特許第6134471号(P6134471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6134471未加硫タイヤの製造方法及び空気入りタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134471
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】未加硫タイヤの製造方法及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/30 20060101AFI20170515BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   B29D30/30
   B60C5/14 A
   B60C5/14 Z
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-36377(P2011-36377)
(22)【出願日】2011年2月22日
(65)【公開番号】特開2012-171253(P2012-171253A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2014年2月12日
【審判番号】不服2015-13886(P2015-13886/J1)
【審判請求日】2015年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】早川 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 大助
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆二
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 拓也
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 和田 雄二
【審判官】 出口 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−261137(JP,A)
【文献】 特開2009−083776(JP,A)
【文献】 特開2007−229941(JP,A)
【文献】 特開2009−132379(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/114204(WO,A1)
【文献】 特開2010−36340(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性EVOH層及び熱可塑性ウレタン系エラストマー層からなる樹脂層及び前記樹脂層の一方の面に形成されたム層を有する積層体からなるインナーライナーであって、前記ゴム層が、前記インナーライナーの一方の端部の先端において延在しているとともに、前記ゴム層が、前記樹脂層の前記一方の面のうち、前記インナーライナーを前記一方の端部の上に他方の端部を重ねて成型ドラムに巻き付けたときに前記一方の端部と接する面以外の全面に少なくとも形成されている、インナーライナーを準備する工程、
前記インナーライナー前記インナーライナーの一方の端部の上に他方の端部を重ねて接合させるようにして、前記樹脂層がタイヤ径方向外側に、前記ゴム層がタイヤ径方向内側になるように成型ドラムに巻き付ける工程、並びに
前記一方の端部と他方の端部とを接合させる前に、予め、一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置する工程を含み、
前記一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置する工程では前記一方の端部において前記樹脂層の端部の側壁及び他方の面を覆うように、一方の端部の先端に延在させた前記ゴム層を折り畳む操作を行う、ことを特徴とする、未加硫タイヤの製造方法
【請求項2】
変性EVOH層及び熱可塑性ウレタン系エラストマー層からなる樹脂層及び前記樹脂層の一方の面に形成されたム層を有する積層体からなるインナーライナーであって、前記ゴム層が、前記インナーライナーの一方の端部の先端において延在しているとともに、前記ゴム層が、前記樹脂層の前記一方の面のうち、前記インナーライナーを前記一方の端部の上に他方の端部を重ねて成型ドラムに巻き付けたときに前記一方の端部と接する面以外の全面に少なくとも形成されている、インナーライナーを準備する工程、
前記インナーライナーを、前記インナーライナーの一方の端部の上に他方の端部を重ねて接合させるようにして、前記樹脂層がタイヤ径方向外側に、前記ゴム層がタイヤ径方向内側になるように成型ドラムに巻き付ける工程、並びに
