【文献】
ZIORA Z. et al,Drugs of the Future,31(1)(2006),p.53-63
【文献】
GUO T. et al.,Current Medicinal Chemistry,13(2006),p.1811-1829
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
KEESIYCRLMGLGCG(配列番号14)、NELSPYCRLMGLGCD(配列番号15)、NEESMYCRLLGIGCG(配列番号16)及びPEESLYCRLLALGCG(配列番号17)から成る群から選択されるアミノ酸配列を含む、BACE1に特異的に結合する単離されたポリペプチド。
ポリペプチドが、細胞傷害剤、細胞への侵入を高めるアミノ酸配列タグ、又は脳血管関門を介した吸収力が介在するトランスサイトーシス若しくは受容体が介在するトランスサイトーシスを通常受けるタンパク質のアミノ酸配列に抱合される又は融合される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の単離されたポリペプチド。
神経疾患又は神経障害が、アルツハイマー病(AD)、外傷性脳傷害、卒中、緑内障、認知症、筋ジストロフィ(MD)、多発性硬化症(MS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パジェット病、外傷性脳傷害、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、核上麻痺、牛海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ症候群、クールー、ゲルストマン・ストロイスラー・ジャインカー病、慢性消耗性疾患、致死性家族性不眠症、進行性球麻痺、運動ニューロン疾患、カナバン病、ハンチントン病、神経性セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥレット症候群、メンケス症候群、コケイン症候群、ハレルホルデン・スパッツ症候群、ラフォーラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、及びウンフェルリヒト・ルントボルグ症候群、ピック病及び脊髄小脳失調から成る群から選択される、請求項14〜16のいずれか1項に記載の医薬。
アルツハイマー病(AD)、外傷性脳傷害、卒中、緑内障、認知症、筋ジストロフィ(MD)、多発性硬化症(MS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パジェット病、外傷性脳傷害、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、核上麻痺、牛海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ症候群、クールー、ゲルストマン・ストロイスラー・ジャインカー病、慢性消耗性疾患、致死性家族性不眠症、進行性球麻痺、運動ニューロン疾患、カナバン病、ハンチントン病、神経性セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥレット症候群、メンケス症候群、コケイン症候群、ハレルホルデン・スパッツ症候群、ラフォーラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、及びウンフェルリヒト・ルントボルグ症候群、ピック病及び脊髄小脳失調から成る群から選択される神経障害を治療するのに使用するための請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチド。
薬物が、アルツハイマー病(AD)、外傷性脳傷害、卒中、緑内障、認知症、筋ジストロフィ(MD)、多発性硬化症(MS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンジェルマン症候群、リドル症候群、パジェット病、外傷性脳傷害、レビー小体病、ポリオ後症候群、シャイドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮症、パーキンソン病、多系統萎縮症、線状体黒質変性症、核上麻痺、牛海綿状脳症、スクレイピー、クロイツフェルト・ヤコブ症候群、クールー、ゲルストマン・ストロイスラー・ジャインカー病、慢性消耗性疾患、致死性家族性不眠症、進行性球麻痺、運動ニューロン疾患、カナバン病、ハンチントン病、神経性セロイドリポフスチン症、アレキサンダー病、トゥレット症候群、メンケス症候群、コケイン症候群、ハレルホルデン・スパッツ症候群、ラフォーラ病、レット症候群、肝レンズ核変性症、レッシュ・ナイハン症候群、及びウンフェルリヒト・ルントボルグ症候群、ピック病及び脊髄小脳失調から成る群から選択される神経障害を治療するためである請求項25に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0047】
定義
「単離される」は、分子に参照される場合、その天然の環境の成分から特定され、分離され及び/又は回収されている分子を指す。その天然の環境の混入成分は診断用途又は治療用途を妨害する物質である。
【0048】
「活性のある」ポリペプチド又はその断片は、活性のあるポリペプチドの未処理の又は天然に存在する相方の生物活性を保持する。生物活性は活性のあるポリペプチドの未処理の又は天然に存在する相方が介在する機能を指す。たとえば、結合又はタンパク質/タンパク質の相互作用が生物活性を構成する。
【0049】
用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は広義には相互交換可能に使用され、モノクローナル抗体(たとえば、完全長の又は無傷のモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(たとえば、それらが所望の生物活性を示す限り二重特異性抗体)を含み、特定の抗体断片(本明細書でさらに詳しく記載されるような)も含まれ得る。抗体は、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体及び/又は親和性成熟抗体であることができる。
【0050】
「抗体断片」は無傷の抗体の一部のみを含み、その部分は好ましくは、無傷の抗体に存在する場合、その部分に正常に関連する機能の少なくとも1つ、好ましくはほとんど又はすべてを保持する。
【0051】
用語「モノクローナル抗体」は本明細書で使用されるとき、実質的に均質な抗体の集団から得られる抗体を指し、その集団を構成する個々の抗体は、軽微な量で存在し得ると考えられる天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原に向けられる。さらに、様々な決定基(エピトープ)に向けられた様々な抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一決定基に向けられる。
【0052】
モノクローナル抗体は本明細書では、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種に由来する又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一である又は相同である一方で、鎖の残りの部分が別の種に由来する又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体における相当する配列と同一である又は相同である「キメラ」抗体、及び所望の生物活性を示す限り、そのような抗体の断片を具体的に含む(米国特許第4,816,567号;及び Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。
【0053】
非ヒト(たとえば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの部分については、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、その際、レシピエントの超可変領域に由来する残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するたとえば、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域に由来する残基によって置き換えられる。一部の例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)が相当する非ヒト残基で置き換えられる。さらに、ヒト化抗体はレシピエント抗体又はドナー抗体にて見つからない残基を含み得る。これらの修飾を行って抗体の性能をさらに改善する。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1、通常2の可変ドメインの実質的にすべてを含み、超可変ループのすべて又は実質的にすべては非ヒト免疫グロブリンものに相当し、FRのすべて又は実質的にすべてはヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は任意で、通常ヒト免疫グロブリンのものである免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部も含むであろう。さらに詳細には、Jonesら、Nature、321:522−525(1986);Riechmannら、Nature、332:323−329(1988);及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593−596(1992)を参照のこと。また、以下の概説論文及びその中で引用された文献:Vaswani及びHamilton,Ann.Allergy,Asthma & Immunol.1:105−115(1998);Harris,Biochem.Soc.Transactions23:1035−1038(1995);Hurle及びGross,Curr.Op.Biotech.5:428−433(1994)も参照のこと。
【0054】
「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される抗体の配列に相当するアミノ酸配列を持つ及び/又は本明細書で開示されるようなヒト抗体を作製する技術のいずれかを用いて作製されているものである。ヒト抗体のこの定義は、非ヒトの抗原結合部位を含むヒト化抗体を具体的には除外する。
【0055】
「親和性成熟した」抗体は、それらの変化を持たない親抗体に比べて抗原への抗体の親和性で改善を生じる1以上のその相補性決定領域(CDR)における1以上の変化を持つものである。好ましくは、親和性成熟した抗体は、標的抗原に対してナノモル又はさらにピコモルの親和性を有するであろう。親和性成熟した抗体は、当該技術で既知の手順によって作製される。Marksら、Bio/Technology、10:779−783(1992)は、VH及びVLのドメインをシャッフルすることによる親和性成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基の無作為変異誘発は、Barbasら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、91:3809−3813(1994);Schierら、Gene、169:147−155(1995);Yeltonら、J.Immunol.155:1994−2004(1995);Jacksonら、J.Immunol.154(7):3310−9(1995);及びHawkinsら、J.Mol.Biol.226:889−896(1992)によって記載されている。
【0056】
「エピトープタグを付けた」ポリペプチドは「タグポリペプチド」に融合させたキメラポリペプチドを指す。そのようなタグは、抗体がそれに対して作製され得る又は利用可能であるが、ポリペプチドの活性を実質的に妨害しないエピトープを提供する。内因性のエピトープとの抗タグ抗体の反応性を抑えるにはタグポリペプチドは普通独特である。好適なタグポリペプチドは一般に少なくとも6つのアミノ酸残基、普通約8〜50のアミノ酸残基、好ましくは8〜20のアミノ酸残基を有する。エピトープタブグ配列の例には、A型インフルエンザウイルスからのHA、GD、およびc−myc、ポリ−HisおよびFLAGが含まれる。
【0057】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸」は本明細書では相互交換可能に使用され、任意の長さのヌクレオチドの重合体を指し、それにはDNA及びRNAが挙げられるが、これらに限定されない。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド又は塩基、及び/又はそれらの類似体、又はDNA若しくはRNAポリメラーゼによって又は合成反応によって重合体に取り込むことができる基質であることができる。ポリヌクレオチドは、たとえば、メチル化ヌクレオチド及びその類似体のような修飾されたヌクレオチドを含み得る。存在するのであれば、ヌクレオチドに対する修飾は重合体の組立ての前又は後で付与され得る。ヌクレオチドの配列は非ヌクレオチド成分によって割り込まれ得る。ポリヌクレオチドは合成後、たとえば、標識による抱合によってさらに修飾され得る。他の種類の修飾には、たとえば、「キャップ」、1以上の天然に存在するヌクレオチドの類似体による置換、たとえば、非荷電結合によるもの(たとえば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホアミダイト、カバメート等)及び荷電結合によるもの(たとえば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート等)のようなヌクレオチド間修飾、たとえば、タンパク質(たとえば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、」シグナルペプチド、Ply−L−リジン等)のようなペンダント部分を含有するもの、挿入剤(たとえば、アクリジン、ソラレン等)によるもの、キレータ(たとえば、金属、放射性金属、ボロン、酸化金属等)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合によるもの(たとえば、αアノマー核酸等)、並びにポリヌクレオチドの未修飾形態が挙げられる。さらに、糖類に普通存在するヒドロキシル基のいずれかが、たとえば、ホスホネート基、ホスフェート基によって置換されてもよく、標準の保護基によって保護されてもよく、又は活性化されて追加のヌクレオチドに対する追加の結合を調製してもよく、又は固体若しくは半固体の支持体に抱合されてもよい。5’及び3’末端のOHはリン酸化することができ、又はアミン若しくは1〜20の炭素原子の有機キャッピング基によって置換することができる。他のヒドロキシルを標準の保護基に誘導体化し得る。ポリヌクレオチドは、たとえば、2’−O−メチル−、2’−O−アリル−、2’−O−フルオロ−、又は2’−アジド−リボース、カルボ環状糖類似体、αアノマー糖、たとえば、アラビノース、キシロース又はリキソースのようなエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環状類似体及びメチルリボシドのような脱塩基ヌクレオシド類似体を含む当該技術で一般的に知られるリボース糖又はデオキシリボース糖の類似形態も含有することができる。1以上のホスホジエステル結合が代替の結合基で置き換えられ得る。代替の結合基には、ホスフェートがP(O)S(「チオエート」)、P(S)S(「ジチオエート」)、(O)NR.sub.2(「アミデート」)、P(O)R、P(O)OR’、CO又はCH.sub.2(「ホルマセタル」)によって置き換えられる実施形態で、その際、各R又はR’が独立してH又は任意でエーテル(−O−)結合、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル又はアラルジルを含有する置換若しくは非置換のアルキル(1〜20のC)である実施形態が挙げられるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチドにおける結合すべてが同一である必要があるわけではない。上記の記載は、RNA及びDNAを含む本明細書で言及されるポリヌクレオチドすべてに適用される。
【0058】
「オリゴヌクレオチド」は本明細書で使用されるとき、一般に、しかし必然ではない長さ約200ヌクレオチド未満である短い、一般に一本鎖の一般に合成ポリヌクレオチドを指す。用語「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は相互に排他的ではない。ポリヌクレオチドに関する上記記載は同等に及び完全にオリゴヌクレオチドに適用できる。
【0059】
「制御配列」は本明細書で使用されるとき、特定の宿主生物にて操作可能に連結されたコーディング配列の発現を可能にするDNA配列である。原核細胞の制御配列にはプロモータ、オペレータの配列及びリボソーム結合部位が挙げられる。真核細胞の制御配列にはプロモータ、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサが挙げられる。
【0060】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれると「操作可能に連結される」。たとえば、プロモータ又はエンハンサは、配列の転写に影響を及ぼすのであればコーディング配列に操作可能に連結され、又はリボソーム結合部位は、翻訳を円滑にするように配置されるのであればコーディング配列に操作可能に連結される。一般に、「操作可能に連結される」は、連結されるDNA配列が隣接しており、分泌リーダーの場合、隣接し、読み取り相にあることを意味する。しかしながら、エンハンサは隣接する必要はない。
【0061】
用語「ベクター」は本明細書で使用されるとき、それに連結される別の核酸を伝搬することが可能である核酸分子を指す。用語には、自己複製する核酸構造としてのベクターと同様にそれが導入される宿主細胞のゲノムに組み入れられるベクターも含まれる。特定のベクターはそれらが操作可能に連結される核酸の発現を指示することが可能である。そのようなベクターは本明細書では「発現ベクター」と呼ばれる。
【0062】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」及び「宿主細胞の培養物」は相互交換可能に使用され、外因性の核酸が導入されている、そのような細胞の子孫を含む細胞を指す。宿主細胞には、「形質転換体」及び「形質転換された細胞」が含まれ、それらは一次形質転換細胞及び継代の数に関わりなくそれらに由来する子孫を含む。子孫は核酸内容物について親細胞と完全に同一でなくてもよいが、変異を含有し得る。元々の形質転換された細胞についてスクリーニングされた又は選択されたものと同一の機能又は生物活性を有する変異子孫が本明細書に含まれる。
【0063】
用語「BACE1」は本明細書で使用されるとき、特に指示されない限り、たとえば、霊長類(たとえば、ヒト)及び齧歯類(たとえば、マウス及びラット)のような哺乳類を含む任意の脊椎動物起源に由来する天然のβ−セクレターゼ1(β部位アミロイド前駆タンパク質切断酵素1、膜関連アスパラギン酸プロテアーゼ2、メマプシン2、アスパルチルプロテアーゼ2又はAsp2とも呼ばれる)を指す。その用語は、「完全長」のプロセッシングを受けていないBACE1と同様に細胞内でのプロセッシングの結果生じるBACE1の任意の形態も包含する。その用語はまた、BACE1の天然に存在する変異体、たとえば、スプライシング変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。例となるBACE1のアミノ酸配列を以下の配列番号1で示すが、それはヒトBACE1、その全体が参照によって本明細書に組み入れられるVassarら、Science、286:735−741(1999)で報告されたようなアイソフォームAの配列である。
