(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134098
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】石積み構造
(51)【国際特許分類】
E02B 3/14 20060101AFI20170515BHJP
E02D 29/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
E02B3/14 303
E02D29/02 304
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-22247(P2012-22247)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-159950(P2013-159950A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年10月2日
【審判番号】不服2016-1720(P2016-1720/J1)
【審判請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000175021
【氏名又は名称】三井化学産資株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】高梨 和光
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雄作
(72)【発明者】
【氏名】河野 重行
(72)【発明者】
【氏名】井出 一直
(72)【発明者】
【氏名】清水 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】大野 友則
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 一典
(72)【発明者】
【氏名】阿曽 利光
【合議体】
【審判長】
赤木 啓二
【審判官】
藤田 都志行
【審判官】
小野 忠悦
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0080920(US,A1)
【文献】
特開2007−247302(JP,A)
【文献】
特開2003−193685(JP,A)
【文献】
特開2002−70327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04-3/14
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の積石どうしが摩擦力により一体的に設けられている石積み体の表面に樹脂製の補強塗膜が被覆されてなり、
前記石積み体は、複数の平面を有する形状をなし、
前記補強塗膜は、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、又はポリウレタン樹脂からなり、前記石積み体の表面全体に被覆されてなり、
前記石積み体の一体性が保持されずに破壊が生じても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記補強塗膜によって被覆された前記石積み体の形状が保持された状態をなし、
前記石積み体の局所破壊防止および全体破壊防止可能に設けられていることを特徴とする石積み構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の積石どうしが摩擦力により一体的に設けられている石積み体が補強された石積み構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石積み橋脚や石積み擁壁などの石積み構造が知られている。このような石積み構造は、石積み間の摩擦力で互いの積石どうしが一体化し、容易に崩れないように構成されているが、さらなる一体性を高めるために積石どうしを接着剤や金属線などを用いて固定していることも行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の石積み構造では、積石どうしを接着剤や金属線などを用いて固定しても、例えば深度5以上の地震時においては、石積み構造全体としての強度や安定性は十分なものではないことから、より確実な補強方法が求められていた。石積み構造の場合、単なる部分的な積石の飛散に留まらず、局所的な破壊であっても構造全体が崩壊するおそれがあり、周囲へ被害は勿論、石積み構造の上に設けられている構造物への被害も発生するという問題があった。
また、石積み構造は古い既設の構造物に多く、新設の場合のような補強対応が困難なことから、既設の石積み構造に対する補強方法が求められており、その点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、石積み全体の形状を保持することができ、破壊された石積みから生じる積石の散逸を防止することができる石積み構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る石積み構造では、複数の積石どうしが摩擦力により一体的に設けられている石積み体の表面に樹脂製の補強塗膜が被覆されてなり、前記石積み体は、複数の平面を有する形状をなし、前記補強塗膜は、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有するポリウレア樹脂、又はポリウレタン樹脂からなり、前記石積み体の表面
全体に被覆されてなり、前記石積み体の一体性が保持されずに破壊
