(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
WT1ペプチドの抗原提示細胞への添加が、WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリペプチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを含む細胞の添加により行われる、請求項1記載の方法。
WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞を活性化させるための、WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを含む細胞を含む組成物であって、該WT1ペプチドが、アミノ酸配列:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His(配列番号:2)からなるペプチドであり、該抗原提示細胞が、HLA−DRB1*0101陽性対象、HLA−DRB1*0401陽性対象、HLA−DRB1*0403陽性対象、HLA−DRB1*0406陽性対象、HLA−DRB1*0803陽性対象、HLA−DRB1*0901陽性対象、HLA−DRB1*1101陽性対象、HLA−DRB3*0202陽性対象、HLA−DRB4*0101陽性対象、HLA−DPB1*0201陽性対象またはHLA−DPB1*0301陽性対象のいずれかに由来するものである組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の解決課題は、特定のWT1ペプチドを用いることにより、広範囲のMHCクラスII分子陽性対象に適用してヘルパーT細胞を活性化する方法、細胞傷害性T細胞を活性化する方法、細胞傷害性T細胞の活性化誘導剤、および癌の治療/予防用医薬組成物などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アミノ酸配列:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys Hisを有するペプチドが、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子、HLA−DPB1
*0301分子に結合し、ヘルパーT細胞を活性化し、および/または細胞傷害性T細胞を活性化することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞を活性化させる工程を含む、ヘルパーT細胞の活性化方法であって、該WT1ペプチドが、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである方法、
(2)WT1ペプチドが、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子およびHLA−DPB1
*0301分子のうちの少なくとも2つのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである、(1)記載の方法、
(3)WT1ペプチドが、さらに、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子および/またはHLA−DPB1
*0901分子に結合する能力を有するものである、(1)または(2)記載の方法、
(4)WT1ペプチドの抗原提示細胞への添加が、WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリペプチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを含む細胞の添加により行われる、(1)から(3)のいずれか1つ記載の方法、
(5)WT1ペプチドが、アミノ酸配列:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His(配列番号:2)を含むペプチド、その変異体または修飾体である、(1)〜(4)のいずれか1つ記載の方法、
(6)WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞を活性化させるための、WT1ペプチドを含む組成物であって、該WT1ペプチドが、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである組成物、
(7)WT1ペプチドが、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子およびHLA−DPB1
*0301分子のうちの少なくとも2つのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである、(6)記載の組成物、
(8)WT1ペプチドが、さらに、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子および/またはHLA−DPB1
*0901分子に結合する能力を有するものである、(6)または(7)記載の組成物、
(9)WT1ペプチドの抗原提示細胞への添加が、WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを含む細胞の添加により行われる、(6)〜(8)のいずれか1つ記載の組成物、
(10)WT1ペプチドが、アミノ酸配列:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His(配列番号:2)を含むペプチド、その変異体または修飾体である、(6)〜(9)のいずれか1つ記載の組成物、
(11)WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体が提示されている抗原提示細胞であって、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子である、抗原提示細胞、
(12)WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体を認識するヘルパーT細胞であって、前記MHCクラスII分子が、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子である、ヘルパーT細胞、
(13)(11)記載のヘルパーT細胞により活性化される、細胞傷害性T細胞、
(14)(6)〜(10)のいずれか1つ記載の組成物、(11)記載の抗原提示細胞、(12)記載のヘルパーT細胞、または(13)記載の細胞傷害性T細胞のいずれかを有効成分として含む、癌を治療または予防するための医薬組成物、
(15)WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、または該発現ベクターを含む細胞のいずれかを有効成分として含む、細胞傷害性T細胞を活性化させるための医薬組成物であって、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子、HLA−DPB1
*0301分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、またはHLA−DRB4
*0101分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子を有する対象に投与するための医薬組成物、
(16)WT1ペプチドに特異的に結合する抗体であって、該WT1ペプチドが、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである抗体、
(17)HLA−DRB1
*0101、HLA−DRB1
*0401、HLA−DRB1
*0403、HLA−DRB1
*0406、HLA−DRB1
*0803、HLA−DRB1
*0901、HLA−DRB1
*1101、HLA−DRB3
*0202、HLA−DRB4
*0101、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子陽性対象におけるWT1特異的ヘルパーT細胞の存在または量を決定する方法であって、
