特許第6134636号(P6134636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134636
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】すべり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/10 20060101AFI20170515BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20170515BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20170515BHJP
【FI】
   F16C33/10 Z
   F16C17/02 Z
   F16C9/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-234245(P2013-234245)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-94428(P2015-94428A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】芦原 克宏
(72)【発明者】
【氏名】梶木 悠一朗
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕紀
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−519843(JP,A)
【文献】 特開2013−194830(JP,A)
【文献】 特開2003−232357(JP,A)
【文献】 特開平4−95608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/10, 9/02,17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受であって、
前記下側の半割部材の軸方向端部に、円周方向に細溝を設け、
前記細溝の軸方向外側の周縁部の前記半割部材の外周面からの高さを円周方向に対して変化させ、前記周縁部の前記半割部材の外周面からの高さの勾配は前記細溝の円周方向長さの中央を中心軸として非対称となるように形成した
ことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
前記周縁部の高さの勾配は、回転方向上流側端部から周縁部の高さが最低となる点までの勾配よりも、回転方向下流側端部から周縁部の高さが最となる点までの勾配の方が小さくなるように構成した
ことを特徴とする請求項1に記載のすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり軸受の技術に関し、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのクランクシャフトを軸支するための軸受であって、円筒形状を二分割した二つの部材を合わせる半割れ構造のすべり軸受が公知となっている。また、前記軸受の摺動面積を減らし、フリクション低減効果を得るために、前記軸受の幅を狭くする構造がある。しかし、軸受の幅を狭くすると、流出油量が増加していた。そこで、前記軸受の軸方向両端部に、全周に逃げ部分(細溝)を形成した軸受が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−532036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の全周に細溝を形成した軸受では、摺動面積減少により、負荷容量が低下し、良好な潤滑に必要な油膜厚さを確保することができず、且つ、総和の流出油量が多かった。
【0005】
そこで、本発明は係る課題に鑑み、フリクション低減効果を得ることができ、総和の流出油量を抑えることができる軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
即ち、請求項1においては、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材を上下に配置したすべり軸受であって、前記下側の半割部材の軸方向端部に、円周方向に細溝を設け、前記細溝の軸方向外側の周縁部の前記半割部材の外周面からの高さを円周方向に対して変化させ、前記周縁部の前記半割部材の外周面からの高さの勾配は前記細溝の円周方向長さの中央を中心軸として非対称となるように形成したものである。
【0008】
即ち、請求項2においては、前記周縁部の高さの勾配は、回転方向上流側端部から周縁部の高さが最低となる点までの勾配よりも、回転方向下流側端部から周縁部の高さが最となる点までの勾配の方が小さくなるように構成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
すなわち、油膜圧力の発生を妨げない程度の細溝を設けることで、摺動面積を減らしつつ、フリクション低減効果を得ることができ、かつ、総和の流出油量を抑えることができる。
また、前記細溝の周縁部の高さを円周方向に対して変化させることで、油膜圧力勾配を変化させて油の吸い戻し量、漏れ量を適当な量に変化させることができる。
また、細溝の周縁部の高さの勾配が回転方向上流側端部よりも回転方向下流側端部の方が緩やかになるように構成することで、回転方向下流側端部の吸い戻し量が減少し、回転方向上流側端部の吸い戻し量が増加する。これにより漏れ油量の総量が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るすべり軸受を示す正面図。
図2】本発明の実施形態に係るすべり軸受を構成する半割部材を示す平面図。
図3】(a)本発明の実施形態に係る半割部材を示す平面拡大図。(b)同じくA−A線断面拡大図。(c)同じくB−B線断面拡大図。
図4】(a)本発明の実施形態に係る半割部材を示すC−C線断面拡大図。(b)本発明の実施形態に係る半割部材を示すD−D線断面拡大図。
図5】本発明の実施形態に係るB−B線断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、発明の実施の形態を説明する。なお、図1はすべり軸受1の正面図であり、画面の上下を上下方向、画面の手前方向及び奥方向を軸方向(前後方向)とする。
【0013】
まず、第一の実施形態に係るすべり軸受1を構成する半割部材2について図1及び図2を用いて説明する。
