特許第6134852号(P6134852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6134852-潤滑油組成物 図000022
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134852
(24)【登録日】2017年4月28日
(45)【発行日】2017年5月24日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/12 20060101AFI20170515BHJP
   C10M 133/00 20060101ALN20170515BHJP
   C10M 137/00 20060101ALN20170515BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20170515BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20170515BHJP
【FI】
   C10M141/12
   !C10M133/00
   !C10M137/00
   !C10M139/00 Z
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:04
   C10N30:12
   C10N40:25
【請求項の数】10
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-168748(P2016-168748)
(22)【出願日】2016年8月31日
(62)【分割の表示】特願2014-177254(P2014-177254)の分割
【原出願日】2014年9月1日
(65)【公開番号】特開2016-196667(P2016-196667A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-16331(P2014-16331)
(32)【優先日】2014年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108317
【氏名又は名称】東燃ゼネラル石油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 康
(72)【発明者】
【氏名】根本 周蔵
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智浩
(72)【発明者】
【氏名】藤本 公介
(72)【発明者】
【氏名】山下 実
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−534216(JP,A)
【文献】 特表2005−502765(JP,A)
【文献】 特開2002−053888(JP,A)
【文献】 特開昭63−256695(JP,A)
【文献】 特表平10−510876(JP,A)
【文献】 特開2011−214004(JP,A)
【文献】 特開2006−328265(JP,A)
【文献】 特開2011−012213(JP,A)
【文献】 特開2014−152301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物であって、
下記式(4)
Q=[Ca]+0.05[Mg] (4)
(上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるQが、Q≦0.15を満たし、
下記式(5)
W=[Ca]+1.65[Mg] (5)
(上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに窒素を有する無灰分散剤を含み、下記式(3)
Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3)
(上記式(3)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である)
で求められるZが、Z=0.3〜1.5を満たす、請求項1に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
さらにリンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるリンの濃度[P]が、[P]≦0.12質量%を満たす、請求項1または2記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
さらにモリブデンを有する化合物を含み、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの濃度[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%を満たす、請求項1〜3のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項5】
モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、窒素を有する無灰分散剤とを含み、下記式(1)
X=([Ca]+0.5[Mg])×8−[Mo]×8−[P]×30 (1)
(上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である)
で求められるXが、X≦−0.85を満たし、
下記式(2)
Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2)
(上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である)
で求められるYが、Y≧0.18を満たす、請求項1〜4のいずれか1項に記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項6】
潤滑油基油が100℃での動粘度2〜15mm/sを有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項7】
[A]カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の1種以上を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項8】
[B]リンを有する摩耗防止剤の1種以上を含む、請求項1〜7のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項9】
[C]モリブデンを有する摩擦調整剤の1種以上を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【請求項10】
[E]粘度指数向上剤の1種以上を含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の過給ガソリンエンジン用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑油組成物に関し、詳細には、内燃機関用の潤滑油組成物、特に過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関には、小型高出力化、省燃費化、排ガス規制対応など、様々な要求がなされており、省燃費性を目的とした内燃機関用潤滑油組成物が種々検討されている(特許文献1及び2)。
【0003】
また、ガソリンエンジン車両の燃費向上のために、過給直噴エンジンの導入が進んでいる。過給直噴エンジンの導入により、より低速回転でのトルクを高め、同等の出力を維持しながら排気量を下げることができる。そのため、燃費を向上することができ、また機械損失の割合を低減することもできる。しかし一方で、過給直噴エンジンにおいては、低回転域でトルクを高めていくと、突発的な異常燃焼である低速プレイグニッション(Low Speed Pre−Ignition、以下、LSPIという)が現れるという問題がある。LSPIの発生は燃費向上の制約条件となったり、機械損失を増加する原因となる。
【0004】
エンジン油には、様々な性能を満たすために例えば摩耗防止剤、金属清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤等、種々の添加剤が配合される。非特許文献1〜3は、LSPI発生の一因としてこれら添加剤が影響していることを記載している。例えば、非特許文献1は、添加剤中のカルシウムがLSPIを促進し、モリブデン及びリンがLSPIを抑制することを記載している。非特許文献2は、基油の種類及び金属清浄剤の有無によりLSPI発生頻度が異なることを記載している。非特許文献3は、添加剤中のカルシウム、リン、モリブデン、および、摩耗により溶出する鉄、銅のLSPI発生頻度への影響、エンジンオイルの劣化に伴うLSPI発生頻度の増加について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−184566号公報
【特許文献2】特開2013−199594号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】竹内一雄等「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第1報)−エンジン油添加剤による低速プレイグニッション抑制/促進効果−」公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 No.70−12,p.1−4(2012年5月25日 自動車技術会春季学術講演会)
【非特許文献2】藤本公介等「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第2報)−オイルの自己着火温度と低速プレイグニッション頻度−」公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 No.70−12,p.5−8(2012年5月25日 自動車技術会春季学術講演会)
