特許第6134422号(P6134422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6134422幹細胞の観察方法、及び幹細胞の観察装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134422
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】幹細胞の観察方法、及び幹細胞の観察装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20170515BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20170515BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20170515BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20170515BHJP
   G02B 21/36 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   C12M1/34 B
   C12N5/071
   G02B21/06
   G02B21/36
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-119014(P2016-119014)
(22)【出願日】2016年6月15日
(62)【分割の表示】特願2013-542915(P2013-542915)の分割
【原出願日】2012年10月23日
(65)【公開番号】特開2016-168052(P2016-168052A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2016年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-244867(P2011-244867)
(32)【優先日】2011年11月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】杉山 範和
(72)【発明者】
【氏名】片岡 卓治
(72)【発明者】
【氏名】荒田 育男
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/043077(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/157385(WO,A1)
【文献】 特開2007−306891(JP,A)
【文献】 特開2004−101196(JP,A)
【文献】 特開2001−286285(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/153056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−15/90
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材上に配置された幹細胞に斜向した照明光を照射する照射ステップと、
前記幹細胞の散乱光を撮像し、散乱光画像を取得する取得ステップと、
前記散乱光画像に基づいて分化傾向状態にある幹細胞を特定する特定ステップと、
を備える幹細胞の観察方法。
【請求項2】
前記特定ステップは、前記散乱光画像中の暗い領域を前記分化傾向状態にある幹細胞と特定する、請求項1に記載の幹細胞の観察方法。
【請求項3】
前記照射ステップは、前記透明部材を介して前記斜向した照明光を前記幹細胞に照射する、請求項1又は2に記載の幹細胞の観察方法。
【請求項4】
前記取得ステップは、前記幹細胞によって散乱され、前記透明部材を通過した前記幹細胞の前記散乱光を撮像する、請求項1〜3の何れか一項に記載の幹細胞の観察方法。
【請求項5】
前記透明部材上に配置された前記幹細胞に照明光を照射する第2の照射ステップと、
前記幹細胞の透過光を撮像し、透過光画像を取得する第2の取得ステップと、を更に備える、請求項1〜4の何れか一項に記載の幹細胞の観察方法。
【請求項6】
前記特定ステップにより分化傾向状態にあると特定された前記幹細胞を除去する除去ステップと、を更に備える、請求項1〜5の何れか一項に記載の幹細胞の観察方法。
【請求項7】
前記幹細胞は、iPS細胞である、請求項1〜6の何れか一項に記載の幹細胞の観察方法。
【請求項8】
照射光を出力する光源を有し、透明部材上に配置された幹細胞に前記照明光を斜向照明する光照射部と、
前記幹細胞の散乱光を撮像し、散乱光画像を取得する撮像部と、
分化傾向状態にある幹細胞を特定するために、前記散乱光画像を表示する表示部と、
を備える幹細胞の観察装置。
【請求項9】
前記光照射部は、前記透明部材を介して前記斜向した照明光を前記幹細胞に照射する、請求項8に記載の幹細胞の観察装置。
【請求項10】
前記撮像部は、前記幹細胞によって散乱され、前記透明部材を通過した前記幹細胞の前記散乱光を撮像する、請求項8又は9に記載の幹細胞の観察装置。
【請求項11】
前記光照射部は、前記透明部材が載置される面と前記光源から出力される前記照明光が入力される他面とを含む導光部材を有する、請求項8〜10の何れか一項に記載の幹細胞の観察装置。
【請求項12】
前記撮像部は、前記幹細胞によって散乱され、前記導光部材を通過した前記幹細胞の前記散乱光を撮像する、請求項11に記載の幹細胞の観察装置。
【請求項13】
