(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような特許文献1,2に示す先行技術はあるが、まだ残された問題がある。その中から本願発明で改善に取り組む問題点を下記に示す。
【0007】
(1) 組立工程で芯出し作業が必要である。
(1−1) 特許文献1の先行技術に対して。
特許文献1に示す先行技術は、ステータがハウジングに固定され、軸と一体の駆動綱車にロータが固定され、軸は軸受を介してハウジングと軸受台で支持されており軸受の内輪と外輪が一定量自由に傾くので、軸心(軸の回転中心)に対してハウジング及び軸受台の軸心は、一定量、自由に傾き、固定されていない状態である。
したがって、ベッドに取り付けたままの状態では、ボルトと取付穴の隙間や、部品の加工誤差等が原因で、軸、ハウジング、軸受台の軸心がずれるので、ステータとロータの軸心もずれて、モータギャップのアンバランスが生じる。
モータギャップのアンバランスが大きいと、モータの特性悪化や振動騒音の問題が発生するので、これを防止するために、軸、ハウジング及び軸受台の軸心のずれを許容値内に修正するための芯出し作業が必要である。この作業は、測定と修正を繰り返して試行錯誤的に行うもので、経験や熟練が必要であり作業者が限られると共に、かなりの時間を要するという問題がある。
【0008】
(1−2) 特許文献2の先行技術に対して。
特許文献2に示す先行技術は、軸(本願発明の支柱に相当)の両端を台座で支持し、台座と一体の電機子固定部材にステータ(電機子)を固定した構造である。ここで、軸と台座の嵌合部には隙間があり、嵌合部の長さは電機子鉄心の長さより大幅に短い(特許文献2の図では1/3程度)ので、軸心に対する台座の傾きが発生する。
したがって、傾きを許容値内に修正するための芯出し作業が必要である。この作業は、測定と修正を繰り返して試行錯誤的に行うものであるため、経験や熟練が必要であり作業者が限られると共に、かなりの時間を要するという問題がある。
【0009】
(2) 駆動綱車と軸の分解・組立が困難である(特許文献1の先行技術に対して)。
摩耗限度に達した駆動綱車の交換を行う場合には、駆動綱車と軸が一体になった状態での運搬では、重量や寸法が既存のエレベータの積載荷重制限を越える可能性が高いため、エレベータ機械室で駆動綱車と軸の分解・組立を行う必要がある。駆動綱車と軸は、大きな軸荷重を受けながら、滑ることなく共に回る必要があるので、「締り嵌め」等で強固に締結されており、引き抜きには強大な力が必要である。
したがって、分解・組立作業には油圧装置や、ガスバーナー等の大掛かりな器具が必要となり、分解・組立に時間がかかりエレベータの停止時間が長くなり、費用がかさむ問題がある。また、狭い場所で火気を使用する事等の危険が伴う。
【0010】
(3) ステータとロータの分解が困難である(特許文献1,2の先行技術に対して)。
永久磁石を使用したモータにおいて、部品交換や補修等でステータとロータを分解する必要が生じた場合、ステータとロータを軸方向に引き抜くときには、両者間に大きな軸方向吸引力が働くので、この力に打ち勝つ大きな引抜力が必要である。
また、分解中に、円筒状のステータと円筒状のロータとの間で軸心の芯ずれが発生すると、両者間に大きなラジアル方向吸引力(アンバランスプル)が働き、最悪の場合にはステータとロータが強力にくっついて、分解できなくなる恐れがある。したがって、分解中は両者の軸心の芯ずれをできだけ小さく保ち、ラジアル方向吸引力を小さくすると共に、万が一芯ずれによる大きなラジアル方向吸引力が発生した場合においても治具の撓みを問題無いレベルに抑える必要がある。したがって、ステータとロータを分解(分離)する場合、一般的には、強大な引抜治具とこれらを搬送・設置・使用できる大型で高性能な揚重設備が必要である。
しかし、エレベータ機械室は、作業スペースが限られていること、搬入できる設備の寸法や重量に制限があることから、十分な機能を持つ設備を用意することはできない場合が多いので、分解組立は極めて困難であり、場合によっては、エレベータ機械室でのステータとロータの分解・組立ができない恐れがある。
【0011】
(4) エンコーダー用の駆動側歯車(先行技術ではラックに相当)が巨大になり、コストが高くなる(特許文献2の先行技術に対して)。
特許文献2の先行技術では、駆動綱車と一体に形成された回転子の外径側にエンコーダー用駆動側歯車(ラック)を取り付ける構造であり、巨大な歯車が必要である。また、この駆動側歯車は、巻上機の回転を正確にエンコーダーに伝える必要があり、相応の高精度が要求される。特許文献2の先行技術では、別部品のラック(複数)を回転子外径に取り付けて駆動側歯車にする構造であり、つなぎ目で連続性が乱れるので、補助エンコーダーが必要である。