【非特許文献3】平野聡伺等「過給直噴ガソリンエンジンでの異常燃焼に対するエンジンオイル着火性の影響調査(第3報)」公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 No.12−13,p.11−14(2013年5月22日 自動車技術会春季学術講演会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したエンジン油として必要な性能には、清浄性、防錆性、分散性、酸化防止性、耐摩耗性等がある。これらの性能を得るためには適切な添加剤の設計が必要となる。例えば、清浄性や防錆性を得るためにはカルシウムを有する金属清浄剤が配合される。上記のようにLSPI発生頻度を減らすためにカルシウムを有する金属清浄剤の量を減らすと、エンジン油の清浄性や防錆性が確保できなくなるという問題がある。また、モリブデンやリンを含む添加剤としては、モリブデンを有する摩擦調整剤、リンを有する摩耗防止剤があるが、これらは高温で分解してデポジットとなる恐れがある。そのため、LSPI発生頻度を減らすためにモリブデンを有する摩擦調整剤やリンを有する摩耗防止剤の量を増やすと、高温清浄性が低下するという問題がある。すなわち、LSPIを防止する技術とエンジン油に必要とされる性能(特に清浄性、及び防錆性)を確保する技術は背反となることがあり、これらを共に達成する技術が求められている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、第一に、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性を確保することができる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、上記第一の課題を解決するために鋭意検討した結果、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの量が特定の関係式を満たし、且つ、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量と無灰分散剤由来の窒素の量が特定の関係式を満たすことにより、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性を確保できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は第一に、潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む潤滑油組成物であって、
下記式(1)
X=([Ca]+0.5[Mg])×8−[Mo]×8−[P]×30 (1)
(上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である)
で求められるXが、X≦−0.85を満たし、
下記式(2)
Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2)
(上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である)
で求められるYが、Y≧0.18を満たす潤滑油組成物に関する。
【0011】
また、上記の通り、LSPI発生頻度を低下するために潤滑油組成物中のカルシウム系金属清浄剤の量を減らすと潤滑油組成物の防錆性を十分に確保できない。そこで、本発明は第二に、LSPI発生頻度を低下し、且つ、防錆性を確保することができる潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0012】
本発明者らは、上記第二の課題を解決するために鋭意検討した結果、潤滑油組成物中に含まれるマグネシウム及びカルシウムの量が特定の関係式を満たすことにより、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保できることを見出した。すなわち本発明は第二に、潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む潤滑油組成物であって、
下記式(4)
Q=[Ca]+0.05[Mg] (4)
(上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるQが、Q≦0.15を満たし、
下記式(5)
W=[Ca]+1.65[Mg] (5)
(上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物に関する。
【0013】
さらには上記第二の発明は、潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物とを含む潤滑油組成物であって、上記式(4)で求められるQがQ≦0.15を満たし、かつ上記式(5)で求められるWが0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物に関する。
【0014】
また本発明は、潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、及び窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む潤滑油組成物であって、
下記式(1)
X=([Ca]+0.5[Mg])×8−[Mo]×8−[P]×30 (1)
(上記式(1)において[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である)
で求められるXが、X≦−0.85を満たし、
下記式(2)
Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N] (2)
(上記式(2)において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)である)
で求められるYが、Y≧0.18を満たし、
下記式(4)
Q=[Ca]+0.05[Mg] (4)
(上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるQが、Q≦0.15を満たし、且つ
下記式(5)
W=[Ca]+1.65[Mg] (5)
(上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物に関する。
【0015】
上記本発明の潤滑油組成物はいずれも、特には内燃機関用の潤滑油組成物に関し、さらに特には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
上記第一の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、高温清浄性を確保することができる。また、上記第二の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保することができる。さらに、上記第一の発明の要件及び第二の発明の要件を共に満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下し、清浄性を確保し、さらには防錆性を確保することもできる。上記本発明の潤滑油組成物はいずれも、特には内燃機関用の潤滑油組成物として、さらに特には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物として好適に使用できる。また、本発明の潤滑油組成物はいずれも低粘度グレード用の潤滑油として好適である。具体的には、0W−20/5W−20あるいは0W−16/5W−16の低グレード、あるいはさらに低粘度化した潤滑油として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は式(1)で求められるXの値とLSPI発生頻度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は第一に、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性を確保できる潤滑油組成物を提供する。該第一の発明は、潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む潤滑油組成物である。該第一の発明において、潤滑油組成物は、組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、無灰分散剤由来の窒素、モリブデン及びリンの濃度について、上記式(1)で示されるX及び上記式(2)で示されるYが上記特定の範囲を満たすことを特徴とする。以下、式(1)及び式(2)について詳細に説明する。
【0019】
上記式(1)は潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度の関係を示す式である。上記式(1)において、[Ca]、[Mg]、[Mo]、及び[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度(質量%)である。潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度が、上記式(1)で示されるXがX≦−0.85を満たす範囲であることによりLSPIの発生を効果的に抑制することができる。
【0020】
上記式(1)は、LSPIの発生頻度と、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、モリブデン、及びリンの濃度との相関関係から求められた式である。式(1)は、カルシウム及びマグネシウムがLSPI防止性について負の働きを持ち、モリブデン及びリンは、LSPI防止性について正の働きを持つことを意味する。式(1)において、8、8、30という係数は、それぞれの元素の寄与度を定量化したものである。Xの好ましい範囲は−0.85未満であり、より好ましくは−1以下であり、更に好ましくは−1未満であり、より一層好ましくは−1.2以下であり、最も好ましくは−1.68以下である。Xの下限値は限定的ではないが、好ましくは−5.0以上、より好ましくは−3.0以上、最も好ましくは−2.4以上である。Xが上記下限値を下回ると高温清浄性が悪化したり、排ガス後処理装置に悪影響を及ぼすという問題が発生する場合がある。また、式(1)において[Mg]の係数は0.5である。これは元素ごとにLSPI防止効果が異なるために設定されるものである。上記式(1)で求められるXの値とLSPI発生頻度の関係を図1に示す。図1に記載の通り、上記式(1)で求められるXの値が上記上限値以下であるとLSPIの発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
