(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属板成形品が自動車用ブレーキディスクローターであり、前記内側部がホイールに固定される取付面部であり、前記外側部がパッドで挟圧される摺動面部であり、前記連結部により、前記摺動面部と取付面部とが軸方向に間隔をあけて平行配置されるように、前記摺動面部の内周縁から立ち上がって、前記摺動面部と前記取付面部とが連結されている請求項1記載の金属板成形品。
前記傾斜円弧部の途中部に折り返し部を形成し、前記傾斜円弧部に、前記内側部の外周縁との連結部位から折り返し部に至る内周側部分と、前記折り返し部から外側部の内周縁との連結部位に至る外周側部分とを設けた請求項1又は2記載の金属板成形品。
内側部と、前記内側部よりも外周側に設けた外側部と、前記外側部と内側部とが両者の板厚方向に間隔をあけて平行配置されるように、前記外側部の内周縁から立ち上がって、前記外側部と前記内側部とを連結する連結部とを備えた、金属板をプレス成形してなるハット形状の金属板成形品の製造方法であって、
前記金属板を打ち抜いて一次成形板を準備する一次成形板準備工程と、
該一次成形板における前記連結部に対応する環状面部内に、周方向に延びる複数のスリットを、周方向に間隔をあけて、該スリットの両端が隣接する両側のスリットの端部にそれぞれ周方向に一定角度だけ半径方向に重なるように形成するスリット形成工程と、
前記内側部に相当する部分を、板厚方向に押し出すことによって前記スリットを開き、かつ前記内側部と前記外側部が平行になるようにプレス成形して前記連結部を形成するプレス成形工程とを備えたことを特徴とする金属板成形品の製造方法。
前記金属板成形品が自動車用ブレーキディスクローターであり、前記内側部がホイールに固定される取付面部であり、前記外側部がパッドで挟圧される摺動面部であり、前記連結部により、前記摺動面部と取付面部とが軸方向に間隔をあけて平行配置されるように、前記摺動面部の内周縁から立ち上がって、前記摺動面部と前記取付面部とが連結されている請求項7記載の金属板成形品の製造方法。
前記スリットが、周方向の一方側に向けて開口するU字部と、該U字部の中央部から周方向の他方向へ延びる曲線部との組合せからなるY字状に形成されている請求項7又は8記載の金属板成形品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキディスクローターは、一般的にハット形をしており、
図13に示すブレーキディスクローター100のように、ホイールに固定される円盤状の取付面部101と、取付面部101よりも外周部に設けられて、パッドで挟圧されるドーナツ状の摺動面部102と、摺動面部102からほぼ直角に立ち上がって摺動面部102と取付面部101を繋ぐ連結部103とを備えて構成されている。
【0003】
このような自動車用ブレーキディスクローター100は、一般的に鋳造品である。これは、取付面部101と摺動面部102を繋ぐ連結部103がほぼ垂直に立ち上がる形状であり、鋳造であれば、このような形状を簡単に作ることができて形状の自由度が高いことから、通常は鋳造によって製造されている。
【0004】
しかし、鋳造品は形状の自由度が大きいという利点はあるものの、靭性が低く割れや欠けを生じやすい。その故、強度を確保するため厚肉の部品設計にならざるを得ず、製品重量がどうしても大きくなるという問題がある。
【0005】
しかしながら、近年、自動車の軽量化が指向される状況において、ブレーキディスクローターの軽量化の要求が潜在的に存在する。
【0006】
一方、オートバイ用のブレーキディスクローターでは、ブレーキディスクローター自体が、外部に露出される関係上、制動機能だけでなく、オートバイの外観意匠に影響を与える1つの要素となるので、機械的強度に優れるとともに耐発錆性に優れたステンレスが広く採用されている。
【0007】
オートバイ用のブレーキディスクローターの製造方法としては、例えば特許文献1に示されるように、ステンレス鋼板を円盤状に打ち抜いて、制動部とハブ部とを連結するブラケット部(連結部103)に開口部を形成し、さらに絞り加工によってブラケット部(連結部103)に傾斜面の加工を施すというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、鋳造品からなる自動車用ブレーキディスクローター100は、靭性が低く割れや欠けを生じやすいため、強度を確保するため厚肉の部品設計にならざるを得ないという問題がある。
