(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る生体試料撮像装置の構成図である。同図に示す生体試料撮像装置10は、粒子を含む液状の生体試料中の粒子を撮影する装置である。そのような生体試料として、ここでは尿試料を用い、尿試料中の赤血球、白血球、上皮細胞、尿円柱などの粒子を生体試料撮像装置10により撮影する。上皮細胞は、扁平上皮細胞、移行上皮細胞、尿細管上皮細胞などである。尿円柱は、硝子円柱、上皮円柱、赤血球円柱、白血球円柱、脂肪円柱、顆粒円柱、蝋様円柱などである。
【0013】
生体試料としては、尿の他、血液や体腔液などであってもよい。また、生体試料は、生体から採取された液体そのものであってもよいし、他の液体により希釈されたものであってもよい。さらに生体試料は、生体から採取された粒子を液体に溶いたものであってもよい。
【0014】
なお、尿試料に含まれる粒子のうち、赤血球及び白血球など、粒子径が7μm前後の粒子を本実施形態では小型粒子と記す。また、上皮細胞や尿円柱など、粒子径が20〜40μmの粒子を本実施形態では大型粒子と記す。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る生体試料撮像装置10は、液体流路40、光源12、対物レンズ16、カメラ18、データ処理装置20、表示装置22、シリンジポンプ24、洗浄液槽26、ノズルアクチュエータ30、洗浄槽36、廃液槽38を含んでいる。液体流路40は、この順で上流側から順に配置された、中空棒状の吸引ノズル32、第2センサ28b内の液体流路、第1センサ28a内の液体流路及び撮像セル14を含み、さらに、それらに連結されたシリコンチューブその他のチューブ41も含んでいる。撮像セル14は、透光性を有する材料により平板状に形成されており、扁平した直方体状に設けられた内部空間を尿試料が流通するようになっており、内部空間に尿試料を保持した状態で外部から尿試料を観察できる。液体流路40の上流端は、吸引ノズル32の先端であり、下流端はシリンジポンプ24の吸入吐出口である。なお、液体流路40の内部空間は、撮像セル14の部分を除き、すべて断面円形となっている。液体流路40上、撮像セル14の上流側には第1位置Aが設定されており、第1位置Aよりさらに上流側には第2位置Bが設定されている。第1位置A及び第2位置Bについては後に詳述する。
【0016】
光源12は、LEDその他の発光素子及び凸レンズを備えており、撮像セル14の直下に配置される。発光素子から出射された光は凸レンズにより平行光になり、透光性を有する材料により形成された撮像セル14に下方から入射する。カメラ18は、CCDイメージセンサ又はCMOSイメージセンサであり、対物レンズ16とともに撮像セル14の直上に配置される。対物レンズ16とカメラ18により顕微カメラを構成し、撮像セル14内に充填された尿試料の撮像画像データを生成する。表示装置22は、LCDやOLEDなどの表示パネルであり、カメラ18により生成された画像データその他の情報を表示する。
【0017】
データ処理装置20は、CPUやメモリを中心に構成されたコンピュータシステムであり、カメラ18及び表示装置22が接続されている。その他、図示しないが、データ処理装置20には、光源12、シリンジポンプ24のピストンアクチュエータ24a、シリンジポンプ24と洗浄液容器26の間のチューブに設けられた電磁弁、第1センサ28a、第2センサ28b、ノズルアクチュエータ30、洗浄槽36のドレンチューブに設けられた電磁弁も接続されている。データ処理装置20には、画像解析プログラム及び各種の制御プログラムがインストールされており、カメラ18により生成された画像データを表示部22により表示する。また、カメラ18により生成された画像データを解析し、そこに映し出された粒子を検出する。加えて、データ処理装置20は、ピストンアクチュエータ24a、ノズルアクチュエータ30及び各電磁弁を制御する。なお、データ処理装置20が担う各種機能のうち、一部又は全部は、それぞれASICやFPGAなどの他の種類のハードウェアにより実現されてもよい。
【0018】