MAQALPWLLLWMGAGVLPAHGTQHGIRLPLRSGLGGAPLGLRLPRETDEEPEEPGRRGSFVEMVDNLRGKSGQGYYVEMTVGSPPQTLNILVDTGSSNFAVGAAPHPFLHRYYQRQLSSTYRDLRKGVYVPYTQGKWEGELGTDLVSIPHGPNVTVRANIAAITESDKFFINGSNWEGILGLAYAEIARPDDSLEPFFDSLVKQTHVPNLFSLQLCGAGFPLNQSEVLASVGGSMIIGGIDHSLYTGSLWYTPIRREWYYEVIIVRVEINGQDLKMDCKEYNYDKSIVDSGTTNLRLPKKVFEAAVKSIKAASSTEKFPDGFWLGEQLVCWQAGTTPWNIFPVISLYLMGEVTNQSFRITILPQQYLRPVEDVATSQDDCYKFAISQSSTGTVMGAVIMEGFYVVFDRARKRIGFAVSACHVHDEFRTAAVEGPFVTLDMEDCGYNIPQTDESTLMTIAYVMAAICALFMLPLCLMVCQWCCLRCLRQQHDDFADDISLLK(配列番号1)
【0064】
それぞれ以下で配列番号2、配列番号3及び配列番号4として示すアイソフォームB、C及びDを含むヒトBACE1の幾つかの他のアイソフォームが存在する。その全体が参照によって本明細書に組み入れられる UniProtKB/Swiss−Prot Entry P56817を参照のこと。
MAQALPWLLLWMGAGVLPAHGTQHGIRLPLRSGLGGAPLGLRLPRETDEEPEEPGRRGSFVEMVDNLRGKSGQGYYVEMTVGSPPQTLNILVDTGSSNFAVGAAPHPFLHRYYQRQLSSTYRDLRKGVYVPYTQGKWEGELGTDLVSIPHGPNVTVRANIAAITESDKFFINGSNWEGILGLAYAEIARLCGAGFPLNQSEVLASVGGSMIIGGIDHSLYTGSLWYTPIRREWYYEVIIVRVEINGQDLKMDCKEYNYDKSIVDSGTTNLRLPKKVFEAAVKSIKAASSTEKFPDGFWLGEQLVCWQAGTTPWNIFPVISLYLMGEVTNQSFRITILPQQYLRPVEDVATSQDDCYKFAISQSSTGTVMGAVIMEGFYVVFDRARKRIGFAVSACHVHDEFRTAAVEGPFVTLDMEDCGYNIPQTDESTLMTIAYVMAAICALFMLPLCLMVCQWCCLRCLRQQHDDFADDISLLK(配列番号2)
MAQALPWLLLWMGAGVLPAHGTQHGIRLPLRSGLGGAPLGLRLPRETDEEPEEPGRRGSFVEMVDNLRGKSGQGYYVEMTVGSPPQTLNILVDTGSSNFAVGAAPHPFLHRYYQRQLSSTYRDLRKGVYVPYTQGKWEGELGTDLPDDSLEPFFDSLVKQTHVPNLFSLQLCGAGFPLNQSEVLASVGGSMIIGGIDHSLYTGSLWYTPIRREWYYEVIIVRVEINGQDLKMDCKEYNYDKSIVDSGTTNLRLPKKVFEAAVKSIKAASSTEKFPDGFWLGEQLVCWQAGTTPWNIFPVISLYLMGEVTNQSFRITILPQQYLRPVEDVATSQDDCYKFAISQSSTGTVMGAVIMEGFYVVFDRARKRIGFAVSACHVHDEFRTAAVEGPFVTLDMEDCGYNIPQTDESTLMTIAYVMAAICALFMLPLCLMVCQWCCLRCLRQQHDDFADDISLLK(配列番号3)
MAQALPWLLLWMGAGVLPAHGTQHGIRLPLRSGLGGAPLGLRLPRETDEEPEEPGRRGSFVEMVDNLRGKSGQGYYVEMTVGSPPQTLNILVDTGSSNFAVGAAPHPFLHRYYQRQLSSTYRDLRKGVYVPYTQGKWEGELGTDLLCGAGFPLNQSEVLASVGGSMIIGGIDHSLYTGSLWYTPIRREWYYEVIIVRVEINGQDLKMDCKEYNYDKSIVDSGTTNLRLPKKVFEAAVKSIKAASSTEKFPDGFWLGEQLVCWQAGTTPWNIFPVISLYLMGEVTNQSFRITILPQQYLRPVEDVATSQDDCYKFAISQSSTGTVMGAVIMEGFYVVFDRARKRIGFAVSACHVHDEFRTAAVEGPFVTLDMEDCGYNIPQTDESTLMTIAYVMAAICALFMLPLCLMVCQWCCLRCLRQQHDDFADDISLLK(配列番号4)
【0065】
アイソフォームBは、配列番号2に示され、アミノ酸190〜214を失っている(すなわち、配列番号1におけるアミノ酸190〜214の欠失)という点でアイソフォームA(配列番号1)と異なる。アイソフォームCは、配列番号3に示され、アミノ酸146〜189を失っている(すなわち、配列番号1におけるアミノ酸146〜189の欠失)という点でアイソフォームA(配列番号1)と異なる。アイソフォームDは、配列番号4に示され、アミノ酸146〜189及び190〜214を失っている(すなわち、配列番号1におけるアミノ酸146〜189及び190〜214の欠失)という点でアイソフォームA(配列番号1)と異なる。
【0066】
用語「ペプチド」は一般にペプチド結合で連結されたアミノ酸の隣接した相対的に短い配列を指す。通常、しかし、必然ではなく、ペプチドは約2〜50アミノ酸、4〜40アミノ酸又は10〜30アミノ酸の長さを有する。用語「ポリペプチド」は一般にペプチドのさらに長い形態を指すが、2つの用語は本明細書での一部の文脈では相互交換可能に使用することができ、使用する。
【0067】
用語「アミノ酸」及び「残基」は本明細書では相互交換可能に使用される。ポリペプチドの「領域」は2以上のアミノ酸の隣接する配列である。他の実施形態では、領域は3、5、10、15の隣接アミノ酸の少なくともいずれかである。
【0068】
「C末端領域」、「C末端配列」及びその変異は、本明細書で使用されるとき、ポリペプチドのC末端で又はその非常に近傍で位置するアミノ酸配列を指す。一般に、配列には遊離のカルボキシル基を有するアミノ酸が含まれる。一実施形態では、C末端領域の配列はポリペプチドのC末端の最も近くに位置する約1〜15残基を含むポリペプチドの領域を指す。
【0069】
「N末端領域」、「N末端配列」及びその変異は、本明細書で使用されるとき、ポリペプチドのN末端で又はその非常に近傍で位置するアミノ酸配列を指す。一般に、配列には遊離のアミノ基を有するアミノ酸が含まれる。一実施形態では、C末端領域の配列はポリペプチドのN末端の最も近くに位置する約1〜15残基を含むポリペプチドの領域を指す。
【0070】
「内部領域」、「内部配列」及びその変異は、本明細書で使用されるとき、ポリペプチドの範囲内に位置し、配列の一部ではない1以上のアミノ酸によってそのN末端及びC末端の双方に隣接するアミノ酸配列を指す。一般に、配列には遊離のカルボキシル基又はアミノ基のいずれかを持つアミノ酸を含まない。一実施形態では、内部領域又は内部配列はポリペプチドの範囲内に位置する約1〜15の残基を含むポリペプチドの領域を指し、その際、領域はC末端又はN末端のアミノ酸を含まない。
【0071】
「親和性」は、分子の単一結合部位と結合相方との間での非共有相互作用の総計の強さを指す。特に指示されない限り、本明細書で使用されるとき、「結合親和性」は結合対のメンバー間での1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。その相方Yに対する分子Xの親和性は一般に解離定数(Kd)によって表すことができる。親和性は、本明細書で記載されるものを含む当該技術で既知の一般的な方法によって測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な説明に役立つ且つ例となる実施形態が以下で記載される。
【0072】
「融合タンパク質」は一緒に共有結合する2つの部分を有するポリペプチドを指し、部分のそれぞれは異なるタンパク質に由来する。2つの部分は、単一のペプチド結合によって直接又は1以上のアミノ酸残基を含有するペプチドリンカーを介して連結され得る。一般に、2つの部分とリンカーは互いに読み取り枠に存在し、組換え法を用いて作製される。
【0073】
「障害」又は「病的状態」は本発明の物質/分子又は方法による治療から恩恵を受ける任意の状態である。これには、哺乳類を当該障害に罹りやすくする病的状態を含む慢性及び急性の障害又は疾患が含まれる。本明細書で治療される障害の非限定例は神経障害である。
【0074】
用語「神経障害」又は「神経疾患」は哺乳類における中枢神経系及び/又は末梢神経系の疾患又は障害を指し、記載する。神経障害の例には、疾患及び障害の以下のリストが挙げられるが、これらに限定されない。神経障害疾患は、不適当な又は制御されない神経のシグナル伝達又はその欠如を特徴とする神経系の疾患又は異常であり、それには、慢性疼痛(傷害受容性疼痛(癌関連の疼痛を含む体組織への傷害が原因で生じる疼痛)を含む)、神経障害性疼痛(神経、脊髄又は脳における異常が原因で生じる疼痛)、及び心因性疼痛(全体として又はほとんど精神的な障害に関連する)、頭痛、片頭痛、神経障害、及び眩暈又は吐き気のようなそのような神経障害性の障害を伴う症状及び症候群が挙げられるが、これらに限定されない。アミロイドーシスは、二次アミロイドーシス、加齢性アミロイドーシス、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害(MCI)、レビー小体認知症、ダウン症、アミロイドーシスを伴った遺伝性脳出血(オランダ型);グアムパーキンソン認知症複合体、脳アミロイド血管障害、ハンチントン病、進行性核上麻痺、多発性硬化症;クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、HIV関連の認知症、筋委縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、及びβ−アミロイドの沈着に関連する眼疾患を含むが、これらに限定されないCNSにおける細胞外タンパク質様沈着に関連する疾患及び障害の群である。CNSの癌は、1以上のCNS細胞(すなわち、神経細胞)の異常増殖を特徴とし、それには、神経膠腫、膠芽細胞腫、多発性紅斑、髄膜腫、星状細胞種、聴神経腫、軟骨腫、乏突起膠腫、髄芽細胞腫、神経節膠腫、神経鞘腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、硬膜外の、髄内の又は硬膜内の腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。眼の疾患又は障害は、本明細書の目的ではBBBの支配下にあるCNS器官と見なされる眼の疾患又は障害である。眼の疾患又は障害には、強膜、角膜、虹彩及び毛様体の障害(すなわち、強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜剥離、雪眼炎、アークアイ、チゲソンの点状表層角膜症、角膜血管新生、フックスのジストロフィ、円錐角膜、乾性角結膜炎、虹彩炎及びブドウ膜炎)、レンズの障害(すなわち、白内障)、脈絡膜及び網膜の障害(すなわち、網膜剥離、網膜分離、高血圧性網膜症、糖尿病性網膜症、網膜症、未熟児網膜症、加齢黄斑変性症、黄斑変性症(湿性又は乾性)、網膜上膜、網膜色素変性症、及び黄斑浮腫)、緑内障、飛蚊症、視神経及び視覚経路の障害(すなわち、レーバーの遺伝性視神経障害及び視神経乳頭ドルーゼン)、眼筋、両眼運動調節及び屈折の障害(すなわち、斜視、眼筋不全麻痺、進行性外眼筋麻痺、内斜視、外斜視、遠視、近視、乱視、不同視、老眼及び眼筋麻痺)、視覚障害及び盲目(すなわち、弱視、レーバーの先天性黒内障、暗点、色盲、色覚異常、夜盲症、盲目、河川盲目症、ミクロ結膜炎/欠損症)、赤眼、アーガイル・ロバートソン瞳孔、角膜真菌症、眼球乾燥症及び無虹彩が挙げられるが、これらに限定されない。CNSのウイルス又は微生物の感染には、ウイルス(すなわち、インフルエンザウイルス、HIV、ポリオウイルス、ルベラ)、細菌(すなわち、Neisseria sp.、Streptococcus sp.、Pseudomonas sp.、Proteus sp.、E.coli、S.aureus、Pneumococcus sp.、Meningococcus sp.、Haemophilus sp.、及びMycobacterium tuberculosis)、並びに急性又は慢性であり得る髄膜炎、脳炎、脊髄炎、血管炎及び膿瘍を含むが、これらに限定されないCNSの病態生理を生じる、たとえば、真菌(すなわち、酵母、Cryptococcus neoformans)、寄生虫(すなわち、Toxoplasma gondii)又はアメーバのような他の微生物による感染が挙げられるが、これらに限定されない。CNSの炎症は、CNSに対する傷害が原因で生じる炎症であり、傷害は、物理的傷害(すなわち、事故、手術、脳の外傷、脊髄の傷害、脳震盪による)又はCNSの1以上の他の疾患又は障害(すなわち、膿瘍、癌、ウイルス又は微生物の感染)による若しくはそれに関連する傷害であることができる。CNSの虚血は本明細書で使用されるとき、脳における異常な血流又は血管の挙動又はその原因に関連する障害の群を指し、それには、巣状脳虚血、全脳虚血、卒中(すなわち、クモ膜下出血及び脳内出血)及び動脈瘤が挙げられるが、これらに限定されない。神経変性疾患は、CNSにおける神経細胞機能の喪失又はその死に関連する疾患及び障害の群であり、それには、副腎白質ジストロフィ、アレキサンダー病、アルパー病、筋委縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病、コケーン症候群、大脳皮質基底核変性症、アミロイドーシスに関連する変性症、フリードライヒ運動失調症、前頭側頭葉変性症、ケネディ病、多系統萎縮症、多発性硬化症、原発性側索効果症、進行性核上麻痺、脊髄性筋委縮症、横断性脊髄炎、レフサム病、及び脊髄小脳失調症が挙げられるが、これらに限定されない。CNSの発作性の疾患及び障害は、CNSにおける不適当な及び/又は異常な電気伝導が関与し、それらには、癲癇(すなわち、欠神発作、無緊張発作、良性ローランド癲癇、小児期欠神、間代発作、複雑部分発作、前頭葉癲癇、熱性癲癇、乳児痙攣、若年性ミオクローヌス癲癇、若年性欠神癲癇、レンノックス・ガスト症候群、ランドー・クレフナー症候群、ドラベ症候群、オタハラ症候群、ウエスト症候群、ミオクローヌス発作、ミトコンドリア障害、進行性ミオクローヌス癲癇、心因発作、反射性癲癇、ラスムッセン症候群、単純部分発作、二次性全身性発作、側頭葉癲癇、強直間代発作、強直発作、精神運動発作、辺縁系癲癇、部分発症発作、全身発症発作、癲癇重積症、腹部癲癇、無動発作、自律神経発作、重度両側性ミオクローヌス、月経随伴性癲癇、失立発作、情動性発作、巣状発作、笑い発作、ジャクソニアン・マーチ・ラフォラ病、運動性発作、多巣状発作、夜間発作、光感受性発作、偽発作、感覚発作、微妙発作、シルバン発作、離脱発作、及び視覚反射発作)が挙げられるが、これらに限定されない。行動障害は、罹患対象の一部における異常な行動を特徴とするCNSの障害であり、それには、睡眠障害(すなわち、不眠症、錯眠、夜間恐怖症、概日リズム睡眠障害、及び発作性睡眠)、気分障害(すなわち、鬱病、自殺性鬱病、不安症、慢性情動障害、恐怖症、パニック発作、強迫神経症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、注意欠陥障害(ADD)、慢性疲労性症候群、広場恐怖症、心的外傷後ストレス障害、双極性障害)、摂食障害(すなわち、拒食症又は過食症)、精神病、発達行動障害(すなわち、自閉症、レット症候群、アスペルガー症候群)、人格障害及び精神障害(すなわち、統合失調症、妄想性障害等)が挙げられるが、これらに限定されない。リソソーム貯蔵障害は、場合によってはCNSに関連する又はCNS特異的な症状を有する代謝性障害であり、そのような障害には、テイ・サックス病、ゴーシュ病、ファブリ病、ムコ多糖症(I、II、III、IV、V、VI及びVII型)、グリコーゲン貯蔵性疾患、GM1−ガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィ、ファーバー病、ガナバン白質ジストロフィ、及び神経セロイドリポフスチン症1及び2型、ニーマン・ピック病、ポンペ病及びクラッペ病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
本明細書で使用されるとき、「治療」は治療される個体又は細胞の自然の経過を変える試みにおける臨床的介入を指し、予防のために又は臨床病理の経過中に実施することができる。治療の望ましい効果には、発生又は再発を防ぐこと、症状の緩和、疾患の直接的な又は間接的な病理結果の減少、転移を防ぐこと、疾患増悪の比率を減らすこと、疾患状態に改善又は緩和、及び寛解又は改善された予後が挙げられる。一部の実施形態では、本発明の調節的な化合物を使用して疾患又は障害の発生を遅らせる。
【0076】
「個体」又は「対象」は哺乳類である。哺乳類には、家畜(たとえば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(たとえば、ヒト及び非ヒト霊長類、たとえば、サル)、ウサギ及び齧歯類(たとえば、マウス及びラット)が挙げられる。特定の実施形態では、個体又は対象はヒトである。
【0077】
「有効量」は、所望の治療成績又は予防成績を達成するのに必要な投与量にて及び期間について有効な量を指す。本発明の物質/分子、アゴニスト又は拮抗剤の治療上有効な量は、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重、及び個体にて所望の応答を引き出す物質/分子、アゴニスト又は拮抗剤の能力に従って変化し得る。治療上有効な量はまた、治療上有益な効果が物質/分子、アゴニスト又は拮抗剤の毒性の又は有害な効果を上回るものでもある。「予防上有効な量」は所望の予防成績を達成するのに必要な投与量にて及び期間について有効な量を指す。通常、しかし、必然ではなく、疾患の初期段階に先立って又は初期段階にて対象において予防上の用量が使用されるので、予防上有効な量は治療上有効な量よりも少ないであろう。
【0078】
用語「医薬製剤」は、有効であるその中に含有される有効成分の生物活性を許容するような形態であり、製剤が投与される対象に許容できないほど毒性である追加の成分を含有しない調製物を指す。
【0079】
「薬学上許容可能なキャリア」は対象に非毒性である、有効成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学上許容可能なキャリアには緩衝液、賦形剤、安定剤又は保存剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
用語「添付文書」は、そのような治療製品の使用に関する適応、用途、投与量、投与、併用療法、禁忌及び/又は警告についての情報を含有する、治療製品の商業用包装に一般に含まれる指示書を指す。
【0081】
