特許第6134071号(P6134071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6134071-複合膜の製造方法 図000003
  • 特許6134071-複合膜の製造方法 図000004
  • 特許6134071-複合膜の製造方法 図000005
  • 特許6134071-複合膜の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134071
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】複合膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20170515BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20170515BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20170515BHJP
   H01M 2/16 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
   C08J9/28 101
   C08J7/04 Z
   C08J7/00 301
   !H01M2/16 P
   !H01M2/16 L
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-534757(P2016-534757)
(86)(22)【出願日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2015086066
(87)【国際公開番号】WO2016157656
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2016年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-73079(P2015-73079)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高容量リチウムイオン電池用革新的セパレーターの実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】本元 博行
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昇
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/146585(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/183666(WO,A1)
【文献】 特開2014−028326(JP,A)
【文献】 特開2013−116442(JP,A)
【文献】 特許第5134526(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
C08J 7/00
C08J 7/04−7/06
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む多孔質基材を、下記式を満たす温度Tで熱処理することと、
Tg+60℃ ≦ 温度T ≦ Tm
(Tg:多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度[℃]、Tm:多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂の融点[℃])
前記多孔質基材における機械方向の張架応力を多孔質基材の伸度が2%以下となる範囲に調整し、少なくとも樹脂及び溶媒を含む塗工液を、熱処理後の前記多孔質基材の片面又は両面に塗工し、塗工層を形成することと、
前記塗工層を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に、少なくとも樹脂を含む多孔質層を有する複合膜を得ることと、
を連続的に順次行い、
前記熱処理が施される前の前記多孔質基材の厚みの標準偏差が0.40μm〜30μmである複合膜の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理が施される前の前記多孔質基材の厚みの平均値が5μm〜50μmである請求項1に記載の複合膜の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理が施される前の前記多孔質基材のガラス転移温度が30℃以下である請求項1又は請求項に記載の複合膜の製造方法。
【請求項4】
前記複合膜を得ることは、塗工層を凝固液に接触させて樹脂を凝固させ、多孔質基材の片面又は両面に、少なくとも樹脂を含む多孔質層を有する複合膜を得ることである請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の複合膜の製造方法。
【請求項5】
前記塗工液は、更に、フィラーを含み、前記塗工層を凝固させて得られる多孔質層は、更に、フィラーを含む請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の複合膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電池セパレータ、ガスフィルタ、液体フィルタ等として、多孔質基材の表面に多孔質層を有する複合膜が知られている。複合膜の製造方法としては、有機高分子化合物を含む塗工液を基材膜の片面もしくは両面に塗工して塗工層を形成し、凝固液に浸漬して塗工層を凝固させ、水洗と乾燥を経て多孔質層を作製する場合に、各工程間を10m/分以上の速さで連続的に搬送する技術が提案されている(例えば、特許第5134526号公報参照)。特許第5134526号公報には、湿式凝固法により多孔質層を形成する方法が記載されており、湿式凝固法は、樹脂を含む多孔質層を良好に多孔化できる製法として知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、例えば二次電池用セパレータの製造プロセスにおいて、基材に所望の液を塗工する際、基材の一部に弛みが生じる場合、又は基材自体に表面凹凸又は厚みバラツキが存在する場合がある。このような基材における不均一は、塗工層に膜厚の不均一を招来するだけでなく、場合によっては、塗工されない未塗工領域、又は塗工ムラの著しい領域などの塗工不良が発生することがある。また、塗工不良は、塗工後の基材の搬送不良(例えば蛇行)を招来する一因ともなる。