このように構造が複雑であり、制御も複雑になるので、信頼性が懸念される。またコストが高くなる欠点がある。
【0012】
(5) モータの形状や大きさが制限され小容量のモータに限定されるので、エレベータへの使用可能な範囲が狭くなる(特許文献2の先行技術に対して)。
特許文献2の先行技術では、ロータ(回転子)の外径側に綱車が一体に形成されており、ステータ(固定子)はロータに対向する内側に配置する必要があり、アウタローターモータに限定される。また、綱車は、エレベータのかごやロープを吊り下げて上下に駆動する機能を担って大きな荷重を支えているので、相応の強度を確保するために厚肉となる。モータはその綱車の内径側に配置されるので、外径寸法が制限される。また、モータの長さは、綱車の長さ内に制限されることから、モータの大きさが制限されるのでモータ出力も制限されて、綱車の大きさに対してモータの容量が小さくなる。
したがって特に、本願発明が大きな効果を発揮する高速大容量の巻上機においては、使用可能な範囲が制限されて狭くなるという問題がある。
【0013】
(6) 回転子と綱車が一体に形成されており、交換費用が高くなる(特許文献2の先行技術に対して)。
特許文献2の先行技術では、主繋溝の摩耗等により駆動綱車の交換が必要になった場合に、駆動綱車と一体に形成された回転子も交換することになり無駄が発生する。一方、磁石の減磁等により回転子の交換が必要となった場合には、回転子と一体に形成された駆動綱車も交換することになり無駄が発生する。したがって、交換費用が高くなる問題がある。
また、部品1個の重さが重くなるので、搬入・搬出の問題等で、交換が非常に困難となり、交換費用がかさみ、交換に必要な時間が長くなる問題がある。
【0014】
本発明は、上記従来技術に鑑み、分解・組立が容易で、組立工程での芯出し作業が不要であり、しかも小型・軽量な巻上機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明は、
径方向の中央部に軸方向に貫通する貫通孔が形成されると共に、前記貫通孔の一端部分及び他端部分がそれぞれボス部になっている駆動綱車と、
前記一端部分のボス部に配置された一端側の軸受及び前記他端部分のボス部に配置された他端側の軸受と、
軸方向の一端部分では中央部から一端側に向かうにしたがいステップ状に小径になると共に、軸方向の他端部分では中央部から他端側に向かうにしたがいステップ状に小径になっており、前記駆動綱車の前記貫通孔に挿入されており、前記一端部分の小径部が前記一端側の軸受により支持され、中央部のうち他端部分寄りの部分が前記他端側の軸受により支持された支柱と、
永久磁石を備えると共に、前記駆動綱車に対して同心状態で前記綱車の他端面に取り付けられたロータと、
前記支柱の一端部分の小径部が嵌合した貫通孔を備えたブレーキスタンドと、
前記支柱の他端部分の小径部が嵌合した貫通孔を備えると共に、前記ロータに対して同心状態で配置されたステータを備えたモータスタンドと、
前記ブレーキスタンドの下部と前記モータスタンドの下部がボルト固定されるベッドとを有することを特徴とする。
【0016】
また本発明は、
前記支柱の一端部分では、中央部から一端側に向かうにしたがいステップ状に小径になることにより、中央部に隣接する第1小径部と、前記第1小径部に隣接する第2小径部が形成されており、
前記第1小径部が前記一端側の軸受により支持され、
前記第2小径部が、前記ブレーキスタンドの前記貫通孔に嵌合していることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、
前記一端部分のボス部には前記一端側の軸受が隙間嵌めにより配置され、前記他端部分のボス部には前記他端側の軸受が隙間嵌めにより配置され、
前記支柱の一端部分の小径部が、前記ブレーキスタンドの貫通孔に隙間嵌めにより嵌合されており、
前記支柱の他端部分の小径部が、前記モータスタンドの貫通孔に隙間嵌めにより嵌合されていることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、
前記一端側の軸受は、当該軸受の一端面に当接した状態で前記駆動綱車の一端面にボルト固定された一端側の軸受カバーと、前記駆動綱車との間で挟持されて固定されており、
前記他端側の軸受は、当該軸受の他端面に当接した状態で前記駆動綱車の他端面にボルト固定された他端側の軸受カバーと、前記駆動綱車との間で挟持されて固定されており、
