特許第6135140号(P6135140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6135140ベアリング部を潤滑する方法、およびそれを用いた樹脂フィルム製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135140
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ベアリング部を潤滑する方法、およびそれを用いた樹脂フィルム製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20170522BHJP
   B29C 55/20 20060101ALI20170522BHJP
   F16N 7/16 20060101ALI20170522BHJP
   F16N 7/32 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   B29C55/20
   F16N7/16
   F16N7/32 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-6947(P2013-6947)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2014-137123(P2014-137123A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西田 貴則
(72)【発明者】
【氏名】八木 正博
【審査官】 佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−322365(JP,A)
【文献】 特開2005−008737(JP,A)
【文献】 特開2004−150473(JP,A)
【文献】 特開2010−216651(JP,A)
【文献】 特開2006−102831(JP,A)
【文献】 特開2004−301167(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/00
F16N 7/00
B29C 55/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの端部を把持する樹脂フィルム把持部、スプロケットにより駆動される駆動チェーン部、及び、レールに沿って樹脂フィルム把持部の位置を変化させるベアリング部を有する部材をクリップチェーンとした際に、
複数のクリップチェーンからなるクリップチェーン群を2つ有し、さらにクリップチェーン群中の複数のベアリング部に対して潤滑油を供給する潤滑油供給手段を有する装置(以下、テンター装置という)において、該テンター装置中のベアリング部を潤滑する方法であって、
前記潤滑油供給手段から供給される潤滑油が、ポリアルキルエーテル系化合物であることを特徴とする、ベアリング部を潤滑する方法。
【請求項2】
1つのクリップチェーン群中のベアリング部に対して供給される潤滑油の単位時間当たりの総量が、0.05ml/時間以上0.4ml/時間以下であることを特徴とする請求項1に記載のベアリング部を潤滑する方法。
【請求項3】
前記潤滑油の40℃における動粘度が、500mm/s以上かつ1,000mm/s以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のベアリング部を潤滑する方法。
【請求項4】
前記ベアリング部中の複数のベアリングに対して、供給量を個別に調整可能であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
【請求項5】
前記潤滑油供給手段から供給される潤滑油は、前記クリップチェーン群の走行速度に応じて、供給量を調整して供給されること特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
【請求項6】
前記潤滑油供給手段はギアポンプであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
【請求項7】
前記潤滑油供給手段から供給される潤滑油は、供給配管の途中に設けられた気液混合手段によってミスト状にされて供給されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法を用いたことを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
