特許第6134568号(P6134568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧

<>
  • 特許6134568-農業用空気入りタイヤ 図000003
  • 特許6134568-農業用空気入りタイヤ 図000004
  • 特許6134568-農業用空気入りタイヤ 図000005
  • 特許6134568-農業用空気入りタイヤ 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134568
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】農業用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
   B60C11/03 200B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-87775(P2013-87775)
(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公開番号】特開2014-210501(P2014-210501A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】大西 雄介
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−188077(JP,A)
【文献】 特開昭54−029407(JP,A)
【文献】 特開2009−280086(JP,A)
【文献】 特開昭58−152604(JP,A)
【文献】 特開2005−067419(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035889(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド踏面に、複数のラグが形成された農業用空気入りタイヤにおいて、
前記ラグに、少なくとも1本の細溝を有し、
前記細溝は、前記ラグの延在方向に交差する方向に延び、
前記細溝の溝幅の合計は、前記ラグのペリフェリ長さの0.1%以上20%以下であり、
前記ラグの幅の中点を結んでなる中心線を仮想し、前記ラグを、該中心線を境界として、踏み込み端側と蹴り出し端側とに分けたとき、
前記細溝が、踏み込み端側と蹴り出し端側との双方に延び、
前記細溝の溝深さが、前記ラグの踏み込み端側と前記ラグの蹴り出し端側とで異なることを特徴とする、農業用空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に、複数のラグが形成された農業用空気入りタイヤにおいて、
前記ラグに、少なくとも1本の細溝を有し、
前記細溝は、前記ラグの延在方向に交差する方向に延び、
前記細溝の溝幅の合計は、前記ラグのペリフェリ長さの0.1%以上20%以下であり、
前記ラグの幅の中点を結んでなる中心線を仮想し、前記ラグを、該中心線を境界として、踏み込み端側と蹴り出し端側とに分けたとき、
前記細溝が、踏み込み端側と蹴り出し端側との双方に延び、
前記細溝の溝幅が、前記ラグの踏み込み端側と前記ラグの蹴り出し端側とで異なることを特徴とする、農業用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ラグは、該ラグの踏み込み端側のラグ溝と、該ラグの蹴り出し端側のラグ溝と、によってトレッド周方向に区画され、
前記細溝は、前記踏み込み端側のラグ溝および前記蹴り出し端側のラグ溝の少なくとも一方に連通している、請求項1又は2に記載の農業用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記細溝は、前記ラグの延在方向の法線方向に延在していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の農業用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ラグを該ラグの延在方向に仮想的に3等分し、タイヤ赤道面側から順に、中央陸部、中間陸部、トレッド端側陸部とするとき、