前記ブレーキスタンドは、当該ブレーキスタンドの一端面に当接した状態で前記支柱の一端面にボルト固定された一端側の押え板と、前記支柱との間で挟持されて固定されており、
前記モータスタンドは、当該モータスタンドの他端面に当接した状態で前記支柱の他端面にボルト固定された他端側の押え板と、前記支柱との間で挟持されて固定されていることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、
前記ロータは前記ステータよりも内周側に配置されていることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、
前記ロータは前記ステータよりも外周側に配置されていることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、
前記モータスタンドのうち、前記ロータに対向する面に形成されたねじ穴と、
前記モータスタンドの外側から前記ねじ穴にねじ込まれて先端が前記ロータに当接することにより、前記ロータと前記モータスタンドとを一体に固定する突っ張りボルトとを備えていることを特徴とする。
【0022】
また本発明は、
前記駆動綱車と同心状態で、前記一端側の軸受カバーに固定された駆動歯車と、
前記ブレーキスタンドに固定されたエンコーダーと、
前記エンコーダーの回転軸に取り付けられると共に前記駆動歯車に噛合した従動歯車とで構成したエンコーダー構造を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の巻上機によれば、分解・組立が容易で、且つ、分解・組立の作業時間を短縮することができ、更に小型・軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る巻上機を、実施例に基づき詳細に説明する。
【0026】
〔実施例1〕
本発明の実施例1に係る巻上機1を、
図1〜
図3を参照して、組立手順に沿い説明する。なお、
図1は一部破断した正面図、
図2は右側面図、
図3は左側面図である。
【0027】
この巻上機1の駆動綱車2には、径方向の中央部に軸方向に貫通する貫通孔2aが形成されている。貫通孔2aの一端部分(右端部分)はボス部2bになっており、貫通孔2aの他端部分(左端部分)はボス部2cになっている。つまり、貫通孔2aの軸方向の中央部分の内径に対して、貫通孔2aの両端部分に形成されたボス部2b,2cの内径が大きくなっている。
駆動綱車2の外周面には、主索を巻き掛けるための巻き掛け溝2dが形成されている。
【0028】
ボス部2bに軸受3を配置し、ボス部2cに軸受4を配置する。本例では、軸受3と軸受4の径方向の寸法が異なっており、軸受3の内輪の内径は、軸受4の内輪の内径よりも小さくなっている。
【0029】
軸受カバー5により、軸受3の外輪を一端側(右端側)から他端側(左端側)に押し付けた状態で、軸受カバー5をボルト6により駆動綱車2の一端面(右端面)にボルト固定する。これにより、軸受3の外輪は、軸受カバー5と駆動綱車2との間で挟持されて固定される。この結果、軸受3が駆動綱車2に取付けられる。
【0030】
軸受カバー7により、軸受4の外輪を他端側(左端側)から一端側(右端側)に押し付けた状態で、軸受カバー7をボルト8により駆動綱車2の他端面(左端面)にボルト固定する。これにより、軸受4の外輪は、軸受カバー7と駆動綱車2との間で挟持されて固定される。この結果、軸受4が駆動綱車2に取付けられる。
【0031】
支柱9は、概略的に言えば円柱部材である。この支柱9の形状を詳述すると、軸方向の中央部9aの径に対して、一端部分(右端部分)は、中央部9aから一端側に向かうにしたがいこの例では2回、ステップ状に小径になっており、ステップ状の小径部により、中央部9aに隣接する第1小径部9bと、第1小径部9bに隣接する第2小径部9cが形成されている。また支柱9の他端部分(左端部分)は、中央部から他端側に向かうにしたがいこの例では1回、ステップ状に小径になっており、ステップ状の小径部により、第3小径部9dが形成されている。なおステップ状に小径になっていく回数は、上記の回数に限定するものではない。
ここでは、支柱9の各部分の径は、中央部9a、第3小径部9d、第1小径部9b、第2小径部9cの順に、小さくなっている。
【0032】
このような形状になっている支柱9を、第2小径部9cを先頭にして、軸受4から軸受3に向かう方向に沿い、駆動綱車2の貫通孔2aに挿入していく。そうすると、中央部9aと第1小径部9bとの段部が軸受3の内輪に当接して、挿入が完了する。この状態では、支柱9の第1小径部9bが軸受3の内輪に緊密に嵌合し、支柱9の中央部9aのうち他端側寄りの部分が軸受4の内輪に緊密に嵌合する。なお軸受3の軸方向寸法と第1小径部9bの軸方向寸法は一致している。
