(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IIa族及びIV−VI族材料系において形成されたヘテロ構造を備え、前記ヘテロ構造は、複数の障壁層及び複数の井戸層が、交互に変化する一連の障壁層及び井戸層を形成するように、前記第1及び第2井戸層を含む前記複数の井戸層によって分離された前記障壁層を含む前記複数の障壁層を備える請求項1に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の井戸層のうちのそれぞれの井戸層は、IIa族及びIV−VI族材料系における第1材料の1つ又は複数の層を備え、前記複数の障壁層のうちのそれぞれの障壁層は、前記ヘテロ構造内のすべての隣接する井戸層の前記IIa族及びIV−VI族材料系における前記第1材料のものを上回るバンドギャップを有する前記IIa族及びIV−VI族材料系における第2材料の1つ又は複数の層を備える請求項2に記載の薄膜熱電材料。
前記短周期超格子は、前記複数の超格子障壁層及び前記複数の超格子井戸層が、交互に変化する一連の超格子障壁及び超格子井戸層を形成するように、複数の超格子井戸層によって分離された複数の超格子障壁層を備える請求項9に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子井戸層のうちのそれぞれの超格子井戸層は、前記IIa族及びIV−VI族材料系における第1材料の1つ又は複数の層を備え、前記複数の超格子障壁層のうちのそれぞれの超格子障壁層は、前記短周期超格子内のすべての隣接する超格子井戸層の前記IIa族及びIV−VI族材料系における前記第1材料のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する前記IIa族及びIV−VI族材料系における第2材料の1つ又は複数の層を備える請求項10に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子障壁層の厚さは、前記複数の障壁層のうちの少なくとも1つの障壁層が前記少なくとも1つの障壁層の厚さにわたって実質的に一定であるバンドギャップを有するように、実質的に等しい請求項11に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子障壁層の厚さは、クロスプレーン有効キャリア密度輸送を増大させるバンドギャップエネルギー勾配を生成するために、前記短周期超格子に跨って変化している請求項11に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子障壁層の厚さは、前記短周期超格子に跨って増大し、これにより、望ましいキャリアの流れの方向において距離に伴って前記複数の障壁層のうちの前記少なくとも1つの障壁層のバンドギャップを増大させている請求項11に記載の薄膜熱電材料。
前記短周期超格子は、前記複数の超格子障壁層及び前記複数の超格子井戸層が、交互に変化する一連の超格子障壁及び超格子井戸層を形成するように、複数の超格子井戸層によって分離された複数の超格子障壁層を備える請求項20に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子井戸層のうちのそれぞれの超格子井戸層は、前記IIa族及びIV−VI族材料系における第1材料の1つ又は複数の層を備え、前記複数の超格子障壁層のうちのそれぞれの超格子障壁層は、前記短周期超格子内のすべての隣接する超格子井戸層の前記IIa族及びIV−VI族材料系における前記第1材料のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する前記IIa族及びIV−VI族材料系における第2材料の1つ又は複数の層を備える請求項21に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子障壁層の厚さは、少なくとも1つの障壁層が前記少なくとも1つの障壁層の厚さにわたって実質的に一定であるバンドギャップを有するように、実質的に等しい請求項22に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子障壁層の厚さは、クロスプレーン有効キャリア密度輸送を増大させるバンドギャップエネルギー勾配を生成するために、前記短周期超格子に跨って変化している請求項22に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の超格子障壁層の厚さは、前記短周期超格子に跨って増大し、これにより、望ましいキャリアの流れの方向において距離に伴って前記少なくとも1つの障壁層のバンドギャップを増大させている請求項22に記載の薄膜熱電材料。
前記複数の障壁層のうちの少なくとも1つの障壁層は、前記IIa族及びIV−VI族材料系において形成された短周期超格子を備え、前記複数の井戸層のうちの少なくとも1つの井戸層は、前記IIa族及びIV−VI族材料系において形成された短周期超格子を備える請求項2に記載の薄膜熱電材料。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ARPA−Eによって締結された契約番号第AR0000033号の下に政府資金によって実施されたものである。米国政府は、本発明における権利を有する。
【0003】
本出願は、2011年2月28日付けで出願された米国仮特許出願第61/447,459号の利益を主張するものであり、この出願の開示内容は、引用により、そのすべてが本明細書に包含される。
【0004】
近年、全世界的なエネルギーの使用と環境に対する、特に、地球温暖化に対するその影響に伴う懸念が増大した結果、新しい発電技術に関する研究が鋭意実行されている。その固有の利点に起因し、有望な代替グリーン技術として、熱電発電機が注目を集めている。一般に、熱電発電機は、熱エネルギー入力の費用とはかかわりなく、廃熱エネルギーの電力への直接変換に潜在的な用途を提示する。
【0005】
