(54)【発明の名称】シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の製造方法及びシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法、微量金属元素の回収方法
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成24年1月27日発行の芝浦工業大学大学院「平成23年度修士論文概要(材料工学専攻)において発表
【文献】
山崎美香、他3名 ,イミノ二酢酸・エチレンジアミン三酢酸キレート樹脂を用いた環境水中の微量金属元素分析,三重保環研年報,日本,2009年,第11号,108-116頁,URL,http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000405839.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸着工程の実施前に、前記カラムに充填された前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材をコンディショニングするコンディショニング工程を含むことを特徴とする請求項2に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法。
前記吸着工程の実施後に、前記カラムを水により洗浄する洗浄工程を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法。
前記洗浄工程の実施後に、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材に吸着した金属元素を溶離させる溶離工程を含むことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法。
低レベル放射性廃液に含まれる微量金属元素を定量分析することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法。
海水に含まれる微量金属元素を定量分析することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法。
海水に含まれる放射性物質を定量分析することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば低レベル放射性廃液のような、微量金属元素が比較的多く含まれている溶液に、非特許文献1記載の方法を適用する場合、キレートディスクの吸着容量を超過してしまい、ナトリウムに微量金属元素が同伴し、回収率が低下してしまう、という問題がある。
【0006】
これは、キレートディスクが、薄いディスク状の吸着材を用いるため、吸着容量に制限があることに原因がある。吸着容量を改善する対策として、吸着層の厚さを増すことや吸着材の量を増やすことが挙げられる。具体的には、小型吸着搭(カラム)を用いることが有効となる。
【0007】
しかしながら、カラムに使用するキレート吸着材として、現在市販されているキレート吸着材を適用する場合、吸着速度が遅いため、迅速な処理ができず、カラムに適用できない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、多孔性のSiO
2粒子に3次元高分子鎖を重合したシリカ/ポリマー複合体に、イミノ
二酢酸二ナトリウム−水和物を含浸担持させたシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材
の製造方法であって、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は、所定量の前記シリカ/ポリマー複合体と、前記イミノ二酢酸二ナトリウム−水和物と、純水とを容器に投入し、一定の温度を保ち攪拌することで得られることを特徴とするシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の製造方法である。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、多孔性のSiO
2粒子に3次元高分子鎖を重合したシリカ/ポリマー複合体に、イミノ
二酢酸二ナトリウム−水和物を含浸担持させたシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材をカラムに充填する充填工程と、前記カラムに処理対象溶液を通液することで、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材に処理対象溶液中の金属元素を吸着させる吸着工程と、を含むシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は、所定量の前記シリカ/ポリマー複合体と、前記イミノ二酢酸二ナトリウム−水和物と、純水とを容器に投入し、一定の温度を保ち攪拌することで得られることを特徴とするシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法である。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、前記吸着工程の実施前に、前記カラムに充填された前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材をコンディショニングするコンディショニング工程を含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、前記吸着工程の実施後に、前記カラムを水により洗浄する洗浄工程を含むことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、前記洗浄工程の実施後に、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材に吸着した金属元素を溶離させる溶離工程を含むことを