特許第6134889号(P6134889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6134889シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム架橋体ならびに一体成形体および一体成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6134889
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム架橋体ならびに一体成形体および一体成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/04 20060101AFI20170522BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20170522BHJP
   B29C 39/12 20060101ALI20170522BHJP
   B32B 25/08 20060101ALI20170522BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170522BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20170522BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C08L83/04
   C08K9/10
   B29C39/12
   B32B25/08
   B32B27/00
   C09J11/00
   C09J183/04
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-552072(P2016-552072)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2015077546
(87)【国際公開番号】WO2016052521
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2016年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-199021(P2014-199021)
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-239081(P2014-239081)
(32)【優先日】2014年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599022317
【氏名又は名称】株式会社住理工ファインエラストマー
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】山岡 竜介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智志
(72)【発明者】
【氏名】深川 繁
(72)【発明者】
【氏名】関 智仁
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−068659(JP,A)
【文献】 特開平06−157913(JP,A)
【文献】 特開2006−159819(JP,A)
【文献】 特開平04−023867(JP,A)
【文献】 特開平04−053873(JP,A)
【文献】 特開平04−053874(JP,A)
【文献】 特開平02−117960(JP,A)
【文献】 特開昭64−045468(JP,A)
【文献】 特開平02−014244(JP,A)
【文献】 特開平03−139564(JP,A)
【文献】 特開2002−012768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/04
C08K 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有し、前記(c)の樹脂が、前記架橋触媒の存在下で熱硬化する熱硬化性樹脂であり、前記(a)オルガノポリシロキサンおよび前記(c)の樹脂の熱硬化温度よりも低い温度で軟化する樹脂であることを特徴とするシリコーンゴム組成物。
【請求項2】
前記(c)の樹脂が、ガラス転移点温度が25〜130℃の範囲内にある樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項3】
さらに、(d)接着付与剤、を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項4】
前記(d)接着付与剤は、アルコキシシリル基、ヒドロシリル基、シラノール基のいずれか1種または2種以上を有する化合物であることを特徴とする請求項3に記載のシリコーンゴム組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物の架橋体からなることを特徴とするシリコーンゴム架橋体。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載のシリコーンゴム組成物が熱可塑性樹脂成形体の表面処理された面に接触した状態で硬化したものからなるシリコーンゴム成形体を有し、前記熱可塑性樹脂成形体と該熱可塑性樹脂成形体に接する前記シリコーンゴム成形体の一体成形体であることを特徴とする一体成形体。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂成形体に施された表面処理は、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理、エキシマ処理、フレーム処理のいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項6に記載の一体成形体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体のいずれか1種または2種以上であることを特徴とする請求項6または7に記載の一体成形体。
【請求項9】
請求項6から8のいずれか1項に記載の一体成形体の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂成形体に表面処理を行う表面処理工程と、
