特許第6134553号(P6134553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134553
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】耐酸性良好な二相ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170515BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20170515BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   C22C38/00 302H
   C22C38/58
   C21D8/02 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-65246(P2013-65246)
(22)【出願日】2013年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-227669(P2013-227669A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-73551(P2012-73551)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100062421
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】浦島 裕史
(72)【発明者】
【氏名】松橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】柘植 信二
(72)【発明者】
【氏名】梶村 治彦
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−525636(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0112840(US,A1)
【文献】 特開2006−193823(JP,A)
【文献】 特開2006−169622(JP,A)
【文献】 特開2011−105973(JP,A)
【文献】 特開2010−084220(JP,A)
【文献】 特開2007−146202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、
C:0.06%以下、
Si:0.1〜1.5%、
Mn:4.0〜10.0%、
P:0.05%以下、
S:0.005%以下、
Cr:20.0〜24.0%、
Ni:0.5〜4.0%、
Mo:2.0〜4.0%、
Cu:0.1〜2.5%、
Al:0.003〜0.050%、
O:0.007%以下、
N:0.10〜0.30%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下記(1)〜(3)を満たすとともにフェライト相面積率が40〜70%であることを特徴とする耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
(1)(1)式で表されるGIが50以上200以下
(2)GIαが55以上
(3)(2)式で表されるGIdifが0以上
GI=−Cr+18Ni+30Cu−10Mn+35Mo・・・・・・(1)
GIdif=GIα−GIγ・・・(2)
但し、上記の式において各元素名は何れもその含有量(質量%)を表す。
また、GIαは、フェライト相中の元素含有量で計算したGI値を意味し、
GIγは、オーステナイト相中の元素含有量で計算したGI値を意味する。
【請求項2】
更に、質量%で
Ti:0.003〜0.050%、
Nb:0.01〜0.20%
の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
【請求項3】
更に、質量%で
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0030%以下、
B:0.0005〜0.0050%、
REM:0.10%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
【請求項4】
更に、質量%で
Sn:0.03〜0.2%、
V:0.05〜0.5%、
Co:2.0%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