前記細溝は、少なくとも1本の前記細溝が前記中間陸部に延在するように形成された、請求項1〜4のいずれか一項に記載の農業用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記細溝の溝幅は、10mm以上20mm以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の農業用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記細溝は、接地面内に位置する場合は閉塞し、かつ、接地面外に位置する場合は開放する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の農業用空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記細溝の溝深さは、前記ラグの高さの3%以上100%以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の農業用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農業用空気入りタイヤの大型化、及びその使用環境の高速化により、タイヤのゴムの発熱が大きくなる傾向になり、このことによりタイヤライフが短くなる傾向にあることがわかってきている。
【0003】
特に農業用空気入りタイヤは、一般に、トレッド踏面に肉厚のゴムブロックからなるラグを複数有しているため(例えば、特許文献1参照)、上記大型化や高速化に伴って、このラグの発熱量が大きくなる傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−24270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに対し、例えばラグの高さを低くしてラグの体積を減少させることにより、ラグの発熱量を低減させることが考えられる。しかし、ラグの高さを低くすると、圃場でのトラクション性能が低下することになる。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決しようとするものであり、その目的は、圃場におけるトラクション性能を損なうことなく、路上走行時のラグの発熱性能を向上させた農業用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記の課題を解決すべく、特に、農業用空気入りタイヤの路面走行時及び圃場走行時のラグの挙動について鋭意検討を重ねた。その結果、発明者は、農業用空気入りタイヤでは、路上走行時における高速度域及び高荷重での使用によって、ラグの収縮によるトレッドゴムの変形が著しく、このことがラグの発熱量の増大の主要因であることを見出した。さらに、発明者は、農業用空気入りタイヤにおいては、圃場走行中には、ラグがそのペリフェリ方向に収縮する変形が大きいことを見出した。そして、発明者は、ラグに細溝を適切に形成することにより、荷重時には、接地面内で上記トレッドゴムの圧縮応力を緩和してラグの発熱量を低減し、一方で、接地面外では当該細溝が開放することにより外気によってラグを冷却することができ、従って路面走行時のラグの発熱性能を向上させることができるとの知見を得た。さらに、圃場走行中には、上記ラグのペリフェリ方向の収縮を上記細溝が閉塞するように変形することで吸収することができるため、接地面積の低下を抑制することができ、圃場走行時のトラクション性能も確保することができることの知見も得た。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は、以下の通りである。本発明の一態様の農業用空気入りタイヤは、トレッド踏面に、複数のラグが形成された農業用空気入りタイヤにおいて、前記ラグに、少なくとも1本の細溝を有し、前記細溝は、前記ラグの延在方向に交差する方向に延び、前記細溝の溝幅の合計は、前記ラグのペリフェリ長さの0.1%以上20%以下であり、前記ラグの幅の中点を結んでなる中心線を仮想し、前記ラグを、該中心線を境界として、踏み込み端側と蹴り出し端側とに分けたとき、前記細溝が、踏み込み端側と蹴り出し端側との双方に延び、前記細溝の溝深さが、前記ラグの踏み込み端側と前記ラグの蹴り出し端側とで異なることを特徴とする。これにより、圃場におけるトラクション性能を損なうことなく、路上走行時のラグの発熱性能を向上させることができる。また、ラグの面外曲げ変形の大きいラグの踏み込み端側にも細溝を設けることによって、より効果的にラグの変形を緩和することができる。また、変形の大きい踏み込み端側で溝を深くすることにより、より効果的にラグの変形による発熱を抑制することができる。また、本発明の他の態様の農業用空気入りタイヤは、トレッド踏面に、複数のラグが形成された農業用空気入りタイヤにおいて、前記ラグに、少なくとも1本の細溝を有し、前記細溝は、前記ラグの延在方向に交差する方向に延び、前記細溝の溝幅の合計は、前記ラグのペリフェリ長さの0.1%以上20%以下であり、前記ラグの幅の中点を結んでなる中心線を仮想し、前記ラグを、該中心線を境界として、踏み込み端側と蹴り出し端側とに分けたとき、前記細溝が、踏み込み端側と蹴り出し端側との双方に延び、前記細溝の溝幅が、前記ラグの踏み込み端側と前記ラグの蹴り出し端側とで異なることを特徴とする。