熱電装置は、熱電発電機又は熱電クーラーとして使用することができる。これらの装置の用途の範囲は、例えば、電子的な熱管理及び半導体冷却から、廃熱源からの発電にまで、広がっている。熱電発電機とは、所謂「ゼーベック効果」に基づいて温度勾配に起因した熱エネルギー(熱)から電気エネルギーへの直接的なエネルギー変換を提供する半導体装置である。熱電パワーサイクルは、電荷キャリア(電子)が作動流体として機能する状態において、熱力学の基本法則に従っており、従来の熱機関のパワーサイクルに酷似している。熱電発電機は、その他の技術と比べて、例えば、高信頼性、大面積の用途にも適する潜在的な規模調節能力を伴う小さな専有面積、軽量、柔軟性、及び非位置依存性を含むいくつかの固有の利点を提示する。
【0006】
熱電装置の主な問題点は、その相対的に低い変換効率にあり、通常は、約5%である。発電及び熱管理におけるその用途が、空間及び信頼性が特別に重要な特殊な分野に限定されてきた主な原因は、この低い変換効率にあった。
【0007】
熱電材料の性能指数(ZT)は、様々な材料の効率を比較するために使用される無次元の単位である。ZTは、熱電能α(ゼーベック係数とも呼ばれている)、導電率σ、及び熱伝導率k=k
e+k
phという3つの物理パラメータと、絶対温度Tと、によって決定され、ここで、k
e及びk
phは、それぞれ、電子及びフォノンの熱伝導率である。
【数1】
【0008】
バルク熱電材料における最大ZTは、その材料系の固有の特性によって決定される。大部分の候補は、ゼーベック係数と導電率の間の反比例の関係に起因し、ZTを改善するための原動力として低い熱伝導率を必要としている。50年近い研究にも拘らず、このゼーベック係数と導電率の間における相互依存性及び結合に起因し、ZTを1超に増大させることは困難である。この値を2.0以上に増大させれば、既存の技術が打ち破られ、最終的に、熱電システムの更に広範な使用が可能となる。
【0009】
L.D. Hicks及びM.S. Dresselhausによる「Effect of quantum−well structures on the thermoelectric figure of merit」(Phys. Rev. B、第47巻、第19号、12727から12731頁(1993年5月15日))において、Hicks及びDresselhausは、ゼーベック係数と導電率を独立的に最適化することにより、ZTを大幅に増大させることができる量子閉じ込め構造の概念を生み出している。これ以降、多数の研究グループが、ナノ構造化方式を採用してZTを増大させており、インターフェイスにおけるフォノン散乱からの低減された熱伝導率の結果として改善が得られると最終的に判定している。J.P. Heremans、V. Jovovic、E.S.Toberer、A. Saramat、K. Kurosaki、A. Charoenphakdee、S. Yamanaka、及びG.J. Synderによる「Enhancement of Thermoelectric Efficiency in PbTe by Distortion of the Electronic Density of States」(Science、第321巻、554から557頁(2008年7月25日))において、Heremansは、不純物レベルの使用を通じた状態の電子的密度の歪によるゼーベック係数の大幅な改善を示している。
【0010】
ナノ構造化材料を使用して熱電性能を改善するべく最近研究されている代替方式が、熱電子放出による高温キャリア輸送である。設計基準において、高エネルギーの「高温」キャリアを選択的に輸送するために数k
BTのポテンシャル障壁が必要とされている(ここで、k
Bは、ボルツマン定数であり、Tは、温度である)。フェルミレベルとの関係における障壁の高さを上回るエネルギーを有する高温キャリアの分布がゼーベック係数を規定し、この分布の積分が導電率を規定している。いくつかの材料において、高温キャリア輸送により、ゼーベック係数の改善が観察されている。輸送に参加しているキャリアの数が相対的に少ないため、この改善は、導電率の減少により、ある程度、相殺されることになる。従って、ZTに対する全体的な影響は、材料系によって非常に左右されることになる。
【0011】
熱電子放出による高温キャリア輸送を通じてZTを極大化する又はこれを少なくとも大幅に改善する材料系において形成されたナノ構造化熱電材料に対するニーズが存在している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
後述する実施形態は、当業者がこれらの実施形態を実施できるようにするために必要な情報を表すと共に、これらの実施形態を実施する最良の形態を示している。添付図面に鑑みて以下の説明を参照することにより、当業者は、本開示の概念を理解し、本明細書において具体的に取り扱われてはいないこれらの概念の用途について認識することになろう。これらの概念及び用途は、本開示及び添付図面の範囲に含まれることを理解されたい。
【0032】
半導体薄膜熱電変換からの高度な熱ポンピング能力及び高い変換効率の生成は、これらの装置の小型の且つ効率的な特性に起因し、非常に魅力的である。これらの装置の用途の範囲は、例えば、電子的な半導体チップ冷却や半導体冷蔵から、廃熱源からの発電にまで、広がっている。薄膜熱電変換においては、多くの研究者が、装置の製造、装置の物理的特性、及びシステムの用途に注力しており、過去数年において、多数の進歩が実現されている。
【0033】
図1は、本開示の一実施形態による薄膜熱電材料10(以下、「熱電材料10」)を示している。一般に、熱電材料10は、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成される。本明細書において使用されている「
IIa族及び
IV−VI族材料系」とは、
IIa族材料、
IV−VI族材料、並びに、
IIa−IV−VI族材料の系である。好適な一実施形態においては、
IIa族及び
