【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし
、従来
技術
は、すり板とトロリ線との摺接摩擦を面接触と捉え、すり板の摩耗量を低減させる考えからすり板の材料に改良を加えたに過ぎない。このため、すり板の摩耗量を相対的に低減させたに過ぎない。本発明は、すり板とトロリ線との摺接摩擦の実態を見直し、この結果から摩耗しにくいすり板材料を明らかにし、新たな材料からなるすり板の
製造方法を具体化する。さらに、摺接摩擦に伴う放電現象についても実態を見直し、放電しにくく、電気ノイズが発生しにくいすり板材料を明らかにする。
摩擦現象を利用した工業製品は、摩擦する一方の部品の磨耗が相手部品の磨耗より進行することを前提として、工業製品の動作寿命が予測でき、これによって工業製品の保障期間が決められる。すり板とトロリ線との摺接摩擦においては、すり板の磨耗がトロリ線の磨耗より進行することを前提にして、すり板を構成する材料とトロリ線を構成する材料とが決められる。つまり、すり板はトロリ線に比べて保守にかかる費用が安価で済むため、微量の銀を含む硬質銅線からなるトロリ線より摩耗が相対的に進行する材料によってすり板が構成される。このような考えから、すり板の材料は1990年頃から銅合金の焼結体から炭素系材料の成形体に移行している。つまり、銅合金から
なる焼結体は、硬質銅線からなるトロリ線に近い材質であるためトロリ線を攻撃し、トロリ線の摩耗が進行する。
ここで、すり板とトロリ線との摺接摩擦の実態を説明する。固体の表面を、凹凸が全くない完全にフラットな面に加工することは現実的にはできない。このため、摺接面をミクロに観察すれば、ひとつの凹部はより微細な数多くの凹凸によって形成され、またひとつの凸部もより微細な数多くの凹凸によって形成される。こうした表面で形成される摺接面は、複数の接触点からなる点接触を形成して摺接する。なお、ここで言う点接触における点とは、面積の測定ができないほど極微小である部位を言う。機械加工による摺接面の表面粗さがマクロ的にはミクロンオーダーであることを考慮すれば、摺接面にはナノからミクロンに及ぶ間隙が形成される。そしてすり板がトロリ線と摺接摩擦を行ないながら移動することで、摺接面における接触点と間隙の大きさとは常に変わる。このような摺接状態において、トロリ線とすり板との間に電圧が印加されて、電流がすり板に流れる。
トロリ線とすり板の間に電圧が印加されると、摺接面の間隙にも電圧が印加される。摺接面の間隙における隣り合う2つの等電位線は、間隙が狭いほど隣り合う2つの等電位線が形成する電位差は小さくなる。これによって
電位差の勾配は増大する。さらに、間隙を形成する空気は、1気圧における比抵抗が1×10
20Ωmという大きな数値をもつ。このため、間隙で形成される電位差勾配は、間隙が狭くなるほど直線に近づく。従って、接触点に近い微小な間隙ほど、電位差勾配に相当する電界は増大し、この大きな電界が接触点の近くにあるすり板の表層に印加される。いっぽう、炭素系材料の比抵抗は空気の比抵抗に比べて著しく小さい。このため、すり板を構成する炭素系材料における隣り合う2つの等電位線が形成する電位差は、間隙における隣り合う2つの等電位線が形成する電位差に比べて著しく大きくなる。この結果、炭素系材料に形成される電界の大きさは、間隙で形成される電界の大きさに比べると著しく小さい。こうして、摺接面の微小な間隙で形成された大きな電界が、トロリ線と接触する直前にすり板を構成する炭素系材料に印加される。このため、すり板を構成する炭素系材料に大きな電界が断続的に印加される。なお、炭素系材料からなる基体に金属ないしは合金を含浸した場合は、金属ないし合金は自由電子を持ち、この自由電子によって金属ないしは合金の表面は等電位面となるため、金属ないし合金に電界は作用しない。
微小な間隙で形成された電界Eがすり板に印加されると、炭素系材料からなる基体に含浸された金属ないしは合金の自由電子は、クーロン力F
で電界方向に移動する。
このクーロン力FはF=−e×Eで与えられる。ここで、Fはクーロン力のベクトルで、Eは電界ベクトル、eは電子の素電荷量(e=1.6×10
−19クーロン)ある。これに対し、自由電子を持たない炭素系材料は、炭素系材料を構成する電子に