潤滑油組成物がカルシウムを含まずマグネシウムを含む場合、上記式(1)は以下の式(1')となる。
X’=0.5[Mg]×8−[Mo]×8−[P]×30 (1')
(上記式(1')において、[Mg]、[Mo]、[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のマグネシウム、モリブデン、リンの濃度(質量%)を示す)
上記式(1’)で求められるX’の値がX’≦−0.85を満たすことによりLSPIの発生を効果的に抑制することができる。
【0022】
また、潤滑油組成物がマグネシウムを含まずカルシウムを含む場合、上記式(1)は以下の式(1’’)となる。
X’’=[Ca]×8−[Mo]×8−[P]×30 (1'')
(上記式(1'')において、[Ca]、[Mo]、[P]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、モリブデン、リンの濃度(質量%)を示す)
上記式(1’’)で求められるX’’の値がX’’≦−0.85を満たすことによりLSPIの発生を効果的に抑制することができる。
【0023】
上記式(2)は、潤滑油組成物中に、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と窒素を有する無灰分散剤が合計して特定量以上必要であることを示すものである。上記式(2)において、[Ca]及び[Mg]は、潤滑油組成物中のカルシウム及びマグネシウムの含有量(質量%)であり、[N]は潤滑油組成物中の無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)である。本発明において、潤滑油組成物中のカルシウム及びマグネシウムの含有量(質量%)、及び無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)は、上記式(2)で示されるYがY≧0.18を満たす量である。好ましくは、Yは0.19以上、より好ましくは0.21以上である。Yが上記下限値以上あれば、LSPI発生頻度を低下しながら、潤滑油組成物の清浄性を確保することができる。Yが上記下限値未満であると清浄性が不十分になる。Yの上限値は限定的ではないが、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.8以下、最も好ましくは0.5以下である。Yが上記上限値を超えると、清浄性は向上するものの、添加量に応じた清浄効果が得られず、また、添加剤の増量により粘度特性の悪化を引き起こし、燃費に対して悪影響するという問題が発生する場合がある。
【0024】
上記式(2)において[Mg]の係数は1.65である。これは、カルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤の清浄性向上効果がその元素の原子数(すなわちモル数)に比例することから設定されたものである。マグネシウムの原子量がカルシウムの原子量に対して1/1.65であるため、同じ質量当たり1.65倍の清浄性向上効果を示すことを意味する。
【0025】
潤滑油組成物がカルシウムを含まずマグネシウムを含む場合、上記式(2)は以下の式(2')となる。
Y’=1.65[Mg]+[N] (2')
(上記式(2')において、[Mg]及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のマグネシウム及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)を示す)
上記式(2’)で求められるY’の値がY’≧0.18を満たすことによりLSPI発生頻度を低下しながら、潤滑油組成物の清浄性を確保することができる。
【0026】
また、潤滑油組成物がマグネシウムを含まずカルシウムを含む場合、上記式(2)は以下の式(2'')となる。
Y’’=[Ca]+[N] (2'')
(上記式(2'')において、[Ca]及び[N]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム及び無灰分散剤由来の窒素の濃度(質量%)を示す)
上記式(2’’)で求められるY’’の値がY’’≧0.18を満たすことによりLSPI発生頻度を低下しながら、潤滑油組成物の清浄性を確保することができる。
【0027】
上記第一の発明において、潤滑油組成物は、上記式(1)及び式(2)に加え、下記式(3)で示されるZが、Z=0.3〜1.5を満たすことが好ましい。
Z=[N]/([Ca]+[Mg]) (3)
Zは、好ましくは0.35〜1.3以下である。上記式において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)である。
【0028】
上記式(3)で求められるZは、潤滑油組成物中の金属清浄剤の量と無灰分散剤の量の好適な比率を表すものであり、カルシウム及びマグネシウムの量は潤滑油組成物中の金属清浄剤の量を意味し、窒素の量は潤滑油組成物中の無灰分散剤の量を意味する。Zが上記範囲を満たすことにより、潤滑油組成物は酸化安定性とスラッジ分散性の両方の機能を獲得することができる。Zの値が上記下限値未満では、LSPI発生頻度を低下できない、あるいはスラッジ分散性が低下して清浄性が不十分となる恐れがある。また、Zの値が上記上限値超では、酸化安定性を確保できなかったり、清浄性が悪化する恐れがある。本発明の第一の潤滑剤組成物は、上記式(1)で示すXと式(2)で示すYとが上述した特定の範囲を満たせばよいが、さらに上記式(3)で示すZが上述した特定の範囲を満たすことにより、LSPIの発生を防止することと清浄性を確保することの両立をより確実なものにすることができる。
【0029】
潤滑油組成物がカルシウムを含まずマグネシウムを含む場合、上記式(3)は以下の式(3')となる。
Z’=[N]/[Mg] (3’)
上記式(3’)で求められるZ’が0.3〜1.5を満たすことが好ましい。
【0030】
潤滑油組成物がマグネシウムを含まずカルシウムを含む場合、上記式(3)は以下の式(3’’)となる。
Z’’=[N]/[Ca] (3’’)
上記式(3’’)で求められるZ’’が0.3〜1.5を満たすことが好ましい。
【0031】
さらに上記第一の発明において、潤滑油組成物に含まれるモリブデンの量(質量%)[Mo]が、[Mo]≦0.1質量%であり、より好ましくは[Mo]≦0.08質量%、最も好ましくは[Mo]≦0.06質量%、さらには[Mo]≦0.02質量%であるのがよい。モリブデンの量が上記上限値を超えると、清浄性が悪化するおそれがある。モリブデン量の下限値は特に限定されない。式(1)のXが、X≦−0.85を満たせば、モリブデン量は0質量%であってもよい。
【0032】
さらに上記第一の発明において、潤滑油組成物に含まれるリンの量(質量%)[P]が、[P]≦0.12質量%であり、好ましくは[P]≦0.10質量%、最も好ましくは[P]≦0.09質量%であるのがよい。リンの量が上記上限値を超えると、高温清浄性が悪化し、また、排ガス後処理装置に対して悪影響を及ぼす恐れがあるため好ましくない。リン量の下限値は特に限定されないが、好ましくは[P]≧0.02質量%であり、より好ましくは[P]≧0.04質量%であり、最も好ましくは[P]≧0.06質量%である。リン量が上記下限値未満である場合には、耐摩耗性が悪化する恐れがある。
【0033】
上記第一の発明において、潤滑油組成物に含まれるカルシウム及びマグネシウムの含有量は、上記式(1)で示すX及び上記式(2)で示すYが、好ましくは更に上記式(3)で示すZが、上記範囲を満たす限りにおいて特に限定されることはない。好ましくは、潤滑油組成物に含まれるカルシウムの量(質量%)[Ca]及びマグネシウムの量(質量%)[Mg]が、[Ca]+1.65[Mg]≧0.08質量%、より好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≧0.1質量%であり、最も好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≧0.12質量%である。[Ca]+1.65[Mg]の値が上記下限値未満の場合には、高温清浄性が悪化するおそれがある。[Ca]+1.65[Mg]の上限は、好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≦0.5質量%、より好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≦0.3質量%、最も好ましくは[Ca]+1.65[Mg]≦0.25質量%である。[Ca]+1.65[Mg]の値が上記上限値を超えると、硫酸灰分量が多くなり、排ガス後処理装置に悪影響を及ぼす。
【0034】
本発明は第二に、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保できる潤滑油組成物を提供する。該第二の発明において、潤滑油組成物は、潤滑油基油と、マグネシウムを有する化合物の少なくとも1種とを含む。該潤滑油組成物は、任意的に、カルシウムを有する化合物の少なくとも1種を含む。該第二の発明は、潤滑油組成物中に含まれるマグネシウム及びカルシウムの濃度(質量%)が特定の関係式を満たすことを特徴とする。すなわち下記式(4)
Q=[Ca]+0.05[Mg] (4)
(上記式(4)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるQが、Q≦0.15を満たし、
下記式(5)
W=[Ca]+1.65[Mg] (5)
(上記式(5)において[Ca]、[Mg]は、それぞれ潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウムの濃度(質量%)である)
で求められるWが、0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物である。以下、式(4)及び式(5)について詳細に説明する。
【0035】