【0010】
他方、オートバイ用のブレーキディスクローターはステンレス鋼板によって製造されているため、靭性が高く薄肉化、軽量化が可能であるという利点がある。
【0011】
しかし、特許文献1記載のオートバイ用のブレーキディスクローターの製造方法で自動車用ブレーキディスクローター100を製造しようとすると、以下のような問題が発生する。
【0012】
オートバイ用ブレーキディスクローターのブラケット部(連結部103)は傾斜面となっているが、自動車用ブレーキディスクローター100は、
図13に示すように、連結部103がほぼ直角に立ち上がっているため、厚肉のステンレス鋼板を絞り加工して製作することが困難である。
【0013】
この点、特許文献1に開示されているように、ブラケット部(連結部103)に相当する部位に円周方向に複数の開口部を設けたとしても、ブラケット部(連結部103)をほぼ直角に立ち上げるような絞り加工を施すと、ブラケット部(連結部103)が過薄になってブレーキディスクローターの強度を確保できない、または破断して絞り成形ができないという問題が生ずる。
【0014】
つまり、ステンレス鋼板を用いたオートバイ用ブレーキディスクローターは、靭性が高く薄肉化、軽量化が可能である反面、形状に対する自由度が低いという問題があった。
【0015】
そのため、自動車用ブレーキディスクローター100は鋳造品、オートバイ用ブレーキディスクローターはステンレス鋼板の成形品という棲み分けがされているのが現状である。
【0016】
本発明の目的は、プレス成形により安価に製作可能で、しかも機械的強度を十分に確保しつつ、薄肉化及び軽量化が可能な自動車用ブレーキディスクローターとして好適な金属板成形品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る金属板成形品は、内側部と、前記内側部よりも外周側に設けた外側部と、前記外側部と内側部とが両者の板厚方向に間隔をあけて平行配置されるように、前記外側部の内周縁から立ち上がって、前記外側部と前記内側部とを連結する連結部とを備えたハット形状の金属板成形品であって、前記連結部は、周方向に間隔をあけて設けた、半径方向に幅を有する板状の複数のスポーク部であって、一端部を外側部の内周縁に連結し、他端部を内側部の外周縁に連結し、途中部にオフセット方向との直交面に対して傾斜状で且つ周方向に延びる傾斜円弧部を有する、複数のスポーク部を備えたものである。
【0018】
この金属板成形品では、外側部と内側部とを連結する連結部が複数のスポーク部で構成され、該複数のスポーク部は、一端部を外側部の内周縁に連結し、他端部を内側部の外周縁に連結し、途中部に板厚方向との直交面に対して傾斜状で且つ周方向に延びる傾斜円弧部を設けたものなので、金属板をプレス成形することで、ハット形状の金属板成形品を無理なく容易に製作することが可能となる。つまり、金属板をプレス成形してハット形状の金属板成形品を製作するときには、外側部に対して内側部を板厚方向に押し出すようにプレス成形することになるが、このとき金属板のうちのスポーク部が主に曲げ変形することで、押し出しによる内側部と外側部との変位を吸収して、スポーク部に大きな引っ張り力が作用することを防止できるので、内側部と外側部との板厚方向の距離が長い(オフセット量が大きい)場合であっても、また連結部の立上り角度が直角に近い場合であっても、連結部における割れや強度低下を招くことなく、金属板成形品を無理なくプレス成形により製作することが可能となる。このように、金属板成形品をプレス成形により無理なく容易に製作できるので、鋳造にて製作した金属板成形品と比較して、安価に製作可能で、しかも機械的強度を十分に確保しつつ、薄肉で軽量な金属板成形品を実現できる。
【0019】
ここで、前記金属板成形品が自動車用ブレーキディスクローターであり、前記内側部がホイールに固定される取付面部であり、前記外側部がパッドで挟圧される摺動面部であり、前記連結部により、前記摺動面部と取付面部とが軸方向(板厚方向)に間隔をあけて平行配置されるように、前記摺動面部の内周縁から立ち上がって、前記摺動面部と前記取付面部とが連結されていることが好ましい実施の形態である。この場合には、鋳造にて製作した自動車用ブレーキディスクローターと比較して、安価に製作可能で、しかも機械的強度を十分に確保しつつ、薄肉で軽量な自動車用ブレーキディスクローターを実現できる。