前記幹細胞は、iPS細胞である、請求項8〜12の何れか一項に記載の幹細胞の観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の観察方法、分化傾向状態の細胞領域の除去方法、及び、幹細胞の観察装置に関する。特に本発明は、幹細胞の未分化状態と分化傾向状態とを識別可能な幹細胞の観察方法、分化傾向状態と識別された細胞領域の除去方法、及び、幹細胞の観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト由来のES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)といった幹細胞は、多種類の細胞に分化する能力を有している。このような幹細胞を大量に培養した後に目的の細胞に分化させることによって、病気の解明、創薬スクリーニング、毒性試験、又は、再生医療といった、これまで困難であったヒト細胞を用いた大規模な薬効評価又は医療への応用が可能となるため、幹細胞が注目されている。
【0003】
ところで、未分化状態を維持して幹細胞を培養する過程において、未分化状態を維持できずに分化傾向状態となってしまう細胞があり、このような細胞の出現により、幹細胞全体の品質を低下させてしまうことがあった。そのため、幹細胞の品質管理の重要性が指摘されているが、適切な品質管理を行うには、幹細胞をモニタリングし、分化又は未分化の状態を判別し、未分化状態を維持していない分化傾向にある細胞を除去する必要がある。
【0004】
このように分化又は未分化の状態を判別する方法として、位相差コントラスト顕微鏡などの光学顕微鏡を用いて、透過照明にて得られる透過光画像を目視で判断して、未分化状態の幹細胞コロニーと分化傾向にある幹細胞コロニーとの判別を行うことが行われている(例えば、非特許文献1の17頁参照)。そして、目視判断により分化傾向にあると判断したコロニーは最終的にはピペットなどで吸引して回収され、除去される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ヒト多能性幹細胞培養実習プロトコール」、[online]、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 幹細胞研究支援・開発室、[平成23年9月22日検索]、インターネット<URL:http://www.cdb.riken.jp/hsct/protocol.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した位相差コントラスト顕微鏡などの光学顕微鏡を用いた判別方法は、目視による細胞の微妙な形状の違いを判別することによって行われているため、観察者の主観や経験に左右されやすく、見落としが起きやすかった。また、未分化のマーカーとなる遺伝子発現をターゲットとしたレポーター遺伝子の導入により、蛍光や発光にてラベルすることにより確認する方法があるが、レポーター遺伝子を安定発現するヒト幹細胞株を作成する必要がある。
【0007】
また、幹細胞を固定した後に、アルカリフォスファターゼ(ALP:Alkaline Phosphatase)活性又は特性のタンパク質などの未分化マーカーの存在を、色素の発色又は蛍光抗体を用いて確認する手法がある。しかし、この手法では、幹細胞の培養を継続することができないので、抜き取り確認程度にしか用いることができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる幹細胞の観察方法は、透明部材上に配置された幹細胞に斜向した照明光を照射する照射ステップと、幹細胞の散乱光を撮像し、散乱光画像を取得する取得ステップと、散乱光画像に基づいて分化傾向状態にある幹細胞を特定する特定ステップと、を備えている。
【0009】
また、本発明の一態様に係る幹細胞の観察装置は、照射光を出力する光源を有し、透明部材上に配置された幹細胞に照明光を斜向照明する光照射部と、幹細胞の散乱光を撮像し、散乱光画像を取得する撮像部と、分化傾向状態にある幹細胞を特定するために、散乱光画像を表示する表示部と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、幹細胞をラベルすることなく培養した生きた状態で、幹細胞の未分化状態と分化傾向状態とを容易に識別することができる。また、本発明の一態様によれば、必要に応じて、分化傾向状態とされた幹細胞を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】観察装置の一実施形態を示す図である。
図2図1に示した観察装置において、導波路をシャーレから退避させた状態を示す図である。
図3】光源からシャーレへ入射される光の角度変化を模式的に示す図である。
図4】光源の放射角度とシャーレへの出射角度との関係を示す図である。
図5】導波路を使った場合のシャーレへの出射角度と、使わなかった場合のシャーレへの出射角度との違いを示す図である。
図6】導波路とシャーレとの間に水が配置された状態を示す図である。
図7】幹細胞における斜方照明と散乱光強度との関係を示す図であり、(a)が未分化状態の幹細胞での関係を示し、(b)が分化傾向状態の幹細胞での関係を示す。
図8】幹細胞コロニーにおける散乱光強度を示す図である。
図9】未分化状態と分化傾向状態とが混在する幹細胞の画像であり、(a)が散乱光画像を示し、(b)が透過光画像を示す。
図10】未分化状態と分化傾向状態とが混在する別の幹細胞の画像であり、(a)が散乱光画像を示し、(b)が透過光画像を示す。
図11図1及び図2に示した観察装置で幹細胞を観察する観察方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
図12図11に示した観察方法における画像の遷移を示す図である。
図13図11に示した観察方法の変形例を示すフローチャートである。
図14図1及び図2に示した観察装置で幹細胞を観察する観察方法の第2実施形態を示すフローチャートである。