さらに、塗工後の基材をあらかじめ定められたコアに巻回してロールとした場合、ロールの最表面に顕著な凹凸ができたり、ロールの端部に変形又は不揃い等が生じる要因となる。また、二次加工後の製品にも同様の外観不良が生じることになる。
【0004】
搬送時における基材に与える張力を強くすると、見た目には、基材の弛み、基材自体の表面凹凸又は厚みバラツキが低減する。ところが、必要以上の張架応力が基材にかかることで、弾性限界を超えて塗工後に歪みが残留し、製品の形状に影響を与えたり、経時及び周囲環境の影響により形状が変化する場合がある。
【0005】
そのため、塗工等によって成膜する場合において、基材を必要以上の応力で張架しない状態のまま、塗布等して安定的に成膜できる技術の確立が望まれている。
【0006】
本開示は、上記に鑑みなされたものであり、多孔質基材の伸度が2%を超える張架応力を多孔質基材に与えずに、平滑性の良好な多孔質層が安定的に形成される複合膜の製造方法を提供することを目的とし、この目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 熱可塑性樹脂を含む多孔質基材を、下記式を満たす温度Tで熱処理すること(熱処理工程)と、前記多孔質基材における機械方向の張架応力を多孔質基材の伸度が2%以下となる範囲に調整し、少なくとも樹脂及び溶媒を含む塗工液を、熱処理後の前記多孔質基材の片面又は両面に塗工し、塗工層を形成すること(塗工工程)と、前記塗工層を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に、少なくとも樹脂を含む多孔質層を有する複合膜を得ること(凝固工程)と、を有する複合膜の製造方法である。
【0008】
Tg+60℃ ≦ 温度T ≦ Tm
Tg:多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度[℃]
Tm:多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂の融点[℃]
【0009】
<2> 前記熱処理が施される前の前記多孔質基材の厚みの平均値が5μm〜50μmである前記<1>に記載の複合膜の製造方法である。
<3> 前記熱処理が施される前の前記多孔質基材の厚みの標準偏差が0.40μm〜30μmである前記<1>又は前記<2>に記載の複合膜の製造方法である。
<4> 前記熱処理が施される前の前記多孔質基材のガラス転移温度が30℃以下である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の複合膜の製造方法である。
<5> 複合膜を得る前記凝固工程は、塗工層を凝固液に接触させて樹脂を凝固させ、多孔質基材の片面又は両面に、少なくとも樹脂を含む多孔質層を有する複合膜を得ること(工程)である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の複合膜の製造方法である。
<6> 前記塗工液は、更に、フィラーを含み、前記凝固工程で塗工層を凝固させて得られる多孔質層は、更に、フィラーを含む前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の複合膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、多孔質基材の伸度が2%を超える張架応力を多孔質基材に与えずに、平滑性の良好な多孔質層が安定的に形成される複合膜の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の製造方法の一実施形態を示す概念図である。
図2図2は、本発明の製造方法の他の一実施形態を示す概念図である。
図3図3は、多孔質基材の弛み等の状態を説明するための概念図である。
図4図4は、図3のA−A’線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、数値範囲中の「〜」の表記は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0013】
本明細書において、「工程」の語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0014】
また、「機械方向」とは、長尺状に製造される多孔質基材及び複合膜における長尺方向を意味し、「幅方向」とは、多孔質基材及び複合膜において機械方向に直交する方向を意味する。以下、「機械方向」を「MD」とも称し、「幅方向」を「TD」とも称する。
【0015】
以下、本開示の複合膜の製造方法について詳細に説明する。
本開示の複合膜の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む多孔質基材を、以下に示す式を満たす温度Tで熱処理すること(以下、熱処理工程)と、少なくとも樹脂及び溶媒を含む塗工液を、多孔質基材における機械方向の張架応力を多孔質基材の伸度が2%以下となる範囲に調整して、熱処理後の多孔質基材の片面又は両面に塗工し、塗工層を形成すること(以下、塗工工程)と、前記塗工層を凝固させて、前記多孔質基材の片面又は両面に、少なくとも樹脂を含む多孔質層を有する複合膜を得ること(以下、凝固工程)と、を少なくとも有している。
【0016】
Tg+60℃ ≦ 温度T ≦ Tm
式中、Tgは、多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度[℃]を表し、Tmは、多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂の融点[℃]を表す。
【0017】
本開示の複合膜の製造方法は、少なくとも熱処理工程、塗工工程及び凝固工程を有していればよく、凝固工程は、塗工層を凝固液に接触させて塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る湿式法と、塗工層に含まれる溶媒を除去して塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る乾式法と、のいずれでもよい。好ましくは、湿式法による態様である。
【0018】
本開示の複合膜の製造方法は、複合膜中の水分を除去すること(以下、乾燥工程)を有していることが好ましく、必要に応じて、更に、塗工液を調製すること(以下、塗工液調製工程)、凝固工程後に複合膜を水洗すること(以下、水洗工程)、等の他の処理(工程)を有してもよい。
【0019】
本開示の複合膜の製造方法における、湿式法又は乾式法の各態様の例を図1図2に示す。各態様における各処理(工程)の詳細については、後述する。
【0020】
