特許第6134523号(P6134523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーインスツル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000002
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000003
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000004
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000005
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000006
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000007
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000008
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000009
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000010
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000011
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000012
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000013
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000014
  • 特許6134523-ばねの製造方法 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134523
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】ばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 1/02 20060101AFI20170515BHJP
   C21D 9/02 20060101ALI20170515BHJP
   F16F 1/10 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   F16F1/02 B
   C21D9/02 A
   F16F1/10
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-16108(P2013-16108)
(22)【出願日】2013年1月30日
(65)【公開番号】特開2014-145472(P2014-145472A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】神山 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】天野 猶貴
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 スイス国特許出願公告第00465537(CH,A4)
【文献】 特開2011−215085(JP,A)
【文献】 特開2008−309802(JP,A)
【文献】 特開平06−117470(JP,A)
【文献】 特開昭63−233822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/02
F16F 1/10
C21D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に渦巻曲線からなる渦巻溝を有する型を準備する準備工程と、
前記渦巻溝にばね材を設置するばね材設置工程と、
前記ばね材を前記型とともに熱処理を施す熱処理工程と、
前記型から渦巻状ばねを取り出す取出し工程と、を備え、
前記準備工程は、前記型の前記渦巻溝より外周側に設置する外付け治具を準備する工程を含み、
前記外付け治具は、前記渦巻溝の外端に連続し、前記渦巻溝の最外周の溝に対し前記渦
巻曲線の径方向のピッチの距離よりも外周側に位置する外付け溝を備え、
前記ばね材設置工程は、前記外付け溝に前記ばね材を設置する工程を含むばねの製造方法。
【請求項2】
