(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134634
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20170515BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20170515BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20170515BHJP
B60C 9/30 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
B60C11/03 B
B60C9/20 B
B60C9/18 Z
B60C9/30
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-232149(P2013-232149)
(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公開番号】特開2015-93502(P2015-93502A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年7月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 優
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−213278(JP,A)
【文献】
特開平04−166402(JP,A)
【文献】
特開2013−001302(JP,A)
【文献】
特開2011−230699(JP,A)
【文献】
特開平04−163211(JP,A)
【文献】
特許第5029795(JP,B2)
【文献】
米国特許第05014762(US,A)
【文献】
特開2013−189131(JP,A)
【文献】
特開2003−200711(JP,A)
【文献】
特許第4228364(JP,B2)
【文献】
特開2009−126250(JP,A)
【文献】
特開平07−223407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の環状ビードで両端が巻き返されたカーカス層と、前記カーカス層の外周側に配され、タイヤ回転方向に対して傾斜して延びるベルトコードが配列されたベルトプライを複数積層して形成されたベルト層と、前記ベルト層の外周側に配され、タイヤ回転方向に対して傾斜して延びる補強コードが配列されたベルト補強層と、を備え、タイヤ赤道面を挟んで両側でトレッドパターンのボイド比が異なる空気入りタイヤにおいて、
前記補強コードは、車両装着状態にて車両前進時のタイヤ回転方向に対して、ボイド比が大きい側から小さい側へ傾斜していることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルト層のうち最も外周側に配される最外ベルトプライの前記ベルトコードは、前記補強コードと同じ向きに傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト補強層のうち前記最外ベルトプライの端部を覆う部分の前記補強コードは、前記最外ベルトプライの前記ベルトコードと逆の向きに傾斜していることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記最外ベルトプライの端部を覆う部分の前記補強コードのタイヤ回転方向に対する傾斜角度は、前記最外ベルトプライの前記ベルトコードのタイヤ回転方向に対する傾斜角度の5〜10%であることを特徴とする請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称パターンを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッド面に形成されるトレッドパターンとして、タイヤ赤道面を挟んで両側で溝面積を異ならせた非対称パターンが知られている。このような非対称パターンを有するタイヤでは、溝面積が大きい側のトレッドゴムの重量が、溝面積が小さい側のトレッドゴムの重量よりも少なく、両側で剛性差が生じて、タイヤ転動時には、溝面積が大きい側から溝面積が小さい側へと向かうコニシティが働くため、直進安定性を阻害する要因となっていた。
【0003】
下記特許文献1には、非対称パターンを有するタイヤにおけるコニシティを低減させて直進安定性を向上させる目的で、ベルト層の幅中心を、タイヤ赤道面から溝面積が大きい側へずらした空気入りラジアルタイヤが開示されている。このタイヤでは、溝面積が大きい側を溝面積が小さい側よりもベルト層により補強することとなり、非対称パターンに起因するコニシティを低減できる。
