(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133961
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素の製造方法及びその方法により作製される構成要素
(51)【国際特許分類】
G04B 19/04 20060101AFI20170515BHJP
G04B 45/00 20060101ALI20170515BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20170515BHJP
G04B 19/06 20060101ALI20170515BHJP
B81C 99/00 20100101ALI20170515BHJP
【FI】
G04B19/04 C
G04B45/00 V
G04B45/00 A
G04B37/22 J
G04B19/06 B
B81C99/00
【請求項の数】23
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-224486(P2015-224486)
(22)【出願日】2015年11月17日
(65)【公開番号】特開2016-114597(P2016-114597A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2015年11月17日
(31)【優先権主張番号】14198634.9
(32)【優先日】2014年12月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ストランツル
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−107173(JP,A)
【文献】
特開2004−212346(JP,A)
【文献】
特開2001−296374(JP,A)
【文献】
特開平04−318491(JP,A)
【文献】
特開平02−140687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 19/04
B81C 99/00
G04B 19/06
G04B 37/22
G04B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基体を用意し、前記ベース基体上又は内にミクロ機械加工作業を行うことで構成要素の上部(2)を得て、前記上部(2)に前記上部(2)の厚みをプログラムされた模様で横断するマイクロメートルオーダーの構造の装飾(3)を施すステップと、
前記上部(2)の背面部を前記発光若しくは着色物質(4)でコーティングするステップとを含み、
前記着色物質が塗料又は着色ラッカーであることを特徴とする、計時器又は装身具用の装飾(3)が施された構成要素(1)の製造方法。
【請求項2】
前記ベース基体を用意した後に、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)でコーティングする前に、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記ベース基体上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分に金属を充填するステップと、
前記樹脂を全て除去し、前記装飾模様(3)が施された前記上部(2)を前記ベース基体から取り外すステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベース基体が金属材料から形成される又は半導体材料の導電性表面層を含み、前記装飾(3)が施された前記上部(2)が、前記ベース基体の表面からの前記樹脂の開放部における電鋳又は電気めっき作業により少なくとも1種の金属材料の成長を通じて作製されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記装飾(3)が施された前記上部(2)が形成されたら、前記樹脂の除去前又は除去後に前記ベース基体を機械加工又は選択的溶解作業により取り外す又は排除することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ベース基体が金属材料又は半導体材料又はセラミック材料又はアモルファス金属から形成され、前記ベース基体を用意した後、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)でコーティングする前に、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記ベース基体上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分で前記ベース基体を、前記装飾(3)を形成する前記上部(2)の厚さに対応する深さまでエッチングするステップと、
前記樹脂全て及び前記装飾(3)が施された前記上部(2)の下の前記ベース基体の部分を除去するステップとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ベース基体が半導体材料、例えばシリコンから形成され、前記ベース基体を用意した後、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)でコーティングする前に、
