(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134490
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】トンネル用排水材
(51)【国際特許分類】
E21D 11/38 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
E21D11/38 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-224589(P2012-224589)
(22)【出願日】2012年10月9日
(65)【公開番号】特開2014-77256(P2014-77256A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002923
【氏名又は名称】ダイワボウホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】300049578
【氏名又は名称】ダイワボウポリテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 信也
【審査官】
石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−054396(JP,A)
【文献】
特公昭63−053332(JP,B2)
【文献】
特開昭57−056513(JP,A)
【文献】
特開平11−036793(JP,A)
【文献】
特開昭57−018235(JP,A)
【文献】
特開2001−246682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00−19/06
E21D 23/00−23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートの一面側に、その長手方向の少なくとも一部に三次元立体網状体を備え、
前記三次元立体網状体は、太さが0.1mm〜10mmの連続フィラメントが不規則に交差してなる線状山部と線状谷部とを有し、
前記線状山部及び前記線状谷部は、防水シートの長手方向に対して30°〜150°の角度をなしており、
前記三次元立体網状体は、ポリオレフィンを95質量%〜99.9質量%と、熱可塑性エラストマーを0.1質量%〜5質量%とを含み、
前記熱可塑性エラストマーは、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレンブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレンイソプレン系熱可塑性エラストマー及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とするトンネル用排水材。
【請求項2】
前記三次元立体網状体は、隣り合って平行する二つの線状山部を有し、前記二つの線状山部同士の間をつなぐ連結山部を有する請求項1に記載のトンネル用排水材。
【請求項3】
三次元立体網状体の厚みは、2.94cN/cm2の荷重を加えた状態で、3cm〜50cmである請求項1又は2に記載のトンネル用排水材。
【請求項4】
前記防水シートは、前記三次元立体網状体の一面側から前記三次元立体網状体の厚さ方向に沿って立ち上げられ、三次元立体網状体の他の一面側に防水シートが固定かつ折り返された状態である請求項1〜3のいずれか一項に記載のトンネル用排水材。
【請求項5】
前記防水シートの両端部は、その長手方向に沿って、釘打ち用部材が取り付けられている請求項1〜4のいずれか一項に記載のトンネル用排水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル建設時に、トンネルの地山側から湧き出す湧水を排水するためのトンネル用排水材に関する。
【背景技術】
【0002】
地山にトンネルを建設する場合、トンネルの内面側にコンクリートを吹き付けてなる一次覆工コンクリートに対して多数本のロックボルトをトンネル周方向と略垂直な方向へ打設する。このとき、とくに湧水の漏出が多い地山に対しては、ロックボルト打設後の一次覆工コンクリートに対して、例えば、特許文献1〜3に記載されたような湧水排水材を設置して、湧水の排水が行われている。
【0003】
市販されている湧水排水材としては、株式会社吉原化工製の商品名「もやいドレーンマット SWBタイプ」や、前田工繊株式会社製の商品名「モノドレン」、「モノドレンRB」が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1:特開2002−054396号公開公報