樹脂フィルムを横延伸するためのテンター装置において、樹脂フィルムの両端を把持するクリップチェーン群中のベアリング部に対する潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルムの製造方法としては、口金からシート状に吐出してキャストドラム上で冷却固化した未延伸樹脂フィルムを、縦延伸機で樹脂フィルムの搬送方向に延伸した後、テンター装置で樹脂フィルムの幅方向に延伸する逐次二軸延伸法や、前記未延伸樹脂フィルムをテンター装置で樹脂フィルムの搬送方向と樹脂フィルムの幅方向とに延伸する同時二軸延伸法などが知られている。
【0003】
これらの製造方法に用いられるテンター装置は、樹脂フィルム表面と対向する面に空気の噴出孔を設けたエア噴出ノズルが、樹脂フィルムの搬送方向に複数配置されている。熱交換器によって所望の温度に制御された空気は、ファンによって各エア噴出ノズルに送り込まれ、噴出孔から樹脂フィルム表面に向かって吹き付けられる。吹き付けられた空気は、テンター装置内の吸引口から回収され、再使用される。
【0004】
一般にテンター装置は、樹脂フィルムの搬送方向に予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンや冷却ゾーンなど複数のゾーンに区分されており、少なくとも各ゾーン毎に空気の温度を設定できるように構成される。クリップチェーン群によって両端を把持されて搬送される樹脂フィルムは、予熱ゾーンで延伸に適した温度まで加熱され、延伸ゾーンで少なくとも幅方向に延伸された後、熱固定ゾーンや冷却ゾーンなどで熱処理や冷却処理される。エア噴出ノズルは、所望の温度に制御された空気を樹脂フィルム表面に吹き付けることで、空気と樹脂フィルムとの熱交換を促進し、樹脂フィルムを加熱または冷却するものである。
【0005】
このようにして製造される樹脂フィルムの特性は、テンター装置の各ゾーンを通過する際に受ける熱履歴によって形成される。樹脂フィルムの両端を把持するクリップチェーン群も樹脂フィルムと同じように熱履歴を受けるために、潤滑油供給過多による樹脂フィルムへの潤滑油飛散や、潤滑油不足によるレールの磨耗を発生させることなく、適正な油膜を維持難しくこれまで種々の改良がなされてきた。
【0006】
特許文献1ではレール(スチールベルト)のベアリング(支持ローラ)走行面に油溝が設けられ、この油溝に潤滑油の供給口が設けてある構造が開示されている。
【0007】
特許文献2では、潤滑油としてフッ素化合物を含むポリエーテル系合成油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−235729号公報
【特許文献2】特開2009−185100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1に記載の発明は、油溝にある程度潤滑油がたまらないとベアリング表面に油膜が形成されないという問題があった。さらに油溝にたまった潤滑油が変質して固化し供給口が詰まるという問題もあった。さらには油溝で固化した潤滑油を除去するのが非常に困難であるとの問題もあった。
【0010】
前記特許文献2に記載の発明について、フッ素系の潤滑油は自身が持つ剥離性の影響で油膜を形成しにくく、またフッ素系の潤滑油は樹脂フィルムとの親和性も悪い。さらに可能性のある多くの用途の中のひとつとしてテンター装置があげられているだけで、テンター装置での最適な適用方法の検討まではなされていなかった。
【0011】
そのため本発明は、加水分解を起こさず、熱安定性優れ、樹脂フィルとの親和性の高い潤滑油を使用することで、供給過多による樹脂フィルムへの潤滑油飛散や、供給不足によるレールの磨耗を発生させることのない、ベアリング部の潤滑方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための本発明は、以下である。
(1) 樹脂フィルムの端部を把持する樹脂フィルム把持部、スプロケットにより駆動される駆動チェーン部、及び、レールに沿って樹脂フィルム把持部の位置を変化させるベアリング部を有する部材をクリップチェーンとした際に、
複数のクリップチェーンからなるクリップチェーン群を2つ有し、さらにクリップチェーン群中の複数のベアリング部に対して潤滑油を供給する潤滑油供給手段を有する装置(以下、テンター装置という)において、該テンター装置中のベアリング部を潤滑する方法であって、
