特許第6135040号(P6135040)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135040
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】感光性樹脂凸版用印刷原版
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/11 20060101AFI20170522BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G03F7/11
   G03F7/00 502
   G03F7/11 502
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-80269(P2012-80269)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-210473(P2013-210473A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 敏
(72)【発明者】
【氏名】河上 哲真
【審査官】 石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−017148(JP,A)
【文献】 特開昭63−259552(JP,A)
【文献】 特開2010−191352(JP,A)
【文献】 特開2010−188693(JP,A)
【文献】 特開2003−114528(JP,A)
【文献】 特開平06−035200(JP,A)
【文献】 特開2010−144046(JP,A)
【文献】 特開2009−035708(JP,A)
【文献】 特開2000−098594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F7/00−7/18
G03F7/26−7/42
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、可撓性を有する支持体、感光性樹脂層、粘着防止層、剥離力調整層、表面をマット処理されたカバーフィルムが順次積層されてなる感光性凸版用印刷原版であって、剥離力調整層がベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシ−4−アクリイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4-メタク イルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2-アクリイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−[-ヒドロキシ −(メタクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[−ヒドロキシ −(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、及び2−[−ヒドロキシ−−メチル−−(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾールより選択される一つ以上の芳香ベンゼン環を骨格として有するモノマーと、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−メタクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸より選択される一つ以上の前記芳香ベンゼン環を骨格として有するモノマーと共重合可能な分子内に活性水素を含有するビニルモノマーとを重合して得られるアクリルポリマーを含有し、アクリルポリマーの含有量が剥離調整層中の成分に対して60質量%以上であり、剥離力調整層が少なくともアクリルポリマーと架橋成分からなり、剥離力調整層の架橋成分が2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水素化キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、6−イソシアナトヘキシルカルバミド酸6−[3−(6−イソシアナトヘキシル)−2,4−ジオキソ−1,3−ジアゼチジン−1−イル]ヘキシル、及びこれらの多価イソシアネートをトリメチロールプロパンに付加して得られるアダクト体の群より選択される一つ以上の多価イソシアネートであることを特徴とする感光性樹脂凸版用印刷原版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂凸版用印刷原板に関する。更に詳しくは、カバーフィルムの剥離性に優れた感光性樹脂凸版用印刷原板に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂凸版用印刷原板では、カバーフィルムを剥離した後にマスクを密着させて露光するが、カバーフィルムがマット処理されている場合、マット処理フィルムと粘着防止層の密着の強さからカバーフィルムが剥がれ難くなり、粘着防止層がカバーフィルムと共に剥がれる、あるいは、カバーフィルムの剥離にかかる力によって感光性樹脂層に破損を生じる場合があった。しかしながら、一般の離型剤をカバーフィルムに塗布し、粘着防止層との密着力を下げると製造時や運搬、製版までの取り扱い時にカバーフィルムが剥離し、カバーフィルムの目的である感光層の保護が不十分となっていた。
【0003】
カバーフィルムの剥離性を良くする方策としては粘着防止層に助剤を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしかかる従来技術は水現像の場合、現像する版の枚数が増えるにつれて、現像液中の塩の濃度が上がり、現像不良を引き起こす問題がある。
また、版面上に赤外線吸収層を設置したCTP版では、ポリビニルアルコールからなる剥離力調整層や(例えば、特許文献特許文献2)、さらにポリビニルアルコールからなる剥離力調整層に陰イオン性界面活性剤を添加することにより剥離し易くした技術が知られている。(例えば、特許文献3) しかし、かかる技術はカバーフィルムと剥離力調整層の剥離性を向上させる技術であり、赤外線吸収層を用いない印刷版ではカバーフィルムを剥がしたときにカバーフィルムと剥離力調整層の間で剥がれ、剥離力調整層が粘着防止層上に残るため、粘着防止層の機能が阻害される問題があった。