図1は、本発明の複合膜の製造方法の一実施形態を示す。図1に示す実施形態では、塗工液調製工程、熱処理工程、塗工工程、凝固工程、水洗工程、及び乾燥工程を有し、凝固工程を湿式法で行う。図1では、図内の左側に、複合膜の製造に供する多孔質基材のロールが置かれ、図内の右側に、製造された複合膜を巻き取ったロールが置かれている。本実施形態は、熱処理工程、塗工工程、凝固工程、水洗工程、及び乾燥工程を連続的に順次行う。また、本実施形態は、塗工工程の実施時期に合わせて塗工液調製工程を行う。
【0021】
図2は、本発明の製造方法の他の一実施形態を示す。図2に示す実施形態では、塗工液調製工程、熱処理工程、塗工工程、及び凝固工程を有し、凝固工程での凝固を乾式法で行う。図2では、図面の左側に、複合膜の製造に供する多孔質基材のロールが置かれ、図面の右側に、製造された複合膜を巻き取ったロールが置かれている。本実施形態は、熱処理工程、塗工工程、及び凝固工程を連続的に順次行う。また、本実施形態は、塗工工程の実施時期に合わせて塗工液調製工程を行う。
【0022】
本開示においては、塗工工程の前にあらかじめ多孔質基材に熱処理を施す熱処理工程が設けられ、多孔質基材に歪みが残存するような張架応力をかけずに塗工が行えるようにする。すなわち、従来は、多孔質基材の上に塗工層を形成するにあたり、被塗物である多孔質基材の弛み、あるいは多孔質基材の表面にある凹凸形状又は多孔質基材の厚みバラツキが塗布層に悪影響を与えやすいことから、多孔質基材に張力を与えて均一性の良好な塗工層を形成する方法が採られていた。多孔質基材の弛みとは、搬送ロール間に張架した際に多孔質基材の幅方向端部にひだ状に現れる弛みのことであり、例えば、図3に示すように幅方向端部から内部方向へ任意幅(図3では弛み幅P)で発生するひだ状の変形や、図4に示すように幅方向端部が重力方向に垂れて(図4では垂れ幅Q)所期の平面状態が維持できずに発生する変形などを指す。
しかしながら、多孔質基材に必要以上の張力が加えられると、基材が弾性限界を超えて、塗工後に、残留する歪みによって製品が変形したり、経時又は周囲環境の影響で変形することがある。
本開示においては、塗工前の多孔質基材をあらかじめ熱処理することにより、多孔質基材の弛み、多孔質基材の表面凹凸又は厚みムラを緩和し、同時に基材の残留歪を低減(ストレスレリーフ効果)する。これにより、被塗物である多孔質基材の平滑性を向上し、ひいては均一性の高い塗工層を有する複合膜を安定的に製造することができる。
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る複合膜の製造方法における各工程について詳述する。
[熱処理工程]
熱処理工程では、後述の塗工工程の前処理工程として、熱可塑性樹脂を含む多孔質基材を、以下に示す式を満たす温度Tで熱処理する。多孔質基材を熱処理することで、塗工を安定的に行うのに求められる多孔質基材の性状(例えば、多孔質基材の弛み、多孔質基材の表面凹凸又は厚みムラ)を緩和する効果が得られる。
Tg+60℃ ≦ 温度T ≦ Tm
式中、Tgは、多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度[℃]を表し、Tmは、多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂の融点[℃]を表す。
【0024】
熱処理工程は、図1図2に示すように、塗工工程の前に設けられていればよく、ロールから繰り出された多孔質基材に塗工する前の搬送路に設けられてもよい。
【0025】
熱処理は、熱処理に必要な温度を必要な時間かけて多孔質基材に与えることができる方法であれば、特に制限はなく、適宜選択することができる。
熱処理の具体的な手法としては、特に制限はなく、例えば、必要な温度に設定したオーブン又は恒温室に入れて多孔質基材を保管し、保管された多孔質基材を塗工に供する方法、熱風を多孔質基材に吹き付ける方法、赤外線ヒータによる輻射熱で多孔質基材を加熱する方法、発熱ランプ(例えば発熱電球)又はレーザ光源による光照射下に曝す方法、熱ロール又は熱板を多孔質基材に接触させて熱を付与する方法、マイクロ波を照射する方法、等が挙げられる。
【0026】
熱処理は、塗工工程前の搬送路に加熱手段を設けることで行える。この場合、熱処理は、所定の搬送速度で搬送される多孔質基材の一方面及び他方面のいずれか一方に施されてもよいし、一方面及び他方面の両面から施されてもよい。例えば、図1図2に示すように、搬送路に搬送される多孔質基材の両面から熱処理を施すことで、多孔質基材の全面にわたって均一性よく熱を与えることができる。
【0027】
前記式中の温度Tは、多孔質基材の表面の温度である。温度Tは、熱電対を多孔質基材の表面に接触させて計測する方法、又は赤外線を利用した赤外線温度測定機器等により非接触で計測する方法等によって求められる。
【0028】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC;Q−200、TAインスルメンツ社製)を用いて下記の条件にて測定される値である。Tgは、DSC曲線における温度の下降開始点と下降終了点との中間温度(小数点以下四捨五入)とした。
<条件>
・測定室:窒素雰囲気
・昇温速度:5℃/min
・測定開始温度:−50℃
・測定終了温度:200℃
・試料量:5mg
また、融点(Tm)も、上記と同様の示差走査熱量計(DSC)を用い、同条件にて測定される値である。
【0029】
熱処理は、温度Tが「Tg+60℃」以上となるように施される。温度Tが「Tg+60℃」未満であると、熱の付与による多孔質基材の性状(例えば、多孔質基材の弛み、多孔質基材の表面凹凸又は厚みムラ)の緩和効果が不足する。また、熱処理時の温度Tは、熱可塑性樹脂の融点Tm以下に抑えられる。熱処理時の温度Tが融点Tmを超えると、多孔質基材が軟化して形状を維持し難くなり、逆に多孔質基材の均一性が損なわれ、結果、塗工品質が低下しやすくなる。
熱処理時の温度Tは、上記と同様の理由から、下記の式(1)又は式(2)を満たす温度範囲にあることが好ましい。
Tg+60℃ ≦ 温度T ≦ Tm−20℃ ・・・(1)
Tg+80℃ ≦ 温度T ≦ Tm−40℃ ・・・(2)
【0030】
熱処理の時間としては、特に制限はなく、塗工性をより向上させる観点から、熱処理の温度に応じて適宜選択することができる。熱処理の時間は、例えば、0.01秒〜30秒が好ましく、0.1秒〜5秒がより好ましい。
【0031】
熱処理時における多孔質基材の機械方向(MD)の張架応力は、多孔質基材の伸度が2%以下となる範囲に調整することが好ましい。つまり、好ましくは熱処理時の多孔質基材に与える張架応力を、MDへ多孔質基材を2%まで延ばすことができる範囲に抑えられる。本開示の製造方法では、後述するように、多孔質基材の伸度が2%以下となる範囲にMDの張架応力を抑えるので、複合膜に加わる歪みが残存しないものとすることができる。