シリンジポンプ24は、液体流路40に対して負圧又は正圧を発生させ、液体流路40において液体や気体を上流端から下流端に向かう順方向、またはその逆方向に流通させる。具体的には、シリンジポンプ24は、尿試料を試験管などの試料容器34から吸引して尿試料を撮像セル14の内部空間に充填したり、或は液体流路40内の液体や気体を逆流させたりする。シリンジポンプ24は、シリンダ及びシリンダに挿入されるピストンを含んでおり、ピストンにはピストンアクチュエータ24aが取り付けられている。モータその他の電気駆動手段であるピストンアクチュエータ24aは、データ処理装置20からの命令に従って、シリンダからピストンを引き出したり(順方向駆動)、逆にピストンをシリンダに押し込んだり(逆方向駆動)する。シリンダの側面には開口が設けられており、該開口には、洗浄液容器26の内部とシリンジポンプ24の内部を連通するチューブが接続されている。ピストンがシリンダから引き出され、ピストンとシリンダの間の内部空間が所定容量以上となった場合には、洗浄液容器26の内部とシリンジポンプ24の内部とが連通可能となる。
【0019】
ノズルアクチュエータ30は、データ処理装置20からの指示に従って吸引ノズル32を上下左右に移動させる。具体的には、生体試料撮像装置10の吸引位置には、ラックに保持された複数本の試料容器34がベルトコンベヤ等の搬送手段により搬送されるようになっており、ノズルアクチュエータ30は、それら試料容器34のうち、データ処理装置20により順次選択された一本に対して吸引ノズル32を挿入したり、逆に試料容器34から吸引ノズル32を引き抜いたりする。また、吸引ノズル32や液体流路40の洗浄時には、吸引ノズル32を洗浄槽36に挿入する。
【0020】
第1センサ28a及び第2センサ28bは、いずれも液体流路40におけるセンサ位置を流通する物体(液体又は気体)の種類に応じたデータを出力する。例えば、第1センサ28a及び第2センサ28bとして導電率センサを用いてよい。導電率センサは、液体流路40を通過する生体試料に接触するよう設けられる。たとえば導電率センサは、上流側及び下流側に離間した2つの管状の電極を備え、これら電極間を流れる物体の導電率を出力する。第1センサ28a及び第2センサ28bとして、導電率センサではなく、光学式のセンサを用いてもよい。光学式センサは、生体試料が流れるチューブを介して対向するように配置された発光部と受光部を備え、チューブを流れる物体に発光部から光を照射し、物体を透過した光の強度を反映した信号を受光部から出力する。
【0021】
ここで、液体流路40を生体試料が流れる場合に該生体試料中の粒子がどのような挙動を示すか説明する。
図2Aは、シリンジポンプ24により順方向駆動中のチューブ41の内部を模式的に示す図である。
【0022】
後に詳述するように、チューブ41等の液体流路40には初期状態では洗浄液102が満たされており、生体試料104を撮像セル14に充填する場合には、まず若干量の空気100が吸引され、その後に試料容器34から生体試料104が所定量だけ吸引される。このため、
図2Aに示すように、洗浄液102の上流側には空気100(エアギャップ)が位置し、さらにその上流側に生体試料104が位置する。
【0023】
既に説明したように、チューブ41等の液体流路40の内部においては、その中心軸に近づくにつれて流速が早くなる。そして、生体試料中の粒子は流速の最も高い、液体流路40の中心軸付近に集まる。この集軸効果は、上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子に対して大きく働く。その結果、上皮細胞114や尿円柱116は高い流速で下流側に流されることになり、
図2Aに示すように、液体流路40を流通する生体試料104の下流端104a付近においては、上皮細胞114や尿円柱116の密度が高くなる。なお、赤血球112や白血球110は、液体流路40の流速プロファイルに比して十分に粒径が小さいので、集軸効果を無視し得る。
【0024】
図3は、シリンジポンプ24を順方向駆動した直後の生体試料104中の大型粒子及び小型粒子の分布図である。縦軸は、液体流路40内の粒子密度(単位体積あたりの粒子数)を、試料容器34内の粒子密度で除した値を示す。また、横軸は、生体試料104の下流端104aからの体積を示す。同図に示すように、生体試料104の上流端から下流側に移動するにつれて(図中左側に移動するにつれて)、上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子の粒子密度は増加する。すなわち、大型粒子の粒子密度比は、生体試料104の下流端104aの近傍では300%近くに達する。すなわち、液体流路40に生体試料104を流通させることにより、大型粒子を濃縮する効果が得られる。このため、液体流路40を流通させた後に生体試料104の下流端104a付近を撮影することにより、上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子を効率よく撮影することが可能となる。
【0025】
