(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
トレッド踏面に、タイヤ周方向に延びる周方向溝と該周方向溝に対して傾斜して延びる幅方向溝とによって区画形成された、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下である、複数のブロックを具え、
前記複数のブロックのうち、少なくとも1つのブロックと他のブロックとの間、又は、少なくとも1つのブロックの一領域と該ブロックの他の一領域との間で、接地面の算術平均粗さRaが相互に異なり、かつ、
前記複数のブロックが1本以上のサイプを有し、前記ブロックに、該ブロックよりさらに細かい小ブロックが区画されるとともに、少なくとも1つの小ブロックと他の小ブロックとの間で、接地面の算術平均粗さRaが相互に異なることを特徴とするタイヤ。
前記複数のブロックのうち、前記ブロックの少なくとも一領域の接地面の算術平均粗さRaが4μm以下であり、該ブロック又は他のブロックの少なくとも一領域の接地面の算術平均粗さRaが6μm以上20μm以下である、請求項1に記載のタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明のタイヤを、その実施形態を例示して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ20のタイヤ幅方向断面図である。このタイヤ20は、一対のビード部4と、各ビード部4からそれぞれタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部5と、該サイドウォール部5間に跨って延びるトレッド部6とを有している。また、タイヤ10は、一対のビード部4に埋設された一対のビードコア4a間にトロイダル状に跨るカーカス7と、該カーカス7のタイヤ径方向外側に配設された2層のベルト層8a、8bからなるベルト8とを有している。さらに、ベルト8のタイヤ径方向外側にはトレッドゴムが配設されている。
【0013】
また、
図2に、トレッド部6のトレッド踏面6aの部分展開図を模式的に示すように、このトレッド踏面6aには、タイヤ周方向溝に延びる周方向溝1と、該周方向溝1に対し傾斜して延びる幅方向溝2とによって複数のブロックB(B
1〜B
16)が区画形成されている。なお、周方向溝1は、図示例では直線状であるが、例えば、ジグザグ状、鋸歯状、波状等の非直線状であってもよい。また、幅方向溝2は、図示例ではタイヤ幅方向と完全に平行、換言すればタイヤ周方向に対して垂直な方向に直線状に延在しているが、幅方向溝2は、タイヤ周方向に対し傾斜して存在していてもよく、また、例えば、ジグザグ状、鋸歯状、波状等の非直線状であってもよい。
【0014】
さらに、タイヤ20には、トレッド踏面6aの少なくとも一部(本実施形態では全体)に、所定形状の微小な突起部9(以下、単に突起部9)が形成されている。具体的には、
図5(a)にトレッド踏面6aの拡大平面図を示し、
図5(b)にトレッド踏面6a近傍のタイヤ幅方向に沿う拡大断面図を示し、
図6にトレッド踏面6aの顕微鏡写真を示すように、トレッド踏面6aの少なくとも一部に、タイヤ径方向外側に凸な形状の(図示例では半球状の)突起部9が多数形成されている。
タイヤ20では、この突起部9の直径、高さ、及び密度などによってトレッド踏面6aの表面粗さが決定されていて、例えば、
図2に示す複数のブロックB
1〜B
16のうち、ハッチ掛けされたブロックB
5〜B
12は、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下の表面粗さを有している。なお、ブロックB
5は、他のブロックB
6〜B
12と接地面の算術平均粗さRaが異なるブロックである。
【0015】
また、
図3は、本発明の別
の参考例タイヤ30の、トレッド踏面6aの部分展開図を模式的に示している。このタイヤ30では、タイヤ20と同様に、トレッド踏面6aの少なくとも一部(本実施形態では全体)に半球状の突起部9が形成され、かかる突起部9の直径、高さ、及び密度などによってトレッド踏面6aの表面粗さが決定されている。例えば、
図3に示す複数のブロックB
1〜B
16のうち、ハッチが掛けられたブロックB
5〜B
12は、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下の表面粗さを有している。また、これらのブロックB
5〜B
