特許第6134064号(P6134064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジーの特許一覧

特許6134064ピペラジン化合物、及びドネペジルを含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物
<>
  • 特許6134064-ピペラジン化合物、及びドネペジルを含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物 図000014
  • 特許6134064-ピペラジン化合物、及びドネペジルを含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物 図000015
  • 特許6134064-ピペラジン化合物、及びドネペジルを含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134064
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ピペラジン化合物、及びドネペジルを含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/495 20060101AFI20170515BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20170515BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20170515BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   A61K31/495
   A61K31/445
   A61P25/28
   A61P25/16
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-523649(P2016-523649)
(86)(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公表番号】特表2016-523901(P2016-523901A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】KR2014005686
(87)【国際公開番号】WO2014209033
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2015年12月25日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0074861
(32)【優先日】2013年6月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,へ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン ジン
【審査官】 前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0144111(US,A1)
【文献】 Geriatr Med,2011年 7月 1日,49(7),809-812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/495
A61K 31/445
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1aの化合物で表示される、硫酸構造をむピペラジン化合物、またはその薬学的に許容可能な塩;及びドネペジル、またはその薬学的に許容可能な塩を含む、認知障害の予防用または治療用の薬学的組成物。
【化1】
【請求項2】
前記認知障害は、痴呆、アルツハイマー病、健忘症またはパーキンソン病であることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
下記化学式1aの化合物で表示される、硫酸構造をむピペラジン化合物、またはその薬学的に許容可能な塩;及びドネペジル、またはその薬学的に許容可能な塩を、ヒト以外の個体に投与する段階を含む、認知障害の予防または治療方法。
【化2】
【請求項4】
前記認知障害は、痴呆、アルツハイマー病、健忘症またはパーキンソン病であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
化学式1で表示される硫酸構造をむピペラジン化合物、またはその薬学的に許容可能な塩;及びドネペジル、またはその薬学的に許容可能な塩は、ヒト以外の個体に同時または順次に投与することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物、及びそれを利用した認知障害関連疾病を予防したり治療したりする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
痴呆は、脳が、後天的な外傷や疾病あるいは遺伝的要因などの多様な原因によって、気質的に損傷されたり破壊されたりして、言語、学習、知能など全般的な認知機能及び高等精神機能が非正常的に減退する複合的な臨床症侯群を包括する。痴呆について、大きく原因別に見れば、アルツハイマー病による痴呆、血管性痴呆、特定脳疾患、及び全身性疾患による痴呆などに分けられ、このうち、アルツハイマー病による痴呆が50%以上を占める。アルツハイマー型痴呆は、発病の原因タンパク質であるベータアミロイドが、脳内にオリゴマー段階、フィブリル段階を経て、プラーク形態に集積されていき、その過程において、神経細胞を含んだ脳損傷をもたらして病気が進行する。
【0003】