、電界によるクーロン力が作用する。いっぽう、炭素系材料における潤滑作用は、黒鉛結晶の層間結合の破壊に基づく自己潤滑性であるため、炭素系材料における黒鉛結晶が占める割合が高いほど優れた潤滑性を示す。こうした炭素系材料を構成する黒鉛結晶に電界が印加すると、黒鉛結晶の層間結合を担うπ電子が電界によるクーロン力によって励起される。
クーロン力が、黒鉛結晶の層間結合力に相当するπ軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に作用すると、π電子はπ軌道における拘束から解放されて自由電子になる。この結果、黒鉛結晶の層間結合を担うπ電子がπ軌道から遊離したため、黒鉛結晶における層間結合が破壊される。こうした摺接面における微小な間隙で大きな電界が発生し、この電界が黒鉛結晶に印加されること
で黒鉛結晶の層間結合が破壊される現象が、炭素系材料における摩耗の実態である。
以上に説明したように、摺接面の間隙が狭くなるほど、つまり、接触点に近づくほど大きな電界が発生し、
大きな電界によって
黒鉛結晶の層間結合が破壊される。つまり、すり板がトロリ線と接触する直前に、摺接面が形成する間隙が極めて微小になり、これによって大きな電界が発生し、この大きな電界がすり板の表層に印加することによって黒鉛結晶が破壊される。黒鉛結晶が破壊される領域は、電界によるクーロン力が黒鉛結晶の層間結合力に相当するπ軌道の相互作用より大きな力となってπ電子に作用する領域になる。その直後、すり板がトロリ線と接触し、黒鉛結晶が剪断応力を受け
、既に層間結合が破壊された黒鉛結晶の領域が黒鉛結晶から脱落する。こうした黒鉛結晶の破壊摩耗が、断続的に摺接面で起こる。この黒鉛結晶における破壊摩耗は、電界という電気的負荷による摩耗であって、接触によって発生する剪断力による摩耗ではない。従来、すり板がトロリ線と面接触で接触すると考えられてきたため、摺接面の摩耗は、剪断力による破壊摩耗として考えてきた。このため、すり板の摩耗量を著しく減らすことは困難であった。
次に、すり板における放電現象の実態について説明する。前記したように、黒鉛結晶が破壊されることで、黒鉛結晶の層間結合の担い手であったπ電子は、π起動から遊離して自由電子となる。自由電子となったπ電子は、電界方向に速度vで移動する。自由電子の移動速度vは、電子が電位差Vによって得られるエネルギーeVと電子の運動エネルギー1/2mv
2とが等しいため、すり板に1.5kVの電位差が印加される場合は、電子の移動速度は2.3×10
7m/sになる。この速度は、光速の1/13に相当する。なお、eは電子の素電荷量、mは電子の質量(9.1×10
−31kgに相当する)である。こうして、黒鉛結晶の層間結合が破壊された領域に存在した莫大な数のπ電子が、微小な間隙で形成される最も大きな電界方向に集まって、速度vを持って一斉に間隙に移動する。間隙に移動する際
に、電子の集まりは空気分子を瞬間的に励起させ、運動エネルギーの全てを失う。この際、空気分子が激しく擦りあうため、空気分子の発熱によって発光現象を生み、空気分子の摩擦によって電気ノイズが発生する。この発光現象が摺接面で観察される火花放電である。空気分子は瞬間的に発熱し、また瞬時に冷却するため、放電現象は瞬時の現象として観察される。この火花放電が、摺接面で断続的に起こる。火花放電は、自由電子となったπ電子の集まりが間隙に移動する際に起こる現象であるため、間隙の空気分子が励起されることによって、トロリ線の表面に打痕を形成させることがあったとしても、すり板を攻撃することはない。
トロリ線とすり板との摺接摩擦で発生する放電現象を、
アーク放電と記載している例が多く見られるが、これは明らかに誤りである。すり板が低電位の負極を構成し、負極を構成する炭素系材料は、トロリ線を構成する銅に比べると沸点は著しく高い。このため、すり板の放電現象をアーク放電とした場合は、
アーク放電は負極の加熱によって起こる熱電子が放出される熱陰極アークに該当する。いっぽう、炭素系材料、例えば天然黒鉛粒子は大気雰囲気では600℃付近から酸化が始まる。このため、黒鉛から熱電子が放出する以前に黒鉛は酸化し、熱電子は放出されない。
