(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料等の高機能材料の製造には、微粉化や高分散化などに加え高純度化が要求されている。そのような材料に使用される粉砕機は、従来のボールミルから高速で粉砕・分散メディアを攪拌することにより高い粉砕・分散効率を有する媒体攪拌型ミルが主流となっており、特許文献1〜2のように、耐摩耗性、耐衝撃性に優れたY
2O
3強化ジルコニア(Y−TZP)製の粉砕・分散用メディアが用いられている。Y−TZPメディアは優れた耐摩耗性を有していることから高効率の粉砕・分散が可能で、かつ被粉砕・分散粉体へのメディアからの摩耗粉の混入を極力少なくできる点で、セラミック積層コンデンサーであるチタン酸バリウム等の電子材料粉体の粉砕・分散に広く採用されている。
【0003】
しかしながら、年々、電子部品の特性向上が図られるに従って、従来のY−TZPメディアが有する摩耗特性ではメディアからの被粉砕・分散粉体への摩耗粉の混入による電子部品特性への影響が大きくなってきており、メディアからの摩耗粉の混入を一層抑制できるメディアが求められるようになってきた。また、電子部品の使用用途の広がりから材料組成が多様化し、同時に多岐にわたる粉体製造方法の採用により、使用される原料粉体特性も大きく変化している。そのため、粉体粒度だけでなく、粉体硬さも大きく変動し、従来のY−TZPメディアでは十分対応出来ない場合が指摘されており、粉体硬さが高くなっても摩耗が少ないY−TZPメディアが求められている。
【0004】
従来のY−TZPメディアでは媒体攪拌型ミル等で粉体を水等の溶媒を用いて粉砕・分散した場合、Y−TZPの結晶粒界が水により腐食され、その結果、摩耗特性が劣化することが指摘されていたが、これらの問題を改善したY−TZPメディアが特許文献3〜4に開示されている。しかしながら、これらのY−TZPメディアはスラリー温度に対する耐摩耗の劣化は抑えられるが、前記高硬度の粉体の粉砕・分散における摩耗特性の劣化は抑えられない。
そのため、高靭性、耐衝撃性などの機械的特性を有し、高硬度の被粉砕物にも対応可能で且つ耐摩耗性のより優れたジルコニア質粉砕・分散用メディアが望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
要件(a):ZrO
2結晶の97体積%以上が正方晶である点について
本発明ではZrO
2結晶の97体積%以上を正方晶とする。好ましくは99体積%以上である。ジルコニア質焼結体が単斜晶を多く含有していると、その結晶周辺に微細なクラックが生じ機械的特性の低下をきたす。一方、立方晶を多く含有していると機械的特性の低下だけでなく、結晶粒界付近にY
2O
3が偏在しやすくなって耐久性の低下をきたす。
ジルコニアの結晶相である単斜晶系ジルコニア(M)の存在の有無及び含有量は、X線回折により求めることができる。即ち、焼結体及び加工した焼結体製品の表面は応力誘起相変態により正方晶から単斜晶に変態しており、真の結晶相を同定することができないため、焼結体表面を鏡面まで研磨し、X線回折により、回折角27〜34度の範囲で測定して、次式により求める。
【0011】
また、正方晶系ジルコニア(T)及び立方晶系ジルコニア(C)の存在の有無及び含有量は、単斜晶系ジルコニアの有無を確認した方法と同様にして、X線回折により、回折角70〜77度の範囲で測定して、次式により求める。
【数2】
【0012】
要件(b):〔Y
2O
3〕と〔ZrO
2〕のモル比(〔Y
2O
3〕/〔ZrO
2〕)が
2.3/97.7〜3.5/96.5の範囲にある点について
本発明では、〔Y
2O
3〕/〔ZrO
2〕モル比を2.3/97.7〜3.5/96.5の範囲内とする。好ましくは2.5/97.5〜3.0/97.0である。
また、ZrO
2原料中に少量含有することのあるHfO
2が混入していてもよく、要件(b)における〔ZrO
2〕量は、ZrO
2とHfO
2の合計量のことである。
また、Y
2O
3添加量の30モル%までは他の希土類酸化物の1種又は2種以上で置換したものも用いることができ、例えば、CeO
2、Nd
2O
3、Yb
2O
3、Dy
2O
3等が安価な点で好ましい。上記〔Y
2O
3〕はこれらの合計量を意味する。
ZrO
2原料に添加する〔Y
2O