したがって、従来の技術では、製版時にカバーフィルムを剥離する際には剥離が容易でありながら、製造時や運搬、製版までの取り扱い時にはカバーフィルムが剥離することがなく取り扱い性にすぐれた感光性凸版用印刷原版は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−234439号公報
【特許文献2】特開2004−163925号公報
【特許文献3】特開2009−139599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、製版時にカバーフィルムを剥離する際には剥離が容易でありながら、製造時や運搬、製版までの取り扱い時にはカバーフィルムが剥離することがなく取り扱い性にすぐれた感光性凸版用印刷原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、少なくとも、支持体、感光性樹脂層、粘着防止層、剥離力調整層、表面をマット処理されたカバーフィルムが順次積層されてなる感光性凸版用印刷原版であって、剥離力調整層がベンゼン環を骨格として有するモノマーと、芳香ベンゼン環を骨格として有するモノマーと共重合可能なビニルモノマーとを重合して得られるアクリルポリマーを含有し、含有量が剥離調整層中の成分に対して60質量%以上であることを特徴とする感光性凸版用印刷原版を使用することで解決できることを見出した。
【0007】
本発明の好ましい実施形態によれば剥離力調整層がベンゼン骨格を有するモノマーと共重合可能なビニルモノマーが分子内に活性水素を含有する感光性樹脂印刷原版であり、さらに好ましくは剥離力調整層が少なくともアクリルポリマーと架橋成分からなり、架橋成分が多価イソシアネートである感光性凸版用印刷原版である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感光性凸版用印刷原版は、製版時にカバーフィルムを剥離する際には剥離が容易でありながら、製造時や運搬、製版までの取り扱い時にはカバーフィルムが剥離することがなく取り扱いできることから感光性凸版用印刷原版として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の感光性凸版印刷原版を詳細に説明する。
【0010】
少なくとも、可撓性を有する支持体、感光性樹脂層、粘着防止層、剥離力調整層、表面をマット処理されたカバーフィルムが順次積層されてなる感光性凸版用印刷原版であって、剥離力調整層がベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシ−4−アクリイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4-メタク イルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2-アクリイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−[-ヒドロキシ −(メタクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[−ヒドロキシ −(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、及び2−[−ヒドロキシ−−メチル−−(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾールより選択される一つ以上の芳香ベンゼン環を骨格として有するモノマーと、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−メタクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸より選択される一つ以上の前記芳香ベンゼン環を骨格として有するモノマーと共重合可能な分子内に活性水素を含有するビニルモノマーとを重合して得られるアクリルポリマーを含有し、アクリルポリマーの含有量が剥離調整層中の成分に対して60質量%以上であり、剥離力調整層が少なくともアクリルポリマーと架橋成分からなり、剥離力調整層の架橋成分が2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水素化キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、6−イソシアナトヘキシルカルバミド酸6−[3−(6−イソシアナトヘキシル)−2,4−ジオキソ−1,3−ジアゼチジン−1−イル]ヘキシル、及びこれらの多価イソシアネートをトリメチロールプロパンに付加して得られるアダクト体の群より選択される一つ以上の多価イソシアネートである剥離力調整層を設けた構成を有する。
【0011】
本発明の原版に使用されるカバーフィルムは可撓制であるが寸法安定性に優れた材料が好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、などの熱可塑性樹脂支持体を挙げることが出来る。これらの中でも寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。フィルム表面のマット化処理方法としては、アルカリ処理剤によるケミカルマット、サンドブラスト加工によるサンドマット、エンボス加工によるエンボスマット、微粒子塗工によるコートマットなどが挙げられる。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定性、あるいは印刷版製版時の取り扱い性などから50〜350μm、好ましくは100〜250μmが望ましい。
【0012】
本発明の原版に使用する剥離力調整層は、ベンゼン環を骨格として有するモノマーと芳香ベンゼン環を骨格として有するモノマーと共重合可能なビニルモノマーとを重合して得られるアクリルポリマーを剥離調整層中の成分に対して60質量%以上含有する。
【0013】
剥離力調整層の厚みとしては0.01μm〜2μmであり、好ましくは0.03μm〜1.5μm、さらに好ましくは0.05μm〜1μmである。厚みが0.01μm未満では剥離力を調整できず、又2μmを超えると製造時に筋が発生しやすいために好ましくない。
【0014】