前記渦巻溝の側面及び底面にコーティング剤を塗布するコーティング工程を備える請求項1に記載のばねの製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、前記型の表面に蓋を設置して熱処理する工程である請求項1又は2に記載のばねの製造方法。
【請求項4】
前記ばね材設置工程は、前記渦巻溝に線材からなる前記ばね材を設置する工程である請求項1〜3のいずれか一項に記載のばねの製造方法。
【請求項5】
前記渦巻溝に接着剤を充填する接着材充填工程を備える請求項4に記載のばねの製造方法。
【請求項6】
前記熱処理工程は、前記線材に前記渦巻曲線の癖付けを行う工程である請求項4又は5に記載のばねの製造方法。
【請求項7】
前記渦巻曲線はアルキメデス曲線からなる請求項1〜6のいずれか一項に記載のばねの製造方法。
【請求項8】
前記型は、前記渦巻溝の内端の近傍であり前記渦巻溝に連続する内端部材受け溝を有し、
前記内端部材受け溝に内端部材を設置する内端部材設置工程を備え、
前記熱処理工程は、前記ばね材と前記内端部材とを接着する工程を含む請求項1〜7のいずれか一項に記載のばねの製造方法。
【請求項9】
前記型は、前記渦巻溝の外端の近傍であり前記渦巻溝に連続する外端部材受け溝を有し、
前記外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程を備え、
前記熱処理工程は、前記ばね材と前記外端部材とを接着する工程を含む請求項1〜8のいずれか一項に記載のばねの製造方法。
【請求項10】
前記型は、前記渦巻溝の最外周の溝に対して前記渦巻曲線の径方向のピッチの距離よりも外周側の位置に外周溝を有し、
前記外周溝の一端が前記渦巻溝の外端に連続する請求項1〜8のいずれか一項に記載のばねの製造方法。
【請求項11】
前記型は、前記外周溝の他端の近傍に外端部材受け溝を有し、
前記外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程を備え、
前記熱処理工程は、前記ばね材と前記外端部材とを接着する工程である請求項10に記載のばねの製造方法。
【請求項12】
前記外付け治具は、前記外付け溝に外端部材受け溝を有し、
前記外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程を備え、
前記熱処理工程は、前記ばね材と前記外端部材とを接着する工程を含む請求項1に記載のばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計のてんぷ等に使用される渦巻状のばねの製造方法、ばね製造用の型、型製造方法、ばね製造装置及びばねに関する。
【背景技術】
【0002】
線状の弾性体を渦巻き状のばねに癖付けする方法として、従来から、巻き込み棒に複数の弾性体からなる線材を取り付け、巻き込み棒を回転させて線材を巻き込み、これを熱処理して渦巻き形状に癖付けするばねの製造方法が知られている。この種のばねはひげぜんまいとして時計のてんぷに使用される。ひげぜんまいの材料として、例えばリボン材が使用される。
【0003】
図12は、線材102をひげぜんまい104に癖付けする方法を説明するための図である。図12(a)は、巻き込み棒に4本の線材を取り付けた状態を表す平面模式図である。図12(b)は、巻き込んだ線材を巻き込み香箱103に収納する様子を表す平面模式図である。図12(c)は、熱処理後に分解したひげぜんまい104の平面模式図である。
【0004】
まず、図12(a)に示すように、巻き込み棒101に4本の線材102を装着する。巻き込み棒101は巻き込み香箱103の中心に設置される。次に、図12(b)に示すように、巻き込み棒101を回転させて4本の線材102を同時に巻き込み、巻き込み香箱103にセットする。次に、4本の線材102を巻き込んだ巻き込み香箱103を熱処理して、各線材102に渦巻き形状の癖付けを行う。次に、図12(c)に示すように、各線材102を巻き込み棒101から取り外し、個々に分離する。これにより、渦巻状に癖付けされたひげぜんまい104を複数本同時に形成することができる。
【0005】
図13は、このように形成したひげぜんまいの平面模式図である。時計のてんぷに使用されるひげぜんまい104はアルキメデス曲線に癖付けする。図13に示すように、アルキメデス曲線は渦巻きピッチPが等しい。ひげぜんまい104をアルキメデス曲線とすることにより、時計のてんぷを構成するてん輪の往復回転振動を一定に保ち、時計が一定の歩度を刻むようにする。
【0006】
