特許第6134345号(P6134345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134345
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】レトロウイルス除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/14 20060101AFI20170515BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/54 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/30 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/62 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/58 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/24 20060101ALI20170515BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20170515BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170515BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20170515BHJP
【FI】
   B01D61/14 500
   B01D63/00 510
   B01D71/64
   B01D71/56
   B01D71/68
   B01D71/16
   B01D71/54
   B01D71/42
   B01D71/26
   B01D71/52
   B01D71/34
   B01D69/00
   B01D71/28
   B01D71/30
   B01D71/62
   B01D71/48
   B01D71/58
   B01D71/24
   B01D71/38
   A61K9/08
   D04H1/728
【請求項の数】34
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-53655(P2015-53655)
(22)【出願日】2015年3月17日
(62)【分割の表示】特願2013-524096(P2013-524096)の分割
【原出願日】2011年7月29日
(65)【公開番号】特開2015-199062(P2015-199062A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2015年4月15日
(31)【優先権主張番号】61/372,243
(32)【優先日】2010年8月10日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オヌアー・ワイ・カス
(72)【発明者】
【氏名】ミハイル・コズロフ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル・タシツク
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン・モヤ
(72)【発明者】
【氏名】フイリツプ・ゴダード
(72)【発明者】
【氏名】シエリー・アシユビー・レオン
(72)【発明者】
【氏名】ジビン・ハオ
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−536347(JP,A)
【文献】 特表2005−515880(JP,A)
【文献】 特開2005−270965(JP,A)
【文献】 特開2009−148748(JP,A)
【文献】 特表2009−509754(JP,A)
【文献】 特開2010−094962(JP,A)
【文献】 特開平02−161954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
A61K 9/08
D04H 1/728
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトロウイルスを液体サンプルから除去するための方法であって、
a)レトロウイルスを含有する液体サンプルを準備し、
b)6を超えるレトロウイルス対数減少値(LRV)、80%〜95%の多孔度および100LMH/psiを超える液体透過性を有する、重合体を電気紡績することにより形成される、多孔性ナノファイバーマットを含む多孔性ナノファイバー含有濾過媒体を準備し、ここで、ナノファイバーマットはサイズに基づく除去によるレトロウイルスの完全保持のための25〜30nmの範囲の有効平均ファイバー直径を有し、
c)レトロウイルスを含有する液体サンプルを濾過媒体に通過させて、レトロウイルスの完全保持をもたらす工程を含む、方法。
【請求項2】
多孔性ナノファイバーマットが、イソプロパノールで試験された場合に100〜150psiの平均流動バブルポイントを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
濾過媒体が1μm〜500μmの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
多孔性ナノファイバーマットが1μm〜50μmの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
レトロウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV)である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
レトロウイルスがヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
重合体が、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニルブチレン)からなる群から選択される重合体および共重合体、誘導体化合物またはそれらの混合物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
重合体が脂肪族ポリアミドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
重合体が重合体の混合物または共重合体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
重合体が多孔性支持体上に配置されている、請求項1記載の方法。
【請求項11】
多孔性支持体が、スパンボンド不織布、溶融吹込不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、湿式堆積不織布、樹脂積層不織布、織布、メリヤス生地、紙からなる群およびそれらの組合せから選択される1以上の層を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
レトロウイルスを液体サンプルから除去してサイズに基づく除去によるレトロウイルスの完全保持をもたらすための多孔性ナノファイバー濾過媒体であって、