なお、大型粒子とは逆に、赤血球112や白血球110などの小型粒子の粒子密度比は、生体試料104の上流端から下流側に移動するにつれて減少する。また、どの位置においても、小型粒子の粒子密度比は100%未満である。これは、上述のように小型粒子には集軸効果は殆ど作用しないこと、また液体流路40の内壁面に付着している洗浄液102により、下流に移動するほど生体試料104が希釈されること、が理由として考えられる。
【0026】
以上のように液体流路40に生体試料104を流通させれば、上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子については、その密度を生体試料104の下流端104a付近において高めることができる。そして、粒子の密度を高めると粒子を効率よく画像に映し出すことができる。但し、撮像セル14は、後に詳述するように水平方向に広がりをもつ内部空間を有し、この内部空間の全部又は一部がカメラ18による撮像範囲として設定されている。この撮像範囲内に、生体試料104の下流端aを位置させれば、撮像範囲の一部に大型粒子が集中して、上下に重なり合ってしまい、個々の粒子を画像に映し出すことが困難になる。また、生体試料104の下流端aから一定の距離だけ離れた部分を撮像範囲内に位置させれば、そのような部分には大型粒子が十分な数だけ存在しない可能性がある。この場合、十分な数の大型粒子を画像に映し出すことができない。
【0027】
そこで、本実施形態では、生体試料104の下流端a付近に集中した大型粒子を再度分散させるポンプ制御を実行している。すなわち、本実施形態では、生体試料104を撮像セル14の内部空間に進入させる直前でシリンジポンプ24の順方向駆動を一旦停止している。すなわち、生体試料104の下流端104aが撮像セル14の上流側に設定されている第1位置A(
図1参照)に達すると、シリンジポンプ24の動作を停止する。次に、生体試料104の下流端104aが第2位置Bに達するまで、シリンジポンプ24を逆方向駆動する。第2位置Bは第1位置Aよりさらに上流側に設定されている。すなわち、生体試料104は上流側に押し戻される。
【0028】
図2Bは、シリンジポンプ24を逆方向駆動中の液体流路40の内部を模式的に示す図である。逆方向にシリンジポンプ24を駆動すると、生体試料104は、今度は上流側、すなわち吸引ノズル32側に向けて移動する。このときにも集軸効果は、上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子に大きく作用する。このため、下流端104a付近に集中いていた大型粒子は、
図2Bに示すように、小型粒子に対して相対的に、上流方向に移動する。このため、一定容量だけシリンジポンプ24を逆方向駆動すれば、下流端104aに集中していた大型粒子を下流端104aから離れた部分にまで好適に分散させることができる。
【0029】
生体試料104の下流端104aが第2位置Bに達すると、シリンジポンプ24を一旦停止し、今度は生体試料104の下流端104aが第3位置Cに達するまで、シリンジポンプ24を順方向駆動する。第3位置Cは、液体流路40における撮像セル40の下流側に設定されている。こうすることにより、撮像セル14の内部空間に生体試料104を充填することができる。
【0030】
ここで、撮像セル14について説明する。
図4Aは、撮像セル14の斜視図である。同図に示すように、撮像セル14は尿試料を保持する内部空間14e、内部空間14eと外部とを連絡する流入路14f及び流出路14gを有している。撮像セル14は、扁平で一方向に延伸する直方体状の外形状を有している。また、内部空間14eも扁平に一方向に延伸する直方体形状を有しており、撮像セル14の外形状に沿うよう設けられている。撮像セル14は、内部空間14eの底面が水平となるように設置される。
【0031】
内部空間14eは、互いに平行に設けられ、対向配置された薄板部14a及び薄板部14bにより上下挟まれている。ここで、撮像セル14の少なくとも薄板部14a及び薄板部14bは、ガラスや樹脂などの透光性を有する材料により構成されている。
【0032】
内部空間14eは上述のように一方向に延伸する直方体形状を有しているが、その長手方向の一端側の面が上流端14cであり、他端側の面が下流端14dである。撮像セル14の側壁のうち、内部空間14eの上流端14cのすぐ横の部分には、撮像セル14の側面の開口に連なる流入路14fが形成されている。同様に、撮像セル14の側壁のうち、内部空間14eの下流端14dのすぐ横の部分には、撮像セル14の側面の開口に連なる流出路14gが形成されている。流入路14fには第1センサ28aと連通させるチューブ41が接続され、流出路14gにはシリンジポンプ24と連通させるチューブ41が接続される。