これにより、圃場におけるトラクション性能を損なうことなく、路上走行時のラグの発熱性能を向上させることができる。また、ラグの面外曲げ変形の大きいラグの踏み込み端側にも細溝を設けることによって、より効果的にラグの変形を緩和することができる。また、変形の大きい踏み込み端側で溝幅を大きくすることにより、より効果的にラグの変形による発熱を抑制することができる。ここで、「細溝の溝幅」とは、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での細溝の開口幅をいうものとする。また、当該細溝の溝幅が一定でない場合には、当該細溝の開口部における溝面積を当該細溝の延在長さで除した値をいうものとする。ここで、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARD MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.)YEAR BOOK等に規定されたリムを指す。また、「規定内圧」とは、タイヤを適用リムに装着した際の、適用サイズのタイヤにおけるJATMA等の規格のタイヤ最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。また、「ラグのペリフェリ長さ」とは、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態でのラグのペリフェリ長さをいうものとし、ラグの蹴り出し側と踏み込み側とのうち、蹴り出し側の側壁に沿った長さをいうものとする。
【0010】
さらに、本発明では、前記ラグは、該ラグの踏み込み端側のラグ溝と、該ラグの蹴り出し端側のラグ溝と、によってトレッド周方向に区画され、前記細溝は、前記踏み込み端側のラグ溝および前記蹴り出し端側のラグ溝の少なくとも一方に連通していることが好ましい。農機が路上を走行しラグ踏面への負荷が大きくなる場合、いずれのラグ溝にも連通しない細溝では、変形による応力集中が溝端で大きくなり、ひび割れ等が起こる可能性がある。農業用タイヤのラグパターンは、陸部面積が特に小さく(農業用タイヤではネガティブ率は、例えば75%〜80%であり、他種タイヤのネガティブ率は、例えば農業用タイヤ対比1/3〜1/2である)、接地面積が狭くなり踏面の接地圧が高くなるため、上記のような構成とすることによって、ひび割れを抑制することが有効である。
【0011】
ここで、本発明にあっては、前記細溝は、前記ラグの延在方向の法線方向に延在していることが好ましい。圃場走行時にて、ラグがそのペリフェリ方向に収縮するのを効果的に緩和することができるからである。なお、「法線方向に延在」とは、細溝が形成された位置でのラグの延在方向に対して、細溝が90°に延在している場合に限定されず、細溝が形成された位置でのラグの延在方向に対して、細溝が85°以上95°以下の角度で傾斜して延在している場合も含むものとする。
【0012】
また、本発明では、前記ラグを当該ラグの延在方向に仮想的に3等分し、タイヤ赤道面側から順に、中央陸部、中間陸部、トレッド端側陸部とするとき、前記細溝は、少なくとも1本の前記細溝が前記中間陸部に延在するように形成されることが好ましい。上記の定義による中間陸部において、最もラグの変形が大きく、当該箇所に細溝を配置することにより、効果的にラグの変形を緩和させることができるからである。
【0013】
さらに、本発明では、前記細溝の溝幅は、10mm以上20mm以下であることが好ましい。上記したラグの変形を緩和する効果をより一層高めつつ、接地時に細溝が閉塞するようにして、圃場走行時に細溝内に土等が入り込んで詰まってしまうのを抑制することができるからである。
【0014】
ここで、本発明においては、前記細溝は、接地面内に位置する場合は閉塞し、かつ、接地面外に位置する場合は開放することが好ましい。接地面内では細溝が閉塞することにより、圃場走行時に細溝内に土等が入り込んで詰まってしまうのを抑制することができ、一方で、接地面外では細溝が開放することにより外気による冷却効果を得ることができるからである。ここで、「接地面内」、「接地面外」とは、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、最大負荷荷重を負荷した際の接地面内および接地面外をいうものとする。
【0015】