6を超えるレトロウイルス対数減少値(LRV)、80%〜95%の多孔度および100LMH/psiを超える液体透過性を有する、重合体を電気紡績することにより形成される、多孔性ナノファイバーマットを含む多孔性ナノファイバー濾過媒体を含み、ナノファイバーがサイズに基づく除去によるレトロウイルスの保持について有効な25nm〜30nmの範囲の平均ファイバー直径を有する、多孔性ナノファイバー濾過媒体。
【請求項13】
多孔性ナノファイバーマットが、イソプロパノールで試験された場合に100〜150psiの平均流動バブルポイントを更に含む、請求項12記載の媒体。
【請求項14】
多孔性ナノファイバーマットが、1μm〜500μmの厚さを有する、請求項12記載の媒体。
【請求項15】
多孔性ナノファイバーマットが、1μm〜50μmの厚さを有する、請求項12記載の媒体。
【請求項16】
レトロウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV)である、請求項12記載の媒体。
【請求項17】
レトロウイルスがヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)である、請求項12記載の媒体。
【請求項18】
重合体が、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニルブチレン)からなる群から選択される重合体および共重合体、誘導体化合物またはそれらの混合物である、請求項12記載の媒体。
【請求項19】
重合体が脂肪族ポリアミドを含む、請求項12記載の媒体。
【請求項20】
重合体が重合体の混合物または共重合体を含む、請求項12記載の媒体。
【請求項21】
重合体が多孔性支持体上に配置されている、請求項12記載の媒体。
【請求項22】
多孔性支持体が、スパンボンド不織布、溶融吹込不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、湿式堆積不織布、樹脂積層不織布、織布、メリヤス生地、紙およびそれらの組合せからなる群から選択される1以上の層を含む、請求項21記載の媒体。
【請求項23】
液体濾過装置を通過する液体サンプルからのサイズに基づく除去によりレトロウイルスを完全に保持させるために使用される、6を超えるレトロウイルスLRVを有する液体濾過装置であって、濾過装置が、(a)6を超えるLRV、80%〜95%の多孔度および100LMH/psiを超える液体透過性を有する、重合体を電気紡績することにより形成される、多孔性ナノファイバーマットを含む多孔性電気紡績ナノファイバー濾過媒体と(b)多孔性支持体とを含み、ナノファイバー濾過媒体が多孔性支持体上に配置されており、多孔性ナノファイバーマットサイズに基づく除去によるレトロウイルスの保持について有効な25nm〜30nmのファイバー直径を有する、液体濾過装置。
【請求項24】
多孔性ナノファイバーマットが10μm〜100μmの厚さを有する、請求項23記載の装置。
【請求項25】
多孔性ナノファイバーマットが1μm〜50μmの厚さを有する、請求項23記載の装置。
【請求項26】
多孔性ナノファイバーマットがイソプロパノールで試験された場合に100〜150psiの平均流動バブルポイントを示す、請求項23記載の装置。
【請求項27】
多孔性ナノファイバーマットが0.05μm〜3μmの平均孔径を有する、請求項23記載の装置。
【請求項28】
ナノファイバーが、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニルブチレン)からなる群から選択される重合体および共重合体、誘導体化合物またはそれらの混合物を含む、請求項23記載の装置。
【請求項29】
ナノファイバーが脂肪族ポリアミドを含む、請求項23記載の装置。
【請求項30】
ナノファイバーが重合体の混合物または共重合体を含む、請求項23記載の装置。
【請求項31】
ナノファイバーが多孔性支持体上に配置されている、請求項23記載の装置。
【請求項32】
多孔性支持体が、スパンボンド不織布、溶融吹込不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、湿式堆積不織布、樹脂積層不織布、織布、メリヤス生地、紙およびそれらの組合せからなる群から選択される1以上の層を含む、請求項23記載の装置。
【請求項33】
レトロウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV)である、請求項23記載の装置。
【請求項34】
レトロウイルスがヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)である、請求項23記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、液体濾過媒体に関する。ある実施形態においては、本発明は、多孔性電気紡績(electrospun)ナノファイバー(ナノ繊維)液体濾過マット、および濾過液からのレトロウイルスの保持におけるその使用方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
世界中の規制機関は、生物医薬の生物学的安全性を確保するために生物医薬化合物の商業的製造に厳格な要件を課している。製造業者は、それらの方法に少なくとも2つの直交的工程(すなわち、2つの異なるメカニズムによるウイルス除去の実施)を組込み、それらを実証しなければならず、それらのうちの1つは、通常、サイズに基づく濾過である。該組合せ精製方法の全除去工程のレトロウイルス除去に関する総LRV(対数減少値)は少なくとも17でなければならず、そのうち、濾過が少なくとも6である。
【0003】
レトロウイルスは、(逆転写酵素を使用して)それ自身をDNAへと転写することにより再生するタイプのRNAウイルス(例えば、HIV)である。生じたDNAはそれ自体を細胞のDNA内に挿入し、該細胞により再生される。ヒトにとって特に危険な2つのレトロウイルスはヒト免疫不全ウイルス(HIV)およびヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)である。レトロウイルスのサイズは約80〜130nmの範囲内である。ウイルス保持性濾過製品の開発においては、哺乳類ウイルスの代わりに、類似したサイズ、形状および表面電荷のバクテリオファージを使用することが、通常行われる。そのようなバクテリオファージの例には、Phi−6およびPR772が含まれる。あるレベルのこれらのバクテリオファージの保持を示すフィルターは、通常、同じ又はより高いレベルの哺乳類レトロウイルスの保持を示すことが、実際に示されている。
【0004】
ウイルス除去のための工業的方法の詳細な説明および商業的に入手可能なウイルス除去製品の一覧は、“Filtration and Purification in the Biopharmaceutical Industry”,T.MeltzerおよびM.Jomitz編,2nd edition.Informs Healthcare USA.Inc.,2008,Chapter 20,pp.543−577に記載されている。
【0005】
