特許第6134443号(P6134443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6134443-透明導電性フィルムおよびその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134443
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】透明導電性フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20170515BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20170515BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20170515BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C23C14/08 D
   C23C14/34 N
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-521068(P2016-521068)
(86)(22)【出願日】2015年5月15日
(86)【国際出願番号】JP2015063997
(87)【国際公開番号】WO2015178298
(87)【国際公開日】20151126
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-104184(P2014-104184)
(32)【優先日】2014年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】川上 梨恵
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】佐々 和明
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 愛美
(72)【発明者】
【氏名】松田 知也
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−067711(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080995(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/109449(WO,A1)
【文献】 特開2013−084376(JP,A)
【文献】 特開2013−093310(JP,A)
【文献】 特開2009−143026(JP,A)
【文献】 特開平03−249171(JP,A)
【文献】 特開平04−116159(JP,A)
【文献】 特開2007−023304(JP,A)
【文献】 特開2011−018623(JP,A)
【文献】 特開2012−134085(JP,A)
【文献】 特開2000−282226(JP,A)
【文献】 特開2001−089846(JP,A)
【文献】 特開2013−071380(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/100557(WO,A1)
【文献】 特開2000−141533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01B 5/14
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層とを有する透明導電性フィルムであって、
前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、
前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜2.2×10−4Ω・cmであり、
前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、
長尺状であって、ロール状に巻回されていることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層とを有する透明導電性フィルムであって、
前記透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、
前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、
前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cmであり、
前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、
前記透明導電層の結晶化前後での面内の最大寸法変化率が、−1.0〜0%であり、長尺状であって、ロール状に巻回されていることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項3】
前記透明導電層は、{酸化スズ/(酸化インジウム+酸化スズ)}×100(%)で表される酸化スズの含有量が0.5〜15重量%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明導電層は、前記高分子フィルム基材側から、第一のインジウム−スズ複合酸化物層、第二のインジウム−スズ複合酸化物層が、この順に積層された2層膜であり、
前記第一のインジウム−スズ複合酸化物層の酸化スズ含有量が6重量%〜15重量%であり、
前記第二のインジウム−スズ複合酸化物層の酸化スズの含有量が0.5重量%〜5.5重量%であることを特徴とする、請求項1からのいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項5】
前記透明導電層は、前記高分子フィルム基材側から、第一のインジウム−スズ複合酸化物層、第二のインジウム−スズ複合酸化物層、第三のインジウム−スズ複合酸化物層が、この順に積層された3層膜であり、
前記第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は0.5重量%〜5.5重量%であり、
前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は6重量%〜15重量%であり、