剥離力調整層に用いるベンゼン環含有モノマーとしては、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、メチルフェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシー3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチルー2−ヒドロキシエチルーフタル酸、ネオペンチルグリコールアクリル酸安息香酸エステル、2−ヒドロキシ−4−アクリオイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4-メタクリオロイルオキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2-アクリオイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−メタクリロイルオキシ)エトキシベンゾフェノン、2−[2'-ヒドロキシー5‘−(メタクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2'-ヒドロキシー5‘−(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3‘−メチル−5’−(アクリロイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾールがあるが、これらに限定される物ではない。
【0015】
ベンゼン環を骨格として有するモノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルアクリレート、イソブチルメタクリレート、ブトキシアクリレート、ブトキシメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−メタクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸を挙げることが出来る。その中でも分子内に活性水素を含有する共重合可能なモノマーは、多価イソシアネート化合物等の架橋成分と反応することができるために好ましい。
【0016】
分子内に活性水素を含有する共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−メタクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸を挙げることが出来る。
【0017】
アクリルポリマーを製造する方法としては、公知の方法を用いることが出来る。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などによって共重合することができる。溶液重合の場合は、溶剤としてトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の芳香族系やエステル系あるいはケトン系の溶剤を用いることが望ましい。重合開始剤としてはアゾビスイソブチルニトリル等が使用できる。必要に応じてn−ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタンなどの連鎖移動剤を添加することも可能である。
【0018】
本発明に用いる剥離力調整層はアクリルポリマーに架橋成分を添加し、架橋させることが好ましい。架橋成分しては反応性の面から多価イソシアネートが好ましい。本発明で使用できる多価イソシアネート化合物としては、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する限り特に限定されない。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、水素化キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、6-イソシアナトヘキシルカルバミド酸6−[3−(6−イソシアナトヘキシル)−2,4−ジオキソ−1,3−ジアゼチジン-1-イル]ヘキシル、およびこれらの多価イソシアネートをトリメチロールプロパン等に付加して得られるアダクト体等が挙げられる。
【0019】
剥離力調整層に用いる成分としては、アクリルポリマー及び架橋成分以外に剥離力に影響しない範囲で他の成分を配合できる。例えば、芳香ベンゼン環を骨格として有さないアクリルポリマー、アクリルポリマー以外でアクリルポリマーと相溶性の高分子化合物、紫外線吸収剤、着色剤などが挙げられる。
【0020】
本発明に用いる剥離力調整層を設ける方法としては、公知の方法が可能であるが、生産性の面からコーティング方法が好ましい。
【0021】
本発明の印刷原版には感光性樹脂と剥離力調整層との間に粘着防止層を設ける。粘着防止層としてはマスクフィルムを通しての露光のため透明であることが必要で、かつ露光後の現像時には、感光層の現像液によって速やかに溶解除去されることが重要である。現像液に対する溶解性が充分でないと感光層の現像ムラの原因となる。以上のような条件を満たす粘着防止層を構成する物質としては、例えばセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。さらに当然ながら粘着防止層は活性光線に対して透明であることが要求される。
【0022】
本発明の印刷原版は、フレキソ版、レタープレス版ともに適用することが可能であり、感光性樹脂層としてはそれぞれに適したものを用いることができる。フレキソ版としては、ゴム成分をベースとしたものが好適な例として挙げられる。レタープレス版としては、ポリアミド樹脂版、ポリエーテルウレアウレタン樹脂版、ポリビニルアルコール樹脂版などが好ましく、これらの中でも水現像可能な版がさらに好ましい。
【0023】
本発明の原版に使用される感光性樹脂層は、少なくとも可溶性ポリマー、光重合性不飽和基含有モノマー、および光重合開始剤を含有するものである。
【0024】
本発明で使用される可溶性ポリマーとは、溶剤(現像液)に分散もしくは溶解できるポリマーをいい、特に、水に分散のしくは溶解できるポリマーが好ましい。またその数平均分子量は0.5万以上、特に1万以上のものが好ましい。例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリブタジエン共重合体などが挙げられる。また、これらのポリマーに光重合性不飽和基を導入したポリマーも使用可能である。
