特許第6135301号(P6135301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6135301耐久性ポリエステルフィルムとその製造方法、及びそれを用いた太陽電池封止用フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6135301
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】耐久性ポリエステルフィルムとその製造方法、及びそれを用いた太陽電池封止用フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   C08J5/18CFD
【請求項の数】2
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-111547(P2013-111547)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-88541(P2014-88541A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2016年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-220118(P2012-220118)
(32)【優先日】2012年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松永 篤
(72)【発明者】
【氏名】奥村 友輔
(72)【発明者】
【氏名】多和田 誠司
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5979157(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂を溶融しシート状に成型する工程と、以下(1)〜(4)に記載の長手方向・幅方向の延伸工程および熱処理工程を有する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムを構成するポリエステル樹脂の固有粘度(IV)が0.65〜0.80、末端カルボキシル基量が20当量/t以下、ジエチレングリコール含有量が0.9質量%以上3.0質量%以下であり、かつフィルムの平均超音波伝導速度が2.1km/秒以上である二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
(1)長手方向に延伸速度2,000%/秒〜10,000%/秒にて3.0〜4.5倍延伸する工程
(2)幅方向に3.5〜4.5倍延伸し、かつ幅方向延伸工程開始前のフィルム幅をW0、幅方向延伸工程の中間点でのフィルム幅をW1、幅方向延伸工程終了後でのフィルム幅をW2とした場合、以下の式(A)を満たす工程
60 ≦ 100×(W1−W0)/(W2−W0)≦ 80 ・・・ 式(A)
(3)二軸配向フィルムを230℃以上240℃以下にて5秒以上熱処理する工程
(4)幅方向延伸工程と熱処理工程の間に中間工程を有し、該中間工程の温度が幅方向延伸工程の最終区間の温度:Ts(℃)と熱処理工程最初の区間にあたる第1の熱処理工程温度:Th(℃)の中間温度であり、かつ中間工程をフィルムが通過する時間をSm(秒)とした時に以下式(B)を満たす工程
(Th−Ts)/Sm ≦ 50 ・・・ 式(B)
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂を溶融しシート状に成型する工程において、用いるポリエステル樹脂がリン酸アルカリ金属塩を0.1モル/t以上5.0モル/t以下含有する請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性と接着力のバランスが良好なポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは耐湿熱環境下における特性保持率が高く、かつフィルムの生産性や加工性、および他素材と貼り合わせる場合の接着力に優れ、特に太陽電池封止用フィルムを始め、建築材料、自動車材料等、屋外で使用される用途に有用なポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。そのポリエステル樹脂をフィルム化したポリエステルフィルム、中でも二軸配向ポリエステルフィルムは、その機械的特性、電気的特性などから、銅貼り積層板、太陽電池封止フィルム、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、もしくはフラットケーブルなどの電気絶縁材料、磁気記録材料や、コンデンサ用材料、包装材料、自動車用材料、建築材料、写真用途、グラフィック用途、感熱転写用途などの各種工業材料として使用されている。
【0003】
これらの用途のうち、特に屋外で用いられる電気絶縁材料(例えば太陽電池封止フィルムなど)、自動車用材料、建築材料などでは、長期にわたり過酷な環境下で使用されることが多い。そのような過酷な環境下で長期にわたり使用すると、ポリエステル樹脂は加水分解により分子量が低下し、また、脆化が進行して機械物性などが低下する。そのため、長期にわたり過酷な環境下で使用される場合、或いは湿気のある状態で使用される様な用途では、湿熱条件下における機械強度の低下を抑制する耐久性(耐湿熱性)や、湿熱条件下における接着性の低下を抑制する接着耐久性(耐湿熱接着性)が求められている。たとえば、太陽電池封止用途では太陽電池の耐用年数の向上による発電コストダウンを図るために、ポリエステルフィルムの耐湿熱性、耐湿熱接着性の向上が求められている。
【0004】
そのため、ポリエステル樹脂の耐湿熱性、耐湿熱接着性を向上すべく様々な検討がなされている。例えば、ポリエステル樹脂の重縮合触媒を検討したり(特許文献1)、エポキシ化合物(特許文献2)やポリカルボジイミド(特許文献3)を添加して、ポリエステル樹脂自体の耐湿熱性を向上させる技術が検討されている。また、ポリエステル樹脂に緩衝剤を添加したり(特許文献4)、さらにポリエステル樹脂に3官能成分を導入する事で分子間架橋により耐湿熱性を向上させる方法(特許文献5)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−212272号公報
【特許文献2】特開平9−227767号公報
【特許文献3】特表平11−506487号公報
【特許文献4】特開2008−7750号公報
【特許文献5】特開2010−248492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の手法では耐加水分解性(耐湿熱性)が不十分であった。特許文献2、3の技術では、フィルム溶融製膜時にゲル化が進行して厚み不良となったり、フィルタ詰まりが発生したり、二軸配向フィルム製造時にフィルム破れが発生しやすく耐加水分解性(耐湿熱性)を向上させるために必要な配向を付与できないといったフィルム製膜プロセスでの問題が発生したり、フィルム中に異物が残り品質不良となったりする問題があった。フィルム中に緩衝剤を含有した特許文献4では、ポリエステル樹脂の耐湿熱性の改善は見られるが、フィルムを他素材と接着させる際の接着性がポリエステル樹脂中の末端カルボキシル基量が低いため十分ではなく、長期使用時に剥がれが生じるなどの問題があった。また、耐湿熱性をさらに向上させるために必要な分子配向をフィルムに与えるような製膜条件とした場合は、二軸配向フィルム製造時に破れや厚み斑などの問題が発生しやすく、生産性と耐湿熱性の両立は困難であった。さらに、特許文献5のように分子間架橋構造を有する場合は、フィルムの耐湿熱性は向上するが、他素材との接着性の改善は見られず、またフィルムの延伸性がさらに低下するため、接着性と耐湿熱性の両立は困難であり、生産性にも劣るものであった。また、特許文献4,5に使用される緩衝剤は、添加時に凝集しやすい問題があり、これら凝集物が濾過工程でのフィルタ寿命を縮めたり、濾過しきれずに残存した微小な凝集物が、異物としてフィルム内部に残存するため、外観不良として歩留まりを悪化させてしまう問題もあった。近年コストダウンのための歩留まり向上検討が進む中、フィルムに対する異物欠陥低減に対する要求レベルも益々高くなっており、耐湿熱性の向上に加えて、異物欠陥低減についての改善も求められてきている。
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、高温高湿下の条件での耐久性と、他素材との接着性の特性バランスに優れ、かつフィルム製膜工程における厚み不良・破れ、フィルム内部欠陥等の発生を抑制できる、生産性に優れたポリエステルフィルム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1).フィルムを構成するポリエステル樹脂の固有粘度(IV)が0.65〜0.80、末端カルボキシル基量が20当量/t以下、ジエチレングリコール含有量が0.9質量%以上3.0質量%以下、示差走査熱量測定(DSC)により求められる微小吸熱ピーク温度(Tmeta)(℃)が220℃以上であり、かつフィルムの平均超音波伝導速度が2.1km/秒以上である二軸配向ポリエステルフィルム。
(2).前記ポリエステル樹脂が、リン酸アルカリ金属塩を0.1mol/t以上5.0mol/t以下含有する(1)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(3).フィルムに含まれる長径100μm以上のリン成分を含有する異物が10ヶ/1000cm以下である(2)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(4).長手方向における150℃30分の熱収縮率が0.8%以下である(1)〜(3)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(5).フィルムの超音波伝導速度の最大値と最小値の比率が1.0以上1.3以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(6)フィルムの超音波伝導速度が最大値を示す方向とフィルム長手方向とのなす角度(θ)が10°以上80°以下である(5)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(7).125℃100%RH下に48時間保持したときの伸度保持率が50%以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(8).ポリエステル樹脂を溶融しシート状に成型する工程と、以下(a)〜(d)に記載の長手方向・幅方向の延伸工程および熱処理工程を有する二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法であって、フィルムを構成するポリエステル樹脂の固有粘度(IV)が0.65〜0.80、末端カルボキシル基量が20当量/t以下、ジエチレングリコール含有量が0.9質量%以上3.0質量%以下であり、かつフィルムの平均超音波伝導速度が2.1km/秒以上である二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