上記式(4)は、LSPIの発生頻度と、潤滑油組成物中に含まれるマグネシウムの濃度及びカルシウムの濃度との相関関係から求められた式である。上記式(4)において、[Ca]及び[Mg]は、潤滑油組成物中のマグネシウム及びカルシウムの含有量(質量%)である。Qの好ましい範囲は0.15未満であり、より好ましくは0.14以下であり、最も好ましくは0.13以下である。Qの値が上記上限値以下であるとLSPIの発生を効果的に抑制できる。Qの下限値は限定的ではないが、好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上、さらに好ましくは0.01以上、最も好ましくは0.06以上である。Qが上記下限値を下回ると防錆性が悪化する場合があり、また、清浄性が悪化する場合もある。式(4)において[Mg]の係数は0.05である。該係数は、LSPIの発生頻度に対する、カルシウムに比較したマグネシウムの寄与度を意味する。
【0036】
上記式(5)は防錆性と潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの濃度との相関関係から求められた式であり、式(5)で求められるWの下限値は防錆性を確保するためのカルシウム及びマグネシウムの量の下限値を意味する。Wの下限値は好ましくは0.15以上、より好ましくは0.16以上である。カルシウム及びマグネシウムの量は多ければ防錆性を確保できるが、多すぎると潤滑油組成物中の硫酸灰分量が多くなり、排ガス処理装置に影響を及ぼす。上記式(5)で求められるWの上限値は、硫酸灰分量が所定値を超えないためのカルシウム及びマグネシウムの量の上限値を意味する。Wの上限値は好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、最も好ましくは0.65以下、特に好ましくは0.25以下である。
【0037】
潤滑油組成物中に含まれる硫酸灰分の量は、JIS K−2272に準拠して測定すればよい。潤滑油組成物中に含まれる硫酸灰分の量は3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以下、最も好ましくは1.0質量%以下である。
【0038】
上記式(5)において[Mg]の係数は1.65である。該係数は、防錆性に関する、カルシウムに比較したマグネシウムの寄与度を意味する。金属清浄剤の防錆効果はその元素の原子数(すなわちモル数)に比例する。マグネシウムの原子量はカルシウムの原子量に対して1/1.65であるため、同じ質量当たり1.65倍の防錆効果を示す。
【0039】
上記第二の発明において特に好ましい範囲は、上記式(4)で示されるQの値が0.06≦Q≦0.13であり、且つ、上記式(5)で示されるWの値が0.15≦W≦0.24を満たす範囲である。
【0040】
上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量は上記式(4)で求められるQ及び上記式(5)で求められるWが上記範囲を満たす限りにおいて限定されない。特には潤滑油組成物中のカルシウムの量は0〜0.15質量%、好ましくは0.02〜0.14質量%、より好ましくは0.05〜0.13質量%、最も好ましくは0.06〜0.12質量%である。潤滑油組成物中のマグネシウムの量は0.01〜0.6質量%、好ましくは0.02〜0.5質量%、より好ましくは0.05〜0.3質量部、最も好ましくは0.09〜0.2質量%である。
【0041】
上記第二の発明において、潤滑油組成物はカルシウムを有する化合物を含まなくてもよい。カルシウムを有する化合物を含まない場合、上記式(4)は以下の式(4’)となり、
Q’=0.05[Mg] (4’)
上記式(5)は以下の式(5’)となる。
W’=1.65[Mg] (5’)
潤滑油組成物に含まれるマグネシウムの量[Mg](質量%)は、上記Q’の値が、Q’≦0.15を満たし、且つ、上記W’の値が、0.14≦W’≦1.0を満たす量であればよい。すなわち0.08≦[Mg]≦0.6の量である。好ましくは0.1≦[Mg]≦0.25である。
【0042】
上記第二の発明において、潤滑油組成物はモリブデンを有する化合物、リンを有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含んでいてよい。潤滑油組成物中に含まれるリン、モリブデン、及び窒素の量は特に制限されない。
【0043】
上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれるモリブデンの量(質量%)[Mo]は、限定的ではないが、好ましくは[Mo]≦0.1質量%であり、より好ましくは[Mo]≦0.08質量%、最も好ましくは[Mo]≦0.06質量%、さらには[Mo]≦0.02質量%であるのがよい。モリブデン量の下限値は0質量%であってもよい。
【0044】
上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれるリンの量(質量%)[P]は、好ましくは[P]≦0.12質量%であり、好ましくは[P]≦0.10質量%、最も好ましくは[P]≦0.09質量%であるのがよく、下限は限定的ではないが、好ましくは[P]≧0.02質量%であり、より好ましくは[P]≧0.04質量%であり、最も好ましくは[P]≧0.06質量%である。特に好ましくは0.06質量%≦[P]≦0.08質量%である。
【0045】
上記第二の発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油と、マグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物とを含み、及び任意的に、カルシウムを有する化合物を含む組成物であり、上記式(4)で求められるQの値がQ≦0.15を満たし、且つ、上記式(5)で求められるWの値が0.14≦W≦1.0を満たし、さらに、上記式(1)で求められるXの値がX≦−0.85を満たす範囲にある潤滑油組成物であってよい。Q、W、及びXの好ましい範囲は上記の通りである。
【0046】
また、上記第二の発明の潤滑油組成物は、潤滑油基油と、マグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物とを含み、及び任意的に、カルシウムを有する化合物を含む組成物であり、上記式(4)で求められるQの値がQ≦0.15を満たし、且つ、上記式(5)で求められるWの値が0.14≦W≦1.0を満たし、さらに、上記式(1)で求められるXの値がX>−0.85である潤滑油組成物であってよい。Q、W、及びXの好ましい範囲は上記の通りである。
【0047】
上記第二の発明において、潤滑油組成物に含まれる窒素の量は特に制限されるものでない。ここで潤滑油組成物に含まれる窒素の量とは潤滑油組成物中の無灰分散剤の量を意味する。上記した式(3):Z=[N]/([Ca]+[Mg])で示されるZの値が、Z=0.3〜1.5、好ましくは0.35〜1.3以下を満たすような量であるのが特に好ましい。上記式において[Ca]、[Mg]、及び[N]は、潤滑油組成物中のカルシウム、マグネシウム、及び無灰分散剤由来の窒素の含有量(質量%)である。
【0048】
本発明は、さらに、潤滑油基油と、少なくとも1種のマグネシウムを有する化合物と、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物と、及び窒素を有する無灰分散剤とを含み、及び任意的に、少なくとも1種のカルシウムを有する化合物を含む組成物であり、上記式(1)で求められるXの値がX≦−0.85を満たし、上記式(2)で求められるYの値がY≧0.18を満たし、上記式(4)で求められるQの値がQ≦0.15を満たし、且つ、上記式(5)で求められるWの値が0.14≦W≦1.0を満たす潤滑油組成物を提供する。このような潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下でき、清浄性を確保し、且つ、防錆性を確保することができる。
【0049】
[潤滑油基油]
上記本発明において潤滑油基油は、鉱油及び合成油のいずれであってもよく、これらを単独で使用することもできれば、混合して使用することもできる。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、或いは、ワックス異性化鉱油、GTL(Gas to Liquid)基油、ATL(Asphalt to Liquid)基油、植物油系基油またはこれらの混合基油を挙げることができる。
【0050】
合成油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ラウリン酸2−エチルヘキシル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル等のモノエステル;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールジ−2−エチルヘキサノエート、ネオペンチルグリコールジ−n−オクタノエート、ネオペンチルグリコールジ−n−デカノエート、トリメチロールプロパントリ−n−オクタノエート、トリメチロールプロパントリ−n−デカノエート、ペンタエリスリトールテトラ−n−ペンタノエート、ペンタエリスリトールテトラ−n−ヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラ−2−エチルヘキサノエート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
【0051】
潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)は限定されることはないが、2〜15mm2/sが好ましく、3〜10mm/sがより好ましく、3〜6mm/sが最も好ましい。これにより、油膜形成が十分であり、潤滑性に優れ、かつ、蒸発損失のより小さい組成物を得ることができる。
【0052】
潤滑油基油の粘度指数(VI)は限定されることはないが、100以上が好ましく、120以上がより好ましく、130以上が最も好ましい。これにより、高温での油膜を確保しつつ、低温での粘度を低減することができる。
【0053】
