【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0055】
〔マイクロカプセル型触媒の作製〕
白金触媒の20質量%キシレン溶液、カプセル化に用いる各被覆樹脂、ジクロロメタンを0.6:5:95の比率(質量比)で混合し、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下し、エマルションを作製した。その後、ジクロロメタンを減圧留去し、ろ過することで、被覆樹脂および白金触媒を含有する微粒子を得た。これにより、所定の平均粒子径のマイクロカプセル型触媒を作製した。なお、平均粒子径は、レーザー顕微鏡により測定した。
【0056】
白金触媒:塩化白金(IV)酸、株式会社フルヤ金属社製
被覆樹脂:
不飽和ポリエステル樹脂:ユニチカ製「UE−3350」(Tg=52℃)
ポリビニルブチラール(PVB):クラレ製「Mowital B30HH」(Tg=59℃)
エポキシ樹脂:DIC製「EPICLON 4050」(Tg=56℃)
不飽和ポリエステル樹脂:ユニチカ製「UE−9900」(Tg=105℃)
アクリル樹脂:三菱レーヨン製「アクリペット MF」(Tg=87℃)
シリコーン樹脂:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン製「YR3370」(Tg=77℃)
ポリカーボネート樹脂(PC):三菱エンジニアリングプラスチックス製「ノバレックス 7020R」(Tg=123℃)
界面活性剤:Triton X−100、和光純薬工業製
【0057】
〔触媒非含有樹脂微粒子の作製〕
白金触媒の20質量%キシレン溶液を配合しなかった以外は上記のマイクロカプセル型触媒の作製方法と同様にして、触媒非含有樹脂微粒子を作製した。
【0058】
作製した触媒非含有樹脂微粒子およびマイクロカプセル型触媒(触媒含有樹脂微粒子)についてDSC測定を行った。その結果を
図1〜3に示す。サンプル量は3.0〜3.7g、昇温速度は10℃/min.とした。
図1:不飽和ポリエステル樹脂、(a)触媒非含有樹脂微粒子(b)マイクロカプセル型触媒
図2:ポリビニルブチラール、(a)触媒非含有樹脂微粒子(b)マイクロカプセル型触媒
図3:エポキシ樹脂、(a)触媒非含有樹脂微粒子(b)マイクロカプセル型触媒
【0059】
不飽和ポリエステル樹脂に関し、
図1から、樹脂の軟化を示す吸熱ピークが52℃に観測された。また、白金触媒の非存在下および存在下の両方で、吸熱ピークよりも高温側に樹脂の硬化を示す発熱ピークが観測された。このことから、不飽和ポリエステル樹脂は、Tgが52℃であり、白金触媒の非存在下および存在下のいずれにおいても、軟化温度より高温で熱硬化することがわかる。また、白金触媒の存在下では、120〜150℃の範囲内で熱硬化することがわかる。
【0060】
ポリビニルブチラールおよびエポキシ樹脂に関し、
図2,3から、樹脂の軟化を示す吸熱ピークがそれぞれ59℃、56℃に観測された。また、白金触媒の非存在下では観測されなかったが、白金触媒の存在下で、吸熱ピークよりも高温側に樹脂の硬化を示す発熱ピークが観測された。このことから、ポリビニルブチラールおよびエポキシ樹脂は、Tgがそれぞれ59℃、56℃であり、白金触媒の存在下において、軟化温度より高温で熱硬化することがわかる。また、白金触媒の存在下では、120〜150℃の範囲内で熱硬化することがわかる。
【0061】
〔シリコーンゴム組成物の調製〕
(実施例1〜11、比較例2〜3、5〜6)
表1,2に記載の配合組成(質量部)にて、(a)オルガノポリシロキサンおよび(c)マイクロカプセル型触媒を配合後、プラネタリーミキサーにて30分混合し、次いで、(b)架橋剤を配合後、さらに30分混合し、減圧脱泡して、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製した。
【0062】
(a)オルガノポリシロキサン:液状シリコーンゴム(Gelest社製、「DMS−V35」、ビニル基含有ジメチルポリシロキサン)
(b)架橋剤:ヒドロシリル架橋剤(Gelest社製、「HMS−151」、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)
(c)マイクロカプセル型触媒
【0063】
(比較例1、4)
マイクロカプセル型触媒に代えて非マイクロカプセル型触媒(塩化白金酸、株式会社フルヤ金属社製の20質量%キシレン溶液)を用いた以外は実施例1と同様にして、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製した。
【0064】
(シリコーンゴム架橋体の作製)
表1,2に記載の成形条件(温度、時間)にて、直径29±0.5mm、厚さ6.3±0.3mmのシリコーンゴム架橋体からなる試験片を成形した。なお、試験片の二次架橋の条件は、200℃×4時間とした。
【0065】
得られたシリコーンゴム組成物について、貯蔵安定性を評価した。また、得られたシリコーンゴム架橋体からなる試験片を用いて、圧縮永久歪を測定した。結果については、表1,2に示す。
【0066】
(貯蔵安定性)
各付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製後、常温常湿で2週間放置した後の粘度(粘度計:東機産業製 TVB−10形粘度計)を測定した。粘度上昇率が50%以下のものを良好「○」とし、粘度上昇率が50%超で硬化したものを不良「×」とした。
【0067】
(圧縮永久歪の測定)
JIS K6262法(25%圧縮)に準拠し、175℃×22時間の条件で、あるいは、150℃×70時間の条件で、圧縮永久歪試験を行った。175℃×22時間の条件においては、圧縮永久歪の値が60%以下である場合を合格「○」とし、60%超である場合を不良「×」とした。150℃×70時間の条件においては、圧縮永久歪の値が40%以下である場合を合格「○」とし、40%超である場合を不良「×」とした。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
