(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の空気入りタイヤでは、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることについて、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る空気入りタイヤは、ビードコアが各別に埋設された左右一対のビード部と、左右一対の前記ビードコア間でトロイダル状に延在し互いに積層された複数枚のカーカスプライと、前記複数枚のカーカスプライのタイヤ半径方向の外側に配置されたトレッド部と、前記トレッド部のタイヤ幅方向の両端部と前記左右一対のビード部とを連結する左右一対のサイドウォール部と、が備えられ、この空気入りタイヤを適用リムに装着し、かつこの空気入りタイヤに正規内圧を充填した無負荷の基準状態で、前記トレッド部のタイヤ幅方向に沿った大きさは、この空気入りタイヤの呼び幅の75%以上かつ95%以下であり、前記基準状態で、前記ビードコアの中心部を通りタイヤ幅方向に沿って延在するベース線に対して、前記ビードコアの中心部と、前記複数枚のカーカスプライにおいてタイヤ幅方向の最も外側に位置する最外部と、を結ぶカーカス起立線がなす起立角度は、60度以上かつ75度以下であり、前記カーカスプライには、このカーカスプライをタイヤ幅方向に展開した状態で、タイヤ幅方向に直線状に延在するとともにタイヤ周方向に並設される複数本のプライコードが備えられ、前記複数枚のカーカスプライのうち、最もこの空気入りタイヤのタイヤ内腔側に位置する最内プライにおけるサイド部分では、この空気入りタイヤをタイヤ幅方向から見たタイヤ側面視において、前記プライコードが、タイヤ半径方向に沿って延在する基準線に対して傾斜し、前記複数枚のカーカスプライのうち、前記最内プライ以外の前記カーカスプライにおけるサイド部分では、前記タイヤ側面視において、前記プライコードが前記基準線に沿って延在し
、前記最内プライのタイヤ幅方向の端部は、前記ビードコアをタイヤ半径方向の内側から覆うようにタイヤ幅方向の内側から外側に向けて折り返され、前記複数枚のカーカスプライのうち、前記最内プライ以外の前記カーカスプライにおけるサイド部分は、タイヤ幅方向に沿って、前記最内プライのサイド部分と折り返し部分との間に位置していることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、前記基準状態で、トレッド部のタイヤ幅方向に沿った大きさが、呼び幅の75%以上かつ95%以下なので、この空気入りタイヤのスリップを抑えて乗り心地性を確保しつつ、路面とトレッド部との接地面をタイヤ周方向に大きく形成してフラットスポットが形成されるのを抑えることができる。
すなわち、トレッド部のタイヤ幅方向に沿った大きさが、呼び幅の75%よりも小さい場合、路面とトレッド部との接地面の接地幅が狭くなり過ぎて、例えばこの空気入りタイヤが曲がるときに、このタイヤに作用するコーナリングフォースによりタイヤがスリップするおそれ等があり、乗り心地性や操縦安定性を確保できないおそれがある。また、トレッド部のタイヤ幅方向に沿った大きさが、呼び幅の95%よりも大きい場合、路面とトレッド部との接地面の接地幅が広くなり、路面とトレッド部との接地面のタイヤ幅方向の大きさが、タイヤ周方向の大きさに比べて大きくなりすぎることから、接地面が平坦になってフラットスポットが形成され易くなるおそれがある。
【0008】
また前記基準状態で、前記起立角度が60度以上なので、複数枚のカーカスプライのサイド部分を、ベース線に対して起こしてタイヤ半径方向に沿って延在させ易くすることが可能になり、サイドウォール部をタイヤ半径方向に効果的に補強することができる。これにより、この空気入りタイヤに荷重が加えられたときに、サイドウォール部が過度に撓むことで路面とトレッド部との接地面の接地幅が広がるのを抑えることが可能になり、フラットスポットが形成されるのを抑制することができる。すなわち、前記起立角度が60度よりも小さい場合、路面とトレッド部との接地面の接地幅が広がりすぎ、フラットスポットが形成され易くなるおそれがある。
また、前記起立角度が75度以下なので、この空気入りタイヤに荷重が加えられたときに、サイドウォール部を適度に撓ませることでタイヤが路面から受ける衝撃力を吸収することも可能であり、乗り心地性を確保することができる。すなわち、前記起立角度が75度よりも大きい場合、サイドウォール部が撓み難くなり、路面からの衝撃力を吸収することが困難になるおそれがある。