いくつかの商業的に入手可能な膜がレトロウイルスの除去に関して実証されている。典型的なレトロウイルス除去膜、例えばRetropore(登録商標)は、Millipore Corporation(Billcrica,MA)から入手可能である。該膜は、直径78nmのバクテリオファージPhi6を使用して、詳細に試験されている。このバクテリオファージは単一分散性の均一サイズおよび高力価チャレンジ用に容易に増殖される。一貫して6.5を超えるLRVが供給原料および加工条件の範囲で観察されている。Retropore(登録商標)膜は米国特許第7,108,791号(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に従い製造される。Retropore(登録商標)膜は、目の細かいウイルス除去面と多孔性の「支持」面とを有する非対称な細孔構造を有し、多種多様なUFおよびMF膜を製造するために用いられる通常の転相法により製造される。
【0006】
この方法に固有の制約の1つは、多孔度が孔径の減少と共に減少することである。例えば、約0.5ミクロンの平均孔径を有する微孔性膜は約75%〜80%の多孔度を有しうるが、0.01ミクロン〜0.02ミクロンの平均孔径を有する限外濾過膜は最小孔径のその領域内で約5%〜30%の多孔度を有するに過ぎないであろう。レトロウイルス除去膜は、通常、低い多孔度を有し、したがって、より低い流量を示す。米国特許第7,108,791号は、「大ウイルス」(>75nm)フィルターの最小の望ましい流量を、5〜20 lmh/psiの最小値を有するものとして定義している。
【0007】
Asahi Kasei Medical Co.,Ltd.の米国特許第7,459,085号は、ウイルス濾過用途における低いタンパク質汚損を意図した、0〜100nmの最大孔径を有する熱可塑性樹脂を含む親水性微孔性膜を開示している。
【0008】
Millipore Corp.の公開米国特許出願第2008/0004205号は、ウイルス除去限外濾過膜用に設計された少なくとも1つの限外濾過層を有する一体型多層複合膜、およびそのような膜の製造方法を開示している。
【0009】
生物医薬の製造が成熟するにつれて、該産業は、作業を能率化するための、工程を合体および排除するための、そして該薬物の各バッチを処理するのに要する時間を劇的に減少させるための方法を絶えず探し求めている。同時に、それらのコストの削減に対する、市場および規制における強い要請がある。ウイルス濾過は薬物精製の総コストの相当な割合を占めるため、膜処理量を増加させ時間を短縮させるためのどのようなアプローチも重要である。新規前濾過媒体の導入およびそれに伴うウイルスフィルターの処理量の増加により、益々大量の供給流の濾過が流量限定的になりつつある。したがって、ウイルスフィルターの透過性における劇的な改善はウイルス濾過工程のコストに直接的な影響を及ぼすであろう。
【0010】
液体濾過において使用されるフィルターは、一般に、繊維不織媒体フィルターまたは多孔性フィルム膜フィルターのいずれかとして分類されうる。
【0011】
繊維不織液体濾過媒体には、スパンボンド(spunbonded)、溶融吹込(melt blown)もしくはスパンレース(spunlaced)連続繊維から形成される不織媒体;カードステープル(carded staple)繊維などから形成されるヒドロエンタングル(hydroentangled)不織媒体;またはこれらの型の何らかの組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。典型的には、液体濾過において使用される繊維不織フィルター媒体フィルターは、一般に約1ミクロン(μm)を超える孔径を有する。
【0012】
多孔性フィルム膜液体濾過媒体は非支持形態で使用され、あるいは多孔性基体または支持体と共に使用される。多孔性濾過膜は、繊維不織媒体より小さな孔径を有し、典型的には、約1μm未満の孔径を有する。多孔性フィルム液体濾過膜は、(a)液体から濾過される粒子が典型的には約0.1μm〜約10μmの範囲である精密濾過、(b)液体から濾過される粒子が典型的には約5nm〜約0.1μmの範囲である限外濾過、および(c)液体から濾過される粒子が典型的には約1オングストローム〜約1nmの範囲である逆浸透において使用されうる。レトロウイルス保持膜は、通常、限外濾過膜の開口端に位置すると考えられる。
【0013】
液体膜の最も望まれる2つの特徴は高い透過性および信頼しうる保持性である。本来の性質として、これらの2つのパラメータの間には同時には成立しない二律背反関係があり、同じタイプの膜では、膜の透過性を犠牲にすることにより、より大きな保持性が得られうる。多孔性フィルム膜を製造するための通常の方法の固有の制約のため、膜は多孔度における或る閾値を超えることができず、したがって、与えられた細孔において達成されうる透過性の大きさが制限される。
【0014】
電気紡績ナノファイバーマットは高い多孔性の重合体物質であり、この場合、「孔」径は繊維の直径に正比例するが、多孔度は繊維の直径に比較的に非依存的である。電気紡績ナノファイバーマットの多孔度は、通常、約85%〜90%の範囲内であり、同様の厚さおよび孔径等級を有する浸漬流延(immersion cast)膜と比較して劇的に改善された透過性を示すナノファイバーマットを与える。更に、ウイルス濾過で典型的に要求される孔径範囲のような、より小さな孔径範囲において、UF膜の多孔度の減少のため(前記)、この利点は増大する。
【0015】
電気紡績マットの形成のランダムな性質のため、それは液体流のいずれの重要な濾過にも適さない、と一般に考えられている。電気紡績ナノファイバーマットは、しばしば、「不織布」と称され、したがって、「伝統的」不織布と称される溶融吹込およびスパンボンド繊維媒体と同じ範疇に含まれる。
【0016】
伝統的不織布における繊維は、通常、少なくとも直径約1,000nmであり、したがって、それらの有効孔径は常に約1ミクロンを超える。また、伝統的不織布の製造方法は非常に不均質な繊維マットを与え、これはそれらの利用可能性を液体濾過に限定してしまう。
【0017】
合成重合体は、溶融吹込、静電紡績および電気ブロー加工(electroblowing)を含む種々の方法を用いて非常に小さな直径の繊維(すなわち、数マイクロメートルまたは1μm未満のオーダー)のウェブへと形成される。そのようなウェブは液体障壁材および繊維として有用であることが示されている。しばしば、それらは、複合材料を形成させるために、より強力なシートと組合され、この場合、そのようなより強力なシートは、最終的なフィルター製品の要求を満足させる強度を付与する。
【0018】
Jirsakの米国特許第7,585,437号は、静電紡績を用いて重合体溶液からナノファイバーを製造するための無ノズル法、および該方法を実施するための装置を教示している。
【0019】
Nano Technics Co.LTD.に譲渡されたWIPO特許出願番号WO/2003/080905(“A Manufacturing Device And Method of Preparing For The Nanofibers Via Electro−Blown Spinning Process”)(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)は、重合体と溶媒とを含む重合体溶液の流れを、高電圧がかけられ該重合体溶液の排出路となる紡糸口金の一連の紡糸ノズルに貯蔵タンクから供給する、電気ブロー加工法を教示している。一方、場合によっては加熱されうる圧縮空気が、該紡糸ノズルの表面または該紡糸ノズルの周辺部に配置された空気ノズルから放出される。該空気は一般に、吹込ガス流として下方に向けられ、これは、新たに放出された重合体溶液を包み、送り出し、繊維ウェブの形成を助け、該繊維ウェブは、真空室上の、地上に置かれた多孔性収集ベルト上に収集される。該電気ブロー加工法は、比較的短時間で、約1gsm〜約40gsmを超える基本重量の商業的なサイズおよび量のナノウェブの形成を可能にする。