比較例1、4では、シリコーンゴム組成物において、非マイクロカプセル型触媒を用いている。このため、貯蔵安定性が満足しない。比較例2〜3、5〜6では、マイクロカプセル型触媒の被覆樹脂が熱可塑性樹脂であるため、比較例1,4と比べて圧縮永久歪が大幅に悪化している。これに対し、実施例によれば、マイクロカプセル型触媒の被覆樹脂が熱硬化性樹脂であるため、比較例1,4と比較した圧縮永久歪の悪化が抑えられている。また、マイクロカプセル型触媒を用いているため、シリコーンゴム組成物の貯蔵安定性にも優れる。
【0071】
次に、一体成形体に関する実験を行った。
【0072】
〔マイクロカプセル型白金触媒<1〜6>(MC型白金触媒<1〜6>)の作製〕
白金触媒の3質量%IPA溶液、カプセル化に用いる各被覆樹脂、ジクロロメタンを0.3:5:95の比率(質量比)で混合し、この溶液を界面活性剤の水溶液へ滴下し、エマルションを作製した。その後、ジクロロメタンを減圧留去し、ろ過することで、被覆樹脂および白金触媒を含有する微粒子を得た。これにより、所定の平均粒子径のマイクロカプセル型触媒を作製した。白金触媒:塩化白金(IV)酸、株式会社フルヤ金属社製
被覆樹脂:
<1>:ポリエステル ユニチカ製「UE−3350」(Tg=52℃)
<2>:ポリビニルブチラール(PVB) クラレ製「Mowital B 30 HH」(Tg=63℃)
<3>:ポリスチレン(PS) ヤスハラケミカル製「YSレジンSX100」
<4>:エポキシ樹脂(EP) 三菱化学製「jER1001」(Tg=52℃)
<5>:アクリル樹脂 根上工業製「ハイパールT−8252」(Tg=81℃)
<6>:テルペン樹脂 ヤスハラケミカル製「YSレジンPX800」
界面活性剤:Triton X−100、和光純薬工業製
【0073】
(実験例1)
〔付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製〕
液状シリコーンゴム(Gelest社製、「DMS−V35」、ビニル基含有ジメチルポリシロキサン)100質量部、MC型白金触媒<1>0.8質量部(白金触媒換算で0.05質量部)、接着付与剤<1>としてp−スチリルトリメトキシシラン(信越化学工業社製)1質量部を配合後、プラネタリーミキサーにて30分混合し、次いで、ヒドロシリル架橋剤(Gelest社製、「HMS−151」、ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)4質量部を配合後、さらに30分混合し、減圧脱泡して、液状の付加硬化型シリコーンゴム組成物<1>を調製した。
【0074】
〔一体成形体の作製〕
ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ製、「トレコン1401X06」)を250℃へ温調し、100℃の金型へ注型した。その後、ポリブチレンテレフタレート樹脂のシリコーンゴム組成物が接する部分にプラズマ処理(出力200W)を実施し、同型へシリコーンゴム組成物<1>を注型し100℃にて硬化させ、
図6に示すような、PBT成形体1(厚み3mm)とシリコーンゴム成形体2(厚み5mm)の一体成形体3を作製した。
【0075】
(実験例2)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形温度を90℃から130℃に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例2に係る一体成形体を作製した。
【0076】
(実験例3)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<2>としてフェニルトリ(ジメチルシロキシ)シラン(Gelest社製)を1質量部用いた以外は実験例1と同様にして、実験例3に係る一体成形体を作製した。
【0077】
(実験例4)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<3>としてビニルトリヒドロキシシラン(信越製ビニルトリメトキシシランを加水分解したもの)を1質量部用いた以外は実験例1と同様にして、実験例4に係る一体成形体を作製した。
【0078】
(実験例5)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂としてPBTに代えてアクリル樹脂(三菱レイヨン社製「アクリペットVH」)を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例5に係る一体成形体を作製した。
【0079】
(実験例6)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂への表面処理をUV処理(出力2kW、10s)に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例6に係る一体成形体を作製した。
【0080】
(実験例7)
MC型白金触媒を<2>に変更した以外は実験例6と同様にして、実験例7に係る一体成形体を作製した。
【0081】
(実験例8)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形温度を90℃から130℃に変更した以外は実験例7と同様にして、実験例8に係る一体成形体を作製した。
【0082】
(実験例9)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<2>としてフェニルトリ(ジメチルシロキシ)シラン(Gelest社製)を1質量部用いた以外は実験例7と同様にして、実験例9に係る一体成形体を作製した。
【0083】