図15図14に示した観察方法における画像の遷移を示す図である。
図16図15に示した観察方法の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0013】
[第1実施形態]
図1及び図2に示されるように、観察装置1は、試料保持部10、光照射装置20A,20B、画像取得装置30、制御装置40、表示装置50及び印付与装置60を備えている。
【0014】
試料保持部10は、透明な試料ケースであるシャーレ11の両端を保持する部材である。シャーレ11は、例えばiPS細胞が付着する底面がガラス又はプラスチック樹脂(例えばポリスチレン樹脂)などの透光性の部材からなり、光照射装置20Aから照射される照明光L1を透過すると共に、ヒトiPS細胞Cからの散乱光L2を透過する。シャーレ11の内部には、培養液などの溶液12が収容されている。溶液12の中にヒトiPS細胞Cなどの幹細胞が配置されている。ヒトiPS細胞Cの一部は、シャーレ11の底面11bに付着している。なお、試料ケースは、幹細胞が付着する底面が、ガラスやポリスチレン樹脂などの透光性のある部材から形成されていればよく、シャーレに限定される訳ではなく、例えば、流路と接続した閉鎖系の容器で、底面が透明性の部材で形成されているものを用いてもよい。
【0015】
光照射装置20Aは、導波路21、光源装置22及び移動装置23を備えている。光照射装置20Aの導波路21及び光源装置22は、ヒトiPS細胞Cを収容したシャーレ11に対して照明光L1を照射する。導波路21は、主面21s、主面21sの反対側にある裏面21r、及び、主面21sと略直交する側面21fを有する板状の導光部材である。導波路21は、例えば石英ガラス等の透光性部材によって構成されており、その厚みが3mm〜8mm程度となっている。主面21s上には水13を介してシャーレ11が載置される。導波路21の両端には、側面21fに近接するように2つの光源装置22が、互いの照射方向を対向させた状態で配置されている。導波路21の材料は、石英ガラスに限定される訳ではなく、屈折率がガラス同様に空気に比べて高く透明な材料であれば、樹脂を用いて成形してもよい。また、上記では、光学媒体として水を用いた例を示したが、他の光学媒体を用いて導波路21とシャーレ11との間を光学結合させてもよい。
【0016】
光源装置22は、光源部を含んで構成される。光源装置22の光源部は、フレーム部材に複数のLED(例えば赤色LED)が配置された構造を有する。これら複数のLEDは、導波路21の側面21fから導波路21に、指向性を有する照明光L1を入射する。導波路21への光の入射角度を調節するために、光源装置22が、光源部の取り付け角度を調節できる機構を有していてもよい。また、光源装置22は、フィルタ部を更に含んで構成されていてもよい。光源装置22のフィルタ部は、例えば、特定の波長帯域の光のみを透過させるバンドパスフィルタである。フィルタ部は、LEDから照射される光から、測定に適した波長の照明光L1のみを透過させる。このように、光源部及びフィルタ部を組み合わせることにより、測定に適した波長の光を導波路21へ入射させることができ、これにより、測定精度が高められる。つまり、フィルタ部を含むことにより、波長選択性を高めることができる。
【0017】
光照射装置20Aでは、導波路21の主面21s上に水13を配置して、導波路21の屈折率n1と水13の屈折率n3とに基づく臨界角を所定の値に設定することにより、シャーレ11内に照明光L1を照射している。シャーレ11内に照明光L1を照射する手段である光学媒体としては、導波路と試料ケース底面との間の隙間を埋めるようなものであれば、水に限られることはなく、例えば、油、ガラス、樹脂、ゲル状の物質を用いてもよい。また、主面21sに溝などの所望の形状を形成して主面21sに対する照明光L1の入射角を所定の値に設定することにより、シャーレ11内に照明光L1を照射してもよい。光学媒体の屈折率n3(図6参照)は、試料ケース内の培養液の屈折率n2と同等又はそれ以上であることが好ましく、光学媒体の屈折率n3が試料ケース内の培養液の屈折率n2よりも大きければ、より角度の浅い斜向した照明光を照射することができる。
【0018】
光源装置22の光源は、上述したLEDに限定されることはない。例えば、光源装置22の光源として、キセノンランプ等の白色光源を用いてもよい。この場合、LEDでは実現できない波長の光を照明光L1としてヒトiPS細胞Cに照射させることができる。また、図1に示す例では、光源装置22を2個設けた例を示しているが、光源装置22を1個だけ設けるようにしてもよいし、光源装置22を3個以上設けるようにしてもよい。
【0019】
ここで、図3を参酌して、光照射装置20Aでの照明光L1について詳細に説明する。図3は、光源22からシャーレ11へ入射される光の角度変化を模式的に示す図である。光照射装置20Aは、図3に示されるように、導波路21に対して導波路21の両側面21fから照明光L1を所定の入射角度θを有する光を含んで入射させる。空気よりも高い屈折率n1を有する導波路21に入射した照明光L1は、導波路21の主面21s及び裏面21rにおいて全反射される。そして、照明光L1の一部が、主面21sとシャーレ11との間の水13が配置された領域からシャーレ11内に入射する。
【0020】
この照明光L1は、導波路21の屈折率n1と水13の屈折率n3との差から、主面21sと平行な方向に向けて屈折し、シャーレ11内に向けて出射される。シャーレ11内の溶液12の屈折率n2は、例えば水と略同等の屈折率である。これにより、シャーレ11に入射する照明光L1は、シャーレ11の深さ方向(載置方向)に対して所定の出射角度iの傾きを持つ。例えば、図4に示す例では、溶液12の屈折率n2が1.33の場合、光源装置22から導波路21への照射光L1のうち入射角度θが約37度未満の入射光は、導波路21からシャーレ11に入射することなく、全反射される。一方、入射角度θが約37度以上(正確には37.03度)の照明光L1は、シャーレ11の培養液12中に入射し、深さ方向に対する出射角度iが53度〜90度の範囲となり、ヒトiPS細胞Cへの所定の斜方照明を照射することができる。
