特許第6134354号(P6134354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134354
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ニッケル及び/又はクロムメッキ部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/14 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 18/32 20060101ALI20170515BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20170515BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C25D5/14
   C23C18/32
   C23C28/02
   B32B15/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2015-131546(P2015-131546)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2016-169437(P2016-169437A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】201510106067.8
(32)【優先日】2015年3月11日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】515179532
【氏名又は名称】嘉興敏惠汽車零部件有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】▲かく▼敬軍
(72)【発明者】
【氏名】銭黎明
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−322590(JP,A)
【文献】 特開2009−074147(JP,A)
【文献】 特開平05−171468(JP,A)
【文献】 特開2013−142188(JP,A)
【文献】 特開2010−185116(JP,A)
【文献】 米国特許第06468672(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/14
C25D 5/26
C23C 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
上記基板全体一面に堆積した前処理メッキ層であって、その上に銅メッキ層が形成された前処理メッキ層と、
上記銅メッキ層上に形成された基礎層と、
低電位ニッケル層と、当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有し、上記基礎層上に形成された機能層と、
上記マイクロポーラスニッケル層上に形成された、三価クロムメッキ層又は四価クロムメッキ層である装飾層と
を含み
記基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体であり、上記半光沢ニッケル層は上記銅メッキ層上に形成されており、上記高硫黄ニッケル層は上記半光沢ニッケル層上に形成されており、上記光沢ニッケル層は上記高硫黄ニッケル層上に形成されていることを特徴とするニッケルクロムメッキ部材。
【請求項2】
基板と、
上記基板全体一面に堆積した前処理メッキ層であって、その上に銅メッキ層が形成された前処理メッキ層と、
上記銅メッキ層上に形成された基礎層と、
低電位ニッケル層と、当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有し、上記基礎層上に形成された機能層と、
上記マイクロポーラスニッケル層上に形成された、三価クロムメッキ層又は四価クロムメッキ層である装飾層と
を含み
記基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体であり、上記半光沢ニッケル層は上記銅メッキ層上に形成されており、上記高硫黄ニッケル層は上記半光沢ニッケル層上に形成されており、上記サテンニッケル層は上記高硫黄ニッケル層上に形成されていることを特徴とするニッケルクロムメッキ部材。
【請求項3】
基板と、
上記基板全体一面に堆積した前処理メッキ層であって、その上に銅メッキ層が形成された前処理メッキ層と、
上記銅メッキ層上に形成された基礎層と、
低電位ニッケル層と、当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有し、上記基礎層上に形成された機能層と、
上記マイクロポーラスニッケル層上に形成された、三価クロムメッキ層又は四価クロムメッキ層である装飾層と
を含み
記基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体であり、上記半光沢ニッケル層は上記銅メッキ層上に形成されており、上記光沢ニッケル層は上記半光沢ニッケル層上に形成されており、上記サテンニッケル層は上記光沢ニッケル層上に形成されていることを特徴とするニッケルクロムメッキ部材。
【請求項4】
上記光沢ニッケル層と、上記低電位ニッケル層との電位差は、0〜100mVの範囲であることを特徴とする請求項に記載のニッケルクロムメッキ部材。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔背景技術〕
(技術分野)
本発明は、その表面に電気メッキ層を有する工作物及びその製造方法に関し、特に、ニッケル及び/若しくはクロムメッキ部材、又はその製造方法に関する。
【0002】
(関連技術)
環境に考慮する要求が、ヨーロッパ市場において、ますます厳しくなっており、また、主要なエンジン製作所における電気メッキの耐食性の要求が、ますます高まっている。現在の三価クロム電気メッキでは、特定の環境のいくつかにおいて腐食の要求を満たすことができず、すなわち、80時間のキャス(CASS:Copper-Accelerated Acetic Acid-Salt Spray)試験及び336時間のロシアマッド耐性(Russian mud resistance)試験の対象とすることができない。
【0003】
工作物の抗腐食性は、電気メッキ工業分野において、2層又は3層のニッケルメッキの後、クロムメッキすることによって向上させることができる。広く利用されている2層ニッケルメッキ方法には、半光沢ニッケル、光沢ニッケル及びクラックフリークロムを用いたメッキ工程が含まれる。広く利用されている3層ニッケルメッキ方法には、半光沢ニッケル、光沢ニッケル、マイクロポーラスニッケル及びクラックフリークロムを用いたメッキ工程、又は、半光沢ニッケル、光沢ニッケル、マイクロクラックニッケル及びクラックフリークロムを用いたメッキ工程が含まれる。しかしながら、クロム層自身のストレスが大きいため、生産中に亀裂や孔を全く生じさせずにクロムメッキ層を得ることは困難である。空気に晒されたクロムメッキ層が不動態化されたとき、その能力はニッケルよりも肯定的である。さらに、クロムメッキ層は、腐食媒体に出会ったとき、ニッケル層と共に腐食セルを形成するだろう。その結果、装飾的なニッケルメッキ層は、極端な環境下において広い範囲が不規則に腐食し、ニッケル層の広範囲な腐食に起因してクロム層が剥がれ落ちるかもしれない。ニッケル層の抗腐食性をさらに向上させるために、マイクロポーラスニッケル及びマイクロクラックニッケルを、光沢ニッケルメッキ層に利用する。マイクロクラックニッケル及び多数のミクロ割れを用いて光沢ニッケル層上にメッキされる、特に高いストレスのニッケル層は、クロムでメッキした後のストレスによって生成されるだろう。マイクロポーラスニッケル層は、深さ方向の腐食点の形成を避けるため、及び、目に見える腐食を防ぐために、多層ニッケルにおける腐食電流を分岐する。マイクロクラックニッケル層を個々に使用するため、製品の表面に曇りが生じ、その光沢性は低く、三価クロムメッキが含まれない。さらに、マイクロポーラスニッケル又はマイクロクラックニッケルを個々に使用し、結果として抗腐食性の向上が制限される。さらに、三価クロムの抗腐食能の要求を満たすようにマイクロポーラスニッケルの方法を変化させることで、貴電位の特徴が得られる、という従来技術の一部が開示されている。しかしながら、貴電位マイクロポーラスニッケルは、抗腐食要求を満たすための四価クロムと首尾よく適合しなかった。