用語「細胞傷害剤」は本明細書で使用されるとき、細胞性の機能を阻害する若しくは妨害する及び/又は細胞死若しくは細胞破壊を引き起こす物質を指す。細胞傷害剤には、放射性同位元素(たとえば、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212及びLuの放射性同位元素)、化学療法剤又は化学療法薬(たとえば、メソトレキセート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤)、増殖阻害剤;核酸分解酵素のような酵素及びその断片;抗生剤;その断片及び/又は変異体を含む細菌、真菌、植物又は動物起源の小分子毒素又は酵素的に活性のある毒素のような毒素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明の組成物及び方法
A.本発明のペプチド及びポリペプチド
態様の1つでは、本発明はBACE1に結合しBACE1の活性を低減する及び/又は阻害するペプチド/ポリペプチドに部分的に基づく。特定の実施形態では、BACE1の活性部位又は非活性部位に結合するペプチドが提供される。
【0083】
本発明のBACE1結合体タンパク質には、表2及び
図2に記載されたものが含まれる。本発明はまた、阻害活性を維持するペプチドを依然としてコードしながら、その残基がそれらペプチドの相当する残基から変化し得る変異又は異型のペプチドを提供する。一実施形態では、結合体ペプチド/ポリペプチドは、参照結合体ペプチド/ポリペプチドの配列と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%のアミノ酸配列同一性を有する。一般に、変異体は参照結合体ペプチド/ポリペプチドと実質的に同等又はそれより大きい結合親和性を示し、たとえば、当該技術で受け入れられている結合アッセイの定量単位/測定基準に基づいて参照結合体ペプチド/ポリペプチドの0.75×、0.8×、0.9×、1.0×、1.25×、又は1.5×の結合親和性を示す。一般に、本発明の変異体は、配列における特定の位置が他のアミノ酸によって置換されている変異体を含み、さらに、親ペプチド/ポリペプチドの2つの残基間に追加の残基(単数)又は残基(複数)を挿入する可能性と同様に親配列から1以上の残基を欠失する又は親配列に1以上の残基を付加する可能性を含む。任意のアミノ酸の置換、挿入又は欠失が本発明によって熟考される。特定の状況では、置換は本明細書で記載されるような保存的な置換である。
【0084】
「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、2つの配列を並べたとき、参照(親)ポリペプチドの配列におけるアミノ酸残基と同一であるアミノ酸残基の比率として定義される。%アミノ酸配列同一性を決定するには、配列を並べ、必要に応じてギャップを導入して最大の%配列同一性を達成するが;保存的な置換は配列同一性の一部としては見なされない。パーセント同一性を決定するアミノ酸配列配置の手順は当業者に周知である。たとえば、BLAST、BLAST2、ALIGN2又はMegalign(DNASTAR)のような公的に利用可能なコンピュータソフトウエアを用いてペプチド配列を並べることが多い。当業者は、比較される完全長の配列にわたる最大の配列比較を達成するのに必要とされるアルゴリズムを含む、配列比較を測定するための適当なパラメータを決定することができる。
【0085】
アミノ酸配列を並べたとき、所与のアミノ酸配列Bへの、との又は、に対する所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(或いは、所与のアミノ酸配列Bへの、との又は、に対する特定の%アミノ酸配列同一性を有する又は含む所与のアミノ酸配列Aと表現される)は、以下のように算出することができる:
%アミノ酸配列同一性=X/Y’100
その際、Xは、AとBの配列比較プログラム又はアルゴリズムの配列比較による同一の一致としてスコア化されたアミノ酸残基の数であり;
Yは、Bにおけるアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと同等ではない場合、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性はAに対するBの%アミノ酸配列同一性と同等ではない。
【0086】
「単離した」又は「精製した」ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は生物学的に活性のあるその断片はその天然の環境の成分から分離され及び/又は回収される。混入物質には通常、ポリペプチドの診断用途又は治療用途を妨害する物質が挙げられ、酵素、ホルモン及び他のタンパク質様又は非タンパク質様の物質が挙げられ得る。乾燥重量で好ましくは30%未満の望ましくない混入物質(混入物)、好ましくは20%、10%未満及び好ましくは5%未満の混入物を有する調製物が実質的に単離されると見なされる。単離された組換え作出されたペプチド/ポリペプチド又は生物学的に活性のあるその一部は好ましくは実質的に培養培地を含まず、すなわち、培養培地は、ペプチド/ポリペプチド調製物の容積の好ましくは20%未満、好ましくは10%未満及び好ましくは5%未満を表す。混入物の例には、細胞残渣、培養培地、及びペプチド/ポリペプチドの試験管内合成の間に使用され、作出された物質が挙げられる。
【0087】
ペプチド/ポリペプチドの保存的な置換を「好まれる置換」の見出しのもとで表Aに示す。そのような置換が生物活性の変化を生じるのであれば、そのときは、表Aにおけるさらに実質的な置換、命名された「例となる置換」又はアミノ酸のクラスを参照して以下にさらに記載されたようなものを導入してもよく、生成物をスクリーニングしてもよい。
【0089】
共通する側鎖の特性に従ってアミノ酸をグループ分けしてもよい。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln
(3)酸性:Asp、Glu
(4)塩基性:His、Lys、Arg
(5)鎖の配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro
(6)芳香族:Trp、Tyr,Phe
【0090】
共通する側鎖の特性に従ってアミノ酸をグループ分けしてもよく、たとえば、小型アミノ酸(Gly、Ala、Ser、Pro、Thr、Asp、Asn)又は嵩高の疎水性アミノ酸(Met、Ile、Leu)。
【0091】
ペプチド/ポリペプチドの生物学的特性における実質的な修飾は、(a)置換の領域におけるポリペプチド主鎖の、たとえば、シート構造又はらせん構造のような構造、(b)標的部位での分子の電荷又は疎水性、又は(c)側鎖の容量を維持するその効果で有意に異なる置換を選択することによって達成される。非保存的な置換はこれらのクラスの1つのメンバーの別のクラスへの交換を伴う。
【0092】
さらなる実施形態では、本発明のペプチド又はポリペプチドは1以上の天然に存在しない又は修飾されたアミノ酸を含み得る。「天然に存在しないアミノ酸残基」は上記の天然に存在するアミノ酸残基以外の、ポリペプチド鎖における隣接するアミノ酸残基に共有結合することができる残基を指す。非天然アミノ酸には、ホモ−リジン、ホモ−アルギニン、ホモ−セリン、アゼチジンカルボン酸、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、β−アラニン、アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、3級ブチルグリシン、2,4−ジアミノイソ酪酸、2,2−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、ホモプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロイソロイシン、N−メチルアラニン、N−メチルグリシン、N−メチルイソロイシン、N−メチルペンチルグリシン、N−メチルバリン、ナフタラニン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチン、シトルリン、ペンチルグリシン、ピペコール酸、及びチオプロリンが挙げられるが、これらに限定されない。修飾されたアミノ酸には、そのN末端アミノ基又は側鎖基にて化学的に可逆的に又は非可逆的に遮断される、又は修飾される天然アミノ酸及び非天然アミノ酸、たとえば、N−メチル化D及びLアミノ酸、別の官能基に化学的に修飾される側鎖官能基が挙げられる。たとえば、修飾されたアミノ酸には、メチオニンスルホキシド;メチオニンスルホン;アスパラギン酸−(βメチルエステル)、アスパラギン酸の修飾されたアミノ酸;N−エチルグリシン、グリシンの修飾されたアミノ酸;又はアラニンカルボキサミド及びアラニンの修飾されたアミノ酸が挙げられる。追加の非天然アミノ酸及び修飾されたアミノ酸、及びタンパク質及びペプチドにそれらを組み入れる方法は当該技術で既知である(たとえば、Sandberg et al., (1998) J. Med. Chem. 41: 2481-91; Xie and Schultz (2005) Curr. Opin. Chem. Biol. 9: 548-554; Hodgson and Sanderson (2004) Chem. Soc. Rev. 33: 422-430を参照)。
【0093】
B.ベクターの構築
本明細書で記載されるペプチド及びポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は標準の合成法及び/又は組換え法を用いて得ることができる。所望のポリヌクレオチド配列は適当な起源細胞から単離され、配列決定され得る。抗体用の起源細胞にはハイブリドーマ細胞のような抗体産生細胞が挙げられる。或いは、ポリヌクレオチドはヌクレオチド合成機又はPCR法を用いて合成することができる。いったん得られると、ペプチド又はポリペプチドをコードする配列は、宿主細胞にて非相同性ポリヌクレオチドを複製し、発現することが可能である組換えベクターに挿入される。当該技術で利用可能であり、知られている多数のベクターを本発明の目的で使用することができる。適当なベクターの選択は主としてベクターに挿入される核酸のサイズ及びベクターで形質転換される特定の宿主細胞に左右される。各ベクターは、その機能(非相同性ポリヌクレオチドの増幅又は発現、又は双方)及びそれが存在する特定の宿主細胞との適合性に応じて種々の成分を含有する。ベクターの成分には一般に、複製開始点(特にベクターが原核細胞に挿入される場合)、選抜マーカー遺伝子、プロモータ、リボソーム結合部位(RBS)、シグナル配列、非相同性核酸の挿入物及び転写終了配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
一般に、宿主細胞に適合性の種に由来するレプリコンと制御配列を含有するプラスミドベクターはそれらの宿主と併せて使用される。ベクターは普通、形質転換細胞にて表現型選択を提供することが可能であるマーキング配列と同様に複製部位を運ぶ。たとえば、大腸菌は通常、大腸菌種に由来するプラスミドであるpBR322を用いて形質転換される。pBR322はアンピシリン耐性をコードする遺伝子(Amp)及びテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子(Tet)を含有するので、形質転換された細胞を特定するための簡単な手段を提供する。pBR322、その誘導体、又は他の微生物プラスミド又はバクテリオファージはまた内因性タンパク質の発現のために微生物によって使用され得るプロモータも含有する、又は含有するように修飾される。
【0095】
加えて、宿主微生物と適合性であるレプリコンと制御配列を含有するファージベクターは、これらの宿主と併せて形質転換ベクターとして使用することができる。たとえば、ラムダGEM(商標)−11のようなバクテリオファージは大腸菌LE392のような感受性宿主細胞を形質転換するのに使用することができる組換えベクターを作製するのに利用され得る。
【0096】
当業者によって確定することができる特定の状況の必要性に従って、構成的なプロモータ又は誘導性のプロモータのいずれかを本発明で使用することができる。考えられる種々の宿主細胞によって認識される多数のプロモータが周知である。制限酵素の消化によって元のDNAからプロモータを取り外し、単離したプロモータ配列を選択したベクターに挿入することによって、本明細書で記載されるポリペプチドをコードするシストロンDNAに選択したプロモータを操作可能に連結することができる。天然のプロモータ配列及び多数の非相同性のプロモータの双方を使用して標的遺伝子の増幅及び/又は発現を指向し得る。しかしながら、非相同性のプロモータは、天然の標的ポリペプチドのプロモータに比べて一般に発現された標的遺伝子の大きな転写と高い収率を可能にするので好ましい。
【0097】
原核細胞宿主との使用に好適なプロモータには、PhoAプロモータ、β−ガラクタマーゼ及びラクトースのプロモータ系、トリプトファン(trp)のプロモータ系、及びtacプロモータ又はtrcプロモータのようなハイブリッドプロモータが挙げられる。しかしながら、細菌にて機能的である他のプロモータ(たとえば、他の既知の細菌又はファージのプロモータ)も同様に好適である。それらのヌクレオチド配列は公開されており、それによって、必要とされる制限部位を供給するリンカー又はアダプターを用いて技量のある研究者が標的の軽鎖及び重鎖をコードするシストロンにそれらを操作可能に連結するのを可能にする(Siebenlist et al. (1980) Cell 20: 269)。
【0098】
一部の実施形態では、組換えベクター内のシストロンは膜を横切って発現されたポリペプチドの転移を指向する分泌シグナル配列成分を含む。一般に、シグナル配列は、ベクターの成分であってもよいし、又はベクターに挿入される標的ポリペプチドDNAの一部であってもよい。本発明の目的で選択されるシグナル配列は宿主細胞によって認識され、処理される(すなわち、シグナルペプチダーゼによって切断される)ものであるべきである。非相同性ポリペプチドを原産とするシグナル配列を認識せず、処理しない原核宿主細胞については、シグナル配列は、たとえば、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ipp、又は熱安定性のエンテロトキシンII(STII)リーダー、LamB、PhoE、PelB、OmpA及びMBPから成る群から選択される原核細胞のシグナル配列によって置き換えられる。
【0099】
ポリペプチドを発現させるのに好適な原核宿主細胞には、たとえば、グラム陰性又はグラム陽性の生物のようなArchaebacteria及びEubacteriaが挙げられる。有用な細菌の例には、Escherichia(たとえば、E.coli)、Bacilli(たとえば、B.subtilis)、Enterobacteria、Pseudomonas種(たとえば、P.aeruginosa)、Salmonella typhimurium、Serratia marcescans、Klebsiella、Proteus、Shigella、Rhizobia、Vitreoscilla、又はParacoccusが挙げられる。好ましくは、グラム陰性の細胞が使用される。好ましくは、宿主細胞は、最少限の量のタンパク分解酵素を分泌すべきであり、追加のプロテアーゼ阻害剤が望ましくは細胞培養に組み入れられ得る。
【0100】
C.ペプチド又はポリペプチドの産生
上述の発現ベクターによって宿主細胞が形質転換され、又は宿主細胞に形質移入され、プロモータを誘導し、形質転換体を選抜し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するのに適切なように改変された従来の栄養培地で培養される。
【0101】
形質転換は、コーディング配列が実際に発現されようと発現されまいと宿主細胞によって発現ベクターを取り込むことを指す。形質移入の多数の方法、たとえば、CaPO
4沈殿及びエレクトロポレーションが当業者に既知である。このベクターの操作の指標が宿主細胞内に存在する場合、成功した形質移入が一般に認識される。
【0102】
形質転換は、DNAが染色体外要素として又は染色体統合によって複製可能であるようにDNAを原核宿主細胞に導入することを意味する。使用される宿主細胞に応じてそのような細胞に適する常法を用いて形質転換を行う。実質的な細胞壁バリアを含有する細菌細胞には、塩化カルシウムを用いたカルシウム処理が一般に使用される。他の形質転換の方法はポリエチレングリコール/DMSOを採用する。さらに別の使用される方法はエレクトロポレーションである。
【0103】
本発明のポリペプチドを産生させるのに使用される原核細胞を、当該技術で既知であり、選択された宿主細胞の培養に好適である培地にて増殖させる。好適な培地の例には、必要な栄養補完物を加えたLuriaブロス(LB)が挙げられる。好まれる実施形態では、培地はまた、発現ベクターの構築に基づいて選択され、発現ベクターを含有する原核細胞の増殖を選択的に可能にする選抜剤も含有する。たとえば、アンピシリン耐性遺伝子を発現する細胞の増殖にはアンピシリンを培地に添加する。
【0104】
炭素源、窒素源及び無機リン酸源に加えて必要な補完物も、単独で導入される又は複合窒素源のような別の補完物又は培地との混合物として導入される適当な濃度にて含まれ得る。任意で、培養培地は、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレート、ジチオエリスリトール及びジチオスレイトールから成る群から選択される1以上の還元剤を含有し得る。
【0105】
好適な温度にて原核宿主細胞が培養される。大腸菌の増殖については、たとえば、好まれる温度は約20℃〜約39℃、さらに好ましくは約25℃〜約37℃の範囲であり、一層さらに好ましくは約30℃である。培地のpHは主として宿主生物に応じて約5〜約9の範囲であるpHであり得る。大腸菌については、pHは好ましくは約6.8〜約7.4、さらに好ましくは約7.0である。
【0106】
発現ベクターにて誘導性のプロモータを使用するのであれば、タンパク質の発現はプロモータの活性化に好適な条件下で誘導される。たとえば、転写を制御するのにPhoAプロモータを使用するのであれば、形質転換された宿主細胞は誘導のためにリン酸を制限した培地で培養され得る。当該技術で知られるように採用されるベクター構築物に従って種々の他の誘導剤が使用され得る。
【0107】
微生物にて発現される本明細書で記載されるポリペプチドは、宿主細胞の周辺質にて分泌され、そこから回収され得る。タンパク質の回収には通常、一般にたとえば、浸透圧ショック、超音波処理又は溶解のような手段によって微生物を粉砕することが関与する。細胞がいったん粉砕されると、細胞残渣又は細胞全体を遠心又は濾過によって取り除き得る。タンパク質はさらに、たとえば、アフィニティ樹脂クロマトグラフィによって精製され得る。或いは、タンパク質は培養培地に輸送され、そこから単離することができる。細胞を培養物から取り除き、産生されたタンパク質のさらなる精製のために培養上清を濾過し、濃縮する。たとえば、免疫親和性カラム又はイオン交換カラムでの分画化;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ上又はDEAEのようなカチオン交換樹脂上でのクロマトグラフィ;クロマトフォーカシング;SDS−PAGE;硫安沈殿;たとえば、SephadexG−75を用いたゲル濾過;疎水性親和性樹脂、マトリクス上に不動化した好適な抗原を用いたリガンド親和性、及びウエスタンブロットアッセイのような一般に知られる方法を用いて、発現されたポリペプチドをさらに単離し、特定することができる。
【0108】
原核宿主細胞に加えて、真核宿主細胞系も当該技術で上手く樹立されている。好適な宿主には、CHOのような哺乳類細胞株及び以下に記載されるもののような昆虫細胞が挙げられる。
【0109】
D.ポリペプチド/ペプチドの精製