特定の厚さの酸化ケイ素層を前記シリコン基体上に形成するステップと、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記酸化ケイ素層上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分で前記酸化ケイ素層をエッチングするステップと、
前記樹脂を全て除去するステップと、
前記シリコン基体、エッチングマスクとして機能する前記構造化された酸化ケイ素層をエッチングすることで前記上部2を作製するステップとを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記装飾模様(3)をコンピュータで描き、保存した装飾模様のデータをミクロ機械加工マシンに送信することで前記装飾(3)が施された前記上部(2)を作製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記装飾模様(3)を、前記作製された構成要素(1)を備えた計時器又は装身具に独特なやり方で描くことで模造品作りを防止することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
装飾が施された前記上部(2)の少なくとも1つの背面部が前記発光又は着色物質(4)でコーティングされ、前記物質(4)が少なくとも部分的に前記装飾(3)の開口部に侵入することを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって製造された構成要素(1)。
【請求項10】
ベース基体を用意し、前記ベース基体上又は内にミクロ機械加工作業を行うことで構成要素の上部(2)を得て、前記上部(2)に前記上部(2)の厚みをプログラムされた模様で横断するマイクロメートルオーダーの構造の装飾(3)を施すステップと、
前記上部(2)を発光若しくは着色物質(4)上に固定する又は前記上部(2)の背面部を前記発光若しくは着色物質(4)でコーティングするステップとを含み、
前記ベース基体を用意した後に、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)で固定する又はコーティングする前に、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記ベース基体上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分に金属を充填するステップと、
前記樹脂を全て除去し、前記装飾模様(3)が施された前記上部(2)を前記ベース基体から取り外すステップとを含み、
前記ベース基体が金属材料から形成される又は半導体材料の導電性表面層を含み、前記装飾(3)が施された前記上部(2)が、前記ベース基体の表面からの前記樹脂の開放部における電鋳又は電気めっき作業により少なくとも1種の金属材料の成長を通じて作製され、そして
前記装飾(3)が施された前記上部(2)が形成されたら、前記樹脂の除去前又は除去後に前記ベース基体を機械加工又は選択的溶解作業により取り外す又は排除することを特徴とする、計時器又は装身具用の装飾(3)が施された構成要素(1)の製造方法。
【請求項11】
ベース基体を用意し、前記ベース基体上又は内にミクロ機械加工作業を行うことで構成要素の上部(2)を得て、前記上部(2)に前記上部(2)の厚みをプログラムされた模様で横断するマイクロメートルオーダーの構造の装飾(3)を施すステップと、
前記上部(2)を発光若しくは着色物質(4)上に固定する又は前記上部(2)の背面部を前記発光若しくは着色物質(4)でコーティングするステップとを含み、
前記装飾模様(3)を、前記作製された構成要素(1)を備えた計時器又は装身具に独特なやり方で描くことで模造品作りを防止することを特徴とする、計時器又は装身具用の装飾(3)が施された構成要素(1)の製造方法。
【請求項12】
前記ベース基体を用意した後に、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)で固定する又はコーティングする前に、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記ベース基体上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分に金属を充填するステップと、
前記樹脂を全て除去し、前記装飾模様(3)が施された前記上部(2)を前記ベース基体から取り外すステップとを含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ベース基体が金属材料から形成される又は半導体材料の導電性表面層を含み、前記装飾(3)が施された前記上部(2)が、前記ベース基体の表面からの前記樹脂の開放部における電鋳又は電気めっき作業により少なくとも1種の金属材料の成長を通じて作製されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記装飾(3)が施された前記上部(2)が形成されたら、前記樹脂の除去前又は除去後に前記ベース基体を機械加工又は選択的溶解作業により取り外す又は排除することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ベース基体が金属材料又は半導体材料又はセラミック材料又はアモルファス金属から形成され、前記ベース基体を用意した後、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)で固定又はコーティングする前に、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記ベース基体上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分で前記ベース基体を、前記装飾(3)を形成する前記上部(2)の厚さに対応する深さまでエッチングするステップと、
