(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134550
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】弾性波装置およびそれを用いたアンテナ共用器
(51)【国際特許分類】
H03H 9/64 20060101AFI20170515BHJP
H03H 9/145 20060101ALI20170515BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 Z
H03H9/72
H03H9/145 A
【請求項の数】25
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-59520(P2013-59520)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-187455(P2014-187455A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】514250975
【氏名又は名称】スカイワークスフィルターソリューションズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】池内 哲
【審査官】
角張 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−009588(JP,A)
【文献】
特開平10−065491(JP,A)
【文献】
特開2000−349590(JP,A)
【文献】
特開2007−189746(JP,A)
【文献】
国際公開第02/009279(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/020595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/08−3/10
9/145
9/25
9/42−9/44
9/64
9/68
9/72
9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの入力及び一つの出力を有する弾性波装置であって、
前記一つの入力に対応する第1入力、第1出力、前記第1入力に接続された第1櫛形電極を有する第1インターデジタルトランスデューサ(IDT)電極、及び前記第1出力に接続された第2櫛形電極を有する第2IDT電極を含む第1縦結合型弾性波フィルタと、
前記第1出力に結合された第2入力、前記一つの出力に対応する第2出力、前記第2入力に接続された第3櫛形電極を有する第3IDT電極、及び前記第2出力に接続された第4櫛形電極を有する第4IDT電極を含む第2縦結合型弾性波フィルタと
を含み、
前記第1IDT電極は、第1伝播方向に伝播する第1弾性波を励起するべく構成され、
前記第2IDT電極は、前記第1伝播方向において前記第1IDT電極に隣接して配列されかつ前記第1弾性波を伝播させるべく構成され、
前記第3IDT電極は、第2伝播方向に伝播する第2弾性波を励起するべく構成され、
前記第4IDT電極は、前記第2伝播方向において前記第3IDT電極に隣接して配列されかつ前記第2弾性波を伝播させるべく構成され、
前記第1IDT電極及び前記第2IDT電極は、前記第1櫛形電極及び前記第2櫛形電極の位相が同相関係となるように配列され、
前記第3IDT電極及び前記第4IDT電極は、前記第3櫛形電極及び前記第4櫛形電極の位相が逆相関係となるように配列される弾性波装置。
【請求項2】
前記第1櫛形電極は、前記第1伝播方向に配列された複数の第1電極指を含み、
前記第2櫛形電極は、前記第1伝播方向に配列された複数の第2電極指を含む請求項1の弾性波装置。
【請求項3】
前記第3櫛形電極は、前記第2伝播方向に配列された複数の第3電極指を含み、
前記第4櫛形電極は、前記第2伝播方向に配列された複数の第4電極指を含む請求項2の弾性波装置。
【請求項4】
前記第1IDT電極はさらに、グランドに接続された第5櫛形電極を含み、
前記第5櫛形電極は、前記第1伝播方向に前記複数の第1電極指と交互するように配列された複数の第5電極指を有し、
前記第2IDT電極はさらに、グランドに接続された第6櫛形電極を含み、