特許文献2:特開2009−052390号公開公報
特許文献3:特開2006−132267号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された湧水処理シート材は、通水性を有する弾性部材の形状について、十分に検討されておらず、弾性部材が一様に均一な厚さを有する構造であるため、屈曲性が悪く、その結果、例えば、トンネル内壁面に設置する際、壁面の曲面に沿って弾性部材がフィットせず(折り曲がらず)、施工性(折り曲げ柔軟性)が悪いという問題点があった。また、弾性部材が目詰まりしやすく、排水性も低い水準のものであった。
【0006】
また、特許文献2及び3は、いずれも、湧水排水材の長手方向に剛直な構造の排水路が形成されており、排水路の剛性によって排水路方向に折り曲げにくいものであった。このため、湧水排水材の排水路をトンネル円弧方向にして施工すると、折れ曲がりにくい方向へ折り曲げながら施工する必要があり、施工作業が困難であった。また、湧水排水材が屈曲に耐えきれずに破断するという問題点があった。或いは、湧水排水材の排水路をトンネル円弧方向と垂直な方向に施工すると、湧水の排水性が低下するという問題点があった。
【0007】
以上のように、特許文献1〜3に記載された湧水排水材は、トンネル内壁面に湧水排水材を設置する際の排水性や施工性(折り曲げ柔軟性)について十分に検討されていない。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決し、排水性と施工性(折り曲げ柔軟性)とが共に優れたトンネル用排水材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、防水シートの一面側に、その長手方向の少なくとも一部に三次元立体網状体を備え、前記三次元立体網状体は、太さが0.1mm〜10mmの連続フィラメントが不規則に交差してなる線状山部と線状谷部とを有し、前記線状山部及び前記線状谷部は、防水シートの長手方向に対して30°〜150°の角度をな
しており、前記三次元立体網状体は、ポリオレフィンを95質量%〜99.9質量%と、熱可塑性エラストマーを0.1質量%〜5質量%とを含み、前記熱可塑性エラストマーは、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレンブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレンイソプレン系熱可塑性エラストマー及び水添スチレン系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とするトンネル用排水材である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のトンネル用排水材は、線状山部と線状谷部とを有するため、湧水の排水性に優れており、この線状山部と線状谷部が防水シートの長手方向に対して30°〜150°の角度をなす構成であるため、優れた折り曲げ柔軟性を有し、施工性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の三次元立体網状体の線状山部および線状谷部を示す模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のトンネル用排水材(以下、単に排水材ともいう)は、防水シートの一面側に、その長手方向の少なくとも一部に三次元立体網状体を備える。以下、本発明のトンネル用排水材の各構成部材について説明する。
【0013】
(三次元立体網状体)
本発明は、防水シートの一面側に、その長手方向の少なくとも一部に三次元立体網状体を備える。三次元立体網状体は、太さが0.1mm〜10mmの連続フィラメントが不規則に交差してなる線状山部と線状谷部とを有する。本発明のトンネル用排水材は、湧水が三次元立体網状体を構成する連続フィラメント同士の間を通って排水されるので、遊離石灰が付着しにくく、排水路が目詰まりし難い。
【0014】
本発明において、線状山部は、連続フィラメントが不規則に交差してなり、三次元立体網状体の一部が隆起した畝状部分をいう。また、線状谷部は、2つの線状山部同士の間に形成された溝状部分をいう。
【0015】