【0004】
たとえば、中国特許公報番号101988211のような従来技術において、抗腐食特性が優れた金属表面のための多層ニッケルメッキ方法が開示されている。このメッキ方法には、(A)プラスチック片の表面を金属化し、(B)光沢銅でメッキし、(C)半光沢ニッケルでメッキし、(D)高硫黄ニッケルでメッキし、(E)光沢ニッケルでメッキし、(F)マイクロポーラスニッケルでメッキし、(G)水で洗浄し、(H)光沢クロムでメッキし、(I)水で洗浄し、かつ、(J)乾燥させる、ことが含まれる。プラスチックの表面をメッキするためのニッケル−ニッケル電気メッキ溶液の4つの層を用いることによって、プラスチック片の抗腐食能がわずかに増強されるにも関わらず、上記の方法の抗腐食能では、除氷塩(CaCl)を含む腐食環境のための要求をまだ満たさない。高硫黄ニッケル電気メッキ層において、曇りが部分的に生じた。さらに、プラスチック表面処理はこの方法において適切ではなく、メッキ層に質の悪い深いメッキ性能をもたらし、メッキ層が容易に砕ける原因となる。電気メッキ処理の対象となるプラスチックは、たとえば、グリル、装飾棒及びドアハンドルのような、自動車の部品として、使用可能期間が短い。マイクロクラックニッケルの方法が中国特許公報番号101705508Aに紹介されており、マイクロクラックニッケルメッキのための電気メッキ溶液及びその利用について開示されている。マイクロクラックニッケル電気メッキ溶液の主な構成要素には、180〜260g/Lのニッケル塩化物、20〜60ml/Lの酢酸、80〜120ml/LのELPELYT MR及び1〜5ml/Lの62Aが含まれる。特許文献の実施形態の説明は、四価クロムメッキに限定されており、三価クロムメッキは記載されていない。
【0005】
〔発明の概要〕
上述した課題に対応するために、本発明は、腐食耐性が顕著に向上し、かつ、部材表面にマイクロポーラスニッケル層及び低電位ニッケル層をメッキした全ての部材の安定性が向上した、ニッケル及び/又はクロムメッキ部材を提供する。一方で、ニッケル及び/又はクロムメッキ部材は、優れた光沢性と均一性とを有する。メッキ層を適した方法で組み合わせることによって、マイクロポーラスニッケル層の外観の光沢性が保証されるだけでなく、マイクロポーラスニッケルを含む機能的な層の二重の腐食耐性を有することになる。したがって、上記部材は、高い腐食耐性と構造的安定性を有する。
【0006】
本発明のニッケルメッキ部材は、
基板と、
基板全体一面に堆積した前処理メッキ層であって、その上に銅メッキ層が形成された前処理メッキ層と、
銅メッキ層上に形成された機能層と、を含み、
機能層は、低電位ニッケル層と、当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有する。
【0007】
好ましい実施形態において、マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、10〜120mVの範囲である。
【0008】
好ましい実施形態において、低電位ニッケル層には、高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層のうちの1つ、又は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合メッキ層が含まれる。
【0009】
好ましい実施形態において、マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、20〜100mVの範囲である。
【0010】
好ましい実施形態において、低電位ニッケル層としてマイクロクラックニッケル層と高硫黄ニッケル層との複合メッキ層を採用したとき、マイクロクラックニッケル層と高硫黄ニッケル層との間の電位差は、10〜80mVである。
【0011】
腐食が低電位ニッケル層に到達したとき、マイクロクラックニッケル層の電位は、高硫黄ニッケル層の電位よりも高いので、後者はアノードメッキ層として最初に腐食し、マイクロクラックニッケル層の腐食は延期され、それにより、腐食耐性はさらに強化される。
【0012】
本発明のニッケルクロムメッキ部材は、
基板と、
基板全体一面に堆積した前処理メッキ層であって、その上に銅メッキ層が形成された前処理メッキ層と、
低電位ニッケル層と、当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有し、銅メッキ層上に形成された機能層と、
マイクロポーラスニッケル層上に形成された、三価クロムメッキ層又は四価クロムメッキ層である装飾層と、を含む。
【0013】
好ましい実施形態において、装飾層は、三価クロムメッキ層であり、三価クロムメッキ層は黒色三価クロムメッキ層、白色三価クロムメッキ層、又は他のタイプの三価クロムである。
【0014】
本発明のニッケル−クロムメッキ部材は、
基板と、
基板全体一面に堆積した前処理メッキ層であって、その上に銅メッキ層が形成された前処理メッキ層と、
銅メッキ層上に形成された基礎層と、
低電位ニッケル層と、当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有し、基礎層上に形成された機能層と、
マイクロポーラスニッケル層上に形成された、三価クロムメッキ層又は四価クロムメッキ層である装飾層と、を含む。
【0015】
好ましい実施形態において、基礎層は、半光沢ニッケル層、高硫黄ニッケル層、光沢ニッケル層及びサテンニッケル層のうちの1つ以上を含む。
【0016】
好ましい実施形態において、基礎層は、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層又はサテンニッケル層との複合体であり、半光沢ニッケル層は銅メッキ層上に形成されており、光沢ニッケル層又はサテンニッケル層は半光沢ニッケル層上に形成されている。
【0017】
好ましい実施形態において、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体であり、半光沢ニッケル層は銅メッキ層上に形成されており、高硫黄ニッケル層は半光沢ニッケル層上に形成されており、かつ、光沢ニッケル層は高硫黄ニッケル層上に形成されている。
【0018】
好ましい実施形態において、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体であり、半光沢ニッケル層は銅メッキ層上に形成されており、高硫黄ニッケル層は半光沢ニッケル層上に形成されており、サテンニッケル層は高硫黄ニッケル層上に形成されている。
【0019】
好ましい実施形態において、基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体であり、半光沢ニッケル層は銅メッキ層上に形成されており、光沢ニッケル層は半光沢ニッケル層上に形成されており、サテンニッケル層は光沢ニッケル層上に形成されている。
【0020】
好ましい実施形態において、光沢ニッケル層及びサテンニッケル層のいずれか1つと、低電位ニッケル層との間の電位差は、0〜100mVの範囲である。
【0021】
好ましい実施形態において、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との間の電位差、及び、半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との間の電位差は、ともに100〜200mVの範囲である。
【0022】
本発明のニッケル−クロムメッキ部材の製造方法は、
基板の表面を前処理する工程と、
基板全体一面に前処理メッキ層を堆積させ、かつ、当該前処理メッキ層上に銅メッキ層を形成する工程と、
銅メッキ層上に基礎層を形成する工程と、
基礎層上に機能層を形成する工程と、
機能層上に装飾層を形成する工程と、を包含し、
基礎層は、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との複合体、又は、半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体であり、半光沢ニッケル層は銅メッキ層上に形成されており、光沢ニッケル層又はサテンニッケル層は半光沢ニッケル層上に形成されており、
