(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134620
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】脱穀装置の受網構造
(51)【国際特許分類】
A01F 12/24 20060101AFI20170515BHJP
【FI】
A01F12/24
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-194882(P2013-194882)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-57988(P2015-57988A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】石原 翔太
【審査官】
木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−072037(JP,U)
【文献】
特開2008−212115(JP,A)
【文献】
特開2004−313026(JP,A)
【文献】
特開2000−333525(JP,A)
【文献】
特開2013−051890(JP,A)
【文献】
特公昭49−013258(JP,B1)
【文献】
特開昭48−080344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01F 12/18−12/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扱胴又は処理胴の下側に沿って配置され、扱胴又は処理胴が脱穀した穀粒を漏下孔から漏下させる受網を備えた脱穀装置において、
前記受網は、
表面側が扱胴又は処理胴と対向する円弧状の多孔板と、
該多孔板の裏面側に固定され、板面が扱胴又は処理胴の回転方向に対向する方向を向いたプレート材で構成の抵抗体とを備え、
該抵抗体を、プレート材の板面が多孔板に形成された漏下孔の扱胴回転下手側端部又は処理胴回転下手側端部に当接する状態で多孔板の表面側に突出させたことを特徴とする脱穀装置の受網構造。
【請求項2】
扱胴又は処理胴の下側に沿って配置され、扱胴又は処理胴が脱穀した穀粒を漏下孔から漏下させる受網を備えた脱穀装置において、
前記受網は、
表面側が扱胴又は処理胴と対向する円弧状の多孔板と、
該多孔板の裏面側に固定された抵抗体とを備え、
該抵抗体の一部を、多孔板に形成された漏下孔から多孔板の表面側に突出させると共に、
前記多孔板の裏面側に、扱胴回転方向又は処理胴回転方向に延びる複数のフレーム部材を並列状に設け、抵抗体をフレーム部材間に架け渡し状に固定したことを特徴とする脱穀装置の受網構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバイン、ハーベスタなどの脱穀装置の受網構造に関する。
【背景技術】
【0002】
コンバイン、ハーベスタなどの脱穀装置は、扱胴や処理胴の下側に沿って配置される受網を備えており、扱胴や処理胴が脱穀した穀粒を受網に形成される漏下孔から漏下させている。この種の受網としては、線材を格子状に編んだクリンプ網や、漏下孔を打ち抜き加工した多孔板が知られており、近年では、耐久性に優れる多孔板の採用が増えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、多孔板からなる受網は、クリンプ網に比べて表面が滑らかであるため、穀粒が漏下しにくいだけでなく、枝梗付着粒や穂切れ粒の脱粒処理が十分に行なわれないという問題があった。そこで、特許文献1では、多孔板からなる受網の表面側に抵抗体(突起体)を設けることにより、穀粒の漏下を促すとともに、枝梗付着粒や穂切れ粒を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−212115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、受網の表面側では、穀粒や茎稈との接触により摩耗が発生するので、特許文献1のように、多孔板からなる受網の表面側に抵抗体を固定すると、抵抗体の固定部(例えば、溶接箇所)が摩耗し、抵抗体の支持強度が低下する惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、扱胴又は処理胴の下側に沿って配置され、扱胴又は処理胴が脱穀した穀粒を漏下孔から漏下させる受網を備えた脱穀装置において、前記受網は、表面側が扱胴又は処理胴と対向する円弧状の多孔板と、該多孔板の裏面側に固定され