前記第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は0.5重量%〜5.5重量%であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の透明導電性フィルム。
【請求項6】
高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層を有し、
前記透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、
前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、
前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜2.2×10−4Ω・cmであり、
前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、
長尺状であって、ロール状に巻回されている透明導電性フィルムを製造する方法であって、
インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、前記高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する層形成工程と、
前記非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化する結晶転化工程と、を有することを特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項7】
高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層とを有し、
前記透明導電層は、前記高分子フィルム基材上に形成された非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化したインジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、
前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、
前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cmであり、
前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、
前記透明導電層の面内の最大寸法変化率が、前記非晶質透明導電層に対して−1.0〜0%であり、
長尺状であって、ロール状に巻回されている透明導電性フィルムを製造する方法であって、
層形成工程の前に、前記高分子フィルム基材をロールtoロール搬送させながら、前記高分子フィルム基材を張力調整しながら加熱する加熱工程と、
インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、前記高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する層形成工程と、
前記非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化する結晶転化工程と、を有することを特徴とする、透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記層形成工程では、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたRF重畳DCマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、前記高分子フィルム基材上に前記非晶質透明導電層を形成することを特徴とする、請求項又はに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程は、前記高分子フィルム基材をロールtoロール搬送させながら、加熱温度140℃〜200℃、加熱時間2分〜5分で行うことを特徴とする、請求項からのいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記層形成工程は、RF電力の周波数が13.56MHzである場合、RF電力/DC電力の電力比が0.4〜1.0であることを特徴とする、請求項記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記非晶質透明導電層が、110〜180℃、150分以下で結晶転化されることを特徴とする、請求項又はに記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に、ウェット成膜法にて有機系誘電体層が形成され、前記有機系誘電体層上に前記透明導電層が形成されることを特徴とする、請求項から1のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に、真空成膜法にて無機系誘電体層が形成され、前記無機系誘電体層上に前記透明導電層が形成されることを特徴とする、請求項から1のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に、ウェット成膜法にて形成された有機系誘電体層、真空成膜法にて形成された無機系誘電体層、前記透明導電層、がこの順に形成されることを特徴とする、請求項から1のいずれか1項に記載の透明導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルム基材上に結晶質透明導電層を有する透明導電性フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム基材上にITO層(インジウムスズ複合酸化物層)等の透明導電層を形成した透明導電性フィルムは、タッチパネルなどに広く用いられている。近年、パネルの大画面化および薄型化に伴い、ITO層に対して、比抵抗のさらなる低下および薄膜化が要求されている。
【0003】
薄型ITO層において、従来型ITO層と同等の表面抵抗値を確保するには、ITO層の結晶化度を高め、比抵抗値をより低下させる必要がある。結晶化度が高いITO層は柔軟性に乏しいため、概して薄型ITO層を有する透明導電性フィルムは、製造時の搬送工程やタッチパネル等の組立工程において、屈曲による負荷に起因してITO層の表面にクラックが発生する傾向にあった。ITO層の表面にクラックが発生すると、比抵抗が顕著に上昇し、ITO層の特性を損なう。
【0004】