3〕の割合が2.3/97.7未満の場合には、焼結体中の単斜晶系ジルコニア量が増加し、焼結体内部にクラックが発生し、負荷が加わったり長時間使用するとクラックが進展し、割れや欠けが発生し、結果的に耐久性及び耐摩耗性の低下をきたす。一方、〔Y
2O
3〕の割合が3.5/96.5を超えると、正方晶系ジルコニア量が低下し立方晶系ジルコニア量が増加するため機械的特性が低下する。
【0013】
要件(c):Al
2O
3を、5重量%を超え30重量%以下含有する点について
本発明のジルコニア質焼結体のAl
2O
3含有量は5重量%を超え30重量%以下、好ましくは5重量%を超え20重量%以下とする。アルミナはジルコニア結晶粒界に偏析し、また、同時に結晶粒子としてジルコニア結晶粒界に存在し、粒界結合強度の向上に寄与するため、耐衝撃性や耐摩耗性の向上が図れる。しかしながら、特許文献3〜4に記載されているように、ZrO
2は、Al
2O
3含有量が5重量%を超えると焼結性が低下することが指摘されており、焼結性の低下に伴い耐摩耗性など機械的特性が低下する。
これに対し、本発明では、後述するSiO
2/Al
2O
3重量比を特定の範囲内とすることにより、Al
2O
3含有量が5重量%を超えても機械的特性が低下せず、更に5重量%を超え30重量%以下の範囲では、従来のY−TZPメディアよりも優れた耐摩耗性を有し、更には高硬度の粉体の粉砕・分散処理においても優れた耐久性及び耐摩耗性を有することを見出した。Al
2O
3含有量が5重量%以下ではAl
2O
3添加の効果がなく耐摩耗性の向上を図ることができない。またAl
2O
3含有量が30重量%を超えると硬度は向上するが、靭性が低下し耐衝撃性の低下や耐摩耗性の低下を招く。
【0014】
要件(d):SiO
2とAl
2O
3の重量比(SiO
2/Al
2O
3)が、
0.7/99.3〜
4.0/96.0の範囲にある点について
本発明では、SiO
2/Al
2O
3重量比を
0.7/99.3〜
4.0/96.0の範囲内とする。SiO
2を含有すると焼結性が向上し、また粒界強度の向上により耐摩耗性が向上する効果がある。SiO
2が上記割合よりも少ないと焼結性の向上効果は得られず、耐摩耗性の向上を図ることができないし、強度の向上も図れない。一方、SiO
2が上記割合よりも多いと、ZrO
2結晶粒界にSiO
2の第二相が形成され、耐久性及び耐摩耗性が劣化する。
【0015】
要件(e):平均結晶粒径が0.3〜0.7μmである点について
本発明では、平均結晶粒径を0.3〜0.7μmとする。好ましくは0.3〜0.4μmである。平均結晶粒径が0.3μm未満では靭性の低下が起こり、硬い粉体を粉砕・分散した際にチッピング発生等のトラブルの原因となる。また、平均結晶粒径が0.7μmを超えると、耐久性及び耐摩耗性が劣化する。上記平均結晶粒径は、メディア断面を鏡面にまで研磨し、次いで熱エッチング又は化学エッチングを施した後、走査電子顕微鏡で観察し、インターセプト法により10点測定した平均値とする。
算出式は次の通りである。
D=1.5×L/n
〔D:平均結晶粒径(μm)、L:測定長さ(μm)、n:L当たりの結晶粒子数〕
【0016】
要件(f):相対密度が95%以上である点について
相対密度が95%未満の場合は欠陥となる気孔が多く存在し、強度、硬度の低下が起こり、その結果、耐摩耗性の低下だけでなく、耐久性の低下が起こる。相対密度の上限は、99.5%程度である。相対密度(R.D.)の算出式は次の通りである。
R.D.={Dx/〔(Wa+Wz)/(Wa/Da+Wz/Dz)〕}×100
Dx:かさ密度(g/cm
3)
Da:Al
2O
3理論密度(3.99g/cm
3)
Dz:ZrO
2理論密度(6.1g/cm
3)
Wa:Al
2O
3重量%
Wz:ZrO
2重量%
【0017】
本発明のジルコニア質焼結体は種々の方法で作製できるが、例えば次の(1)(2)の方法が挙げられる。
(1)ZrO
2とY
2O
3の含有量が所定のモル比となるようにジルコニウム化合物の水溶液とイットリウム化合物の水溶液を均一に混合し、加水分解し、水和物を得、脱水、乾燥させた後、400〜1250℃で仮焼し、ジルコニア粉体を得る方法。
(2)ZrO
2とY
2O
3の含有量が所定のモル比となるように、ジルコニウム化合物とイットリウム化合物を、酸化物あるいは塩の形態で水あるいは有機溶媒を用いて湿式で混合し、脱水、乾燥させた後、400〜1250℃で仮焼し、ジルコニア粉体を得る方法。
なお、Y
2O
