特許第6133976号(P6133976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6133976
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】転炉スラグの処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/28 20060101AFI20170515BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20170515BHJP
   C04B 5/06 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C21C5/28 D
   C04B5/00 BZAB
   C04B5/00 C
   C04B5/06
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-516601(P2015-516601)
(86)(22)【出願日】2013年6月12日
(65)【公表番号】特表2015-526588(P2015-526588A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】EP2013062142
(87)【国際公開番号】WO2013186257
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年5月12日
(31)【優先権主張番号】1255477
(32)【優先日】2012年6月12日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506128396
【氏名又は名称】サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク(セ.エン.エル.エス.)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ポイエー
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム・テヴナン
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・プリジャン
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−054196(JP,A)
【文献】 特開昭53−127392(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101844753(CN,A)
【文献】 特開2007−217214(JP,A)
【文献】 ONO,Hitoshi et al.,Removal of Phosphorus from LD Converter Slag by Floating Separation of Dicalcium Silicate during Solidification,Transactions of the Iron and Steel Institute of Japan,日本,The Iron and Steel Institute of Japan,1981年,vol.21,No.2,pp135-144,ISSN:0021-1583
【文献】 尾野 均 他,2CaO・SiO2粒子の浮上分離現象を利用した転炉スラグの脱燐法,鉄と鋼,日本,日本鉄鋼協会,1980年 9月,第66巻、第9号,pp1317-1326,ISSN:00211575
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 5/28−5/50
C21C 7/04
C04B 5/00
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)転炉スラグを、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tから、1200℃から1400℃の間に含まれるプラトー温度Tまで冷却する段階であって、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度は、毎分10℃以下であり、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの最大冷却速度は、毎分20℃未満である段階、および次い
c)転炉スラグを、プラトー温度Tから、1200℃より低い最終温度Tまで冷却する段階であって、
その結果、30μmより大きい平均寸法を有するケイ酸石灰系相と、石灰フェライト系相とが形成される段階、
(d)冷却の後に得られた転炉スラグを粉砕する段階、
(e)ケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを分離する段階
を含み、
段階(a)の前に、または段階(a)、(b)(存在する場合)、もしくは(c)のいずれか1つの間に、(a)転炉スラグの質量に対して10質量%以下の質量割合で、転炉スラグにシリカ系材料を添加する段階、を含む、
転炉スラグを処理するための方法。
【請求項2】
段階(a)において、初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度が、毎分5℃未満である、請求項1に記載の転炉スラグを処理するための方法。
【請求項3】
初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度が、毎分1℃である、請求項2に記載の転炉スラグを処理するための方法。
【請求項4】
段階(a)の前に、転炉スラグを初期温度Tで1から48時間の期間維持する段階a)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の転炉スラグを処理するための方法。
【請求項5】
転炉スラグをプラトー温度Tで1から48時間の期間維持する段階(b)を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の転炉スラグを処理するための方法。