前記第6櫛形電極は、前記第1伝播方向に前記複数の第2電極指と交互するように配列された複数の第6電極指を有する請求項3の弾性波装置。
【請求項5】
前記複数の第1電極指の中で前記第2櫛形電極に最も近い第1電極指と、前記複数の第2電極指の中で前記第1櫛形電極に最も近い第2電極指との間において、前記複数の第5電極指及び前記複数の第6電極指からの前記第1伝播方向に配置された電極指の数が奇数である請求項4の弾性波装置。
【請求項6】
前記第3IDT電極はさらに、グランドに接続された第7櫛形電極を含み、
前記第7櫛形電極は、前記第2伝播方向に前記複数の第3電極指と交互するように配列された複数の第7電極指を有し、
前記第4IDT電極はさらに、グランドに接続された第8櫛形電極を含み、
前記第8櫛形電極は、前記第2伝播方向に前記複数の第4電極指と交互するように配列された複数の第8電極指を有し、
前記複数の第3電極指の中で前記第4櫛形電極に最も近い第3電極指と、前記複数の第4電極指の中で前記第3櫛形電極に最も近い第4電極指との間において、前記複数の第7電極指及び前記複数の第8電極指からの前記第2伝播方向に配置された電極指の数がゼロ又は偶数のいずれかである請求項5の弾性波装置。
【請求項7】
前記第1縦結合型弾性波フィルタはさらに、前記第1出力に接続された第5櫛形電極を有する第5IDT電極を含み、
前記第5IDT電極は、前記第1IDT電極が前記第2IDT電極と前記第5IDT電極との間に存在するように、前記第1伝播方向において前記第1IDT電極を介して前記第2IDT電極に対向するように配列され、
前記第5IDT電極は、前記第1弾性波を伝播させるべく構成される請求項3の弾性波装置。
【請求項8】
前記第2縦結合型弾性波フィルタはさらに、前記第2入力に接続された第6櫛形電極を有する第6IDT電極を含み、
前記第6IDT電極は、前記第4IDT電極が前記第3IDT電極と前記第6IDT電極との間に存在するように、前記第2伝播方向において前記第4IDT電極を介して前記第3IDT電極に対向するように配列され、
前記第6IDT電極は、前記第2弾性波を伝播させるべく構成される請求項7の弾性波装置。
【請求項9】
前記第5櫛形電極は、前記第1出力に接続されかつ前記第1伝播方向に配列された複数の第5電極指を含み、
前記第6櫛形電極は、前記第2入力に接続されかつ前記第2伝播方向に配列された複数の第6電極指を含み、
前記第1IDT電極はさらに、グランドに接続された第7櫛形電極を含み、
前記第7櫛形電極は、前記第1伝播方向に前記複数の第1電極指と交互するように配列された複数の第7電極指を有し、
前記第2IDT電極はさらに、グランドに接続された第8櫛形電極を含み、
前記第8櫛形電極は、前記第1伝播方向に前記第2電極指と交互するように配列された複数の第8電極指を有する請求項8の弾性波装置。
【請求項10】
前記複数の第1電極指の中で前記第2櫛形電極に最も近い第1電極指と、前記複数の第2電極指の中で前記第1櫛形電極に最も近い第2電極指との間において、前記複数の第7電極指及び前記複数の第8電極指からの前記第1伝播方向に配置された電極指の数が奇数である請求項9の弾性波装置。
【請求項11】
前記第3IDT電極はさらに、グランドに接続された第9櫛形電極を含み、
前記第9櫛形電極は、前記第2伝播方向に前記複数の第3電極指と交互するように配列された複数の第9電極指を含み、
前記第4IDT電極はさらに、グランドに接続された第10櫛形電極を含み、
前記第10櫛形電極は、前記第2伝播方向に前記複数の第4電極指と交互するように配列された複数の第10電極指を含む請求項10の弾性波装置。
【請求項12】
前記複数の第3電極指の中で前記第4櫛形電極に最も近い第3電極指と、前記複数の第4電極指の中で前記第3櫛形電極に最も近い第4電極指との間において、前記複数の第9電極指及び前記複数の第10電極指からの前記第2伝播方向に配置された電極指の数がゼロ又は偶数のいずれかである請求項11の弾性波装置。
【請求項13】
前記第5IDT電極はさらに、グランドに接続された第11櫛形電極を含み、
前記第11櫛形電極は、前記第1伝播方向に前記複数の第5電極指と交互するように配列された複数の第11電極指を含み、