また、本発明では、前記細溝の溝深さは、前記ラグの高さの3%以上100%以下であることが好ましい。上記の範囲とすることにより、上記したラグの変形を緩和する効果をより一層高めることができるからである。なお、「溝深さ」とは、細溝の最深部での溝深さをいうものとし、「ラグ高さ」、「溝深さ」は、タイヤを適用リムに組み込み、規定内圧を充填し、無負荷とした状態で定義するものとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、圃場におけるトラクション性能を損なうことなく、路上走行時のラグの発熱性能を向上させた農業用空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る農業用空気入りタイヤのトレッド展開図である。
図2】ラグ及び細溝について説明するための斜視図である。
図3】(a)〜(i)ラグに形成する細溝について説明するための平面図である。
図4】(a)〜(l)細溝の断面形状について説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る農業用空気入りタイヤ(以下、タイヤと称する)について、図面を参照して詳細に例示説明する。なお、タイヤの内部構造等については従来と同様であるため説明を省略する。図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤのトレッド展開図である。図1に示すように、このタイヤは、トレッド踏面1に、複数のラグ2を有している。具体的には、図1に示すように、トレッド踏面1において、タイヤ赤道面CLを挟んでトレッド幅方向の一方側に形成された第1ラグ20と、トレッド幅方向の他方側に形成された第2ラグ21と、がトレッド周方向に間隔を設けて交互に形成されている。図示例のタイヤは、図示のようにタイヤ回転方向が指定されたタイヤであって、図示例では、ラグ2は、当該ラグ2の踏み込み端2a側のラグ溝3と、当該ラグ2の蹴り出し端2b側のラグ溝3とによってトレッド周方向に区画されている。図示例では、踏み込み端2a側はラグ2の湾曲内側(曲率中心側)であり、蹴り出し端2b側は、ラグ2の湾曲外側である。
【0021】
ここで、図1に示すように、ラグ2のトレッド周方向に対する傾斜角度θは、例えば、40°以上50°以下とすることが好ましい。上記傾斜角度θを40°以上とすることにより、トラクション性能を確保することができ、また、第1ラグ20と第2ラグ21とのトレッド周方向の重なり部分を確保して、上下振動を低減し、乗り心地性能を確保することができるからである。一方で、50°以下とすることにより、ラグ踏み込み端2a側で土を掻きトラクションを発生させる性能を確保することができるからである。なお、上記傾斜角度θは、ラグ2のトレッド幅方向両端点同士を結んだ直線がトレッド周方向になす角度とする。
【0022】
図2は、ラグ2の形状及び寸法について説明するための斜視図である。図2は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした際のラグの様子を示している。ここで、図2に示すように、ラグ2のトレッド幅方向の長さLwは、トレッド幅TWの50〜75%とすることが好ましい。50%以上とすることで、トレッド幅方向にラグ2の投影面を見た際に隙間が空かず、土を掻いてトラクションを発生させる性能を確保し、また、ラグの重なりによって上下振動を低減し、乗り心地性を確保することができ、一方で、75%以下とすることで、泥はけ性を確保することができるからである。また、図2に示すように、ラグ2のペリフェリ長さLtは、トレッド幅の長さLwの100%以上とすることが好ましい。100%以上とすることで、図1に示すように、ラグ2のトレッド周方向に対する傾斜角度θを0°以上に確保し、ハンドリング性能を確保することができるからである。ここで、トレッド幅TWとは、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、最大負荷能力に対応する荷重を負荷した時の接地面のタイヤ幅方向最大幅をいうものとする。ここで、最大負荷能力とは、上述のJATMA等の規格でタイヤに負荷することが許される最大の質量をいう。また、図2に示すように、ラグ2の幅Wは、タイヤ赤道面CLにおける周長の0.1〜2%とすることが好ましい。ここで、「ラグの幅W」は、当該幅Wが延在方向に変化する場合には、延在方向に平均をとった幅をいうものとする。0.1%以上とすることで、ラグの剛性を確保することができ、一方で、2%以下とすることで、ラグ間のトレッド周方向の間隔(Lp1、Lp2、Lp3)を確保し、圃場で土を掻いてトラクションを発生させる性能を確保することができるからである。さらに、図2に示すように、ラグ2の高さHは、タイヤ外径の0.3〜10%とすることが好ましい。0.3%以上とすることで、土を掻いてトラクションを発生させる性能を確保することができ、一方で、10%以下とすることで、路上での走行性能を確保することができるからである。
【0023】