(a)長手方向に延伸速度2,000%/秒〜10,000%/秒にて3.0〜4.5倍延伸する工程
(b)幅方向に3.5〜4.5倍延伸し、かつ幅方向延伸工程開始前のフィルム幅をW0、幅方向延伸工程の中間点でのフィルム幅をW1、幅方向延伸工程終了後でのフィルム幅をW2とした場合、以下の式(A)を満たす工程
60 ≦ 100×(W1−W0)/(W2−W0)≦ 80 ・・・ 式(A)
(c)二軸配向フィルムを230℃以上240℃以下にて5秒以上熱処理する工程
(d)幅方向延伸工程と熱処理工程の間に中間工程を有し、該中間工程の温度が幅方向延伸工程の最終区間の温度:Ts(℃)と熱処理工程最初の区間にあたる第1の熱処理工程温度:Th(℃)の中間温度であり、かつ中間工程をフィルムが通過する時間をSm(秒)とした時に以下式(B)を満たす工程
(Th−Ts)/Sm ≦ 50 ・・・ 式(B)
(9).前記ポリエステル樹脂を溶融しシート状に成型する工程において、用いるポリエステル樹脂が、リン酸アルカリ金属塩を0.1モル/t以上5.0モル/t以下含有する(8)に記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
(10).(1)〜(7)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムを用いた太陽電池封止用フィルム。
(11).(10)に記載の太陽電池封止用フィルム用いた太陽電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温高湿下での耐久性と他素材との接着性を両立可能な特性バランスに優れ、かつ生産性も良好であるポリエステルフィルムを提供することができる。かかるポリエステルフィルムは、太陽電池封止シート、銅貼り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、もしくはフラットケーブルなどの電気絶縁材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料を初めとした耐久性と接着性が重視されるような用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂の末端カルボキシル基量が20当量/t以下であることが、高温高湿下での耐久性向上のために必要である。一般的なポリエステルフィルムは結晶性ポリエステルから構成され、フィルム中にはポリエステルの結晶部と非晶部が存在する。また、かかる結晶性ポリエステルを二軸延伸して得られるポリエステルフィルム中には、配向によりポリエステルが結晶化した部分(以下、配向結晶化部とする)と非晶部が存在する。ここで、非晶部は、結晶部、配向結晶部に比べて密度が低く、平均の分子間距離が大きい状態にあると考えられる。ポリエステルフィルムが湿熱雰囲気下に曝された場合、水分(水蒸気)は、密度の低いこの非晶部の分子間を通って内部に進入し、非晶部を可塑化させ分子の運動性を高める。また、水分(水蒸気)は、ポリエステルのカルボキシル基末端のプロトンを反応触媒として、分子運動性の高まった非晶部の加水分解を促進する。加水分解され、低分子量化したポリエステルは、分子運動性が更に高まり、加水分解が進行すると共に結晶化が進む。これが繰り返される結果、フィルムの脆化が進行し、最終的には僅かな衝撃でも破断に至る状態となる。このような加水分解反応は、ポリエステル樹脂中のカルボキシル基末端のプロトンを反応触媒として反応が進行するため、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂中の末端カルボキシル基量が少ないほど耐加水分解性が向上すると考えられる。末端カルボキシル基量は好ましくは15当量/t以下、さらには13当量/t以下が好ましい。下限値は特には限定されないが、実質的に1当量/t以下とすることは困難である。
【0011】
本発明において、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は0.65以上0.80以下であり、好ましくは0.68以上0.75以下である。固有粘度(IV)が0.65未満である場合は、分子鎖が短く耐湿熱環境下での分子運動性が高まり易かったり、末端部分が増える事で耐加水分解性が悪化しやすい。また0.80を越える場合は、粘度が高くなりすぎるため、フィルム製膜時に破断が増えるなど生産性が悪化したり、厚みムラが悪化したりする事がある。
【0012】
なお、ポリエステル樹脂を溶融製膜する際の溶融状態において、残存する水分による加水分解や熱分解が進行するため、フィルム原料として用いる溶融押出前のポリエステル原料の固有粘度(IV)は、フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるIVの目標値よりも高くすることが好ましい。ただし、フィルム原料のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)を上げるためには、ポリエステル樹脂製造時の固相重合の時間を長くしたり、触媒添加量を増やす必要があり、ポリエステル樹脂の着色や特性の悪化につながる場合がある。そのため、フィルム原料のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるIVの目標値よりも高くするとしても、その差は小さい方が好ましい。フィルム原料のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、フィルムを構成するポリエステル樹脂におけるIVの目標値よりも0.05〜0.15高くすることが好ましい。また、ポリエステル原料の末端カルボキシル基量についても、同様に溶融製膜する際の溶融状態において増加するため、フィルムを構成するポリエステル樹脂における末端カルボキシル基量の目標値よりも2〜5当量/t低い値とする事が好ましい。また、このような溶融時のポリエステル樹脂劣化を低減するためには、ポリエステル樹脂を減圧下にて加熱する等の方法にてあらかじめポリエステル樹脂中の水分量を50ppm以下とする事や、フィルムに溶融押出製膜する時のポリエステル樹脂の温度をポリエステル樹脂の融点(Tm)+40℃以下として、さらに押出機先端からキャスティングドラムに着地するまでの時間を短くすること、目安としては10分以下、より好ましくは5分以下、特に好ましくはは3分以下とすることなどが好ましく用いられる。これらの方法によりポリエステル樹脂の溶融製膜時の加水分解や熱分解を抑制して固有粘度(IV)の低下や末端カルボキシル基量の増加を低減し、安定して耐加水分解性の良いポリエステルフィルムを得る事が可能となる。
【0013】
上記の様に、末端カルボキシル基量を低減しかつ固有粘度を高めるためには、溶融重合のあとに減圧または窒素ガスのような不活性気体の流通下で加熱することによって重合を進める固相重合法を適用することが好ましい。固有粘度が0.5以上0.6以下のポリエステルを溶融重合で得た後に、190℃以上ポリエステルの融点未満の温度で、減圧または窒素ガスの流通下で固相重合を行うことが好ましい。
【0014】
本発明において、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂中のジエチレングリコール(DEG)の含有量が0.9質量%以上3.0質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以上2.0質量%以下である。本発明において、ポリエステル樹脂中に含有するジエチレングリコール(DEG)とは、後述する測定方法により求められ、ポリエステル鎖に共重合した状態でポリエステル樹脂中含有しているジエチレングリコール、ポリエステル樹脂中に単独で含有しているジエチレングリコールのどちらも含む。ジエチレングリコール(DEG)の含有量が0.9質量%未満である場合は、フィルム製造工程における延伸性が悪化し、フィルム破断による生産性低減の問題が生じたり、加工工程での裁断時のバリや割れが生じやすい等の問題が発生する事がある。特にこれまでの耐加水分解性が高いフィルムは、上述のように固有粘度(IV)が高いため、それにより延伸張力も高くなり、特に広幅での生産時に幅方向延伸時のエッジ近傍に応力が集中して破れやすくなる問題があった。また末端カルボキシル基量が低いフィルムでは、分子内での相互作用が弱くなり、特に幅方向中央部と両端部における分子配向の均一性が悪化しやすく、延伸時の破れが増加したり、フィルム幅方向の位置により特性の差が大きくなったりする等の問題があった。ジエチレングリコール(DEG)の含有量を上記の範囲とする事で、ポリエステル分子に適度な柔軟性が付与され、フィルムが破断しにくくなり生産性が向上すると共に、柔軟成分付与により接着層との親和が進むため接着力ならびに接着耐久性も向上させることができる。また、打抜き加工などを行った場合の切断面のバリや破れなどが発生しにくい等の加工性も改善する事ができる。更に、ポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂中のDEG含有量を上記の範囲とし、かつ適度な分子配向性を付与した本発明のポリエステルフィルムは、生産性、加工性が良好であるだけでなく、これまで両立が困難であった高温高湿下での耐久性(耐湿熱性)の低下も防止することが可能となる。本発明のポリエステルフィルムは柔軟成分を含有するため延伸性が良好であり、従来ではフィルム破断が発生するため不可能であった後述する延伸速度が速い延伸条件を取ることが可能となる。この延伸条件を用いて得られるポリエステルフィルムは、フィルムの分子配向を高めることができるため耐久性を向上させる事ができる。また、特に広幅製膜における幅方向中央部と端部の配向差、および配向差による特性差を低減させることが可能となり、高温高湿下での耐久性(耐湿熱性)の向上と共に、幅方向での特性差を低減する事が可能となる。
【0015】