以上より、前記基準状態で、前記起立角度が、60度以上かつ75度以下であることで、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることができる。
【0009】
また、前記タイヤ側面視において、最内プライにおけるサイド部分では、プライコードが基準線に対して傾斜し、かつ複数枚のカーカスプライのうち、最内プライ以外のカーカスプライ(以下、除外プライという)におけるサイド部分では、プライコードが基準線に沿って延在している。したがって、例えば前記タイヤ側面視において、最内プライにおけるサイド部分で、プライコードが基準線に沿って延在している場合や、除外プライにおけるサイド部分で、プライコードが基準線に対して傾斜している場合などに比べて、この空気入りタイヤに加えられる荷重の大きさによって複数枚のカーカスプライの張力剛性が変化するのを抑えることができる。これにより、この空気入りタイヤに荷重が加えられてサイドウォール部が変形するときに、サイドウォール部の変形位置をタイヤ半径方向の内側に位置させ易くすることが可能になり、この空気入りタイヤに柔軟性を具備させて乗り心地性を向上させることができる。
またこのように、サイドウォール部の変形位置をタイヤ半径方向の内側に位置させるといったような、サイドウォール部の変形の態様を変化させることで、空気入りタイヤの乗り心地性を向上させることができるので、サイドウォール部の剛性によらず、乗り心地性を向上させることができる。したがって、前記起立角度を大きくしてサイドウォール部をタイヤ半径方向に補強しても、単に乗り心地性を確保するだけに留まらず、乗り心地性を向上させることまでできる。
【0010】
また、前記左右一対のサイドウォール部それぞれにおいて、前記複数枚のカーカスプライのタイヤ幅方向の内側には、補強層が設けられていてもよい。
【0011】
この場合、左右一対のサイドウォール部それぞれにおいて、複数枚のカーカスプライのタイヤ幅方向の内側に、補強層が設けられたランフラットタイヤであるので、この空気入りタイヤの内圧が大気圧と同等とされた状態であっても、一定の距離を走行することができる。
ここで前述のように、この空気入りタイヤでは、サイドウォール部の剛性によらず、乗り心地性を向上させることができるので、ランフラットタイヤのように、補強層を設けることによりサイドウォール部の剛性が高められるような構成であっても、乗り心地性を効果的に確保することができる。
そして前記タイヤ側面視において、最内プライにおけるサイド部分では、プライコードが基準線に対して傾斜し、かつ除外プライにおけるサイド部分では、プライコードが基準線に沿って延在しているので、例えば複数枚のカーカスプライの全てのサイド部分で、プライコードが基準線に対して傾斜している場合などに比べて、ランフラット耐久性を良好なものに維持し易くすることができる。
【0012】
また、前記複数枚のカーカスプライのタイヤ幅方向の端部は、前記ビードコアをタイヤ半径方向の内側から覆うようにタイヤ幅方向の内側から外側に向けて折り返され、前記最外部は、前記複数枚のカーカスプライの折り返し部分に位置していてもよい。
【0013】
この場合、最外部が、複数枚のカーカスプライの折り返し部分に位置しているので、複数枚のカーカスプライが、ベース線に対して確実に起こされることとなり、フラットスポットが形成されるのを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤによれば、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤを説明する。この空気入りタイヤは、例えばタイヤ内圧の異常低下時やパンク時などにおいても所定距離を走行可能なランフラットタイヤである。
【0017】
図1に示すように、空気入りタイヤ10は、例えば適用リム等のリム30に装着される。なお適用リムとは、JATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、ETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARAD MANUAL、TRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.) YEAR BOOK等に、タイヤサイズに応じて規定されたリムをいう。