IV−VI族材料系は、Pb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料として規定され、この場合に、x及びyは、原子種の相対モル分率を表している。対照的に、
IIa族材料は、
IIa族元素のみを含む材料(例えば、ストロンチウム)であり、
IV−VI族材料は、
IV及び
VI族元素のみを含む材料(例えば、PbSe)であり、
IIa−IV−VI族材料は、
IIa、
IV、及び
VI族元素を含む材料(例えば、PbSrSe)である。
【0034】
図示のように、熱電材料10は、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されたヘテロ構造12を含む。ヘテロ構造12は、井戸層14と、井戸層14の表面上の障壁層16と、井戸層14とは反対側の障壁層16の表面上の別の井戸層18と、を含む。井戸層14、障壁層16、及び井戸層18は、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成され、井戸層14、障壁層16、及び井戸層18のうちの少なくとも1つは、且つ潜在的にはこれらのすべては、
IIa−IV−VI族材料を含む。井戸層14及び18は、同一の低バンドギャップ材料から形成してもよく、或いは、そうでなくてもよいことに留意されたい。ヘテロ構造12は、任意の適切なエピタキシャル成長プロセスを使用して形成してもよい。
【0035】
一般に、障壁層16のバンドギャップは、井戸層14及び18のバンドギャップを上回っており、井戸層14及び18は、本明細書においては、障壁層16の隣接する井戸層と呼称する。井戸層14及び18並びに障壁層16を参照した際には、障壁層16の「高バンドギャップ」材料は、隣接する井戸層14及び18の
IIa族及び
IV−VI族材料系における「低バンドギャップ」材料のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する
IIa族及び
IV−VI族材料系における材料であることに留意されたい。同様に、井戸層14及び18の「低バンドギャップ」材料は、隣接する障壁層16の
IIa族及び
IV−VI族材料系における「高バンドギャップ」材料のバンドギャップを下回るバンドギャップを有する
IIa族及び
IV−VI族材料系における材料である。
【0036】
一実施形態においては、井戸層14は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における同一の低バンドギャップ材料の1つ又は複数の層によって形成されている。障壁層16は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における同一の高バンドギャップ材料の1つ又は複数の層によって形成されている。最後に、井戸層18は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における同一の低バンドギャップ材料の1つ又は複数の層によって形成されている。この場合にも、井戸層14に使用される低バンドギャップ材料は、井戸層18に使用される低バンドギャップ材料と同一であってもよく、或いは、これと異なっていてもよい。
【0037】
後程詳述するように、別の実施形態においては、障壁層16は、協働して障壁層16用の望ましい有効な又は組み合わせられたバンドギャップを提供する
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されたいくつかの交互に変化する高バンドギャップ及び低バンドギャップ層を有する短周期超格子である。超格子を参照した際には、「高バンドギャップ」材料層は、超格子内の隣接する「低バンドギャップ」材料層を上回るバンドギャップを有する
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成された材料層であり、「低バンドギャップ」材料層は、超格子内の隣接する「高バンドギャップ」材料層のバンドギャップを下回るバンドギャップを有する
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成された材料層であることに留意されたい。超格子の周期厚は、超格子内の交互に変化する高バンドギャップ及び低バンドギャップ材料層の間のインターフェイスにおいてフォノンを散乱させるために、所与の動作温度においてトンネル確率長を下回っている。更には、こちらも後述するように、超格子内の高バンドギャップ及び低バンドギャップ材料層の厚さは、超格子に跨ってエネルギー勾配を生成してクロスプレーン有効キャリア密度輸送を増大させるために、変化させてもよい。
【0038】
障壁層16と同様に、井戸層14は、協働して井戸層14の望ましい有効バンドギャップを提供する
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されたいくつかの交互に変化する高バンドギャップ及び低バンドギャップ材料層を有する短周期超格子であってもよい。この場合にも、超格子を参照した際には、「高バンドギャップ」材料層は、超格子内の隣接する「低バンドギャップ」材料層のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成された材料層であり、「低バンドギャップ」材料層は、超格子内の隣接する「高バンドギャップ」材料層のバンドギャップを下回るバンドギャップを有する
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成された材料層であることに留意されたい。超格子の周期厚は、超格子内の交互に変化する高バンドギャップ及び低バンドギャップ材料層の間のインターフェイスにおいてフォノンを散乱させるために、所与の動作温度においてトンネル確率長を下回っている。更には、こちらも後述するように、超格子内の高バンドギャップ及び低バンドギャップ材料層の厚さは、井戸層14に跨ってエネルギー勾配を生成してクロスプレーン有効キャリア密度輸送を増大させるために、変化させてもよい。同様に、井戸層18も、短周期超格子であってもよい。具体的な実装形態に応じて、井戸層14、障壁層16、及び/又は井戸層18は、超格子として実装してもよいことに留意されたい。