【0020】
Schaeferに発行された米国特許公開第2004/0038014号は、汚染物を濾過するための、静電紡績により形成された細い重合体微小繊維およびナノファイバーの厚い集合体の層の1以上を含む不織濾過マットを教示している。該静電紡績法は、細い繊維を形成する重合体溶液を含有する貯蔵容器、ポンプ、および重合体溶液を該貯蔵容器から得るエミッタ装置を含む電気紡績装置を利用する。静電場内で、該重合体溶液の液滴は、グリッド上に位置する収集媒体基体に向けて、該静電場により加速される。適当な静電電圧源を使用して、該エミッタとグリッドとの間で高電圧の静電位が維持され、該収集基体はそれらの間に位置する。
【0021】
Batesらに発行された米国特許公開第2007/0075015号は、液体中の粒状物を濾過するための、場合によってはスクリム層上に配置されうる1,000ナノメートル未満の平均直径を有するナノファイバーの層の少なくとも1つを含む液体濾過媒体を教示している。該濾過媒体は、比較的高いレベルのソリディティで少なくとも0.055L/分/cmの流量を示す。差圧は2psi(14kPa)と15psi(100kPa)との間で増加するため、該媒体は非低下性流量を示すらしい。
【0022】
Chenらに発行された米国特許公開第2009/0026137号は、微孔性膜に隣接する又は場合によっては微孔性膜に結合したナノウェブを有する複合媒体を含有する液体フィルターの製造を教示している。該膜は定格粒径において3.7のLRV値により特徴づけられ、該ナノウェブは、該膜の定格粒径において、0.1を超える分別濾過効率を有する。該ナノウェブはまた、その効率において、0.0002を超える厚さ効率比を有する。該ナノウェブは、該膜にデプス濾過をもたらすように働く。
【0023】
Koslowの米国特許第7,144,533号は、4 LRVを超えるウイルス除去および6 LRVを超える細菌除去をもたらす微生物遮断増強剤(例えば、カチオン性金属複合体)で被覆されたナノファイバーマットを教示している。
【0024】
Greenの米国特許公開第2009/0199717号は、基体層により担持される電気紡績繊維層を形成させるための方法を教示しており、ここで、該微細繊維層は、100ナノメートル未満の直径を有する相当な量の繊維を含む。
【0025】
Bjorgeら,Desalination 249(2009)942−948は、直径50〜100nmおよび厚さの電気紡績ナイロンナノファイバーを教示している。非表面処理繊維に関する測定細菌LRVは1.6〜2.2である。該著者は、非紡績(asspun)ナノファイバーマットの細菌除去効率が不十分であると結論づけている。
【0026】
Gopalら,Journal of Membrane Science 289(2007)210−219は、ナノファイバーが約470nmの直径を有する電気紡績ポリエーテルスルホンナノファイバーマットを教示しており、液体濾過中に、該マットは、1ミクロンを超える粒子を濾去するためのスクリーンとして、および1ミクロン未満の粒子に関するデプスフィルターとして作用する。
【0027】
D.Aussawasathienら,Journal of Membrane Science,315(2008)11−19は、ポリスチレン粒子(直径0.5〜10μm)の除去において使用される直径30〜110nmの電気紡績ナノファイバーを教示している。
【0028】
レトロウイルス粒子の99.9999%を超える(LRV>6)除去に好適であると同時に高い透過性をもたらす信頼しうる電気紡績ナノファイバーフィルター媒体があれば望ましいであろう。これらのナノファイバーマットは、通常使用されているウイルス除去膜と比較して以下の3つの利点を有するであろう:(1)より高い多孔度による、より高い透過性、(2)自立性(すなわち、支持微孔性構造が不要である)、および(3)単層形態での使用可能性。後者の2つの利点はウイルス濾過装置の設計および実証において相当に大きな柔軟性をもたらす。
【0029】
更に、該多孔性電気紡績ナノファイバー濾過媒体は、ミリリットルから数千リットルの範囲のサンプル流体の処理体積に容易に規模改変可能であり適用可能であり、種々の濾過方法および装置と共に使用可能であろう。本発明はこれらの及び他の目的および実施形態に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】米国特許第7,108,791号明細書
【特許文献2】米国特許第7,459,085号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0004205号明細書
【特許文献4】米国特許第7,585,437号明細書
【特許文献5】国際公開第2003/080905号
【特許文献6】米国特許出願公開第2004/0038014号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2007/0075015号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/0026137号明細書
【特許文献9】米国特許第7,144,533号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2009/0199717号明細書
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】T.MeltzerおよびM.Jomitz編,“Filtration and Purification in the Biopharmaceutical Industry”,2nd edition.Informs Healthcare USA.Inc.,2008,Chapter 20,pp.543−577
【非特許文献2】Bjorgeら,Desalination 249(2009)942−948
【非特許文献3】Gopalら,Journal of Membrane Science 289(2007)210−219
【非特許文献4】D.Aussawasathienら,Journal of Membrane Science,315(2008)11−19
【発明の概要】
【0032】
発明の概括
本発明は、液体を多孔性電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体に通過させることにより、該液体からレトロウイルスを除去する方法に関する。該電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体は、多孔性支持体または基体上に配置されて又は配置されないで使用されうる。該電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体は、例えば多孔性重合体ナノファイバーマットのような種々の形状、サイズ、厚さおよび密度のものに形成されうる。