(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有し、前記(c)の樹脂が、前記架橋触媒の存在下で熱硬化する熱硬化性樹脂であり、前記(a)オルガノポリシロキサンおよび前記(c)の樹脂の熱硬化温度よりも低い温度で軟化する樹脂であるシリコーンゴム組成物を、前記熱可塑性樹脂成形体の表面処理された面に接触させて硬化することによりシリコーンゴム成形体を形成するシリコーンゴム成形工程と、を有することを特徴とする一体成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴム組成物およびシリコーンゴム架橋体ならびに一体成形体および一体成形体の製造方法に関し、さらに詳しくは、貯蔵安定性に優れるシリコーンゴム組成物およびこれを用いて得られたシリコーンゴム架橋体ならびに一体成形体および一体成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、加熱硬化性有機重合体組成物において、硬化前の保存安定性を確保するために、架橋触媒を含有させた熱可塑性樹脂の微粒子からなる熱可塑性樹脂微粒子触媒を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−159896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の加熱硬化性有機重合体組成物は、加熱硬化後にも、熱可塑性樹脂微粒子触媒に含まれる熱可塑性樹脂が架橋されない状態で含まれる。このため、組成物の圧縮永久歪を悪化させる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、貯蔵安定性および硬化後の圧縮永久歪に優れるシリコーンゴム組成物およびこれを用いて得られたシリコーンゴム架橋体ならびに一体成形体および一体成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係るシリコーンゴム組成物は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有し、前記(c)の樹脂が、前記架橋触媒の存在下で、あるいは、前記架橋触媒の非存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂であることを要旨とするものである。
【0007】
前記(c)の樹脂は、前記架橋触媒の存在下で熱硬化する熱硬化性樹脂であることが好ましい。前記(c)の樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種以上であることが好ましい。前記(c)の樹脂は、ガラス転移点温度が25〜130℃の範囲内にある樹脂であることが好ましい。本発明に係るシリコーンゴム組成物は、さらに、(d)接着付与剤、を含有することが好ましい。前記(d)接着付与剤は、アルコキシシリル基、ヒドロシリル基、シラノール基のいずれか1種または2種以上を有する化合物であることが好ましい。
【0008】
そして、本発明に係るシリコーンゴム架橋体は、上記のシリコーンゴム組成物の架橋体からなることを要旨とするものである。
【0009】
そして、本発明に係る一体成形体は、上記のシリコーンゴム組成物が熱可塑性樹脂成形体の表面処理された面に接触した状態で硬化したものからなるシリコーンゴム成形体を有し、前記熱可塑性樹脂成形体と該熱可塑性樹脂成形体に接する前記シリコーンゴム成形体の一体成形体であることを要旨とするものである。
【0010】
前記熱可塑性樹脂成形体に施された表面処理は、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理、エキシマ処理、フレーム処理のいずれか1種または2種以上であることが好ましい。前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体のいずれか1種または2種以上であることが好ましい。
【0011】
そして、本発明に係る一体成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂成形体と該熱可塑性樹脂成形体に接するシリコーンゴム成形体の一体成形体の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂成形体に表面処理を行う表面処理工程と、(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有し、前記(c)の樹脂が、前記架橋触媒の存在下で、あるいは、前記架橋触媒の非存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂であるシリコーンゴム組成物を、前記熱可塑性樹脂成形体の表面処理された面に接触させて硬化することによりシリコーンゴム成形体を形成するシリコーンゴム成形工程と、を有することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシリコーンゴム組成物によれば、(c)の架橋触媒が(c)の樹脂微粒子中に含まれるため、熱硬化前には、(a)オルガノポリシロキサンや(b)架橋剤への(c)の架橋触媒の接触が抑えられ、貯蔵安定性に優れる。そして、(c)の樹脂が、架橋触媒の存在下で、あるいは、架橋触媒の非存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂であり、(a)オルガノポリシロキサンの熱硬化時に(c)の樹脂も熱硬化するため、硬化後の圧縮永久歪に優れる。
【0013】
そして、本発明に係る一体成形体および一体成形体の製造方法によれば、シリコーンゴム組成物の架橋触媒がマイクロカプセル型であるため、貯蔵安定性と低温成形性を両立する。そして、シリコーンゴム組成物がマイクロカプセル型架橋触媒とともに接着付与剤を含有するものの、このシリコーンゴム組成物を熱可塑性樹脂成形体の表面処理された面に接触させて硬化するため、熱可塑性樹脂成形体とシリコーンゴム成形体の接着性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】樹脂微粒子の樹脂が不飽和ポリエステルであり、図1(a)は、触媒非含有樹脂微粒子のDSCチャートであり、図1(b)は、マイクロカプセル型触媒(触媒含有樹脂微粒子)のDSCチャートである。
図2】樹脂微粒子の樹脂がポリビニルブチラールであり、図2(a)は、触媒非含有樹脂微粒子のDSCチャートであり、図2(b)は、マイクロカプセル型触媒(触媒含有樹脂微粒子)のDSCチャートである。
図3】樹脂微粒子の樹脂がエポキシ樹脂であり、図3(a)は、触媒非含有樹脂微粒子のDSCチャートであり、図3(b)は、マイクロカプセル型触媒(触媒含有樹脂微粒子)のDSCチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る一体成形体の断面図である。