いっぽう、火花放電が継続すると、グロー放電ないしはアーク放電が起こり得るが、トロリ線とすり板との摺接摩擦で発生する放電現象は、雷のように瞬時的な放電現象であって、継続して放電現象は起こらない。このように、トロリ線とすり板との摺接摩擦で発生する放電現象は、火花放電であって、アーク放電ではない。
【0006】
次に、炭素系材料における潤滑性と導電性を説明する。なぜならば、すり板は潤滑性と導電性とが同時に必要になるからである。炭素系材料における潤滑作用は、黒鉛結晶の層間結合が破壊することでもたらされる自己潤滑性である。例えば、安価な単結晶炭素材料である天然黒鉛粒子においては、黒鉛結晶の基底面の層間結合が破壊することで自己潤滑作用がもたらされる。また、炭素繊維においては、黒鉛結晶が繊維軸方向に配向した構造を有するため、黒鉛粒子と同様に、黒鉛結晶の基底面の層間結合が破壊することで自己潤滑作用がもたらされる。いっぽう、カーボンブラックにおいては、黒鉛の結晶化が進行した炭素原子が球状粒子を構成し、
球状粒子が3次元的に鎖状に繋がってストラクチャーを形成する。このため、球状粒子を構成する黒鉛結晶の基底面の層間結合が破壊することでストラクチャーが破壊し、自己潤滑作用がもたらされる。炭素系材料の潤滑作用は、いずれも、非特許文献2において、ブルネルが提唱した4つの摩耗機構における破壊摩耗に相当し、黒鉛結晶の層間結合が破壊されることによって自己潤滑作用がもたらされる。
いっぽう、炭素系材料は導電性を持つが、自由電子を有する金属ないしは合金に比較すれば比抵抗は大きい。例えば、炭素原子のみからなる安価な単結晶材料であり、黒鉛の結晶化が完全に進行し黒鉛結晶のみからなる天然黒鉛では、基底面に平行な方向の比抵抗は3.8×10
−7Ωmであり、基底面に垂直な方向の比抵抗は7.6×10
−3Ωmである。なお、銅の比抵抗は1.68×10
−8Ωmである。また、炭素原子のみからなる物質で、全てが結晶構造を取らず、一部が結晶構造を取る物質がある。正確に言えば、全ての炭素原子の位置が規定できない物質と言える。このような物質は、黒鉛の結晶化の進行度に応じて比抵抗が低下し、自己潤滑作用は増大する。こうした物質として人造黒鉛、カーボンブラックおよび炭素繊維がある。人造黒鉛には、熱分解黒鉛とキッシュ黒鉛とがある。熱分解黒鉛は、炭化水素雰囲気中で基材を2000℃以上の温度で加熱して炭化水素の分解重合反応を起こさせ、これによって基材表面に炭素が沈積することによって得られる。キッシュ黒鉛は、融体の鉄をゆっくりと冷却して析出させることで得られる。人造黒鉛は天然黒鉛に比べると黒鉛の結晶化度は相対的に低く、結晶化度を高めるためには還元雰囲気での熱処理温度を3000℃まで上げなければならない。このため、人造黒鉛は高価な工業材料であり、黒鉛の結晶化を進めることで更に高価な工業材料になる。カーボンブラックの中でも導電性が相対的に高いアセチレンブラックの比抵抗は2.1×10
−3Ωmである。カーボンブラックの比抵抗が黒鉛粒子の比抵抗より大きい理由は、製法上の制約からくるもので、全ての球状粒子を完全に黒鉛結晶となった炭素から構成することが困難であること、また、水素分子を完全に排除することが困難であることによる。従って、カーボンブラックの比抵抗は、黒鉛結晶の進行度に依存し、黒鉛の結晶度が進行したものほど比抵抗が低く、また、優れた自己潤滑作用を発揮する。炭素繊維については、炭素繊維の中でも相対的に導電性が高いピッチ系炭素繊維の比抵抗は2−5×10
−6Ωmである。炭素繊維の比抵抗が黒鉛粒子の比抵抗より大きい理由は、製法上の制約から、炭素原子の全てを黒鉛結晶とし、黒鉛結晶を繊維軸方向に全て配向させることが困難であることによる。このため、黒鉛の結晶化の進行度に応じて比抵抗が低下し、比抵抗が小さい炭素繊維ほど優れた自己潤滑作用を発揮する。なお、有機物の固相炭化によって生成される結晶構造を全く取らない無定形構造(アモルファス構造とも言う)からなるガラス状炭素の比抵抗は3.5−5.0×10
−5Ωmである。このガラス状炭素は、炭素原子の集合体がリボン状に絡み合った、ないしは、海綿状に結合した構造を形成し、この構造
でガラス状炭素は破壊されにくい性質をもつ。例えば、曲げ強度が1000−1500kg/cm