潤滑油基油の40℃における動粘度(mm/s)は、上述した100℃における動粘度と、上述した粘度指数VIから決定できる値であればよい。
【0054】
上記第一の本発明は、上記潤滑油基油と、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する化合物、及び窒素を有する無灰分散剤を含む潤滑油組成物である。上記第二の本発明は、上記潤滑油基油と、少なくとも1種の、マグネシウムを有する化合物とを含み、及び任意的に、少なくとも1種の、カルシウムを有する化合物を含む潤滑油組成物である。これらの化合物は下記で説明する各種添加剤を配合することにより与えられる。
【0055】
[添加剤]
添加剤は潤滑油組成物に添加される公知のものを使用することができる。本発明の潤滑油組成物は、カルシウム及びマグネシウムから選ばれる少なくとも1種を有する添加剤の少なくとも1種、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を有する添加剤の少なくとも1種を含む。該添加剤としては、金属清浄剤、摩耗防止剤、摩擦調整剤が挙げられる。また、上述の通り本発明の潤滑油組成物は窒素を有する無灰分散剤を含む。以下、これらの添加剤について詳細に説明する。
【0056】
[A]金属清浄剤
金属清浄剤は特に限定されるものでないが、カルシウム及びマグネシウムから選択される少なくとも1種を有する金属清浄剤の1種以上であるのが好ましい。
【0057】
カルシウムを有する金属清浄剤としては、カルシウムスルホネート、カルシウムフェネート、カルシウムサリシレートが好ましい。また、ホウ素を含有するカルシウム系清浄剤を使用しても良い。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの金属清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性、及び防錆性を確保することができる。特には、本発明の潤滑油組成物は、過塩基性のカルシウムを有する金属清浄剤を含有することが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。なお、過塩基性のカルシウムを有する金属清浄剤を使用する場合は、中性のカルシウムを有する金属清浄剤を併用してもよい。
【0058】
カルシウムを有する金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20〜500mgKOH/g、より好ましくは50〜400mgKOH/g、最も好ましくは100〜350mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性、防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が前記範囲内となることが好ましい。
【0059】
金属清浄剤中のカルシウム含有量は、0.5〜20質量%が好ましく、1〜16質量%がより好ましく、2〜14質量%が最も好ましい。これにより、適切な添加量で所望の効果を得ることができる。
【0060】
マグネシウムを有する金属清浄剤としては、マグネシウムスルホネート、マグネシウムフェネート、マグネシウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの金属清浄剤を含有することにより、潤滑油として必要な高温清浄性、防錆性を確保することができる。また、上記マグネシウムを有する金属清浄剤は、上述したカルシウムを有する金属清浄剤と混合して使用してもよい。
【0061】
特には、過塩基性のマグネシウムを有する金属清浄剤を含有することが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。なお、過塩基性のマグネシウムを有する金属清浄剤を使用した場合は、中性のマグネシウムまたはカルシウムを有する金属清浄剤を混合してもよい。
【0062】
マグネシウムを有する金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20〜600mgKOH/g、より好ましくは50〜500mgKOH/g、最も好ましくは100〜450mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性、防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が、前記の範囲となることが好ましい。
【0063】
金属清浄剤中のマグネシウム含有量は、0.5〜20質量%が好ましく、1〜16質量%がより好ましく、2〜14質量%が最も好ましい。これにより、適切な添加量で所望の効果を得ることができる。
【0064】
潤滑油組成物中の金属清浄剤の量は、組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。
【0065】
なお、本発明においては、発明の要旨を変更しない範囲でナトリウムを有する金属清浄剤を任意成分として使用することができる。ナトリウムを有する金属清浄剤としては、ナトリウムスルホネート、ナトリウムフェネート、ナトリウムサリシレートが好ましい。これらの金属清浄剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらの金属清浄剤により、潤滑油として必要な高温清浄性、防錆性を確保することができる。該ナトリウムを有する金属清浄剤は、上述したカルシウムを有する金属清浄剤、及び/またはマグネシウムを有する金属清浄剤と混合して使用することができる。
【0066】
特には、過塩基性のナトリウムを有する金属清浄剤を含有することが好ましい。これにより、潤滑油に必要な酸中和性を確保できる。なお、過塩基性のナトリウムを有する金属清浄剤を使用した場合は、中性のナトリウム又はカルシウム又はマグネシウムを有する金属清浄剤を混合してもよい。
【0067】
ナトリウムを有する金属清浄剤の全塩基価は、限定的ではないが、好ましくは20〜500mgKOH/g、より好ましくは50〜400mgKOH/g、最も好ましくは100〜350mgKOH/gである。これにより、潤滑油に必要な酸中和性、高温清浄性、防錆性を確保できる。なお、2種以上の金属清浄剤を混合して使用する場合は、混合して得られた塩基価が、前記の範囲となるようにすることが好ましい。
【0068】
金属清浄剤中のナトリウムの含有量は、0.5〜20質量%が好ましく、1〜16質量%がより好ましく、2〜14質量%が最も好ましい。これにより、適切な添加量で所望の効果を得ることができる。ナトリウムを有する金属清浄剤を使用する場合、その量は潤滑油組成物中に5質量%以下、好ましくは3質量%以下である。
【0069】
[B]摩耗防止剤
摩耗防止剤は従来公知のものを使用することができる。中でも、リンを有する摩耗防止剤が好ましく、特には下記式で示されるジチオリン酸亜鉛(ZnDTP(ZDDPともいう))が好ましい。
【化1】
上記式において、R及びRは、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子または炭素数1〜26の一価炭化水素基である。一価炭化水素基としては、炭素数1〜26の第1級(プライマリー)または第2級(セカンダリー)アルキル基;炭素数2〜26のアルケニル基;炭素数6〜26のシクロアルキル基;炭素数6〜26のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基;またはエステル結合、エーテル結合、アルコール基またはカルボキシル基を含む炭化水素基である。R及びRは、好ましくは炭素数2〜12の、第1級または第2級アルキル基、炭素数8〜18のシクロアルキル基、炭素数8〜18のアルキルアリール基であり、各々、互いに同一であっても異なっていてもよい。特にはジアルキルジチオリン酸亜鉛が好ましく、第1級アルキル基は、炭素数3〜12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数4〜10である。第2級アルキル基は、炭素数3〜12を有することが好ましく、より好ましくは炭素数3〜10である。上記ジチオリン酸亜鉛は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を組合せて使用してもよい。
【0070】
また、下記式(6)及び(7)で示されるホスフェート、ホスファイト系のリン化合物、並びにそれらの金属塩及びアミン塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を使用することもできる。
【化2】
上記一般式(6)中、Rは炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、R及びRは互いに独立に、水素原子又は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、mは0又は1である。
【化3】
上記一般式(7)中、Rは炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、R及びRは互いに独立に水素原子又は炭素数1〜30の一価炭化水素基であり、nは0又は1である。
【0071】
上記一般式(6)及び(7)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の一価炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。特には、炭素数1〜30のアルキル基、又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、より好ましくは炭素数3〜18のアルキル基、最も好ましくは炭素数4〜15のアルキル基である。
【0072】
上記一般式(6)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、及び(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0073】
上記一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物等を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属(但し、モリブデンは除く)等が挙げられる。これらの中でも、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0074】