産生されるポリペプチド/ペプチドを精製してさらなるアッセイ及び使用のために実質的に均質である調製物を入手し得る。当該技術で既知の標準的なタンパク質精製法を採用することができる。以下の手順:免疫親和性カラム又はイオン交換カラムでの分画化;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカ上又はDEAEのようなカチオン交換樹脂上でのクロマトグラフィ;クロマトフォーカシング;SDS−PAGE;硫安沈殿;及び、たとえば、SephadexG−75を用いたゲル濾過は、好適な精製手順の例である。
【0110】
E.BACE1調節因子の特定及び性状分析−一般的なアプローチ
候補BACE1調節因子、たとえば、結合ペプチドは当該技術で既知の多数の方法によって特定することができる。BACE1とその結合相手(たとえば、基質APP、又は本発明の結合ポリペプチド)との間での相互作用を調節する調節因子の能力を判定することによって調節因子の調節特性を評価することができる。重要な特性の1つが結合親和性である。当該候補調節因子の結合特性は当該技術で既知の多数の方法にて評価することができる。調節因子の阻害特性は、BACE1の生物活性(たとえば、タンパク分解活性)を阻害する調節因子の能力を判定することによって評価することができる。
【0111】
方法における最初の工程は、当該配列を含む1以上の候補ペプチドを生成することを含み、次いでそのBACE1結合特性を判定するのに好適な条件下でそれを提示させる。ファージ又はファージミドの表面にてペプチドのカルボキシ末端(C末端)ディスプレイライブラリとして候補ペプチドを提示させることができ、たとえば、p3又はp8C末端ディスプレイのような被覆タンパク質とのタンパク質融合を用いた線維状ファージ(ミド)が当該技術で知られている。たとえば、Jespersら、Biotechnology(NY).13:378−82及びWO00/06717を参照のこと。これらの方法を用いて本発明の融合遺伝子、融合タンパク質、ベクター、組換えファージ粒子、宿主細胞及びそれらのライブラリを調製し得る。本明細書に記載されるように、一部の実施形態では、ファージ又はファージミドの表面にてペプチドのアミノ末端(N末端)ディスプレイライブラリとして候補ペプチドを提示させることが有用であり得る。N末端ファージ(ミド)ディスプレイは本明細書で記載されるもの及び、たとえば、米国特許第5,750,373号(及びその中で引用された文献)にて記載されたような、当該技術で周知であるものを含む。ペプチドのライブラリは当該技術で周知であり、技術方法に従って調製することもできる。たとえば、Clarkらの米国特許第6,121,416号を参照のこと。ファージの被覆タンパク質のような非相同性のタンパク質成分に融合されたペプチドのライブラリも、たとえば、Clarkら上記に記載されたように当該技術で周知である。
【0112】
これらの方法によって得られる結合体分子を性状分析する方法も、上記で引用された文献(Jespersら、WO00/06717及び米国特許第5,750,373号)にて開示されたものを含めて、本明細書で記載されるように当該技術で既知である。第1のペプチド結合体の変異体は、ペプチドの突然変異体をスクリーニングして当該特性(たとえば、標的の結合親和性を高めること、高い薬物動態、低下した毒性、改善された治療指標等)を得ることによって生成することができる。突然変異誘発法は当該技術で周知である。さらに、走査突然変異誘発法(たとえば、アラニンの走査に基づくもの)はペプチド内の個々のアミノ酸残基の構造的な及び/又は機能的な重要性を評価するのに役立ち得る。
【0113】
1.BACE1への結合ファージの単離
表示された候補BACE1結合ペプチドを伴ったファージディスプレイライブラリを試験管内でBACE1タンパク質又は融合タンパク質と接触させてBACE1標的に結合するライブラリのそれらメンバーを決定する。技量ある熟練者は既知の方法を用いて試験管内でのタンパク質結合をアッセイし得る。たとえば、1、2、3又は4回以上の結合選抜を行ってもよく、その後、個々のファージを単離し、任意でファージELISAにて分析する。ファージELISAを用いて不動化BACE1標的タンパク質に対するペプチドを提示するファージ粒子の結合親和性を測定し得る(Barrett et al., (1992) Anal Biochem. 204:357-64)。
【0114】
BACE1への結合について既知のBACE1結合体と競合する能力にについて候補がアッセイされる状況では、適当な結合競合条件が提供される。たとえば、一実施形態では、1以上の濃度の既知のBACE1結合体の存在下でスクリーニング/選抜/バイオパンニングを実施することができる。別の実施形態では、ライブラリから単離された候補結合体はその後、既知のBACE1結合体の存在下で競合ELISAにて評価することができる。
【0115】
2.BACE1の調製
従来の合成法又は組換え法を用いて精製タンパク質又はタンパク質断片(たとえば、BACE1の細胞外ドメイン、残基22〜457、残基43〜453又は残基57〜453)として又は融合ポリペプチドとしてBACE1を好都合に作出し得る。融合ポリペプチドはファージ(ミド)ディスプレイで有用であり、その際、BACE1は発現試験、細胞/局在化、バイオアッセイ、ELISA(結合競合アッセイを含む)等において結合の標的である。BACE1「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は無関係なポリペプチドに融合されたBACE1を含む。BACE1融合タンパク質は、幾つもの生物学的に活性のある部分を含めてBACE1の全配列までの任意の部分を含み得る。次いで、アフィニティクロマトグラフィ及び非BACE1ポリペプチドに結合する捕捉試薬を用いた既知の方法に従って融合タンパク質を精製することができる。BACE1はアフィニティ配列、たとえば、GST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)配列のC末端に融合され得る。そのような融合タンパク質は、固体支持体及び/又は固体支持体(ペプチドのスクリーニング/選抜/バイオパンニングのためのマトリクス)への付着部に結合するグルタチオンを用いた組換えBACE1の精製を円滑にする。
【0116】
組換え法を用いて融合タンパク質を容易に創ることができる。BACE1のN末端で、C末端で、又は内部的にBACE1(又はその一部)をコードする核酸を、非BACE1をコードする核酸とインフレームで融合することができる。自動DNA合成機を含む従来の技法によって融合遺伝子も合成され得る。その後アニーリングされ、再増幅されてキメラ遺伝子配列を生じる2つの連続した遺伝子断片間で相補的なオーバーハングを生じるアンカープライマーを用いたPCR増幅も有用である(Ausubel et al., Current protocols in molecular biology. John Wiley & Sons, New York 1987)。インフレームで融合タンパク質へのBACE1又はその一部のサブクローニングを促進する多数のベクターが市販されている。
【0117】
多数の変異体が単離されたBACE1タンパク質の目標を達成し、本発明で使用され得ることが当業者に明らかであろう。たとえば、BACE1とエピトープタグの融合が上述のように構築されてもよく、タグを使用してBACE1をアフィニティ精製する。BACE1タンパク質又はその一部は、融合なしで調製されてもよく;さらにタンパク質を作出するのに微生物ベクターを使用する代わりに、試験管内化学合成が代わりに使用され得る。たとえば、細菌の系、哺乳類細胞(たとえば、COS)の系、又はバキュロウイルスの系のような他の細胞を用いてBACE1タンパク質又はその一部を作出し得る。種々の融合を作出する多種多様なポリヌクレオチドベクターも利用可能である。BACE1融合タンパク質の最終的な精製は一般に融合相手に左右され;たとえば、ポリヒスチジンタグ融合はニッケルカラムで精製することができる。
【0118】
3.提示されたペプチドの配列の決定
所望の特性を持つ(及び任意で関係のない配列に結合しない)BACE1に結合するファージ(ミド)を配列解析に供することができる。候補結合ペプチドを提示するファージ(ミド)粒子を宿主細胞内で増幅し、DNAを単離し、適当な既知の配列決定法を用いて、ゲノム(候補ペプチドをコードする)の適当な部分を配列決定する。
【0119】
4.BACE1結合ポリペプチドにおける重要な残基の決定
アラニンの走査
BACE1結合ペプチド配列のアラニンの走査を用いてペプチドのBACE1への結合及び/又は阻害における各残基の相対的な寄与を判定することができる。BACE1リガンドにおける決定的な残基を決定するために、単一アミノ酸、通常アラニンによって残基を置換し、BACE1の結合及び活性に対する影響を評価する。米国特許第5,580,723号;同第5,834,250号及び実施例を参照のこと。
【0120】
切り詰め(欠失シリーズ)
BACE1結合ペプチドの切り詰めは、結合に決定的な残基を解明するだけでなく、結合を達成するペプチドの最小の長さを割り出すこともできる。場合によっては、切り詰めは天然のリガンドよりもきつく結合するリガンドを明らかにするであろうし;そのようなペプチドはBACE1:リガンドの相互作用を調節するのに有用である。
【0121】
好ましくは、一揃いのBACE1結合ペプチドの切り詰めが調製される。シリーズの1つがアミノ末端のアミノ酸を順に切り詰め、別のシリーズではカルボキシ末端で切り詰めが始まる。アラニン走査の場合のように、ペプチドは試験管内で合成されてもよいし、組換え法で調製されてもよい。
【0122】
理に適った調節因子の設計
アラニン走査と切り詰め解析から得られた情報に基づいて、技量のある熟練者は結合を調節する可能性がある化合物で濃縮される小分子を設計し、合成することができ、又は小分子ライブラリを選択することができる。たとえば、実施例に記載される情報に基づいて調節因子ペプチドは、2つの適当な間隔でのシステイン残基と「アルギニンフィンガー」を含むように設計することができる。
【0123】
5.結合アッセイ
BACE1結合ペプチドとBACE1の複合体を形成することは、その複合体化していない形態から及び不純物からの複合体化した形態の分離を円滑にする。BACE1:結合リガンドの複合体は溶液中で形成することができ、又はそこで、結合相手の1つは不溶性の支持体に結合する。複合体は、たとえば、カラムクロマトグラフィを用いて溶液から分離することができ、濾過、遠心等によって、周知の技法を用いて固体支持体に結合しながら分離することができる。BACE1ポリペプチド又はそのリガンドを固体支持体に結合することは高い処理能力のアッセイを円滑にする。
【0124】
候補結合化合物の存在下又は非存在下にてBACE1との結合体ポリペプチドの相互作用を調節する(たとえば、阻害する)能力について試験化合物をスクリーニングすることができ、スクリーニングは好適な容器、たとえば、マイクロタイタープレート、試験管及び微量遠心管にて達成することができる。試験又は分離を円滑にするために融合タンパク質を調製することもでき、その際、融合タンパク質は、タンパク質の一方又は双方がマトリクスに結合するのを可能にする追加のドメインを含有する。たとえば、GST−BACE1結合ペプチド融合タンパク質又はGST−BACE1タンパク質は、その後試験化合物と混ぜ合わせられるグルタチオンセファロースビーズ(ミズーリ州、セントルイスのSigma Chemical)又はグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレート上に吸着することができ、複合体形成を許容する条件下(たとえば、塩及びpHの生理的条件)で混合物をインキュベートする。インキュベートに続いて、ビーズ又はマイクロタイタープレートのウェルを洗浄して未結合の成分を取り除き、ビーズの場合は不動化されたマトリクスを取り除き、複合体を直接又は間接的に測定する。或いは、複合体をマトリクスから解離させることができ、結合又は活性のレベルは常法を用いて測定することができる。
【0125】
マトリクス上にタンパク質を不動化するための他の融合ポリペプチド技法もスクリーニングアッセイで使用することができる。ビオチン/アビジンの系又はビオチン/ストレプトアビジンの系を用いてBACE1結合ペプチド又はBACE1のいずれかを不動化することができる。たとえば、ビオチン−N−ヒドロキシ−スクシンイミド(イリノイ州、ロックフォードのNHS;PIERCE Chemicals)のような多数の試薬を用いてビオチン化を達成することができ、ストレプトアビジンを被覆した96穴プレート(PIERCE Chemicals)のウェルに不動化することができる。或いは、BACE1結合ペプチド又はBACE1に反応性であるが、結合ペプチドの標的分子への結合を妨害しない抗体をプレートのウェルに誘導体化することができ、未結合のBACE1又は結合体ペプチドを抗体の抱合によって捕捉することができる。GST不動化複合体について記載したものに加えて、そのような複合体を検出する方法は、結合体ペプチド又はBACE1と反応性の抗体を用いた複合体の免疫検出を含む。
【0126】
結合のためのアッセイ:競合ELISA
ペプチド、タンパク質又は他のBACE1リガンドの結合親和性を評価するために、競合結合アッセイを使用してもよく、その際、BACE1を結合するリガンドの能力(及び所望であれば、結合親和性)が評価され、BACE1に結合することが知られる化合物、たとえば、OM99−2のようなBACE1のペプチド模倣体阻害剤、BACE1抗体、又は本明細書で記載されるようなファージディスプレイによって決定される高親和性の結合体ペプチドのそれと比較される。
【0127】
結合分子(たとえば、ペプチド、タンパク質、小分子等)の結合親和性を特定するのに多数の方法が知られ、使用することができ;たとえば、結合親和性は競合ELISAを用いてIC
50値として測定することができる。IC
50値は、リガンドへのBACE1の結合を50%阻止する結合体の濃度として定義される。たとえば、固相アッセイでは、ニュートラアビジン、アビジン又はストレプトアビジンでマイクロウェルプレート(好ましくは効率的にタンパク質を吸着するように処理される)を被覆することによってアッセイプレートが調製され得る。ウシ血清アルブミン(BSA)又は他のタンパク質(たとえば、脱脂粉乳)の溶液の添加を介して非特異的な結合部位がブロックされ、次いで好ましくは、Tween−20のような界面活性剤を含有する緩衝液で洗浄する。ビオチン化された既知のBACE1結合体(たとえば、GSTとの融合物としてのファージペプチド又は精製及び検出を円滑にする他のそのような分子)を調製し、プレートに結合させる。BACE1と共に調べられる分子の連続希釈を調製し、結合した結合体と接触させる。不動化された結合体で被覆されたプレートを洗浄し、その後、各結合反応物をウェルに加え、手短にインキュベートする。さらに洗浄した後、多くは非BACE1融合相手を認識する抗体と一次抗体を認識する標識された(たとえば、西洋ワサビのペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)又はフルオレセインのような蛍光タグ)二次抗体によって結合反応物を検出する。次いで適当な基質(標識に応じて)でプレートを発色させ、たとえば、分光測定プレートリーダーを用いてシグナルを定量する。最小二乗適合を用いた結合曲線に吸収シグナルを当て嵌めてもよい。従って、既知のBACE1結合体を結合することからのBACE1を阻害する種々の分子の能力を測定することができる。
【0128】
当業者に明らかなことは上記アッセイの多数の変形である。たとえば、アビジン/ビオチンに基づく系の代わりに、BACE1結合体は基質に化学的に連結され、単純に吸着され得る。
【0129】
F.活性のアッセイ
本発明の候補ペプチド又はポリペプチド(たとえば、本明細書で開示される結合体ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチド)のBACE1活性を調節する能力の測定は、試験管内又は生体内でのアッセイで物質/分子の調節能力を調べることによって実施することができる。調節能力には、たとえば、BACE1アスパルチルプロテアーゼ活性の阻害若しくは低減;又はBACE1によるAPP切断の阻害若しくは低減;又はAβ産生の阻害若しくは低減が挙げられる。
【0130】
特定の実施形態では、本発明のペプチド/ポリペプチド、たとえば、本明細書で開示される結合体ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドがそのような生物活性について調べられる。たとえば、均質時間解像蛍光HTRFアッセイ又は合成基質ペプチドを用いた実施例1に詳細に記載されるような微量流動キャピラリ電気泳動(MCE)アッセイにてBACE1プロテアーゼ活性を調べることができる。
【0131】
手短には、均質時間蛍光(HTRF)アッセイを用いてアミロイド前駆タンパク質BACE1切断部位ペプチドの使用によってBACE1アスパルチルプロテアーゼを測定することができる。たとえば、384穴プレート(Proxiplate(商標)、Perkin−Elmer)にてBACE反応緩衝液(50mMの酢酸ナトリウムpH4.4及び0.1%のCHAPS)中で抗BACE抗体と共に予備インキュベートしたBACE1とBi27ペプチド(ビオチン−KTEEISEVNLDAEFRHDSGYEVHHQKL(配列番号5)、American Peptide Company)を混ぜ合わせる。タンパク分解反応混合物を常温にて75分間インキュベートし、検出緩衝液(200mMのTris、pH8.0,20mMのEDTA,0.1%のBSA,及び0.8MのKF)中にてユーロピウムクリプテートで標識した150nMの抗アミロイドベータ抗体及び2nMのストレプトアビジン−D2を含有する5μMのHTRF検出混合物の添加によって反応を止める。最終反応混合物を常温で60分間インキュベートし、320nmの励起波長及び615と665nmの発光波長にてEnVision Multilabel Plate Reader(商標)(Perkin−Elmer)を用いてTR−FRETシグナルを測定する。
【0132】
酵素に対する基質、ヒトBACE1(細胞外ドメイン)を含有する4×化合物、アミロイド前駆タンパク質のβセクレターゼの活性部位ペプチド(FAM−KTEEISEVNLDAEFRWKK−CONH
2(配列番号20))、50mMのNaOAc、pH4.4及び0.1%のCHAPSの添加によって開始する、標準の酵素反応にてMCEアッセイ反応を行うことができる。常温での60分間のインキュベートの後、LC3000(登録商標)(双方ともCaliper Life Sciences)上で分析される12シッパー微小流体チップを用いて、各反応にて生成物と基質を分離する。製造元が最適化したソフトウエアを用いて電圧及び圧力を選択することによって生成物と基質の分離を最適化する。HTSウェル分析器ソフトウエア(Caliper Life Sciences)を用いた電気泳動図から基質の変換を算出する。
【0133】
加えて、APPのようなBACE1基質を発現する細胞株にて又はヒトAPPのようなBACE1基質を発現するトランスジェニックマウスにて生体内でBACE1プロテアーゼ活性を調べることができる。
【0134】