図14は、ひげぜんまい104の外周端にひげ持105を、内周端にひげ玉107を設置した状態を表す。ひげ持105は時計のてんぷのてん輪に接続され、ひげ玉107は時計のてんぷのてん真に接続される。ひげ持105の直径はアルキメデス曲線のピッチPよりも大きいので、ひげぜんまい104の外周領域106をピッチPよりも外側に広げる外端癖付けを行う。これにより、ひげ持105と内周側の線材とが接触しないようにする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「The Horological Institute of Japan」、日本時計学会出版、1962年12月15日、P.38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来法により弾性体の線材を熱処理してひげぜんまい104に癖付けすると、所定ピッチの渦巻形状に癖付けすることが難しい。また、経時的に渦巻形状が変化して、例えば時計の歩度精度が低下することがある。また、4本同時に熱処理して癖付けを行った後にひげぜんまい104どうしが付着して分離することができない場合がある。また、外端癖付けを行った後に、時間の経過に伴って外周領域106の線材が内周側に変形し、ひげ持105とひげぜんまい104が接触する。そのため、時計の歩度精度が低下することがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ひげぜんまい104どうしが付着することがなく、また、経時的な変形の少ない渦巻形状のばねの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のばねの製造方法は、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝を有する型を準備する準備工程と、前記渦巻溝にばね材を設置するばね材設置工程と、前記ばね材を前記型とともに熱処理を施す熱処理工程と、前記型から渦巻状ばねを取り出す取出し工程と、を備えることとした。
【0011】
また、前記渦巻溝の側面及び底面にコーティング剤を塗布するコーティング工程を備えることとした。
【0012】
また、前記熱処理工程は、前記型の表面に蓋を設置して熱処理する工程であることとした。
【0013】
また、前記ばね材設置工程は、前記渦巻溝に線材からなる前記ばね材を設置する工程であることとした。
【0014】
また、前記渦巻溝に接着剤を充填する接着材充填工程を備えることとした。
【0015】
また、前記熱処理工程は、前記線材に前記渦巻曲線の癖付けを行う工程であることとした。
【0016】
また、前記渦巻曲線はアルキメデス曲線からなることとした。
【0017】
また、前記型は、前記渦巻溝の内端の近傍であり前記渦巻溝に連続する内端部材受け溝を有し、前記内端部材受け溝に内端部材を設置する内端部材設置工程を備え、前記熱処理工程は、前記ばね材と前記内端部材とを接着する工程を含むこととした。
【0018】
また、前記型は、前記渦巻溝の外端の近傍であり前記渦巻溝に連続する外端部材受け溝を有し、前記外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程を備え、前記熱処理工程は、前記ばね材と前記外端部材とを接着する工程を含むこととした。
【0019】
また、前記型は、前記渦巻溝の最外周の溝に対して前記渦巻曲線の径方向のピッチの距離よりも外周側の位置に外周溝を有し、前記外周溝の一端が前記渦巻溝の外端に連続することとした。
【0020】
また、前記型は、前記外周溝の他端の近傍に外端部材受け溝を有し、前記外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程を備え、前記熱処理工程は、前記ばね材と前記外端部材とを接着する工程であることとした。
【0021】
また、前記準備工程は、前記型の前記渦巻溝より外周側に設置する外付け治具を準備する工程を含み、前記外付け治具は、前記渦巻溝の外端に連続し、前記渦巻溝の最外周の溝に対し前記渦巻曲線の径方向のピッチの距離よりも外周側に位置する外付け溝を備え、前記ばね材設置工程は、前記外付け溝に前記ばね材を設置する工程を含むこととした。
【0022】
また、前記外付け治具は、前記外付け溝に外端部材受け溝を有し、前記外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程を備え、前記熱処理工程は、前記ばね材と前記外端部材とを接着する工程を含むこととした。
【0023】
本発明の型は、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝を有することとした。
【0024】
また、前記渦巻曲線はアルキメデス曲線からなることとした。
【0025】
また、前記渦巻溝の内端の近傍であり前記内端に連続する内端部材受け溝を有することとした。