【0033】
撮像セル14の下方には光源12が設置されており、薄板部14b側から平行光が入射される。また、撮像セル14の上方には対物レンズ16及びカメラ18からなる顕微カメラが設置されており、顕微カメラは、薄板部14aを通じて、内部空間14eに充填されている尿試料を撮影する。ここでは、顕微カメラの撮像範囲(表示や画像解析に利用される範囲をいう。)は、直方体形状の内部空間14eの全体とするのが好ましいが、もちろんその一部であってもよい。
【0034】
図4Bは、生体試料104が充填された直後の撮像セル14の横断面を模式的に示す図であり、
図4Cは、生体試料104が充填されてから所定時間経過後の撮像セル14の横断面を模式的に示す図である。
図4Bに示すように、生体試料104が充填された直後は、薄板部14a及び薄板部14bの間の空間において、粒子が浮遊している状態であるが、所定時間が経過すると、
図4Cに示すように、粒子は底部に沈殿することになる。対物レンズ16及びカメラ18からなる顕微カメラは、底部に沈殿した粒子の表面付近に焦点を合わせ、拡大写真を撮影するものである。本実施形態によれば、薄板部14a及び薄板部14bの間において、大型粒子が十分な数だけ存在し、しかもそれらが好適に分散されるので、底部に沈殿した場合にも大型粒子同士が上下に重なることが極めて少ない。このため、個々の大型粒子を明瞭に撮影することが可能となる。
【0035】
なお、内部空間14eの横幅は十分に広いが、内部空間14eの高さ、すなわち薄板部14a及び薄板部14bの間隔は、液体流路40の撮像セル14以外のどの部分の寸法よりも小さく、特に撮像セル14より上流側に設けられた吸引ノズル32やチューブ41の内径より小さい。このような構成を採用することで、内部空間14e内の粒子を速やかに沈殿させ、撮影可能な状態にすることができる。
【0036】
図5は、データ処理装置20の機能ブロック図である。上述のように、データ処理装置20はコンピュータシステムにより構成されており、プログラムを実行することにより各種の機能を実現している。
図5に示すように、データ処理装置20の機能的には、第1判断部20a、第2判断部20b、ポンプ制御部20c、撮像制御部20d、異常判断部20e、吸引ノズル制御部20f及び攪拌制御部20gが含まれる。
【0037】
第1判断部20aは、液体流路40に設けられた第1位置Aに生体試料104の下流端104aが到達したことを判断する。例えば、第1判断部20aは、第1位置Aに生体試料104の下流端10aが到達したことを、シリンジポンプ24の吸入量又は吐出量に基づいて判断してよい。シリンジポンプ24の吸入量又は吐出量は、ピストンアクチュエータ24aの動作量により判断できる。また、液体流路40の断面積は既知であり、液体流路40の上流端から第1位置Aまでの内容積も既知である。従って、シリンジポンプ24の吸入量が当該既知の内容量に達すれば、第1判断部20aは、液体流路40に設けられた第1位置Aに生体試料104の下流端104aが到達したことを判断できる。
【0038】
また、第1判断部20aは、液体流路40上に設けたセンサの出力に基づいて、第1位置Aに生体試料104の下流端104aが到達したことを判断してよい。例えば、第1位置Aに導電率センサを配置し、該導電率センサにより出力される導電率により、生体試料104の下流端104aが第1位置Aに到達したことを判断してよい。本実施形態によれば、生体試料104の下流側に空気100を隣接させているので、空気100の導電率が検出されている最中に、生体試料104の導電率が検出されれば、そのタイミングで生体試料104の下流端104aが導電率センサの位置、すなわち第1位置Aに到達したと判断できる。
【0039】
或は、センサの出力とシリンジポンプ24の吸入量又は吐出量の両方に基づいて、生体試料104の下端部104aが第1位置Aに到達したことを判断してよい。例えば、第1センサ28aは第1位置Aより上流側に取り付けられており、第1センサ28aの検出位置から第1位置Aまでの液体流路40の内容積は既知である。そこで、第1センサ28aにより生体試料104の下流端104aが第1センサ28aの検出位置に到達したと判断されるタイミング以降のシリンジポンプ24の吸引量が、当該既知の内容積に達すれば、第1判断部20aは、生体試料104の下流端104aが第1位置Aに到達したと判断できる。
【0040】