【請求項5】
更に、L断面のオーステナイト相の長径Lγの平均が50μm以上かつ(4)式を満たすことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
1000≦Lγ×t≦10000・・・(4)
Lγは、L断面のオーステナイト相の長径の長さ(μm)を示す。
tは、製品板厚(mm)を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト相とフェライト相の二相を持つ二相ステンレス鋼のうち、汎用二相ステンレス鋼において、安価でかつ耐酸性・製造性が良好な汎用二相ステンレス鋼に関するものであって、高価なNiから安価なNへの代替量を増加することができ、低コストながらも、オーステナイト相の優先溶解を利用することでMnによる耐酸性低下を抑制し、低コストかつ耐酸性・製造性を阻害しない耐酸性良好な二相ステンレス鋼に係るものである。
【背景技術】
【0002】
二相ステンレス鋼は鋼の組織にオーステナイト相とフェライト相の両相を持ち、高強度高耐食性の材料として以前から石油化学装置材料、ポンプ材料、ケミカルタンク用材料等に使用されている。更に、二相ステンレス鋼は一般に低Niの成分系であることから、直近の金属原料高騰状況に伴い、ステンレス鋼の主流であるオーステナイト系ステンレス鋼より合金コストが低くかつ変動が少ない材料として注目を浴びている。
【0003】
二相ステンレス鋼の直近のトピックとして低コスト化とその使用量増加がある。低い合金コストのメリットを更に増大させた鋼種で、特許文献1、2等が該当する。いずれもASTM−A240で規格化されており、特許文献1はS32101(代表成分22Cr−1.5Ni−5Mn−0.22N)に対応し、特許文献2はS82441(代表成分24Cr−3.6Ni−3Mn−0.27N)に対応する。いずれも、JIS規格のSUS329J3LやASTM規格のS31803およびS32205のような汎用タイプの二相ステンレス鋼において、高価なNiを安価なMnに代替し、さらに高価なMoを安価なCu、Nの増量で代替することで、低コスト化を図ったものである。また、相間の成分を規定したものに特許文献3があり、該文献によれば、フェライト相とオーステナイト相の耐孔食性の差が小さくなるような規定をすることで、二相ステンレス鋼の耐食性が改善できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2002/27056号公報
【特許文献2】WO2010/070202号公報
【特許文献3】特開2003−293090号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Luhua Zhang et al.:Electrochimica Acta, 54(2009), p5387−5392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの中で特に酸を使用する環境で用いられ耐食性が要求される汎用型二相ステンレス鋼であるS31803を低コスト化する際に耐酸性の低下および特性の劣化が問題となる。低コスト化のため、高価なNiを低減する成分設計をおこなう場合、その耐酸性向上効果が失われる上、相バランスが崩れることにより、窒化物が析出し、特性の低下をまねくという課題があった。
【0007】
本発明では、高価なNi成分を低減しても耐酸性の低下を押さえ、かつ窒化物の析出を抑制し、酸環境中で使用する際の課題を少なくした経済的な汎用型二相ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはCrが24%以下、Moが4.0%以下、Niが4.0%以下の成分系をベースとした、低コスト化による耐酸性の低下を抑制する方法について詳細に調査した結果、改善策について以下の知見を得た。
【0009】
単相ステンレス鋼の場合、耐酸性および耐孔食性は、添加元素量と対応しているといわれている。そこで、上記ベース成分系において種々添加量を変更して試験鋼片を作成し、腐食試験により耐酸性および耐孔食性におよぼす各元素の抑制効果、促進効果の大きさを具体的に数値化した。その結果、上記環境で使用するためには、(1)式で表されるGI値を50以上にする必要があることが分かった。
GI=−Cr+18Ni+30Cu−10Mn+35Mo・・・・・(1)
但し、式中の各元素名は何れもその含有量を表す(質量%)
また、式中の元素のうち、含有しないものや、その含有量が不明である場合は、当該元素を0として計算する。