【0026】
また、前記渦巻溝の最外周の溝に対して前記渦巻曲線の径方向のピッチの距離よりも外周側の位置に外周溝を有し、前記外周溝の一端が前記渦巻溝の外端に連続し、前記外周端の他端の近傍に外端部材受け溝を有することとした。
【0027】
本発明の型製造方法は、基材の表面に感光性樹脂膜を設置する樹脂膜設置工程と、前記感光性樹脂膜を露光現像して渦巻曲線の樹脂膜パターンを形成する樹脂膜パターン形成工程と、前記基材の表面にエッチング処理を施して渦巻曲線からなる渦巻溝を形成する溝形成工程と、前記感光性樹脂膜を除去する樹脂膜除去工程と、を備えることとした。
【0028】
本発明のばね製造装置は、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝を有する型に、前記渦巻溝に沿ってばね材を装着するばね材装着手段と、前記ばね材が装着された型を熱処理するばね材熱処理手段と、前記型から熱処理された渦巻状ばねを取り出すばね材取出し手段と、を備えることとした。
【発明の効果】
【0029】
本発明のばねの製造方法は、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝を有する型を準備する準備工程と、渦巻溝にばね材を設置するばね材設置工程と、ばね材を型とともに熱処理を施す熱処理工程と、型から渦巻状ばねを取り出す取出し工程と、を備える。これにより、経時的変形の少ない渦巻状ばねを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の基本構成に係るばねの製造方法を表す工程図である。
図2】本発明の第一実施形態に係るばねの製造方法を表す工程図である。
図3】本発明の第一実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図4】本発明の型の表面に渦巻溝を形成する型製造方法を表す工程図である。
図5】本発明の第一実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図6】本発明の第一実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図7】本発明の第二実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図8】本発明の第二実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図9】本発明の第三実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図10】本発明の第四実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。
図11】本発明の第五実施形態に係るばねの製造装置を説明するための図である。
図12】従来公知の線材をひげぜんまいに癖付けする方法を説明するための図である。
図13】従来公知のひげぜんまいの平面模式図である。
図14】従来公知のひげぜんまいの外周端にひげ持を内周端にひげ玉を設置した状態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(基本構成)
図1は、本発明の基本構成に係るばねの製造方法を表す工程図である。ばねの製造方法は、準備工程S1において、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝を有する型を準備する。次に、ばね材充填工程S2において、渦巻溝に線状のばね材を設置する。次に、熱処理工程S3において、ばね材を型とともに熱処理する。次に、取出し工程S4において、型から渦巻状に癖付けされた渦巻状ばねを取り出す。これにより、熱処理の際にばねどうしが付着することがなく、経時的変形の少ない渦巻状ばねを容易に製造することができる。
【0032】
(第一実施形態)
図2は、第一実施形態に係るばねの製造方法を表す工程図である。図3図6は、本発明の第一実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。図3は型1の説明図であり、図4は型1の表面に渦巻溝2を形成する型製造方法を表す工程図であり、図5は型1にばね材3を設置した状態を表し、図6は癖付けされた渦巻状ばね12の平面模式図である。
【0033】
本実施形態におけるばねの製造方法は、図2に示すように、渦巻溝を有する型を準備する準備工程S1と、渦巻溝にコーティング剤を塗布するコーティング工程S5と、渦巻溝にばね材を設置するばね材設置工程S2と、内端部材受け溝に内端部材を設置する接着材充填工程S6と、渦巻溝に接着剤を充填する接着剤充填工程S7と、ばね材を熱処理する熱処理工程S3と、型から渦巻状ばねを取り出す取出し工程S4とを備える。