(a)前記対象から取得した試料をWT1ペプチドを用いて刺激し、
(b)サイトカインまたはヘルパーT細胞の存在または量を調べる、
工程を含み、サイトカインまたはヘルパーT細胞の存在または量の増大がWT1特異的ヘルパーT細胞の存在または量を示すものである方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、WT1ペプチドを用いることにより、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のいずれかのMHCクラスII分子を有する広範囲の対象に適用してヘルパーT細胞を活性化させる方法、そのための組成物、細胞傷害性T細胞を活性化させる方法、そのための組成物、細胞傷害性T細胞の活性化誘導剤、ならびにヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞を活性化することによる癌の治療および/または予防用医薬組成物などが得られるので、かかるMHCクラスII分子を有する対象におけるインビボおよびインビトロでのヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞の活性化、さらには癌の治療および予防などが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、1の態様において、WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を活性化する工程を含むヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞の活性化方法であって、前記WT1ペプチドが、MHCクラスII分子に結合する能力を有するものである方法を提供する。本発明において、細胞傷害性T細胞を活性化する工程は、ヘルパーT細胞を活性化する工程を経ることにより行われてもよい。また、本発明に用いられるWT1ペプチドは、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである。本発明に用いられるWT1ペプチドはまた、上記MHCクラスII分子のうちの少なくとも2つまたはそれ以上のMHCクラスII分子に結合する能力を有するものであってもよい。また、本発明に用いられるWT1ペプチドは、例えば、HLA−DR分子、HLA−DQおよびHLA−DP分子のうちのいずれのMHCクラスII分子に結合する能力を有していてもよい。
【0014】
本発明において、WT1ペプチドは、配列番号:1に示されるヒトWT1タンパク質のアミノ酸配列の一部を有するペプチドであってもよい。本発明のペプチドは、上記特徴を有する限り、そのアミノ酸配列および長さは特に限定されないが、ペプチドが長すぎると蛋白分解酵素の作用を受けやすくなり、短すぎるとペプチド収容溝にうまく結合できない。本発明のペプチドの長さは、好ましくは10〜25アミノ酸、より好ましくは15〜21アミノ酸、さらに好ましくは16〜20アミノ酸、例えば16アミノ酸、17アミノ酸、18アミノ酸、あるいは19アミノ酸である。本発明のペプチドの具体例は、アミノ酸配列:Lys Arg Tyr Phe Lys Leu Ser His Leu Gln Met His Ser Arg Lys His(配列番号:2)を含むものである。
【0015】
さらに、本発明に用いられるWT1ペプチドは、上記ペプチドの変異体も包含する。変異体は、例えば、配列番号:2に示すアミノ酸配列において、数個、例えば、1〜9個まで、好ましくは、1〜5個、1〜4個、1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個のアミノ酸が、置換、または欠失もしくは付加されたアミノ酸配列を有するペプチドからなる群から選択されるペプチドを含んでもよい。ペプチド中のアミノ酸の置換はいずれの位置でいずれの種類のアミノ酸との間で行われてもよく、保存的なアミノ酸置換が好ましい。保存的なアミノ酸置換の例としては、Glu残基をAsp残基に、Phe残基をTyr残基に、Leu残基をIle残基に、Ala残基をSer残基に、His残基をArg残基に置換することなどが挙げられる。アミノ酸の付加もしくは欠失は、ペプチド中のN末端およびC末端で行うことが好ましいが、配列内部において行われてもよい。本発明のペプチドの好ましい具体例は、配列番号:2を有するものであるが、上記のいずれのペプチドであっても、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものであって、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞(本明細書において、CTLともいう)を活性化することが条件となる。本明細書において、上記WT1ペプチドは「WT1−332」とも記載される。また、一般に、ヒトMHC分子をHLA分子ともいうので、本明細書ではMHCをHLAと同義語として使用する。
【0016】
本発明のペプチドはまた、上記アミノ酸配列の修飾体であってもよい。上記アミノ酸配列中のアミノ酸残基を公知の方法にて修飾することができる。そのような修飾体は、例えばアミノ酸残基の側鎖中の官能基にエステル化、アルキル化、ハロゲン化、リン酸化などを施したものであってもよい。また、上記アミノ酸配列を含むペプチドのN末端および/またはC末端に、種々の物質を結合させることができる。例えば、アミノ酸、ペプチド、それらのアナログ等を結合させてもよい。例えば、ヒスチジンタグを付加してもよく、チオレドキシン等の蛋白とともに融合蛋白となっていてもよい。あるいは、WT1ペプチドに検出可能な標識を結合させてもよい。本発明のペプチドにこれらの物質が結合している場合、これらの物質が例えば、生体内酵素などにより、あるいは細胞内プロセッシングなどの過程により処理され、最終的に上記アミノ酸配列からなるペプチドを生じるものであってもよく、MHCクラスII分子との複合体として細胞表面に提示されることにより、ヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞誘導効果を得ることができる。これらの物質は、本発明のペプチドの溶解性を調節するものであってもよく、耐プロテアーゼ作用等その安定性を向上させるものであってもよく、また例えば、所定の組織・器官に特異的に本発明のペプチドをデリバリーするようなものであってもよく、あるいはまた抗原提示細胞の取込み効率を増強させる作用などを有するものであってもよい。これらの物質はまた、CTL誘導能を増大させるもの、例えば、本発明のペプチド以外のヘルパーペプチドであってもよい。
【0017】
本発明に用いられるWT1ペプチドは、当該技術分野において通常用いられる方法またはそれらの変法を用いて合成することができる。かかる合成方法は、例えば、Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;The Proteins, Vol 2, Academic Press Inc., New York, 1976;ペプチド合成、丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成、広川書店,1991などに記載されている。本発明に用いられるペプチドはまた、当該ペプチドをコードするヌクレオチド配列情報に基づき、遺伝子工学的手法を用いて製造することもできる。かかる遺伝子工学的手法は、当業者に周知のものである。これらの手法は、文献に記載される方法などに準じて行うことができる(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory(1983)、DNA Cloning, DM.Glover, IRL PRESS(1985))。
【0018】