三次元立体網状体を構成する連続フィラメントは、その太さが0.1mm〜10mmであり、0.2mm〜5mmであることが好ましく、0.3mm〜2mmであることがより好ましい。連続フィラメントの太さが0.1mm以上であると、二次覆工コンクリートの吹き付け圧などによって三次元立体網状体の空隙が圧潰される(へたる)ことがない又は少ない。また、連続フィラメントの太さが10mm以下であると、折り曲げやすく、施工しやすい。
【0016】
三次元立体網状体は、連続フィラメントが不規則に交差してなる線状山部と線状谷部とを有する。三次元立体網状体が線状山部および線状谷部を有すると、線状山部及び/又は線状谷部が湧水の排水路となるので、湧水の排水性に優れる。とくに湧水流量が多いトンネルに用いた場合には、湧水が線状山部および線状谷部を通って排水されるため、本発明の排水材は、湧水流量が非常に多い山地にトンネルを建設する際にも好適に用いることができる。
【0017】
三次元立体網状体は、少なくとも防水シートの長手方向に対して30°〜150°の角度をなす線状山部と線状谷部とを有する。線状山部および線状谷部の防水シートの長手方向に対する角度は、45°〜135°であることが好ましく、60°〜120°であることがより好ましい。線状山部および線状谷部が、防水シートの長手方向に対して、30°〜150°の角度をなすと、防水シートの長手方向に曲げやすい構造となる。これは、三次元立体網状体を折り曲げたときに、線状山部および線状谷部が、部分的に蛇腹構造のように伸縮するためであると推察される。本発明の排水材は、円弧状のトンネル内壁面に沿って施工されるため、曲げ柔軟性に優れた部材であるほど施工しやすい。
【0018】
三次元立体網状体は、隣り合って平行する二つの線状山部を有し、二つの線状山部同士の間をつなぐ連結山部を有することが好ましい。線状山部同士の間をつなぐ連結山部を有すると、湧水の排水路が連続した構造となり、湧水を効率良く排水することができる。また、連結山部は、三次元立体網状体に適度な剛性を与え、例えば、トンネル内壁面の上部(天井部)に排水材を施工する際に、排水材が、その自重で垂れ下がることがなく、施工しやすい。
【0019】
三次元立体網状体は、線状山部と線状谷部とが交互に平行していることが好ましい。線状山部と線状谷部とが交互に平行していると、部分的に蛇腹構造のように伸縮しやすく、折り曲げ柔軟性に優れる。
【0020】
線状山部および線状谷部は、その長さが、三次元立体網状体の大きさの範囲内において、連続した直線状であってよく、或いは、不連続な線分状であってよい。なかでも、線状山部および線状谷部は、不連続な線分状であることが好ましい。線状山部および線状谷部が線分状であると、線状山部同士および線状谷部同士の間の不連続部分で折り曲げやすい
構造となり、線状山部と垂直な方向へも折り曲げ可能になる。
【0021】
線状山部および線状谷部が線分状である場合、線状山部及び線状谷部は、それぞれ、複数の線状山部および複数の線状谷部がそれぞれ一本の直線上に位置することが好ましい。複数の線状山部および複数の線状谷部がそれぞれ一本の直線上に位置する構成であると、部分的な蛇腹構造を形成しやすく、折り曲げ柔軟性に特に優れる。
【0022】
線状山部および線状谷部が線分状である場合、線状山部および線状谷部の長さは、50mm〜150mmであることが好ましく、60mm〜100mmであることがより好ましい。線状山部および線状谷部の長さが50mm以上であると、湧水が線状山部および線状谷部を通って排水されやすくなる。また、線状山部および線状谷部の長さが150mm以下であると、折り曲げやすく、施工しやすい。
【0023】
線状山部の長さは、連結山部の長さに対して1倍〜15倍であることが好ましく、1倍〜10倍であることがより好ましい。線状山部の長さと連結山部の長さの比が上記範囲内であると、折り曲げやすく、トンネル内壁面に沿って施工することが容易である。
【0024】
三次元立体網状体を構成する連続フィラメントの成分は、特に限定されず、公知の合成樹脂からなってよい。例えば、連続フィラメントは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂などの合成樹脂のうち、1又は2以上からなってよい。
【0025】