第2判断部20bは、液体流路40に設けられた第2位置Bに生体試料104の下流端104aが到達したことを判断する。この判断は、第1判断部20aと同様に行うことができる。例えば、第1位置Aから第2位置Bまでの液体流路40の内容積は既知である。このため、生体試料104の下流端104aが第1位置Aに位置している状態から、シリンジポンプ24を逆方向駆動し、その吐出量が前記既知の内容積に達すれば、下流端104aが第2位置Bに到達したと判断できる。
【0041】
また、第2判断部20bは、液体流路40上に設けたセンサの出力に基づいて、第2位置Bに生体試料104の下流端104aが到達したことを判断してよい。例えば、第2位置Bに導電率センサを配置し、該導電率センサにより出力される導電率により、生体試料104の下流端104aが第2位置Bに到達したことを判断してよい。本実施形態によれば、生体試料104の下流側に空気100を隣接させているので、生体試料104の導電率が検出されている最中に、空気100の導電率が検出されれば、そのタイミングで生体試料104の下流端104aが導電率センサの位置、すなわち第2位置Bに到達したと判断できる。
【0042】
ポンプ制御部20cは、ピストンアクチュエータ24aに対して動作を指示する。特に、ポンプ制御部20cは、撮像セル14に生体試料104を充填する際、液体流路40に導入された生体試料104を順方向に流通させ、下流端104aを第1位置Aに到達させる第1動作(順方向駆動)の後、生体試料104を逆方向に流通させ、下流端104aを第2位置Bに到達させる第2動作(逆方向駆動)を、シリンジポンプ24に順に行わせる。第1動作は、吸引ノズル32の先端から生体試料104を所定量だけ液体流路40に導入する液体導入動作と、該液体導入動作の後、吸引ノズル32を試料容器34から引き上げ、その先端から空気を液体流路40に導入する空気導入動作と、を含んでいる。このように、生体試料104の上流側に空気を流通させれば、撮影に必要な生体試料104の量を少なくすることができる。また、ポンプ制御部20cは、第2動作の後、生体試料104を再び順方向に流通させる第3動作を行わせる。これにより、生体試料104の下流端104aを第3位置Cに到達させる。第3位置Cは、撮像セル14の内部空間14eの下流端14d、又はそれより下流側における撮像セル14の近傍であれば、どこに設定されてもよい。第3動作は、吸引ノズル32の先端が試料容器36の液面より引き上げられた状態で行われる。
【0043】
第3位置Cを撮像セル14の内部空間14eより下流側に設定すれば、撮像範囲に生体試料104の下流端104aが入らないようにできる。生体試料104の下流端104a付近には、液体流路40のない壁面に付着している洗浄液102などが混入している可能性がある、第3位置Cを撮像セル14の内部空間14eより下流側に設定すれば、そのような部分を避けて生体試料104の撮影ができる。
【0044】
なお、本実施形態では上述の第2動作を行っているので、第1動作により生体試料104の下流端104付近に集中した大型粒子が、下流側に押し戻されており、撮像範囲において大型粒子の数を十分確保できる。また、第2動作により、撮像範囲において大型粒子を好適に分散させることができる。
【0045】
また、第1位置Aは撮像範囲である撮像セル14の内部空間14eより上流側に設けられる。こうすれば、撮像セル14の上流側で大型粒子を液体流路40で分散させ、その後に生体試料104を撮像セル14に充填できるので、撮像セル14で上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子が詰まることを予防できる。すなわち、撮像セル14の内部空間14eの高さは上述のように非常に低いので、大型粒子の詰まりが懸念されるが、本実施形態によれば詰まりを予防できる。
【0046】
また、第2位置Bから吸引ノズル32の先端までの内容積は、少なくとも撮像範囲における液体流路40の内容積(ここでは、撮像セル14の内部空間14eの内容積)より大きいことが望ましい。そうでないと、第2動作により、吸引ノズル32の先端から既に吸入した生体試料104が吐出してしまうからである。
【0047】
また、第2位置Bから撮像セル14の上流端14cまでの液体流路40の内容積は、撮像範囲における液体流路40の内容積、すなわち撮像セル14の内部空間14eの内容積の10倍以下であることが望ましい。こうすれば、第3動作における生体試料104の移動量を抑えることができ、第3動作により、再度、生体試料104の下流端104a付近に大型粒子が集中しないようにできる。
【0048】
なお、第2動作は、吸引ノズル32の先端が試料容器34の液面より引き上げられた状態で行われる。こうすれば、試料容器34中に空気が供給されずに済む。