【0018】
空気入りタイヤ10には、左右一対のビード部11と、トレッド部12と、左右一対のサイドウォール部13と、が備えられている。
左右一対のビード部11には、ビードコア14が各別に埋設されている。ビードコア14は、例えばスチールワイヤ等からなるビードワイヤを複数束ねてリング状に巻くことで形成される。なお図示の例では、ビードコア14の断面形状が矩形に形成されているが、これに限らず、例えば六角形などの他の多角形状に形成してもよい。
【0019】
トレッド部12は、左右一対のビード部11のタイヤ半径方向Rの外側に配置されている。トレッド部12には、タイヤ周方向Lに延在する周方向溝12aと、タイヤ幅方向Hに延びる図示しない幅方向溝と、が形成されている。左右一対のサイドウォール部13は、トレッド部12のタイヤ幅方向Hの両端部と左右一対のビード部11とを連結している。これらのトレッド部12とサイドウォール部13とは、ショルダー部15を介して接続されている。
【0020】
そして本実施形態では、この空気入りタイヤ10を適用リムに装着し、かつこの空気入りタイヤ10に正規内圧を充填した無負荷の基準状態で、トレッド部12のタイヤ幅方向Hに沿った大きさであるトレッド部12の幅Wは、この空気入りタイヤ10の呼び幅の75%以上かつ95%以下となっている。図示の例では、呼び幅が255mmに対して、トレッド部12の幅Wが242mmとされ、トレッド部12の幅Wが呼び幅の95%となっている。
【0021】
なお正規内圧とは、「JATMA Year Book」での適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力(内圧−負荷能力対応表の太字荷重)に対応する空気圧(最大空気圧)の100%の内圧をいう。正規内圧は、タイヤが生産または使用される地域が日本国以外の地域の場合には、その地域に適用されている産業規格(例えば、アメリカ合衆国の「TRA Year Book」、欧州の「ETRTO Standard Manual」等)に準拠したものをいう。
【0022】
またトレッド部12の幅Wは、トレッド部12のタイヤ幅方向Hの両端部間のタイヤ幅方向Hに沿った距離である。つまりトレッド部12の幅Wは、トレッド部12を構成するゴム部材とショルダー部15を構成するゴム部材との境界部間のタイヤ幅方向Hに沿った距離をいい、一方の境界部と、タイヤ赤道面CLと、のタイヤ幅方向Hに沿った距離W/2の2倍の距離をいう。
【0023】
さらに、空気入りタイヤ10の呼び幅は、「JATMA Year Book」に規定されたタイヤサイズ毎の呼び幅であり、例えばタイヤサイズの表記が「245/45R19」である場合、先頭の「245」に単位ミリメートルを付加して得られる幅をいう。呼び幅は、タイヤが生産または使用される地域が日本国以外の地域の場合には、その地域に適用されている産業規格に準拠したものをいう。
【0024】
また、この空気入りタイヤ10の偏平率は、55%以下となっている。偏平率とは、空気入りタイヤ10の最大幅に対する断面高さの比率であり、偏平率が低いほど、サイドウォール部13のタイヤ半径方向Rに沿った大きさが小さくなり、サイドウォール部13が撓みにくくなる。なお断面高さは、リムベースラインと、トレッド部12においてタイヤ半径方向Rの最も外側に位置する部分と、のタイヤ半径方向Rに沿った大きさをいう。図示の例では、空気入りタイヤ10の偏平率が50%となっている。
【0025】
ここで前記空気入りタイヤ10には、カーカス層16と、ベルト層17と、ベルト補強層18と、が設けられている。カーカス層16は、左右一対のビードコア14間でトロイダル状に延在し互いに積層された複数枚のカーカスプライ21、22からなる積層体である。ベルト層17は、トレッド部12において、このトレッド部12に備えられたトレッド踏面部12bと、複数枚のカーカスプライ21、22のクラウン部分と、の間に位置する部分に配設されている。ベルト補強層18は、ベルト層17をタイヤ径方向の外側から覆っている。
【0026】