前記複数の第1電極指の中で前記第5櫛形電極に最も近い第1電極指と、前記複数の第5電極指の中で前記第1櫛形電極に最も近い第5電極指との間において、前記複数の第7電極指及び前記複数の第11電極指からの前記第1伝播方向に配置された電極指の数が奇数である請求項12の弾性波装置。
【請求項14】
前記第6IDT電極はさらに、グランドに接続された第12櫛形電極を含み、
前記第12櫛形電極は、前記第2伝播方向に前記複数の第6電極指と交互するように配列された複数の第12電極指を含み、
前記複数の第4電極指の中で前記第6櫛形電極に最も近い第4電極指と、前記複数の第6電極指の中で前記第4櫛形電極に最も近い第6電極指との間において、前記複数の第10電極指及び前記複数の第12電極指からの前記第2伝播方向に配置された電極指の数がゼロ又は偶数のいずれかである請求項12の弾性波装置。
【請求項15】
前記第1IDT電極及び前記第5IDT電極は、前記第1櫛形電極及び前記第5櫛形電極の位相が同相関係となるように配列され、
前記第4IDT電極及び前記第6IDT電極は、前記第4櫛形電極及び前記第6櫛形電極の位相が逆相関係となるように配列される請求項8の弾性波装置。
【請求項16】
一つの入力及び一つの出力を有する弾性波装置であって、
前記一つの入力に対応する第1入力、第1出力、前記第1入力に接続されかつ第1伝播方向に伝播する第1弾性波を励起するべく構成された第1インターデジタルトランスデューサ(IDT)電極、及び前記第1出力に接続された第2IDT電極を含む第1縦結合型弾性波フィルタと、
前記第1出力に結合された第2入力、前記一つの出力に対応する第2出力、前記第2入力に接続されかつ第2伝播方向に伝播する第2弾性波を励起するべく構成された第3IDT電極、前記第2出力に接続された第4IDT電極を含む第2縦結合型弾性波フィルタと
を含み、
前記第2IDT電極は、前記第1伝播方向において前記第1IDT電極に隣接して配列されかつ前記第1弾性波を伝播させるべく構成され、
前記第1IDT電極は、前記第1伝播方向に配列された複数の第1電極指を有して前記第1入力に接続された第1櫛形電極、及び前記第1伝播方向に前記複数の第1電極指と交互するように配列された複数の第2電極指を有してグランドに接続された第2櫛形電極を含み、
前記第2IDT電極は、前記第1伝播方向に配列された複数の第3電極指を有して前記第1出力に接続された第3櫛形電極、及び前記第1伝播方向に前記複数の第3電極指と交互するように配列された複数の第4電極指を有してグランドに接続された第4櫛形電極を含み、
前記複数の第1電極指の中で前記第3櫛形電極に最も近い第1電極指と、前記複数の第3電極指の中で前記第1櫛形電極に最も近い第3電極指との間において、前記複数の第2電極指及び前記複数の第4電極指からの前記第1伝播方向に配置された電極指の数が奇数であり、
前記第4IDT電極は、前記第2伝播方向において前記第3IDT電極に隣接して配置され、かつ、前記第2弾性波を伝播させるべく構成され、
前記第3IDT電極は、前記第2伝播方向に配列された複数の第5電極指を有して前記第2入力に接続された第5櫛形電極、及び前記第2伝播方向に前記複数の第5電極指と交互するように配列された複数の第6電極指を有してグランドに接続された第6櫛形電極を含み、
前記第4IDT電極は、前記第2伝播方向に配列された複数の第7電極指を有して前記第2出力に接続された第7櫛形電極、及び前記第2伝播方向に前記複数の第7電極指と交互するように配列された複数の第8電極指を有してグランドに接続された第8櫛形電極を含み、
前記第5電極指の中で前記第7櫛形電極に最も近い第5電極指と、前記複数の第7電極指の中で前記第5櫛形電極に最も近い第7電極指との間において、前記複数の第6電極指及び前記複数の第8電極指からの前記第2伝播方向に配置された電極指の数がゼロ又は偶数のいずれかである弾性波装置。
【請求項17】
前記第1縦結合型弾性波フィルタはさらに、前記第1出力に接続された第5IDT電極を含み、
前記第5IDT電極は、前記第1IDT電極に隣接して配列され、前記第1IDT電極を介して前記第2IDT電極に対向するように配列され、かつ、前記第1弾性波を伝播させるべく構成され、
前記第2縦結合型弾性波フィルタはさらに、前記第2入力に接続された第6IDT電極を含み、