本発明は、上で説明したWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列にも関する。WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列はDNA配列であってもよく、RNA配列であってもよい。本発明において、WT1ペプチドを用いる代わりに、これらのポリヌクレオチド配列を用いてもよい。これらのポリヌクレオチド配列を適当なベクターに組み込んで使用してもよい。ベクターとしては、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられ、例えば、pUC118、pUC119、pBR322、pCR3、pYES2、pYEUra3、pKCR、pCDM8、pGL2、pcDNA3.1、pRc/RSV、pRc/CMV、pAcSGHisNT−A、λZAPII、λgt11などが挙げられる。ベクターは、発現誘導可能なプロモーター、シグナル配列をコードする遺伝子、選択用マーカー遺伝子、ターミネーターなどの因子を適宜有していてもよい。これらの遺伝子の細胞や生体への導入方法、発現方法等は当業者に公知である。
【0019】
本発明に用いられる抗原提示細胞は、MHCクラスII分子とともに上記WT1ペプチドを含む抗原ペプチドをヘルパーT細胞に提示することができる細胞であって、例えば、樹状細胞、末梢血単核球などを意味する。それゆえ、本発明に用いられる抗原提示細胞が由来する対象は、添加するWT1ペプチドが結合することができるMHCクラスII分子と同一の分子(例えば、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子などのうちのいずれか1つまたはそれ以上のMHCクラスII分子)を有するものでなければならない。
【0020】
本発明において、WT1ペプチドの抗原提示細胞への添加は、WT1ペプチドを添加することにより直接的に、あるいはWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドもしくはWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの添加により、または該発現ベクターを含む細胞の添加により間接的に行われてもよい。これらの添加は、当該技術分野で公知の方法により実施することができる。前記WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および該発現ベクターを含む細胞は、当業者によく知られた手法により取得することができる。具体的には、本発明に用いられるポリヌクレオチドは、上記WT1ペプチドのアミノ酸配列(例えば、配列番号:2に示すアミノ酸配列)に基づき決定できる。前記ポリヌクレオチドは、例えば、DNAまたはRNA合成方法、PCR法などにより製造することができる。また、上記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの種類、上記ポリヌクレオチド配列以外に含まれる配列等は、当該発現ベクターを導入する宿主の種類、目的等に応じて適宜選択でき、プラスミド、ファージベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。発現ベクターを含む細胞は、例えば、宿主細胞を形質転換することにより、作製することができる。宿主細胞としては、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などが挙げられる。宿主細胞への導入方法は、通常の方法、例えば、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッドを用いることができる。
【0021】
一般的に、ヘルパーT細胞は、T細胞表面のTCR・CD3複合体が抗原提示細胞表面のMHCクラスII分子を介して抗原ペプチドを認識し、T細胞表面のインテグリンが抗原提示細胞表面のインテグリンリガンドで刺激されることにより、活性化される。本明細書におけるヘルパーT細胞の活性化は、ヘルパーT細胞の活性化のみならず、ヘルパーT細胞の誘導・増殖を含むものとする。さらに、本発明において活性化されるヘルパーT細胞は、未分化なT細胞(例えば、ナイーブT細胞)などであってもよい。活性化されたヘルパーT細胞は、B細胞および細胞傷害性T細胞の誘導・増殖・活性化を促進することにより免疫系を活性化する機能を有する。それゆえ、本発明の方法を癌などの治療の補助療法として用いることもできる。また、インビトロにおいて本発明の方法を用いて活性化されたヘルパーT細胞を癌などの治療または予防、あるいはこれらのための補助剤として用いることもできる。ヘルパーT細胞の活性化は、インターフェロン(例えば、インターフェロンγなど)、インターロイキンなどのサイトカインの産生、分泌量を測定することなどにより評価することができる。
【0022】
本発明は、別の態様において、WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を活性化させるための組成物を提供する。本発明において、細胞傷害性T細胞の活性化は、ヘルパーT細胞の活性化を経ることにより行われるものものであってもよい。本発明の組成物に含まれる有効成分として、WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを含む細胞を例示することができるが、WT1ペプチドを抗原ペプチドとして抗原提示細胞表面にて提示させることができる因子であれば、いかなる分子であってもよい。これらの因子は、上述のごとく当業者によく知られた方法により得ることができる。
【0023】
本発明に用いられるWT1ペプチドは、上述のごとく、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかに結合する能力を有するものである。さらに、本発明に用いられるWT1ペプチドは、上記MHCクラスII分子のうちの少なくとも2つまたはそれ以上のMHCクラスII分子に結合する能力を有するものであってもよい。また、本発明に用いられるWT1ペプチドは、HLA−DR分子、HLA−DQ、HLA−DP分子のうちのいずれのMHCクラスII分子に結合する能力を有していてもよい。
【0024】
本発明の組成物がHLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれか1つまたはそれ以上のMHCクラスII分子を有する対象に投与されると、対象中のヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞が活性化されることにより免疫系が活性化される。また、WT1遺伝子は、各種の癌や腫瘍、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌などの固形癌において高発現しているので、本発明の組成物を癌の治療または予防の補助剤として用いることもできる。あるいは、本発明の組成物を用いて活性化されたヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞などは、例えば、上記の癌の治療の補助剤として用いることもできる。
【0025】
本発明の組成物は、上記WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、または前記ベクターを含む細胞以外に、例えば、担体、賦形剤、あるいは添加剤などを含んでいてもよい。本発明の組成物に含まれる上記WT1ペプチド等は、WT1ペプチド特異的にヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞を活性化することから、公知のMHCクラスI拘束性WT1ペプチドを含むか、あるいはこれらと共に適用されてもよい。
【0026】
本発明の組成物の適用方法は、所望のヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞の活性化程度、抗原提示細胞の状態などの条件に応じて適宜選択することができる。当該適用方法は、例えば、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経鼻投与、経口投与などにより対象に投与すること、あるいは抗原提示細胞培養液に添加することなどが挙げられるが、これらに限らない。本発明の組成物に含まれる上記WT1ペプチド等の量、組成物の形態、適用回数などは、所望のヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞の活性化程度、抗原提示細胞の状態などの条件に応じて適宜選択することができる。