ここでトレッド踏面部12bとは、この空気入りタイヤ10を、「JATMA Year Book」に規定されている標準リムに装着し、かつこの空気入りタイヤ10に、「JATMA Year Book」での適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力(内圧−負荷能力対応表の太字荷重)に対応する空気圧(最大空気圧)の100%の内圧を充填して最大負荷能力を負荷した状態でのトレッド部12の接地面をいう。なおトレッド踏面部12bは、空気入りタイヤ10が生産または使用される地域が日本国以外の地域の場合には、その地域に適用されている産業規格に準拠した状態でのトレッド部12の接地面をいう。
【0027】
ベルト層17は、複数枚のカーカスプライ21、22のクラウン部分に、このクラウン部分のタイヤ半径方向Rの外側から積層されている。図示の例では、ベルト層17は、複数枚のベルトプライ17aが積層されてなる。各ベルトプライ17aは、例えば有機繊維コードや金属コードなどの複数本のベルトコードが被覆ゴムで被覆されてなる。各ベルトプライ17aのベルトコードは、トレッド部12をタイヤ半径方向Rの外側から見たタイヤ平面視において、タイヤ幅方向Hおよびタイヤ周方向Lの両方向に対して傾斜する方向に延在している。2枚のベルトプライ17aのうち、一方のベルトプライ17aのベルトコードと、他方のベルトプライ17aのベルトコードと、は、タイヤ平面視において互いに交差するように延在している。
【0028】
ベルト補強層18は、ベルト層17のタイヤ幅方向Hの両端部を覆い、前記ショルダー部15に配置されている。ベルト補強層18は、例えば、芳香族ポリアミドとナイロンとを撚り合わせた複合コードをベルト層17の外周部に巻回して形成される。なおベルト補強層18は、ベルト層17の全域をタイヤ半径方向Rの外側から覆っていてもよい。またベルト補強層18は、複数枚の補強層プライが積層された構成であってもよい。
【0029】
複数枚のカーカスプライ21、22は、ビード部11、サイドウォール部13およびトレッド部12にわたって連続して延在している。複数枚のカーカスプライ21、22としては、この空気入りタイヤ10のタイヤ内腔10a側から順に積層された第1カーカスプライ21および第2カーカスプライ22の2枚が備えられている。第1カーカスプライ21は、複数枚のカーカスプライ21、22のうち、最もタイヤ内腔10a側に位置する最内プライとなっている。
【0030】
複数枚のカーカスプライ21、22のタイヤ幅方向Hの端部は、ビードコア14をタイヤ半径方向Rの内側から覆うようにタイヤ幅方向Hの内側から外側に向けて折り返されている。図示の例では、複数枚のカーカスプライ21、22のうち、第1カーカスプライ21が限定して折り返されていて、第2カーカスプライ22は折り返されていない。つまり複数枚のカーカスプライ21、22のうち、1枚が限定して折り返されている。この第1カーカスプライ21は、タイヤ幅方向Hの端部がビードコア14をタイヤ半径方向Rの内側から覆うようにタイヤ幅方向Hの内側から外側に向けて折り返された折り返しプライとなっている。
【0031】
ここで前記基準状態では、ビードコア14の中心部であるビードコア14の中心軸Oを通りタイヤ幅方向Hに沿って延在するベース線L1に対して、ビードコア14の中心軸Oと、複数枚のカーカスプライ21、22においてタイヤ幅方向Hの最も外側に位置する最外部と、を結ぶカーカス起立線L2がなす起立角度θは、60度以上かつ75度以下となっている。前記最外部は、ビードコア14よりもタイヤ幅方向Hの外側に位置していて、複数枚のカーカスプライ21、22の折り返し部分である第1カーカスプライ21の折り返し部分21cに位置している。なお図示の例では、起立角度θは例えば約60度程度となっている。
【0032】
図2および
図3に示すように、カーカスプライ21、22には、このカーカスプライ21、22をタイヤ幅方向Hに展開した状態で、タイヤ幅方向Hに直線状に延在するとともにタイヤ周方向Lに並設される複数本のプライコード23、24が備えられている。カーカスプライ21、22は、複数本のプライコード23、24が被覆ゴムで被覆されてなる。プライコード23、24は、例えば有機繊維コード等により形成されている。
【0033】
そして本実施形態では、第1カーカスプライ21におけるサイド部分21bでは、