前記樹脂全て及び前記装飾(3)が施された前記上部(2)の下の前記ベース基体の部分を除去するステップとを含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記ベース基体が半導体材料、例えばシリコンから形成され、前記ベース基体を用意した後、前記上部(2)の背面を前記発光又は着色物質(4)で固定又コーティングする前に、
特定の厚さの酸化ケイ素層を前記シリコン基体上に形成するステップと、
ポジ型又はネガ型感光性樹脂の層を前記酸化ケイ素層上に堆積させるステップと、
前記上部(2)及び形成する前記装飾模様(3)の輪郭マスクを前記感光性樹脂上に置くステップと、
前記マスクを介して前記樹脂に光を照射するステップと、
前記感光性樹脂がポジ型ならば光が照射された樹脂部分を除去する、あるいは前記感光性樹脂がネガ型ならば光が照射されていない樹脂部分を除去するステップと、
前記樹脂から除去された部分で前記酸化ケイ素層をエッチングするステップと、
前記樹脂を全て除去するステップと、
前記シリコン基体、エッチングマスクとして機能する前記構造化された酸化ケイ素層をエッチングすることで前記上部2を作製するステップとを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記発光又は着色物質(4)をベース支持体(5)のハウジング(8)に堆積させ、また前記装飾(3)が施された前記上部(2)を前記ベース支持体(5)に固定することで前記発光又は着色物質(4)を堆積させた前記ハウジング(8)の開口部を覆うことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記上部(2)の概形が前記ベース支持体(5)の概形に似ており、前記ベース支持体(5)上に前記上部を固定することで構成要素(1)を得て、前記構成要素(1)が時計の針である、また前記物質(4)が発光物質であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記装飾を施す前記上部(2)の背面部を前記発光又は着色物質(4)でコーティングし、前記着色物質が塗料又は着色ラッカーであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記装飾模様(3)をコンピュータで描き、保存した装飾模様のデータをミクロ機械加工マシンに送信することで前記装飾(3)が施された前記上部(2)を作製することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項21】
その厚みを貫いて装飾(3)が施される上部(2)と、前記上部(2)の背面部に固定される発光又は着色物質(4)とを含むことを特徴とする、請求項11から20のいずれか一項に記載の製造方法にしたがって得られる装飾(3)が施された構成要素(1)。
【請求項22】
前記発光又は着色物質(4)がベース支持体(5)のハウジング(8)内にあり、また前記装飾(3)が施された前記上部(2)を前記ベース支持体(5)に固定することで前記発光又は着色物質(4)が入った前記ハウジング(8)の開口部を覆うことを特徴とする、請求項21に記載の構成要素(1)。
【請求項23】
装飾が施された前記上部(2)の少なくとも1つの背面部が前記発光又は着色物質(4)でコーティングされ、前記物質(4)が少なくとも部分的に前記装飾(3)の開口部に侵入することを特徴とする、請求項22に記載の構成要素(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器又は装身具用の装飾が施された少なくとも1つの構成要素の製造方法に関する。
【0002】
本発明は、本発明の製造方法にしたがって得られる、装飾が施された構成要素にも関する。
【背景技術】
【0003】
概して、計時器又は装身具用の構成要素に装飾を施すいずれの方法においても、その装飾を構築して微細な切り抜き透かし模様を入れる又はミクロ構造を得るのは困難である。また、装飾を施すための幾つかの作業は手動で行われる。これが同じ装飾をどの部品についても簡単に再現することを不可能にしており、これが短所となっている。
【0004】
特開昭60−17383号公報には、装飾を施した時計の文字盤の製造方法が記載されている。これを成し遂げるためには、文字盤の金属をベースとした基体に特定のパターンでエッチング又は機械的切断を行うことで窪みを形成する。形成された窪みに1種以上の塗料を入れることで時計の文字盤を装飾する。研磨作業により、装飾を施した文字盤に仕上げを施すこともできる。しかしながら、その文字盤上に微細な模様の装飾を施すことも不可能となり、これが短所となっている。
【0005】
時計に取り付けることを意図した1つ以上の装飾的部品の製造も従来技術で公知である。これらの装飾的部品は時計の一部上にはめ込まれた美的要素から成る。この時計の一部は、模様、例えば目盛りで飾られた時計のベゼルになり得る。例えばセラミック製のベゼルに金、銀又はプラチナでくっきりと、隆起した又は深彫りの印をつけ得る。深彫りの印は、支持体に事前に形成してある窪みを充填することで成し遂げられる。
