特許第6134186号(P6134186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134186
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/28 20060101AFI20170515BHJP
   C08F 16/38 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C08F8/28
   C08F16/38
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-74348(P2013-74348)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-198765(P2014-198765A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梁 信烈
(72)【発明者】
【氏名】山口 英裕
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−047302(JP,A)
【文献】 特開2002−069127(JP,A)
【文献】 特開平11−116620(JP,A)
【文献】 特開2011−102341(JP,A)
【文献】 特開2010−254865(JP,A)
【文献】 特開2010−070718(JP,A)
【文献】 特開2013−177640(JP,A)
【文献】 特開2011−148974(JP,A)
【文献】 特開2006−022160(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/013627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00− 8/50
C08F 16/00− 18/24
C08L 1/00−101/14
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを、酸触媒の存在下、温度100〜400℃、圧力0.5〜100MPaの高温高圧流体中で反応させることによりポリビニルアセタール樹脂を得る工程を有し、
前記酸触媒は、pKa値が3〜4.5、分子量が60以上であり、
得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が10モル%以上である
ことを特徴とするポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項2】
酸触媒は、クエン酸又は安息香酸であることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項3】
高温高圧流体の温度が、200℃を超えて400℃以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のポリビニルアセタール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副反応を抑制しつつ短時間で均一にアセタール化を行い、着色がほとんどなくアセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができるポリビニルアセタール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、合わせガラス用中間膜、金属処理のウォッシュプライマー、各種塗料、接着剤、樹脂加工剤、セラミックスバインダー等に多目的に用いられており、近年では電子材料へと用途が拡大している。なかでも、ポリビニルブチラール樹脂は、製膜性、透明性、衝撃エネルギー吸収性、ガラスとの接着性等に優れることから、合わせガラス用中間膜等に特に好適に用いられている。
【0003】
ポリビニルアセタール樹脂の製造方法として、一般的には、ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを酸触媒の存在下で反応(アセタール化)させる方法が用いられている。
このような方法においては、酸触媒として塩酸等の強い酸を用いることが多い(例えば、特許文献1、2)。しかしながら、強い酸を用いると、特にポリビニルアセタール樹脂を電子材料用途に用いる場合には、酸を中和する工程が必要であり、更に、ポリビニルアセタール樹脂中に残存した酸触媒のハロゲン化物イオン、中和に用いたアルカリのイオン等の不純物を洗浄して取り除く極めて煩雑な工程が必要である。
また、例えば、ポリビニルアセタール樹脂の凝集を抑制すること等を目的として、酸触媒としてクエン酸等の弱い酸を用いることも検討されている(例えば、特許文献3、4)。
【0004】
一方、近年では、アセタール化の反応速度を増大させ、アセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を短時間で均一に得ることを目的として、高温高圧流体を利用することが注目されている。
特許文献5には、ポリビニルアルコールとアルデヒドとからなるポリビニルアルコール溶液又は分散液を反応管に投入し、充分にシールした後、流体の温度及び圧力を所定の超臨界域又は高温高圧領域にして縮合反応を開始させる方法が記載されている。特許文献6には、酸触媒としてカルボキシル基を有する化合物を含んだ高温高圧流体を用いることにより、ビニルエステル系樹脂を原料として中間体を取り出すことなくビニルアセタール樹脂を製造する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、高温高圧流体を用いると、アセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることはできても、ポリビニルアセタール樹脂に着色が生じたり、アセタール化以外の副反応が生じてポリビニルアセタール樹脂に悪影響を及ぼしたりするといった問題が生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−1853号公報