【請求項6】
シリカ系材料が、転炉スラグの質量に対して5質量%程度の質量割合で添加される、請求項に記載の転炉スラグを処理するための方法。
【請求項7】
段階(e)が、磁気分離プロセス、浸出によるもの、または浮選によるものである、請求項1からのいずれか一項に記載の転炉スラグを処理するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉スラグを処理するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性酸素転炉スラグ(BOFS)は、下記の「スラグ」としても知られており、製鋼プロセスに由来する、量の点で第2番目の副生成物であり、鋼1トンあたり約110kg生成される。欧州地域全体のスラグ堆積物は、プラントがすぐに入手可能な何百万トンもの量を構成し、フランスにおける公称年間生成量はおよそ1.2Mtにのぼり、そのうち50%超はまだ回収されていない状態である。欧州地域全体の転炉由来のスラグ堆積物は、プラントがすぐに入手可能な何百万トンもの量を構成し、そのうち50%超はまだ回収されていない状態である。
【0003】
転炉において鋳鉄を処理して鋼とした後、一般的なスラグは、通常、大きいタンクに注ぎ入れられ、そこで、散水によって冷却される。固化したスラグは、次いで、好適に寸法調整された生成物を得るために、ふるい分け施設へと輸送される。これらの施設は、鋳造プロセスの間にスラグ中に捕捉された金属粒子を最大量回収するために、磁気ソーティングシステムを備えている。
【0004】
この処理の完了後、脱金属されふるい分けされたスラグは、典型的に、土木部門において、盛り土および未舗装(non−covered)道路向けの低価値の骨材として回収される。実際のところ、スラグは、鋼生産プロセスにより課されるその遊離石灰の濃度に起因して、体積が不安定である。販売されるスラグの体積は、一般的に、生成される体積より少なく、その結果、国内在庫が形成される。フランスにおける現在の在庫レベルは、数百万トンに達しており、長年にわたり蓄積している。そのため、スラグの回収は、経済上および環境上の課題である。
【0005】
スラグは、40%から60%の石灰を含有し、これはケイ酸と結び付き、そのため、炭酸化されない。さらに、スラグはまだ、鋼生産プロセスにとって価値のある材料を含有する。欧州では、スラグは、金属鉄(1%から5%)、FeO(60%から70%)、およびFe(25%から30%)の間に分布した約15質量%から25質量%の元素鉄を含有する。この鉄は、鋼生産用原料として回収することができ、その結果、高炉(BF)スラグの組成調整材として使用される、鉄鉱石および石灰石の節減、ならびに製鋼プロセスのエネルギーおよびCOフットプリントの削減につながる。加えて、原料(入手可能性、質、価格)に関する現在の非常に緊迫した状況の結果、製鋼業において製鋼工場用の代替的な鉱石供給源を探すことが必要となる。したがって、製鋼業におけるスラグの鉄に富む相の回収は、有益な高い関心事である。
【0006】
スラグは、本質的に、寸法の小さい(平均寸法は20ミクロンμm程度であり、最大結晶の寸法は100μmより小さい)多相結晶から構成され、一方では鉄に富む相[石灰フェライト(lime ferrite)およびマグネシアフェライト]、および他方ではシリカに富む相[ケイ酸石灰(lime silicate)]を、同様の割合で有する。これらの2種の相はいずれも、リン(一般的に、酸化リンPの形態の)をランダムな分布で含む。典型的に、スラグは、1質量%から3質量%程度のPを含有する。
【0007】
鉄鋼業において使用される出発材料としてスラグを再生利用するために、克服すべき2つの問題が存在する:一方では鉄に富む相を単離するためのスラグの鉱物相の分離、および他方ではスラグの鉱物相におけるリンの存在であり、リンは、製鋼プロセスにおいて望ましくないものである。
【0008】
第1に、スラグの再生利用は、スラグが含有するその鉱物相の分離を必要とする。現在使用されている粉砕技術がスラグの粉砕を可能にすることは、極めて確かであるが、しかしながら、粉砕は選択的ではなく、その理由は、その後に、鉄に富む相(石灰フェライト)をシリカに富む相(ケイ酸石灰)から分離することを可能にしないからである。
【0009】
さらに、鋼生産における転炉スラグの主要な役割の1つは、リンを鋳鉄から取り出すことである。直接的なスラグのリサイクルプロセスの場合、転炉から取り除かれたリンは、高炉に再注入されて戻り、このことは、特に、リン含有量が極度に低い鋼が好都合である生産プロセスに関連して、現時点におけるこの実施の有用性を厳しく制限する。
【0010】
これらの欠点は、欧州におけるスラグリサイクル率の低さを説明するものであり、それは、40%から0%までの幅がある。したがって、スラグは、鉄鋼業以外の市場において回収されなければならない。これらの市場への参入は、やはり、地域の状況に大きく依存し、それは特に、スラグの低い付加価値および著しい輸送コストに起因する。世界中の多数の研究プロジェクトが、スラグの新たな再生利用ルートを調査しているが、ほとんどの場合において、鉄の価値が失われるか、またはさらには存在する他の鉱物の価値を弱めてしまう。
【0011】
現時点までのところ、転炉スラグ中に存在する鉱物を分離するために設計されたすべての手法は、高温冶金プロセスに基づいている。既存の方法には、2つの大きな不利な点がある:
− 第1に、これらの方法は、スラグの再溶融および炭素による酸化鉄の還元を必要とし、これは、エネルギーコストおよび結果としてのかなりのCO排出量への影響に相当し、
− その次に、スラグ中に存在するリンもまた、還元されて鋳鉄に戻り、その結果、現在の製鋼プロセスでは使用できない含リン鋳鉄をもたらす。
【0012】