前記潤滑油供給手段から供給される潤滑油が、ポリアルキルエーテル系化合物であることを特徴とする、ベアリング部を潤滑する方法。
(2)
1つのクリップチェーン群中のベアリング部に対して供給される潤滑油の単位時間当たりの総量が、0.05ml/時間以上0.4ml/時間以下であることを特徴とする(1)に記載のベアリング部を潤滑する方法。
(3)
前記潤滑油の40℃における動粘度が、500mm/s以上かつ1,000mm/s以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のベアリング部を潤滑する方法。
(4)
前記ベアリング部中の複数のベアリングに対して、供給量を個別に調整可能であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
(5)
前記潤滑油供給手段から供給される潤滑油は、前記クリップチェーン群の走行速度に応じて、供給量を調整して供給されること特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
(6)
前記潤滑油供給手段はギアポンプであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
(7)
前記潤滑油供給手段から供給される潤滑油は、供給配管の途中に設けられた気液混合手段によってミスト状にされて供給されることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法。
(8)
(1)〜(7)のいずれかに記載のベアリング部を潤滑する方法を用いたことを特徴とする、樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
潤滑油の供給過多による潤滑油付着や、潤滑油不足で発生したレールの磨耗粉の付着のない樹脂フィルムを安定して供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】テンター装置の概略説明図
図2】クリップチェーンの概略説明図
図3】樹脂フィルムの製造工程の概略説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態を、二軸延伸樹脂フィルムの製造工程に適用した場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図3は逐次二軸延伸法による樹脂フィルム12の製造工程の一形態を示す概略図である。
【0017】
逐次二軸延伸法による樹脂フィルム12の製造工程は、図3に示すように、押出機21、口金22、キャストドラム23、縦延伸機24、テンター装置10、ワインダー25からなり、樹脂を押出機21で溶融して押し出し、口金22のスリット間隙からシート状に吐出し、キャストドラム23で冷却固化して得られる未延伸の樹脂フィルム12を、縦延伸機24で搬送方向に延伸して一軸延伸の樹脂フィルム12とし、該一軸延伸の樹脂フィルム12をテンター装置10で樹脂フィルム12の幅方向に延伸して二軸延伸の樹脂フィルム12とし、該二軸延伸の樹脂フィルム12をワインダー25によって連続的に巻き取るものである。上記の工程中において、樹脂フィルム12の表面に塗液を塗布する際は、テンター装置10の直前に塗布装置(図示せず)を設置しても良い。ここでは逐次二軸延伸法における例を示したが、同時二軸延伸法においては、縦延伸機24を用いず、キャストドラム23で冷却固化して得られる未延伸の樹脂フィルム12を、テンター装置10で樹脂フィルム12の搬送方向と樹脂フィルム12の幅方向とに同時延伸して二軸延伸の樹脂フィルム12とする方法であってもよい。なお、本発明でいう搬送方向とは、図3の製造工程において、押出機21からワインダー25に向かう方向を示す。

図1はテンター装置10の一形態を示す平面図(上面図)である。ここでテンター装置10は、樹脂フィルム12搬送方向の上流側から下流側に、予熱ゾーン26、延伸ゾーン27、熱固定ゾーン28、冷却ゾーン29に区分されていることが一般的であり、少なくとも各ゾーン毎に空気の温度が設定できるように構成されている。
【0018】
クリップチェーン1は、樹脂フィルム12の端部を把持する樹脂フィルム把持部、下流側スプロケット16により駆動される駆動チェーン部、及び、レールに沿って樹脂フィルム把持部の位置を変化させるベアリング部を有する部材である。
【0019】