【0021】
このように、本実施形態に係る光照射装置20Aでは、光源装置22からの光が所定の放射角度範囲(例えば38度〜90度)を含むようになっており、このような角度θで入射された光が、導波路21とシャーレ11との間に介在する水13により、より平行に近い斜方光となってシャーレ11に入射する。導波路21等を使用しない場合には、空気から培養液12への光の進入となり屈折率1から屈折率1.33への光の進入に従う。つまり、シャーレ11に入射される照明光は、図5に示されるように、シャーレ11の深さ方向に対して50度未満(出射角度Aの場合)となる。一方、上述した構成により、光照射装置20Aでは、シャーレ11の深さ方向に対する出射角度iが53度〜90度の範囲(出射角度Bの場合)となる光を含むようにすることができる。
【0022】
光照射装置20Aの移動装置23は、導波路21及び光源装置22を、試料保持部10によって保持されるシャーレ11の下方から退避させるための移動手段である。図2は、移動装置23によって、導波路21及び光源装置22がシャーレ11の下方から水平方向の右側に移動した状態を示している。この移動装置23によって、シャーレ11の下方に位置する光照射装置20Aが退避するので、シャーレ11の底面11bの外表面側へのアクセスが自由になる。
【0023】
光照射装置20Bは、光源部及びフィルタ部を含んで構成される第2の光源装置である。光照射装置20Bは、図2に示されるように、ヒトiPS細胞Cを収容したシャーレ11に対して上方から照明光L3を照射する。光照射装置20Bの光源部は、シャーレ11の中の細胞のコロニーの存在位置を把握するための光源であり、LED光源とコンデンサレンズから構成され、シャーレ11内の観察領域又はシャーレ11全体を照射できるようになっており、指向性を有する照明光L3をシャーレ11の上方から照射する。光照射装置20Bのフィルタ部は、光源装置22のフィルタと同様に、例えば、特定の波長帯域の光のみを透過させるバンドパスフィルタである。光照射装置20Bは、光照射装置20Aが照明光L1を照射している際には照射を行わないが、光照射装置20Aがシャーレ11の下方に位置する際に照射するようにしてもよい。
【0024】
画像取得装置30は、光照射装置20Aからの照明光L1がヒトiPS細胞Cによって散乱して導波路21を透過した散乱光L2、及び、光照射装置20Bからの照明光L3がヒトiPS細胞Cを透過した透過光L4を撮像する装置であり、撮像装置31及び結像レンズ32を備える。撮像装置31は、複数の画素が二次元に配列された二次元画素構造を有し、ヒトiPS細胞Cからの散乱光L2による二次元の光検出画像である散乱光画像、及び、ヒトiPS細胞Cからの透過光L4による二次元の光検出画像である透過光画像を取得可能に構成されている。
【0025】
撮像装置31としては、例えば高感度のCCDカメラやCMOSイメージングカメラを用いることができる。必要があれば、カメラの前段にイメージ増倍管又はリレーレンズ等を配置して画像取得装置30を構成してもよい。また、レンズ32は、散乱光L2や透過光L4を撮像装置31に結像するためのレンズであり、導波路21と撮像装置31との間に配置されている。必要であれば、導波路21とレンズ32との間、或いはレンズ32と撮像装置31との間に光学フィルタ等の光学部材を配置してもよい。レンズ32は、斜向照明した角度の光が観察側(つまり撮像装置側)に来ないようにするため、レンズの開口数(集光角度)が低いものを利用することが好ましい。このような開口数が低いレンズを用いることにより、コントラストのよい散乱光を取得することが可能となる。
【0026】
このような画像取得装置30は、導波路21上においてシャーレ11が載置された位置の下方に設けられ、シャーレ11内のヒトiPS細胞Cからの散乱光L2を検出する。そして、画像取得装置30は、シャーレ11内に保持されたヒトiPS細胞Cからの散乱光L2を含む二次元光像を検出して、光学画像データを取得する。
【0027】
画像取得装置30は、導波路21等がシャーレ11の下方から移動した際には、シャーレ11内のヒトiPS細胞Cに照射した照明光L3の透過光L4を検出する。そして、画像取得装置30は、シャーレ11内に保持されたヒトiPS細胞Cからの透過光L4を含む二次元光像を検出して、光学画像データを取得する。画像取得装置30は、導波路21等が存在する際に、透過光L4を含む二次元光像を検出して、光学画像データを取得してもよい。画像取得装置30は、このようにして取得した光学画像データを制御装置40に出力する。
【0028】
制御装置40は、画像取得装置30に接続されており、画像取得装置30から入力された光学画像データを、図9及び図10に示されるように、散乱光画像や透過光画像として表示装置50に表示させる。制御装置40は、例えばCPUを具備しソフトウエアによる処理や制御を行うパーソナルコンピュータ等から構成され、表示装置50は、例えばディスプレイ等から構成される。図9の(a)及び図10の(a)は、制御装置40及び表示装置50によって表示される、ヒトiPS細胞Cの散乱光画像を示し、図9の(b)及び図10の(b)は、ヒトiPS細胞Cの透過光画像を示す。図9の(a)及び図10の(a)に示す散乱光画像において、点線の丸で囲まれた領域は、分化傾向状態である細胞コロニーを示し、その周りにある未分化状態の細胞コロニー(例えば図9中において矢印で示される)よりも著しく暗く表示されるようになっている。