図5】(c)マイクロカプセル型白金触媒と(d)接着付与剤との間の相互作用と、熱可塑性樹脂成形体12と(d)接着付与剤との間の相互作用の関係を示す模式図である。
図6】実施例において作製した一体成形体の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、(a)オルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)架橋触媒を内包する樹脂微粒子からなるマイクロカプセル型触媒、を含有する。
【0017】
(a)オルガノポリシロキサンは、(b)架橋剤により架橋される官能基を1分子中に少なくとも2個有するオルガノポリシロキサンである。(a)オルガノポリシロキサンとしては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、水酸基含有オルガノポリシロキサン、(メタ)アクリル基含有オルガノポリシロキサン、イソシアネート含有オルガノポリシロキサン、アミノ基含有オルガノポリシロキサン、エポキシ基含有オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、付加硬化型のシリコーンゴム組成物の主原料として用いられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、ヒドロシリル架橋剤との付加反応で、ヒドロシリル架橋剤により架橋される。この付加反応は、室温でも進行するが、加熱条件下において促進される。この付加反応による熱硬化を行う温度は、通常、100℃超であり、好ましくは100〜170℃の範囲内である。この付加反応には、ヒドロシリル化触媒としての白金触媒が好適に用いられる。アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。
【0018】
オルガノポリシロキサンは、有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β−フェニルエチル基、β−フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、有機基としてメチル基を有するものが、合成のしやすさ等から多用される。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましいが、分岐状もしくは環状のものであっても良い。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などが挙げられる。
【0019】
(b)架橋剤は、(a)オルガノポリシロキサンを架橋する架橋剤である。(b)架橋剤としては、ヒドロシリル架橋剤、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤などが挙げられる。ヒドロシリル架橋剤は、付加硬化型のシリコーンゴム組成物の架橋剤として用いられる。ヒドロシリル架橋剤は、その分子構造中にヒドロシリル基(SiH基)を有する。ヒドロシリル架橋剤は、ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)である。分子構造中におけるヒドロシリル基の数としては、特に限定されるものではないが、硬化速度に優れる、安定性に優れるなどの観点から、2〜50の範囲内であることが好ましい。分子構造中にヒドロシリル基を2以上有する場合には、ヒドロシリル基は異なるSiに存在することが好ましい。ポリシロキサンは、鎖状のものでも良いし、環状のものでも良い。ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有することが好ましい。ヒドロシリル架橋剤は、取り扱い性に優れるなどの観点から、数平均分子量200〜30000の範囲内であることが好ましい。
【0020】
ヒドロシリル基含有オルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)として、具体的には、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とから成る共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0021】
(b)架橋剤の配合量は、特に限定されるものではないが、通常、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲とされる。
【0022】
(c)の架橋触媒は、(b)架橋剤による(a)オルガノポリシロキサンの架橋反応を促進する触媒である。(c)の架橋触媒としては、ヒドロシリル化触媒としての白金触媒、ルテニウム触媒、ロジウム触媒などが挙げられる。白金触媒としては、微粒子状白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
(c)の樹脂は、(c)の架橋触媒をマイクロカプセル化するためのものであり、(c)の架橋触媒は(c)の樹脂に内包される。架橋触媒を内包する樹脂は微粒子状とされる。微粒子は、少なくとも室温において固体であり、平均粒子径が30μm以下である。平均粒子径は、レーザー顕微鏡により測定される。(c)の樹脂微粒子の平均粒子径は、架橋触媒の分散性を高めるなどの観点から、10μm以下であることが好ましい。より好ましくは5μm以下である。また、作製時の微粒子回収率を高めるなどの観点から、0.1μm以上であることが好ましい。より好ましくは2μm以上である。
【0024】
(c)の樹脂は、(c)の架橋触媒の存在下で、あるいは、(c)の架橋触媒の非存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂であることは、DSC測定(示差走査熱量測定)において樹脂の硬化を示す発熱ピークが観測されることにより確認することができる。(c)の架橋触媒の非存在下で熱硬化する熱硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂が単独で熱硬化する樹脂と、硬化剤により熱硬化する樹脂とがあり、いずれも含まれる。
【0025】