また、図1に示すように、第1ラグ20間のトレッド周方向の間隔Lp1は、50〜500mmとすることが好ましく、第2ラグ21間のトレッド周方向の間隔Lp2は、50〜500mmとすることが好ましい。間隔Lp1及びLp2を50mm以上とすることにより、圃場で土を掻いてトラクションを発生させる性能を確保することができ、一方で、500mm以下とすることにより、上下振動を低減して、乗り心地性など路上での走行性能を確保することができるからである。さらに、図1に示すように、ラグ2がタイヤ赤道面CLにまで達して延びていることが好ましく、この場合には、タイヤ赤道面CLでの第1ラグ20と第2ラグ21との間隔Lp3は、0mm超500mm以下とすることが好ましい。間隔Lp3を0mm超とすることにより、トラクション性能を確保することができ、一方で、500mm以下とすることにより、上下振動を低減して、乗り心地性など路上での走行性能を確保することができるからである。
【0024】
ここで、図1図2に示すように、ラグ2には、少なくとも1本、図示例では2本の細溝4が形成されている。図示例では、全てのラグ2に、溝幅wの細溝4がそれぞれ2本ずつ形成されている。そして、この2本の細溝4の溝幅wの合計2wは、ラグ2のペリフェリ長さLtの0.1%以上20%以下である。このように、本発明のタイヤにおいては、ラグ2に、少なくとも1本の細溝を有し、各細溝の溝幅wの合計が、ラグ2のペリフェリ長さLtの0.1%以上20%以下であることが肝要である。以下、本発明の作用効果について説明する。
【0025】
本発明によれば、ラグに細溝を形成することにより、荷重時には接地面内で上記トレッドゴムの圧縮応力を緩和してラグの発熱量を低減し、一方で、接地面外では当該細溝が開放することにより外気によってラグを冷却することができ、従って路面走行時のラグの発熱性能を向上させることができる。さらに、圃場走行中には、上記ラグのペリフェリ方向の収縮を、細溝が閉塞するように変形することで吸収することができるため、接地面積の低下を抑制することができ、さらに細溝によるエッジ効果も得ることができるため、圃場走行時のトラクション性能も確保することができる。ここで、細溝の溝幅wの合計が、ラグ2のペリフェリ長さLtの0.1%未満の場合、上記の効果を十分に得ることができず、一方で、細溝の溝幅wの合計が、ラグ2のペリフェリ長さLtの20%超である場合、ラグの剛性が低下し、走行性能に悪影響を与えるおそれがあるからである。ここで、本発明にあっては、細溝の溝幅wの合計は、ラグ2のペリフェリ長さLtの1〜15%であることがより好ましく、5〜10%であることがさらに好ましい。
【0026】
また、図2に示すように、ラグ2の幅の中点を結んでなる中心線mを仮想し、当該ラグ2を、該中心線mを境界として、踏み込み端側2aと蹴り出し端側2bとに分けたとき、細溝4は、少なくともラグ2の踏み込み端側に延在するように形成する。すなわち、細溝4は、ラグ2の踏む込み端2a側と蹴り出し端2b側との双方に延在しているか、あるいは参考としてラグ2の踏み込み端2a側のみに延在する。ラグ2の面外曲げ変形の大きい、ラグ2の踏み込み端側に細溝を設けることによって、より効果的にラグの変形を緩和して圃場でのトラクション性能を向上させることができるからである。
【0027】
ここで、図1に示す例では、細溝4は、踏み込み端2a側のラグ溝および蹴り出し端2b側のラグ溝の双方に連通している。このように、本発明では、細溝4は、踏み込み端2a側のラグ溝および蹴り出し端2b側のラグ溝の少なくとも一方に連通している。細溝4とラグ溝とが連通することにより、応力集中による溝端でのひび割れがなくなるからである。ラグパターンは、その形状から、接地面積が小さくなり、接地圧が高くなるため、他種タイヤよりもラグにかかる応力負担は大きく、ひび割れが生じるおそれが大きいため、上記のような構成とすることが有効である。
【0028】
さらに、図2に示すように、細溝4は、ラグ2の延在方向の法線方向に延在していることが好ましい。圃場走行時にて、ラグがその延在方向に圧縮変形するのを効果的に緩和することができるからである。なお、本発明では、細溝4は、ラグ2の延在方向の法線方向に対し、0〜180°の角度で傾斜して延在することができる。
【0029】
また、図2に示すように、ラグ2を当該ラグ2の延在方向に仮想的に3等分し、タイヤ赤道面側から順に、中央陸部2c、中間陸部2d、トレッド端側陸部2eとするとき、少なくとも1本の細溝4が中間陸部2dに延在するように形成されることが好ましい。すなわち、少なくとも1本の細溝4が、中間陸部2dのみ、または、中間陸部2dと中央陸部2c、または、中間陸部2dとトレッド端側陸部2e、または、上記3つの陸部全てに延在していることが好ましい。上記の定義による中間陸部において、最もラグ2の変形が大きく、当該箇所に細溝4を配置することにより、効果的にラグ2の変形を緩和させることができるからである。
【0030】