MDの張架応力としては、具体的には、0.1N/cm以上3N/cm以下が好ましく、0.5N/cm以上2N/cm以下がより好ましい。
多孔質基材の張架応力は、温度20℃の雰囲気下、引張試験機を用いて、多孔質基材に対して引張速度100mm/分にて引張試験を行うことで計測される。
なお、熱処理の事前工程として、熱処理工程に長尺状の多孔質基材を連続的に繰り出すために、複数本以上の長尺状の多孔質基材を、接着剤、両面テープ、熱融着などによって多孔質基材同士を接続しながら繰り出してもよい。この場合、接続された多孔質基材表面には、接続により表面付着物を生じることがある。そのため、必要により、弱粘着性ロール、サクションロール、空気噴霧による、付着物を除去する装置も用いられる。また、多孔質基材の材質によっては、静電気を帯電し、周囲の浮遊物が付着する場合もあるため、静電気除去装置も用いられる。また、熱処理の効果をより高める方法として、エキスパンダーロール、螺旋状ロールを用い、多孔質基材の皺(波打ち)を伸ばすための設備を備えることが好ましい。
【0032】
[塗工工程]
塗工工程では、少なくとも樹脂と溶媒と(好ましくはフィラーと)を含む塗工液を、多孔質基材における機械方向の張架応力を多孔質基材の伸度が2%以下となる範囲に調整して、熱処理後の多孔質基材の片面または両面に塗工し、塗工層を形成する。塗工液の塗工が、前記熱処理工程を経ることによって、弛み、表面凹凸、厚みムラが緩和され、同時に残留歪が低減された多孔質基材に対して行われるので、均一性の高い塗工層が形成される。
【0033】
多孔質基材への塗工液の塗工には、マイヤーバー、ダイコータ、リバースロールコーター、グラビアコーターなどの従来の塗工手段を適用してよい。多孔質層を多孔質基材の両面に形成する場合、生産性の観点から、塗工液を両面同時に基材へ塗工することが好ましい。
【0034】
塗工は、多孔質基材をMDに張架して行う。この際、多孔質基材の伸度が2%以下(未張架での長さの102%以下)となる範囲に多孔質基材における機械方向への張架応力を調整する。つまり、多孔質基材の機械方向における張架応力を弱めた状態で塗工することができる。換言すれば、多孔質基材の弛み、多孔質基材の表面凹凸又は厚みムラ等の性状に起因して生じやすい塗工層の不均一を解消するために、従来のように多孔質基材を機械方向に上記の性状を解消し得る応力で張架し、その応力を塗工している間維持しておく必要がない。
【0035】
多孔質基材の伸度は、(株)エーアンドディ製の引張試験機(TENSILON RTC−1225A)を用いて測定される。
【0036】
塗工量は、両面の合計で例えば10ml/m〜60ml/mとすることができる。
塗工工程における多孔質基材の搬送速度は、前記熱処理工程を設けることで、生産効率と塗工安定性を確保しやすいため、10m/分以上100m/分以下の範囲で好適に行える。
【0037】
[塗工液調製工程]
本開示の複合膜の製造方法では、保管された塗工液又は上市されている市販の塗工液などの既製の塗工液を用いてもよいし、塗工に合わせて調製した塗工液を用いてもよい。後者の場合、既述の塗工工程で塗工するための塗工液として、少なくとも樹脂及び溶媒を含む塗工液を調製する塗工液調製工程を設けることができる。塗工液には、フィラー、樹脂及び溶媒を含む塗工液、樹脂及び溶媒を含む塗工液、又は、樹脂及び溶剤を含む水系エマルションを用いることができる。
【0038】
塗工液は、例えば、樹脂を溶媒に溶かして調製され、あるいは樹脂を溶媒に溶かし、さらにフィラーを分散させて調製される。
なお、塗工液の調製に用いる樹脂及びフィラー、すなわち多孔質層に含有される樹脂及びフィラーの詳細については、後述の「多孔質層」の項において説明する。
【0039】
塗工液の調製に用いる、樹脂を溶解する溶媒(以下、「良溶媒」ともいう。)としては、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の極性アミド溶媒が好適に用いられる。
良好な多孔構造を有する多孔質層を形成する観点で、良溶媒に加えて相分離を誘発させる相分離剤を混合させることが好ましい。相分離剤としては、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ブタンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。相分離剤は、塗工に適切な粘度が確保できる範囲で良溶媒と混合することが好ましい。
【0040】
塗工液の調製に用いる溶媒としては、良好な多孔構造を形成する観点から、良溶媒を60質量%以上、相分離剤を10質量%〜40質量%含む混合溶媒が好ましい。
【0041】
塗工液は、良好な多孔構造を形成する観点から、樹脂が3質量%〜10質量%の濃度で含まれており、フィラーが10質量%〜90質量%の濃度で含まれていることが好ましい。
【0042】
塗工液調製工程で調製される塗工液の25℃での粘度は、0.1Pa・s〜5.0Pa・sの範囲が好ましい。塗工液の粘度が0.1Pa・s以上であると、多孔質基材への塗工適性が得られるとともに、塗工時における本開示に係る複合膜の製造方法による効果がより奏される。また、塗工液の粘度が5.0Pa・s以下であると、より安定的に塗工液を供給することができる。
塗工液の粘度(25℃)は、1.0Pa・s以上がより好ましく、更に好ましくは2.0Pa・s以上である。また、塗工液の粘度(25℃)は、4.0Pa・s以下がより好ましく、更に好ましくは3.0Pa・s以下である。
粘度は、溶媒、樹脂及びフィラーの組成比によって制御可能である。
また、粘度は、塗工液を25℃に温調した状態で回転型粘度計(英弘精機社製のB型粘度計)を用いて測定される値である。
【0043】
[凝固工程]
凝固工程では、塗工工程で形成された塗工層を凝固させることで、多孔質基材の片面又は両面に、少なくとも樹脂を含む多孔質層を有する複合膜が得られる。
【0044】
凝固工程は、塗工層を凝固液に接触させて塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る湿式法、又は塗工層に含まれる溶媒を除去して塗工層に含まれる樹脂を凝固させて多孔質層を得る乾式法のいずれでもよい。乾式法は、湿式法で必要な凝固液への接触及び水洗が不要な点で工程上有利であるが、湿式法に比べて多孔質層が緻密になりやすい。そのため、本開示では、良好な多孔構造を得る観点から湿式法による態様が好ましい。
【0045】
湿式法は、塗工層を有する多孔質基材を凝固液に浸漬させることが好ましく、具体的には、凝固液の入った槽(凝固槽)を通過させることが好ましい。
【0046】