2と大きく、ショア硬度が100近い硬い物質であるため、固体潤滑材としては適さない。さらに、微細孔構造を有する活性炭は、黒鉛の結晶化が進行しないことによって、黒鉛結晶の間に隙間ができ、この隙間がマイクロ孔を形成し、このマイクロ孔が様々な物質を吸着する。従って、黒鉛の結晶化が進行していない活性炭も、固体潤滑材としては適さない。
以上に説明したように、潤滑性と導電性とを兼備する炭素系材料として
、天然黒鉛、カーボンブラックおよび炭素繊維が適切である。しかし
、これらの炭素系材料はいずれも、黒鉛結晶の進行度が進むほど潤滑性と導電性とに優れるが、前記した摺接面の微小な間隙で大きな電界が発生し、この電界が印加することで黒鉛結晶の層間結合が破壊されやすくなり、摩耗が進む。また、火花放電に伴う電気ノイズが発生しやすくなる。
従って、本発明における課題は、黒鉛結晶を成分として有する炭素系材料に電界という電気的負荷が印加されても、黒鉛結晶の層間結合が破壊されない炭素系材料を実現することにある。これによって、潤滑性と導電性とを兼備する炭素系材料は、摩耗しにくくなると共に火花放電と電気ノイズとが発生しにくくなる。
【0007】
【非特許文献2】J.D.Bernal: Proc.Roy.Soc.A106,P749−773,1924
【発明の効果】
【0010】
この特徴手段によれば、
有機銅化合物を溶媒に分散させ、この分散液に炭素系材料の集まりを混合し、ないしは、炭素系材料に分散液を含浸させ、この後、溶媒を気化させると全ての炭素系材料の表面に有機銅化合物が吸着する。この有機銅化合物が吸着した炭素系材料の集まりを、有機銅化合物の熱分解が完了する温度まで昇温すると、銅微粒子の集まりが析出して全ての炭素系材料の表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりが結合する。このような簡単な手段によって、炭素系材料の表面を等電位面にする多層構造からなる銅微粒子の集まりが、全ての炭素系材料の表面に同時に結合する。この後、銅微粒子が結合した炭素系材料の集まりを圧縮成形するだけですり板が製造される。このように、1回の製造タクトで、炭素系材料を等電位面とする多層構造からなる銅微粒子の集まりが炭素系材料の表面に結合した炭素系材料を製造することができる。この炭素系材料の集まりを複数の金型に連続して充填して圧縮成形するだけで、多数のすり板が連続して製造できるので、従来のすり板より安価な製造費用ですり板が製造できる製造方法である。
つまり、炭素系材料の表面に物理的に銅微粒子を結合させることは困難である。このため、銅を析出する原料である有機銅化合物を、全ての炭素系材料の表面に吸着させ、次に有機銅化合物の熱分解反応に基づく化学反応を起こさせ、有機銅化合物の熱分解で銅が析出し、これによって、全ての炭素系材料の表面に銅微粒子の集まりが同時に結合し、1回の製造タクトで全ての炭素系材料の表面を等電位面とする銅微粒子の集まりが、炭素系材料の表面に結合する。
いっぽう、無機銅化合物は溶媒に分散しにくく、あるいは、溶媒に溶解する性質を持つため、銅を析出する原料としては望ましくない。つまり、無機銅化合物が溶媒に分散しなければ、炭素系材料の表面に無機銅化合物が吸着しない。また、無機銅化合物が溶媒に溶解する場合は、炭素系材料の表面に吸着する無機銅化合物が一部の無機銅化合物に限られるので、炭素系材料の表面に銅微粒子を結合させる原料としては望ましくない。
また、本特徴手段によれば、多層構造として銅微粒子の集まりが表面に結合した炭素系材料の集まりを圧縮成形してすり板を製造する際に、隣接する銅微粒子同士が互いに点接触で接触するため、接触点には過大な摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって、銅微粒子同士が全て接合し、この銅微粒子同士の接合によって炭素系材料が接合して成形体になる。さらに、1個の炭素系材料の表面に結合された多層構造からなる銅微粒子の集まりについても、隣接する銅微粒子の接触点に過大な摩擦熱が発生し、この摩擦熱によって、多層構造を形成する銅微粒子同士が全て接合する。こうした銅微粒子同士が接合することによって、成形体の強度が著しく増大する。これによって、成形体は必要となる曲げ強度を有し、すり板として用いることができる。また、すり板が振動するトロリ線と接触して最表層の銅微粒子の集まりが衝撃力を受けても、銅微粒子の集まりが接合しているため、衝撃力は接合した銅微粒子に分散され、成形体は破壊されない。この結果、圧縮成形体は必要となる衝撃強度を有し、すり板として用いることができる。