現在まで開発された治療剤としては、アルツハイマー型痴呆患者の脳において、アセチルコリンという物質が、正常人に比べて減少するという点に着眼し、脳内のアセチルコリンの量を増加させたり、あるいはコリン性神経細胞の活性を向上させたりする方向に開発された。アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンを、コリンとアセテートとに加水分解する酵素であるので、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、アルツハイマー性痴呆治療剤として利用されている。かような痴呆治療剤は、例えば、ドネペジル(donepezil、商品名:アリセプト)、リバスチグミン(rivastigmin、商品名:エクセロン)及びガランタミン(galantamine、商品名:レミニール)である。しかし、かような薬物は、病気を根本的に治療するためではなく、記憶力障害症状を改善させるための薬物であり、臨床で薬物に対する副作用があり、長期間使用すれば、その効果が低下するという問題がある。
【0004】
一方、EPPSを含むベータアミロイド集積関連疾患の予防用または治療用の薬学的組成物が文献に開示された。前記文献において、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(3−プロパンスルホン酸)(EPPS)は、ベータアミロイドフィブリル及びオリゴマーの集積を阻害し、集積されたベータアミロイドフィブリル及びオリゴマーを分解することにより、ベータアミロイドによる毒性を抑制した。
【0005】
従って、痴呆を効果的に予防して治療するために、痴呆の主要原因であるベータアミロイド集積を阻害すると同時に、生理的に脳内のアセチルコリンの量を増加させる薬物の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、モルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0007】
本発明が解決しようとする課題はまた、モルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を利用した認知障害関連疾病を予防したり治療したりする方法を提供する。
【0008】
追加的な様相は、下記説明中の一部において始まり、部分的に該記載から明確になり、また提起された具体例の実行によって理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
参照は、具体例をさらに詳細にさせ、その例が添付された図面に例示されており、ここで、参照でのように番号は、全体的に構成要素のようなものをいう。これと係わり、本具体例は、異なる形態でもあり、本明細書からの記載で限定されるものであると解釈されてはいけない。従って、前記具体例は、本記載の様相を説明するために、図面を引用することによって単純に記載される。本明細書に記載されているように、用語「及び/または」は、1以上の関連列挙された事項の任意及びすべての組み合わせを含む。
【0010】
モルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む、認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0011】
モルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を個体に投与する段階を含む、認知障害関連疾病の予防または治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物を利用すれば、痴呆の主要原因であるベータアミロイド集積を阻害すると同時に、生理的に脳内のアセチルコリンの量を増加させ、認知障害関連疾病を効率的に予防したり治療したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、アルツハイマー病形質変換マウスのY迷路行動実験結果を示すグラフである(黒丸:ドネペジル投与群、黒三角:EPPS及びドネペジル投与群、黒四角:EPPS投与群)。
図2】恐怖条件化文脈実験結果を示すグラフである。
図3】恐怖条件化手がかり実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一様相は、下記化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を含む、認知障害関連疾病の予防用または治療用の薬学的組成物を提供する:
【0015】
【化1】
【0016】
前記化学式1で、
Zは、OまたはNであり、
Z=Oである場合、Rは、結合されず、Z=Nである場合、Rは、−(CH−OHであり、
は、−(CH−Rであり、nは、1ないし5の整数であり、Rは、−COOHまたは−SOHである。
【0017】
前記薬学的組成物において、化学式1の化合物は、化学式1aないし1eの化合物からなる群から選択されたものである薬学的組成物を提供する。
【0018】
【化1a】
【0019】
【化1b】
【0020】
【化1c】
【0021】
【化1d】
【0022】
【化1e】
【0023】
化学式1aは、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’(3−プロパンスルホン酸)(EPPS)である。
【0024】
前記薬学的組成物において、ドネペジルは、化学名が、1−ベンジル−4−[(5,6−ジメトキシインダン−1−オン)−2−イル]メチルピペラジンである化合物である。その塩酸塩である塩酸ドネペジルは、アルツハイマー治療剤としてアリセプト(登録商標)商品名で市販されている。
【0025】
