特許第6134470号(P6134470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6134470クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンによる安定した処方系
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134470
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンによる安定した処方系
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20170515BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C09K5/04
   F25B1/00 396Z
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-515297(P2010-515297)
(86)(22)【出願日】2009年3月6日
(65)【公表番号】特表2010-531926(P2010-531926A)
(43)【公表日】2010年9月30日
(86)【国際出願番号】US2009036267
(87)【国際公開番号】WO2009114397
(87)【国際公開日】20090917
【審査請求日】2009年12月28日
【審判番号】不服2014-4364(P2014-4364/J1)
【審判請求日】2014年3月5日
(31)【優先権主張番号】61/034,513
(32)【優先日】2008年3月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブレット・エル・ヴァン・ホーン
(72)【発明者】
【氏名】マハー・ワイ・エルシェイク
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・ビー・チェン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ボネット
【合議体】
【審判長】 冨士 良宏
【審判官】 橋本 栄和
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2007/0007488(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/121783(WO,A1)
【文献】 特表2012−512317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/04
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、銅からなる群から選択される金属、及び水の存在下での冷媒組成物の使用であって、
前記組成物は:
1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンと;
鉱油、アルキルベンゼン油、及びポリオールエステル油からなる群から選択される潤滑剤とを
含む組成物であり、
前記組成物は、140℃で48時間、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、銅およびこれらの混合物からなる群から選択される金属及び水に曝した後、99%超の前記1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを維持する該組成物である、該使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分に熱的および化学的に安定で、追加の安定剤なしで有効に用いることのできる1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(R−1233zd)および/または2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(R−1233xf)の処方系に関する。本発明の処方物は、冷蔵、伝熱および発泡プレミックスに特に有用な組成物である。
【背景技術】
【0002】
規制の圧力が続く中、冷媒、伝熱流体、発泡剤、溶媒およびエアロゾルについて、オゾン破壊および地球温暖化係数の低い、より環境に優しい代替物を見出す必要性が高まっている。これらの用途に広く使われているクロロフルオロカーボン(CFC)およびハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は、オゾン破壊物質であり、モントリオール議定書のガイドラインに従って、段階的に廃止されている。ハイドロフルオロカーボン(HFC)は、多くの用途において、CFCおよびHCFCの主要な代替物である。これらは、オゾン層に「優しい」と思われているが、それでも、一般に、高い地球温暖化係数を有している。オゾン破壊または高地球温暖化物質に代替されると確認されている新たな部類の化合物は、ハロゲン化オレフィン、例えば、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)およびハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)である。アルケン結合の存在のために、HFOおよびHCFOは、HCFCまたはCFCよりも化学的に不安定であると予想される。下層大気中でのこれらの材料の元々の化学的な不安定さによって、大気寿命が短く、所望の低地球温暖化係数およびゼロまたはほぼゼロのオゾン破壊特性を与える。しかしながら、かかる元々の不安定さはまた、保管、取扱いおよび使用中に分解する恐れがあるため、かかる材料の商業的な用途にも影響を与えるものと考えられている。
【0003】