【0039】
好適な一実施形態においては、障壁層16は、高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料であるか、又はこれを少なくとも含んでおり、この場合に、x及びyは、原子種の相対モル分率を表しており、井戸層14及び18は、低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料であるか、又はこれを含み、この場合に、a及びbは、原子種の相対モル分率を表している。障壁層16の高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe材料のバンドギャップは、隣接する井戸層14及び18の低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe材料のバンドギャップを上回っている。
【0040】
高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料は、半導体材料であり、nタイプ又はpタイプにドーピングされている。一実施形態においては、高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料のドーピング濃度は、1×10
17から5×10
19ドーパント/立方センチメートル(cm
3)の範囲で且つこれらを含み、E
g1のバンドギャップを有する。別の実施形態においては、高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料のドーピング濃度は、1×10
18から1×10
19ドーパント/cm
3の範囲で且つこれらを含み、E
g1のバンドギャップを有する。同様に、低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料は、半導体材料であり、nタイプ又はpタイプにドーピングされている。一実施形態においては、低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料のドーピング濃度は、1×10
17から5×10
19ドーパント/cm
3の範囲で且つこれらを含み、E
g1を下回るバンドギャップE
g2を有する。別の実施形態においては、低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料のドーピング濃度は、1×10
18から1×10
19ドーパント/cm
3の範囲で且つこれらを含み、E
g1を下回るバンドギャップE
g2を有する。
【0041】
一実施形態においては、障壁層16は、同一の高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料の1つ又は複数の層によって形成されている。別の実施形態においては、障壁層16は、伝導及び価電子帯プロファイルを技術処理するために、変化する化学量論の薄膜から構成されている。更に詳しくは、障壁層16は、後程詳述するように、短周期超格子を形成する交互に変化する高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料及び低バンドギャップPb
(1-x'-y')Sr
x'Sn
y'Se(0<x’<1、0<y’<1)材料の複数の層を含んでもよい。
【0042】
同様に、一実施形態においては、井戸層14は、同一の低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料の1つ又は複数の層によって形成されている。別の実施形態においては、井戸層14は、伝導及び価電子帯プロファイルを技術処理するために、変化する化学量論の薄膜から構成されている。更に詳しくは、井戸層14は、後程詳述するように、短周期超格子を形成する交互に変化する低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料及び高バンドギャップPb
(1-a'-b')Sr
a'Sn
b'Se(0<a’<1、0<b’<1)材料の複数の層を含んでもよい。同様に、一実施形態においては、井戸層18は、同一の低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料の1つ又は複数の層によって形成されている。別の実施形態においては、井戸層18は、伝導及び価電子帯プロファイルを技術処理するために、変化する化学量論の薄膜から構成されている。更に詳しくは、井戸層18は、後程詳述するように、短周期超格子を形成する交互に変化する低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料及び高バンドギャップPb
(1-a'-b')Sr
a'Sn
b'Se(0<a’<1、0<b’<1)材料の複数の層を含んでもよい。
【0043】
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されたヘテロ構造12は、従来の材料系において形成された類似のヘテロ構造と比べて、改善された性能指数(ZT)値を提供する。これは、ゼーベック係数の増大と熱伝導率の減少の両方に起因している。比較対象である材料系に応じて、ヘテロ構造12は、ZT値で2×から10×の、恐らくはこれ以上の改善を提供する。以上においては、Pb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)及びPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料が参照されているが、
IIa族及び