【0010】
さらに発明者らは、断面観察をすることで、フェライトとオーステナイトの溶解相が変化することを見出した。特に、個別に分布するオーステナイト相が優先溶解し、母相であるフェライト相が障壁として腐食の進行を防止する場合、耐酸性が良好であることが分かった。すなわち、オーステナイトではなく、フェライトの耐酸性が二相ステンレスの耐酸性に大きく影響し、フェライト相のGI値を制御することが、有効であることを見出した。成分を分析した結果、フェライト中のGI値 GIαが55以上の場合耐酸性は良好となることが分かった。
【0011】
また、単にフェライト相の耐酸性を向上させれば良いのではなく、相間の耐酸性差も重要であることを見出した。つまり、前記特許文献3のようにフェライト相とオーステナイト相の差を小さくすれば良いのではなく、逆に相間の耐酸性差を大きくしたほうが耐酸性に有効であることが分かった。この相間の耐酸性差は(2)式で表され、本発明の効果を得るためには、GIdifが0以上必要であり、特に10以上の鋼種では、耐酸効果がさらに高まる傾向があった。
GIdif=GIα−GIγ・・・(2)
但し、式中のGIαは、フェライト相中の元素含有量で計算したGI値を意味し、GIγは、オーステナイト相中の元素含有量で計算したGI値を意味する。
【0012】
本発明者らは、以上の知見を基に、成分組成の設計を行った。上記(1)式を見ると分かるように、GI値は、Ni、Cu、Moの添加量増加と、Cr、Mn量減少により大きな値を取る。その中で、フェライト相に濃縮し、フェライト相の耐酸性を高める効果が大きいMoを減少させることなく、オーステナイト相に濃縮し、フェライト相の耐酸性に与える影響が小さい、高価なNiを低下することでコスト改善を図った。しかしながら、Niの減少にともない、オーステナイト相も減少してしまうため、相バランスの調整が必要となる。低コストながらもオーステナイト相を増やす効果が期待できるものは、N、Cuである。CuはNに比べ、オーステナイト相増加効果が少ない上、多量に添加すると熱間脆性を引き起こしてしまことがあるため、N添加による改善を試みた。
【0013】
しかしながら、Nを添加することによりオーステナイト相増加効果は高いものの、製造時に窒化物を析出し、Cr欠乏層の形成による耐食性の低下および靭性の劣化を引き起こしてしまう。そのため、Mn添加により窒化物の析出抑制を図った。前述の様にMnは耐酸性を悪化させる元素であるが、予想よりも耐酸性の悪化が小さかった。この効果の詳細なメカニズムは不明であるが、上述した相間の耐酸性差を制御することによって、これまでの二相鋼と異なり、Mnが濃化しているオーステナイト相が先に溶解するため、表面のMn濃度が低下し、耐酸性に及ぼす悪影響が小さくなるためであると推測される。このようにMnを添加することで、製造時の窒化物析出の抑制と耐酸性の確保を両立させることに成功した。
【0014】
以上のように、本発明者らは、新たに得た知見に基づいて成分を規定することで、低コストかつ耐酸性が良好な成分を両立し得る条件を詳細に検討し、本発明の完成に至った。
【0015】
以上の知見より、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
即ち、
(1)質量%にて、
C:0.06%以下、 Si:0.1〜1.5%、 Mn:4.0〜10.0%、
P:0.05%以下、 S:0.005%以下、 Cr:20.0〜24.0%、
Ni:0.5〜4.0%、Mo:2.0〜4.0%、 Cu:0.1〜2.5%、
Al:0.003〜0.050%、O:0.007%以下、N:0.10〜0.30%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ、下記(1)〜(3)を満たすとともに、フェライト相面積率が40〜70%であることを特徴とする耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
(1)(1)式で表されるGIが50以上200以下
(2)GIαが55以上
(3)(2)式で表されるGIdifが0以上
GI=−Cr+18Ni+30Cu−10Mn+35Mo・・・・(1)
GIdif=GIα−GIγ・・・(2)
但し、上記の式において各元素名は何れもその含有量(質量%)を表す。
また、GIαは、フェライト相中の元素含有量で計算したGI値を意味し、
GIγは、オーステナイト相中の元素含有量で計算したGI値を意味する。