【0020】
前記傾斜円弧部を、前記外側部の内周縁との連結部位から、前記内側部の外周縁との連結部位へ向けて周方向に設けることが好ましい実施の形態である。この場合には、外側部と内側部との板厚方向への間隔が比較的小さい場合に好適で、スポーク部を短く幅広に構成して、外側部と内側部の連結強度を向上できる。
【0021】
また、前記傾斜円弧部の途中部に折り返し部を形成し、前記傾斜円弧部に、前記内側部の外周縁との連結部位から折り返し部に至る内周側部分と、前記折り返し部から外側部の内周縁との連結部位に至る外周側部分とを設けることも好ましい実施の形態である。この場合には、外側部と内側部との軸方向への間隔が大きい場合に好適で、スポーク部の本数を減らすことなくスポーク部の長さを長くして、外側部と内側部との板厚方向への間隔を大きく設定できる。
【0022】
前記外側部と内側部との板厚方向に対する間隔を20mm以上に設定することができる。
【0023】
前記複数のスポーク部は回転対称に形成することが好ましい。このように構成すると、例えば本発明を自動車用ブレーキディスクローターに適用した場合において、自動車用ブレーキディスクローターの回転時におけるブレの発生を防止できるとともに、制動時に摺動面部から取付面部に対してバランス良く制動力を伝達することができる。また、プレス成形するときに、外側部と内側部とを板厚方向(軸方向)にバランス良く離間させることができ、金属板成形品の寸法精度を向上できる。
【0024】
本発明に係る金属板成形品の製造方法は、内側部と、前記内側部よりも外周側に設けた外側部と、前記外側部と内側部とが両者の板厚方向に間隔をあけて平行配置されるように、前記外側部の内周縁から立ち上がって、前記外側部と前記内側部とを連結する連結部とを備えた、金属板をプレス成形してなるハット形状の金属板成形品であって、前記金属板を打ち抜いて一次成形板を準備する一次成形板準備工程と、該一次成形板における前記連結部に対応する環状面部内に、周方向に延びる複数のスリットを、周方向に間隔をあけて、該スリットの両端が隣接する両側のスリットの端部にそれぞれ周方向に一定角度だけ半径方向に重なるように形成するスリット形成工程と、前記内側部に相当する部分を、板厚方向に押し出すことによって前記スリットを開き、かつ前記内側部と前記外側部が平行になるようにプレス成形して前記連結部を形成するプレス成形工程とを備えたものである。
【0025】
この製造方法では、スリット形成工程において、一次成形板における連結部に対応する環状面部内に、周方向に延びる複数のスリットを、周方向に間隔をあけて、該スリットの両端が隣接する両側のスリットの端部にそれぞれ周方向に一定角度だけ半径方向に重なるように形成し、プレス成形工程において、内側部に相当する部分を、板厚方向に押し出すことによって前記スリットを開き、かつ前記内側部と前記外側部が平行になるようにプレス成形して前記連結部を形成するので、プレス成形時には、隣接するスリット間の部分が、主に曲げ変形することで、押し出しによる内側部と外側部との板厚方向への変位を吸収でき、大きな引っ張り力が作用しないので、内側部と外側部との板厚方向の距離が長い(オフセット量が大きい)場合であっても、また連結部の立上り角度が直角に近い場合であっても、連結部における割れや強度低下を招くことなく、金属板成形品を無理なくプレス成形により製作することが可能となる。このように、金属板成形品をプレス成形により無理なく容易に製作できるので、鋳造にて製作した金属板成形品と比較して、安価に製作可能で、しかも機械的強度を十分に確保しつつ、薄肉で軽量な金属板成形品を実現できる。
【0026】
ここで、前記金属板成形品が自動車用ブレーキディスクローターであり、前記内側部がホイールに固定される取付面部であり、前記外側部がパッドで挟圧される摺動面部であり、前記連結部により、前記摺動面部と取付面部とが軸方向に間隔をあけて平行配置されるように、前記摺動面部の内周縁から立ち上がって、前記摺動面部と前記取付面部とが連結されていることが好ましい実施の形態である。この場合には、鋳造にて製作した自動車用ブレーキディスクローターと比較して、安価に製作可能で、しかも機械的強度を十分に確保しつつ、薄肉で軽量な自動車用ブレーキディスクローターを実現できる。
【0027】
前記スリットが、径方向に対して傾斜する直線、曲線、又は直線と曲線の組合せからなることが好ましい実施の形態である。この場合には、外側部と内側部との板厚方向への間隔が比較的小さい場合に好適で、隣接するスリット間に形成されるスポーク部を短く幅広に構成して、連結部を構成する複数のスポーク部による外側部と内側部の連結強度を向上できる。