国際公開第2009/003165号パンフレットには、様々な用途および組成物におけるHFOおよびHCFOの安定化処方物が開示されている。この特許出願には、安定剤を用いて、使用中のHCFO−1233zdの分解を防ぐことができることが開示されている。国際公開第2007/002625号パンフレットには、伝熱システムを含む様々な用途における様々なテトラフルオロプロペンの使用が開示されている。この特許出願には、HFO−1234ze、HFO−1243zfおよびHFO−1225yeの選択したPAG潤滑油による安定性が開示されており、鉱油中でのCFC−12の安定性の結果を比べている。その結果を用いて、その特許出願の冷媒および組成物が、多くの一般的に用いられている冷媒よりも良好な安定性を有することを述べている。
【0004】
国際公開第08027596号パンフレット、国際公開第08027595号パンフレット、国際公開第08027518号パンフレット、国際公開第08027517号パンフレット、国際公開第08027516号パンフレット、国際公開第08027515号パンフレット、国際公開第08027513号パンフレット、国際公開第08027512号パンフレット、国際公開第08027514号パンフレットは全て、フルオロオレフィンの安定化系に係る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/003165号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2007/002625号パンフレット
【特許文献3】国際公開第08027596号パンフレット
【特許文献4】国際公開第08027595号パンフレット
【特許文献5】国際公開第08027518号パンフレット
【特許文献6】国際公開第08027517号パンフレット
【特許文献7】国際公開第08027516号パンフレット
【特許文献8】国際公開第08027515号パンフレット
【特許文献9】国際公開第08027513号パンフレット
【特許文献10】国際公開第08027512号パンフレット
【特許文献11】国際公開第08027514号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記出願では、高温に暴露されたり、他の化合物、例えば、水分、酸素または縮合反応するその他の化合物と接触すると、フルオロオレフィンが分解を示す可能性があることが開示されている。分解は、フルオロオレフィンを、伝熱装置(例えば、冷蔵または空調装置)において作動流体として用いるとき、またはその他の用途に用いるときに分解が生じることが開示されている。フルオロオレフィンの不安定性のために、フルオロオレフィンを冷蔵または空調システムに組み込むのは実際的でないことが開示されている。従って、フルオロオレフィンの多くのその他の属性を活かすには、安定剤の添加により分解を減じる手段が必要である。
本発明において、HCFO−1233zd(トランス−および/またはシス−アイソマー)およびHCFO−1233xfは、多くのHCFCおよびCFCと同程度に安定、またはそれよりも大幅に安定していて、より環境に優しく、意外なことに、安定剤を添加する必要なく、貯蔵および使用中安定しているということを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、十分に熱的および化学的に安定で、追加の安定剤を必要とすることなく、有効に用いることのできるトランス−および/またはシス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd)および/または2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)の処方系に関する。本発明の処方物は、冷蔵、伝熱および発泡プレミックスに特に有用な組成物である。選択したHCFCの安定性の結果は、「Chemical and Thermal Stability of Refrigerant−Lubricant Mixtures with Metals」DF Huttenlocher of Spauschus Inc.,DOE/CE/23810−5(1992)に記載される。R−123は、R−11よりほぼ10倍安定しており、R141bおよびR−142bはR−123より安定していると述べられている。欧州特許第053719号明細書には、R−141bは、アルファ−メチルスチレン等の安定剤と共に用いて、有害な副生成物1−クロロ−1−フルオロエチレン(HCFO−1131a)の形成を阻止すべきであると開示されている。本発明者らは、HCFO−1233zdは、追加の安定剤なしで、R−141bと少なくとも同じ程度、ひいては、R−123およびR−11よりも安定であることを知見した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
規制の圧力が続く中、冷媒、伝熱流体、発泡剤、溶媒およびエアロゾルについて、オゾン破壊および地球温暖化係数の低い、より環境に優しい代替物を見出す必要性が高まっている。これらの用途に広く使われているクロロフルオロカーボン(CFC)およびハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は、オゾン破壊物質であり、モントリオール議定書のガイドラインに従って、段階的に廃止されている。ハイドロフルオロカーボン(HFC)は、多くの用途において、CFCおよびHCFCの主要な代替物である。これらは、オゾン層に「優しい」と思われているが、それでも、一般に、高い地球温暖化係数を有している。オゾン破壊または高地球温暖化物質に代替されると確認されている新たな部類の化合物は、ハロゲン化オレフィン、例えば、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)およびハイドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)である。アルケン結合の存在のために、HFOおよびHCFOは、HCFCまたはCFCよりも化学的に不安定である。下層大気中でのこれらの材料の元々の化学的な不安定さによって、大気寿命が短く、所望の低地球温暖化係数およびゼロまたはほぼゼロのオゾン破壊特性を与える。しかしながら、かかる元々の不安定さはまた、保管、取扱いおよび使用中、例えば、高温に露出されたり、他の化合物、例えば、水分、酸素または縮合反応するその他化合物と接触すると、分解する恐れがあるため、かかる材料の商業的な用途にも影響を与えるものと考えられる。この分解は、ハロ−オレフィンを、伝熱装置(例えば、冷蔵または空調装置)において作動流体として用いるとき、またはその他用途に用いるときに分解が生じる恐れがある。この分解は、様々な異なる機構により生じる可能性がある。一例においては、分解は、極端な温度での化合物の不安定性により生じる。他の例においては、分解は、システムへ漏れ入ってしまった空気の存在中での酸化により生じる。かかる分解の原因が何にせよ、ハロ−オレフィンの不安定性のために、ハロ−オレフィンを冷蔵または空調システムに組み込んだり、発泡ポリオールプレミックス中のようなその他用途に使用することは実際的でない。