湿式法で用いる凝固液は、塗工液の調製に用いた良溶媒及び相分離剤と、水と、から調製されるのが一般的である。良溶媒と相分離剤との混合比は、塗工液の調製に用いた混合溶媒の混合比に合わせるのが生産上好ましい。水の濃度は、多孔構造の形成性及び生産性の点で、凝固液の総量に対して、40質量%〜80質量%の範囲が適当である。凝固液の温度としては、例えば20℃〜50℃とすることができる。
【0047】
乾式法において、複合膜から溶媒を除去する方法は、特に制限はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法、温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法、等が挙げられる。複合膜に熱を付与する場合、熱の温度は例えば50℃〜80℃である。
【0048】
[水洗工程]
本開示の複合膜の製造方法は、凝固工程として湿式法を採用した場合、凝固工程後に複合膜を水洗する水洗工程を有することが好ましい。水洗工程では、複合膜に含まれている溶媒(塗工液に用いられる溶媒及び凝固液に用いられる溶媒)を除去する。
【0049】
水洗工程は、複合膜を水浴の中を搬送させることによって行ってもよい。水洗用の水の温度は、例えば0℃〜70℃である。
【0050】
[乾燥工程]
本開示の複合膜の製造方法は、前記水洗工程後に複合膜から水を除去する乾燥工程を有することが好ましい。乾燥方法には、特に制限はなく、例えば、複合膜を発熱部材に接触させる方法、温度及び湿度を調整したチャンバー内に複合膜を搬送する方法、等が挙げられる。
複合膜に熱を付与する場合、熱の温度としては、例えば50℃〜80℃である。
【0051】
次に、複合膜を構成する多孔質基材及び多孔質層について、詳細に説明する。
[多孔質基材]
多孔質基材とは、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜;不織布、紙等の繊維状物からなる多孔性シート;これら微多孔膜や多孔性シートに他の多孔性の層を1層以上積層させた複合多孔質シート;などが挙げられる。
【0052】
本開示においては、複合膜の薄膜化及び強度の観点で、微多孔膜が好ましい。微多孔膜とは、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体もしくは液体が通過可能とされた膜を意味する。
【0053】
多孔質基材を構成する材料は、電気絶縁性を有する材料が好ましく、有機材料及び無機材料のいずれでもよい。
【0054】
多孔質基材を構成する材料は、多孔質基材にシャットダウン機能を付与する観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。シャットダウン機能とは、複合膜が電池セパレータに適用された場合において、電池温度が上昇した際、構成材料が溶解して多孔質基材の孔を閉塞することによってイオンの移動を遮断し、電池の熱暴走を防止する機能をいう。
【0055】
熱可塑性樹脂としては、融点200℃未満の熱可塑性樹脂が適当であり、特にポリオレフィンが好ましい。
【0056】
多孔質基材としては、ポリオレフィンを含む微多孔膜(以下、ポリオレフィン微多孔膜ともいう。)が好ましい。ポリオレフィン微多孔膜としては、例えば、従来の電池セパレータに適用されているポリオレフィン微多孔膜を挙げることができ、この中から良好な力学特性と物質透過性を有するものを選択すればよい。
【0057】
ポリオレフィン微多孔膜は、シャットダウン機能を発現する観点から、ポリエチレン及びプロピレンの一方又は両方を含むことが好ましい。中でも、ポリオレフィン微多孔膜は、上記同様の観点から、ポリエチレンを含むことが好ましく、更には、ポリエチレンの含有量が95質量%以上のポリエチレン微多孔膜が好ましい。
【0058】
ポリオレフィン微多孔膜は、高温に曝されたときに容易に破膜しない程度の耐熱性を有する観点から、ポリエチレンとポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜であることが好ましい。このようなポリオレフィン微多孔膜としては、ポリエチレンとポリプロピレンとが1つの層において混在している微多孔膜が挙げられる。このような微多孔膜においては、シャットダウン機能と耐熱性とを両立する観点から、95質量%以上のポリエチレンと5質量%以下のポリプロピレンとを含むポリオレフィン微多孔膜が好ましい。また、シャットダウン機能と耐熱性とを両立する観点から、ポリオレフィン微多孔膜が2層以上の積層構造を有し、少なくとも1層がポリエチレンを含み、少なくとも1層がポリプロピレンを含む積層構造を有するポリオレフィン微多孔膜が好ましい。
【0059】
ポリオレフィン微多孔膜に含まれるポリオレフィンは、重量平均分子量が10万〜500万であることが好適である。重量平均分子量が10万以上であると、良好な力学特性を確保できる。また、重量平均分子量が500万以下であると、シャットダウン特性が良好であり、成膜しやすい。
【0060】
ポリオレフィン微多孔膜は、例えば以下の方法で製造可能である。すなわち、
第1の方法は、溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出してシート化し、これを結晶化処理した後に延伸し、さらに熱処理をして微多孔膜とする方法である。また、第2の方法は、流動パラフィンなどの可塑剤とともに溶融したポリオレフィン樹脂をT−ダイから押し出し、これを冷却してシート化し、延伸した後、可塑剤を抽出して熱処理することで微多孔膜とする方法である。
【0061】
繊維状物からなる多孔性シートとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の耐熱性樹脂;セルロース;などの繊維状物からなる不織布または紙等の多孔性シートが挙げられる。
耐熱性樹脂とは、融点が200℃以上の樹脂、又は融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂を指す。
【0062】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層した構成を採用できる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる点で好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点では、耐熱性樹脂からなる多孔性の層や、耐熱性樹脂及び無機フィラーからなる多孔性の層を採用できる。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の耐熱性樹脂が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物;水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;などを好適に使用できる。複合化の手法としては、微多孔膜や多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを熱圧着する方法等が挙げられる。