【0033】
もう1つの実施形態においては、本発明は、約6を超えるレトロウイルスLRVを有する多孔性電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体に関するものであり、該ナノファイバーは、約10nm〜約100nmの範囲の平均ファイバー直径を有する。
【0034】
もう1つの実施形態においては、本発明は、約6を超えるレトロウイルスLRVを有する多孔性電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体に関するものであり、該濾過媒体は約80%〜約95%の範囲の多孔度を有する。
【0035】
もう1つの実施形態においては、本発明は、10psiの差圧における約1,000LMH(リットル毎平方メートル毎時)を超える液体透過性、および約6を超えるレトロウイルスLRVを有する多孔性電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体に関する。
【0036】
もう1つの実施形態においては、本発明は、約1μm〜約500μm、好ましくは約1μm〜約100μm、または約1μm〜50μmの範囲の厚さを有する繊維性多孔性マットとして形成された、約6を超えるレトロウイルスLRVを有する多孔性電気紡績ナノファイバー液体濾過媒体に関する。
【0037】
もう1つの実施形態においては、本発明は、重合体溶液からの1以上の電気紡績重合体ナノファイバーからの多孔性濾過媒体の製造方法であって、電気紡績装置を使用し、該溶液を約10kVを超える電位に付し、電気紡績重合体ファイバーを不織マットとして集めることによる製造方法に関する。
【0038】
もう1つの実施形態においては、本発明は、約6を超えるレトロウイルスLRVを有する濾過媒体を含み、多孔性支持体または多孔性基体上に配置された電気紡績重合体ナノファイバーマットを含む複合多孔性濾過装置に関する。
【0039】
本発明の追加的な特徴および利点は以下の詳細な説明および特許請求の範囲にを記載されている。当業者に明らかなとおり、本発明の多数の修飾および変更が、その精神および範囲から逸脱することなく施されうる。前記の一般的な説明および以下の詳細な説明、特許請求の範囲ならびに添付図面は典型的かつ説明的なものに過ぎず、本教示の種々の実施形態の説明を与えるものであると意図されると理解されるべきである。本明細書に記載されている具体的な実施形態は例示として記載されているに過ぎず、何ら限定的なものではないと意図される。
【0040】
図面の簡潔な説明
本明細書に含まれその一部を構成する添付図面は、本発明の現在想定されている実施形態を例示するものであり、本明細書と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は、本発明の1つの実施形態に従いナノファイバーを電気紡績する方法の概要図である。
図2図2は、実施例1に例示されている本発明の実施形態からのナイロン繊維の前端走査電子顕微鏡像である。
図3図3は、実施例3に例示されている本発明の実施形態からのナイロン繊維の前端走査電子顕微鏡像である。
図4図4は、実施例1に記載されているナイロン繊維マットおよび市販のレトロウイルス保持膜に関するバブルポイント分布のグラフである。
図5図5は、ナノファイバーマットの紡績時間の関数としての、バクテリオファージPR772の対数減少値(LRV)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
実施形態の説明
本明細書中に引用されている全ての刊行物、特許および特許出願の全体を、各刊行物、特許または特許出願が参照により本明細書に組み入れられると具体的かつ個別に示しているものとして、参照により本明細書に組み入れる。
【0043】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的においては、本明細書および特許請求の範囲において用いられる成分量、物質の百分率または比率、反応条件および他の数値を表す全ての数字は、特に指定しない限り、全ての場合において「約」なる語により修飾されていると理解されるべきである。
【0044】
したがって、特に断りがない限り、以下の説明および添付の特許請求の範囲において記載されている数的パラメーターは、本発明により得られることが望まれる所望の特性に応じて変動しうる近似値である。少なくとも、そして特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとするものではなく、各数的パラメーターは少なくとも、示されている有効数字の数字を考慮して、そして通常の丸め技術を適用することにより解釈されるべきである。
【0045】
本発明の広い範囲を示す数的範囲およびパラメーターは近似値あるが、具体例において記載されている数値は可能な限り厳密に示されている。しかし、いずれの数値も、それらのそれぞれの試験測定値において見出される標準偏差から必然的に生じる或る誤差を本質的に含有する。さらに、本明細書に開示されている全ての範囲は、それに包含される全ての部分範囲を含むと理解されるべきである。例えば、「1〜10」の範囲は、最小値1と最大値10(それらも含む)との間の全ての部分範囲、すなわち、1以上の最小値および10以下の最大値を有する全ての部分範囲(例えば、5.5〜10)を含む。
【0046】
本発明を更に詳細に説明する前に、いくつかの用語を定義する。これらの用語の用い方は本発明の範囲を限定するものではなく、専ら本発明の説明を促進するためのものである。
【0047】
本明細書中で用いる単数形は、文脈上明らかに矛盾しない限り、複数形の指示物を含む。
【0048】
「ナノファイバー」なる語は、数十ナノメートル〜数百ナノメートルの範囲、一般には1マイクロメートル未満の直径を有するファイバー(繊維)を意味する。
【0049】
「フィルター媒体」なる語は、微生物汚染物を含有する流体が通過する物質または物質の集合体を意味し、ここで、該物質または物質の集合体の中または上に微生物が沈着する。
【0050】
「流量」および「流速」なる語は、与えられた面積の濾過媒体を或る体積の流体が通過する速度を示すために互換的に用いられる。
【0051】
本発明の濾過媒体は多孔性電気紡績ナノファイバー液体濾過マットを含む。該ナノファイバーは約10nm〜約100nmの平均ファイバー直径を有する。該濾過媒体は約0.05μm〜約1μmの範囲の平均孔径を有する。該濾過媒体は約80%〜約95%の範囲の多孔度を有する。該濾過媒体は、約1μm〜約500μm、好ましくは約10μm〜約100μmの範囲の厚さを有する。該濾過媒体は、約100LMH/psiを超える液体透過性を有する。
【0052】
本発明のナノファイバーにおける使用に適した重合体には、熱可塑性および熱硬化性重合体が含まれる。適当な重合体には、ナイロン、ポリイミド、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、セルロース、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリウレタン、ポリ(尿素ウレタン)、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルイミド、ポリアクリロニトリル、ポリ(エチレンテレフタラート)、ポリプロピレン、ポリアニリン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンナフタラート)、ポリ(ブチレンテレフタラート)、スチレンブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニルブチレン)、それらの共重合体、誘導体化合物および混合物ならびにそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