【0049】
また、第1位置Aから第2位置Bまでの液体流路40の内容積は、吸引ノズル32の先端から第1位置Aまでの内容積の10分の1以下であることが望ましい。大型粒子を逆方向に押し戻す程度を相対的に小さくすることで、集軸効果による粒子の濃縮効果を残存させ、撮像範囲内に十分な数の大型粒子を確保することができる。
【0050】
ポンプ制御部20cによる第3動作の後、シリンジポンプ24の動作が停止すると、撮像制御部20dは、粒子の沈殿に必要な所定時間の経過を待ってから、撮像範囲、すなわち撮像セル14の内部空間14eにある生体試料104中の粒子をカメラ18により撮像する。こうして撮像された生体試料104の画像は、表示装置22により表示されたり、画像解析に用いられたりする。
【0051】
なお、撮像制御部20dは、ラックに保持される複数の試料容器34のそれぞれについて、生体試料104の撮影を行う。この際、ポンプ制御部20cは、生体試料104毎に、上述した第1動作乃至第3動作を行う。
【0052】
異常判断部20eは、生体試料104を撮像セル14に供給する際、試料容器34から吸引される生体試料104の量が規定量に満たないという異常を検知する。具体的には、第1動作における空気導入動作の開始後に設けられる、ショート監視期間において、第2センサ28bにおいて空気が検出される場合には、生体試料104が不足していると判断する。ショート監視期間は、規定量の生体試料104が第2センサ28bの検出位置を通過すべき期間である。このような異常が検知されると、例えば表示装置22によりその旨が表示される。異常判断部20eを設けることにより、生体試料104の画像の信頼性を高めることができる。吸引ノズル制御部20fは、吸引ノズルアクチュエータ30に対して動作を指示する。
【0053】
攪拌制御部20gは、ポンプ制御部20cによる第1動作の前に、試料容器34内の生体試料104を攪拌する。例えば、図示しない攪拌ノズルを試料容器34に挿入し、一定量の生体試料104を図示しない攪拌ポンプにより吸引し、その後、吸引した生体試料104を攪拌ポンプにより試料容器34に戻すことにより、試料容器34内の生体試料104を攪拌してよい。或は、攪拌ノズルから空気を吐出させることにより、試料容器34内の生体試料104を攪拌してよい。同様にして、シリンジポンプ24及び吸引ノズル32で生体試料104を攪拌してよい。ここでは、攪拌ノズル(不図示)が吸引ノズル32と一体的に形成され、シリンジポンプ24とは別の攪拌ポンプ(不図示)により、試料容器34内の生体試料104を攪拌する構成を一例として採用する。一体化された攪拌ノズルと吸引ノズル32は、吸引ノズルアクチュエータ30により共に駆動できる。
【0054】
ここで、生体試料撮像装置10の動作を時系列に説明する。
図6は、液体流路40を生体試料104が流通する様子を時系列に示す図である。また、
図7A及び
図7Bは、生体試料撮像装置10の動作フロー図である。
【0055】
生体試料撮像装置10により尿試料中の粒子を撮像する場合、上述のようにラックにより複数の試料容器34が吸引位置に搬送される。液体流路40は、初期状態でその全体が洗浄液102で満たされている(
図6(a))。次に、ポンプ制御部20cは、吸引ノズル32が試料容器34に挿入されない状態で、シリンジポンプ24により空気100を一定容量だけ吸引し、液体流路40の先端に一定容量の空気100を導入してエアギャップを形成する(
図7AのS101及び
図6(b))。一例として、空気100は25μL程度、液体流路40に吸引されてよい。
【0056】
次に、吸引ノズルアクチュエータ30は吸引ノズル32を図示しない攪拌ノズルとともに1つの試料容器34に挿入する(
図7AのS102)。そして、攪拌制御部20gは、試料容器34に保持されている生体試料104を攪拌する(
図7AのS103)。
【0057】
その後、ポンプ制御部30cは、ピストンアクチュエータ24aを順方向駆動し、規定量の生体試料104を試料容器34から吸引する(
図7AのS104)。一例として、生体試料104は300μL程度、液体流路40に吸引されてよい。なお、この吸引過程で、異常判断部20eは、第2センサ28bから出力される導電率の急減を、すなわちエアギャップの通過を監視する。導電率が急減しなければ、シリンジポンプ24の動作が異常であると判断し、処理を終了する。
【0058】
規定量の生体試料104の吸引が完了すると(
図6(c))、異常判断部20eは、第2センサ28bから出力される導電率が所定閾値以上であるか否かを判断する(
図7AのS105)。導電率が所定閾値未満であれば、生体試料104に異常があると判断し、処理を終了する。