【0027】
本発明は、さらなる別の態様において、WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を活性化する工程を含む、対象における癌の治療または予防方法であって、該WT1ペプチドがHLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものである方法を提供する。本発明の方法は、ヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞を活性化することにより対象の免疫系を活性化し、対象における癌を治療または予防する方法である。本発明の方法において、細胞傷害性T細胞を活性化する工程は、ヘルパーT細胞を活性化する工程を経ることにより行われるものであってもよい。WT1ペプチドの抗原提示細胞への添加は、WT1ペプチドを添加することにより直接的に、あるいはWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドもしくはWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの添加により、または該発現ベクターを含む細胞の添加により間接的に行われてもよい。前記WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクター、および該発現ベクターを含む細胞は、上述のごとく当業者によく知られた方法により取得することができる。本発明の方法を適用できる対象は、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のいずれかのMHCクラスII分子陽性対象である。本発明を適用できる癌は、いずれのものであってもよく、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌などの固形癌を挙げることができる。また、本発明の方法は、MHCクラスI分子拘束性WT1ペプチドを用いた癌の治療または予防方法またはそのための医薬組成物と併用されてもよい。
【0028】
本発明は、なお別の態様において、上記組成物を製造するためのWT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、または前記ベクターを含む細胞の使用を提供する。さらに本発明は、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を活性化させるために用いられる、WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、または前記ベクターを含む細胞を提供する。
【0029】
本発明は、なおさらなる態様において、WT1ペプチドを抗原提示細胞に添加して、ヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞を活性化するための上記WT1ペプチド、WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、前記ベクターを含む細胞を含むキットであって、該WT1ペプチドがHLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のいずれかのMHCクラスII分子に結合する能力を有するものであるキットに関するものである。好ましくは、該キットは上記ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞の活性化方法に用いられる。本発明のキットは、WT1ペプチドの他に、例えば、抗原提示細胞の取得手段、ヘルパーT細胞および/または細胞傷害性T細胞の活性の評価手段などを含んでいてもよい。一般的には、キットには取扱説明書を添付する。本発明のキットを用いて、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を効率的に活性化することができる。
【0030】
本発明は、別の態様において、WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体が提示されている抗原提示細胞を提供する。ここで、前記MHCクラスII分子は、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかであってもよく、さらには、上記MHCクラスII分子のうちの少なくとも2つまたはそれ以上であってもよい。本発明の抗原提示細胞は、当業者間で知られる手法を用いて調製されてもよい。例えば、癌患者から抗原提示能を有する細胞を単離し、単離した細胞に上記WT1ペプチド(例えば、配列番号:2に示すアミノ酸配列を有するペプチド)またはWT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドでパルスするか、または前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを細胞内に導入して、WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体を細胞表面に提示させることにより作製してもよい(Cancer Immunol.Immunother. 46:82, 1998、J.Immunol.,158: p1796,1997、Cancer Res.,59:p1184, 1999 Cancer Res.,56:p5672,1996、J.Immunol.,161: p5607,1998、J.Exp.Med., 184: p465,1996)。本明細書において、抗原提示能を有する細胞とは、WT1ペプチドを提示することができるMHCクラスII分子を細胞表面に発現する細胞であれば、限定されないが、抗原提示能が高い末梢血単核球または樹状細胞が好ましい。また、本発明の抗原提示細胞は、実施例に示されるごとく、インターフェロンγ量の増加により確認される細胞傷害性T細胞活性の上昇によりその存在が確認される。本発明の抗原提示細胞は、医薬組成物の有効成分として細胞療法(例えば、樹状細胞療法)において有効に用いられる。
【0031】
本発明は、さらなる別の態様において、WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体を認識するヘルパーT細胞を提供する。ここで、前記MHCクラスII分子は、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかであってもよく、さらには、上記MHCクラスII分子のうちの少なくとも2つまたはそれ以上であってもよい。本発明のヘルパーT細胞として、例えば、配列番号:2に示すアミノ酸配列からなるペプチドを含む抗原ペプチドとHLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子との複合体を認識するヘルパーT細胞を挙げることができる。本発明のヘルパーT細胞は、当該技術分野における公知の手法を用いて当業者が容易に調製・取得することができる(Iwata, M. et al., Eur. J. Immunol, 26, 2081(1996))。
【0032】