さらに、本発明では、細溝4の溝幅wは、10mm以上20mm以下であることが好ましい。10mm以上とすることにより、上記したラグ2の変形を緩和する効果をより一層高めることができ、一方で、20mm以下とすることにより、接地時に細溝4が閉塞するようにして、圃場走行時に細溝4内に土等が入り込んで詰まってしまうのを抑制することができるからである。ここで、細溝4の溝幅は、10mm以上15mm以下であることがより好ましく、10mm以上12mm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
ここで、本発明においては、細溝4は、接地面内に位置する場合は閉塞し、かつ、接地面外に位置する場合は開放することが好ましい。接地面内では細溝4が閉塞することにより、圃場走行時に細溝内に土等が入り込んで詰まってしまうのを抑制することができ、一方で、接地面外では細溝4が開放することにより外気による冷却効果を得ることができるからである。
【0032】
また、本発明では、細溝4の溝深さhは、ラグの高さHの3%以上100%以下であることが好ましい。3%以上とすることにより、上記したラグの変形を緩和する効果をより一層高めることができるからである。一方で、特に上限を設ける必要はなく、ラグの高さHの100%まで細溝の溝深さを深くすることができる。ここで、細溝4の深さは、ラグの高さHの40〜100%であることがより好ましく、60〜80%であることがさらに好ましい。
【0033】
さらに、本発明にあっては、細溝4が、踏み込み端側と蹴り出し端側との双方に跨って延び細溝4の溝深さhが、ラグ2の踏み込み端側とラグ2の蹴り出し端側とで異なる。変形の大きい踏み込み端側で溝を深くすることにより、より効果的にラグの変形による発熱を抑制することができるからである。
【0034】
さらにまた、本発明では、細溝4が、踏み込み端側と蹴り出し端側との双方に跨って延び細溝4の溝幅wが、ラグ2の踏み込み端側とラグ2の蹴り出し端側とで異なる。変形の大きい踏み込み端側で溝幅を大きくすることにより、より効果的にラグの変形による発熱を抑制することができるからである。
【0035】
ここで、各細溝4の延在長さtは、ラグ2の幅Wの30%以上とすることが好ましい。上述した、接地面内でラグの変形を緩和し、接地面外で冷却する効果をより一層確保することができるからである。一方で、上限は特に限定されることなく、例えば、細溝4を、当該細溝が形成されたラグ2をトレッド周方向に区画する2つのラグ溝の双方に連通するように設けることができる。
【0036】
図3(a)〜(i)は、様々な態様で細溝4を形成したラグ2を示す平面図である。図3(a)〜(i)は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態のタイヤのトレッド踏面を平面視したときのラグの形状を示している。図3(a)〜(i)に示すように、細溝4の形状は、平面視において、例えば、図3(a)〜(g)のような直線状、図3(h)のような湾曲形状、図3(i)のような円形状とすることができる。ここで、細溝4を直線状に設ける場合には、図3(f)に示すように、溝幅を延在方向に変化させても良い。また、ラグ2には少なくとも1本の細溝を有していれば良く、特には限定しないが、図3(a)〜(c)に示すように、例えば、1本〜3本とすることができる。また、細溝の延在方向については、例えば、細溝4が3本形成されている図3(c)(d)の場合、図3(c)に示すように、ラグの延在方向の法線方向に延びていることが好ましいが、図3(d)のように、トレッド周方向に延びていてもよい。あるいは、図3(i)に示すように、円形状に延びていてもよい。さらに、細溝を形成する位置については、図3(a)等に示すように、少なくともラグの踏み込み端2a側に跨って延在するように形成することが好ましいが。図3(e)に示すように、細溝4をラグ2の蹴り出し端2b側のみに形成することもでき、図3(g)に示すように、ラグの延在方向に沿って、ラグの踏み込み端2a側とラグ2の蹴り出し端2b側とに交互に細溝4を形成することもできる。また、細溝4を、図3(a)〜(c)に示すように、少なくとも1本の細溝4を、ラグ2の中間陸部2d内のみに延在するように形成することが好ましい。あるいは、少なくとも1本の細溝4を、ラグ2の中間陸部2dと他の陸部(中央陸部2c及び/又はトレッド端側陸部2e)とに跨って延在させることが好ましい。あるいは、細溝4を中央陸部2cのみ若しくはトレッド端側陸部2eのみに形成することもできる。
【0037】