前記一方の端部と他方の端部とを接合させる前に、予め、一方の端部の側壁にゴム層の一部配置する工程を含み、
前記一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置する工程では、前記一方の端部において前記樹脂層の端部の側壁及び他方の面を覆うように、一方の端部の先端に延在させた前記ゴム層折り畳む操作を行う、ことを特徴とする、空気入りタイヤの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型時又は成形後に発生し得るジョイント割れを有効に防止しつつインナー拡張率の高いタイヤサイズに対しても柔軟に対応し得るインナーライナーを用いた未加硫タイヤ及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの内圧を保持するためにタイヤ内面にガスバリア層として配設されるインナーライナーには、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等を主原料とするゴム組成物が使用されている。しかしながら、これらブチル系ゴムを主原料とするゴム組成物は、ガスバリア性が低いため、かかるゴム組成物をインナーライナーに使用した場合、インナーライナーの厚さを1mm前後とする必要があった。そのため、タイヤに占めるインナーライナーの重量が約5%となり、タイヤの重量を低減して自動車、農業用車両、及び建設作業用車両等の燃費を向上させる上で障害となっている。
【0003】
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、ガスバリア性に優れることが知られている。該EVOHは、空気透過量が上記ブチル系ゴムの100分の1以下であるため、インナーライナーに用いた場合、100μm以下の厚さでもタイヤの内圧保持性を大幅に向上させることができる上、タイヤの重量を低減することが可能である。
【0004】
ここで、上記ブチル系ゴムより空気透過性の低い樹脂は数多く存在するが、空気透過性がブチル系ゴムの10分の1程度の場合、100μmを超える厚さでないと、内圧保持性の改良効果が小さい。一方、100μmを超える厚さの場合、タイヤの重量を低減する効果が小さく、また、タイヤ屈曲時の変形によりインナーライナーが破断したり、インナーライナーにクラックが発生してしまい、ガスバリア性を保持することが困難となる。
【0005】
これを解決する手段として、特許文献1には、カーカスプライの周方向ジョイント部で、インナーライナーに面する側に末端ゴム部分を配設してなるタイヤが開示されており、インナー割れの防止と薄ゲージ化を実現している。また、特許文献2には、未変性又は変性EVOH溶液を塗布してガスバリア層を形成なるインナーライナーが開示されており、ガスバリア層同士のジョイント部をなくしてタイヤのユニフォーミティ(均一性)悪化を改善しつつ、軽量化とガスバリア性の両立を図っている。さらに、特許文献3〜4には、円筒状フィルムに形成されてなるインナーライナー層を配設したタイヤも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−224853号公報
【特許文献2】特開2007−112000号公報
【特許文献3】特許第3159886号公報
【特許文献4】国際公開第2004/110735号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなインナーライナーを採用した場合であっても、成形時に未加硫タイヤを拡張する際、インナー拡張率の高いタイヤサイズに対してはロバスト性が低くなる傾向にあるとともに、既存の設備を有効活用し得ない場合もあり、依然として改善の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、既存の設備を有効活用してコスト削減に寄与しながら、インナー拡張率の高いタイヤサイズに対しても柔軟に対応し得るよう、成形時または成形後に発生し得るジョイント割れを有効に防止して、タイヤにおける均一性及び内圧保持性の向上を実現できるインナーライナーを用いた未加硫タイヤ及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、特定のインナーライナーを用い、この両端部における接合面が特定の態様を有するように成型ドラムに巻き付けてなる未加硫タイヤを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の未加硫タイヤは、
樹脂層及びゴム層を有する積層体からなるインナーライナーの両端部において、一方の端部の上に他方の端部を重ねて接合させながら成型ドラムに巻き付ける工程を含み、