前記第6IDT電極は、前記第4IDT電極に隣接して配列され、前記第4IDT電極を介して前記第3IDT電極に対向するように配置され、かつ、前記第2弾性波を伝播するべく構成される請求項16の弾性波装置。
【請求項18】
前記第5IDT電極は、前記第1伝播方向に配列された複数の第9電極指を有して前記第1出力に接続された第9櫛形電極、及び前記第1伝播方向に前記複数の第9電極指と交互するように配列された複数の第10電極指を有してグランドに接続された第10櫛形電極を含み、
前記複数の第1電極指の中で前記第9櫛形電極に最も近い第1電極指と、前記複数の第9電極指の中で前記第1櫛形電極に最も近い第9電極指との間において、前記複数の第2電極指及び前記複数の第10電極指からの前記第1伝播方向に配置された電極指の数が奇数である請求項17の弾性波装置。
【請求項19】
前記第6IDT電極は、前記第2伝播方向に配列された複数の第11電極指を有して前記第2入力に接続された第11櫛形電極、及び前記第2伝播方向に前記複数の第11電極指と交互するように配列された複数の第12電極指を有してグランドに接続された第12櫛形電極を含み、
前記複数の第7電極指の中で前記第11櫛形電極に最も近い第7電極指と、前記複数の第11電極指の中で前記第7櫛形電極に最も近い第11電極指との間において、前記複数の第8電極指及び前記複数の第12電極指からの前記第1伝播方向に配置された電極指の数がゼロ又は偶数である請求項17の弾性波装置。
【請求項20】
入力及び出力を有する一端子対共振器をさらに含み、
前記一端子対共振器の入力が前記第1縦結合型弾性波フィルタの第1出力に接続され、
前記一端子対共振器の出力が前記第2縦結合型弾性波フィルタの第2入力に接続される請求項16から19のいずれか一項の弾性波装置。
【請求項21】
一つの入力及び一つの出力を有する弾性波装置であって、
前記一つの入力に対応する第1入力、第1出力、それぞれが前記第1入力に接続された第1櫛形電極を有する複数の第1インターデジタルトランスデューサ(IDT)電極、及び、前記第1出力に接続された第2櫛形電極をそれぞれが有する複数の第2IDT電極を含む第1縦結合型弾性波フィルタと、
前記第1出力に結合された第2入力、前記一つの出力に対応する第2出力、前記第2入力に接続された第3櫛形電極をそれぞれが有する複数の第3IDT電極、及び、前記第2出力に接続された第4櫛形電極をそれぞれが有する複数の第4IDT電極を含む第2縦結合型弾性波フィルタと
を含み、
前記第1縦結合型弾性波フィルタにおいて、前記第1櫛形電極と前記第2櫛形電極とが同相関係で弾性波の伝播方向に隣接配置され、
前記第2縦結合型弾性波フィルタにおいて、前記第3櫛形電極と前記第4櫛形電極とが逆相関係で弾性波の伝播方向に隣接配置される弾性波装置。
【請求項22】
一つの入力及び一つの出力を有する弾性波装置であって、
前記一つの入力に対応する第1入力、第1出力、前記第1入力に接続された第1櫛形電極をそれぞれが有する複数の第1インターデジタルトランスデューサ(IDT)電極、及び、前記第1出力に接続された第2櫛形電極をそれぞれが有する複数の第2IDT電極を含む第1縦結合型弾性波フィルタと、
前記第1出力に結合された第2入力、前記一つの出力に対応する第2出力、前記第2入力に接続された第3櫛形電極をそれぞれが有する複数の第3IDT電極、及び、前記第2出力に接続された第4櫛形電極をそれぞれが有する複数の第4IDT電極を含む第2縦結合型弾性波フィルタと
を含み、
前記第1縦結合型弾性波フィルタにおいて、弾性波の伝播方向に隣接配置された前記第1櫛形電極と前記第2櫛形電極との間には、グランドに接続された奇数本の第1電極指が配置され、
前記第2縦結合型弾性波フィルタにおいて、弾性波の伝播方向に隣接配置された前記第3櫛形電極と前記第4櫛形電極との間には、グランドに接続されたゼロ又は偶数本の第2電極指が配置される弾性波装置。
【請求項23】
前記第1縦結合型弾性波フィルタと前記第2縦結合型弾性波フィルタとが一端子対共振器を介して接続される請求項21又は22の弾性波装置。
【請求項24】
アンテナ共用器であって、
第1周波数帯の信号を通過させる第1フィルタと、
前記第1周波数帯より高い第2周波数帯の信号を通過させる第2フィルタと
を含み、
前記第1フィルタは請求項1から23のいずれか一項の弾性波装置を含むアンテナ共用器。