図4(a)〜(l)は、様々な断面形状で形成した細溝4を示す断面図である。図4(a)〜(l)は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態における、細溝4の延在方向に直交する面による細溝4の断面形状を示している。図4(a)〜(d)に示すように、細溝は、断面矩形状、断面三角形状、断面台形状とすることができる。また、図4(e)に示すように溝底に曲率半径Rの丸みを帯びさせることもできる。さらに、図4(f)に示すように、溝底の中央部を隆起させることもでき、逆に、図4(g)に示すように、溝底の中央部をより深くすることもできる。さらに、図4(h)に示すように、溝底の底部を断面円形状にして拡径することもでき、図4(i)(j)に示すように、細溝4のトレッド踏面への開口部から溝底に向かって溝幅を大きく又は小さくすることもできる。また、図4(k)(l)に示すように、ラグの高さ方向に対して細溝が傾斜するように形成することもできる。これらの断面形状は、タイヤの使用条件や用途等に応じて、適宜1以上を選んで採用することができる。
【実施例】
【0038】
本発明の効果を確かめるため、図1に示すトレッドパターンを有する、ラグに細溝を形成した参考例1にかかるタイヤを試作した。また、発明例1と細溝の諸元を変えた、参考例2〜9、発明例10、11及びラグに細溝が形成されていない比較例かかるタイヤを用意した。参考例1〜9、発明例10、11及び比較例について、各タイヤの諸元は、以下の表1に示してあり、例えばラグ自体の形状やサイズ等、表1に示さない諸元については、各タイヤで共通している。具体的には、上記各タイヤにおいて、ラグのペリフェリ長さLtは413.7mm、高さHは、72.5mm、トレッド幅方向の幅Lwは、324.4mmで共通しており、ラグのトレッド周方向に対する傾斜角度θは、45°であり、間隔Lp1、Lp2は、257mm、間隔Lp3は、107mmであり、トレッド幅TWは、713mmであり共通している。
【0039】
タイヤサイズ710/70R42の上記各タイヤを適用リムに装着し、内圧を160kPaとし、66kNの荷重を負荷した条件下で、発熱性能およびトラクション性能を評価する、以下の試験を行った。
<発熱性能>
JD社製8530の車両に上記各タイヤを装着し、上記の条件下で路上を24時間走行した後のトレッド部中央位置におけるラグ近傍のベルト直下を、針式温度計を用いて測定した。以下の表1においては、比較例3にかかるタイヤの温度変化を0℃としたときの相対値で示しており、数値が小さい方が発熱性能に優れていることを示す。
<トラクション性能>
トウモロコシ畑にて、トラクション性能を5回、トラクターと牽引車両との間にロードセルを挟んで測定し、平均値を算出した。表1においては、比較例3にかかるタイヤの結果を100としたときの相対値で示しており、数値が大きい方がトラクション性能に優れていることを示す。以下の表1に、評価結果を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、ラグ2に、少なくとも1本の細溝を有し、細溝の溝幅の合計が、ラグのペリフェリ長さの0.1%以上20%以下である、参考例1〜9、発明例10、11にかかるタイヤは、いずれも発熱性能とトラクション性能とを両立することができていることがわかる。また、参考例1と参考例4との比較により、細溝をラグの踏み込み端側に跨るように設けた参考例1は、参考例4より発熱性能およびトラクション性能に優れていることがわかる。さらに、参考例1と参考例5との比較により、細溝がラグ溝と連通する参考例1は、参考例5より、発熱性能に対する効果が大きいことがわかる。さらにまた、参考例1と参考例6との比較により、細溝をラグの延在方向の法線方向に設けた参考例1は、参考例6より発熱性能およびトラクション性能に優れていることがわかる。加えて、参考例1と参考例7との比較により、中間陸部に設けた細溝を有する参考例1は、参考例7より発熱性能およびトラクション性能に優れていることがわかる。
【0042】
同様に、表1より、参考例1と参考例8との比較により、接地時に細溝が閉塞する参考例1は、接地時に細溝が閉塞しない参考例8より、トラクション性能に優れていることがわかる。また、参考例1と参考例9との比較により、細溝の溝深さを適切化した参考例1は、参考例9より発熱性能に優れていることがわかる。さらに、参考例1と発明例10との比較により、細溝の溝深さが変化する発明例10は、参考例1より、発熱性能が優れていることがわかる。さらにまた、参考例1と発明例11との比較により、細溝の溝幅が変化する発明例11は、参考例1と、発熱性能及びトラクション性能が同等であることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
1:トレッド踏面、2:ラグ、20:第1ラグ、21:第2ラグ、
2a:ラグの踏み込み端、2b:ラグの蹴り出し端、2c:中央陸部、2d:中間陸部、
2e:トレッド端側陸部、3:ラグ溝、4:細溝、CL:タイヤ赤道面、
TE:トレッド端
図1
図2
図3
図4