【0034】
図3(a)は型1の平面模式図であり、図3(b)は型1の断面模式図である。まず、準備工程S1において、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝2を有する型1を準備する。型1は、渦巻溝2の内端E1の近傍であり渦巻溝2に連続する内端部材受け溝5を有する。渦巻溝2は、径方向のピッチPが等しいアルキメデス曲線とすることができる。アルキメデス曲線とすることにより、時計のてんぷに適用する場合に歩度精度を向上させることができる。渦巻溝2の径方向の断面は深さ方向に長い長方形とし、渦巻面の垂直方向に幅広のばね材3を収納可能とする。
【0035】
型1は、渦巻状ばねの熱処理温度に応じて材質を選択することができる。渦巻状ばねをプラスチック等の合成樹脂により形成する場合は、後の熱処理工程S3の熱処理温度に耐えられる型材を使用する。渦巻状ばねをガラス材、金属、鋼材等により形成する場合には、型1として金属材料、鋼材、単結晶材料、多結晶材料、或いはセラミックス材料を使用することができる。
【0036】
図4を用いて型1の表面に渦巻溝2を形成する型製造方法を説明する。基材としてシリコンウエハーを使用する例について説明する。まず、樹脂膜設置工程S11において、基材の表面にレジスト等からなる感光性樹脂を塗布又は設置して感光性樹脂膜を形成する。次に、樹脂膜パターン形成工程S12において、感光性樹脂膜を露光現像して渦巻曲線の樹脂パターンを形成する。また、必要に応じて内端部材受け溝用のパターン、或いは外端部材受け溝用のパターンを形成する。次に、溝形成工程S13において、ウエットエッチングやドライエッチング、例えばイオンエッチングにより基材の表面に異方性エッチング処理を施して渦巻曲線からなる渦巻溝2を形成する。渦巻溝2の径方向の断面は深さ方向い長い長方形とすることができる。この場合は、シリコンウエハーをエッチング処理する。次に、樹脂膜除去工程S14において、薬液処理やアッシング処理を行って感光性樹脂膜を除去する。これにより、型1の表面に渦巻溝2と内端部材受け溝5と、必要に応じて後に説明する外端部材受け溝とを形成することができる。基材(型材)として、シリコンウエハーに代えて金属材料やガラス材料を使用することができる。また、凹凸が反転した一次型を形成し、この一次型の表面形状を焼結前の紛体やグリーンシートに転写し、これを焼結することによりセラミックス型を形成することができる。
【0037】
次に、コーティング工程S5において、渦巻溝2の側面及び底面にコーティング剤を塗布することができる。コーティング剤を塗布することによりばね材3を渦巻溝2にスムーズに挿入することが可能となる。コーティング剤としては、テフロン(登録商標)を用いたテフロン(登録商標)コーティングやパリレンを用いたパリレンコーティングを行うことができる。また、渦巻溝2の側面や底面に離型剤を塗布することができる。離型剤として、例えば炭素粉末を渦巻溝2の内面に塗布することができる。
【0038】
なお、内端部材受け溝5は本発明において必須要件ではない。ばね材3を渦巻き状に癖付けして渦巻状ばね12を形成した後に、渦巻状ばね12の内周端に内端部材を取り付けてもよい。しかし、ばね材3を渦巻状ばね12に癖付けする熱処理工程S3において内端部材とばね材3とを接着すれば、接着工程が簡略化される。
【0039】
図5(a)はばね材3を設置した型1の平面模式図であり、図5(b)はその断面模式図である。ばね材設置工程S2において、渦巻溝2に線材からなるばね材3を設置する。渦巻溝2の側面や底面にコーティング剤を塗布すれば、渦巻溝2にばね材3をスムーズに設置することができる。次に、内端部材設置工程S6において、内端部材受け溝5に内端部材7を設置することができる。ばね材3の内端部と内端部材7とを接触又は接続する。内端部材7として、この後の熱処理工程S3においてばね材3と溶着する材料を使用することができる。また、内端部材7とばね材3の接触部にばね材3や内端部材7よりも融点の低いロウ材を設置して接着剤とすることができる。
【0040】
次に、接着剤充填工程S7において、ばね材3が設置される渦巻溝2に接着剤を充填することができる。接着剤を充填することにより、ばね材3を渦巻溝2に固定し、熱処理中にばね材3が渦巻溝2から逸脱するのを防ぐことができる。接着剤として、アラルダイト等を使用することができる。接着剤は後の熱処理中に蒸発して渦巻溝2に残らないものを選択する。
【0041】