前記用語「薬学的に許容可能な塩」は、化合物の無機酸及び有機酸の付加塩をいう。酸付加塩は、無機酸類または無毒性有機酸から得ることができる。無機酸類は、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨード化水素酸、亜硝酸及び亜リン酸である。無毒性有機酸は、例えば、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、ベンゾ酸、脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸、フェニル置換されたアルカノエート、ヒドロキシアルカノエート及びアルカンジオエート、芳香族酸類、脂肪族及び芳香族のスルホン酸類である。かような薬学的に無毒の塩類は、例えば、スルフェート、ピロスルフェート、ビスルフェート、スルファイト、ビスルファイト、ニトレート、ホスフェート、モノヒドロゲンホスフェート、ジヒドロゲンホスフェート、メタホスフェート、ピロホスフェートクロリド、ブロミド、ヨウ化物、フッ化物、アセテート、プロピオネート、デカノエート、カプリレート、アクリレート、ホルメート、イソブチレート、カプレート、ヘプタノエート、プロピオレート、オキサレート、マロン酸塩、スクシネート、スベレート、セバケート、フマレート、マレート、ブテン−1,4−ジオエート、ヘキサン−1,6−ジオエート、ベンゾエート、クロロベンゾエート、メチルベンゾエート、ジニトロベンゾエート、ヒドロキシベンゾエート、メトキシベンゾエート、フタレート、テレフタレート、ベンゼンスルホネート、トルエンスルホネート、クロロベンゼンスルホネート、キシレンスルホネート、酢酸フェニル、フェニルプロピオネート、フェニルブチレート、シトレート、ラクテート、β−ヒドロキシブチレート、グリコレート、タルトレート、メタンスルホネート、プロパンスルホネート、ナフタレン−1−スルホネート、ナフタレン−2−スルホネートまたはマンデル酸塩でもある。
【0026】
前記用語「誘導体(derivative)」は、前記化合物の構造一部を他の原子や原子団で置換して得られる化合物をいう。
【0027】
前記認知障害関連疾病は、根本的原因と関係なく、認知障害を起こす疾病をいう。認知障害関連疾病は、軽症認知障害、中等度認知障害または重度認知障害でもある。認知障害関連疾病は、例えば、痴呆、アルツハイマー病、健忘症またはパーキンソン病でもある。痴呆は、例えば、アルツハイマー型痴呆、老人性痴呆及び青年性痴呆でもある。アルツハイマー病は、記憶力減退、言語能力低下、視空間把握能の低下、判断力低下、鬱病のような精神行動症状;大小便失禁のような身体症状を伴う。健忘症は、記憶障害をいう、健忘症は、アルツハイマー病、血管性痴呆、癲癇、暴飲状態など多様な疾患から誘発される。
前記用語「予防」は、組成物の投与によって、疾病を抑制したり、あるいは発病を遅延させたりする全ての行為をいう。前記用語「治療」は、組成物の投与によって、疾病の症状が好転したり、好ましく変更したりする全ての行為をいう。
【0028】
化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体は、共に投与することができ、または別個に、同時または異なる時間に投与することもできる。それら成分は、通常従来の医薬製剤形態で利用することもできる。そして、それら成分は、単一製剤形態、または個別の製剤形態に製造することもできる。
【0029】
前記薬学的組成物は、化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体が、全体組成物総重量に対して、約0.0001重量%ないし約10重量%、または約0.001重量%ないし約1重量%で含まれる。単一の製剤である場合、それぞれの成分は、0.0001重量%ないし約10重量%の比率で混合される。複合製剤(混合製剤)である場合、それぞれの成分の和に基づいて、それぞれの成分は、0.0001重量%ないし約10重量%含まれる。
【0030】
前記薬学的組成物は、それぞれ通常の方法によって、経口投与のための製剤、または非経口投与のための製剤に剤形化される。
【0031】
前記薬学的組成物において、経口投与のための固形製剤は、例えば、錠剤、丸剤、硬質/軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤、エリキシル剤でもある。前記固形製剤は、賦形剤をさらに含んでもよい。賦形剤は、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)、ラクトース(lactose)またはゼラチンでもある。また、前記固形製剤は、ステアリン酸マグネシウムまたは滑石のような潤滑剤をさらに含んでもよい。前記薬学的組成物において、経口のための液状製剤は、懸濁剤、溶液製剤、乳剤またはシロップ剤でもある。前記液状製剤は、水またはリキッドパラフィンを含んでもよい。前記液状製剤は、賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤または保存剤を含んでもよい。
【0032】
前記薬学的組成物において、非経口投与のための製剤は、例えば、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥粉末、坐剤または吸入剤でもある。非水性溶剤または懸濁液剤は、植物性油またはエステルを含んでもよい。植物性油は、例えば、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコールまたはオリーブオイルでもある。エステルは、例えば、オレイン酸エチルでもある。坐剤の基剤は、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴ−ル、トゥイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリンジまたはグリセロゼラチンでもある。吸入剤は、活性化合物を粉末または液状にし、吸入用噴射剤及び/または担体中に配合し、その混合物を適切な気化器(vaporizer)に充填することによって製造される。活性化合物が粉末である場合には、通常の機械的粉末気化器を、化合物が液状である場合には、ネブライザーなどの気化器を使用することもできる。また、吸入剤は、必要によって、従来から使用されている界面活性剤、オイル、香料、シクロデキストリンまたはその誘導体を選択的に配合することができる。