すべり軸受1は円筒状の部材であり、図1に示すように、エンジンのクランクシャフト11のすべり軸受構造に適用される。すべり軸受1は、二つの半割部材2・2で構成されている。二つの半割部材2・2は、円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されている。本実施形態においては、半割部材2・2は上下に配置されており、左右に合わせ面が配置されている。クランクシャフト11をすべり軸受1で軸支する場合、所定の隙間が形成され、この隙間に対し図示せぬ油路から潤滑油が供給される。
【0014】
図2においては、上側および下側の半割部材2を示している。なお、本実施形態においては、クランクシャフト11の回転方向を図1の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度ωは、図1における右端の位置を0度とし、図1において、反時計回り方向を正とする。すなわち、図1において、左端の位置の軸受角度ωが180度となり、下端の位置の軸受角度ωが270度となるように定義する。
【0015】
上側の半割部材2の内周には円周方向に溝が設けられており、中心に円形の孔が設けられている。また、上側の半割部材2の左右に合わせ面が配置されている。
下側の半割部材2の内周の摺動面において、その軸方向の端部に細溝3が形成されている。
【0016】
細溝3は下側の半割部材2に設けられる。本実施形態においては、細溝3は軸方向に並列して二本設けられている。細溝3の回転方向下流側端部3aは、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面に近接しており、回転方向下流側端部3aと回転方向下流側合わせ面とは連通することなく設けられている。
詳細には、細溝3の回転方向下流側端部3aが、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面がある180度よりも大きい軸受角度ω0に配置されている。すなわち、細溝3は、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面(軸受角度ωが180度)よりも大きい軸受角度ωから軸受角度ωが正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に設けられる。
下側の半割部材2においては、図1の右側の合わせ面が回転方向上流側合わせ面、図1の左側の合わせ面が回転方向下流側合わせ面となる。
【0017】
細溝3の長さlは、回転方向下流側端部3a(軸受角度がω0)から回転方向上流側端部3b(軸受角度がω1)までの長さに形成したものである。なお、軸受角度ω1は、ω0よりも大きく270度以下である。より詳細には、軸受角度ω1は、通常225度よりも大きく270度以下である領域に存在する。
【0018】
細溝3は、図4に示すように、軸受厚さTよりも浅い深さdとなるように形成されている。また、細溝3の幅はwとなるように形成されている。
また、細溝3の軸方向外側面を形成する周縁部2aは、半割部材2の外周面からの高さhを円周方向に対して変化させている。
図3(c)に示すように、周縁部2aの高さhの勾配は円周方向中央(軸受角度ωがω2)を中心軸として非対称となるように形成されている。すなわち、断面視において、周縁部2aの高さhが最も低くなっている位置(軸受角度ωがω3)は、細溝3の円周方向中央(軸受角度ωがω2)よりも回転方向上流側に配置されている。
【0019】
図4(a)に示すように、周縁部2aの高さhが最も低くなっている位置(軸受角度ωがω3)においては、周縁部2aの高さhが細溝3の底面と同じ高さであるように形成されている。図4(b)に示すように、回転方向下流側端部3a(軸受角度がω0)に近い位置においては、周縁部2aの高さhは周囲のクランクシャフト11との当接面よりも一段低くなるように形成されている。
【0020】
図3(c)に示すように、細溝3の半径方向の深さdの勾配は円周方向中央(軸受角度ωがω2)を中心軸として非対称となるように形成し、回転方向上流側端部3b(軸受角度ωがω1)から周縁部2aの高さが最低となる点(軸受角度ωがω3)までの勾配よりも、回転方向下流側端部3a(軸受角度ωがω0)から周縁部2aの高さが最低となる点(軸受角度ωがω3)までの勾配の方が小さくなるように構成している。このように構成することにより、回転方向上流側端部3bでの吸い戻し量を増加させつつ、回転方向下流側端部3aでの漏れ油量を低減させることができる。
【0021】
なお、本実施形態においては、周縁部2aのクランクシャフト11との当接面は連続する曲線になるように形成しているが、これに限定するものではなく、例えば、図5に示すように、回転方向上流側端部3b(軸受角度ωがω1)において、周縁部2aを不連続にして、すべり軸受1の内周面と周縁部2aの下流側端部との間に半径方向に延びる壁部2bを設ける構成とすることもできる。
【0022】
以上のように、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材2・2を上下に配置したすべり軸受1であって下側の半割部材2の軸方向端部に、円周方向に細溝3を設け、細溝3の軸方向外側の周縁部2aの高さを円周方向に対して変化させ、周縁部2aの高さhの勾配は円周方向中央(軸受角度ωがω2)を中心軸として非対称となるように形成したものである。
このように構成することにより、周縁部2aの高さhを円周方向に対して変化させることで、油膜圧力勾配を変化させて油の吸い戻し量、漏れ量を適当な量に変化させることができる。すなわち、円周方向中央(軸受角度ωがω2)よりも回転方向上流側における油の吸い戻し量及び漏れ量と、円周方向中央(軸受角度ωがω2)よりも回転方向下流側における油の吸い戻し量及び漏れ量とに差を設けることができるため、油膜圧力勾配を変化させて油の吸い戻し量、漏れ量を適当な量に変化させることができる。
【0023】
また、周縁部2aの高さhの勾配は、回転方向上流側端部3bから周縁部2aの高さhが最低となる点(軸受角度ωがω3)までの勾配よりも、回転方向下流側端部3aから周縁部2aの高さhが最低となる点(軸受角度ωがω3)までの勾配の方が小さくなるように構成したものである。
このように構成することにより、周縁部2aの高さhの勾配が回転方向上流側端部3bよりも回転方向下流側端部3aの方が緩やかになるように構成することで、回転方向下流側端部3aでの吸い戻し量が減少し、回転方向上流側端部3bでの吸い戻し量が増加する。これにより漏れ油量の総量が減少する。
【符号の説明】
【0024】
1 すべり軸受
2 半割部材
2a 周縁部
3 細溝
3a 回転方向下流側端部
3b 回転方向上流側端部
11 クランクシャフト
図1
図2
図3
図4
図5