例えば、高分子フィルム基材上にITO層を形成した透明導電性フィルムとして、ITO層の圧縮残留応力が0.4〜2GPaである透明導電性フィルムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−150779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、重荷重での打点特性を向上させることを課題として、高い圧縮残留応力を付与する構成が開示されているにすぎず、製造時におけるクラック発生を防止するといった課題は全く開示されていない。また、特許文献1に開示されている透明導電性フィルムのITO層は、比抵抗が6.0×10−4Ω・cmと非常に高い。
【0007】
本発明の目的は、透明導電層の比抵抗が低く、かつ、厚さが薄いという性状を有するとともに、クラック耐性に優れる透明導電性フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の透明導電性フィルムは、高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層を有する透明導電性フィルムであって、前記透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜2.2×10−4Ω・cmであり、前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、長尺状であって、ロール状に巻回されていることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の透明導電性フィルムは、高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層とを有する透明導電性フィルムであって、前記透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cmであり、前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、前記透明導電層の結晶化前後での面内の最大寸法変化率が、−1.0〜0%であり、長尺状であって、ロール状に巻回されていることを特徴とする。
【0013】
前記透明導電層は、{酸化スズ/(酸化インジウム+酸化スズ)}×100(%)で表される酸化スズの含有量が0.5〜15重量%であることが好ましい。
【0014】
また、前記透明導電層は、前記高分子フィルム基材側から、第一のインジウム−スズ複合酸化物層、第二のインジウム−スズ複合酸化物層が、この順に積層された2層膜であり、前記第一のインジウム−スズ複合酸化物層の酸化スズ含有量が6重量%〜15重量%であり、前記第二のインジウム−スズ複合酸化物層の酸化スズ含有量が0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましい。
【0015】
また、前記透明導電層は、前記高分子フィルム基材側から、第一のインジウム−スズ複合酸化物層、第二のインジウム−スズ複合酸化物層、第三のインジウム−スズ複合酸化物層が、この順に積層された3層膜であり、前記第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は0.5重量%〜5.5重量%であり、前記第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は6重量%〜15重量%であり、前記第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましい。
【0019】
本発明の透明導電性フィルムの製造方法は、高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層とを有し、前記透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜2.2×10−4Ω・cmであり、前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、長尺状であって、ロール状に巻回されている透明導電性フィルムを製造する方法であって、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、前記高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する層形成工程と、前記非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化する結晶転化工程と、を有することを特徴とする。
また、本発明の透明導電性フィルムの製造方法は、高分子フィルム基材と、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に透明導電層とを有し、前記透明導電層は、前記高分子フィルム基材上に形成された非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化したインジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、前記透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、前記透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cmであり、前記透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、前記透明導電層の面内の最大寸法変化率が、前記非晶質透明導電層に対して−1.0〜0%であり、長尺状であって、ロール状に巻回されている透明導電性フィルムを製造する方法であって、層形成工程の前に、前記高分子フィルム基材をロールtoロール搬送させながら、前記高分子フィルム基材を張力調整しながら加熱する加熱工程と、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、前記高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する層形成工程と、前記非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化する結晶転化工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