たとえば、スラグの処理のために最も頻繁に使用されるプロセスの1つは、ZEWA法(ZEro WAste(廃棄物ゼロ) − Siemens−Voest Alpine Industries社)であり、これは、スラグを1600℃で再溶融すること、および次いで、酸化鉄を鉄に還元するための還元系として炭素を添加することを含む(Borleeら、the Revue de Metallurgie. Cahiers d’Informations Techniques CIT / Metallurgical Research & Technology Journal、2005年1月、59〜67頁)。このプロセスは、CO排出物を発生させ、これはまさに、現在回避しようとされているものである。加えて、処理の間に、スラグ中に存在するPもまた、リンに還元され、大部分が(80%より多く)鉄富化相に移行し、このことは、上記で説明した通り、製鋼業における最終的なこの相の使用に弊害をもたらす。そのため、後続の脱リン段階が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Borleeら、the Revue de Metallurgie. Cahiers d’Informations Techniques CIT / Metallurgical Research & Technology Journal、2005年1月、59〜67頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そのため、これらの不利な点を示さない、代替的なスラグの処理方法を提供することが必要である。特に、製鋼業における原料として再使用できるようにするために、リンがわずかに混入したスラグから鉄に富む相を単離することを可能にする、転炉スラグの処理方法の開発である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これを達成するため、本発明の目的は、
(a)転炉スラグを、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tから、1200℃から1400℃の間に含まれるプラトー温度Tまで冷却する段階であって、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度は、毎分10℃以下であり、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの最大冷却速度は、毎分20℃未満である
ことが理解される段階、および次いで
(b)場合により、転炉スラグをプラトー温度Tで1から48時間の期間維持する段階、および次いで
(c)転炉スラグを、プラトー温度Tから、1200℃より低い最終温度Tまで冷却する段階であって、
その結果、30μmより大きい平均寸法を有するケイ酸石灰系相と、石灰フェライト系相とが形成される段階、
(d)冷却の後に得られた転炉スラグを粉砕する段階、
(e)ケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを分離する段階
を含む、転炉スラグを処理するための方法に関する。
【0016】
定義
「初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度」という表現は、スラグが初期温度からプラトー温度Tまで移行する時間(分)に対するTとTの間の差(℃)の比率を指す。
【0017】
「初期温度Tからプラトー温度Tまでの最大冷却速度は、毎分20℃未満である」という表現は、TからTまでの冷却の間のいずれの時点においても、冷却速度が毎分20℃を超えないことを示すのに使用される。
【0018】
本特許出願においては、いずれの冷却速度も(平均冷却速度および最大冷却速度)、スラグのすべての箇所におけるすべての冷却速度の平均であると理解される。
【0019】
実際、いくつかの実施形態では、特に、本発明による方法において使用されるスラグの質量が小さい場合、温度は、プロセスに供されているスラグの全体にわたり均質であり、すべての時点で、スラグの冷却速度は、スラグのすべての箇所において同じである。
【0020】
対照的に、著しい質量のスラグが本発明による方法において使用される場合、これは、一般的に工業用途において当てはまるが、時間tにおいて、温度は、スラグの箇所ごとに異なる場合があり、冷却速度は、スラグの箇所ごとに異なる場合がある。例示として、本方法が、段階(b)を含まない、ならびに段階(a)および(c)が、転炉由来のスラグ産物を、その壁が断熱されている容器に入れることにより行われる、実施形態(下記)では、容器の中心部のスラグが、容器の壁近くのスラグより高い温度を有すること、および容器の壁近くのスラグの冷却速度が、容器の中心部のスラグの冷却速度より速いことは明らかである。したがって、本特許出願との関連において、いずれの冷却速度も(平均冷却速度および最大冷却速度)、スラグのすべての箇所におけるすべての冷却速度の平均であると理解される。
【0021】
本特許出願においては、「ケイ酸石灰系相」という用語は、ケイ酸石灰を主に含むが、他の化合物が含まれていてもよい、鉱物相を指す。「大部分が」という用語は、ケイ酸石灰の質量割合が、この相における他のいずれの化合物の質量割合よりも大きいことを示す。典型的に、本発明による方法は、15質量%より多い、またはさらには30質量%より多いSiOと、50質量%より多い、またはさらには60質量%より多いCaOとを含む、ケイ酸石灰系相を調製することを可能にする。本発明による方法により得られるケイ酸石灰系の相および鉱物は、一般的に、エーライト相[C3S − (CaO)(SiO)]および/またはビーライト相[C2S − (CaO)(SiO)]であり、大部分が、C2S相である(その理由は、一般的に、冷却の間に形成されるC3S相が、低温でC2S相および石灰に分解されるからである)。
【0022】
同様に、「石灰フェライト系相」という用語は、石灰フェライトを主に含むが、他の化合物が含まれていてもよい、鉱物相を指す。「大部分が」という用語は、石灰フェライトの質量割合が、この相における他のいずれの化合物の質量割合よりも大きいことを示す。典型的に、本発明による方法は、30質量%より多い、またはさらには40質量%より多いCaOと、30質量%より多い、またはさらには38質量%より多いFeとを含む、石灰フェライト系相を調製することを可能にする。
【0023】
各相における化合物の質量割合は、たとえば、元素分析によりまたはエネルギー分光法(エネルギー分散分光分析EDS)により決定することができる。