潤滑油組成物中の摩耗防止剤の量は、組成物中に含まれるリンの量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。リンを含まない摩耗防止剤、例えばジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)を使用する場合は、潤滑油組成物中0.1〜5.0質量%、好ましくは0.2〜3.0質量%であればよい。
【0075】
[C]摩擦調整剤
摩擦調整剤は従来公知のものを使用することができる。例えば、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物又はその他の有機化合物との錯体等、或いは、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。前記モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩又はアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等が挙げられる。硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等が挙げられる。特にはモリブデンジチオホスフェート(MoDTP)及びモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)等の有機モリブデン化合物が好ましい。これらは、1分子中に異なる炭素数及び/又は異なる構造の炭化水素基を有する化合物を使用することもできる。
【0076】
モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)は下記式[I]で表される化合物であり、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)は下記[II]で表される化合物である。
【化4】
【化5】
【0077】
上記一般式[I]および[II]において、R〜Rは、各々、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜30の一価炭化水素基である。炭化水素基は直鎖状でも分岐状でもよい。該一価炭化水素基としては、炭素数1〜30の直鎖状または分岐状アルキル基;炭素数2〜30のアルケニル基;炭素数4〜30のシクロアルキル基;炭素数6〜30のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。アリールアルキル基において、アルキル基の結合位置は任意である。より詳細には、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等およびこれらの分岐状アルキル基を挙げることができ、特に炭素数3〜8のアルキル基が好ましい。また、XおよびXは酸素原子または硫黄原子であり、YおよびYは酸素原子または硫黄原子である。
【0078】
本発明の摩擦調整剤として、硫黄を含まない有機モリブデン化合物も使用できる。該有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩等が挙げられる。中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩及びアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0079】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するモリブデン化合物としては、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸アルカリ金属塩(MMoO;Mはアルカリ金属を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NHMoO又は(NH[Mo24]・4HO)、MoCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらのモリブデン化合物の中でも、モリブデン−アミン錯体の収率の点から、6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、及びモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0080】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物は、特に制限されない。例えば、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。さらに詳細には、炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン、及び炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン、炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン、炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン、またジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン、上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物、また、これらの化合物のアルキレンオキシド付加物、及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0081】
上記モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、最も好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−アミン錯体におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0082】
モリブデン−コハク酸イミド錯体としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示した硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。コハク酸イミドとしては、後述する無灰分散剤の項で述べる炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドあるいはその誘導体や、炭素数4〜39、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数30を超え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0083】
有機酸のモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示したモリブデン酸化物、或いはモリブデン水酸化物、モリブデン炭酸塩又はモリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、上記一般式(6)又は(7)で表されるリン化合物及びカルボン酸が好ましい。また、カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
【0084】
一塩基酸としては、炭素数が通常2〜30、好ましくは4〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また、飽和のものでも不飽和のものでもよく、飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。また、一塩基酸として上記脂肪酸の他に、単環又は多環カルボン酸(水酸基を有していてもよい)を用いてもよく、その炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは7〜30である。単環又は多環カルボン酸としては、炭素数1〜30、好ましくは炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を0〜3個、好ましくは1〜2個有する芳香族カルボン酸又はシクロアルキルカルボン酸等が挙げられる。
【0085】
多塩基酸としては、二塩基酸、三塩基酸、四塩基酸等が挙げられる。多塩基酸は鎖状多塩基酸、環状多塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状多塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。鎖状多塩基酸としては、炭素数2〜16の鎖状二塩基酸が好ましく挙げられる。
【0086】
アルコールのモリブデン塩としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示した硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられ、アルコールは1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステル若しくは部分エーテル化合物、水酸基を有する窒素化合物(アルカノールアミン等)等のいずれであってもよい。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。水酸基を有する窒素化合物としては、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示されたアルカノールアミン、並びに当該アルカノールのアミノ基がアミド化されたアルカノールアミド(ジエタノールアミド等)等が挙げられ、中でもステアリルジエタノールアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ヒドロキシエチルラウリルアミン、オレイン酸ジエタノールアミド等が好ましい。
【0087】