【0028】
また、前記スリットが、周方向の一方側に向けて開口するU字部と、該U字部の中央部から周方向の他方向へ延びる曲線部との組合せからなるY字状に形成されていることが好ましい実施の形態である。この場合には、隣接するスリットにより途中部に折り返し部を有するスポーク部を形成できるので、外側部と内側部との板厚方向への間隔が大きい場合に好適で、スポーク部の本数を減らすことなくスポーク部の長さを長くして、外側部と内側部との板厚方向への間隔を大きく設定できる。
【0029】
前記外側部と内側部との板厚方向に対する間隔を20mm以上に設定することもできる。
【0030】
前記複数のスリットを、前記一次成形板の中心に対して回転対称となるように形成することも好ましい実施の形態である。このように構成すると、例えば本発明を自動車用ブレーキディスクローターの製造方法に適用すると、製造した自動車用ブレーキディスクローターの回転時におけるブレの発生を防止できるとともに、制動時に摺動面部から取付面部に対してバランス良く制動力を伝達することができる。また、プレス成形するときに、外側部と内側部とを板厚方向(軸方向)にバランス良く離間させることができ、金属板成形品の寸法精度を向上できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る金属板成形品
及びその製造方法によれば、金属板成形品をプレス成形により無理なく容易に製作できるので、鋳造にて製作した金属板成形品と比較して、安価に製作可能で、しかも機械的強度を十分に確保しつつ、薄肉で軽量な金属板成形品を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施の形態は、本発明を自動車用ブレーキディスクローターに適用した場合のものである。
【0034】
[第1実施形態]
まず、自動車用ブレーキディスクローター1の構成について説明する。
図1に示すように、自動車用ブレーキディスクローター1は、平面視において全体形状が円形をしており、ホイールに固定される平坦な円板状の取付面部2と、取付面部2よりも外周部に設けた環状の摺動面部3と、摺動面部3の内周縁から立ち上がって摺動面部3と取付面部2を連結する複数のスポーク部4からなる連結部5とを備えている。なお、自動車用ブレーキディスクローター1、取付面部2、摺動面部3が、金属板成形品、内側部、外側部にそれぞれ相当する。
【0035】
自動車用ブレーキディスクローター1は、車両に組み付けた状態で、ブレーキ装置の1対のブレーキパッド間に摺動面部3が配置され、該1対のブレーキパッドで摺動面部3を挟持することで、ホイールに制動力を付与できるように構成されている。
【0036】
自動車用ブレーキディスクローター1は、ステンレス鋼板や炭素鋼板などの1枚の平坦な金属板を自動車用ブレーキディスクローター1の形状にプレス成形して製作されている。自動車用ブレーキディスクローター1の板厚は、全体的に略一様な板厚に構成され、例えば3〜13mmの板厚に構成されている。ただし、軽量化などのため、摺動面部3や取付け面部に対して、プレス成形や切削により部分的に薄肉な部分を形成したりすることも可能である。
【0037】
取付面部2は、平坦な円板状に形成され、中央部には車軸が挿通する丸孔2aが貫通状に形成され、半径方向の途中部の同一円周上には、ホイール取付用の4本のボルトが挿通する4つの取付孔2bが丸孔2aを取り囲むように貫通状に形成されている。なお、取付孔2bの個数は、ホイール取付用のボルトの本数に応じた個数に設定することになる。
【0038】
摺動面部3は、ブレーキパッドが圧接可能な幅を有する平坦な環状に形成されている。摺動面部3の両面は、凹凸のない平坦面に形成することもできるが、ブレーキパッドをクリーニングするためや、自動車用ブレーキディスクローター1を軽量に構成するため、
図7に示すように、摺動面部3に板厚方向に貫通する複数の小孔6を形成したり、
図8、
図9に示すように、円弧状の複数の有底の溝部7を半径方向に対して角度を付けて周方向に間隔をあけて形成したりすることもできる。
【0039】