該濾過媒体の電気紡績ナノファイバーマットの製造方法は、それぞれElmarco S.R.O.(Liberec,Czech Republic)に譲渡されたWO 2005/024101、WO 2006/131081およびWO 2008/106903(それぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。
【0054】
図1に示されている本発明の1つの実施形態においては、該濾過媒体は、単一ナノファイバーから構成される多孔性マット60を含み、ここで、該単一ナノファイバーは、電気紡績プロセスにより、回転ドラム20とコレクター35との間に配置された移動性収集装置30の1回の通過により製造される。該繊維ウェブは、同じ移動性収集装置30の上を同時に移動する1以上の紡績ドラム20により形成されうると理解されるであろう。
【0055】
図1においては、移動性収集装置30は、好ましくは、紡績ドラム20とコレクター35との間の静電場50内に配置された移動性収集ベルトであり、ここで、電場50内で電気紡績重合体繊維が製造されうるように、重合体溶液10が高電圧源40からの電位に付されうる。
【0056】
本発明の1つの実施形態においては、ナノファイバーをナイロン溶液から析出させることにより、繊維マットが製造される。該ナノファイバーマットは、乾燥重量で測定された場合(すなわち、残留溶媒が蒸発または除去された後)に約1g/m〜約10g/mの基本重量を有する。
【0057】
本発明の1つの実施形態においては、いずれかの種々の多孔性単一または多層基体または支持体が、電気紡績ナノファイバーマット媒体を収集し合体させて複合濾過装置を形成させるために移動性収集ベルト上に配置されうる。
【0058】
単一または多層多孔性基体または支持体の例には、スパンボンド(spunbonded)不織布、溶融吹込(melt blown)不織布、ニードルパンチ(needle punched)不織布、スパンレース(spunlaced)不織布、湿式堆積不織布、樹脂積層不織布、織布、メリヤス生地、紙およびそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明のもう1つの実施形態においては、本明細書に教示されている電気紡績ナノファイバーマット媒体は多孔性基体または支持体に結合されうる。結合は、加熱平滑ニップロール間の熱カレンダリング(thermal calendaring)、超音波結合および通気(through gas)結合(これらに限定されるものではない)を含む当技術分野における公知方法により達成されうる。支持体への電気紡績ナノファイバー媒体の結合は該媒体の強度および圧縮耐性を増加させて、多孔性媒体が有用なフィルターへと形成され及び/又は濾過装置内に取り付けられる場合の取り扱いに関連した力に該媒体が耐えることを可能にする。また、多孔性電気紡績ナノファイバー媒体の物理的特性、例えば厚さ、密度ならびに細孔のサイズおよび形状は、用いられた結合方法に影響されうる。
【0060】
例えば、熱カレンダリングを用いて、電気紡績ナノファイバーマット媒体の厚さを減少させ、密度を増加させ、多孔度を減少させ、細孔のサイズを減少させることが可能である。これが今度は、与えられた適用差圧において該媒体を通る流量を減少させる。
【0061】
一般に、超音波結合は、熱カレンダリングの場合より小さな、該多孔性電気紡績ナノファイバー媒体の領域に結合させ、したがって、厚さ、密度および孔径に対して、より小さな効果を及ぼす。
【0062】
ガス結合は、一般に、該多孔性電気紡績ナノファイバー媒体の厚さ、密度および孔径に対して最小の効果を及ぼし、したがって、この結合方法は、より高い流体流量の維持が望ましい用途に好ましいかもしれない。
【0063】
熱カレンダリングを用いる場合、該多孔性電気紡績ナノファイバー物質を過剰結合させて、該ナノファイバーが溶融し、その構造を、個々の繊維として、もはや保持しないことにならないように注意しなければならない。極端な場合、過剰結合はナノファイバーの完全溶融を引き起こして、フィルムが形成するであろう。使用されるニップロールの一方または両方は約室温(例えば、25℃)〜約300℃の温度まで加熱される。該多孔性ナノファイバー媒体および/または多孔性支持体もしくは基体は約0 lb/in〜約1000 lb/in(178kg/cm)の範囲の圧力で該ニップロール間で圧縮されうる。該多孔性ナノファイバー媒体は少なくとも約10 ft/分(3m/分)の線速度(line speed)で圧縮されうる。
【0064】
カレンダリング条件、例えば、ロール(圧延)温度、ニップ圧および線速度は、所望のソリディティが得られるように調節されうる。一般に、より高い温度、圧力および/または滞留時間の高い温度および/または圧力での適用はソリディティの増大をもたらす。
【0065】
他の機械的工程、例えば延伸、冷却、加熱、焼結、アニール、巻取りなどは、所望により、電気紡績ナノファイバーマット媒体を形成、成形および製造する方法の全体に含まれうる。
【0066】
例えば、本明細書中に教示されている電気紡績ナノファイバーマット媒体は、所望により単一工程または複数工程で延伸されうる。該電気紡績ナノファイバー媒体を延伸させるために用いられる延伸方法に応じて、延伸は、厚さ、密度ならびに該マットにおいて形成される細孔のサイズおよび形状を含む該マットの物理的特性を調節しうる。例えば、該電気紡績ナノファイバーが一方向に延伸される場合(一軸延伸)には、所望の最終的な延伸比が得られるまで、該延伸は単一の延伸工程または一連の延伸工程により達成されうる。
【0067】
同様に、該電気紡績ナノファイバーマット媒体が二方向に延伸される場合(二軸延伸)には、所望の最終的な延伸比が得られるまで、該延伸は単一の二軸延伸工程または一連の二軸延伸工程により行われうる。二軸延伸は、一連の1つの方向の1以上の一軸延伸工程およびもう1つの方向の1以上の一軸延伸工程により達成されうる。電気紡績ナノファイバーマットが2つの方向に同時に延伸される二軸延伸工程および一軸延伸工程は任意の順序で行われうる。
【0068】
該マットの延伸方法は特に限定されるものではなく、通常の幅出し、ローリングもしくはインフレート法またはこれらの2以上の組合せが用いられうる。該延伸は、一軸延伸、二軸延伸などとして行われうる。二軸延伸の場合、縦方向延伸および横方向延伸が同時または連続的に行われうる。
【0069】
種々のタイプの延伸装置が当技術分野で公知であり、本発明の電気紡績マットの延伸を達成するために用いられうる。一軸延伸は、通常、2つのローラーの間の延伸により達成され、この場合、第2または下流ローラーは、第1または上流ローラーより大きな周速度で回転する。一軸延伸は標準的な幅出機によっても達成されうる。
【0070】