このようにして、軸受3の内輪と軸受4の内輪により、支柱9を支持する。この場合、軸受3の内輪及び軸受4の内輪と、支柱9の嵌め合いは、隙間嵌めになっている。この隙間嵌めによる隙間は、隙間による有害な軸心ずれが無く、且つ、支柱9を軸受3,4から引き抜くことができる、必要最小限の隙間にしている。
【0033】
駆動綱車2の一端面(右端面)にブレーキディスク10をボルト等で固定する。なお、ブレーキディスク10は、駆動綱車2と一体に製作することもできる。ブレーキディスク10は、後述するブレーキスタンド14に装着される制動装置(図示省略)のディスクである。
ここでは、制動装置がディスクブレーキ装置の例であるが、制動装置をドラムブレーキ装置とした場合には、ブレーキディスク10の代わりにブレーキドラムを取り付ける。
【0034】
ロータ11の外周面には、永久磁石12が固定されている。このように永久磁石12が固定されているロータ11を、ボルト13により駆動綱車2の他端面(左端面)にボルト付けする。このとき、ロータ11の軸心を駆動綱車2の軸心に一致させて、ロータ11を駆動綱車2に固定する。
【0035】
ブレーキスタンド(一端側のスタンド)14には、貫通孔14aが形成されている。この貫通孔14aは、円柱形状となっている第2小径部9cが緊密に嵌合することができる内径となっている。
【0036】
支柱9の第2小径部9cを、ブレーキスタンド14の貫通孔14aに挿入する。つまり、円柱状の第2小径部9cを、円筒穴である貫通孔14aに嵌合する。このように嵌合した状態において、押え板15をブレーキスタンド14の一端面(右端面)に押し付けた状態で、押え板15をボルト16により支柱
9の一端面(右端面)にボルト固定する。これにより、ブレーキスタンド14及び軸受3は、押え板15と支柱9との間で挟持されて固定される。このとき、ブレーキスタンド14の他端面(左端面)は、軸受3の内輪の一端面(右端面)に当接し、軸受3の内輪の他端面(左端面)は、中央部9aと第1小径部9bの段部に当接する。
【0037】
このように、支柱9の第2小径部9cを、ブレーキスタンド14の貫通孔14aに嵌合して組み合わせたときに、支柱9の軸心に対するブレーキスタンド14の傾きが、自動的に予め決めた許容値範囲になるように、嵌合部の隙間(第2小径部9cと貫通孔14aとの隙間)と嵌合部の長さ(第2小径部9cと貫通孔14aの軸方向の長さ)を、予め設定している。
この場合、ブレーキスタンド14に対する支柱9の径方向嵌合は、隙間嵌めになっている。この隙間嵌めによる隙間は、支柱9がブレーキスタンド14に対してスムーズに抜き差しできる、必要最小限の隙間にしている。
【0038】
モータスタンド(他端側のスタンド)17には、貫通孔17aが形成されている。この貫通孔17aは、円柱形状となっている第3小径部9dが緊密に嵌合することができる内径となっている。
また、モータスタンド17には、ステータ18が取り付けられている。このとき、ステータ18の軸心とモータスタンド17の貫通孔17aの軸心が一致するように、ステータ18がモータスタンド17に固定されている。
【0039】
支柱9の第3小径部9dを、モータスタンド17の貫通孔17aに挿入する。つまり、円柱状の第3小径部9dを、円筒穴である貫通孔17aに嵌合する。このように嵌合した状態において、押え板19をモータスタンド17の他端面(左端面)に押し付けた状態で、押え板19をボルト20により支柱
9の他端面(左端面)にボルト固定する。これにより、モータスタンド17は、押え板19と支柱9との間で挟持されて固定される。このとき、モータスタンド17の一端面(右端面)は、中央部9aと第3小径部9dの段部に当接する。なお、モータスタンド17の一端面(右端面)と、中央部9aと第3小径部9dの段部との間に隙間を設けて隙間嵌めすることもできる。
【0040】
このように、支柱9の第3小径部9dを、モータスタンド17の貫通孔17aに嵌合して組み合わせたときに、支柱9の軸心に対するモータスタンド17の傾きが、自動的に予め決めた許容値範囲になるように、嵌合部の隙間(第3小径部9dと貫通孔17aとの隙間)と嵌合部の長さ(第3小径部9dと貫通孔17aの軸方向の長さ)を、予め設定している。
この場合、モータスタンド17に対する支柱
9及び押え板19の嵌合は、径方向および軸方向共に、隙間嵌めになっている。この隙間嵌めによる隙間は、隙間による有害な芯ずれがなく、且つ、支柱9がスムーズに抜き差しできる必要最小限の隙間にしている。