機能層は、低電位ニッケル層とマイクロポーラスニッケル層との複合体であり、低電位ニッケル層は光沢ニッケル層又はサテンニッケル層上に形成されており、マイクロポーラスニッケル層は低電位ニッケル層上に形成されており、マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、10〜120mVであり、
装飾層はマイクロポーラスニッケル層上に形成されている。
【0023】
電位差は、メッキ処理中に泡立ちを発生させないような範囲内に制御する。そうすると、メッキ層は信頼性があり頑丈な構造を有し、簡単には剥がれ落ちない。ここで、その間にドープされたいずれの他のメッキ層も有さず、銅メッキ層上に低電位層を直接メッキすると、低電位ニッケル層は銅メッキ層と協同する。
【0024】
本発明の全ての課題解決方法において、マイクロポーラスニッケル層の厚さは、少なくとも1.5μmであり、マイクロクラックニッケル層の厚さは、少なくとも1.0μmであり、高硫黄ニッケル層の厚さは、少なくとも1.0μmであり、半光沢ニッケルメッキ層の厚さは、少なくとも8μmであり、かつ、光沢ニッケルメッキ層の厚さは、少なくとも5μmである。三価クロムメッキ層を装飾層として使用する場合、その上に保護層を形成してもよい。
【0025】
本発明の第一の局面において、ニッケルメッキ部材を提供し、当該ニッケルメッキ部材は、基板と;当該基板全体一面に形成された前処理メッキ層(化学ニッケル層の1つ及び基礎ニッケル層、又は、化学ニッケル層と基礎ニッケル層との複合体を、基板の材料に依存して含むことができる)と;前処理メッキ層上に形成された銅メッキ層と;当該銅メッキ層上に形成された機能層であって、低電位ニッケル層と当該低電位ニッケル層上に形成されたマイクロポーラスニッケル層とを有し、当該低電位ニッケル層は銅メッキ層上に形成されている、機能層と;銅メッキ層と機能層との間にさらに形成されていてもよい基礎層であって、銅メッキ層上に形成されており、その上に機能層が形成された基礎層とを含み、機能層のマイクロポーラスニッケル層は低電位ニッケル層上に形成されており、かつ、マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、10〜120mVの範囲である。
【0026】
機能層は、外観の要求及び他の製品の要求に基づく装飾層と共にメッキされてもよく、当該装飾層は、白色三価クロムメッキ層、黒色三価クロムメッキ層、又は、他の型の三価若しくは四価クロムメッキ層のいずれかである、クロムメッキ層である。装飾層は、機能層のマイクロポーラスニッケル層上に形成され、ミクロ細孔構造及びミクロ割れ構造のいずれか1つを有してもよい。
【0027】
本発明の第二の局面において、本発明のニッケルメッキ部材の製造方法は、基板の正面を前処理する工程(この前処理は、基板の材料に従って選択的に処理するものであり、金属基板のための前処理とABSを含む非金属基板のための前処理とを含む)と、基板全体一面に前処理メッキ層を堆積し、かつ当該前処理メッキ層上に銅メッキ層を形成する工程と、当該銅メッキ層上に機能層の低電位ニッケル層を形成する工程と、当該低電位ニッケル層上に機能層のマイクロポーラスニッケル層を形成する工程と、当該機能層上に装飾層を形成する工程と、を包含する。
【0028】
本発明のニッケルメッキ部材の製造方法の改良の1つによれば、低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層、マイクロクラックニッケル層、及び、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体、のうちの1つを含む。
【0029】
化学ニッケル堆積は、その後の種々の金属の電気メッキを円滑にするための、触媒活性を伴う、基板表面の金属パラジウム上における導電層の薄層の堆積に関する。
【0030】
化学ニッケル層と基礎ニッケル層との両方が基板上に存在する場合、化学ニッケル堆積方法において、導電層の薄層は、酸化還元反応により基板表面に形成される。また、基礎ニッケルがメッキされる一方で、メッキ層の導電率をさらに向上させるために、電気化学を利用してニッケルの層が化学ニッケル上にメッキされる。
【0031】
銅メッキ層は、硫酸銅の特徴を利用した基板表面の光沢性及び平坦性の向上と、メッキ層の総合的な強靭性のさらなる向上とを目的としている。銅メッキ層は、ニッケル及び他の金属メッキ層よりも優れた伸長性を有している。結果として、全てのメッキ層の強靭性及び平坦性を、硫酸銅層のメッキ後に向上させることができる。
【0032】
半光沢ニッケルメッキ層は、基板表面に半光沢ニッケルの層をメッキすることを目的としている。半光沢ニッケルメッキ層は、メッキ層の腐食耐性を向上させるための支柱構造のためのものである。
【0033】
光沢ニッケルメッキ層は、基板表面に光沢ニッケルの層をメッキすることを目的としている。光沢ニッケルメッキ層は、メッキ層の光沢性を向上させるための層構造のためのものである。
【0034】
マイクロクラックニッケルメッキ層は、基板表面に形成された、無数の亀裂を有する均一なメッキ層に関し、腐食電流を分岐させ、腐食電流の密度を低下させることができる。マイクロポーラスニッケルメッキ層は、基板表面に形成された、無数の絶縁分子を有する均一なメッキ層に関し、腐食電流をさらに分岐させ、腐食電流の密度を低下させるとともに、メッキ層の腐食耐性を十分に強化することができる。
【0035】
化学ニッケル堆積及び基礎ニッケルメッキの工程において、予めメッキされたニッケルメッキ層は補助的な機能を有し、その中のホウ酸が安定剤のみならず電気メッキ液の黒染剤にもなり、電気メッキ液の被覆する能力と深くメッキする能力とを向上させ、メッキ層の緊密性を強化することができる。
【0036】
低電位メッキ層が単一のマイクロクラックニッケル層又は高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合ニッケル層を採用したとき、本発明により抗腐食効果を達成することができる。機能層のマイクロクラックニッケル層若しくはマイクロポーラスニッケル層、又は、マイクロクラックニッケル層とマイクロポーラスニッケル層との組み合わせは、抗腐食効果を有することができ、工作物上のメッキ層金属/基板金属により容易に形成される腐食セル中の基板を保護する。カソード及びアノードの電位が決定したとき、腐食率は、基板金属(アノード)の暴露領域に対するメッキ層金属(カソード)の暴露領域の比率によって制御する。腐食点が1つのみ存在する場合、カソード/アノード比率は最大であり、腐食電流はこの点に集中する。腐食率は高くなり、孔食が内側に形成され得る。多くの電位腐食点が金属メッキ層の表面に存在するとき、カソード/アノード比率は低く、腐食電流は均質的に分配される。最初の腐食点における電流は明確に減少し、腐食率は大きく減少する。一方で、ミクロ細孔又は亀裂の間の分離は、メッキ層の不連続なカソードを形成し、また、分離後、メッキ層は大きい領域から小さい領域になり、さらにカソード/アノード比率が制限される。時間が経つにつれて、大環境要因によりメッキ層の表面に大きな亀裂が形成された場合、ミクロ割れ及びミクロ細孔構造の電位腐食セルが、腐食点を保護するために誘導されるだろう。このために、腐食電流の密度を、2つの方法で減少させることができ、腐食耐性は顕著に向上する。
【0037】
低電位ニッケルの抗腐食原理を下記で説明する。
【0038】
第1段階において、腐食媒体を部材表面から除去した場合、装飾層(たとえばクロム層)上に抗腐食性の高い保護層が存在し、かつ、クロム層の表面上にミクロ細孔が存在するので、腐食はニッケル層のミクロ細孔に広がるように導かれるだろう。総腐食量は変化せずに維持される一方で、腐食は、ミクロ細孔の不連続性のために、多数の領域に分割されるだろう。それゆえに、外観に影響を与えることなく腐食が生じる。
【0039】
第2段階において、腐食が低電位ニッケル層に達した場合、低電位ニッケル層はアノードメッキ層(すなわち低電位ニッケル層は好ましくは犠牲層)として最初に腐食し、また、ミクロ細孔の電位は低電位ニッケルの電位よりも高くなり、マイクロポーラスニッケルにおける腐食は止まる。腐食は多くの不連続なミクロ割れにより、縦軸方向と共に横軸方向に亀裂が広がるように導かれる。ニッケル層の腐食領域は大きく拡大し、不連続になるだろう。これらのミクロ細孔は、腐食電流が一定である場合、腐食電流を大きく分岐させ、ひとつの点における腐食率をさらに低下させ、腐食率を遅らせる。同時に、外観表面上のクロム層及び取り付けたマイクロポーラスニッケル層を、製品表面の腐食耐性をさらに向上させるために、保護する。