テンター装置10は、複数のクリップチェーン1からなるクリップチェーン群11を2つ有し、さらにクリップチェーン群11中の複数のベアリング部に対して潤滑油を供給する潤滑油供給手段7を有する装置を意味する。
【0020】
ここで、樹脂フィルム12の端部を把持する樹脂フィルム把持部とは、テンター装置中で樹脂フィルムの端部を把持する機能を有する。
【0021】
下流側スプロケット16により駆動される駆動チェーン部とは、張力調整機能を有する上流側スプロケット15と回転駆動機能を有する下流側スプロケット16との間で環状に繋がれている。そして駆動チェーン部は、下流側スプロケット16の回転により樹脂フィルム12を搬送しながら延伸する機能を有する。
【0022】
レールに沿って樹脂フィルム把持部の位置を変化させるベアリング部とは、テンター装置10中で樹脂フィルムの幅方向の位置を規制するレール5に沿ってスムーズに走行するための機能を有する。そしてベアリング部は、少なくともベアリングを2つ有する。そして、ベアリング部がベアリングを2つ有する場合には、レール5を挟み込むように内側ベアリング13と外側ベアリング14とを有する。
【0023】
複数のクリップチェーン1からなるクリップチェーン群11とは、上流側スプロケット15と下流側スプロケット16との間で環状に繋がれた駆動チェーン部に、複数のクリップチェーン1が配設された部材である。
【0024】
クリップチェーン群11中の複数のベアリング部4に対して潤滑油を供給する潤滑油供給手段7とは、潤滑油を貯蔵するタンクと潤滑油を送液するポンプと潤滑油をレール5に供給する供給配管とからなり、レール5とベアリング部4とに適切な油膜を形成し、レール5とベアリング部4とを潤滑する機能を有する。
【0025】
またテンター装置10は、クリップチェーン群を2つ有する。これについて、クリップチェーン群11は、樹脂フィルム把持部2を用いて樹脂フィルム10の両端部を把持することで、テンター装置10中で樹脂フィルム12を搬送する機能を有するため、テンター装置10はクリップチェーン群11を2つ有することが重要である。
【0026】
つまり図に示すように、テンター装置10は、樹脂フィルム10の端部を把持する樹脂フィルム把持部を有するクリップチェーン1を複数有するクリップチェーン群11を2つ有し、該2つのクリップチェーン群11を対向して配置することで、樹脂フィルム10の両端部を把持する2つのクリップチェーン群11の幅方向の位置を搬送しながら変更することで、樹脂フィルム12を幅方向に延伸することができる。さらに前述の通りテンター装置10は、ベアリング部に対して潤滑油を供給する潤滑油供給手段7を有する。
【0027】
クリップチェーン1中の樹脂フィルム把持部は、テンター装置10の上流側で樹脂フィルム12の両端を把持し、テンター装置10内を通過し、テンター装置10の下流側で樹脂フィルム12を解放する機能を有する。
【0028】
テンター装置10は、樹脂フィルム12搬送方向の上流側から下流側に、予熱ゾーン26、延伸ゾーン27、熱固定ゾーン28、冷却ゾーン29に区分されていることが一般的であり、少なくとも各ゾーン毎に空気の温度が設定できるように構成されている。これら各ゾーンは、樹脂フィルム12の搬送方向に、複数の室に区分され、各室毎に空気の温度が設定できるように構成されていても良い。つまり、テンター装置10は、例えば予熱ゾーン26として3室有し、延伸ゾーン27として4室有し、熱固定ゾーン28として2室有し、冷却ゾーン29として1室有し、などとすることが可能であり、さらに各ゾーン内の各室の温度を独立に設定することも可能である。
【0029】
また、各ゾーンの温度範囲は、例えば、樹脂フィルム12がポリエステルフィルムの場合、空気の温度は、予熱ゾーン26で80〜140℃、延伸ゾーン27で80〜200℃、熱固定ゾーン28で150〜240℃、冷却ゾーン29で50〜200℃に設定することができる。
【0030】
2つのクリップチェーン群11の幅方向の位置を、延伸ゾーン27内においては相対距離が徐々に広がるように配置することで、樹脂フィルム12を幅方向に延伸することができる。また必要に応じ、熱固定ゾーン内や冷却ゾーン内で、相対距離が徐々に狭くなる区間を設けることで、樹脂フィルム12を幅方向に弛緩処理することもできる。
【0031】
なお、同時二軸延伸法による樹脂フィルム12の製造工程では、テンター装置10の延伸ゾーン27内で隣接するクリップチェーン1とクリップチェーン1との間隔を徐々に広げることで、樹脂フィルム12を搬送方向にも延伸することができる。