前記層形成工程では、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたRF重畳DCマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、前記高分子フィルム基材上に前記非晶質透明導電層を形成することが好ましい。
【0021】
また、前記加熱工程は、前記高分子フィルム基材をロールtoロール搬送させながら、加熱温度140℃〜200℃、加熱時間2分〜5分で行うことが好ましい。
また、前記層形成工程は、RF電力の周波数が13.56MHzである場合、RF電力/DC電力の電力比が0.4〜1.0であることが好ましい。
また、前記非晶質透明導電層が、110〜180℃、150分以下で結晶転化されるのが好ましい。
また、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に、ウェット成膜法にて有機系誘電体層が形成され、前記有機系誘電体層上に前記透明導電層が形成されるのが好ましい。
また、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に、真空成膜法にて無機系誘電体層が形成され、前記無機系誘電体層上に前記透明導電層が形成されるのが好ましい。
また、前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の主面上に、ウェット成膜法にて形成された有機系誘電体層、真空成膜法にて形成された無機系誘電体層、前記透明導電層、がこの順に形成されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、結晶質透明導電層の比抵抗が低く、かつ、厚さが薄いという特性を有するとともに、製造時のクラック耐性に優れる。特に、ロールtoロール法で透明導電性フィルムを製造する場合にも、結晶質透明導電層の表面に割れが発生することなく、クラック耐性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る透明導電性フィルムの構成を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る透明導電性フィルムの構成を概略的に示す図である。なお、図1における各構成の長さ、幅または厚みは、その一例を示すものであり、本発明の透明導電性フィルムにおける各構成の長さ、幅または厚みは、図1のものに限られないものとする。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の透明導電性フィルム1は、高分子フィルム基材2と、高分子フィルム基材2の主面2a上に形成された透明導電層3とを有している。透明導電性フィルム1は、長尺状であって、ロール状に巻回されていてもよい。
【0027】
ここで、長尺状とは、フィルムの短手方向の長さに対して、長手方向の長さが充分に長いものを指し、通常短手方向に対する長手方向の長さ比が10以上である。
【0028】
透明導電性フィルムの長手方向の長さは、透明導電性フィルムの使用形態に応じて適切な長さを採用することができ、好ましくは、ロールtoロール搬送工程に適した程度である。具体的には、長手方向の長さは10m以上のものが好ましい。
【0029】
本発明の透明導電性フィルムをロール状に巻回する程度は特に限定されず、透明導電性フィルムの使用形態に応じて適宜設定すればよい。本発明の透明導電性フィルムは高いクラック耐性を有するため、ロール状に巻回された状態であっても、曲げ応力等のストレスに起因するクラックを生じにくい。
【0030】
透明導電層3は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、残留応力が600MPa以下、比抵抗が1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cm、厚さが15nm〜40nmである。
【0031】
上記のように構成される透明導電性フィルムでは、透明導電層の残留応力が600MPa以下であるため、柔軟性が高い。そのため、透明導電層の比抵抗が1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cmと非常に低く、かつ、透明導電層の厚さが15nm〜40nmと非常に薄い上、製造時のクラック耐性に優れる。特に、ロールtoロール法で透明導電性フィルムを製造する場合には、透明導電性フィルムがロール状に巻回されるため、従来、透明導電層の表面にクラックが発生しやすかった。しかし、本実施形態では、透明導電層の残留応力が600MPa以下であり、柔軟性に優れているため、クラックの発生を防止することができる。
【0032】
次に、透明導電性フィルム1の各構成要素の詳細を以下に説明する。
【0033】
(1)高分子フィルム基材
高分子フィルム基材の材料は、透明性を有するものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリシクロオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリスチレン系樹脂、が挙げられる。高分子フィルム基材の厚さは、2μm〜200μmが好ましく、2μm〜150μmがより好ましく、20μm〜150μmがさらに好ましい。高分子フィルム基材の厚みが2μm未満であると、機械的強度が不足し、高分子フィルム基材をロール状にして透明導電層を連続的に成膜する操作が困難になる場合がある。一方、高分子フィルム基材の厚みが200μmを超えると、透明導電層の耐擦傷性やタッチパネルを形成した場合の打点特性等の向上が図れない場合がある。
【0034】
(2)透明導電層
透明導電層は、インジウムスズ複合酸化物(ITO)からなる。インジウムスズ複合酸化物における酸化スズの含有量は、酸化インジウムと酸化スズとの合計100重量%に対して0.5重量%〜15重量%であることが好ましい。酸化スズの含有量が0.5重量%未満であると、アモルファスITOを加熱したときに比抵抗が低くなりにくく、低抵抗の透明導電層を得られない場合がある。酸化スズの含有量が15重量%を超えると、酸化スズが不純物となって結晶転化を妨げる傾向がある。そのため、酸化スズの含有量が大きすぎると、完全結晶化したITO膜が得られにくくなったり、結晶化に時間を要する傾向があるため、透明性が高く低抵抗の透明導電層を得られない場合がある。
【0035】
本明細書中における“ITO”とは、少なくともInとSnとを含む複合酸化物であればよく、これら以外の追加成分を含んでもよい。追加成分としては、例えば、In、Sn以外の金属元素が挙げられ、具体的には、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、W、Fe、Pb、Ni、Nb、Cr及び、これらの組み合わせが挙げられる。追加成分の含有量は特に制限されないが、3重量%以下としてよい。