【0004】
下記特許文献2には、非対称パターンを有するタイヤにおけるコニシティを低減させる目的で、ベルト補強層のコード配列密度をタイヤ赤道面の左右で異ならせた空気入りラジアルタイヤが開示されている。このタイヤでも、特許文献1のタイヤと同様に、溝面積が大きい側を溝面積が小さい側よりもベルト補強層により補強することで、非対称パターンに起因するコニシティを低減できる。
【0005】
しかしながら、ベルト層又はベルト補強層に埋設されるコードは、タイヤ回転方向に対して傾斜するように配列された場合、タイヤ横方向(タイヤ軸方向)の力を発生するが、引用文献1及び引用文献2ではコードの傾斜方向について考慮されておらず、十分な直進安定性を得られない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−223407号公報
【特許文献2】特開2003−200711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、非対称パターンに起因するコニシティを抑制して直進安定性を向上させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明の空気入りタイヤは、一対の環状ビードで両端が巻き返されたカーカス層と、前記カーカス層の外周側に配され、タイヤ回転方向に対して傾斜して延びるベルトコードが配列されたベルトプライを複数積層して形成されたベルト層と、前記ベルト層の外周側に配され、タイヤ回転方向に対して傾斜して延びる補強コードが配列されたベルト補強層と、を備え、タイヤ赤道面を挟んで両側でトレッドパターンのボイド比が異なる空気入りタイヤにおいて、前記補強コードは、車両装着状態にて車両前進時のタイヤ回転方向に対して、ボイド比が大きい側から小さい側へ傾斜しているものである。
【0009】
本発明の空気入りタイヤのトレッドパターンは、タイヤ赤道面を挟んで両側でトレッドパターンのボイド比が異なる、所謂非対称パターンとなっている。このような非対称パターンを有するタイヤでは、タイヤ転動時、ボイド比が大きい側から小さい側へと向かうコニシティが働く。一方、ベルト補強層に含まれる補強コードを、タイヤ回転方向に対してボイド比が大きい側から小さい側へ傾斜させることで、タイヤ転動時、補強コードによってボイド比が小さい側から大きい側へと向かうタイヤ横方向の力が発生する。これにより、非対称パターンに起因するコニシティを抑制して直進安定性を向上できる。なお、本発明におけるボイド比とは、接地面積に対する溝面積の比率である。
【0010】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層のうち最も外周側に配される最外ベルトプライの前記ベルトコードは、前記補強コードと同じ向きに傾斜していることが好ましい。かかる構成によれば、タイヤ転動時、補強コードと同様に、ベルトコードによってボイド比が小さい側から大きい側へと向かうタイヤ横方向の力が発生する。これにより、非対称パターンに起因するコニシティを更に抑制して直進安定性を向上できる。
【0011】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記ベルト補強層のうち前記最外ベルトプライの端部を覆う部分の前記補強コードは、前記最外ベルトプライの前記ベルトコードと逆の向きに傾斜していることが好ましい。かかる構成によれば、最外ベルトプライのベルトコードの端部に補強コードが引っ掛かりにくくなり、或いは引っ掛かったとしても補強コードからの押圧に抗しやすくなって、ベルト層が内側に寄せられることを抑制できる。その結果、ベルト層の浮き上がりに伴う位置ずれの発生を抑えて、タイヤのユニフォミティであるLFV(ラテラルフォースバリエーション)の悪化を防ぐことができる。
【0012】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記最外ベルトプライの端部を覆う部分の前記補強コードのタイヤ回転方向に対する傾斜角度は、前記最外ベルトプライの前記ベルトコードのタイヤ回転方向に対する傾斜角度の5〜10%であることが好ましい。補強コードの傾斜角度をこの範囲とすることで、ベルト補強層による高速耐久性を確保しながら、LFVの悪化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
【
図3】ベルト層及びベルト補強層を模式的に示す平面図
【
図4】別実施形態に係るベルト層及びベルト補強層を模式的に示す平面図
【
図5】別実施形態に係るベルト層及びベルト補強層を模式的に示す平面図
【