本発明は、なお別の態様において、WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体を認識するヘルパーT細胞により活性化される細胞傷害性T細胞を提供する。本発明の細胞傷害性T細胞として、例えば、配列番号:2に示すアミノ酸配列からなるペプチドを含む抗原ペプチドとHLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子との複合体を認識するヘルパーT細胞により活性化される細胞傷害性T細胞を挙げることができる。本発明の細胞傷害性T細胞は、当業者が公知の手法により容易に調製することができる。例えば、患者の末梢血リンパ球を単離し、これをペプチド(例えば、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するペプチド)、前記ペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはこれを含む発現ベクターでインビトロにて刺激することにより作製される(Journal of Experimental Medicine 1999, 190: 1669)。上記のごとく調製された細胞傷害性T細胞は、癌などの治療または予防用医薬組成物の有効成分として用いることができる。本明細書の実施例において、WT−332投与により一定のMHCクラス分子を有する対象由来の試料において、細胞傷害性T細胞の誘導活性が認められた。このことは、末梢血単核球中に、WT1ペプチドからなる抗原ペプチドとMHCクラスII分子との複合体の提示された抗原提示細胞が存在し、この複合体を提示する抗原提示細胞、これを特異的に認識するヘルパーT細胞、およびヘルパーT細胞により誘導された細胞傷害性T細胞が存在することを示すものである。
【0033】
本発明は、なおさらなる別の態様において、上記WT1ペプチドを含む抗原ペプチドとMHCクラスII分子とを有するHLAテトラマーを提供する。前記MHCクラスII分子は、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、またはHLA−DPB1
*0901分子のうちのいずれかであってもよく、上記MHCクラスII分子のうちの少なくとも2つまたはそれ以上であってもよい。本明細書において、HLAテトラマーは、HLAタンパク質をペプチドと会合させた複合体(HLAモノマー)をビオチン化し、アビジンに結合させることにより4量体化したものを意味する。HLAテトラマーとして、種々の抗原ペプチドを含有するものが市販されており、本発明のHLAテトラマーを容易に作製することができる(Science 279: 2103-2106(1998)、Science 274: 94-96 (1996))。本発明のテトラマーは、フローサイトメトリー、蛍光顕微鏡等の公知の検出手段により結合した本発明のヘルパーT細胞や細胞傷害性T細胞を容易に選別または検出できるように、蛍光標識されることが好ましい。本発明におけるHLAテトラマーは、テトラマーに限定されるものではなく、必要に応じてペンタマー、デンドリマーなどのマルチマーを使用することもできる。本明細書において、マルチマーとは、HLAタンパク質をペプチドと会合させた複合体(HLAモノマー)を、公知の手法を用いて2つまたはそれ以上結合させることにより多量体化したものをいう。
【0034】
本発明は、別の態様において、上記組成物、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞またはテトラマーのいずれかを有効成分として含む、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を活性化させるための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、上記組成物、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞またはテトラマーのうちのいずれか1つまたはそれ以上を有効成分として含んでもよい。本発明の医薬組成物は、癌を治療または予防するために用いることができる。本発明の医薬組成物は、WT1を発現する各種癌および腫瘍、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌などの固形癌に適用することができる。また、本発明の医薬組成物は、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子などのMHCクラスII分子を有する対象に投与するために用いることができる。本発明の医薬組成物を、その他の癌の治療または予防方法またはそのための医薬組成物と併用してもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞の活性化剤、増殖剤、誘導剤などを含んでいてもよく、あるいは公知のMHCクラスI拘束性WT1ペプチドを含んでいてもよい。
【0035】
本発明の医薬組成物は、有効成分以外に、例えば、担体、賦形剤などを含んでいてもよい。本発明の医薬組成物の投与方法は、疾患の種類、対象の状態、標的部位などの条件に応じて適宜選択することができる。当該方法は、例えば、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経鼻投与、経口投与などが挙げられるが、これらに限らない。本発明の医薬組成物に含まれる上記有効成分の量、医薬組成物の剤形、投与回数などは、疾患の種類、対象の状態、標的部位などの条件に応じて適宜選択することができる。
【0036】
本発明は、さらなる別の態様において、上記の組成物、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞またはテトラマーのうちのいずれかの有効量を対象に投与する工程を含む、癌を治療または予防するための方法であって、対象が、HLA−DRB1
*0101分子、HLA−DRB1
*0401分子、HLA−DRB1
*0403分子、HLA−DRB1
*0406分子、HLA−DRB1
*0803分子、HLA−DRB1
*0901分子、HLA−DRB1
*1101分子、HLA−DRB3
*0202分子、HLA−DRB4
*0101分子、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子を有するものである方法を提供する。本発明の方法により治療または予防できる癌は、WT1を発現する各種癌および腫瘍、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌などの固形癌である。本発明の方法は、その他の癌の治療または予防方法、例えば、公知のMHCクラスI分子拘束性WT1ペプチドを用いた癌の治療または予防方法と併用されてもよい。
【0037】
本発明は、なおさらなる別の態様において、上記医薬組成物を製造するための、上記の組成物、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞またはテトラマーのいずれかの使用を提供する。さらに本発明は、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞を活性化させるために用いられる、上記の組成物、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞またはテトラマーを提供する。さらに本発明は、癌の治療または予防に使用される、上記の組成物、抗原提示細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞またはテトラマーを提供する。
【0038】
本発明は、1の態様において、上記WT1ペプチドまたは該WT1ペプチドをコードするポリヌクレオチドに特異的に結合する抗体(以下、抗WT1抗体ともいう)に関するものである。本発明の抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。具体的には、配列番号:2に示すアミノ酸配列を有するペプチドに特異的に結合する抗体などを挙げることができる。これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13、Antibodies; A Laboratory Manual, Lane, H, D.ら編, Cold Spring Harber Laboratory Press 出版 New York 1989)。例えば、配列番号:2に示すアミノ酸配列を有するペプチドを免疫原として用い、家兎等の非ヒト動物を免疫し、この動物の血清から常法により得ることできる。一方、モノクローナル抗体の場合には、本発明に用いられるペプチド(配列番号:2に示すアミノ酸配列を有するペプチド)をマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。また、本発明の抗WT1抗体の作製は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。かかるアジュバントとして、ミネラルゲル(例えば、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムなど)、表面活性物質、ヒトアジュバントなどを挙げることができる。本発明の抗WT1抗体は、アフィニティークロマトグラフィー、免疫学的診断等に用いることができる。免疫学的診断は、イムノブロット法、放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(ELISA)、蛍光あるいは発光測定法等から適宜選択できる。