【0036】
透明導電層は、互いにスズの含有量が異なる複数のインジウム−スズ複合酸化物層が積層された構造を有していてもよい。透明導電層をこのような特定の層構造とすることにより、結晶転化時間の短縮化やさらなる透明導電層の低抵抗化を促進することができる。
【0037】
本発明の一実施形態において、透明導電層は、高分子フィルム基材側から、第一のインジウム−スズ複合酸化物層、第二のインジウム−スズ複合酸化物層が、この順に積層された2層膜であってもよい。第一のインジウム−スズ複合酸化物層の酸化スズ含有量は6重量%〜15重量%であることが好ましく、第二のインジウム−スズ複合酸化物層の酸化スズ含有量は0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましい。2層膜の構成にすることで透明導電層の結晶転化時間を短縮することができる。
【0038】
本発明の一実施形態において、透明導電層は、高分子フィルム基材側から、第一のインジウム−スズ複合酸化物層、第二のインジウム−スズ複合酸化物層、第三のインジウム−スズ複合酸化物層が、この順に積層された3層膜であってもよい。第一のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましく、第二のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は6重量%〜15重量%であることが好ましく、第三のインジウムスズ酸化物層の酸化スズの含有量は0.5重量%〜5.5重量%であることが好ましい。3層膜の構成にすることで透明導電層の比抵抗をより低減することができる。
【0039】
透明導電層の残留応力は、600MPa以下であり、好ましくは、550MPa以下である。残留応力が600MPaを超えると、屈曲性が低くなる。なお、残留応力は、粉末X線回折における回折ピークから求められる格子歪みεと、弾性係数(ヤング率)Eおよびポアソン比νに基づいて算出することができる。
【0040】
透明導電層の比抵抗は、1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cmであり、1.1×10−4Ω・cm〜2.8×10−4Ω・cmであるのが好ましく、1.1×10−4Ω・cm〜2.4×10−4Ω・cmであるのがより好ましく、さらには1.1×10−4Ω・cm〜2.2×10−4Ω・cmであるのが好ましい。
【0041】
透明導電層の厚さは、15nm〜40nmであり、好ましくは、15nm〜35nmである。厚さが15nm未満であると、加熱時にITO膜が結晶化しにくくなり、低比抵抗の透明導電層が得にくくなる。一方、厚さが40nmを超えると透明導電層の屈曲時には膜にクラックが入りやすくなり、材料コストでも不利になる。
【0042】
本発明に係る透明導電層は、結晶質透明導電層であり、非晶質透明導電層に対して結晶転化処理したものである。ここで、結晶質透明導電層は一部非晶質を含むものであってよいが、層中の全てのインジウム−スズ複合酸化物が結晶質であることが好ましい。すなわち、完全に結晶転化していることが好ましい。後述するように、非晶質透明導電層を加熱することにより、結晶質透明導電層とすることができる。
【0043】
結晶質透明導電層のクラック耐性の評価は、屈曲試験前後での比抵抗値の変化率を測定することにより行うことができる。屈曲試験の実施方法は、透明導電層に一定以上の曲げ応力の負荷を与えるものであればよく、例えば、透明導電性フィルムを筒状体に巻きつけて湾曲させる等の手法を用いればよい。クラック耐性評価に用いる透明導電性フィルムのサンプルは、透明導電層を定量的に評価する観点から、事前に充分な熱処理により透明導電層の結晶転化が完了していることが好ましい。
【0044】
なお、本明細書中の“クラック耐性”とは、専ら結晶転化処理を経た結晶質透明導電層のクラック耐性を指し、結晶転化前の非晶質透明導電層に対しては、その特性を何ら限定するものではない。
【0045】
(3)透明導電性フィルムの製造方法
本実施形態の透明導電性フィルムの製造方法は、特に制限されるものではないが、RF重畳DCマグネトロンスパッタリング法により高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する工程と、非晶質透明導電層を熱処理して結晶化する工程とを有することが好ましい。
【0046】
まず、スパッタ装置内に、インジウムスズ複合酸化物のターゲットおよび高分子フィルム基材を装着し、アルゴン等の不活性ガスを導入する。ターゲット中の酸化スズの量は、酸化インジウムと酸化スズとを加えた重さに対して、0.5重量%〜15重量%であることが好ましい。さらに、ターゲット中には酸化スズと酸化インジウム以外の元素が含まれていてもよい。他の元素とは、例えばFe、Pb、Ni、Cu、Ti、Znである。
【0047】
次に、RF電力およびDC電力を同時にターゲットに印加しスパッタリングを行い、高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、ターゲット表面の水平磁場は、50mT以上が好ましい。また、RF電力の周波数が13.56MHzである場合、RF電力/DC電力の電力比は、0.4〜1.0であることが好ましい。また、層形成時の高分子フィルム基材の温度は、110℃〜180℃であることが好ましい。
【0048】
スパッタリング装置に設置する電源の種類に限定はなく、DC電源であってもMF電源であってもRF電源であってもよく、これらの電源を組み合わせてもよい。放電電圧(絶対値)は20V〜350Vが好ましく、40V〜300Vが好ましく、40V〜200Vがさらに好ましい。これらの範囲にすることで、透明導電層の堆積速度を確保しつつ、透明導電層内に取り込まれる不純物量を小さくすることができる。
【0049】
続いて、非晶質透明導電層が形成された高分子フィルム基材を、スパッタ装置内から取り出して、熱処理を行う。この熱処理は、非晶質透明導電層を結晶転化するために行うものである。熱処理は、例えば、赤外線ヒーター、オーブン等を用いることにより行うことができる。
【0050】
熱処理の加熱時間は、通常、10分〜5時間の範囲で適宜設定できるが、産業用途での生産性を考慮する場合、実質的に10分〜150分であることが好ましく、10分〜120分がより好ましい。さらに、10分〜90分が好ましく、10分〜60分がより好ましく、特に10分〜30分が好ましい。該範囲に設定することで生産性を確保しつつ結晶転化を確実に完了させることができる。