フィルムを構成するポリエステル樹脂中のジエチレングリコール(DEG)量を上記の範囲とするためには、ポリエステル樹脂重合時のジオール成分としてジエチレングリコール(DEG)を添加する方法が最も好ましい方法として挙げられる。ただ、ジエチレングリコール成分はエチレングリコール成分の副反応成分としても生じるため、ジエチレングリコール(DEG)量を安定して上記範囲とするためには、重合反応中の副反応成分を抑制し、かつ制御する事が必要となる。そのため、ジカルボン酸構成成分としては、例えばテレフタル酸ジメチルの様な末端がエステル化された原料を用いる事が好ましい。一方、テレフタル酸の様な末端がカルボン酸となっている原料を出発原料として用いた場合は、カルボン酸成分によりジオール成分同士が反応する副反応を生じやすい。例えばジオール成分としてエチレングリコールを用いた場合は、副反応としてジエチレングリコール(DEG)を生じやすく、ポリエステル樹脂中に一定量のジエチレングリコール(DEG)成分が導入される。しかし、副反応生成物として発生するジエチレングリコール(DEG)はその量の制御が難しいため、含有量にバラツキが増加するなどの問題がある。また、上記副反応を抑制しつつ末端カルボキシル基量を低減するためには、エステル交換反応時においてジオール成分がジカルボン酸成分に対して過剰とならないように、ジオール成分を反応に従い徐々に添加する方法を用いたり、ジオール成分追添時の温度を220℃〜240℃の低温条件下で行う方法が好ましい方法として挙げられる。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムを構成するポリエステル樹脂がリン酸アルカリ金属塩を0.1〜5.0モル/t含有する事が好ましい。リン酸アルカリ金属塩はポリエステル中で乖離してイオン性を示すため、加水分解反応の触媒として作用するプロトンを中和する事ができる。この結果プロトンによる加水分解反応を抑制し、耐湿熱性を向上することが可能となる。緩衝作用を示すリン酸アルカリ金属塩の具体例としては、下記化学式(I)で示される化合物が挙げられるが、ポリエステル樹脂の重合反応性や、溶融成形時の耐熱性、耐湿熱性の観点から、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウムが特に好ましい例としてあげ挙げられる。
POxHyMz ・・・化学式(I)
(ここで、xは2〜4の整数、yは1または2、zは1または2であり、Mはアルカリ金属である)。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂中のリン酸アルカリ金属塩含有量が0.1モル/t未満である場合は、十分な耐湿熱性が得らない事があり、5.0モル/tを越えると過剰なアルカリ金属により分解反応が促進される事がある。リン酸アルカリ金属塩含有量は0.3モル/t以上3.0モル/t以下がより好ましく、更に好ましくは1.0モル/t以上2.0モル/t以下である。また、本発明のポリエステルフィルムは、上記リン酸アルカリ金属塩を0.1〜5.0モル/t含有するポリエステル樹脂が50質量%以上含有していると、フィルムの耐湿熱性能を維持するため好ましく、さらには70質量%以上、さらには90質量%以上、特には95質量%以上が好ましい。50質量%未満である場合は、耐湿熱性能に劣る場合がある。なお、本発明においてポリエステル樹脂に含有するリン酸アルカリ金属塩の含有量は、ポリエステル樹脂合成時に添加したリン酸アルカリ金属塩の添加量とした。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂において、アルカリ金属元素含有量WA(ppm)とリン元素含有量WP(ppm)の比WA/WPが0.3以上0.7以下であることが好ましい。この範囲に含有量を調整することで、ポリエステルフィルムの加水分解抑制効果を維持しながら、耐熱安定性を付与することができる。また、リン化合物としてリン酸アルカリ金属塩とリン酸を併用すると、加水分解抑制効果をさらに高めることが可能となるため特に好ましい。
【0019】
本発明において、リン酸アルカリ金属塩はポリエステルの重合時に添加しても、溶融成形時に添加してもいずれも構わないが、リン酸アルカリ金属塩のフィルム中への均一分散の点や重合時における末端カルボキシル基量低減のためには、重合時に添加することが好ましい。重合時に添加する場合、添加時期は、ポリエステルの重合時のエステル化反応、またはエステル交換反応終了後から、重縮合反応初期(固有粘度が0.3未満)までの間であれば任意の時期に添加することができる。しかしながら、リン酸アルカリ金属塩は、添加時にリン酸アルカリ金属塩そのものが凝集したり、反応により高分子化したりする事により、ポリエステル樹脂中にリン化合物を主成分とした異物を発生させることがある。その結果、フィルム製膜工程におけるフィルタを閉塞させ生産性が低下したり、またフィルム中に異物として残り、外観の悪化や絶縁性能の低下などの問題が発生する事がある。このため、本発明のポリエステルフィルムにおいては、フィルム中における長径100μm以上のリン元素を含有する異物が10ヶ/1000cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは5ヶ/1000cm以下、特に好ましくは3ヶ/1000cmである。ポリエステル内部のリン元素を含有する異物量を低減させるためには、リン酸アルカリ金属塩の添加方法として、あらかじめリン酸アルカリ金属塩をエチレングリコール等のジオール構成成分へ溶解させ、かつその濃度1質量%以下の溶液として添加する事が好ましく、さらには0.5質量%以下の濃度とし、該希釈溶液を20分以上の時間をかけて徐々に添加する方法が好ましい。また、リン酸アルカリ金属塩添加時のポリエステルの温度が250℃を越えると、リン化合物による異物が発生しやすいため、リン酸アルカリ金属塩添加時のポリエステルの温度としては250℃以下が好ましく、さらに好ましくは210℃〜240℃である。リン酸アルカリ金属塩添加時のポリエステルの温度が210℃未満となると、ポリエステル樹脂中のリン酸アルカリ金属塩の分散性が悪化する場合があるため好ましくない。また、ポリエステル樹脂を合成する方法としては、ジカルボン酸成分の原料として、ジカルボン酸化合物を使用する方法と、ジカルボン酸エステル化合物を使用する方法などが挙げられるが、ジカルボン酸化合物(ポリエチレンテレフタレートの場合ではテレフタル酸)を出発原料とした場合は、ジカルボン酸化合物に由来する酸成分によりリン酸アルカリ金属塩の凝集が発生しやすい傾向がある。そのため、ジカルボン酸成分は、ジカルボン酸エステル化合物(ポリエチレンテレフタレートの場合では、例えばテレフタル酸ジメチル等)を原料とする方が好ましい。なお、ジカルボン酸化合物を原料として用いる場合は、リン酸アルカリ金属塩の濃度を0.5質量%以下とし、ポリエステルの温度が210〜230℃の範囲にて添加する事で、リン化合物による異物の形成を実用範囲内に抑制することが可能となる。また、ジカルボン酸エステル化合物を原料として用いるエステル交換反応においては、ジオール成分がジカルボン酸成分に対してモル比1.1〜1.3倍となるように混合し、エステル交換反応の開始温度を250〜270℃の範囲として初期の反応を促進した後、エステル交換反応終了温度を220〜240℃の範囲とし、ジオール成分が最終的にジカルボン酸成分に対してモル比1.5〜2.0倍となるようにエチレングリコールとジエチンレングリコールの混合物をエステル交換反応中に追添加すると、反応性が良好となりポリエステル樹脂の生産性を向上できるため好ましく、またポリエステル樹脂に含まれるDEG量を制御することが容易になるため好ましい。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂の重縮合触媒としては、従来のアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物を用いることができる。アンチモン化合物および/またはゲルマニウム化合物を用いる場合は、そのアンチモン元素、ゲルマニウム元素の和として50ppm〜500ppmであることが重縮合反応性、固相重合反応性の点から好ましく、さらには50〜300ppmであることが耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。500ppmを超えると重縮合反応性、固相重合反応性は向上するものの、再溶融時の分解反応も促進されるため、カルボンキシル末端基が増加し、耐熱性、耐加水分解性が低下する原因となることがある。好適に使用されるアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物としては、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウムを挙げることができ、それぞれ目的に応じて使い分けることができる。例えば、色調が最も良好となるのはゲルマニウム化合物であり、固相重合反応性が良好となるのはアンチモン化合物である。環境面を配慮し、非アンチモン系で製造する場合には、チタン触媒が重縮合反応や固相重合の反応性が良好となる点で好ましい。さらに、マンガン化合物を100〜300ppmの範囲で添加すると耐加水分解性が良好となるため好ましい。これはマンガンは水和エネルギーが高く、ポリエステルフィルム中の水との親和性が低いため、加水分解反応が進行しにくくなるためと考えられる。100ppm未満の場合は、加水分解抑制効果が不十分となり、300ppmを越えると逆に耐加水分解性が悪化する傾向が見られる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂はジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるポリエステルである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。
【0022】
かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられるがこれらに限定されない。また、上述のカルボン酸構成成分のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d−ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類、およびその誘導体や、オキシ酸類が複数個連なったもの等を付加させたものも好適に用いられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0023】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、芳香族ジオール類等のジオール、上述のジオールが複数個連なったものなどが例としてあげられるがこれらに限定されない。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。
【0024】
また、本発明のポリエステル樹脂中には、カルボン酸成分と水酸基成分の合計が3以上である構成成分や、エポキシ系化合物やカルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物など末端カルボキシル基の封止剤を本発明の効果を損なわない程度に含有することが可能である。カルボン酸成分と水酸基成分の合計が3以上である構成成分の例としては、三官能の芳香族カルボン酸構成成分としては、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、アントラセントリカルボン酸等が、三官能の脂肪族カルボン酸構成成分として、メタントリカルボン酸、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸等が挙げられ、水酸基数が3以上の構成成分の例としては、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシアントラセン、トリヒドロキシカルコン、トリヒドロキシフラボン、トリヒドロキシクマリン等が挙げられる。ただし上記、カルボン酸成分と水酸基成分の合計が3以上である構成成分や末端封止剤を添加すると、ポリエステル樹脂の分子鎖同士を架橋した3次元構造を形成しやすく、結果としてフィルムの延伸性を悪化させたり、ゲル化物によるフィルム中の異物量が増加するため、極力使用しない方が好ましい。