【請求項25】
入力端子と出力端子をさらに含み、
前記第1フィルタが前記出力端子と前記入力端子との間に接続され、
前記第2フィルタが前記入力端子と前記第1フィルタとの間に接続される請求項24に記載のアンテナ共用器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器等のフィルタやアンテナ共用器として使用される弾性波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
UMTS(UNIVERSAL MOBILE TELECOMMUNICATIONS SYSTEM)において規定されるBand13やBand20のように受信周波数が送信周波数より低い周波数に設定されている通信規格がある。このような通信規格に対応するアンテナ共用器の受信フィルタを縦結合型弾性波フィルタで構成しようとすると、送信周波数帯域における減衰量が十分に確保できないという課題がある。
【0003】
従来、縦結合型弾性波フィルタの減衰特性を改善する方法として、
図6(特許文献1)に示すような縦結合型弾性波フィルタ501、502、503が3段に縦続接続された弾性波装置500が知られている。しかしながら、このような構成では通過帯域における挿入損失が大きくなってしまいアンテナ共用器の受信フィルタとして望ましくない。
【0004】
他の方法として
図7(特許文献2)に示すような一端子対共振器603を介して2つの縦結合型弾性波フィルタ601、602が縦続接続された弾性波装置600が知られている。さらに
図8(特許文献3)に示すような反共振周波数の異なる2つの一端子対共振器703、704を介して2つの縦結合型弾性波フィルタ701、702が縦続接続された弾性波装置700が知られている。しかしながら、このように2つの縦結合型弾性波フィルタが1端子対共振器を介して単に接続されるだけでは十分な減衰量は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−136651号公報
【特許文献2】特開平10−270982号公報
【特許文献3】特開2000−349590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な挿入損失を保ちながら、減衰特性の改善を図るためになされたものであり、特に通過帯域より高周波側における減衰特性の良好なフィルタ特性を有した弾性波装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の弾性波装置は、複数のIDT電極が弾性波の伝搬方向に配置された第1の縦結合型弾性波フィルタと、複数のIDT電極が弾性波の伝搬方向に配置された第2の縦結合型弾性波フィルタとが縦続接続された弾性波装置であって、第1の縦結合型弾性波フィルタの複数のIDT電極のうち、入力に接続される第1の櫛形電極と、出力に接続される第2の櫛形電極が同位相の関係で配置され、第2の縦結合型弾性波フィルタの複数のIDT電極のうち、入力に接続される第3の櫛形電極と、出力に接続される第4の櫛形電極が逆位相の関係で配置されているものである。
【0008】
また、複数のIDT電極が弾性波の伝搬方向に配置された第1の縦結合型弾性波フィルタと、複数のIDT電極が弾性波の伝搬方向に配置された第2の縦結合型弾性波フィルタとが縦続接続された弾性波装置を受信フィルタとして用いたアンテナ共用器であって、第1の縦結合型弾性波フィルタの前記複数のIDT電極のうち、入力に接続される第1の櫛形電極と、出力に接続される第2の櫛形電極が同位相の関係で配置され、第2の縦結合型弾性波フィルタの前記複数のIDT電極のうち、入力に接続される第3の櫛形電極と、出力に接続される第4の櫛形電極が逆位相の関係で配置されており、第1の縦結合型弾性波フィルタの入力がアンテナ端子に接続され、前記第2の縦結合型弾性波フィルタの出力が受信端子に接続されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、挿入損失が小さく、通過帯域の高域側周波数帯域において良好な減衰特性を有する弾性波装置が得られる。また、本発明の弾性波装置を異なる通過帯域周波数を有するフィルタを具備するアンテナ共用器の通過帯域周波数の低い側のフィルタに用いることにより、挿入損失が小さく、通過帯域の高域側周波数帯域において良好な減衰特性を有するフィルタ特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態1における弾性波装置の模式図