【0029】
ここで、分化傾向状態である細胞コロニーが未分化状態の細胞コロニーよりも暗く表示されるメカニズムについて、図7及び図8を参酌して説明する。本発明者らによれば、図7に示されるように、分化傾向状態にある細胞コロニー(図7の(b))は、未分化状態にある細胞コロニー(図7の(a))に比べて、ひとつひとつの細胞の厚さが薄くなるか、又は、散乱光を発生させる細胞内構造が減少するものと推定される。細胞コロニーを構成する一つ一つの細胞の厚さが厚い、又は、散乱光を発生させる細胞内構造が多いと、斜方照明として入射される照明光L1が散乱光として反射される率が高いため、散乱光強度が強くなって明るめの光像となる。しかし、このように、細胞コロニーの細胞の厚さが薄いと、斜方照明として入射される照明光L1が散乱光として反射する率が低くなるため、散乱光強度が弱くなってしまう。その結果、分化傾向状態になる細胞コロニーは、暗めの光像として表されることになるものと考えられる。
【0030】
このように、本実施形態では、散乱光画像を用いているため、分化又は未分化の違いが明確となっている。透過光画像では、図9の(b)及び図10の(b)に示されるように、分化又は未分化の違いがそれほど明確ではなく、対応する散乱光画像での識別マークがないと、透過光画像では、分化又は未分化の状態を識別することが困難である。
【0031】
制御装置40は、マウス又はタブレット等の入力装置(不図示)による所定のマーキング入力を受け付けて、このマーキング入力の内容に応じて、図9の(a)等に示されるように、散乱光画像の上に当該マーキング内容(例えば点線で示した丸や矢印)を表示させる処理を行う。制御装置40は、当該マーキングの座標位置をデータとして保持しておき、散乱光画像の後に表示される透過光画像上に、そのマーキング内容を再び表示させる。散乱光画像と透過光画像とは互いの座標位置が対応するように制御装置40等によって位置が制御されて表示されるため、透過光画像上のマーキングを確認することで、分化傾向状態にある細胞コロニーを識別することができる。
【0032】
印付与装置60は、シャーレ11の底面11bの外表面に所定の印(マーク)を付与する部材である。印付与装置60は、観察者による操作に応じて、シャーレ11の底面11bの外表面に、例えば図9の(b)に示すマーキング箇所(点線の丸)に対応する印を付与することができるインクペンを備えている。
【0033】
続いて、図11を参照して、上述した観察装置1を用いた観察方法について説明する。
【0034】
まず、培養液などの溶液12が入ったシャーレ11を用意し、ヒトiPS細胞などの幹細胞Cをシャーレ11の底面に付着させる(ステップS1)。また、保持機構である試料保持部10によって、シャーレ11を保持する(ステップS2)。幹細胞Cをシャーレ11に付着させてから試料保持部10による保持を開始してもよいし、又は、試料保持部10で保持したシャーレ11に幹細胞Cを付着させてもよい。
【0035】
続いて、光照射装置20Aの導波路21がシャーレ11の下部に位置するように導波路21又はシャーレ11を移動する(ステップS3)と共に、導波路21の主面21sの所定の領域に水13を塗布し、この水13を介するように、シャーレ11を導波路21の上に載置する。これにより、図1に示される配置構成となり、導波路21とシャーレ11との間が光学結合される(ステップS4)。
【0036】
続いて、光照射装置20Aの電源装置22を点灯し、導波路21内に照明光L1を入射させる(ステップS5)。導波路21内に入射された照明光L1は、導波路21内で全反射を繰り返しながら、導波路21と水13との屈折率の差から、水13が介在する領域において主面21sと平行な方向に向けて屈折し、シャーレ11内に向けて出射される。シャーレ11に入射する照明光L1は、シャーレ11の深さ方向(載置方向)に対して所定の角度iの傾きを持つ(図3参照)。
【0037】
シャーレ11内に向けて出射された斜方の照明光L1は、幹細胞Cによって散乱されて散乱光となり、導波路21を透過する。この散乱光L2を画像取得装置30で取得することで、散乱光画像が取得され、図12の(a)に示されるように、制御装置40によって、散乱光画像を表示装置50に表示させる(ステップS5)。
【0038】
続いて、表示装置50に表示された散乱光画像を観察し、分化傾向状態にある細胞領域を1つ以上指定し、図12の(b)に示されるように、画像の座標上に点線の丸によってマーカー表示を行う(ステップS6)。上述したように、散乱光画像では、分化傾向状態にある細胞領域は、他の未分化状態の細胞領域に比べて著しく暗く表示されるため、分化又は未分化の識別が容易になっている。
【0039】
散乱光画像を取得した後、図2に示されるように、導波路21を移動装置23によって、水平方向の右側に移動し、これにより、導波路21をシャーレ11の下部から退避させる(ステップS7)。その後、ステップS8に進み、光照射装置20Bの電源装置を点灯し、照明光L3をシャーレ11へ照射する。そして、シャーレ11に向けて出射された照明光L3は、幹細胞Cを透過して、透過光L4となる。この透過光L4を画像取得装置30で取得することで、透過光画像が取得され、図12の(c)に示されるように、制御装置40によって、透過光画像を表示装置50に表示させる(ステップS8)。
【0040】
続いて、この透過光画像の表示を維持したまま、ステップS6で表示したマーカーを制御装置40から再び呼びだし、図12の(c)に示されるように、透過光画像上にオーバレイ表示させる(ステップS9)。ステップS5で表示された散乱光画像と、ステップS9で表示された透過光画像とは、互いの座標位置が対応するように制御装置40によって制御されているため、透過光画像上にオーバレイ表示されたマーカーが分化傾向状態にある細胞コロニーを示していることになる。