(c)の架橋触媒の存在下で、あるいは、(c)の架橋触媒の非存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、アルキド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。不飽和ポリエステル樹脂は、構成分子の主鎖にエステル結合と不飽和結合(炭素−炭素二重結合)を有する樹脂である。これらは、(c)の樹脂として1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの樹脂のうちでは、シリコーンゴムの硬化を阻害しない分子組成からなる樹脂などの観点から、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂がより好ましい。
【0026】
不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂は、白金触媒の存在下で、熱硬化する。このような白金触媒としては、ヒドロシリル化触媒としての白金触媒として例示したものが挙げられる。つまり、これらの樹脂は、(c)の架橋触媒の存在下で熱硬化する熱硬化性樹脂である。また、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、エポキシ樹脂は、硬化剤を用いて硬化させることができる。つまり、これらの樹脂は、(c)の架橋触媒の非存在下で熱硬化する熱硬化性樹脂である。この硬化剤は、(c)の架橋触媒とともに、あるいは、(c)の架橋触媒とは別に、(c)の樹脂微粒子に内包される。この硬化剤は、(a)オルガノポリシロキサンの硬化を阻害しないものであることが好ましい。
【0027】
不飽和ポリエステル樹脂の硬化剤としては、エポキシ樹脂などが挙げられる。ポリビニルブチラール樹脂の硬化剤としては、第2級水酸基と反応する樹脂または第2級水酸基と反応する化合物が用いられる。ポリビニルブチラール樹脂の硬化剤としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ジアルデヒド化合物、無水フタル酸などが挙げられる。エポキシ樹脂の硬化剤としては、フェノール類、フェノール樹脂、酸無水物などが挙げられる。例示する樹脂あるいは化合物は、いずれも(a)オルガノポリシロキサンの硬化を阻害しないものである。
【0028】
(c)の樹脂は、熱硬化性樹脂であるが、(a)オルガノポリシロキサンの熱硬化時に熱硬化するものがよい。(a)オルガノポリシロキサンが、上記付加反応により熱硬化するものであり、通常温度で熱硬化する場合には、(c)の樹脂は、100〜170℃の範囲内で熱硬化することが好ましい。
【0029】
(c)の樹脂は、(a)オルガノポリシロキサンおよび(c)の樹脂の熱硬化温度よりも低い温度で軟化する樹脂である。熱硬化温度にもよるが、(c)の樹脂のTg(ガラス転移点温度)は、130℃以下であることが好ましい。より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。そして、(c)の樹脂は、室温で固体であることから、(c)の樹脂のTgは室温(25℃)以上であることが好ましい。また、硬化前において(c)の架橋触媒を(c)の樹脂中に止めて貯蔵安定性を確保するなどの観点から、(c)の樹脂のTgは40℃以上であることが好ましい。より好ましくは50℃以上である。
【0030】
(c)マイクロカプセル型触媒は、従来公知の方法で製造することができる。生産性、球状度などの観点から、懸濁重合法、乳化重合法、液中乾燥法などが好ましい。
【0031】
懸濁重合法や乳化重合法により製造する場合、架橋触媒を固体状の芯物質とし、これを溶解しない有機溶媒中に分散させ、この分散液中でモノマーを懸濁重合法や乳化重合法などの重合法により重合させることにより、芯物質の表面を重合体が被覆する。これにより、架橋触媒が樹脂微粒子に内包されてなるマイクロカプセル型触媒が得られる。
【0032】
液中乾燥法により製造する場合、架橋触媒、カプセル化する樹脂を水に不溶の有機溶剤に溶解させ、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下しエマルションを作製する。その後、減圧し有機溶剤を除去した後、ろ過によりカプセル化触媒を得る。
【0033】
(c)マイクロカプセル型触媒における架橋触媒の含有量は、十分に樹脂に覆われて優れた貯蔵安定性を確保できる観点から、50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは24質量%以下である。また、優れた触媒活性を確保する観点から、2質量%以上であることが好ましい。より好ましくは12質量%以上である。
【0034】
組成物における(c)マイクロカプセル型触媒の含有量は、(c)マイクロカプセル型触媒における架橋触媒の含有量にもよるが、(c)マイクロカプセル型触媒における架橋触媒の含有量が上記の所定範囲内である場合には、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.01〜5.0質量部の範囲内とすることができる。また、架橋触媒が金属触媒である場合には、金属量に換算して、通常、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して1ppm〜1.0質量部の範囲とされる。
【0035】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、上記の(a)〜(c)に加え、必要に応じて、本発明およびシリコーンゴムの物性を阻害しない範囲で、充填剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤、導電剤、帯電防止剤などの一般的な添加剤が添加されていても良い。充填剤としては、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、湿式シリカ、ヒュームド酸化チタンなどの補強性充填剤が挙げられる。本発明に係るシリコーンゴム組成物は、上記の(a)〜(c)を含む各成分を混合することにより調製することができる。
【0036】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、成形性などの観点から、室温において液状であることが好ましい。このため、少なくとも(a)オルガノポリシロキサンは、室温において液状であることが好ましい。また、(a)オルガノポリシロキサンおよび(b)架橋剤のいずれも室温において液状であることが好ましい。
【0037】
以上の構成の本発明に係るシリコーンゴム組成物によれば、(c)の架橋触媒が(c)の樹脂中に含まれるため、熱硬化前には、(a)オルガノポリシロキサンや(b)架橋剤への(c)の架橋触媒の接触が抑えられ、貯蔵安定性に優れる。そして、(c)の樹脂が、架橋触媒の存在下で、あるいは、架橋触媒の非存在下で、熱硬化する熱硬化性樹脂であり、(a)オルガノポリシロキサンの熱硬化時に(c)の樹脂も熱硬化するため、硬化後の圧縮永久歪に優れる。