【0063】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度(すなわち熱処理が施される前のガラス転移温度)は、30℃以下の範囲が好ましく、0℃以下の範囲がより好ましく、−10℃以下の範囲が更に好ましい。ガラス転移温度が30℃以下であることで、熱処理を容易に行うことができる。また、ガラス転移温度は、生産性の観点から、−50℃以上の範囲が好ましく、−30℃以上の範囲がより好ましい。
【0064】
多孔質基材は、本開示の製造方法への適合性の観点から、幅長が0.1m〜3.0mである長尺物が好ましい。
【0065】
多孔質基材の厚みとしては、機械強度の観点から、平均値(すなわち熱処理が施される前の厚みの平均値)で5μm〜50μmの範囲が好ましく、5μm〜30μmの範囲がより好ましく、5μm〜20μmの範囲がより好ましい。
多孔質基材の厚みは、接触式の厚み計(ミツトヨ社製のLITEMATIC)にて、10cm×30cm内の任意の20点を測定し、測定された値の平均値として求められる。なお、測定端子は、直径5mmの円柱状のものを用い、測定中に7gの荷重が印加されるように調整される。
【0066】
また、多孔質基材の厚みの標準偏差(すなわち熱処理が施される前の厚みの標準偏差)は、0.35μm〜30μmの範囲が好ましく、0.40μm〜30μmの範囲がより好ましく、0.45μm〜20μmの範囲が更に好ましく、0.45μm〜5μmの範囲が更に好ましく、0.45μm〜1μmの範囲が更に好ましい。このように厚みのばらつきが比較的大きな多孔質基材を用いても、本開示の製造方法によれば、塗工品質の向上と内部応力の低減を両立させることができる。
厚みの標準偏差は、上記のように測定される厚みから算出される。
【0067】
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117(2009))は、機械強度と物質透過性の観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0068】
多孔質基材の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、20%〜60%が好ましい。
【0069】
多孔質基材の平均孔径は、物質透過性の観点から、20nm〜100nmが好ましい。ここで、平均孔径は、ASTM E1294−89に準拠しパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0070】
[多孔質層]
多孔質層は、内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能となった層である。
【0071】
多孔質層は、複合膜が電池セパレータに適用される場合、電極と接着し得る接着性多孔質層であることが好ましい。接着性多孔質層は、多孔質基材の片面のみに有してもよく、更には多孔質基材の両面に有する場合が好ましい。
【0072】
多孔質層は、フィラー、樹脂及び溶媒を含む塗工液、樹脂及び溶媒を含む塗工液、又は、樹脂及び溶剤を含む水系エマルションを塗工することにより形成される。したがって、多孔質層は、樹脂及びフィラー、又は樹脂を含有している。
【0073】
以下、多孔質層、及び多孔質層の形成に用いられる塗工液に含有される樹脂等の成分について説明する。
【0074】
(樹脂)
多孔質層に含まれる樹脂は、種類に制限はない。多孔質層に含まれる樹脂としては、フィラーを連結する機能を有するもの(いわゆるバインダ樹脂)が好ましい。多孔質層に含まれる樹脂は、複合膜が電池セパレータとして利用される場合、電解液に安定であり、電気化学的に安定であり、無機粒子を連結する機能を有し、電極と接着し得るものが好ましい。多孔質層に含まれる樹脂は、複合膜を湿式法で製造する場合は製造適合性の観点から、疎水性樹脂が好ましい。
多孔質層は、樹脂を1種含んでもよく2種以上含んでもよい。
【0075】
樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のビニルニトリル類の単独重合体又は共重合体、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル類が好ましい。中でも、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニリデン共重合体(これらを総じて、ポリフッ化ビニリデン系樹脂ともいう。)が特に好ましい。
【0076】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(すなわちポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(すなわちポリフッ化ビニリデン共重合体)、及びこれらの混合物などが挙げられる。
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、トリフロロエチレン、トリクロロエチレン、フッ化ビニル等が挙げられ、1種類又は2種類以上を用いることができる。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、乳化重合または懸濁重合により得られる。
【0077】
多孔質層に含まれる樹脂は、耐熱性の観点で、耐熱性樹脂(融点が200℃以上の樹脂、又は融点を有さず分解温度が200℃以上の樹脂)が好ましい。
耐熱性樹脂としては、例えば、ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、セルロース、及びこれらの混合物が挙げられる。中でも、多孔構造の形成のしやすさ、無機粒子との結着性、耐酸化性などの観点で、全芳香族ポリアミドが好ましい。全芳香族ポリアミドの中でも、成形が容易という観点で、メタ型全芳香族ポリアミドが好ましく、特にポリメタフェニレンイソフタルアミドが好適である。
【0078】
なお、本発明の実施形態に係る複合膜の製造方法における樹脂としては、上記のほかに、粒子状樹脂又は水溶性樹脂を適宜用いることができる。粒子状樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂やフッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の樹脂を含む樹脂粒子が挙げられる。樹脂粒子は、樹脂粒子を水等の分散媒に分散させて塗工液を調製して使用できる。水溶性樹脂としては、例えば、セルロース系樹脂及びポリビニルアルコール等を挙げることができる。この場合、溶媒として水を使用できる。上記の粒子状樹脂及び水溶性樹脂は、凝固工程を乾式法にて実施する場合に好適である。