連結部5は、周方向に間隔をあけて設けた、半径方向に幅を有する細長い板状の複数のスポーク部4であって、内周端部4aを摺動面部3の内周縁に連結し、外周端部4bを取付面部2の外周縁に連結し、途中部に軸方向との直交面に対して傾斜状で且つ周方向に延びる傾斜円弧部4cを有する、複数のスポーク部4で構成され、隣接するスポーク部4間には開口部8が形成されている。平面視において、複数のスポーク部4の内周端部4aと外周端部4bとは、自動車用ブレーキディスクローター1の周方向の同じ側に周方向に一定角度だけ位相をずらして配置され、また複数のスポーク部4の傾斜円弧部4cは、自動車用ブレーキディスクローター1の半径方向に対して傾斜状に配置され、更にスポーク部4の両端部は周方向に隣接する両側のスポーク部4の端部にそれぞれ周方向に一定角度だけ半径方向に重なるように配置されている。連結部5は、摺動面部3の内周縁から、摺動面部3に対してほぼ直角(80度〜90度)に立ち上がるように突出状に形成されている。
【0040】
摺動面部3と取付面部2とは、連結部5によって軸方向(板厚方向)に間隔をあけて平行に配置されている。取付面部2と摺動面部3との軸方向の間隔Sは、車両側の構成に応じて任意に設定することができ、例えば20mm以上に設定することになる。
【0041】
次に、自動車用ブレーキディスクローター1の製造方法について説明する。
自動車用ブレーキディスクローター1の製造方法は、一次成形板準備工程と、スリット形成工程と、プレス成形工程と、焼き入れ工程とを備えている。
【0042】
(1)一次成形板準備工程
一次成形板準備工程では、
図2(a)に示すように、ステンレス鋼板や炭素鋼板などからなる素材金属板を打ち抜いて、外径が自動車用ブレーキディスクローター1の外径に適合する大きさの円盤状で、取付面部2に対応する取付面部構成部12の中央部に丸孔2a及び4つの取付孔2bを形成した一次成形板11を製作する。
【0043】
(2)スリット形成工程
スリット形成工程では、
図2(b)、
図3に示すように、一次成形板11における連結部5に対応する円環状の連結部構成部15内(
図3の仮想線C1、C2間の環状部位)に、周方向に間隔をあけて複数のスリット18を形成してなる、二次成形板11Aを製作する工程である。この連結部構成部15が、環状面部(円環面部)に相当する。
【0044】
二次成形板11Aのうちの仮想線C1の内側には、次のプレス成形工程により取付面部2に成形される取付面部構成部12が設けられ、二次成形板11Aのうちの仮想線C2の外側には、次のプレス成形工程により摺動面部3に成形される摺動面部構成部13が設けられ、仮想線C1、C2間の連結部構成部15には、複数のスリット18により、複数のスポーク部4に成形される、取付面部構成部12と摺動面部構成部13とを連結する複数のスポーク部構成部14が半径方向に対して傾斜状に形成されている。
【0045】
各スリット18は、仮想線C1の外側に沿って配置される円弧状の内周側スリット18aと、仮想線C2の内側に沿って配置される円弧状の外周側スリット18bと、内周側スリット18aと外周側スリット18bとを連通し、且つ二次成形板11Aの外方側へ膨出する円弧状の中間スリット18cとを備え、これらのスリット18a、18b、18cは連結部構成部15を板厚方向に貫通して連続的に形成されている。
【0046】
図3に示すように、二次成形板11Aの平面視において、内周側スリット18aと外周側スリット18bとは、二次成形板11Aの周方向に一定角度だけ位相をずらして配置され、中間スリット18cは二次成形板11Aの半径方向に対して角度を付けて傾斜状に形成され、隣接するスリット18間において、内周側スリット18aと外周側スリット18bとは周方向に一定角度R1だけ半径方向に重なるように配置されている。
【0047】
これら複数のスリット18は、プレス成形時における成形精度を高めるためや、自動車用ブレーキディスクローター1のスポーク部4の強度を一様にするため、二次成形板11Aの中心Pに対して回転対称となるように周方向に一定間隔おきに形成されている。ただし、ブレーキ鳴きの発生を防止したりするため、特定のスリット18の長さを変更したり、半径方向に対するスリット18の角度を変更したりして、自動車用ブレーキディスクローター1に形成する複数のスリット18を回転非対称に構成することも可能である。
【0048】
スリット18の本数と周方向長さと半径方向長さとは、プレス成形によるスポーク部4の成形性と強度剛性を考慮して適宜に設定することになる。また、スリット18の形状及び隣接するスリット18間の距離は、スポーク部4がその全長にわたってできるだけ一様な幅になるように、プレス成形後のスポーク部4の形状を考慮して設定することになる。