なかでも、三次元立体網状体を構成する連続フィラメントは、ポリオレフィンを95質量%〜99.9質量%と、熱可塑性エラストマーを0.1質量%〜5質量%とを含むことが好ましく、ポリオレフィンを97質量%〜99質量%と、熱可塑性エラストマーを1質量%〜3質量%とを含むことがより好ましい。連続フィラメントがポリオレフィンを95質量%以上含むと、耐圧強度が高い三次元立体網状体を得ることができ、コンクリートなどの打設圧を受けても空隙が潰れることがない又は少ない。連続フィラメントが熱可塑性エラストマーを0.1質量%以上含むと、柔軟性に優れた三次元立体網状体を得ることができ、トンネル内壁面への追随性がよい。なお、とくに耐圧強度が高い三次元立体網状体を得る観点から、ポリオレフィンは、高密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0026】
前記熱可塑性エラストマーは、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレンブタジエン系熱可塑性エラストマー、スチレンイソプレン系熱可塑性エラストマー、水添スチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0027】
三次元立体網状体は、その目付が300g/m
2〜2000g/m
2であることが好ましく、500g/m
2〜1500g/m
2であることがより好ましい。三次元立体網状体の目付が300g/m
2以上であると、二次覆工コンクリートの吹き付け圧などによって三次元立体網状体の空隙が圧潰される(へたる)ことない又は少ない。三次元立体網状体の目付が2000g/m
2以下であると、湧水が連続フィラメント間の空隙を通過して排水されやすい。また、目付けが小さいと、軽量な排水材となるので、施工作業が容易になる。
【0028】
三次元立体網状体は、その厚みが3cm〜50cmであることが好ましく、5cm〜15cmであることがより好ましい。三次元立体網状体の厚みが3cm以上であると、湧水の流量が非常に多い場合にも効率よく湧水を排水することができる。三次元立体網状体の厚みが50cm以下であると、取り扱いやすく、施工しやすい。
【0029】
なお、三次元立体網状体の厚みは、三次元立体網状体を2枚の厚さ3mmのアクリル板で挟み込み、2.94cN/cm
2の荷重を加えた状態で、アクリル板間の距離を測定することにより得られる。
【0030】
(防水シート)
本発明の防水シートは、防水性を有するシートを用いることができ、例えば、耐水圧が1800mmAq以上のシートを用いてよい。防水シートは、例えば、公知のブルーシートや、合成樹脂からなる厚みが1mm〜20mmの合成樹脂シートなどを用いることができる。
【0031】
防水シートがブルーシートである場合、その厚さは300μm以上であることが好ましい。例えば、#3000以上のブルーシートを用いることができる。ここで、ブルーシートとは、ポリエチレン製のスリットヤーン織物の両面にポリエチレン樹脂をラミネート加工したものである。ブルーシートには、その表面などにUV加工やアルミ蒸着フィルムのラミネート加工などの公知の加工が施されていてよい。また、青色以外に着色されたものであってもよい。
【0032】
防水シートが合成樹脂シートである場合、厚さは0.5mm〜1.5mmであることが好ましい。合成樹脂シートの厚さが0.5mm〜1.5mmであると、防水性と柔軟性とを兼ね備える。合成樹脂シートを構成する合成樹脂は、例えば、ポリエチレンやエチレン−酢酸ビニル共重合体などであってよい。
【0033】
防水シートは、三次元立体網状体の一面側から三次元立体網状体の厚さ方向に沿って立ち上げられ、三次元立体網状体の他の一面側に防水シートが固定されながら、折り返されてなることが好ましい。かかる構成であると、トンネル用排水材に、その長手方向と垂直な方向へ引張張力を加えても防水シートと三次元立体網状体とが分離しにくく、破断しにくい。例えば、トンネル用排水材を設置する際に、その長手方向と垂直な方向へ引っ張りながら張り付け施工を行っても、トンネル用排水材が破断し難い。
【0034】
防水シートが、折り返されて形成された折り返し部の幅は、3mm〜50mmであることが好ましく、10mm〜20mmであることがより好ましい。折り返し部の幅が3mm以上であると、防水シートと三次元立体網状体とを強固に固定することができる。また、折り返し幅が50mm以下であると折り返し部が湧水の排水を妨げることがない。
【0035】
防水シートは、その長手方向の少なくとも一方の端部において、防水シートの一面側に三次元立体網状体を備えない接続部を有することが好ましい。すなわち、接続部は、防水シートのみで構成されてよい。なお、接続部の幅は、5cm〜50cmであることが好ましく、7cm〜30cmであることが好ましい。防水シートが接続部を有すると、本発明のトンネル用排水材同士又は、本発明のトンネル用排水材と公知のトンネル用排水材とを連結させて用いる場合に、接続部を重ね合わせて連結できるため、連結部から漏水しにくい。また、接続部は、その柔軟性の観点から、さらに後述の釘打ち用部材も備えないことが好ましい。