IV−VI族材料系におけるその他の材料をヘテロ構造12内の井戸及び障壁層14から18用に使用してもよいことに留意されたい。例えば、一代替実施形態においては、障壁層16は、PbSrSeであるか、又はこれを含み、井戸層14及び18は、PbSeであるか、又はこれを含む。別の実施形態においては、障壁層16は、PbSeであるか、又はこれを含み、井戸層14及び18は、PbSnSeであるか、又はこれを含む。すべての実施形態において、障壁層16の厚さは、所与の動作温度においてトンネル確率長を上回っていなければならない。トンネル確率長は、次式のように規定される。
【数2】
ここで、L
tunnelは、最小厚さであり、m
*は障壁材料の有効質量であり、qは電子の電荷(1.6×10
-19C)であり、φは、ボルト(V)を単位とする障壁の高さであり、k
Bは、ボルツマン定数であり、Tはケルビンを単位とする温度であり、hはプランク定数である
【0044】
Pb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)及びPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)などの鉛−カルコゲニド材料は、本質的にその他の材料系と比べて低い熱伝導率、高いキャリアn及びpタイプ移動度、及び広いバンドギャップチューニング範囲を有する。更には、
IV−VI族材料は、ダイアモンド、シリコン、ゲルマニウムなどの4面体配位
IV族半導体及び
III−V族(GaAs、InAs、AlAs、GaPなど)又は
II−VI族半導体(CdTeやZnTeなど)とは対照的に、岩塩型構造において結晶化する。この結果、本明細書において記述されている
IIa族及び
IV−VI族材料系の多くの物理的及び電子的特性は、4面体接合半導体のものとは異なる。又、鉛−塩化合物は、その4面体接合された対応物よりも格段に機械的に柔らかく、これにより格子歪及び熱膨張不整合に対する相対的に大きな許容度を結果的にもたらす。
【0045】
図2は、本開示の別の実施形態による熱電材料10を示している。この実施形態においては、1つの障壁層16を有するのではなく、ヘテロ構造12は、対応する井戸層14−1から14−Nによって分離されたいくつかの障壁層16−1から16−Nを含む。ヘテロ構造12は、井戸層により、即ち、井戸層14−1及び井戸層18により、両端部において終端されている。数値(N)は、1以上の整数である。例えば、数値(N)は、1から1000の範囲で且つこれらを含む整数であってもよいが、これに限定されるものではない。
図2のヘテロ構造12は、熱電子放出を通じてゼーベック係数を増大させ、井戸層14−1から14−N及び18と隣接する障壁層16−1から16−Nの間のインターフェイスにおけるインターフェイス散乱を通じて熱伝導率を減少させる。
【0046】
障壁層16との関係において上述したように、障壁層16−1から16−Nは、
IIa族及び
IV−VI族材料系における高バンドギャップ材料であるか、又はこれを含む。一実施形態においては、障壁層16−1から16−Nのそれぞれは、同一の高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料の1つ又は複数の層によって形成されている。別の実施形態においては、障壁層16−1から16−Nのうちの少なくとも1つは、潜在的には、障壁層16−1から16−Nのすべては、伝導及び価電子帯プロファイルを技術処理するために、変化する化学量論の薄膜から構成されている。更に詳しくは、障壁層16−1から16−Nのうちの少なくとも1つは、後程詳述するように、交互に変化する高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料及び低バンドギャップPb
(1-x'-y')Sr
x'Sn
y'Se(0<x’<1、0<y’<1)材料の複数の層を含む短周期超格子であってもよい。
【0047】
同様に、一実施形態においては、井戸層14−1から14−Nは、
IIa族及び
IV−VI族材料系における低バンドギャップ材料であるか、又はこれを含む。一実施形態においては、井戸層14−1から14−Nのそれぞれは、同一の低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料の1つ又は複数の層によって形成されている。別の実施形態においては、井戸層14−1から14−Nの少なくとも1つは、潜在的には、井戸層14−1から14−Nのすべては、伝導及び価電子帯プロファイルを技術処理するために、変化する化学量論の薄膜から構成されている。更に詳しくは、井戸層14−1から14−Nの少なくとも1つは、後程詳述するように、交互に変化する低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料及び高バンドギャップPb
(1-a'-b')Sr
a'Sn
b'Se(0<a’<1、0<b’<1)材料の複数の層を含む超格子であってもよい。
【0048】
図3は、本開示の一実施形態による
図2の障壁層16−1から16−Nのうちの1つを示しており(以下、障壁層16−Xと呼称する)、この場合に、障壁層16−Xは、短周期超格子20である。この説明は、
図1の障壁層16に対しても同様に適用可能であることに留意されたい。利便のために、本明細書においては、超格子20を障壁超格子20と呼称する。障壁超格子20は、超格子(SL)井戸層24−1から24−(N−1)によって分離されたいくつかの超格子(SL)障壁層22−1から22−Nを含む。超格子障壁層22−1から22−Nは、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されると共にバンドギャップE
g,SLBを有する高バンドギャップ材料層である。好ましくは、超格子障壁層22−1から22−Nは、高バンドギャップPb
(1-x-y)Sr
xSn
ySe(0<x<1、0<y<1)材料層である。超格子障壁層22−1から22−Nは、いずれも、同一の高バンドギャップ材料であってもよく、或いは、超格子障壁層22−1から22−Nのうちの2つ以上は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における異なる高バンドギャップ材料であってもよい。