二軸延伸は、幅出機において2つの異なる方向に同時に延伸させることにより達成されうる。しかし、より一般的には、二軸延伸は、まず、前記のとおりに2つの異なって回転するローラーの間で一軸延伸させ、ついで幅出機を使用して異なる方向に一軸延伸させるか、または幅出機を使用して二軸延伸させることにより達成される。最も一般的なタイプの二軸延伸は、2つの延伸方向が互いにほぼ直角である場合である。連続シートが延伸されるほとんどの場合には、一方の延伸方向は該シートの長軸(縦方向)に少なくともほぼ平行であり、もう一方の延伸方向は縦方向に対して少なくとも垂直であり、該シートの平面(横方向)内にある。
【0071】
該電気紡績ナノファイバーマットが一軸または二軸延伸された後、該延伸多孔性電気紡績ナノファイバーマットは再びカレンダリングに付されうる。該延伸電気紡績ナノファイバーマットは、該延伸装置から出るマットと比べて減少した厚さのマットを形成するように協同的に作動する一対の加熱カレンダーロールに送られうる。これらのカレンダーロールによりもたらされる圧力を温度と共に調節することにより、最終的な電気紡績ナノファイバーマットの孔径が、望みどおりに制御可能であり、それにより平均孔径の調節が可能となる。
【0072】
該電気紡績ナノファイバーマットは、延伸の前、途中および/または後に、多種多様な技術のいずれかにより加熱されうる。これらの技術の例には、放射加熱、例えば、電気加熱またはガス燃料赤外線ヒーターによりもたらされるもの、対流加熱、例えば、熱風を再循環させることによりもたらされるもの、伝導加熱、例えば、加熱ロールとの接触によりもたらされるものが含まれる。温度制御の目的で測定される温度は、使用される装置および個人的な好みによって変動しうる。
【0073】
一般に、延伸マットの厚さにおける変動が有ったとしても許容限界内となるように、また、それらの限界の外の延伸微孔性電気紡績ナノファイバーマットの量が許容可能に低くなるように、該電気紡績ナノファイバーマットがほぼ均一に延伸されるように、該温度が制御されうる。制御目的で用いられる温度は、電気紡績ナノファイバーマット自体のものに近くても近くなくてもよい、と理解されるであろう。なぜなら、それらは、用いられる装置の性質、温度測定装置の位置、および温度が測定される物質または対象の実体に左右されるからである。
【0074】
多孔度はカレンダリングの結果として改変されうる。約5%〜約90%の多孔度の範囲が得られうる。
【0075】
濾過媒体は単層形態で使用されるが多いが、濾過媒体の層の2以上を互いに隣接させることが好都合なこともある。粒子保持を改善するための膜フィルターの層化はウイルス濾過において一般に用いられており、Viresolve(登録商標)NFPおよびViresolve Pro(登録商標)の一連のMillipore製品において商業的に実施されている。同じ又は異なる組成の濾過媒体の層化も、濾過処理量を改善するために用いられる。そのような層化フィルターの例としては、MiltiporeのExpress(登録商標)SHCおよびSHRPの一連の製品が挙げられる。
【0076】
多層濾過製品を選択する場合の他の考慮点には、媒体および装置製造の経済性および簡便性、妥当性評価および滅菌の容易性が含まれる。本発明の繊維濾過媒体は単層または多層形態で使用されうる。
【0077】
好ましい層形態は、しばしば、実際的な考慮点に基づいて選択される。これらの考慮点はLRVと厚さとの公知関連性を含み、この場合、LRVは典型的には厚さと共に増加する。実施者は、より厚い、より少数の層、またはより薄い、より多数の層を使用することにより、所望のレベルのLRVを得るための複数の方法を選択することが可能である。
【0078】
試験方法
基本重量は、ASTM D−3776(これを参照により本明細書に組み入れることとする)により決定し、g/m単位で表した。
【0079】
多孔度は、g/m単位の該サンプルの基本重量をg/cm単位の重合体密度により、マイクロメートル単位のサンプルの厚さにより割り算し、100を掛け算し、得られた数を100から引き算することにより計算した。すなわち、多孔度=100−[基本重量/(密度×厚さ)×100]である。
【0080】
ファイバー(繊維)直径は以下のとおりに決定した。走査電子顕微鏡(SEM)イメージをナノファイバーマットサンプルの各面に関して60,000倍の倍率で撮影した。10個の明らかに識別可能なナノファイバーの直径が各SEMイメージから測定され、記録された。欠損体は含めなかった。(すなわち、ナノファイバーの塊、重合体滴、ナノファイバーの交差)。各サンプルの両面の平均ファイバー直径を計算した。
【0081】
厚さは、ASTM D1777−64(これを参照により本明細書に組み入れることとする)により決定し、マイクロメートル単位で表した。
【0082】
平均流動バブルポイントは、Porous Materials,Inc.(PMI),Ithaca,N.Y.の市販の装置に原理的に類似した特製毛管流ポロシメーターを使用して、ASTM Designation F 316の自動バブルポイント法を用いることにより、ASTM Designation E 1294−89.“Standard Test Method for Pore Size Characteristics of Membrane Filters Using Automated Liquid Porosimeler”に従い測定した。直径25mmの個々のサンプルをイソプロピルアルコールで湿らせた。各サンプルをホルダー内に配置し、空気の差圧をかけ、流体をサンプルから除去した。湿潤流動が乾燥流動(湿潤溶媒を含有しない流動)の半分に等しくなる差圧を用いて、提供されたソフトウェアを使用して平均流動孔径を計算する。
【0083】
流速(流量とも称される)は、与えられた面積のサンプルを流体が通過する速度であり、47(9.6cm濾過面積)mmの直径を有するフィルター媒体サンプルに脱イオン水を通過させることにより測定された。水圧(水頭圧)または空気圧(水に対する気圧)を用いて該水を強制的に該サンプルに通過させた。
【0084】
電気紡績マットの有効孔径は、通常の膜技術、例えばバブルポイント、液−液ポロメトリー、および或るサイズの粒子でのチャレンジ試験を用いて測定されうる。繊維マットの有効孔径は一般にファイバー(繊維)直径と共に増加し、多孔度と共に減少することが公知である。
【0085】
バブルポイント試験は、有効孔径を測定するための簡便な方法である。それは以下の式から計算される。
【0086】
P=(2γ/r)cosθ(式中、Pはバブルポイント圧であり、γはプローブ流体の表面張力であり、rは孔半径であり、θは液体−固体接触角である)。
【0087】
膜製造業者は、市販の膜フィルターに対して名目孔径定格を定めており、これはそれらの保持特性に基づくものである。
【0088】
レトロウイルス保持性は、Millipore試験法に従い試験した。バクテリオファージPR772チャレンジ流をリン酸緩衝食塩水(PBS)中で1.0×10pfu/mLの最小力価で調製した。試験する多孔性媒体を25mmの円盤状に切断し、オーバーモールド(overmolded)ポリプロピレン装置内に密封した。ついでこれらの装置を、25psiの圧力で水で湿らせた後、前記チャレンジ流により5psiの圧力でチャレンジした。100mlの濾液の収集または4時間の濾過のうちの早く達成されたものの後、該試験を終了させた。初期および最終供給物におけるバクテリオファージの定量を、ライトボックスおよびコロニーカウンターを使用して、一晩インキュベートされたプレート上で行った。対応する対数減少値(LRV)を計算した。