【
図3】本発明の実施の形態1におけるアンテナ共用器の回路図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を、図面を参照し説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の形態1における弾性波装置の構成を示す模式図である。弾性波装置100は、第1の縦結合型弾性波フィルタ101と第2の縦結合型弾性波フィルタ102を有している。なお、図示はしないが、これら第1の縦結合型弾性波フィルタ101と第2の縦結合型弾性波フィルタ102は、レイリー波、或いはSH波(Shear Horizontal)波等の弾性波を伝搬するニオブ酸リチウム系、タンタル酸リチウム系等の圧電基板(図示せず)の上に配置されている。
【0013】
第1の縦結合型弾性波フィルタ101は、2つの反射器151、152の間に5つのIDT電極111、112、113、114、115が弾性波の伝搬方向に並んで配置されている。IDT電極111、112、113、114、115はそれぞれ、複数の電極指131a、132a、133a、134a、135aがバスバーで接続された櫛形電極111a、112a、113a、114a、115aと、複数の電極指131b、132b、133b、134b、135bがバスバーで接続された櫛形電極111b、112b、113b、114b、115bより構成されている。IDT電極112の櫛形電極112aとIDT電極114の櫛形電極114aは入力1に接続されている。IDT電極112の櫛形電極112bとIDT電極114の櫛形電極114bは接地されている。IDT電極111の櫛形電極111aと、IDT電極113の櫛形電極113aと、IDT電極115の櫛形電極115aとは出力2に接続されている。IDT電極111の櫛形電極111bと、IDT電極113の櫛形電極113bと、IDT電極115の櫛形電極115bとは接地されている。また、隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係は同相関係で配置されている。
【0014】
図2(a)〜(d)を用いて、隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係の定義について説明する。
図2(a)〜(d)は入力側IDT電極と出力側IDT電極の近接部を拡大した模式図であり、近接部以外の電極指は割愛して表示されている。
【0015】
図2(a)と
図2(b)は本明細書における同相関係で配置された図である。隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係は、入出力に接続された櫛形電極の間にある接地された電極指が奇数であれば同相関係、偶数であれば逆相関係と定義する。以下具体的に説明する。
図2(a)において入力(IN)に接続されたIDT電極11の櫛形電極11aの電極指31aと、出力(OUT)に接続されたIDT電極12の櫛形電極12aの電極指32aの互いに最も近い電極指同士の間には、1本だけ接地された電極指32bがある。
図2(b)において入力(IN)に接続されたIDT電極13の櫛形電極13aの電極指33aと、出力(OUT)に接続されたIDT電極14の櫛形電極14aの電極指34aの互いに最も近い電極指同士の間には、1本だけ接地された電極指33bがある。このようにホット端子に接続された互いに最も近い電極指同士の間に存在する接地された電極指が奇数であるような配置を隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係は同相関係であると定義する。
【0016】
図2(c)と
図2(d)は本明細書における逆相関係で配置された図である。
図2(c)において入力(IN)に接続されたIDT電極15の櫛形電極15aの電極指35aと、出力(OUT)に接続されたIDT電極16の櫛形電極16aの電極指36aの互いに最も近い電極指同士の間には、接地された電極指は電極指35bと電極指36bに各1本の計2本がある。