【0038】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、熱硬化により、シリコーンゴム架橋体を形成する。本発明に係るシリコーンゴム架橋体は、本発明に係るシリコーンゴム組成物の架橋体からなる。
【0039】
本発明に係るシリコーンゴム組成物は、熱硬化後において、25%圧縮時の圧縮永久歪が、150℃×70時間試験において40%以下であり、175℃×22時間試験において60%以下であることが好ましい。圧縮永久歪は、JIS K6262に準拠して測定される。
【0040】
次に、本発明の一実施形態に係る一体成形体について詳細に説明する。
【0041】
図4は、本発明の一実施形態に係る一体成形体を示している。一体成形体10は、熱可塑性樹脂成形体12とシリコーンゴム成形体14の一体成形体である。熱可塑性樹脂成形体12とシリコーンゴム成形体14は、互いに接しており、その接触界面において接着している。シリコーンゴム成形体14は、シリコーンゴム組成物を熱可塑性樹脂成形体12の表面処理された面に接触させて硬化することにより形成している。
【0042】
シリコーンゴム成形体14に用いるシリコーンゴム組成物は、本発明に係るシリコーンゴム組成物である。本発明に係るシリコーンゴム組成物は、さらに、(d)接着付与剤、を含有してもよい。
【0043】
(d)接着付与剤は、シリコーンゴム組成物の硬化時に、熱可塑性樹脂成形体12の表面にシリコーンゴム組成物を十分に接着させるものである。(d)接着付与剤は、熱可塑性樹脂成形体12の表面に現れる官能基と結合などの相互作用をする官能基を有する化合物からなる。このような官能基としては、アルコキシシリル基、ヒドロシリル基、シラノール基などが挙げられる。したがって、(d)接着付与剤としては、アルコキシシリル基、ヒドロシリル基、シラノール基のいずれか1種または2種以上を有する化合物が挙げられる。
【0044】
アルコキシシリル基を有する化合物としては、シランカップリング剤などが挙げられる。シランカップリング剤は、分子中に2個以上の異なった官能基を有するシラン系化合物であり、シランカップリング剤が有するアルコキシシリル基以外の官能基としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、(メタ)アクリル基などが挙げられる。
【0045】
(d)接着付与剤としては、具体的には、p−スチリルトリメトキシシラン、フェニルトリ(ジメチルシロキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリヒドロキシシランなどが挙げられる。
【0046】
(d)接着付与剤の配合量は、熱可塑性樹脂成形体12との接着性に優れるなどの観点から、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましい。より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。一方、成形中の金型への接着、圧縮永久歪等のゴム特性の悪化などの観点から、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0047】
シリコーンゴム組成物は、熱可塑性樹脂成形体12との一体成形を行うことから、低温成形を行うことが好ましい。成形温度としては、130℃以下が好ましい。より好ましくは110℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。シリコーンゴム組成物の成形温度を130℃以下とすることで、熱可塑性樹脂成形体12のバリ、変形といった不良を減らすことができる。また、成形温度を下げることで、成形工程のエネルギー費を下げることができる。
【0048】
ここで、シリコーンゴム組成物において、(c)マイクロカプセル型触媒と(d)接着付与剤とを併用すると、熱可塑性樹脂成形体12との接着性が満足できないという問題がある。これは、両者が反応などの相互作用をすることで、(d)接着付与剤の接着性付与機能が低下するためである。(c)の架橋触媒を内包するために用いられる(c)の樹脂が、ヒドロキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、エーテル基、フェニル基、置換フェニル基などを含有する樹脂であると、(d)接着付与剤との相互作用が強い。また、(c)の樹脂がポリエステル、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、テルペン樹脂のいずれかであり、(d)接着付与剤がp−スチリルトリメトキシシラン、フェニルトリ(ジメチルシロキシ)シランビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリヒドロキシシランであると、(d)接着付与剤の接着性付与機能の低下が顕著である。このため、熱可塑性樹脂とシリコーンゴムの一体成形において、接着性付与成分とマイクロカプセル型触媒を併用することは、当業者にとって禁忌事項となっている。
【0049】
このような課題に対し、図5に示すように、(c)マイクロカプセル型触媒と(d)接着付与剤との間の相互作用よりも、熱可塑性樹脂成形体12と(d)接着付与剤との間の相互作用が大きくなるようにすれば、禁忌事項であるにもかかわらず、(c)マイクロカプセル型触媒と(d)接着付与剤とを併用することが可能となる。このため、本発明では、熱可塑性樹脂成形体12のシリコーンゴム組成物が接触する面に表面処理を行うこととしている。表面処理を行うことにより、熱可塑性樹脂成形体12の表面における(d)接着付与剤との反応点が多くなり、(d)接着付与剤との間の相互作用が(c)マイクロカプセル型触媒よりも強くなるからである。
【0050】
熱可塑性樹脂成形体12に行う表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理、電子線処理、エキシマ処理、フレーム処理などが挙げられる。これらは、単独で行ってもよいし、2種以上の処理を組み合わせて行ってもよい。熱可塑性樹脂成形体12にこのような表面処理を行うことで、その処理方法に応じた所定の官能基が熱可塑性樹脂成形体12の表面に現れる。そして、この官能基と上記のシリコーンゴム組成物に含まれる(d)接着付与剤とが結合形成などの相互作用をすることで、熱可塑性樹脂成形体12とこれに接するシリコーンゴム組成物から形成されるシリコーンゴム成形体14はその接触界面において接着することができる。