【特許文献2】特開平11−349629号公報
【特許文献3】特開2002−69125号公報
【特許文献4】特開2002−69127号公報
【特許文献5】国際公開第03/033548号パンフレット
【特許文献6】特開2012−77184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、副反応を抑制しつつ短時間で均一にアセタール化を行い、着色がほとんどなくアセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができるポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを、酸触媒の存在下、温度100〜400℃、圧力0.5〜100MPaの高温高圧流体中で反応させることによりポリビニルアセタール樹脂を得る工程を有し、前記酸触媒は、pKa値が3〜4.5、分子量が60以上であり、得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が10モル%以上であるポリビニルアセタール樹脂の製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを、酸触媒の存在下、所定の高温高圧流体中で反応させることによりポリビニルアセタール樹脂を得る工程において、酸触媒として強い酸を用いた場合に、得られるポリビニルアセタール樹脂に着色が生じていることを見出した。
一般的に、ポリビニルアルコール樹脂の着色原因としては、ポリビニルアルコール樹脂中に微量に含まれるカルボニル基が大きく関与していることが報告されている(高分子論文集,vol.37,No.8,p.521−525参照)。本発明者は、このカルボニル基に強い酸が作用することで主鎖が劣化し、得られるポリビニルアセタール樹脂に着色が生じていることを見出した。そして、酸触媒として所定範囲のpKa値を有する弱い酸(比較的pKa値が大きく、酸解離定数Kaが小さい酸)を用いることより、得られるポリビニルアセタール樹脂の着色を低減できることを見出した。
【0010】
更に、本発明者は、酸触媒として所定範囲のpKa値を有する弱い酸を用いると、着色を低減することはできても、酸触媒自体がポリビニルアルコール樹脂の水酸基と反応し、副反応としてエステル交換反応が進行してしまうことを見出した。そして、酸触媒として所定範囲の分子量を有する反応性の低い酸(比較的分子量が大きい酸)を用いることにより、副反応であるエステル交換反応を抑制できることを見出した。
即ち、本発明者は、ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを、酸触媒の存在下、所定の高温高圧流体中で反応させることによりポリビニルアセタール樹脂を得る工程において、酸触媒として所定範囲のpKa値及び分子量を有する酸を用いることにより、副反応を抑制しつつ短時間で均一にアセタール化を行い、着色がほとんどなくアセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法は、ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとを、酸触媒の存在下、温度100〜400℃、圧力0.5〜100MPaの高温高圧流体中で反応(アセタール化)させることによりポリビニルアセタール樹脂を得る工程を有する。
【0012】
上記ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニルをアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコール樹脂を用いることができる。上記ポリビニルアルコール樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1ヶ所に、メソ位又はラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが少なくとも1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコール樹脂であってもよい。
また、上記ポリビニルアルコール樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体を用いることもできる。
【0013】
上記ポリビニルアルコール樹脂は、カルボニル基を有していてもよい。
一般的に、ポリビニルアルコール樹脂の着色原因としては、ポリビニルアルコール樹脂中に微量に含まれるカルボニル基が大きく関与していることが報告されているが(高分子論文集,vol.37,No.8,p.521−525参照)、本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、後述するような酸触媒を用いることにより、微量に含まれるカルボニル基が多い場合であっても、得られるポリビニルアセタール樹脂の着色を低減することができる。
【0014】
上記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は、好ましい下限が200、好ましい上限が5000であり、より好ましい下限が300、より好ましい上限が2000である。
【0015】
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒド等が挙げられる。