前記一方の端部と他方の端部とを接合させる前に、予め、一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置してなることを特徴とする。
【0010】
前記ゴム層の一部が、ゴム層からなるゴム片であってもよく、前記一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置するにあたり、接着剤を塗布した一方の端部の側壁に、ゴム層からなるゴム片を接合してもよい。
また、前記一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置するにあたり、一方の端部において樹脂層の一部を覆うようにゴム層の一部を折り畳んでもよい。
【0011】
本発明の空気入りタイヤは、樹脂層及びゴム層を有する積層体からなるインナーライナーの一方の端部において、一方の端部の側壁にゴム層の一部が配置されてなるインナーライナーを備えることを特徴とする。
前記ゴム層の一部が、ゴム層からなるゴム片であってもよく、また、前記一方の端部の側壁に配置されてなるゴム層の一部が、一方の端部において樹脂層の一部を覆うようにゴム層の一部が折り畳まれてなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の未加硫タイヤによれば、成形時又は成形後に発生し得るジョイント割れを有効に防止することができるインナーライナーを用いるので、優れた均一性と高い内圧保持性を有する空気入りタイヤを実現できる。また、インナー拡張率の高いタイヤサイズに対しても柔軟に対応することができるとともに、既存の設備を有効活用してコスト削減に寄与することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、成型段階におけるグリーンケースの断面図である。
図2図2は、図1のインナーライナーのH部分に含まれるジョイント部Iにおいて、インナーライナーの両端部を重ねて接合する状態を示す断面概略図であり、図2(a)は接合する前、図2(b)は接合した後の状態を示す。
図3図1のインナーライナーのH部分に含まれるジョイント部Iにおいて、ゴム層からなるゴム片を配置するにあたり、接着剤を塗布した一方の端部の側壁に、ゴム層からなるゴム片を接合する状態を示す断面概略図である。
図4図4(a)〜(c)は、一方の端部において樹脂層の一部を覆うようにゴム層の一部が折り畳まれ、次いで両端部を重ねて接合する状態を示すインナーライナーの断面概略図であり、図4(a)は接合する前であって端部が折り畳まれる前、図4(b)は接合する前であって端部が折り畳まれた後、図4(c)は両端部を重ねて接合した後を示す。
図5図5(a)〜(b)は、一方の端部において樹脂層の一部を覆うようにゴム層の一部が折り畳まれ、かつ他方の端部において樹脂層が延在されてなり、次いで両端部を重ねて接合する状態を示すインナーライナーの断面概略図であり、図5(a)は接合する前であって一方の端部が折り畳まれた後、図5(b)は両端部を重ねて接合した後を示す。
図6図6は、比較例のインナーライナーの両端部を重ねて接合した状態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、必要に応じて図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の未加硫は、
樹脂層及びゴム層を有する積層体からなるインナーライナーの両端部において、一方の端部の上に他方の端部を重ねて接合させながら成型ドラムに巻き付ける工程を含み、
前記一方の端部と他方の端部とを接合させる前に、予め、一方の端部の側壁にゴム層の一部を配置してなることを特徴とする。
【0015】
まず、図1を参照しつつ、空気入りタイヤを得るための未加硫タイヤの一般的な成型工程について述べる。未加硫タイヤは、通常、二段階の成型工程を経る。最初の第一成型段階では、成型ドラム上にインナーライナー1及びカーカスプライ2を貼り付け、一対のビードコア5を打ち込んでその周りにカーカスプライ2を折り返し、必要に応じてビード部補強コード層6を張り合わせる。ビード部補強コード層6は、予めカーカスプライ2に張り合わせていてもよい。次いで、サイドウォールゴム7を貼り付け、筒状のグリーンケース3を得る。
【0016】
続く第二成型段階では、グリーンケース3を、一対のビード部10をそれぞれクランプする装置を断面中央Cに向けて幅寄せしながら一対のビード部10の相互間隔を狭め、同時にグリーンケース3内部に低圧の空気を充填して、外径方向に膨張させる。この際に、予め縮径及び拡径自在な円筒ドラム表面上に、ベルト部材4の外周に未加硫トレッドゴム11を張り付けた複合部材を張り付け、これをグリーンケース3の断面中央Cに位置合わせしつつ、必要に応じて未加硫トレッドゴム11を折り込みながら膨張したグリーンケース3をベルト部材4の内周面に当接させ、未加硫タイヤを得る。その後、成型工程を経た未加硫タイヤを成型機から取り出し、加硫処理を施すことによって、空気入りタイヤが得られる。