【0036】
(釘打ち用部材)
防水シートの両端部は、その長手方向に沿って、釘打ち用部材が取り付けられていることが好ましい。釘打ち用部材は、トンネル内壁面に排水材を取り付けた際に、排水材の自重や取り付け時の張力によって、釘打ち部付近で防水シートが破断しないように保護するための部材である。
【0037】
釘打ち用部材を構成する素材は、特に限定されず、公知の合成樹脂、金属、木材などからなってよい。例えば、釘打ち用部材が合成樹脂である場合、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂などの合成樹脂のうち、1又は2以上からなってよい。
【0038】
釘打ち用部材は、その厚みが0.5mm〜10mmであることが好ましく、1mm〜5mmであることがより好ましい。釘打ち用部材の厚みが0.5mm以上であると、釘穴が広がりにくく、釘が抜けにくい。また、釘打ち用部材の厚みが10mm以下であると、
釘打ち用部材が、トンネル内壁面への追随性を阻害することがない又は、少ない。
【0039】
釘打ち用部材は、防水シート両端部の長手方向に沿って、連続して取り付けられていてよく、或いは、不連続に取り付けられていてもよい。
【0040】
(製造方法)
トンネル用排水材の製造方法について、一例を挙げて説明する。
まず、合成樹脂を加熱溶融した組成物を孔径0.1〜10mmの多数の紡糸ノズルが列設された紡糸口金から押出して紡出し、紡出された連続フィラメントを紡糸口金の下方に設けられた高さ30mm〜500mmの線状凸部を有する金型上に垂らしながら、金型を紡出速度より遅い速度で移動させて三次元立体網状体を得る。かかる製造方法により、連続フィラメントが不規則に交差してなる線状山部と線状谷部とを有し、かつ二つの線状山部同士の間をつなぐ連結山部を有する三次元立体網状体を得ることができる。なお、線状山部、線状谷部、及び連結山部は、例えば、これらと同じ形状を有する金型を用いることで形成することができる。
【0041】
次いで、前記線状山部及び前記線状谷部が、防水シートの長手方向に対して30°〜150°の角度をなすように三次元立体網状体を防水シート上に載置し、三次元立体網状体の外側の防水シートを三次元立体網状体に沿わせて立ち上げ、三次元立体網状体に防水シートを固定しながら折り返して、或いは、折り返して固定し、必要に応じて、防水シート両端部の長手方向に釘打ち用部材を取り付けて、トンネル用排水材を得る。
【0042】
三次元立体網状体は、公知の接着、溶着、物理的係合手段によって防水シートに固定されていてよい。三次元立体網状体は、溶着により防水シートに固定されていることが好ましく熱接着、高周波ウェルダー溶着、又は超音波溶着により固定されていることがより好ましい。三次元立体網状体が溶着により防水シートに固定されていると、溶着部が湧水に触れても劣化し難いため、剥離しにくい。
【0043】
釘打ち用部材の取り付け方法は、特に限定されず、公知の接着、溶着、物理的係合手段によって取り付けられていてよい。釘打ち用部材は、例えば、ステープラー(ホチキスとも呼ばれる)で固定されていてよく、或いは、接着剤により固定されていてもよい。
【実施例】
【0044】
(実施例)
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
合成樹脂として、高密度ポリエチレン(商品名:HE481、日本ポリエチレン株式会社製)98質量%と、水素添加スチレン−ブタジエンを使用したスチレン系熱可塑性エラストマー(商品名:ダイナロンSEBC、JSR株式会社製)2質量%とを混合した混合樹脂組成物を準備した。
【0046】
次いで、加熱溶融した混合樹脂組成物を孔径1mmの多数の紡糸ノズルが列設された紡糸口金から押出して紡出し、連続フィラメントを紡糸口金の下方に設けられた高さ10mmの線状凸部を有する金型上に垂らしながら、金型を紡出速度より遅い速度で移動させて三次元立体網状体を得た。得られた三次元立体網状体は、連続フィラメントが不規則に交差してなる線状山部、線状谷部、及び連結山部を有しており、線状山部の長さは連結山部の長さに対して4倍であり、厚さが10mmであり、目付が800g/m
2であった。
【0047】