12は、ブロックB単位での算術平均粗さRaは同様であるが、タイヤ周方向中央部においてタイヤ幅方向に延びる境界線(
図3に、破線で示す)を境にして、算術平均粗さRaが異なる領域br
1とbr
2とを有している。
【0016】
ここにおいて、本発明に係るタイヤでは、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下である、複数のブロックBを具え、これらの複数のブロックBのうち、少なくとも1つのブロックBと他のブロックBとの間、又は、少なくとも1つのブロックBの一領域br
1と該ブロックBの他の一領域br
2との間で、接地面の算術平均粗さRaが相互に異なっていることが肝要である。
すなわち、
図2を用いて説明すると、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下であるブロックB
5〜B
12において、少なくとも1つのブロックB(
図2では、B
5)とその他のブロックB(
図2では、B
6〜B
12)との間の算術平均粗さRaが異なる、ということである。
また、
図3を用いて説明すると、例えば、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下であるブロックB
5〜B
12において、各ブロックB
5〜B
12の接地面の算術平均粗さRaがブロック単位で同一であっても、例えば、少なくとも1つのブロックB(
図3では、ブロックB
5〜B
12のすべて)の一領域br
1と他の一領域br
2との間で接地面の算術平均粗さRaが異なっている、ということである。
【0017】
以上のように、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下となるブロックBを複数設ければ、タイヤのトレッド踏面6aの、ブロック剛性の低下や除水性の低下を抑制して、タイヤの氷上制動性能を向上させることができる。すなわち、タイヤのブロックBの接地面の算術平均粗さRaを1μm以上として、タイヤと路面との間に除水用の空間を確保することができ、一方、接地面の算術平均粗さRaを50μm以下として、タイヤと路面との摩擦力を確保することができる。
さらに、複数のブロックBのうち、少なくとも1つのブロックBと他のブロックBとの間、又は、少なくとも1つのブロックBの一領域brと該ブロックBの他の一領域brとの間で、接地面の算術平均粗さRaを相互に異にすることにより、氷上制動性能の温度依存性を低減して、多様な氷上温度に対して優れた氷上制動性能を確保することができる。
【0018】
より詳しく説明すると、氷上路面を走行するにあっては、氷上温度の高低に起因して、タイヤと路面との間の水の湧き易さが異なる。この点において、氷上制動性能を向上させる観点から言えば、氷上温度が低く、タイヤと路面との間に水が湧き難い環境下では、トレッド踏面6aのゴムの表面性状は滑らかな方が好ましく、一方、氷上温度が高く、かかる水が湧き易い環境下では、トレッド踏面6aのゴムの表面性状は粗い方が好ましい。これは、氷上温度が低い場合は、トレッド踏面6aの接地面積の大きさが要因となる凝着摩擦によって氷上路面での制動性能が得られるのに対し、氷上温度が高い場合は、排水性が主体となる潤滑摩擦によって氷上路面での制動性能が得られるためである。そこで、本発明に係るタイヤでは、トレッド踏面6aを一様な表面粗さとするのではなく、算術平均粗さRaを異にする複数のブロックBから構成することにより、タイヤのロバスト性を確保して、様々な氷上温度に対して氷上制動性能を向上させることができる。
【0019】
なお、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下となるブロックBの接地面積は、トレッド踏面6a全体の接地面積の80%以上であることが、タイヤの氷上制動性能を向上させる観点から好ましく、90%以上であることが同観点からさらに好ましい。
【0020】
ここでいう「トレッド踏面6a」とは、タイヤを適用リムに組み付け、所定内圧を充填し、平板に対して垂直において、下記のJATMA等に記載されている適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力に相当する荷重を負荷した際に、平板と接触することとなるトレッド全周にわたるタイヤ幅方向の領域をいう。