さらに、動物モデルにてBACE1プロテアーゼ活性を調べることができる。たとえば、種々の神経疾患及び神経障害の動物モデル及びこれらのモデルに関連する病態経過を調べるための関連する技法は当該技術で容易に入手可能である。種々の神経疾患及び神経障害の動物モデルには非組み換え動物及び組換え(動物トランスジェニック)が挙げられる。非組み換え動物には、たとえば、齧歯類、たとえば、マウスのモデルが挙げられる。標準の技法、たとえば、皮下注射、尾静脈注射、脾臓移植、腹腔内移植、及び腎被膜下移植を用いて同系のマウスに細胞を導入することによってそのようなモデルを生成することができる。生体内モデルには、卒中/脳虚血のモデル、たとえば、パーキンソン病のマウスモデル;アルツハイマー病のマウスモデルのような神経変性疾患の生体内モデル;筋委縮性側索硬化症のマウスモデル;脊髄性筋委縮症のマウスモデル;巣状及び全体的な脳虚血のマウス/ラットモデル、たとえば、総頸動脈閉塞又は中大脳動脈閉塞のモデル;又は生体外の全胚培養が挙げられる。非限定の一例として、アルツハイマー病の技術で知られた多数のマウスモデルがある(たとえば、Rakover et al., Neurodegener. Dis. (2007); 4(5): 392-402; Mouri et al., FASEB J. (2007) Jul;21 (9): 2135-48; Minkeviciene et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. (2004) Nov; 311 (2) :677-82 and Yuede et al., Behav Pharmacol. (2007) Sep; 18 (5-6): 347-63を参照のこと)。種々のアッセイが既知の試験管内又は生体内のアッセイ形式で実施され得るし、文献に記載され得る。種々のそのような動物モデルは、たとえば、Jackson Laboratoryのような業者から入手することができる。
【0135】
G.BACE1結合体の使用例
本明細書で記載されるようなBACE1ペプチド結合体の特定及び性状分析は、BACE1とたとえば、APPのようなその基質との間での生体内の相互作用を調節する組成物及び方法を提供する。本明細書で記載されるようなBACE1ペプチド結合体は、以下で議論されるように、神経障害のような疾患及び障害の治療に使用され得る。
【0136】
本明細書で記載されるようなBACE1の高親和性のペプチド結合体に対する上手く分析された調節をさらに用いてBACE1それ自体の重要な構造的特性を解明することができる。そのような知識はBACE1配列自体の修飾に基づいた調節剤の開発を提供する。
【0137】
BACE1の調節剤の他の使用には、BACE1及び関連するその相方に関連する疾患の診断アッセイ、及び精製手段や基質に対する係留としての融合タンパク質におけるBACE1とリガンドの使用が挙げられる。
【0138】
本明細書で記載されるようなBACE1結合ペプチドを追加の化合物のスクリーニングに用いてBACE1/リガンドの相互作用を調節するものを特定し得る。スクリーニングアッセイは、BACEと結合する若しくは複合体化する、さもなければBACE1と細胞性因子の相互作用を妨害する化合物を特定するように設計される。調節剤である候補化合物の能力を判定するアプローチの1つは、たとえば、本明細書で開示される結合体ペプチド(たとえば、実施例で記載される高親和性結合体)のような既知のBACE1結合体の存在下での競合阻害アッセイにて候補化合物の能力を評価することである。そのようなスクリーニングアッセイには、小分子薬剤候補を特定するのに化学ライブラリを特に好適にする、化学ライブラリの高い処理能力スクリーニングに従うアッセイが挙げられるであろう。
【0139】
アッセイは、当該技術で十分に分析されているタンパク質/タンパク質結合アッセイ、生化学スクリーニングアッセイ、免疫アッセイ、及び細胞系アッセイ含む種々の形式で実施することができる。
【0140】
調節剤のためのアッセイはすべて、それらが、2つの成分が相互作用できるのに十分な条件下にて十分な時間でBACE1と結合リガンドの結合相互作用に関わるBACE1(又はその同等物)及び/又は結合リガンドに候補調節剤を接触させることを要求する点で共通する。
【0141】
結合アッセイでは、相互作用は結合であり、形成された複合体は反応混合物にて単離することができ、又は検出することができる。特定の実施形態では、候補の物質又は分子は、共有結合又は非共有結合によって固相、たとえば、マイクロタイタープレート上に不動化される。非共有結合は一般に物質/分子の溶液で固相表面を被覆し、乾燥させることによって達成される。或いは、不動化される物質/分子に特異的な抗体、たとえば、モノクローナル抗体のような不動化された親和性分子を用いて固相表面にそれを係留することができる。アッセイは、不動化された成分、たとえば、係留された成分を含有する被覆された表面に、検出可能な標識で標識され得る不動化されない成分を添加することによって実施される。反応が完了すると、たとえば、洗浄によって未反応の成分を取り除き、固相表面上に係留された複合体を検出する。元々不動化されていない成分が検出可能な標識を運ぶ場合、表面に不動化された標識の検出は複合体化が生じたことを示す。元々不動化されていない成分が標識を運ばない場合、たとえば、不動化された複合体を特異的に結合する標識抗体を使用することによって複合体化を検出することができる。
【0142】
候補化合物は、本明細書で記載される情報、特に、リガンド又はBACE1配列自体の中での個々の残基及び部分のBACE1/リガンド結合相互作用への寄与及び重要性に関する常法に基づいた、組み合わせライブラリ及び/又は既知のライブラリの変異によって生成することができる。
【0143】
BACE1と結合リガンドの相互作用を妨害する化合物は以下のように調べることができる:普通、2つの分子の相互作用及び結合を可能にする条件下で且つその時間、BACE1及びリガンドを含有する反応混合物を調製する。結合相互作用を阻害する候補化合物の能力を調べるには、試験化合物の非存在下及び存在下で反応を実行する。加えて、対照化合物を第3の反応混合物に加えて陽性対照として役立てる。混合物に存在する試験化合物とBACE1及び/又は結合リガンドの間での結合(複合体形成)は上述のようにモニターされる。対照反応における複合体の形成、しかし、試験化合物を含有する反応混合物における非形成は、試験化合物がBACE1と結合リガンドの相互作用を妨害することを示す。
【0144】
H.ペプチド抱合体
本発明はまた、1以上の細胞傷害剤、たとえば、化学療法剤又は薬、増殖阻害剤、毒素(たとえば、細菌、真菌、植物又は動物を起源とするタンパク質毒素、酵素的に活性のある毒素、又はその断片)又は放射線同位元素に抱合される、本明細書で開示されるようなBACE1結合ペプチドを含むペプチド抱合体も提供する。
【0145】
一実施形態では、ペプチド抱合体は、マイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、同第5,416,064号及び欧州特許EP0425235B1を参照);たとえば、モノメチルアウリスタチンの薬剤部分DE及びDF(MMAE及びMMAF)のようなアウリスタチン(米国特許第5,635,483号及び同第5,780,588号及び同第7,498,298号を参照);ドラスタチン;カリケアミシン又はその誘導体(米国特許第5,712,374号、同第5,714,586号、同第5,739,116号、同第5,767,285号、同第5,770,701号、同第5,770,710号、同第5,773,001号及び同第5,877,296を参照);Hinmanら、Cancer Res.53:3336−3342(1993);及びLodeら、Cancer Res.58:2925−2928(1998));ダウノマイシン又はドキソルビシンのようなアントラサイクリン(Kratzら、Current Med.Chem.13:477−523(2006);Jeffreyら、Bioorganic & Med.Chem.Letters、16:358−362(2006);Torgovら、Bioconj.Chem.16:717−721(2005);Nagyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97:829−834(2000);Dubowchikら、Bioorg.& Med.Chem.Letters、12:1529−1532(2002);Kingら、J.Med.Chem.45:4336−4343(2002);及び米国特許第6,630,579号を参照);メソトレキセート;たとえば、ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル及びオルタタキセルのようなタキサン;トリクロロテセン;並びにCC1065を含むが、これらに限定されない1以上の薬剤に抱合される本明細書で記載されるようなBACE1結合ペプチドを含む。
【0146】
別の実施形態では、ペプチド抱合体は、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosaに由来する)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデクシンA鎖、α−サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質、(PAPI、PAPII及びPAP−S)、Momordica charantia阻害剤、クルシン、クロチン、Sapaonaria officinalis阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン及びトリコテセンを含むが、これらに限定されない酵素的に活性のある毒素又はその断片に抱合される本明細書で記載されるようなBACE1結合ペプチドを含む。
【0147】
別の実施形態では、ペプチド抱合体は、放射性原子に抱合されて放射性抱合体を形成する本明細書で記載されるようなBACE1結合ペプチドを含む。放射性抱合体の作製には種々の放射性同位元素が利用可能である。例には、At
211、I
131、I
125、Y
90、Re
186、Re
188、Sm
153、Bi
212、P
32、Pb
212及びLuの放射性同位元素が挙げられる。放射性抱合体が検出に使用される場合、それは、シンチグラフ試験用の放射性原子、たとえば、tc99若しくはI123、又はたとえば、ヨウ素−123、要素−131、インジウム−111、フッ素−19、炭素−13、窒素−15、酸素−17ガドリニウム、マンガン又は鉄のような核磁気共鳴(NMR)画像診断(磁気共鳴画像診断、MRIとしても知られる)用のスピン標識を含み得る。
【0148】
ペプチドと細胞傷害剤の抱合体は、種々の二官能性タンパク質カップリング剤、たとえば、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシレート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(たとえば、ジメチルアジピミデートHCl)、活性エステル(たとえば、スベリン酸スクシンイミジル)、アルデヒド(たとえば、グルタールアルデヒド)、ビス−アジド化合物(たとえば、ビス(p−アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス−ジアゾニウム誘導体(たとえば、ビス−(p−ジアゾニウムベンゾイル)−エチレンジアミン)、ジイソシアネート(たとえば、トルエン2,6−ジイソシアネート)、及びビス−活性フッ素化合物(たとえば、1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼン)を用いて作製され得る。たとえば、リシン免疫毒性は、Vitettaら、Science、238:1098(1987)に記載されたように調製することができる。リンカーは細胞における細胞傷害剤の放出を円滑にする「切断可能なリンカー」であり得る。たとえば、酸に不安定なリンカー、ペプチダーゼ感受性のリンカー、光に不安定なリンカー、ジメチルリンカー又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res. 52:127-131 (1992); 米国特許第5,208,020号)が使用され得る。
【0149】
本明細書のペプチド抱合体は、(たとえば、米国イリノイ州、ロックフォードのPierce Biotechnology社から)市販されているBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC−SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ−EMCS、スルホ−GMBS、スルホ−KMUS、スルホ−MBS、スルホ−SIAB、スルホ−SMCC、及びスルホ−SMPB、及びSVSB(スクシンイミジル−(4−ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むが、これらに限定されない架橋試薬によって調製されるそのような抱合体を明らかに熟考するが、これらに限定されない。
【0150】
さらなる実施形態では、ペプチド抱合体は、別の非相同のポリペプチド又はアミノ酸配列に融合された本明細書で開示されるようなBACE1結合ペプチドを含む融合タンパク質を含む。一実施形態では、そのような融合タンパク質は、上記で開示されたもののような酵素的に活性のある毒素とのBACE1結合ペプチドの融合物を含む。
【0151】
代替の実施形態では、融合タンパク質は、ポリペプチドの細胞侵入を高めるアミノ酸配列とのBACE1結合ペプチドの融合を含む。一実施形態では、アミノ酸配列は、細胞貫通ペプチド(CCP)、たとえば、tatペプチド、ペネトラチン、ヘルペスウイルステグメントタンパク質VP22、トランスポータン、モデル両親媒性ペプチド(MAP)、アルギニンオリゴマー又は当該技術で既知の他のCCPである。たとえば、Sebbage,(2009)Bioscience Horizons、2:64−72;並びにDelcroix及びRiley,(2010)Pharmaceuticals、3:448−470を参照のこと。
【0152】
実施形態では、融合タンパク質は、脳血管関門を介した吸収力が介在するトランスサイトーシス又は受容体が介在するトランスサイトーシスを普通受けるタンパク質のアミノ酸配列とのBACE1結合ペプチドの融合を含む。これらのタンパク質には、トランスフェリン受容体又はインスリン受容体に対するモノクローナル抗体のような脳毛細血管内皮細胞の受容体に対するリガンド、ヒストン、ビオチン、葉酸塩、ナイアシン、パントテン酸又は糖ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態では、BACE1結合ペプチドは、たとえば、リジン、アルギニン、ポリアルギニン、リジン/アルギニンペプチド、プトレシン、スペルミジン、スペルミン等のような高度に正に荷電した化合物に連結され、そのすべては、多分、受容体に結合することによって脳血管関門の交差を円滑にすることが知られる。
【0153】
代替の実施形態では、融合タンパク質は、免疫グロブリン、又は免疫グロブリンの特定の領域、たとえば、IgG分子のFc領域とのBACE1結合ペプチドの融合を含む。免疫グロブリンの融合の作製については、1995年6月27日に出願された米国特許第5,428,130号を参照のこと。代替の実施形態では、BACE1結合ペプチドは、ペプチドの改善されたPK及び/又は薬物力学を生じる剤と融合される。一部の実施形態では、ペプチドはアルブミン融合タンパク質である。一部の実施形態では、ペプチドはペグ化融合タンパク質である。
【0154】
I.医薬組成物
BACE1結合ペプチド又はポリペプチドは、一部の実施形態では医薬用途に好適である組成物に組み入れることができる。そのような組成物は通常、ペプチド又はポリペプチドと許容されるキャリア、たとえば、薬学上許容可能であるものを含む。「薬学上許容可能なキャリア」には、医薬投与に適合性である任意の及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等が挙げられる(Gennaro, Remington: The science and practice of pharmacy. Lippincott, Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa. (2000))。そのようなキャリア又は希釈剤の例には、水、生理食塩水、フィンガー溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられるが、これらに限定されない。リポソーム及び非水性ビヒクル、たとえば、不揮発性油も使用され得る。従来の媒体又は剤が活性化合物と相溶性でない場合を除いて、これらの組成物の使用が熟考される。補完性活性のある化合物も組成物に組み入れることができる。
【0155】
1.概論
医薬組成物は、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与(たとえば、吸入)、経皮(すなわち、局所)投与、経粘膜投与及び直腸投与を含む投与の経路に適合するように製剤化される。非経口適用、皮内適用又は皮下適用に使用される溶液又は懸濁液には、たとえば、注射用水、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒のような無菌の希釈剤;たとえば、ベンジルアルコール又はメチルパラベンのような抗菌剤;たとえば、アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;たとえば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレート剤;たとえば、酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩のような緩衝液、及びたとえば、塩化ナトリウム又はデキストロースのような張性の調整のための剤を挙げることができる。pHは、たとえば、塩酸又は水酸化ナトリウムのような酸又は塩基によって調整することができる。非経口調製物はアンプル、使い捨てシリンジ又はガラス製若しくはプラスチック製の複数回用のバイアルに封入することができる。
【0156】
2.注射用製剤
注射に好適な医薬組成物は、無菌の水溶液(水溶性である)又は分散液又は無菌の注射用の溶液又は分散液の即時調製用の無菌の粉末を含む。静脈内投与については、好適なキャリアには生理的な生理食塩水、静菌水、CREMOPHOR EL(商標)(ニュージャージー州、パージッパニーのBASF)、又はリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。あらゆる場合で、組成物は無菌でなければならず、シリンジを用いて投与される流体であるべきである。そのような組成物は、製造及び保存の間、無菌であるべきであり、細菌及び真菌のような微生物からの汚染に対して保護されなければならない。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール)及び好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒であることができる。レシチンのようなコーティングを使用することによって、分散の場合、必要とされる粒度を維持することによって、及び界面活性剤を使用することによって適正な流動性を維持することができる。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸及びチメロサールは微生物混入を含有し得る。等張剤、たとえば、糖、マンニトールやソルビトールのような多価アルコール、塩化ナトリウムを組成物含めることができる。吸収を遅らせる組成物はモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンのような剤を含む。
【0157】