図2に示すように、この空気入りタイヤ10をタイヤ幅方向Hから見たタイヤ側面視において、プライコード23が、タイヤ半径方向Rに沿って延在する基準線L3に対して傾斜している。プライコード23との基準線L3に対する傾斜角度θ1は、例えば25°以下、好ましくは約8°程度となっている。なお第1カーカスプライ21のサイド部分21bは、サイドウォール部13に位置しており、この第1カーカスプライ21のクラウン部分21aと折り返し部分21cとを接続している。
【0034】
ここで本実施形態では、第1カーカスプライ21における折り返し部分21cでも、前記タイヤ側面視において、プライコード23が基準線L3に対して傾斜している。第1カーカスプライ21のうち、折り返し部分21cと、サイド部分21bと、ではそれぞれ、プライコード23が、前記タイヤ側面視において、基準線L3に対して、互いにタイヤ周方向Lの反対側に向けて傾斜している。また
図3に示すように、第1カーカスプライ21におけるクラウン部分21aでは、前記タイヤ平面視において、プライコード23が、タイヤ幅方向Hに沿って延在する仮想線L4に対して傾斜している。
【0035】
さらに本実施形態では、
図2に示すように、複数枚のカーカスプライ21、22のうち、第1カーカスプライ21以外の
カーカスプライ22である第2カーカスプライ22におけるサイド部分22bでは、前記タイヤ側面視において、プライコード24が基準線L3に沿って延在している。このプライコード24は、前記タイヤ側面視において、基準線L3に実質的に平行となっていて、基準線L3に平行、または基準線L3に対して僅かに角度(例えば1.5°以下の角度)をつけて傾斜している。
なお
図3に示すように、第2カーカスプライ22におけるクラウン部分22aでは、前記タイヤ平面視において、プライコード24が前記仮想線L4に沿って延在している。
【0036】
ここで
図1に示すように、ビード部11における複数枚のカーカスプライ21、22とビードコア14との間には、ビードコア14周りに折り返されたフリッパー19が形成されている。フリッパー19は、ビード部11の剛性を高める。フリッパー19は、ビードコア14をタイヤ半径方向Rの内側から覆うようにタイヤ幅方向Hの内側から外側に折り返されている。フリッパー19は、複数本の芳香族ポリアミド繊維からなる。なお、芳香族ポリアミド繊維としては、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、デュポン社のケブラー(登録商標)等が挙げられる。
また、左右一対のサイドウォール部13それぞれにおいて、複数枚のカーカスプライ21、22のタイヤ幅方向Hの内側には、補強層20が設けられている。補強層20は、断面三日月状の補強ゴムにより構成されている。補強層20は、サイドウォール部13のタイヤ幅方向Hの外側に向けたたわみ変形に対する剛性を高める。
【0037】
以上説明したように、本実施形態に係る空気入りタイヤ10によれば、前記基準状態で、トレッド部12のタイヤ幅方向Hに沿った大きさが、呼び幅の75%以上かつ95%以下なので、この空気入りタイヤ10のスリップを抑えて乗り心地性を確保しつつ、路面とトレッド部12との接地面をタイヤ周方向Lに大きく形成してフラットスポットが形成されるのを抑えることができる。
すなわち、トレッド部12のタイヤ幅方向Hに沿った大きさが、呼び幅の75%よりも小さい場合、路面とトレッド部12との接地面の接地幅が狭くなり過ぎて、例えばこの空気入りタイヤ10が曲がるときに、このタイヤ10に作用するコーナリングフォースによりタイヤ10がスリップするおそれ等があり、乗り心地性や操縦安定性を確保できないおそれがある。また、トレッド部12のタイヤ幅方向Hに沿った大きさが、呼び幅の95%よりも大きい場合、路面とトレッド部12との接地面の接地幅が広くなり、路面とトレッド部12との接地面のタイヤ幅方向Hの大きさが、タイヤ周方向Lの大きさに比べて大きくなりすぎることから、接地面が平坦になってフラットスポットが形成され易くなるおそれがある。
【0038】
また前記基準状態で、前記起立角度θが60度以上なので、複数枚のカーカスプライ21、22のサイド部分を、ベース線L1に対して起こしてタイヤ半径方向Rに沿って延在させ易くすることが可能になり、サイドウォール部13をタイヤ半径方向Rに効果的に補強することができる。これにより、この空気入りタイヤ10に荷重が加えられたときに、サイドウォール部13が過度に撓むことで路面とトレッド部12との接地面の接地幅が広がるのを抑えることが可能になり、フラットスポットが形成されるのを抑制することができる。すなわち、前記起立角度θが60度よりも小さい場合、路面とトレッド部12との接地面の接地幅が広がりすぎ、フラットスポットが形成され易くなるおそれがある。