【0049】
スリット18は、次のプレス成形工程において、スリット18が開いて立ち上がって、複数のスポーク部4からなる連結部5を形成できるようにするため、立ち上がった状態で摺動面部3と取付面部2との板厚方向の距離S1(オフセット量)が20mm以上となるように形成されている。
【0050】
スリット18は、レーザやウォータジェットやワイヤーソーなどの周知の加工方法によって形成することができる。スリット18の幅は、任意に設定可能であるが、連結部5の強度剛性を高めるため、極力幅狭に構成することが好ましく、例えば3mm以下に設定することが好ましい。
【0051】
なお、
図4に示す二次成形板11AAのように、スリット18の両端にアールを設けるための小孔19を形成するようにしてもよい。これによって、プレス成形の際にスリット18の端部に亀裂が生ずるのを防止することができる。
【0052】
また、スリット18は、1乃至複数の直線、1乃至複数の曲線、又は1乃至複数の直線と1乃至複数の曲線の組合せで構成することが可能で、例えば
図5に示す二次成形板11ABのように、スリット18に代えて、内周側と外周側の2本の直線状の直線スリット18Ba、18Bbの組み合わせからなるスリット18ABを設けたり、
図6に示す二次成形板11ACのように、スリット18に代えて、曲線状(円弧状)の内周側スリット18Ca及び外周側スリット18Cbと、両スリットを連結する1本の直線スリット18Ccの組み合わせからなるスリット18ACを設けることもできる。
【0053】
更に、ブレーキパッドのクリーニング性を向上したり、自動車用ブレーキディスクローター1を極力軽量に構成するため、スリット形成工程の前工程或いは後工程において、摺動面部3に対応する部分に貫通状の複数の貫通孔を形成したり、摺動面部3に対応する部分の表裏面に有底の溝部7を半径方向に形成したりすることができる。具体的には、
図7に示す二次成形板11ADのように、摺動面部3に対応する摺動面部構成部13Dに、複数の小孔6を周方向に間隔をあけて貫通状に形成したり、
図8、
図9に示す二次成形板11AEのように、摺動面部3に対応する摺動面部構成部13Eの表裏面に複数の溝部7を周方向に間隔をあけて形成したりすることも好ましい。小孔6及び溝部7の個数や形状や配設位置は、任意に設定可能で、例えばオートバイ用の周知のブレーキディスクと同様に設定できる。なお、小孔6を形成する場合には、自動車用ブレーキディスクローターが1回転することで、ブレーキパッドの全面に小孔6に対面するように、周方向に隣接する小孔6の半径方向位置をずらして配置することが好ましい。
【0054】
(3)プレス成形工程
プレス成形工程では、
図2(c)に示すように、二次成形板11Aにおける取付面部構成部12を、摺動面部構成部13に対して、板厚方向に略平行に押し出すことによってスリット18を徐々に開き、
図1、
図2(d)のように、取付面部2と摺動面部3との板厚方向の距離S1が、所望の距離となるようにプレス成形して、スリット18を開いてなる開口部8と、スポーク部構成部14を軸方向に立ち上げてなる複数のスポーク部4とを有する連結部5を形成する。
【0055】
プレス成形工程で用いる金型は、パンチ、ダイ、ブランクホルダーで構成され、パンチとダイのクリアランスは、仮想線C1、C2間の連結部構成部15の半径方向の長さと同程度とする。このクリアランスが、スリット18が開いて成形される連結部5の立ち上がるスペースとなる。
【0056】
プレス成形工程によって、取付面部2と摺動面部3との板厚方向の距離S1は20mm以上となる。
【0057】
プレス成形工程では、二次成形板11Aの軸方向との直交面に対してスポーク部構成部14が傾斜状に立ち上がるように塑性変形して、円周方向に延びるスリット18が開くことによって連結部5が形成されるため、スポーク部構成部14により形成されるスポーク部4は、ほとんど薄肉になることがなく、また割れや反りが発生せず、強度が低下することがない。
【0058】
(4)焼き入れ工程
摺動面部構成部13に対して高周波加熱装置などにより、自動車用ブレーキディスクローター1を構成する素材金属に応じた周知の加熱条件で焼き入れ処理を施して、自動車用ブレーキディスクローター1を得ることになる。
【0059】