無菌の注射用溶液は、必要とされる量での活性化合物(たとえば、本発明の調節剤物質/分子)を必要に応じて成分1つ又は成分の組み合わせと共に適当な溶媒に組み入れ、その後滅菌することによって調製することができる。一般に分散液は、基本的な分散媒及び他の必要とされる成分を含有する無菌のビヒクルに活性化合物を組み入れることによって調製される。無菌注射溶液の調製、調製方法のための無菌粉末は、無菌溶液から活性化合物と所望の成分を含有する粉末を得る真空乾燥及び凍結乾燥を含む。
【0158】
3.経口投与
経口組成物は一般に不活性の希釈剤又は食用キャリアを含む。それらはゼラチンカプセルに被包することができ、又は錠剤に圧縮することができる。経口治療投与の目的で、活性化合物を賦形剤と共に組み入れ、錠剤、トローチ又はカプセルの形態で使用することができる。経口組成物はまた、洗口液として使用するための流体キャリアを用いて調製することもでき、その際、流体キャリア中の化合物は経口で適用される。薬学上適合性の結合剤及び/又は補助物質を含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル、トローチ等は、以下の成分又は類似の性質の化合物:たとえば、微細結晶性セルロース、ゴム、トラガカント又はゼラチンのような結合剤;たとえば、デンプン又はラクトースのような賦形剤;アルギン酸、PRIMOGEL又はコーンスターチのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はSTEROTESのような潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素のような流動促進剤;たとえば、スクロース又はサッカリンのような甘味剤;又はたとえば、ペッパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ風味剤のような風味剤のいずれかを含有することができる。
【0159】
4.吸入用の組成物
吸入による投与については、化合物は、たとえば、二酸化炭素のような好適な高圧ガスを含有するネブライザー又は加圧容器からのエアゾール噴霧として送達される。
【0160】
5.全身性投与
全身性投与は経粘膜又は経皮であることができる。経粘膜又は経皮の投与については、標的バリアを浸透することができる浸透剤が選択される。経粘膜の浸透剤には界面活性剤、胆汁塩、及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与には鼻内スプレー又は座薬を使用することができる。経皮投与については、活性化合物は軟膏、軟膏、ジェル又はクリームに製剤化される。
【0161】
化合物はまた、直腸送達のために座薬(たとえば、ココアバター及び他のグリセリドのような基剤を伴った)又は係留浣腸の形態で調製することができる。
【0162】
6.キャリア
一実施形態では、活性化合物は、埋め込み及びマイクロカプセル化送達方式を含む制御放出製剤のような、生体からの迅速な排除に対して化合物を保護するキャリアと共に調製される。たとえば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル及びポリ乳酸のような生分解性又は生体適合性のポリマーを使用することができる。そのような物質は、ALZA Corporation(カリフォルニア州、マウンテンビュー)及びNOVA Pharmaceuticals社(カリフォルニア州、レイクエルシノア)から商業的に入手することができ、又は当業者によって調製することができる。リポソーム懸濁液も薬学上許容可能なキャリアとして使用することができる。これらは、たとえば、Eppsteinら、米国特許第4,522,811号(1985年)におけるように当業者に既知の方法に従って調製することができる。
【0163】
7.単位投与量
単位剤形における経口製剤又は非経口組成物を創って投与及び投与量均一性を促すことができる。単位剤形は、必要とされる薬学キャリアと関連した治療上有効な量の活性化合物を含有する、治療される対象のための単一投与量として適した物理的に別々の単位を指す。単位剤形についての明細は、活性化合物の特徴と特定の所望の治療効果及び活性化合物を配合する固有の限界によって決定され、直接左右される。
【0164】
8.遺伝子治療組成物
本発明のペプチド又はポリペプチドをコードする核酸をベクターに挿入し、遺伝子治療ベクターとして使用することができる。遺伝子治療ベクターは、たとえば、静脈内注射、局所投与によって(Nabel及びNabel,米国特許第5,328,470号,1994)、又は定位固定注射(Chen et al., Proc Natl Acad Sci USA. 91; 3054-7 (1994))によって対象に送達することができる。遺伝子治療ベクターの医薬製剤は、許容可能な希釈剤を含むことができ、又はその中に遺伝子治療ベクターが埋め込まれる遅延放出マトリクスを含むことができる。或いは、完全な遺伝子治療ベクターが組換え細胞、たとえば、レトロウイルスベクターから無傷で作製することができる場合、医薬製剤は遺伝子送達系を生じる1以上の細胞を含むことができる。
【0165】
J.治療方法
本明細書で提供されるBACE1結合ペプチド又はポリペプチドのいずれかが治療方法にて使用され得る。
【0166】
態様の1つでは、薬物として使用するためのBACE1結合ペプチド又はポリペプチドが提供される。さらなる態様では、神経疾患又は神経障害(たとえば、AD)を治療するのに使用するための抗BACE1抗体が提供される。特定の実施形態では、治療方法で使用するためのBACE1結合ペプチド又はポリペプチドが提供される。特定の実施形態では、本発明は、有効量のBACE1結合ペプチド又はポリペプチドを個体に投与することを含む、神経疾患又は神経障害を有する個体を治療する方法で使用するためのBACE1結合ペプチド又はポリペプチドを提供する。そのような一実施形態では、方法はさらに、有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を個体に投与することを含む。さらなる実施形態では、本発明は、神経疾患又は神経障害(たとえば、AD)のリスクがある又はそれに罹っている患者にてアミロイド斑形成を軽減する又は抑制するのに使用するためのBACE1結合ペプチド又はポリペプチドを提供する。特定の実施形態では、本発明は、有効量のBACE1結合ペプチド又はポリペプチドを個体に投与することを含む、個体にてAβの産生を低減する又は抑制する方法で使用するためのBACE1結合ペプチド又はポリペプチドを提供する。上記実施形態のいずれかに係る「個体」は好ましくはヒトである。特定の態様では、本発明の方法で使用するためのBACE1結合ペプチド又はポリペプチドはBACE1活性を低減する又は阻害する。たとえば、BACE1結合ペプチド又はポリペプチドはBACE1のAPPを切断する能力を低減する又は阻害する。
【0167】
さらなる態様では、本発明は薬物の製造又は調製におけるBACE1結合ペプチド又はポリペプチドの使用を提供する。一実施形態では、薬物は神経疾患又は神経障害の治療のためのものである。さらなる実施形態では、薬物は、神経疾患又は神経障害を有する個体に有効量の薬物を投与することを含む神経疾患又は神経障害を治療する方法での使用のためのものである。そのような一実施形態では、方法はさらに、有効量の、たとえば、以下で記載するような少なくとも1つの追加の治療剤を個体に投与することを含む。さらなる実施形態では、薬物はBACE1活性を阻害するためのものである。さらなる実施形態では、薬物は、Aβ産生又は斑形成を阻害するのに有効な量の薬物を個体に投与することを含む個体においてAβ産生又は斑形成を阻害する方法での使用のためのものである。上記実施形態のいずれかに係る「個体」はヒトであり得る。
【0168】
さらなる態様では、本発明はアルツハイマー病を治療する方法を提供する。一実施形態では、方法は、ADを有する個体に有効量のBACE1結合ペプチド又はポリペプチドを投与することを含む。そのような一実施形態では、方法はさらに有効量の少なくとも1つの追加の治療剤を個体に投与することを含む。上記実施形態のいずれかに係る「個体」はヒトであり得る。
【0169】
さらなる態様では、本発明は、たとえば、上記治療方法のいずれかで使用するための、本明細書で提供されるBACE1結合ペプチド又はポリペプチドのいずれかを含む医薬製剤を提供する。一実施形態では、医薬製剤は本明細書で提供されるBACE1結合ペプチド又はポリペプチドのいずれかと薬学上許容可能なキャリアを含む。別の実施形態では、医薬製剤は本明細書で提供されるBACE1結合ペプチド又はポリペプチドのいずれかと、たとえば、以下で記載されるような少なくとも1つの追加の治療剤を含む。
【0170】
本発明のペプチド又はポリペプチドは単独で使用することができ、又は治療における他の剤との併用で使用することができる。たとえば、本発明のペプチド又はポリペプチドは少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与され得る。
【0171】
上記で言及されたそのような併用療法は、併用される投与(2以上の治療剤が同一製剤又は別々の製剤に含まれる)及び別々の投与を包含し、その場合、本発明の抗体の投与は、追加の治療剤及び/又はアジュバントの投与に先立って、同時に及び/又はそれに続いて生じる。本発明のペプチド又はポリペプチドはまた放射線療法との併用で使用することもできる。
【0172】
本発明のペプチド又はポリペプチド(及び追加の治療剤)は、非経口投与、肺内投与、クモ膜下投与及び鼻内投与、局所投与について所望であれば、病巣内投与を含む好適な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下の投与が挙げられる。投与は、部分的には投与が一時的か又は慢性的かに応じて、好適な経路による、たとえば、静脈内又は皮下の注射のような注射によることができる。単回投与又は種々の時間にわたる複数回投与、ボーラス投与及びパルス注入を含むが、これらに限定されない種々の投与計画が本明細書で熟考される。
【0173】
本発明の特定の実施形態は脳血管関門を横切るペプチド又はポリペプチドを提供する。特定の神経変性疾患は脳血管関門の透過性の上昇に関連するので、ペプチド又はポリペプチドを容易に脳に導入することができる。脳血管関門が無傷のままである場合、物理的な方法、脂質系の方法、及び受容体とチャンネルに基づく方法を含むが、これらに限定されない技術で既知の幾つかのアプローチがそれを横切って分子を輸送するために存在する。
【0174】
脳血管関門を横切ってペプチド又はポリペプチドを輸送する物理的な方法には、脳血管関門を全体的に回避すること又は脳血管関門にて開口部を創ることが挙げられるが、これらに限定されない。回避法には、脳への直接注入(たとえば、Papanastassiou et al., Gene Therapy 9: 398-406 (2002)を参照)、及び脳における送達用具埋め込み(たとえば、Gill et al., Nature Med. 9: 589-595 (2003); and Gliadel Wafers
TM, Guildford Pharmaceuticalを参照)が挙げられるが、これらに限定されない。関門に開口部を創る方法には、超音波(たとえば、米国特許公開番号2002/0038086を参照)、浸透圧(たとえば、高張のマンニトールの投与による(Neuwelt, E. A.,
Implication of the Blood-Brain Barrier and its Manipulation, Vols 1 & 2, Plenum Press, N.Y. (1989)))、ブラジキニン又は浸透剤A−7による透過化(たとえば、米国特許第5,112,596号、同第5,268,164号、同第5,506,206号及び同第5,686,416号を参照)、及び抗体又はその断片をコードする遺伝子を含有するベクターによる脳血管関門をまたぐニューロンの形質移入(たとえば、米国特許公開番号2003/0083299を参照)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0175】
脳血管関門それを横切ってペプチド又はポリペプチドを輸送する脂質系の方法には、脳血管関門の血管内皮上の受容体に結合する抗体結合断片に結合するリポソームにペプチド又はポリペプチドを被包すること(たとえば、米国特許出願公開番号20020025313を参照)及び低密度リポタンパク質粒子(たとえば、米国特許出願公開番号20040204354を参照)又はアポリポタンパク質E(たとえば、米国特許出願公開番号20040131692を参照)にペプチド又はポリペプチドを被覆することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
脳血管関門それを横切ってペプチド又はポリペプチドを輸送する受容体に基づく方法には、受容体が介在するトランスサイトーシスの後、脳血管関門を横切って運ばれることが生じる、脳血管関門で発現される受容体を認識するリガンドへのペプチド又はポリペプチドの抱合(Gabathuler (2010) Neurobiology of Disease 37; 48-57)が挙げられるが、これらに限定されない。これらのリガンドには、たとえば、トランスフェリン受容体若しくはインスリン受容体に対するモノクローナル抗体のような脳毛細血管内皮受容体へのリガンド、ヒストン、ビオチン、葉酸塩、ナイアシン、パントテン酸又は糖ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0177】
本発明のペプチド又はポリペプチドは適正な医療行為に一致した方式で製剤化され、投薬され、投与される。この文脈で検討する因子には、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳類、個々の患者の臨床的な状態、障害の原因、剤の送達の部位、投与の方法、投与のスケジュール、及び医師に知られた他の因子が挙げられる。ペプチド又はポリペプチドは、当該障害を予防する又は治療するのに現在使用されている1以上の剤と共に製剤化される必要はないが、任意で製剤化される。そのような他の剤の有効量は、製剤に存在する抗体の量、障害又は治療の種類、及び上記で議論された他の因子に左右される。これらは一般に本明細書で記載されるのと同様の投与量にて投与経路で使用され、又は本明細書で記載される投与量の約1〜99%で使用され、又は経験的に/臨床的に適当であると判断される投与量にて経路によって使用される。
【0178】
疾患の予防又は治療のために、本発明のペプチド又はポリペプチドの適当な投与量(単独で使用する場合又は1以上の他の追加の治療剤と併用して使用する場合)は、治療される疾患の種類、疾患の重症度及び経過、ペプチド又はポリペプチドが予防目的で投与されるのか、又は治療目的で投与されるのか、以前の治療法、患者の臨床既往及びペプチド又はポリペプチドへの応答、並びに主治医の裁量に左右されるであろう。ペプチド又はポリペプチドは、一度に又は一連の治療にわたって患者に好適に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、適当な投与量レベルは一般に、単回投薬又は複数回投薬で投与することができる1日当たり患者の体重kg当たり約0.01〜500mgである。好ましくは、投与量レベルは1日当たり約0.1〜250mg/kg、さらに好ましくは1日当たり約0.5〜100mg/kgである。好適な投与量レベルは1日当たり約0.01〜250mg/kg、1日当たり約0.05〜100mg/kg又は1日当たり約0.1〜50mg/kgである。この範囲内で、投与量は、1日当たり0.05〜0.5、0.5〜5又は5〜50mg/kgであってもよい。経口投与については、組成物は好ましくは、1.0〜1000ミリグラムの有効成分、特に、治療される患者に対する投与量の症候性の調整に関して1.0、5.0、10.0、15.0、20.0、25.0、50.0、75.0、100.0、150.0、200.0、250.0、300.0、400.0、500.0、600.0、750.0、800.0、900.0、及び1000.0ミリグラムの有効成分を含有する錠剤の形態で提供される。化合物は、1日当たり1〜4回、好ましくは1日当たり1回又は2回の投薬計画で投与され得る。
【0179】
しかしながら、特定の患者にとっての具体的な用量レベル及び投与回数は、変化し得るし、採用される具体的な化合物の活性、その化合物の代謝安定性と作用の長さ、年齢、体重、全身状態、性別、食事、投与の方式と時間、排泄の速度、薬剤の併用、特定の状態の重症度、及び治療を受けている宿主に応じて左右されるであろう。この治療法の進展は従来の技法及びアッセイによって容易にモニターされる。
【0180】
K.製造物品
本発明の別の態様では、上述の障害の治療、予防及び/又は診断に有用な物質を含有する製造物品が提供される。製造物品は容器と容器に関連するラベル又は添付文書を含む。好適な容器には、たとえば、ビン、バイアル、シリンジ、IV溶液用バッグ等が挙げられる。容器は、ガラスやプラスチックのような様々な物質から形成され得る。容器は、それ自体である又は状態を治療する、予防する及び/又は診断するのに有効な別の組成物と併用される組成物を保持するが、無菌のアクセスポートを有し得る(たとえば、容器は静脈内溶液用バッグ又は皮下注射用の針で穴を開けることができるストッパーを有するバイアルであり得る)。組成物における少なくとも1つの活性剤が本発明のペプチド又はポリペプチドである。ラベル又は添付文書は、組成物が選択した状態を治療するのに使用されることを示す。さらに、製造物品は、(a)組成物が本発明のペプチド又はポリペプチド含む、その中に含有される組成物を伴った第1の容器と、(b)組成物がさらなる細胞傷害剤又は他の治療剤を含む、その中に含有される組成物を伴った第2の容器を含む。本発明の本実施形態の製造物品はさらに組成物が特定の状態を治療するのに使用され得ることを示す添付文書を含み得る。或いは、又はさらに、製造物品はさらに、たとえば、注射用の静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液のような薬学上許容可能な緩衝液を含む第2(第3)の容器を含み得る。それはさらに、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針及びシリンジを含む、商業的な立場及びユーザーの立場から望ましい他の物質を含み得る。
【0181】
本発明の好まれる実施形態を実証するために以下の実施例が含まれる。後に続く実施例にて開示される技法は本発明の実践で上手く機能することが本発明者らによって発見された技法であるので、その実践のための好まれる方法を構成すると見なすことができることが当業者によって十分に理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示の観点から、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示される特定の実施形態にて多数の変更を為すことができ、類似の又は似たような結果を得ることができることを十分に理解すべきである。
【実施例】
【0182】
実施例1:BACE1のペプチド阻害剤の選抜及び性状分析
材料及び方法
材料:酵素及びM13−K07ヘルパーファージはNew England Biolabsから入手した。MaxisorpイムノプレートはNalgene NUNC International(イリノイ州、ネイパービル)から入手した。Dynabeads(登録商標)MyOneストレプトアビジンはInvitrogen(カリフォルニア州、カールスバッド)から入手した。3,3’,5,5’−テトラメチル−ベンジジン/H
2O
2(TMB)ペルオキシダーゼ基質はKirkegaard and Perry Laboratories社(メリーランド州、ゲイザーズバーク)から入手した。ニュートラアビジン及びストレプトアビジンはThermo Scientific(イリノイ州、ロックフォード)から入手した。OM99−2(カタログ番号496000)はEMD Biosciences(カリフォルニア州、サンディエゴ)から入手した。