【0049】
超格子井戸層24−1から24−(N−1)は、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されると共にバンドギャップE
g,SLWを有する低バンドギャップ材料層であり、この場合に、E
g,SLW<E
g,SLBである。好ましくは、超格子井戸層24−1から24−(N−1)は、低バンドギャップPb
(1-x'-y')Sr
x'Sn
y'Se(0<x’<1、0<y’<1)材料層である。超格子井戸層24−1から24−(N−1)は、いずれも、同一の低バンドギャップ材料であってもよく、或いは、超格子井戸層24−1から24−(N−1)のうちの2つ以上は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における異なる低バンドギャップ材料であってもよい。超格子障壁層22−1から22−N及び超格子井戸層24−1から24−(N−1)の有効な又は組み合わせられたバンドギャップは、障壁層16−Xのバンドギャップであり、これは、上述のように、熱電材料10のヘテロ構造12内のすべての隣接する1つ又は複数の井戸層のバンドギャップを上回っている。
【0050】
障壁超格子20を参照した際には、超格子障壁層22−1から22−Nを形成する「高バンドギャップ」材料層は、隣接する超格子井戸層24−1から24−(N−1)を形成する「低バンドギャップ」材料層のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する材料層であることに留意されたい。同様に、超格子井戸層24−1から24−(N−1)を形成する「高バンドギャップ」材料層は、隣接する超格子障壁層22−1から22−Nを形成する「高バンドギャップ」材料層のバンドギャップを下回るバンドギャップを有する材料層である。
【0051】
図3の障壁超格子20においては、障壁超格子20の超格子周期厚26は、所与の動作温度においてトンネル確率長を下回っている。更には、超格子障壁層22−1から22−N及び超格子井戸層24−1から24−(N−1)は、超格子障壁層22−1から22−Nのバンドギャップ及び超格子井戸層24−1から24−(N−1)のバンドギャップが距離に伴って一定となるように、すべてが同一の厚さである。障壁超格子20は、超格子障壁層22−1から22−Nと隣接する超格子井戸層24−1から24−(N−1)の間のインターフェイスにおけるフォノン散乱により、熱伝導率を低減する。
【0052】
障壁超格子20は、障壁層16−Xの構造体であるため、障壁超格子20は、好ましくは、超格子障壁層により、即ち、超格子障壁層22−1及び22−Nにより、両端部において終端されていることに留意されたい。但し、障壁超格子20は、これに限定されるものではない。例えば、障壁超格子20は、この代わりに、超格子井戸層によって終端してもよく、或いは、一端において超格子障壁層により、他端においては、超格子井戸層により、終端してもよい。超格子井戸層によって終端されている場合には、超格子井戸層は、好ましくは、熱電材料10のヘテロ構造12内の隣接する井戸層のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する。
【0053】
図4は、本開示の別の実施形態による障壁超格子20を示している。
図4の障壁超格子20は、
図3のものに類似している。但し、この実施形態においては、障壁超格子20は、図示のように構成された超格子井戸層24−1から24−4及び超格子障壁層22−1から22−4を含み、この場合に、超格子障壁層22−1から22−4の厚さ及び超格子井戸層24−1から24−4の厚さは、障壁層16−Xに跨ってエネルギー勾配を生成してクロスプレーン有効キャリア密度輸送を増大させるために、変化している。更に詳しくは、超格子周期厚26は、所与の動作温度においてトンネル確率長を下回っている。超格子障壁層22−1から24−4の厚さが増大するのに伴って、障壁超格子20のバンドギャップも増大している。
【0054】
この例においては、超格子障壁層22−1から22−4の厚さは、障壁超格子20の一端から障壁超格子20の他端まで、線形で増大している。この結果、障壁超格子20のバンドギャップも、同様に線形で増大している。超格子障壁層22−1から22−4及び超格子井戸層24−1から24−4の厚さは、この例においてはキャリアの流れの方向において障壁超格子20のバンドギャップの線形の増大を提供するように変化しているが、超格子障壁層22−1から22−4及び超格子井戸層24−1から24−4の厚さは、任意の望ましい線形又は非線形の方式によって(例えば、指数的に、段階的に、又はこれらに類似した方式によって)障壁超格子20のバンドギャップを増大させるように変化させてもよいことに留意されたい。
【0055】
図5は、本開示の一実施形態による
図2のヘテロ構造の障壁層16−Xのうちの1つ及び2つの隣接する井戸層(井戸層14−X及び14−Yと呼称する)のエネルギーバンド図である。この実施形態においては、障壁層16−Xは、
IIa族及び
IV−VI族材料系における同一の高バンドギャップ材料の1つ又は複数の層から形成されているか、又は
図3の超格子である。この結果、障壁層16−Xのバンドギャップ(E
g,BARRIER)は、障壁層16−Xの厚さにわたって一定である。このエネルギーバンド図は、
図1のヘテロ構造12の一実施形態に対しても同様に適用可能である。
【0056】
井戸層14−X及び14−Yは、バンドギャップE
g,WELLに対応しており、障壁層16−Xは、バンドギャップE
g,BARRIERに対応している。障壁層16−Xと隣接する井戸層14−X及び14−Yの間のそれぞれのインターフェイスにおける有効障壁高さ又はポテンシャル(φ)は、障壁層16−Xのバンドギャップ(E
g,BARRIER)と井戸層14−X及び14−Yのバンドギャップ(E