なお、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO STANDARD MANUAL、米国ではTRA YEAR BOOK等に記載されている、適用サイズにおける標準リム(又は、Approved Rim、Recommended Rim)をいう。
また、「所定内圧」とは、上記のJATMA等に記載されている適用サイズ・プライレーティングにおける最大負荷能力に対応する空気圧をいうものとする。
【0021】
なお、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下となるブロックBの配置について、
図2及び3では、タイヤ幅方向に整列する4つのブロックBを1列の幅方向ブロック列として、隣り合う2列の幅方向ブロック列(ブロックB
5〜B
8からなるブロック列と、ブロックB
9〜B
12からなるブロック列)を、算術平均粗さRaが1〜50μmとなるブロックBとしているが、かような表面粗さを有するブロックBは、トレッド踏面6aに存在していればよく、
図2及び3に示す配置に限らない。
例えば、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下となるブロックBは、トレッド踏面6aにランダムに配置してもいいし、千鳥状に配置してもよい。または、上記の幅方向ブロック列として1列ずつ、かつ1列おきに配置してもいいし、タイヤ周方向に整列するブロックBを1列の周方向ブロック列(例えば、ブロックB
1、B
5、B
9、B
13からなるブロック列)として、1列ずつ、かつ1列おきに配置することもできる。
【0022】
また、
図3のタイヤ30のように、ブロックBを、接地面の算術平均粗さRaが異なる2以上の領域br
1およびbr
2から構成する場合、境界線(
図3に破線で示す)の引き方は、
図3に示すものに限られない。例えば、タイヤ周方向に延びる境界線としてもいいし、タイヤ周方向および幅方向に傾斜して延びる境界線とすることもできる。また、直線状のみならず、曲線状、鋸歯状、波状等の非曲線状とすることもできる。さらに、2本以上の複数の境界線を設けて、ブロックBの接地面をより多くの領域brに分割することもできる。
【0023】
また、トレッド踏面6aに形成される突起部9について、
図5では、突起部9が半球状である場合を示しているが、突起部9は、裁頭円錐状、裁頭角錐上といった
図8(a)に示すような断面台形上のものや、円柱上、角柱上といった
図8(b)に示すような断面長方形状のものや、
図8(c)に示すような裁頭半球状のものなど、様々な形状のものとすることができる。
【0024】
突起部9を上記のような形状とすると好ましいのは、例えば、
図9に示す比較例タイヤのように先端が尖った突起部9′をトレッド部6′の表面に設けると、突起部9′が低剛性であることに起因して、
図9(b)に示すように突起部9′が路面Tとの接触により潰れ易く、すると除水用の空隙Vの体積が減少して除水性が低下する場合があったので、その点について改善するためである。
図5及び8に示す本発明に係るタイヤのように、突起部9の形状を潰れ難くすれば、トレッド踏面6aの剛性及び除水性を確保して、氷上制動性能が向上する。
【0025】
なお、タイヤのトレッド踏面6aの算術平均粗さRaを調整するにあたっては、上述したような突起部9を設けるほか、トレッド踏面6aの表面に発泡ゴムを用いる方法や、トレッド踏面6aの表面に微細な溝を施すなど、他の様々な方法を用いることができる。
【0026】
さらに、本発明に係るタイヤにおいては、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下である複数のブロックBのうち、ブロックBの少なくとも一領域brの接地面の算術平均粗さRaが4μm以下であり、該ブロックB又は他のブロックBの少なくとも一領域brの接地面の算術平均粗さRaが6μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0027】
なお、算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下であるブロックBの接地面積に対して、算術平均粗さRaが4μm以下となる領域は40%以上であり、算術平均粗さRaが6μm以上20μm以下となる領域は40%以上であることが、タイヤの氷上制動性能をより確実に向上させる観点から好ましい。
【0028】
さらに、
図4に示すように、本発明