型1の上面に蓋を設置することができる。蓋を設置することにより、熱処理中にばね材3が膨張し移動しても、ばね材3が渦巻溝2から逸脱するのを防止することができる。ここで、ばね材3の外端部に細い線材を取り付け、型1に蓋を設置した状態で、渦巻溝2の内端E1の側から細い線材を挿入し、渦巻溝2の外周端の側からこの線材を引っ張ってばね材3を渦巻溝2に導入することができる。また、逆に渦巻溝2の外端E2の側からばね材3を導入してもよい。
【0042】
次に、熱処理工程S3において、ばね材3を型1とともに熱処理を施す。蓋が設置される場合は蓋とともに熱処理する。ばね材3としてリボン材を使用する場合には熱処理温度を約600℃〜1000℃の範囲とする。これによりばね材3に渦巻曲線の癖付けを行う。また、内端部材受け溝5に内端部材7を設置する場合には、ばね材3と内端部材7とを接着することができる。この接着は、いずれかの材料が溶融して溶着するものでも、ロウ材等を介して接着するものでもよい。本発明に係るばねの製造方法では、熱処理工程S3の間に、ばね材3は渦巻溝2の内部に伸縮可能に設置されるので、ばね材3に印加される応力は、複数のばね材を巻棒に巻き込んで癖付けする場合よりも小さい。そのため、熱処理後の残留応力が減少し、癖付け後の渦巻形状が安定する。
【0043】
次に、取出し工程S4において、型1から渦巻状に癖付けされた渦巻状ばね12を取り出す。型1に超音波振動を印加する、或いは型1を割る等の物理的な方法を用いることができる。また、ばね材設置工程S2において渦巻溝2に離型剤を塗布すれば、ばね材3の取り出しが容易となる。型1の渦巻溝2をアルキメデス曲線とすれば、図6に示すように径方向に等しいピッチPの渦巻状ばね12を形成することができる。渦巻状ばね12を時計用のひげぜんまいとして使用する場合は、渦巻状ばね12の外端部に外端部材(ひげ持)を取り付ける。
【0044】
このように、ばね材3を型1の表面に形成した渦巻溝2に設置して熱処理により癖付けを行うことにより、熱処理後の渦巻状ばね12の取り出し時に渦巻状ばね12どうしが付着することがない。また、高精度の渦巻曲線の渦巻状ばね12を形成することができる。更に、渦巻状ばね12の残留応力が減少して渦巻形状が長期間安定する。そのため、時計用のひげぜんまいの製造に好適である。なお、本発明のばねの製造方法において、コーティング工程S5、内端部材設置工程S6及び接着剤充填工程S7の各工程は必須要件ではなく、これらの工程を省いても本発明の効果を発揮させることができる。
【0045】
(第二実施形態)
図7及び図8は、本発明の第二実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。図7は型1の説明図であり、図8は型1にばね材3を設置した状態の説明図である。第一実施形態と異なる点は、型1に形成する渦巻溝2の外端E2の近傍に外端部材受け溝4を形成し、この外端部材受け溝4に外端部材6を設置する点である。その他の基本構成は第一実施形態と同様である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0046】
本実施形態におけるばねの製造方法は、渦巻溝を有する型を準備する準備工程S1と、渦巻溝にばね材を設置するばね材設置工程S2と、内端部材受け溝に内端部材を設置する接着材充填工程S6と、外端部材受け溝に外端部材を設置する外端部材設置工程S8と、ばね材を熱処理する熱処理工程S3と、型から渦巻状ばねを取り出す取出し工程S4とを備える。
【0047】
図7(a)は型1の上面模式図であり、図7(b)は型1の断面模式図である。まず、準備工程S1において、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝2と、渦巻溝2の外端E2の近傍であり渦巻溝2に連続する外端部材受け溝4と、渦巻溝2の内端E1の近傍であり渦巻溝2に連続する内端部材受け溝5とを有する型1を準備する。型1の材料と、型1の表面に渦巻溝2、内端部材受け溝5及び外端部材受け溝4を形成する方法は第一実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0048】
次に、ばね材設置工程S2において、渦巻溝2に線材からなるばね材3を設置する。図8(a)はばね材3を設置した型1の平面模式図であり、図8(b)はその断面模式図である。次に、内端部材設置工程S6において内端部材受け溝5に内端部材7を設置する。更に、外端部材設置工程S8において、外端部材受け溝4に外端部材6を設置する。ばね材3の内端部と内端部材7とを接触又は接続させ、ばね材3の外端部と外端部材6とを接触又は接続させる。内端部材7とばね材3との接触部、外端部材6とばね材3との接触部に融点の低いロウ材を設置して接着剤とすることができる。その他の熱処理工程S3及び取出し工程S4は第一実施形態と同様なので説明を省略する。