【0006】
そのような深彫りの印の形成に用いられる原理は、まず物理気相堆積(PVD)により導電層を堆積させることから成る。導電層を堆積させたら、電鋳により、部品を金属イオン浴に沈め、浴に電流を流すことで窪みに金属を充填する。その結果、窪みに金属が充填され、印が形成される。しかしながら、この方法は複雑であり、時計の装飾的部品の製造の実施には比較的時間がかかる。これは幾つかの製造ステップが必要とされるからであり、これは短所である。さらに、ミクロ構造を得ることは意図されておらず、これが短所となっている。
【0007】
これに関しては欧州特許出願公開第2138323(A1)号明細書を参照し得て、この文献は目盛りが象眼された時計のベゼルに関する。しかしながら、上述したように、時計の構成要素を装飾するためにミクロ構造又は微細な透かし模様を簡単に形成することは意図されておらず、これが短所となっている。
【0008】
従来技術においては、例えばガラスから形成される要素がはめ込まれた、金属をベースとした基体から形成される装飾的部品の製造も公知である。これを成し遂げるためには、その要素を型に入れ、液状の金属を型内の要素に流し込む。金属が固化したら、装飾的要素を含むこの金属をベースとした基体上に研磨作業も行うことで要素周囲の余分な金属を除去しなくてはならない。しかしながら、ベース基体上に微細な装飾を施すことは不可能であり、さらに、装飾的要素が研磨後もベース基体に保持されているとは限らず、このことは短所となっている。
【0009】
米国特許出願公開第2003/0007425(A1)号明細書、スイス特許第155823号明細書、米国特許第5966344(A)号明細書及びスイス特許第314048号明細書には、時計の構成要素、例えば文字盤又は時計の針の製造が記載されている。構成要素のプレートに貫通孔を形成することで装飾要素又は時計の文字盤用の時間インジケータを画成する。これらの孔にも発光物質を充填する。しかしながら、ミクロ機械加工により微細な切り抜き透かし模様又はミクロ構造を形成して装飾を施すことは意図されておらず、これは短所である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−17383号公報
【特許文献2】欧州特許出願公開第2138323(A1)号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0007425(A1)号明細書
【特許文献4】スイス特許第155823号明細書
【特許文献5】米国特許第5966344(A)号明細書
【特許文献6】スイス特許第314048号明細書
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的は、上記の従来技術の短所を克服した、計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素の製造方法を提案することでそのような装飾が施された構成要素の製造及びその再現性又は特殊性を促進することである。
【0012】
これを目的として、本発明は計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素の製造方法に関し、構成要素は独立請求項1で定義される特徴を含む。
【0013】
装飾が施された構成要素の製造方法の特定のステップは、従属請求項2〜11に定義されている。
【0014】
装飾が施された構成要素の製造方法の1つの利点は、この方法ではミクロ機械加工作業を通じて構成要素の上部に、微細な透かし模様の形態で極めて微細な装飾模様を作り出せるという点にある。この装飾模様は上部の厚みを貫いて形成され、これによって、上部の背面部に置かれた発光物質を使用することで、この装飾は暗所でも見えるようになる。
【0015】
有利には、装飾模様をコンピュータで描く又はプログラムする。装飾模様に関する保存したデータをミクロ機械加工マシンに送ることで所望の装飾が施された上部を作製する。
【0016】
有利には、LIGAタイプの技術を用いて構成要素の上部を形成し得る。これを成し遂げるために、まず金属又は半導体の基体、例えばシリコンを用意し、その上に感光性樹脂を堆積させる。この樹脂に、上部に形成する模様を表すマスクを介して光を照射する。樹脂の開放部でガルバニック金属成長が起きる。その後、ベース基体を取り外して構成要素の上部を得る。所望の装飾模様が施されたこの上部を発光物質に固定する又はその背面をこの物質で着色若しくはコーティングする。
【0017】
有利には、DRIEエッチング技術を用いて半導体の基体(例えば、シリコン)上に装飾模様が施された構成要素の上部を形成することができる。
【0018】
これを目的として、本発明は、本発明の製造方法にしたがって得られる装飾が施された構成要素にも関し、この装飾が施された構成要素は独立請求項12に記載の特徴を含む。
【0019】
装飾が施された構成要素の具体的な実施形態は従属請求項13及び14で定義される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素の製造方法及び得られる装飾が施された構成要素の目的、利点及び特徴は、図面を参照しながら以下の説明でより明確となる。
【
図1】
図1a、
図1bは、本発明による構成要素の製造方法で得られる時計又は装身具用の構成要素の第1の実施形態の上面図及び簡略化断面図である。