g,WELL)の間の差として規定され、井戸及び/又は障壁層14−X、14−Y、及び16−X内の合金組成又はドーピングプロファイルを変更することによって調節することができる。障壁高さ(φ1)は、ポテンシャル障壁を上回る一方向性の横方向のキャリア輸送を促進するように選択されている。好ましくは、障壁層の伝導バンドとの関係におけるフェルミエネルギーレベルは、0.5k
BTから1k
BTであり、合金組成及びドーピングレベルを調節することによって設定される。1つの非限定的な例においては、井戸層14−X及び14−Yは、PbSeから形成され、障壁層16−Xは、Pb
0.92Sr
0.08Seから形成されている。この例示用の図においては、障壁高さ(φ1)は、距離の増大に伴って一定である。一般的な障壁高さは、動作の温度に応じて、0.005から0.3電子ボルト(eV)の間において変化する。
【0057】
図6は、本開示の別の実施形態による
図2のヘテロ構造12の障壁層16−Xのうちの1つ及び2つの隣接する井戸層14−X及び14−Yのエネルギーバンド図である。この実施形態においては、障壁層16−Xは、
図4の超格子である。この結果、障壁層16−Xのバンドギャップ(E
g,BARRIER)は、望ましいキャリアの流れの方向において障壁層16−Xの厚さにわたって増大している。
【0058】
井戸層14−X及び14−Yは、バンドギャップE
g,WELLに対応しており、障壁層16−Xは、障壁層16−Xにわたって距離に伴って変化しているバンドギャップE
g,BARRIERに対応している。更に詳しくは、障壁層16−Xのバンドギャップ(E
g,BARRIER)は、望ましいキャリアの流れの方向において増大している。この結果、キャリアの流れの方向における障壁層16−Xと隣接する井戸層14−Xの間の第1インターフェイスにおける有効障壁高さ又はポテンシャル(φ1)は、キャリアの流れの方向における障壁層16−Xと隣接する井戸層14−Xの間の第2インターフェイスにおける有効障壁高さ又はポテンシャル(φ2)を下回っている。障壁高さ(φ1及びφ2)は、望ましいキャリアの流れの方向とは反対の方向におけるポテンシャル障壁を上回る横方向のキャリア輸送を阻止しつつ、望ましいキャリアの流れの方向におけるポテンシャル障壁を上回る横方向のキャリア輸送を促進するように、選択されている。1つの非限定的な例においては、障壁層16−Xは、Pb
1-xSr
xSeから形成してもよく、xは、障壁層16−Xにわたって8%から13%まで変化している(相応して、Pbも減少している)。
【0059】
図7及び
図8は、
図3及び
図4に類似しており、井戸層14−1から14−Nのうちの1つの井戸層の超格子実施形態を示している。更に詳しくは、
図7は、本開示の一実施形態による
図2の井戸層14−1から14−Nのうちの1つを示しており(以下、井戸層14−Xと呼称する)、この場合に、井戸層14−Xは、短周期超格子28である。この説明は、
図1の井戸層14又は18にも同様に適用可能であることに留意されたい。利便のために、本明細書においては、超格子28を井戸超格子28と呼称する。井戸超格子28は、超格子(SL)障壁層32−1から32−(N−1)によって分離されたいくつかの超格子(SL)井戸層30−1から30−Nを含む。超格子井戸層30−1から30−Nは、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されると共にバンドギャップE
g,SLWを有する低バンドギャップ材料層である。好ましくは、超格子井戸層30−1から30−Nは、低バンドギャップPb
(1-a-b)Sr
aSn
bSe(0<a<1、0<b<1)材料層である。超格子井戸層30−1から30−Nは、いずれも、同一の低バンドギャップ材料であってもよく、或いは、超格子井戸層30−1から30−Nのうちの2つ以上は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における異なる低バンドギャップ材料であってもよい。
【0060】
超格子障壁層32−1から32−(N−1)は、
IIa族及び
IV−VI族材料系において形成されると共にバンドギャップE
g,SLBを有する高バンドギャップ材料層であり、この場合に、E
g,SLW<E
g,SLBである。好ましくは、超格子障壁層32−1から32−(N−1)は、高バンドギャップPb
(1-a'-b')Sr
a'Sn
b'Se(0<a’<1、0<b’<1)材料層である。超格子障壁層32−1から32−(N−1)は、いずれも、同一の高バンドギャップ材料であってもよく、或いは、超格子障壁層32−1から32−(N−1)のうちの2つ以上は、
IIa族及び
IV−VI族材料系における異なる高バンドギャップ材料であってもよい。超格子井戸層30−1から30−N及び超格子障壁層32−1から32−(N−1)の有効な又は組み合わせられたバンドギャップは、井戸層14−Xのバンドギャップであり、これは、上述のように、熱電材料10のヘテロ構造12内のすべての隣接する1つ又は複数の障壁層のバンドギャップを下回っている。
【0061】
井戸超格子28を参照した際には、超格子障壁層32−1から32−(N−1)を形成する「高バンドギャップ」材料層は、隣接する超格子井戸層30−1から30−Nを形成する「低バンドギャップ」材料層のバンドギャップを上回るバンドギャップを有する材料層であることに留意されたい。同様に、超格子井戸層30−1から30−Nを形成する「高バンドギャップ」材料層も、隣接する超格子障壁層32−1から32−(N−1)を形成する「高バンドギャップ」材料層のバンドギャップを下回るバンドギャップを有する材料層である
【0062】
図7の井戸超格子28においては、井戸超格子28の超格子周期厚34は、所与の動作温度においてトンネル確率長を下回っている。更には、超格子井戸層30−1から30−N及び超格子障壁層32−1から32−(N−1)は、超格子障壁層32−1から32−(N−1)のバンドギャップ及び超格子井戸層30−1から30−Nのバンドギャップが距離に伴って一定となるように、すべてが同一の厚さである。井戸超格子28は、超格子井戸層30−1から30−Nと隣接する超格子障壁層32−1から32−(N−1)の間のインターフェイスにおけるフォノン散乱によって熱伝導率を低減する。