が生じても、前記補強塗膜の変形抵抗力によって前記補強塗膜によって被覆された前記石積み体の形状が保持された状態をなし、前記石積み体の局所破壊防止および全体破壊防止可能に設けられていることを特徴としている。
【0007】
本発明では、
ポリウレア樹脂、又はポリウレタン樹脂からなる硬化剤と、の化学反応により形成された化合物からなる補強塗膜が、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂であり、例えば10〜25MPa程度の高強度と例えば200%以上の大きな破断伸び(伸び変形性能)を有する。このため、石積み体の一体性が保持されずに破壊が生じても、補強塗膜が石積み体の変動(ずれ)に追従して伸び変形するので、補強塗膜によって石積み体の変動に応じたエネルギー吸収性能が発揮される。したがって、地震動や津波等の衝撃力に対応することが可能な石積み構造を設けることができる。
【0008】
仮に、地震動や衝撃力を受けることにより石積み体が積石の変動によって破壊されても、補強塗膜は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜によって石積み体の表面が被覆された状態が維持される。これにより、石積み体の積石の散逸が防止され、また、石積み体が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状が保持される。例えば、石積み体が石積み橋脚の場合において、津波の発生時に破壊によって散逸した積石が津波とともに流出し、他の構造物などに衝突するといった被害の増大を防止することができる。しかも、補強塗膜は変形抵抗を有しているので、石積み体に衝撃が加わって変動やずれが生じたときに、補強塗膜の変形抵抗力によって石積み体を元の形状に戻す力が働く。その結果、石積み体は、一旦大きく動いた後に若干戻され、最終的な変動量を小さく抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の石積み構造によれば、地震動や津波等の衝撃力によって石積み体が破壊されたとしても、その石積み体の積石の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができる。そのため、積石の散逸に伴う被害を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態による石積み橋脚の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】ポリウレア樹脂の力学的特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態による石積み構造について、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1および
図2に示すように、本実施の形態による石積み橋脚1(石積み構造)は、複数の積石2Aどうしが摩擦力により一体的に設けられている石積み体2の表面に靭性の高い樹脂製の補強塗膜3を被覆することで補強された構造である。
石積み体2は、天端2a、底面2b、および4つの傾斜側面2cを有する四角錘台状をなしている。
【0018】
石積み体2に被覆される補強塗膜3は、天端2aおよび4つの傾斜側面2cの表面を所定の塗布厚(例えば
図2に示す厚さ寸法Dは4mm)をもって被覆されている。
つまり、石積み体2を被覆する補強塗膜3は、石積み体2の天端2aから4つの傾斜側面2cに亘って連設されて一体に形成されている。
【0019】
上記した補強塗膜3は、石積み体2の表面に吹き付けやローラーなどで塗布される樹脂製の塗膜であって、イソシアネートと、ポリオール及びアミンのうちの少なくとも一方からなる硬化剤との化学反応により形成された化合物からなる。例えば、補強塗膜3としては、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物であるポリウレア樹脂を用いることができる。
【0020】
具体的に補強塗膜3は、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂からなる。例えば、ポリウレア樹脂の場合には、
図3に示すような力学的特性を有している。ここで、補強塗膜3を構成する合成樹脂としては、例えば引張強度が鉄筋の十分の一程度の20MPa程度(10〜25MPa)であって、破断伸びが200%以上の物性を有する樹脂からなり、例えば「スワエールAR−100(登録商標:三井化学産資株式会社製)」が用いられる。なお、補強塗膜3の厚さ寸法Dは、2mm以上であることが好ましい。
【0021】
ここで、石積み体2に補強塗膜3を被覆する施工方法としては、塗布する石積み体2の表面を十分に清掃して塵等を取り除いた後、プライマーを塗布し、その後、ポリウレア樹脂を石積み体2の天端2aおよび各傾斜側面2cの全面にわたって所定厚さだけ塗布する。これにより、石積み体2に層状の補強塗膜3が形成される。なお、プライマーの塗布は省略することも可能である。また、各積石2Aは、一般的に表面が凸凹をなしているので、補強塗膜3と石積み体2との付着性を高めるため表面を斫る加工は不要であるが、必要であれば表面を斫ってもよい。
【0022】
次に、上記した構成からなる石積み橋脚1の作用について、具体的に説明する。
図1および
図2に示すように、本実施の形態では、補強塗膜3が、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂であるため、石積み体2の一体性が保持されずに破壊が生じても、補強塗膜3が石積み体2の変動(ずれ)に追従して伸び変形するので、補強塗膜3によって石積み体2の変動に応じたエネルギー吸収性能が発揮される。したがって、地震動や津波等の衝撃力に対応することが可能な石積み橋脚1を設けることができる。