さらに本発明の摩擦調整剤として、米国特許第5,906,968号に記載されている三核モリブデン化合物も用いることができる。
【0088】
潤滑油組成物中の摩擦調整剤の量は、組成物中に含まれるモリブデンの量が、上述した特定範囲を満たすような量であればよい。また、モリブデンジチオホスフェート(MoDTP)を使用する場合は、潤滑油組成物中に含まれるリン量の合計が上述した特定範囲を満たすような量とする。
【0089】
[D]無灰分散剤
本発明の潤滑油組成物は無灰分散剤を含有することにより清浄性を確保できる。無灰分散剤としては、炭素数40〜500、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、或いはモノ又はビスコハク酸イミド(例えば、アルケニルコハク酸イミド)、炭素数40〜500のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、或いは炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、或いはこれらのホウ素化合物、カルボン酸、リン酸等による変成品等が挙げられる。これらの中から任意に選ばれる1種類又は2種類以上を配合することができる。特に本発明においては、アルケニルコハク酸イミドを含有することが好ましい。
【0090】
上記コハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜500のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンが例示できる。上記無灰分散剤として例示した含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30の、脂肪酸等のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物は、上述の基油と併用することで耐熱性を更に向上させることができる。
【0091】
本発明の潤滑油組成物における上記無灰分散剤の含有割合は、組成物全量基準で、窒素量として、通常0.005〜0.4質量%、好ましくは0.01〜0.3質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%、最も好ましくは0.02〜0.15質量%であるのがよい。また、無灰分散剤として、ホウ素含有無灰分散剤を、ホウ素を含有しない無灰分散剤と混合して使用することもできる。また、ホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、その含有割合は特に制限はないが、組成物中に含まれるホウ素量が、組成物全量基準で、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.003〜0.05質量%、最も好ましくは0.005〜0.04質量%であるのがよい。
【0092】
無灰分散剤の数平均分子量(Mn)は、2000以上であることが好ましく、より好ましくは2500以上、より一層好ましくは3000以上、最も好ましくは5000以上であり、また、15000以下であることが好ましい。無灰分散剤の数平均分子量が上記下限値未満では、分散性が十分でない可能性がある。一方、無灰分散剤の数平均分子量が上記上限値を超えると、粘度が高すぎ、流動性が不十分となり、デポジット増加の原因となる。
【0093】
[E]粘度指数向上剤
本発明の潤滑油組成物に含むことができる上記以外の添加剤として、粘度指数向上剤が挙げられる。該粘度指数向上剤としては例えば、ポリメタアクリレート、分散型ポリメタアクリレート、オレフィンコポリマー(ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン共重合体)、分散型オレフィンコポリマー、ポリアルキルスチレン、スチレン−ブタジエン水添共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、星状イソプレン等を含むものが挙げられる。
【0094】
粘度指数向上剤は通常上記ポリマーと希釈油とから成る。本発明の潤滑油組成物における粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で、ポリマー量として好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.02〜10質量%、最も好ましくは0.05〜5質量%である。粘度指数向上剤の含有量が上記下限値より少なくなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化する恐れがある。一方、上記上限値よりも多くなると、粘度温度特性や低温粘度特性が悪化する恐れがあり、更には、製品コストが大幅に上昇する。
【0095】
その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物は、その性能を向上させるために、目的に応じてその他の添加剤をさらに含有することができる。その他の添加剤としては一般的に潤滑油組成物に使用されているものを使用できるが、例えば、酸化防止剤、上記[B]成分以外の摩耗防止剤(又は極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0096】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。酸化防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1〜5質量%で配合される。
【0097】
上記[B]成分以外の摩耗防止剤(又は極圧剤)としては、潤滑油組成物に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用できる。具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。該摩耗防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.1〜5質量%で配合される。
【0098】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。上記防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。腐食防止剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜5質量%で配合される。
【0099】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。流動点降下剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配合される。
【0100】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。抗乳化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜5質量%で配合される。
【0101】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、β−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。金属不活性化剤は、通常、潤滑油組成物中に0.01〜3質量%で配合される。
【0102】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜10万mm/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。消泡剤は、通常、潤滑油組成物中に0.001〜1質量%で配合される。
【実施例】
【0103】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0104】
潤滑油組成物の調製
以下に示す各成分を表1〜3に記載の組成(全成分の合計質量(100質量%)に対する質量%)で混合することにより潤滑油組成物No.1〜29を調製した。
[潤滑油基油]
基油の量は、該基油により潤滑油組成物の全量を100質量%とする量(残部)である。
・基油1:水素化分解基油(鉱油)、粘度指数:125、100℃動粘度:4mm/s
・基油2:水素化分解基油(鉱油)、粘度指数:135、100℃動粘度:4mm/s
・基油3:水素化分解基油(鉱油)とポリ−α−オレフィンの混合物、粘度指数:125、100℃動粘度:4mm/s
[添加剤]
[A]金属清浄剤
金属清浄剤は、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム及びマグネシウムの量が表1〜3に記載の量となるように配合した。
・金属清浄剤1:カルシウムスルフォネート(全塩基価300mgKOH/g、カルシウム含有量12質量%)
・金属清浄剤2:カルシウムサリシレート(全塩基価350mgKOH/g、カルシウム含有量13質量%)
・金属清浄剤3:カルシウムサリシレート(全塩基価60mgKOH/g、カルシウム含有量2質量%)
・金属清浄剤4:マグネシウムスルフォネート(全塩基価400mgKOH/g、マグネシウム含有量9質量%)
・金属清浄剤5:カルシウムフェネート(全塩基価260mgKOH/g、カルシウム含有量9質量%)
・金属清浄剤6:マグネシウムサリシレート(全塩基価340mgKOH/g、マグネシウム含有量8質量%)
[B]摩耗防止剤
摩耗防止剤は、潤滑油組成物中に含まれるリンの量が表1〜3に記載の量となるように配合した。
・摩耗防止剤1:sec−ZnDTP(第二級アルキルタイプ、C3、C6、P含有量8質量%)
・摩耗防止剤2:pri−ZnDTP(第一級アルキルタイプ、C8)とsec−ZnDTP(第二級アルキルタイプ、C3、C6)の混合物(P含有量8質量%)
[C]摩擦調整剤
摩擦調整剤は、潤滑油組成物中に含まれるモリブデンの量が表1〜3に記載の量となるように配合した。
・摩擦調整剤1:MoDTC(Mo含有量10質量%、S含有量11質量%)
・摩擦調整剤2:アルキルチオカルバミドモリブデン錯体(Mo含有量6質量%、S含有量10質量%)
[D]無灰分散剤
無灰分散剤は、潤滑油組成物中に含まれる窒素の量が表1〜3に記載の量となるように配合した。