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に係る発明は、請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、低レベル放射性廃液に含まれる微量金属元素を定量分析することを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に係る発明は、請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、海水に含まれる微量金属元素を定量分析することを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に係る発明は、請求項2乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法において、海水に含まれる放射性物質を定量分析することを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に係る発明は、多孔性のSiO
2粒子に3次元高分子鎖を重合したシリカ/ポリマー複合体に、イミノ
二酢酸二ナトリウム−水和物を含浸担持させたシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材をカラムに充填する充填工程と、前記カラムに海水を通液することで、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材に海水中の金属元素を吸着させて回収する回収工程と、を含むシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた微量金属元素の回収方法
において、前記シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は、所定量の前記シリカ/ポリマー複合体と、前記イミノ二酢酸二ナトリウム−水和物と、純水とを容器に投入し、一定の温度を保ち攪拌することで得られることを特徴とするシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた微量金属元素の回収方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材によれば、微量金属元素の吸着速度が速く、迅速な処理を行うことができ、カラムを用いることが可能となる。
【0018】
また、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法によれば、微量金属元素を効率的に回収することが可能となるので、精度の高い定量分析を行うことが可能となる。
【0019】
また、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた微量金属元素の回収方法によれば、海水中の微量金属元素を効率的に回収することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の製造工程の概略を説明する図である。
【0022】
本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を得る上で、まず、SiO
2にクロロメチルスチレン−ジビニルベンゼンポリマー共重合体で被覆したシリカ/ポリマー複合体(SiO
2−P)を作製した。
【0023】
このSiO
2−Pは、多孔性のSiO
2粒子(シリカ製担体)に3次元高分子鎖を重合したものであり、担体としての特性を示すものである。また、SiO
2−Pは、膨潤、収縮が起きず、吸着速度が速い利点があり、カラム操作に適していることが予想される。
【0024】
本発明においては、このSiO
2−Pに、イミノ
二酢酸二ナトリウム−水和物(IDA−Na)を含浸担持させることで、シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を得るようにしている。
【0025】
図1のステップS101に示すように、イミノ二酢酸官能基のSiO
2−Pへの導入は、所定量のSiO
2−P、イミノ
二酢酸二ナトリウム−水和物(IDA−Na)及び純水をセパラブルフラスコに投入し、24時間90℃に保ちながら撹拌することで行う。
【0026】
ステップS101の工程終了後、ステップS102の工程では、純水を用いて洗浄することで、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を得る。
【0027】
以上のように、本発明は、多孔性のシリカ担体をクロロメチルスチレン−ジビニルベンゼンポリマー共重合体で被覆しシリカ/ポリマー複合体(SiO
2−P)にイミノ
二酢酸二ナトリウム−水和物(IDA−Na)を含浸担持させることで、吸着速度を大きく改善できるシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を提供するものである。
【0028】
ここで、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材に含まれるイミノ
二酢酸樹脂について説明する。
【0029】
アルカリ金属を除去する手段の一つとして、イミノ
二酢酸基を官能基に有するキレート樹脂が着目されている。分析分野においては、主要元素の存在が目的元素の定量を妨害することが多く、その対策として分析する前に主要元素から目的元素だけを分離回収することが日常的に行われており、この分離回収にキレート樹脂が広く利用されている。
図2にイミノ
二酢酸樹脂の構造を示す。
【0030】
キレート樹脂は、イオン交換樹脂より金属イオンに対する選択性及び保持容量がはるかに高く、微量金属の分離濃縮において、極めて優れていることが確認されている。キレート樹脂を用いることで、飽和食塩水中の数ppmのCa、Mg、Srを数ppb以下まで除去することが可能である。通常のイオン交換樹脂によるイオン交換では、金属イオンに対する選択性がNaより高いとしても、選択性にそれほどの違いはなく、数十万倍の濃度のNaの中からCa、Mg、Srを補足することはできない。