【0023】
仮に、地震動や衝撃力を受けることにより石積み体2が積石2Aの変動によって破壊されても、補強塗膜3は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜3によって石積み体2の表面が被覆された状態が維持される。これにより、石積み体2の積石2Aの散逸が防止され、また、石積み体2が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状が保持される。例えば、石積み体2が本実施の形態のように石積み橋脚1の場合において、津波の発生時に破壊によって散逸した積石2Aが津波とともに流出し、他の構造物などに衝突するといった被害の増大を防止することができる。
【0024】
しかも、補強塗膜3は変形抵抗を有しているので、石積み体2に衝撃が加わって変動やずれが生じたときに、補強塗膜3の変形抵抗力によって石積み体2を元の形状に戻す力が働く。その結果、石積み体2は、一旦大きく動いた後に若干戻され、最終的な変動量を小さく抑えることができる。
【0025】
また、石積み体2に補強塗膜3を吹き付けや塗布することによって形成されるので、容易に且つ安価に施工することができ、既設の防護壁においても容易に施工できる。
【0026】
また、石積み橋脚1の補強塗膜3が石積み体2のうち2面以上に設けられているので、その石積み体2の2面以上が補強塗膜3によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持がより効果的に発揮される。
【0027】
上述のように本実施の形態による石積み構造では、地震動や津波等の衝撃力によって石積み体2が破壊されたとしても、その石積み体2の積石2Aの散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができる。そのため、積石2Aの散逸に伴う被害を抑えることができる。
【0028】
次に、上述した実施の形態による石積み橋脚1(石積み構造)の効果を裏付けるために行った試験例(実施例)について以下説明する。
【0029】
(実施例)
実施例では、直方体のコンクリート試験体の中央を切断し、再び突き合せた状態にし、その試験体の表面にポリウレア樹脂を塗布した供試体を使用し、載荷装置を用いて衝撃曲げ試験を行い、変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
コンクリート試験体は、縦150mm×横150mmの断面で長さ寸法が530mmの形状である。載荷条件としては、供試体の両端を支持した状態で、切断部に対して30kNの荷重を準静的な0.0001m/sの速度で載荷を付与した。そして、供試体は上面および下面の2面のみに塗布厚4mmのポリウレア樹脂を塗布したものである。
【0030】
図4は、上記供試体において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
その結果、双方の供試体どうしの切断部において、上部が互いに圧縮されるように押圧し、下部ではポリウレア樹脂が長さ方向に引っ張られながら伸びていることがわかり、
図4に示すように切断前の直方体のコンクリートのような荷重変位を示していることが確認できた。このように、ポリウレア樹脂を塗布することで、切断されている供試体どうしをラッピングする効果が得られ、形状保持効果が高いことがわかる。
【0031】
以上、本発明による石積み構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では石積み構造として石積み橋脚1を適用対象としているが、これに限定されることはなく、例えば石積み擁壁などの他の形態の石積み構造に適用することも可能である。また、石積み橋脚1の形状についても、本実施の形態に限定されることはなく、他の形状であってもかまわない。
【0032】
さらに、石積み体2の積石は、石でなくコンクリートブロックやレンガなどであっても良い。
さらに、上記した実施の形態では、石積み体2のうち天端2aおよび4つの傾斜側面2cに補強塗膜3を設けているが、このような被覆範囲に制限されることはなく、傾斜側面2cのみを補強塗膜3で被覆した構成とすることも可能であるし、さらに傾斜側面2cについても4面ではなく任意の2面、あるいは3面としてもよい。
【0033】
また、補強塗膜3において、例えばガラス片やガラス繊維、ガラスフリット等を分散させてなる不燃性を有する混入材を、ポリウレア樹脂に混入させることも可能である。あるいは混入材として、例えばコンクリート、煉瓦、瓦、石綿スレート、鉄鋼、アルミニウム、モルタル、漆喰等のガラス以外の不燃材料であっても良い。
【0034】
また、上記した実施の形態では、補強塗膜3として、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレア樹脂が用いられているが、本発明は、イソシアネートとポリオールとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレタン樹脂を補強塗膜として用いることも可能であり、また、イソシアネートとポリオールとアミンとの化学反応により形成された化合物からなる樹脂を補強塗膜として用いることも可能である。
【0035】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 石積み橋脚(石積み構造)
2 石積み体
2A 積石
2a 天端
2c 傾斜側面
3 補強塗膜