以上のように、本実施の形態によれば、取付面部2と摺動面部3との板厚方向の距離S1が大きい(オフセット量が大きい)場合であっても、また連結部5の立ち上り角度が直角に近い場合であっても、連結部5における割れや強度低下を招くことがなく、ステンレス鋼板などの金属板を用いた自動車用ブレーキディスクローター1を製造することができ、強度剛性を十分に確保しつつ、自動車用ブレーキディスクローター1の薄肉化及び軽量化が可能となる。
【0060】
また、自動車用ブレーキディスクローター100(
図13参照)のような形状であっても、プレス成形の工程数を多くして逐次変形させればプレス成形による製造も可能と考えられるが、このような方法では製造コストや時間の増大は深刻な問題となるが、本願発明であれば、1ストロークでのプレス成形が可能となり、製造コストの増大を招くこともない。
【0061】
[第2実施形態]
第2実施形態の自動車用ブレーキディスクローター21は、第1実施形態の自動車用ブレーキディスクローター1におけるスポーク部4及びスリット18の構成を変更したもので、それ以外の構成は、第1実施形態の自動車用ブレーキディスクローター1と同様に構成されているので、同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。なお、自動車用ブレーキディスクローター21が、金属板成形品に相当する。
【0062】
図10に示すように、自動車用ブレーキディスクローター21は、平面視において全体形状が円形をしており、ホイールに固定される平坦な円板状の取付面部2と、取付面部2よりも外周部に設けた環状の摺動面部3と、摺動面部3の内周縁から立ち上がって摺動面部3と取付面部2を連結する複数のスポーク部24からなる連結部25とを備えている。
【0063】
連結部25は、周方向に間隔をあけて設けた、半径方向に幅を有する細長い板状の複数のスポーク部24であって、内周端部24aを摺動面部3の内周縁に連結し、外周端部24bを取付面部2の外周縁に連結する傾斜円弧部24cを有する、複数のスポーク部24で構成され、隣接するスポーク部24間には開口部8が形成されている。
【0064】
傾斜円弧部24cは、平面視において内周側と外周側とに略並列状に配置される部分円弧状の内周側円弧部24d及び外周側円弧部24eと、周方向の一端において内周側円弧部24dと外周側円弧部24eとを連結する折り返し部24fとを備えている。内周側円弧部24dと外周側円弧部24eとは自動車用ブレーキディスクローター21の軸方向と直交する直交面に対して略鏡面対称に傾斜され、側面視において横向きV字状に配置されている。
【0065】
スポーク部24の両端部は、平面視において自動車用ブレーキディスクローター21の同じ周方向位置に配置され、自動車用ブレーキディスクローター21に形成される複数のスポーク部24は、自動車用ブレーキディスクローター21の中心Pを中心として回転対称に形成されている。ただし、スポーク部24の両端部を周方向にずらして配置することも可能である。また、自動車用ブレーキディスクローター21の成形精度を考慮すると、自動車用ブレーキディスクローター21に形成される全てのスポーク部24は、回転対称に構成することが好ましいが、ブレーキ鳴きの発生を防止したりするため、特定のスポーク部24の形状や断面積を変更したりして、自動車用ブレーキディスクローター21に形成する複数のスポーク部24を回転非対称に構成することも可能である。
【0066】
次に、自動車用ブレーキディスクローター21の製造方法について説明する。
自動車用ブレーキディスクローター21の製造方法は、一次成形板準備工程と、スリット形成工程と、プレス成形工程と、焼き入れ工程とを備えている。
【0067】
一次成形板準備工程では、第1実施形態と同様に、ステンレス鋼板や炭素鋼板などからなる素材金属板を打ち抜いて、外径が自動車用ブレーキディスクローター21の外径に適合する大きさの円盤状で、中央部に丸孔2a及び4つの取付孔2bを形成した一次成形板11を製作する。
【0068】
スリット形成工程では、
図11(b)、
図12に示すように、一次成形板11における連結部25に相当する部位となる連結部構成部35内(
図12の仮想線C1、C2間の部位)に、間隔をあけて複数のスリット38を形成して、二次成形板31Aを製作する。
【0069】
スリット38は、