【0040】
第3酸段階において、低電位ニッケル層において腐食がさらに下向きに広がる場合、低電位ニッケル層の下のメッキ層(たとえば、銅メッキ層)の電位が低電位ニッケルの電位よりも高くなるように、低電位ニッケル層をアノードメッキ層として使用する。この点において、下向きの腐食は止まり、腐食は低電位ニッケルの横方向に生じ、基板が腐食するタイミングがさらに延長され、腐食率が大きく低下する。
【0041】
本発明は、従来技術に対して以下の有利な効果を有する。
【0042】
第一に、この発明において、基板を前処理の対象としたのち、その後の低電位ニッケル層及びマイクロポーラスニッケル層のメッキのために、よい準備が行われ、安定した方法及び適切な協同が提供される。
【0043】
第二に、本発明において、基板表面にメッキすることで得られるマイクロポーラスニッケル層及び低電位ニッケル層は、高い腐食耐性、高い硬度、高い耐摩耗性、メッキ層間の高い結合力、及び高い光沢性のような、利点を有する。低電位のニッケルの層を複数有する高電位及び低電位ニッケル層を有するマイクロポーラスニッケル層を、機能層として用い、低電位ニッケル層を犠牲層とする。ミクロ細孔構造を有するマイクロポーラスニッケル層は、電気化学腐食マイクロ電流を分岐可能であり、腐食の発生を遅れさせ、さらに、マイクロポーラス構造が酸化することにより低電位ニッケル層がひどく腐食した後に酸化物を形成して、犠牲層として低電位ニッケル層をサポートし、部材のメッキ層の破壊率を低下させる。犠牲層として使用する低電位ニッケル層は、部材の上面におけるメッキ層が電気化学腐食の対象となったときに、最初に腐食する低電位の層を有し、また、マイクロポーラスニッケル層又はマイクロクラックニッケル層が存在するとき、ミクロ細孔又はミクロ割れが同様に腐食マイクロ電流を分岐させることができる。たとえば装飾層又は保護層のような外側の層を、低電位ニッケル層の外側にさらに備えている場合、ミクロ細孔又はミクロ割れは、外側の層のためのサポートとすることができ、それにより、材料構造の点に関して堅固性を向上させる。さらに、本発明は、マイクロポーラスニッケル及びマイクロクラックニッケルの孔構造を使用させ、材料構造のサポート性能を強化し、消費費用と共にメッキ層の総量を減少させることができる。一方、ミクロ細孔構造は、酸化及び腐食が生じた場合に、広範囲の酸化薄膜を形成することが可能であり、腐食の発生を大幅に延期することができる。
【0044】
第三に、環境にわずかに影響する電気メッキ液を本発明において採用し、より環境に優しいメッキ方法を提供することができる。そのようにすることで、最終製品が外観及び性能に関してユーザーの要求を満たすことができる。本発明の方法は、それゆえに、市場における競争力が非常に高い。
【0045】
〔図面の簡単な説明〕
例示の目的でのみ以下に与えられるのであり、本発明を限定するものではない、詳細な説明によって、本発明はより十分に理解されるだろう。
【0046】
図1は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との複合体である。
【0047】
図2は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体である。
【0048】
図3は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
【0049】
図4は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
【0050】
図5は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
【0051】
図6は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との複合体である。
【0052】
図7は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体である。
【0053】
図8は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
【0054】
図9は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
【0055】
図10は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
【0056】
図11は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との複合体である。
【0057】
図12は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体である。
【0058】
図13は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
【0059】
図14は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
【0060】
図15は、本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
【0061】
図16は、72時間のCASS試験の対象とした、従来技術のニッケルメッキ部材のメタログラフであり、(a)は試験対象サンプルの前面のメタログラフを示し、(b)は試験対象サンプルの側面(断面)のメタログラフを示している。
【0062】
図17は、72時間のCASS試験の対象とした、本発明のニッケルメッキ部材のメタログラフであり、(a)は試験対象サンプルの前面のメタログラフを示し、(b)は試験対象サンプルの側面のメタログラフを示している。
【0063】
図18は、168時間及び336時間の塩化カルシウムマッド試験の対象とした、従来技術のニッケルメッキ部材の写真である。
【0064】
図19は、168時間及び336時間の塩化カルシウムマッド試験の対象とした、本発明のニッケルメッキ部材の写真である。
【0065】
〔本発明の詳細な説明〕
本発明の実施形態を、図面を参照して以下に詳細に説明する。これらの実施形態は、本発明の説明を目的とするのみであり、本発明の範囲を限定するものではない。ここで使用する「前」、「後」、「左」、「右」、「上」及び「下」の用語は、図の方向に関し、用語「中」及び「外」は、特定の部材それぞれの、幾何学的中心に向かう又は幾何学的中心から離れる方位又は方向に関する。
【0066】
本発明のニッケル及び/又はクロムメッキ部材のメッキ層の構造を以下に説明する。本発明において、基板として、金属、ABSを含む非金属、及び、電気メッキに適した他の部材を使用することができる。図6〜15において、縦座標軸は省略している。部材の各層のより上又はより下の位置は、その層の電位がより高い又はより低いことを示す。
【0067】
構造の実施形態1
図1に示すように、本実施形態に係る多層超防食ニッケル−クロムメッキ部材は、基板1(ABS材料)と、化学ニッケル層809を有する前処理メッキ層2と、基礎ニッケル層808と、銅メッキ層3とを備え、化学ニッケル層809は基板1全体一面に堆積しており、基礎ニッケル層808は化学ニッケル層809上一面に堆積しており、銅メッキ層3は基礎ニッケル層808上に形成されており、さらに、基礎層6が銅メッキ層3上に形成されており、基礎層6は半光沢ニッケル層62と光沢ニッケル層63とを有し、半光沢ニッケル層62は銅メッキ層3上に形成されており、光沢ニッケル層63は半光沢ニッケル層62上に形成されており、さらに、機能層4が基礎層6の光沢ニッケル層63上に形成されており、機能層4は低電位ニッケル層141とマイクロポーラスニッケル層142とを有し、低電位ニッケル層141は高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層であり(高硫黄ニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、マイクロクラックニッケル層が高硫黄ニッケル層上に形成されている、又は、マイクロクラックニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ高硫黄ニッケル層がマイクロクラックニッケル層上に形成されている)、さらに、マイクロポーラスニッケル層142が低電位ニッケル層141上に形成されており、さらに、装飾層802がマイクロポーラスニッケル層142上に形成されており、装飾層は白色三価クロムメッキ層である。