【0025】
また、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂において、ポリエステル中の全ジカルボン酸構成成分中の芳香族ジカルボン酸構成成分の割合は、90モル%以上100モル%以下が好ましい。より好ましくは95モル%以上100モル%が好ましい。更に好ましくは98モル%以上100モル%以下、特に好ましくは99モル%以上100モル%以下、最も好ましくは100モル%、すなわちジカルボン酸構成成分全てが芳香族ジカルボン酸構成成分であるのがよい。90モル%に満たないと、耐湿熱性、耐熱性が低下したりする場合がある。本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル中の全ジカルボン酸構成成分中の芳香族ジカルボン酸構成成分の割合を90モル%以上100モル%以下とすることで、耐湿熱性、耐熱性を両立することが可能となる。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂は、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分からなる繰り返し単位を主たる繰り返し単位とする。ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分からなる繰り返し単位としては、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、プロピレンテレフタレート、ブチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートおよびこれら混合物をからなるものが好適に用いられる。なお、ここでいう主たる繰り返し単位とは、全繰り返し単位の70モル%以上であることをあらわす。より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上である。さらには低コストで、より容易に重合が可能で、かつ耐熱性に優れるという点で、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、およびこれらの混合物が主たる繰り返し単位であることが好ましい。この場合、エチレンテレフタレートをより多く構成単位として用いた場合はより安価で汎用性のある耐湿熱性を有するフィルムを得ることができ、またエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートをより多く構成単位として用いた場合はより耐湿熱性に優れるフィルムとすることができる。
【0027】
更に、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤、架橋剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。特に、紫外線カット能を付与するにはポリエステルフィルム中に隠蔽性が高い二酸化チタンなどの無機粒子や紫外線吸収剤を含有させるのが好ましく、特に二酸化チタンはその隠蔽性および反射率の高さから、太陽電池封止フィルムとして使用した場合、内部の配線を見えにくくしたり、背面側の封止フィルムとして使用した場合は、発電に利用されなかった光を反射することで発電効率向上に寄与する事が出来るため好ましい。
【0028】
二酸化チタンとしては、アナターゼ型及びルチル型の結晶構造を有する二酸化チタンが存在するが、アナターゼ型と比較してルチル型の方が結晶構造が密であるため屈折率が高い。そのため本発明にて使用される二酸化チタンは、高い反射作用による隠蔽効果を得ることができるという観点から、ルチル型二酸化チタンが好ましい。
【0029】
二酸化チタン粒子の製造方法としては、主に硫酸法と塩素法が挙げられる。硫酸法プロセスではイルメナイト鉱を濃硫酸に溶解し、鉄分を硫酸鉄として分離した後、この溶液を加水分解することでチタンを水酸化物としてとして沈殿分離する。次いでこの水酸化物を高温のロータリーキールン等で焼くことで、二酸化チタンを得ることができる。一方塩素法プロセスでは、ルチル鉱を原料とし、約1,000℃の高温で塩素ガスとカーボンに反応させ、四塩化チタンを生成させた後に、四塩化チタンを分離し、高速に噴射しながら酸化することで二酸化チタンを得ることができる。塩素法プロセスで生成された二酸化チタンは、硫酸法プロセスと比較して、気体だけが関与する気相反応で合成されることから、バナジウム、鉄、マンガンといった不純物が少なく、高純度な二酸化チタンを得ることができ、特に好ましい。
【0030】
本発明で使用される二酸化チタンは、二酸化チタンの光触媒活性を抑制するため、あるいはポリエステル樹脂中での分散性を向上させるために、表面処理が行われていることが好ましい。光触媒活性を抑制するためには、例えば表面をシリカ、アルミナなどの無機酸化物で被覆処理する方法が挙げられる。また、分散性向上のためには、例えば、シロキサン化合物やポリオールなどで表面処理をする方法が挙げられる。
【0031】
本発明で用いられる二酸化チタンの粒径は、0.1μm〜0.5μmであることが好ましい。二酸化チタンの光反射能力が最大発揮される波長は、二酸化チタン粒径の約2倍の波長であるため、二酸化チタンの粒径が上記の範囲であると可視光線領域の反射効率が高くなるため、例えば太陽電池の封止フィルムとして用いられた場合は、発電効率が向上し好ましい。二酸化チタンの粒径は0.2μm〜0.4μmであることが特に好ましい。二酸化チタンの粒径が0.1μm未満となると、二酸化チタン粒子が凝集しやすく、分散が難しい傾向があり、また0.5μmを越えると可視光線領域の反射効率が落ちる傾向がある。なお、ここで言う二酸化チタン粒子の平均粒径とは、積層フィルムを灰化処理をした後に、走査型電子顕微鏡(SEM)にて20,000倍の倍率で観察し、観察された粒子50ヶの数平均粒径を求めた値である。
【0032】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂中に含有される二酸化チタン粒子の量としては、2〜25質量%が好ましく、さらに好ましくは3〜20質量%である。2質量%未満である場合は、隠蔽性が不十分となる場合があり、25質量%を越えると、延伸時にフィルム破断が発生しやすくなったり、耐湿熱性が低下する場合がある。なお、本発明のポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルムを厚さ方向に共押出積層を行い、その一方の面側はニ酸化チタン粒子量を10〜25重量%含む紫外線を遮断機能層とし、もう一方の面側にはニ酸化チタン粒子量を2〜8質量%とし、湿熱環境下での耐久性維持を目的とした層とする事で、高い紫外線耐久性と高い耐湿熱性能を両立することが出来るため好ましい。この時に、ニ酸化チタン粒子量を10〜25重量%含む層とニ酸化チタン粒子量を2〜8質量%含む層の厚みの比率を1:10〜1:5とすると、紫外線耐久性と高い耐湿熱性能をバランスよく両立する事ができ、さらに好ましい。なお、通常光触媒反応性を有するチタン系化合物をポリエステルフィルム中に含有する場合は、その触媒活性の高さからポリエステルフィルムの加水分解が促進され、湿熱環境下での耐久性が低下する。しかしながら、本発明のポリエステルフィルムは、チタン系化合物(チタン系粒子)を含有した場合でも、高い耐湿熱性を維持する事が可能となる。
【0033】
また、本発明にて使用可能な紫外線吸収剤としては、例えばサリチル酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、およびベンゾオキサジノン系化合物、環状イミノエステル系化合物などを好ましく例示することができるが、分散性の点からベンゾオキサジノン系化合物が最も好ましい。これらの化合物は1種単独であるいは2種以上一緒に併用することができる。またHALSや酸化防止剤等の安定剤を併用することもでき、特にリン系の酸化防止剤を併用することが好ましい。
【0034】
本発明のポリエステルフィルムは二軸配向ポリエステルフィルムである。ここで言う二軸配向とは、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、一般に未延伸状態のポリエステルシートをシート長手方向および幅方向に延伸し、その後熱処理を施し結晶配向を完了させることにより、得ることができる。
【0035】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの平均超音波伝導速度が2.1km/秒以上である必要がある。また、フィルムの超音波伝導速度の最大値と最小値の比率が1.0以上1.3以下である事が好ましい。本発明においてフィルムの平均超音波伝導速度とは、後述の測定方法によって測定される超音波伝導速度を、ポリエステルフィルムの長手方向を基準(0゜)とし11.25°毎に0°を越えて180°まで16点測定し、得られた値の平均値のことをあらわす。また、本発明において、フィルムの超音波伝導速度の最大値と最小値の比率とは、上記のフィルムの平均超音波伝導速度の測定結果から算出される超音波伝導速度の最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)をあらわす。フィルムの超音波伝導速度はポリエステルフィルムを構成しているポリエステル鎖の配向性と関連がある指標であり、超音波伝導速度が速いほど、その方向におけるポリエステル鎖の配向が強い事を示している。前述の通り、ポリエステルフィルムが湿熱雰囲気下に曝された場合、水分(水蒸気)は密度の低い非晶部の分子間を通って内部に進入し、非晶部を可塑化させ分子の運動性を高めるが、分子配向が強い場合は非晶部の運動性が制限されるため、湿熱環境下での耐久性を向上させることが可能となる。よって、フィルムの平均超音波伝導速度が2.1km/秒未満である場合は、耐湿熱性が悪化する傾向がある。平均超音波伝導速度は、好ましくは2.15km/秒以上、更に好ましくは2.2km/秒以上である。また、超音波伝導速度の最大値と最小値の比率が1.3を越える場合は、方向による耐湿熱性能の差が大きくなりバランスが悪化し、特に最小値の方向において耐湿熱性が弱くなるため好ましくない。超音波伝導速度の最大値と最小値の比率は1.0以上1.25以下が更に好ましい。