(2)更に、質量%でTi:0.003〜0.050%、Nb:0.01〜0.20%の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)に記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
(3)更に、質量%でCa:0.0050以下%、Mg:0.0030以下%、B:0.0005〜0.0050%、REM:0.10%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)または(2)に記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
(4)更に、質量%でSn:0.03〜0.2%、V:0.05〜0.5%、Co:2.0%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)の何れかに記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
(5)更に、L断面のオーステナイト相の長径Lγの平均が50μm以上かつ(4)式を満たすことを特徴とする前記(1)〜(4)の何れかに記載の耐酸性良好な二相ステンレス鋼。
1000≦Lγ×t≦10000・・・(4)
Lγは、L断面のオーステナイト相の長径の長さ(μm)を示す。
tは、製品板厚(mm)を示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、合金コストを低下した汎用タイプ二相ステンレス鋼において大きな課題の一つである耐酸性低下の抑制を、製造性を阻害することなく解決することが出来る。その結果、合金コストを低下した汎用タイプ二相ステンレス鋼において、耐酸性が課題となっていた用途への拡大が図れ、産業上寄与するところは極めて大である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
以下に先ず、本発明の請求項1記載の限定理由について説明する。なお、成分についての%は、質量%を意味する。
Cは、ステンレス鋼の耐食性を確保するために、0.06%以下の含有量に制限する。0.06%を越えて含有させるとCr炭化物が生成して、耐食性が劣化する。好ましくは、0.04%以下である。一方、含有量を極端に減ずることは大幅なコストアップになるため、好ましくは下限を0.001%とする。
【0018】
Siは、脱酸のため0.1%以上添加する。しかしながら、1.5%を超えて添加すると靱性が劣化する。そのため、上限を1.5%に限定する。好ましい範囲は、0.2〜1.0%である。
【0019】
Mnは、二相ステンレス鋼中の窒化物の析出を抑制することから、4.0%以上添加する。しかしながら、10.0%を超えて添加すると耐酸性が劣化する。そのため、上限を10.0%に限定する。好ましい範囲は、4.0超〜8.0%であり、更に好ましくは5.0〜6.5%である。
【0020】
Pは、鋼中に不可避的に含有される元素であって、熱間加工性を劣化させるため、0.05%以下に限定する。好ましくは0.03%以下である。一方、含有量を極端に減ずることは大幅なコストアップになるため、好ましい下限は0.005%である。
【0021】
Sは、Pと同様に鋼中に不可避的に含有される元素であって、熱間加工性および耐食性をも劣化させるため、0.005%以下に限定する。好ましくは、0.002%以下である。一方、含有量を極端に減ずることは大幅なコストアップになるため、好ましくは下限を0.0001%とする。
【0022】
Crは、耐食性を確保するために基本的に必要な元素である上、比較的安価な合金であるため、本発明では20.0%以上含有させる。一方、フェライト相を増加させる元素であり、24.0%を超えて含有させるとフェライト量が過多となり耐食性を害する。好ましくは21.0%以上23.0%以下とする。
【0023】
Niは、二相ステンレス鋼中のオーステナイト相を増加させることおよび各種酸に対する耐食性を改善するのに有効な元素であり、0.5%以上添加させるが、高価な合金であるため本発明では可能な限り抑制し、4.0%以下とする。好ましい範囲は、1.0〜3.0%である。
【0024】
Moは、ステンレス鋼の耐食性を付加的に高める非常に有効な元素であり2.0%以上添加する。しかしながら、非常に高価な元素であるため本発明では可能な限り抑制し、その上限を4.0%以下と規定した。好ましい範囲は、2.5〜3.5%である。
【0025】