【0031】
イミノ
二酢酸樹脂は2価以上、特に3価の金属イオンに対して高い選択性を示し、遷移金属>アルカリ土類金属>アルカリ金属の順に安定な錯体を生成することが報告されている。傾向としては、
Cr
3+>In
3+>Fe
3+>Ce
3+>Al
3+>La
3+>Hg
2+>UO
2+>Cu
2+>VO
2+>Pb
2+>Ni
2+>Cd
2+>Zn
2+>Co
2+>Fe
2+>Mn
2+>Be
2+>Ca
2+>Mg
2+>Sr
2+>>>Na
+
となっている。これにより、Na
+を十分に除去することが可能であると考えられる。
【0032】
イミノ
二酢酸樹脂は価数が大きい金属ほど選択性が高くなるため、重金属イオンの除去用途などに広く用いられ得る。また、吸着された金属イオンの脱着には通常塩酸や硫酸などの酸が用いられる。これは、酸領域において金属キレートへの安定性が低下し、キレートが分解される性質を利用したものである。この性質により、吸着した金属イオンを溶離して回収することが可能である。
【0033】
また、イミノ
二酢酸樹脂は官能基にNa
+を有しているため、金属イオンとキレート反応をするとNaOHが遊離され、金属イオンが水酸化物として樹脂層中に析出する可能性が示唆されている。これを防止する手段として、コンディショニングによる置換を行う。
図3はコンディショニングによるイミノ
二酢酸樹脂の形態変化を示す図である。
【0034】
図3に示すようにイミノ
二酢酸樹脂は塩酸や硝酸等の酸を用いることで、Na
+をH
+に置換することができる。
【0035】
現在、低レベル放射性廃液の前処理として、イミノ
二酢酸キレートディスクによるNa
+とその他の金属イオンへの分離が検討されている。キレートディスクの利点として、通液速度が極めて速いため、処理工程を短縮化できることが挙げられる。
【0036】
しかし、キレートディスクでは、吸着容量が極めて少ないため、すぐに飽和吸着量に達してしまい、必要な処理を確保できないことが報告されている。そのため、吸着容量の大きいイミノ
二酢酸樹脂による前処理技術の確立が期待されている。
【0037】
本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材では、吸着速度が速く、迅速な処理を行うことができ、カラムを用いることが可能となる。
図4はイミノ
二酢酸樹脂の金属元素の吸着機構を示す図である。
【0038】
次ぎに、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材と、従来の吸着材との比較を行ったので説明する。
【0039】
本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の吸着特性を確認するため、従来のイミノ二酢酸樹脂と吸着試験を行った。
図5はコバルト:Co(II)を含む吸着溶液を用いた、各吸着材の吸着速度を評価した結果である。
【0040】
図5においては、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材、市販のイミノ二酢酸樹脂である比較例1(ムロマチテクノス株式会社製MuromacOT−71)、比較例2(ムロマチテクノス株式会社製MuromacB−1)の吸着速度の評価結果が示されている。
【0041】
図5より、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は極めて速い吸着速度を有することを確認した。比較例に係るイミノ二酢酸樹脂は、吸着平衡に達するまで4〜6時間を要するのに対し、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は、30分以内に吸着平衡へ到達した。吸着平衡が極めて重要となるカラム操作において、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材が優れた性能を有していることを確認した。
【0042】
本発明の第1の効果である吸着速度の改善の他に、副次的に吸着した微量金属元素の溶離の改善が図れることを確認した。
【0043】
吸着材に吸着した微量金属元素を回収するためには、吸着材から微量吸着材を引き剥がす(溶離)操作が必要である。通常、吸着材からの金属元素の溶離は、金属元素とより強固に結合する薬品を含む溶液(溶離液)を用いる方法と、より簡便には、異なるpHの溶液を通液し、吸着材に吸着している金属元素の化学形態を変化させることで溶離を行う方法がある。前者の溶離液を用いる方法では、回収した微量金属元素を含む溶液に、溶離剤が混在する。これは、特に対象溶液が、低レベル放射性廃液の場合、後段の処理に影響を及ぼす懸念がある。よって、pHの変化のみで溶離できる後者の方法が望ましい。
【0044】
図6はコバルト:Co(II)吸着溶液のpHを変化させた時の吸着性能を評価した結果である。
図6より、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は、pH<2において、金属元素を全く吸着しないことを確認した。これは、微量金属元素を吸着した吸着材に、pH<2の溶液を通液することで溶離できることを示唆している。
【0045】
一方、市販のイミノ二酢酸樹脂である比較例1、比較例2では、pH<2においても金属元素に対する吸着性を有しており、吸着材から微量金属元素を溶離するためには、更にpHの低い溶液を通液する必要がある。以上のことから、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材は、市販のイミノ二酢酸樹脂と比較し、吸着した微量金属元素の溶離が容易にできることについても確認できた。
【0046】
図7は本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた金属元素回収系の一例を示す図である。また、
図8は本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材による金属元素回収の原理を示す模式図であり、
図8(A)はイミノ