【0051】
熱処理の加熱温度は、結晶転化が達成できるように適宜設定すればよいが、一般に110℃〜180℃としてよい。また、本分野で汎用の高分子フィルム基材を用いる観点からは、110℃〜150℃が好ましく、110℃〜140℃がさらに好ましい。高分子フィルム基材の種類によっては、あまりに高い加熱温度を採用すると、得られる透明導電性フィルムに不具合を生じるおそれがある。具体的には、PETフィルムであれば、加熱によるオリゴマーの析出、ポリカーボネートフィルムやポリシクロオレフィンフィルムであれば、ガラス転移点を超えることによるフィルム組成変形の不具合が挙げられる。
【0052】
非晶質透明導電層は、熱処理によって結晶化する。得られた結晶質透明導電層の面内における結晶化前に対する最大寸法変化率は−1.0〜0%であることが好ましく、−0.8〜0%であることがより好ましく、−0.5〜0%であることがさらに好ましい。ここで、最大寸法変化率は、透明導電層の熱処理前の2点間距離L、および前記2点間距離に対応する熱処理後の2点間距離Lを用いて表される寸法変化率の式:100×(L−L)/Lから算出される任意方向の寸法変化率のうち、最も値が大きくなる特定方向の寸法変化率の値として定義される。言い換えると、最大寸法変化率は、透明導電層面内の最大寸法変化方向における寸法変化率ということもできる。通常、長尺状の透明導電性フィルムにおいては、上記最大寸法変化方向は搬送方向(MD方向)である。最大寸法変化率が上記範囲であると、寸法変化に起因する応力が少ないため、クラック耐性を向上させやすい。
【0053】
なお、上記のように熱処理を別途行うことなく、非晶質透明導電層を結晶化してもよい。その場合、層形成時の高分子フィルム基材の温度は150℃以上とすることが好ましい。さらに、RF電力の周波数が13.56MHzである場合、RF電力/DC電力の電力比は、0.4〜1とすることが好ましい。
【0054】
また、高分子フィルム基材上に非晶質透明導電層を形成する前に、高分子フィルム基材をあらかじめ加熱する処理(プレアニール処理)を行うのが好ましい。このようなプレアニール処理を行うことで、高分子フィルム基材中の応力が緩和され、結晶転化処理等での加熱による高分子フィルム基材の収縮が起こりにくくなる。プレアニール処理により、高分子フィルム基材の熱収縮に伴う残留応力増大を好適に抑制できる。
【0055】
このプレアニール処理は、実際の結晶転化処理工程に近い環境下にて行うことが好ましい。すなわち、高分子フィルム基材をロールtoロール搬送させながら行うことが好ましい。加熱温度は、140℃〜200℃が好ましい。また、加熱時間は、2分〜5分が好ましい。
【0056】
本実施形態によれば、透明導電性フィルム1は、高分子フィルム基材2と、高分子フィルム基材2の主面2a上に形成された透明導電層3とを有している。透明導電層3は、インジウムスズ複合酸化物からなる結晶質透明導電層であり、残留応力が600MPa以下、比抵抗が1.1×10−4Ω・cm〜3.0×10−4Ω・cm、厚さが15nm〜40nmである。透明導電層の残留応力が600MPa以下であるため柔軟性に優れており、透明導電性フィルムを製造する際、搬送工程やタッチパネル等の組立工程において、透明導電層の表面にクラックが発生するのを防止することができる。また、ロールtoロール法で透明導電性フィルムを製造する場合には、透明導電性フィルムがロール状に巻回されるため、透明導電層の表面に曲げ負荷が与えられるが、本実施形態の透明導電性フィルムは耐屈曲性に優れ、曲げ負荷に対しても保持することができる。さらに、本実施形態の透明導電性フィルムはタッチパネル等へ利用可能であり、特に、透明導電層の比抵抗が非常に低く、かつ、厚さが非常に薄いため、タッチパネル等の大画面化および薄型化に対応することができる。
【0057】
また、本実施形態によれば、透明導電性フィルム1は、インジウムスズ複合酸化物のターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により、当該ターゲット表面での水平磁場が50mT以上で、高分子フィルム基材2上に非晶質透明導電層を形成した後、非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化することにより製造される。水平磁場を50mT以上と高くすることによって、放電電圧が下がる。これにより、非晶質透明導電層へのダメージが低減し、残留応力を600MPa以下にすることができる。さらに、高分子フィルム基材2上に非晶質透明導電層を形成する前に、高分子フィルム基材2をあらかじめ張力調整しながら加熱しておくことにより、非晶質透明導電層を熱処理により結晶転化する際の寸法変化率を小さくすることができる。
【0058】
以上、本実施形態に係る透明導電性フィルムについて述べたが、本発明は記述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0059】
例えば、上記実施形態の透明導電性フィルムでは、高分子フィルム基材上に透明導電層が形成されているが、高分子フィルム基材と透明導電層との間に誘電体層が設けられていてもよい。誘電体層は、NaF(1.3)、NaAlF(1.35)、LiF(1.36)、MgF(1.38)、CaF(1.4)、BaF(1.3)、BaF(1.3)、SiO(1.46)、LaF(1.55)、CeF(1.63)、Al(1.63)などの無機物〔括弧内の数値は屈折率を示す〕からなる誘電体層や、屈折率が1.4〜1.6程度のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などの有機物からなる誘電体層、あるいは上記無機物と上記有機物の混合物からなる誘電体層が挙げられる。誘電体層の厚みは、好適な範囲で適宜設定できるが、15nm〜1500nmが好ましく、20nm〜1000nmがより好ましく、20nm〜800nmが最も好ましい。上記範囲に設定することで表面粗さを十分抑制することができる。
【0060】
有機物からなる誘電体層もしくは無機物と有機物の混合物からなる誘電体層は、ウェットコーティング(例えば、グラビア塗工法)により高分子フィルム基材2上に形成することが好ましい。ウェットコートすることにより、高分子フィルム基材2の表面粗さを小さくすることができ、比抵抗の低減に寄与することができる。有機系誘電体層の厚みは、好適な範囲で適宜設定できるが、15nm〜1500nmが好ましく、20nm〜1000nmがより好ましく、20nm〜800nmが最も好ましい。上記範囲に設定することで表面粗さを十分抑制することができる。また、屈折率が0.01以上異なる2種以上の有機物もしくは無機物と有機物の混合物を複数積層した誘電体層であっても良い。