CuはNiと同様二相ステンレス鋼中のオーステナイト相を増加させることおよび各種酸に対する耐食性を改善するのに有効な元素であり、かつNiと比べて安価な合金であるため本発明では0.1%以上添加するが、2.5%を越えて含有させると熱間加工性を阻害するので上限を2.5%とした。好ましい範囲は、0.5%〜2.0%である。
【0026】
Alは、鋼の脱酸のための重要な元素であり、鋼中の酸素を低減するために0.003%以上の含有が必要である。一方でAlはNとの親和力が比較的大きな元素であり、過剰に添加するとAlNを生じて母材の靭性を阻害する。その程度はN含有量にも依存するが、Alが0.050%を越えると靭性低下が著しくなるためその含有量の上限を0.050%と定めた。好ましくは0.030%以下である。
【0027】
Oは、非金属介在物の代表である酸化物を構成する有害な元素であり、過剰な含有は靭性を阻害する。また粗大なクラスター状酸化物が生成すると表面疵の原因となる。このためその含有量の上限を0.007%と定めた。好ましくは0.005%以下である。一方、過度に低減することはコストの増加につながるため、好ましい下限を0.0005%とする。
【0028】
Nは、オーステナイト相に固溶して強度、耐食性を高めると共に母材および熱影響部のオーステナイト相を増加させる有効な元素である。このために0.10%以上含有させる。一方、0.30%を越えて含有させると製造時にCr窒化物が析出して耐食性の低下を引き起こすため含有量の上限を0.30%とした。好ましい含有量は0.15〜0.25%である。
【0029】
Ti、Nbは、極微量で窒化物を形成しCr窒化物の析出を抑制する効果があり、必要に応じて1種または2種を添加することが出来る。
Tiに関しては、上記効果を発揮するには0.003%以上の添加が必要である。
一方0.050%を越えて二相ステンレス鋼に含有させると粗大なTiNが生成して鋼の靭性を阻害するようになる。このためその含有量を0.003〜0.050%と定めた。好ましくは、0.003〜0.020%である。
【0030】
Nbは、上記のCr窒化物の析出を抑制する効果に加え、更に耐食性を高める作用も有する。また、Nbが形成する窒化物、炭化物は熱間加工および熱処理の過程で生成し、結晶粒成長を抑制し、鋼材を強化する作用を有する。このために必要に応じて0.01%以上含有させる。一方過剰な添加は熱間圧延前の加熱時に未固溶析出物として析出するようになって靭性を阻害するようになるためその含有量の上限を0.20%と定めた。好ましくは、0.01%〜0.10%である。
【0031】
Ca,Mg,B,REMは、それぞれ熱間加工性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することが出来る。この効果を得るためには、Ca:0.0050%以下、Mg:0.0030%以下、B:0.0005〜0.0050%、REM:0.10%以下の1種または2種以上を添加する必要がある。また、いずれも上限を超えると靭性を低下するため、添加する場合は各上限値までとする。好ましくは、Ca:0.0010〜0.0050%、Mg:0.0001〜0.0015%、B:0.0005〜0.0030%、REM:0.005〜0.05%である。ここでREMはLaやCe等のランタノイド系希土類元素の含有量の総和とする。
【0032】
Sn,V,Coは、それぞれ耐食性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することが出来る。この効果を得るためには、Sn:0.03〜0.2%、V:0.05〜0.5%、Co:2.0%以下の1種または2種以上を添加することが必要である。一方、それぞれ上限を超えると、SnおよびVは熱間加工性を阻害し、Coはコストが高くなるため、添加する場合は各上限値までとする。Coの好ましい範囲は、0.03〜1.0%である。
【0033】
なお、当該二相鋼において良好な特性を得るためにはフェライト相面積率を40〜70%の範囲にすることが必要である。40%未満では靱性不良が、70%超では熱間加工性、応力腐食割れの問題が出てくる。また、何れの場合も耐食性が不良となる。
【0034】
さらに、本発明ではGIを耐酸性の指標として設定する。GIが大きいほど、金属母地の腐食速度が小さいため、板厚が減少しにくく、GIが小さいほど金属母地の腐食速度が大きく、板厚が減少しやすい。前述のように耐酸性は、合金元素添加量によって決定され、GIによりあらわすことができる。具体的には、下記(1)式で表されるGI値が50以上200以下であればよい。
GI =−Cr+18Ni+30Cu−10Mn+35Mo・・・・・・・(1)