図2(d)において入力(IN)に接続されたIDT電極17の櫛形電極17aの電極指37aと、出力(OUT)に接続されたIDT電極18の櫛形電極18aの電極指38aの互いに最も近い電極指同士の間には、接地された電極指はなく0本である。このようにホット端子に接続された互いに最も近い電極指同士の間に存在する接地された電極指が偶数であるような配置を隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係は逆相関係であると定義する。
【0017】
以上の定義を踏まえて改めて第1の縦結合型弾性波フィルタ101の構成を説明する。入力1に接続されたIDT電極112の櫛形電極112aと出力2に接続されたIDT電極111の櫛形電極111aの互いに最も近い電極指同士の間には、接地された電極指132bの内の1本がある。IDT電極112とIDT電極113との関係、IDT電極114とIDT電極113との関係およびIDT電極114とIDT電極115との関係もすべてホット端子に接続された互いに最も近い電極指同士の間に存在する接地された電極指が1本あるように配置されており、隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係は同相関係である。
【0018】
第2の縦結合型弾性波フィルタ102は、2つの反射器153、154の間に5つのIDT電極116、117、118、119、120が弾性波の伝搬方向に並んで配置されている。IDT電極116、117、118、119、120はそれぞれ、複数の電極指136a、137a、138a、139a、140aがバスバーで接続された櫛形電極116a、117a、118a、119a、120aと、複数の電極指136b、137b、138b、139b、140bがバスバーで接続された櫛形電極116b、117b、118b、119b、120bより構成されている。IDT電極116の櫛形電極116aと、IDT電極118の櫛形電極118aと、IDT電極120の櫛形電極120aとは入力3に接続されている。IDT電極116の櫛形電極116bと、IDT電極118の櫛形電極118bと、IDT電極120の櫛形電極120bとは接地されている。IDT電極117の櫛形電極117aとIDT電極119の櫛形電極119aは出力4に接続されている。IDT電極117の櫛形電極117bとIDT電極119の櫛形電極119bは接地されている。入力3に接続されたIDT電極116の櫛形電極116aと出力4に接続されたIDT電極117の櫛形電極117aとの互いに最も近い電極指同士の間には、接地された電極指136bの内の1本と、接地された電極指137bの内の1本の計2本の接地された電極指がある。IDT電極117とIDT電極118との関係、IDT電極119とIDT電極118との関係およびIDT電極119とIDT電極120との関係もすべてホット端子に接続された互いに最も近い電極指同士の間に存在する接地された電極指が2本とされており、隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係は逆相関係で配置されている。
【0019】
第1の縦結合型弾性波フィルタ101の出力2と第2の縦結合型弾性波フィルタ102の入力3は電気的に接続され、縦続接続されている。このように隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係が同相関係である縦結合型弾性波フィルタと隣り合うIDT電極の櫛形電極の位相関係が逆相関係である縦結合型弾性波フィルタとが縦続接続された構成にすることで、通過帯域より高域側の減衰帯域におけるインピーダンスを高インピーダンス化できる。その結果通過帯域における挿入損失を小さく保ったまま、減衰特性の良好なフィルタ特性を実現できる。特に通過帯域より高周波側の減衰特性に優れたフィルタが得られる。
【0020】