【0068】
本実施形態において、低電位ニッケル層が単層又は複合層であろうとなかろうと、低電位ニッケル層は腐食の対象となる間、犠牲層であることが、図6及び図11に示すメッキ層の電位ダイアグラムから理解することができる。低電位ニッケル層が高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合層であるとき、高硫黄ニッケル層がより高い電位を有する、又は、マイクロクラックニッケル層がより高い電位を有するように、高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層の電位が実際の製造方法によって調整されるだろう。低電位ニッケル層が完全に腐食したとき、光沢ニッケル層は、表面層の構造に対するダメージを減少させることを優先し、電気腐食の観点から最初に腐食するだろう。
【0069】
構造の実施形態2
図2に示すように、本実施形態に係る多層超防食ニッケル−クロムメッキ部材は、基板1(ABS材料)と、化学ニッケル層809を有する前処理メッキ層2と、基礎ニッケル層808と、銅メッキ層3とを備え、化学ニッケル層809は基板1全体一面に堆積しており、基礎ニッケル層808は化学ニッケル層809上一面に堆積しており、銅メッキ層3は基礎ニッケル層808上に形成されており、さらに、基礎層6が銅メッキ層3上に形成されており、基礎層6は半光沢ニッケル層62とサテンニッケル層64とを有し、半光沢ニッケル層62は銅メッキ層3上に形成されており、サテンニッケル層64は半光沢ニッケル層62上に形成されており、機能層4が基礎層6のサテンニッケル層64上に形成されており、機能層4は低電位ニッケル層141及びマイクロポーラスニッケル層142を有し、低電位ニッケル層141は高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層であり(高硫黄ニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、マイクロクラックニッケル層が高硫黄ニッケル層上に形成されている、又は、マイクロクラックニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ高硫黄ニッケル層がマイクロクラックニッケル層上に形成されている)、さらに、マイクロポーラスニッケル層142が低電位ニッケル層141上に形成されており、さらに、装飾層802がマイクロポーラスニッケル層142上に形成されており、装飾層は白色三価クロムメッキ層である。
【0070】
本実施形態において、低電位ニッケル層が単層又は複合層であろうとなかろうと、低電位ニッケル層は腐食の対象となる間、犠牲層であることが、図7及び図12に示すメッキ層の電位ダイアグラムから理解することができる。低電位ニッケル層が高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合層であるとき、高硫黄ニッケル層がより高い電位を有する、又は、マイクロクラックニッケル層がより高い電位を有するように、高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層の電位が実際の製造方法によって調整されるだろう。低電位ニッケル層が完全に腐食したとき、サテンニッケル層は、表面層の構造に対するダメージを減少させることを優先し、電気腐食の観点から最初に腐食するだろう。
【0071】
構造の実施形態3
図3に示すように、本実施形態に係る多層超防食ニッケル−クロムメッキ部材は、基板1(ABS材料)と、化学ニッケル層809を有する前処理メッキ層2と、基礎ニッケル層808と、銅メッキ層3とを備え、化学ニッケル層809は基板1全体一面に堆積しており、基礎ニッケル層808は化学ニッケル層809一面に堆積しており、銅メッキ層3は基礎ニッケル層808上に形成されており、さらに、基礎層6が銅メッキ層3上に設けられており、基礎層6は半光沢ニッケル層62、高硫黄ニッケル層61及び光沢ニッケル層63を有し、半光沢ニッケル層62は銅メッキ層3上に形成されており、高硫黄ニッケル層61は半光沢ニッケル層62上に設けられており、光沢ニッケル層63は高硫黄ニッケル層61上に設けられており、さらに、機能層4が基礎層6の光沢ニッケル層63上に形成されており、機能層4は低電位ニッケル層141及びマイクロポーラスニッケル層142を有し、低電位ニッケル層141は高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層(高硫黄ニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、マイクロクラックニッケル層が高硫黄ニッケル層上に形成されている、又は、マイクロクラックニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、高硫黄ニッケル層がマイクロニッケル層上に形成されている)であり、さらに、マイクロポーラスニッケル層142が低電位ニッケル層141上に形成されており、さらに、装飾層がマイクロポーラスニッケル層142上に形成されており、装飾層は白色三価クロムメッキ層である。
【0072】
本実施形態において、低電位ニッケル層が単層又は複合層であろうとなかろうと、低電位ニッケル層は腐食の対象となる間、犠牲層であることが、図8及び図13に示すメッキ層の電位ダイアグラムから理解することができる。低電位ニッケル層が高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合層であるとき、高硫黄ニッケル層がより高い電位を有する、又は、マイクロクラックニッケル層がより高い電位を有するように、高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層の電位が実際の製造方法によって調整されるだろう。低電位ニッケル層が完全に腐食したとき、光沢ニッケル層は、表面層の構造に対するダメージを減少させることを優先し、電気腐食の観点から最初に腐食するだろう。
【0073】
構造の実施形態4
図4に示すように、本実施形態に係る多層超防食ニッケル−クロムメッキ部材は、基板1(ABS材料)と、化学ニッケル層809を有する前処理メッキ層2と、基礎ニッケル層808と、銅メッキ層3とを備え、化学ニッケル層809は基板1全体一面に堆積しており、基礎ニッケル層808は化学ニッケル層809一面に堆積しており、銅メッキ層3は基礎ニッケル層808上に形成されており、さらに、基礎層6が銅メッキ層3上に形成されており、基礎層6は半光沢ニッケル層62、高硫黄ニッケル層61及びサテンニッケル層64を有し、半光沢ニッケル層62は銅メッキ層3上に形成されており、高硫黄ニッケル層61は半光沢ニッケル層62上に形成されており、サテンニッケル層64は高硫黄ニッケル層61上に形成されており、さらに、機能層4が基礎層6のサテンニッケル層64上に形成されており、機能層4は低電位ニッケル層141及びマイクロポーラスニッケル層142を有し、低電位ニッケル層141は高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層であり(高硫黄ニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、マイクロクラックニッケル層が高硫黄ニッケル層上に形成されている、又は、マイクロクラックニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、高硫黄ニッケル層がマイクロクラックニッケル層上に形成されている)、さらに、マイクロポーラスニッケル層142が低電位ニッケル層141上に形成されており、さらに、装飾層802がマイクロポーラスニッケル層142上に形成されており、さらに、装飾層は白色三価クロムメッキ層である。
【0074】
本実施形態において、低電位ニッケル層が単層又は複合層であろうとなかろうと、低電位ニッケル層は腐食の対象となる間、犠牲層であることが、図9及び図14に示すメッキ層の電位ダイアグラムから理解することができる。低電位ニッケル層が高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合層であるとき、高硫黄ニッケル層がより高い電位を有する、又は、マイクロクラックニッケル層がより高い電位を有するように、高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層の電位が実際の製造方法によって調整されるだろう。低電位ニッケル層が完全に腐食したとき、サテンニッケル層は、表面層の構造に対するダメージを減少させることを優先し、電気腐食の観点から最初に腐食するだろう。