また、前記起立角度θが75度以下なので、この空気入りタイヤ10に荷重が加えられたときに、サイドウォール部13を適度に撓ませることでタイヤが路面から受ける衝撃力を吸収することも可能であり、乗り心地性を確保することができる。すなわち、前記起立角度θが75度よりも大きい場合、サイドウォール部13が撓み難くなり、路面からの衝撃力を吸収することが困難になるおそれがある。
以上より、前記基準状態で、前記起立角度θが、60度以上かつ75度以下であることで、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることができる。
【0039】
また、前記タイヤ側面視において、第1カーカスプライ21におけるサイド部分21bでは、プライコード23が基準線L3に対して傾斜し、第2カーカスプライ22におけるサイド部分22bでは、プライコード24が基準線L3に沿って延在している。したがって、例えば前記タイヤ側面視において、第1カーカスプライにおけるサイド部分で、プライコードが基準線に沿って延在している場合や、第2カーカスプライにおけるサイド部分で、プライコードが基準線に対して傾斜している場合などに比べて、この空気入りタイヤ10に加えられる荷重の大きさによって複数枚のカーカスプライ21、22の張力剛性が変化するのを抑えることができる。これにより、この空気入りタイヤ10に荷重が加えられてサイドウォール部13が変形するときに、サイドウォール部13の変形位置をタイヤ半径方向Rの内側に位置させ易くすることが可能になり、この空気入りタイヤ10に柔軟性を具備させて乗り心地性を向上させることができる。
またこのように、サイドウォール部13の変形位置をタイヤ半径方向Rの内側に位置させるといったような、サイドウォール部13の変形の態様を変化させることで、空気入りタイヤ10の乗り心地性を向上させることができるので、サイドウォール部13の剛性によらず、乗り心地性を向上させることができる。したがって、前記起立角度θを大きくしてサイドウォール部13をタイヤ半径方向Rに補強しても、単に乗り心地性を確保するだけに留まらず、乗り心地性を向上させることまでできる。
【0040】
また、左右一対のサイドウォール部13それぞれにおいて、複数枚のカーカスプライ21、22のタイヤ幅方向Hの内側に、補強層20が設けられたランフラットタイヤであるので、この空気入りタイヤ10の内圧が大気圧と同等とされた状態であっても、一定の距離を走行することができる。
ここで前述のように、この空気入りタイヤ10では、サイドウォール部13の剛性によらず、乗り心地性を向上させることができるので、ランフラットタイヤのように、補強層20を設けることによりサイドウォール部13の剛性が高められるような構成であっても、乗り心地性を効果的に確保することができる。
そして前記タイヤ側面視において、第1カーカスプライ21におけるサイド部分21bでは、プライコード23が基準線L3に対して傾斜し、かつ第2カーカスプライ22におけるサイド部分22bでは、プライコード24が基準線L3に沿って延在しているので、例えば複数枚のカーカスプライの全てのサイド部分で、プライコードが基準線に対して傾斜している場合などに比べて、ランフラット耐久性を良好なものに維持し易くすることができる。
【0041】
また最外部が、複数枚のカーカスプライ21、22の折り返し部分に位置しているので、複数枚のカーカスプライ21、22が、ベース線L1に対して確実に起こされることとなり、フラットスポットが形成されるのを効果的に抑制することができる。
【0042】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では、複数枚のカーカスプライ21、22のうち、第1カーカスプライ21が限定して折り返されていて、第2カーカスプライ22は折り返されていないものとしたが、これに限られず、
図4に示すような構成などを採用してもよい。
図4に示す空気入りタイヤ40では、第2カーカスプライ22が限定して折り返されていて、第1カーカスプライ21は折り返されていない。
この場合であっても、最内プライである第1カーカスプライ21におけるサイド部分21bで、前記タイヤ側面視において、プライコード23が、基準線L3に対して傾斜していればよい。