さらに、第1の縦結合型弾性波フィルタ101の出力2と一端子対共振器103の2つの反射器155、156の間のIDT電極121の一方の櫛形電極121aとが接続され、第2の縦結合型弾性波フィルタ102の入力3と一端子対共振器103の他方の櫛形電極121bとが接続され、第1の縦結合型弾性波フィルタ101と第2の縦結合型弾性波フィルタ102とが一端子対共振器103を介して縦続接続された構成としてもよい。この際、一端子対共振器103の反共振周波数は通過帯域より高い周波数に設定される。一端子対共振器103の反共振周波数は高インピーダンスであるため、このような構成とすることで通過帯域より高周波側の減衰特性をさらに改善することができる。
【0021】
図3は本発明の実施の形態1におけるアンテナ共用器の回路図を示す図である。アンテナ共用器300は、アンテナ端子301と受信端子302と送信端子303とを有する。アンテナ端子301と送信端子303とを結ぶように送信フィルタ306が設けられている。アンテナ端子301と受信端子302とを結ぶように受信フィルタ304が設けられている。アンテナ端子301と受信フィルタ304の間には一端子対共振器305が直列に接続されている。受信フィルタ304は、
図1に示す構成にされるとよく、第1の縦結合型弾性波フィルタ101の入力がアンテナ端子301側に接続され、第2の縦結合型弾性波フィルタ102の出力が受信端子302側に接続され、一端子対共振器103を介して第1の縦結合型弾性波フィルタ101と第2の縦結合型弾性波フィルタ102とが縦続接続された構成とするとよい。
【0022】
Band13用のアンテナ共用器(受信帯域746.6MHz〜755.6MHz、送信帯域777.6MHz〜786.6MHz)を例に、本発明の実施の形態1におけるアンテナ共用器の受信フィルタ特性と従来の受信フィルタ特性の比較を
図4にて説明する。
図4は横軸が周波数、縦軸に通過特性を示した図である。比較したアンテナ共用器の受信フィルタは、2つの縦結合型弾性波フィルタが一端子対共振器を介して縦続接続された構成であり、縦結合型弾性波フィルタの隣り合うIDT電極の位相関係のみが異なっている。表1に実施例1の受信フィルタと、比較例1の受信フィルタと比較例2の受信フィルタの縦結合型弾性波フィルタの隣り合うIDT電極の位相関係を示す。
図4に示すとおり、実施例1における受信フィルタ特性は、送信帯域において64dBの減衰量が得られている。一方、比較例1の受信フィルタ特性は、送信帯域における減衰量は55dBであり、比較例2の受信フィルタ特性は、送信帯域における減衰量は47dBである。このように、隣り合うIDT電極の位相関係を第1の縦結合型弾性波フィルタ101において同相関係、第2の縦結合型弾性波フィルタ102において逆相関係にすることで良好な減衰特性が得られる。実施例1における受信フィルタ特性は、受信帯域における挿入損失の劣化もない。
【0024】
更に、アンテナ共用器の受信フィルタとして最適なIDT電極の位相関係を検討した。表2に実施例1の受信フィルタと、実施例2の受信フィルタの縦結合型弾性波フィルタの隣り合うIDT電極の位相関係を示す。実施例1の受信フィルタはアンテナ端子側の縦結合型弾性波フィルタを同相関係、受信端子を逆相関係とした。実施例2の受信フィルタは、アンテナ端子側の縦結合型弾性波フィルタを逆相関係、受信端子を同相関係とした。位相関係以外は全て同じ条件で比較した。
図5に比較した受信特性を示す。実施例1における受信フィルタ特性は、送信帯域において64dBの減衰量が得られている。一方、実施例2の受信フィルタ特性は、送信帯域における減衰量は57dBである。このように、隣り合うIDT電極の位相関係をアンテナ端子側の第1の縦結合型弾性波フィルタ101において同相関係、受信端子側の第2の縦結合型弾性波フィルタ102において逆相関係にすることで良好な減衰特性が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る弾性波装置は、移動体通信機器等に用いられるフィルタとして有用であり、特にアンテナ共用器の受信フィルタとして有用である。
【符号の説明】
【0027】
100、500、600、700 弾性波装置
101、102、501、502、503、601、602、701、702 縦結合型弾性波フィルタ
103、305、603、703、704 一端子対共振器
11、12、13、14、15、16、17、18、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121 IDT電極