【0033】
前記薬学的組成物は、担体、賦形剤または希釈剤をさらに含んでもよい。担体、賦形剤及び希釈剤は、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウムまたは鉱物油を含んでもよい。
【0034】
前記薬学的組成物の投与量は、患者の状態及び体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、当業者によって適切に選択される。しかし、EPPSは、例えば、約0.0001mg/体重kgないし約100mg/体重kg、または約0.001mg/体重kgないし約10mg/体重kgの量を、1日1回ないし数回に分けて投与することができる。ドネペジルは、例えば、約0.0001mg/体重kgないし約100mg/体重kg、または約0.001mg/体重kgないし約10mg/体重kgの量を、1日1回ないし数回に分けて投与することができる。前記薬学的組成物は、ラット、マウス、家畜及びヒトを含んだ哺乳動物に、多様な経路で投与される。投与方法は、例えば、経口;直腸;あるいは静脈、筋肉、皮下、子宮内経膜または脳血管内(intracerebroventricular)への注射でもある。
【0035】
前記薬学的組成物は、有効成分以外に、薬学的に適し、生理学的に許容される補助剤を使用して製造され、前記補助剤としては、賦形剤、崩壊剤、甘味剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、滑沢剤または香味剤などの可溶化剤を使用することができる。前記薬学的組成物は、投与のために、有効成分以外に、追加して薬学的に許容可能な担体を1種以上含み、前記薬学的組成物に望ましく製剤化することができる。
【0036】
液状溶液に製剤化される組成物において、許容可能な薬学的担体としては、滅菌及び生体に適するものであり、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、及びそれら成分のうち1成分以上を混合して使用することができ、必要によって、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の一般的な添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液のような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。さらに、当該分野の適切な方法で、Remington’s Pharmaceutical Science, Mack Publishing Company, Easton PAに開示されている方法を利用して、各疾患によってまたは成分によって、望ましく製剤化することができる。
【0037】
前記薬学的組成物の薬剤製剤形態は、顆粒剤、散剤、被覆錠、錠剤、カプセル剤、坐剤、シロップ、汁、懸濁剤、乳剤、点滴剤、注射可能な液剤、または活性化合物の徐放出型製剤などにもなる。
【0038】
一様相は、下記化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体を個体に投与する段階を含む、認知障害関連疾病の予防または治療方法を提供する:
【0039】
【化2】
【0040】
化学式1で、
Zは、OまたはNであり、
Z=Oである場合、Rは、結合されず、Z=Nである場合、Rは、−(CH−OHであり、
は、−(CH−Rであり、nは、1ないし5の整数であり、Rは、−COOHまたは−SOHである。
【0041】
EPPS、ドネペジル、薬学的に許容可能な塩、誘導体、認知障害関連疾病、予防及び治療は、前述の通りである。
【0042】
前記用語「個体」は、ヒトを含んだ哺乳動物を含む。
【0043】
化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体は、個体に同時または順次に投与するものでもある。
【0044】
化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体は、それらを含む複合製剤を投与するものでもある。また、化学式1の化合物で表示される、硫酸構造または炭酸構造を含むモルホリン化合物またはピペラジン化合物、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体;及びドネペジル、その薬学的に許容可能な塩、またはその誘導体の単一製剤を同時に、順次に、または投与間の時間間隔を有し、異なる時間に投与するものでもある。投与は、2つの別途の単位投与量形態で投与することができる。
【0045】
以下、実施例を介して、さらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1.アルツハイマー病形質変換マウスのY迷路行動実験(Y−maze behavior test)
EPPS及びドネペジルの組み合わせによる効果を確認するために、アルツハイマー病形質変換マウスにおいて、学習記憶能を評価するY迷路行動実験を行った。
【0047】