【0024】
本発明による方法により得られる鉱物および鉱物相は、一般的に、球状ではない。ケイ酸石灰系相は、一般的に、「楕円形」またはデンドライト状の形態を有する。したがって、本特許出願において、鉱物または鉱物相の寸法は、平均寸法である。鉱物相の平均寸法は通常、測定スケールを含む二次元(2D)の顕微鏡画像(断面の)から得られる、統計的寸法測定のプロセスにより測定される。鉱物相の平均寸法の測定は、以下の場合、より正確である:
− 多数の画像、ひいては、多数の結晶粒に対して実施される場合(これは、サンプリングおよび実施された測定の数に依存する統計的測定である)、
− 観察された相間のコントラストが顕著である場合、および
− 相が分かれており別個である場合。
【0025】
2D画像用ソフトウェアアプリケーション(たとえばImageJ)による分析は、多数のデータを処理し、以下の変数:表面積、寸法、数を平均値および標準偏差で統計的に決定することを可能にする。そのようなデータ処理手法の利点は、その迅速性および代表性である。
【0026】
段階(a)から(c):冷却
本発明による方法は、冷却の段階(a)および(c)、ならびに場合により、プラトー温度Tでの温度プラトーの維持に相当する段階(b)を含む。
【0027】
本発明による方法の段階(a)から(c)は、スラグを、1500℃から1600℃の間の初期温度Tから、1200℃未満の最終温度Tまで冷却することを可能にする。
【0028】
1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tは、転炉の出口における温度に相当する。有利なことに、本発明による方法は、鋼の形成の直後に実施することができる。その場合、スラグは、既に1500℃から1600℃の間の温度にあり、そのため、本方法は、スラグをこの温度まで加熱する事前段階を必ずしも必要としない。他方で、当初別の温度にあるスラグ(たとえば、室温にある貯蔵スラグ)に本方法を適用する場合、スラグを1500℃から1600℃の間の初期温度まで加熱する予備段階が必要である。
【0029】
最終温度Tは、1200℃未満の温度である。典型的に、最終温度Tは、室温(25℃程度)である。本発明による方法において、プラトー温度から最終温度Tの間の冷却速度は、あらゆる任意の速度である。実際、本発明は、粉砕により相互に分離することが可能な、30μmより大きい平均寸法を有するケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを形成することだけでなく、スラグ中に存在する酸化リンが、確実に、非常に大部分がケイ酸石灰系相に移行し、石灰フェライト系相には移行しないようにすることをも可能にするのは、初期温度Tからプラトー温度Tの間の冷却速度の制御であるという発見に基づく。
【0030】
したがって、本発明による方法の段階(a)、場合により(b)、および(c)は、有利なことに、別個の鉱物相:
− 石灰フェライト系相の鉱物相、
− 30μmより大きい、好ましくは50μmより大きい、特に30μmから100μmの間に含まれる、典型的には50μmから100μmの間の平均寸法を有するケイ酸石灰系相(主にC2S)の鉱物相、を得ることを可能にする。これらの寸法は、ケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを、粉砕後に確実に分離できるようにするために特に好適である。
【0031】
石灰フェライト系相およびケイ酸石灰系相は、相の大半であるが、段階(c)の終わりに得られた冷却されたスラグは、他の相、たとえば、マグネシアフェライト系相、マグネシア系相を含む。
【0032】
特定の理論に拘泥するつもりはないが、段階(a)から(c)の具体的な条件において、一方では石灰フェライト系相が、および他方では30μmより大きい寸法を有するケイ酸石灰系相が形成することは、以下のように説明することができる。1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度では、媒体は、本質的に液相である。この液相内において、C3Sの結晶は、最終的に1500℃付近で出現し、C2Sの結晶は、1450℃付近で出現し、その結果、ケイ酸石灰系相を形成する。石灰フェライト系相の結晶は、1300℃程度から約1050℃までの温度で出現する。したがって、段階(a)のTからTの間の平均冷却速度が遅い(すなわち、10℃/分以下である)と、ケイ酸石灰系結晶の発生および成長、ひいては、30μmより大きい寸法を有するケイ酸石灰系相を得ることが促進される。
【0033】
さらに、段階(a)、場合により(b)、および(c)は、酸化リンをほとんど含まない石灰フェライト系相を得ることを可能にする。より詳細には、石灰フェライト系相における酸化リンの質量割合は、EDS微量分析(エネルギー分散X線分析)によるリンの検出限界を下回る、すなわち、0.5質量%より少ない。
【0034】
石灰フェライト系相のリン含有量が低いことは、本発明による方法に由来する石灰フェライト系相の、鋼生産に関連する回収および改良のための必要条件である。そのため、有利なことに、本発明による方法は、鋼生産における再使用の前に、石灰フェライト系相を脱リンする後続段階を必要としない。
【0035】
実際、段階(a)、場合により(b)、および(c)の間に、酸化リンは、主としてケイ酸石灰系相に移行する。固体の核磁気共鳴(NMR)によっておよび得られたX線を用いた回折により得られた結果に基づけば、ケイ酸石灰系相の固化の間に、リン酸石灰の形態のリンは、C2S相と結び付く。一般的に、本方法により得られるケイ酸石灰系相は、3質量%から7質量%の間のPを含む。
【0036】
各相において、Pの質量割合は、たとえば、元素分析によりまたはエネルギー分光法(エネルギー分散分光分析EDS)により決定することができる。
【0037】
本発明による方法の一実施形態では、段階(a)において、初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度は、毎分5℃未満である。初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度は、特に、毎分1℃程度であってもよい。