【0063】
井戸超格子28は、井戸層14−Xの構造体であるため、井戸超格子28は、好ましくは、超格子井戸層により、即ち、超格子井戸層30−1及び30−Nにより、両端部において終端されていることに留意されたい。但し、井戸超格子28は、これに限定されるものではない。例えば、井戸超格子28は、この代わりに、超格子障壁層によって終端してもよく、或いは、一端において超格子障壁層により、他端においては、超格子井戸層により、終端してもよい。超格子障壁層によって終端されている場合には、超格子障壁層は、好ましくは、熱電材料10のヘテロ構造12内の隣接する障壁層のバンドギャップを下回るバンドギャップを有する。
【0064】
図8は、本開示の別の実施形態による井戸超格子28を示している。井戸超格子28は、
図7のものに類似している。但し、この実施形態においては、超格子障壁層32−1から32−4の厚さ及び超格子井戸層30−1から30−4の厚さは、井戸層14−Xに跨ってエネルギー勾配を生成してクロスプレーン有効キャリア密度輸送を増大させるために、変化している。更に詳しくは、超格子周期厚34は、所与の動作温度においてトンネル確率長を下回っている。超格子障壁層32−1から32−4の厚さが増大するのに伴って、井戸超格子28のバンドギャップも増大している。
【0065】
この例においては、超格子障壁層32−1から32−4の厚さは、井戸超格子28の一端から井戸超格子28の他端まで、線形で増大している。この結果、井戸超格子28のバンドギャップも、同様に線形で増大している。この例においては、超格子障壁層32−1から32−4及び超格子井戸層30−1から30−4の厚さは、キャリアの流れの方向において井戸超格子28のバンドギャップの線形の増大を提供するために変化しているが、超格子障壁層32−1から32−4及び超格子井戸層30−1から30−3の厚さは、任意の望ましい線形の又は非線形の方式によって(例えば、指数的に、段階的に、又はこれらに類似した方式によって)井戸超格子28のバンドギャップを増大させるように変化させてもよいことに留意されたい。
【0066】
図9は、本開示の別の実施形態による
図2のヘテロ構造12の井戸層14−Xのうちの1つ及び2つの隣接する障壁層16−X及び16−Yのエネルギーバンド図である。この実施形態においては、井戸層14−Xは、
図8の超格子である。この結果、井戸層14−Xのバンドギャップ(E
g,WELL)は、望ましいキャリアの流れの方向において井戸層14−Xの厚さにわたって増大している。
【0067】
障壁層16−X及び16−Yは、バンドギャップE
g,BARRIERに対応しており、井戸層14−Xは、井戸層14−Xにわたって距離に伴って変化しているバンドギャップE
g,WELLに対応している。更に詳しくは、井戸層14−Xのバンドギャップ(E
g,WELL)は、望ましいキャリアの流れの方向において増大している。この結果、キャリアの流れの方向における井戸層14−Xと隣接する障壁層16−Xの間の第1インターフェイスにおける有効障壁高さ又はポテンシャル(φ1)は、キャリアの流れの方向における井戸層14−Xと隣接する障壁層16−Yの間の第2インターフェイスにおける有効障壁高さ又はポテンシャル(φ2)を上回っている。障壁高さ(φ1及びφ2)は、望ましいキャリアの流れの方向とは反対の方向におけるポテンシャル障壁を上回る横方向のキャリア輸送を阻止しつつ、望ましいキャリアの流れの方向におけるポテンシャル障壁を上回る横方向のキャリア輸送を促進するように、選択されている。
【0068】
図10は、本開示の更に別の実施形態による
図2のヘテロ構造12内の一連の隣接する井戸及び障壁層14及び16のエネルギーバンド図である。この実施形態においては、障壁層16及び井戸層14は、いずれも、それぞれ、
図4及び
図8との関係において上述した超格子として形成されている。この場合にも、障壁高さは、望ましいキャリアの流れの方向とは反対の方向におけるポテンシャル障壁を上回る横方向のキャリア輸送を阻止しつつ、望ましいキャリアの流れの方向におけるポテンシャル障壁を上回る横方向のキャリア輸送を促進するように、選択されている。
【0069】
本明細書に記述されている熱電材料10の実施形態は、多数の利点を有しており、いくつかの非限定的な例は、以下のとおりである。
1.PbSeに基づいた材料を使用する実施形態:
a.その他の材料と比べて、nタイプ材料からpタイプ材料までの広範な範囲のドーピングの全体を通じて安定した低熱伝導率を本質的に有し、
b.略等しいバンド伝導を有し、nタイプ及びpタイプ材料の価電子帯オフセットは類似の輸送特性を有し、
c.
III−V族、
II−VI族、及び
IV族接合の対応物よりも機械的に格段に柔らかく、これにより、格子歪及び熱膨張不整合に対する相対的に大きな許容度を結果的にもたらす。
2.キャリア輸送を増大させるヘテロ構造設計。
バルク材料と比べて、高温キャリア輸送により、ZTが増大する。
3.井戸及び/又は障壁層14及び16が短周期超格子から構築されている実施形態は、インターフェイスにおけるフォノン散乱によって熱伝導率を低減する。
4.高度にドーピングされた井戸及び/又は障壁層を有する実施形態は、電子−フォノン散乱メカニズムを通じて熱伝導率を低減する。
【0070】
本発明の上述の説明により、当業者は、現時点において本発明の最良の形態であると考えられるものを実施及び使用することが可能であるが、当業者であれば、本明細書における特定の実施形態、方法、及び例の変形、組合せ、及び均等物の存在について理解及び認識することになろう。従って、本発明は、上述の実施形態、方法、及び例に限定されるものではなく、特許請求されている本発明の範囲及び精神に含まれるすべての実施形態及び方法によって限定される。
【0071】
当業者は、本開示の好適な実施形態に対する改善及び変更について認識することになろう。そのようなすべての改善及び変更は、本明細書に開示されている概念及び添付の請求項の範囲に含まれるものと見なされたい。