【0032】
本発明で用いられるテンター装置は潤滑油供給手段7を有し、クリップチェーン群11中の複数のベアリング部4に対して潤滑油が供給される。潤滑油供給手段7は、テンター装置10の下流側であり、かつ樹脂フイルム把持部2が樹脂フィルム12を解放した後に潤滑油が供給される位置に配設されることが望ましい。また樹脂フィルム12を解放した後のクリップチェーン1は、図示しないテンター装置10の内部を通って、テンター装置10の上流側に戻る内部リターン方式でも良いが、クリップチェーン1の温度が上がるとフィルムが粘着しクリップチェーン1が汚れるので、図示の通りテンター装置10の外部を通ってテンター装置10の上流側に戻る外部リターン方式によりクリップチェーン1の温度を低めにすることが望ましい。

図2は、図1でのA−A断面のクリップチェーン1の概略を示す。クリップチェーン1は、樹脂フィルム12の端部を把持する樹脂フィルム把持部2と、幅方向の位置を規制するレール5に沿ってスムーズに走行するためのベアリング部4と、駆動チェーン3とを有している。
【0033】
ベアリング部4が有するベアリングの数は特に限定されないが、図2の態様のベアリング部4は、レール5を挟み込むように内側ベアリング13と外側ベアリング14の2つのベアリングを有し、レール5が2つのクリップチェーン群11の幅方向の相対距離が徐々に広がるように配置され、樹脂フィルム12を幅方向に延伸する部分では、樹脂フィルム12の延伸張力で外側ベアリング14に大きな力が掛かる。またテンター装置10の上流付近では、駆動チェーンの張力により内側ベアリングに大きな力が掛かる。内側ベアリング13と外側ベアリング14の一方に大きな力が掛かると、その反対側は隙間が開く。このようにレール5と内側ベアリング13と外側ベアリング14との間で大きな力が掛かったり、また隙間が開いたりを繰り返すので、テンター装置中のベアリング部に対して潤滑油を供給して、ベアリング部を潤滑することが重要である。

ベアリング部4である内側ベアリング13と外側ベアリング14に対する、潤滑油供給手段7による潤滑油の供給は、1つの潤滑油供給手段7から分岐して供給することも可能であるが、外側ベアリング14には外側潤滑油供給手段8から潤滑油が所定量供給され、内側ベアリング13には内側潤滑油供給手段9から潤滑油が所定量供給される、個別供給が望ましい。つまり本発明においては、ベアリング部中の複数のベアリングに対して、供給量を個別に調整可能であることが好ましい。
【0034】
テンター装置10での樹脂フィルム12の走行速度が、例えば樹脂フィルム12の厚みによって100m/分から200m/分まで変化する場合、100m/分から200m/分まで一定の潤滑油供給量であっても良いが、中間速度の150m/分の供給量を基準として、150m/分よりも走行速度が遅い場合は、潤滑油の供給量を減らし、150m/分よりも走行速度が速い場合は潤滑油の供給量を増やすことが好ましい。つまり本発明の方法は、クリップチェーン群11の走行速度に応じて、潤滑油の供給量を調整して供給されることが望ましい。

本発明において潤滑油供給手段から供給される潤滑油は、ヒートサイクルを含む高い耐熱性と、繰り返しを含む荷重に対する高い潤滑性(油膜形成保持性)とを有する点から、潤滑油がポリアルキルエーテル系化合物であることが重要である。このようなポリアルキルエーテル系化合物としては、エチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなどのアルキレンオキシなどを付加重合したものや、アルキルジフェニルエーテルであることが望ましい。潤滑油として特に好ましいポリアルキルエーテル系化合物は、ポリオキシプロピレングリコールモノアルキルエーテル、又は、ポリオキシエチレンプロピレングリコールモノアルキルエーテルである。

本発明においては、1つのクリップチェーン群中のベアリング部に対して供給される潤滑油の単位時間当たりの総量が、0.05ml/時間以上0.4ml/時間以下であることが好ましい。つまり、1つのクリップチェーン群11中のベアリング部4(図2で言えば内側ベアリング13と外側ベアリング14)に対して、1つの潤滑油供給手段7から潤滑油を供給している場合には、供給される潤滑油の量は、0.05ml/時間以上であることが望ましい。また、1つのクリップチェーン群11中のベアリング部4(図2で言えば内側ベアリング13と外側ベアリング14)に対して、複数の潤滑油供給手段(図2で言えば外側潤滑油供給手段8と内側潤滑油供給手段)で潤滑油を供給している場合は、該複数の潤滑油供給手段から供給される潤滑油の総量が0.05ml/時間以上であることが望ましい。1つのクリップチェーン群中のベアリング部に対して供給される潤滑油の単位時間当たりの総量が、0.05ml/時間未満であると、内側ベアリング13と外側ベアリング14の外周面に油膜が形成されない部分が発生することでレール5が磨耗することがある。