【
図2】
図2a、
図2bは、本発明による構成要素の製造方法で得られる時計又は装身具用の構成要素の第2の実施形態の上面図及び簡略化断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の説明においては、時計又は装身具構成要素用に装飾模様を描くための最新技術で周知のいずれの技法にも簡略化した形でしか言及しない。装飾模様は微細な開口部又はマイクロメートルオーダーの開口部に関わり、これらの開口部は、ミクロ機械加工技法と定義される技法により構成要素の上部に形成される。
【0022】
図1a及び1bは、計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素1の第1の実施形態の上面図及び簡略化分解断面図である。
図1aは構成要素1の上部2を示す。上部2は、例えば1つ又は幾つかの像である装飾模様3を含む。この装飾はミクロ機械加工技法により得られ、例えば、後述するように、UV−LIGA又はDRIE技法になり得る。
【0023】
図1bでより明確に示されるように、装飾3は、上部2の材料を貫いて、マイクロメートルオーダーで精確且つ極めて微細に、プログラムされた所望の模様に形成される。装飾模様をまずコンピュータで描き又はプログラムし、保存した線画又は模様のデータをミクロ機械加工マシンに送信することで上部2に装飾を施す。装飾3の開口部又はミクロ開口部は
図1bに極めて簡略化した形で示されており、
図1aの所望の模様にそのままマッチするわけではない。
【0024】
この第1の実施形態においては、装飾3をミクロ機械加工してから上部2をベース支持体5に取り付ける。上部2を、取り付けのために、その軸方向開口部6を通してベース支持体の別の軸方向開口部7上で整列させる。ハウジング8もこのベース支持体5に形成され、発光物質4又は所望の塗料を充填する。発光物質はLuminovaとして知られる物質になり得て、所望の色に応じて主にアルミン酸ストロンチウム又は硫化亜鉛を含む。物質4を、ベース支持体5のハウジング8に、ハウジング8の開口部のレベルまで堆積させる。上部2をベース支持体5の上面に取り付けて物質4が充填されたハウジング8の開口部を覆ったら、構成要素1は完成である。
【0025】
図1a及び1bに示すように、作製する構成要素1は有利には時計の針になり得る。上部2の概形はベース支持体5の概形と似たものになり得る。開口部6、7の直径は実質的に同じであるため、例えば時計の文字盤から出ている駆動軸上に針を据えることができる。駆動軸は好ましくは開口部6、7の一方に取り付けられる。さらに、発光物質4が上部2の下に配置されて計時器又は装身具の外側から見える場合、上部に施される微細な装飾3は暗所でも極めてはっきり見える。
【0026】
当然のことながら、装飾が施された構成要素1は、アップリケ、文字盤、少なくとも1枚の日付ディスク又は例えばこのやり方で形成される星空の天球のディスプレイ用の複雑な構造体の他のディスクになり得る。装飾が施された構成要素は機械装置の部品、例えばセコンドホイール、回転錘又は他の部品にもなり得て、原則として、時計の外側から見えなくてはならない。
【0027】
装飾が施されたそのような構成要素1を模造品作りとの戦いに用いることもできることにも留意されたい。そのような場合は、各計時器又は装身具について独特のやり方で、構成要素1の上部2を貫通させて形成する各模様をコンピュータで描き、保存することができる。しかしながら、装飾3はマイクロメートルオーダーで精確に施されるため、これがいずれの模造品の作製をも困難にする。
【0028】
図2a及び2bは、計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素1の第2の実施形態の上面図及び簡略化断面図である。上と同様に、
図2aには装飾模様3を含む構成要素1の上部2が示されている。この装飾模様3は、例えば1つ又は幾つかの像である。この装飾はミクロ機械加工技法により得られ、例えば、後述するように、UV−LIGA又はDRIE法になり得る。
【0029】
図2bを参照するが、装飾3は、上部2の材料を貫いて、マイクロメートルオーダーで精確且つ極めて微細に形成され、微細な透かし模様を画成する。装飾3の模様をまずコンピュータで描き又はプログラムし、保存した線画又は模様のデータをミクロ機械加工マシンに送信することで上部2に装飾を施す。装飾3の開口部又はミクロ開口部は
図2bに極めて簡略化した形で示されており、
図2aの所望の模様にそのままマッチするわけではない。
【0030】
この第2の実施形態においては、装飾3をミクロ機械加工してから上部2の少なくとも1つの背面部を発光物質4又は着色物質、例えば塗料又は着色ラッカーでコーティングする。上部2の厚みを貫通する微細な開口部又はマイクロメートルオーダーの装飾的開口部を形成することで、形成される装飾3は透けているとみなされる。上部2の背面部にコーティングした物質は少なくとも部分的に、装飾3の開口部を侵入する。
【0031】
発光物質(Luminova)を使用する場合、この物質4は、特には暗所において、上部2の微細な開口部を通して下から装飾3を照らすことができる。上と同様に、針の形態の構成要素1の上部2にある軸方向開口部6が、針を、時計の文字盤から出ている駆動軸上に据え付けることを可能にする。
【0032】