【0039】
本発明は、別の態様において、HLA−DRB1
*0101、HLA−DRB1
*0401、HLA−DRB1
*0403、HLA−DRB1
*0406、HLA−DRB1
*0803、HLA−DRB1
*0901、HLA−DRB1
*1101、HLA−DRB3
*0202、HLA−DRB4
*0101、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子陽性対象におけるWT1ペプチドの存在または量を決定する方法であって、
(a)前記対象から取得した試料を上記抗WT1抗体と反応させ、次いで、
(b)前記試料に含まれる上記抗WT1抗体の存在または量を調べる、
工程を含む方法を提供する。前記工程(a)において用いられる試料として、HLA−DRB1
*0101、HLA−DRB1
*0401、HLA−DRB1
*0403、HLA−DRB1
*0406、HLA−DRB1
*0803、HLA−DRB1
*0901、HLA−DRB1
*1101、HLA−DRB3
*0202、HLA−DRB4
*0101、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子を有する対象から取得されたものを用いることができる。前記工程(a)に用いられる試料は、例えば、血液、リンパ球などの体液、組織などを挙げることができる。試料の取得や抗体との反応などは、当業者であれば公知の手法を用いて適宜行うことができる。本発明における工程(b)は、例えば、上記抗WT1抗体の局在、部位、量等を決定することを含むので、癌の診断、予後診断などに用いることができる。上記抗WT1抗体は標識されていてもよい。標識としては、蛍光標識、放射性標識などの公知のものを使用することができる。標識することによりWT1ペプチドの存在または量の決定を簡便かつ迅速に行うことが可能となる。
【0040】
本発明は、さらなる別の態様において、上記抗WT1抗体を必須構成成分として含む、WT1ペプチドの存在または量を決定するためのキットに関するものである。本発明のキットは、上記抗WT1抗体の他に、例えば、抗WT1抗体の取得手段、評価手段などを含んでいてもよい。一般的には、キットには取扱説明書を添付する。本発明のキットを用いることにより、上述のWT1ペプチドの存在または量を決定する方法において簡便かつ迅速にWT1ペプチドの存在または量を決定することが可能となる。
【0041】
本発明は、なお別の態様において、HLA−DRB1
*0101、HLA−DRB1
*0401、HLA−DRB1
*0403、HLA−DRB1
*0406、HLA−DRB1
*0803、HLA−DRB1
*0901、HLA−DRB1
*1101、HLA−DRB3
*0202、HLA−DRB4
*0101、HLA−DRB1
*1501分子、HLA−DRB1
*0405分子、HLA−DRB1
*1502分子、HLA−DPB1
*0501分子、HLA−DPB1
*0901分子、HLA−DPB1
*0201分子またはHLA−DPB1
*0301分子のうちのいずれかのMHCクラスII分子陽性対象におけるWT1特異的ヘルパーT細胞またはWT1特異的細胞傷害性T細胞の存在または量を決定する方法であって、
(a)前記対象から取得した試料をWT1ペプチドを用いて刺激し、
(b)サイトカイン、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞の存在または量を調べる、
工程を含み、サイトカイン、ヘルパーT細胞または細胞傷害性T細胞の存在または量の増大がWT1特異的ヘルパーT細胞またはWT1特異的細胞傷害性T細胞の存在または量を示すものである方法を提供する。本発明の試料は、抗原提示細胞を含むものであればいかなるものであってもよく、例えば、末梢血単核球、浸潤性リンパ球、腫瘍細胞、腹水中の細胞、胸水中の細胞、脳脊髄液中の細胞、骨髄細胞、またはリンパ節細胞などを挙げることができる。本発明に用いられる試料は、健常人由来であっても、あるいは癌患者由来であってもよい。健常人由来のこれらの細胞を用いることにより、例えば、癌に罹患しているかどうか、あるいはその素因を有するかどうかを診断することなどが可能になる。癌患者由来のこれらの細胞を用いることにより、例えば、癌患者においてWT1免疫療法が効果を有するかどうかを予測することなどが可能になる。本発明の方法において、取得した試料は、WT1ペプチドによる刺激の前後に培養されていてもよく、前記培養条件は当業者が適宜決定することができる。WT1ペプチドを用いたこれらの細胞の刺激は、エレクトロポレーションなどの公知の手法を用いて行うことができ、インビトロまたはインビボのいずれにおいて行われてもよい。サイトカイン産生、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞の反応が存在するか、あるいはサイトカイン産生量、ヘルパーT細胞、または細胞傷害性T細胞の反応量は既知の方法により調べることができる。
【0042】
本発明は、なおさらなる別の態様において、上記WT1ペプチドを必須構成成分として含む、WT1ペプチドの存在または量を決定するためのキットに関するものである。本発明のキットは、上記WT1ペプチドの他に、例えば、試料の取得手段、サイトカインなどの評価手段などを含んでいてもよい。一般的には、キットには取扱説明書を添付する。本発明のキットを用いることにより、上述のWT1ペプチドの存在または量を決定する方法において簡便かつ迅速にWT1ペプチドの存在または量を決定することが可能となる。
【0043】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0044】
1.WT1−332特異的I型ヘルパーT細胞の誘導
健常人の血液提供者(提供者1:HLA−DRB1
*0406/1201、DRB3
*0101、DRB4
*0103陽性、提供者2:HLA−DRB1
*0901/1101、DRB3
*0202、DRB4
*0103陽性、提供者3:HLA−DRB1
*0401/0405、DRB4
*0102/0103陽性、提供者4:HLA−DRB1
*0901/1101、DRB3
*0202、DRB4
*0103陽性)の末梢血より末梢血単核球(PBMC)を分離した。分離したPBMC(1.5×10
7個)を45% RPMI−1640(SIGMA社)、45% AIM−V(invitrogen社)、10% AB型ヒト血清(MP Biomedicals社)より組成される培地へ懸濁し、1.5×10
6個/ウェルで24ウェルプレートへ播種した(0日目)。PBMCを播種したウェルへWT1−332(配列番号:2に示すアミノ酸配列からなるペプチド)を10μg/mL、IL−7(PeproTech社)を10ng/mLとなるように添加し、37℃、5% CO
2で1週間培養した。また、分離したPBMCの一部を再刺激時の抗原提示細胞用に凍結保存した。
【0045】
1週間後(7日目)、再刺激を行った。まず、凍結保存しておいたPBMCを解凍し、10μg/mL WT1−332でパルスし、50μg/mL マイトマイシンC(協和発酵キリン社)で処理し、新しい24ウェルプレートへ1.0×10
6〜1.6×10