【0041】
また、ロータ11の外周面とステータ18の内周面は、所定のギャップを保ちつつ、両者の軸心が同一軸上にあり、且つ、両者の軸方向位置が一致するように、モータスタンド17を配置している。
【0042】
ブレーキスタンド14の下部を、ボルト21によりベッド22に固定し、モータスタンド17の下部を、ボルト23によりベッド22に固定する。
【0043】
次に、上記構成となっている巻上機1の作用・動作を説明する。
この巻上機1では、駆動綱車2にロータ11を軸心が一致するように固定し、駆動綱車2の内径側のボス部2b,2cに軸受3,4の外輪を固定し、軸受3,4の内輪で支柱9を支持しているので、駆動綱車2とロータ11と支柱9の軸心が一致する。
モータスタンド17に、ステータ18を軸心が一致するように固定し、モータスタンド17の貫通
孔17aと支柱9の第3小径部9dを嵌め合わせ結合しているので、モータスタンド17の貫通
孔17aと、ステータ18と、支柱9の軸心が一致する。
したがって、ロータ11とステータ18の軸心が一致する。
また組み立てた状態では、ロータ11の外周面とステータ18の内周面との間は所定のギャップを保ち、且つ、両者の軸方向位置が一致してモータが形成される。
【0044】
ブレーキスタンド14とモータスタンド17はベッド22に固定するので、両スタンド14,17に固定された支柱9も固定され回転しない。
一方、駆動綱車2は軸受3,4を介して支柱9に支持されているので回転自在である。また、ロータ11と
ブレーキディスク10は駆動綱車2に固定されているので、駆動綱車2と共に回転する。
ここで、ロータ11は駆動綱車2に固定されているので、ロータ11で発生した回転トルクが直接、駆動綱車2に伝達される。即ち、ロータ11から駆動綱車2に至るトルク伝達経路が短い。
またブレーキディスク10は駆動綱車2に固定されているので、制動トルクが直接、駆動綱車2に伝達される。
【0045】
本実施例1では、駆動綱車2にロータ11を軸心が一致するように固定し、駆動綱車2の貫通孔2aに挿通した支柱9を、駆動綱車2のボス部2b,2cに配置した軸受3,4により支持し、支柱9と同軸上に、モータスタンド17及びブレーキスタンド14を円柱軸と円筒穴の嵌合で取付け、嵌合部の隙間と長さを適切に設定して支柱9の軸心との傾きを規制することで、組み立てるだけで両者が支柱9と同心に取付けられる。
更に、モータスタンド17に取付けられた、ステータ18とロータ11が、自動的に同芯になるので、芯出し作業が不要である。
したがって、分解・組立が容易であり、また、作業時間の短縮ができる。
【0046】
また、回転するシャフトをなくして、回転しない支柱9にすることで、先行技術では必要な、駆動綱車とシャフトのしまり嵌め等による強固な締結を不要としたので、機械室であっても、分解・組立が容易にできる。更に、しまり嵌め等による強固な締結部が無くなること、及び、曲げ応力のみ受ける支柱(本発明)の方が、回転曲げ応力を受けるシャフト(先行技術)より強度的負担が小さいことから小型・軽量化が可能であり、コスト低減効果が期待できる。
【0047】
〔実施例2〕
上記実施例1の巻上機1を分解・組立をするときに用いる治具と、分解・組立の手法を、実施例2として説明する。
【0048】
巻上機1を分解・組立するには、手動ジャッキ30(
図4参照)と、引抜治具40(
図4参照)と、支柱ガイド50(
図10,
図11参照)を用いる。
【0049】
手動ジャッキ30は、ジャッキ台31と、ジャッキ本体32と、ジャッキボルト33を有している(
図4参照)。
ジャッキ台31は平板状の部材であり、このジャッキ台31の上にジャッキ本体32が配置される。ジャッキ本体32は、ねじ穴32aを有しており、ジャッキ本体32がジャッキ台31上に配置されたときに、ねじ穴32aは上下方向(鉛直方向)に貫通する状態になっている。ジャッキボルト33は、ジャッキ本体32の上方側から下方側に向かってねじ穴32aにねじ込まれていく。ジャッキボルト33の先端(下端)がジャッキ台31に当接した状態で、ジャッキボルト33を更にねじ込んでいくと、ジャッキ本体32がジャッキ台31から上方に移動していく。
【0050】
引抜治具40は、ガイドカラー41と、引抜板42と、取付ボルト43と、引抜ボルト44を有している(
図4参照)。
ガイドカラー41の外径は、支柱9の第3小径部9dの外径と同一になっている。ガイドカラー41は、第3小径部9dの他端面(左端面)にボルトにより取り付けられる。引抜板42の外径はガイドカラー41の外径よりも大きくなっている。引抜板42の径方向中央部には、引抜ボルト44が螺合することができるねじ穴42aが形成されている。引抜板42は取付ボルト43によりモータスタンド17に取り付けられる。