また、1つのクリップチェーン群11中のベアリング部4に対して、潤滑油供給手段7から供給される潤滑油の総量は、0.4ml/時間以下であることが望ましい。これよりも多いと内側ベアリング13と外側ベアリング14の外周面に油膜が形成されても余るため、余った潤滑油が遠心力などで飛散しフィルム12に付着することがある。

潤滑油は、40℃における動粘度が500mm/s以上1,000mm/s以下であることが望ましい。
【0035】
潤滑油の動粘度が500mm/s未満であると、内側ベアリング13と外側ベアリング14の外周面に一度油膜が形成されてもすぐに膜切れてしまうことがある。また潤滑油の動粘度が1,000mm/sを超えると、内側ベアリング13と外側ベアリング14との回転抵抗が高くなり、クリップチェーン群11の駆動抵抗が必要以上に大きくなることがある。
【0036】
潤滑油の40℃における動粘度を500mm/s以上1,000mm/s以下とするためには、潤滑油中に増粘度剤を含有させる方法や、潤滑油であるポリアルキルエーテル系化合物の重合度を上げてより高分子量化することで動粘度を上げることも可能であるが、後者の方法がより望ましい。
【0037】
潤滑油供給手段は、ギアポンプであることが望ましい。つまり潤滑油供給手段7の潤滑油を送液するポンプはギアポンプであることが望ましい。ギアポンプは、常に一定量を送液する性能に優れ、どんな粘度の潤滑油でも送液することができる。
【0038】
潤滑油供給手段7から供給される潤滑油は、潤滑油をレール5に供給する供給配管の途中に設けられた気液混合手段によって気体と混合されることで、ミスト状にされてベアリング部(内側ベアリング13と外側ベアリング14)の表面に供給されることが望ましい。これにより、潤滑油が液体のまま供給された場合と比較して、潤滑油の表面張力により供給量に斑が発生することを防ぎ、均一に供給することができる。
【0039】
本発明の樹脂フィルムの製造方法は、ここまで説明した本発明のベアリング部を潤滑する方法を用いたことを特徴とする。本発明の樹脂フィルムの製造方法によれば、潤滑油の付着や、レールの磨耗粉の付着のない樹脂フィルムを安定して供給できる。なお、本発明の製造方法は、テンター装置を用いて樹脂フィルムを製造する工程を有する限り、その適用範囲に制限はなく、各種の樹脂フィルムに適用することができる。特に、樹脂フィルムが芳香族ポリエステルフィルムの場合に、本発明の製造方法は好適である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0041】
実施例1
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。ここでPETとは、ポリエチレンテレフタレートの略である。
【0042】
樹脂フィルム12の走行速度は100m/分で、フィルム厚みが100μm、40℃の動粘度が616mm/sであるポリアルキルエーテル系化合物(化学名:ポリオキシプロピレングリコールモノアルキルエーテル(PGMA)/メーカ:UCC/品番:LB−3000)を潤滑油として0.35ml/時間供給した結果、潤滑油の供給過多および粘度低下による潤滑油の飛散も無く、潤滑油の供給不足によりレール5が磨耗することにより発生する鉄粉の発生もなく、良好なフィルムが製造できた。
【0043】
なお動粘度は、JISZ8803:2011に記載の方法によって測定した。
【0044】
実施例2
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。
【0045】
樹脂フィルム12の走行速度は200m/分で、フィルム厚みが50μmのとき、40℃の動粘度が945mm/sであるポリアルキルエーテル系化合物(化学名:ポリオキシエチレンプロピレングリコールモノアルキルエーテル(EPGMA)/メーカ:UCC/品番:50HB−5100)を潤滑油として0.1ml/時間供給した結果、潤滑油の供給過多および粘度低下による潤滑油の飛散も無く、潤滑油の供給不足によりレール5が磨耗することにより発生する鉄粉の発生もなく、良好なフィルムが製造できた。