(実験例10)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、接着付与剤<1>に代えて接着付与剤<3>としてビニルトリヒドロキシシラン(信越製ビニルトリメトキシシランを加水分解したもの)を1質量部用いた以外は実験例7と同様にして、実験例10に係る一体成形体を作製した。
【0084】
(実験例11)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂としてPBTに代えてアクリル樹脂(三菱レイヨン社製「アクリペットVH」)を用いた以外は実験例7と同様にして、実験例11に係る一体成形体を作製した。
【0085】
(実験例12〜15)
MC型白金触媒を<3>〜<6>に変更した以外は実験例7と同様にして、実験例12〜15に係る一体成形体を作製した。
【0086】
(実験例16)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂への表面処理をフレーム処理(エアー量100L/min、ガス量4LPG)に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例16に係る一体成形体を作製した。
【0087】
(実験例21)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、MC型白金触媒<1>に代えて非MC型白金触媒(塩化白金酸、株式会社フルヤ金属社製)の3質量%IPA溶液を用い、さらに遅延剤(1−エチニル−1−シクロヘキサノール)0.1質量部を配合し、一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂に対し表面処理を行わず、付加硬化型シリコーンゴム組成物の成形温度を90℃から150℃に変更した以外は実験例1と同様にして、実験例21に係る一体成形体を作製した。
【0088】
(実験例22)
付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製において、MC型白金触媒<1>に代えて非MC型白金触媒(塩化白金酸、株式会社フルヤ金属社製)の3質量%IPA溶液を用い、一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂に対し表面処理を行わなかった以外は実験例1と同様にして、実験例22に係る一体成形体を作製した。
【0089】
(実験例23)
一体成形体の作製において、熱可塑性樹脂に対し表面処理を行わなかった以外は実験例1と同様にして、実験例23に係る一体成形体を作製した。
【0090】
調製した各付加硬化型シリコーンゴム組成物について、貯蔵安定性を評価した。また、架橋速度を評価した。また、作製した一体成形体について、樹脂不良、成形エネルギー、接着性を評価した。評価方法は以下の通りである。これらの結果を表3、4に示す。
【0091】
(貯蔵安定性)
各付加硬化型シリコーンゴム組成物を調製後、常温常湿で2週間放置した後の粘度(粘度計:東機産業製 TVB−10形粘度計)を測定した。粘度上昇率が50%以下のものを良好「○」とし、粘度上昇率が50%超だが未硬化のものをやや良好「△」とし、粘度上昇率が50%超で硬化したものを不良「×」とした。
【0092】
(架橋速度)
東洋精機製ロータレスレオメータを用い、各成形温度での最大トルクの90%に達する時間をt90として測定した。この時間が60秒以内のものを良好「○」とし、60秒超のものを不良「×」とした。
【0093】
(樹脂不良)
各成形温度に対し、熱可塑性樹脂のバリ、変形の有無を調べた。熱可塑性樹脂にバリや変形が発生した場合を不良「×」、熱可塑性樹脂にバリや変形が発生しなかった場合を良好「○」とした。
【0094】
(成形エネルギー)
150℃での成形にかかるエネルギー費を100%とし、エネルギー費90〜100%は「×」、70〜90%は「○」、70%以下は「◎」とした。
【0095】
(接着性)
一体成形体について、JIS K6256−2に準拠して、90°剥離試験により評価した。この際、接着界面で剥離せず、シリコーンゴムが破壊したものを良好「○」とし、接着界面で剥離したが、接着界面にシリコーンゴムが残ったものをやや劣る「△」とし、接着界面で剥離し、接着界面にシリコーンゴムが残っていないものを不良「×」とした。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
実験例21、22では、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、非マイクロカプセル型白金触媒を用いている。貯蔵安定性を確保するために遅延剤を用いると、実験例21のように成形温度を高温にしないと成形できず、成形温度が150℃と高温であるため、成形エネルギーが高く、樹脂不良も発生している。そして、遅延剤を用いないと、実験例22のように低温成形はできるが、貯蔵安定性を満足しない。そして、実験例23のように、マイクロカプセル型白金触媒を用いても、熱可塑性樹脂成形体に表面処理が施されていないと、接着性を満足しない。
【0099】
これに対し、実験例1〜16では、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、マイクロカプセル型白金触媒および接着付与剤を用いているが、一体成形する熱可塑性樹脂の付加硬化型シリコーンゴム組成物を接触させる面に予め表面処理を行っているため、熱可塑性樹脂成形体とこれに接するシリコーンゴム成形体の接着性に優れる。また、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、マイクロカプセル型白金触媒を用いているため、遅延剤を配合しなくても貯蔵安定性に優れ、低温成形性も満足する。
【0100】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能なものである。