【0051】
ガイドカラー41の軸方向長さL1は、下式を満足する長さにしている。
L1+L2>L3+L4
ここにおいて、L2は第3小径部9dの軸方向長さ、L3はステータ18の軸方向長さ(=永久磁石12の軸方向長さ)である(
図4参照)。またL4は、ロータ11に対してステータ18が軸方向に離れて、両者間の磁気吸引力が発生しなくなる長さである(
図7参照)。
【0052】
支柱ガイド50は、ホルダーガイド51と支柱ホルダー52を有している(
図10,
図11参照)。
ホルダーガイド51は、概略的には円筒部材であり、一端側(右端側)には孔51aが形成され、他端側(左端側)はボルトにより駆動綱車2の一端面(右端面)にボルト付けされる。孔51aの内径は軸受3の内輪の内径と等しくなっている。
円筒部材である支柱ホルダー52は、ホルダーガイド51の孔51aに緊密に嵌入し、且つ、軸受3の内輪に緊密に嵌入した状態で、ホルダーガイド51に挿通できる外径になっている。また支柱ホルダー52は、支柱9の第2小径部9cが緊密に嵌入できる内径になっている。この支柱ホルダー52の内径は、第1小径部9bの外径よりも小さくなっている。
【0053】
部品交換や補修を行う必要が生じて、エレベータ機械室において巻上機1の分解・組立を行う手順の一例を、
図4〜
図12を参照して説明する。ここでは分解手順の詳細を説明する。なお、組立手順は分解の逆手順であるため、その説明は省略する。
【0054】
<分解工程1>
分解工程1を、
図4〜
図6を参照して説明する。なお、
図4は一部破断した正面図、
図5は
図4のA−A断面図、
図6は
図4のB−B矢視図である。
【0055】
・ジャッキ台31をベッド22の上に配置して、ジャッキ台31を駆動綱車2の下方に位置させる。
・ジャッキ本体32をジャッキ台31の上に配置する。
・ジャッキボルト33を、ジャッキ本体32のねじ穴32aにねじ込んで取り付ける。
・ボルト20を緩めて押え板19を支柱9から取り外す。
・ガイドカラー41を支柱9と同心にして、ボルト20によりガイドカラー41を支柱9の他端面(左端面)に固定する。
・引抜板42をガイドカラー41の他端面(左端面)に当接させた状態にして、取付ボルト43により引抜板42をモータスタンド17に固定する。
・引抜ボルト44を、引抜板42のねじ穴42aにねじ込んで取り付ける。
【0056】
<分解工程2>
分解工程2を、
図7,
図8を参照して説明する。なお、
図7は一部破断した正面図、
図8は
図7のC−C断面図である。
【0057】
・ボルト21を緩めて、ベッド22に固定されていたブレーキスタンド14をフリー(固定解除)状態にする。ボルト23を緩めて、ベッド22に固定されていたモータスタンド17をフリー(固定解除)状態にする。
・ジャッキボルト33をジャッキ本体32のねじ穴32aにねじ込んでいくことにより、ジャッキ本体32を上方に移動させていく。上方に移動していったジャッキ本体32は、駆動綱車2を下方から支えていって巻上機1全体(但しベッド22を除く)をベッド22から浮かせる。
・モータスタンド17を、図示しないチェンブロック等で吊りながら、引抜ボルト44を引抜板42のねじ穴42aにねじ込んでいき、引抜ボルト44の先端面(右端面)をガイドカラー41の他端面(左端面)に当接させる。この状態で引抜ボルト44を更にねじ込んでいくことにより、引抜板42がガイドカラー41から離れる方向に移動していく。このようにして引抜板42が移動していくと、取付ボルト43を介して引抜板42に固定されているモータスタンド17は、支柱9に沿ってスライド移動していき支柱9から引き抜かれる。
【0058】
<分解工程3>
分解工程3を、
図9を参照して説明する。なお、
図9は分解状態を示す正面図である。
【0059】
・ボルト13を緩めて、ロータ11を駆動綱車2から取り外す。
・ボルト8を緩めて、軸受カバー7を駆動綱車2から取り外す。
・ボルト16を緩めて、押え板15を支柱9及びブレーキスタンド14から取り外す。
・ブレーキスタンド14を、支柱9に沿い軸方向に移動させていき支柱9から引き抜く。
・ボルト6を緩めて、軸受カバー5を駆動綱車2から取り外す。
【0060】
<分解工程4>
分解工程4を、
図10を参照して説明する。なお、
図10は分解状態を示す正面図である。
【0061】
・支柱ガイド50のホルダーガイド51を、ボルト6により駆動綱車2の一端面(右端面)に取り付ける。