なお、すり板は、舟体ないしはすり板体と呼ばれる細長い長方形の台と一体化され、この舟体がパンタグラフの最上部に固定される。従って、すり板は、舟体の形状を反映した細長い直方体の形状を有する。また、すり板は舟体に組み付ける際に100MPa以上の曲げ強度が必要になる。さらに鉄道車両ないしはトロリ線の振動を受けるため、すり板は4kJ/m2以上の衝撃強度が必要になる。従って、炭素系材料の集まりの圧縮成形体からなるすり板は、100MPa以上の曲げ強度と4kJ/m2以上の衝撃強度とを有する必要がある。
いっぽう、炭素系材料の表面に電界が印加されても、炭素系材料の表面に結合された多層構造からなる銅微粒子の集まりが、炭素系材料の表面を等電位面とするため、電界は炭素系材料に作用しない。これによって、すり板とトロリ線との摺接面の微小な間隙で発生する大きな電界がすり板に印加されても、炭素系材料を構成する黒鉛結晶は破壊されない。この結果、炭素系材料はトロリ線と接触することによって、接触点を含む極微小の限定された領域のみが剪断力によって破壊され、すり板の摩耗量が著しく低減する。また、黒鉛結晶の破壊によって生じる火花放電と電気ノイズとが発生しない。このため、電車に搭載する電子機器に電気ノイズ対策が不要になる。
さらに、表面に結合した多層構造からなる銅微粒子の集まりによって、炭素系材料の電気抵抗は銅の電気抵抗に近づく。この結果、すり板に大電流が流れても、発生するジュール熱が著しく低減し、炭素系材料に熱的損傷をもたらす負荷が発生せず、経時的な劣化が起こらない。また、炭素系材料におけるエネルギー損失が著しく減る。
また、すり板がトロリ線と接触した際に、接触点に存在する銅微粒子が優先的に剥ぎ取られる。これによって、炭素系材料は銅微粒子が剥ぎ取られることで新たな自己潤滑作用を発揮する。さらに、トロリ線と銅微粒子との接触は点接触であるため、1度の接触で剥ぎ取られる銅微粒子の数はわずかな数である。炭素系材料の表面に結合した銅微粒子の集まりの大部分が剥ぎ取られるには、すり板はトロリ線と多くの回数で接触する必要がある。多くの回数の接触で、すり板を構成する炭素系材料の集まりの中で、すり板の最も表層に存在する炭素系材料の大半の銅微粒子が剥ぎ取られ、この炭素系材料における電界の印加による黒鉛結晶の破壊摩耗が徐々に進行し、この炭素系材料はいずれ脱落する。
そして、すり板の次の表層にある炭素系材料に同様の現象が繰り返される。従って、銅微粒子の集まりが表面に多層構造として結合した炭素系材料が多数個集まって圧縮成形体を構成するため、すり板は摩耗しにくく、電気ノイズを発生しにくい。
【0011】
(削除)
【0012】
(削除)
【0013】
(削除)
【0014】
(削除)
【0015】
(削除)
【0016】
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【0017】
(削除)
【0018】
(削除)
【0019】
すり板
の製造方法の第
2特徴手段は、前記した第
1特徴手段における
炭素系材料の表面に吸着させる有機銅化合物がオクチル酸銅であ
り、該オクチル酸銅を用いて炭素系材料の表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりを結合させて第1特徴手段におけるすり板を製造する製造法である点にある。
【0020】