本発明の以下の実施例は、電気紡績ナノファイバーマットが、高い透過性と高い細菌保持性との両方を同時に有しうることを実証するものである。
【0089】
本発明を以下の実施例において更に詳細に説明することとする。本発明は、以下の実施例により更に明瞭になるであろう。これらの実施例は本発明の典型例であると意図される。
【実施例】
【0090】
[実施例1]
ナイロン6(Nylon6)重合体の溶液を電気紡績することにより、ナノファイバー層を製造した。ナイロン6はBASF Corp.(Florham Park,NJ,USA)から商標Ultramid B24として提供された。紡績溶液を、80℃で5時間、酢酸とギ酸との混合物(重量比2:1)中の20% ナイロンストック溶液として調製し、該ストック溶液を、必要なギ酸および水の添加により、それぞれギ酸:酢酸:水の溶媒比2:2:1の13重量%重合体溶液へと更に希釈した。得られた溶液の粘度は約100cPである。82kVの電場下の6−ワイヤ紡績電極を使用して、該溶液を直ちに紡績した。電気紡績中に該ナノファイバーマットを支持するために、帯電防止被覆された不織材を使用した。得られた電気紡績マットの平均ファイバー直径は約25〜30nmであった。紡績時間は30分であり、その後、該ナノファイバー層を該マットから剥し、層化し、保持試験のためのオーバーモールド(overmolded)装置内に配置した。
【0091】
図2は、実施例1に例示されている電気紡績ナイロン繊維の前端走査電子顕微鏡像である。
【0092】
表1は2つの「完全レトロウイルス保持性」サンプル(一方は通常の浸漬流延膜(Retropore(登録商標))であり、もう一方は電気紡績ナノファイバーマットである)の並列比較を示す。Retropore(登録商標)の3層形態および該ナノファイバーマットの2層(30分の紡績時間)形態の水透過性が示されている。なぜなら、それが、>6 logのレトロウイルス保持性を維持するために典型的に必要とされる対応層数だからである。
【0093】
【表1】
図4は、実施例1に記載されているナイロン繊維マットおよび市販のレトロウイルス保持膜(Retropore(登録商標))に関するバブルポイント分布のグラフを示す。
【0094】
[実施例2]
実施例1の方法に従った。紡績時間を5〜60時間で変動させた(図5)。PR772保持性を、各ナノファイバーマットの単層に関して試験した。電気紡績ナノファイバーマットのバクテリオファージPR772保持性は、紡績時間の増加(マットの厚さの増加)と共に増加した。
【0095】
図5は、ナノファイバーマットの紡績時間の関数としての、バクテリオファージPR772の対数減少値(LRV)のグラフである。
【0096】
[実施例3]
実施例1の方法に従った。この場合は、ナイロンに関する溶媒系は4:1の重量比のギ酸/水であった。製造された電気紡績マットの測定ファイバー直径は25〜30nmの範囲であり、平均IPAバブルポイントは120〜140psiの範囲であった。30分の紡績時間のサンプルは完全なレトロウイルス保持性であった(バクテリオファージPR772に関するLRV>6.2)。図3は、実施例3に例示されているナイロン繊維の前端走査電子顕微鏡像である。
【0097】
使用方法
本発明の電気紡績ナノファイバー含有液体濾過媒体は、食品、飲料、医薬、バイオテクノロジー、マイクロエレクトロニクス、化学的加工、水処理および他の液体処理産業において有用である。
【0098】
本発明の電気紡績ナノファイバー含有液体濾過媒体は、液体サンプルまたは液体流からの微生物の濾過、分離、特定および/または検出に使用されうる。
【0099】
本発明の電気紡績ナノファイバー含有液体濾過媒体は、クロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、電気泳動、ゲル濾過、サンプル遠心分離、オンラインサンプル調製、診断キット試験、診断試験、ハイスループットスクリーニング、アフィニティ結合アッセイ、液体サンプルの精製、流体サンプルの成分のサイズに基づく分離、流体サンプルの成分の物理的特性に基づく分離、流体サンプルの成分の化学的特性に基づく分離、流体サンプルの成分の生物学的特性に基づく分離、流体サンプルの成分の静電的特性に基づく分離およびそれらの組合せ(これらに限定されるものではない)を含む任意の液体サンプル調製法で使用されうる。また、本発明の電気紡績ナノファイバー含有液体濾過媒体は、より大きな装置および/または系の成分または一部分でありうる。
【0100】
キット
本発明はまた、液体サンプルから微生物を除去するために使用されうるキットを提供する。該キットは、例えば、本発明の1以上の電気紡績ナノファイバー含有液体濾過媒体、および該媒体のための1以上の液体濾過装置、支持体または基体を含みうる。該キットは1以上の対照を含むことが可能であり、所望により、本発明の実施方法において有用な種々のバッファー、例えば、試薬を除去するための又は非特異的に保持された若しくは結合した物質を除去するための洗浄バッファーを含みうる。
【0101】
所望により含まれうる他のキット試薬には、溶出バッファーが含まれる。該バッファーのそれぞれは別々の容器中の溶液として提供されうる。あるいは、該バッファーは乾燥形態または粉末として提供されることが可能であり、使用者の所望の用途に応じて溶液として調製されうる。該キットは、該装置が自動化されている場合には電力源を提供することが可能であり、真空ポンプのような外的な力を付与する手段を提供しうる。該キットはまた、電気紡績ナノファイバー含有液体濾過媒体、装置、支持体もしくは基体を使用するための、ならびに/または本発明での使用および本発明の実施方法に適した試薬を調製するための説明を含みうる。本発明の方法を実施した際または本発明の装置を使用した際に得られたデータを記録し解析するための随意的なソフトウェアも含まれうる。
【0102】
「キット」なる語は、例えば、単一パッケージ内に組合されている成分のそれぞれ、個別に包装(パッケージング)され一緒に販売される成分のそれぞれ、またはカタログにおいて一緒に提供される成分(例えば、カタログの同じページのもの、または2ページにまたがるもの)のそれぞれを含む。
【0103】
前記の開示は、独立した有用性を有する複数の別個の発明を含みうる。これらの発明のそれぞれはその好ましい形態において開示されているが、本明細書中で開示され例示されているその具体的な実施形態は、多数の変更が可能であるため、限定的な意味で解釈されるべきではない。本発明の主題は、本明細書中に開示されている種々の要素、特徴、機能および/または特性の全ての新規および非自明な組合せ及び部分的組合せを含む。以下の特許請求の範囲は、新規かつ非自明とみなされる或る組合せ及び部分的組合せを特に示すものである。特徴、機能、要素および/または特性の他の組合せ及び部分的組合せに含まれる発明は、本出願または関連出願に基づく優先権主張出願において特許請求されうる。そのようなクレーム(特許請求の範囲)も、異なる発明に関するものであっても同じ発明に関するものであっても、また、元のクレームと比べて範囲において広い、狭い、等しい又は異なるかどうかにかかわらず、本開示の本発明の主題に含まれるとみなされる。
図1
図2
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図5