【0017】
ここで、インナーライナー1は、成型ドラムに張り付ける際、インナーライナー1の両端部を重ねて接合させながら成型ドラムに巻き付ける。すなわち、インナーライナー1の一方の端部がタイヤ径内側に配置され、その上から他方の端部が重ねられる。重ねられたインナーライナー1の両端部は総じてジョイント部とも称されるが、この部分の接着が不充分であると、第二成型段階でグリーンケース3を膨張させた際、或いはタイヤ使用時に応力が付加された際に、ジョイント部で剥離や亀裂(ジョイント割れ)が発生したり、均一性の低下を招いたりするおそれがある。
【0018】
本発明で用いるインナーライナー1は、図2(a)の断面概略図に示すように、樹脂層21(21x、21y)及びゴム層22(22x、22y)を有する積層体からなる。本発明の未加硫タイヤの製造方法では、このインナーライナー1の一方の端部xの上に他方の端部yを重ねて接合させながら成型ドラムAに巻き付ける。ここで、端部xと端部yとを接合させる前に、予め一方の端部xの側壁にゴム層の一部22zを配置する。巻き付けられた一方の端部xと他方の端部yとのジョイント部Iにおいて、配置されたゴム層の一部22zはゴム層22xやゴム層22yと同質であることから、第二成型段階での膨張過程で押圧方向Bから押圧された際、端部yのゴム層22yと一体化し、堅固に接着される。
【0019】
従来、押圧過程や膨張過程を経るにつれ、ジョイント部Iで端部yのゴム層22yが必要以上に伸展したり、薄層化したりする可能性があり、また、特にゴム層22yと成型ドラムAとの間にわずかながらも空隙が生じるおそれもあったため、ジョイント部の補強性が低下して剥離や亀裂(ジョイント割れ)が発生したり、均一性が低下したりするのを充分に回避するのは困難であった。しかしながら、本発明を用いれば、端部xの側壁にゴム層の一部22zを配置することで、ゴム層22yの伸展や薄層化を有効に緩和して、両端部x及びyを堅固に接着し、ジョイント部Iでの剥離や亀裂(ジョイント割れ)の発生、並びにわずかな空隙の発生をも有効に防止しつつ、均一性の向上を図ることが可能となる。
【0020】
上記のように端部xの側壁に配置するゴム層の一部22zとして、例えば、ゴム層22からなるゴム片22zを用いてもよい。ゴム層22と同質のゴム片22zを用いることで、ゴム層22yとの一体化をより促進することができる。ゴム層22からなるゴム片22zは、一旦ゴム層22を形成し、その一部を所望のサイズに切り出すことによって作製してもよい。
【0021】
なお、上記ゴム層の一部のサイズは、少なくともその平均ゲージ厚さがインナーライナー1の平均ゲージ厚さと同等であればよく、特に制限されない。
【0022】
また、上記ゴム層22からなるゴム片22zを配置するにあたり、図3に示すように、端部xの側壁に接着剤を塗布するのが望ましい。接着剤を塗布することによって端部xの側壁に接着剤層23を介在させることができ、かかる接着剤層23を介することでゴム片22zと端部xとの密着性の向上を図ることが容易となり、これらの間に剥離や亀裂が発生するのを有効に防止することもできる。
【0023】
上記接着剤としては、通常タイヤ用部材に用いられるものであれば特に制限されないが、例えば、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系ゴム等のゴム成分に1,4−フェニレンジマレイミド等のマレイミド誘導体やポリ−p−ジニトロソベンゼンを配合した接着剤が好適である。なお、耐侯性、耐オゾン性、耐熱性等の物性を向上させる観点から、上記ゴム成分にさらにクロロスルホン化ポリエチレンを配合してもよい。
【0024】
さらに、端部xの側壁にゴム層の一部22zを配置するにあたり、端部xにおいて樹脂層21の一部を覆うようにゴム層22の一部を折り畳んでもよい。具体的には、図4(a)に示すように、端部xの先端にゴム層22xを延在させ、この延在されたゴム層22xをE方向に折り畳み、図4(b)の状態にする。次いで、両端部x及びyを接合してB方向に押圧することで、図4(c)に示すインナーライナー1とする。延在されたゴム層22の折り畳まれた部分は、図4(c)に示すように、ゴム層の一部22zに相当することとなり、ゴム層22yとの一体化も充分に図ることができる。なお、折り畳まれた端部x先端のゴム層22xと端部yのゴム層22yも、押圧方向Bから押圧されることで、これら同質のゴム層同士が一体化して堅固に接着される。そのため、低内圧・高荷重環境下であってもジョイント部Iに発生する応力集中がより緩和されて、インナーライナー1の層間剥離をも有効に防止することもできる。
【0025】