【0041】
続いて、図12の(c)に示される透過光画像を見ながら、印付与装置60のインクペンを用いて、透過光画像上のマーカーと重なるように、図12の(d)に示されるように、シャーレ11の底面11bの外表面に印を付与する(ステップS10)。その後、図12の(e)に示されるように、印を付与した領域の細胞コロニーをスポイト等によって吸引して回収し、これにより、分化傾向状態にある細胞コロニーを除去する(ステップS11)。
【0042】
このように、本実施形態の観察方法によれば、幹細胞Cを透過した透過光を検出する観察方法に比べて、分化傾向状態にある幹細胞Cをより暗く表示させることができる(例えば、図9図10参照)。このため、本観察方法によれば、散乱光を用いるといった簡易な手法により、幹細胞Cをラベルすることなく培養した生きた状態で、幹細胞Cの未分化状態と分化傾向状態とを識別することができる。
【0043】
上述した観察方法では、散乱光L2の強度を指標としているために、強度分布の2次元情報と細胞コロニーの存在位置とさえ把握できれば、幹細胞の未分化状態と分化傾向状態とを識別することができる。そのため、顕微鏡だけでなく、マクロレンズなどの低倍のレンズを用いて、透明部材であるシャーレ11全体やシャーレ11の光範囲を一度に観察して判断することが可能である。
【0044】
上述した観察方法において、幹細胞Cに照射される照明光L1が、シャーレ11の深さ方向に対して斜めに出射されている。この幹細胞Cに向けて斜めに出射される照明光L1の出射角度iが、深さ方向に対して53度〜90度の間であるようになっている。照明光L1の出射角度iが上述した範囲にあることにより、未分化状態にある幹細胞コロニーと分化傾向状態にある幹細胞コロニーとのコントラストがより明確になり、両者の識別がより一層簡単になる。
【0045】
上述した観察方法において、幹細胞Cによって散乱し導波路21を透過した散乱光L2の画像を画像取得装置30で取得している。細胞からの散乱光強度画像を高い信号/ノイズ比で取得するためには、暗視野照明などを行うことが一般的であり、そのためには顕微鏡下にて差動距離の短い高いNAのコンデンサレンズを使用する必要があり、操作が難しかった。しかしながら、この観察方法によれば、散乱光画像を取得する目的で、幹細胞Cが配置されたシャーレ11を載置する導波路21を利用している。そのため、画像を得るための操作が容易であり、且つ、高い信号/ノイズ比で散乱光強度画像を取得することもできるようになる。
【0046】
上述した観察方法は、透過光画像を表示させる際に、透過光画像上に散乱光画像のマーカーを重ねて表示させるようにしている。このため、透過光画像上において、未分化状態にある幹細胞コロニーと分化傾向状態にある幹細胞コロニーとの識別が容易になり、培養作業を行いやすくなる。また、導波路21をシャーレ11の下方から退避させるステップを有していることから、幹細胞Cが配置されたシャーレ11の底面側へのアクセス自由度を高めることができる。そして、散乱光画像にて判別した細胞コロニーに対して、細胞の入っているシャーレ11を別の装置に移動することなく、透過光画像上のマーカーに対応するシャーレの所定の領域に印を付与するといったようなことを行うことができる。これにより、分化傾向状態にある幹細胞コロニーの位置を容易に認識することができる。
【0047】
上記実施形態では、上述した幹細胞の観察方法によってシャーレ11上の幹細胞Cを観察し、当該観察によって幹細胞Cのうち分化傾向状態であるとされた細胞領域を除去するようにしている。このため、未分化状態にある幹細胞コロニーと分化傾向状態にある幹細胞コロニーとの識別が容易且つ確実であり、このような容易且つ確実な識別に基づいて分化傾向状態にある幹細胞コロニーを除去できるため、幹細胞の品質管理を容易に行うことができる。
【0048】
観察装置1によれば、幹細胞Cによって散乱した散乱光L2を撮像して、散乱光画像を容易に取得することができ、分化傾向状態にあり暗く表示される幹細胞Cを容易に識別することができる。このため、観察装置1を用いることにより、幹細胞Cをラベルすることなく培養した生きた状態で、幹細胞Cの未分化状態と分化傾向状態とを識別することが容易に実行できる。
【0049】
上述した実施形態では、散乱光画像を表示させた後に、透過光画像を表示させるようにしていたが、例えば、図13に示されるように、光照射装置20A,20Bを切り替えて交互に点灯し、散乱光画像と透過光画像とを選択して、表示装置50に表示させるようにしてもよい(ステップS15)。このように散乱光画像を表示させる際に、両画像を交互に表示させることにより、透過光画像における分化傾向状態になる細胞コロニーの位置を、観察者がより認識しやすくなる。図13に示される観察方法の変形例では、ステップS15以外は、図12に示される観察方法と同様である。
【0050】
[第2実施形態]
続いて、観察方法の第2実施形態について、図14及び図15を参酌して説明する。本実施形態では、第1実施形態と同じ観察装置1を用いて観察を行う。以下、観察方法において、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0051】
まず、培養液などの溶液12が入ったシャーレ11を用意し、ヒトiPS細胞などの幹細胞Cをシャーレ11の底面に付着させる(ステップS1)。また、保持機構である試料保持部10によって、シャーレ11を保持する(ステップS2)。その後、光照射装置20Aの導波路21がシャーレ11の下部に位置するように導波路21又はシャーレ11を移動する(ステップS3)と共に、導波路21の主面21sの所定の領域に水13を塗布し、この水13を介するように、シャーレ11を導波路21の上に載置して光学結合を行う(ステップS4)。