・ホルダーガイド51の孔51aに支柱ホルダー52を差し込む。更に支柱ホルダー52を押し込んでいき、支柱ホルダー52の先端部(左端部)を、支柱9の第1小径部9bと第2小径部9cとの段部に当接させる。このとき、第2小径部9cは、支柱ホルダー52の内周面でホールドされる。
【0062】
<分解工程5>
分解工程5を、
図11を参照して説明する。なお、
図11は分解状態を示す正面図である。
【0063】
・支柱9の他端部分(左端部分)を、図示しないチェン
ブロック等で水平状態を保てる程度に軽く吊りながら、支柱ホルダー52を一端側(右端側)から他端側(左端側)に押して、支柱9が軸受4から外れて支持されなくなる位置まで押し込む。このとき、支柱9は支柱ホルダー52で保持され、補助的にチェンブロック等でも支持される。支柱ホルダー52は、軸受3とホルダーガイド51で支持する。
・支柱9を、図示しないチェンブロック等で吊りつつ支柱9を一端側(右端側)から他端側(左端側)に移動させていって支柱ホルダー52から引き抜く。
・このように分解していくと、
図12のような分解状態になる。
【0064】
実施例2では、実施例1の効果に加えて、下記に示す追加の効果を得ることができる。
(1)ブレーキスタンド14と支柱9の嵌合は隙間嵌めであり人力で引き抜くことができる。
(2)モータスタンド17を支柱9から引き抜く場合、大掛かりな冶具や設備は必要なく、簡単な引抜冶具40を使用することによって人力で引き抜くことが出きる。
(3)モータスタンド17と支柱9の嵌合は隙間嵌めであり、引抜力は、引抜冶具40を使用すれば無視できる程度の大きさである。また、同時にかかるロータ11とステータ18の磁気吸引力は、引抜ボルト44をねじ込むことで発生する軸力で問題無く引き抜くことができる大きさである。
(4)本例では、ガイドカラー41で支柱9の軸部を延長することによって、ロータ11とステータ18の磁気吸引力が働かなくなる位置まで、支柱9でモータスタンド17を正しい姿勢のまま支えているので、ギャップのアンバランスが発生する恐れはない。
したがって、磁気吸引力によりロータ11とステータ18が吸着して分解できなくなる恐れはない。
(5)支柱9の外径を、軸受4との嵌合部を最大として、ブレーキスタンド14まで順次小さくしていること、また、支柱9と軸受3の嵌合及び支柱9と軸受4の嵌合は隙間嵌めであることから、大掛かりな油圧式の引抜機材等を使用すること無く、引抜冶具40を使用した人力で支柱9を軸受3,4から引き抜くことができる。
(6)分解・組立を行うのに必要な工具は、手動ジャッキ30、引抜冶具40、支柱ガイド50、チェンブロック及びスパナやレンチであり、いずれも機械室への搬入・搬出が容易であり、機械室での使用も問題なくできる寸法や重量である。
【0065】
〔実施例3〕
上記実施例1の巻上機1を分解・組立する手順を、実施例2とは一部異なる手順で行う手法を実施例3として説明する。実施例3は、基本的には実施例2と同一であるが、ロータ11と、ステータ18を備えたモータスタンド17とを一体のままにして、巻上機1の分解・組立を行うものである。
ここでは分解手順を説明する。なお、組立手順は分解の逆手順であるため、その説明は省略する。
【0066】
図13(a),(b)に示すように、モータスタンド17のうち、組立時においてロータ11の内周面に対向する面には、ねじ穴61が形成されている。このねじ穴61は、周方向に沿う複数箇所に形成されている。ねじ穴61には突っ張りボルト62(
図14(a),(b)参照)がねじ込まれる。
【0067】
分解作業をする前に、
図14(a),(b)に示すように、突っ張りボルト62を、内周側から外周側に向かってねじ穴61にねじ込んでいき、ボルト先端を、ねじ穴61よりも外周側に突出させてロータ11の内周面に当接させる。このようにすると、ロータ11をモータスタンド17に固定することができる。つまり組立状態における「ロータ11とステータ18との間のモータギャップ」と「ロータ11とステータ18との軸方向位置」を保ったまま、ロータ11とモータスタンド17を一体に固定することができる。
【0068】
上記のようにして、「ロータ11とステータ18との間のモータギャップ」と「ロータ11とステータ18との軸方向位置」を保ったまま、ロータ11とモータスタンド17を一体に固定することを完了したら、
図15に示すように、ボルト13を緩めて、ロータ11を駆動綱車2から取り外す。このようにしてロータ11を取り外すことにより、ロータ11とモータスタンド17は、所定の「モータギャップ」と「軸方向位置」を保ったまま一体で、駆動綱車2から分解することができる。