、板面が扱胴又は処理胴の回転方向に対向する方向を向いたプレート材で構成の抵抗体とを備え、該抵抗
体を、プレート材の板面が多孔板に形成された漏下孔の扱胴回転下手側端部又は処理胴回転下手側端部に当接する状態で多孔板の表面側に突出させたことを特徴とする脱穀装置の受網構造である。
請求項2の発明は、扱胴又は処理胴の下側に沿って配置され、扱胴又は処理胴が脱穀した穀粒を漏下孔から漏下させる受網を備えた脱穀装置において、前記受網は、表面側が扱胴又は処理胴と対向する円弧状の多孔板と、該多孔板の裏面側に固定された抵抗体とを備え、該抵抗体の一部を、多孔板に形成された
漏下孔から多孔板の表面側に突出させ
ると共に、前記多孔板の裏面側に、扱胴回転方向又は処理胴回転方向に延びる複数のフレーム部材を並列状に設け、抵抗体をフレーム部材間に架け渡し状に固定したことを特徴とする脱穀装置の受網構造である。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、多孔板の裏面側に抵抗体を固定し、抵抗体の一部を、多孔板に形成された孔を介して多孔板の表面側に突出させたので、抵抗体の固定部が摩耗することを回避し、抵抗体の支持強度を維持することができる。
請求項2の発明によれば、
多孔板の裏面側に抵抗体を固定し、抵抗体の一部を、多孔板に形成された孔を介して多孔板の表面側に突出させたので、抵抗体の固定部が摩耗することを回避し、抵抗体の支持強度を維持することができる。しかも多孔板の裏面側に、扱胴回転方向又は処理胴回転方向に延びる複数のフレーム部材を並列状に設け、抵抗体をフレーム部材間に架け渡し状に固定したので、抵抗体の支持強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】第1実施形態に係る受網の表面側斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る受網の裏面側斜視図である。
【
図5】(A)は抵抗体の着脱構造を示す受網の要部縦断面図、(B)は抵抗体の突出量調整構造を示す受網の要部縦断面図である。
【
図6】(A)はフレーム部材に対する受網の固定構造を示す要部横断面図、(B)は抵抗体を個別に固定する場合を示す受網の要部斜視図、(B)は2つの抵抗体を共締めする場合を示す受網の要部斜視図である。
【
図7】(A)は第2実施形態に係る受網の表面側斜視図、(B)は第2実施形態に係る受網の裏面側斜視図である。
【
図8】(A)は第3実施形態に係る受網の表面側斜視図、(B)は第3実施形態に係る受網の裏面側斜視図である。
【
図9】第4実施形態に係る受網の表面側斜視図である。
【
図10】第5実施形態に係る受網の表面側斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1及び
図2において、1はコンバインに設けられる脱穀装置であって、該脱穀装置1は、茎稈の株元部を挟持して後方に搬送する脱穀フィードチェン2と、脱穀フィードチェン2によって搬送される茎稈の穂先側を導入する扱室3と、扱室3内に回転自在に内装され、外周部に設けられる複数の扱歯4aで茎稈の穂先側から穀粒を扱き下ろす扱胴4と、扱胴4の下側に沿って配置され、扱胴4が脱穀した穀粒を漏下孔5aを介して選別室6に漏下させる受網5と、受網5から漏下することなく扱室3の終端部まで達した処理物を受け入れる処理室7と、処理室7内に回転自在に内装され、外周部に設けられる複数の処理歯8aで処理物内の穀粒を単粒化させる処理胴8と、処理胴8の下側に沿って配置され、処理胴8が単粒化した穀粒を漏下孔(図示せず)を介して選別室6に漏下させる第2受網9と、選別室6に漏下した穀粒を揺動選別する揺動選別体10と、選別風を起風する圧風ファン11と、選別された一番物を回収する一番ラセン12と、回収した一番物を穀粒タンク13に揚上搬送する揚穀筒14と、二番物を回収する二番ラセン15と、回収した二番物を揺動選別体10上に還元する二番還元経路(図示せず)と、切れ藁などの屑を機外に排出する排塵ファン16と、脱穀済みの排藁を搬送する排藁チェン17と、排藁を細断処理するカッタ18とを備えて構成されている。