つまり、前記した炭素系材料は、いずれも黒鉛結晶を構成物質として有することで、潤滑作用と導電性とを発揮する。従って、本特徴手段におけるオクチル酸銅は、炭素系材料の表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりを結合させる原料として、次の5つの性質を兼備することが必要になる。第一に、安価な原料を用いて、安価な費用で合成できる安価な工業用材料である。第二に、溶媒に分散する。この性質によって、溶媒に分散した有機銅化合物が炭素系材料の全ての表面と接触する。第三に、黒鉛結晶の表面と相互作用を持つ。この性質によって、溶媒に分散された有機銅化合物における溶媒を気化させると、有機銅化合物が炭素系材料の全ての表面に相互作用によって吸着する。第四に、炭素系材料の表面に吸着した有機銅化合物は、安価な処理方法で分解して銅が析出する。第五に、析出した銅が黒鉛結晶と反応して、黒鉛結晶の全ての表面に銅微粒子が結合する。これらの5つの性質を兼備する有機銅化合物を用いることで、安価な製造費用で、かつ、1回の製造タクトで、炭素系材料の表面に銅微粒子を結合させることができ、こ
の炭素系材料を圧縮成形することによって、
すり板を構成する全ての炭素系材料の表面を等電位面にすることができ
、安価な費用ですり板が製造できる。
これら5つの性質を兼備する物質として、新たにオクチル酸銅を合成した。第一に、オクチル酸銅は、安価なカルボン酸であるオクチル酸を用い、次の製造方法で容易に合成できる。最初に、組成式がC
17H
15COOHで表されるオクチル酸を、組成式がNaOHである水酸化ナトリウムの水溶液と反応させると、オクチル酸のカルボキシル基COOHを構成する水素が水素イオンとして電離し、組成式がC
17H
115COO−Na
で表されるオクチル酸ナトリウムが析出する。
析出したオクチル酸ナトリウムを水洗して、オクチル酸ナトリウムを精製する。次に、オクチル酸ナトリウムを組成式がCuSO
4である硫酸銅の水溶液と反応させると、組成式がC
17H
15COO−Cu−C
17H
15COOで表されるオクチル酸銅が析出する。析出したオクチル酸銅を水洗すると、オクチル酸銅が精製される。このようにオクチル酸銅は、汎用的な安価な薬品を用いて簡単に合成できる有機銅化合物であり、前記した第1の性質を持つ。
オクチル酸の組成式はC
17H
15COOHであり、構造式はCH
3(CH
2)
3CH(CH
2CH
3)COOHであり、飽和炭化水素C
17H
15にカルボキシル基COOHが結合した飽和脂肪酸である。飽和炭化水素C
17H
15は、CHにCH
3(CH
2)
3とCH
2CH
3とが結合した分岐鎖構造を有する。従って、オクチル酸は、分岐鎖構造の炭化水素がカルボキシル基に結合した飽和脂肪酸であるため極性を持つ。このため、オクチル酸銅もオクチル酸の極性によって極性を持つ。極性を持つオクチル酸銅は、極性を持つ溶媒であるアルコールに分散する。さらに、分岐鎖構造のオクチル酸と銅との化合物であるため、直鎖構造の飽和脂肪酸と銅との化合物に比べ、アルコールに分散できる濃度は相対的に高まり、メタノールに対し10重量%まで分散する。このようにオクチル酸銅は、前記した第2の性質を持つ。
いっぽう、黒鉛結晶を形成する炭素原子は4つの価電子を持つ。このうち1つの価電子はπ電子と呼ばれ、sp
2混成軌道に入る3つのσ電子とは孤立した2p
z軌道に入る。この2p
z軌道のエネルギー準位は、sp
2混成軌道のエネルギー準位に比べて高い。2p
z軌道に入るπ電子は、2p
z軌道が持つエネルギー準位に準じて2p
z軌道上を動く。このため、2p
z軌道に存在するπ電子は一時的な電荷の偏りをもたらし、これによって黒鉛結晶の表面は誘導双極子が形成される。いっぽう、有極性物質であるオクチル酸銅は電気双極子を持つ。従って、オクチル酸銅の電気双極子と黒鉛結晶の表面が持つ誘導双極子との間に、電気双極子−誘起双極子の相互作用が働き、これによって黒鉛結晶の表面にオクチル酸銅が物理吸着する。このようにオクチル酸銅は前記した第3の性質を持つ。
オクチル酸銅は、組成式がC
17H
15COO−Cu−COOC
17H
15で与えられるように、中央の銅イオンCu
2+が、カルボキシル基COOHを構成する酸素イオンO
−の2つと共有結合で結合する。銅イオンCu
2+の共有結合半径は112pmであり、カルボキシル基を構成する酸素イオンO
−の共有結合半径は63pmであり、炭素原子の共有結合半径は75pmであり、酸素原子の共有結合半径は57pmである。このため、オクチル酸銅を構成するイオンないしは原子の中で、銅イオンとカルボキシル基を構成する酸素イオンとの距離が最大の距離になる。