・無灰分散剤1:ホウ素変性ポリイソブテニルコハク酸イミド(窒素含有量1.7質量%、ホウ素含有量0.4質量%、無灰分散剤の数平均分子量(Mn)6,000)
・無灰分散剤2:非ホウ素変性ポリイソブテニルコハク酸イミド(窒素含有量1.2質量%、無灰分散剤の数平均分子量(Mn)6,000)
・無灰分散剤3:ホウ素変性ポリイソブテニルコハク酸イミド(窒素含有量2.1質量%、ホウ素含有量0.02質量%、無灰分散剤の数平均分子量(Mn)3,000)
[E]粘度指数向上剤
粘度指数向上剤は、潤滑油組成物中に含まれる下記ポリマーの量が表1〜3に記載の量となるように配合した。
・粘度指数向上剤1: オレフィンコポリマー(Mw 200,000)の含有量が10重量%
・粘度指数向上剤2: ポリメタアクリレート(Mw 300,000)の含有量が20重量%
[その他の添加剤]
・酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤を含むパッケージ
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
[第一の発明について]
[実施例1〜20及び比較例1〜9]
上記で得た潤滑油組成物No.1〜29各々について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、マグネシウムの濃度(質量%)[Mg]、モリブデンの濃度(質量%)[Mo]、リンの濃度(質量%)[P]、及び無灰分散剤に由来する窒素濃度(質量%)[N]を、下記式(1)〜(3)に当てはめた。得られたX、Y、及びZの値を表4〜6に記載する。
式(1):X=([Ca]+0.5[Mg])×8−[Mo]×8−[P]×30
式(2):Y=[Ca]+1.65[Mg]+[N]
式(3):Z=[N]/([Ca]+[Mg])
【0109】
低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定
潤滑油組成物No.1〜29各々を使用し、直列4気筒の過給ガソリン直噴エンジンを用い、1800回転、スロットル全開条件にて、各気筒に装着した燃焼圧センサを用いて1時間に発生するLSPIの回数を測定した。比較例1の潤滑油組成物(No.21)にて発生したLSPIの回数を1.0(基準)として算出したLSPI発生頻度(相対値)を表4〜6に記載する。LSPI発生頻度が基準油(比較例1)の発生頻度の3分の1以下のものを合格とした。結果を表4〜6に示す。
【0110】
ホットチューブテスト(高温清浄性の評価)
潤滑油組成物No.1〜29各々について、JPI−5S−55−99に準拠してホットチューブテストを行った。試験方法の詳細を以下に記載する。
内径2mmのガラス管中に、潤滑油組成物を0.3ミリリットル/時で、空気を10ミリリットル/秒で、ガラス管の温度を280℃に保ちながら16時間流し続けた。ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較し、透明の場合は10点、黒の場合は0点として評点を付けた。評点が高いほど高温清浄性が良いことを示す。評点が3.5以上のものを合格とした。結果を表4〜6に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
潤滑油組成物No.1〜20は、表4及び5に示す通り、潤滑油組成物中に含まれる、カルシウム、マグネシウム、リン、モリブデン、及び窒素の濃度(質量%)が、上記した第一の発明の要件を満たす。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性、特には高温清浄性を確保することができる。これに対し、潤滑油組成物No.21〜29は、表6に示す通り、上記した第一の発明の要件を満たさない。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度の低下と清浄性の確保を両立することができない。
【0115】
[第二の発明について]
潤滑油組成物30〜32の調製
上記した基油及び添加剤を下記表7に記載の組成(全成分の合計質量(100質量%)に対する質量%)で混合することにより、潤滑油組成物No.30〜32を調製した。
【0116】
【表7】
【0117】
[実施例21〜34、比較例10〜18、及び参考例1〜8]
上記で調整した潤滑油組成物No.1〜32各々について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、及びマグネシウムの濃度(質量%)[Mg]を、下記式(4)及び(5)に当てはめた。得られたQ及びWの値を表8〜10及び表12〜13に記載する。
式(4):Q=[Ca]+0.05[Mg]
式(5):W=[Ca]+1.65[Mg]
【0118】
防錆性の評価
潤滑油組成物No.1〜32各々について、ASTM−D6557に準拠してBall Rust test(BRT)を行い、防錆性を評価した。測定により得られた平均グレー値が高いほど錆の形成が少ないことを示す。得られた値が100以上を合格とした。結果を表8〜10及び表12〜13に示す。
【0119】
硫酸灰分量の測定
潤滑油組成物No.1〜32各々について、JIS K 2272「原油及び石油製品―灰分及び硫酸灰分試験方法」に準拠して、硫酸灰分量(質量%)を測定した。硫酸灰分量の値が3質量%以下を合格とした。結果を表8〜10及び表12〜13に示す。
【0120】
低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定及びホットチューブテスト
潤滑油組成物No.30〜32について、上記した方法により、低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定及びホットチューブテストを行った。結果を表10に示す。
【0121】
【表8】
【0122】
【表9】
【0123】
【表10】
【0124】
潤滑油組成物No.5〜7、11〜16、19、20、及び30〜32は、表8〜10に示す通り、潤滑油組成物中のマグネシウム及びカルシウムの濃度(質量%)が、上記した第二の発明の要件を満たす。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度が低く、且つ、防錆性を確保することができる。
【0125】
尚、潤滑油組成物No.5〜7、11〜16、19、及び20は、上記表4及び5に示す通り、潤滑油組成物中に含まれるカルシウム、マグネシウム、リン、モリブデン、及び窒素の濃度(質量%)が、上記した第一の発明の要件も満たす。従って、当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度が低く、清浄性を確保でき、且つ、防錆性を確保することもできる。すなわち本発明の第一の発明の課題に加え第二の発明の課題も達成する潤滑油組成物である。
【0126】
また、潤滑油組成物No.30〜32について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、マグネシウムの濃度(質量%)[Mg]、モリブデンの濃度(質量%)[Mo]、リンの濃度(質量%)[P]、及び無灰分散剤に由来する窒素濃度(質量%)[N]を、上記式(1)〜(3)に当てはめた。得られたX、Y、及びZの値を表11に記載する。
【0127】
【表11】
【0128】
表11に記載する通り、潤滑油組成物No.30〜32は、式(1)で求められるXの値がX>−0.85である潤滑油組成物である。即ち、上記した第一の発明の要件は満たさない。潤滑油組成物No.30〜32は、表10に示す通り、潤滑油組成物中のマグネシウム及びカルシウムの濃度(質量%)が、上記した第二の発明の要件を満たすため、LSPI発生頻度が低く、且つ、防錆性を確保することができる。
【0129】
【表12】
【0130】
【表13】
【0131】
潤滑油組成物No.21〜29は、表12に示す通り、上記式(4)で示されるQ、及び上記式(5)で示されるWの少なくとも一方が第二の発明の要件を満たさない。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度の低下と防錆性の確保を両立することができない。
【0132】
潤滑油組成物No.1、2、4、8〜10、17及び18は、表4及び5に示す通り第一の発明の要件は満たすが、表13に示す通り第二の発明の要件を満たさない。当該潤滑油組成物は、LSPI発生頻度が低く、かつ清浄性は良好であるが、防錆性に劣る。すなわち、本発明の第一の発明の課題は達成されるが、第二の発明の課題は達成されない。
【0133】
[参考例9〜11]
上記した基油及び添加剤を下記表14に記載の組成(質量%)で混合することにより潤滑油組成物No.33〜35を調製した。
【0134】
【表14】
【0135】
上記潤滑油組成物No.33〜35について、潤滑油組成物中のカルシウムの濃度(質量%)[Ca]、マグネシウムの濃度(質量%)[Mg]、リンの濃度(質量%)[P]、モリブデンの濃度(質量%)[Mo]及び窒素の濃度(質量%)[N]を、上記式(1)〜(5)に当てはめた。得られたX、Y、Z、Q及びWの値を下記表15に記載する。これらの潤滑油組成物について、上述した方法により低速プレイグニッション(LSPI)頻度の測定、ホットチューブテスト、防錆性評価、及び硫酸灰分量測定を行った。結果を下記表15に記載する。
【0136】
【表15】
【0137】
潤滑油組成物No.33〜35は、表15に示す通り、LSPI発生頻度が低く清浄性及び防錆性が良好であるが、マグネシウムの量が多すぎることにより潤滑油組成物中の硫酸灰分の量が規定量を超えている。従って本発明の潤滑油組成物として好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0138】
上記した第一の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、清浄性、特には高温清浄性を確保することができる。また、上記した第二の発明の要件を満たす潤滑油組成物は、LSPI発生頻度を低下することができ、且つ、防錆性を確保することができる。これら本発明の潤滑油組成物は、特には内燃機関用の潤滑油組成物として、さらに特には過給ガソリンエンジン用の潤滑油組成物として好適に使用できる。
図1