上部2又は構成要素1の上部2の作製に使用するベース基体は金属、半導体、セラミック、アモルファス金属又は他の材料から形成され得る。セラミック材料については、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、チタン酸アルミニウム及び窒化アルミニウム又は他のタイプのセラミックに関わる。アモルファス金属、石英、ガラス、サファイア、コランダム又は別のタイプの貴石から形成される上部2又はベース基体を有することも可能である。
【0033】
構成要素1の上部2を作製するためのミクロ機械加工技法は、例えばLIGA法(ドイツ語でLithographie,Galvanofomung und Abformung)である。その場合、好ましくは半導体の基体、例えばシリコン、さらにはヒ化ガリウムであるベース基体を使用し、ベース基体は電鋳作業用に導電性の上層を有し得る。しかしながら、金属をベースとした基体(典型的には銅製)を用いることも可能であり、ベース基体の表面上に犠牲層を形成する必要を回避することができる。
【0034】
感光性樹脂を導電性表面層を備えたベース基体上に堆積させる。この感光性樹脂はポリイミドPMMA(ポリメチルメタクリレート)系樹脂又はShell Chemicalから製品番号SU−8で入手可能な八官能性エポキシ化樹脂及びトリアリールスルホニウム塩から選択される光開始剤になり得る。この樹脂は紫外線(UV)で光重合し得る。しかしながら、シンクロトロンで発生させたX線に感受性の樹脂を用いることも考えられる。ただし、この作業はベース基体上に上部2を作製するには高額になりすぎる。
【0035】
ベース基体上に形成する上部2及び装飾模様3の輪郭マスクを樹脂の上に置く。このマスクはガラスプレートになり得て、その上に、形成する模様に沿って不透明及び透明な部分でマスキング層が形成される。例えば紫外線タイプの光線をマスクに向け、樹脂のマスクされていない部分に光線を照射する。ネガ型感光性樹脂であるこのタイプの樹脂を使用する場合、照射されていない部分は物理的又は化学的な手段で除去することができる。これによって、その装飾3が施された上部2の形状が規定される。
【0036】
ポジ型感光性樹脂も、形成する模様に沿って不透明及び透明な部分を備えたマスキング層を有するマスクと共に、使用し得ることに留意されたい。このマスクは、ネガ型樹脂で使用するマスクを反転させたものである。この場合、除去されるのは樹脂の光が照射された部分である。
【0037】
その後、電鋳又は電気めっき作業を行う。少なくとも1種の金属材料を、ベース基体の表面に形成された導電層から樹脂の開放部分で成長させる。堆積させた金属層の厚さが十分なものになったら、上部2が所望の装飾模様3と共に形成され、樹脂も除去しながらベース基体から外すことができる。金属又は半導体をベースとした基体を、樹脂の除去前又は除去後に、機械加工作業又は選択的溶解作業により外してもよい又は排除してもよい。
【0038】
LIGA法で堆積させる金属材料はニッケル若しくはニッケルリン合金又は銅系合金、金、さらには鋼鉄になり得ることに留意されたい。原則として、この電鋳法で堆積できるいずれの金属又は合金も使用することができる。
【0039】
構成要素1の上部2を作製するための別の技法は、ベース基体を直接エッチングすることで上部を速やかに得ることから成る。ベース基体のエッチングはマイクロメカニカル機械加工作業である。DRIE法(深堀反応性イオンエッチング)を用いる。これを成し遂げるためには、ベース基体が原則として単結晶シリコン、多結晶シリコン、多孔質シリコン、アモルファスシリコン、ドープ単結晶シリコン、ドープ多結晶シリコン、ドープ又は非ドープ炭化ケイ素、ドープ又は非ドープ窒化ケイ素等の材料から形成されなくてはならず、あるいはヒ化ガリウムをベースとしなければならない。エッチング可能な他のタイプの材料には例えば石英、Foturanガラス及び脆性材料、例えばサファイア及びコランダムが含まれる。
【0040】
基体をエッチングするためには、最初にネガ型又はポジ型感光性樹脂をベース基体上に堆積させなくてはならず、形成する装飾模様3の輪郭及び形成する上部2の外縁を画成しているマスクを介してベース基体に照射を行う。使用する樹脂のタイプに応じて、光照射された樹脂を除去し、エッチング作業を基体の非被覆部で開始し得る。その後、全ての樹脂を除去することで、上部2に装飾模様3が施された構成要素1の上部2を得ることができる。
【0041】
実際には、構造化樹脂を使用することで酸化ケイ素マスクを得ることに留意されたい。この酸化ケイ素マスクを次に、DRIE法用のエッチングマスクとして使用する。これを成し遂げるために、DRIE法の第2の変化形においては、まずシリコンの基体を用意し、その上に特定の厚さの酸化ケイ素(SiO2)を形成する。次に、感光性樹脂を堆積させ、樹脂をフォトリソグラフィにより構造化する。樹脂の構造化の結果として酸化ケイ素層がエッチングされ、樹脂は続いて除去され、構造化された上方酸化ケイ素層を備えたシリコン基体が得られる。この構造化酸化ケイ素層が、上部2を作製するためのシリコンエッチング用のマスクとしての役割を果たす。
【0042】
これまでの説明から、当業者ならば、請求項によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、計時器又は装身具用の装飾が施された構成要素の製造方法及び得られる構成要素の幾つかの変化形を考案することができる。
【符号の説明】
【0043】
1:構成要素
2:上部
3:装飾模様
4:発光物質
5:ベース基体
6:軸方向開口部
7:軸方向開口部
8:ハウジング