【0049】
このようにばね材3に癖付けを行うことにより、熱処理後の渦巻状ばね12の取り出し時に渦巻状ばね12どうしが付着することがない。また、高精度の渦巻曲線の渦巻状ばね12を形成することができる。更に、渦巻状ばね12の残留応力が減少して渦巻形状が長期間安定する。更に、熱処理工程S3においてばね材3の内端部に内端部材7を、ばね材3の外端部に外端部材6を接着するので、製造工程を簡略化することができる。
【0050】
なお、本第二実施形態では、外端部材受け溝4及び内端部材受け溝5にばね材3とは別に外端部材6や内端部材7を設置する製造方法である。これに代えて、予めばね材3の内端部に内端部材7を、外端部に外端部材6をそれぞれ接続しておき、ばね材3を内端側から渦巻溝2に装着してもよい。
【0051】
(第三実施形態)
図9は、本発明の第三実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。図9(a)は、型1及び外付け治具8の平面模式図であり、図9(b)は、型1及び外付け治具8の部分AAの断面模式図であり、図9(c)は、型1及び外付け治具8にばね材3を設置した状態の平面模式図である。第一実施形態と異なる点は、型1の渦巻溝2の外端部に浚い部10が形成され、この浚い部10に外付け治具8を装着してばね材3の外周領域の癖付けを行う点である。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0052】
本実施形態におけるばねの製造方法は、渦巻溝2を有する型1を準備する準備工程S1と、渦巻溝2にばね材3を設置するばね材設置工程S2と、内端部材受け溝5に内端部材7を設置する接着材充填工程S6と、外端部材受け溝4に外端部材6を設置する外端部材設置工程S8と、ばね材3を熱処理する熱処理工程S3と、型1から渦巻状ばねを取り出す取出し工程S4とを備える。
【0053】
まず、準備工程S1は、型1の渦巻溝2より外周側に設置する外付け治具8を準備する工程を含む。型1は外周部に浚い部10が形成され、外付け治具8はこの浚い部10に設置可能に形成される。外付け治具8は、型1の浚い部10に設置したときに、渦巻溝2の外端E2に連続し、渦巻溝2の最外周の溝に対して渦巻曲線の径方向のピッチPの距離よりも外周側に位置する外付け溝9を備える。外付け治具8は外付け溝9に外端部材受け溝4を有する。外付け治具8は外付け溝9を境に第一外付け治具8aと第二外付け治具8bに分割される。なお、外付け治具8は、第一及び第二外付け治具8a、8bのように分割せず、外付け溝9が形成される一体物の外付け治具8としてもよい。型1の材料と、型1の表面に渦巻溝2、内端部材受け溝5を形成する方法は第一実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0054】
次に、図9(c)に示すように、ばね材設置工程S2において、渦巻溝2に線材からなるばね材3を設置し、第一外付け治具8aと第二外付け治具8bの間の外付け溝9にばね材3を設置する。更に、内端部材設置工程S6において、内端部材受け溝5に内端部材7を設置する。外端部材設置工程S8において、外端部材受け溝4に外端部材6を設置する。ばね材3の内端部と内端部材7とを、ばね材3の外端部と外端部材6とを接触或いは接続する。そして、第一及び第二外付け治具8a、8bを外側から押さえる押さえ板11a、11bにより第一及び第二外付け治具8a、8bを固定する。外端部材6又は内端部材7として、この後の熱処理工程S3においてばね材3と溶着する材料を使用することができる。また、外端部材6又は内端部材7とばね材3の接触部にロウ材を設置して接着剤とすることができる。
【0055】
以降の熱処理工程S3及び取出し工程S4は第一実施形態と同様なので、これらの工程の説明を省略する。このように、外付け溝9を渦巻溝2の径方向のピッチPの距離よりも外周側に形成したので、ピッチPよりも直径の大きな外端部材受け溝4を接続することができる。なお、本発明において、浚い部10は必須要件ではなく、型1に浚い部10を形成しないで、型1の表面に外付け治具8を載置する構成であってもよい。また、ばね材3の熱処理工程S3の後に、外付け治具8を用いてばね材3の外端部を塑性変形させ、癖付けを行ってもよい。
【0056】
(第四実施形態)
図10は、本発明の第四実施形態に係るばねの製造方法を説明するための図である。第一実施形態とは準備工程S1において準備する型1が異なる。従って、以下、異なる点について説明する。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0057】