GI値が50未満の場合、金属母地の耐酸性が劣るため、耐酸性を必要とする用途に適用することが出来ない。また、200を超えると効果が飽和し、コストが増大するのみとなるため、上限を200に限定する。好ましくは、75〜175である。
【0035】
また、本発明においては、上述した知見に基づき、フェライト相の耐酸性を規定する必要がある。フェライト相中の含有元素量にて、上記GI値を計算したものをGIαとした場合に、GIαは55以上必要である。GIαが55未満である場合、フェライト相の耐酸性が十分でなく、耐酸性を必要とする用途に適用することが出来ない。
【0036】
また、GIdifは、フェライト相とオーステナイト相のGI値の差を示すものであり、GIdifが大きいほど、オーステナイト相の溶解が促進され、フェライト相の耐酸性が向上する。具体的には、下記(2)式で表されるGIdif値が0以上であればよい。好ましくは10以上である。
GIdif=GIα−GIγ・・・(2)
なお、GIα、及びGIγは、それぞれ実施例で後述する方法によって各相中の元素含有量を測定し、GIを求める(1)式にその含有量を代入することで算出することが可能である。また、GIdifを制御する方法、つまり、フェライト相とオーステナイト相にそれぞれ含有する元素量を制御することは、公知の方法を用いることが出来る。例えば、非特許文献1に記載の方法を用いることが出来る。
【0037】
さらに、オーステナイト相の形状を制御することで、さらなる耐酸性の向上効果が達成できることが明らかとなった。検討の結果、オーステナイト相がより長く伸展している場合、耐酸性向上効果が見られ、その長さLγは50μm以上であることが分かった。一般的な850〜1150℃で熱処理した場合、Lγは熱処理温度が低いほど大きくなる傾向が見られた。また、オーステナイト相の長さLγと、製品板厚tには相関関係があり、tが小さくなるほど、Lγは大きくなり、その積Lγ×tを製造性の指標とすることができる。検討の結果、Lγ×tが1000以上10000以下の場合、製造性が良好であった。1000≦Lγ×t≦10000とする。
【0038】
また、本発明の二相ステンレス鋼を製造する方法は、熱間圧延工程と最終熱処理工程を少なくとも有する。オーステナイト相を伸展させ、Lγを大きくするには、熱間圧延工程において、オーステナイト相が多く存在する温度領域かつ、高い板厚減少率で熱延する必要がある。オーステナイト相が少なくとも40%以上存在する温度領域Tγ40でなければ、Lγが大きくなる効果は小さい。
【0039】
さらに、熱延時のTγ40における、元スラブ厚に対する累積板厚減少率R値が重要である。R値が高ければ、オーステナイト相が伸展し、低ければ伸展効果が小さくなる。R値が5%未満であると耐酸性改善効果が小さい。さらに、50%以下の領域では製造性が良好であった。このため、さらなる耐酸性改善のために、オーステナイト相が40%以上存在する温度Tγ40で、R値が5%〜50%で熱間圧延することとする。熱間圧延工程においては、このTγ40におけるR値を制御することが重要であり、Tγ40以外の温度域での圧延率は製品板厚に応じて適宜設定して良い。
【0040】
最終熱処理工程については、900〜1100℃とすることが好ましい。これは、上述したように、熱処理温度が低いほどLγが大きくなる傾向があるが、Lγ×tを1000〜10000の範囲に制御すると製造性が良好になるためである。
【実施例】
【0041】
以下に実施例について記載する。表1に供試鋼の化学組成を示す。なおこの表1に記載されている含有量は、鋼材に含有されている量であり、後述するフェライト相に含有されている元素量、オーステナイト相に含有されている元素量とは異なる。成分以外はFeおよび不可避的不純物元素である。なお、空欄は当該元素を意図的に添加していないため測定していないことを示す。
【0042】
これらの成分鋼を実験室の50kg真空誘導炉によりMgOるつぼ中で溶製し、約120mm角の鋼塊に鋳造した。鋼塊の本体部分より80t×110w×lの寸法に鍛造した後、熱間圧延用素材を加工し、1180℃の温度に1〜2h加熱後、仕上温度900℃狙いの条件にて圧延し12mm厚×約700mm長の熱間圧延鋼板を得た。なお圧延直後の鋼材温度が800℃以上の状態より200℃以下までスプレー冷却を実施した。最終の溶体化熱処理は1050℃×20分均熱後水冷の条件で実施した。
【0043】
上記により得られた厚鋼板について以下の通り特性評価を行った。