【0009】
冷蔵システム中の冷媒、潤滑剤および金属の化学的相互作用をよく理解することが、信頼性のある長寿命のシステムを設計するのに必要である。冷媒と、冷蔵または伝熱システムの、またはその中の他の成分との間に相溶性がないと、冷媒、潤滑油および/またはその他成分の分解、望ましくない副生成物の形成、機械的部品の摩耗または分解、性能の喪失、あるいは装置、冷媒および/または潤滑油の短寿命につながる可能性がある。
【0010】
本発明において、ハロゲン化オレフィンHCFO−1233zdおよび/またはHCFO−1233xfは、潤滑剤、金属および水分の存在下、冷媒、空調、伝熱システムという典型的なシステムにおいて、追加の安定剤なしで、意外にも安定であるということを知見した。ハロゲン化オレフィンHCFO−1233zdおよび/またはHCFO−1233xfは、R−141b、R−123およびR−11をはじめとする同様のHCFCおよびCFC冷媒より少なくとも安定であるため、長寿命と環境により優しいという両方の利点を与えつつ、冷媒または伝熱流体として特に有用であることを知見した。
【0011】
冷蔵、空調または伝熱システムにおいて、潤滑油および冷媒は、ASHRAE Handbook:HVAC Systems and Equipmentに説明されているとおり、システムの大半とまではいかなくても、システムの少なくともある部分において互いに接触することが予測される。従って、潤滑剤および冷媒を別個に、あるいは、プレミックスパッケージの一部として、冷媒、空調または伝熱システムに添加するかどうかに係らず、システム内でそれらは接触することが予測されるため、相溶性がなくてはならない。
【0012】
本発明の一実施形態において、安定なハロゲン化オレフィン系は、クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、好ましくは、HCFO−1233zdを含む冷媒、空調または伝熱システムである。かかるシステムにおいて、HCFO−1233zdは、様々な金属およびその他成分と接触するが、長期の運転にわたって安定したままでなければならない。かかるシステムに存在する典型的な材料としては、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、鉄、銅およびこれらの混合物が挙げられる。本発明の他の実施形態において、該安定系はまた、潤滑剤、例えば、鉱油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル油、ポリオールエステル油、ポリアルキレングリコール油、ポリ(アルファオレフィン)油およびこれらの混合物も含む。
【0013】
クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、好ましくは、1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(R−1233zd)、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(R−1233xf)およびこれらの混合物、さらにより好ましくはトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを含む安定なハロゲン化オレフィン系は、新たな系を含むことが意図されており、既存の系を長持ちさせたり、既存の系を改良する。好ましいクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンは、70重量%を超えるトランスアイソマーを含むトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンである。例えば、潤滑剤および金属とのクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの安定性のために、クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを用いて、これらに限られるものではないが、HCFC−123および/またはCFC−11をはじめとするその他冷媒を既に含む既存の装置を、システム安定性を損なうことなく、長持ちさせることができる。これには、クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、単独でまたは他の冷媒と組み合わせて、冷媒を満タンまで充填するか、あるいは該既存の冷媒の一部または全てを除去して、クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン単独でまたはその他冷媒と組み合わせて置き換えることによって、該既存の装置に添加することが含まれる。
【0014】
クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをまた、新たな装置に、単独または他の冷媒、例えば、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロクロロカーボン、ハイドロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、フルオロケトン、クロロフルオロカーボン、トランス−1,2−ジクロロエチレン、二酸化炭素、アンモニアおよびこれらの混合物と組み合わせて充填することもできる。例示的なハイドロフルオロカーボンとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、1−フルオロエタン(HFC−161)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,2−ジフルオロエタン(HFC−152)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2−トリフルオロエタン(HFC−143)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245ca)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロプロパン(HFC−4310)およびこれらの混合物が挙げられる。例示的なクロロフルオロカーボンとしては、トリクロロフルオロメタン(R−11)、ジクロロジフルオロメタン(R−12),1,1,2−トリフルオロ−1,2,2−トリフルオロエタン(R−113)、1,2−ジクロロ−1,1,2,2−テトラフルオロエタン(R−114)、クロロ−ペンタフルオロエタン(R−115)およびこれらの混合物が挙げられる。例示的なハイドロカーボンとしては、プロパン、ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソ−ペンタン、ネオ−ペンタン、シクロペンタンおよびこれらの混合物が挙げられる。例示的なハイドロフルオロオレフィンとしては、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1234zf)、E−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、E−1,2,3,3,−ペンタフルオロプロペン(E−HFO−1255ye)、Z−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(Z−HFO−125ye)、E−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロブタ−2−エン(E−HFO−1336mzz)、Z−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロブタ−2−エン(Z−HFO−1336mzz)、1,1,1,4,4,5,5,5−オクタフルオロペント−2−エン(HFO−1438mzz)およびこれらの混合物が挙げられる。例示的なハイドロフルオロエーテルとしては、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−3−メトキシ−プロパン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロ−4−メトキシ−ブタンおよびこれらの混合物が挙げられる。例示的なフルオロケトンは、1,1,1,2,2,4,5,5,5−ノナフルオロ−4(トリフルオロメチル)−3−3ペンタノンである。
【0015】
本発明の他の実施形態において、クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンを、単独または他の冷媒と組み合わせて、追加の安定剤なしで、潤滑剤と混合することにより、安定したプレブレンド処方物を調製することができる。次に、安定な系の冷媒/潤滑剤プレブレンドを、冷媒、空調または伝熱システムに充填することができる。
【0016】
ポリウレタン発泡体の製造については、発泡剤を含有するポリオールプレ混合物(典型的に、B−サイドと呼ばれる)を調製するのが典型的である。このB−サイド発泡プレミックスは、ポリマーMDI混合物(典型的に、A−サイドと呼ばれる)と混合すると、発泡体を形成する。B−サイド発泡プレミックス処方物は、望ましくない副生成物の形成、B−サイド成分の分解、望ましくない重合等といった問題を防ぐために、A−サイド処方物と混合する前、化学的および熱的に安定なままでなければならない。これらは、発泡処方物の効率を減じ、毒性または反応性成分を生成し、B−サイド容器の圧力を増大し得るより揮発性の成分を生成する等といった可能性がある。本発明において、HCFO−1233zdおよび/またはHCFO−1233xfは、追加の安定剤なしで、B−サイドポリオール発泡プレミックス中で意外にも安定しており、HCFC−141b等のポリオール発泡プレミックス中で前述のHCFC発泡剤より少なくとも安定であることを知見した。HFCO−1233zdおよび/またはHCFO−1233xfを含有する発泡プレミックスは、HCFC−141bのプレミックスに比べて寿命が長いという利点をもたらす。
【0017】
以下の実施例は例示として挙げるものであり本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0018】
潤滑油、水分および金属の存在下での冷媒の相溶性および安定性を、高温で、300mLステンレス鋼オートクレーブにおいて試験した。300mLのオートクレーブにまず、約10gの油、1gの水および活性金属:アルミニウム、銅および鉄のクーポンまたはチップを入れた。各オートクレーブに、約10〜11gの冷媒を添加した。オートクレーブを密閉し、定温オーブンに140℃で48時間入れた。その後、オートクレーブを冷やし、ガスクロマトグラフィー(GC)により蒸気空間を分析して、分解について検査し、分解生成物を識別した。
【0019】
冷媒の純度を計算する際、出発材料に含まれていた不純物をある程度GCスキャンから差し引いて、冷媒の純度の変化をよく反映し、分解生成物の外観をよく識別するようにした。
【0020】
実施例1
前述した手順に従って、潤滑油および金属の存在下でのトランス−HCFO−1233zdの相溶性および安定性を、高温で、ステンレス鋼オートクレーブにおいて試験した。3つの別のオートクレーブで試験した潤滑剤は、AB−150、MO−150およびPOE−22であった。第4のオートクレーブでは、トランス−HCFO−1233zdを、参照試料として用いるべく、潤滑剤、水分または金属チップなしで試験した。元のHCFO−1233zdは、主にHFO−1234zeおよびHFC−245faである不純物を1〜2%含んでおり、前述したとおり、GCスキャンから差し引いた。
【0021】