【0059】
その後、吸引ノズル制御部20fは、吸引ノズルアクチュエータ30を用いて、吸引ノズル32を試料容器34から引き上げる(
図7AのS106)。次に、ポンプ制御部20cは、吸引ノズル32から空気を吸引する(
図7AのS107)。この吸引過程の初期にはショート監視期間が設定されており、異常判断部20eは、第2センサ28bから出力される導電率の急減を監視する。導電率が急減すれば、生体試料104が規定量に足りないと判断し、処理を終了する。
【0060】
ポンプ制御部20cは空気の吸引を、第1センサ28aにより空気100が検出されるまで行う(
図7AのS108)。空気を吸引することにより、すでに液体流路40に導入されている生体試料104が下流側に移動する。第1センサ28aから出力される導電率が急減すれば、第1センサ28aの検出位置にある物体が洗浄液102から空気100に代わったと判断できる。このタイミングで、空気100(エアギャップ)の下流端が第1センサ28aの検出位置に到達していることになる(
図6(d))。
【0061】
その後、ポンプ制御部20cは、空気をさらに所定量だけ吸引する(
図7AのS109,
図6(e))。具体的には、第1判断部20aは、シリンジポンプ24の吸引量が所定量に達したか否かを判断し、所定量に達していれば、ポンプ制御部20cはシリンジポンプ24の動作を停止する。ここで、S109におけるシリンジポンプ24の吸引量は、第1センサ28aの検出位置から第1位置Aまでの内容量と空気100(エアギャップ)の体積を加算した値となる。これにより、生体試料104の下流端104aは第1位置Aに到達することになる。なお、第1位置Aは、撮像セル14の内部区間14eの上流端14cから、例えば60μLほど上流側に設けられてよい。S104〜S109までの動作がシリンジポンプ24の第1動作に相当する。
【0062】
その後、ポンプ制御部20cは、ピストンアクチュエータ24aに逆方向駆動を指示し、液体流路40の上流端から所定量だけ空気を吐出させる(
図7BのS110)。具体的には、第2判断部20bは、シリンジポンプ24の吐出量が所定量に達したか否かを判断し、所定量に達していれば、ポンプ制御部20cはシリンジポンプ24の動作を停止する。ここでのシリンジポンプ24の吐出量は、第1位置Aから第2位置Bまでの内容量と同じになる。例えば、この吐出量は30μL程度であってよい。これにより、生体試料104の下流端104aは第2位置Bに到達することになる(
図6(f))。S110の動作がシリンジポンプ24の第2動作に相当する。
【0063】
次に、ポンプ制御部20cは、ピストンアクチュエータ24aに順方向駆動を指示し、所定量だけ空気を吸引する(
図7BのS111)。具体的には、シリンジポンプ24の吸引量が所定量に達したか否かを判断し、所定量に達していれば、ポンプ制御部20cはシリンジポンプ24の動作を停止する。ここでのシリンジポンプ24の吸引量は、第2位置Bから第3位置Cまでの液体流路40の内容量と同じになる。例えば、この吸引量は120μL程度であってよい。これにより、生体試料104の下流端104aは第3位置Cに到達することになる(
図6(g))。例えば、撮像範囲である撮像セル14の下流端14cと第3位置Cとの間の容量を20μLとしてよい。この場合、撮像セル14の内部空間14eの容量を15μLとすれば、撮像セル14の内部空間14eには、生体試料104の下流端104eから20μL〜35μLの部分が充填されることになる。S111の動作がシリンジポンプ24の第3動作に相当する。
【0064】
以上のポンプ制御により、撮像セル14の内部空間14eには生体試料104が充填され、撮像制御部20dは生体試料104の画像データを生成する(
図7BのS112)。
【0065】
撮像後、液体流路40及びシリンジポンプ24の洗浄が行われる(
図7BのS113)。すなわち、吸引ノズル制御部20fは、吸引ノズルアクチュエータ30により、吸引ノズル32を洗浄槽32内に挿入するよう指示する。このタイミングで、シリンジポンプ24のピストンは十分に引き出されており、シリンジポンプ24と洗浄液容器26の間の電磁弁を開くことにより、洗浄液容器26内の洗浄液がシリンジポンプ24内に流入する。洗浄液はそのまま吸引ノズル32の先端にまで至り、液体流路40及びシリンジポンプ24の内部がすべて洗浄される。吸引ノズル32からは空気、尿試料、洗浄液が吐出し、それらは廃液容器38に貯留される。その後、洗浄槽36のドレンに設けられた電磁弁が一旦閉じられ、洗浄槽36に洗浄液が貯留され、その後電磁弁が解放される。これにより、吸引ノズル32の外側も洗浄される。なお、洗浄槽36には、吸引ノズル32から洗浄液が供給されてもよいし、専用の流路から洗浄液が供給されてもよい。液体流路40及びシリンジポンプ24の洗浄が終了すると、吸引ノズル32は洗浄槽36から引き抜かれ、次の試料容器34から尿試料を吸引するため、待機位置に移動する。