【0069】
なお分解の他の手順は、実施例2のものと同様である。
【0070】
実施例3では、摩耗限度に達した駆動綱車2の交換を行う場合には、突っ張りボルト62により、ロータ11と、モータスタンド17に備えたステータ18との組立状態を保持したまま一体に固定し、分離することなく一体で分解・組立を行うことができるので、作業時間を更に短縮することができる。
【0071】
[実施例4]
実施例4は、
図16に示すように、モータをアウターロータ形とした巻上機1Aである。この巻上機1Aでは、ロータ11Aの内周面に永久磁石12Aが固定されている。このロータ11Aはボルト13Aにより駆動綱車2の他端面(左端面)にボルト付けされている。
ステータ18Aはモータスタンド17に取り付けられている。しかも、ステータ18Aが内周側に、ロータ11Aが外周側になるように配置されている。
【0072】
図17及び
図18(a),(b)に示すように、モータスタンド17のうち、組立時においてロータ11Aの外周面に対向する面には、ねじ穴61Aが形成されている。このねじ穴61Aは、周方向に沿う複数箇所に形成されている。ねじ穴61Aには突っ張りボルト62A(
図19(a),(b)参照)がねじ込まれる。
【0073】
分解作業をする前に、
図19(a),(b)に示すように、突っ張りボルト62Aを、外周側から内周側に向かってねじ穴61Aにねじ込んでいき、ボルト先端を、ねじ穴61Aよりも内周側に突出させてロータ11Aの外周面に当接させる。このようにすると、ロータ11Aをモータスタンド17に固定することができる。つまり組立状態における「ロータ11Aとステータ18Aとの間のモータギャップ」と「ロータ11Aとステータ18Aとの軸方向位置」を保ったまま、ロータ11Aとモータスタンド17を一体に固定することができる。
【0074】
上記のようにして、「ロータ11Aとステータ18Aとの間のモータギャップ」と「ロータ11Aとステータ18Aとの軸方向位置」を保ったまま、ロータ11Aとモータスタンド17を一体に固定することを完了したら、ボルト13Aを緩めて、ロータ11Aを駆動綱車2から取り外す。このようにしてロータ11Aを取り外すことにより、ロータ11Aとモータスタンド17は、所定の「モータギャップ」と「軸方向位置」を保ったまま一体で、駆動綱車2から分解することができる。
【0075】
なお他の部分の構造や、分解の他の手順は、実施例2のものと同様である。
【0076】
実施例4のように、モータをアウターロータ形とした巻上機1Aであっても、モータをインナーロータ形とした巻上機1と同様な効果を得ることができる。
【0077】
[実施例5]
巻上機1にエンコーダー機器を取り付けたものを実施例5として、
図20及び
図21を参照して説明する。
ボルト6により駆動綱車2の一端面(右端面)に取り付けられた軸受カバー5Aは、
図1に示す軸受カバー5よりも大きくなっている。この軸受カバー5Aには駆動側歯車71が固定されている。駆動側歯車71の回転軸は駆動綱車2の回転軸と一致する状態で配置されている。駆動側歯車71は、駆動綱車
2の径に比べて大幅に小径であり、小型の歯車である。
【0078】
エンコーダー72はエンコーダー取付台73を介してブレーキスタンド14に固定されている。エンコーダー72の回転軸には従動側歯車74が取り付けられており、従動側歯車74は駆動側歯車71に噛合している。つまり、従動側歯車74と駆動側歯車71が噛合するように、エンコーダー取付台73とブレーキスタンド14の寸法や形状を設定している。
【0079】
他の部分の構成は、
図1に示すものと同様である。
【0080】
実施例5では、駆動綱車2が回転すると、駆動綱車2に固定された軸受カバー5A及び駆動側歯車71が回転する。これにより駆動側歯車71と噛み合った従動側歯車74が回転し、従動側歯車74が固定されたエンコーダー回転軸が回転し、エンコーダー72により駆動綱車2の回転を検出することができる。
【0081】
実施例5においては、駆動側歯車71(特許文献2の先行技術ではラックに相当する部材)が小さいので、駆動側歯車71を容易に一体で製作でき、製造コストが低減できる。また、駆動側歯車71に、つなぎ目がないので補助エンコーダーが不要である。
ちなみに、特許文献2の先行技術のラックは、駆動綱車と同等の径であり、大型部品である。
【解決手段】軸受3,4を備えた駆動綱車2の貫通孔2aには、支柱9が挿入されている。支柱9は軸受3,4で支持されている。支柱9の両端は、ブレーキスタンド14及びモータスタンド17に嵌合して組み合わされている。ブレーキスタンド14及びモータスタンド17は