従って、オクチル酸銅を大気中で熱分解すると、最初に銅イオンと酸素イオンとの結合部が切れ、これによって銅が析出する。さらに、オクチル酸が飽和脂肪酸であり、かつ、分岐鎖構造からなるため飽和炭化水素の鎖の長さが短い。これによって、オクチル酸の沸点は228℃と有機酸の中で相対的に低い沸点を持つ。このため、オクチル酸銅はオクチル酸の沸点付近で熱分解が開始し、289℃で熱分解が終了し銅が析出する。このように、オクチル酸銅は、大気雰囲気で熱分解し、熱分解が終了する温度が289℃と低い。このため、安価な熱処理費用でオクチル酸銅が熱分解し銅が析出する。このようにオクチル酸銅は、前記した第4の性質を持つ。
なお、銅イオンが配位子を形成する物質との間で配位結合し、銅錯体ないしは銅錯塩を形成するカルボン酸銅は、熱分解によって銅を析出せず酸化銅を析出する。つまり、カルボキシル基の酸素イオンO
−が配位子を形成して銅イオンに近づいて配位結合し、銅錯体ないしは銅錯塩を形成する。このため、銅錯体ないしは銅錯塩における銅イオンと配位子である酸素イオンO
−との距離は短い。従って、熱分解において最初に結合が切れる部位は、配位子である酸素イオンが銅イオンと配位結合する部位ではなく、配位子である酸素イオンが炭素原子と結合する部位になる。これによって、銅イオンと配位子である酸素イオンとが配位結合する部位は、熱分解が完了しても残り酸化銅が残渣物として残る。このため、銅錯体ないしは銅錯塩は銅を析出する原料にならない。このような銅錯体ないしは銅錯塩を形成するカルボン酸銅として、酢酸銅、安息香酸銅、カプリル酸銅などがある。
オクチル酸銅
の熱分解
で析出した銅は、不純物を持たない活性状態にある。
つまり、オクチル酸銅は228℃のオクチル酸の沸点付近から熱分解が始まる。この際、オクチル酸銅は銅とオクチル酸とに分離する。銅は銅分子となって、液状物質であるオクチル酸に埋もれる。いっぽうオクチル酸は蒸気となって気化するが、気化するためには気化熱が必要になり、289℃まで昇温するとオクチル酸の気化が完了する。オクチル酸の気化が完了すると銅微粒子が析出する。このため、オクチル酸銅の熱分解で析出した銅微粒子は、不純物を持たない活性状態にある。なお、銅は、オクチル酸の沸点である228℃からオクチル酸の気化が完了する289℃までの間に、銅分子が集まって銅となり、更に銅が銅微粒子に成長し289℃の温度で銅微粒子として析出する。
いっぽう、黒鉛結晶は、結晶子に相当する基底面の比抵抗は銅の比抵抗の23倍に過ぎない。この理由は、黒鉛結晶の基底面が、伝導電子と正孔からなるキャリアを持つためである。つまり、基底面は、価電子バンドの一部の電子が伝導電子バンドに存在する確率を持ち、価電子バンドの底部に正孔が、伝導電子バンドの底部に伝導電子が存在する。このため、黒鉛結晶の表面に吸着したオクチル酸銅が熱分解し、黒鉛結晶の表面に銅微粒子が析出する際に、不純物を持たない活性状態にある銅微粒子は黒鉛結晶の表面と共有結合する。つまり、黒鉛結晶の表面に銅微粒子が析出する際に、銅が持つ自由電子の電子軌道が、基底面が持つ伝導電子の電子軌道と共有され、銅は基底面と共有結合して基底面の表面に銅微粒子として結合する。このようにオクチル酸銅は、前記した第5の性質を持つ。
【0021】
すり板
の製造方法の第
3特徴手段は、前記した第1特徴手段
における炭素系材料
が鱗状黒鉛からなる天然黒鉛粒子であ
り、該鱗状黒鉛からなる天然黒鉛粒子の表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりを結合させて第1特徴手段におけるすり板を製造する製造法である点にある。
【0022】
この特徴手段によれば、鱗状黒鉛は、黒鉛の結晶化が100%進んだ黒鉛結晶からなる単結晶材料であるため、黒鉛結晶の層間結合の破壊によってもたらされる自己潤滑性が
、炭素系材料の中で最も効率よく作用し、鱗状黒鉛の集まりからすり板を構成することで
、すり板の潤滑性が向上する。また、鱗状黒鉛は、豊富な地下資源として存在する天然黒鉛であるため、安価な炭素系材料である。従って、鱗状黒鉛を工業的に精製した天然黒鉛粒子は安価な工業材料である。この鱗状黒鉛からなる天然黒鉛粒子の集まりを用い、
オクチル酸銅によって天然黒鉛粒子の表面に銅微粒子