【0183】
ライブラリの構築:標準のKunkel変異誘発(Kunkel, T. A. et al. (1987) Methods Enzymol 154: 367-82)を用いてファージで提示させたペプチドのライブラリを構築した。M13主要コートタンパク質のN末端に無作為化ペプチドを融合し、その後、ファージが提示するライブラリを作製する標準のプロトコール(Sidhu, S. S. et al. (2000) Methods Enzymol 328: 333-63)によって2群のファージで提示させたペプチドのライブラリ、線状−lib及び環状−lib(システインジスルフィドを含有)を構築した。線状−libは、連続する変性コドン(NNK、その際、N=A/C/G/T及びK=G/T)によってコードされる長さ8、10、12、14、16アミノ酸を伴う無作為ペプチドから成る。長さの異なるライブラリを個々に構築し、それぞれ同じ濃度を有して一緒にプールした。環状−libは2つの固定したシステイン間で種々の長さを持つ14量体の無作為ペプチドから成る。それらは、X
6CX
3CX
5、X
5CX
4CX
5、X
5CX
5CX
4、X
4CX
6CX
4、X
4CX
7CX
3、X
3CX
8CX
3、X
3CX
9CX
2、X
2CX
10CX
2と命名され、XはNNKコドンによってコードされる残基を表し、数字は残基の数を表し、Cは固定されたシステインを表す。これらのライブラリを個々に構築し、それぞれ同じ濃度を有して一緒にプールした。線状−lib及び環状−libの最終的な多様性はそれぞれ1.8×10
11及び7.8×10
11であった。
【0184】
ヌクレオチド塩基の70−10−10−10混合物によって合成された変性オリゴヌクレオチドを用いてソフト無作為化ライブラリを構築したが、その際、野生型塩基が過剰である。これによって標的とされる位置にておよそ50%の頻度で野生型アミノ酸が存在する。
【0185】
ヒトBACE1(BACE1)のペプチドリガンドの選抜:標準のファージパンニングプロトコール(Sidhu, S. S. et al. (2000) Methods Enzymol 328: 333-63)を用いたプレートに被覆したBACE1によって又はビオチン化BACE1溶液によって何回かの結合選抜を介して線状lib及び環状libのファージプールを環化した。製造元の指示書に従って、Thermo Scientific(イリノイ州、ロックフォード)から入手したEZ−Link Sulfo−NHS−LC−ビオチン化キット(カタログ番号21435)によってBACE1を試験管内でビオチン化した。1回目では、20μgのビオチン化BACE1を4℃にて2時間、1mlのファージライブラリ(約1×10
13pfu/ml)と共にインキュベートし、予めブロック緩衝液(PBS,1%のBSA及び0.1%のTween20)によってブロックした200μlのDYNABEADS(登録商標)MyOneストレプトアビジンによって室温にて15分間捕捉した。上清を捨て、洗浄緩衝液(0.1%のTween20を伴ったPBS)でビーズを3回洗浄した。結合したファージを400μlの0.1MのHClで7分間溶出し、直ちに60μlの1MのTris、pH13によって中和した。溶出されたファージを以前記載された(Sidhu, S. S. et al. (2000) Methods Enzymol 328: 333-63)ように増幅した。2回目では、10μgのビオチン化BACE1及び100μlのDYNABEADS(登録商標)を用いた以外、プロトコールは1回目と同様だった。3回目では、2μgのビオチン化BACE1を前回の増幅したファージと共にインキュベートし、ブロック緩衝液で予め被覆したニュートラアビジン被覆プレートによってファージ/BACE1複合体を捕捉した。4回目は、ビオチン/ファージ/BACE1複合体を捕捉するのにストレプトアビジン被覆プレートを用いた以外、3回目と同様だった。
【0186】
4回の結合選抜の後、標的としてプレートに不動化したBACE1を用いて高処理能力スポットファージELISA(Sidhu, S. S. et al. (2000) Methods Enzymol 328: 333-63)にて個々のファージクローンを解析した。非特異的な結合ノイズとしてBSAに対する同一ファージ粒子の結合シグナルを検出した。0.5にわたる標的に対するファージ結合シグナルを持ち、シグナル/ノイズの比が>3であるクローンを陽性クローンと見なし、DNA配列解析に供した。
【0187】
ポリスチレン樹脂を用いた0.25ミリモル規模での手動の又は自動の(Protein Technologies社、シンフォニーペプチド合成機)Fmocに基づいた固相合成によってペプチドを合成した(Bodanszky, M., and Bodanszky, A. (1984) in The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, New Yorkを参照)。合成の完了の際、側鎖の保護基を取り除き、95%のトリフルオロ酢酸(TFA)、2.5%のトリイソプロピルシラン及び2.5%の水によって樹脂からペプチドを切り離した。飽和ヨウ素の酢酸溶液を加えることによってシステインのジスルフィド結合への酸化を実施した。0.1%のTFAを含有する水/アセトニトリルの勾配による逆相HPLCによってペプチドの精製行った。各ペプチドの純度は分析用HPLCによって95%を超えて均質であることが測定され、その固有性は質量分光分析によって検証した。ペプチドBMS1、BMS2及びBMS4はそれぞれ、Kornackerら、Biochemistry、44:11567−11573(2005)によって記載されたペプチド1、ペプチド2及びペプチド4と同一である。
【0188】
BACE1のHTRF活性のアッセイ:384穴のProxiプレート(Perkin Elmer)にてBACE1反応緩衝液(50mMのNaOAc、pH4.4及び0.1%のCHAPS)中でペプチド阻害剤又は小分子阻害剤と予備インキュベートした2.7nMのrhBACE1の6μlに600nMのBi27(ビオチン−KTEEISEVNLDAEFRHDSGYEVHHQKL(配列番号5))の2μlを加えることによってBACE1のHTFR反応を開始させた。8μlのタンパク分解反応混合物を常温で24時間インキュベートし、検出緩衝液(200mMのTris、pH8.0,20mMのEDTA,0.1%のBSA,及び0.8MのKF)にて150nMのストレプトアビジン−D2とユーロピウムクリプテートで標識した5nMの6E10を含有する8μlのHTRF検出混合物を添加することによって反応を止めた。最終反応混合物を室温で60分間インキュベートし、EnVision Multilabelプレートリーダー(Perkin Elmer)(320nmにて励起、615及び665nmにて発光)にてTR−FRETシグナルを測定した。GraphPad Prism5(カリフォルニア州、ラ・ホヤ)を用いてデータを解析した。
【0189】
微量流動キャピラリ電気泳動(MCE)用いたBACE1、BACE2及びカテプシンDの活性のアッセイ:Caliper LabChip3000(Hopkinton,MA)用いて384穴マイクロプレートにてウェル当たり20μlの最終容量にてBACE1、BACE2及びカテプシンDの反応を実施した。10μlの2×基質を5μlの4×酵素及び5μlの4×ペプチド阻害剤又は小分子阻害剤に添加することによって開始される標準の酵素反応は、12nMのrhBACE1と、1μMのFAM−KTEEISEVNLDAEFRWKK−アミド(配列番号20)と、50mMのNaOAc、pH4.4と、0.1%のCHAPSを含有した。rhBACE2(5nM)及びカテプシンD(6nM)(カタログ番号219394;カリフォルニア州、サンディエゴのEMD Biosciences)にも同様の反応条件を用いた。室温での60分間のインキュベートの後、12シッパー微小流体チップ用いて各反応にて生成物と基質を分離した。Caliper Optimizerソフトウエアを用いて電圧及び圧力を選択することによって生成物と基質の分離を最適化した。分離緩衝液は、100mMのHEPES、pH7.2と、0.015%のBrij−35と、0.1%のコーティング試薬#3と、10mMのEDTAと、5%のDMSOを含有する。分離条件は、−500Vの下流電圧、−2250Vの上流電圧及び−1.2psiのスクリーニング圧を用いた。生成物及び基質の蛍光は488nmで励起し、530nmで検出された。Caliper HTSウェルアナライザソフトウエアを用いて電気泳動図から基質の変換を算出した。
【0190】
BACE1蛍光偏光競合結合アッセイ:黒色384穴マイクロプレート(Proxiplate−Plus;マサチューセッツ州、ウオルサムのPerkin Elmer)にてウェル当たり10μlの最終容量でBACE1結合アッセイを実施した。5μlの2×基質を2.5μlの4×結合プローブと2.5mlの4×阻害剤に添加することによって開始される標準の結合反応は、12nMのrhBACE1と、3nMの5−TAMRA−NEESMYCRLLGIGCG(配列番号16)(5−TAMRA−BACE020)と、0.1%のCHAPSを伴った50mMのNaOAc、pH4.4を含有した。常温で2時間、平衡に向かって反応を進めた後、Envision(Perkin Elmer)を用いて蛍光偏光を測定した。595nmにて各ウェルで測定された平行及び垂直の蛍光発光(励起531nmでの偏光)用い、以下の公式mP=1000*(S−G*P)/(S+G*P)(式中、S=平行の発光、P=垂直の発光及びG=0.65)を用いて多重偏光レベル(mP)を決定した。各ウェルのmP値を阻害剤濃度の関数としてプロットし、Prism5.0ソフトウエア(カリフォルニア州、サンディエゴのGraphPad Software)を用いた4パラメータ方程式へのデータの非線形最小二乗適合を用いて50%阻害(IC
50)値を決定した。5−TAMRA−標識したBACE020はAmerican Peptide Company社(カリフォルニア州、サニーベール)から購入し、保存のためにDMSO中にて100mMに可溶化した。
【0191】
293−hAPP細胞におけるAβ
1−40アッセイ:野生型ヒトAPP(695)相補性DNA(cDNA)(293−hAPP)を安定して発現する293-HEK細胞にてAβ
1−40の産生を測定した。96穴プレートにてウェル当たり3×10
4個で一晩、細胞を播いた。種々の阻害剤を含有する新鮮な培地[ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FBS)]を293−hAPP細胞と共に24時間インキュベートした。製造元の指示書に従って、Aβ
1-40HTRFアッセイ(CisBio)によってAβ
1-40の存在について細胞性培地を回収し、分析した。CellTiter−Glo発光細胞生存率アッセイ(Promega)によって測定されるようにAβ
1-40値を細胞の生存率に対して標準化した。実験は少なくとも3回行い、各実験の各点は2つ組で繰り返した。データは、4パラメータ非線形回帰曲線適合プログラム(KaleidaGraph,Synergy Software)によってプロットした。
【0192】
結果
非活性部位でBACE1に結合するペプチドの選択
2種類のファージが提示する天然のペプチドライブラリ、線状−lib及び環状−libを用い、最初にプレートソーティング形式を用いてBACE1リガンドを選択した。最初のパンニングは、以前報告されたファージディスプレイ(Kornacker, M. G. et al.(2005) Biochemistry 44: 11567-73)に由来するペプチドに類似する保存されたΦPYFΦモチーフを持つペプチドの群を特定した(
図1)。選択したペプチド、BACE010及びBACE011を合成し、BACE1のHTRF活性アッセイで調べた。BACE010はBACE1の非常に弱い阻害剤であるが、BACE011はBACE1の活性化剤である(
図1B)。ファージが提示するペプチド、BACE010及びBACE011のBACE1への結合は、非活性部位結合ペプチドとして以前記載された(Kornacker, M. G. et al.(2005) Biochemistry 44: 11567-73)ペプチドBMS1と競合的である(
図1C)。類似の配列モチーフと同様に競合結合は、これらのペプチドがBACE1上にて同一の非活性部位に結合することを示唆している。
【0193】
BACE1の非活性部位に結合しないペプチドの選抜
BACE1の非活性部位に結合しないペプチドを得るために、我々は100μMの非活性部位結合ペプチドBACE010(Ac−SGPYFIEYMSAV−NH
2)(配列番号21)の存在下で天然のライブラリによるBACE1の溶液ソーティングを実施した。この競合選抜戦略を用いた4回の溶液パンニングの後、環状ペプチドライブラリの中からのBACE017と呼ばれるペプチド1つがBACE1にも結合する異なる配列を持つペプチドとして特定された(
図2)。
【0194】
BACE017の親和性を改善するために、親としてBACE017を用いてソフト無作為化ライブラリを構築した。高い厳密性のパンニングを4回行った後、親より強いスポットファージELISAシグナルを持ち、5倍を超えるシグナル/ノイズ比の有意な改善によって明示される、BACE1に結合する31のペプチドが特定された。これらペプチドの配列比較及び配列ロゴは、親との主要な配列の差異はSer4に対するHis4であることを示し、それは親和性の改善を説明すると思われる(
図2)。
【0195】
ペプチドは選択的にBACE1酵素活性を阻害し、活性部位結合リガンドと競合する
BACE018〜021と名付けられた20を超えるシグナル/ノイズ比を持つ4つの環状ペプチドを選抜し、2種類の酵素活性アッセイに供した。BACE025〜028は、阻害活性についてジスルフィド結合の重要性を調べるためにCysからSerへの置換を持つ、それぞれBACE018〜021に由来するペプチドである。HTRF酵素活性アッセイでは(
図3A)BACE018〜021ペプチドはBACE017に比べた能力で100倍までの改善を有する10〜70nMのIC
50値で酵素活性を阻害した。これらペプチドの線状型であるBACE025〜028がもはやBACE1活性を阻害しなかったということは、ジスルフィド結合が阻害には必須であることを示している(表2)。BACE020は、HTRF酵素活性アッセイで示したように最良の阻害活性を持つペプチドであり、さらなる試験に選択された。
【0196】
ビオチン化BACE020及びBACE020、OM99−2及びBMS1ペプチドの濃度依存性の添加用いて競合結合ELISA実験を実施した。予想どおり、非活性部位結合ペプチドリガンドであるBMS1とのビオチン化BACE0202の競合はなかった(
図3B)。しかしながら、活性部位に結合するペプチド阻害剤OM99−2はビオチン化BACE020の結合と競合したということは、BACE020も活性部位に結合することを示唆している。
【0197】
連続希釈のペプチドによってIC
50値を決定するために前述の競合結合FPアッセイを用いてBACE1ペプチドリガンドの親和性を測定した。Caliperアッセイを用いてペプチドリガンドによるBACE1酵素活性の阻害を測定した。表2に示すように、FPアッセイで測定した親和性はCaliperアッセイによって測定される阻害活性と相関した。さらに、BACE017〜021及びBACE025〜028についてCaliperアッセイで測定されたIC
50値はHTRFアッセイによって測定されたものに一致する。
【0198】
構造/活性の関係を調べるために、我々は各位置でアラニン置換を持つペプチドのパネルと同様にBACE020のN末端から切り詰めたペプチドを合成した。FP結合アッセイ及びCaliper活性アッセイの双方を用いてこれらペプチドの親和性及び阻害活性を評価した(表2)。AlaによるAsp1、Glu2、Gly11、Ile12、Gly13及びGly15の置換並びにAsp1及びGly2の切り詰めはBACE020の親和性及び阻害活性を妨害しなかったということは、これらの残基は相互作用エネルギーがあってもさほど寄与しないことを示している。Glu3からAlaへの変異と同様に4位までの切り詰め(BACE031)は親和性及び阻害活性を3〜4倍弱め、AlaによるTyr6及びLeu10の置換が親和性の類似の喪失を有したということは、これらの残基が適度に結合エネルギーに寄与することを示している。ペプチドの活性での最も劇的な低下は、Arg8、Leu9、Ser4及びMet5をアラニンで置換した際認められた。特に、Arg8からAlaへの変異は競合結合及び酵素アッセイで完全に不活性だった。アルギニン類似体であるリジン、オルニチン及びシトルリンによるArg8の置換(それぞれBACE058〜060)はペプチド活性をある程度低下させたが、完全な活性を回復させることはできなかった。BACE030は完全な活性を持つ阻害性ペプチドリガンドの最小型であり、これを用いてペプチド/BACE1複合体の結晶構造を得た(実施例4を参照)。BACE030によるBACE1の阻害は、密接に関連するアスパラギン酸のタンパク分解酵素BACE2又はカテプシンDの阻害がなかったので特異的である。
【0199】
【表2】
【0200】
BACE1ペプチド阻害剤は細胞系アッセイにてAβの産生を低下させる
ペプチドは試験管内でのBACE1酵素活性の強力な阻害剤だったので、次にそれらが、生理的な状態をさらに代表する細胞性環境の背景でBACE1の阻害剤であるかどうかを決定した。安定的にAPPを形質移入した293−HEK細胞を用いて濃度依存性の阻害アッセイを行った。BACE020は実際Aβ産生の形成の強力な阻害剤だった(
図4)。N末端の2つの残基を切り詰めたBACE030も強力な阻害を示した(
図4)。BACE020のCysからSerの線状類似体であるBACE027と同様に非活性部位結合ペプチドBMS1は酵素の結果と一致して阻害を示さなかった。しかしながら、強力な活性部位結合のペプチド模倣体BACE1阻害剤であるOM99−2によって証拠付けられたように酵素阻害剤すべてが細胞性の活性を示すわけではなかった(
図4)。完全さ及び比較については、強力な活性部位結合の小分子阻害剤であるGSK−8e(Charrier, et al., J. Med. Chem. 51: 3313-3317 (2008)及び非活性部位結合の抗BACE1抗体(Atwal, J. K. et al. (2011) Sci Transl Med 3: 84ra43)についても細胞阻害は示されている(
図4)。
【0201】
実施例2:BACE020の溶液構造及びBACE1への結合のNMR分光分析
NMR分光分析
50mMのリン酸ナトリウム、pH6.5及び150mMの塩化ナトリウムを含有する緩衝液に2mMの最終濃度でBACE020を溶解した。D
2Oでの測定のために、試料を凍結乾燥し、100%D
2Oに再溶解した。室温三重共鳴プローブを備えたBrukerDRX800分光光度計にて280KでNMRスペクトル(
1H1Dスペクトル,2D−2QF COSY,2D−TOCSY,及び2D−NOESYスペクトル)を取得した。Topspin(Bruker)でスペクトルを処理し、CCPN解析ソフトウエア(Vranken, W. F. et al. (2005) Proteins59: 687-96)を用いてスペクトル解析を行った。標準の方法(Wuthrich, K. (1986) NMR of proteins and nucleic acids. New York, Wiley)によって
1H化学シフトを割り振った。距離拘束は、H