【0038】
好ましくは、本発明による方法の段階(a)において、初期温度Tからプラトー温度Tまでの最大冷却速度は、毎分15℃未満である。
【0039】
実際、そのような平均および最大冷却速度は、大きい寸法のケイ酸石灰系相を得るため、ひいては、後続のケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相との分離を容易にするために、特に好適である。
【0040】
本発明による方法は、スラグを、1200℃から1400℃の間に含まれる、好ましくは1300℃程度のプラトー温度Tで、温度プラトーに維持する段階に相当する段階(b)を含むかまたは含まないかのいずれかである。
【0041】
第1の代替法によれば、本発明による方法は、転炉スラグをプラトー温度Tで1から48時間、特に12から36時間、特に24時間程度の期間維持する段階(b)を含む。
【0042】
段階(b)の存在は、有利なことに、より大きい寸法のケイ酸石灰系相を得ること、ひいては、後続のケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相との分離を容易にすることを可能にする。何らかの特定の理論に拘泥するつもりはないが、スラグをプラトー温度Tで、すなわち、石灰フェライト系相の結晶が出現する温度より高いかまたはその程度の温度で維持するこの段階(b)は、ケイ酸石灰系相の結晶の発生および成長を、それを石灰フェライト系結晶の形成との競合下に置くことなく促進するだろう。そのため、ケイ酸石灰系相は、より大きい寸法を有するだろう。
【0043】
温度プラトーの持続時間(段階(b)の持続時間)の延長は、一般的に、ケイ酸石灰系相の寸法の増大を可能にする。24時間程度の温度プラトー持続時間が好ましい。
【0044】
この場合、スラグをプラトー温度で維持する段階は、工業規模で実施することが困難かつ高コストとなる場合がある。典型的に、本方法を工業規模で実施するためには、冷却の段階(a)から(c)は、以下により行われる:
− スラグ(一般的に、転炉に直接由来する)を初期温度Tで容器に注ぎ入れ、容器は、たとえばバーナーによって、初期温度Tまで予め加熱されていてもよく、その壁は、たとえば、以下のような耐火断熱材の層を含む壁で断熱され:
− 耐火断熱コンクリートまたは耐火断熱練り土製の壁、
− 耐火断熱材の層により外部から熱的に遮断された金属壁(たとえば鋳鉄製のもの)
を用いて断熱され、
− および次いで、本発明による方法の段階(a)に規定されたものに準じた平均および最大冷却速度で、スラグを冷却させる。
【0045】
典型的に、コストを最小化するために、スラグを注ぎ入れた後、それを含有する容器は、加熱も冷却もされない(当然のことながら、容器の外壁と周囲空気との接触を除く)。そのため、これらの条件下においては、スラグをプラトー温度で維持する段階は、一般的に回避される。
【0046】
したがって、第2の代替法によれば、本発明による方法は、段階(b)を含まない。この代替法の好ましい実施形態では、プラトー温度は、1200℃程度である。この実施形態では、本発明による方法は、結果的に
(α)転炉スラグを、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tから、1200℃未満の最終温度Tまで冷却する段階であって、
− 初期温度Tから1200℃までの平均冷却速度は、毎分10℃以下であり、
− 初期温度から1200℃までの最大冷却速度は、毎分20℃未満である
ことが理解され、
その結果、30μmより大きい平均寸法を有するケイ酸石灰系相と、石灰フェライト系相とが形成される段階、
(d)冷却の後に得られたスラグを粉砕する段階、
(e)ケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを分離する段階
を含む。段階(α)は、上記で規定された後続段階(a)および(c)に相当する。
【0047】
加えて、本発明による方法はまた、段階(a)の前に、転炉スラグを初期温度Tで1から48時間、特に1から24時間、たとえば5時間程度の期間維持する段階(a)を含んでもよい。
【0048】
さらに、本発明による方法はまた、段階(a)の前に、または段階(a)、(b)(存在する場合)、もしくは(c)のいずれか1つの間に、スラグにシリカ系材料を添加する段階(a)を含んでもよい。シリカ系材料は、典型的に、シリカまたはカレットである。一般的に、シリカ系材料は、転炉スラグの質量に対して10質量%以下、たとえば5質量%程度の質量割合で添加される。
【0049】
シリカ系材料は、段階(a)の前に、または段階(a)、(b)(存在する場合)、もしくは(c)の1つの間に、好ましくは、段階(a)の前に、または段階(a)もしくは(b)(存在する場合)の1つの間に添加される。それは、好ましくは、初期温度から1200℃の間の温度で添加される。段階(b)が存在しない場合、段階(a)は、上記で規定された段階(α)の前または間に行われてもよい。
【0050】
シリカ系材料の添加は、有利なことに、ケイ酸石灰系相の寸法の増大を助ける。したがって、段階(a)の、冷却時間(段階(a)、場合により(b)、および(c))の持続時間)を短縮し、および/または温度プラトー維持の段階(b)を回避しつつ、同様の寸法のケイ酸石灰系相を得ることが可能である。したがって、この実施形態は、段階(b)(温度プラトー維持)の実施が複雑である、工業用途に特に好適である。
【0051】
10質量%以下、たとえば5質量%の割合は、ケイ酸石灰系相の寸法を増大させるために特に好適である。10質量%を超えると、平均寸法の小さい大量のケイ酸石灰系相の出現が観察される場合があり、それにより、後続のケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相との分離が困難になる。
【0052】