の集まりを結合して等電位面とし、この等電位面を有する天然黒鉛粒子
の集まりを圧縮成形することで、摩耗が起こりにくく、電気ノイズが発生しにくい安価なすり板が製造できる。
なお、天然黒鉛の中ではα黒鉛と呼ばれる六方晶系の結晶構造をもつ天然黒鉛が、豊富な資源として存在する。さらに、α黒鉛は非晶質の土壌黒鉛と結晶化が100%進んだ鱗状黒鉛とに分かれる。従って、炭素原子のみからなる炭素系材料の中で、鱗状黒鉛のみが黒鉛の結晶化が100%進んだ単結晶材料であり、炭素系材料の中で最も潤滑性が高く、かつ、比抵抗が小さい。
【0023】
すり板
の製造方法の第
4特徴手段は、前記した第1特徴手段
における炭素系材料
がアセチレンブラックからなるカーボンブラックであ
り、該アセチレンブラックからなるカーボンブラックの表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりを結合させて第1特徴手段におけるすり板を製造する製造方法である点にある。
【0024】
この特徴手段によれば、アセチレンブラックは、黒鉛の結晶化が相対的に進んだ球状微粒子からなるカーボンブラックであるため、黒鉛結晶の層間結合の破壊によってもたらされる自己潤滑性が
、カーボンブラックの中で最も効率よく作用し、アセチレンブラックの集まりからすり板を構成することですり板の潤滑性が向上する。さらに、比抵抗がカーボンブラックの中では、相対的に小さいため導電性に優れる。また、アセチレンガスを800℃の温度に昇温された分解炉に供給すると
、炭素と水素とに解離する反応が始まるが、この分解反応において多量の反応熱が発生するため、その後は熱の供給が少なくても発熱反応によって2000℃の反応温度が確保され、アセチレンガスの分解反応が進む。このため、アセチレンブラックは安価な工業製品である。このアセチレンブラックの集まりを用い、
オクチル酸銅によってアセチレンブラックの表面に銅微粒子
の集まりを結合して等電位面とし、この等電位面を有するアセチレンブラック
の集まりを圧縮成形することで、摩耗が起こりにくく、電気ノイズが発生しにくい安価なすり板が製造できる。
【0025】
すり板
の製造方法の第
5特徴手段は、前記した第1特徴手段
における炭素系材料
がメソフェーズピッチ系炭素繊維からなる炭素繊維であ
り、該メソフェーズピッチ系炭素繊維からなる炭素繊維の表面に多層構造からなる銅微粒子の集まりを結合させて前記した第1特徴手段におけるすり板を製造するすり板の製造方法である点にある。
【0026】
この特徴手段によれば、メソフェーズピッチ系炭素繊維は、多くの炭素原子が黒鉛結晶化され、この黒鉛結晶を繊維軸方向に配向させた炭素繊維であるため、黒鉛結晶の層間結合の破壊によってもたらされる自己潤滑性が炭素繊維の中では最も効率よく作用し、メソフェーズピッチ系炭素繊維の集まりからすり板を構成することで
、すり板の潤滑性が向上する。さらに、比抵抗が炭素繊維の中では相対的に小さいため
、導電性に優れる。また、メソフェーズピッチ系炭素繊維は、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素繊維に対し、コールタールピッチや石油ピッチなどのメソフェーズピッチを原料とするため、PAN系炭素繊維に比べて安価である。従って、このメソフェーズピッチ系炭素繊維の集まりを用い、
オクチル酸銅によってメソフェーズピッチ系炭素繊維の表面に銅微粒子
の集まりを結合して等電位面とし、この等電位面を有するメソフェーズピッチ系炭素繊維
の集まりを圧縮成形することで、摩耗が起こりにくく、電気ノイズが発生しにくい安価なすり板が製造できる。
【0027】
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【0028】
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【0029】
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【0030】
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