6個/ウェルで播種した。次に、1週間培養していた細胞を回収し、1.0×10
6〜1.6×10
6個/ウェルで抗原提示細胞を播種したウェルへ播種した。最後に、IL−7を10ng/mLとなるように各ウェルに添加し、37℃、5% CO
2で培養した。2日後(9日目)に各ウェルの培養液を半量静かに抜き取り、代わりに40U/mL IL−2(PeproTech社)含有培地を添加して培養を続けた。その後、1日おきに20U/mL IL−2含有培地で培養液の半量交換操作を行い、14日目から21日目の間に適宜細胞を回収し、実験に使用した。
【0046】
2.拘束アレル決定実験に用いる抗原提示細胞の調製
健常人の血液提供者(提供者5:HLA−DRB1
*0406/1201、DRB3
*0101、DRB4
*0103陽性、提供者6:HLA−DRB1
*0403/1405、DRB3
*0202、DRB4
*0103陽性、提供者7:HLA−DRB1
*0403/1201、DRB3
*0101、DRB4
*0103陽性、提供者8:HLA−DRB1
*0101/0901、DRB4
*0103陽性、提供者9:HLA−DRB1
*1401/1406、DRB3
*0202陽性、提供者10:HLA−DRB1
*0803/0901、DRB4
*0103陽性、提供者11:HLA−DRB1
*1101/1502、DRB3
*0202陽性、提供者12:HLA−DRB1
*0405/1406、DRB3
*0202、DRB4
*0103陽性、提供者13:HLA−DRB1
*0401/0405、DRB4
*0102/0103陽性、提供者14:HLA−DRB1
*0401/1502、DRB4
*0102陽性、提供者15:HLA−DRB1
*0101/0405、DRB4
*0103陽性、提供者16:HLA−DRB1
*0901/1501、DRB4
*0103陽性、提供者17:HLA−DRB1
*0405/1501、DRB4
*0103陽性、提供者18:HLA−DRB1
*1401/1502、DRB3
*0202陽性、提供者19:HLA−DRB1
*1403/1502、DRB3
*0101陽性、提供者20:HLA−DRB1
*0803/1302、DRB3
*0301陽性)の末梢血よりPBMCを分離し、拘束アレル決定実験に用いる抗原提示細胞とした。それぞれのPBMCを、使用するまで−80℃にて凍結保存した。
【0047】
3.IFN−γの測定(抗HLA−DR抗体における反応阻害)
提供者1〜4のPBMCより誘導されたT細胞を、WT1−332非存在下、10μg/mL WT1−332存在下、10μg/mL WT1−332および10μg/mL 抗HLA−DR抗体(BD社)存在下で24時間培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISA(BD社)にて定量した。その結果、誘導されたすべてのT細胞がWT1−332を認識してIFN−γを産生すること、またその反応はHLA−DR分子拘束的であることが示された。
【0048】
4.IFN−γの測定(拘束アレルの決定)
提供者1〜4のPBMCより誘導されたT細胞をそれぞれ適当なWT1−332でパルスした抗原提示細胞と反応させ、誘導されたT細胞の拘束アレルを決定した。
【0049】
(4−1.提供者1由来T細胞)
提供者1のPBMCより誘導されたT細胞を、10μg/mL WT1−332でパルスした提供者5、6、7、8、9由来抗原提示細胞と24時間共培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISAにて定量した。結果を
図1に示す。提供者1由来T細胞は、HLA−DR4(DRB1
*0403、0406)陽性抗原提示細胞と共培養したときにIFN−γを産生することから、拘束アレルはHLA−DRB1
*0406であることが示された。また、HLA−DRB1
*0403がWT1−332を提示してT細胞を刺激できることも示された。
【0050】
(4−2.提供者2由来T細胞)
提供者2のPBMCより誘導されたT細胞を、10μg/mL WT1−332でパルスした提供者10、11、12、9由来抗原提示細胞と24時間共培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISAにて定量した。結果を
図2に示す。提供者2由来T細胞は、HLA−DRB3
*0202陽性抗原提示細胞と共培養したときにIFN−γを産生することから、拘束アレルはHLA−DRB3
*0202であることが示された。
【0051】
(4−3.提供者3由来T細胞)
提供者3のPBMCより誘導されたT細胞を、10μg/mL WT1−332でパルスした提供者13、14、15、10由来抗原提示細胞と24時間共培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISAにて定量した。結果を
図3に示す。提供者3由来T細胞は、HLA−DR4(DRB1
*0401、0405)陽性抗原提示細胞と共培養したときにIFN−γを産生した。よって、HLA−DRB1
*0401、0405共にWT1−332を提示してT細胞を刺激できることが示された。
【0052】
(4−4.提供者4由来T細胞)
提供者4のPBMCより誘導されたT細胞を、10μg/mL WT1−332でパルスした提供者16、11、17、18、19、20由来抗原提示細胞と24時間共培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISAにて定量した。結果を
図4に示す。提供者4由来T細胞は、HLA−DRB1
*1101陽性抗原提示細胞と共培養したときにIFN−γを産生することから、拘束アレルはHLA−DRB1
*1101であることが示された。
【実施例2】
【0053】
次いで、WT1−332とMHCクラスII分子との結合能を評価するため、HPLCを用いることにより、7種類のHLAクラスIIモノマータンパク質(DRB1
*1501、0101、0405、0803、0901、1502、またはDRB4
*0101)とWT1−332とのフォールディング試験を行った。簡単に説明すると、HLAクラスIIモノマータンパク質、ペプチド(各タンパク質に結合するペプチド(ポジティブコントロール)、結合しないペプチド(ネガティブコントロール)、およびWT1−332)、フォールディングbufferを混ぜてフォールディング反応液を作製し、37℃で反応後、HPLCを用いた保持時間を解析した。HLAクラスIIモノマータンパク質とペプチドとの結合による保持時間の移動を利用し、WT1−332とのフォールディングを評価した。この試験に用いる試薬類を下記表に示す。
(表1.試験に用いる試薬類)
【表1】
【0054】
HLAクラスIIモノマータンパク質の調製
−80℃に凍結保存してあるHLAクラスIIモノマータンパク質を氷上で融解した。融解したHLAクラスIIモノマータンパク質を83μL中に0.05mg(1×10
−9mol)含まれるように希釈バッファーで調製した。
【0055】
ペプチド溶液の調製
各ペプチドを電子天秤で約1mg秤量し,ガラスバイアルに移し20mg/mLになるようにDMSOで溶解した。
【0056】
50倍モル量のペプチド溶液量の算出
HLAクラスIIモノマータンパク質に対し50倍モル量となるペプチド量を以下の計算式で算出した。
必要なペプチド量:1×10
−9mol×50=5×10
−8mol(必要なペプチド量)
5×10
−8×(ペプチド分子量)×1000=(必要なペプチド量)(mg)
(必要なペプチド量)/[ペプチド純度/100]=(添加するペプチド量)(mg)
[(添加するペプチド量)/20mg/mL]×1000=(添加するペプチド溶液量)(μL)
【0057】
フォールディングbuffer添加量の算出
フォールディングbufferとして、HLAクラスIIモノマータンパク質とペプチドの混合溶液の10%量を添加した。フォールディングbuffer添加量を以下の計算式で算出した。
[83μL(HLAクラスIIモノマータンパク質量)+(50倍モル量のペプチド溶液量)]×0.1=フォールディングbuffer添加量
【0058】