図10(a)は、渦巻溝2の外周側に屈曲部Kが形成される外周溝13を有する型1の平面模式図である。ここで、内端E1から外端E2までが渦巻溝2であり、外端E2から終端E3までが外周溝13である。渦巻溝2は、径方向のピッチPが一定のアルキメデス曲線からなる。図10(a)に示すように、型1は、渦巻溝2の最外周の溝に対して渦巻曲線の径方向のピッチPの距離よりも外周側の位置に外周溝13が形成され、外周溝13の一端が渦巻溝2の外端E2に連続する。外周溝13と渦巻溝2が接続する外端E2において溝は屈曲する。外周溝13は屈曲部Kを有し、屈曲部Kと終端E3の間の外周溝13は、渦巻溝2の最外周の溝に対してほぼ等間隔に形成される。型1は、更に、外周溝13の他端、つまり終端E3の近傍に外端部材受け溝4を有する。なお、本発明は、渦巻溝2に連通する内端部材受け溝5や外端部材受け溝4が形成される型1を準備することが必須要件ではなく、癖付けした後に渦巻状ばねに外端部材6や内端部材7を接続してもよい。
【0058】
このように、渦巻溝2と外周溝13を形成した型1を使用して熱処理を行うので、渦巻溝2と外周溝13に癖付けされたばね材3の形状は長期間安定し、高精度の癖付けが可能となる。また、外周溝13を渦巻溝2の径方向のピッチPの距離よりも外周側に形成したので、ピッチPよりも直径の大きな外端部材受け溝4を形成することができる。従って、時計用のひげぜんまいの製造に好適である。
【0059】
図10(b)は、渦巻溝2の外周側に外周溝13を有し、外周溝13と渦巻溝2が滑らかに連続する型1の平面模式図である。ここで、内端E1から外端E2までが渦巻溝2であり、外端E2から終端E3までが外周溝13である。渦巻溝2は、径方向のピッチが一定のアルキメデス曲線からなる。図10(b)に示すように、型1は、渦巻溝2の最外周の溝に対して渦巻曲線の径方向のピッチPの距離よりも外周側の位置に外周溝13が形成され、外周溝13の一端が渦巻溝2の外端E2に滑らかに連続する。外周溝13は渦巻溝2の外側を複数回に亘って周回するものであってもよい。この場合でも、外周溝13の最外周の溝は渦巻溝2の最外周の溝から径方向にピッチPの距離以上離れて形成されている。
【0060】
このように、渦巻溝2と外周溝13が滑らかに連続するので、渦巻溝2と外周溝13との間の接続部の癖付け形状が長期間安定し、高精度の癖付けを行うことができる。また、外周溝13を渦巻溝2の径方向のピッチPの距離よりも外周側に形成したので、ピッチPよりも直径の大きな外端部材受け溝4を形成することができる。
【0061】
(第五実施形態)
図11は、本発明の第五実施形態に係るばね製造装置を説明するための図である。ばね製造装置20は、表面に渦巻曲線からなる渦巻溝2を有する型1に、渦巻溝2に沿ってばね材3を装着するばね材装着手段21と、ばね材3が装着された型1を熱処理するばね材熱処理手段22と、型1から熱処理された渦巻状ばね12を取り出す図示しないばね材取出し手段とを備える。
【0062】
図11を参照して具体的に説明する。ばね材装着手段21は、巻き回されるばね材3を収納するばね材収納ユニット24、ばね材3を搬送する搬送ローラ25、搬送されるばね材3をガイドするガイド板27、及びばね材3を切断するカッター26などから構成される。ばね材3は、ばね材収納ユニット24から引き出され、搬送ローラ25とガイド板27を介して図示しない蓋が設置される型1の渦巻溝2に導入される。ばね材3が内端E1まで導入されると、ばね材3はカッター26により切断される。
【0063】
ばね材熱処理手段22は型1を加熱して熱処理を施す加熱炉から構成される。ばね材3が装着される型1は図示しない搬送手段によりばね材装着手段21からばね材熱処理手段22に導入され、所定の温度及び時間、熱処理が施される。次に、図示しない搬送手段により型1がばね材熱処理手段22から搬出される。次に、図示しないばね材取出し手段は吸着盤により型1に設置される蓋を吸着して取り除き、図示しないロボットアームにより型1から癖付けされた渦巻状ばね12を取り外す。ばね製造装置20は、これらの一連の動作を自動で行うことができる。
【符号の説明】
【0064】
1 型
2 渦巻溝
3 ばね材
4 外端部材受け溝
5 内端部材受け溝
6 外端部材
7 内端部材
8 外付け治具、8a 第一外付け治具、8b 第二外付け治具
9 外付け溝
10 浚い部
11a、11b 押さえ板
12 渦巻状ばね
13 外周溝
20 ばね製造装置
21 ばね材装着手段
22 ばね材熱処理手段
24 ばね材収納ユニット
E1 内端、E2 外端、E3 終端
P ピッチ、K 屈曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14