【0079】
(フィラー)
多孔質層に含まれるフィラーは、種類に制限はなく、無機フィラー及び有機フィラーのいずれでもよい。フィラーは、一次粒子の体積平均粒径が0.01μm〜10μmである粒子が好ましい。フィラーの体積平均粒径が上記範囲内であると、製造時の滑り性を高めて歩留まりを高め、かつ、電極との接着性及び電解液の保持性を満足するような特性のバランスを図ることができる。フィラーの体積平均粒径は、0.1μm〜10μmであることがより好ましく、0.1μm〜3.0μmであることが更に好ましい。
フィラーの体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定される値である。
【0080】
フィラーとしては、多孔化及び耐熱性の観点から、無機粒子が好ましい。多孔質層に含まれる無機粒子は、電解液に安定であり、且つ、電気化学的に安定なものが好ましい。多孔質層は、無機粒子を1種含んでもよく2種以上含んでもよい。
【0081】
無機粒子としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化クロム、水酸化ジルコニウム、水酸化セリウム、水酸化ニッケル、水酸化ホウ素等の金属水酸化物;シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;ケイ酸カルシウム、タルク等の粘土鉱物;などが挙げられる。中でも、難燃性付与や除電効果の観点で、金属水酸化物及び金属酸化物が好ましい。無機粒子は、シランカップリング剤等により表面修飾されたものでもよい。
【0082】
無機粒子の粒子形状は任意であり、球形、楕円形、板状、棒状、不定形のいずれでもよい。無機粒子は一次粒子の体積平均粒径が、多孔質層の成形性、複合膜の物質透過性、及び複合膜のすべり性の観点で、0.01μm〜10μmであることが好ましく、0.1μm〜10μmであることがより好ましく、0.1μm〜3.0μmであることが更に好ましい。
【0083】
多孔質層が無機粒子を含有する場合、樹脂と無機粒子の合計量に占める無機粒子の割合は、例えば30体積%〜90体積%である。
【0084】
多孔質層は、フィラーとして有機フィラーを含有していてもよい。有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリ(メタ)アクリル酸、架橋ポリ(メタ)アクリル酸エステル、架橋ポリシリコーン、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物等の架橋高分子からなる粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミド等の耐熱性樹脂からなる粒子;などが挙げられる。
【0085】
〜多孔質層の物性〜
多孔質層の厚さは、機械強度の観点から、多孔質基材の片面において0.5μm〜5μmが好ましい。
【0086】
多孔質層の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、30%〜80%が好ましい。
【0087】
多孔質層の孔径は、物質透過性の観点から、20nm〜100nmが好ましい。ここで、平均孔径は、ASTM E1294−89に準拠しパームポロメーターを用いて測定される値である。
【0088】
[複合膜]
本開示の複合膜の製造方法では、熱可塑性樹脂を含む多孔質基材上に多孔質層を有する複合膜が作製される。
【0089】
複合膜の厚さは、例えば5μm〜100μmであり、電池セパレータ用途では、例えば5μm〜50μmとすることができる。
【0090】
複合膜のガーレ値(JIS P8117(2009))は、機械強度と物質透過性の観点から、50秒/100cc〜800秒/100ccが好ましい。
【0091】
複合膜の空孔率は、機械強度、ハンドリング性、及び物質透過性の観点から、30%〜60%が好ましい。
【0092】
複合膜の用途としては、例えば、電池セパレータ、コンデンサー用フィルム、ガスフィルタ、液体フィルタ等が挙げられる。中でも、特に好適な用途として、本開示における複合膜は、非水系二次電池用セパレータに用いられる。
【実施例】
【0093】
以下、本発明の一実施形態を実施例により更に具体的に説明する。但し、本発明の一実施形態に係る複合膜の製造方法は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
(測定・評価の方法)
以下に示す実施例及び比較例で作製したセパレータ及びリチウムイオン二次電池について、以下の測定、評価を行なった。測定及び評価の結果は、下記の表1に示す。
【0095】
−多孔質基材の厚み−
多孔質基材に対して、接触式の厚み計(ミツトヨ社製、LITEMATIC)にて10cm×30cm内の任意の20点を測定し、測定値から厚みの平均値及び標準偏差を算出した。なお、測定端子は、直径5mmの円柱状のものを用い、測定中に7gの荷重が印加されるように調整した。
【0096】
−塗工液の粘度−
塗工液の25℃での粘度(Pa・s)を、回転型粘度計(英弘精機社製B型粘度計)を用いて測定した。
【0097】
−多孔質基材の撓み−
多孔質基材の撓みとして、幅方向両端からの弛み幅と、幅方向端部において膜面から重力方向に垂れ下がった端部までの高さの差(垂れ幅)と、を下記方法で測定した。
(1)弛み幅
図3に示すように、搬送路に2m離して固定配置された2つの支持ロール間に、ポリエチレン微多孔膜を、一定張力(各々の実施例又は比較例における塗工時の基材伸度)を与えて引っ張った状態で張り、弛んでいる領域の幅方向端部からの距離(弛み幅P)を測定した。
(2)垂れ幅
図3図4に示すように、搬送路に2m離して固定配置された2つの支持ロール間に、ポリエチレン微多孔膜を、一定張力(各々の実施例又は比較例における塗工時の基材伸度)を与えて引っ張った状態で張り、所定の高さから膜面(弛みのない領域)までの距離と、所定の高さから重力方向に垂れ下がった端部までの距離と、の差(垂れ幅Q)を算出した。
【0098】
−熱可塑性樹脂のTg−
多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量計(DSC;Q−200、TAインスルメンツ社製)を用いて下記の条件にて測定した。Tgは、DSC曲線における温度の下降開始点と下降終了点との中間温度を小数点以下四捨五入して求めた。
<条件>
・測定室:窒素雰囲気
・昇温速度:5℃/min
・測定開始温度:−50℃
・測定終了温度:200℃
・試料量:5mg
【0099】