可溶性ポリマーの含有量は、感光性樹脂組成中、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは50〜70重量%である。当該含有量が40%未満であると、組成物がコールドフローしやすく、また物性が低下する恐れがある。逆に80重量%を超えると、感度が低下したり、現像時間が長くなるおそれがある。また、架橋密度が低くなって画像の耐水性や耐溶剤性が低下するおそれがある。
【0025】
本発明で使用される光重合性不飽和基含有モノマーとしては、分子内に光重合可能な不飽和基を1個以上含有するモノマーであり、従来公知のものが使用でき、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−アクロイルモルホリン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、さらには、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等の多価グリシジルエーテルに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸など)や不飽和アルコールなどのエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの不飽和エポキシ化合物とカルボン酸やアミンのような活性水素を有する化合物の付加反応物、不飽和ポリエステル、不飽和ポリウレタンなどが挙げられる。これらのモノマーは単独でも2種類以上併用してもよい。
【0026】
光重合性不飽和基含有モノマーの含有量は、感光性樹脂組成中、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは15〜40重量%である。当該含有量が5重量%未満であると、光重合による硬化速度が劣り、現像後に細い線、小さな独立点、小さな活字や細かい網点などの露光画像部が残りにくくなり、逆に60重量%を超えると、硬化収縮が大きくなったり、画像の物性が低下する恐れがあり、好ましくない。
【0027】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、アセトフェノン類、ベンジル類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルアルキルケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。具体的には、ベンゾイン、アセトフェノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジイソプロピルケタールなどが挙げられる。
【0028】
光重合開始剤の含有量は、感光性樹脂組成中、好ましくは0.05〜5重量%、より好ましくは0.1〜2.0重量%である。当該含有量が0.05重量%未満であると、光重合が開始しにくく、逆に5重量%を超えると、当該組成物を使用した感光層の厚み芳香の光重合が悪くなって、細い線、小さな独立点、小さな活字や細かい網点などの露光画像部が欠けやすくなり好ましくない。
【0029】
本発明の印刷原版に用いる支持体としては、可撓性であるが、寸法安定性に優れた材料が好ましく、例えばスチール、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属製支持体、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、またはポリカーボネートフィルムなどの熱可塑性樹脂製支持体を挙げることができる。これらの中でも、寸法安定性に優れ、充分に高い粘弾性を有するポリエチレンテレフタレートフィルムが特に好ましい。支持体の厚みは、機械的特性、形状安定性あるいは印刷版製版時の取り扱い性などから50〜350μm、好ましくは100〜350μmが望ましい。また、必要により、支持体と感光性樹脂層との接着を向上させるために、公知の接着層を設けても良い。
【0030】
本発明の感光性凸版用印刷原版の製造方法としては特に限定されないが、一般的には以下のようにして製造される。
剥離力調整層の形成方法は特に限定されないが、薄膜形成の簡便さから、剥離力調整層成分を溶媒に溶解した状態で、カバーフィルムにコーティングしてから溶媒を除去する方法が好ましく行われる。溶媒は特に限定されないが、トルエン、2-ブタノンなどの有機溶剤が主に使用される。
粘着防止層の形成方法は特に限定されないが、粘着防止層成分を適当な溶媒に溶解させ、上述の剥離力調整層上にコーティングしてから溶媒を除去する方法が好ましく行われる。
これにより、カバーフィルム、剥離力調整層、粘着防止層からなる積層体が得られる。
さらに、これとは別に支持体上に塗工により感光性樹脂層を形成し、他方の積層体を作製する。このようにして得られた二つの積層体を、圧力及び/又は加熱下に感光性樹脂層が粘着防止層に隣接するように積層する。
【0031】
本発明の感光性凸版用印刷原版から凸版印刷版を製造する方法としては、先ず、カバーフィルムを感光性凸版用印刷原版から除去する。その後、粘着防止層上に透明画像部を有するマスクフィルムを密着して重ね合わせ、その上から活性光線を照射して露光を行うと、露光部が硬化して不溶化する。活性光線には通常300〜400nmの波長を中心とする高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、ケミカルランプなどの光源を用いることが出来る。
露光後、適当な溶剤、好ましくは水、特に中性水を溶剤に用いて非露光部分を溶解除去することによって、短時間で速やかに現像がなされ、印刷版(レリーフ版)を得ることが出来る。現像方式としては、スプレー式現像装置、ブラシ式現像装置などを用いるのが好ましい。
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される物ではない。
【実施例】
【0032】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定される物ではない。評価方法は以下の方法で評価した。
〔性能評価〕
(1)剥離力試験:試験片として作製した印刷原版を150mm×50mmに裁断しカバーフィルムの端部を指先で剥がし、引っ張り試験機にセットし、1000mm/分の速度で90℃に引張りその剥離力を測定した。
・ 剥離性試験:A−1サイズの印刷原版を机上に置き、一方の手で印刷原版を押さえながら、他方の手でカバーフィルムを一気に剥がしたときの剥がれ方を評価。
○:スムーズに剥がすことが出来た。