【0036】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、フィルムの超音波伝導速度が最大値を示す方向とフィルム長手方向とのなす角度のうち、鋭角(0°以上90°以下)な方の角度(θ)(以降、配向角のズレと称する場合がある)が、10°以上となるようなフィルムの幅方向中央部から離れた位置においても、面内の方向による耐湿熱性能の差が小さい状態を維持する事ができる。超音波伝導速度が最大値を示す方向とは、すなわち二軸配向ポリエステルフィルムの配向が最も強い方向(長軸方向(以降、二軸配向ポリエステルフィルムに有する二つの配向軸について、配向が強い方を長軸、配向が弱い方を短軸と称する))を示しており、角度(θ)は長軸方向とフィルムの長手方向のなす角度を示している。なお、フィルム製造後に幅方向にカットされていない二軸配向ポリエステルフィルムの中間製品における幅方向中央部においては、通常フィルムの配向軸は長手方向および幅方向の2方向となるが、長手方向および幅方向のどちらが長軸となり、どちらが短軸となるかは、フィルムの製造方法によって異なる。フィルムの長手方向の延伸倍率がフィルムの幅方向と比較して高い場合は、配向の長軸が長手方向となり、超音波伝導速度の最大値を示す方向もフィルムの長手方向になる。この場合の角度(θ)はフィルム幅方向中央部では0°となる。フィルム幅方向の中央部から離れるに従い、ボーイング現象などによって長軸がずれ、長軸が10°ずれた場合は角度(θ)は10°となる。一方、フィルムの幅方向の延伸倍率がフィルムの長手方向と比較して高い場合は、配向の長軸が幅方向となり、超音波伝導速度の最大値を示す方向もフィルムの幅方向となる。この場合の角度(θ)はフィルム幅方向中央部では90°となる。フィルム幅方向の中央部から離れるに従い、ボーイング現象などによって長軸がずれ、長軸が10°ずれた場合は、角度(θ)は80°となる。近年では生産性を向上させるために、最終製品となる二軸配向ポリエステルフィルムは、広い幅で二軸配向ポリエステルフィルムを製造して中間製品を得た後、その中間製品を幅方向に数本から十数本切り出す方法が行われる。中間製品の幅方向中央部では、上述したとおりフィルム長手方向に配向が高い場合の角度(θ)は0°であり、フィルム幅方向に配向が高い場合の角度(θ)は90°であるが、ポリエステルフィルムの幅方向中央部から離れる(端部に近づく)に従い、一般的にはボーイング現象により配向角のズレが発生する。フィルム長手方向に配向が高い場合は、角度(θ)が0°から大きくなり、フィルム幅方向に配向が高い場合は、角度(θ)が90°から小さくなる。この様に配向角のズレが発生すると共に、長軸方向と短軸方向の配向差が大きくなりフィルム面内の方向による特性差も大きくなる。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは上記のように配向軸のズレが10°以上、すなわち角度(θ)が10°以上80°以下、さらには配向軸のズレが20°以上、すなわち角度(θ)が20°以上60°以下となる幅方向の端部位置においても、上述した様に面内の超音波伝導度の差が小さい、すなわち配向の差が小さい状態を保つ事で、耐湿熱性能の方向による差を低減する事が可能となる。なお、角度(θ)が40°を越えて50°未満であると片伸びが大きくなる傾向や斜め方向の収縮率の差が大きくなる傾向が見られる事がある。
【0037】
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂は、示差走査熱量測定(DSC)により求められる微小吸熱ピーク温度(Tmeta)が220℃以上である事が接着性の観点から必要である。Tmetaは熱処理工程においてフィルムに付与した熱量に応じた値であり、高いほど熱処理が高温・長時間実施された事を示している。二軸配向フィルムの製造プロセスにおいて熱処理工程は、二軸配向されたフィルムに熱を与えることにより、フィルム中のポリエステル分子の結晶化度を高め、熱安定性等を付与する。この工程において、分子中の結晶成長と同時に非晶成分の一部の分子規則性が緩和される。この配向が緩和された非晶部の存在よって、接着層との親和性が増加し、接着性や接着耐久性が向上するものと考えられる。Tmetaが220℃未満である場合は接着性や接着耐久性が低下する。Tmetaは、好ましくは225℃以上235℃以下であり、235℃を越える場合は熱処理時のフィルム破れにより安定した生産が出来ない場合があったり、耐湿熱性能が低下する場合がある。Tmetaを上記範囲にするための方法は特には限定されないが、230℃以上240℃以下の温度にて5秒以上処理する事が好ましい。
【0038】
上記のような、高い熱処理温度で処理を実施した場合やDEG成分を多く含有する場合は、一般的に分子配向が低下するが、以下に示す製造方法を適用することで、フィルム中の配向を高いレベルで維持することができ、フィルムの配向軸が10°以上ずれた位置においても、平均超音波伝導速度および超音波伝導速度の最大値/最小値を上記の範囲に制御する事が可能となるため好ましい。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法として長手方向に延伸速度2,000%/秒〜10,000%/秒にて3.0〜4.5倍延伸する工程を有することが好ましい。ポリエステル分子鎖を長手方向に効率良く配向するためには延伸倍率のみでなく、延伸速度を上記の範囲とする事が好ましい。長手方向の延伸速度が2,000%/秒未満の場合や延伸倍率が3.0倍未満では配向が不十分となる事があり、10,000%/秒を越える場合や延伸倍率が4.5倍を越える場合では、フィルム製造時の破断が多くなる事がある。また、長手方向の延伸速度は、さらに好ましくは2,500%/秒〜8,000%/秒であり、特に好ましくは3,000%/秒〜6,000%/秒である。なお、ここで言う延伸速度とは、延伸倍率/延伸時間(秒)×100で表される。例えばロールの周速差を用いた延伸の場合は、フィルムが延伸開始点のロールを離れる位置から延伸終了点のロールに着地する地点に到達するまでの時間を計測して延伸時間として、上記の式から算出する。長手方向延伸時におけるフィルム温度は、ポリエステル樹脂のガラス転移温度をTgとした場合Tg以上Tg+40℃以下が好ましく、さらに好ましくはTg+10℃以上Tg+30℃以下である。上記の条件にて長手方向延伸を実施すれば、長手方向の分子配向が均一化し、さらに後述する幅方向延伸〜熱処理工程における、フィルムのボーイングの影響を低減する事が可能となる。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法として、幅方向に3.5〜4.5倍延伸し、かつ幅方向延伸工程の中間点での延伸量が幅方向延伸工程終了時の延伸量の60〜80%とする工程を有する事が好ましい。ここで言う幅方向延伸工程の中間点での延伸量が幅方向延伸工程終了時の延伸量の60〜80%とは、幅方向延伸工程開始前のフィルム幅をW0、幅方向延伸工程の中間点でのフィルム幅をW1、幅方向延伸工程終了時でのフィルム幅をW2とした場合、以下の式(A)を満たす事である。
60 ≦ 100×(W1−W0)/(W2−W0)≦ 80 ・・・ 式(A)。
【0041】
さらに、幅方向延伸工程と熱処理工程の間に中間工程を有し、該中間工程の雰囲気温度が幅方向延伸工程の最終区間の雰囲気温度:Ts(℃)と熱処理工程最初の区間にあたる第1の熱処理工程雰囲気温度:Th(℃)の間の温度であり、かつ中間工程をフィルムが通過する時間をSm(秒)とした時に以下式(B)を満たす事が好ましい。なお、中間工程の雰囲気温度は、温度制御のしやすさから、ThとTsの中間に近い温度である事が好ましく、((Ts+Th)/2)−20(℃)以上、((Ts+Th)/2)+20(℃)以下である事が更に好ましい。また、中間工程においては、延伸工程および熱処理工程においてフィルムに吹き付けられる熱風の一部が流れ込み温度が不安定となる事があるため、排気処理を実施する事が温度をより安定に保つことが出来るため好ましい。
(Th−Ts)/Sm ≦ 50 ・・・ 式(B)。
【0042】
なお、ここでいう熱処理工程とは、フィルムに加熱された熱風を吹き付ける手段やラジエーションヒーター等の加熱手段を用いてフィルムを加熱することで結晶化を進める工程のことをさす。熱処理工程は、前述のとおり230℃以上240℃以下で5秒以上の処理を実施することが接着性、接着耐久性の観点から好ましい。熱処理工程が240℃を超えると、フィルム破れが発生し安定した生産が出来ない場合があったり、フィルムの耐湿熱性が低下する場合がある。また、熱処理工程が230℃未満であったり、熱処理時間が5秒未満であると、フィルムの接着性や接着耐久性が低下する場合がある。
【0043】
また、本発明における中間工程とは、幅方向延伸工程と熱処理工程の中間に位置し、フィルムを加熱する手段を有さず、長手方向・幅方向共にフィルムの寸法を変えない状態で幅方向両端を保持しながら搬送する工程をさす。中間工程では温度変動を抑制するために、周囲を断熱壁などで囲われていることが好ましい。また中間工程における雰囲気温度はThとTsの間の温度である事が好ましく、((Ts+Th)/2)−20(℃)以上、((Ts+Th)/2)+20(℃)以下が更に好ましい。
【0044】
二軸延伸フィルムの製造において、フィルムの幅方向延伸〜熱処理工程にて、幅方向延伸時の延伸張力により、フィルムが保持されていない幅方向中央部分において、熱処理工程側のフィルムが幅方向延伸側へと引き込まれるため、幅方向の端部に行くに従い配向角が斜め方向にずれるボーイング現象が発生する。この現象によりフィルム面内でのポリエステル分子配向の方向による差が幅方向端部ほど大きくなる。前述の通り分子配向のムラは、フィルムの湿熱環境下の耐久性に影響を与えるため好ましくない。上記の幅方向延伸工程および中間工程を有する事で、幅方向延伸時の延伸張力が熱処理工程に伝搬しにくくなり、フィルム配向軸の歪みを抑制することが可能となる。幅方向の延伸倍率が3.5倍未満である場合や、幅方向延伸工程の中間点での延伸量が幅方向延伸工程終了時の延伸量の60%未満である場合、あるいは(Th−Ts)/Smの値が50を越える場合は、フィルム配向軸の歪み改善効果が不十分となり、幅方向端部のフィルムの超音波伝導速度の最大値と最小値の比率が1.3を越える場合がある。幅方向の延伸倍率が4.5倍を越える場合や、幅方向延伸工程の中間点での延伸量が幅方向延伸工程終了時の延伸量の80%を越える場合は、延伸時のフィルム破断が発生しやすく生産性が劣る事がある。さらに、(Th−Ts)/Smの値については40未満が好ましく、30未満である事が特に好ましい。また、幅方向延伸工程の温度については、Tg以上Tg+40℃以下が好ましく、さらに好ましくはTg+10℃以上Tg+30℃以下である。なお、熱処理工程は複数工程に分け、最初の区間にあたる第1工程での温度Thを下げ、段階的に温度を上げていく方法がボーイングの影響を低減しながら、適切な熱処理温度での処理が実施できるため、特に好ましい。
【0045】
フィルムの製造コストを低減するためには、例えばフィルム幅が2mを越えるような広幅にて二軸配向ポリエステルフィルムを製造することが必要となってくるが、フィルム幅が広くなる程、幅方向端部位置での配向軸が傾くため、このような広幅のフィルムを製造する場合に、上記の製造方法を用いる事は特に好ましい。なお、上記のような延伸速度が速い条件を適用した場合は、一般的にフィルムへの延伸時の負荷が大きくなり、特に耐久性維持のため固有粘度が高いポリエステル樹脂を使用した場合には、フィルム破断が多くなる問題がある。しかしながら、本発明のポリエステルフィルムにおいては、上述の様にフィルム中のジエチレングリコール(DEG)量を適切な量に調整する等の手段を併用することで、生産性を悪化させることなく製造することが可能となった。