上記アルデヒドとして、具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。また、上記アルデヒドはホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記ポリビニルアルコール樹脂に対する上記アルデヒドの配合量は、好ましい下限が理論反応量の等倍、好ましい上限が理論反応量の30倍である。上記アルデヒドの配合量が理論反応量の等倍未満であると、アセタール化が充分に進まず、得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が不充分となることがある。上記アルデヒドの配合量が理論反応量の30倍を超えても、アセタール化度の向上に寄与せずコストアップにつながるおそれがあり、アセタール化以外の副反応が生じる原因になることもある。上記アルデヒドの配合量のより好ましい上限は理論反応量の12倍、更に好ましい上限は理論反応量の3倍である。
なお、本明細書において上記理論反応量とは、全てのアルデヒドがアセタール化反応に使用されると仮定した場合に目的のアセタール化度を得るために必要なアルデヒドの量を意味する。
【0017】
上記酸触媒は、pKa値が0〜5、分子量が60以上である。このような酸触媒を用いることにより、得られるポリビニルアセタール樹脂の着色を低減することができ、かつ、副反応であるエステル交換反応を抑制することができる。
上記酸触媒のpKa値が0未満であると、上記酸触媒の酸強度が高いため主鎖が劣化し、得られるポリビニルアセタール樹脂に着色が生じる。上記酸触媒のpKa値が5を超えると、上記酸触媒の酸強度が低いためアセタール化の反応速度が遅くなり、反応時間が長時間化してしまう。このような着色と反応時間とのバランスの観点から、上記酸触媒のpKa値の好ましい下限は3、好ましい上限は4.5である。
なお、本明細書において上記pKa値とは、25℃の水中にて測定される酸解離定数Kaの常用対数を意味する。上記pKa値が大きいほど、弱い酸であることを意味する。
【0018】
上記酸触媒の分子量が60未満であると、上記酸触媒自体が上記ポリビニルアルコール樹脂の水酸基と反応し、副反応としてエステル交換反応が進行してしまうため、所望の組成のポリビニルアセタール樹脂が得られない。上記酸触媒の分子量の好ましい下限は80、より好ましい下限は120、更に好ましい下限は190である。
なお、上記酸触媒の分子量の上限は、特に限定されない。
【0019】
上記酸触媒は、上記範囲のpKa値及び分子量を有する酸であれば特に限定されず、例えば、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、クロロ酢酸、安息香酸、スクアリン酸、ピクリン酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、アスコルビン酸、乳酸、シュウ酸、酢酸、グリオキシル酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも、生産性、取扱い性等の観点から、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、クロロ酢酸、安息香酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酢酸等のカルボキシル基を有する酸が好ましく、クエン酸又は安息香酸がより好ましく、クエン酸が更に好ましい。なお、一般的に酸触媒として用いられる代表的な酸のpKa値及び分子量を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
上記酸触媒の添加量は、上記ポリビニルアルコール樹脂100質量%に対して、好ましい下限が1質量%、好ましい上限が100質量%である。上記酸触媒の添加量が1質量%未満であると、アセタール化が充分に進まず、得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が不充分となることがある。上記酸触媒の添加量が100質量%を超えても、アセタール化度の向上に寄与せずコストアップにつながるおそれがあり、アセタール化以外の副反応が生じる原因になることもある。上記酸触媒の添加量のより好ましい下限は5質量%、より好ましい上限は25質量%である。
【0022】
上記高温高圧流体は特に限定されず、例えば、水、アルコール、大気、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用して混合流体として用いてもよい。なかでも、水、アルコール、又は、水とアルコールとの混合流体が好ましい。また、大気中の酸素による酸化に起因する劣化を防ぐ観点から、大気よりも、二酸化炭素、窒素が好ましい。上記アルコールは特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられる。
【0023】
上記高温高圧流体は、温度が100〜400℃、圧力が0.5〜100MPaである。上記ポリビニルアルコール樹脂と上記アルデヒドとを上記高温高圧流体中で反応させることにより、短時間で均一にアセタール化を行い、アセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。
上記ポリビニルアルコール樹脂と上記アルデヒドとのアセタール化反応では、反応の進行に伴い、樹脂が不溶化又は不均質化して析出する場合がある。このように析出した樹脂では、アセタール化されるべき水酸基が樹脂の内部に閉じこめられることから、アセタール化反応の進行が阻害され、常圧反応では40モル%程度のアセタール化度までしか達成できない。本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、上記ポリビニルアルコール樹脂と上記アルデヒドとを上記高温高圧流体中で反応させることにより、析出した樹脂の内部にまでアルデヒドが浸入することができ、常圧反応では達成できなかった高いアセタール化度を達成することができる。