この際、図5(a)に示すように、さらに端部yの先端において、端部xと接合する部分と同等の面積分だけ樹脂層21yを延在させておくのが望ましい。このようにすることで、端部xの折り畳まれたゴム層22xと接合させた際、ジョイント部Iのゲージ厚さが必要以上に嵩むのを効果的に防止することができ、得られる空気入りタイヤの均一性が阻害されるおそれがない。
【0026】
本発明で用いるインナーライナー1は、樹脂層21及びゴム層22を有する積層体からなり、樹脂層21及びゴム層22ともに、それぞれ1層のみを有する積層体であってもよく、各々2層以上を有する積層体であってもよい。
【0027】
上記樹脂層21を形成する樹脂としては、良好なガスバリア性を発揮するものであるのが好ましく、例えば、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリブタジエン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、変性EVOH、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、塩化ビニリデン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、酢酸ビニル系樹脂などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、ガスバリア性に優れ、かつタイヤの内圧保持性を大幅に向上させる観点から、エチレン−ビニルアルコール共重合体、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体であるのが望ましい。なお、必要に応じて、さらにカーボンブラックやシリカ等の充填剤、硫黄等の架橋剤、ジフェニルグアニジン(DPG)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛塩(ZnBDC)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェナミド(CBS)及びN−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェナミド(BBS)等の架橋促進剤、亜鉛華(酸化亜鉛)等の架橋促進助剤を配合して上記バリア層を形成してもよい。
【0028】
上記樹脂層21の平均ゲージ厚さは、インナーライナー1の層構成等によっても変動し得るが、通常50〜300μm、好ましくは50〜150μmである。したがって、仮にインナーライナー1を複数の樹脂層21を含む積層体としても、薄層化を容易に実現することができる。
【0029】
上記ゴム層22を形成するゴム組成物としては、良好な保護機能及び補強性を発揮し得るものであるのが好ましく、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、塩素化ポリエチレン、エチレン−アクリルゴム等のゴム成分の他、オレフィン系、スチレン系、エステル系、ウレタン系、アイオノマー系、1,2−ポリブタジエン系、ポリアミド系の熱可塑性エラストマー等を含むゴム組成物が挙げられる。なかでも、より効果的に亀裂の発生や伸展を抑制する観点から、ブチルゴムが好ましい。
【0030】
また、上記ゴム組成物に、必要に応じて、さらに上述した充填剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋促進助剤を配合して、上記ゴム層22を形成してもよい。
【0031】
上記ゴム層22の平均ゲージ厚さは、インナーライナー1の層構成等によっても変動し得るが、通常0.01〜2mm、好ましくは1〜2mmである。したがって、仮にインナーライナー1を複数のゴム層22を含む積層体としても、薄層化を容易に実現することができる。
【0032】
さらに必要に応じ、インナーライナー1のジョイント部Iにおける接着性をより向上させる観点から、所望の箇所、例えばタイヤ径方向最内側にさらに接着層(図示せず)を設けてもよい。かかる接着層を含むと、インナーライナー1と隣接部材とを直ちに接着してタイヤ成形時における部材間の剥離を有効に防止することが容易となる。具体的には、例えば、薄層化されたインナーライナー1の外傷等を回避しつつ成型ドラムAに張り付きやすいゴム部材を介して、インナーライナー1を成型ドラムA上に張り付ける場合に有効である。
【0033】
上記接着層を形成する層としては、上記端部xの側壁に塗布する接着剤にも用いることのできる接着剤組成物からなる層が好適である。
【0034】
なお、上記インナーライナー1の平均ゲージ厚さは、インナーライナー1の層構成によっても変動し得るが、通常140μm以下、好ましくは120μm以下である。平均ゲージ厚さが140μmを超えると、ジョイント部Iにおけるインナーライナー1の両端部の密着力が不充分となり、成型時に外径方向へ向けて膨張させた際に、ジョイント部Iにおいて剥離や亀裂が発生するおそれがある。