図6】別実施形態に係るトレッドパターンを示す展開図
【
図7】別実施形態に係るベルト層及びベルト補強層を模式的に示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図である。
図2は、空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図3は、
図1の空気入りタイヤのベルト層及びベルト補強層を模式的に示す平面図である。
【0015】
図1に示すように、空気入りタイヤは、一対の環状のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3と、その一対のビード部1の間を補強するカーカス層4とを備えている。カーカス層4は、トロイド状をなすカーカスプライからなり、その端部はビードコア1aとビードフィラー1bを挟み込むようにして折り返されている。
【0016】
トレッド部3におけるカーカス層4の外周側には、たが効果によりカーカス層4を補強するベルト層5が配設されている。ベルト層5は、タイヤ周方向に対して20〜30°の角度で傾斜したベルトコード5Cを有する2枚のベルトプライ5a,5bを有し、各ベルトプライはベルトコード5Cが互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0017】
トレッド部3におけるベルト層5の外周側には、接地面を構成するトレッドゴム7が設けられている。トレッドゴム7の外表面であるトレッド面TRには、タイヤ周方向に沿って延びる複数の主溝8と、これらの主溝8により区画された複数の陸部とが設けられている。本実施形態では、4本の主溝8が設けられている。本発明では、タイヤ幅方向WDの最外側に位置する一対の主溝8の外側溝壁よりも外側の領域をショルダー部Shとし、一対のショルダー部Shに挟まれた領域をセンター部Ceとする。
【0018】
ベルト層5の外周側には、ベルト層5の略全幅を覆うベルト補強層6が配設されている。ベルト補強層6には、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる補強コード6Cが配列されている。補強コード6Cの材料としては、有機繊維コードが例示される。有機繊維コードの素材としては、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンを例示することができるが、ナイロンが好ましい。
【0019】
ベルト補強層6は、ベルト層5の外周側に、補強コード6Cをスパイラル状に巻回することにより形成される。このとき、巻回する際の送りピッチを適宜変えることで、補強コード6Cの配列密度を設定できる。補強コード6Cの配列密度とは、単位幅あたりのコード本数のことであり、エンド数と呼ばれることもある。
【0020】
本発明の空気入りタイヤのトレッドパターンは、タイヤ赤道面CLを挟んで両側でトレッドパターンのボイド比が異なる、所謂非対称パターンとなっている。ここで、ボイド比とは、接地面積に対する溝面積の比率(%)であり、{1−実接地面積(陸部面積)/接地面積(陸部面積+溝面積)}×100の式により算出できる。
図2に示す例では、タイヤ赤道面CLを基準として一方側3aのボイド比Vaが、他方側3bのボイド比Vbよりも大きくなっている。この場合、タイヤがタイヤ回転方向Rに回転する際、一方側3aから他方側3bへと向かうタイヤ横方向のコニシティが働く。
【0021】
本発明の補強コード6Cは、車両装着状態にて車両前進時のタイヤ回転方向Rに対して、ボイド比が大きい側から小さい側へ傾斜している。本実施形態では、補強コード6Cが、タイヤ回転方向Rに対して一方側3aから他方側3bに傾斜している。この場合、タイヤがタイヤ回転方向Rに回転する際、補強コード6Cによって他方側3bから一方側3aへと向かうタイヤ横方向の力が発生する。これにより、一方側3aから他方側3bへと向かうコニシティを改善することができる。
【0022】
補強コード6Cのタイヤ回転方向Rに対する傾斜角度αは、5°以下が好ましく、2°以下がより好ましい。例えば、大きい側のボイド比Vaに対する小さい側のボイド比Vbの割合Vb/Vaが0.7より大きく、1.0より小さい場合、補強コード6Cの傾斜角度αは1°とし、割合Vb/Vaが0.7以下の場合、補強コード6Cの傾斜角度αは2°とすることができる。
【0023】
ベルト層5のうち最も外周側に配される最外ベルトプライ(本実施形態ではベルトプライ5b)のベルトコード5Cは、補強コード6Cと同じ向きに傾斜していることが好ましい。本実施形態では、ベルトプライ5bのベルトコード5Cが、タイヤ回転方向Rに対して一方側3aから他方側3bに傾斜している。この場合、タイヤがタイヤ回転方向Rに回転する際、補強コード6Cと同様に、ベルトコード5Cによって他方側3bから一方側3aへと向かうタイヤ横方向の力が発生する。これにより、一方側3aから他方側3bへと向かうコニシティをさらに改善することができる。ベルトコード5Cのタイヤ回転方向Rに対する傾斜角度βは、17〜35°が好ましく、23〜29°がより好ましい。