二酢酸樹脂による金属元素の吸着を示しており、
図8(B)はNaイオンの溶離を示しており、
図8(C)は金属元素イオンの溶離を示している。
図8(C)に示す溶離された金属元素イオンが含まれた溶液が、所定の定量分析に委ねられることとなる。
【0047】
切り替えバルブ1は、処理対象溶液、活性化用溶液(コンディショニング用溶液)、洗浄液、溶離用液・定容用液のいずれかを選択的に、回転式ポンプ2に供給する。回転式ポンプ2は、圧力リミッタ3、圧力計4が設けられた配管を経て、切り替えバルブ1から供給される液体を耐圧カラム5に圧送する。
【0048】
耐圧カラム5には、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材6が充填されており、これまでに説明したように、金属元素を吸着している間に、Naイオンを溶離し、さらにpHの調整後、金属元素を溶離する。
【0049】
処理済液槽7は溶離された金属元素を含む溶液を貯留する。この処理済液槽7に貯留された溶液について、所定の定量分析が行われる。一方、ナトリウム溶液槽8には、Naイオンを含む溶液が貯溜される。
【0050】
次ぎに、以上のように構成される系によって処理対象溶液から定量分析を行う金属元素を含む溶液を得て、これに基づいて定量分析を行う流れについて説明する。
【0051】
図9は本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いて低放射性廃液中金属元素の定量分析を行う手順を説明する図である。
【0052】
ステップS1においては、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の吸着性能を有効に発現させるために吸着材の活性化(コンディショニング)を行う。既に吸着材に吸着しているナトリウムイオンを水素イオンに置き換える目的で、3mol/L硝酸を通液する。次いで精製水を通液し、余剰な3mol/L硝酸を洗い流す。最後に吸着材の吸着性能が最も発揮できるpHであるpH5.5に調整するため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。
【0053】
ステップS2では、分析対象溶液である低レベル放射性廃液を吸着材へ供給する。作業員の被ばくが懸念される場合は、必要に応じて希釈操作を行っても良い。試料を微量金属元素が効率よく吸着材に吸着するpH5.5に調整する。そのため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。100mmol/L酢酸アンモニウム溶液は、低レベル放射性廃液と事前に混合しても、低レベル放射性廃液の後に通液しても良い。
【0054】
ステップS3では、吸着材全体に微量金属元素を展開するため及び低レベル放射性廃液中に含まれているナトリウムを洗い流すために、精製水を通液する。
【0055】
ステップS4においては、吸着材に吸着した微量金属元素を回収するため、0.1mol/L硝酸を通液する。
【0056】
ステップS5では、次工程であるICP−AESによる定量分析を行うため、適切な金属元素濃度になるよう、0.1mol/L硝酸を用い定容する。
【0057】
ステップS6では、ICP−AESを用いて微量金属元素濃度を定量分析する。
【0058】
以上のように本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を利用して、カラム分離法により水溶液中のナトリウムと微量金属元素を迅速に分離し、微量金属元素のみを回収した。この性能を確認するために、シリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いたカラム分離試験を行った。表1に試験条件を示す。本試験では、微量金属元素としてCo(II)を使用し、Co(II)とナトリウムの相互分離特性及びシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材のカラム分離法への適応性について確認した。
【0059】
【表1】
図13にナトリウムとCo(II)のカラム分離試験結果を示す。
図13より、ナトリウムは吸着材に吸着せず、通液直後にカラムから溶出した。Co(II)については、溶離液の通液直後に急峻な溶離ピークを示し、カラムからほぼ全量(回収率90.1%)された。これは、溶離液が有効に作用し、吸着材から金属元素を容易に回収できることを確認した。また、Co(II)の溶離時にナトリウムは殆ど検出されなかったことから、複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いることでCo(II)など微量金属元素とナトリウムを相互分離できることを確認した。また、
図13から、複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いカラム分離操作を行うことで、微量な金属元素を濃縮し、回収することができることが示唆された。
【0060】
以上のことから、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材はカラム分離法に適した吸着材であることを確認した。
【0061】
次ぎに、海水試料中の金属元素の定量分析を行う場合について説明する。
図10は本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いて海水試料中金属元素の定量分析を行う手順を説明する図である。
【0062】
ステップS7においては、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の吸着性能を有効に発現させるために吸着材の活性化(コンディショニング)を行う。使用前に吸着材に吸着しているナトリウムイオンを水素イオンに置き換える目的で、3mol/L塩酸を通液する。次いで精製水を通液し、余剰な3mol/L塩酸を洗い流す。最後に吸着材の吸着性能が最も発揮できるpHであるpH5.5に調整するため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。