実験動物であるアルツハイマー病形質変換マウスは、約10ヵ月齢のB6C3−Tg(APPswe、PSEN1dE9)85Dbo/Mmjax(The Jackson Laboratory、米国)を使用した。実験動物を3群に分け、下記表1に記載されているような用量で、毎日経口投与し、週1回総13週間Y迷路実験を行った。対照群として、薬物を摂取していない形質変換マウスを陰性対照群に、薬物を摂取していない正常マウスを陽性対照群にそれぞれ分けて使用した。
【0048】
【表1】
【0049】
Y迷路装置は、黒色アクリル板[枝:横6cm、縦40cm、高さ12cm]で製作したY字形態の四方が塞がれた迷路によって構成されており、各枝は、互い120゜の一定角度に配置されている。それぞれの枝をA,B,C地域に定めた後、1つの枝に実験動物を用心深く置き、8分間自由にY迷路を動くようにさせた後、実験動物が入って行った各枝を、天井に設められたカメラを介して、コンピュータプログラム(Ethovision 3.1、Noduls、オランダ)で観察して記録した。各枝に入って行った回数及び順序を測定し、自発的変更率(spontaneous alteration(%))を評価した。変更(alteration)は、3個の異なる枝に順次に入って行く場合(実際変更:actual、alternation)、すなわち、ABC、ACB、BAC、BCA、CAB、CBAをそれぞれ1点と認めた。他の枝に順次に入らない場合、点数として認めなかった。%変更率は、実際変更/(総変更−2)×100の数式で計算した。そして、%変更率は、薬物を摂取していない正常マウスである陽性対照群を100%、薬物を摂取していない形質変換マウスである陰性対照群を0%とそれぞれ指定した後、この2値を基準にして平準化(normalization)し、その結果を図1に示した。
【0050】
図1は、アルツハイマー病形質変換マウスのY迷路行動実験結果を示したグラフである(黒丸:ドネペジル投与群、黒三角:EPPS及びドネペジル投与群、黒四角:EPPS投与群)。図1から分かるように、実験初期には、ドネペジル投与群の認知機能が迅速に向上したが、約5週目に最高値を示し、約7週後には、認知機能が下がった。一方、EPPS投与群の認知機能は、ドネペジル投与群の認知機能に比べて徐々に向上し、約10週には、ドネペジル投与群の認知機能と同一のレベルであるということを確認した。EPPS及びドネペジル投与群の認知機能は、ドネペジル投与群の認知機能に比べて徐々に向上したが、EPPS投与群の認知機能に比べて迅速に向上した。また、約9週からは、投与群において、最もすぐれた認知機能改善効果を示し、13週でも認知機能が持続的に上昇した。また、約5週後のドネペジル投与群の変更率は、EPPS及びドネペジル投与群の変更率より高く、EPPS及びドネペジルの組み合わせは、ドネペジルまたはEPPSとは異なる経路によるものであるということを確認した。
【0051】
従って、ドネペジルは、優秀な認知機能改善効果が迅速に示されたが、その効果が短期的であり、EPPSは、認知機能改善効果が長期的に示されたが、その効果がドネペジルよりは遅く、EPPS及びドネペジルの組み合わせよりは低かった。一方、EPPS及びドネペジルの組み合わせは、認知機能改善効果がそれぞれの薬物に比べて優秀なだけではなく、効果も長期的であるということを確認した。
【0052】
実施例2.アルツハイマー病形質変換マウスの恐怖条件化実験(fear conditioning test)
EPPS及びドネペジルの組み合わせによる効果を確認するために、実施例1の13週間のY迷路行動実験を行った実験動物に対して、空間及び音に対する恐怖記憶力を実験する恐怖条件化実験を行った。
【0053】
恐怖条件化実験は、空間に対する恐怖記憶力を評価する恐怖条件化文脈実験(fear conditioning-contextual test)と、音に対する恐怖記憶力を評価する恐怖条件化手がかり実験(fear conditioning-cued test)とで行った。
【0054】
訓練施行は、音刺激(conditioned stimulus(CS)、30秒、85dB、30kHz)と電気ショック(unconditioned stimulus(US)、1秒、0.5mA)と対にして2回提示した。それぞれは、90秒の間隔をおいて行い、最後の電気ショック(US)が与えられた後90秒後に、マウスを条件化箱で取り出した。24時間後、次のような検査を実施した。
【0055】
文脈実験:実験動物を条件化箱に置いた状態で、音刺激と電気ショックとを提示せずに凍結反応を測定し、文脈に対する条件化された恐怖反応尺度にした。凍結反応とは、動物が呼吸するための行動以外には、動きがない状態と定義した。
【0056】
手がかり実験:24時間後、文脈を変化させるために、訓練施行と異なる新たな箱にマウスを入れ、訓練施行と同一条件の音刺激を提示し(電気ショックは提示しない)、示される凍結反応を測定した。それを、手がかりに対する条件化された恐怖反応尺度とした。
【0057】
文脈実験結果を表2及び図2に示し、手がかり実験結果を表3及び図3に示した。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
図2は、恐怖条件化文脈実験結果を示したグラフであり、図3は、恐怖条件化手がかり実験結果を示したグラフである。
【0061】
図2及び図3から分かるように、空間及び音に対する恐怖条件化実験のいずれにおいても、EPPS及びドネペジル投与群の記憶力が、ドネペジル投与群及びEPPS投与群の記憶力よりもすぐれていた。学習及び記憶力を担当する脳の海馬(hippocampus)領域に対する影響を測定することができる文脈実験において、EPPS及びドネペジル投与群の記憶力が、ドネペジル投与群及びEPPS投与群の記憶力より顕著にすぐれていた。従って、EPPS及びドネペジルの組み合わせは、EPPS、ドネペジルのそれぞれより学習及び記憶力の向上効果が顕著にすぐれているということを確認した。
図1
図2
図3