【0010】
図3及び
図4に示すように、受網5は、多数の漏下孔5aが打ち抜き加工された円弧状の多孔板5bを用いて形成されている。本実施形態の多孔板5bでは、ほぼ正方形の漏下孔5aが扱胴回転方向及び扱胴回転軸方向に多数配列されているが、漏下孔5aの形状や個数は収穫する作物の種類などに応じて適宜変更することができる。なお、本実施形態では、メンテナンス性を考慮し、受網5を複数枚の多孔板5bで分割状に構成しているが、分割の有無や多孔板5bの枚数は任意に変更することができる。
【0011】
多孔板5bの表面側(扱胴4との対向面)には、扱胴回転方向に延びる複数の仕切板5cが並列状に突設されている。これらの仕切板5cは、扱室3における処理物の流れ(扱胴回転軸方向)を調整することにより、扱胴4による穀粒の単粒化作用を促進させる。また、多孔板5bの裏面側には、扱胴回転方向に延びる複数のフレーム部材5dが並列状に突設されており、これらのフレーム部材5dによって受網5の強度が確保される。
【0012】
受網5には、扱室3内の処理物に適度な抵抗を与えることにより、穀粒の漏下を促すとともに、枝梗付着粒や穂切れ粒を減少させる抵抗体20が設けられる。抵抗体20は、多孔板5bの裏面側に固定され、その一部である凸部20aが、多孔板5bの漏下孔5aを介して多孔板5bの表面側に突出している。このような抵抗体20によれば、多孔板5bの表面側で処理物に抵抗を与えるものでありながら、多孔板5bに対する固定部を多孔板5bの裏面側に配置できるので、抵抗体20の固定部が処理物との接触で摩耗することを回避し、抵抗体20の支持強度を長期にわたって維持することができる。また、本実施形態では、抵抗体20の凸部20aを、多孔板5bの漏下孔5aを介して多孔板5bの表面側に突出させたので、抵抗体20の凸部20aを多孔板5bの表面側に突出させるための孔を別途形成する必要がない。
【0013】
本実施形態では、抵抗体20の凸部20aを漏下孔5aから突出させるにあたり、漏下孔5aの扱胴回転下手側端部に凸部20aを配置している。
そして図5において、扱胴4は、左から右方向に回転するように構成されている。このような抵抗体20によれば、漏下孔5aの扱胴回転下手側端部で穀粒に抵抗を付与し、漏下孔5aにおける穀粒の漏下を促進することができる。
【0014】
つぎに、抵抗体20の具体的な形状及び固定構造について、
図3〜
図6を参照して説明する。
【0015】
本実施形態の抵抗体20は、
図3から明らかなように板面が扱胴4の回転方向に対向する方向を向いたプレート部材で構成されている。具体的には、両端部に固定部20bとなる曲げ部を有するとともに、その中間部一側に複数の凸部20aを有し、全体としてコ字形状のプレート部材で抵抗体20を構成している。抵抗体20の長さは、フレーム部材5dの間隔に対応し、凸部20aの個数及び位置は、フレーム部材5d間に形成される漏下孔5aの個数及び位置に対応している。つまり、本実施形態の抵抗体20は、多孔板5bの裏面側でフレーム部材5d間に架け渡し状に固定され、その一部である凸部20aが漏下孔5aを介して多孔板5bの表面側に突出するようになっている。
そして図5から明らかなように、プレート材の板面が多孔板に形成された漏下孔の扱胴回転下手側端部又は処理胴回転下手側端部に当接する状態で多孔板の表面側に突出している。
【0016】
本実施形態では、抵抗体20をフレーム部材5dに固定するにあたり、抵抗体20の固定部20b及びフレーム部材5dにボルト挿通孔20c、5eを形成し、ここに挿通されるボルト21及びナット22を用いて、抵抗体20をフレーム部材5dに固定している。このようにすると、溶接で固定する場合の溶接ひずみを回避できるだけでなく、摩耗などに応じた抵抗体20の着脱交換が可能になるという利点がある(
図5の(A)参照)。
【0017】
また、
図5の(B)に示すように、フレーム部材5dに対する抵抗体20の取付方向は適宜変更することができる。また、フレーム部材5dのボルト挿通孔5e(又は固定部20bのボルト挿通孔20c)を長孔にすれば、凸部20aの突出量を調整可能に構成することができる。
【0018】
また、フレーム部材5dに対する抵抗体20の取付方向を変更するにあたり、
図6の(C)に示すように、隣接する抵抗体20の固定部20b同士を重合させ、共通のボルト21、ナット22で共締め状にフレーム部材5dに固定することもできる。このようにすると、