【0051】
熱可塑性樹脂成形体12は、シリコーンゴム成形体14と一体成形するものであれば、特に限定されるものではない。その用途等に応じて適宜選択することができる。自動車用防水コネクタにおけるコネクタハウジングとしては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体などを主材料とする熱可塑性樹脂組成物を所定の形状に成形したものなどが挙げられる。上記主材料は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、熱可塑性樹脂組成物には、通常用いられる添加剤等を適宜配合することができる。これらの主材料のうちでは、寸法安定性、強度などの観点から、ポリエステル、ポリカーボネートがより好ましい。
【0052】
熱可塑性樹脂成形体12は、上記のシリコーンゴム組成物を接触させる前にその面に表面処理されていることが必要であることから、シリコーンゴム組成物を接触させる前に予め所定の形状に成形されていることが好ましい。そして、上記のシリコーンゴム組成物は、熱可塑性樹脂成形体12の表面処理された面に接触させて硬化する。
【0053】
そして、本発明に係る一体成形体の製造方法は、以上に示すように、熱可塑性樹脂成形体に表面処理を行う表面処理工程と、上記のシリコーンゴム組成物を、熱可塑性樹脂成形体の表面処理された面に接触させて硬化することによりシリコーンゴム成形体を形成するシリコーンゴム成形工程と、を有することから構成される。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0055】
〔マイクロカプセル型触媒の作製〕
白金触媒の20質量%キシレン溶液、カプセル化に用いる各被覆樹脂、ジクロロメタンを0.6:5:95の比率(質量比)で混合し、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下し、エマルションを作製した。その後、ジクロロメタンを減圧留去し、ろ過することで、被覆樹脂および白金触媒を含有する微粒子を得た。これにより、所定の平均粒子径のマイクロカプセル型触媒を作製した。なお、平均粒子径は、レーザー顕微鏡により測定した。
【0056】
白金触媒:塩化白金(IV)酸、株式会社フルヤ金属社製
被覆樹脂:
不飽和ポリエステル樹脂:ユニチカ製「UE−3350」(Tg=52℃)
ポリビニルブチラール(PVB):クラレ製「Mowital B30HH」(Tg=59℃)
エポキシ樹脂:DIC製「EPICLON 4050」(Tg=56℃)
不飽和ポリエステル樹脂:ユニチカ製「UE−9900」(Tg=105℃)
アクリル樹脂:三菱レーヨン製「アクリペット MF」(Tg=87℃)
シリコーン樹脂:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製「YR3370」(Tg=77℃)
ポリカーボネート樹脂(PC):三菱エンジニアリングプラスチックス製「ノバレックス 7020R」(Tg=123℃)
界面活性剤:Triton X−100、和光純薬工業製
【0057】
〔触媒非含有樹脂微粒子の作製〕
白金触媒の20質量%キシレン溶液を配合しなかった以外は上記のマイクロカプセル型触媒の作製方法と同様にして、触媒非含有樹脂微粒子を作製した。
【0058】
作製した触媒非含有樹脂微粒子およびマイクロカプセル型触媒(触媒含有樹脂微粒子)についてDSC測定を行った。その結果を図1〜3に示す。サンプル量は3.0〜3.7g、昇温速度は10℃/min.とした。
図1:不飽和ポリエステル樹脂、(a)触媒非含有樹脂微粒子(b)マイクロカプセル型触媒
図2:ポリビニルブチラール、(a)触媒非含有樹脂微粒子(b)マイクロカプセル型触媒
図3:エポキシ樹脂、(a)触媒非含有樹脂微粒子(b)マイクロカプセル型触媒
【0059】
不飽和ポリエステル樹脂に関し、図1から、樹脂の軟化を示す吸熱ピークが52℃に観測された。また、白金触媒の非存在下および存在下の両方で、吸熱ピークよりも高温側に樹脂の硬化を示す発熱ピークが観測された。このことから、不飽和ポリエステル樹脂は、Tgが52℃であり、白金触媒の非存在下および存在下のいずれにおいても、軟化温度より高温で熱硬化することがわかる。また、白金触媒の存在下では、120〜150℃の範囲内で熱硬化することがわかる。
【0060】
ポリビニルブチラールおよびエポキシ樹脂に関し、図2,3から、樹脂の軟化を示す吸熱ピークがそれぞれ59℃、56℃に観測された。また、白金触媒の非存在下では観測されなかったが、白金触媒の存在下で、吸熱ピークよりも高温側に樹脂の硬化を示す発熱ピークが観測された。このことから、ポリビニルブチラールおよびエポキシ樹脂は、Tgがそれぞれ59℃、56℃であり、白金触媒の存在下において、軟化温度より高温で熱硬化することがわかる。また、白金触媒の存在下では、120〜150℃の範囲内で熱硬化することがわかる。
【0061】
〔シリコーンゴム組成物の調製〕
(実施例1〜11、比較例2〜3、5〜6)
表1,2に記載の配合組成(質量部)にて、(a)オルガノポリシロキサンおよび(c)マイクロカプセル型触媒を配合後、プラネタリーミキサーにて30分混合し、次いで、(b)架橋剤を配合後、さらに30分混合し、減圧脱泡して、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製した。
【0062】
(a)オルガノポリシロキサン:液状シリコーンゴム(Gelest社製、「DMS−V35」、ビニル基含有ジメチルポリシロキサン)
(b)架橋剤:ヒドロシリル架橋剤(Gelest社製、「HMS−151」、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)
(c)マイクロカプセル型触媒
【0063】
(比較例1、4)
マイクロカプセル型触媒に代えて非マイクロカプセル型触媒(塩化白金酸、株式会社フルヤ金属社製の20質量%キシレン溶液)を用いた以外は実施例1と同様にして、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製した。
【0064】
(シリコーンゴム架橋体の作製)
表1,2に記載の成形条件(温度、時間)にて、直径29±0.5mm、厚さ6.3±0.3mmのシリコーンゴム架橋体からなる試験片を成形した。なお、試験片の二次架橋の条件は、200℃×4時間とした。
【0065】
得られたシリコーンゴム組成物について、貯蔵安定性を評価した。また、得られたシリコーンゴム架橋体からなる試験片を用いて、圧縮永久歪を測定した。結果については、表1,2に示す。
