行ったとき、温度計で検出される温度を記憶しておき、該記憶温度より所定値以上に温度が変化した場合、較正処理を促す信号を出す(表示画面に表示等)ようにしてもよい。さらには、記憶した温度より所定値以上に温度が変化した場合に自動的に図6の較正処理を実行するようにしてもよい。
【0038】
また上述した実施形態では、設定張力xと張力検出yの関係式f(x)を求め、該関係式f(x)より検出ずれ量の関数式d=f(x)−xを求めて記憶して、放電加工時には、検出ずれ量の関数式d=f(x)−xより設定張力xに対する検出ずれ量dを求め、検出張力yを補正するようにしたが、関係式f(x)を求め、検出ずれ量の関数式d=f(x)−xを記憶するのではなく、張力検出器2の較正時には、関係式f(x)の代わりに、複数の設定張力xと該複数の設定張力xに対して検出された張力検出yの組み合わせの点列(x1,y1) 、(x,y)・・・(x,y)を記憶しておき、放電加工時には、設定張力値xに対する較正のための検出ずれ量dを記憶点列より求めるようにしてもよい。すなわち、記憶する点列の中で、設定張力値の前後の記憶設定張力値の2点より内挿補間して補正検出張力Yを求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 NC装置(数値制御装置)
2 張力検出器
3 較正手段
4 供給ローラ
5 ピンチローラ
6 上ワイヤガイド
7 下ワイヤガイド
8 ワイヤ電極
9 巻き取りローラ
10 張力発生手段
11 モータ制御装置
12 供給モータ
13 巻き取りモータ
14 モータ制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7