【0063】
ステップS8では、分析対象溶液である海水を吸着材へ供給する。海水のpHは8程度であるため、海水試料中の微量金属元素が効率よく吸着材に吸着するpH5.5に調整する。そのため100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。pH8のおいても、吸着材の吸着性能は十分発現されるため、100mmol/L酢酸アンモニウムの通液は省略することもできる。
【0064】
ステップS9では、吸着材全体に微量金属元素を展開するため及び海水中に含まれているナトリウムを洗い流すために、精製水を通液する。
ステップS10では、吸着材に吸着した微量金属元素を回収するため、0.1mol/L塩酸を通液する。
【0065】
ステップS11では、 次工程であるICP−AESによる定量分析を行うため、適切な金属元素濃度になるよう、0.1mol/L塩酸を用い定容する。
【0066】
ステップS12で、ICP−AESを用いて微量金属元素濃度を定量分析する。
【0067】
次ぎに、海水試料中の放射性物質の定量分析を行う場合について説明する。
図11は本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いて海水試料中放射性物質定量分析を行う手順を説明する図である。本法は、特に海水中に含まれるストロンチウム:Sr(II)の定量分析に有効である。
【0068】
ステップS13においては、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の吸着性能を有効に発現させるために吸着材の活性化(コンディショニング)を行う。使用前に吸着材に吸着しているナトリウムイオンを水素イオンに置き換える目的で、3mol/L塩酸を通液する。次いで精製水を通液し、余剰な3mol/L塩酸を洗い流す。吸着材の吸着性能が最も発揮できるpHであるpH5.5に調整するため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。
【0069】
ステップS14では、分析対象溶液である海水を吸着材へ供給する。海水のpHは8程度であるため、放射性物質が効率よく吸着材に吸着できるように試料をpH5.5に調整する。そのため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。pH8のおいても、吸着材の吸着性能は十分発現されるため、100mmol/L酢酸アンモニウムの通液は省略することもできる。
【0070】
ステップS15では、吸着材全体に放射性物質を展開するため及び海水中に含まれているナトリウムを洗い流すために、精製水を通液する。
【0071】
ステップS16では、吸着材に吸着した放射性物質を回収するため、0.1mol/L塩酸を通液する。
【0072】
ステップS17では、次工程の定量分析を行うため、適切な金属元素濃度になるよう、0.1mol/L塩酸を用い定容する。
【0073】
ステップS18で定量分析を実施する。海水中の放射性物質濃度は、ごく微量であるため、定量分析には、ICP−AESより低濃度まで分析できる誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)の使用が望ましい。
【0074】
次ぎに、本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いて、海水試料中の微量金属元素を回収する技術について説明する。
図12は本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いて海水試料中微量金属元素の回収を行う手順を説明する図である。
【0075】
本発明の実施形態に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材によれば、海水中に含まれる有用微量金属元素の回収を行うことも可能となる。
【0076】
ステップS19においては、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材の吸着性能を有効に発現させるために吸着材の活性化(コンディショニング)を行う。使用前に吸着材に吸着しているナトリウムイオンを水素イオンに置き換える目的で、3mol/L塩酸を通液する。次いで精製水を通液し、余剰な3mol/L塩酸を洗い流す。吸着材の吸着性能が最も発揮できるpHであるpH5.5に調整するため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。
【0077】
ステップS20では、海水を吸着材へ供給する。海水のpHは8程度であるため、微量金属元素が効率よく吸着材に吸着できるように試料を5.5に調整する。そのため、100mmol/L酢酸アンモニウム溶液を通液する。pH8のおいても、吸着材の吸着性能は十分発現されるため、100mmol/L酢酸アンモニウムの通液は省略することもできる。
【0078】
ステップS21では、 吸着材全体に微量金属元素を展開するため及び海水中に含まれているナトリウムを洗い流すために、精製水を通液する。
【0079】
ステップS22では、 吸着材に吸着した微量金属元素を回収するため、0.1mol/L塩酸を通液する。
【0080】
ステップS23においては、海水中の微量金属元素が濃縮され回収できる。
【0081】
以上のような本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材によれば、微量金属元素の吸着速度が速く、迅速な処理を行うことができ、カラムを用いることが可能となる。
【0082】
また、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた定量分析法によれば、微量金属元素を効率的に回収することが可能となるので、精度の高い定量分析を行うことが可能となる。
【0083】
また、本発明に係るシリカ/ポリマー複合型イミノ二酢酸系キレート吸着材を用いた微量金属元素の回収方法によれば、海水中の微量金属元素を効率的に回収することが可能となる。