図12に示すように、仮想線C1の外側に沿って配置される円弧状の内周側スリット38aと、仮想線C2の内側に沿って配置される円弧状の外周側スリット38bと、外周側スリット38bと内周側スリット38aの一端部を連結する半円弧状スリット38cと、半円弧状スリット38cの途中部から、隣接するスリット38の内周側スリット38aと外周側スリット38b間へ通って隣接する該スリット38の半円弧状スリット38cの円弧の略中心まで延びる中間スリット38dとを備え、略Y字状(刺又形状)に形成されている。なお、内周側スリット38aと外周側スリット38bと半円弧状スリット38cとが、周方向の一方側に向けて開口するU字部に相当し、中間スリット38dが、該U字部の中央部から周方向の他方向へ延びる曲線部に相当する。
【0070】
中間スリット38dの内周側と外周側とに、次のプレス成形工程を経てスポーク部24の内周側円弧部24dと外周側円弧部24eとを構成する内周側円弧部構成部34dと外周側円弧部構成部34eが形成され、半円弧状スリット38cの内側に折り返し部24fを構成する折り返し部構成部34fが形成され、内周側円弧部構成部34dと外周側円弧部構成部34eと折り返し部構成部34fとでスポーク部24を構成するスポーク部構成部34が形成されている。
【0071】
図12に示すように、二次成形板31Aの平面視において、内周側円弧部34dと外周側円弧部34eと中間スリット38dとは周方向に一定角度R2だけ半径方向に重なるように配置されている。ただし、内周側円弧部34dと中間スリット38dとの半径方向に重なる角度と、外周側円弧部34eと中間スリット38dとの半径方向に重なる角度とは、
図12に示すように同じ角度R2に設定することが好ましいが異なる角度に設定することもできる。
【0072】
スリット38は、第1実施形態と同様に、レーザやウォータジェットやワイヤーソーなどの周知の加工方法によって形成することができる。スリット38の幅は、任意に設定可能であるが、連結部25の強度剛性を高めるため、極力幅狭に構成することが好ましく、例えば3mm以下に設定することが好ましい。
【0073】
これら複数のスリット38は、プレス成形時における成形精度を高めるためや、自動車用ブレーキディスクローター1のスポーク部24の強度を一様にするため、二次成形板31Aの中心Pに対して回転対称となるように周方向に一定間隔おきに形成されている。ただし、ブレーキ鳴きの発生を防止したりするため、特定のスリット38の長さを変更したり、半径方向に対するスリット38の角度を変更したりして、自動車用ブレーキディスクローター21に形成する複数のスリット38を回転非対称に構成することも可能である。
【0074】
プレス成形工程では、
図11(c)に示すように、二次成形板31Aにおける取付面部構成部12を、摺動面部構成部13に対して、板厚方向に略平行に押し出してスリット38を徐々に開き、
図10、
図11(d)のように、取付面部2を、摺動面部3との板厚方向の距離S2が、所望の距離になるまでプレス成形して、スリット18を開いてなる開口部8と、複数のスポーク部構成部34を側面視横向きV字状に屈曲させて、軸方向に立ち上げてなる複数のスポーク部24とからなる連結部25を形成する。
【0075】
この自動車用ブレーキディスクローター21では、スポーク部24の長さを容易に長く設定できるので、摺動面部3と取付面部2との軸方向への間隔が大きいブレーキディスクローターに好適で、スポーク部24の本数を減らすことなくスポーク部24の長さを長くして、摺動面部3と取付面部2との板厚方向の距離S2(オフセット量を、第1実施形態よりも大きくすることができるという効果を有する。
【0076】
なお、前記第1及び第2実施形態では、自動車用ブレーキディスクローター1、21に本発明を適用した場合について説明したが、自動車用以外の例えば自動二輪車用のブレーキディスクローターに本発明を適用することもできる。また、動力伝達経路に配置される、歯車やスプロケットなどに対しても、本発明を同様に適用することもできる。更に、これら以外のハット形状の任意の構成の金属板成形品に対しても本発明を適用することが可能で、この場合には、内側部及び外側部は円形以外の任意の形状、例えばオーバル形状(楕円形、小判形、卵形など)や平面視多角形状に形成することもできる。自動車用ブレーキディスクローター1、21以外の金属板成形品においては、プレス成形可能な金属材料であれば、任意の組成の金属材料を採用できるし、その板厚も機械的強度などを考慮した任意の板厚に設定することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲においてその構成を変更し得ることは勿論である。