次に、線状山部及び線状谷部が、防水シートの長手方向に対して60°の角度をなすように三次元立体網状体を防水シート上に載置し、三次元立体網状体の外側の防水シートを三次元立体網状体に沿わせて立ち上げて折り返し、この折り返し部において、三次元立体網状体と防水シートとを3cm間隔で直径1cmの溶着部が配されるように各溶着部を30Jのエネルギーで超音波溶着し、防水シート両端部の長手方向に釘打ち用部材として、厚みが3mm、幅25mmのポリエチレンからなるバンドをステープラーで取り付けて、実施例1のトンネル用排水材を得た。得られた排水材は、防水シートが三次元立体網状体の一面側から三次元立体網状体の厚さ方向に沿って立ち上げられ、三次元立体網状体の他の一面側に防水シートが固定されながら、折り返されていた。また、10cmの接続部を有していた。
【0048】
(実施例2)
三次元立体網状体の線状山部及び線状谷部を、防水シートの長手方向に対して90°の角度をなすように防水シート上に載置したこと以外は、実施例1の手順に従って、実施例2のトンネル用排水材を得た。
【0049】
(比較例1)
連続フィラメントを平板状の金型に垂らしたこと以外は、実施例1の手順に従って、比較例1のトンネル用排水材を得た。比較例1の網状体は、線状山部、線状谷部、及び連結山部を有さず、厚さが10mmであり、目付が800g/m
2であった。
【0050】
(比較例2)
三次元立体網状体の線状山部及び線状谷部を、防水シートの長手方向に対して0°の角度をなすように防水シート上に載置したこと以外は、実施例1の手順に従って、比較例2のトンネル用排水材を得た。
【0051】
(排水性)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の排水材をコンクリートへ取り付け、排水材の長手方向へ水を通過させて、排水性を確認した。
【0052】
実施例1、実施例2、及び比較例2の排水材は、比較例1の排水材に比べて排水性が良好であった。これは、実施例1、実施例2、及び比較例2の排水材が線状山部及び線状谷部を有するためであると考えられる。
【0053】
(折り曲げ柔軟性)
試験片の幅を3cmとしたこと以外は、JIS L 1096 8.19.1 A法(45°カンチレバー法)に準じて、長手方向に試験片を移動させ、試験片の移動した長さを測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
実施例1及び実施例2の排水材は、比較例1及び比較例2の排水材に比べて、移動した長さが短い。これは、実施例1及び実施例2の排水材は、比較例1及び比較例2の排水材よりも、弱い力で折り曲げることができることを示している。即ち、実施例1及び実施例2の排水材は、トンネル内壁面の円弧に沿って施工することが容易である。
【0056】
(実施例3)
三次元立体網状体を防水シート上に載置し、三次元立体網状体の外側の防水シートを三次元立体網状体に沿わせて立ち上げた状態で、三次元立体網状体の厚み方向の面と防水シートとを3cm間隔で直径1cmの溶着部が配されるように各溶着部を30Jのエネルギーで超音波溶着したこと以外は、実施例1の手順に従って、実施例3のトンネル用排水材を得た。
【0057】
(破断強力)
実施例1及び実施例3の排水材から、その長手方向が8cmになるようにカットした試料片を作製し、試験片において、排水材の長手方向と垂直な方向の両端(即ち、釘打ち用部材付近)を引張試験機のつかみに取り付け、荷重をかけながら試験片を引っ張り、試料片の三次元立体網状体と防水シートとが破断したときの荷重(N)を測定し、破断強力とした。測定結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例1の排水材は、実施例3の排水材に比べて破断強力が高い。これは、実施例1の排水材の破断にかかる力の方向が、防水シートと三次元立体網状体の剪断方向であるためであると考えられる。実施例3の排水材は、破断にかかる力の方向が、防水シートと三次元立体網状体の剥離方向であるため、実施例1の排水材よりも破断強力が低いと考えられる。なお、実施例1及び実施例3の排水材は、共に十分な排水性及び折り曲げ柔軟性を有しており、トンネル用排水材として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のトンネル用排水材は、湧水などが発生する地山にトンネルを建設する際に湧水を排水するための部材として好ましく使用される。例えば、新オーストリアトンネル工法(NATM工法)などに使用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 防水シート
2 三次元立体網状体
3 線状山部
4 線状谷部
5 釘打ち用部材
6 超音波溶着部
7 接続部
8 連結山部
10 トンネル用排水材