−熱可塑性樹脂のTm−
多孔質基材に含まれる熱可塑性樹脂の融点(Tm)を、示差走査熱量計(DSC;Q−200、TAインスルメンツ社製)を用いて上記と同条件にて測定した。
【0100】
(実施例1)
−塗工液調製工程−
ポリメタフェニレンイソフタルアミドを、ジメチルアセトアミドとトリプロピレングリコールとの混合溶媒に溶解し、得られた溶液に水酸化アルミニウム(無機フィラー;一次粒子の体積平均粒径:0.8μm)を分散させることにより、塗工液を調製した。
塗工液の組成は、質量比で、水酸化アルミニウム:ポリメタフェニレンイソフタルアミド:ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=16:4:40:40とした。
【0101】
−熱処理工程−
多孔質基材として、ポリエチレン(熱可塑性樹脂;ガラス転移温度(Tg):−20℃、融点(Tm):135℃)を用いて成膜された、厚み16μm(平均値)、幅長450mmの長尺状のポリエチレン微多孔膜(ガーレ値:200秒/100ml、空孔率:50%)を用意した。
図3図4に示すように、巻出ロールから繰り出されて搬送路を搬送されたポリエチレン微多孔膜は、幅方向両端からの弛み幅Pがそれぞれ95mmであり、幅方向端部において膜面から重力方向に垂れ下がった端部までの高さの差(垂れ幅Q)が17mmであった。なお、弛み幅及び垂れ幅は、上記の方法で測定した。
このポリエチレン微多孔膜を60℃の熱板に1.2秒間接触させて熱処理を施した。
【0102】
−塗工工程−
熱処理が施されたポリエチレン微多孔膜は、徐々に張力が与えられながら塗工装置の配置位置まで搬送され、ポリエチレン微多孔膜にかかる張力が9N(ニュートン)に達したところで幅方向端部における弛みが消滅した。このときのポリエチレン微多孔膜の伸度は、0.1%であった。
ポリエチレン微多孔膜を、伸度0.1%の張架応力(=9N)をかけて引っ張った状態で、ポリエチレン微多孔膜の一方面にダイコータにより上記塗工液を塗工し、厚み3μmの塗工層を形成した。塗工工程におけるポリエチレン微多孔膜の搬送速度は、10m/分とした。
【0103】
−凝固工程−
塗工層が形成されたポリエチレン微多孔膜を凝固槽に搬送し、凝固槽中に収容された凝固液(水:ジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=43:40:17[質量比]、液温30℃)に浸漬して塗工層を凝固させ、複合膜を得た。
【0104】
−水洗工程、乾燥工程−
次いで、複合膜を水槽に搬送し、水槽に収容された、水温30℃に調温された水浴中を通して水洗した。引き続いて、水洗後の複合膜を乾燥装置内を通過させて乾燥させた。
【0105】
上記の各工程を連続的に実施し、ポリエチレン微多孔膜の一方面に多孔質層を有する複合膜を作製した。
【0106】
−評価−
得られた複合膜について、以下の評価を行った。評価結果は、下記表1に示す。
【0107】
−1.塗工品質−
多孔質基材上に塗工された塗工層について、幅方向における厚みを12点測定して平均値を求めると共に、塗工層の表面状態を目視で確認し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:多孔質基材の全面に塗工層が形成されており、平均値に対する膜厚差は0.2μm未満であった。
B:多孔質基材の全面に塗工層が形成されており、平均値に対する膜厚差は0.2μm〜1μmであった。
C:多孔質基材の一部に未塗工領域があり、平均値に対する膜厚差も1μmを超えていた。
【0108】
−2.内部応力−
得られた複合膜について、一定の大きさに切り出した塗工層を一定時間経過した後、MD方向及びTD方向の寸法変化率を算出することにより、内部応力を求め、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:内部応力が0.1%未満であり、複合膜に波状の変形はみられなかった。
B:内部応力が0.2%以上0.4%未満であり、複合膜に波状の変形がみられた。
C:内部応力が0.4%以上であり、複合膜に波状の変形が顕著にみられた。
【0109】
(実施例2〜7、実施例9)
実施例1において、多孔質基材の性状、熱処理工程の条件、並びに塗工時の張架応力及び基材伸度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各工程を連続的に実施し、ポリエチレン微多孔膜の一方面に多孔質層を有する複合膜を作製した。なお、実施例9では、ポリプロピレン(熱可塑性樹脂)を用いて成膜された、厚み18μm(平均値)、幅長450mmの長尺状のポリプロピレン微多孔膜(ガーレ値:200秒/100ml、空孔率:50%)を用いた。
また、実施例1と同様の評価を行なった。評価結果は、表1に示す。
【0110】
(実施例8)
塗工液調製工程において、ポリマーとしてポリメタフェニレンイソフタルアミドの代わりにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、各工程を連続的に実施し、ポリエチレン微多孔膜の一方面に多孔質層を有する複合膜を作製した。また、実施例1と同様の評価を行なった。評価結果は、表1に示す。
【0111】
(比較例1〜6)
実施例1において、熱処理工程の条件、及び塗工時の基材伸度を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各工程を連続的に実施し、ポリエチレン微多孔膜の一方面に多孔質層を有する複合膜を作製した。また、実施例1と同様の評価を行なった。評価結果は、表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に示すように、多孔質基材への塗工液の塗工前に、あらかじめ多孔質基材に所定の熱処理を施しておくことで、均一性の高い塗工層を安定的に形成することができ、得られる複合膜の内部応力も低く抑えることができる。多孔質基材として用いたポリエチレン及びポリプロピレンのいずれの場合も良好な結果を示した。
これに対して、所定の熱処理を行わなかった比較例1〜4では、形成された塗工層は均一でなく、多孔質基材の一部に塗工不良が発生する場合もあった。また、塗工時に多孔質基材に強い応力を与えた比較例3では、得られた複合膜の内部応力が高く、所望の形状を維持できなかった。この点は、比較例6に示すように、熱処理を施しても複合膜の内部応力は高くなり、所望の形状を維持することはできなかった。
なお、多孔質基材の融点を超える熱処理温度で熱処理を行った比較例5では、基材自体の溶融がみられ、搬送及び塗工が困難であった。
【0114】
日本出願2015−073079の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4