【0046】
本発明のポリエステルフィルムの150℃30分における長手方向熱収縮率は、2.0%以下が好ましく、さらに好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.6%以下である。長手方向熱収縮率が大きすぎる場合は貼り合わせ時にカールが生じたり、寸法差によるズレが生じたりする場合があり、できるだけ小さい方が好ましい。長手方向熱収縮率の下限値は特に規定されないが、0.0%と以下とする事は実質的に困難である。また、150℃30分における幅方向熱収縮率は加工時の幅縮み防止の観点から0.0%以上1.0%以下が好ましく、さらに好ましくは0.0%以上0.5%以下である。熱収縮率は主に熱処理工程〜冷却工程において弛緩を行う事で上記の範囲の調整する事が可能となるが、特に長手方向の収縮率を平面性を良好な状態に維持したまま低減するためには、フィルム両端を保持している走行方向に隣り合うクリップ間の間隙を縮める方法を実施することが好ましい。熱収縮率を適度な値に低減し、かつ平面性を維持するためには、温度160℃〜200℃にて弛緩率1.0%〜2.0%の長手方向弛緩処理を実施することが好ましい。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムは、温度125℃、湿度100%Rh下に48時間保持したときの伸度保持率が50%以上であることが好ましい。本発明において伸度保持率が50%以上であるとは、上記超音波伝導速度が最大となる方向および最小となる方向の2つの方向において、どちらも伸度保持率が50%以上であることを表す。フィルム使用時にはフィルムのあらゆる方向に力が加わる場合が多く、特定の方向に対する耐湿熱性が悪い場合、その方向からフィルムの割れや破れが発生しやすくなる。そのため、超音波伝導速度が最小となるポリエステル分子鎖配向が低い方向、すなわち耐湿熱性に最も不利な方向に対しても上記の伸度保持率を有するフィルムは、高い耐久性を有するため好ましい。伸度保持率が50%未満である場合は、長期使用時にフィルムが劣化し割れたり、破断したりするトラブルが発生する場合がある。また、さらに好ましくは温度125℃、湿度100%Rh下に60時間保持したときの伸度保持率が50%以上である。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは10μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上300μm以下がより好ましい。更に好ましくは、25μm以上200μm以下である。厚みが10μm未満の場合、フィルムの耐湿熱性が低下しすぎる場合がある。一方、500μmより厚い場合は、フィルム延伸工程で破れやすくなる等、耐湿熱性と生産性の両立が難しくなる傾向がある。
【0049】
次に、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について、その一例を説明するが、本発明は、かかる例によって得られる物のみに限定して解釈されるものではない。
【0050】
まず、ポリエステル樹脂の製造方法は重合工程の一例としては、エステル化反応またはエステル交換反応を行う第一の工程、リン酸アルカリ金属塩などの添加物を添加する第二の工程、重合反応を行う第三の工程により製造することができ、必要に応じて固相重合反応を行う第四の工程を追加しても良い。
【0051】
第一の工程において、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル、ジオール構成成分としてエチレングリコールとジエチンレングリコールの混合物をジオール成分のモル比がジカルボン酸成分のモル比の1.1〜1.3倍となるように混合した後に、温度220〜270℃にて三酸化アンチモンなどの公知の重合触媒およびマンガン系の金属触媒を添加し、さらにエチレングリコールとジエチンレングリコールの混合物を最終的なジオール成分とジカルボン酸成分のモル比1:1.5〜1:2.0の範囲となるように追添しながらエステル交換反応を行う。
【0052】
第二の工程は、エステル交換反応が実質的に終了した後から、固有粘度が0.3に達するまでの間にリン酸アルカリ金属塩などの添加物を添加する工程である。リン酸アルカリ金属塩はリン酸とアルカリ金属元素量とリン元素量の比が0.3〜0.7の範囲となるような比率で混合し、さらにエチレングリコールにて濃度1質量%以下に希釈して添加される。なお、このときの混合希釈液のpHを4.0以上6.0以下の酸性に調整することが異物生成抑制の点からさらに好ましい。さらに、上記リン酸アルカリ金属塩は、添加時のポリエステルの温度が240℃以下であり、添加時間を20分以上となるように徐々に添加していく事が異物生成抑制の点で好ましい。また、重合により得られるポリエステルのカルボキシル基末端数を低減する手法として、微量の水酸化カリウムなどのアルカリ化合物を添加しても良い。
【0053】
第三の工程においては、公知の方法で重合反応を行うことができる。重縮合により得られるポリエステルの末端カルボキシル基量を20当量/t以下の範囲でより低減させ、かつポリエステルの固有粘度を高めるためには、上記重合を行った後、第四工程として、190℃以上ポリエステルの融点未満の温度で、減圧または窒素ガスのような不活性気体の流通下で加熱する、いわゆる固相重合を行うことが好ましい。この場合、第三工程で固有粘度を0.5以上0.6以下の範囲ポリエステルを重合した後、第四工程として190℃以上ポリエステルの融点未満の温度で、減圧または窒素ガスのような不活性気体の流通下で加熱することによって固相重合することが好ましい。第三工程で得られるポリエステルの固有粘度が0.5未満であると、チップが割れやすく、形態が不均一になる結果、第四工程において固相重合して得られるポリエステルの重合度にムラが生じる場合がある。また第三工程で得られるポリエステルの固有粘度が0.6より大きいと、第三工程における熱劣化が激しくなり、その結果、得られるポリエステルの末端カルボキシル基量が増大して、フィルム化した際に耐加水分解性が低下することがあるため好ましくない。第三工程で得られるポリエステルの固有粘度を0.5以上0.6以下とすることで、固相重合した際に、カルボキシル基末端数を低く維持した状態で、均一な固有粘度を有するポリエステルを得ることが出来る。その結果、フィルム化した際に耐加水分解性をより高めることが可能となる。
【0054】
次に得られたポリエステル樹脂を用いてポリエステルフィルムを製造する方法について例示する。
【0055】
上記の方法にて得られたポリエステル樹脂を真空下加熱し内在する水分量が50ppm以下となるように乾燥する。乾燥は、真空度3kPa以下、温度160℃以上で3時間以上乾燥させることが好ましい。次いで乾燥したポリエステル樹脂を押出機で260〜300℃で溶融し、フィルタにて異物を濾過した後にT字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度10〜60℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて、冷却固化せしめて未延伸フィルムを得る。この工程でのポリエステル樹脂の加水分解を抑制し、固有粘度(IV)の低下や末端カルボキシル基量の増加を防止するために、押出機に供給されるポリエステル樹脂の水分率をできる限り少なくする事が好ましい。また、押出機から樹脂が押し出されてから、キャスティングドラムに着地するまでの時間は短い程良く、目安としては10分以下、より好ましくは5分以下、特には3分以下とすることが好ましい。
【0056】
この未延伸フィルムを70〜100℃に加熱されたロールにて予熱した後に、ラジエーションヒーター等を用いて温度90〜120℃に加熱しながら長手方向に延伸速度2,000〜10,000%/秒にて3.0〜4.5倍延伸して一軸配向フィルムを得る。さらに、フィルムの両端をクリップにて固定しながらオーブンへ導き70〜150℃の温度で加熱を行い、引き続き連続的に70〜150℃の加熱ゾーンで幅方向に3.5〜4.5倍延伸し、続いて230〜240℃の加熱ゾーンで5〜40秒間熱処理を施し、100〜200℃の冷却ゾーンを経て結晶配向の完了した二軸配向ポリエステルフィルムを得る。なお、上記熱処理中に必要に応じて3〜12%の弛緩処理を施してもよい。なお、幅方向の延伸工程においては、幅方向延伸工程の中間点での延伸量が幅方向延伸工程終了時の延伸量の60〜80%とする事、および幅方向延伸工程と熱処理工程の間に、フィルムを加熱する手段を有さず、長手方向・幅方向共にフィルムの寸法を変えない状態で幅方向両端を保持しながら搬送する中間工程を有し、中間工程通過時間(秒)あたりの温度変化量(℃)が50℃/秒以下とすることが、ボーイングによる配向軸の歪みを抑制でき好ましい。
【0057】
なお、二軸延伸は同時二軸延伸を用いる事も可能である。また長手方向、幅方向延伸後、熱処理工程前に、長手方向・幅方向の両方向、あるいはいずれか片方の方向に再延伸してもよい。得られた二軸配向積層ポリエステルフィルムの端部をカットした後に巻き取り中間製品とし、その後スリッターを用いて所望の幅にカット後、円筒状のコアに巻き付け所望の長さのポリエステルフィルムロールを得ることができる。なお、巻き取り時に巻姿改善のためにフィルム両端部にエンボス処理を施しても良い。
【0058】
このようにして得られた本発明のポリエステルフィルムは、高い耐湿熱性と接着性を同時に満たし特性バランスが良好であるため、特に太陽電池封止用フィルムとして好適である。本発明のポリエステルフィルムを封止フィルムとして使用する事で、従来の太陽電池と比べて高耐久としたり、厚みを薄くすることが可能なる。
【実施例】
【0059】
[物性の測定法]
以下、実施例により本発明の構成、効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。各実施例の記述に先立ち、各種物性の測定方法を記載する。
【0060】
(1)ジエチレングリコール(DEG)含有量
測定試料(ポリエステル樹脂またはポリエステルフィルム)1.0gをモノエタノールアミン2.5mLを溶媒として260℃で加水分解した。次いでメタノール10mLを加えて冷却し、テレフタル酸にて中和後、遠心分離した後に上澄みをガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製 GC−14A)にてジエチレングリコール(DEG)含有量を測定した。なお、無機粒子などの添加成分は不溶物として遠心分離時に沈降するため、沈降成分について濾過、重量測定を行い、その重量を測定試料重量から差し引いて測定試料重量の補正を実施した。
【0061】