何らかの特定の理論に拘泥するつもりはないが、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度で存在する液相内において、ケイ酸石灰系鉱物相が最初に形成される。この鉱物相の結晶の発生および成長は、特に媒体の冷却速度に依存するが、媒体の化学組成、特にそのシリカ含有量にも依存する。シリカ系材料の添加は、媒体のシリカ含有量の増加につながり、ケイ酸石灰系相の結晶の発生および成長を促進させ、ひいては、好適な寸法の結晶をより迅速に得ることを可能にするだろう。したがって、本方法の実施において使用されるスラグの組成(特にその初期シリカ含有量)に応じて、当業者は、適切な寸法の結晶をより迅速に得るために、(10質量%以下の割合で)添加すべきシリカの質量割合を調整することができる。
【0053】
場合によるシリカ系材料の添加は別として、本発明による方法は、有利なことに、スラグへの化学構成成分の添加を必要としない。特に、本方法は、還元剤(たとえば炭素)を添加するいかなる段階をも含まず、このことは、ほとんどの公知のスラグ処理加工法、たとえばZEWA法に対する利点である。
【0054】
上記の実施形態を相互に組み合わせてもよいことは、極めて明らかである。
【0055】
たとえば、本発明による方法は、
(a)転炉スラグを、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tで、1から48時間の期間維持する段階、次いで
(a)転炉スラグを、初期温度Tから、1200℃から1400℃の間に含まれるプラトー温度Tまで冷却する段階であって、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度は、毎分5℃未満、好ましくは毎分1℃程度であり、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの最大冷却速度は、毎分20℃未満、好ましくは毎分15℃未満である
ことが理解される段階、および次いで
(b)場合により、転炉スラグをプラトー温度Tで1から48時間の期間維持する段階、および次いで
(c)転炉スラグを、プラトー温度Tから、1200℃より低い最終温度Tまで冷却する段階、
(a)段階(a)の前に、または段階(a)、(b)、もしくは(c)のいずれか1つの間に、スラグにシリカ系材料を添加する段階、
続いて、段階(d)および(e)を含んでもよい。
【0056】
本発明による方法は、特に、
(a)転炉スラグを、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tで、4から6時間、たとえば5時間程度の期間維持する段階、および次いで
(a)転炉スラグを、初期温度Tから、1300℃程度のプラトー温度Tまで冷却する段階であって、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの平均冷却速度は、毎分5℃未満、好ましくは毎分1℃程度であり、
− 初期温度Tからプラトー温度Tまでの最大冷却速度は、毎分20℃未満、好ましくは毎分15℃未満である
ことが理解される段階、および次いで
(b)場合により、転炉スラグをプラトー温度Tで1から48時間の期間維持する段階、および次いで
(c)転炉スラグを、プラトー温度Tから、1200℃より低い最終温度Tまで冷却する段階、
(a)段階(a)の前に、または段階(a)、(b)、もしくは(c)のいずれか1つの間に、転炉スラグにシリカ系材料を転炉スラグの質量に対して10質量%以下の質量割合で添加する段階、
続いて、段階(d)および(e)を含んでもよい。
【0057】
本発明による方法は、特に、
(α)転炉スラグを、1500℃から1600℃の間に含まれる初期温度Tから、1200℃未満の最終温度Tまで冷却する段階であって、
− 初期温度Tから1200℃までの平均冷却速度は、毎分10℃以下であり、
− 初期温度から1200℃までの最大冷却速度は、毎分20℃未満、好ましくは毎分15℃未満である
ことが理解される段階、
(a)段階(α)の前に、または段階(α)の間に、スラグにシリカ系材料を添加する段階、
続いて、段階(d)および(e)を含んでもよい。
【0058】
段階(d)および(e):粉砕および分離
本発明による方法は、段階(a)から(c)の終わりに得られた冷却されたスラグを粉砕する段階を含む。段階(a)から(c)の終わりに得られたスラグのケイ酸石灰系相が、30μmより大きい、好ましくは50μmより大きい寸法を有する場合、粉砕により、スラグの鉱物相を分離すること、特に、ケイ酸石灰系相を石灰フェライト系相から分離することが可能になる。
【0059】
この粉砕は、任意の公知の方法により、特に、段階的破砕(たとえば、ハンマーを用いた)により、または連続粉砕(たとえば、粉砕ローラ、ジョー、またはコーンによる)により実行してもよい。
【0060】
粉砕は、ケイ酸石灰系鉱物相と石灰フェライト系鉱物相との切り離しを可能にする。所望の粒径を有する鉱物(スラグの鉱物相に由来する)を得るために使用すべき方法および条件は、当業者に知られている。
【0061】
段階(d)の終わりに、ケイ酸石灰系鉱物(ケイ酸石灰系相に由来する)と、石灰フェライト系鉱物(石灰フェライト系相に由来する)とを含む、鉱物の混合物が得られる。本方法はまた、ケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを分離する段階(e)も含む。この分離は、磁気プロセスによるもの、浸出によるもの、または浮選によるものであってもよい。磁気分離が好ましく、その理由は、石灰フェライト系相を引き付ける磁石を用いて、非常に容易に実施できるからである。
【0062】
段階(d)および(e)は、場合により、本方法において繰り返されてもよい。たとえば、本方法は、段階的破砕(たとえば、ハンマーを用いた)により粉砕する第1の段階(d)、続いて、磁気分離の第1の段階(e)、続いて、連続粉砕(たとえば、粉砕ローラ、ジョー、またはコーンによる)の第2の段階(d)、続いて、磁気分離の第2の段階(e)を含んでもよい。
【0063】
当然のことながら、一般的に、本方法は、段階(e)の後に、石灰フェライト系相および/またはケイ酸石灰系相を回収する段階(f)を含む。
【0064】
本方法により得られる石灰フェライト系相およびケイ酸石灰系相の使用
上記で説明した通り、石灰フェライト系相は、有利なことに、いかなる事前の脱リン段階をも必要とせず、鋼生産における原料として使用することができる。