【0043】
また周方向溝12a、前記幅方向溝、ベルト層17、ベルト補強層18、フリッパー19、補強層20、はなくてもよい。
【0044】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0045】
次に、以上説明した作用効果についての第1から第3の検証試験を実施した。
第1の検証試験では、呼び幅に対するトレッド部の幅の比率の関係について検証した。この第1の検証試験では、比較例1、2および実施例1、2の4つの空気入りタイヤを準備した。これらの空気入りタイヤは、
図1から
図3に示す空気入りタイヤと同様の構成を採用し、呼び幅に対するトレッド部の幅の比率を、下記表1に示すように異ならせた。
【0046】
第1の検証試験では、乗り心地性とフラットスポットレベルとについて検証した。乗り心地性はドライバーによる官能試験により評価した。フラットスポットレベルは、各タイヤをそれぞれ車両に装着し、150km/hで30分間走行させた後、タイヤに車両の重量が加えられた状態でタイヤが完全に冷えるまで放置し、その後、タイヤの真円度を測定することにより評価した。
【0047】
結果を下記表1に示す。乗り心地性およびフラットスポットレベルのいずれについても、比較例1を100として、比較例2および実施例1、2を指数評価した。乗り心地性およびフラットスポットレベルとも、値が大きいほど優れていることを表す。
【0049】
以上より、実施例1、2では、比較例1に比べて乗り心地性に優れているにも関わらず、比較例2よりもフラットスポットレベルが優れていることが確認された。これにより、呼び幅に対するトレッド部の幅の比率が75%以上かつ95%以下であることで、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることができることが確認された。
【0050】
第2の検証試験では、起立角度について検証した。この第2の検証試験では、比較例3、4および実施例3、4の4つの空気入りタイヤを準備した。これらの空気入りタイヤは、
図1から
図3に示す空気入りタイヤと同様の構成を採用し、起立角度を、下記表2に示すように異ならせた。
【0051】
第2の検証試験でも、第1の検証試験と同様の方法により乗り心地性とフラットスポットレベルとについて検証した。結果を下記表2に示す。乗り心地性およびフラットスポットレベルのいずれについても、比較例3を100として、比較例4および実施例3、4を指数評価した。
【0053】
以上より、実施例3、4では、比較例3に比べてフラットスポットレベルに優れているにも関わらず、比較例4よりも乗り心地性が優れていることが確認された。これにより、起立角度が60度以上かつ75度以下であることで、乗り心地性を確保しつつ、フラットスポットが形成されるのを抑えることができることが確認された。
【0054】
第3の検証試験では、傾斜角度について検証した。この第3の検証試験では、実施例5および比較例5、6、7の4つの空気入りタイヤを準備した。これらの空気入りタイヤは、
図1から
図3に示す空気入りタイヤと同様の構成を採用し、カーカスプライのうち、プライコードに傾斜角度をつけたものを異ならせた。
【0055】
実施例5では、最内プライである第1カーカスプライにのみ傾斜角度をつけた。
比較例5では、第1カーカスプライおよび第2カーカスプライのいずれにも傾斜角度をつけなかった。
比較例6では、第2カーカスプライにのみ傾斜角度をつけた。
比較例7では、第1カーカスプライおよび第2カーカスプライのいずれにも傾斜角度をつけた。
【0056】
第3の検証試験では、第1の検証試験と同様の方法により乗り心地性について検証するとともに、ランフラット耐久性についても検証した。
ランフラット耐久性は、ISO条件のランフラットドラムにより評価した。
結果を下記表3に示す。乗り心地性およびランフラット耐久性のいずれについても、実施例5を100として、比較例5、6、7を指数評価した。
【0058】
以上より、実施例5では、比較例5に比べて乗り心地性に優れているにも関わらず、比較例6、7よりもランフラット耐久性が優れていることが確認された。これにより、最内プライである第1カーカスプライにのみ傾斜角度をつけることで、乗り心地性を向上し、かつランフラット耐久性を維持し易くすることができることが確認された。