【0024】
<別実施形態>
(1)本発明では、
図4に示すように、ベルト補強層6のうち最外ベルトプライ5bの端部5eを覆う部分、すなわちショルダー部Shの補強コード6Cは、最外ベルトプライ5bのベルトコード5Cと逆の向きに傾斜していることが好ましい。かかる構成によれば、最外ベルトプライ5bのベルトコード5Cの端部に補強コード6Cが引っ掛かりにくくなり、或いは引っ掛かったとしても補強コード6Cからの押圧に抗しやすくなって、ベルト層5が内側に寄せられることを抑制できる。その結果、ベルト層5の浮き上がりに伴う位置ずれの発生を抑えて、タイヤのユニフォミティであるLFVの悪化を防ぐことができる。
【0025】
また、最外ベルトプライ5bの端部5eを覆うショルダー部Shの補強コード6Cのタイヤ回転方向Rに対する傾斜角度α1は、最外ベルトプライ5bのベルトコード5Cのタイヤ回転方向Rに対する傾斜角度βの5〜10%であることが好ましい。補強コード6Cの傾斜角度α1をこの範囲とすることで、ベルト補強層6による高速耐久性を確保しながら、LFVの悪化を防ぐことができる。例えば、最外ベルトプライ5bのベルトコード5Cの傾斜角度βが27°の場合、ショルダー部Shの補強コード6Cの傾斜角度α1を1.4°〜2.7°とする。
【0026】
(2)ショルダー部Shの補強コード6Cの傾斜角度α1とセンター部Ceの補強コード6Cの傾斜角度α2は、同じとしても異ならせてもよい。傾斜角度α1と傾斜角度α2を異ならせる場合、傾斜角度α1が傾斜角度α2よりも大きいことが好ましい。傾斜角度α1が傾斜角度α2よりも大きくすることで、コニシティを抑制しつつ、LFVの悪化を防ぐことができる。
【0027】
(3)前述の実施形態では、最外ベルトプライ5bのベルトコード5Cが、補強コード6Cと同じ向きに傾斜しているが、
図5に示すように、補強コード6Cと逆の向きに傾斜していてもよい。
【0028】
(4)
図6に示すようなタイヤ赤道面CLを中心に
図2のトレッドパターンを反転したトレッドパターンの場合、補強コード6C及びベルトコード5Cは、タイヤ回転方向Rに対して
図7に示す向きに傾斜している。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0030】
(1)CON(コニシティ)
JIS D4233に規定する試験方法に基づいて、コニシティを測定した。具体的には、タイヤを回転ドラムに押し付けて、両軸間隔を一定に保持しながら該タイヤを回転させたときに発生するタイヤ横方向の力成分を測定した。正転・逆転時の力を測定し、コニシティの値を評価した。タイヤサイズは195/65R15として、空気圧は200kPa、荷重は470kgとした。測定値の絶対値が小さいほどコニシティが小さいことを示す。
【0031】
(2)LFV(ラテラルフォースバリエーション)
JIS D4233に規定する試験方法に基づいて、LFVを測定した。具体的には、タイヤを回転ドラムに押し付けて、両軸間隔を一定に保持しながら該タイヤを回転させたときに発生するタイヤ横方向の力の変動量を測定した。タイヤサイズは195/65R15として、空気圧は200kPa、荷重は470kgとした。測定値が小さいほどLFVが小さいことを示す。
【0032】
図1に示すタイヤ構造において、ベルトコード及び補強コードの傾斜角度を表1のようにしたものを比較例1及び実施例1〜4とした。トレッドパターンとタイヤ回転方向Rは、
図2のように設定した。傾斜角度は、タイヤ回転方向Rに対して一方側3aから他方側3bに傾斜する方向の角度を+(プラス)とし、反対方向の角度を−(マイナス)としている。実施例1では、ベルトコード及び補強コードを
図5のように配列した。実施例2では、ベルトコード及び補強コードを
図2のように配列した。実施例3及び4は、ベルトコード及び補強コードを
図4のように配列した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果から以下のことが分かる。実施例1〜4の空気入りタイヤは、比較例1と比較して、コニシティを抑制できた。実施例3及び4は、実施例2と比較して、コニシティが少し悪化するが、LFVの悪化を防ぐことができた。
【符号の説明】
【0035】
5 ベルト層
5b 最外ベルトプライ
5e 最外ベルトプライの端部
5C ベルトコード
6 ベルト補強層
6C 補強コード
CL タイヤ赤道面
R タイヤ回転方向