【0024】
上記高温高圧流体の温度が100℃未満であると、アセタール化が充分に進まず、得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が不充分となったり、得られるポリビニルアセタール樹脂に着色が生じたりする。上記高温高圧流体の温度が400℃を超えると、上記ポリビニルアルコール樹脂の主鎖が劣化し、得られるポリビニルアセタール樹脂に着色が生じる。上記高温高圧流体の温度は200℃を超えて400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、300℃以下が更に好ましい。
【0025】
上記高温高圧流体の圧力が0.5MPa未満であると、アセタール化が充分に進まず、得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が不充分となる。上記高温高圧流体の圧力が100MPaを超えると、反応装置に要するコストが上昇し、経済的でない。上記高温高圧流体の圧力の好ましい上限は40MPa、より好ましい上限は10MPaである。
【0026】
上記ポリビニルアルコール樹脂と上記アルデヒドとを、上記酸触媒の存在下、上記高温高圧流体中で反応させる方法は特に限定されないが、上記ポリビニルアルコール樹脂と、上記アルデヒドと、上記酸触媒とを含有する混合液(以下、原料混合液ともいう)を調製した後、反応装置内に上記高温高圧流体を注入し、温度及び圧力を調整する方法が好ましい。
上記原料混合液は、水等の溶媒を含有する溶液又は懸濁液であってもよい。なお、上記酸触媒が触媒作用を発揮するためには、使用する溶媒に溶解する必要がある。本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、上記原料混合液を高温高圧下とすることで溶媒の誘電率が上がり、このような誘電率の上昇は上記酸触媒の溶媒への溶解に寄与するため、アセタール化の反応速度を上げることができる。
【0027】
上記反応装置は特に限定されず、例えば、流通方式の連続反応装置、原料を一つの反応容器にためて反応を行うバッチ方式の反応装置、反応容器を直列につないで一定の反応率まで進むと次の反応容器へと順次送っていくセミフロー方式の反応装置等が挙げられる。
【0028】
上記反応装置は、上記原料混合液と上記高温高圧流体とを攪拌する機構を有することが好ましい。
上述したように上記ポリビニルアルコール樹脂と上記アルデヒドとのアセタール化反応では、反応の進行に伴い、樹脂が不溶化又は不均質化して析出する場合がある。このように析出した樹脂が反応部又はライン中に詰まってしまった場合、製造が中断される。また、樹脂の析出は、原料の濃度を高くすればするほど起こりやすくなり、製造効率が低下する。上記反応装置が上記原料混合液と上記高温高圧流体とを攪拌する機構を有することにより、析出した樹脂を微粒化させることができ、析出した樹脂が反応部又はライン中に詰まることを抑制することができる。
【0029】
上記原料混合液と上記高温高圧流体とを攪拌する機構は、反応部内に配置することが可能であり、かつ、流体を攪拌することが可能な部品であれば特に限定されず、例えば、撹拌羽根等の動的な撹拌機構、スタティックミキサー等の静置的な撹拌機構、温度勾配をつけることによって対流を起こす撹拌機構等が挙げられる。
【0030】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法では、副反応を抑制しつつ短時間で均一にアセタール化を行い、着色がほとんどなくアセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度(アセタール基がブチラール基である場合には、ブチラール化度ともいう)は、10モル%以上である。
【0031】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法により得られるポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、好ましい下限が40モル%、好ましい上限が80モル%である。アセタール化度が40モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂が大気中の水分を吸水しやすくなることがある。アセタール化度が80モル%を超えると、ポリビニルアセタール樹脂において水素結合に寄与する水酸基が減少するため、ガラス転移温度(Tg)が低下し、耐熱性の低下、破断強度の低下等を引き起こすことがある。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度のより好ましい下限は50モル%、より好ましい上限は70モル%である。
なお、本明細書においてアセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基がポリビニルアルコール樹脂の2個の水酸基をアセタール化して得られたものであることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用する。