【0075】
構造の実施形態5
図5に示すように、本実施形態に係る多層超防食ニッケル−クロムメッキ部材は、基板1(ABS材料)と、化学ニッケル層809を有する前処理メッキ層2と、基礎ニッケル層808と、銅メッキ層3とを備え、化学ニッケル層809は基板1全体一面に堆積しており、基礎ニッケル層808は化学ニッケル層809一面に堆積しており、銅メッキ層3は基礎ニッケル層808上に形成されており、さらに、基礎層6が銅メッキ層3上に形成されており、基礎層6は、半光沢ニッケル層62と、光沢ニッケル層63と、サテンニッケル層64とを有し、半光沢ニッケル層62は銅メッキ層3上に形成されており、光沢ニッケル層63は半光沢ニッケル層62上に形成されており、サテンニッケル層64は光沢ニッケル層63上に形成されており、さらに、機能層4が基礎層6のサテンニッケル層64上に形成されており、機能層4は低電位ニッケル層141とマイクロポーラスニッケル層142とを有し、低電位ニッケル層141は高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層であり(高硫黄ニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、マイクロクラックニッケル層が高硫黄ニッケル層上に形成されている、又は、マイクロクラックニッケル層が銅メッキ層3上に形成され、かつ、高硫黄ニッケル層がマイクロクラックニッケル層上に形成されている)、さらに、マイクロポーラスニッケル層142が低電位ニッケル層141上に形成されており、さらに、装飾層802がマイクロポーラスニッケル層142上に形成されており、装飾層は白色三価クロムメッキ層である。
【0076】
本実施形態において、低電位ニッケル層が単層又は複合層であろうとなかろうと、低電位ニッケル層は腐食の対象となる間、犠牲層であることが、図10及び図15に示すメッキ層の電位ダイアグラムから理解することができる。低電位ニッケル層が高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合層であるとき、高硫黄ニッケル層がより高い電位を有する、又は、マイクロクラックニッケル層がより高い電位を有するように、高硫黄ニッケル層及びマイクロクラックニッケル層の電位が実際の製造方法によって調整されるだろう。低電位ニッケル層が完全に腐食したとき、サテンニッケル層又は光沢ニッケル層は、表面層の構造に対するダメージを減少させることを優先し、電気腐食の観点から最初に腐食するだろう。
【0077】
構造の実施形態6〜10と構造の実施形態1〜5との単なる差は、低電位ニッケル層141がマイクロクラックニッケル層であるという点である。
【0078】
構造の実施形態11〜15と構造の実施形態1〜5との単なる差は、低電位ニッケル層141が高硫黄ニッケル層であるという点である。
【0079】
構造の実施形態16〜30と構造の実施形態1〜15との単なる差は、装飾層802が四価クロムメッキ層であるという点である。
【0080】
構造の実施形態31〜45と構造の実施形態1〜15との単なる差は、装飾層802が黒色三価クロムメッキ層であるという点である。
【0081】
構造の実施形態46〜90と構造の実施形態1〜45との単なる差は、前処理メッキ層2が基礎ニッケル層808と銅メッキ層3とを有し、基礎ニッケル層808は基板1全体一面に堆積しており、かつ、銅メッキ層3が基礎ニッケル層808上に形成されているという点である。
【0082】
構造の実施形態91〜135と構造の実施形態1〜45との単なる差は、前処理メッキ層2が化学ニッケル層809と銅メッキ層3とを有し、化学ニッケル層809は基板1全体一面に堆積しており、かつ、銅メッキ層3が化学ニッケル層809上に形成されているという点である。
【0083】
構造の実施形態136〜180と構造の実施形態1〜45との単なる差は、前処理メッキ層2が存在せず、銅メッキ層3が基板1上に直接形成されているという点である。
【0084】
構造の実施形態181〜360と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1がpp材料であるという点である。
【0085】
構造の実施形態361〜540と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1がナイロン素材であるという点である。
【0086】
構造の実施形態541〜720と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1がpc材料であるという点である。
【0087】
構造の実施形態721〜900と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1がペット材料であるという点である。
【0088】
構造の実施形態901〜1080と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1がベークライト材料であるという点である。
【0089】
構造の実施形態1081〜1260と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1が鋳鉄材料であるという点であり、このような鋳鉄材料には、ねずみ鋳鉄、白鋳鉄、ノジュラー鋳鉄、バーミキュラー鋳鉄、可鍛鋳鉄、及び合金鋳鉄が含まれるが、これに限定されない。
【0090】
構造の実施形態1261〜1440と構造の実施形態1〜180との単なる差は、基板1がスチール材料であるという点であり、このようなスチール材料には、全ての種類の通常のスチール及びステンレススチール、アルミニウム合金材料、並びにマグネシウム合金材料が含まれる。
【0091】
本発明において使用する基板1は、その表面に銅、ニッケル及びクロム層がメッキ可能である、他の材料であってもよい。
【0092】
本発明の実施形態の溶液として使用される溶媒は、蒸留水、脱イオン水、及び、特に明示しない限り硬度の低い水が含まれるが、これに限定されない水である。溶媒の濃度は、溶液の単位体積又は質量に基づいて測定するべきであろう。
【0093】
以下の実施形態の部材のための基板として、本発明のニッケル及び/又はクロムメッキ部材を作成するための方法を説明するために、好ましくは、ABS材料を使用する。
【0094】
作成方法の実施形態1〜5
ニッケルメッキ部材を、以下に示す本発明の実施形態に従って作成する。以下の、表面脱油、表面親水性処理、表面粗雑化処理、表面中和処理、前浸漬及び表面活性化処理、並びに、表面ディスパーゲーション(dispergation)処理をこの順に含む方法によって、基板表面を前処理する。前処理メッキ層(化学堆積ニッケル及び基礎ニッケルを含み、基板材料、並びに、方法及び製品における前処理メッキ層の組成物と同様に前処理メッキ層を保存するかどうかの要求に従って柔軟に決定される)を基板全体一面に堆積し、化学ニッケル層及び基礎ニッケル層を基板表面上に外方向に順に形成し、銅メッキ層を前処理メッキ層上(基礎ニッケル層の外側)に形成する。半光沢ニッケル層を銅メッキ層上に形成する。光沢ニッケル層を半光沢ニッケル層上に形成する。機能層の低電位ニッケル層を銅メッキ層上に形成し、この低電位ニッケル層は高硫黄ニッケル層である。機能層のマイクロポーラスニッケル層を高硫黄ニッケル層上に形成する。装飾層をマイクロポーラスニッケル層上に形成する。
【0095】
マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、20、30、40、50、60、70、80、90及び100mVのいずれか、又は、20〜100mVの範囲の他のいずれかの値であってもよい。対応する実施形態1〜5のそれぞれにおいて、たとえば、20、40、60、80及び100mVのように、20〜100mVの範囲から異なる値を、マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差として選択してもよい。また、マイクロポーラスニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、全ての実施形態において互いに同一でもよい。