△:剥離にきっかけを掴み難かった。
×:剥離は困難であり、一気に剥がすことが出来なかった。
・ 裁断剥離性:A−4サイズの印刷原版を押し切りカッターで裁断し、裁断部分におけるカバーフィルムの剥がれ方を観察。
○:裁断時の端部の剥がれが5mm以下
△:裁断時の端部の剥がれが10mm未満
×:裁断時の端部の剥がれが10mm以上
【0033】
実施例1
<剥離力調整層ポリマーの作成>
窒素導入菅、撹拌装置を備えたフラスコに、重合に用いるモノマーとしてベンジルメタクリレート50g、メチルアクリレート46g、ブチルアクリレート4g、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタン1.0g、溶媒としてトルエン100gを加え、窒素導入管から窒素を吹き込みながら50℃まで昇温する。その後、重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル0.3gを添加し撹拌する。1時間撹拌後、70℃まで昇温し8時間反応を行い、重合物溶液を得た。
<剥離力調整層の作製>
得られた重合物溶液1gにトルエン、メチルエチルケトンをそれぞれ50g加え、25℃で1時間撹拌し、剥離力調整層塗工液を得た。 得られた剥離力調整層塗工液を、厚み100μmのケミカルマットフィルム(東洋クロス(株)製TC−5002)にワイヤーバー#6で塗布し、100℃で3分乾燥して0.05μmの剥離力調整層を形成した。
<粘着防止層の作製>
純水97gにPVA(AH−26〔日本合成化学工業(株)製、ケン化度97.0〜98.8%〕)3gを加え、90℃で1時間撹拌した。このPVA溶液を上記剥離力調整層上にワイヤーバー#24で塗布し、120℃で3分乾燥して1.0μmの粘着防止層を剥離力調整層上に積層した積層フィルムを得た。
<感光性凸版用印刷原版の作製>
ε−カプロラクタム50重量部、N,N’−ビスアミノプロピルピペラジンアジペート40重量部、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンアジペート10重量部を重合せしめて、融点137℃、比粘度1.96の三級窒素含有ポリアミドを得た。得られたポリアミド55部をメタノール200重量部、水24重量部に溶解し、この溶液にメタクリル酸3重量部、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルとアクリル酸35モル%及び、メタクリル酸65モル%との反応物36部、N−エチル−p−トルエンスルホンアミド5重量部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.1重量部、ベンジルジメチルケタール1重量部を加え、感光性樹脂組成物溶液を得た。この感光性樹脂溶液を濃縮機に送り、110℃で濃縮して感光性樹脂組成物Aを得た。ついで、250μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに接着剤を20μmコートして得た支持体フィルムの接着剤塗布面側と、前記積層フィルムの粘着防止層塗工側との間に感光性樹脂組成物Aを挟み込み、100℃で加熱プレスして、全厚み950μmの感光性凸版用印刷原版を作製した。
【0034】
実施例2
実施例1における剥離力調整層ポリマー重合に用いるモノマーを2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート50g、メタクリル酸メチル46g、アクリル酸ブチル4g、に代えた以外は実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を作製した。
【0035】
実施例3
実施例1における剥離力調整層ポリマー重合に用いるモノマーを2- [2‘-ヒドロキシ-5’-(メタクリオイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール40g、メタクリル酸メチル36g、アクリル酸ブチル24g、に代えた以外は実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を作製した。
【0036】
実施例4
実施例1における剥離力調整層ポリマー重合に用いるモノマーを2−[2‘-ヒドロキシ-5’-(メタクリオイルオキシ)フェニル]ベンゾトリアゾール40g、メタクリル酸メチル36g、アクリル酸ブチル24g、メタクリル酸2ヒドロキシエチル3g、メタクリル酸1g、に変えた以外は実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を作製した。
【0037】
実施例5
実施例4の剥離力調整層ポリマー溶液1gに、ジブチル錫ラウレート0.002g、6-イソシアナトヘキシルカルバミド酸6−[3−(6−イソシアナトヘキシル)-2,4-ジオキソ-1,3-ジアゼチジン-1-イル]ヘキシル0.04g、トルエン50g、メチルエチルケトン50g、を加え1時間撹拌し剥離力調整層塗工液を得た。得られた剥離力調整層塗工液を、ケミカルマット処理されたPETフィルムにワイヤーバー#6で塗布し、100℃で3分乾燥してケミカルマット処理されたPET上に剥離力調整層を形成し、実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を得た。
【0038】
比較例1
剥離力調整層を設けずに粘着防止層をケミカルマットフィルムに直接塗工した以外は実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を得た。
【0039】
比較例2
剥離力調整層として重剥離剤テスファイン322(日立化成ポリマー(株)製)を塗工した以外は実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を得た。
【0040】
比較例3
実施例1における剥離力調整層ポリマー重合に用いるモノマーをメタクリル酸メチル56g、アクリル酸ブチル44g、に代えた以外は実施例1と同様にして感光性凸版用印刷原版を作製した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、本発明の剥離力調整層を用いた場合、各試験とも良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の構成を用いた感光性樹脂凸版用印刷原版は、カバーフィルムの剥離性に優れることから凸版用印刷版として有用に利用できる。