熱間加工性の評価は圧延材約700mmのうち最も長い耳割れの長さを耳割れ長さとし、5mm以上の耳割れが存在する場合は熱間加工性が悪いと判定した。また、耳割れ長さが範囲内であっても、表面疵が見られる場合は同様に熱間加工性が悪いと判定した。耳割れ長さの評価結果は、表2に耳割れ長さを記載した。また、表面疵が見られる場合は、備考欄に記載した。
【0044】
耐酸性については、表層から25×25×3mmの試験片を採取し、試験片の表面を#600研磨した試験片を用いた。まず、基本的な耐食性評価として、60℃、10%硫酸中に30min浸漬した。その後、試験前後の重量変化より腐食速度を算出し、鋼種間の耐酸性を比較した。耐酸性用途に必要とされる0.1mm/y以下を良好とした。評価結果は、表2に腐食速度を記載した。また、さらなる特性向上のためのより過酷な試験として、60℃、30%硫酸中に30min浸漬した。その後、同様に試験前後の重量変化より腐食速度を算出し、鋼種間の耐酸性を比較した。耐酸性用途に必要とされる0.1mm/y以下を良好とした。評価結果は、表3に腐食速度を記載した。
【0045】
また、耐孔食性については、JISG0577に準拠した孔食電位測定をおこなった。具体的には、表層から25×10×2mmの試験片を採取し、1cmの試験面を残し、シリコン被覆材で被覆した試験片を準備した。試験開始直前に#600研磨をし、不動態皮膜を除去した試験片について、50℃、Ar脱気した1.0mol/LのNaCl水溶液中に浸漬して10min後、速度20mV/minで電位を掃印し、電流密度が100μA/cmを示した際の電位を孔食電位とした。0.40V以上を良好と判定した。評価結果は、表2に孔食電位を記載した。
【0046】
相中の元素の分析は、EPMAにより実施した。ビーム系を1μmに絞り、フェライト相およびオーステナイト相の中央部を点分析することにより、それぞれの相の合金元素濃度を測定した。この方法で得られたフェライト相中、オーステナイト相中にそれぞれ含有される合金元素量を用いて、GIα、及びGIγを算出した。算出方法は、上記の通り、GIを求める(1)式にそれぞれの相中の元素含有量を代入することで算出した。また、GIαとGIγを(2)式に代入することにより、GIdifを算出した。これらのうち、GIαとGIdifの算出値を表1に記載した。
【0047】
評価結果を表2に示す。
本発明鋼では、圧延材の耳割れおよび耐酸性はいずれも良好な値を示した。
【0048】
熱間加工性については、Si、P、S、Cu、Al、Sn、V、Ca、Mg、REM、B、Ti、Nb添加量多過のそれぞれNo.D、G、H、P、Q、U、V、X、Y、Z、AA、AB、ACで熱延板の耳割れが5mmを超える結果となった。
【0049】
耐酸性については、GIが50未満のNo.A、F、I、M、OおよびGIdifが0未満のNo.Bで腐食速度が0.1mm/yを超え、耐酸性は劣位であった。耐孔食性については、Cが多いNo.C、Mnが少ないNo.E、Crが少ないNo.K、Nが多いNo.S、Moが少ないNo.M、およびα量多過により耐食性の低下がみられるNo.L、Rで孔食電位が0.40Vを下回り、耐孔食性は劣位であった。また、表面の疵よりNo.Tが劣位であった。コストの観点からNo.J、N、Wは対象外とした。
【0050】
R値とLγ×tとの関係は、ラボにおいて、R値が2〜70%、tが2〜50mmまで変化させた試験片を作成し、最終の溶体化熱処理は1050℃×20分均熱後水冷の条件とした。Lγは、サンプルL断面のミクロ試験片を加工し、シュウ酸電解エッチングにより粒界を現出させ、光学顕微鏡により長さを測定した。
【0051】
評価結果を表3に示す。
R値が5%未満のNo.a、f、kは、Lγが50μm以下となり、腐食速度が0.1mm/y超となった。熱処理温度が900〜1100℃、1000≦Lγ×t≦10000かつR≦50%を満たすNo.a、b、c、d、f、h、i、k、m、nは、製造性が良好であった。
【0052】
以上の実施例からわかるように本発明により耐酸性に優れた汎用二相ステンレス鋼が得られることが明確となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、汎用二相ステンレス鋼において、Ni低減により低合金コスト化を図り、かつ大きな課題の一つである耐酸性の劣化および製造性の悪化を抑制でき、その結果、低合金コスト化を図った汎用二相ステンレス鋼の用途のうち耐酸性が課題となっていた用途への適用範囲拡大によるコスト削減が図れ、産業上寄与するところは極めて大である。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】