【0032】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法により得られるポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量は、好ましい下限が0.5モル%、好ましい上限が8モル%である。アセチル基量が0.5モル%未満であると、ポリビニルアセタール樹脂の分子間での水素結合が強くなり、局所的にゲル化し、溶媒に均一溶解しにくくなることがある。アセチル基量が8モル%を超えると、ガラス転移温度(Tg)が低下し、耐熱性の低下、破断強度の低下等を引き起こすことがある。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量のより好ましい下限は0.7モル%、より好ましい上限は3.5モル%であり、更に好ましい上限は2.0モル%である。
【0033】
本発明のポリビニルアセタール樹脂の製造方法により得られるポリビニルアセタール樹脂の重合度は、好ましい下限が200、好ましい上限が5000である。上記ポリビニルアセタール樹脂の重合度が200未満であると、上記ポリビニルアセタール樹脂をフィルムに成形した際の強度が低下することがある。上記ポリビニルアセタール樹脂の重合度が5000を超えると、上記ポリビニルアセタール樹脂の溶融粘度が高くなりすぎ、成形性が悪くなることがある。上記ポリビニルアセタール樹脂の重合度のより好ましい下限は300、より好ましい上限は2000である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、副反応を抑制しつつ短時間で均一にアセタール化を行い、着色がほとんどなくアセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができるポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0036】
(実施例1)
反応容器内で粉末状のポリビニルアルコール樹脂(けん化度99%、重合度1800)0.5gに水5gを加えて加熱攪拌し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液5.5gにクエン酸0.1gを加え、n−ブチルアルデヒド0.35mLを加えた。
反応容器に二酸化炭素を注入し、容器内温度を130℃に調整し、圧力調整弁を用いて容器内圧を2.0MPaに調整した。130℃で2時間攪拌しながら反応を行った後、反応部を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を含有する混合液を得た。
【0037】
(実施例2〜10、参考例11
表2に記載した配合及び反応条件とした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0038】
(比較例1)
反応容器内で粉末状のポリビニルアルコール樹脂(けん化度99%、重合度1800)0.5gに水5gを加えて加熱攪拌し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。得られたポリビニルアルコール水溶液5.5gに塩酸0.1gを加え、n−ブチルアルデヒド0.35mLを加えた。
反応容器内の温度を130℃に調整し、圧力調整弁を用いて容器内圧を2.0MPaに調整した。130℃で2時間攪拌しながら反応を行った後、反応部を室温まで冷却し、ポリビニルブチラール樹脂を含有する混合液を得た。
【0039】
(比較例2〜5)
表3に記載した配合及び反応条件とした以外は、比較例1と同様にしてポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0040】
<評価>
実施例、参考例及び比較例で得られたポリビニルブチラール樹脂について以下の評価を行った。結果を表2及び3に示した。
【0041】
(1)ブチラール化度、水酸基量、及び、アセチル基量
ポリビニルブチラール樹脂を乾燥した後、ジメチルスルホキシドに溶解し、水への沈殿を3回行った。その後、ポリビニルブチラール樹脂を充分乾燥し、重水素化ジメチルスルホキシドに再溶解し、H−NMR測定によりブチラール化度、水酸基量、及び、アセチル基量を測定した。
【0042】
(2)着色評価
ポリビニルブチラール樹脂を乾燥した後、ジメチルスルホキシドに溶解し、水への沈殿を3回行った。その後、ポリビニルブチラール樹脂を充分乾燥し、目視にて着色評価を行った。ポリビニルブチラール樹脂が白色であった場合を「○○」、わずかに黄変が見られた場合を「○」、黄色又は茶色に着色していた場合を「×」として評価した。
【0043】
(3)組成評価
エタノールとトルエンとを1:1で混合した溶媒200mL中に、平均粒子径約300μmとなるように粉砕したポリビニルブチラール樹脂8gを投入した。40℃30分後に未溶解物が観察されなかった場合を「○○」、60℃30分後又は1時間後に未溶解物が観察されなかった場合を「○」、60℃1時間以上経っても未溶解物が観察された場合を「×」とした。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
なお、酸触媒として酢酸(pKa値4.8、分子量60.05)を用いた参考例11では、酢酸の分子量は60以上ではあるが比較低小さいため、酢酸自体が若干ながらポリビニルアルコールの水酸基と反応し、副反応としてエステル交換反応が進行してしまったため、得られたポリビニルブチラール樹脂のアセチル基量が多くなったと考えられる。
比較例3で得られたポリビニルブチラール樹脂は劣化が激しく、H−NMR測定による分析は不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、副反応を抑制しつつ短時間で均一にアセタール化を行い、着色がほとんどなくアセタール化度が高いポリビニルアセタール樹脂を得ることができるポリビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。