の一実施形態に係るタイヤ30では、複数のブロックBが1本以上のサイプ3を有し、ブロックBに、該ブロックBよりさらに細かい小ブロックbが区画されるとともに、少なくとも1つの小ブロックbと他の小ブロックbとの間で、接地面の算術平均粗さRaが相互に異な
る。
すなわち、
図3のタイヤ30における境界線と同様に、サイプ3が隔てる少なくとも1つの小ブロックbと他の小ブロックbとの間で接地面の算術平均粗さRaを異にする、ということである。例えば、
図4では、小ブロックb
1(領域br
1)と、その他の小ブロックb
2〜b
5(領域br
2〜br
5)との間で算術平均粗さRaが異なっている。
この構成によれば、トレッド踏面6aの表面粗さをさらに多様にして、より幅広い氷上温度に対応することができるので、様々な氷上温度において、氷上制動性能をさらに向上させることができる。
【0029】
なお、ブロックBに区画形成された小ブロックb
1〜b
5について、例えば、
図4に示すように、少なくとも1つの小ブロックb
1における算術平均粗さRaが他の小ブロックb
2〜b
5と異なっていればよく、例えば、2つの隣接する小ブロックb
2及びb
3の算術平均粗さRaを同値にすることや、5つの小ブロックb
1〜b
5の全てにおける算術平均粗さRaを異なる値にすることもできる。
【0030】
また、
図4に示すサイプ3は、タイヤ幅方向に延び、タイヤ周方向の一方と他方に振幅するジグザグ状であるが、鋸歯状もしくは波状、又は直線状などとすることもできる。
また、
図4に示すブロックBは、4本のサイプ3が配設されることにより5つの小ブロックb
1〜b
5が区画形成されているが、これより多くの、又は少数の小ブロックbを形成することができる。場合によっては、タイヤ幅方向に傾斜して延びるサイプ3や、タイヤ周方向に延びるサイプ3を設けて、小ブロックbを区画形成することもできる。
なお、サイプ3の一端、又は両端がブロックB内で終端している場合、サイプ3の端部から、該サイプの延在方向に引いた延長線をもって小ブロックb間の境界線とするか、又は、サイプ3が鋸歯状もしくは波状など、任意の形状を繰り返すものであるならば、該サイプ3の端部からブロックB端まで当該形状を繰り返して引かれた仮想線を、小ブロックb間の境界線とする。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれだけに限定されるものではない。発明例タイ
ヤ、参考例タイヤおよび比較例タイヤ(ともに、タイヤサイズは195/65R15)を表1に示す仕様のもと試作し、氷上制動性能を評価した。
【0032】
各供試タイヤは、
図1に示すタイヤ構造を有するタイヤである。
発明例タイヤ1
および参考例タイヤ1は、トレッド踏面に
図5に示す半球状の突起部を有し、接地面の算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下であるブロックBを有し、ブロックBの算術平均粗さRaがブロックごとに様々であり、算術平均粗さRaが1μm以上50μm以下となるブロックの接地面積がトレッド踏面6a全体の接地面積に占める割合が、90%のタイヤである。
比較例タイヤ1は、トレッド踏面全体の接地面積の90%を占めるブロックにおける、ブロックごとの算術平均粗さRaの平均が、一律に3μmであるタイヤである。
発明例タイヤ2
,3および参考例タイヤ2〜4は、発明例タイヤ1
および参考例タイヤ1を
それぞれ、表1に示すように変化させたタイヤである。なお、発明例タイヤ
1〜
3は、
図4に示すレッドパターンを有するタイヤ、すなわち、ブロックBが4本のサイプ3を有し、従って該ブロックBに5つの少ブロックb
1〜b
5が区画されたタイヤである。
【0033】
(氷上制動性能)
各供試タイヤを適用リムに組み付け、内圧200kPaを付与した後、車両に装着し、氷上温度が−15℃または−2℃である氷上路面を時速40km/hからフル制動したときの制動距離をそれぞれ測定した。結果を、表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1に示すように、発明例タイヤ1〜
3はいずれも、氷上温度が−15℃の路面における制動距離と、氷上温度が−2℃の路面における制動距離との平均が比較例タイヤ1のそれよりも短く、氷上制動性能が向上していることが分かる。
また、発明例タイヤ1〜
3のいずれにおいても、氷上温度が−15℃の路面と−2℃の路面とにおける制動距離の差の絶対値が、比較例タイヤ1のそれよりも小さいことから、氷上制動性能の温度依存性を低減したことが分かる。