(2)固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール100mLにポリエステル樹脂又はポリエステルフィルムを溶解させ(溶液濃度C=1.2g/mL)、その溶液の25℃での粘度をオストワルド粘度計を用いて測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(C)により、[η]を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV)とした。
ηsp/C=[η]+K[η]・C ・・・式(C)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)―1、Kはハギンス定数(0.343とする)
である。)。
【0062】
(3)末端カルボキシル基量
Mauliceの方法(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga.Anal.Chim.Acta,22 363(1960))に準じて、以下の方法にて測定した。
ポリエステル樹脂またはポリエステルフィルム2gをo−クレゾール/クロロホルム(重量比7/3)50mLに温度80℃にて溶解し、0.05NのKOH/メタノール溶液によって滴定し、末端カルボキシル基濃度を測定し、当量/ポリエステル1tの値で示した。なお、滴定時の指示薬はフェノールレッドを用いて、黄緑色から淡紅色に変化したところを滴定の終点とした。
【0063】
(4)アルカリ金属元素含有量
原子吸光分析法(日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180−80。フレーム:アセチレン−空気)にて定量を行った。
【0064】
(5)リン元素およびマンガン元素含有量
(株)リガク社製波長分散型蛍光X線分析装置(型番:ZSX100e)を用いて測定した。
【0065】
(6)リン元素を含有する異物数
三波長蛍光灯を光源としてフィルムを透過光および反射光にて1000cmを検査し観察された異物をマーキングして試料を採取した。なお、この時にフィルム位置での光量が1000ルクスとなるように光源とフィルム間距離を調整した。得られた異物試料について光学顕微鏡(倍率100倍)にて観察して異物のサイズが最も大きくなる方向で測定し異物の長径とした。また、異物試料を走査型電子顕微鏡(SEM)S−4300A形((株)日立製作所製)にエネルギー分散型X線分析装置(EDX)EMAX−7000((株)堀場製作所製)を付属させた装置を用いて異物部分の元素分析を行い、リン元素の含有有無を測定し、長径100μm以上のリン元素を含有する異物の個数をカウントした。
【0066】
(7)フィルムの超音波伝導速度および超音波伝導速度が最大値を示す方向とフィルム長手方向とのなす角度(θ)
中間ロールの中央部のロールと最端部ロール、それぞれのロールの幅方向中央部から幅方向300mm、長手方向300mmのフィルム試料を採取し、野村商事(株)製SONIC SHEET TESTER SST−4000にて、ポリエステルフィルムの長手方向を基準(0゜)とし、11.25°毎に0°を越えて180°まで超音波伝導速度(km/秒)を16点測定し、得られた値の平均値を算出した。また、測定結果から算出された超音波伝導速度の最大値を最小値で除した値(最大値/最小値)を、超音波伝導速度の最大値と最小値の比率とした。なお、上記超音波伝導速度の測定はフィルムの両方の面で行い、それぞれの面において超音波伝導速度の平均値ならびに(最大値/最小値)を算出した後、両側の面の平均値を、フィルムの超音波伝導速度の平均値ならびに(最大値/最小値)とした。また、測定結果から算出された超音波伝導速度が最大値を示す方向と、フィルム長手方向とのなす角度(θ)を算出した。なお、角度(θ)は超音波伝導速度が最大値を示す方向と、フィルム長手方向とのなす角度の内、鋭角(0°以上90°以下)な方の角度を指す。
【0067】
(8)耐湿熱性評価(伸度保持率)
中間ロールの中央部のロールと最端部ロール、それぞれのロールの幅方向中央部からフィルムを切り出し、(7)項にて測定した超音波伝導速度の最大値の方向と最小値の方向が長さ方向となるように、各方向それぞれ幅10mm、長さ250mmの短冊状に切り出した伸度測定用試料を準備した。切り出した試料を高度加速寿命試験装置EHS−221(エスペック社製)にて、温度125℃、湿度100RH%の環境下にて規定時間(48時間、60時間)処理を実施した。上記処理前および処理後のフィルムの伸度をテンシロンを用いて、原長(チャック間距離)100mm、引っ張り速度200mm/分の条件にて測定した。なお、伸度についてはそれぞれN=5で測定した平均値とした。得られたフィルム伸度について処理後の伸度を処理前の伸度で除した値を耐湿熱評価における伸度保持率とした。
【0068】
(9)熱収縮率
中間ロールの中央部のロールと最端部ロール、それぞれのロールの幅方向中央部から幅方向300mm、長手方向300mmのフィルム試料を採取した。それぞれの試料の中央部に、長手方向、幅方向それぞれについて、原長(L0)として200mmの間隔となるように一対の印をつけた。試料をオーブン中で150℃にて30分処理をした後に室温まで冷却し、一対の印間の距離を測定し、処理後の長さ(L1)とした。それぞれの位置・方向における熱収縮率は、100×(L0−L1)/L0に従い算出した。得られた結果を長手方向・幅方向それぞれについて、中間ロールの中央部と最端部の値の平均値を算出し、フィルムの熱収縮率とした。
【0069】
(10)透過光学濃度
ポリエステルフィルムを光学濃度計(Macbeth社製TR524)を用いJIS K7605(1976)に準じて入射光束と透過光束からフィルムの透過光学濃度を算出した。なお、測定時のフィルターには、Visualフィルターを用いた。
【0070】
(11)製膜性
実施例・比較例の条件にて製膜を実施した際の破れ回数を1日当たりに換算した計算値を用いて下記の基準にて判定した。B以上が実用可能な範囲である。
【0071】
S:1日当たりの破れが1回以下
A:1日当たりの破れが1回を越えて2回以下
B:1日当たりの破れが2回を越えて3回以下
C:1日当たりの破れが3回を越える。
【0072】
(12)加工性(打抜性)
得られたフィルムを3枚重ねてトムソン型打ち抜きカッターにて型抜きをし、切断面を目視観察し、以下基準に従って判定した。B以上が実用可能な範囲である。
【0073】
S:バリやヒゲが全く見られない
A:バリ、ヒゲが切断面の長さ0.3mあたり1ヶ以下
B:バリ、ヒゲが切断面の長さ0.3mあたり1ヶを越えて3ヶ以下
C:バリ、ヒゲが切断面の長さ0.3mあたり3ヶを越える。
【0074】
(13)接着性
二軸配向ポリエステルフィルムの片側表面にコロナ処理を実施し、表面の濡れ張力を58mN/mとした後に、コロナ処理面に接着層として2液硬化タイプ接着剤(三井武田ケミカル(株)製“タケラック”(登録商標)A310/“タケネート”(登録商標)A3=9/1(重量比))を固形分厚み5μmとなるように塗布した。80℃で乾燥後に、別に準備した接着剤を塗布したものと同じフィルムのコロナ処理面を貼り合わせ、温度40℃にて24時間エージングを実施し、積層フィルムを得た。
【0075】
得られた積層フィルムを15mm幅(幅方向)×200mm長(長手方向)にカットし、切り出した試料を高度加速寿命試験装置EHS−221(エスペック社製)にて、温度125℃、湿度100RH%の環境下にて48時間処理した。処理後の積層フィルムをフィルム間にて剥離し、テンシロンを用いて剥離角度180°、剥離スピード300mm/分で剥離し、ラミネート強度を測定した。判定は以下基準にて実施した。B以上が実用可能な範囲である。
【0076】
S:剥離強度が20N/15mm以上
A:剥離強度が15N/15mm以上、20N/15mm未満
B:剥離強度が10N/15mm以上、15N/15mm未満
C:剥離強度が10N/15mm未満。
【0077】
(14)微小吸熱ピーク温度(Tmeta)
フィルムを示差走査熱量計(TA Instruments社製DSC Q100)により、20℃/分の昇温速度にて30℃〜280℃の範囲で測定を実施した。この測定により得られた示差走査熱量測定チャートにおけるポリエステル結晶融解ピーク前の微小吸熱ピーク温度をTmeta(℃)とした。なおTmetaはポリエステルフィルムに対する熱処理温度の履歴として出現する。
【0078】
各実施例・比較例で用いる樹脂等の調整法を参考例として示す。
【0079】
[参考例1] ポリエステル樹脂1の調製
第一工程として、テレフタル酸ジメチル100質量部とエチレングリコール38.15質量部、ジエチレングリコール0.25質量部を窒素雰囲気下、温度260℃にて混合した。その後温度を225℃へ降下させ、酢酸マンガン4水和物0.068質量部、三酸化アンチモン0.029質量部を添加後攪拌しながら、更にエチレングリコール15.9質量部とジエチレングリコール0.10質量部の混合物を2時間かけて徐々に添加しながらメタノールを留出させ、エステル交換反応を終了した。第二工程として、エステル交換反応終了後、反応系内のポリエステルの温度を225℃とし、リン酸0.015質量部(1.5モル/t相当)とリン酸二水素ナトリウム2水和物0.027質量部(1.5モル/t相当)をエチレングリコール6.8質量部に溶解したエチレングリコール溶液(リン化合物の濃度0.4質量%)を添加した。引き続き第三工程として、重合反応を最終到達温度285℃、圧力13Paの減圧下で行い、固有粘度0.54、カルボキシル基末端基数17当量/tのポリエステルを得た。さらに、第四工程として、得られたポリエチレンテレフタレートを160℃で6時間乾燥、結晶化させたのち、圧力65Paの減圧条件下にて230℃、10時間の固相重合を行い、固有粘度(IV)0.82、カルボキシル基末端基量9.7当量/t、ジエチレングリコール含有量1.20質量%、融点260℃、ガラス転移温度Tg81℃のポリエステルを得た。
【0080】
[参考例2] ポリエステル樹脂2〜23の調製
表1−1、表1−2に示した条件を用いた以外は参考例1と同様の方法を用いてポリエステル樹脂を得た。なお、ポリエステル樹脂5については、テレフタル酸ジメチル100質量部の代わりにテレフタル酸85.6質量部を、ポリエステル樹脂12,13については、リン酸二水素ナトリウム2水和物の替わりにリン酸二水素カリウムを用いた。また、ポリエステル樹脂6,7,19については、第四工程を表1−1、表1−2に示した固有粘度になるように、固相重合時間を調整した。またポリエステル樹脂20については、第三工程でのポリエステルを固有粘度0.50、カルボキシル基末端基数27当量/tとし、引き続き第四工程にて固有粘度0.73となるまで固相重合を実施した。
得られたポリエステルの特性を評価した結果を表1−1、表1−2に示す。
【0081】
[参考例3] 二酸化珪素含有ポリエステル樹脂Aの調製
参考例1で得られた95質量部のポリエステル樹脂1に、平均粒径4.3μmの二酸化珪素粒子5質量部を2軸押出機にて290℃にて混練し、二酸化珪素含有ポリエステル樹脂Aを得た。
【0082】
[参考例4] ルチル型二酸化チタン含有ポリエステル樹脂Bの調製