【0096】
光沢ニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、0、10、20、30、40、50、60、70、80、90及び100mVのいずれか、又は、0〜100mVの範囲の他のいずれかの値であってもよい。対応する実施形態1〜5のそれぞれにおいて、たとえば、0、30、60、80及び100mVのように、0〜100mVの範囲から異なる値を、光沢ニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差として選択してもよい。また、光沢ニッケル層と低電位ニッケル層との間の電位差は、全ての実施形態において互いに同一でもよい。
【0097】
半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との間の電位差は、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190及び200mVのいずれか、又は、100〜200mVの範囲の他のいずれかの値であってもよい。対応する実施形態1〜5のそれぞれにおいて、たとえば、100、120、150、180及び200mVのように、100〜200mVの範囲から異なる値を、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との間の電位差として選択してもよい。また、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との間の電位差は、全ての実施形態において互いに同一でもよい。
【0098】
ニッケル−クロムメッキ部材上にニッケルを電気メッキする方法には、以下の工程を含む:
(1)表面脱油… 水酸化ナトリウム(NaOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、及び、ケイ酸ナトリウム(NaSiO)の混合溶液中において洗浄する。各実施形態において、混合溶液の各成分の濃度を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
(2)表面親水性処理… 当該処理を硫酸(HSO)及び表面処理剤中で行う。この工程において、各実施形態における表面処理剤及び硫酸(HSO)の濃度を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
(3)表面粗雑化処理… 当該処理を三酸化クロム(CrO)と硫酸(HSO)との混合溶液中において行う。この工程において、各実施形態における三酸化クロム(CrO)及び硫酸(HSO)の濃度を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
(4)表面中和処理… 表面粗雑化処理の対象とした部材を、当該処理において塩酸溶液中に入れる。この工程において、各実施形態における塩酸溶液の濃度を表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
(5)表面前浸漬処理… 表面中和処理の対象とした部材を、当該処理において塩酸溶液中に入れる。この工程において、各実施形態における塩酸溶液の濃度を表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
(6)表面活性化処理… 当該処理を、コロイドパラジウム溶液を用いて行う。各実施形態におけるコロイドパラジウム溶液中の塩化パラジウム(PdCl)及び塩化第一スズ(SnCl)の濃度を表6に示す。
【0109】
【表6】
【0110】
(7)表面ディスパーゲーション処理… 当該処理を硫酸(HSO)溶液中で行う。この工程において、各実施形態における硫酸溶液の濃度を表7に示す。
【0111】
【表7】
【0112】
前述のABS材料の基板のための準備的な前処理方法は、また、他の非金属材料の基板のための前処理方法に適用することができる。金属の基板を使用する場合、その後のメッキ処理を、表面脱油工程における脱油処理後すぐに行うことができる。さらに、特定の工程もまた、非金属基板のための重要で準備的な前処理方法において、対応する工程に適用することができる。
【0113】
(8)化学ニッケル堆積工程… 当該工程を、硫酸ニッケル(NiSO−6HO)、次亜リン酸ナトリウム(NaHPO−HO)、及びクエン酸ナトリウムの混合溶液中において行う。この工程において、各実施形態における混合溶液中の異なる成分の濃度を、表8に示す。
【0114】
【表8】
【0115】
(9)基礎ニッケルメッキ工程… 当該工程を、硫酸ニッケル水和物(NiSO−6HO)、塩化ニッケル水和物(NiCl−6HO)、及びホウ酸(HBO)の混合溶液中において行う。この工程において、各実施形態における混合溶液中の異なる成分の濃度を、表9に示す。
【0116】
【表9】
【0117】
(10)銅層メッキ工程… 当該工程を、硫酸銅(CuSO)と硫酸(HSO)との混合溶液中において行う。この工程において、各実施形態における混合溶液中の硫酸銅(CuSO)及び硫酸(HSO)の濃度を、表10に示す。
【0118】
【表10】
【0119】
(11)半光沢ニッケル層メッキ工程… 当該工程を、硫酸ニッケル水和物(NiSO−6HO)、塩化ニッケル水和物(NiCl−6HO)、及びホウ酸(HBO)の混合溶液中において行う。この工程において、各実施形態における混合溶液中の異なる成分の濃度を表11に示し、半光沢ニッケルメッキ工程の他のパラメータを表12に例示する。
【0120】
【表11】
【0121】
【表12】
【0122】
(12)光沢ニッケル層メッキ工程… 当該工程を、硫酸ニッケル水和物(NiSO−6HO)、塩化ニッケル水和物(NiCl−6HO)、及びホウ酸(HBO)の混合溶液において行う。この工程において、各実施形態における混合溶液中の頃なる成分の濃度を表13に示し、光沢ニッケルメッキ工程の他のパラメータを表14に例示する。
【0123】
【表13】
【0124】
【表14】
【0125】
(13)高硫黄ニッケル層(低電位ニッケル層)及びマイクロポーラスニッケル層メッキ工程… マイクロポーラスニッケル及び高硫黄ニッケルのための工程において、電気メッキ液は、硫酸ニッケル水和物(NiSO−6HO)、塩化ニッケル水和物(NiCl−6HO)、及びホウ酸(HBO)の混合溶液と同一である。高硫黄ニッケル及びマイクロポーラスニッケルをメッキするための各実施形態における混合溶液の異なる成分の濃度を、表15及び表17にそれぞれ示し、ニッケルシール光沢剤はEnthone 63であり、ニッケルシール一次光沢剤はEnthone 610CFCであり、ニッケルシール粒子基材はEnthone Enhancerであり、高硫黄及びマイクロポーラスニッケルをメッキするための工程の他のパラメータを、表16及び表18にそれぞれ例示する。
【0126】
【表15】
【0127】
【表16】
【0128】
【表17】
【0129】
【表18】
【0130】
(14)装飾層メッキ工程… 当該工程を、塩化クロム及びカリウム蟻酸塩を含む混合溶液中において行う。この工程において、各実施形態における混合溶液の異なる成分の濃度を、表19に示す。
【0131】
【表19】
【0132】
作成方法の実施形態6〜10と作成方法の実施形態1〜5との間の単なる違いは、低電位ニッケル層がマイクロクラック層であり、表20に例示する電気メッキ液をマイクロクラックニッケル層のメッキに適用したことにある。マイクロクラックニッケルをメッキするための工程の他のパラメータを表21に例示する。
【0133】
【表20】
【0134】
【表21】
【0135】
作成方法の実施形態11〜15と作成方法の実施形態1〜5との間の単なる違いは、低電位ニッケル層が高硫黄ニッケル層(各実施形態のための電気メッキ液を、順に同様に表15に例示する)とマイクロクラックニッケル層(各実施形態のための電気メッキ液を、順に同様に表20に例示する)との複合体を含むことにある。マイクロクラックニッケル層と高硫黄ニッケル層との間の電位差は、10、20、30、40、50、60、70及び80mVのいずれか、又は、10〜80mVの範囲の他のいずれかの値であってもよい。対応する実施形態11〜15のそれぞれにおいて、たとえば、10、20、40、60及び80mVのように、10〜80mVの範囲から異なる値を、マイクロクラックニッケル層と高硫黄ニッケル層との間の電位差として、選択してもよい。また、マイクロクラックニッケル層と高硫黄ニッケル層との間の電位差は、全ての実施形態において互いに同一でもよい。