【0035】
本発明の空気入りタイヤは、図1に示すように、上記インナーライナー、或いは上記未加硫タイヤを用いることを特徴とする。上述したように、通常第一成型段階において、例えば、成型ドラム上にインナーライナー1の両端部のうち、貫通孔zを穿設した一方の端部をタイヤ径方向内側に配置して、その上面から他方の端部を重ねる。次いで、所望の隣接部材を張り付け、膨張させて未加硫タイヤを得る。この際、本発明のインナーライナー1は、押圧方向Bから押圧されてジョイント部において堅固に固着され、剥離が発生するおそれがない。
【0036】
その後、第二成型段階において、公知の加硫条件にて未加硫タイヤの加硫処理を行う。該加硫処理の条件としては、例えば、100℃以上、好ましくは125〜200℃、より好ましくは130〜180℃の温度で加硫処理が行われる。この段階でもインナーライナーはさらに拡張されることとなるが、上述のようにジョイント部が堅固に固着されているため、かかる部分で割れ等が発生するおそれがなく、所望のサイズを有した均一性の高いタイヤとすることができる。次いで、空気、窒素、ヘリウム等を充填することにより、本発明の空気入りタイヤを得る。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1〜3)
実施例1〜3として、図2に示すように、変性EVOH及び熱可塑性ウレタン系エラストマー層からなる厚さ100μmの樹脂層21(21x、21y)、並びに、天然ゴム及び臭素化ブチルゴムからなる厚さ500μmのゴム層22(22x、22y)を有する積層体であり、一方の端部xの上に他方の端部yを重ねて接合させながら成型ドラムAに巻き付ける際、予め一方の端部xにゴム層の一部22zを配置したインナーライナー1のサンプルを作製した。
【0039】
なお、前記ゴム片22zについては、実施例1では、図2に示すように、ゴム片22zが端部xの側壁に配置されている。実施例2では、図4に示すように、端部xの先端にゴム層22xを延在させ(図4(a))、この延在されたゴム層22xをE方向に折り畳み(図4(b))、両端部x及びyを接合してB方向に押圧することで、ゴム片22zを形成している(図4(c))。実施例3では、図5に示すように、さらに端部yの先端において、端部xと接合する部分と同等の面積分だけ樹脂層21yを延在させた状態で、ゴム層22xをE方向に折り畳み(図5(a))、両端部x及びyを接合して押圧することで、ゴム片22zを形成している(図4(c))。
【0040】
(比較例)
比較例としては、図6に示すように、一方の端部xの上に他方の端部yを重ねて接合させながら成型ドラムAに巻き付ける際、予め一方の端部xにゴム層の一部22zを配置することなく接合したこと以外は、実施例1〜3と同様の条件によってインナーライナーのサンプルを作製した。
【0041】
(評価)
各実施例及び各比較例で作製したインナーライナーについて、他の部材とともに、タイヤ製造工程における成型ドラムへの巻き付け工程を行い、その後、第二成型段階にてケース膨張させた状態のまま1日放置をした後の、フィルムのジョイント部におけるインナーライナーの剥がれの有無を確認することによって、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
(結果)
表1から、本発明にかかる実施例1〜3のインナーライナーについては、1日放置をした後のフィルムのジョイント部の剥がれもなく、ジョイント割れを有効に抑制できていることがわかった。一方、比較例のインナーライナーは剥がれが発生しており、ジョイント割れの抑制が十分でないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、成形時又は成形後に発生し得るジョイント割れを有効に防止することができるインナーライナーが得られるので、優れた均一性と高い内圧保持性を有する空気入りタイヤを実現することが可能となる。その結果、インナー拡張率の高いタイヤサイズに対しても柔軟に対応することができるとともに、既存の設備を有効活用してコスト削減に寄与することもできる。
【符号の説明】
【0045】
1: インナーライナー
2: カーカスプライ
3: グリーンケース
5: ビードコア
6: ビード部補強コード層
7: サイドウォールゴム
10:ビード部
11:未加硫トレッドゴム
21x:端部xの樹脂層
21y:端部yの樹脂層
22x:端部xのゴム層
22y:端部yのゴム層
22z:ゴム層の一部
23:接着剤
A: 成型ドラム
B: 押圧方向
C: グリーンケースの断面中央
E: ゴム層22xの折り畳み方向
I: ジョイント部
x: インナーライナーの一方の端部
y: インナーライナーの他方の端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6