【0052】
続いて、光照射装置20Aの電源装置22を点灯し、導波路21内に照明光L1を入射させる。導波路21内に入射された照明光L1は、全反射を繰り返しながら、水13が介在する領域において主面21sと平行な方向に向けて屈折し、シャーレ11内に向けて出射される。シャーレ11内に向けて出射された斜方の照明光L1は、幹細胞Cによって散乱されて散乱光L2となり、導波路21を透過する。この散乱光L2を画像取得装置30で取得することで、散乱光画像が取得され、図15の(a)に示されるように、散乱光画像が表示装置50に表示される(ステップS25)。また、制御装置40は、当該画像データを静止画像として記録する(ステップS25)。
【0053】
続いて、表示装置50に表示された散乱光画像を観察し、分化傾向状態にある細胞領域を1つ以上指定し、図15の(a)に示されるように、画像の座標上に点線の丸によってマーカー表示を行う(ステップS6)。上述したように、散乱光画像では、分化傾向状態にある細胞領域は、他の未分化状態の細胞領域に比べて著しく暗く表示されるため、分化又は未分化の識別が容易になっている。その後、図15の(a)に示されるように、透過光画像の表示予定領域(同図の右側)に、ステップS6で表示させたマーカーを同じ座標位置となるようにオーバレイ表示させる(ステップS27)。
【0054】
散乱光画像を取得した後、図2に示されるように、導波路21を移動装置23によって、水平方向右側に移動し、これにより、導波路21をシャーレ11の下部から退避させる(ステップS7)。その後、ステップS28に進み、光照射装置20Bの電源装置を点灯し、照明光L3をシャーレ11へ照射する。そして、シャーレ11に向けて出射された照明光L3が幹細胞Cを透過した透過光L4を画像取得装置30で取得することで、透過光画像が取得され、図15の(b)に示されるように、制御装置40によって、散乱光の静止画像の隣に透過光画像を表示させる(ステップS28)。
【0055】
続いて、図15の(b)に示される透過光画像を見ながら、印付与装置60のインクペンを用いて、透過光画像上のマーカーと重なるように、図15の(c)に示されるように、シャーレ11の底面11bの外表面に印を付与する(ステップS10)。その後、図15の(d)に示されるように、印を付与した領域の細胞コロニーをスポイト等によって吸引して回収し、これにより、分化傾向状態にある細胞コロニーを除去する(ステップS11)。
【0056】
このように、本実施形態の観察方法によれば、幹細胞Cを透過した透過光を検出する観察方法に比べて、分化傾向状態にある幹細胞Cをより暗く表示させることができる(例えば、図9又は図10参照)。このため、本観察方法によれば、散乱光を用いるといった簡易な手法により、幹細胞Cをラベルすることなく培養した生きた状態で、幹細胞Cの未分化状態と分化傾向状態とを識別することができる。
【0057】
本実施形態の観察方法では、散乱光画像を静止画像として、透過光画像の隣に表示させるようにしている。このため、分化傾向状態である細胞コロニーの位置を、散乱光画像を参照しながら、透過光画像上で識別することができ、識別作業がより一層、容易になる。
【0058】
上述した実施形態では、散乱光画像を表示させた後に、透過光画像を表示させるようにしていたが、例えば、図16に示されるように、光照射装置20A,20Bを切り替えて交互に点灯し、散乱光画像と透過光画像とを選択して、表示装置50に表示させ、散乱光画像の静止画像を記録するようにしてもよい(ステップS34,S35)。このように散乱光画像を表示させる際に、両画像を交互に表示させることにより、透過光画像における分化傾向状態になる細胞コロニーの位置を、観察者がより認識しやすくなる。図16に示される観察方法の変形例では、ステップS34,35以外は、図14に示される観察方法と同様である。
【0059】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、表示装置50に表示される画像の上下左右の表示方向が、シャーレ11の底面に印を付与する作業がやりやすいように、作業の上下左右方向と合致するように表示を制御してもよい。また、印付与装置60はインクペンを備えていたが、その他のマーキング装置であってもよい。また、分化傾向状態にある細胞コロニーの位置を散乱光画像上にマーカーした場合に、制御装置40によって当該マーカーした位置とシャーレ11における細胞の位置とを対応づけさせて、シャーレ11に印付与装置60でマークさせるのではなく、その対応した位置情報に応じて、レーザなどで分化傾向状態にある細胞コロニーを除去してしまってもよい。また、上述した実施形態では、観察対象の細胞を容器の底面に配置して観察を行っていたが、これに限定されるわけではなく、容器内の培養液中に浮いている浮遊細胞を上記の観察装置を用いた観察方法で観察するようにしてもよい。
【0060】
なお、本発明に係る観察方法は、別の側面において、透明部材内に幹細胞を配置するステップと、透明部材を導光部材上に光学媒体を介して載置するステップと、導光部材中に照明光を入射し光学媒体を介して当該照明光を、溶液が収容された透明部材内の幹細胞に向けて出射させるステップと、幹細胞に向けて出射された照明光が幹細胞によって散乱し、導光部材を透過した当該散乱光を検出するステップと、を備えている。
【0061】
上述した一態様に係る観察方法では、幹細胞に向けて出射された照明光が幹細胞によって散乱し、導光部材を透過した当該散乱光を検出することによって、幹細胞を観察している。このような幹細胞によって散乱した散乱光を検出する観察方法によれば、幹細胞を透過した透過光を検出する観察方法に比べて、分化傾向状態にある幹細胞をより暗く表示させることができる(例えば、図9又は図10参照)。このため、この一態様に係る観察方法によれば、散乱光を用いるといった簡易な手法により、幹細胞をラベルすることなく培養した生きた状態で、幹細胞の未分化状態と分化傾向状態とを識別することができる。