【0066】
(貯蔵安定性)
各付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製後、常温常湿で2週間放置した後の粘度(粘度計:東機産業製 TVB−10形粘度計)を測定した。粘度上昇率が50%以下のものを良好「○」とし、粘度上昇率が50%超で硬化したものを不良「×」とした。
【0067】
(圧縮永久歪の測定)
JIS K6262法(25%圧縮)に準拠し、175℃×22時間の条件で、あるいは、150℃×70時間の条件で、圧縮永久歪試験を行った。175℃×22時間の条件においては、圧縮永久歪の値が60%以下である場合を合格「○」とし、60%超である場合を不良「×」とした。150℃×70時間の条件においては、圧縮永久歪の値が40%以下である場合を合格「○」とし、40%超である場合を不良「×」とした。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
比較例1、4では、シリコーンゴム組成物において、非マイクロカプセル型触媒を用いている。このため、貯蔵安定性が満足しない。比較例2〜3、5〜6では、マイクロカプセル型触媒の被覆樹脂が熱可塑性樹脂であるため、比較例1,4と比べて圧縮永久歪が大幅に悪化している。これに対し、実施例によれば、マイクロカプセル型触媒の被覆樹脂が熱硬化性樹脂であるため、比較例1,4と比較した圧縮永久歪の悪化が抑えられている。また、マイクロカプセル型触媒を用いているため、シリコーンゴム組成物の貯蔵安定性にも優れる。
【0071】
次に、一体成形体に関する実験を行った。
【0072】
〔マイクロカプセル型白金触媒<1〜6>(MC型白金触媒<1〜6>)の作製〕
白金触媒の3質量%IPA溶液、カプセル化に用いる各被覆樹脂、ジクロロメタンを0.3:5:95の比率(質量比)で混合し、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下し、エマルションを作製した。その後、ジクロロメタンを減圧留去し、ろ過することで、被覆樹脂および白金触媒を含有する微粒子を得た。これにより、所定の平均粒子径のマイクロカプセル型触媒を作製した。白金触媒:塩化白金(IV)酸、株式会社フルヤ金属社製
被覆樹脂:
<1>:ポリエステル ユニチカ製「UE−3350」(Tg=52℃)
<2>:ポリビニルブチラール(PVB) クラレ製「Mowital B 30 HH」(Tg=63℃)
<3>:ポリスチレン(PS) ヤスハラケミカル製「YSレジンSX100」
<4>:エポキシ樹脂(EP) 三菱化学製「jER1001」(Tg=52℃)
<5>:アクリル樹脂 根上工業製「ハイパールT−8252」(Tg=81℃)
<6>:テルペン樹脂 ヤスハラケミカル製「YSレジンPX800」
界面活性剤:Triton X−100、和光純薬工業製
【0073】
(実験例1)
〔付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製〕
液状シリコーンゴム(Gelest社製、「DMS−V35」、ビニル基含有ジメチルポリシロキサン)100質量部、MC型白金触媒<1>0.8質量部(白金触媒換算で0.05質量部)、接着付与剤<1>としてp−スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業社製)1質量部を配合後、プラネタリーミキサーにて30分混合し、次いで、ヒドロシリル架橋剤(Gelest社製、「HMS−151」、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)4質量部を配合後、さらに30分混合し、減圧脱泡して、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物<1>を調製した。
【0074】
〔一体成形体の作製〕
ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ製、「トレコン1401X06」)を250℃へ温調し、100℃の金型へ注型した。その後、ポリブチレンテレフタレート樹脂のシリコーンゴム組成物が接する部分にプラズマ処理(出力200W)を実施し、同型へシリコーンゴム組成物<1>を注型し100℃にて硬化させ、図6に示すような、PBT成形体1(厚み3mm)とシリコーンゴム成形体2(厚み5mm)の一体成形体3を作製した。
【0075】
(実験例2)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形温度を90℃から130℃に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例2に係る一体成形体を作製した。
【0076】
(実験例3)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<2>としてフェニルトリ(ジメチルシロキシ)シラン(Gelest社製)を1質量部用いた以外は実験例1と同様にして、実験例3に係る一体成形体を作製した。
【0077】
(実験例4)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<3>としてビニルトリヒドロキシシラン(信越製ビニルトリメトキシシランを加水分解したもの)を1質量部用いた以外は実験例1と同様にして、実験例4に係る一体成形体を作製した。
【0078】
(実験例5)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂としてPBTに代えてアクリル樹脂(三菱レイヨン社製「アクリペットVH」)を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例5に係る一体成形体を作製した。
【0079】
(実験例6)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂への表面処理をUV処理(出力2kW、10s)に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例6に係る一体成形体を作製した。
【0080】
(実験例7)
MC型白金触媒を<2>に変更した以外は実験例6と同様にして、実験例7に係る一体成形体を作製した。
【0081】
(実験例8)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形温度を90℃から130℃に変更した以外は実験例7と同様にして、実験例8に係る一体成形体を作製した。
【0082】