【0066】
図8Aは、生体試料撮像装置10により生体試料104を液体流路40において流通させた後の大型粒子の分布図である。また、
図8Bは、生体試料撮像装置10により生体試料104を液体流路40において流通させた後の小型粒子の分布図である。
図8Aにおいて、破線はフローサイトメータにより測定された大型粒子の単位体積あたりの個数(約70個/μL)であり、試料容器34における大型粒子の単位体積あたりの個数を示す。同図に示すように、液体流路40において流通させた後では、大型粒子の単位体積あたりの個数は、生体試料104の下流端104aから165μLの範囲であれば、どの位置でも1.5倍以上となっている。従って、撮像範囲においても大型粒子の単位体積あたりの個数は元のそれに比し、1.5倍以上となっていることが分かる。
【0067】
また、
図8Bにおいて、破線はフローサイトメータにより測定された小型粒子の単位体積あたりの個数(約790個/μL)であり、元のそれに比し、80%以上が確保されていることが分かる。
【0068】
以上説明した生体試料撮像装置10によれば、ポンプ制御部20cがシリンジポンプ24に第1動作を行わせることで、生体試料104の下流端104a付近に上皮細胞114や尿円柱116などの大型細胞を集中させることができる。その後、ポンプ制御部20cがシリンジポンプ24に第2動作を行わせることで、生体試料104の下流端104a付近に集中していた大型粒子を上流側に分散させることができる。撮像セル14の内部空間14eには、液体流路40における順方向の流通、及び逆方向の流通の双方を経た生体試料104が充填される。このため、撮像セル14内には大型粒子が十分な数だけ存在しつつ、それらが適度に分散していることになり、個々の大型粒子をカメラ18による画像に映し出すことが可能となる。この結果、尿検査の精度を向上させることができる。
【0069】
なお、生体試料撮像装置10で撮影される尿試料中の大型粒子のうち、上皮細胞114は、腎や尿路の損傷に起因して尿中に現れるものであり、その画像は、腎や尿路のどの部分にどの程度の障害があるのかを判断するための重要な情報となる。例えば、上皮細胞114の画像は膀胱炎や尿道炎などの疾患の診断に用いられる。また、尿円柱116は、尿細管腔が一時的に閉塞され、その後に尿の再流があった場合に尿中に現れるものであり、その画像も、腎や尿路のどの部分にどの程度異常があるかを判断するための重要な情報となる。例えば、尿円柱116の画像は慢性腎炎、糸球体腎炎、腎盂腎炎、ネフローゼ症候群などの疾患の診断に用いられる。上皮細胞114や尿円柱116などの大型粒子は、一般的には尿試料において少数しか含まれないが、以上のように、少数ではあっても臨床的に非常に重要な所見を与える。本生体試料撮像装置10によれば、そのような重要な所見を与える尿試料中の大型粒子を、上述した濃縮及び分散というプロセスにより、効率的に、且つ大型粒子同士が重ならないようにして、画像に映し出すことができるようになる。こうして、本実施形態によれば、尿検査の信頼性を大きく向上させることができる。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能であり、それら変形も本発明の範囲の属する。例えば、以上の説明では、第1センサ28a及び第2センサ28bを用いたが、生体試料104の下流端104aの位置制御には、それらは必ずしも必要ない。
【0071】
また、ポンプ制御部20cによる第3動作は必ずしも必要ない。すなわち、
図9に示すように、第1位置Aを撮像セル14の撮像範囲より下流側に設け、第2位置Bを撮像セル14の撮像範囲の下流端又はそれより下流側に設ければ、第2動作を行った直後に撮像セル14の内部空間14eには生体試料104が充填されていることになる。こうすれば、生体試料104の吸引開始からカメラ18による撮影までの時間を短くすることが可能となる。
【解決手段】粒子を含む生体試料104を液体流路41に導入する第1ステップ(a〜c)と、液体流路41に導入された生体試料104を順方向に流通させる第2ステップ(d〜e)と、第2ステップの後、生体試料104を逆方向に流通させる第2ステップ(f)と、第3ステップの後に液体流路41に残存する生体試料104に含まれる粒子を、撮像セル14において撮像する撮像ステップと、を含む、生体試料撮像方法。