【0065】
ケイ酸石灰系鉱物はまた、特に以下のものとして再生利用することもできる。
1)水硬性道路結合剤(road binder)(HRB)またはコンクリート用添加剤として
未加工の製鋼所スラグは、規格EN−13282(2010)において、HRBを構成しうる要素として規定されている。
コンクリートについては、達成すべき性能レベルは、規格EN−206(2004)に収載されている。その場合、スラグは、高いコストおよびCOへの影響を有する従来のセメントの代替物として働く。
2)リン酸肥料。
未加工スラグは、NPK0−3−0肥料であると考えられ、これは、最も低いクラスである。それはまた、肥料および土壌改良材に関する規則EC889/2008による生物肥料としても適格である。
上記で説明した通り、本発明による方法において、スラグ由来のリンは、非常に大部分が、本発明による方法に由来するケイ酸石灰系鉱物に移行する。そのため、本方法に由来するケイ酸石灰系鉱物は、著しい割合のリン(酸化リンPの形態の)を含み、このことは、リン酸肥料としてのその使用に有利である。
3)超微細カーボネート。
本方法に由来するケイ酸石灰系鉱物は、コンクリート配合物用の微小結晶粒径の補完物(complement)のような、有用な超微細カーボネートとして使用することができる。達成すべき性能レベルは、規格EN206(2004)に規定されている。
【0066】
本発明による方法は、添付の図面および下記に続く実施例に例示される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】試験2の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図2】試験1の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図3】試験6の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図4】試験3の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図5】試験8の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図6】試験7の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図7】試験3の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図8】試験1の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図9】試験5の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図10】試験7の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図11】試験4の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図12】試験5の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図13】試験9の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図14】試験10の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図15】試験11の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。
図16】試験9の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図17】試験10の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図18】試験11の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図19】試験12の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後に得られたスラグの顕微鏡写真である。冷却されたスラグの様々な異なる相における成分の質量割合を示す図である。
図20】ケイ酸石灰系相の寸法を、値1が試験1のケイ酸石灰系相の平均寸法に相当する任意単位を用い、試験された2通りの冷却速度(1℃または10℃/分)において1、5、または24時間の段階b)(温度プラトー)の持続時間で、プラトー温度Tの関数として示す図である。
図21】試験9の条件下における冷却の段階(a)から(c)の後、および乳鉢での粉砕後に得られた冷却されたスラグの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下の実施例では、Fos sur Mer一貫型(integrated)酸素転炉(ArcelorMittal社)に由来する未加工スラグを、出発材料として使用した。
【0069】
スラグを白金るつぼに入れ、次いで、これをNabertherm社の円形ベル型炉内に設置した。すべての試料を、1600℃または1500℃の初期温度Tまで加熱し(Tが1600℃の場合5時間20分で、またはTが1500℃の場合5時間で、20℃からの加熱)、次いで、この温度を5時間維持し(段階(a))、その後、下記の実施例に記載された条件において冷却した(段階(a)、(b)、および(c))。実施された実施例では、冷却速度は、炉により課され、すべての時点で一定であった。したがって、平均速度は、いずれの時点においても実際の冷却速度に相当する。
【0070】
すべての試験について、各冷却段階の後に、固化した試料を白金るつぼから取り出した。X線装置:Bruker社のD8 Advance X線回折計を用いたX線回折によって分析するために、一部を回収して乳鉢で粉砕し、光学顕微鏡およびHitachi社のS−4500 FEGSEM電界放出走査型電子顕微鏡を使用した観察[Si(Li)検出器を備えたOxford Instruments社のISIS300システムを用いたEDSによる化学分析も用いる]を実施するために、大きい小片をコーティングして研磨した。顕微鏡検査によって得られた画像の分析を、ImageJソフトウェア[国立衛生研究所(米国)を起源とする−画像分析プログラム]を用いて実施して、ケイ酸石灰系相の寸法を決定した。