参考例1で得られた50質量部のポリエステル樹脂1に、平均粒径0.3μmの塩素法ルチル型二酸化チタン粒子50質量部を2軸押出機にて290℃にて混練し、ルチル型二酸化チタン含有ポリエステル樹脂Bを得た。
【0083】
[実施例1]
参考例に従って調整した99.5質量部のポリエステル樹脂1と、0.5質量部の二酸化珪素含有ポリエステル樹脂Aとの混合物を圧力1kPaの減圧条件下、温度170℃で4時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出を行った。
ステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き60μmのフィルターで濾過した後、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度20℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを予熱ロールにて85℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて100℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に延伸速度3,500%/秒にて3.5倍延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。
【0084】
次いで、一軸配向(一軸延伸)フィルムをクリップで把持してオーブン中にて100℃の熱風にて予熱し、引き続き連続的に延伸工程において120℃熱風で加熱しながら幅方向に3.8倍延伸した。なお、幅方向の延伸については、延伸工程の中間点における延伸倍率を3.0倍とし、中間点にて幅方向延伸の71%が完了するように設定した。得られた二軸配向(二軸延伸)フィルムを中間工程を経て熱処理工程に導き、第1の熱処理として200℃の熱風にて3.5秒、第2の熱処理として235℃の熱風にて10秒間処理を行った。なお、中間工程は周囲を断熱壁で囲われており、熱風等による加熱は実施せず、工程内の排気のみを行い、雰囲気温度を160℃に調整した。また、中間工程のフィルム通過時間は3.5秒であった。熱処理工程を経たフィルムを215℃にて幅方向に5%の弛緩処理を実施した後に、200℃にて長手方向に1.5%の弛緩処理を行い、続けて80℃まで冷却した。なお、長手方向の弛緩は、フィルム両端を把持している走行方向に隣り合うクリップの間隙を縮めることで実施した。次いで、フィルムをオーブンより引き出し、幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚さ125μm、幅5.4m、150℃30分での熱収縮率が長手方向0.6%、幅方向0.2%のポリエステルフィルム中間ロール(中間製品)を得た。得られたポリエステルフィルムの特性を表3−1、表4−1に示す。
【0085】
さらに得られたポリエステルフィルム中間ロールをスリッターにて上記中間ロールを幅1000mm×5本となるように切断しながら内径152.5mm、外径167mmのコアに巻き取りポリエステルフィルムロールを得た。
【0086】
得られたポリエステルフィルムロール5本の内、中央部と最端部をそれぞれ評価した。得られたフィルムロールは、中央部、最端部ともに、方向によらず高い耐湿熱性能を有しており、非常に優れた耐久性を有すると共に接着耐久性にも優れた特性バランスの良好なフィルムであった。また、分子配向制御のための延伸条件での製膜にも関わらず、フィルム破れが全くなく、裁断端面でのバリも発生しない、生産性・加工性にも優れた二軸配向ポリエステルフィルムであった。
【0087】
[実施例2〜28]
表2−1、表2−2の原料と製膜条件を適用した以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表3−1、表3−2、表4−1、表4−2に示す。
【0088】
[実施例29]
参考例に従って調整した95質量部のポリエステル樹脂1と5質量部のルチル型二酸化チタン含有ポリエステル樹脂Bとの混合物を圧力1kPaの減圧条件下、温度170℃で4時間乾燥した後、押出機Aに供給し285℃で溶融押出を行った。また、参考例に従って調整した60質量部のポリエステル樹脂1と、40質量部のルチル型二酸化チタン含有ポリエステル樹脂Bとの混合物を圧力1kPaの減圧条件下、温度170℃で4時間乾燥した後押出機Bに供給し285℃で溶融押出を行った。押出機Aから押出された溶融樹脂と押出機Bから押出された溶融樹脂は、それぞれステンレス鋼繊維を焼結圧縮した平均目開き60μmのフィルターで濾過した後にフィードブロックにて厚さ方向に2層に積層し、引き続きT字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度20℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。得られた未延伸シートを実施例1と同様の方法を用いる事で、押出機A側の樹脂:押出機B側の樹脂が厚さ方向に6:1に積層された積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表3−2、表4−2に示す。
【0089】
[実施例30]
中間ロール(中間製品)の幅を3.4m、中間ロールをスリッターにて幅1000mm×3本となるように切断しながら内径152.5mm、外径167mmのコアに巻き取った以外は実施例1と同様にして積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムロール3本の内、中央部と端部をそれぞれ評価した。結果を表3−3、表4−3に示す。
【0090】
[実施例31]
中間ロール(中間製品)をスリッターにて幅1250mm×4本となるように切断しながら内径152.5mm、外径167mmのコアに巻き取った以外は実施例1と同様にして積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムロール4本の内、最端部と端部から2本目(表中では中央部と表示)をそれぞれ評価した。結果を表3−3、表4−3に示す。
【0091】
[実施例32]
表2−3の原料と製膜条件を適用し、中間ロール(中間製品)の幅を3.4m、中間ロールをスリッターにて幅1000mm×3本となるように切断しながら内径152.5mm、外径167mmのコアに巻き取った以外は、実施例1と同様にして積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムロール3本の内、中央部と端部をそれぞれ評価した。結果を表3−3、表4−3に示す。
【0092】
[比較例1〜11]
表2−3の原料と製膜条件を適用した以外は実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表3−3、表4−3に示す。
【0093】
[結果のまとめ]
末端カルボキシル基量20当量/t以下、固有粘度(IV)0.65〜0.80、ジエチレングリコール量が0.9〜3.0質量%の範囲であるポリエステル樹脂から構成され、かつ超音波伝導速度の平均値が2.1km/秒以上、Tmeta値が220℃以上であるポリエステルフィルムにおいて、耐湿熱性と接着性・生産性・加工性の全てが良好な結果となった。
【0094】
ジエチレングリコール(DEG)含有量が上記範囲以下である比較例1では、安定した製膜を行うことが出来ず、耐湿熱性評価や超音波伝導速度測定を行うためのサンプルを得ることが出来なかった。長手方向および幅方向の延伸倍率・速度を低減させた比較例10,11では、破れは低減されサンプルを得ることが出来たが、超音波伝導速度が低下し耐加水分解性が悪い結果であった。また、ジエチレングリコール(DEG)含有量が上記範囲以上である比較例2,3や、固有粘度が範囲外である比較例4,5、末端カルボキシル基量が範囲外である比較例6、Tmeta値が範囲外である比較例7、8は、湿熱環境下での耐久性や接着性、または生産性のいずれかが悪い結果となった。また、比較例9は熱処理温度を上げすぎたため、フィルム破れが多発し耐湿熱性評価や超音波伝導速度測定を行うためのサンプルを得ることが出来なかった。
【0095】
フィルムを構成するポリエステル樹脂中にリン酸アルカリ金属塩を0.1〜5.0モル/t含有した場合は含有していない場合と比較して(例えば、実施例1と実施例20の比較)、他の特性を悪化させることなく、耐湿熱性が向上しており好ましい結果であった。また、リン酸アルカリ金属塩を含有することで発生する異物については、ポリエステル樹脂重合時のリン酸アルカリ金属塩添加時のポリエステルの温度およびエチレングリコール中のリン酸アルカリ金属塩の濃度を好ましい範囲とすることで抑制することが可能となったが、添加時の温度が高い実施例26、添加時の濃度が高い実施例27、両方が高い比較例10については異物が増加する傾向が見られた。また、ポリエステル樹脂重合時の出発原料としてテレフタル酸を用いた実施例5についてもリンを含む異物量が増加する傾向が見られた。
【0096】
フィルム特性としては、超音波伝導速度の平均値が2.1km/秒以上である場合は、耐湿熱性が良好な結果となったが、さらに最大値と最小値の比率が1.0〜1.3の範囲内である場合は、特に配向軸が10°以上ずれている、すなわち角度θが10°〜80°の範囲となる端部位置においても耐湿熱特性の方向によるバラツキが軽減され、さらに好ましい結果となった。これらは、長手方向延伸工程、幅方向延伸工程および中間工程を好ましい範囲とすることで、製品部分として幅5mの広幅フィルムを製造した場合の端部位置でも上記の特性を満たすことが可能となった。
【0097】
また、実施例28,29については、ルチル型二酸化チタンを含有することで、フィルムの隠蔽性や紫外線耐久性が向上しており、特に太陽電池封止フィルム用途など屋外で使用される用途の場合に好ましい。また実施例29については、厚さ方向にルチル型二酸化チタンの含有量多い層と少ない層が積層された構成となっており、触媒活性の高い二酸化チタン含有時においても、高い耐湿熱性が保持されており、非常に好ましい結果であった。
【0098】
【表1-1】
【0099】
【表1-2】
【0100】
【表2-1】
【0101】
【表2-2】
【0102】
【表2-3】
【0103】
【表3-1】
【0104】
【表3-2】
【0105】
【表3-3】
【0106】
【表4-1】
【0107】
【表4-2】
【0108】
【表4-3】
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明にかかる耐久性ポリエステルフィルムは、高温高湿下での耐久性及び接着性に優れ、かつ生産性の良い特性バランスに優れたフィルムであるため、太陽電池封止シート、銅貼り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、もしくはフラットケーブルなどの電気絶縁材料、コンデンサ用材料、自動車用材料、建築材料を初めとした耐久性が重視されるような用途に好適に使用することができる