【0136】
作成方法の実施形態16〜30と作成方法の実施形態1〜15との単なる違いは、光沢ニッケル層をサテンニッケル層に置き換え、表22に例示した電気メッキ液をサテンニッケル層のメッキに使用することにある(任意の数字を、実施形態を示すために用いる)。
【0137】
【表22】
【0138】
作成方法の実施形態31〜60と作成方法の実施形態1〜30との単なる違いは、装飾層中の白色三価クロム層を黒色三価クロム層に置き換え、表23に例示する電気メッキ液を、同様に黒色三価クロム層のメッキに使用することにある(任意の数字を、実施形態を示すために用いる)。
【0139】
【表23】
【0140】
作成方法の実施形態61〜90と作成方法の実施形態1〜30との単なる違いは、装飾層中の白色三価クロム層を四価クロム層に置き換え、表24に例示する電気メッキ液を、同様に四価クロム層のメッキに使用することにある(任意の数字を、実施形態を示すために用いる)。
【0141】
【表24】
【0142】
作成方法の実施形態において、PN−1A及びPN−2Aは両方とも、Atotech Chemicals Ltd(China)により市販されている製品である。
【0143】
上述した全ての実施形態に関連して、全ての実施形態は、96〜120時間を超えるCASS試験の対象となり(従来技術では40〜48時間)、336時間を超えて安定して塩化カルシウムマッド試験の対象となる(従来技術において得られた製品は安定せず、そのような特性を測定することができなかった)、ことが理解され得る。
【0144】
本発明において使用する基板は、C、PP、PVC、PET、ベークライト及び金属材料を含む材料から作成されたものでもよい。基板がABS以外の材料により作成されているとき、実際の材料の性能及び工程の要求次第で、前処理メッキ層を存在させても、存在させなくてもよい。
【0145】
図17は、72時間のCASS試験の対象とした、本発明の一実施形態によるニッケルメッキ部材の腐食状態を示す。図16は、(同一の実験条件下において)72時間のCASS試験の対象とした、従来技術のニッケルメッキ部材の腐食状態を示す。図17図16とを比較して、従来技術のサンプルは、広い範囲にメッキ層のはがれと腐食後に生成した腐食ギャップ21とを有し、製品のメッキ層の質に重大に影響していたことが、はっきりと分かる。本発明のニッケルメッキサンプルは、その表面にいくらかの細孔31を有し、断片中に小さい腐食孔32のみが存在することが、図3から考えられ得る。犠牲層に形成された表面細孔と腐食孔とのどちらも、部材のメッキ層を破壊することはできない。また、製品の使用及び外観は、これらのいずれの影響も受けないだろう。
【0146】
図18図19とはそれぞれ、336時間、336時間及び168時間の塩化カルシウムマッド試験の対象とした、従来技術のニッケルメッキ部材サンプルの表面の腐食状態と、本発明の一実施形態によるニッケルメッキ部材サンプルの表面の腐食状態とを示しており、丸印箇所は試験対象領域に関する。従来技術のニッケルメッキ部材の表面は異なる程度の腐食に晒されている一方で、本発明のサンプルはわずかに腐食しているが色の変化が含まれないことが、図面から認識できる。したがって、本発明により得られるニッケルメッキ部材は、メッキ層のより良い安定性及び腐食耐性を有しており、さらに、ニッケルメッキ部材は、より耐久性があり、より審美的な外観を有している。
【0147】
本発明の実施形態に十分に記載されていないいずれの局面であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0148】
本発明により開示された技術的解決法は、実施形態に記載されたものに限定されず、いずれかの方法において上述した要素の組み合わせにより得られた技術的解決法も含むべきである。ここに記載した特定の実施形態は、単に本発明の精神を説明するものである。種々の変更及び装飾を、請求項において定義した精神又は範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に加えられることは、当業者に明白である。
【0149】
〔符号の説明〕
1 基板
2 前処理層
21 腐食ギャップ
3 銅メッキ層
31 表面細孔
32 腐食孔
4 機能層
141 低電位ニッケル層
142 マイクロポーラスニッケル層
801 腐食媒体
802 装飾層
805 腐食表面
808 基礎ニッケル層
809 化学ニッケル層
810 ABS基板
6 基礎層
61 高硫黄ニッケル層
62 半光沢ニッケル層
63 光沢ニッケル層
64 サテンニッケル層
【図面の簡単な説明】
【0150】
図1】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との複合体である。
図2】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体である。
図3】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
図4】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
図5】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の構造を示す概略図であり、その基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
図6】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と光沢ニッケル層との複合体である。
図7】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体である。
図8】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
図9】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
図10】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層又はマイクロクラックニッケル層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
図11】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
図12】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層とサテンニッケル層との複合体である。
図13】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、光沢ニッケル層との複合体である。
図14】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、高硫黄ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
図15】本発明の一実施形態に係るニッケル及び/又はクロムメッキ部材の電位差を示す概略図であり、その低電位ニッケル層は、高硫黄ニッケル層とマイクロクラックニッケル層との複合体層であり、基礎層は、半光沢ニッケル層と、光沢ニッケル層と、サテンニッケル層との複合体である。
図16】72時間のCASS試験の対象とした、従来技術のニッケルメッキ部材のメタログラフであり、(a)は試験対象サンプルの前面のメタログラフを示し、(b)は試験対象サンプルの側面(断面)のメタログラフを示している。
図17】72時間のCASS試験の対象とした、本発明のニッケルメッキ部材のメタログラフであり、(a)は試験対象サンプルの前面のメタログラフを示し、(b)は試験対象サンプルの側面のメタログラフを示している。
図18】168時間及び336時間の塩化カルシウムマッド試験の対象とした、従来技術のニッケルメッキ部材の写真である。
図19】168時間及び336時間の塩化カルシウムマッド試験の対象とした、本発明のニッケルメッキ部材の写真である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19