【0061】
有機物からなる誘電体層もしくは無機物と有機物の混合物からなる誘電体層を、ウェットコーティングにより高分子フィルム基材上に形成する方法としては、例えば、有機物若しくは無機物と有機物の混合物を溶媒で希釈した希釈組成物を高分子フィルム基材上に塗布した後、加熱処理を行うことにより行われる。この加熱処理は、上記プレアニール処理とみなすこともできる。すなわち、上記誘電体層の形成に伴う加熱処理を、上記プレアニール処理として採用してもよい。当然、透明導電性フィルムの製造において、上記誘電体層の形成に伴う加熱処理とは別にプレアニール処理を実施してもよい。
【0062】
無機物からなる無機系誘電体層は、真空成膜法(例えば、スパッタリング法や真空蒸着法)により高分子フィルム基材2上に形成することが好ましい。真空成膜法で、密度の高い無機系誘電体層を形成することで、スパッタリングで透明導電層3を形成する際、高分子フィルム基材から放出される水や有機ガス等の不純物ガスを抑制することができる。その結果、透明導電層内に取り込まれる不純物ガス量を低減することができ、比抵抗の抑制に寄与することができる。無機系誘電体層の厚みは、2.5nm〜100nmが好ましく、3nm〜50nmがより好ましく、4nm〜30nmが最も好ましい。上記範囲に設定することで不純物ガスの放出を十分に抑制することができる。また、屈折率が0.01以上異なる2種以上の無機物を複数積層した無機系誘電体層であっても良い。
【0063】
また、誘電体層は有機系誘電体層と無機系誘電体層とを組み合わせたものであっても良い。有機系誘電体層と無機系誘電体層を組み合わせることで、表面が平滑、かつ、スパッタリング時の不純物ガス抑制が可能な基材となり、透明導電層の比抵抗を効果的に低減することが可能となる。なお、有機系誘電体層及び無機系誘電体層のそれぞれの厚みは、上記範囲で、適宜設定できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を説明する。
[実施例1]
(高分子フィルム基材)
高分子フィルム基材として、三菱樹脂(株)製のO300E(厚み125μm)のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた。
【0065】
(有機系誘電体層の形成)
メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物を、固形分で2:2:1の重量比で含む熱硬化型樹脂組成物を、固形分濃度が8重量%となるようにメチルエチルケトンで希釈した。得られた希釈組成物を、上記PETフィルムをロールtoロール搬送させながらフィルムの一方主面に塗布し、150℃で2分間加熱硬化させ、膜厚35nmの有機系誘電体層を形成した。
(脱ガス処理)
得られた有機系誘電体層付きPETフィルムを真空スパッタ装置へ装着し、加熱した成膜ロールにフィルムを密着・走行させながら巻き取った。フィルムを走行させながら、クライオコイルとターボ分子ポンプとを備えた排気系により、真空度が1×10−4Paの雰囲気を得た。
(ITOターゲットのスパッタ成膜)
真空を維持したまま、上記有機系誘電体層付きPETフィルム上に、無機系誘電体層としてDCスパッタリングにてSiO層を5nm形成した。この無機系誘電体層上にインジウムスズ酸化物(以下、ITO)の酸化スズ濃度10重量%のターゲット材を用い、Ar及びO(O流量比0.1%)を導入した減圧下(0.4Pa)にて水平磁場を100mTとするRF重畳DCマグネトロンスパッタリング法(RF周波数13.56MHz、放電電圧150V、DC電力に対するRF電力の比(RF電力/DC電力)0.8、基板温度130℃)により、厚み20nmのITOの非晶質膜(第一のITO層)を形成した。この第一のITO層上に、ITOの酸化スズ濃度3重量%のターゲット材を用い、Ar及びO(O流量比0.1%)を導入した減圧下(0.40Pa)にて水平磁場を100mTとするRF重畳DCマグネトロンスパッタリング法(RF周波数13.56MHz、放電電圧150V、DC電力に対するRF電力の比(RF電力/DC電力)0.8、基板温度130℃)により、厚み5nmのITOの非晶質膜(第二のITO層)を形成した。
(結晶転化処理)
続いて、ITOの非晶質層が形成された高分子フィルム基材を、スパッタ装置内から取り出して、150℃のオーブン内で120分熱処理した。高分子フィルム基材上に厚み25nmの透明導電層(ITOの結晶質層)が形成された透明導電性フィルムを得た。
[実施例2]
ITOの酸化スズ濃度10重量%のターゲット材を用い、厚み25nmの単層の透明導電層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[実施例3]
高分子フィルム基材上に有機系誘電体層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[実施例4]
高分子フィルム基材上に無機系誘電体層を形成せず、スパッタリング電源をDC電源として放電電圧を235Vとしたこと以外は、実施例1と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[実施例5]
高分子フィルム基材上に無機系誘電体層を形成しなかったこと以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[実施例6]
高分子フィルム基材上に有機系誘電体層および無機系誘電体層を形成しなかったことと透明導電層の厚みを30nmとした以外は、実施例2と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[実施例7]
透明導電層の厚みを35nmとした以外は、実施例6と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[実施例8]
有機系誘電体層を形成する際に張力調整しながら加熱したこと以外、実施例5と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[比較例1]
水平磁場を30mTとし、スパッタリング電源をDC電源として放電電圧を450Vとし、高分子フィルム基材上に有機系誘電体層を形成せずに厚み25nmの単層の透明導電層を形成したこと以外は、実施例4と同様にして透明導電性フィルムを得た。