図6の(B)の固定構造に比べ、ボルト21及びナット22の個数を減らすことが可能になる。
【0019】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、扱胴4の下側に沿って配置され、扱胴4が脱穀した穀粒を漏下孔5aから漏下させる受網5を備えた脱穀装置1において、受網5は、表面側が扱胴4と対向する円弧状の多孔板5bと、該多孔板5bの裏面側に固定された抵抗体20とを備え、該抵抗体20の一部を、多孔板5bに形成された孔(漏下孔5a)を介して多孔板5bの表面側に突出させたので、抵抗体20の固定部20bが摩耗することを回避し、抵抗体20の支持強度を維持することができる。
【0020】
また、本実施形態では、抵抗体20の一部を、多孔板5bに形成された漏下孔5aを介して多孔板5bの表面側に突出させたので、抵抗体20の一部を多孔板5bの表面側に突出させるための孔を別途形成する必要がない。
【0021】
また、本実施形態では、抵抗体20の一部を、漏下孔5aの扱胴回転下手側に配置したので、漏下孔5aにおける穀粒の漏下を促進することができる。
【0022】
また、本実施形態では、多孔板5bの裏面側に、扱胴回転方向に延びる複数のフレーム部材5dを並列状に設け、抵抗体20をフレーム部材5d間に架け渡し状に固定したので、抵抗体20の支持強度を高めることができる。
【0023】
また、本実施形態では、抵抗体20をプレート部材で構成したので、抵抗体20の加工コストを抑制することができる。
【0024】
つぎに、本発明の第2〜第5実施形態に係る受網について、
図7〜
図10を参照して説明する。ただし、前記実施形態と共通の構成については、前記実施形態と同じ符号を用いることにより、前記実施形態の説明を援用する。
【0025】
本発明の第2実施形態に係る受網5Bは、
図7に示すように、抵抗体20の固定部20bがフレーム部材5dに対して溶接で固定されている点が前記第1実施形態と相違している。このような第2実施形態の受網5Bによれば、抵抗体20が着脱不能となるが、ボルトやナットが不要になるという利点がある。
【0026】
また、本発明の第3実施形態に係る受網5Cは、
図8に示すように、抵抗体20の固定部20bがフレーム部材5dに対して溶接で固定されている点と、抵抗体20の凸部20aが漏下孔5aの扱胴回転上手側に配置されている点が前記第1実施形態と相違している。このような第3実施形態の受網5Cによれば、抵抗体20が着脱不能となるが、ボルトやナットが不要になるという利点がある。また、抵抗体20の凸部20aが漏下孔5aの扱胴回転上手側に配置されているので、第1実施形態に比べて漏下孔5aにおける穀粒の漏下を抑制することができる。
【0027】
また、本発明の第4実施形態に係る受網5Dは、
図9に示すように、抵抗体20の凸部20aが漏下孔5aを2つに仕切るように配置されている点が前記第1実施形態と相違している。このような第4実施形態の受網5Dによれば、抵抗体20を利用して漏下孔5aの目合いを変更することができる。
【0028】
また、本発明の第5実施形態に係る受網5Eは、
図10に示すように、抵抗体20の凸部20aが一部の漏下孔5aのみに配置されている点と、一部の漏下孔5aに配置された抵抗体20の凸部20aが受網5全体においてラセン状に配置される点が前記第1実施形態と相違している。このような第5実施形態の受網5Eによれば、受網5Eにおける穀粒の漏下具合を部分的に調整できるだけでなく、抵抗体20を利用して扱室3内における処理物の流れ(扱胴回転軸方向)を調整することができる。
【0029】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、特許請求の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。例えば、本発明の受網構造は、扱室の受網だけでなく、処理室の受網にも適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 脱穀装置
3 扱室
4a 扱歯
4 扱胴
5 受網
5a 漏下孔
5b 多孔板
5d フレーム部材
6 選別室
7 処理室
8a 処理歯
8 処理胴
9 第2受網
20 抵抗体
20a 凸部
20b 固定部