【0071】
本方法の条件がケイ酸石灰系相の平均寸法に及ぼす影響を調査するために、
− 2通りの異なる初期温度Tである1600℃または1500℃について試験し、
− 3通りの異なるプラトー温度T
− C3SおよびC2Sが結晶化する領域に相当する温度である1400℃、
− C2Sが形成し、C3SからC2Sにおよび石灰に分解する領域に相当する1300℃、ならびに
− ケイ酸石灰の結晶化の終わりにほぼ相当する1200℃
について試験し、
− 3通りの段階(b)の温度プラトーの持続時間:1時間、5時間、および24時間について試験し、
− 2通りの平均冷却速度:1℃/分および10℃/分について試験し、
− 熱処理の前に(段階aの前に)、スラグの質量に対して5質量%または10質量%の質量割合でシリカを添加したものまたは添加していないものについて試験した
【0072】
したがって、以下の試験を実施した。
【0073】
【表1】
【0074】
からTの間の冷却速度がケイ酸石灰系相の寸法に与える影響
それぞれ図1図2図3図4、および図5図6の比較により、TからTの間の冷却速度が1℃/分の場合、ケイ酸石灰系相(濃い灰色の領域)の寸法は、速度が10℃/分の場合よりはるかに大きいことが示される。
【0075】
プラトー温度Tがケイ酸石灰系相の寸法に与える影響
図1図3および図5図2図4および図6との比較により、同一の冷却速度において、ケイ酸石灰系相の寸法は、試験されたすべてのプラトー温度T(1200℃、1300℃、および1400℃)の場合で同様であり、1300℃でわずかに大きい寸法であることが示される。
【0076】
からTの間の冷却速度およびプラトー温度Tが冷却されたスラグの化学組成および異なる鉱物相の化学組成に与える影響
Table 2(表2)は、図1から図6に表された顕微鏡写真のそれぞれに対して実施された、全体の元素分析(すなわち、すべての相にわたるものであって、ある特定の相についてのものではない)の結果を示す。含有量は同等であり、スラグ試料が試験ごとに異なることに起因して、シリカ、石灰、および酸化鉄の量について、わずかに有意な変動がある。
【0077】
【表2】
【0078】
図7は、試験3の間に得られた試料の、より高倍率の顕微鏡写真を示す。EDS分析を、各相に対し、それらの組成を決定するために実施した。
色の濃い領域は、ほとんどは酸化マグネシウムに相当し、若干の酸化鉄を含む。これらは、ペリクレース型相である。
灰色の領域は、ケイ酸石灰系相に相当する。これらは、C2S相である。リンは、この相に存在する(酸化リンの形態で)。
最後に、白色の領域は、石灰フェライト系相に相当し、これは、石灰フェライトに加えて、少量のシリカ、アルミナ、酸化マンガン、ならびに微量の酸化マグネシウムおよび酸化チタンを含む。
【0079】
その他の試験の試料については、観察された領域は同様であり、図8図9、および図10に示したように、同等の組成を有する。より一般的には、異なる試料に対して実施されたEDS分析によれば、全体またはスポットの化学組成(すなわち、ある特定の鉱物相に相当する領域にわたるもの)の差は観察されなかった。
【0080】
試料のX線ディフラクトグラムは、試料中に存在する主要な相は、スレボロドルスカイト(srebrodolskite)、マグネタイト、ウォラストナイト、ペリクレース、エンスタタイト、および少量の酸化鉄を含有する酸化マンガン相であることを示す。
【0081】
段階(b)(温度プラトー)の持続時間がケイ酸石灰系相の寸法に与える影響
図11図12との比較により、再結晶温度プラトー時間が24時間の場合、ケイ酸石灰系相は、再結晶温度プラトー時間が5時間の場合より大きい寸法を有することが示される。対照的に、これらの相の寸法は、温度プラトー時間が1から5時間の場合で同様である(図4図11との比較)。
【0082】
図20は、ケイ酸石灰系相の寸法を、値1が試験1のケイ酸石灰系相の平均寸法に相当する任意単位を用い、試験された2通りの冷却速度(1℃または10℃/分)において1、5、または24時間の段階(b)(温度プラトー)の持続時間で、プラトー温度Tの関数として示す。
【0083】
シリカの添加がケイ酸石灰系相の寸法および異なる鉱物相の化学組成に与える影響
図13および図14図12との比較により、段階(b)(温度プラトー)が5時間および10時間の場合に5質量%のシリカを添加すると、段階(b)が24時間の場合にシリカの添加なしで得られるものと同程度のケイ酸石灰系相の寸法を得ることが可能になることが示される。図15は、10質量%のシリカを添加した場合、共析組織が形成されることを示す。
【0084】
観察された灰色の相は、図16に示したように、すべての試料について常にケイ酸石灰系(C2S型)であり、石灰フェライトは薄い灰色であり、ペリクレースは非常に濃い灰色である。シリカを添加した他の試料の分析は、図17および図18に示される。
【0085】
シリカの添加を含む方法により調製された試料のX線ディフラクトグラムは、試料中に存在する主要な相は、マグネタイト、スレボロドルスカイト、ペリクレース、エンスタタイト、およびほとんどは酸化マンガンを含有し微量のマグネシアを含む相であることを示す。
【0086】
初期温度Tがケイ酸石灰系相の寸法および異なる鉱物相の化学組成に与える影響
図19図17との比較により、ケイ酸石灰系相の寸法および異なる相の組成は、初期温度Tがそれぞれ1500℃および1600℃の場合で同程度であることが示される。
【0087】
試験9の後の冷却されたスラグを、乳鉢で破砕した(結晶粒径の制御を伴わない手動粉砕)。図21は、多数のケイ酸石灰系結晶粒または石灰フェライト系結晶粒が、完全に分離されていることを示す。これは、より均質でより微細な粒径を得るために粉砕プロセスを使用して、ケイ酸石灰系相と石灰フェライト系相とを、非常に容易に分離できることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21