表1に、安定性試験後の試料の純度を示す。HCFO−1233zdの純度は、全ての場合において、99%を超えたままであった。油を含有する試料の主な不純物は、ジメチルテレフタレートおよびジエチルフタレートであり、HCFO−1233zdの分解生成物ではなかった。
【0022】
比較例2
HCFO−1233zdをHCFC−141bに変えた以外は、実施例1の手順に従って、潤滑油および金属の存在下でのHCFC−141bの相溶性および安定性を、高温で、ステンレス鋼オートクレーブにおいて試験した。HCFC−141bは、約0.02%のアルファ−メチルスチレンを安定剤として含有していた。参照試料から取られたHCFC−141bは、99.9%を超えるかなり純粋なもののままであった。HCFC−141bは、潤滑油、金属および水分の存在下では、かなり分解の兆候を示し、数多くの分解生成物、例えば、1,1−ジクロロエチレンが見られ、特に、1−クロロ−1−フルオロエチレン(HCFO−1131a)のレベルが、参照試料については15ppm未満であったのが、油を含む試料については、1500ppmを超える、さらには3300ppmを超える大幅な増大が見られた。これらの結果を表1に示す。潤滑剤を含有するステンレス鋼オートクレーブは、他の金属と接触した領域において、大幅な変色(暗色化)または腐食を示した。この腐食は、単に擦ったり洗ったりするだけでは取り除けなかった。この種の腐食は実施例1では観察されなかった。比較例2は、HCFC−141bを安定化させて分解を阻止するときでも、HCFO−1233zdが、HCFC−141bと少なくとも同じ程度安定であることを示している。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例3および4ならびに比較例5および6
以下の修正を行い、実施例1および比較例3と同様にして、潤滑油の存在下で、トランス−HCFO−1233zdおよびHCFC−141bの相溶性および安定性を試験した。実施例3および4では、2つのオートクレーブを、実施例1で行ったのと同じようにして、それぞれMO−150およびPOE−22と共にHCFO−1233zdにより準備した。比較例5および6では、2つのオートクレーブを、比較例2で行ったのと同じようにして、それぞれMO−150およびPOE−22と共にHCFC−141bにより準備した。オートクレーブを140℃に、48時間でなく96時間、維持した。各オートクレーブの蒸気空間をサンプリングして、安定性試験前後の両方で、GC/MSにより試験した。結果を表2に示す。
【0025】
HCFO−1233zdの純度の変化が僅か0.03%だったのに対し、HCFC−141bの純度の変化は0.3%を超えていた。HCFC−141bの主な分解副生成物はHCFO−1131aであり、11ppmから1400ppmを超えるまでに増大した。
【0026】
【表2】
【0027】
実施例7
トランス−およびシス−アイソマーを約7:3の比率で含有するHCFO−1233zdの試料を、透明なガラスバイアルに、未制御の周囲条件で、10年間にわたり貯蔵した。貯蔵期間後、試料を目視により観察し、GC分析により試験した。試料は依然として透明で変化のないように見え、GC分析によれば、試料組成に大きな変化は示されなかった。本実施例によれば、HCFO−1233zdは、長期の貯蔵条件において安定であることが分かる。
【0028】
比較例8
R11の試料を、30ガロンの鋼ドラムに1981年から貯蔵した。貯蔵期間後、試料は黄変し、強い異臭を放った。この例によれば、HCFO−1233zdは、貯蔵および使用において、特に、活性金属、潤滑剤および水分の存在下で、R−11より安定であることが分かる。
【0029】
実施例9および比較例10
B−サイドポリオール処方物におけるHCFO−1233zdおよびHFO−1234zeの化学的および熱的安定性を、以下のようにして、ステンレス鋼オートクレーブ内で試験した。
【0030】
各発泡プレミックス処方物を、300mLのステンレス鋼オートクレーブに入れた。オートクレーブを、100℃で24時間、一定温度のオーブン内で加熱した。オートクレーブをオーブンから取り出し、周囲温度で72時間保持した後、蒸気空間組成の各試料をTedlar(登録商標)GC試料袋に、GC/MSによる後の分析のために集めた。
【0031】
各オートクレーブに、表3に示すベースB−サイド処方物を加えた。
【0032】
【表3】
【0033】
発泡剤をB−サイド処方物に、75部のB−サイドに対して25部の発泡剤の充填量で添加することにより、発泡プレミックス処方物を調製した。一方の発泡プレミックス処方物は、実施例9としてHCFO−1233zdにより調製し、他方は比較例10としてHFO−1234zeにより調製した。発泡プレミックス処方物に安定性試験を行った。
【0034】
実施例9の蒸気相組成のGC/MS分析では、HCFO−1233zdに大幅な分解はなかった。大部分の分解副生成物は、元のHCFO−1233zd試料の約2%で存在していたHFO−1234zeの分解によるものであった。
【0035】
比較例10のHFO−1234zeは、表4に示すGC/MSデータにより示されるとおり、大幅な分解を示した。フッ素化シラン生成物の存在は、トランス−HFO−1234zeからのHFの発生によるもので、HFは次にさらなるHFO−1234zeと反応してHFC−245aを生成でき、かつ処方物に用いるシロキサン系界面活性剤と反応できる。
1)CF3−CH=CHF→CF3−C≡CH+HF
2)HF+SiMe3(OsiMe2)nOSiMe3→SiFMe3+nSiF2Me2+H2
【0036】
【表4】
【0037】
実施例9および比較例10によれば、トランス−HCFO−1233zdは、同様のハイドロフルオロオレフィントランス−HFO−1234zeよりも安定であったことが分かる。
【0038】
これらの例によれば、クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン、特に、HCFO−1233zdは、貯蔵および使用中の両方において意外にも安定であり、特に、潤滑剤、水分、活性金属、ポリオールB−サイド処方物およびこれらの混合物と組み合わせると、以前からのHCFCおよびCFCと少なくとも同程度安定であることが分かる。