2O及びD
2Oで記録された300msの混合時間と共に
1H等核二次元NOESYスペクトルに由来した。骨格のφ角についての制限は、H
N−Haを介したw
2断面によって高解像度の2QF−COSYスペクトルから決定される
3J(H
N,Ha)結合定数に由来した(Kim, Y. M. et al. (1989) J Mag Res84: 9-13)。c
1角についての
3J(Hα,Hβ)結合定数はD
2Oで測定されたCOSY−35スペクトルから得られた(Cavanagh, J. (2007) Protein NMR spectroscopy: Principles and practice. Amsterdam ; Boston, Academic Press)。
【0202】
BACE1タンパク質上でのBACE020の結合部位を決定するために、1:1.5のモル化学量論を達成するまで、
2H/
15Nで完全に標識されたBACE1の試料30μMを漸増のBACE020で滴定した。1:1のモル化学量論を超えると、記録されるTROSY
1H,
15N相関スペクトルにはさらなる変化は認められなかった。滴定の間、扱いやすい共鳴については、残基当たりで加重した化学シフト変化
【数1】
(式中、Dd
HN及びDd
Nはそれぞれ
1H
N及び
15Nの化学シフトにおける変化である)を用いて化学シフト摂動を定量した。
【0203】
NMR構造計算
BACE020に関して実験的に決定された距離拘束及び2面角範囲(表3を参照)を、ARIA2.2(Rieping, W. et al. (2007) Bioinformatics 23: 381-2) and CNS (Brunger, A. T. et al. (1998) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 54: 905-21)を用いた模倣アニーリングプロトコールに適用した。計算中、水素制限は採用しなかった。PROCHECK(Laskowski, R. A. et al.(1996) J Biomol NMR 8: 477-86)を用いて構造的な質を解析した。MOLMOL(Koradi, R. et al. (1996) J Mol Graph 14: 51-5, 29-32)及びPyMOL(The PyMOL Molecular Graphics System, Version 1.3, Schrodinger, LLC)によってグラフ表示を準備した。
【0204】
【表3】
BACE020の10の最低エネルギー溶液構造(計算された100のうち)の集合にて統計が記録される。「PROLSQ」ファンデルワールス半径を用いて25.0kcalmol
−1A
−4のエネルギー定数持つファンデルワールス相互作用を模倣するのにCNS E
repel関数を用いた。1kcal=4.18kJ
¶座標精度は、平均構造に関するNMR集団における10の最低エネルギー構造のCartesian座標r.m.s.d.として与えられる。
♯PROCHECK(Laskowski, R. A. et al. (1996) J Biomol NMR 8: 477-86)を用いて構造の質を解析した。
*50kcalmol
−1A
−2のエネルギー定数を用いたソフトスクエア井戸型ポテンシャルと共にNOESY由来の距離拘束を用いた。200kcalmol
−1rad
−2のエネルギー定数を用いて2面角範囲を適用した。力の定数は、結合の長さについては1000kcalmol
−1A
−2であり、角度と不適切な2面角については500kcalmol
−1rad
−2であった。
【0205】
BACE020のNMR解析はその溶液構造を明らかにする
BACE020の
1H−NMRスペクトルの解析はBACE020が溶液にて定義される構造を有することを示した。この当初の評価に基づいて、等核NMR分光分析によってBACE020の構造を解いた(
図5A)。ポリペプチドはGlu3とCys14の間で上手く規定される。残基Glu3はLeu10を介してN末端螺旋を形成し、それがCys7とCys14の間のジスルフィド結合によってC末端に接続する。Tyr6、Leu9、Leu10及びIle12の側鎖は構造の一方側で疎水性のクラスターを形成する。システインのセリン残基への置換(BACE027)が構造及び活性双方の喪失を生じるのでジスルフィド結合が決定的である。
【0206】
BACE1上でのBACE020の結合部位のマッピング
BACE1上でのBACE020の結合部位の位置を決定するために、
2H/
15Nで完全に標識したBACE1を用いてNMR分光分析によって滴定実験を行った。これに用いたBACE1の構築物(残基43〜453)は、化学シフトの割り当てが公開された構築物に非常によく似ており、それは、割り当てほとんどすべての移動を可能にし、残基当たりのレベルで化学シフトの摂動を追跡するのを可能にする(Liu, D. et al. (2004) J Biomol NMR 29: 425-6)。BACE1へのBACE020の添加の際、未結合のBACE1の多数の共鳴は徐々に消失し、スペクトルの異なる位置で新しいシグナルが出現した。従って、高親和性の相互作用について予測したように、結合はNMRの時間尺度では遅い交換型であった。未結合のBACE1のTROSYスペクトルをBACE020との複合体におけるBACE1のそれと比較した(
図5Bを参照)。多数の共鳴について、結合状態におけるどれが近接に基づいた遊離の状態におけるものに相当するかは明白だった。BACE020の結合に明らかに影響されるが、未知の新しい位置を有するBACE1の共鳴は、化学シフトの摂動が定量できなかったので別のクラスであると見なされた。BACE020によって誘導される変化は、基質結合の溝を取り囲むN末端部とC末端部の界面に位置づけられた(
図5C参照)。触媒のアスパラギン酸塩残基が双方とも化学シフトの摂動を経験したということは、結合部位が活性部位に非常に近接していることを示している。加えて、フラップにおける残基の多数の共鳴がBACE020の添加によって影響を受け、それはさらに基質結合の溝の中でペプチドが結合することを示唆している。フラップは活性部位での異なる分子の結合に非常に感受性であることが知られ、種々のリガンドを収容する多重構造に適応することができる。
【0207】
実施例3:BACE1の部位特異的変異誘発によるペプチド結合部位のマッピング
ヒトBACE1ECD変異体の構築、発現及び精製
BACE1シグナルペプチドに続いて細胞外ドメイン(ECD)(残基22〜457)及びC末端His
8タグ(配列番号54)を含有するpRKベクターにてヒトBACE1変異体を作製した。変異体は、QuikChange(登録商標)II XL部位特異的変異誘発キット(カリフォルニア州、ラ・ホヤのAgilent Technologies Stratagene Products)を用い適当なオリゴヌクレオチドを用いて作製し、DNA配列決定によって確認した。1リットルの発酵槽にて増殖しているチャイニーズハムスターの卵巣細胞を用いてタンパク質を一時的に発現させ、2週間後、培養物を回収した。遠心に続いて、Ni−NTAアガロース(カリフォルニア州、バレンシアのQiagen)上でのクロマトグラフィによって培養物から変異体タンパク質を均質(>95%純度)まで精製した。10mMのイミダゾールを含有するPBSで洗浄した後、200mMのイミダゾールを含有するPBSでタンパク質を溶出し、溶出液をプールし、Vivaspin20(ドイツ、ゲッチンゲンのSartorius−stedim)用いて濃縮し、20mMのHEPES、pH7.2,150mMのNaClで平衡化した200 10/300GLcolumn(スェーデン、ウプサラのGE Healthcare Bio−Sciences AB)に適用した。タンパク質のピークを回収し、濃縮し、タンパク質濃度をA
280によって測定した。精製したタンパク質はSDS−PAGEによって正しい分子量を示したが;観察された厚いバンドは不均質なグリコシル化によるものであると思われた。
【0208】
ビオチン化BACE020ペプチドの結合アッセイ
組換えタンパク質へのビオチン化BACE020の結合は96穴プレートアッセイで測定した。Maxisorpマイクロタイタープレート(ニューヨーク州、ロチェスターのNalge Nunc International)を50mMの炭酸塩、pH9.6中の2μg/mlのBACE1変異体によって4℃にて一晩被覆した。被覆したウェルを緩衝液(PBS、0.05%ポリソルベート20)で洗浄し、穏やかに振盪しながら室温で1時間、アッセイ緩衝液(PBS,pH7.4,0.5%のBSA,0.05%のTween20,15ppmのプロクリン)でブロックした。ブロックの後、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを伴ったアッセイ緩衝液で希釈した様々な濃度のC末端にビオチンのタグを付けたBACE020ペプチド(Ac−NEESMYCRLLGIGCG−(PEG)
3−ビオチン(配列番号16);Ac−NEESMYCRLLGIGCG−CONH−CH
2−(CH
2−CH
2−O−)3−(CH
2)
3−NH−ビオチン(配列番号16))を加え、室温にて穏やかに振盪しながらプレートを1時間インキュベートした。洗浄の後、ストレプトアビジン/西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合体(ニュージャージー州、ピスカタウエイのGE Healthcare)の添加、とその後のTMB/H
2O
2基質(KPL,Gaithersburg,MD)の添加によって、プレートに結合したペプチドの量を検出した。1Mのリン酸によって反応を止め、Molecular Devices SpectraMax Plus384マイクロプレートリーダーにてA
450を測定した。Kaleidagraph(ペンシルベニア州、レディングのSynergy Software)による4パラメータ非線形回帰曲線適合プログラムを用いて最大有効濃度の半分を与える濃度(EC
50)を決定した。固定量のビオチン化BACE020とペプチド(たとえば、BACE020、OM99−2又はBMS1)の濃度依存性の添加を用いて競合結合実験を実施した。Kaleidagraphによる4パラメータ非線形回帰曲線適合プログラムを用いて最大阻害濃度の半分を与える濃度(IC
50)を決定した。
【0209】
結果
ペプチドの結合のための領域としての活性部位を確認するために、OM99−2の結合(Hong, L. et al. (2000) Science 290: 150-3)によって定義される基質結合の溝にてBACE1の変異体を作製した。BACE1及び変異体に結合するビオチン化BACE020の能力を、ELISAアッセイを用いて測定した。結合親和性における倍低下をEC
50(mut)/EC
50(WT)の相対的なEC
50値として決定し、表3に列記する。
【0210】
【表4】
【0211】
実施例4:BACE1との複合体におけるBACE030のX線結晶学による構造決定
BACE1タンパク質の発現及び精製
C末端His
6タグ(配列番号55)を伴ったヒトBACE1
57−453又はBACE1
43−453のDNAをBlue Heronによって合成し、pET29a(+)ベクターにクローニングし、それでBL21(DE3)細胞を形質転換した。1mMのイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)誘導によって37℃にて4時間発現を行った。マイクロ流動化剤によって細胞を溶解し、BACE1を含有する封入体を単離し、TE(10mMのTris・HCl、pH8.0及び1mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA))緩衝液で洗浄した。室温にて2時間、7.5Mの尿素、100mMのAMPSO、pH10.8及び100mMのβ−メルカプトエタノール(BME)で封入体を可溶化した後、12,000rpmで30分間遠心した。次いで上清を7.5Mの尿素、100mMのAMPSO、pH10.8で希釈してOD
280約1.5〜2.0を達成した。先ず冷水にて可溶化BACE1を1:20倍に希釈し、次いで、再折り畳み反応が生じるように4℃にて3週間試料を穏やかに撹拌することによって再折り畳みを行った。再折り畳みしたBACE1の精製には3カラム工程が関与した。先ず、0.4Mの尿素を伴う20mMのTris、pH8.0で事前に平衡化した50mlのQセファロースファストフロー(GE Healthcare)カラムにタンパク質を負荷し、0〜0.5MのNaClの勾配によって溶出した。ピーク分画をプールし、20mMのTris、pH8.0緩衝液で5倍に希釈し、Source(商標)15Qカラム(GE Healthcare)に負荷した。0〜0.3MのNaClの勾配を展開してBACE1を溶出した。BACE1タンパク質を含有する分画をプールし、濃縮し、25mMのHepes、pH7.5と150mMのNaClにてセファデックスS75カラムでさらに精製した。
【0212】
BACE1との複合体におけるBACE030の結晶化
精製したBACE1
57−453を上述と同じ緩衝液で11mg/mlに濃縮
し、1mMのペプチドBACE030(元々100%DMSOに100mMで溶解した)と共に4℃で1時間インキュベートした。次いで、シッティングドロップ蒸気拡散法によって0.2μlのBACE1タンパク質ストック溶液を常温にて20%のPEG3350と0.1MのBis−Tris、pH5.5を含有する0.2μlのリザーバ溶液と混合することにより結晶化を設定した。結晶が現れ、3日間で完全なサイズに成長した。結晶を結晶化ドロップから取り出し、1分未満の間、迅速に凍結防止液(母液+20%グリセロール)に移し、次いで、液体窒素での瞬間凍結のために結晶化ドロップから取り出した。
【0213】
データの回収及び構造の決定
Diamond光源(DLS)ビーム線I02にて単色X線ビーム(0.9796Å波長)用いて回析データを回収した。データ回収の全体を通して結晶は低温で維持した。X線検出装置は結晶から170mm離れて配置されたADSC量子−315CCD検出器であった。完全なデータセットを回収するのにフレーム当たり0.5°の振動及び140°の全ウエッジサイズで回転法を単結晶に適用した。次いでデータにインデックスを付け、データを統合し、プログラムHKL2000(Otwinowski, Z. et al.(1997) Methods Enzymol. 276: 307-325)用いて縮小した。データ処理の統計を表5に示す。
【0214】
プログラムPhaser(McCoy, A. J. et al. (2007) J Appl Crystallogr 40: 658-674)による分子置換法(MR)用いて構造を解いた。Mathewの係数計算の結果は、各対称単位がBACE1/ペプチド複合体1つと50%溶媒で構成されることを示した。従って、MR計算はBACE1の細胞外ドメインの3つのサブユニットのセット1つを探索するように指示された。BACE1の探索モデルはBACE1構造1FKN(Hong, L. et al. (2000) Science 290: 150-3)に由来した。BACE1の活性部位の中で、ペプチド構造のために異なる電子密度マップにて大きな陽性ピークが認められた。有意な構造変化がBACE1、特にフラップ領域で生じた。プログラムCOOT(Emsley, 2004)によってマニュアルの再編が行われた。最大尤度標的機能、異方性個体B因子改良法、及びTLS改良法用いてプログラムREFMAC5(Murshudov, G. N. et al.(1997) Acta Crystallogr D Biol Crystallogr 53: 240-55)及びPHENIX(Adams, 2010) によって反復して構造の改良を実施し、0.164の最終R因子及び0.194のRfreeを達成した。構造改良の統計を表5に示す。
【0215】
【表5】
【0216】
活性部位を標的とする環状ペプチド阻害剤の構造的基礎
BACE030ペプチドとBACE1の触媒ドメインの間での相互作用を特徴付けるために、1.5Åの解像度で二元複合体の結晶構造を決定した。ペプチドを幾つかの既知の結晶形態に浸す無益な試行の後、ペプチドは共結晶化によって組み込まれた。
図7Aに示すように、BACE030は、フラップ領域として一般に知られるBACE1の柔軟なループ断片の下で触媒の溝に結合する。フラップ領域はBACE1に結合するOM99−2及び小分子阻害剤の結晶構造で見られるように種々の構造に適応することができる(Hong, L. et al. (2000) Science 290: 150-3;Cole et al., (2008) Bioinorganic Med. Chem. Lett. 18:1063-1066; Patel et al., (2004) J. Mol. Biol. 343: 407-416)。BACE030の結合の際、フラップは、模範的な線状基質様の阻害剤OM99−2(PDBのアクセスコード1FKN)(Hong, L. et al. (2000) Science 290: 150-3)で認められた基質結合構造におけるその閉鎖した位置に比べて、約7Å(Thr72のCαに基づいて)で開口し、さらに大きな螺旋ペプチドを収容する。結合した状態でのBACE030はNMRによって溶液にて認められたα螺旋構造を保存した(実施例2を参照)。Cys5とCys12の間のジスルフィド結合はそのような二次構造を維持し、これら2つの位置でのシステイン残基の絶対的な要件の根拠を為している。天然のBACE1の基質は線状であり、BACE1の活性部位に結合する螺旋ペプチドは直観に反すると思われたが、それは、スクリーニングのために天然の環状ファージライブラリを使用するという考えを支持している。複合体の構造はファージディスプレイの結果と強く相関する特徴を明らかにした。ペプチド残基のほとんどが結合相互作用に関与する。「アルギニンフィンガー」と呼ばれる不変のArg6は触媒中心にてその側鎖を提示し、2つの触媒性アスパラギン酸塩との二座配位塩架橋を形成する(
図7B)。そのような官能性は、小分子BACE1阻害剤で見られることが多い「弾頭」基のそれに良く似ている。BACE030のMet3及びLeu7はそれぞれ、BACE1表面における疎水性ポケットS1及びS3に対抗する。S1部位は見境がないと思われ、小さなサイズの種々の疎水性残基(たとえば、ペプチドファージのデータに一致するIle、Leu、Met)を認容することができる一方で、S3はLeuを要求する。ペプチドにおける別の保存性の高い残基であるTyr4は阻害剤結合について以前正しく評価されなかった残基107〜111(Yループ)を含むBACE1上の小さな溝に結合する。触媒中心とのその近接を考えると、この部位は小分子阻害剤の設計で標的とされる可能性があり得る。Yループの相互作用は、Leu8の存在によって、及び同様に疎水性ではあるが、あまり保存されない残基Leu10の存在によって高められる(
図7C)。Gly9及びGly11は疎水性コアに詰め込まれるようにLeu10に柔軟性を提供する。ペプチドのN末端では、高度に保存されたGlu1側鎖がBACE1のArg235と塩架橋を形成する。Ser2は螺旋のN末端に蓋をする。OM99−2及びOM03−4加水分解できない基質模倣体(Hong, L. et al. (2000) Science 290: 150-3; Turner, R. T., 3rd et al. (2005) Biochemistry 44: 105-12)に比べて、BACE030は、基質のそれとは反対方向でトレースするペプチド結合によってP側(P1〜P4)にて基質溝を占有する。BACE030は「アルギニンフィンガー」を使用してその触媒アスパラギン酸残基にてBACE1に結合するので、切ることができるペプチド結合の提示についての機会を妨げる。