【0062】
また、仮に幹細胞を観察するのに培養液を用いなくてもよければ屈折率の関係から導光部材を用いなくても斜向照明を容易に行うことができるが、幹細胞を観察するには、透明部材内に幹細胞を配置すると共に透明部材中に培養液を収容する必要がある。上述した一態様に係る観察方法であれば、導光部材と光学媒体とを用いることによって、幹細胞を観察するための斜向照明を容易に得ることができる。
【0063】
上述した一態様に係る観察方法では、散乱光の強度を指標としているために、強度分布の2次元情報と細胞コロニーの存在位置とさえ把握できれば、幹細胞の未分化状態と分化傾向状態とを識別することができる。そのため、顕微鏡だけでなく、マクロレンズなどの低倍のレンズを用いて、透明部材である容器全体や容器の光範囲を一度に観察して判断することが可能である。
【0064】
上述した一態様に係る観察方法において、照明光を幹細胞に向けて出射させるステップで、幹細胞に照射される照明光が、透明部材を導光部材上に載置する方向に対して斜めに出射されるようにしてもよい。この幹細胞に向けて斜めに出射される照明光の出射角度が、載置方向に対して53度〜90度の間であってもよい。照明光の出射角度が上述した範囲にあることにより、未分化状態にある幹細胞コロニーと分化傾向状態にある幹細胞コロニーとのコントラストがより明確になり、両者の識別がより一層簡単になる。
【0065】
上述した一態様に係る観察方法において、散乱光を検出するステップで、幹細胞によって散乱し導光部材を透過した散乱光の画像を撮像部で取得するようにしてもよい。細胞からの散乱光強度画像を高い信号/ノイズ比で取得するためには、暗視野照明などを行うことが一般的であり、そのためには顕微鏡下にて差動距離の短い高いNAのコンデンサレンズを使用する必要があり、透明部材内に存在する幹細胞に対してコンデンサレンズを近づけなければならないために、操作が難しかった。しかしながら、本発明の一態様に係る観察方法によれば、散乱光画像を取得する目的で、幹細胞が配置された透明部材を載置する導光部材を利用している。そのため、画像を得るための操作が容易であり、且つ、高い信号/ノイズ比で散乱光強度画像を取得することができるようになる。
【0066】
上述した一態様に係る観察方法は、透明部材を保持機構で保持するステップと、撮像部で取得した散乱光画像を表示部によって表示させるステップと、表示させるステップで表示された散乱光画像における所定の細胞領域に対する選択入力を受け付けて当該選択された領域に対応するマーカーを当該画像上に表示させるステップと、幹細胞の散乱光画像を取得した後、導光部材を透明部材の下方から退避させるステップと、幹細胞の透過光画像を撮像部で取得して、当該透過光画像を表示部によって表示させるステップと、透過光画像を表示させるステップで表示された透過光画像上にマーカーを重ねて表示させるステップと、を更に備えるようにしてもよい。
【0067】
この場合、透過光画像上において、分化又は未分化にかかわらずコロニーの存在位置を把握することができる。また、導光部材を透明部材の下方から退避させるステップを有していることから、幹細胞が配置された透明部材の底面側へのアクセス自由度を高めることができる。そして、散乱光画像にて判別した細胞コロニーに対して、細胞の入っている透明部材を別の装置に移動することなく、透過光画像上のマーカーに対応する透明部材の所定の領域に印を付与するといったようなことを行うことができる。これにより、分化傾向状態にある幹細胞コロニーの位置を容易に認識することができる。
【0068】
上述した何れかの態様に係る幹細胞の観察方法によって透明部材内の幹細胞を観察し、当該観察によって幹細胞のうち分化傾向状態であるとされた細胞領域を除去するようにしてもよい。この場合、未分化状態にある幹細胞コロニーと分化傾向状態にある幹細胞コロニーとの識別が容易且つ確実であり、このような容易且つ確実な識別に基づいて分化傾向状態にある幹細胞コロニーを除去できるため、幹細胞の品質管理を容易に行うことができる。
【0069】
また、本発明の一態様に係る観察装置は、透明部材内に配置された幹細胞を観察するための観察装置である。この観察装置は、透明部材を載置可能な面を有する導光部材と、導光部材中に照明光を入射し、透明部材と導光部材との間に配置される光学媒体を介して当該照明光を、培養液が収容された透明部材内の幹細胞に向けて出射させる第1の光源と、導光部材を移動させる移動部と、移動部で導光部材を移動させる際に透明部材を保持する保持部と、保持部で保持された透明部材内に配置された幹細胞に向けて照明光を照射する第2の光源と、第1の光源からの照明光が幹細胞によって散乱し導光部材を透過した当該散乱光、及び、第2の光源からの照明光が幹細胞を透過した透過光をそれぞれ撮像する撮像部と、を備えている。
【0070】
上記の一態様に係る観察装置によれば、幹細胞によって散乱した散乱光を撮像して、散乱光画像を容易に取得することができ、これにより、分化傾向状態にあり暗く表示される幹細胞を容易に識別することができる。このため、この一態様に係る観察装置を用いることにより、幹細胞をラベルすることなく培養した生きた状態で、幹細胞の未分化状態と分化傾向状態とを識別することが容易に実行できる。
【符号の説明】
【0071】
1…観察装置、10…試料保持部、11…シャーレ、20A,20B…光照射装置、21…導波路、22…光源装置、23…移動装置、30…画像取得装置、40…制御装置、50…表示装置、60…印付与装置、C…幹細胞、L2…散乱光、L4…透過光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16