HPLCによるフォールディング解析
HLAクラスIIモノマータンパク質が入ったガラスバイアルに、算出して得られたペプチド溶液、フォールディングbufferを添加し、37℃で一晩静置した。HLPC(Waters 2695 Separation Module)を起動し、Seperdex 200カラムを平衡化bufferで平衡化した。すべてのサンプルに平衡化bufferを300μL加え、よく混合し、そのうち100μLをSample injection volumeとし、保持時間を算出した。分析時間を50分とした。HLAクラスIIモノマータンパク質とペプチドがフォールディングした基準は、保持時間がコントロール(溶媒のみ)と比べ0.1分以上移動したものとした。その結果、調べた7種類のHLAクラスIIモノマータンパク質(DRB1
*1501、0101、0405、0803、0901、1502、またはDRB4
*0101)で保持時間の移動度が0.1分以上上昇したことから(
図5)、これらのタンパク質に対してWT1−332が特異的に結合し、抗原提示できることが明らかとなった。
【実施例3】
【0059】
WT1−332特異的T細胞の誘導
健常人の血液提供者(HLA−DRB1
*1501、1502、0405、HLA−DPB1
*0501、0901を少なくとも1つ以上有する、計延べ42人)の末梢血より末梢血単核球(PBMC)を分離した。分離したPBMCを1.2×10
7個ずつ分割し、45% RPMI−1640(SIGMA社)、45% AIM−V(invitrogen社)、10% AB型ヒト血清(MP Biomedicals社)より組成される培地へ懸濁し、1.5×10
6個/ウェルで24ウェルプレートへ播種した(0日目)。PBMCを播種したウェルへWT1−332を20μg/mL、IL−7(PeproTeck社)を10ng/mLとなるように添加し、37℃、5% CO
2で1週間培養した。対照群としてWT1−332の代わりに溶媒(10mM 酢酸)を最終濃度10μMになるように添加した群(溶媒誘導群)を設定した。また、分離したPBMCの一部を再刺激時の抗原提示細胞用に凍結保存した。
1週間後(7日目)、再刺激を行った。まず、凍結保存しておいたPBMCを解凍し、20μg/mL WT1−332または10μM酢酸溶媒でパルスし、50μg/mL マイトマイシンC(協和発酵キリン社)で処理し、新しい24ウェルプレートへ1.0×10
6〜1.6×10
6個/ウェルで播種した。次に、1週間培養していた細胞を回収し、1.0×10
6〜1.6×10
6個/ウェルで抗原提示細胞を播種したウェルへ播種した。最後に、IL−7を10ng/mLとなるように各ウェルに添加し、37℃、5% CO
2で培養した。2日後(9日目」)、各ウェルの培養液を半量静かに抜き取り、代わりに40U/mL IL−2(PeproTech社)含有培地を添加して培養を続けた。その後、1日おきに20U/mL IL−2含有培地で培養液の半量交換操作を行った。
0、7、14日目に細胞を回収し、IFN−γ測定実験に使用した。
【0060】
IFN−γの測定(細胞内サイトカイン染色(ICS))
0日目においては、調製後のPBMC、7日目及び14日目においては、WT1−332誘導群及び溶媒誘導群より回収した生細胞を96ウェルU底プレートへ播種、及びWT1−332含有培地を最終濃度20μg/mLとなるように添加して抗原再刺激を入れた。また、比較対照として溶媒含有培地を最終濃度10μMとなるように添加した。37℃、5%CO
2で4時間培養した後、Brefeldin A(BioLegend)を添加してさらに培養を続けた。培養開始から6時間後に細胞を回収し、PE標識抗ヒトCD4抗体、FITC標識抗ヒトCD8抗体で染色した。細胞内IFN−γ染色を、BD Cytofix/Cytoperm Fixation/Permiabilization Kit(Becton Dickinson)とPerCP/Cy5.5標識抗ヒトIFN−γ抗体を用いて行った。解析はEPICS−XL MCL(Beckman Coulter)を用いた。結果を
図6および7に示す。
図6より、WT1−332誘導群において、7日目から14日目の間において、WT1−332特異的Th1の顕著な増加が確認され、経時的に増加することがわかった。この増加は溶媒誘導群に比して有意な増加であった(P<0.0001)。また、
図7より、WT1−332特異的CTLに関しても7日目から14日目の間に、WT1−332誘導群において経時的な増加が確認され、その増加も溶媒誘導群に比して有意であった(P<0.0001)。
【0061】
IFN−γの測定(抗HLA−DR抗体、抗HLA−DQ抗体における反応阻害)
14日目において、提供者21〜37のPBMCより誘導されたT細胞を、10μM 溶媒存在下、20μg/mL WT1−332存在下、20μg/mL WT1−332および10μg/mL 抗HLA−DR抗体(L243[G46−6]、BD社)存在下で24時間培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISA(BD社)にて定量した。結果を
図8に示す。提供者21〜37の検体において、誘導されたT細胞がWT1−332を認識してIFN−γを産生すること、またその反応はHLA−DR分子拘束的であることが示された。
また、14日目において、提供者38〜46のPBMCより誘導されたT細胞を、10μM 溶媒存在下、20μg/mL WT1−332存在下、20μg/mL WT1−332および10μg/mL 抗HLA−DR抗体(L243[G46−6]、BD社)、10μg/mL 抗HLA−DQ抗体(SPVL3、BC社)存在下で24時間培養した。培養後、上清中のIFN−γ量をELISA(BD社)にて定量した。結果を
図11に示す。提供者38〜46の検体において、誘導されたT細胞がWT1−332を認識してIFN−γを産生し、その反応は抗HLA−DR抗体、抗HLA−DQ抗体で阻害されなかった。これらのことから、提供者38〜46に由来するWT1−332誘導T細胞がHLA−DP分子拘束的であることが示された。
【0062】
WT1−332特異的T細胞の誘導(新規アレルとの関係)
図6及び7における健常人の血液提供者(HLA−DRB1
*1501、1502、0405、HLA−DPB1
*0501、0901を少なくとも1つ以上有する、計延べ42人)を用いた結果において、HLA−DR拘束性且つWT1−332特異的Th1が誘導された17人の検体(提供者21〜37)それぞれについて、14日目の結果を
図9および10に示す。また、17人の検体(提供者21〜37)それぞれのHLAクラスII型(HLA−DRB1及びHLA−DPB1アレルの型)を以下の表2に示す。ここで、DRB3
*0202はDRB1
*1101、DRB1
*1401及びDRB1
*1405と連鎖不平衡にあり(表中、△で示すDRB1アレル)、DRB4
*0101はDRB1
*0403、DRB1
*0405、DRB1
*0901と連鎖不平衡にある(表中、▲で示すDRB1アレル)。表中、太字斜体の文字で示すアレルは新規適合HLA−DRB1アレルを表す。
【0063】
【表2】
図9、
図10および表2より、これらのHLA−DRアレルを有する細胞においてWT1−332特異的Th1およびWT1−332特異的CTLの誘導が認められた。
【0064】
また、
図6及び7における健常人の血液提供者(HLA−DRB1
*1501、1502、0405、HLA−DPB1
*0501、0901を少なくとも1つ以上有する、計延べ42人)を用いた結果において、HLA−DP拘束性且つWT1−332特異的Th1が誘導された9人の検体(提供者38〜46)それぞれについて、14日目の結果を
図12および13に示す。また、9人の検体(提供者38〜46)それぞれのHLAクラスII型(HLA−DRB1及びHLA−DPB1アレルの型)を以下の表3に示す。表中、※はこれまでに知られている適合HLA−DPB1アレルを表す。
【0065】
【表3】
図12、
図13および表3より、これらのHLA−DPアレルを有する細胞においてWT1−332特異的Th1およびWT1−332特異的CTLの誘導が認められた。