[比較例2]
高分子フィルム基材上に有機系誘電体層を形成したこと以外は、比較例1と同様にして透明導電性フィルムを得た。
【0066】
次に、これら実施例1〜8および比較例1〜2の透明導電性フィルムを、以下の方法にて測定・評価した。
【0067】
(1)結晶転化の評価
高分子フィルム基材上に非晶質のITO層が形成された透明積層体を、150℃の熱風オーブンで加熱して結晶転化処理を行い、濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定した。本実施例においては、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超えない場合、非晶質のITO層の結晶転化が完了したものとした。また、加熱時間60分ごとに上記測定を実施し、結晶転化完了が確認できた時間を結晶転化時間として評価した。
(2)残留応力
残留応力は、X線散乱法により、透明導電層の結晶格子歪みから間接的に求めた。(株)リガク社製粉末X線回折装置により、測定散乱角2θ=59〜62°の範囲で0.04°おきに回折強度を測定した。各測定角度における積算時間(露光時間)は100秒とした。得られた回折像のピーク(ITOの(622)面のピーク)角2θ、およびX線源の波長λから、透明導電層の結晶格子間隔dを算出し、dを基に格子歪みεを算出した。算出にあたっては下記式(1)、(2)を用いた。
【数1】
ここで、λはX線源(Cu Kα線)の波長(=0.15418nm)であり、dは無応力状態のITO層の結晶格子間隔(=0.15241nm)である。なお、dはICDD(The International Centre for Diffraction Data)データベースから取得した値である。
上記のX線回折測定を、フィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψが45°、50°、55°、60°、65°、70°、77°、90°のそれぞれについて行い、それぞれのΨにおける格子歪みεを算出した。なお、フィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψは、TD方向を回転軸中心として試料を回転することによって調整した。ITO層面内方向の残留応力σは、sinΨと格子歪みεとの関係をプロットした直線の傾きから下記式(3)により求めた。
【数2】
上記式において、EはITOのヤング率(116GPa)、νはポアソン比(0.35)である。これらの値は、D.G. Neerinck and T.J. Vimk, “Depth profiling of thin ITO films by grazing incidence X-ray diffraction” , Thin Solid Films, 278 (1996), P12-17に記載されている既知の実測値である。
(3)最大寸法変化率
高分子フィルム基材上に形成されている非晶質のITO層表面に、層形成時の搬送方向(以下、MD方向)に約80mmの間隔で2点の標点(傷)を形成し、結晶化前の標点間距離Lおよび、加熱後の標点間距離Lを、2次元測長機により測定した。100×(L−L)/Lより、最大寸法変化率(%)を求めた。
(4)厚さ
透明導電層の膜厚は、X線反射率法を測定原理とし、以下の測定条件にて粉末X線回折装置(リガク社製、「RINT−2000」)にてX線反射率を測定し、取得した測定データを解析ソフト(リガク社製、「GXRR3」)で解析することで算出した。解析条件は以下の条件とし、高分子フィルム基材と密度7.1g/cmのITO薄膜の2層モデルを採用し、ITO膜の膜厚と表面粗さを変数として、最小自乗フィッティングを行い、透明導電層の厚さを解析した。
[測定条件]
光源: Cu−Kα線(波長:1,5418Å)、40kV、40mA
光学系: 平行ビーム光学系
発散スリット: 0.05mm
受光スリット: 0.05mm
単色化・平行化: 多層ゲーベルミラー使用
測定モード:θ/2θスキャンモード
測定範囲(2θ):0.3〜2.0°
[解析条件]
解析手法: 最小自乗フィッティング
解析範囲(2θ): 2θ=0.3〜2.0°
(5)比抵抗
透明導電層の表面抵抗(Ω/□)は、JIS K7194(1994年)に準じて四端子法により測定した。上記(4)に記載の方法にて求めた透明導電層の厚みと前記表面抵抗から比抵抗を算出した。
(6)抵抗変化率
透明導電性フィルムにおいて、MD方向を長辺とする10mm×150mmの長方形に切り出し、両短辺上に銀ペーストを幅5mmでスクリーン印刷し、140℃で30分加熱し、銀電極を形成した。この試験片の抵抗(初期抵抗R)を2端子法により求めた。
試験片を、穴あけ径9.5mmφのコルクボーラーに沿って湾曲させ、500gの荷重で10秒間保持した。その後、抵抗RTを測定し、初期抵抗に対する変化率(抵抗変化率)RT/Rを求めた。この値が5以上になった場合、屈曲性が低いと判定し、5未満になった場合は屈曲性が良いと判定した。本試験をITO層形成面を外側にした場合と内側にした場合の両方実施し、屈曲性が悪い方を採用した。
【0068】
上記(1)〜(6)の方法にて測定した結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、実施例1〜8の透明導電性フィルムでは、ITO層の残留応力が600MPa以下と低く、かつ、比抵抗が2.2×10−4Ω・cm以下と低く、かつ厚さが25nm〜35nmと薄いとともに、抵抗変化率が5未満であることから耐屈曲性に優れていることが分かった。これにより、製造時にITO層の表面にクラックが発生するのを防止することができる。
【0071】
一方、比較例1〜2の導電性フィルムでは、ITO層の残留応力が620MPa以上と高く、かつ、比抵抗が3.1×10−4Ω・cm以上と高いとともに、抵抗変化率が5.5以上であることから耐屈曲性に劣ることが分かった。
【0072】
したがって、本発明の透明導電性フィルムでは、透明導電層の残留応力が600MPa以下であり、耐屈曲性に優れているため、クラックの発生を防止することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明に係る透明導電性フィルムの用途は、特に制限されないが、好ましくはスマートフォンやタブレット端末(Slate PCともいう)等の携帯端末に使用される静電容量式タッチパネルセンサである。
【符号の説明】
【0074】
1 透明導電性フィルム
2 高分子フィルム基材
2a 主面
3 透明導電層
図1