(実験例9)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<2>としてフェニルトリ(ジメチルシロキシ)シラン(Gelest社製)を1質量部用いた以外は実験例7と同様にして、実験例9に係る一体成形体を作製した。
【0083】
(実験例10)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<3>としてビニルトリヒドロキシシラン(信越製ビニルトリメトキシシランを加水分解したもの)を1質量部用いた以外は実験例7と同様にして、実験例10に係る一体成形体を作製した。
【0084】
(実験例11)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂としてPBTに代えてアクリル樹脂(三菱レイヨン社製「アクリペットVH」)を用いた以外は実験例7と同様にして、実験例11に係る一体成形体を作製した。
【0085】
(実験例12〜15)
MC型白金触媒を<3>〜<6>に変更した以外は実験例7と同様にして、実験例12〜15に係る一体成形体を作製した。
【0086】
(実験例16)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂への表面処理をフレーム処理(エアー量100L/min、ガス量4LPG)に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例16に係る一体成形体を作製した。
【0087】
(実験例21)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、MC型白金触媒<1>に代えて非MC型白金触媒(塩化白金酸、株式会社フルヤ金属社製)の3質量%IPA溶液を用い、さらに遅延剤(1−エチニル−1−シクロヘキサノール)0.1質量部を配合し、一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂に対し表面処理を行わず、付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形温度を90℃から150℃に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例21に係る一体成形体を作製した。
【0088】
(実験例22)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、MC型白金触媒<1>に代えて非MC型白金触媒(塩化白金酸、株式会社フルヤ金属社製)の3質量%IPA溶液を用い、一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂に対し表面処理を行わなかった以外は実験例1と同様にして、実験例22に係る一体成形体を作製した。
【0089】
(実験例23)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂に対し表面処理を行わなかった以外は実験例1と同様にして、実験例23に係る一体成形体を作製した。
【0090】
調製した各付加硬化型シリコーンゴム組成物について、貯蔵安定性を評価した。また、架橋速度を評価した。また、作製した一体成形体について、樹脂不良、成形エネルギー、接着性を評価した。評価方法は以下の通りである。これらの結果を表3、4に示す。
【0091】
(貯蔵安定性)
各付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製後、常温常湿で2週間放置した後の粘度(粘度計:東機産業製 TVB−10形粘度計)を測定した。粘度上昇率が50%以下のものを良好「○」とし、粘度上昇率が50%超だが未硬化のものをやや良好「△」とし、粘度上昇率が50%超で硬化したものを不良「×」とした。
【0092】
(架橋速度)
東洋精機製ロータレスレオメータを用い、各成形温度での最大トルクの90%に達する時間をt90として測定した。この時間が60秒以内のものを良好「○」とし、60秒超のものを不良「×」とした。
【0093】
(樹脂不良)
各成形温度に対し、熱可塑性樹脂のバリ、変形の有無を調べた。熱可塑性樹脂にバリや変形が発生した場合を不良「×」、熱可塑性樹脂にバリや変形が発生しなかった場合を良好「○」とした。
【0094】
(成形エネルギー)
150℃での成形にかかるエネルギー費を100%とし、エネルギー費90〜100%は「×」、70〜90%は「○」、70%以下は「◎」とした。
【0095】
(接着性)
一体成形体について、JIS K6256−2に準拠して、90°剥離試験により評価した。この際、接着界面で剥離せず、シリコーンゴムが破壊したものを良好「○」とし、接着界面で剥離したが、接着界面にシリコーンゴムが残ったものをやや劣る「△」とし、接着界面で剥離し、接着界面にシリコーンゴムが残っていないものを不良「×」とした。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
実験例21、22では、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、非マイクロカプセル型白金触媒を用いている。貯蔵安定性を確保するために遅延剤を用いると、実験例21のように成形温度を高温にしないと成形できず、成形温度が150℃と高温であるため、成形エネルギーが高く、樹脂不良も発生している。そして、遅延剤を用いないと、実験例22のように低温成形はできるが、貯蔵安定性を満足しない。そして、実験例23のように、マイクロカプセル型白金触媒を用いても、熱可塑性樹脂成形体に表面処理が施されていないと、接着性を満足しない。
【0099】
これに対し、実験例1〜16では、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、マイクロカプセル型白金触媒および接着付与剤を用いているが、一体成形する熱可塑性樹脂の付加硬化型シリコーンゴム組成物を接触させる面に予め表面処理を行っているため、熱可塑性樹脂成形体とこれに接するシリコーンゴム成形体の接着性に優れる。また、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、マイクロカプセル型白金触媒を用いているため、遅延剤を配合しなくても貯蔵安定性に優れ、低温成形性も満足する。
【0100】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能なものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6