3以外の成分は、上記(1)や(2)などの方法で合成を行う前に添加してもよいし、後述する仮焼粉体の粉砕・分散時に、水酸化物、炭酸化物、酸化物等の形態で添加してもよい。
【0018】
得られた仮焼粉体を湿式で粉砕・分散し、乾燥して成形用粉体を得る。必要に応じて、成形助剤の添加やスプレードライヤーによる整粒を行う。
得られた成形用粉体の粒度は、比表面積3〜30m
2/g、好ましくは5〜20m
2/gとする。この範囲に収まるように粉砕・分散条件を制御する必要がある。前記範囲を外れると、成形性や焼結性の低下が起こり、焼結体に気孔や欠陥が多く存在するため、耐摩耗性及び耐久性に劣ることになる。
得られた成形用粉体を用いて、水を含有させたアルコール類、パラフィン系炭化水素等の有機溶媒、可溶性高分子又は水を用いて、転動造粒成形法により成形体を得る。
【0019】
次いで、得られた成形体を1300〜1550℃程度で焼成して、本発明のジルコニア質焼結体を得る。また、必要に応じてHIP(Hot isostatic press)処理を施すことにより、焼結体内部の欠陥を低減又は小さくして、摩擦、衝撃、圧壊等に対する抵抗性を高くすることができ、耐摩耗性や耐久性を向上させることが出来る。HIP処理は、常圧焼結した後、ArやN
2などの不活性雰囲気又はO
2雰囲気下、1150〜1550℃、500〜2000気圧で処理することが望ましい。
更に、焼成過程で汚染された上記焼結体の表面を研磨などにより除去すれば、本発明の粉砕・分散用メディアが得られる。
なお、得られるジルコニア質焼結体は、製造工程で混入することがある各種成分(TiO
2、Fe
2O
3、CaO、MgO、Na
2Oなど)の総量が0.1重量%程度までであれば、耐摩耗性などの効果が低下することはない。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜
8、比較例1〜10
純度99.9重量%のオキシ塩化ジルコニウムと、純度99.9重量%の硝酸イットリウムを、表1の実施例及び比較例の各欄に示す組成となるように水溶液にして混合した。次いで、得られた水溶液を加熱還流下で加水分解し、脱水、乾燥し、Y
2O
3が固溶した水和ジルコニウムを得、これを600〜1200℃で1時間仮焼し、得られたジルコニア粉体を湿式で粉砕・分散した。なお、Y
2O
3以外の成分であるAl
2O
3は酸化アルミニウム粉体(純度99.99%、平均粒子径0.2μm)を、SiO
2はシリカゾル(純度99.9%、平均粒子径0.02μm)を、粉砕時に所定量添加混合した。
次いで、得られた各スラリーを乾燥、整粒して成形用粉体とし、水を用いて転動造粒成形し、得られた各成形体を約1280〜1600℃で焼成し、放冷して直径1mmの球状のジルコニア質焼結体を得た。各ジルコニア質焼結体の焼成温度、化学組成、特性を表1に示す。
【0022】
上記ジルコニア質焼結体をバレル研磨によって仕上げ、実施例及び比較例の粉砕・分散用メディアの評価用試料とした。
次いで、各評価用試料400ccを、内容積600ccのダイノーミル(シンマルエンタープライゼス社製:タイプKDL、ベッセルはニッカトー社製の高強度ジルコニア:YTZ)に入れ、10℃に保持した濃度20重量%のBaTiO
3スラリー(BaTiO
3粉体の比表面積は2.7m
2/g)及び濃度20重量%のAl
2O
3スラリー(Al
2O
3粉体の比表面積は5.6m
2/g)を400cc/minで循環させ、ディスク周速8m/secで24時間を1回として5回運転し、時間あたりのメディア摩耗率(即ち、ジルコニア質焼結体摩耗率)を測定し、それぞれの5回平均値を表1に示した。メディア摩耗率はテスト前後の時間あたりの重量変化率として次式により算出した。
【0023】
【数3】
また、表2に、実施例1、
3、4、比較例3、7、8のBaTiO
3粉砕摩耗率、及びAl
2O
3粉砕摩耗率の5回平均値及び20回平均値を示す。
【0024】
表1、表2から分かるように、実施例では優れた耐摩耗性及び耐久性を示し、硬度の低いチタン酸バリウムの粉砕を行う場合、及び硬度の高いアルミナ粉体を粉砕する場合のいずれにおいても、かつ長時間の使用においても優れた耐摩耗性、耐久性を示した。
これに対し、比較例では本発明の要件(a)〜(f)を満たさないため、耐摩耗性及び耐久性に劣る結果となった。また、比較例1、2、5、10では、摩耗試験後にワレが発生した。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】