【0046】
ただし、潤滑油の動粘度が高いためにテンター装置の駆動抵抗が大きくこれ以上高い粘度の潤滑油は使用できないと考えられた。
【0047】
比較例1
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。
【0048】
樹脂フィルム12の走行速度は70m/分で、フィルム厚みが190μmのとき、40℃の動粘度が300mm/sであるエステル系化合物(メーカ:NOKクリューバ/品番:プリミウムスーパーM93) を潤滑油として供給した結果、潤滑油の粘度が低いので潤滑油の飛散が無いように潤滑油の供給量を調整したが(0.3ml/時間)、潤滑油の供給不足によりレール5が磨耗して、PETフィルムに鉄粉が付着し良好なフィルムが得られなかった。
【0049】
走行速度が遅いにもかかわらず潤滑油の供給量を増やすと潤滑油が飛散するので、潤滑油の供給量を増やすことができなかった。
【0050】
比較例2
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。
【0051】
樹脂フィルム12の走行速度は150m/分で、フィルム厚みが80μmのとき、40℃の動粘度が330mm/sであるエステル系化合物(メーカ:佐藤特殊製油/品番:ハイサーモルブNo,700)潤滑油として供給した結果、フィルムに鉄粉の付着ないように調整したが(0.5ml/時間)、潤滑油が飛散し良好なフィルムが得られなかった。このときPETフィルムに付着した合成潤滑油は変質しておりエステルが水分と熱とで加水分解したものであった。
【0052】
比較例3
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。
【0053】
樹脂フィルム12の走行速度は100m/分で、フィルム厚みが100μmのとき、40℃の動粘度が800mm/sであるフッ素含有ポリエーテル系化合物(メーカ:NOKクリューバ/品番:バリエルタJ800フルード)を潤滑油として0.5ml/時間供給した結果、最も耐熱安定性に優れた潤滑油にもかかわらず、潤滑油の供給過多による潤滑油の飛散が発生すると共に、潤滑油の供給不足でレール5が磨耗することにより発生する鉄粉も発生した。この原因はフッ素自身が持つ剥離性の影響でレール5の表面に適切な油膜が均一に形成されなかったことによる。さらにPETフィルムに付着した潤滑油がワインダー25で別の部分に転写し、潤滑油の付着範囲を大幅に増やしてしまい正常な生産ができなくなった。
【0054】
比較例4
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。
【0055】
樹脂フィルム12の走行速度は200m/分で、フィルム厚みが50μmのとき、40℃の動粘度が780mm/sである鉱油系潤滑油(メーカ:出光興産/品番:ハイテンプC)を0.7ml/時間供給した結果、
潤滑油の潤滑性を上げるために添加されたモリブデンなどの金属成分が固形物残渣となり走行部に付着し内側ベアリング13や外側ベアリング14の動きが悪くなり、レール5が削れてPETフィルムに鉄粉が付着した。この対策として潤滑油の供給量を増やしたところ余計に鉄粉の付着が多くなった。
【0056】
比較例5
図1〜3に示す樹脂フィルムの製造工程でPETフィルムを製造した。
【0057】
樹脂フィルム12の走行速度は100m/分で、フィルム厚みが100μmのとき、40℃の動粘度が220mm/sである鉱油系潤滑油(メーカ:JX日鉱日石エネルギー/品番:FBKオイルRO220)を1ml/時間供給した結果、潤滑油の供給過多による潤滑油の飛散が発生すると共に、潤滑油の供給不足でレール5が磨耗することにより発生する鉄粉も発生し、良好なPETフィルムが製造できなかった。
【0058】
【表1】
【符号の説明】
【0059】
1:クリップチェーン
2:樹脂フィルム把持部
3:駆動チェーン
4:ベアリング部
5:レール
6:レール支え
7:潤滑油供給手段
8:外側潤滑油供給手段
9:内側潤滑油供給手段
10:テンター装置
11:クリップチェーン群
12:樹脂フィルム
13:内側ベアリング
14:外側ベアリング
15:上流側スプロケット
16:下流側スプロケット
21:押出機
22:口金
23:キャストドラム
24:縦延伸機
25:ワインダー
26:予熱ゾーン
27:延伸ゾーン
28:熱固定ゾーン
29:冷却ゾーン
図1
図2
図3